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特許7596918車両管理システム、車両、および、車両の走行管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】車両管理システム、車両、および、車両の走行管理方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20241203BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
F02D45/00 369
F02D29/02 H
F02D29/02 L
F02D45/00
F02D45/00 360A
F02D45/00 362
F02D45/00 368S
F02D45/00 368Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021083014
(22)【出願日】2021-05-17
(65)【公開番号】P2022176528
(43)【公開日】2022-11-30
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 賢二
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-043791(JP,A)
【文献】特開2005-113715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象車両と、
前記対象車両および複数の車両と通信するように構成されたサーバとを備え、
前記対象車両および前記複数の車両の各々は、噴射系、吸気系およびEGR(Exhaust Gas Recirculation)系を含むエンジンにおける燃料の燃焼状態を検出する少なくとも1つのセンサを含み、
前記サーバは、
エンジン制御に関する学習済みモデルが記憶されたメモリと、
前記学習済みモデルを用いた演算処理を実行するプロセッサとを含み、
前記学習済みモデルでは、前記複数の車両の各々の前記少なくとも1つのセンサの検出結果を示すセンサデータと、前記複数の車両の各々が燃料の供給を受けた給油所の設置場所を示す一方で前記給油所で供給される燃料の組成は示さない給油所データとに基づいて、前記エンジンにおける燃料の燃焼状態を補正するための補正量が学習されており、
前記センサデータは、少なくとも前記エンジンの筒内圧または熱発生率に関するデータを含み、
前記補正量は、
インジェクタからの燃料の噴射量もしくは噴射タイミングまたは点火プラグの点火タイミングに関する、前記噴射系への制御指令の第1補正量と、
スロットル開度、ウェイストゲートバルブ開度または可変ノズル装置開度に関する、前記吸気系への制御指令の第2補正量と、
EGR弁開度に関する、前記EGR系への制御指令の第3補正量とのうちの少なくとも1つを含み、
前記プロセッサは、前記対象車両の前記センサデータおよび前記給油所データを前記学習済みモデルに与えることで前記補正量を算出し、算出された補正量を前記対象車両に送信し、
前記対象車両は、受信した前記補正量を用いて、前記対象車両の前記エンジンにおける燃料の燃焼状態を補正する、車両管理システム。
【請求項2】
前記給油所データは、前記給油所での給油時期に関するデータをさらに含む、請求項1に記載の車両管理システム。
【請求項3】
前記学習済みモデルでは、前記センサデータ、前記給油所データ、および、前記複数の車両の走行位置に関するデータに基づいて、前記補正量が学習されており、
前記プロセッサは、前記センサデータおよび前記給油所データに加えて、前記対象車両の走行位置に関するデータを前記学習済みモデルに与えることで、前記対象車両の前記補正量を算出する、請求項1に記載の車両管理システム。
【請求項4】
前記センサデータは、前記エンジンの筒内圧または熱発生率に関するデータに加えて、前記エンジンの回転速度、前記エンジンからの排気ガスの温度、前記排気ガス中の微粒子状物質を捕集するフィルタの前後の圧力差、および、前記排気ガス中の窒素酸化物濃度のうちの少なくとも1つに関するデータをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両管理システム。
【請求項5】
エンジン制御に関する学習済みモデルを含むサーバと通信可能に構成された車両であって、
前記学習済みモデルでは、各々に、噴射系、吸気系およびEGR系を含むエンジンが搭載された複数の車両との通信により収集されるセンサデータおよび給油所データに基づいて、前記エンジンにおける燃料の燃焼状態を補正するための補正量が学習されており、
前記センサデータは、前記複数の車両の各々の前記エンジンにおける燃料の燃焼状態の検出結果を示すデータであって少なくとも前記エンジンの筒内圧または熱発生率に関するデータを含み、
前記給油所データは、前記複数の車両が燃料の供給を受けた給油所の設置場所を示す一方で前記給油所で供給される燃料の組成は示さないデータであり、
前記補正量は、
インジェクタからの燃料の噴射量もしくは噴射タイミングまたは点火プラグの点火タイミングに関する、前記噴射系への制御指令の第1補正量と、
スロットル開度、ウェイストゲートバルブ開度または可変ノズル装置開度に関する、前記吸気系への制御指令の第2補正量と、
EGR弁開度に関する、前記EGR系への制御指令の第3補正量とのうちの少なくとも1つを含み、
前記車両は、
前記車両の前記センサデータおよび前記給油所データを前記サーバに送信するとともに、前記サーバが前記車両からの前記センサデータおよび前記給油所データを前記学習済みモデルに与えることで算出された前記補正量を受信する通信器と、
受信した前記補正量を用いて、前記車両の前記エンジンにおける燃料の燃焼状態を補正する制御装置とを備える、車両。
