(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/62 20160101AFI20241203BHJP
H02P 29/66 20160101ALI20241203BHJP
【FI】
H02P29/62
H02P29/66
(21)【出願番号】P 2021085173
(22)【出願日】2021-05-20
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】安部 義隆
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-218215(JP,A)
【文献】特開2015-171302(JP,A)
【文献】特許第6476374(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/62
H02P 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
d軸電流指令値とq軸電流指令値とd軸電流検出値とq軸電流検出値に基づいてd軸電圧指令値とq軸電圧指令値を出力する電流制御器と、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値を二相三相変換し、三相電圧指令値を出力する二相三相変換器と、
前記三相電圧指令値に基づいてモータに電圧を出力するインバータと、
前記モータの位相を検出するモータ回転位置センサと、
前記インバータの出力の三相電流検出値を前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に変換する三相二相変換器と、
前記位相に基づいて機械角角速度を出力する角速度出力部と、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値とに基づいてd軸電圧外乱推定値とq軸電圧外乱推定値を算出する電圧外乱オブザーバと、
前記機械角角速度に極対数を乗算して電気角角速度を算出する極対数乗算部と、
(9)式と(10)式により、抵抗のノミナル誤差推定値と磁束推定値を算出する抵抗・磁束推定器と、
前記抵抗のノミナル誤差推定値と前記磁束推定値に基づいて前記モータの固定子温度推定値と磁石温度推定値を算出する温度算出器と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【数9】
【数10】
ΔR^
a
:抵抗のノミナル誤差推定値
v^
d
vdob
:d軸電圧外乱推定値
L
q
:q軸インダクタンス
i
q
:q軸電流検出値
ω
e
:電気角角速度
i
d
:d軸電流検出値
Φ^:磁束推定値
v^
qvdob
:q軸電圧外乱推定値
L
d
:d軸インダクタンス
【請求項2】
前記電圧外乱オブザーバは、以下の(2)式、(8)式により前記d軸電圧外乱推定値と前記q軸電圧外乱推定値を算出することを特徴とする
請求項1記載の電力変換装置。
【数2】
【数8】
v^
q
vdob:q軸電圧外乱推定値
v^
d
vdob:d軸電圧外乱推定値
s:ラプラス演算子
g
dis:電圧外乱オブサーバのカットオフ周波数
v
q
*:q軸電圧指令値
v
d
*:d軸電圧指令値
L
qn:q軸インダクタンスのノミナル値
L
dn:d軸インダクタンスのノミナル値
R
an:抵抗のノミナル値
i
q:q軸電流検出値
i
d:d軸電流検出値
【請求項3】
前記温度
算出器は、
前記固定子温度推定値と前記磁石温度推定値を(11)式、(12)式により算出することを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【数11】
【数12】
T^
st:固定子温度推定値
ΔR^
a:抵抗のノミナル誤差推定値
R
n:基準温度での抵抗
α:抵抗の温度係数
T^
pm:磁石温度推定値
Φ^:磁束推定値
Φ
n:基準温度での磁束
β:磁束の温度係数
【請求項4】
d軸電流指令値とq軸電流指令値とd軸電流検出値とq軸電流検出値に基づいてd軸電圧指令値とq軸電圧指令値を出力する電流制御器と、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値を二相三相変換し、三相電圧指令値を出力する二相三相変換器と、
前記三相電圧指令値に基づいてモータに電圧を出力するインバータと、
前記モータの位相を検出するモータ回転位置センサと、
前記インバータの出力の三相電流検出値を前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に変換する三相二相変換器と、
