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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ集合体
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/168 20170101AFI20241203BHJP
   H01B 1/04 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C01B32/168
H01B1/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021122196
(22)【出願日】2021-07-27
(65)【公開番号】P2022027566
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2020130987
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 淳一
(72)【発明者】
【氏名】井上 ありさ
(72)【発明者】
【氏名】横井 孝紀
(72)【発明者】
【氏名】石野 勝真
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104707638(CN,A)
【文献】特開2010-059041(JP,A)
【文献】特開2016-175814(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107539972(CN,A)
【文献】特開2008-297196(JP,A)
【文献】特開2018-133296(JP,A)
【文献】特開2017-095313(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103531789(CN,A)
【文献】特表2009-535294(JP,A)
【文献】特開2007-181899(JP,A)
【文献】Jagjiwan MITTAL et al.,“Photolysis-Driven, Room Temperature Filling of Single-Wall Carbon Nanotubes”,Journal of Nanoscience and Nanotechnology,2019年07月01日,Vol. 19, No. 7,p.4129-4135,DOI: 10.1166/jnn.2019.16316
【文献】Jagjiwan MITTAL et al.,“Room temperature filling of single-wall carbon nanotubes with chromium oxide in open air”,Chemical Physics Letters,2001年05月,Vol. 339, No. 5-6,p.311-318,DOI: 10.1016/S0009-2614(01)00354-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
H01B 1/00 - 1/24
CAplus/REGISTRY (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブ(2)を備えるカーボンナノチューブ集合体であって、
金属化合物(3)と、
前記金属化合物の酸化物(4)と、を含有し、
前記金属化合物は、前記カーボンナノチューブの内部の空間および複数の前記カーボンナノチューブで囲まれた空間の少なくとも一方に含有されており、
前記金属化合物が、前記酸化物によってキャップされ、
前記金属化合物が添加された空間の開口部が、前記酸化物でキャップされていると共に、該開口部側が該開口部よりも内側の位置よりも金属化合物の酸化物の含有量が多くなっているカーボンナノチューブ集合体。
【請求項2】
前記金属化合物が、金属塩化物で構成されている請求項に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項3】
前記金属塩化物が、塩化モリブデンであり、
前記酸化物が、塩化モリブデンの酸化物または部分酸化物である請求項に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項4】
前記金属塩化物が、塩化鉄であり、
前記酸化物が、塩化鉄の酸化物または部分酸化物である請求項に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項5】
