(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 15/04 20060101AFI20241203BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20241203BHJP
F02D 41/06 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
F02D15/04 C
F02D13/02 H
F02D41/06
(21)【出願番号】P 2021083333
(22)【出願日】2021-05-17
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】那須 隼平
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-137619(JP,A)
【文献】特開2013-002348(JP,A)
【文献】特開2008-025549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00-28/00、41/00-41/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花点火式の内燃機関及び電動モータを動力源として備え、前記内燃機関が、吸気バルブタイミングを調整する吸気バルブタイミング調整装置と、排気バルブタイミングを調整する排気バルブタイミング調整装置と、排気の流れる排気通路と、前記排気通路に設けられている触媒と、を有するハイブリッド車両に適用される内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関で成層燃焼を行わせつつ点火時期を遅角することにより、前記触媒を暖機させる触媒暖機処理を実行する実行装置を備え、
前記触媒暖機処理の実行時における前記吸気バルブタイミングの目標を吸気目標時期とし、前記触媒暖機処理の実行時における前記排気バルブタイミングの目標を排気目標時期とし、前記内燃機関がアトキンソンサイクルで運転しているか否かの判断基準となる前記吸気バルブタイミングを基準時期としたとき、前記基準時期は、前記吸気目標時期よりも遅角側に設定されており、
前記実行装置は、前記基準時期よりも前記吸気バルブタイミングが遅角側である場合、前記触媒暖機処理において、前記吸気バルブタイミングを前記吸気目標時期に変更し、その後、前記排気バルブタイミングを前記排気目標時期に変更する
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記実行装置は、前記吸気バルブタイミングが前記基準時期よりも遅角側ではなく、且つ前記吸気バルブタイミングが前記吸気目標時期よりも進角側である場合、前記触媒暖機処理において、前記吸気バルブタイミングを前記吸気目標時期に変更し、その後、前記排気バルブタイミングを前記排気目標時期に変更する
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記実行装置は、前記吸気バルブタイミングが前記基準時期よりも進角側ではなく、且つ前記吸気バルブタイミングが前記吸気目標時期よりも遅角側であり、さらに、前記排気バルブタイミングが前記排気目標時期よりも遅角側である場合、前記触媒暖機処理において、前記排気バルブタイミングを前記排気目標時期に変更し、その後、前記吸気バルブタイミングを前記吸気目標時期に変更する
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に適用される内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、吸気バルブタイミングを調整する吸気バルブタイミング調整装置と、排気バルブタイミングを調整する排気バルブタイミング調整装置とを備える内燃機関の一例が記載されている。当該内燃機関において、各バルブタイミング調整装置は、内燃機関のオイルポンプの作動によって発生する油圧を利用してバルブタイミングを調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関として、燃焼室から排出された排気が流れる排気通路に触媒が設けられているものがある。こうした内燃機関の始動時には、触媒の温度が低いと、触媒を暖機させる触媒暖機処理が実行される。触媒暖機処理としては、例えば、内燃機関で成層燃焼を行わせつつ内燃機関の点火時期を遅角させる処理がある。このような触媒暖機処理を実行することにより、燃焼室から排気通路に排出される排気の温度を高くできるため、触媒の温度を早期に高くできる。ちなみに、成層燃焼を行う場合、燃焼室における空燃比の目標である目標空燃比として、理論空燃比よりもリーン側の値が設定される。
