(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】絶縁体の塗装方法および塗装装置
(51)【国際特許分類】
B05D 1/04 20060101AFI20241203BHJP
B05B 5/08 20060101ALI20241203BHJP
B05B 5/025 20060101ALI20241203BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20241203BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B05D1/04 K
B05B5/08 B
B05B5/025
B05D7/00 K
B05D3/00 G
(21)【出願番号】P 2021120190
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 一基
(72)【発明者】
【氏名】谷 真二
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛志
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03484275(US,A)
【文献】実開平04-099247(JP,U)
【文献】特開昭60-012159(JP,A)
【文献】特開昭61-249570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/04
B05B 5/08
B05B 5/025
B05D 7/00
B05D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体の塗装方法であって、
前記絶縁体の被塗装面の反対側に、帯電させた導体を接触または近接させながら、前記絶縁体の被塗装面に向けて、帯電されていない塗料ミス
トを吐出することによって、前記絶縁体の被塗装面を塗装する塗装工程を含
み、
前記塗装工程は、前記導体を帯電させるための通電が行われた状態で、且つ前記塗料ミストを吐出する吐出装置がアース状態で行われ、
前記塗装工程の終了後、前記導体への通電を停止し、該導体をアースすることによって当該導体および前記絶縁体の除電を行う除電工程を含むことを特徴とする絶縁体の塗装方法。
【請求項2】
絶縁体の塗装方法であって、
前記絶縁体の被塗装面の反対側に、帯電させた導体を接触または近接させながら、前記絶縁体の被塗装面に向けて、前記導体とは逆極性の電荷で且つ該導体よりも絶対値が低い電位に帯電された塗料ミストを吐出することによって、前記絶縁体の被塗装面を塗装する塗装工程を含み、
前記塗装工程は、前記導体を帯電させるための通電が行われた状態で、且つ前記塗料ミストを吐出する吐出装置が前記導体とは逆極性の電荷で且つ該導体よりも絶対値が低い電位に帯電された状態で行われ、
前記塗装工程の終了後、前記導体への通電を停止し、該導体をアースすることによって当該導体および前記絶縁体の除電を行う除電工程を含むことを特徴とする絶縁体の塗装方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の絶縁体の塗装方法において、
前記導体をアースするアース経路には、非導電性の部材によって囲まれた空間が含まれており、前記除電工程は、前記空間の気圧を低下させ、該空間で真空放電を生じさせることで行われることを特徴とする絶縁体の塗装方法。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の絶縁体の塗装方法において、
前記塗装工程は、前記導体が非導電性の部材によって支持された状態で行われることを特徴とする絶縁体の塗装方法。
【請求項5】
絶縁体の塗装装置であって、
前記絶縁体の被塗装面の反対側の面に接触または近接する導体と、
前記導体を帯電させるための帯電ユニットと、
前記絶縁体の被塗装面に向けて、帯電されていない塗料ミストを吐出する吐出装置と、を備え、
前記帯電ユニットは、前記絶縁体の被塗装面に向けて塗料ミストを吐出する塗装工程において前記導体を帯電させるための通電を継続的に行う構成となっている一方、前記吐出装置はアースされており、
前記帯電ユニットは、前記塗装工程の終了後、前記導体への通電を停止する構成となっており、
前記導体をアース状態と絶縁状態との間で切り替え可能な除電ユニットを備えていることを特徴とする絶縁体の塗装装置。
【請求項6】
絶縁体の塗装装置であって、
前記絶縁体の被塗装面の反対側の面に接触または近接する導体と、
前記導体を帯電させるための帯電ユニットと、
前記絶縁体の被塗装面に向けて、前記導体とは逆極性の電荷で且つ該導体よりも絶対値が低い電位に帯電された塗料ミストを吐出する吐出装置と、を備え、
前記帯電ユニットは、前記絶縁体の被塗装面に向けて塗料ミストを吐出する塗装工程において前記導体を帯電させるための通電を継続的に行う構成となっている一方、前記吐出装置は前記導体とは逆極性の電荷で且つ該導体よりも絶対値が低い電位に帯電される構成となっており、
前記帯電ユニットは、前記塗装工程の終了後、前記導体への通電を停止する構成となっており、
前記導体をアース状態と絶縁状態との間で切り替え可能な除電ユニットを備えていることを特徴とする絶縁体の塗装装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の絶縁体の塗装装置において、
前記除電ユニットは、前記導体とアースとの間に配設され且つ非導電性の部材で構成された除電管、および、該除電管の内部の気圧を調整する気圧調整ユニットを備えていることを特徴とする絶縁体の塗装装置。
【請求項8】
請求項5、6または7記載の絶縁体の塗装装置において、