前記位相に基づいて機械角角速度を出力する角速度出力部と、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と前記機械角角速度と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に基づいて、前記モータの温度推定値と固定子温度推定値と磁石温度推定値を算出する温度推定器と、
前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値と電気角角速度に基づいて、前記温度推定値と前記固定子温度推定値と前記磁石温度推定値のうちどれを表示するか選択する推定選別器と、
を備え、
前記温度推定器は、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値とに基づいてd軸電圧外乱推定値とq軸電圧外乱推定値を算出する電圧外乱オブザーバと、
前記機械角角速度に極対数を乗算して前記電気角角速度を算出する極対数乗算部と、
前記d軸電圧外乱推定値と前記q軸電圧外乱推定値と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値と前記電気角角速度に基づいて、抵抗のノミナル誤差推定値と磁束推定値を算出する抵抗・磁束推定器と、
前記q軸電圧外乱推定値と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値と前記電気角角速度に基づいて前記温度推定値を算出し、前記抵抗のノミナル誤差推定値と前記磁束推定値に基づいて前記固定子温度推定値と前記磁石温度推定値を算出する温度算出器と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
前記推定選別器は、
前記d軸電流検出値が0でなく、前記電気角角速度が0でない場合は前記固定子温度推定値と前記磁石温度推定値を表示し、
前記d軸電流検出値が0でなく、前記電気角角速度が0の場合は前記固定子温度推定値を表示し、
前記d軸電流検出値が0であり、前記電気角角速度および前記q軸電流検出値のうち少なくとも何れか一方が0でない場合は前記温度推定値を表示し、
前記d軸電流検出値が0であり、前記電気角角速度が0かつ前記q軸電流検出値が0の場合は前記温度推定値、前記固定子温度推定値、前記磁石温度推定値のいずれも表示しないことを特徴とする
請求項4記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置で駆動する同期モータの磁石温度推定に係り、温度センサを設けずに磁石温度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1および特許文献1では、IPMSM(埋込構造永久磁石同期電動機)において磁石磁束鎖交数をオブザーバで推定することで磁石温度を推定する技術が公開されている。非特許文献2ではSPMSM(表面構造永久磁石同期電動機)において電圧外乱オブザーバを用いた固定子の温度推定を公開している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】加藤崇、佐々木健介、Diego Fernandez Laborda、Daniel Fernandez Alonso、David Diaz Reigosa、「磁石磁束鎖交数オブザーバを用いた可変漏れ磁束型IPMSMにおける磁石温度推定手法」、電気学会論文誌D(産業応用部門誌)、Vol.140、No.4(2020)、pp.265-271.
【文献】Hiroki Iwata、Kiyoshi Ohishi、Yuki Yokokura、 Yuji Okada, Yuji Ide、 Daigo Kuraishi、 Akihiko Takahashi,「Robust Estimation Method for Stator Temperature Based on Voltage Disturbance Observer Autotuning Resistance for SPMSM」、IEEJ Journal of Industry Applications Vol.9、No.4(2020)、pp.341-350.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1および特許文献1の手法は高調波重畳電流を印加する必要があるため、新たな電流指令を生成しなければならない。非特許文献2の手法はシステムの階層が多いため、調整パラメータが多い、帯域を上げにくいといった問題点がある。
【0006】