【請求項6】
前記センサデータは、前記エンジンの筒内圧または熱発生率に関するデータに加えて、前記エンジンの回転速度、前記エンジンからの排気ガスの温度、前記排気ガス中の微粒子状物質を捕集するフィルタの前後の圧力差、および、前記排気ガス中の窒素酸化物濃度のうちの少なくとも1つに関するデータをさらに含む、請求項5に記載の車両。
【請求項7】
エンジン制御に関する学習済みモデルを用いて車両の走行を管理する、車両の走行管理方法であって、
前記学習済みモデルでは、各々に、噴射系、吸気系およびEGR系を含むエンジンが搭載された複数の車両との通信により収集されるセンサデータおよび給油所データに基づいて、前記エンジンにおける燃料の燃焼状態を補正するための補正量が学習されており、
前記センサデータは、前記複数の車両の各々の前記エンジンにおける燃料の燃焼状態の検出結果を示すデータであって少なくとも前記エンジンの筒内圧または熱発生率に関するデータを含み、
前記給油所データは、前記複数の車両が燃料の供給を受けた給油所の設置場所を示す一方で前記給油所で供給される燃料の組成は示さないデータであり、
前記補正量は、
インジェクタからの燃料の噴射量もしくは噴射タイミングまたは点火プラグの点火タイミングに関する、前記噴射系への制御指令の第1補正量と、
スロットル開度、ウェイストゲートバルブ開度または可変ノズル装置開度に関する、前記吸気系への制御指令の第2補正量と、
EGR弁開度に関する、前記EGR系への制御指令の第3補正量とのうちの少なくとも1つを含み、
前記走行管理方法は、
対象車両からの前記センサデータおよび前記給油所データを前記学習済みモデルに与えることで、前記対象車両の前記エンジンにおける燃料の燃焼状態を補正するための前記補正量を算出するステップと、
前記補正量を用いて、前記対象車両の前記エンジンにおける燃料の燃焼状態を補正するステップとを含む、車両の走行管理方法。
【請求項8】
前記センサデータは、前記エンジンの筒内圧または熱発生率に関するデータに加えて、前記エンジンの回転速度、前記エンジンからの排気ガスの温度、前記排気ガス中の微粒子状物質を捕集するフィルタの前後の圧力差、および、前記排気ガス中の窒素酸化物濃度のうちの少なくとも1つに関するデータをさらに含む、請求項7に記載の車両の走行管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両管理システム、車両、および、車両の走行管理方法に関し、より特定的には、エンジンが搭載された車両を管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005-113715号公報(特許文献1)は、所定の燃料を使用する動力装置(具体的にはエンジン)の動作を制御する制御装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-113715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、車両に燃料が補給された場合に、車両の位置情報に基づいて燃料の組成情報を取得することが記載されている。特許文献1に開示されたエンジン制御装置は、燃料の組成情報を基にエンジンの動作を補正するように構成されている。
【0005】
特許文献1に開示されたエンジン制御装置が効果を奏する、すなわち、エンジンの動作(エンジンにおける燃料の燃焼状態)を適切に補正するためには、燃料の組成情報が求められていることを要する。しかしながら、燃料の組成情報を求めるには、燃料の解析等の複雑な工程が必要となり得る。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、燃料の組成情報が求められていなくてもエンジンにおける燃料の燃焼状態を適切に補正可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示のある局面に係る車両管理システムは、対象車両と、対象車両および複数の車両と通信するように構成されたサーバとを備える。対象車両および複数の車両の各々は、エンジンにおける燃料の燃焼状態を検出する少なくとも1つのセンサを含む。サーバは、エンジン制御に関する学習済みモデルが記憶されたメモリと、学習済みモデルを用いた演算処理を実行するプロセッサとを含む。学習済みモデルでは、複数の車両の各々の少なくとも1つのセンサの検出結果を示すセンサデータと、複数の車両の各々が燃料の供給を受けた給油所を特定可能な給油所データとに基づいて、エンジンにおける燃料の燃焼状態を補正するための補正量が学習されている。センサデータは、少なくともエンジンの筒内圧または熱発生率に関するデータを含む。補正量は、インジェクタからの燃料の噴射量もしくは噴射タイミングまたは点火プラグの点火タイミングに関する、噴射系への制御指令の第1補正量と、スロットル開度、ウェイストゲートバルブ開度または可変ノズル装置開度に関する、吸気系への制御指令の第2補正量と、EGR弁開度に関する、EGR系への制御指令の第3補正量とのうちの少なくとも1つを含む。プロセッサは、対象車両のセンサデータおよび給油所データを学習済みモデルに与えることで補正量を算出し、算出された補正量を対象車両に送信する。対象車両は、受信した補正量を用いて、対象車両のエンジンにおける燃料の燃焼状態を補正する。
【0008】
(2)給油所データは、給油所の設置場所に関するデータと、給油所での給油時期に関するデータとを含む。
【0009】
(3)学習済みモデルでは、センサデータ、給油所データ、および、複数の車両の走行位置に関するデータに基づいて、補正量が学習されている。プロセッサは、センサデータおよび給油所データに加えて、対象車両の走行位置に関するデータを学習済みモデルに与えることで、対象車両の補正量を算出する。
【0010】