前記導体は非導電性の支持部材によって支持されていることを特徴とする絶縁体の塗装装置。
【請求項9】
請求項5~8のうち何れか一つに記載の絶縁体の塗装装置において、
前記導体は、前記絶縁体を支持する治具であることを特徴とする絶縁体の塗装装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁体の塗装方法および塗装装置に係る。特に、本発明は、塗装品質を高めるための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の樹脂製バンパ等の樹脂成形品は表面の電気抵抗値が高い所謂絶縁体(不導体)である。このため、この種の絶縁体の表面(被塗装面)を塗装するに当たって塗着効率を高めるべく静電塗装を行う場合には、前記絶縁体に導電性材料を塗装して導体としておき、この絶縁体をアースしながら、帯電させた塗料ミストを絶縁体の被塗装面に向けて吐出することが行われていた。しかし、この場合、導電性材料を塗装するに当たっての専用材料や専用工程が必要でありコストの高騰等を招いていた。
【0003】
絶縁体に導電性材料を塗装するといった工程を必要とすることなく被塗装面を帯電させる技術を開示するものとして特許文献1がある。この特許文献1には、塗料をマイナスに印加(帯電)して絶縁体の被塗装面に静電塗装を行うに当たり、塗装前に絶縁体の被塗装面をプラスに帯電させることが開示されている。具体的には、被塗装面に高電圧発生器のプラス電極を対面させ、該プラス電極をプラスに印加してコロナ放電により空気をプラスにイオン化し、このプラスにイオン化された空気により被塗装面をプラスに帯電させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術にあっては、絶縁体の被塗装面を高電圧発生器によって直接的に帯電させるものであることから、被塗装面上における電荷の分布にバラツキが生じる可能性があり、被塗装面の帯電状態を所望の状態として得ることが困難であった。例えば、被塗装面の所望の領域を均一に帯電させたり、被塗装面の全体を均一に帯電させたりすることが困難であり、静電塗装による塗装状態として所望の状態を得ることが難しく塗装品質を高めるには限界があった。
【0006】
また、特許文献1にも開示されているように、静電塗装では、塗料ミストを比較的高い電圧で帯電(マイナスに帯電)させるようにしており、絶縁体の塗装を行う場合には、被塗装面に塗着した塗料ミストの電荷が絶縁体上に残存しやすく、その後に被塗装面に向けて吐出されてくる塗料ミストと電気的に反発してしまって塗装膜の膜厚を十分に得ることが難しく、このことも塗装品質を高めることに限界がある要因の一つであった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、絶縁体の被塗装面を塗装するに際し、塗装品質を高めることができる絶縁体の塗装方法および塗装装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、絶縁体の塗装方法を前提とし、前記絶縁体の被塗装面の反対側に、帯電させた導体を接触または近接させながら、前記絶縁体の被塗装面に向けて、帯電されていない塗料ミストを吐出することによって、前記絶縁体の被塗装面を塗装する塗装工程を含み、前記塗装工程は、前記導体を帯電させるための通電が行われた状態で、且つ前記塗料ミストを吐出する吐出装置がアース状態で行われ、前記塗装工程の終了後、前記導体への通電を停止し、該導体をアースすることによって当該導体および前記絶縁体の除電を行う除電工程を含むことを特徴とする。
【0009】
この特定事項により、塗装工程においては、帯電した導体が絶縁体に接触または近接していることにより、絶縁体の被塗装面に向けて吐出された塗料ミストが被塗装面に引きつけられて該被塗装面が塗装されることになる。このような絶縁体の帯電形態(帯電させた導体を接触または近接させることで絶縁体を帯電させる形態)にあっては、絶縁体の被塗装面を直接的に帯電させる場合(従来技術)に比べて、被塗装面上における電荷の分布のバラツキを緩和することができ、被塗装面の帯電状態を所望の状態として得ることが可能になる。例えば被塗装面の所望の領域を均一に帯電させたり、被塗装面の全体を均一に帯電させたりすることができる。被塗装面の帯電状態は、静電塗装における塗装の仕上がりに大きく影響を及ぼすことになるため、被塗装面の帯電状態を所望の状態として得ることが可能となることによって高い塗装品質を得ることができる。また、塗料ミストは、帯電されていないものとなっている。このため、絶縁体上に残存する塗料ミストの電荷が原因で塗料ミスト同士が電気的に反発してしまうといったことを抑制でき、塗装膜の膜厚を十分に得ることが可能になり、これによっても高い塗装品質を得ることができる。
また、前記塗装工程は、帯電されていない塗料ミストを使用する場合の塗装工程である。これによれば、帯電状態の制御としては絶縁体を帯電させるための導体の通電のみを制御すればよく、吐出装置を帯電させるための通電制御を行う必要がない。このため、比較的簡単な制御で、絶縁体の被塗装面の帯電状態を所望の状態として得ることが可能になり、高い塗装品質を得ることができる。
また、帯電した絶縁体をアースして除電する場合に比べて、導体をアースすることによる導体および絶縁体の迅速且つ確実な除電が可能になり、前記塗装工程および除電工程を含む工程のタクトタイムの短縮化を図ることができ、効率の良い塗装方法を実現することができる。
【0012】