複数のカーボンナノチューブ(2)を備えるカーボンナノチューブ集合体であって、
金属化合物(3)と、
前記金属化合物の酸化物(4)と、を含有し、
前記金属化合物は、前記カーボンナノチューブの内部の空間および複数の前記カーボンナノチューブで囲まれた空間の少なくとも一方に含有されており、
前記金属化合物が、金属塩化物である塩化鉄であり、
前記酸化物が、塩化鉄の酸化物または部分酸化物であるカーボンナノチューブ集合体。
【請求項6】
一辺の長さまたは直径が10μm以上である請求項1ないしのいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項7】
密度が0.8g/cm以上である請求項1ないしのいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ(以下、CNTという)集合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数のCNTで構成されたCNT集合体は、導電膜や巻線への適用が期待されており、近年では、デバイスの微細化に伴う低抵抗化が求められている。例えば非特許文献1では、CNTにAuClを添加するドーピング処理により低抵抗化を図る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】ACS Nano, vol. 5, P. 1236, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CNT集合体については、低抵抗化のほか、車両のモータ等の高温環境への対応が求められている。例えば、少なくとも200℃以上の大気下に100時間以上置かれても抵抗変化が少なく、電気抵抗が維持されている必要がある。しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、100℃程度の温度では抵抗低下の効果が保たれているものの、200℃以上の温度では抵抗低下の効果が減少している。これは、添加物の離脱または大気中の酸素や水との反応による劣化のためと考えられる。
【0005】
また、熱電材料用のn型CNT材料について、リチウム、カリウムなどのアルカリ元素やカリウムイオンとクラウンエーテルの複合体をCNT内部に添加する技術も提案されているが、大気下における200℃以上の安定性は確認されていない。また、n型に比べて大気下で比較的安定なp型のドーパントをCNT内部に添加した例は少なく、同様に200℃以上の大気下で100時間以上の耐熱性を示した例はない。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、耐熱性の高いCNT集合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、複数のCNT(2)を備えるCNT集合体であって、金属化合物(3)と、金属化合物の酸化物(4)と、を含有し、金属化合物は、CNTの内部の空間および複数のCNTで囲まれた空間の少なくとも一方に含有されている。また、金属化合物が、酸化物によってキャップされ、金属化合物が添加された空間の開口部が、酸化物でキャップされていると共に、開口部側が開口部よりも内側の位置よりも金属化合物の酸化物の含有量が多くなっている。
【0008】
CNT集合体の内部に金属化合物を添加すると、CNT集合体の製造プロセス中または製造後に、金属化合物が酸素等と反応して酸化され、金属化合物が添加された空間の開口部に酸化物が形成され、この酸化物によって金属化合物がキャップされる。これにより、CNT集合体の内部の金属化合物が大気から遮断されるため、金属化合物の離脱や、金属化合物と大気中の酸素や水との反応が抑制され、CNT集合体の耐熱性が向上する。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】CNT集合体の外観図である。
図2】CNT集合体の内部構成を示す図である。
図3】CNTの内部にモリブデン系粒子が存在する様子を示す顕微鏡写真である。
図4】モリブデンの分布を示す顕微鏡写真である。
図5】塩素の分布を示す顕微鏡写真である。
図6】酸素の分布を示す顕微鏡写真である。
図7】CNTの内部に塩化鉄が存在する様子を示す顕微鏡写真である。
図8図7の塩化鉄が添加された部分の拡大図である。
図9】炭素の分布を示す顕微鏡写真である。
図10】塩素の分布を示す顕微鏡写真である。