【0005】
また、触媒暖機処理が開始されると、吸気バルブタイミング及び排気バルブタイミングが、それぞれの目標時期に変更される。この際、各バルブタイミングの変更を同時に開始すると、燃焼室内の状態が急激に変化する。そのため、吸気バルブタイミング及び排気バルブタイミングのうち一方が先に変更され、その後に他方が変更される。
【0006】
動力源として内燃機関及び電動モータを備えるハイブリッド車両では、電動モータの駆動のみでの車両走行を実現できる。そのため、車両走行中に内燃機関が始動されることがある。このとき、触媒の温度が低いと、車両走行中であっても触媒暖機処理の実行が要求される。
【0007】
車両走行中に内燃機関が始動される場合、ハイブリッド車両に要求される駆動力が大きいと、始動直後から内燃機関で高負荷運転が行われることがある。高負荷運転中では、触媒の温度が低くても触媒暖機処理は実行されない。この場合、内燃機関の運転負荷が低くなり、低負荷運転が行われていると判定されるようになってから触媒暖機処理が実行される。
【0008】
ところで、ハイブリッド車両では、内燃機関がアトキンソンサイクルで運転することがある。アトキンソンサイクルで内燃機関が運転する場合、オットーサイクルで内燃機関が運転する場合と比較し、吸気バルブの閉弁時期が遅角される。そのため、ピストンが圧縮上死点に向けて移動し始めても、しばらくの間、吸気バルブが閉弁していない。その結果、吸気バルブの開弁に伴って吸気通路から燃焼室に導入された空気の一部が、吸気通路に戻されることになる。この際、噴射弁によって燃焼室に供給された燃料の一部も空気と共に吸気通路に流出する。
【0009】
ハイブリッド車両では、内燃機関がアトキンソンサイクルで運転している状況下で上記触媒暖機処理が開始されることがある。この場合でも、吸気バルブタイミング及び排気バルブタイミングのうち、一方が変更され、その後に他方が変更されることになる。この際における各バルブタイミングの変更の順序によっては、燃焼室における実際の空燃比が成層燃焼時の目標空燃比よりもリーン側の値となる期間が長くなり、内燃機関の燃焼特性が悪化するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための内燃機関の制御装置は、火花点火式の内燃機関及び電動モータを動力源として備え、前記内燃機関が、吸気バルブタイミングを調整する吸気バルブタイミング調整装置と、排気バルブタイミングを調整する排気バルブタイミング調整装置と、排気の流れる排気通路と、前記排気通路に設けられている触媒と、を有するハイブリッド車両に適用される。この制御装置は、前記内燃機関で成層燃焼を行わせつつ点火時期を遅角することにより、前記触媒を暖機させる触媒暖機処理を実行する実行装置を備えている。前記触媒暖機処理の実行時における前記吸気バルブタイミングの目標を吸気目標時期とし、前記触媒暖機処理の実行時における前記排気バルブタイミングの目標を排気目標時期とし、前記内燃機関がアトキンソンサイクルで運転しているか否かの判断基準となる前記吸気バルブタイミングを基準時期としたとき、前記基準時期は、前記吸気目標時期よりも遅角側に設定されている。前記実行装置は、前記基準時期よりも前記吸気バルブタイミングが遅角側である場合、前記触媒暖機処理において、前記吸気バルブタイミングを前記吸気目標時期に変更し、その後、前記排気バルブタイミングを前記排気目標時期に変更する。
【0011】
上記構成によれば、吸気バルブタイミングが基準時期よりも遅角側である場合、アトキンソンサイクルで内燃機関が運転していると判断できる。そのため、吸気バルブタイミングが基準時期よりも遅角側である状況下で触媒暖機処理が開始されると、吸気バルブタイミングが吸気目標時期まで進角される。すなわち、吸気バルブの閉弁時期の進角が早期に開始される。これにより、ピストンが圧縮上死点に向けて移動している場合に、空気と共に吸気通路に流出する燃料の量を早期に少なくできる。その結果、燃焼室における実際の空燃比と、成層燃焼時の目標空燃比との乖離が生じにくくなる分、内燃機関の燃焼特性が悪化しにくくなる。
【0012】
したがって、上記構成によれば、アトキンソンサイクルで内燃機関が運転している状況下で触媒暖機処理が開始された際に、内燃機関の燃焼特性が悪化することを抑制できるようになる。
【0013】
上記内燃機関の制御装置の一態様において、前記実行装置は、前記吸気バルブタイミングが前記基準時期よりも遅角側ではなく、且つ前記吸気バルブタイミングが前記吸気目標時期よりも進角側である場合、前記触媒暖機処理において、前記吸気バルブタイミングを前記吸気目標時期に変更し、その後、前記排気バルブタイミングを前記排気目標時期に変更する。