また、前記の目的を達成するための本発明の他の解決手段としては、絶縁体の塗装方法を前提とし、前記絶縁体の被塗装面の反対側に、帯電させた導体を接触または近接させながら、前記絶縁体の被塗装面に向けて、前記導体とは逆極性の電荷で且つ該導体よりも絶対値が低い電位に帯電された塗料ミストを吐出することによって、前記絶縁体の被塗装面を塗装する塗装工程を含み、前記塗装工程は、前記導体を帯電させるための通電が行われた状態で、且つ前記塗料ミストを吐出する吐出装置が前記導体とは逆極性の電荷で且つ該導体よりも絶対値が低い電位に帯電された状態で行われ、前記塗装工程の終了後、前記導体への通電を停止し、該導体をアースすることによって当該導体および前記絶縁体の除電を行う除電工程を含むことを特徴とする。
【0013】
この塗装工程は、導体とは逆極性の電荷で且つ該導体よりも絶対値が低い電位に帯電された塗料ミストを使用する場合の塗装工程である。これによれば、導体によって帯電される絶縁体と吐出装置から吐出される塗料ミストとの電位差を大きくすることが可能になり(帯電されていない塗料ミストを使用する場合に比べて電位差を大きくすることが可能になり)、塗料ミストに作用する被塗装面に向けての引力を大きく得ることができる。その結果、塗料ミストを効果的に絶縁体の被塗装面に塗着させることができ、無駄となる塗料(絶縁体の被塗装面に塗着しなかった塗料;オーバスプレーミスト)を削減することができる。
【0016】
また、前記導体をアースするアース経路には、非導電性の部材によって囲まれた空間が含まれており、前記除電工程は、前記空間の気圧を低下させ、該空間で真空放電を生じさせることで行われる。
【0017】
これによれば、空間の気圧を調整することによってアース経路の電気抵抗の調整を行い、これによって真空放電を生じさせるタイミングを調整することができる。このため、除電工程の実施タイミングを容易に調整することが可能になる。
【0020】
また、前記塗装工程は、前記導体が非導電性の部材によって支持された状態で行われる。
【0021】
これによれば、塗装工程では、導体はアースされていない状態(絶縁状態)であるため、導体における電荷を高く維持した状態で絶縁体の被塗装面を塗装することができる。つまり、絶縁体と塗料ミストとの電位差が大きい状態を維持することができ、塗料ミストに作用する被塗装面に向けての引力を大きく得ることができて、無駄となる塗料を削減することができる。
【0022】
前述した塗装方法を実施するための塗装装置も本発明の技術的思想の範疇である。つまり、絶縁体の塗装装置を前提とし、前記絶縁体の被塗装面の反対側の面に接触または近接する導体と、前記導体を帯電させるための帯電ユニットと、前記絶縁体の被塗装面に向けて、帯電されていない塗料ミストを吐出する吐出装置と、を備え、前記帯電ユニットは、前記絶縁体の被塗装面に向けて塗料ミストを吐出する塗装工程において前記導体を帯電させるための通電を継続的に行う構成となっている一方、前記吐出装置はアースされており、前記帯電ユニットは、前記塗装工程の終了後、前記導体への通電を停止する構成となっており、前記導体をアース状態と絶縁状態との間で切り替え可能な除電ユニットを備えていることを特徴とする。
【0023】
この塗装装置によって実施される塗装動作にあっては、帯電ユニットが導体を帯電させ、この導体が絶縁体の被塗装面の反対側の面に接触または近接することで、該絶縁体が帯電する。この状態で、吐出装置から絶縁体の被塗装面に向けて塗料ミストが吐出され、この塗料ミストが絶縁体の被塗装面に引きつけられて該被塗装面が塗装されることになる。前述したように、このような絶縁体の帯電形態にあっては、絶縁体の被塗装面を直接的に帯電させる場合に比べて、被塗装面上における電荷の分布のバラツキを緩和することができ、被塗装面の帯電状態を所望の状態として得ることが可能となることによって高い塗装品質を得ることができる。また、吐出装置から吐出される塗料ミストは、帯電されていないものとなっている。このため、絶縁体上に残存する塗料ミストの電荷が原因で塗料ミスト同士が電気的に反発してしまうといったことを抑制でき、塗装膜の膜厚を十分に得ることが可能になり、これによっても高い塗装品質を得ることができる。
また、前記塗装工程は、帯電されていない塗料ミストを吐出する吐出装置を備えた場合である。これによれば、帯電状態の制御としては絶縁体を帯電させるための導体の通電のみを制御すればよく、比較的簡単な制御で、絶縁体の被塗装面の帯電状態を所望の状態として得ることが可能になり、高い塗装品質を得ることができる。
また、塗装工程の終了後には、除電ユニットにより導体がアース状態に切り替えられることにより、導体および絶縁体が除電される。このため、帯電した絶縁体をアースして除電する場合に比べて、導体および絶縁体の迅速且つ確実な除電が可能になり、前記塗装工程および除電工程を含む工程のタクトタイムの短縮化を図ることができる。
【0026】
また、前記の目的を達成するための本発明の他の解決手段としては、絶縁体の塗装装置を前提とし、前記絶縁体の被塗装面の反対側の面に接触または近接する導体と、前記導体を帯電させるための帯電ユニットと、前記絶縁体の被塗装面に向けて、前記導体とは逆極性の電荷で且つ該導体よりも絶対値が低い電位に帯電された塗料ミストを吐出する吐出装置と、を備え、前記帯電ユニットは、前記絶縁体の被塗装面に向けて塗料ミストを吐出する塗装工程において前記導体を帯電させるための通電を継続的に行う構成となっている一方、前記吐出装置は前記導体とは逆極性の電荷で且つ該導体よりも絶対値が低い電位に帯電される構成となっており、前記帯電ユニットは、前記塗装工程の終了後、前記導体への通電を停止する構成となっており、前記導体をアース状態と絶縁状態との間で切り替え可能な除電ユニットを備えていることを特徴とする。
【0027】
