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特許7596922アークスタッド溶接装置、および、アークスタッド溶接方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】アークスタッド溶接装置、および、アークスタッド溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20241203BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20241203BHJP
   B23K 9/20 20060101ALI20241203BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B23K9/073 550
B23K9/095 515A
B23K9/20 A
B23K31/00 N
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021083916
(22)【出願日】2021-05-18
(65)【公開番号】P2022177565
(43)【公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 祐介
(72)【発明者】
【氏名】木俣 裕貴
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-048967(JP,U)
【文献】特開平07-051858(JP,A)
【文献】特開平04-253575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/073
B23K 9/095
B23K 9/20
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材とスタッド材との間にアークを発生させて溶接するアークスタッド溶接装置であって、
前記スタッド材を把持するスタッドガンであって、溶接を開始した後に、前記母材から前記スタッド材を離間させる離間動作と、前記離間動作の後に、前記母材に対して前記スタッド材を接近させる接近動作と、を複数の溶接点ごとに実行するスタッドガンと、
前記接近動作の開始時点から、前記スタッド材と前記母材とが接触する接触時点までの所要時間を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記所要時間と、予め定められた基準時間と、の間に時間差が生じているか否かの判定を行う判定部と、
前記スタッドガンの前記接近動作と前記離間動作とを制御する動作制御部と、を備え、
前記取得部は、前記スタッド材の先端の変位量を検出するセンサからの検出信号を用いて前記接触時点を判定し、前記変位量が前記接近動作の前記開始時点における前記スタッド材の前記先端と前記母材との離間距離と同じになるまでの時間を前記所要時間として取得し、
前記動作制御部は、前記時間差が生じていると判定された場合に、前記時間差を低減するように、後の溶接における前記開始時点を調整することによって、前記所要時間を制御する、アークスタッド溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアークスタッド溶接装置であって、
前記動作制御部は、前記所要時間が前記基準時間よりも長い場合には、前記開始時点を前記時間差に応じて早く調整することで前記所要時間を制御する、アークスタッド溶接装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアークスタッド溶接装置であって、
前記動作制御部は、前記所要時間が前記基準時間よりも短い場合には、前記開始時点を前記時間差に応じて遅く調整することで前記所要時間を制御する、アークスタッド溶接装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のアークスタッド溶接装置であって、
前記複数の溶接点は、同一の前記母材のうちで異なる位置にあり、
前記取得部は、前記所要時間を前記複数の溶接点ごとに取得し、
前記判定部は、前記複数の溶接点ごとに前記判定を行い、
前記動作制御部は、前記複数の溶接点ごとに、前記所要時間を制御する、アークスタッド溶接装置。
【請求項5】
請求項4に記載のアークスタッド溶接装置であって、
前記判定部は、前記複数の溶接点ごとの前記所要時間の平均時間と、前記基準時間と、の差である平均時間差を用いて前記判定を行い、
前記動作制御部は、前記平均時間差を低減するように、後の溶接における前記開始時点を調整する、アークスタッド溶接装置。
【請求項6】
請求項5に記載のアークスタッド溶接装置であって、
前記複数の溶接点はN以上(Nは2以上の整数)であり、
前記複数の溶接点への前記溶接は1点目からN点目まで順に実行され、
前記判定部は、1点前の前記溶接点からM点前(MはNよりも小さい整数)の前記溶接点までの前記複数の溶接点ごとの前記所要時間の平均時間と、前記基準時間と、の差を前記平均時間差として用いる、アークスタッド溶接装置。
【請求項7】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のアークスタッド溶接装置であって、
前記母材の数は2以上であり、
前記複数の溶接点のそれぞれは、前記2以上の母材のうちで対応する位置に形成され、
前記取得部は、前記所要時間を前記複数の溶接点ごとに取得し、
前記判定部は、前記複数の溶接点ごとに前記判定を行い、
前記動作制御部は、前記複数の溶接点ごとに、前記所要時間を制御する、アークスタッド溶接装置。
【請求項8】
請求項7に記載のアークスタッド溶接装置であって、
前記判定部は、前記複数の溶接点ごとの前記所要時間の平均時間と、前記基準時間と、の差である平均時間差を用いて前記判定を行い、
前記動作制御部は、前記平均時間差を低減するように、後の溶接における前記開始時点を調整する、アークスタッド溶接装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載のアークスタッド溶接装置であって、
さらに、前記母材を押さえるための母材押さえを備える、アークスタッド溶接装置。
【請求項10】
母材とスタッド材との間にアークを発生させて溶接するアークスタッド溶接方法であって、
前記スタッド材を把持するスタッドガンによって、溶接を開始した後に、前記母材から前記スタッド材を離間させる離間工程と、
前記離間工程の後に、前記母材に対して前記スタッド材を接近させる接近工程と、を複数の溶接点ごとに実行し、さらに、
前記接近工程を開始した開始時点から、前記スタッド材と前記母材とが接触する接触時点までの所要時間を取得する取得工程と、
前記取得工程によって取得された前記所要時間と、予め定められた基準時間と、の間に時間差が生じているか否かの判定を行う判定工程と、を備え、
前記取得工程では、前記スタッド材の先端の変位量を検出するセンサからの検出信号を用いて前記接触時点を判定し、前記変位量が前記接近工程の前記開始時点における前記スタッド材の前記先端と前記母材との離間距離と同じになるまでの時間を前記所要時間として取得し、
前記接近工程は、前記時間差が生じていると判定された場合に、前記時間差を低減するように、後の溶接における前記開始時点を調整することによって、前記所要時間を制御する工程を含む、アークスタッド溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アークスタッド溶接装置、および、アークスタッド溶接方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッドガンに取り付けられたスタッド材をアークスタッド溶接により母材に接合する技術が知られている(特許文献1)。アークスタッド溶接では、まず、スタッド材の基端を母材に接触させた状態において、スタッド材と母材との間に通電して、スタッド材を母材から離間させることで、スタッド材と母材との間にアークを発生させる。次に、スタッド材と母材との間に発生したアークによって、母材が所望の溶融状態となった時点で、スタッドガンの移動機構によってスタッド材を母材に向けて接近させて、スタッド材と母材とを接触させることで、スタッド材を母材に接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-105141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、アークスタッド溶接における溶接品質のばらつきの原因が、スタッドガンの移動機構における摺動抵抗やスタッドガンに設けられた母材押さえの消耗に起因する所要時間のばらつきにあることを見出した。所要時間とは、アークの発生後に、スタッド材が母材に対して接近を開始してからスタッド材と母材とが接触するまでの時間である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、アークスタッド溶接装置が提供される。このアークスタッド溶接装置は、母材とスタッド材との間にアークを発生させて溶接するアークスタッド溶接装置であり、前記スタッド材を把持するスタッドガンであって、溶接を開始した後に、前記母材から前記スタッド材を離間させる離間動作と、前記離間動作の後に、前記母材に対して前記スタッド材を接近させる接近動作と、を複数の溶接点ごとに実行するスタッドガンと、前記接近動作の開始時点から、前記スタッド材と前記母材とが接触する接触時点までの所要時間を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記所要時間と、予め定められた基準時間と、の間に時間差が生じているか否かの判定を行う判定部と、前記スタッドガンの前記接近動作と前記離間動作とを制御する動作制御部と、を備え、前記取得部は、前記スタッド材の先端の変位量を検出するセンサからの検出信号を用いて前記接触時点を判定し、前記変位量が前記接近動作の前記開始時点における前記スタッド材の前記先端と前記母材との離間距離と同じになるまでの時間を前記所要時間として取得し、前記動作制御部は、前記時間差が生じていると判定された場合に、前記時間差を低減するように、後の溶接における前記開始時点を調整することによって、前記所要時間を制御する。