図11】鉄の分布を示す顕微鏡写真である。
図12】酸素の検出結果を示す図である。
図13】塩素の検出結果を示す図である。
図14】塩化モリブデンを添加した場合の加熱時間と電気抵抗との関係を示す図である。
図15】加熱時間とモリブデンの含有比率との関係を示す図である。
図16】塩化鉄を添加した場合の加熱時間と電気抵抗との関係を示す図である。
図17】サンプルC-1~C-3における電気抵抗率の温度依存性を示した図である。
図18A】サンプルC-3におけるCl2p領域の束縛エネルギーに対するX線光電子分光分析(以下、XPSという)スペクトルの強度を示した図である。
図18B】サンプルC-3におけるFe2p領域の束縛エネルギーに対するXPSスペクトルの強度を示した図である。
図19】サンプルC-1~C-3におけるラマンスペクトルのGバンドピーク位置を測定した結果を示した図である。
図20】サンプルC-1~C-3およびFeCl粉末について熱重量・示差熱分析(以下、TG-DTAという)を行った結果を示す図である。
図21】他の実施形態におけるCNT集合体の内部構成を示す図である。
図22】他の実施形態におけるCNT集合体の内部構成を示す図である。
図23】他の実施形態におけるCNT集合体の内部構成を示す図である。
図24】他の実施形態におけるCNT集合体の内部構成を示す図である。
図25】他の実施形態におけるCNT集合体の内部構成を示す図である。
図26】他の実施形態におけるCNT集合体の内部構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。図1および図2に示すように、本実施形態のCNT集合体1は、複数のCNT2が集合して、図1に示すような棒状、あるいは、テープ状の構造を形成したものである。このようなCNT集合体は、例えば、CNT導電膜、デバイス用CNT巻線、モータ用CNT巻線、CNTワイヤハーネス等に用いられる。CNT集合体1の一辺の長さは、例えば10μm以上とされる。また、CNT集合体1が円柱状である場合には、CNT集合体1の直径は例えば10μm以上とされる。複数のCNT2の平均内径は、例えば0.55nm以上1000nm以下とされる。
【0013】
図2に示すように、CNT集合体1は、金属化合物3と、金属化合物3の酸化物4とを含有している。金属化合物3は、CNT集合体1の低抵抗化のためのものであり、CNT2の内部の空間、および、CNT2の外部の空間であって複数のCNT2で囲まれた空間(以下、CNT間空間という)に含有されている。金属化合物3は、例えば、塩化モリブデン(MoCl)や塩化鉄(FeCl)で構成される。なお、図2では、簡単のためにCNT2を円柱で示している。また、CNT2の内部に添加された金属化合物3を破線で示し、CNT2の外部に添加された金属化合物3を実線で示している。
【0014】
金属化合物3は、酸化物4によってキャップされている。具体的には、図2に示すように、CNT2の開口部とCNT間空間の開口部が酸化物4でキャップされている。金属化合物3がMoClで構成される場合には、酸化物4は、酸化モリブデン(MoO、MoO)または塩化モリブデン部分酸化物(MoOCl5-x)で構成される。
【0015】
このようなCNT集合体1は、例えば以下の手順で製造される。まず、CNTフィルム(DexMat INC.製(USA))を真空中に置いて300℃~350℃で加熱し、CNT内の水分を除去する。つぎに、Oが1ppm~20ppmのAr雰囲気でCNTフィルムとMoClガスを混合した後に、CNTフィルムを容器に密閉して大気から遮断し、260℃~350℃で加熱する。そして、エタノール洗浄によりCNTフィルム表面のMoClを除去する。
【0016】
このようにして、CNT2の内部およびCNT間空間に金属化合物3としてMoClが添加され、CNT2の開口部とCNT間空間の開口部とが酸化物4となるMoO、MoOまたはMoOCl5-xでキャップされたCNT集合体1が製造される。なお、CNTフィルムを真空中で加熱する際の温度を500℃以上とすると、CNT2の開口部とCNT間空間の開口部とがMoO等でキャップされるとともに、CNT集合体1の表面に酸化物4に相当する図示しない酸化物膜が形成され、CNT集合体1全体がこの酸化物膜で覆われる。この酸化物膜は、MoO、MoOまたはMoOCl5-xで構成される。金属化合物3としてFeClを添加する場合にも、同様の方法でCNT集合体1を製造することができる。
【0017】