これは、導体とは逆極性の電荷で且つ該導体よりも絶対値が低い電位に帯電された塗料ミストを吐出する吐出装置を備えた場合である。これによれば、導体によって帯電される絶縁体と吐出装置から吐出される塗料ミストとの電位差を大きくすることが可能になり、塗料ミストに作用する被塗装面に向けての引力を大きく得ることができる。その結果、塗料ミストを効果的に絶縁体の被塗装面に塗着させることができ、無駄となる塗料を削減することができる。
【0030】
また、前記除電ユニットは、前記導体とアースとの間に配設され且つ非導電性の部材で構成された除電管、および、該除電管の内部の気圧を調整する気圧調整ユニットを備えている。
【0031】
これによれば、除電管の内部の気圧を調整することによって、導体とアースとの間に亘るアース経路の電気抵抗の調整を行い、これによって真空放電を生じさせるタイミングを調整することができる。このため、除電を行うタイミングを容易に調整することが可能になる。
【0034】
また、前記導体は非導電性の支持部材によって支持されている。
【0035】
これによれば、塗装工程では、導体はアースされていない状態(絶縁状態)であるため、導体における電荷を高く維持した状態で絶縁体の被塗装面を塗装することができる。つまり、絶縁体と塗料ミストとの電位差が大きい状態を維持することができ、塗料ミストに作用する被塗装面に向けての引力を大きく得ることができて、無駄となる塗料を削減することができる。
【0036】
また、前記導体は、前記絶縁体を支持する治具である。
【0037】
絶縁体を帯電させるための導体が、絶縁体を支持する治具としての機能を兼ね備えていることにより、個別に治具を設ける必要がなくなり、塗装装置の構成の簡素化を図ることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明では、絶縁体の被塗装面の反対側に、帯電させた導体を接触または近接させながら、絶縁体の被塗装面に向けて塗料ミストを吐出することによって、絶縁体の被塗装面を塗装するようにしている。このため、絶縁体の被塗装面を直接的に帯電させる場合に比べて、被塗装面の帯電状態を所望の状態として得ることが可能になる。また、塗装工程では、帯電されていない塗料ミスト、または、導体とは逆極性の電荷で且つ該導体よりも絶対値が低い電位に帯電された塗料ミストを絶縁体の被塗装面に向けて吐出している。このため、絶縁体上に残存する塗料ミストの電荷が原因で塗料ミスト同士が電気的に反発してしまうといったことを抑制でき、塗装膜の膜厚を十分に得ることが可能になる。これらの作用によって、高い塗装品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】実施形態に係る塗装装置の概略構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係る塗装方法の手順を説明するためのシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車の樹脂製バンパ(例えばフロントバンパであって本発明でいう絶縁体)を静電塗装によって塗装する場合を例に挙げて説明する。尚、樹脂製バンパは、例えばポリプロピレンの射出成型品であって、自動車に取り付けられた状態で外側から目視可能な外面が被塗装面とされ、該被塗装面が静電塗装されることになる。
【0041】
-塗装装置の概略構成-
図1は、本実施形態に係る塗装装置1の概略構成を示す図である。この
図1に示すように、塗装装置1は、導体2、支持部材3、帯電ユニット4、除電ユニット5、塗装機(吐出装置;
図4を参照)6を含んだ構成となっている。以下、それぞれについて具体的に説明する。
【0042】
(導体)
導体2は、バンパW(
図3を参照)を支持すると共に、該バンパWの裏面(被塗装面W1の反対側の面)に接触することによって当該バンパWをマイナスに帯電させる(帯電ユニット4から受けたマイナスの電荷をバンパWに与えることでマイナスに帯電させる)ための導電性を有する金属製の部材である。
【0043】
具体的に、導体2は、水平方向に延在するベース部21と、該ベース部21の下面の中央部から下方に延在する円柱状または角柱状の支柱部22と、ベース部21の上面に立設された複数の接触体23,23,…と、ベース部21の下面の所定位置(
図1にあっては支柱部22の左側の位置)から下方に延在する受電部24とを備えている。
【0044】
前記接触体23の構成は特に限定されるものではないが、導体2によってバンパWを支持した際に(
図3に示す状態を参照)、各接触体23,23,…の上端部がバンパWの裏面に接触するようにそれぞれの高さ寸法が設定されている。本実施形態において静電塗装が行われるバンパWはその長手方向(車体に装着された場合の車幅方向)の中央部分が車両前方に向けて僅かに膨出するように湾曲されている。また、導体2にバンパWが支持された状態では、
図3に示すように、バンパWの前方(車体に装着された場合の前方)が上方を向くように導体2上に載置される。このため、各接触体23,23,…は、中央側に位置する接触体23ほど高さ寸法が長く設定されて上端部の位置が高い位置に設定されており、導体2にバンパWが支持された状態では、各接触体23,23,…それぞれの上端部がバンパWの裏面に接触するようになっている。尚、各接触体23,23,…はそれぞれが独立した柱状であってもよいし、それぞれの上端同士が連結されたフレーム状とされていてもよい。また、
図1には示していないが、各接触体23,23,…は、バンパWを安定的に支持するために、
図1の紙面に直交する方向に複数本配設されている。
【0045】
尚、この導体2によるバンパWの支持状態としては、導体2にバンパWが固定(図示しない締結具等により固定)された状態で支持されるようになっていてもよいし、固定されることなく(単に載置された状態で)支持されるようになっていてもよい。
【0046】