(4)センサデータは、エンジンの筒内圧、エンジンの回転速度、エンジンからの排気ガスの温度、排気ガス中の微粒子状物質を捕集するフィルタの前後の圧力差、および、排気ガス中の窒素酸化物濃度のうちの少なくとも1つに関するデータを含む。
【0011】
(5)本開示の他の局面に係る車両は、エンジン制御に関する学習済みモデルを含むサーバと通信可能に構成された車両ある。学習済みモデルでは、各々にエンジンが搭載された複数の車両との通信により収集されるセンサデータおよび給油所データに基づいて、エンジンにおける燃料の燃焼状態を補正するための補正量が学習されている。センサデータは、複数の車両の各々のエンジンにおける燃料の燃焼状態の検出結果を示すデータであって、少なくともエンジンの筒内圧または熱発生率に関するデータを含む。給油所データは、複数の車両が燃料の供給を受けた給油所を特定可能なデータである。補正量は、インジェクタからの燃料の噴射量もしくは噴射タイミングまたは点火プラグの点火タイミングに関する、噴射系への制御指令の第1補正量と、スロットル開度、ウェイストゲートバルブ開度または可変ノズル装置開度に関する、吸気系への制御指令の第2補正量と、EGR弁開度に関する、EGR系への制御指令の第3補正量とのうちの少なくとも1つを含む。車両は、通信機と、制御装置とを備える。通信機は、車両のセンサデータおよび給油所データをサーバに送信するとともに、サーバが車両からのセンサデータおよび給油所データを学習済みモデルに与えることで算出された補正量を受信する。制御装置は、受信した補正量を用いて、車両のエンジンにおける燃料の燃焼状態を補正する。
【0012】
(6)本開示のさらに他の局面に係る車両の走行管理方法は、エンジン制御に関する学習済みモデルを用いて車両の走行を管理する。学習済みモデルでは、各々にエンジンが搭載された複数の車両との通信により収集されるセンサデータおよび給油所データに基づいて、エンジンにおける燃料の燃焼状態を補正するための補正量が学習されている。センサデータは、複数の車両の各々のエンジンにおける燃料の燃焼状態の検出結果を示すデータである。給油所データは、複数の車両が燃料の供給を受けた給油所を特定可能なデータであって、少なくともエンジンの筒内圧または熱発生率に関するデータを含む。補正量は、インジェクタからの燃料の噴射量もしくは噴射タイミングまたは点火プラグの点火タイミングに関する、噴射系への制御指令の第1補正量と、スロットル開度、ウェイストゲートバルブ開度または可変ノズル装置開度に関する、吸気系への制御指令の第2補正量と、EGR弁開度に関する、EGR系への制御指令の第3補正量とのうちの少なくとも1つを含む。走行管理方法は、第1および第2のステップを含む。第1のステップは、対象車両からのセンサデータおよび給油所データを学習済みモデルに与えることで、対象車両のエンジンにおける燃料の燃焼状態を補正するための補正量を算出するステップである。第2のステップは、第1のステップにより算出された補正量を用いて、対象車両のエンジンにおける燃料の燃焼状態を補正するステップである。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、燃料の組成情報が求められていなくてもエンジンにおける燃料の燃焼状態を適切に補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係る車両管理システムの全体構成を概略的に示す図である。
図2】車両および管制センタの構成をより詳細に示す図である。
図3】エンジンの構成の一例を示す図である。
図4】エンジンの構成の他の一例を示す図である。
図5】センサ類の構成の一例を示す図である。
図6】本実施の形態におけるエンジンの燃焼状態に関する予測モデルの一例を示す機能ブロック図である。
図7】エンジンの噴射系の動作を補正するための燃焼改善処理の一例を説明するための図である。
図8】エンジンの噴射系の動作を補正するための燃焼改善処理の他の一例を説明するための図である。
図9】エンジンのEGR系の動作を補正するための燃焼改善処理の一例を説明するための図である。
図10】エンジンの吸気系の動作を補正するための燃焼改善処理の一例を説明するための図である。
図11】本実施の形態における燃焼改善処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0016】
[実施の形態]
<システム全体構成>
図1は、本実施の形態に係る車両管理システムの全体構成を概略的に示す図である。車両管理システム100は、車両1Aと、複数の車両1Bと、管制センタ2とを備える。図1には車両1Aが給油所9にて給油される様子が図示されている。車両1Aは、本開示に係る「対象車両」に相当する。
【0017】
車両1Aと複数の車両1Bとは基本的には共通の構成を有する。車両1Aと車両1Bとを互いに区別しない場合には「車両1」とも記載する。各車両1と管制センタ2とは、双方向通信が可能に構成されている。
【0018】
車両1は、エンジン3(図3参照)が搭載された車両であり、具体的には、いわゆるコンベ車、ハイブリッド車、または、プラグインハイブリッド車である。エンジン3にて燃焼される燃料の種類は特に限定されない。燃料は、たとえばガソリン燃料、ディーゼル燃料、バイオ燃料(エタノールなど)、気体燃料(プロパンガスなど)である。また、燃料は、水素、アンモニア、e-fuel(二酸化炭素と水素との合成液体燃料)、ジメチルエーテル(DME:dimethyl ether)等であってもよい。
【0019】
図2は、車両1および管制センタ2の構成をより詳細に示す図である。車両1は、ナビゲーションシステム11と、DCM(Data Communication Module)12と、ECU(Electronic Control Unit)13と、車載ネットワーク14と、エンジン3と、センサ類4とを備える。