以上示したようなことから、電力変換装置において、電圧外乱オブザーバに基づく推定技術を用いることで、磁石温度を推定することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、d軸電流指令値とq軸電流指令値とd軸電流検出値とq軸電流検出値に基づいてd軸電圧指令値とq軸電圧指令値を出力する電流制御器と、前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値を二相三相変換し、三相電圧指令値を出力する二相三相変換器と、前記三相電圧指令値に基づいてモータに電圧を出力するインバータと、前記モータの位相を検出するモータ回転位置センサと、前記インバータの出力の三相電流検出値を前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に変換する三相二相変換器と、前記位相に基づいて機械角角速度を出力する角速度出力部と、前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と前記機械角角速度と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に基づいて、前記モータの温度推定値を算出する温度推定器と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、その一態様として、前記温度推定器は、前記q軸電圧指令値と前記q軸電流検出値とに基づいてq軸電圧外乱推定値を算出する電圧外乱オブザーバと、前記機械角角速度に極対数を乗算して電気角角速度を算出する極対数乗算部と、前記q軸電圧外乱推定値と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値と前記電気角角速度に基づいて前記温度推定値を算出する温度算出器と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、その一態様として、前記電圧外乱オブザーバは、以下の(2)式により前記q軸電圧外乱推定値を算出することを特徴とする。
【0010】
【0011】
v^q
vdob:q軸電圧外乱推定値
s:ラプラス演算子
gdis:電圧外乱オブサーバのカットオフ周波数
vq
*:q軸電圧指令値
Lqn:q軸インダクタンスのノミナル値
Ran:抵抗のノミナル値
iq:q軸電流検出値。
【0012】
また、他の態様として、d軸電流指令値とq軸電流指令値とd軸電流検出値とq軸電流検出値に基づいてd軸電圧指令値とq軸電圧指令値を出力する電流制御器と、前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値を二相三相変換し、三相電圧指令値を出力する二相三相変換器と、前記三相電圧指令値に基づいてモータに電圧を出力するインバータと、前記モータの位相を検出するモータ回転位置センサと、前記インバータの出力の三相電流検出値を前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に変換する三相二相変換器と、前記位相に基づいて機械角角速度を出力する角速度出力部と、前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と前記機械角角速度と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に基づいて、前記モータの固定子温度推定値と磁石温度推定値を算出する温度推定器と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、その一態様として、前記温度推定器は、前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値とに基づいてd軸電圧外乱推定値とq軸電圧外乱推定値を算出する電圧外乱オブザーバと、前記機械角角速度に極対数を乗算して電気角角速度を算出する極対数乗算部と、前記d軸電圧外乱推定値と前記q軸電圧外乱推定値と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値と前記電気角角速度に基づいて、抵抗のノミナル誤差推定値と磁束推定値を算出する抵抗・磁束推定器と、前記抵抗のノミナル誤差推定値と前記磁束推定値に基づいて前記固定子温度推定値と前記磁石温度推定値を算出する温度算出器と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、その一態様として、前記電圧外乱オブザーバは、以下の(2)式、(8)式により前記d軸電圧外乱推定値と前記q軸電圧外乱推定値を算出することを特徴とする。