このように、本実施形態に係る導体2は、バンパWをマイナスに帯電させる機能とバンパWを支持する治具としての機能とを兼ね備えたものとなっている。
【0047】
(支持部材)
支持部材3は、導体2を支持するための部材であって、該導体2の支柱部22の下端に接続されている。この支持部材3は、導体2の支柱部22の下端に接続された樹脂製の非導電性支柱部(非導電性の部材)31および該非導電性支柱部31の下端に接続された金属製のベース支柱部32を備えている。このベース支柱部32が床面(図示しない塗装ブースの床面)Fに立設されており、これにより、導体2は、支持部材3によって床面F上に支持された構成となっている。つまり、支持部材3が非導電性支柱部31を備えているため、導体2は床面Fから絶縁(電気的に絶縁)された状態で支持されている。導体2を床面Fから絶縁するための構成としてはこれに限定されるものではない。
【0048】
(帯電ユニット)
帯電ユニット4は、導体2に通電を行って該導体2をマイナス帯電させるためのユニットである。
【0049】
帯電ユニット4は、高電圧発生器としてのカスケード41、および、該カスケード41を制御する高圧コントローラ42を備えている。
【0050】
カスケード41は、電力線43を介して導体2の受電部24に接続されており、これら電力線43および受電部24を経て導体2に負極性(マイナス)の静電高電圧を印加し、導体2の全体をマイナスに帯電させるようになっている。
【0051】
高圧コントローラ42は、カスケード41に接続され、カスケード41から出力する電圧(負極性の静電高電圧)の出力の開始および停止を制御すると共に、この電圧を任意の値に設定可能となっている。尚、このカスケード41から出力する電圧(導体2をマイナスに帯電させる電位)としては特に限定されるものではないが、後述する静電塗装において、塗装機6から吐出される塗料ミストとの電位差を大きく確保して、無駄となる塗料(オーバスプレーミスト)を十分に削減できる値として実験的にまたは経験的に設定されたものである。
【0052】
(除電ユニット)
除電ユニット5は、除電管51、気圧調整ユニット52、および、除電コントローラ53を備えている。
【0053】
除電管51は樹脂製のパイプ(非導電性の部材)で構成されている。この除電管51の上端部は金属製の上側導体51aによって閉塞されている。この上側導体51aは導体2の支柱部22に接続されており、この支柱部22と電気的に導通されている。
【0054】
また、除電管51の下部には金属製のアース配管51bが取り付けられており、このアース配管51bにはアース線51cが接続されている。このアース線51cはアース(接地)されている。
【0055】
気圧調整ユニット52は、水平方向に延在するエア配管52aを備えている。このエア配管52aには、前記除電管51の下端部が接続されており、これらエア配管52aの内部空間と除電管51の内部空間とが連通している。
【0056】
また、エア配管52aの一端(
図1における右端)には真空ポンプ52bが接続されている。また、エア配管52aには真空レギュレータ52cが取り付けられており、真空ポンプ52bが作動して、エア配管52aの内部空間および除電管51の内部空間が真空引きされる際にはこれらの内部圧力が真空レギュレータ52cによって調整可能となっている。
【0057】
除電コントローラ53は、真空ポンプ52bおよび真空レギュレータ52cに接続され、真空ポンプ52bのON/OFF制御、および、真空レギュレータ52cの制御(除電管51の内部空間の圧力を調整するための制御)を行う。つまり、導体2が帯電した状態において、除電コントローラ53からの制御信号によって真空ポンプ52bが作動し、真空レギュレータ52cの制御によって除電管51の内部空間の圧力が調整され、この圧力が所定以下に達した際に(除電管51の内部空間の空気量が所定量以下となった際に)、除電管51の内部で真空放電が行われ、導体2からアース線51cに亘るアース経路での通電が可能となって、導体2の電荷がアース線51cを介してアースされるようになっている。
【0058】
(塗装機)
図4に示すように、塗装機6は、塗料を微粒化(霧化)して塗料ミストを生成し、この塗料ミストをバンパWの被塗装面W1に向けて吐出するスプレーガン61と、該スプレーガン61を移動させる図示しない多関節ロボットと、スプレーガン61および多関節ロボットの作動を制御する塗装機コントローラ62とを備えている。
【0059】
スプレーガン61において塗料を微粒化する方式としては、エアを使って塗料を微粒化するエア霧化方式(エアスプレーガン方式)、塗料液圧を使って微粒化する液圧霧化方式(エアレススプレーガン方式)、回転する霧化頭を使って塗料を微粒化する回転霧化方式が挙げられる。本実施形態に係る塗装機6のスプレーガン61としてはエア霧化方式が採用されているが、他の方式を採用してもよいし、これら方式のうち複数を組み合わせたものとしてもよい。
【0060】
また、塗装機6はアース(接地)されており、スプレーガン61からバンパWの被塗装面W1に向けて吐出される塗料ミストが帯電されないものとなっている。この塗装機6のアースの形態としては、図示しないアース線が接続された構成や、多関節ロボットを介してアースされる構成等が挙げられる。
【0061】
尚、本実施形態において塗装機6から吐出される塗料としては水性塗料が使用される。塗料の種類としては特に問うものではなく、溶剤系塗料を使用することも可能である。
【0062】