【0020】
ナビゲーションシステム11は、GPS(Global Positioning System)受信器(図示せず)を含み、人工衛星(図示せず)からの電波に基づいて車両1の位置を特定する。ナビゲーションシステムは、GPS受信器により特定された車両1の位置情報を用いて、車両1の各種ナビゲーション処理を実行する。
【0021】
DCM12は、管制センタ2と無線での双方向通信が可能に構成されている。これにより、管制センタ2は、車両1の位置情報を収集することで、車両1の走行履歴を管理できる。なお、以下では車両1の位置情報を「車両位置データ」とも記載する。
【0022】
ECU13は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ131と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ132と、信号が入出力される入出力ポート133とを含む。ECU13は、センサ類4からの信号の入力ならびにメモリ132に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両1が所望の状態となるようにエンジン3を制御する。
【0023】
車載ネットワーク14は、たとえばCAN(Controller Area Network)などの有線ネットワークである。車載ネットワーク14は、ナビゲーションシステム11とDCM12とECU13とを互いに接続する。
【0024】
エンジン3は、ECU13からの制御指令に従って燃料を燃焼させることによって、車両1が走行するための駆動力を出力する。センサ類4は、車両1に搭載された様々なセンサを包括的に記載したものである。本実施の形態においてセンサ類4は、主にエンジン3の燃焼状態の予測に用いられる。エンジン3およびセンサ類4の構成については図3および図5にて、より詳細に説明する。
【0025】
管制センタ2は、複数の車両1の走行を管理するように構成されている。管制センタ2は、車両データベース21と、走行履歴データベース22と、サーバ23と、通信モジュール24と、イントラネット25とを備える。
【0026】
車両データベース21は、複数の車両1の各々に関する識別情報および製造情報などを格納する。識別情報は、たとえば、車両1の製造番号、DCM12の通信器IDを含む。製造情報は、たとえば、車両1のメーカー、車種(モデル、グレード、年式など)に関する情報を含む。
【0027】
走行履歴データベース22は、複数の車両1の各々の走行履歴を格納する。走行履歴は、車両位置データに加えて、エンジン3における燃料の燃焼状態(エンジン3の燃焼状態とも記載する)に関するデータなどを含む。走行履歴データベース22には後述する給油所データも格納される。
【0028】
サーバ23は、ECU13と同様に、プロセッサ231と、メモリ232と、入出力ポート233とを含む。サーバ23はクラウドサーバであってもよい。本実施の形態においてサーバ23により実行される主要な処理としては、エンジン3の燃焼状態を改善するための処理が挙げられる。この処理を「燃焼改善処理」と記載する。燃焼改善処理については後に詳細に説明する。
【0029】
通信モジュール24は、車両1に搭載されたDCM12との無線での双方向通信が可能に構成されている。
【0030】
イントラネット25は、車両データベース21と走行履歴データベース22とサーバ23と通信モジュール24とを互いに接続する。
【0031】
<エンジン構成>
図3は、エンジン3の構成の一例を示す図である。エンジン3は、たとえば直列4気筒型の火花点火式の内燃機関である。エンジン3は、エンジン本体31を含む。エンジン本体31は、一方向に並べられた4つの気筒311~314を含む。各気筒311~314の構成は同等であるため、以下では気筒311の構成について代表的に説明する。
【0032】
気筒311には、2つの吸気バルブ321と、2つの排気バルブ322と、インジェクタ323と、点火プラグ324とが設けられている。また、気筒311には、吸気通路33および排気通路34が接続されている。吸気通路33は吸気バルブ321により開閉される。排気通路34は排気バルブ322により開閉される。吸気通路33を通じてエンジン本体31に供給される空気に燃料を加えることにより、空気と燃料との混合気が生成される。燃料はインジェクタ323により気筒311内で噴射され、気筒311内で混合気が生成される。そして、点火プラグ324が気筒311内で混合気に点火する。こうして気筒311内で混合気が燃焼される。気筒311で混合気を燃焼させたときに生じる燃焼エネルギーは、気筒311内のピストン(図示せず)により運動エネルギーに変換されて出力される。なお、エンジン3の燃料供給方式は、筒内噴射に限られず、ポート噴射であってもよいし、筒内噴射とポート噴射との併用であってもよい。
【0033】
エンジン3は、過給機35と、ウェイストゲートバルブ(WGV:Waste Gate Valve)装置36と、EGR装置37とをさらに含む。過給機35は、排気エネルギーを利用して吸気を過給するように構成されている。より詳細には、過給機35は、コンプレッサ351と、タービン352と、シャフト353とを含む。コンプレッサ351は吸気通路33に配置され、タービン352は排気通路34に配置されている。コンプレッサ351とタービン352とは、シャフト353を介して互いに連結されて一体的に回転するように構成されている。タービン352は、エンジン本体31から排出される排気の流れを受けて回転する。タービン352の回転力は、シャフト353を介してコンプレッサ351に伝達され、コンプレッサ351を回転させる。コンプレッサ351が回転することによって、エンジン本体31へ向かう吸気が圧縮され、圧縮された空気がエンジン本体31に供給される。
【0034】