【0014】
吸気バルブタイミングが基準時期よりも遅角側ではなく、且つ吸気バルブタイミングが吸気目標時期よりも進角側である場合、吸気バルブタイミングを進角側に設定していることに起因してバルブオーバーラップが発生している可能性がある。バルブオーバーラップが発生していると、燃焼室から吸気通路に流出する排気の量である内部EGR量が多くなる。内部EGR量が多すぎると、燃焼室での燃焼温度が下がり、燃焼特性が悪化するおそれがある。
【0015】
ここで、吸気バルブタイミングを進角側に設定していることに起因してバルブオーバーラップが発生する際に、吸気バルブタイミングよりも先に排気バルブタイミングを変更する場合を考える。この場合、排気バルブタイミングを変更する方向によっては、バルブオーバーラップが拡大し、内部EGR量が多すぎる状態になりうる。すなわち、燃焼特性が悪化するおそれがある。
【0016】
そこで、上記構成では、吸気バルブタイミングが基準時期よりも遅角側ではなく、且つ吸気バルブタイミングが吸気目標時期よりも進角側である場合には、吸気バルブタイミングの変更が、排気バルブタイミングの変更よりも先に行われる。これにより、バルブオーバーラップの拡大が抑制される。その結果、触媒暖機処理が開始された際における内燃機関の燃焼特性の悪化を抑制できる。
【0017】
上記内燃機関の制御装置の一態様において、前記実行装置は、前記吸気バルブタイミングが前記基準時期よりも進角側ではなく、且つ前記吸気バルブタイミングが前記吸気目標時期よりも遅角側であり、さらに、前記排気バルブタイミングが前記排気目標時期よりも遅角側である場合、前記触媒暖機処理において、前記排気バルブタイミングを前記排気目標時期に変更し、その後、前記吸気バルブタイミングを前記吸気目標時期に変更する。
【0018】
吸気バルブタイミングが基準時期よりも進角側ではなく、且つ吸気バルブタイミングが吸気目標時期よりも遅角側であり、さらに、排気バルブタイミングが排気目標時期よりも遅角側である場合、排気バルブタイミングを遅角側に設定していることに起因してバルブオーバーラップが発生している可能性がある。この場合、触媒暖機処理が開始されると、吸気目標時期に向けて吸気バルブタイミングが進角され、排気目標時期に向けて排気バルブタイミングが進角される。
【0019】
ここで、排気バルブタイミングを遅角側に設定していることに起因してバルブオーバーラップが発生する際に、排気バルブタイミングよりも先に吸気バルブタイミングを進角させると、バルブオーバーラップが拡大し、内部EGR量が多すぎる状態になりうる。すなわち、燃焼特性が悪化するおそれがある。
【0020】
そこで、上記構成では、吸気バルブタイミングが基準時期よりも進角側ではなく、且つ吸気バルブタイミングが吸気目標時期よりも遅角側であり、さらに、排気バルブタイミングが排気目標時期よりも遅角側である場合には、排気バルブタイミングの変更が、吸気バルブタイミングの変更よりも先に行われる。これにより、バルブオーバーラップの拡大が抑制される。その結果、触媒暖機処理が開始された際における内燃機関の燃焼特性の悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態の制御装置が適用されるハイブリッド車両の概略を示す模式図。
【
図2】同制御装置で実行される一連の処理の流れを説明するフローチャート。
【
図3】吸気バルブタイミング及び排気バルブタイミングのうち、先に変更するバルブタイミングを決める際に用いられるテーブルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、内燃機関の制御装置の一実施形態を
図1~
図3に従って説明する。
図1には、本実施形態の制御装置100が適用されるハイブリッド車両10が図示されている。
【0023】
<ハイブリッド車両10>
ハイブリッド車両10は、制御装置100の制御対象である内燃機関20と、第1モータジェネレータ12と、第2モータジェネレータ13とを有している。内燃機関20の出力トルク及び第2モータジェネレータ13の出力トルクの少なくとも一方のトルクが出力軸14を介して車輪50に入力されると、ハイブリッド車両10が走行する。すなわち、ハイブリッド車両10では、内燃機関20及び第2モータジェネレータ13が、「動力源」に対応する。
【0024】