塗装機コントローラ62は、後述する静電塗装において、スプレーガン61および多関節ロボットの作動を制御し、スプレーガン61からの塗料ミストの吐出と、該塗料ミストの吐出方向がバンパWの被塗装面W1に向くように多関節ロボットの稼働とを制御する。具体的に、塗装機コントローラ62には、予めオフラインティーチングによって、塗装対象であるバンパWの被塗装面W1に向けてスプレーガン61を移動させるための情報(多関節ロボットの各関節の回動角度量等の情報)が記憶されている。そして、静電塗装時には、塗装機コントローラ62からの制御信号に従い、前記情報に基づいて多関節ロボットが作動することで、スプレーガン61が塗装対象箇所に対向され、このスプレーガン61から塗料ミストが吐出されることでバンパWの被塗装面W1が塗装されていくことになる。
【0063】
前述した各コントローラ(高圧コントローラ42、除電コントローラ53、および、塗装機コントローラ62)は、信号線によって接続され、互いに情報の送受信が可能となっており、この信号の送受信に従って各デバイス(カスケード41、真空ポンプ52b、真空レギュレータ52c、スプレーガン61および多関節ロボット)に対する制御の開始および終了を指令する指令信号を送信する。
【0064】
-塗装方法の手順-
次に、前述の如く構成された塗装装置1による塗装方法の手順について説明する。
図2は、この塗装方法の手順を説明するためのシーケンス図である。
【0065】
この塗装方法の手順としては、
図2に示すように、塗装準備工程としてのアースoff工程および高電圧印加工程、塗装工程、高電圧解除工程、除電工程が順に行われる。以下、具体的に説明する。
【0066】
尚、静電塗装の前処理として、従来の静電塗装の場合と同様に、バンパWの被塗装面W1に付着した油脂分を分解する脱脂処理、この分解した油脂分および脱脂用液を洗い流す洗浄処理、洗浄水を蒸発させる乾燥処理が施される。
【0067】
図3は、塗装準備工程(アースoff工程および高電圧印加工程)を説明するための図である。
【0068】
アースoff工程は、除電ユニット5の除電コントローラ53から真空ポンプ52bに対してポンプ停止指令信号が出力されると共に真空レギュレータ52cに圧力調整停止指令信号が出力され、これによってエア配管52aの内部空間および除電管51の内部空間が大気に開放される等して所定値以上の圧力(真空放電が生じない圧力)に設定される。このアースoff工程は、導体2上にバンパ(未塗装のバンパ)Wを載置した状態で行ってもよいし、導体2上にバンパWを載置する前に行ってもよい。
【0069】
このアースoff工程が終了すると、除電コントローラ53から高圧コントローラ42に向けてアースoff完了信号が出力される。高圧コントローラ42がアースoff完了信号を受信することに伴い高電圧印加工程が開始される。この高電圧印加工程は、高圧コントローラ42からカスケード41に向けて高電圧印加指令信号が出力され、これによってカスケード41は、電力線43および受電部24を経て導体2にマイナスの静電高電圧を印加し、導体2の全体がマイナスに帯電される。この導体2に対するマイナスの静電高電圧の印加は、後述する塗装完了信号(塗装機コントローラ62からの塗装完了信号)を受信するまで継続(塗装工程中において継続)される。
【0070】
この高電圧印加工程によって導体2の全体が所定の電位(マイナスの電位)まで帯電されると、高圧コントローラ42から塗装機コントローラ62に向けて高電圧印加完了信号が出力される。塗装機コントローラ62が高電圧印加完了信号を受信することに伴い塗装工程が開始される。この塗装工程は、塗装機コントローラ62からスプレーガン61および多関節ロボットに向けて塗装指令信号が出力され、これによってスプレーガン61からの塗料ミストの吐出、および、該塗料ミストの吐出方向がバンパWに向くように多関節ロボットの稼働が制御されることになる。
図4は、この塗装工程を説明するための図である。
図4において実線で示すスプレーガン61は、バンパWの前面(車体に装着された場合の前面)を塗装している状態を示しており、二点鎖線で示すスプレーガン61は、バンパWの側面(車体に装着された場合の側面)を塗装している状態を示している。
【0071】
この塗装工程では、スプレーガン61からバンパWの被塗装面W1に向けて吐出された塗料ミストがバンパWの被塗装面W1に引きつけられて該被塗装面W1が塗装されることになる。この際、スプレーガン61から吐出された塗料ミストは、帯電しているバンパWの被塗装面W1に近づくことで静電気を帯びることになるため、静電引力に沿って導体2および被塗装面W1に向かって飛行することになり、被塗装面W1に塗着することになる。また、この塗料ミストは、空気中の浮遊ダストに比べて質量が大きいので、前記静電引力が浮遊ダストよりも大きく働くことになり、浮遊ダストよりも優先して被塗装面W1に向かって飛行して該被塗装面W1に塗着することになる。
【0072】
このような塗装工程が所定時間行われ、塗装工程が終了すると、塗装機コントローラ62から高圧コントローラ42に向けて塗装完了信号が出力される。高圧コントローラ42が塗装完了信号を受信することに伴い高電圧解除工程が開始される。この高電圧解除工程は、高圧コントローラ42からカスケード41に向けて高電圧印加解除指令信号が出力され、これによってカスケード41は、電力線43および受電部24を経て導体2に印加していたマイナスの静電高電圧を解除(電荷の供給を解除)する。これにより、導体2にマイナスの電荷が供給されることはなくなるが、前述したように導体2は床面Fから絶縁された状態で支持されているため、該導体2にはマイナスの電荷が残存した状態にある。
【0073】