吸気通路33においてコンプレッサ351よりも上流側の位置には、エアフローメータ405(後述)が設けられている。吸気通路33においてコンプレッサ351よりも下流側の位置には、インタークーラ331が設けられている。吸気通路33においてインタークーラ331よりも下流側の位置には、スロットル弁332が設けられている。吸気通路33に流入する空気(吸気)は、コンプレッサ351、インタークーラ331およびスロットル弁332を通ってエンジン本体31の各気筒311~314に供給される。インタークーラ331は、コンプレッサ351により圧縮された吸気を冷却する。スロットル弁332は、吸気通路33内を流れる吸気の流量を調整可能に構成されている。
【0035】
排気通路34には触媒装置341と後処理装置342とが設けられている。触媒装置341は、たとえば三元触媒コンバータを含む。触媒装置341は、エンジン3から排出される排気ガスに含まれる未燃成分(たとえば炭化水素(HC)または一酸化炭素(CO))を酸化したり、酸化成分(たとえば窒素酸化物(NOx))を還元したりする。後処理装置342は、触媒装置341よりも下流側の位置に設けられている。後処理装置342は、DPF(Diesel Particulate Filter)等のフィルタを含み、エンジン3から排出された微粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集する。
【0036】
WGV装置36は、排気通路34において、触媒装置341よりも上流側の位置に設けられている。WGV装置36は、エンジン本体31から排出される排気をタービン352を迂回して流すとともに、迂回させる排気量を調整可能に構成されている。WGV装置36は、バイパス通路361と、WGV362と、WGVアクチュエータ363とを含む。
【0037】
バイパス通路361は、排気通路34に接続され、タービン352を迂回して排気を流す。具体的には、バイパス通路361は、排気通路34におけるタービン352よりも上流側の部位(たとえばエンジン本体31とタービン352との間)から分岐し、排気通路34におけるタービン352よりも下流側の部位(たとえば、タービン352と触媒装置341との間)に合流する。
【0038】
WGV362は、バイパス通路361に配置されている。WGV362は、WGVアクチュエータ363によって駆動される負圧式のバルブである。WGV362は、その開度によって、エンジン本体31からバイパス通路361に導かれる排気の流量を調整可能に構成されている。WGV362が閉じるほど、エンジン本体31からバイパス通路361に導かれる排気流量が少なくなる一方でタービン352に流入する排気流量が多くなり、吸気の圧力(過給圧)が高くなる。
【0039】
EGR装置37は、排気通路34に設けられ、排気を吸気通路33に流入させる。EGR装置37は、EGR通路371と、EGR弁372と、EGRクーラ373とを含む。EGR通路371は、排気通路34における触媒装置341と後処理装置342との間の部位と、吸気通路33におけるコンプレッサ351とエアフローメータ405との間の部位とを接続することによって、排気通路34から排気の一部をEGRガスとして取り出して吸気通路33に導く。EGR弁372は、EGR通路371を流れるEGRガスの流量を調整可能に構成されている。EGRクーラ373は、EGR通路371を流れるEGRガスを冷却する。
【0040】
図4は、エンジン3Aの構成の他の一例を示す図である。エンジン3Aは、WGV装置36に代えて可変ノズル装置38を含む点において、図3に示したエンジン3と異なる。
【0041】
可変ノズル装置38は、タービンホイールの外周に設けられた複数の可変ノズル(ノズルベーン)を含む。可変ノズルは、ECU13からの制御指令に応じて、その開度(VN開度)が全閉位置の開度から全開位置の開度までの範囲内で変更されるように構成されている。可変ノズルのノズル開度を小さくすると、排気ガスが通過する領域の開口面積が小さくなり、タービン352に導入される排気ガスの流速が上がる。その結果、タービンホイールの回収エネルギーが増大して過給圧が増大する。これに対し、可変ノズル開度を大きくすると、排気ガスが通過する領域の開口面積が大きくなり、排気ガスの流速が下がる。その結果、タービンホイールの回収エネルギーが減少して過給圧が減少する。
【0042】
<センサ類の構成>
図5は、センサ類4の構成の一例を示す図である。センサ類4は、車速センサ401と、アクセル開度センサ402と、エンジン回転速度センサ403と、ノックセンサ404と、エアフローメータ405と、スロットル開度センサ406と、筒内圧センサ407と、冷却水温センサ408と、過給圧センサ409と、過給温度センサ410と、タービン回転速度センサ411と、排気温度センサ412と、空燃比センサ413と、NOxセンサ414と、差圧センサ415とを含む。
【0043】
車速センサ401は、車両1の速度を検出する。アクセル開度センサ402は、ドライバによるアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(アクセル開度)を検出する。エンジン回転速度センサ403は、クランクシャフト(図示せず)の回転角(クランク角)およびエンジン3の回転速度を検出する。ノックセンサ404は、エンジン3におけるノッキングの発生(エンジン本体31の振動)を検出する。エアフローメータ405は、吸気通路33への吸気量を検出する。
【0044】
スロットル開度センサ406は、スロットル弁332の開度(スロットル開度)を検出する。筒内圧センサ407は、燃焼室(図示せず)内の圧力を検出する。冷却水温センサ408は、エンジン本体31に設けられたウォータージャケット(図示せず)を循環する冷却水の温度(冷却水温)を検出する。過給圧センサ409は、過給機35による過給圧(コンプレッサ351の下流の圧力)を検出する。過給温度センサ410は、インタークーラ331によって冷却された吸気の温度(過給温度)を検出する。