(2)本開示の他の形態によれば、アークスタッド溶接方法が提供される。このアークスタッド溶接方法は、母材とスタッド材との間にアークを発生させて溶接するアークスタッド溶接方法であり、前記スタッド材を把持するスタッドガンによって、溶接を開始した後に、前記母材から前記スタッド材を離間させる離間工程と、前記離間工程の後に、前記母材に対して前記スタッド材を接近させる接近工程と、を複数の溶接点ごとに実行し、さらに、前記接近工程を開始した開始時点から、前記スタッド材と前記母材とが接触する接触時点までの所要時間を取得する取得工程と、前記取得工程によって取得された前記所要時間と、予め定められた基準時間と、の間に時間差が生じているか否かの判定を行う判定工程と、を備え、前記取得工程では、前記スタッド材の先端の変位量を検出するセンサからの検出信号を用いて前記接触時点を判定し、前記変位量が前記接近動作の前記開始時点における前記スタッド材の前記先端と前記母材との離間距離と同じになるまでの時間を前記所要時間として取得し、前記接近工程は、前記時間差が生じていると判定された場合に、前記時間差を低減するように、後の溶接における前記開始時点を調整することによって、前記所要時間を制御する工程を含む。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、アークスタッド溶接装置が提供される。このアークスタッド溶接装置は、母材とスタッド材との間にアークを発生させて溶接するアークスタッド溶接装置であり、前記スタッド材を把持するスタッドガンであって、溶接を開始した後に、前記母材から前記スタッド材を離間させる離間動作と、前記離間動作の後に、前記母材に対して前記スタッド材を接近させる接近動作と、を複数の溶接点ごとに実行するスタッドガンと、前記接近動作の開始時点から、前記スタッド材と前記母材とが接触する接触時点までの所要時間を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記所要時間と、予め定められた基準時間と、の間に時間差が生じているか否かの判定を行う判定部と、前記スタッドガンの前記接近動作と前記離間動作とを制御する動作制御部と、を備え、前記動作制御部は、前記時間差が生じていると判定された場合に、前記時間差を低減するように、後の溶接における前記開始時点を調整することによって、前記所要時間を制御する。この形態によれば、動作制御部が時間差を低減するように接近動作の開始時点を調整することで、接近動作の開始時点から接触時点までの所要時間を基準時間に近づけることができる。その結果、アークスタッド溶接における溶接品質のばらつきを抑制できる。
(2)上記形態であって、前記動作制御部は、前記所要時間が前記基準時間よりも長い場合には、前記開始時点を前記時間差に応じて早く調整することで前記所要時間を制御してもよい。この形態によれば、所要時間が基準時間よりも長い場合には、接近動作の開始時点を時間差に応じて早く調整することで、所要時間を基準時間に近づけることができる。
(3)上記形態であって、前記動作制御部は、前記所要時間が前記基準時間よりも短い場合には、前記開始時点を前記時間差に応じて遅く調整することで前記所要時間を制御してもよい。この形態によれば、所要時間が基準時間よりも短い場合には、接近動作の開始時点を時間差に応じて遅く調整することで、所要時間を基準時間に近づけることができる。
(4)上記形態であって、前記複数の溶接点は、同一の前記母材のうちで異なる位置にあり、前記取得部は、前記所要時間を前記複数の溶接点ごとに取得し、前記判定部は、前記複数の溶接点ごとに前記判定を行い、前記動作制御部は、前記複数の溶接点ごとに、前記所要時間を制御してもよい。この形態によれば、複数の溶接点に対してスタッド材を溶接する場合において、複数の溶接点ごとに所要時間を基準時間に近づけることができる。
(5)上記形態であって、前記判定部は、前記複数の溶接点ごとの前記所要時間の平均時間と、前記基準時間と、の差である平均時間差を用いて前記判定を行い、前記動作制御部は、前記平均時間差を低減するように、後の溶接における前記開始時点を調整してもよい。この形態によれば、複数の溶接点の所要時間を考慮して、後の溶接における開始時点を調整できる。
(6)上記形態であって、前記複数の溶接点はN以上(Nは2以上の整数)であり、前記複数の溶接点への前記溶接は1点目からN点目まで順に実行され、前記判定部は、1点前の前記溶接点からM点前(MはNよりも小さい整数)の前記溶接点までの前記複数の溶接点ごとの前記所要時間の平均時間と、前記基準時間と、の差を前記平均時間差として用いてもよい。この形態によれば、複数の溶接点の所要時間を考慮して、後の溶接における開始時点を調整できる。
(7)上記形態であって、前記母材の数は2以上であり、前記複数の溶接点のそれぞれは、前記2以上の母材のうちで対応する位置に形成され、前記取得部は、前記所要時間を前記複数の溶接点ごとに取得し、前記判定部は、前記複数の溶接点ごとに前記判定を行い、前記動作制御部は、前記複数の溶接点ごとに、前記所要時間を制御してもよい。この形態によれば、2以上の母材のうちで対応する位置に形成される複数の溶接点に対して溶接が行われる場合に、複数の溶接点ごとの特性や傾向を考慮した上で、後の溶接における開始時点を調整できる。
(8)上記実施形態であって、前記判定部は、前記複数の溶接点ごとの前記所要時間の平均時間と、前記基準時間と、の差である平均時間差を用いて前記判定を行い、前記動作制御部は、前記平均時間差を低減するように、後の溶接における前記開始時点を調整してもよい。この形態によれば、2以上の母材のうちで対応する位置に形成される複数の溶接点に対して溶接が行われる場合に、複数の溶接点ごとの特性や傾向を考慮した上で、後の溶接における開始時点を調整できる。
(9)上記形態であって、前記アークスタッド溶接装置は、さらに、前記母材を押さえるための母材押さえを備えてもよい。この形態によれば、溶接対象となる母材を母材押さえによって固定した状態で溶接を行うことができる。よって、安定した姿勢においてスタッドガンと母材とを接触させることができる。
(10)本開示の他の形態によれば、アークスタッド溶接方法が提供される。このアークスタッド溶接方法は、母材とスタッド材との間にアークを発生させて溶接するアークスタッド溶接方法であり、前記スタッド材を把持するスタッドガンによって、溶接を開始した後に、前記母材から前記スタッド材を離間させる離間工程と、前記離間工程の後に、前記母材に対して前記スタッド材を接近させる接近工程と、を複数の溶接点ごとに実行し、さらに、前記接近工程を開始した開始時点から、前記スタッド材と前記母材とが接触する接触時点までの所要時間を取得する取得工程と、前記取得工程によって取得された前記所要時間と、予め定められた基準時間と、の間に時間差が生じているか否かの判定を行う判定工程と、を備え、前記接近工程は、前記時間差が生じていると判定された場合に、前記時間差を低減するように、後の溶接における前記開始時点を調整することによって、前記所要時間を制御する工程を含む。この形態によれば、動作制御部が時間差を低減するように接近工程の開始時点を調整することで、接近工程の開始時点から接触時点までの所要時間を基準時間に近づけることができる。その結果、アークスタッド溶接における溶接品質のばらつきを抑制できる。
本開示は、上記のアークスタッド溶接装置、および、アークスタッド溶接方法以外の種々の形態で実現することが可能である。例えば、アークスタッド溶接装置の製造方法やアークスタッド溶接装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態のアークスタッド溶接装置の概略構成を示した模式図。
図2】スタッドガンの構成を示した模式図。
図3】本実施形態におけるアークスタッド溶接工程を説明するための図。
図4】溶接時の通電の態様と、ガン位置の推移とを示した模式図。
図5】スタッドガンの個体差と使用期間の経過に伴う溶接時間のばらつきを示すグラフ。
図6】第1実施形態における所要時間の制御方法を説明するための概念図。
図7】所要時間が基準時間よりも長い場合の制御方法を説明するためのグラフ。
図8】所要時間が基準時間よりも短い場合の制御方法を説明するためのグラフ。
図9】複数の母材における溶接点ごとの所要時間を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、本実施形態のアークスタッド溶接装置1の概略構成を示した模式図である。図1では、アークスタッド溶接装置1を水平な設置面Fに載置した状態を示している。アークスタッド溶接装置1は、母材Wとスタッド材Bとの間にアークAを発生させて溶接する。アークスタッド溶接装置1は、例えば、車両の製造工程において、パネル等の金属部品にスタッド材Bを溶接する場合に用いられる。
【0009】
母材Wは、金属で形成され、例えば、アルミニウムや合金で形成される。母材Wは、アークスタッド溶接(以下、溶接)によってスタッド材Bが接合される面としての溶接面WSを有する。本実施形態では、母材Wは板状を成している。
【0010】
スタッド材Bは、溶接によって母材Wに溶接された状態において、母材Wとは異なる他の部材と母材Wとを接合するための部材である。スタッド材Bは、いわゆるスタッドボルトやスタッドナットである。スタッド材Bは、金属で形成され、棒状を成す。本実施形態では、スタッド材Bは、台付きのスタッドボルトである。