高電圧解除工程によって導体2への電荷の供給が解除されると、高圧コントローラ42から除電コントローラ53に向けて高電圧解除完了信号が出力される。除電コントローラ53が高電圧解除完了信号を受信することに伴い除電工程が開始される。この除電工程は、除電コントローラ53から真空ポンプ52bに対してポンプ作動指令信号が出力されると共に真空レギュレータ52cに圧力調整指令信号が出力され、これによって真空ポンプ52bが作動し、真空レギュレータ52cの制御によって除電管51の内部空間の圧力が調整される。そして、この圧力が所定以下に達した際に(除電管51の内部空間の空気量が所定量以下となった際に)、除電管51の内部で真空放電が行われ、導体2からアース線51cに亘るアース経路での通電が可能となって、導体2の電荷がアース線51cを介してアースされることになる。
図5は、この除電工程を説明するための図である。
図5に破線で示す矢印のように、導体2からアース線51cに亘るアース経路(導体2、上側導体51a、除電管51の内部空間、アース配管51b、アース線51c)で通電が可能となって、導体2がアースされる。
【0074】
このような除電工程によって、導体2およびバンパWに残存している電荷が排出され、これら導体2およびバンパWが除電される。このように除電管51の内部での真空放電を利用した除電工程が行われることにより、導体2およびバンパWは、瞬時に除電される。
【0075】
以上の動作により、バンパWにおける一つの塗装膜の生成が完了する。
【0076】
尚、バンパWの塗装膜は多層膜として構成される。例えば、被塗装面W1の表面にベース塗装膜が生成され、このベース塗装膜の表面にカラー塗装膜が生成され、このカラー塗装膜の表面にクリヤ塗装膜が生成されて成る3層膜として塗装膜は構成される。前述した塗装装置1による塗装方法は、何れの塗装膜を生成する場合にも適用が可能である。そして、全ての塗装膜の生成に対して前述の塗装方法を適用する場合、一つの塗装膜を生成し、その後、塗料の乾燥工程を経た後、次の塗装膜の生成動作に移ることになる。つまり、3層膜を生成する場合、前述した塗装方法の手順が3回繰り返されることになる。
【0077】
以上の塗装動作が終了すると、導体2からバンパWが離脱され(搬送ロボットまたは作業者により離脱され)、該バンパWは車体組立ラインへと搬送されて車体に組み付けられることになる。
【0078】
-実施形態の効果-
以上説明したように本実施形態では、絶縁体であるバンパWの被塗装面W1の反対側(バンパWの裏面)に、帯電させた導体2を接触させながら、バンパWの被塗装面W1に向けて塗装機6のスプレーガン61から塗料ミストを吐出することによって、バンパWの被塗装面W1を塗装するようにしている。このため、バンパWの被塗装面W1を直接的に帯電させる場合(前述した特許文献1の技術)に比べて、被塗装面W1上における電荷の分布のバラツキを緩和することができ、被塗装面W1の帯電状態を所望の状態として得ることが可能になる。例えばバンパWの全体を均一に帯電させることができる。被塗装面W1の帯電状態は、静電塗装における塗装の仕上がりに大きく影響を及ぼすことになるため、被塗装面W1の帯電状態を所望の状態として得ることが可能となることによって高い塗装品質を得ることができる。
【0079】
また、一般的な静電塗装では、塗料ミストをマイナスに帯電させるようにしており、絶縁体の塗装を行う場合には、被塗装面に塗着した塗料ミストの電荷が絶縁体上に残存し、その後に被塗装面に向けて吐出されてくる塗料ミストと電気的に反発してしまって塗装膜の膜厚を十分に得ることが難しく高い塗装品質を得ることが困難であったが、本実施形態では、塗装機6がアースされていることで、塗料ミストを帯電させないものとしているため、塗料ミスト同士が電気的に反発してしまうことを抑制でき、塗装膜の膜厚を十分に得ることが可能になり、これによっても高い塗装品質を得ることができる。
【0080】
また、前述した特許文献1は絶縁体をプラスに帯電させるものであるが、ポリプロピレン等の樹脂材料はプラスに帯電させ難い。本実施形態では、絶縁体(バンパW)をマイナスに帯電させるものであるため、絶縁体として採用可能な材質が多種類に亘ることになり、汎用性の高いものである。
【0081】
また、本実施形態では、絶縁体であるバンパWに導電性材料を塗装するといった工程を必要としない。このため、導電性材料を塗装する場合の専用材料や専用工程が必要なく、コストの低廉化を図ることができる。また、この導電性材料を塗装する場合、導電性材料はカーボン等の導電顔料を含むため、静電塗装において所望の発色が得られない場合があったが、本実施形態では、導電性材料を塗装する工程を必要としないことから所望の発色を得ることができ、これによっても高い塗装品質を得ることができる。
【0082】
また、本実施形態では、帯電ユニット4による導体2への通電が行われた状態で且つ塗装機6がアース状態で塗装工程が行われるようになっているため、帯電状態の制御としてはバンパWを帯電させるための導体2の通電のみを制御すればよく(高圧コントローラ42による制御のみを行えばよく)、塗装機6を帯電させるための通電制御を行う必要がない。このため、比較的簡単な制御で、バンパWの被塗装面W1の帯電状態を所望の状態として得ることが可能になり、高い塗装品質を得ることができる。
【0083】
また、本実施形態では、塗装工程の終了後、導体2への通電を停止し、除電ユニット5の作動によって導体2をアースすることによって当該導体2およびバンパWの除電を行うようにしている。このため、帯電したバンパ自体をアースして除電する場合に比べて、導体2をアースすることによる導体2およびバンパWの迅速且つ確実な除電が可能になり、前述した各工程を含む塗装作業のタクトタイムの短縮化を図ることができ、効率の良い塗装方法を実現することができる。
【0084】