ハイブリッド車両10は、遊星歯車機構15を有している。遊星歯車機構15は、サンギア151と、ピニオンギア152と、プラネタリキャリア153と、リングギア154とを備えている。プラネタリキャリア153は、ピニオンギア152を自転及び公転が可能な状態でピニオンギア152を支持している。ピニオンギア152は、サンギア151及びリングギア154の双方に歯合している。そして、プラネタリキャリア153には、内燃機関20のクランク軸25が連結されている。サンギア151には、第1モータジェネレータ12が連結されている。また、リングギア154には、出力軸14が連結されている。すなわち、遊星歯車機構15は、内燃機関20の出力トルクを第1モータジェネレータ12と、出力軸14に連結されている車輪50とに分配できる。
【0025】
なお、出力軸14には、第2モータジェネレータ13もまた連結されている。
<内燃機関20>
内燃機関20は、複数の気筒21を有している。各気筒21内におけるピストン22よりも上方域は燃焼室23である。燃焼室23では、燃料及び空気を含む混合気が燃焼される。各ピストン22は、コネクティングロッド24を介してクランク軸25に連結されている。各燃焼室23には、吸気通路26及び排気通路27が接続されている。そのため、吸気通路26を介して空気が各燃焼室23に導入される。また、各燃焼室23での混合気の燃焼によって生じた排気は、排気通路27に排出される。すなわち、排気通路27では排気が流れる。こうした排気通路27には、酸素吸蔵型の触媒30が設けられている。
【0026】
なお、吸気通路26の燃焼室23に対する開閉は吸気バルブ28によって行われる。排気通路27の燃焼室23に対する開閉は排気バルブ29によって行われる。
内燃機関20は、吸気バルブタイミングを調整する吸気バルブタイミング調整装置31を有している。吸気バルブタイミングとは、吸気バルブ28のバルブタイミングである。以降の記載では「吸気バルブタイミング」を「吸気VT」といい、吸気バルブタイミング調整装置31を「吸気VVT装置31」という。吸気VVT装置31の作動によって吸気VTが進角されると、吸気バルブ28の開弁時期及び閉弁時期が進角される。反対に、吸気VTが遅角されると、吸気バルブ28の開弁時期及び閉弁時期が遅角される。
【0027】
内燃機関20は、排気バルブタイミングを調整する排気バルブタイミング調整装置32を有している。排気バルブタイミングとは、排気バルブ29のバルブタイミングである。以降の記載では、「排気バルブタイミング」を「排気VT」といい、排気バルブタイミング調整装置32を「排気VVT装置32」という。排気VVT装置32の作動によって排気VTが進角されると、排気バルブ29の開弁時期及び閉弁時期が進角される。反対に、排気VTが遅角されると、排気バルブ29の開弁時期及び閉弁時期が遅角される。
【0028】
吸気VVT装置31及び排気VVT装置32は、VTを変更できるのであれば、任意の作動方式の装置でよい。例えば、吸気VVT装置31は、油圧駆動式のVVT装置であってもよいし、電動モータを備える電動VVT装置であってもよい。同様に、排気VVT装置32は、油圧駆動式のVVT装置であってもよいし、電動モータを備える電動VVT装置であってもよい。
【0029】
内燃機関20では、燃焼に供される燃料を噴射する噴射弁33と、燃焼室23の混合気に対して点火を行う点火プラグ34とが気筒21毎に設けられている。すなわち、内燃機関20は、火花点火式の内燃機関である。本実施形態では、噴射弁33として、燃焼室23に直接燃料を噴射する筒内噴射弁が採用されている。
【0030】
内燃機関20は、各種のセンサを有している。センサとしては、スロットル開度センサ111、クランク角センサ112及び触媒温度センサ113を挙げることができる。スロットル開度センサ111は、吸気通路26に設けられているスロットルバルブの開度であるスロットル開度SLを検出し、検出結果に応じた信号を検出信号として制御装置100に出力する。クランク角センサ112は、クランク軸25の回転速度である機関回転数NEに応じた信号を検出信号として制御装置100に出力する。触媒温度センサ113は、触媒30の温度である触媒温度TMPを検出し、検出結果に応じた信号を検出信号として制御装置100に出力する。
【0031】
<制御装置100>
制御装置100は、CPU101、ROM102、記憶装置103及び周辺回路104を備えている。CPU101、ROM102、記憶装置103及び周辺回路104は、ローカルネットワーク105を介して通信可能である。ROM102には、CPU101が実行する制御プログラムが記憶されている。記憶装置103は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである。例えば、記憶装置103には、CPU101の演算結果が記憶される。周辺回路104としては、例えば、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路及びリセット回路を挙げることができる。