【0011】
アークスタッド溶接装置1は、スタッドガン2と、ロボット3と、制御装置4と、ボルトフィーダ6と、電源装置7と、母材支持台9と、センサ11と、を備える。
【0012】
図2は、スタッドガン2の構成を示した模式図である。図2では、スタッドガン2と母材Wとの断面を模式的に表している。また、図2では、後述する図3に示す工程(2)におけるスタッドガン2と母材Wとの位置関係を表している。上述のスタッド材Bは、頭部B1と、軸部B2と、突出部B3とを備える。頭部B1は、後述するスタッドガン2のチャック27に把持される。突出部B3は、溶接において、母材Wの溶接面WSと接触する。軸部B2は、頭部B1と突出部B3との間に位置する。溶接後に、母材Wと他の部材とを接合させる際には、スタッド材Bの頭部B1を介して軸部B2が他の部材と嵌合することで、母材Wと他の部材とが接合される。なお、スタッド材Bの形状は、これに限られるものではない。スタッド材Bには、他の部材と嵌合させるためのネジ山や溝が形成されていてもよい。また、頭部B1と軸部B2とは同じ径で一体に形成されてもよい。以下において、スタッド材Bのうちで頭部B1が位置する側をスタッド材Bの基端Ba、突出部B3が位置する側をスタッド材Bの先端Bbとする。
【0013】
スタッドガン2は、スタッド材Bを把持し、制御装置4の指令に応じて、母材Wからスタッド材Bを離間させる離間動作と、離間動作の後に、母材Wに対してスタッド材Bを接近させる接近動作と、を複数の溶接点ごとに実行する。スタッドガン2の一端2a側は、後述するスタッドガン支持部37(図1)に支持される。スタッドガン2は、ロボット3を介して、制御装置4と電気的に接続されている。スタッドガン2は、ケース20と、ガンコイル21と、固定磁極部材22と、シリンダ23と、可動磁極部材24と、付勢部材25と、チャック27と、母材押さえ29と、を備える。
【0014】
ケース20は、スタッドガン2の外殻を成す円筒形状の部材である。ケース20は、ガンコイル21と、固定磁極部材22と、シリンダ23と、可動磁極部材24と、付勢部材25と、チャック27と、を収容する。鉛直方向においてスタッドガン2の一端2aとは反対側に位置する他端2bは、母材Wの溶接面WSと対向している。本実施形態では、固定磁極部材22と、シリンダ23と、可動磁極部材24と、チャック27とは、スタッドガン2の一端2aから他端2bに向かう方向において、この順に設けられている。
【0015】
ガンコイル21は、ケース20の内周面のうち、スタッドガン2の一端2a側において、固定磁極部材22の周囲に設けられる。ガンコイル21は、銅線などの金属製の線を円筒形に巻いたコイルであり、電源装置7から供給されるガンコイル電圧によって磁界を発生させる。なお、溶接において、ガンコイル21を通電させた状態(以下、通電状態)と、ガンコイル21を通電させない状態(以下、非通電状態)と、における各構成要素の具体的な動作は、図3および図4を用いて後述する。
【0016】
固定磁極部材22は、ケース20の内部のうち、スタッドガン2の一端2a側、かつ、ガンコイル21の内側に設けられる。換言すると、固定磁極部材22は、水平方向に延びるケース20の一端2a側の中央部に位置していると言える。固定磁極部材22は磁性体であり、例えば、鉄などの磁性体として機能し得る金属によって形成される。固定磁極部材22は、励磁されたガンコイル21によって発生する磁界によって、磁化された電磁石となる。
【0017】
シリンダ23は、可動磁極部材24を摺動可能に収容する円筒形状の部材である。シリンダ23は、ケース20の内部のうち、固定磁極部材22よりも他端2b側において、固定磁極部材22に近接する位置に設けられる。シリンダ23の一方の底面は一端2a側に、他方の底面は他端2b側に位置する。シリンダ23の他端2b側の底面は、後述するロッド242を一端2a側と他端2b側との間において摺動可能に収容するための開口部が設けられる。この開口部の直径は、後述するヘッド241の直径よりも小さくなるように設けられている。また、シリンダ23の側面のうちで内周面は、可動磁極部材24が摺動する摺動面である。図2では、シリンダ23の側面の一部はガンコイル21と対向する位置に設けられている。
【0018】
可動磁極部材24は、摺動可能にシリンダ23の内部に設けられる。可動磁極部材24は磁性体であり、例えば、鉄などの磁性体として機能し得る金属によって形成される。そのため、固定磁極部材22が磁化された状態において、可動磁極部材24は、固定磁極部材22に電磁的に吸引される。可動磁極部材24は、ヘッド241と、ロッド242と、テール243と、を備える。ヘッド241は円盤状である。また、ロッド242は棒状である。テール243は円盤状である。可動磁極部材24は、ヘッド241とロッド242とテール243とがこの順で一体に構成された、いわゆるピストンである。ヘッド241の直径は、シリンダ23の直径よりも小さく、かつ、シリンダ23の開口部の直径よりも大きく設けられる。また、ロッド242の直径は、ヘッド241の直径よりも小さく、かつ、シリンダ23の開口部の直径よりも小さく設けられる。これにより、シリンダ23の開口部から可動磁極部材24が外れることなく、摺動可能となる。また、テール243が他端2b側に設けられることで、付勢部材25を伸縮させ得る。図2では、可動磁極部材24がシリンダ23内において摺動する領域を摺動領域Sとして図示している。摺動領域Sは、鉛直方向において、前述したシリンダ23の一方の底面と、他方の底面と、の間の範囲を指す。
【0019】
付勢部材25は、可動磁極部材24をスタッドガン2の他端2b側に向けて付勢する。付勢部材25は、いわゆるコイルバネである。付勢部材25は、摺動領域Sにおける可動磁極部材24の摺動に応じて、伸縮する。
【0020】
チャック27は、スタッド材Bを把持する。具体的には、チャック27は、スタッド材Bのうち、一端2a側に位置する頭部B1を把持する。チャック27は、テール243と一体となるように装着された状態で、テール243よりも他端2b側に設けられる。チャック27は、スタッド材Bを把持するための把持部271を有する。図2では、2つの把持部271が水平方向において対向するように設けられ、一方の把持部271と他方の把持部271とがスタッド材Bの頭部B1を挟み込むようにして把持している。そのため、スタッド材Bの位置は、可動磁極部材24を摺動させることで、可動磁極部材24の摺動に追従して変化する。このように、ソレノイド機構を備えたスタッドガン2のチャック27がスタッド材Bを把持することで、母材Wに対してスタッド材Bが接近または離間する。
【0021】
母材押さえ29は、ケース20の外表面のうち、母材Wの溶接面WSと対向する他端2b側に配置されている。母材押さえ29は、棒状であり、母材Wと接触する接触面29aを有する。母材押さえ29の接触面29aが母材Wの溶接面WSの一部に接触することで、スタッドガン2は、母材Wに対して安定した姿勢においてスタッド材Bを接近または離間させることができる。母材押さえ29は、例えば、銅で形成される。
【0022】
なお、スタッドガン2の構成要素や配置等はこれに限られるものではない。スタッドガン2は、スタッド材Bを把持して接近動作と離間動作とを実行すると共に、母材Wと対向するスタッドガン2の他端2b側からアークAを発生させるための機構を備えていればよい。また、スタッドガン2において母材押さえ29は必須の構成要素ではない。
【0023】
ロボット3は、図1に示すように、スタッドガン2の一端2aを支持すると共に、スタッドガン2の位置および姿勢を変化させる移動機構である。図1に示す例では、ロボット3は、多関節ロボットであり、設置面Fに配置されるアーム30と、基台35と、スタッドガン支持部37とを備える。スタッドガン支持部37は、アーム30の先端に設けられており、スタッドガン2を支持する。
【0024】
制御装置4は、ロボット3と、ボルトフィーダ6と、電源装置7とを制御すると共に、ロボット3を介して、スタッドガン2の動作を制御する。制御装置4は、CPU40と各種プログラムを記憶する記憶部47とを備える。制御装置4は、ロボット3、ボルトフィーダ6、および、電源装置7と電気的に接続されている。制御装置4は、記憶部47に記憶された各種プログラムを展開することにより、取得部41と、判定部43と、動作制御部45として機能する。CPU40の少なくとも一部の機能は、ハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0025】
取得部41は、接近動作の開始時点から、スタッド材Bの先端Bbと母材Wの溶接面WSとが接触する接触時点までの所要時間T1を取得する。具体的には、取得部41は、図1に示すセンサ11からの検出信号を取得し、取得した検出信号を用いてスタッド材Bの先端Bbと母材Wの溶接面WSとが接触する接触時点を判定する。センサ11は、スタッド材Bの位置に関する情報を検出する。センサ11は、例えば、レーザ変位計などの変位センサであり、スタッド材Bの先端Bbの変位量を検出する。接近動作の開始時点における、スタッド材Bの先端Bbと、母材Wの溶接面WSとの距離は、予め定められていたり、予め測定されたりすることで、記憶部47に記憶されている。取得部41は、センサ11から取得したスタッド材Bの先端Bbの変位量が接近動作の開始時点における離間距離L(図3)と同じになるまでの所要時間T1を、制御装置4の図示しないタイマーで計測することで取得する。なお、センサ11は、変位センサに限定されるものではない。例えば、撮像装置がセンサ11として用いられてもよい。この場合、スタッド材Bおよび母材Wを一定時間ごとに撮像し、取得部41が検出信号としての撮像画像を用いて接触時点を判定することで、所要時間T1を取得してもよい。
【0026】