【0045】
タービン回転速度センサ411は、過給機35のタービン352の回転速度を検出する。排気温度センサ412は、排気ガスの温度を検出する。空燃比センサ413は、排気ガス中の酸素濃度を検出する。NOxセンサ414は、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度を検出する。差圧センサ415は、後処理装置342に含まれるフィルタ(図示せず)の前後の圧力差を検出する。各センサは、その検出結果を示す信号をECU13に出力する。
【0046】
<データ収集>
車両1Aの燃費向上およびドライバビリティ向上のためには、エンジン3の燃焼状態を改善することが望ましい。車両1Aが燃料の組成情報を取得し、その組成情報を基にエンジン3の燃焼状態を改善することも考えられる(たとえば特許文献1参照)。しかしながら、燃料の組成情報を求めるには燃料の解析等の複雑な工程が必要となり得る。そこで、本実施の形態においては、燃料の組成情報を利用する構成に代えて、以下に説明する構成が採用される。
【0047】
車両1(ECU13)は、センサ類4に含まれる各センサからの信号により取得されたデータを管制センタ2(サーバ23)へと送信する。これにより、管制センタ2は、エンジン3(気筒311~314)における燃料の燃焼状態を取得または推定できる。具体的には、管制センタ2は、筒内圧センサ407により検出される信号(筒内圧の波形信号)に基づいて、気筒311~314における燃料の燃焼状態を取得できる。また、管制センタ2は、ノックセンサ404により検出される信号(気筒311~314で発生した音または振動を表す信号)に基づいて、エンジン3の燃焼状態を推定できる。さらに、管制センタ2は、排気温度センサ412、NOxセンサ414および/または差圧センサ415により検出される信号に基づいて、エンジン3の燃焼状態を推定することも可能である。以下、車両1から管制センタ2へと送信されて管制センタ2に収集されるデータを包括的に「センサデータ」とも称する。
【0048】
なお、図5に示したセンサ類4に含まれるセンサは例示に過ぎないことを確認的に記載する。つまり、センサデータは、これらのセンサから取得されるものに限定されない。センサデータは、これらのセンサのうちの一部から取得されるデータであってもよいし、図5には示されていない他のセンサから取得されるデータを含んでもよい。
【0049】
車両1(車両1Aおよび車両1B)は、センサデータに加えて、車両1を給油した給油所を特定するためのデータもサーバ23へと送信する。以下、給油所を特定可能なデータを「給油所データ」とも称する。給油所データは、具体的には、車両1の給油時における車両位置データを含む。管制センタ2にとって給油所の設置場所は地図情報から既知であるため、給油時における車両位置データから給油所を特定できる。
【0050】
また、同一の給油所であっても、給油される燃料の性状は給油時期(たとえば季節)に応じて変化し得る。したがって、給油所データは、車両1の給油時における車両位置データに加えて、車両1の給油時期に関するデータを含むことが好ましい。給油所データが給油時期に関するデータ(たとえば時刻データ)を含むことで、給油された燃料の性状を時間にも関連付けることができる。ただし、給油所データが給油時期に関するデータを含まなくてもよい。
【0051】
管制センタ2に設置されたサーバ23のメモリ232には、様々な燃料の燃焼状態に関する機械学習および/またはデータマイニングにより構築された予測モデルが格納されている。予測モデルは車種(モデル、グレード、年式など)毎に構築されている。管制センタ2は、車両1Bから収集されるセンサデータおよび給油所データを用いて各予測モデルの学習を継続することで、最新の燃料性状に対応するように各予測モデルを更新することが望ましい。管制センタ2は、車両1Aからセンサデータおよび給油所データを受けると、それらのデータを車両1Aの車種に対応する予測モデルに入力して当該予測モデルから出力を得る。これにより、具体的な燃料の組成情報を用いなくとも車両1Aのエンジン3の燃焼状態を改善することが可能になる。
【0052】
<燃焼予測モデル>
図6は、本実施の形態におけるエンジン3の燃焼状態に関する予測モデル(燃焼予測モデル)の一例を示す機能ブロック図である。燃焼予測モデルは、センサデータおよび給油所データを受けると、センサデータおよび給油所データが指し示す指標を特徴量として、機械学習により得られた演算規則に従って補正量を出力する。
【0053】
燃焼予測モデルは、学習済みモデルであって、たとえば、教師なし学習または強化学習により構築されたニューラルネットワークモデルである。ニューラルネットワークモデルは、入力層と、隠れ層と、出力層とを含む。入力層への入力変数をy(iは自然数)と記載する。隠れ層から出力層への出力変数をθ(jは自然数)と記載する。出力層から外部に取り出される出力変数をZと記載する。入力層のi番目のノードから隠れ層のj番目のノードへのウェイト(重み)をWjiと記載する。隠れ層のj番目のノードから出力層のノードへのウェイトをW’と記載する。
【0054】
入力変数yとは、車両1から収集されたセンサデータおよび給油所データである。図6に示す例では、ナビゲーションシステム11により取得される車両1Bの位置情報(車両位置データ)も入力変数yに含まれる。出力変数Zとは、エンジン3への制御指令の補正量である。この補正量を教師データとして用いて機械学習が行われる。
【0055】