図3図6は、上記の方法で製造されたCNT集合体1の断面の走査型透過電子顕微鏡写真であり、CNT集合体1の内部におけるモリブデン、酸素、塩素の分布を示している。図3において、黒い円がCNT2であり、他の黒い部分がモリブデン系粒子である。図4図6において、黒い部分では白い部分よりもモリブデン、塩素、酸素の含有量が多くなっている。
【0018】
図3図6に示すように、CNT2の内部およびCNT間空間にモリブデン系粒子が含まれている。また、塩素と酸素はCNT集合体1の内部の全体に分布しているが、塩素よりも酸素がモリブデンに近い分布となっている。このことから、CNT2の開口部では、塩素の含有量が少なくなり、主にモリブデンと酸素とで構成されたキャップが形成されていることがわかる。なお、XAFS(X線吸収微細構造測定)によって調べたCNT集合体1中の化合物比は、MoCl:MoO:MoO=78.4:14.5:7.1であった。
【0019】
図7図11は、金属化合物3としてFeClが添加されたCNT集合体1の走査型透過電子顕微鏡写真であり、内部にFeClが添加されたCNT2が側面から撮影されている。図8は、図7のうちFeClが添加された部分の拡大図であり、図9図11は、それぞれ、図8に示された部分の炭素、塩素、鉄の分布を示す図である。図8図11において、領域R1、R2はFeClが添加された部分の内部であり、領域R3、R4は、FeClが添加された部分の端部であり、領域R5はFeClが添加された部分の外部である。
【0020】
図12は、領域R1~R5からEELS(電子エネルギー損失分光)解析で酸素を検出した結果であり、エネルギー損失が500eV~600eVの範囲における強度のピークが、その領域に酸素が含まれていることを示している。図13は、領域R2~R5からEELS解析で塩素を検出した結果であり、エネルギー損失が200eV~210eVの範囲における強度の増加が、その領域に塩素が含まれていることを示している。
【0021】
図8図11から、CNT2内部の添加物が鉄と塩素で構成されていることがわかる。そして、図12に示すように、領域R1、R2、R5では酸素が検出されなかったのに対し、領域R3、R4では破線部において酸素ピークが現れ、特にCNT2の開口部に近い領域R4の酸素ピークが強くなり、酸素が多く存在していることがわかる。また、図13に示すように、塩素は領域R2~R5の順に多く検出された。図12図13から、CNT2の開口部、具体的には、CNT2内部の金属化合物3が添加された部分の端部において、添加物が酸化され、酸化物4によってCNT2の開口部がキャップされていることがわかる。
【0022】
図14図15は、上記の方法で製造されたCNT集合体1の耐熱性を調べた結果を示す図である。図14図15のグラフの横軸は、大気中230℃で加熱試験をしたときの加熱時間である。図14のグラフの縦軸は、CNT集合体1を加熱装置から取り出し、室温において四端子測定法で測定した電気抵抗率である。図15のグラフの縦軸は、モリブデンの含有比率である。なお、図14において、白丸は、CNT2の内部およびCNT間空間に塩化モリブデンが添加されたCNT集合体1の電気抵抗率を示し、白三角は、表面にAuClが添加されたCNT集合体の電気抵抗率を示す。また、図15では、CNT集合体1をSiO基板の上に置いた状態で、CNT集合体1とSiO基板にX線を照射することでモリブデンの含有量を測定しており、モリブデン含有比率は、Siの検出量を1としたときのモリブデンの検出量である。モリブデン含有比率の測定には、EDX-7000(島津製作所)を用いた。
【0023】
図14に示すように、表面にAuClが添加されたCNT集合体では、230℃で加熱すると、短時間で電気抵抗が増加し、添加前の電気抵抗に戻っている。これに対し、CNT2の内部およびCNT間空間に塩化モリブデンが添加されたCNT集合体1では、長時間の加熱においても電気抵抗が低いまま維持されている。
【0024】
図16は、塩化鉄が添加されたCNT集合体1の電気抵抗率のグラフである。図16において、白丸は、CNT2の内部およびCNT間空間に塩化鉄が添加されたCNT集合体1の電気抵抗率を示し、白三角は、表面にAuClが添加されたCNT集合体の電気抵抗率を示す。図16に示すように、CNT2の内部およびCNT間空間に塩化鉄が添加されたCNT集合体1では、長時間の加熱においても電気抵抗が低いまま維持されている。
【0025】
また、本発明者らが行った実験では、大気中でMoCl粉末を230℃で加熱すると、3時間程度で消失した。これは、MoClが下記の化学式のように昇華性の高いMoClに変化したためと考えられる。このことから、MoClは大気下230℃において不安定であるといえる。
【0026】