判定部43は、取得部41によって取得された所要時間T1と、予め定められた基準時間TSと、の間に時間差T2が生じているか否かの判定を行う。具体的には、判定部43は、所要時間T1と基準時間TSとの差を算出し、差がゼロでない場合に時間差T2が生じていると判定する。なお、他の実施形態では、判定部43は、差が予め定められた閾値以上である場合に時間差T2が生じていると判定してもよい。
【0027】
動作制御部45は、スタッドガン2の接近動作と離間動作とを制御する。具体的には、動作制御部45は、後述する制御信号と、後述するガン信号と、を送信することで、電源装置7の動作を制御する。これにより、動作制御部45は、電源装置7からスタッドガン2に供給される電圧や電流を制御することでスタッドガン2の動作を制御する。また、動作制御部45は、判定部43において、時間差T2が生じていると判定された場合に、時間差T2を低減するために、後の溶接における接近動作の開始時点を調整することによって、所要時間T1を基準時間TSに近づける制御を実行する。具体的には、動作制御部45は、所要時間T1が基準時間TSよりも長い場合には、後の溶接において、接近動作の開始時点を時間差T2に応じて早く調整することで、所要時間T1を基準時間TSに近づける。また、動作制御部45は、所要時間T1が基準時間TSよりも短い場合には、後の溶接において、接近動作の開始時点を時間差T2に応じて遅く調整することで、所要時間T1を制御する。このように、時間差T2に応じて接近動作の開始時点が調整されることで、所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。
【0028】
記憶部47は、RAMとROM等の記憶装置によって構成される。記憶部47は、アークスタッド溶接装置1の動作を制御するための各種プログラムやデータを記憶する。また、記憶部47には、例えば、母材Wの材料や形状、大きさ等の母材Wに係るデータや母材Wに対してスタッド材Bを溶接する際の溶接条件等のデータが記憶される。
【0029】
ボルトフィーダ6は、制御装置4の指示によりスタッド材Bをスタッドガン2に供給する。ボルトフィーダ6は、制御装置4を介してスタッドガン2と通信可能に接続されている。ボルトフィーダ6は、制御装置4からスタッド材Bを供給する指示を受け取った場合に、図示しない搬送経路によって、スタッド材Bをスタッドガン2に供給する。
【0030】
電源装置7は、溶接時の通電装置である。具体的には、電源装置7は、溶接電源としての機能と、ガンコイル電源としての機能と、を含む。溶接電源としての機能とは、溶接時に母材Wとスタッド材Bとの間にアークAを発生させるための溶接電圧をスタッドガン2に印加する動作である。ガンコイル電源としての機能とは、ガンコイル21にガンコイル電圧を印加する動作である。電源装置7は、溶接電圧の印加の有無や印加電圧を制御する制御信号と、ガンコイル電圧の印加の有無を制御するガン信号と、を制御装置4から受信する。この制御信号と、ガン信号と、の少なくとも一方の信号を受信した場合に、電源装置7は、制御装置4からの制御内容を示す信号に従って電圧を印加する。
【0031】
母材支持台9は、母材Wを支持する台である。図1に示す例では、母材支持台9の形状は、直方体である。母材支持台9は、ロボット3と同様に、水平な設置面Fに載置される。
【0032】
なお、アークスタッド溶接装置1の構成や機能等は、本開示に限られるものではない。アークスタッド溶接装置1において、制御装置4に対して電気的に接続されるスタッドガン2およびロボット3は複数であってもよい。例えば、アークスタッド溶接装置1は、1つの制御装置4に対して、複数のロボット3を備え、複数のロボット3のそれぞれにはスタッドガン2が装着されていてもよい。この場合、複数のロボット3および複数のスタッドガン2のそれぞれによって、複数の母材Wに対して同時に溶接を行えるように構成されてもよい。
【0033】
図3は、本実施形態におけるアークスタッド溶接工程を説明するための図である。図4は、本実施形態における溶接時の通電の態様と、ガン位置の推移とを示した模式図である。図3では、アークスタッド溶接装置1を用いて、母材Wとスタッド材Bとを溶接させるアークスタッド溶接工程を工程(1)~工程(5)の5つの工程に分けて図示している。図3の各工程は、工程(1)、工程(2)、工程(3)、工程(4)、工程(5)の順に実行される。図4には、図3における工程(1)~(5)に対応する工程番号を付している。図4のグラフは、上から順に、溶接電流、溶接電圧、ガンコイル電圧、ガン位置の工程(1)~工程(5)における推移を表している。溶接電流は、溶接電圧の印加に応じてスタッドガン2に供給される電流である。図4において、溶接電流と、溶接電圧と、ガンコイル電圧と、の推移は、図3の工程(2)の開始時を基準(ゼロ)とした場合における値の変化を表している。また、図4におけるガン位置は、母材Wの溶接面WSとスタッド材Bの先端Bbとが接触した状態を基準(ゼロ)とした場合の鉛直方向におけるスタッド材Bの先端Bbの位置変化を表している。
【0034】
工程(1)は、溶接を開始する前の準備工程である。本実施形態では、溶接開始前において、スタッド材Bの先端Bbの位置は、母材押さえ29の接触面29aの位置よりも母材Wに近づく方向に突出している。工程(1)では、スタッド材Bの先端Bbおよび母材押さえ29の接触面29aと、母材Wの溶接面WSとは接触していない。また、工程(1)は溶接開始前であるため、溶接電圧およびガンコイル電圧は、スタッドガン2に対して印加されていない。そのため、図4に示すように、溶接電流、溶接電圧、および、ガンコイル電圧はゼロのまま一定の値を示している。また、ガン位置は、母材Wの溶接面WSにスタッド材Bの先端Bbが接触した状態を基準としているため、工程(1)については図示していない。
【0035】
図3に示すように、工程(2)は、スタッド材Bを把持したスタッドガン2を初期位置に移動させる工程である。工程(2)では、スタッドガン2の母材押さえ29の接触面29aを母材Wの溶接面WSに接触する状態にする。このとき、可動磁極部材24はチャック27を介してスタッド材Bと一体になっている。そのため、前述した工程(1)において、母材押さえ29の接触面29aに対して、スタッド材Bの先端Bbが突出していた分だけ、可動磁極部材24はスタッドガン2の一端2a側に移動した状態となる。付勢部材25は、工程(2)において、可動磁極部材24の移動に伴い、より圧縮された状態となっている。これにより、母材押さえ29の接触面29aが母材Wの溶接面WSに載置されることで、スタッド材Bの先端Bbと母材Wの溶接面WSとが接触した状態となる。以下において、この状態におけるスタッドガン2の先端Bbの位置を初期位置とする。よって、前述したガン位置は、初期位置を基準(ゼロ)とした場合の鉛直方向におけるスタッド材Bの高さ位置、すなわち、スタッド材Bの先端Bbと母材Wとの離間距離Lを表しているとも言える。
【0036】
工程(3)は、スタッドガン2に溶接電圧を印加して、母材Wの溶接面WSとスタッド材Bの先端Bbとの間に微弱なアークAを発生させる工程である。図4に示すように、工程(3)の開始時点では、スタッドガン2に対して、溶接電圧を印加することで、微弱な溶接電流が供給され始める。この微弱な溶接電流が継続的に供給されることで、母材Wの溶接面WSとスタッド材Bの先端Bbとの間にアークAが発生する。工程(3)で発生させるアークAは、工程(4)において発生させるアークAとしてのメインアークを誘発させるアークAであり、いわゆるパイロットアークである。このアークAの発生によって、母材Wの溶接面WSとスタッド材Bとの間には反発力が生じる。この反発力に起因して、スタッド材Bは、付勢部材25の付勢力に抗して母材Wの溶接面WSから離間する方向に浮き上がる。すなわち、工程(3)は、離間動作を実行する離間工程とも言える。
【0037】
ここで、スタッド材Bは、スタッドガン2の可動磁極部材24に装着されたチャック27によって把持されている。つまり、母材Wの溶接面WSに対する鉛直方向(進退方向)におけるスタッド材Bの位置は、図2に示した摺動領域Sにおける可動磁極部材24の摺動に追従して変化する。そのため、アークAの発生によって母材Wとスタッド材Bとの間に反発力が生じると、可動磁極部材24は、付勢部材25の付勢力に抗して、スタッドガン2の他端2b側から一端2a側に向けて移動する。図3の工程(3)では、離間動作によって、母材Wの溶接面WSとスタッド材Bの先端Bbとの間に生じた鉛直方向(進退方向)における距離を離間距離Lとして示している。離間距離Lと、可動磁極部材24のヘッド241が摺動領域Sの範囲内において、他端2b側から一端2a側に移動する距離とは一致する。
【0038】
図4に示すように、工程(4)は、スタッドガン2に印加する溶接電圧を工程(3)よりも増大させて、工程(3)よりも広範囲にアークAを発生させると共に、ガンコイル電圧を印加することで、スタッド材Bと母材Wの溶接面WSとが離間した状態を維持する工程である。これにより、スタッドガン2から放電されるアークAは、図3の工程(4)に示すように、スタッドガン2の他端2b側から母材Wの溶接面WSに向かって広がり、工程(3)におけるアークA(パイロットアーク)よりも広範囲に放電される。工程(4)で発生させるアークAは、母材Wの溶接面WSに対して熱量を加えることで、母材Wを溶融させて溶融池を生成するための、いわゆるメインアークである。図4では、工程(4)におけるアークA(メインアーク)が母材Wに加える熱量を入熱量として示している。
【0039】