また、本実施形態では、導体2は、非導電性支柱部31を備えた支持部材3によって支持されている。このため、塗装工程では、導体2はアースされていない状態(絶縁状態)であるため、導体2における電荷を高く維持した状態でバンパWの被塗装面W1を塗装することができる。つまり、バンパWと塗料ミストとの電位差が大きい状態を維持することができ、塗料ミストに作用する被塗装面W1に向けての引力(静電引力)を大きく得ることができて、無駄となる塗料を削減することができる。このため、塗装機6のスプレーガン61からバンパWに向けての吹き付けエア量としては例えば400NL/min(一般的な吹き付けエア量は1000NL/min程度)といった比較的少なく設定することが可能である。また、塗装動作をスプレーガン61のエア圧で管理する場合にあっては、該エア圧を例えば0.02MPa(一般的なエア圧は0.15MPa程度)といった比較的小さな値に設定することが可能である。つまり、吹き付けエア量やエア圧の値を小さくしても、スプレーガン61から吐出された塗料ミストの大部分をバンパWに塗着させることができ、無駄となる塗料を削減することができる。
【0085】
-他の実施形態-
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および該範囲と均等の範囲で包含される全ての変形や応用が可能である。
【0086】
例えば、前記実施形態では、自動車の樹脂製バンパWを静電塗装によって塗装する場合を例に挙げて説明した。本発明はこれに限らず、その他の絶縁体を静電塗装によって塗装する場合にも適用が可能である。また、本発明に適用可能な絶縁体の大きさとしては特に限定されるものではなく、前述したバンパWよりも大型の絶縁体を静電塗装によって塗装する場合や、バンパWよりも小型の絶縁体を静電塗装によって塗装する場合にも適用が可能である。また、導体2の形状を改良することにより、絶縁体の一部(静電塗装を行いたい所望の一部)のみを帯電させることも可能であり、この場合、この絶縁体の一部を均一に帯電させることができ、高い塗装品質を得ることができる。
【0087】
また、前述した実施形態では、導体2に複数の接触体23,23,…を備えさせ、これら接触体23,23,…をバンパWに接触させることによって当該バンパWを帯電させるようにしていた。本発明はこれに限らず、導体2をバンパWに近接配置させることによって当該バンパWを帯電させるようにしてもよい。この場合、バンパWにおける電位が十分に得られるように、前記カスケード41から出力する電圧(導体2をマイナスに帯電させる電位)およびバンパWに対する導体2の近接距離が適宜設定される。また、この場合、バンパWを支持するための治具を別途設けておく。この場合の治具としては、導電性を有するものであってもよいし、導電性を有しないものであってもよい。
【0088】
また、前述した実施形態では、塗装機6をアースしておくことで塗料ミストに帯電させないようにしていた。本発明は、塗装機6をプラスに帯電させ、塗料ミストをプラスに帯電(導体2とは逆極性の電荷に帯電)させるようにしてもよい。これによれば、バンパWと塗料ミストとの電位差を大きくすることが可能になり(帯電されていない塗料ミストを使用する場合に比べて電位差を大きくすることが可能になり)、塗料ミストに作用する被塗装面W1に向けての引力を大きく得ることができる。その結果、塗料ミストを効果的にバンパWの被塗装面W1に塗着させることができ、無駄となる塗料を削減することができる。また、塗料ミストを帯電させることによる静電微粒化効果によって塗料ミストの粒径を小さくすることが可能であり、高い塗装品質を得ることができる。また、本発明にあっては、この場合における塗料ミストに帯電させる電位としては、導体2とは逆極性の電荷で且つ該導体2よりも絶対値が低い電位とされる。これによれば、バンパWの被塗装面W1に塗着した塗料ミストの電荷が被塗装面W1上に残存し難く(塗料ミストの電荷の殆どがバンパWの被塗装面W1上の一部の電荷によって中和されることにより、塗料ミストの電荷が被塗装面W1上に残存し難く)、被塗装面W1に向けて吐出されてくる塗料ミストと電気的に反発してしまうことを抑制でき、塗装膜の膜厚を十分に得ることが可能になり、これによっても高い塗装品質を得ることができる。一例として、導体2の帯電電位を-20kVとし、塗料ミストの帯電電位を+2kVとすること等が挙げられる。これらの値はこれに限定されるものではないが、塗料ミストに帯電させる電位の絶対値を、導体2に帯電させる電位の絶対値よりも十分に小さいものとして、バンパWの被塗装面W1に塗着した塗料ミストの電荷が被塗装面W1上に残存し難いものとする。
【0089】
また、前述した実施形態では、除電ユニット5は真空放電を利用して、導体2をアースするアース経路の電気抵抗を低くするようにしていた。本発明における除電のための構成としては特に問うものではなく、周知の可変電気抵抗器を利用するようにしたり、導体2にアース線を接続しておき、このアース線に開閉自在なスイッチを配設した構成とし、除電工程においてスイッチを閉じて、導体2およびバンパWに残存している電荷を排出するようにしてもよい。
【0091】
更に、前述した実施形態では、除電管51の内部での真空放電を利用した除電工程によって、導体2およびバンパWを瞬時に除電するようにしていた。本発明はこれに限定されるものではなく、除電工程において、導体2をアースするアース経路の電気抵抗を徐々に低くしていくことで、電荷の移動を緩やかにし、これによって安定的に除電を行うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、自動車の樹脂製バンパ等の樹脂成形品の被塗装面を静電塗装によって塗装する塗装方法および塗装装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 塗装装置
2 導体
23 接触体
3 支持部材
31 非導電性支柱部(非導電性の部材)
4 帯電ユニット
5 除電ユニット
51 除電管
52 気圧調整ユニット
6 塗装機(吐出装置)
W バンパ(絶縁体)
W1 被塗装面