【0032】
<触媒30を暖機させるためにCPU101が実行する処理の流れ>
制御装置100では、内燃機関20が始動した際に触媒温度TMPが低いと、触媒30の暖機が要求されることがある。触媒30の暖機が要求された場合、所定の実行条件が成立すると、CPU101は、触媒暖機処理を実行する。すなわち、CPU101が、「実行装置」に対応する。触媒暖機処理において、CPU101は、内燃機関20における点火時期を遅角させる。また、CPU101は、燃焼室23での成層燃焼を実現するために噴射弁33の燃料噴射の回数を増大させる。すなわち、分割噴射の回数が増大される。成層燃焼を燃焼室23で行わせる際、CPU101は、燃焼室23の空燃比の目標である目標空燃比として、理論空燃比よりもリーン側の値を設定する。
【0033】
また、触媒暖機処理において、CPU101は、吸気VTを吸気目標時期XinTrに変更し、排気VTを排気目標時期XexTrに変更する。吸気目標時期XinTrとは、触媒暖機処理の実行時における吸気VTの目標である。また、排気目標時期XexTrとは、触媒暖機処理の実行時における排気VTの目標である。
【0034】
図2には、触媒暖機処理をCPU101が実行する際の一連の処理の流れが示されている。触媒30の暖機が要求されると、CPU101は当該一連の処理の実行を開始する。
一連の処理において、はじめのステップS11では、CPU101は、触媒暖機処理の実行条件が成立しているか否かを判定する。例えば、実行条件は、内燃機関20が低負荷運転を行っていることを含んでいる。そのため、内燃機関20の運転中で触媒温度TMPが低くても、内燃機関20が高負荷運転を行っている場合、CPU101は、実行条件が成立しているとの判定をなさない。このように高負荷運転を内燃機関20が行っていても、内燃機関20の負荷率が低下し、内燃機関20が低負荷運転を行っていると判定するようになると、CPU101は、実行条件が成立しているとの判定をなす。
【0035】
ステップS11において、実行条件が成立しているとの判定をなしていない場合(NO)、CPU101は、実行条件が成立するとの判定をなすまでステップS11の判定を繰り返し実行する。一方、実行条件が成立しているとの判定をなしている場合(S11:YES)、CPU101は、処理を次のステップS13に移行する。
【0036】
ステップS13において、CPU101は、吸気VT及び排気VTのうち、先に変更するVTを特定する処理を実行する。以降の記載において、吸気VT及び排気VTのうち、先に変更するVTを第1VTといい、残りのVTを第2VTという。例えば、CPU101は、
図3に示すテーブルを用いて第1VT及び第2VTを決定する。
【0037】
図3に示すように、吸気VTが基準時期XinThよりも遅角側に位置している場合、CPU101は、吸気VTを第1VTとして決定し、排気VTを第2VTとして決定する。基準時期XinThとは、内燃機関20がアトキンソンサイクルで運転しているか否かを判断するための判断基準となる吸気VTである。例えば、ピストン22が下死点に位置する時期を下死点時期としたとき、基準時期XinThは、吸気バルブ28の閉弁時期が下死点時期よりも遅角側となるように設定されている。そのため、吸気VTが基準時期XinThよりも遅角側に位置している場合は、アトキンソンサイクルで内燃機関20が運転していると見なす。一方、吸気VTが基準時期XinThよりも遅角側に位置していない場合は、アトキンソンサイクルで内燃機関20が運転していると見なさない。つまり、内燃機関20がアトキンソンサイクルで運転している状況下で触媒暖機処理を開始する場合には、第1VTとして吸気VTが選択され、第2VTとして排気VTが選択される。
【0038】
吸気VTが基準時期XinThよりも遅角側に位置しておらず、且つ吸気VTが吸気目標時期XinTrよりも進角側に位置している場合、CPU101は、吸気VTを第1VTとして決定し、排気VTを第2VTとして決定する。吸気目標時期XinTrは、上記の基準時期XinThよりも進角側に設定されている。
【0039】
吸気VTが吸気目標時期XinTrよりも進角側に位置している場合、吸気VTが進角側に位置することに起因してバルブオーバーラップが発生している可能性がある。すなわち、排気バルブ29が閉弁する前に吸気バルブ28が開弁する可能性がある。したがって、吸気VTが進角側に位置することに起因してバルブオーバーラップが発生している可能性がある場合には、第1VTとして吸気VTが選択され、第2VTとして排気VTが選択される。
【0040】