図4に示すように、工程(4)の開始時には、スタッドガン2のガンコイル21にガンコイル電圧が印加される。工程(4)の期間では、通電状態は維持される。ガンコイル21は、前述した通り、通電状態の場合に励磁されて磁界を発生させる。ガンコイル21の周囲に形成されている固定磁極部材22(図2)は、励磁されたガンコイル21によって磁化されて、電磁吸引力を生じる。可動磁極部材24は、磁化された固定磁極部材22の磁力によって、付勢部材25の付勢力に抗して固定磁極部材22が位置するスタッドガン2の一端2a側に電磁的に吸引される。このように、通電状態のときに電磁石として機能する固定磁極部材22を利用して、可動磁極部材24を摺動領域Sの範囲内においてスタッドガン2の一端2a側に吸引させることで、母材Wの溶接面WSに対するスタッド材Bの位置を維持する。
【0040】
工程(4)では、ガンコイル21は、図4に示すように、通電状態で維持される。そのため、図4のガン位置のグラフに示すように、スタッド材Bと母材Wの溶接面WSとの離間距離Lは一定に保たれる。以上より、図4に示すように、工程(3)の途中でガン位置は一定となる。
【0041】
実溶接工程である工程(5)は、母材Wの溶接面WSに対してスタッド材Bを接近させる接近動作を行う工程と、接近動作後の溶接動作とを行う工程と、を備える。工程(5)では、動作制御部45による接近動作の実行により、アークAによって母材Wの溶接面WSに形成された溶融池に対して、スタッド材Bを押し付けて、スタッド材Bを母材Wに溶接する。工程(5)では、図4に示すように、動作制御部45は、ガンコイル21へのガンコイル電圧の印加を停止することで接近動作を実行する。具体的には、工程(5)の開始時に、動作制御部45は、電源装置7へのガン信号の供給を停止する。このガン信号の供給停止により、ガンコイル電圧の印加が停止される。これにより、ガンコイル21は、通電状態から非通電状態に切り替わる。非通電状態では、励磁されていたガンコイル21は消磁される。そのため、通電状態において電磁石として機能していた固定磁極部材22は、ガンコイル21が消磁されることで、電磁吸引力を失う。これにより、可動磁極部材24は、付勢部材25の付勢力によって、一端2a側から他端2b側に向けて移動する。その結果、スタッド材Bが、付勢部材25の付勢力によって母材Wの溶接面WSに押し付けられる。溶接動作は、スタッド材Bが母材Wの溶接面WSに押し付けられた状態を、溶融池が冷却されて固化されるまで保持する動作である。これにより、溶融池が固化することで、スタッド材Bと母材Wとが接合される。以上のように、動作制御部45は、溶接電圧およびガンコイル電圧のスタッドガン2への印加を停止して接近動作を終了した後に、予め定めた時間だけ、付勢部材25の付勢力によって母材Wの溶接面WSに押し付けられた状態を維持する。図3の工程(5)では、母材Wとスタッド材Bとが溶接された部分を溶接点100として図示している。
【0042】
ここで、図4に示すように、接近動作によってスタッド材Bの先端Bbが母材Wの溶接面WSに接触するまでの間、すなわちガン位置がゼロになるまでの間において、溶接電圧は、継続的にスタッドガン2に印加される。つまり、アークA(メインアーク)は、接近動作の開始後も継続的に放電されて、母材Wを溶融し続ける。ガン位置がゼロとなった時点で、溶接電圧の印加が停止された後、溶接電流は徐々に低下してゼロとなる。
【0043】
本実施形態において、溶接時間Tは、離間動作の開始から接近動作の終了までに要する時間とする。すなわち、溶接時間Tは、図4において、溶接電圧の印加を開始する時点(工程(3)の開始時点)から、母材Wとスタッド材Bとが接触する接触時点(ガン位置がゼロとなる時点)までの時間を指す。
【0044】
以上において説明したアークスタッド溶接において、本願発明者らは、アークAを発生させて溶接を開始してから母材Wとスタッド材Bとの離間距離Lがゼロになるまでの溶接時間Tにばらつきが生じることを見出した。図5は、スタッドガン2の個体差と使用期間の経過に伴う溶接時間Tのばらつきを示すグラフである。図5では、スタッドガン2の個体差を示すため、スタッドガンXとスタッドガンYとの2個体を用いて、それぞれを継続的に使用した場合の溶接時間Tに係るデータを示している。図5の横軸は、スタッドガンXおよびスタッドガンYの使用期間を示している。図5では、使用期間の単位は、1ヵ月とする。また、図5の縦軸は、溶接時間Tを示している。図5では、溶接時間Tの単位は、ミリ秒(ms)で表す。本測定では、予め定められた溶接時間Tの推奨時間は、41.0ミリ秒である。また、本測定では、推奨時間に対する差が2.0ミリ秒以内の場合を良品条件としている。図5では、推奨時間である41.0ミリ秒に対する時間の差が2.0ミリ秒以内となる、39.0ミリ秒から43.0ミリ秒までの範囲を良品条件として、ハッチングを付して示している。
【0045】
溶接時間Tのデータとして、図5には、平均、および、ばらつき値を示している。図5における平均は、1日に複数回の溶接を行った場合の各溶接時間Tを平均した値である。図5におけるばらつき値は、各平均に対する標準偏差である。図5では、各平均に対するばらつきをばらつき値として4σの範囲内で算出している。図5に係る測定では、使用開始から5ヵ月が経過するまでの間において、任意のタイミングでスタッドガンXとスタッドガンYとの少なくとも一方の溶接時間Tを計測し、平均およびばらつき値を算出している。
【0046】
本測定では、溶接時間Tの傾向として少なくとも3つのパターンが見出された。1つ目のパターンは、例えば、溶接時間Tの平均が良品条件の範囲外となる場合である。1つ目のパターンは、スタッドガンYを用いた測定において使用期間が3ヵ月~5ヵ月となる部分に顕著に現れている。2つ目のパターンは、例えば、溶接時間Tの平均は良品条件の範囲内であるが、その平均に対するばらつき値が良品条件の範囲外となる場合である。2つ目のパターンは、スタッドガンYを用いた測定において使用期間が0ヵ月~1ヵ月となる部分に顕著に現れている。3つ目のパターンは、例えば、スタッドガン2の個体差に起因して溶接時間Tに差が生じる場合である。具体的には、スタッドガンXとスタッドガンYとを比較すると、平均およびばらつき値の程度が両者の間で異なる。
【0047】
本測定において見出された溶接時間Tのばらつきの要因として、2つの要因が考えられる。1つ目の要因としては、スタッドガン2の摺動領域Sにおける摺動抵抗の変化である。アークスタッド溶接装置1は、前述した通り、摺動領域Sの範囲内における可動磁極部材24の摺動により、接近動作と離間動作とを実行している。この可動磁極部材24と、シリンダ23の内面を形成する摺動面との間において、摺動時の摺動抵抗が経時的に変化する場合が生じ得る。摺動抵抗は、一般に、使用期間が経過するに従って増大することが多い。
【0048】
2つ目の要因としては、母材押さえ29の消耗による離間距離Lの変化である。母材押さえ29の接触面29aは、溶接時に母材Wの溶接面WSと接触している。すなわち、アークAの発生によって母材Wの溶接面WSに対して熱量を加えているとき、母材押さえ29は、アークAの発生箇所の近くに位置する。そのため、母材押さえ29の接触面29a側は、使用期間の経過に伴って劣化しやすい。さらに、母材押さえ29は、溶接のたびに母材Wと接触させてスタッドガン2を支持するため、負荷がかかりやすい。これらを含む種々の要因によって、母材押さえ29は、使用期間の経過に伴い、接触面29a側から徐々に消耗していく。つまり、母材押さえ29の長さは、使用期間の経過に伴い、短くなっていく。母材押さえ29の長さが短くなっていくことで、同一条件において溶接を行ったとしても、母材押さえ29が消耗した分だけ離間距離Lが短くなる。その結果、母材押さえ29が消耗する前と比べて、母材押さえ29が消耗した後では、スタッド材Bの先端Bb側と母材Wの溶接面WSとの離間距離Lが短くなっている。離間距離Lが短くなるほど、接近動作においてスタッド材Bを接近させるために要する時間は短くなる。
【0049】
溶接時間Tの変動は、溶接品質に影響を及ぼす要因の1つである。具体的には、溶接時間Tのうち、所要時間T1が変動した場合、所要時間T1の変動に応じて母材Wに与える熱量に差が生じる。これにより、溶接品質が一定とならず、安定的な品質を確保できない場合が生じ得る。そのため、アークスタッド溶接を行う場合においても、溶接時間Tの変動を抑制することが望ましい。そこで、本実施形態では、制御装置4は、所要時間T1の変動を抑制するための制御を実行する。以下において、本実施形態における所要時間T1の制御方法について説明する。
【0050】
アークスタッド溶接装置1は、取得部41と、判定部43と、動作制御部45とによって、接近動作の開始時点を調整することで、所要時間T1を制御する。まず、取得部41は所要時間T1を取得する。次に、取得部41によって取得された所要時間T1と基準時間TSとの間に時間差T2が生じているか否かを判定部43が判定する。判定部43によって時間差T2が生じていると判定された場合、時間差T2を低減するために、動作制御部45は、後の溶接における接近動作の開始時点を調整する。これにより、所要時間T1が基準時間TSに近づく。
【0051】
実際の溶接においては、スタッドガン2の摺動抵抗の変化や母材押さえ29の消耗は時間の経過に伴って生じ得る。つまり、溶接において、所要時間T1が基準時間TSよりも短くなる要因と、長くなる要因とは併存する。また、制御装置4に対して、複数のロボット3およびスタッドガン2を接続して、複数の母材Wに対して同時に溶接を行う場合、スタッドガン2の個体差によっても溶接時間Tにばらつきが生じる。そこで、本実施形態では、理解の容易のために、所要時間T1が基準時間TSよりも短くなる要因と、所要時間T1が基準時間TSよりも長くなる要因と、のうち、いずれか一方の要因が優位になる場合について説明する。
【0052】