補正量は、たとえば、噴射系への制御指令の補正量と、吸気系への制御指令の補正量と、EGR系への制御指令の補正量とに分類できる。より具体的には、噴射系への制御指令の補正量とは、インジェクタ323からの燃料の噴射量の基準量からの変化量、インジェクタ323からの燃料の噴射タイミングの基準タイミングからの変化量、点火プラグ324の点火タイミングの基準タイミングからの変化量などである。吸気系への制御指令の補正とは、スロットル開度の基準量からの変化量、WGV262(または可変ノズル装置38)の開度の基準量からの変化量などである。EGR系への制御指令の補正量とは、EGR弁372の開度の基準量からの変化量などである。これらの補正量は、管制センタ2に設けられた通信モジュール24によって車両1Aへと送信される。
【0056】
予測モデルの学習には、センサデータおよび給油所データに加えて、車両位置データが用いられることが望ましい。車両位置データには車両1Bの走行地点に関する様々な情報(天候、気温、降水量、勾配、制限速度、渋滞の有無などに関する情報)が反映されている。したがって、車両位置データを用いることで、より高精度に学習された予測モデルを構築することが可能になる。
【0057】
なお、ニューラルネットワークモデルは、エンジン3の燃焼状態の機械学習に採用可能な手法の一例に過ぎず、機械学習の手法は、これに限定されるものではない。サーバ23は、たとえばディープラーニングモデル、ロジスティック回帰モデル、サポートベクターマシンなどの他の機械学習モデルを用いてもよい。
【0058】
また、サーバ23は、管制センタ2に収集されたセンサデータおよび給油所データを、いわゆるビッグデータに対するデータマイニングの手法により解析してもよい。データマイニングの手法としては、たとえば以下のような公知の手法を採用できる。サーバ23は、たとえばインジェクタ323からの燃料の噴射タイミングを目的変数として使用するとともに他のパラメータを説明変数として使用し、たとえばクラスタリングにより説明変数間の関係を見出すことで、燃料の噴射タイミングの補正に使用すべき複数の説明変数を選択する。そして、選択された説明変数が変化した場合に目的変数(この例では燃料の噴射タイミング)がどのように変化するかを予測するために、サーバ23は、説明変数と目的変数との間に成立する規則性を抽出する。抽出された規則性は、目的変数の予測モデルまたは関係式として表される(統計的モデリング)。一例として、複数の説明変数を用いた回帰分析(たとえば重回帰分析)を行う場合、サーバ23は、回帰分析に用いられる予測モデルのパラメータをパラメータ適合(フィッティング)により算出できる。
【0059】
<燃焼状態の改善>
図7は、エンジン3の噴射系の動作を補正するための燃焼改善処理の一例を説明するための図である。図7および後述する図8図10において、横軸はエンジン3のクランク角を表す。縦軸はエンジン3の気筒311~314の筒内圧を表す。
【0060】
燃料の性状によっては筒内圧が目標筒内圧(狙いの筒内圧)から乖離する可能性がある(図中、補正前の筒内圧を参照)。このような場合には、たとえば、エンジン3の噴射系の動作を補正量を用いて補正することによって、筒内圧を目標筒内圧に近付けることができる(補正後の筒内圧を参照)。図7には燃料の噴射タイミングを遅角させる例が示されている。なお、この例における燃焼予測モデルの構築(モデルの学習)には、吸気量、排気量(排気量の目標値と実際値との間の差分)、排気ガス中の未燃成分(炭化水素など)および/または窒素酸化物の濃度、混合気への点火タイミング、燃焼音などを使用可能である。
【0061】
図8は、エンジン3の噴射系の動作を補正するための燃焼改善処理の他の一例を説明するための図である。エンジン3に給油された燃料の着火性が典型的な燃料の着火性と比べて良い場合または悪い場合にも、筒内圧が目標筒内圧から乖離する可能性がある。ECU13からインジェクタ323に出力されるパルスの大きさ(パルス高さ・パルス幅)を変更することによってインジェクタ323からの燃料の噴射量が調整されるところ、補正量を用いてパルスの大きさを補正することによって、筒内圧を目標筒内圧に近付けることができる。なお、マルチ噴射では本燃焼のための燃料の噴射量を補正することが望ましい。
【0062】
図9は、エンジン3の吸気系の動作を補正するための燃焼改善処理の一例を説明するための図である。筒内圧が目標筒内圧からの乖離する他の要因としては、エンジン3への吸気量の多寡が挙げられる。このような場合には、補正量を用いたスロットル弁332および/またはWGV362(可変ノズル装置38)の開度調整により吸気量を補正することで、筒内圧を目標筒内圧に近付けることができる。
【0063】
図10は、エンジン3のEGR系の動作を補正するための燃焼改善処理の一例を説明するための図である。EGRガスの多寡も筒内圧が目標筒内圧からの乖離する要因となり得る。このような場合には、補正量を用いたEGR弁372の開度調整におよりEGRガス量を補正することで、筒内圧を目標筒内圧に近付けることができる。
【0064】
なお、図7図10では筒内圧を目標筒内圧に近付ける例を説明したが、他のパラメータ(たとえばエンジン3の熱発生率)が目標値に近付くように、補正量を用いてエンジン3の燃焼状態が改善されてもよい。
【0065】
<処理フロー>
図11は、本実施の形態における燃焼改善処理の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、予め定められた条件成立時(たとえば、車両1Aの走行中などのエンジン3の動作中に所定の制御周期毎)に実行される。図中左側には車両1Aにおいて実行される処理を示し、右側には管制センタ2において実行される処理を示す。各ステップは、車両1A(ECU13)または管制センタ2(サーバ23)によるソフトウェア処理により実現されるが、ECU13またはサーバ23内に配置されたハードウェア(電気回路)により実現されてもよい。ステップをSと略す。
【0066】