吸気VTが基準時期XinThよりも遅角側に位置しておらず、且つ吸気VTが吸気目標時期XinTrよりも遅角側に位置している場合、CPU101は、排気VTと排気目標時期XexTrとの比較によって第1VT及び第2VTを決定する。すなわち、排気VTが排気目標時期XexTrよりも遅角側に位置している場合、CPU101は、排気VTを第1VTとして決定し、吸気VTを第2VTとして決定する。
【0041】
排気VTが排気目標時期XexTrよりも遅角側に位置している場合、排気VTが遅角側に位置することに起因してバルブオーバーラップが発生している可能性がある。すなわち、排気バルブ29が閉弁する前に吸気バルブ28が開弁する可能性がある。したがって、排気VTが遅角側に位置することに起因してバルブオーバーラップが発生している可能性がある場合には、第1VTとして排気VTが選択され、第2VTとして吸気VTが選択される。
【0042】
一方、排気VTが排気目標時期XexTrよりも進角側に位置している場合、CPU101は、排気エミッションを優先して第1VT及び第2VTを決定する。この場合、内燃機関20の諸元から第1VT及び第2VTが決まる。
【0043】
図2に戻り、ステップS13で第1VT及び第2VTを決定すると、CPU101は、処理をステップS15に移行する。ステップS15において、CPU101は、触媒暖機処理を開始する。すなわち、CPU101は、成層燃焼を実現できるように各噴射弁33を制御する。また、CPU101は、点火時期を遅角させる。
【0044】
続いて、ステップS17において、CPU101は、第1VTを変更する第1VT変更処理を実行する。第1VTが吸気VTである場合、CPU101は、当該処理において、吸気VTが吸気目標時期XinTrとなるように吸気VVT装置31を作動させる。第1VT変更処理を実行している間では、CPU101は、第2VTを保持する。第1VTが目標時期に達すると、CPU101は、処理をステップS19に移行する。
【0045】
ステップS19において、CPU101は、第2VTを変更する第2VT変更処理を実行する。第2VTが排気VTである場合、CPU101は、当該処理において、排気VTが排気目標時期XexTrとなるように排気VVT装置32を作動させる。第2VT変更処理を実行している間では、CPU101は、第1VTを保持する。第2VTが目標時期に達すると、CPU101は、
図2に示す一連の処理を終了する。すなわち、CPU101は、触媒暖機処理の終了条件が成立するまで触媒暖機処理の実行を継続する。
【0046】
例えば、触媒温度TMPが十分に高くなったと判断できると、CPU101は、終了条件が成立したとの判定をなし、触媒暖機処理を終了する。また例えば、内燃機関20が高負荷運転を始めた場合でも、CPU101は、終了条件が成立したとの判定をなし、触媒暖機処理を終了する。
【0047】
<本実施形態における作用及び効果>
(1)内燃機関20がアトキンソンサイクルで運転している場合、吸気バルブ28の閉弁時期がかなり遅角側になる。そのため、ピストン22が圧縮上死点に向けて移動し始めても、しばらくの間、吸気バルブ28は未だ開弁している。その結果、ピストン22が圧縮上死点に向けて移動する場合、空気及び燃料を含む混合気の一部が燃焼室23から吸気通路26に流出する。こうした状況で成層燃焼が実行されると、次のような課題が生じうる。
【0048】
すなわち、成層燃焼では、目標空燃比として理論空燃比よりもリーン側の値が設定される。そのため、燃焼室23から燃料の一部が吸気通路26に流出すると、燃焼室23の実際の空燃比が目標空燃比よりもさらにリーン側に値となり、内燃機関20の燃焼特性が悪化するおそれがある。そのため、触媒暖機処理を実行する場合には、アトキンソンサイクルでの機関運転を早期に終了させることが望ましい。
【0049】
そこで、本実施形態では、吸気VTが基準時期XinThよりも遅角側である場合、アトキンソンサイクルで機関運転が行われていると判断できるため、排気VTよりも先に吸気VTが変更される。吸気目標時期XinTrは基準時期XinThよりも進角側に設定されているため、吸気VTは進角されることになる。すなわち、吸気バルブ28の閉弁時期の進角が早期に開始される。その結果、ピストン22が圧縮上死点に向けて移動する場合に、空気と共に吸気通路26に流出する燃料の量を早期に少なくできる。これにより、燃焼室23における実際の空燃比と、成層燃焼時の目標空燃比との乖離が生じにくくなる。そのため、内燃機関20の燃焼特性が悪化しにくくなる。
【0050】
したがって、アトキンソンサイクルで内燃機関20が運転している状況下で触媒暖機処理が開始された際に、内燃機関20の燃焼特性が悪化することを抑制できる。