図6は、本実施形態における所要時間T1の制御方法を説明するための概念図である。図6には、図3および図4における工程(2)~工程(5)に対応する工程番号を付している。図6では、溶接時間Tの開始時点から終了時点までのガンコイル電圧の推移と所要時間T1とを、設定状態、過去ルーチン、本ルーチンの3つのパターンでそれぞれ図示している。図6の縦軸は、ガンコイル電圧の変動を示す。図6では、工程(3)の開始前におけるガンコイル電圧を基準(ゼロ)とした場合の値の変化を表している。図6の横軸は、溶接時間Tの経過を表している。図6では、溶接時間Tの経過の単位をミリ秒(ms)としている。
【0053】
図6における設定状態は、本実施形態の制御方法において基準となる状態である。設定状態のグラフは、所要時間T1が基準時間TSと一致する場合を指す。すなわち、基準時間TSは、所要時間T1の推奨値として予め定められた時間である。図6では、基準時間TSをNミリ秒としている。
【0054】
図6における過去ルーチンは、制御対象となる溶接が実行される前のルーチンにおいて実行された溶接時のデータである。過去ルーチンにおける所要時間T1に係るデータは、判定部43によって時間差T2を算出するときの所要時間T1として用いられる。過去ルーチンでは、所要時間T1が基準時間TSとしてのNミリ秒よりも1ミリ秒だけ長い場合を図示している。すなわち、過去ルーチンにおける所要時間T1はN+1ミリ秒である。過去ルーチンのグラフでは、基準時間TSと所要時間T1と時間差T2とをそれぞれ図示している。
【0055】
図6における本ルーチンは、過去ルーチンの所要時間T1を用いて、動作制御部45によって接近動作の開始時点が調整された場合の所要時間T1を示している。図6では、過去ルーチンにおける所要時間T1が基準時間TSよりも1ミリ秒だけ長くなっている。この1ミリ秒という時間差T2を基準時間TSに近づけるため、図6では、動作制御部45は、接近動作の開始時点を時間差T2に相当する1ミリ秒だけ早く調整している。つまり、動作制御部45は、過去ルーチンの所要時間T1を参照して、制御対象となる後の溶接における接近動作の開始時点に過去ルーチンから算出した時間差T2を反映させる。この制御により、図6において、後の溶接における接近動作は、時間差T2に相当する1ミリ秒だけ早く開始される。そのため、所要時間T1を基準時間TSに近づけることができ、所要時間T1の変動が抑制される。
【0056】
このとき、過去ルーチンの所要時間T1に係るデータが複数存在する場合には、判定部43は、複数のデータのうち、任意のデータを選択して時間差T2を算出するように設定されてもよい。判定部43は、例えば、過去ルーチンの所要時間T1に係るデータのうちで複数のデータを平均した平均時間を所要時間T1として用いて、時間差T2を算出してもよい。ここで言う平均時間を用いて算出した時間差T2は、例えば、後述する第1平均時間差D1や第2平均時間差D2、第3平均時間差D3に相当する。また、判定部43は、任意の1つのデータを選択して時間差T2を算出するように設定されてもよい。つまり、本ルーチンにおいて参照される過去ルーチンは、単数のデータであっても複数のデータであってもよい。さらに、過去ルーチンとして選択するデータは、動作制御部45によって接近動作の開始時点が調整されていない非補正状態と、動作制御部45によって接近動作の開始時点が調整されている制御状態と、のいずれの状態に係るデータであってもよい。
【0057】
なお、本実施形態において、接近動作は、前述した通り、ガンコイル電圧の印加を停止するためにガン信号の供給を停止した時点(図6の「ガン信号OFF」)から開始される。よって、本実施形態では、動作制御部45は、ガン信号のONとOFFとの切り替えによって、接近動作の開始時点を調整している。なお、接近動作の開始時点を調整する方法は、これに限られるものではない。
【0058】
以下において、複数の溶接点100に対してスタッド材Bを溶接する場合を例に挙げて、本実施形態の具体的な制御方法を説明する。図7は、所要時間T1が基準時間TSよりも長い場合の制御方法を説明するためのグラフである。また、図8は、所要時間T1が基準時間TSよりも短い場合の制御方法を説明するためのグラフである。図7および図8の横軸は、複数の溶接点100に対して行われる溶接のうち、いずれの溶接点100における溶接であるかを示している。図7および図8では、10つの溶接点100に対して溶接が行われる場合を示している。図7および図8の縦軸は、1点目から10点目の溶接点100まで順に実行される各溶接点100の所要時間T1を示している。図7および図8では、所要時間T1の単位をミリ秒(ms)としている。なお、図7および図8では、基準時間TSは38.0ミリ秒としている。
【0059】
本実施形態では、複数の溶接点100は、同一の母材Wのうちで異なる位置に存在する。複数の溶接点100は、N以上(Nは2以上の整数)である。複数の溶接点100への溶接は、1点目からN点目(本実施形態では10点目)まで順に実行される。
【0060】
判定部43は、制御の対象となる溶接が実行される前の時点において実行された複数の溶接点100ごとの所要時間T1(過去ルーチン)を用いて、溶接点100ごとに時間差T2が生じているか否かの判定を行う。動作制御部45は、時間差T2が生じていると判定された場合、複数の溶接点100ごとに、接近動作の開始時点を調整することで、所要時間T1を基準時間TSに近づける制御を実行する。本実施形態では、6点目から10点目の溶接点100を制御の対象とする。
【0061】
判定部43は、動作制御部45による接近動作の開始時点の調整に際して、本ルーチンよりも前に溶接が実行された複数の溶接点100ごとに取得された所要時間T1の平均時間を所要時間T1として用いる。つまり、平均時間は、1点目からN点目(Nは2以上の整数)の溶接点100まで順に溶接が行われる場合に、1点前からM点前(MはNよりも小さい整数)の溶接点100までのそれぞれの所要時間T1を平均した時間である。この平均時間は、前述した過去ルーチンに相当する。図7および図8に示す例では、1点目から10点目の溶接点100まで順に溶接が行われる場合において、1点前から5点前の溶接点100までのそれぞれの所要時間T1を平均した時間を平均時間として用いる。図7および図8では、動作制御部45によって、接近動作の開始時点が調整された場合の各溶接点における所要時間T1の推移を本ルーチンとして二点鎖線で図示している。
【0062】
本実施形態では、取得部41は、所要時間T1を複数の溶接点100ごとに取得する。判定部43は、平均時間と予め定められた基準時間TSとの時間の差として平均時間差D1,D2を算出する。さらに、判定部43は、平均時間差D1,D2を用いて時間差T2が生じているか否かを判定する。動作制御部45は、制御の対象となる後の溶接点100における接近動作の開始時点を平均時間差D1,D2を用いて早くしたり遅くしたりすることで調整する。具体的には、動作制御部45は、所要時間T1が基準時間TSよりも長い場合には、後の溶接において、接近動作の開始時点を後述する第1平均時間差D1に応じて早く調整する。また、動作制御部45は、所要時間T1が基準時間TSよりも短い場合には、接近動作の開始時点を後述する第2平均時間差D2に応じて遅く調整する。よって、本実施形態における所要時間T1を基準時間TSに近づけるための制御は、平均時間差D1、D2を後の溶接点100における溶接時にフィードバックすることで、所要時間T1を基準時間TSに近づける補正制御である。
【0063】
まず、図7を参照しながら、所要時間T1が基準時間TSよりも長い場合の制御方法を説明する。図7では、補正制御を行っていない場合における所要時間T1の推移を、非補正状態として点線で示している。図7における非補正状態のグラフのうち、1点目から5点目までの溶接点100に係る所要時間T1は、実測値を表している。また、図7における非補正状態のグラフのうち、6点目から10点目までの溶接点100に係る所要時間T1は、動作制御部45による補正制御を行わない場合に想定される所要時間T1を表している。
【0064】
図7では、複数の溶接点100ごとに取得された所要時間T1の平均時間を第1平均時間として示している。図7では、第1平均時間の推移を1点鎖線で示している。ここで言う、第1平均時間は、1点前の溶接点100から5点前の溶接点100までのそれぞれの所要時間T1を平均した時間である。また、第1平均時間差D1は、各溶接点100における第1平均時間と基準時間TSとの差である。
【0065】
図7では、6点目以降の溶接点100に対して、順に補正制御が実行される場合を図示している。例えば、6点目の溶接点100に対しては、1点目から5点目の溶接点100までの各所要時間T1に基づいて、第1平均時間と第1平均時間差D1とが判定部43によって算出される。図7における1点目から5点目の溶接点100までの第1平均時間は、40.4ミリ秒である。よって、1点目から5点目の溶接点100までの第1平均時間差D1は、2.4ミリ秒である。そこで、図7に示す例では、動作制御部45は、6点目の溶接点100における接近動作の開始時点を設定状態(所要時間T1が基準時間TSと一致する状態)における接近動作の開始時点よりも2.4ミリ秒だけ早く開始するように調整している。この補正制御により、6点目の溶接点100における所要時間T1は40.6ミリ秒となる。すなわち、補正制御によって、6点目の溶接点100における所要時間T1は、補正制御が実行されない場合に想定される所要時間T1(非補正状態)と比べて、第1平均時間差D1、ここでは2.4ミリ秒だけ基準時間TSに近づけることができる。なお、図7の6点目の溶接点100における非補正状態の所要時間T1は、43.0ミリ秒である。よって、図7の6点目の溶接点100において矢印で示すように、非補正状態の所要時間T1に対して、本ルーチンの所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。
【0066】