【0015】
【0016】
【0017】
v^q
vdob:q軸電圧外乱推定値
v^d
vdob:d軸電圧外乱推定値
s:ラプラス演算子
gdis:電圧外乱オブサーバのカットオフ周波数
vg
*:q軸電圧指令値
vd
*:d軸電圧指令値
Lqn:q軸インダクタンスのノミナル値
Ldn:d軸インダクタンスのノミナル値
Ran:抵抗のノミナル値
iq:q軸電流検出値
id:d軸電流検出値。
【0018】
また、その一態様として、前記抵抗・磁束推定器は、前記抵抗のノミナル誤差推定値と前記磁束推定値を(9)式と(10)式により算出することを特徴とする。
【0019】
【0020】
【0021】
ΔR^a:抵抗のノミナル誤差推定値
v^d
vdob:d軸電圧外乱推定値
Lq:q軸インダクタンス
iq:q軸電流検出値
ωe:電気角角速度
id:d軸電流検出値
Φ^:磁束推定値
v^qvdob:q軸電圧外乱推定値
Ld:d軸インダクタンス。
【0022】
また、その一態様として、前記温度推定器は、前記固定子温度推定値と前記磁石温度推定値を(11)式、(12)式により算出することを特徴とする。
【0023】
【0024】
【0025】
T^st:固定子温度推定値
ΔR^a:抵抗のノミナル誤差推定値
Rn:基準温度での抵抗
α:抵抗の温度係数
T^pm:磁石温度推定値
Φ^:磁束推定値
Φn:基準温度での磁束
β:磁束の温度係数。
【0026】
また、他の態様として、d軸電流指令値とq軸電流指令値とd軸電流検出値とq軸電流検出値に基づいてd軸電圧指令値とq軸電圧指令値を出力する電流制御器と、前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値を二相三相変換し、三相電圧指令値を出力する二相三相変換器と、前記三相電圧指令値に基づいてモータに電圧を出力するインバータと、前記モータの位相を検出するモータ回転位置センサと、前記インバータの出力の三相電流検出値を前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に変換する三相二相変換器と、前記位相に基づいて機械角角速度を出力する角速度出力部と、前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と前記機械角角速度と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値に基づいて、前記モータの温度推定値と固定子温度推定値と磁石温度推定値を算出する温度推定器と、前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値と電気角角速度に基づいて、前記温度推定値と前記固定子温度推定値と前記磁石温度推定値のうちどれを表示するか選択する推定選別器と、を備え、前記温度推定器は、前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値とに基づいてd軸電圧外乱推定値とq軸電圧外乱推定値を算出する電圧外乱オブザーバと、前記機械角角速度に極対数を乗算して前記電気角角速度を算出する極対数乗算部と、前記d軸電圧外乱推定値と前記q軸電圧外乱推定値と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値と前記電気角角速度に基づいて、抵抗のノミナル誤差推定値と磁束推定値を算出する抵抗・磁束推定器と、前記q軸電圧外乱推定値と前記d軸電流検出値と前記q軸電流検出値と前記電気角角速度に基づいて前記温度推定値を算出し、前記抵抗のノミナル誤差推定値と前記磁束推定値に基づいて前記固定子温度推定値と前記磁石温度推定値を算出する温度算出器と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
また、その一態様として、前記推定選別器は、前記d軸電流検出値が0でなく、前記電気角角速度が0でない場合は前記固定子温度推定値と前記磁石温度推定値を表示し、前記d軸電流検出値が0でなく、前記電気角角速度が0の場合は前記固定子温度推定値を表示し、前記d軸電流検出値が0であり、前記電気角角速度および前記q軸電流検出値のうち少なくとも何れか一方が0でない場合は前記温度推定値を表示し、前記d軸電流検出値が0であり、前記電気角角速度が0かつ前記q軸電流検出値が0の場合は前記温度推定値、前記固定子温度推定値、前記磁石温度推定値のいずれも表示しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、電力変換装置において、電圧外乱オブザーバに基づく推定技術を用いることで、磁石温度を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施形態1における電力変換装置を示すブロック図。