(2)吸気VTが基準時期XinThよりも遅角側ではない場合、アトキンソンサイクルで機関運転が行われていないと判断できる。この状況下で吸気VTが吸気目標時期XinTrよりも進角側である場合、吸気VTを進角側に設定していることに起因してバルブオーバーラップが発生する可能性がある。バルブオーバーラップが発生すると、燃焼室23から吸気通路26に流出する排気の量である内部EGR量が多くなる。内部EGR量が多すぎると、燃焼室23での燃焼温度が下がり、燃焼特性が悪化するおそれがある。そのため、バルブオーバーラップが発生するような状況下で触媒暖機処理を開始する場合、燃焼特性の悪化を抑制するため、バルブオーバーラップが拡大されることを回避することが望ましい。
【0051】
本実施形態では、吸気VTが基準時期XinThよりも遅角側ではなく、且つ吸気VTが吸気目標時期XinTrよりも進角側である場合には、吸気VTの変更が排気VTの変更よりも先に行われる。これにより、バルブオーバーラップの拡大が抑制される。また、この場合の吸気VTの変更は遅角であるため、吸気VTの遅角によってバルブオーバーラップを早期に縮小できる。その結果、触媒暖機処理が開始された際における内燃機関20の燃焼特性の悪化を抑制できる。
【0052】
(3)また、吸気VTが吸気目標時期XinTrよりも遅角側である場合であっても、排気VTが排気目標時期XexTrよりも遅角側である場合には、排気VTを遅角側に設定していることに起因してバルブオーバーラップが発生している可能性がある。
【0053】
本実施形態では、吸気VTが基準時期XinThよりも進角側ではなく、且つ吸気VTが吸気目標時期XinTrよりも遅角側であり、さらに、排気VTが排気目標時期XexTrよりも遅角側である場合には、排気VTの進角が吸気VTの進角よりも先に行われる。これにより、バルブオーバーラップの拡大が抑制される。また、排気VTの進角を早期に開始できるため、バルブオーバーラップを早期に縮小できる。その結果、触媒暖機処理が開始された際における内燃機関20の燃焼特性の悪化を抑制できる。
【0054】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0055】
・吸気VTが基準時期XinThよりも遅角側ではない場合、上記実施形態で説明した順序とは異なる順序で吸気VT及び排気VTを変更するようにしてもよい。例えば、吸気VTが吸気目標時期XinTrよりも進角側であり、且つ排気VTが排気目標時期XexTrよりも遅角側である場合には、吸気VT及び排気VTの何れを先に変更しても、バルブオーバーラップを縮小できる。そのため、こうした場合には、排気VTを先に変更し、その後に吸気VTを変更するようにしてもよい。
【0056】
また、吸気VTが吸気目標時期XinTrよりも進角側であり、且つ排気VTが排気目標時期XexTrよりも遅角側である場合、吸気VTと吸気目標時期XinTrとの乖離量と、排気VTと排気目標時期XexTrとの乖離量とを基に、第1VT及び第2VTを決定してもよい。例えば、吸気VTと吸気目標時期XinTrとの乖離量のほうが排気VTと排気目標時期XexTrとの乖離量よりも多い場合には、吸気VTを第1VTとして決定し、排気VTを第2VTと決定する。一方、吸気VTと吸気目標時期XinTrとの乖離量よりも排気VTと排気目標時期XexTrとの乖離量のほうが多い場合には、排気VTを第1VTとして決定し、吸気VTを第2VTと決定する。
【0057】
・ハイブリッド車両は、アトキンソンサイクルで運転されることのある内燃機関20を備えるのであれば、
図1に示したハイブリッド車両10とは別の構成の車両であってもよい。
【0058】
・制御装置100は、CPU101とROM102とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制御装置100は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)制御装置100は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)制御装置100は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)制御装置100は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【符号の説明】
【0059】
10…ハイブリッド車両
12,13…モータジェネレータ
20…内燃機関
27…排気通路
28…吸気バルブ
29…排気バルブ
30…触媒
31…吸気VVT調整装置
32…排気VVT調整装置
100…制御装置
101…CPU