補正制御の対象が7点目の溶接点100である場合は、2点目の溶接点100から6点目の溶接点100までの各所要時間T1を用いて第1平均時間差D1を算出してもよい。図7における本ルーチンのグラフに示すように、非補正状態における所要時間T1が基準時間TSよりも長い場合に、補正制御を実行することで、後の溶接における所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。これにより、所要時間T1の変動が抑制される。
【0067】
次に、図8を参照しながら、所要時間T1が基準時間TSよりも短い場合の制御方法を説明する。図7と同様の部分については、適宜説明を省略する。図8における非補正状態は、図7と同義である。
【0068】
図8では、複数の溶接点100ごとに取得された所要時間T1の平均時間を第2平均時間として示している。図8では、第2平均時間の推移を1点鎖線で示している。ここで言う、第2平均時間は、1点前の溶接点100から5点前の溶接点100までのそれぞれの所要時間T1を平均した時間である。また、第2平均時間差D2は、第2平均時間と基準時間TSとの差である。
【0069】
図8では、6点目以降の溶接点100に対して、順に補正制御が実行される場合を図示している。例えば、6点目の溶接点100に対しては、1点目から5点目の溶接点100までの各所要時間T1に基づいて、第2平均時間と第2平均時間差D2とが判定部43によって算出される。図8における1点目から5点目の溶接点100までの第2平均時間は、35.8ミリ秒である。よって、1点目から5点目の溶接点100までの第2平均時間差D2は、2.2ミリ秒である。そこで、図8に示す例では、動作制御部45は、6点目の溶接点100における接近動作の開始時点を2.2ミリ秒だけ遅く開始するように調整している。この補正制御により、6点目の溶接点100における所要時間T1は36.2ミリ秒となる。すなわち、補正制御によって、6点目の溶接点100における所要時間T1は、補正制御が実行されない場合に想定される所要時間T1(非補正状態)と比べて、第2平均時間差D2、ここでは2.2ミリ秒だけ基準時間TSに近づけることができる。なお、図8の6点目の溶接点100における非補正状態の所要時間T1は、34.0ミリ秒である。よって、図8の6点目の溶接点100において矢印で示すように、非補正状態の所要時間T1に対して、本ルーチンの所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。
【0070】
補正制御の対象が7点目の溶接点100である場合は、2点目の溶接点100から6点目の溶接点100までの各所要時間T1を用いて第2平均時間差D2を算出してもよい。図8における本ルーチンのグラフで示すように、非補正状態における所要時間T1が基準時間TSよりも短い場合においても、補正制御を実行することで、後の溶接における所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。これにより、所要時間T1の変動が抑制される。
【0071】
上記実施形態によれば、取得部41は、接近動作の開始時点から、スタッド材Bと母材Wとが接触する接触時点までの所要時間T1を取得する。続いて、判定部43は、取得部41によって取得された所要時間T1と予め定められた基準時間TSとの間に時間差T2が生じているか否かの判定を行う。時間差T2が生じていると判定された場合に、動作制御部45は、時間差T2を低減するように、後の溶接における接近動作の開始時点を調整する。所要時間T1が基準時間TSよりも長い場合には、後の溶接において、接近動作の開始時点を時間差T2に応じて早く調整する。これにより、所要時間T1が基準時間TSよりも長い場合に、時間差T2に応じて、接近動作の開始時点が調整されることで、所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。また、所要時間T1が基準時間TSよりも短い場合には、後の溶接において、接近動作の開始時点を時間差T2に応じて遅く調整する。これにより、所要時間T1が基準時間TSよりも短い場合に、時間差T2に応じて、接近動作の開始時点が調整されることで、所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。その結果、所要時間T1の変動が抑制される。
【0072】
また、上記実施形態によれば、時間差T2が生じていると判定された場合には、動作制御部45は、時間差T2を低減するように、後の溶接における接近動作の開始時点を複数の溶接点100ごとに調整する。これにより、時間差T2に応じて、複数の溶接点100ごとに接近動作の開始時点を調整することで、所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。
【0073】
また、上記実施形態によれば、判定部43は、複数の溶接点100ごとの所要時間T1の平均時間と、基準時間TSと、の差である平均時間差D1,D2を用いて、時間差T2が生じているか否かを判定する。これにより、複数の溶接点100ごとの所要時間T1を考慮して、後の溶接における開始時点を調整できる。つまり、スタッドガン2を用いた溶接時の複数の溶接点100における所要時間T1の傾向を加味した上で、所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。また、複数の溶接点100における所要時間T1の中央値となる平均時間を基準時間TSに近づけることができる。例えば、複数の溶接点100における所要時間T1のうちで、他の溶接点100と比べて極端に差が見られた場合(以下、異常値)に有効である。この場合、判定部43は、異常値のみに基づいて時間差T2を算出しないため、本ルーチンでの所要時間T1と基準時間TSとの間で大きく時間差T2が生じる可能性を低減できる。
【0074】
また、上記実施形態によれば、動作制御部45は、所要時間T1が基準時間TSよりも長い場合には、後の溶接において、接近動作の開始時点を第1平均時間差D1に応じて早く調整することで、所要時間T1を基準時間TSに近づける。また、動作制御部45は、所要時間T1が基準時間TSよりも短い場合には、後の溶接において、接近動作の開始時点を第2平均時間差D2に応じて遅く調整することで、所要時間T1を基準時間TSに近づける。これにより、判定部43が平均時間差D1,D2を用いて時間差T2を算出する場合にも、所要時間T1が基準時間TSに対して長い場合と短い場合との両者において、後の溶接における所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。
【0075】
また、上記実施形態によれば、1点目からN点目(Nは2以上の整数)の溶接点100まで順に溶接が行われる場合に、判定部43は、1点前の溶接点100からM点前(MはNより小さい整数)の溶接点100までのそれぞれの所要時間T1の平均時間と、基準時間TSと、の差である平均時間差D1,D2を用いて時間差T2を判定する。これにより、使用期間の経過等によって、所要時間T1に変動が見られる場合にも、判定部43は、任意の溶接点100におけるデータを選択して過去ルーチンとし、この過去ルーチンを参照することで、時間差T2を算出できる。例えば、使用期間の経過に伴い、所要時間T1が使用開始時と比べて大きく変化が見られる場合、所要時間T1の傾向が異なる時期におけるデータを用いて平均時間を算出しても、実態に即していない場合が生じ得る。これに対して、本実施形態のように、判定部43が過去ルーチンのうちで任意の溶接点100の所要時間T1を用いて時間差T2を算出すれば、動作制御部45は、直近のデータ等の所望のデータに基づいて後の溶接における接近動作の開始時点を調整できる。
【0076】
なお、アークスタッド溶接装置1による所要時間T1の制御方法は、これに限られるものではない。例えば、複数の溶接点100は、同一の母材Wのうちで11点以上設けられてもよい。判定部43は、例えば、任意の溶接点100として1つ前の溶接点100と3つ前の溶接点100とのそれぞれの所要時間T1から平均時間差D1,D2を算出してもよい。また、時間差T2を算出する際に、平均時間を用いることは必須ではない。判定部43は、例えば、5つの溶接点100において溶接が行われる場合に、1つ前の溶接点100における所要時間T1と基準時間TSとの差を時間差T2としてもよい。
【0077】
B.第2実施形態:
本実施形態では、2以上の母材Wのそれぞれに対して、複数の溶接点100にスタッド材Bを溶接する場合の所要時間T1の制御方法について説明する。本実施形態におけるアークスタッド溶接装置1の構成は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。また、本実施形態では、所要時間T1の制御方法が第1実施形態とは異なる。
【0078】
図9は、2以上の母材Wにおける溶接点100ごとの所要時間T1を示したグラフである。図9に示す例では、2以上の母材Wを識別するための号車番号を付している。本実施形態では、P号車の部品である第1の母材Wと、P+1号車の部品である第2の母材Wと、P+2号車の部品である第3の母材Wと、に対して、この順に溶接が実行される。第1~第3の母材Wは、同一の形状および同一の材質で構成される。第1~第3の母材Wは、例えば、複数の車両を製造する場合に、各車両に使用される同一部品である。
【0079】