【
図2】実施形態1における温度推定器を示すブロック図。
【
図3】実施形態1における電圧外乱オブザーバを示すブロック図。
【
図4】実施形態1における定速のシミュレーション結果を示す図。
【
図5】実施形態1におけるゼロ速のシミュレーション結果を示す図。
【
図6】実施形態2における電力変換装置を示すブロック図。
【
図7】実施形態2における温度推定器を示すブロック図。
【
図8】実施形態2における電圧外乱オブザーバを示すブロック図。
【
図9】実施形態2における定速のシミュレーション結果を示す図。
【
図10】実施形態2におけるゼロ速のシミュレーション結果を示す図。
【
図11】実施形態3における電力変換装置を示すブロック図。
【
図12】実施形態3における推定選別器の処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本願発明における電力変換装置の実施形態1~3を
図1~
図12に基づいて詳述する。
【0031】
[実施形態1]
本実施形態1ではモータ8の磁石温度と固定子温度は等しいと仮定する。実施形態1における電力変換装置の全体構成を
図1に示す。
図1に示すように、コントローラ1は、電流制御器2と、二相三相変換器3と、温度推定器4と、三相二相変換器5と、角速度出力部6と、を備える。
【0032】
電流制御器2は、d軸電流指令値id
*,q軸電流指令値iq
*とd軸電流検出値id,q軸電流検出値iqと機械角角速度ωに基づいて、d軸電圧指令値vd
*,q軸電圧指令値vq
*を出力する。二相三相変換器3は、d軸電圧指令値vd
*,q軸電圧指令値vq
*を位相θに基づいて二相三相変換し、uvw相の三相電圧指令値を出力する。
【0033】
インバータ7は、uvw相の三相電圧指令値に基づいてモータ8に電圧を出力する。モータ8は負荷9に接続されている。モータ8には回転位置センサ10が設けられており、位相θを検出する。また、インバータ7の出力側には電流検出器11が設けられており、uvw相の三相電流検出値iuvwを検出する。
【0034】
三相二相変換器5は、uvw相の三相電流検出値iuvwを位相θに基づいて三相二相変換し、d軸電流検出値id,q軸電流検出値iqに変換する。角速度出力部6は、位相θに基づいて機械角角速度ωを出力する。
【0035】
温度推定器4は、d軸電流検出値id,q軸電流検出値iqと機械角角速度ωとd軸電圧指令値vd
*,q軸電圧指令値vq
*を入力し、モータ8の温度推定値T^を推定する。
【0036】
コントローラ1はuvw相の三相電圧指令値をインバータ7に出力し、uvw相の三相電流検出値iuvwとモータ8の位相θをフィードバックする。温度推定器4はコントローラ1内部にあり、d軸電圧指令値vd
*,q軸電圧指令値vq
*,d軸電流検出値id,q軸電流検出値iq,機械角角速度ωを入力とし、温度推定値T^を出力する。
【0037】
温度推定器4の構成を
図2に示す。温度推定器4は、電圧外乱オブザーバ(VDOB)12と、極対数乗算器13と、温度算出器14と、を備える。
【0038】
まず、q軸の電圧外乱オブザーバ(VDOB)12により、q軸電圧指令値vq
*とq軸電流検出値iqに基づいて、q軸電圧外乱推定値v^q
vdobを推定する。極対数乗算器13は、機械角角速度ωに極対数ppを乗算し、電気角角速度ωeを算出する。温度算出器14は、q軸電圧外乱推定値v^q
vdob,d軸電流検出値id,q軸電流検出値iq,電気角角速度ωeを引数とし、磁石の温度推定値T^を推定する。温度算出器14では(1)式に示す演算を行う。
【0039】
【0040】
ただし、Tbは基準温度、Φnは基準温度での磁束、Rnは基準温度での抵抗、αは抵抗の温度係数、βは磁束の温度係数、Ldはd軸インダクタンスである。
【0041】
電圧外乱オブザーバ12のブロック線図を
図3に示す。乗算器15は、q軸電流検出値i
qにL
qns+R
anを乗算する。減算器16は、q軸電圧指令値v
q
*から乗算器15の出力である(L
qns+R
an)i
qを減算する。乗算器17は、減算器16の出力(v
q
*-(L
qns+R
an)i
q)にg
dis/s+g
disを乗算する。L
qnはq軸インダクタンスのノミナル値,R
anは抵抗のノミナル値,sはラプラス演算子、g
disは電圧外乱オブサーバ12のカットオフ周波数である。オブザーバの具体的な計算は(2)式のようになる。