この例では、ECU13は、センサデータ、車両位置データおよび給油所データに関する管制センタ2への送信制御をフラグを用いて管理している。このフラグを「データ送信フラグ」と記載する。
【0067】
S11において、ECU13は、車両1Aの給油が行われたかどうかを判定する。ECU13は、燃料タンク(図示せず)内の燃料の増加が燃料計により検出された場合に給油が行われたと判定できる。給油が行われた場合(S11においてYES)、ECU23は、データ送信フラグをオンにする(S12)。そして、ECU23は、給油所データを管制センタ2に送信する(S13)。給油所データは走行履歴データベース22に格納される。なお、車両1Aの給油が行われていない場合(S11においてNO)には、S12,S13の処理はスキップされ、データ送信フラグはオフに維持される。
【0068】
S14において、ECU13は、データ送信フラグがオンであるかどうかを判定する。データ送信フラグがオンである場合(S14においてYES)、ECU13は、センサデータおよび車両位置データを管制センタ2に送信する(S15)。図中左側の一例の処理は所定の条件が成立する度(たとえば制御周期毎)に実行されるので、S15の処理は繰り返し実行される。つまり、必要な量のデータの収集が完了する(後述)まで、センサデータおよび車両位置データが継続的に送信される。これらのセンサデータおよび車両位置データは、S13にて収集された給油所データ13と関連付けて走行履歴データベース22に格納される。データ送信フラグがオフである場合(S14においてNO)、車両1Aから管制センタ2へのセンサデータおよび車両位置データの送信は行われない。
【0069】
S21において、サーバ23は、燃焼予測モデルを用いて補正量を算出するのに必要な量のデータが収集されたかどうかを判定する。必要なデータの収集が完了した場合(S21においてYES)、サーバ23は、収集されたデータ(センサデータ、車両位置データおよび給油所データ)を燃焼予測モデルに与えて補正量を算出する(S22)。そして、サーバ23は、算出された補正量を車両1Aに送信する(S23)。なお、補正量が通常想定される範囲外である場合には、不適切な燃料(たとえば規格外の燃料)が給油されている可能性がある。この場合、サーバ23は、車両1Aに対して補正量に代えてまたは加えて警告を送信してもよい。
【0070】
S16において、ECU13は、管制センタ2から補正量を受信したかどうかを判定する。補正量を受信すると(S16においてYES)、ECU13は、データ送信フラグをオンからオフに切り替える。さらに、ECU13は、図7図10にて説明したように、エンジン3の噴射系、EGR系および/または吸気系の動作を補正量を用いて補正する(S18)。これにより、エンジン3の燃料状態が改善される。
【0071】
以上のように、本実施の形態においては、燃料の燃焼状態に関する予測モデルである燃焼予測モデルを用いることによって、車両1Aのセンサデータ、車両位置データおよび給油所データから、車両1Aのエンジン3の燃焼状態を補正するための補正量が算出される。給油所データは、給油所を特定するためのデータであって、給油された燃料組成の解析結果に関するデータではない。本実施の形態によれば、燃料の組成情報が求められていなくてもエンジン3の燃焼状態を適切に補正できる。また、エンジン3における燃焼不具合(たとえば失火または異常な燃焼音)の発生も抑制できる。
【0072】
給油が行われる度に燃料タンク内の燃料の性状は変化し得る。しかし、燃焼予測モデルは、多数の車両1Bから収集された、様々な燃料の燃焼状態の検出結果を表すビッグデータを用いて構築されている。したがって、本実施の形態によれば、特定の燃料だけでなく多種多様な燃料に対してエンジン3の燃焼状態の適切な補正が可能である。
【0073】
また、一般に、車載ECUの演算処理能力は限られている。管制センタ2に設置されたサーバ23を用いることで、高度な演算処理能力を容易に確保できるとともに、ECU13の演算負荷を低減できる。また、サーバ23が補正量を学習することで、サーバ23の演算負荷を低減することも可能である。
【0074】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
100 車両管理システム、 1(1A,1B) 車両、11 ナビゲーションシステム、111 GPS受信器、13 ECU、131 プロセッサ、132 メモリ、133 入出力ポート、14 車載ネットワーク、2 管制センタ、21 車両データベース、22 走行履歴データベース、23 サーバ、231 プロセッサ、232 メモリ、233 入出力ポート、24 通信モジュール、25 イントラネット、3,3A エンジン、31 エンジン本体、311~314 気筒、321 吸気バルブ、322 排気バルブ、323 インジェクタ、324 点火プラグ、33 吸気通路、331 インタークーラ、332 スロットル弁、34 排気通路、341 触媒装置、342 後処理装置、35 過給機、351 コンプレッサ、352 タービン、353 シャフト、36 WGV装置、361 バイパス通路、362 WGV、363 WGVアクチュエータ、37 EGR装置、371 EGR通路、372 EGR弁、373 EGRクーラ、38 可変ノイズ装置、4 センサ類、401 車速センサ、402 アクセル開度センサ、403 エンジン回転速度センサ、404 ノックセンサ、405 エアフローメータ、406 スロットル開度センサ、407 筒内圧センサ、408 冷却水温センサ、409 過給圧センサ、410 過給温度センサ、411 タービン回転速度センサ、412 排気温度センサ、413 空燃比センサ、414 センサ、415 差圧センサ。
図1
図2
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図11