第1~第3の母材Wには、それぞれ1点目からN点目(Nは2以上の整数)の溶接点100まで順に溶接が行われる。図9では、第1の母材W(P号車)に対して、1点目の溶接点100から5点目の溶接点100まで順に溶接が行われる。その後、第2の母材W(P+1号車)に対して、1点目の溶接点100から5点目の溶接点100まで順に溶接が行われる。図9の横軸では、1点目の溶接点100から5点目の溶接点100までを時系列に沿って順に示している。また、図9の縦軸は、所要時間T1を示す。図9では、所要時間T1の単位をミリ秒(ms)としている。図9には、第1の母材Wにおける1点目から5点目までの各溶接点100および第2の母材Wにおける1点目から5点目までの各溶接点100の所要時間T1がそれぞれプロットされている。本実施形態では、第1の母材W(P号車)および第2の母材W(P+1号車)の各溶接点100における所要時間T1は、第3の母材W(P+2号車)の各溶接点100に対して溶接を行う場合における過去ルーチンに相当する。図9では、第1の母材Wおよび第2の母材Wにおける所要時間T1の推移を過去ルーチンとして点線で示している。
【0080】
複数の溶接点100のそれぞれは、2以上の母材Wのうちで対応する位置に形成される。本実施形態では、複数の溶接点100のそれぞれは、2以上の母材Wのうちで同一の位置に形成されている。例えば、第1の母材W(P号車)におけるQ点目(Qは1以上N以下の整数)の溶接点100と、第2の母材W(P+1号車)におけるQ点目の溶接点100と、第3の母材W(P+2号車)におけるQ点目の溶接点100とは、各母材Wのうちで同一の位置に形成される。つまり、図9の第1の母材W(P号車)における3点目の溶接点100と、第2の母材W(P+1号車)における3点目の溶接点100と、第3の母材W(P+2号車)における3点目の溶接点100とは同一の位置に形成される。
【0081】
ここで、同一の形状および同一の材質で構成される第1~第3の母材Wに対して、各母材Wのうちで同一の位置に形成される溶接点100に溶接を行う場合、所要時間T1について溶接点100ごとに一定の傾向が見られる場合がある。例えば、図9では、第1の母材W(P号車)と第2の母材W(P+1号車)との同一の位置に形成される溶接点100における所要時間T1について、同様の傾向が見られる。同様の傾向とは、所要時間T1が基準時間TSよりも短い場合と、長い場合と、のいずれであるか、基準時間TSに対する所要時間T1の差の大小などである。よって、同一の形状および同一の材質で構成される2以上の母材Wに対して、各母材Wのうちで同一の位置に形成される溶接点100に溶接を行う場合、溶接点100ごとの特性や傾向を考慮することが好ましい。そこで、本実施形態では、より好ましい所要時間T1の補正制御を実行する。
【0082】
本実施形態では、取得部41は、所要時間T1を複数の溶接点100ごとに取得する。判定部43は、動作制御部45による接近動作の開始時点の調整に際して、2以上の母材Wにおいて溶接点100ごとに取得された所要時間T1のうち、同一の位置に形成される溶接点100の所要時間T1の平均時間としての第3平均時間を算出する。さらに、判定部43は、第3平均時間と、基準時間TSと、の差である第3平均時間差D3を用いて、時間差T2が生じているか否かを判定する。第3平均時間は、第1の母材W(P号車)と第2の母材W(P+1号車)とのそれぞれに対して、1点目の溶接点100からN点目(Nは2以上の整数)の溶接点100までのそれぞれの所要時間T1のうち、同一の位置に形成される溶接点100としてのQ点目の溶接点100における所要時間T1を平均した時間である。図9に示す例では、第1の母材W(P号車)のうちで3点目の溶接点100における所要時間T1は、47.0ミリ秒である。また、第2の母材W(P+1号車)のうちで3点目の溶接点100における所要時間T1は、46.0ミリ秒である。よって、図9では、3点目の溶接点100における第3平均時間は、46.5ミリ秒である。なお、図9では、第3平均時間を三角形のプロットで示している。
【0083】
図9に示す例では、3点目の溶接点100における第3平均時間差は46.5ミリ秒、基準時間TSは38.0ミリ秒であるため、第3平均時間差D3は8.5ミリ秒である。図9では、3点目の溶接点100において、第3平均時間は基準時間TSに対して8.5ミリ秒だけ遅れている。
【0084】
動作制御部45は、順に溶接が行われる2以上の母材Wについて、後に溶接が行われる母材Wのうちで、第3平均時間を算出した溶接点100と同一の位置に形成される溶接点100に対するスタッドガン2の接近動作の開始時点を調整する。すなわち、過去ルーチンから算出したQ点目の溶接点100における第3平均時間差D3を、後に溶接が行われる母材WのQ点目の溶接点100に対して溶接を行う際の開始時点に反映させる。このとき、動作制御部45は、所要時間T1が基準時間TSよりも長い場合には、後の溶接において、接近動作の開始時点を第3平均時間差D3に応じて早く調整する。また、動作制御部45は、所要時間T1が基準時間TSよりも短い場合には、後の溶接において、接近動作の開始時点を第3平均時間差D3に応じて遅く調整する。
【0085】
図9に示す例では、第1の母材W(P号車)と第2の母材W(P+1号車)との各所要時間T1から算出した3点目の溶接点100における第3平均時間差は8.5ミリ秒である。また、図9に示す例では、第3平均時間は基準時間TSよりも長い。よって、動作制御部45は、後に溶接が行われる第3の母材W(P+2号車)の3点目の溶接点100に対して溶接を行う際に、接近動作を8.5ミリ秒だけ早く開始させる。なお、他の溶接点100としての1点目、2点目、4点目、5点目の溶接点100に対しても、同様の補正制御が行われる。
【0086】
なお、複数の溶接点100の形成位置は、これに限られるものではない。複数の溶接点100のそれぞれは、2以上の母材Wのうちで対応する位置に形成されればよい。例えば、同一材質および同一形状を成す2以上の板状母材において、板状母材のうちで厚みが異なる場合を考える。この場合、複数の溶接点100のそれぞれは、2以上の板状母材のうちで厚みが同程度の部分に形成すればよい。例えば、同一材質および同一形状を成す2以上の母材において、母材のうちで部分によって強度が異なる場合を考える。この場合、複数の溶接点100のそれぞれは、2以上の母材のうちで強度が同程度の部分に形成すればよい。このように、複数の溶接点100のそれぞれは、2以上の母材Wのうちで対応する位置に形成されればよい。
【0087】
上記実施形態によれば、取得部41は、2以上の母材Wにおいて、複数の溶接点100ごとに所要時間T1を取得する。続いて、判定部43は、2以上の母材Wにおいて複数の溶接点100ごとに取得された所要時間T1のうち、対応する位置に形成される溶接点100の所要時間T1の平均時間(第3平均時間)を算出する。さらに、判定部43は、第3平均時間と、基準時間TSと、の差である第3平均時間差D3を用いて、時間差T2が生じているか否かを判定する。動作制御部45は、順に溶接が行われる複数の母材Wについて、後に溶接が行われる母材Wのうちで、平均時間としての第3平均時間を算出した溶接点100と対応する位置に形成される溶接点100に対する接近動作の開始時点を調整する。具体的には、動作制御部45は、所要時間T1が基準時間TSよりも長い場合、後の溶接において、接近動作の開始時点を第3平均時間差D3に応じて早く調整する。動作制御部45は、所要時間T1が基準時間TSよりも短い場合、後の溶接において、接近動作の開始時点を第3平均時間差D3に応じて遅く調整する。これにより、アークスタッド溶接装置1を用いた溶接では、溶接点100ごとの特性や傾向を考慮した上で、所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。その結果、所要時間T1の変動が抑制される。
【0088】
なお、順に溶接が行われる母材Wの数および溶接点100の数は、これに限られるものではない。例えば、順に溶接が行われる母材Wの数は、50つであってもよい。この場合、判定部43は、50つ目の母材Wに対する溶接において、1つ目の母材Wから49つ目の母材Wまでの各溶接点100の所要時間T1を用いて第3平均時間差D3を算出してもよい。また、判定部43は、1つ前の母材Wから任意の数、例えば、5つ前の母材Wまでの各溶接点100の所要時間T1を用いて第3平均時間差D3を算出してもよい。また、判定部43によって時間差T2を算出する際に、平均時間を用いることは必須ではない。例えば、5つの母材Wのそれぞれに対して、対応する位置に形成される1つの溶接点に溶接する場合を考える。この場合、判定部43は、5つ目の母材Wに溶接を行うときに、3つ目の母材Wにおける所要時間T1のみを用いて時間差T2を算出してもよい。
【0089】
以上で示した全実施形態によれば、アークスタッド溶接の対象となる母材Wが単一の場合と、複数の場合と、の両者において、動作制御部45が接近動作の開始時点を調整することで、所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。よって、溶接の対象となる母材Wの数によらず、所要時間T1を基準時間TSに近づけることができる。
【0090】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1…アークスタッド溶接装置、2…スタッドガン、2a…一端、2b…他端、3…ロボット、4…制御装置、6…ボルトフィーダ、7…電源装置、9…母材支持台、11…センサ、20…ケース、21…ガンコイル、22…固定磁極部材、23…シリンダ、24…可動磁極部材、25…付勢部材、27…チャック、29…母材押さえ、29a…接触面、30…アーム、35…基台、37…スタッドガン支持部、40…CPU、41…取得部、43…判定部、45…動作制御部、47…記憶部、100…溶接点、241…ヘッド、242…ロッド、243…テール、271…把持部、A…アーク、B…スタッド材、B1…頭部、B2…軸部、B3…突出部、Ba…基端、Bb…先端、D1…第1平均時間差、D2…第2平均時間差、D3…第3平均時間差、F…設置面、L…離間距離、S…摺動領域、T…溶接時間、T1…所要時間、T2…時間差、TS…基準時間、W…母材、WS…溶接面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9