【0042】
【0043】
<構成の式の導出>
(1)式の導出について説明する。まず電圧外乱オブザーバ12の出力は(3)式で記述される。
【0044】
【0045】
ΔLqはq軸インダクタンスのノミナル誤差、ΔRaは抵抗のノミナル誤差、v^emfは誘起電圧の推定値である。今回、Lの変動は考慮しないこと、また誘起電圧の式Vemf=(Ldid+Φ)ωeから(3)式は(4)式のように変形することができる。なお、Φは磁束を示す。
【0046】
【0047】
ここで、磁束Φおよび抵抗のノミナル誤差ΔRaは温度に比例すると仮定すると、これらはそれぞれ(5)式,(6)式として表すことができる。なお、Tは温度とする。
【0048】
【0049】
【0050】
(5)式,(6)式を(4)式に代入して温度Tに関して整理することで、温度算出器14である(1)式を導出することができる。
【0051】
【0052】
<シミュレーション>
シミュレーション条件について述べる。Simulink(登録商標)を用いて、IPMSMの定速運転およびゼロ速の際のシミュレーション、および、温度推定を行った。プラントのダイナミクスは(7)式を用いた。なお、Lqは、q軸インダクタンス、Raは抵抗、Ldaはd軸インダクタンス、Φfは磁束を示す。
【0053】
【0054】
なお、ここでの磁束および抵抗は(5)式,(6)式のように温度に応じて変化させた。温度は[勾配10℃/s,開始時間1s後,初期温度60℃]のランプ信号で変化させた。
【0055】
モータ制御はベクトル制御を実装した。dq軸電流についてPI制御器を適用した。d軸電流指令値Id
*はゼロとした。定速運転では、q軸電流指令値Iq
*は速度のPI制御で定め、速度指令は10rad/sとした。ゼロ速の際のシミュレーションではq軸電流指令値Iq
*を0.05Aとし、摩擦が大きくモータ8は動かないとした(実装としては、駆動力がモータ8に与えられないとした)。
【0056】
定速のシミュレーション結果を
図4に示す。
図4(a)は速度の時系列データを表す。実線は速度指令値を表し、点線は速度応答値を表す。速度応答値が速度指令値に収束していることがわかる。
図4(b)は温度の時系列応答を表し、実線が磁石温度応答値、点線が温度推定値を示す。ランプ状の磁石応答値に温度推定値がほぼ追従しており、本実施形態1の温度推定器4が妥当に動作していることが確認できる。
【0057】
次に、ゼロ速の際のシミュレーション結果を
図5に示す。
図5(a)は速度の時系列データを表す。点線は速度応答値を表し、速度がゼロで静止していることがわかる。
図5(b)は温度の時系列応答を表し、実線が磁石温度応答値、点線が温度推定値((1)式のT^)を示す。ランプ状の磁石温度応答値に温度推定値がほぼ追従しており、本実施形態1の温度推定器4が妥当に動作していることが確認できる。
【0058】
以上示したように、本実施形態1によれば、d軸,q軸電圧指令値,d軸,q軸電流検出値,機械角角速度を入力とすることで、リアルタイムで磁石温度を推定することができる。
【0059】
また、本実施形態1では、高調波重畳など電流指令を変更することなく温度を推定することができる。また、本実施形態1では微分積分といったダイナミクスを含む演算は電圧外乱オブザーバのみであり、それ以外の演算はダイナミクスを含まない代数的な計算である。ダイナミクスに関連する調整パラメータは電圧外乱オブザーバのカットオフ周波数のみとなるため、ゲインの調整が容易である。
【0060】
[実施形態2]
実施形態1ではモータ8の磁石温度と固定子温度は等しいと仮定していたが、本実施形態2では磁石温度と固定子温度をそれぞれ推定する。本実施形態2における電力変換装置の全体構成を
図6に示す。実施形態1との違いは、温度推定器4の出力が固定子温度推定値T^
st,磁石温度推定値T^
pmの2つとなる点である。
【0061】
本実施形態2における温度推定器4の構成を
図7に示す。まずd軸q軸それぞれに電圧外乱オブザーバ(VDOB)12を実装し、d軸電圧指令値v
d
*,q軸電圧指令値v
q
*,d軸電流検出値i
d,q軸電流検出値i
qに基づいて、d軸電圧外乱推定値v^
d
vdob,q軸電圧外乱推定値v^
q
vdobを推定する。極対数乗算器13は、機械角角速度ωに極対数ppを乗算し、電気角角速度ω
eを出力する。次に、抵抗・磁束推定器18は導出したd軸電圧外乱推定値v^
d
vdob,q軸電圧外乱推定値v^
q
vdob,d軸電流検出値i
d,q軸電流検出値i
q,電気角角速度ω
eに基づいて、抵抗のノミナル誤差推定値ΔR
a^と磁束推定値Φ^を計算する。最後に、温度算出器14で、抵抗のノミナル誤差推定値ΔR^
a,磁束推定値Φ^に基づいて、固定子温度推定値T^
stと磁石温度推定値T^
pmを推定する。
【0062】
図7におけるdq軸の電圧外乱オブザーバ12は各軸にVDOBを実装したものであり、具体的には
図8のように実装される。
図8(a)に示すように、d軸において、乗算器15dは、d軸電流検出値i
dにL
dns+R
anを乗算する。減算器16dは、d軸電圧指令値v
d
*から乗算器15の出力である(L
dns+R
an)i
dを減算する。乗算器17dは、減算器16dの出力(v
d
*-(L
dns+R
an)i
d)にg
dis/s+g
disを乗算する。L
dnはd軸インダクタンスのノミナル値である。すなわち、d軸の電圧外乱オブザーバ12は、以下の(8)式となる。
【0063】
【0064】
図8(b)に示すように、q軸の電圧外乱オブザーバ12は、実施形態1の
図3、(2)式と同様である。
【0065】
抵抗・磁束推定器18では(9)式および(10)式により抵抗のノミナル誤差推定値ΔR^aと磁束推定値Φ^を計算する。
【0066】
【0067】
【0068】
温度算出器14では、(11)式および(12)式より固定子温度推定値T^stと磁石温度推定値T^pmを算出する。
【0069】
【0070】
【0071】
<式の導出>
d軸およびq軸の電圧外乱オブザーバ12の出力は(13)式、(14)式で表される。ΔLdはd軸インダクタンスのノミナル誤差である。
【0072】
【0073】
【0074】
今回、Lの変動項は考慮しない。誘起電圧の式vemf=(Ldiq+Φ)ωeを代入して整理することで、(15)式、(16)式のように抵抗のノミナル誤差推定値ΔR^aと磁束推定値Φ^を導出することができる。
【0075】
【0076】
【0077】
ここで、抵抗のノミナル誤差ΔRaと磁束Φはそれぞれ固定子温度Tstと磁石温度Tpmに比例すると仮定すると、(17)式、(18)式のように表すことができる。
【0078】
【0079】
【0080】
(17)式,(18)式を(13)式,(14)式に代入して温度に関して整理することで、固定子温度推定値T^stと磁石温度推定値T^pmの算出式(11)式、(12)式を次のように導出することができる。
【0081】
【0082】
【0083】
<シミュレーション結果>
シミュレーション条件について述べる。実施形態1と同様にSimulink(登録商標)を用いたIPMSMの定速運転の際のシミュレーション、および温度推定を行った。
【0084】
プラントのダイナミクスは実施形態1と同じく(7)式を用いた。抵抗および磁束も(5)式,(6)式のように温度に応じて変化させた。ただし、本実施形態2では固定子温度と磁石温度を異なる勾配で変化させる。磁石温度は実施形態1と同じく[勾配10℃/s,開始時間1s後,初期温度60℃]のランプ信号で変化させ、固定子温度は勾配を5℃/sとした。
【0085】
モータ制御は実施形態1と同じくベクトル制御を実装した。dq軸電流についてPI制御器を適用した。本実施形態2ではd軸電流指令値id
*は0.1Aとした。q軸電流指令値iq
*は実施形態1と同じく速度のPI制御で定め、速度指令は10rad/sとした。温度推定器4は本実施形態2のものを用いた。
【0086】
本実施形態2における定速のシミュレーション結果を
図9に示す。
図9(a)は速度の時系列データを表す。実施形態1と同じく、実線は速度指令値を表し、点線は速度応答値を表す。速度応答値が速度指令値に収束していることがわかる。
【0087】
図9(b)は磁石温度を示し、実線は磁石温度応答値、点線は磁石温度推定値((11)式のT^
pm)を示す。実施形態1と同様にランプ状の磁石温度応答値に磁石温度推定値がほぼ追従しており、本実施形態2の温度推定器4が妥当に動作していることが確認できる。
【0088】
図9(c)は固定子温度を示す。実線が固定子温度応答値、点線が固定子温度推定値を示す。こちらも同様に固定子温度推定値((10)式のT^
st)が固定子温度応答値に追従しており、温度推定器4が適切に動作していることがわかる。
【0089】
本実施形態2におけるゼロ速のシミュレーション結果を
図10に示す。
図10(a)は速度の時系列データを表し、速度がゼロで静止していることがわかる。
【0090】
図10(b)は磁石温度の時系列応答を表す。実線の磁石温度応答値のみがプロットされ、点線の磁石温度推定値は生成されていない。本実施形態2ではゼロ速の際に磁石温度を推定できないことがわかる。
【0091】
図10(c)は固定子温度の時系列応答を示す。実線が固定子温度応答値を示し、点線が固定子温度推定値を示す。
図10(c)の固定子温度に関してはランプ状の固定子温度応答値に固定子温度推定値がほぼ追従しており、本実施形態2の推定器が妥当に動作していることが確認できる。
【0092】
以上示したように、本実施形態2によれば、d軸q軸電圧指令値,d軸q軸電流検出値,機械角角速度を入力とすることで、リアルタイムで磁石温度と固定子温度を同時に推定することができる。
【0093】
[実施形態3]
温度推定値を実際にモニタリングする際、各手法は条件によっては温度が算出できない場合がある。本実施形態3では実施形態1,2を組み合わせ、できるだけ多くの条件で温度推定値を表示することを目的とする。
【0094】
本実施形態3における電力変換装置の全体構成を
図11に示す。実施形態1,2の温度推定器4を併行して稼働させ、温度推定値T^,固定子温度推定値T^
st,磁石温度推定値T^
pmを推定選別器19に入力する。推定選別器19では
図12のようなフローチャートで温度推定値T^,固定子温度推定値T^
st,磁石温度推定値T^
pmをモニタに表示する。この推定選別器19により、運転状態に応じて適切な温度推定値T^,固定子温度推定値T^
st,磁石温度推定値T^
pmを見ることができる。電気角角速度ω
e,d軸電流検出値i
d,q軸電流検出値i
qがすべてゼロの場合は温度を表示できないが、それ以外の場合はいずれかの推定値を表示することができる。
【0095】
実施形態1での温度算出式は(1)式で表される。
【0096】
【0097】
分母であるΦnωeβ+Rniqα=0のとき、つまり電気角角速度ωeとq軸電流検出値iqがともにゼロの場合は温度推定値T^を算出できない。
【0098】
実施形態2での温度算出式は(9)式~(12)式で表される。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
d軸電流検出値i
dがゼロのとき、固定子温度推定値T^
stは算出できない。電気角角速度ω
eがゼロまたは抵抗のノミナル誤差推定値ΔR^
aがゼロ(=d軸電流検出値i
dがゼロ)のとき、磁石温度推定値T^
pmは算出できない。これらの条件を整理すること
図12のフローチャートとなる。推定選別器19では、
図12のフローチャートの処理を行う。
【0104】
図12に示すように、電気角角速度ω
e,d軸電流検出値i
d,q軸電流検出値i
q,温度推定値T^,固定子温度推定値T^
st,磁石温度推定値T^
pmを入力する。
【0105】
S1では、d軸電流検出値idが0か否か判定する。d軸電流検出値idが0でない場合はS2へ移行し、d軸電流検出値idが0の場合はS3へ移行する。
【0106】
S2では、電気角角速度ωeが0か否かを判定する。電気角角速度ωeが0の場合はS4へ移行して固定子温度推定値T^stを表示し、電気角角速度ωeが0でない場合はS5へ移行して固定子温度推定値T^stと磁石温度推定値T^pmを表示する。
【0107】
S3では、電気角角速度ωeが0かつq軸電流検出値iqが0であるか否かを判定し、電気角角速度ωeが0かつq軸電流検出値iqが0であればS6へ移行し、それ以外の場合はS7へ移行する。S6の場合は温度を表示できない。S7では、温度推定値T^を表示する。
【0108】
すなわち、推定選別器19は、d軸電流検出値idが0でなく、電気角角速度ωeが0でない場合は固定子温度推定値T^stと磁石温度推定値T^pmを表示する。d軸電流検出値idが0でなく、電気角角速度ωeが0の場合は固定子温度推定値T^stを表示する。d軸電流検出値idが0であり、電気角角速度ωeおよびq軸電流検出値iqのうち少なくとも何れか一方が0でない場合は温度推定値T^を表示する。d軸電流検出値idが0であり、電気角角速度ωeが0かつq軸電流検出値iqが0の場合はいずれの推定値も表示しない。
【0109】
以上示したように、本実施形態3によれば、d軸q軸電圧指令値,d軸q軸電流検出値,機械角角速度を入力とすることで、電気角角速度ωe,d軸電流検出値id,q軸電流検出値iqがすべてゼロの場合を除いてリアルタイムに適切な温度推定値を表示することができる。
【0110】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0111】
1…コントローラ
2…電流制御器
3…二相三相変換器
4…温度推定器
5…三相二相変換器
6…角速度出力部
7…インバータ
8…モータ
9…負荷
10…回転位置センサ
11…電流検出器
12…電圧外乱オブザーバ
13…極対数乗算器
14…温度算出器
15、17…乗算器
16…減算器
18…抵抗・磁束推定器
19…推定選別器