(化1)
MoCl+HO→MoCl+HCl+O
これに対して、図15に示すように、CNT集合体1に含まれるモリブデンの量は、230℃での加熱によってもほとんど変化がない。このように、CNT集合体1に添加された塩化モリブデンが離散せずに保持されており、CNT集合体1中の塩化モリブデンが230℃で安定であることがわかる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態では、CNT2の内部およびCNT間空間に金属化合物3を添加することで、CNT集合体1が低抵抗化される。そして、この金属化合物3の酸化物4によってCNT2およびCNT間空間の開口部をキャップすることで、CNT2内部およびCNT間空間の金属化合物3が大気から遮蔽されるため、従来よりも耐熱性が向上し、200℃以上の耐熱性が得られる。
【0028】
上記の特性は、CNTフィルムへのFeClのドーピングした試験においても確認できる。ここでは、CNTフィルムとしてDexMat INC.製(USA)のGALVORN CNT TAPEを用いた。CNTフィルムの初期抵抗は33.8±6.9μΩcmであった。このCNTフィルムについて、350℃、1時間、大気下で熱処理を行ったところ、熱処理後の初期抵抗は61.2±8.4μΩcmであった。また、熱処理後のCNTフィルムや、熱処理後のCNTフィルムに更にドーピング処理を行ったものにより、次に示すC-1~C-3の3種類のサンプルを準備した。C-1は、熱処理のみを行ったCNTフィルム、C-2は、熱処理後にIBrをドープしたCNTフィルム、C-3は、熱処理後にFeClをドープしたCNTフィルムである。C-2については、Sigma Aldrich社製の純度99.9%の無水FeClを精製することなく使用し、ドーパントとして添加した。C-3については、Sigma Aldrich社製の純度98%のIBrを精製することなく使用し、ドーパントとして添加した。ドーピング処理では、不活性ガスを充填した密閉容器内でCNTフィルムとドーパントを共存させ、270℃、24時間の処理を行った。ドーピング処理後、CNTフィルムをエタノールで数回洗浄し、その表面に吸着した過剰なドーパントを除去した。
【0029】
そして、C-1~C-3での電気抵抗率への温度依存性を調査するため、不活性ガス雰囲気下における電気抵抗率を測定した。電気抵抗率については、1分間当たり25℃ずつ温度上昇させるレートで測定を行った。図17は、その測定結果を示している。この図に示されるように、室温からの加熱に対して、3種類のサンプルすべてで電気抵抗率が増大した。その中で、C-3は、C-2に対して、温度上昇に伴った抵抗上昇率は低く、しかもその変化も小さかった。
【0030】
また、前述したように、CNT集合体1の表面を金属化合物3の酸化物膜で覆うことで、金属化合物3が大気から遮断されるため、さらに耐熱性が向上する。
このことは、ドープしたCNTフィルムの特性分析を行うことで確認している。分析では、ラマン分光分析(以下、Ramanという)、XPSおよびTG-DTAを実施した。Ramanについては、励起波長532nmを用い、Renishaw社製InVia Qontor(UK)の共焦点ラマン顕微鏡を用いて行った。XPSについては、ULVAC-PHI, inc.社製(JAPAN)のPHI 5000 VersaProveIIを用い、試料上の直径200μmのスポットサイズにX線を集光し、50W下で行った。X線源としては、Al-Kα線、hν=1486.6eVを用いた。各サンプルの熱安定性の評価のために実施したTG-DTAでは、株式会社日立ハイテク社製(JAPAN)のTG-DTA 6300を用いた。TG-DTAの測定温度範囲を40℃~1000℃とし、走査速度を1分間当たり+10.0℃温度上昇させる条件下で、アルミナパンを用い、1分間当たり100mLで大気導入した。
【0031】
XPS測定では、FeClをドープしたCNT内部のFeとClを検出するため、712eV付近のFe2p領域と198eV付近のCl2p領域のピークに注目した。図18Aおよび図18Bは、それぞれ、C-3における198eV付近のCl2p領域と712eV付近のFe2p領域での束縛エネルギー(eV)に対するXSPスペクトルの強度(a.u.)の関係を示している。各図、上から順に、加熱前、50時間加熱後、120時間加熱後を示している。
【0032】
これら図18Aおよび図18Bから判るように、C-3のXPSスペクトルでは、加熱前~加熱後において、注目領域でのピークの消滅やピーク形状変化は見られなかった。このため、モータ等にCNT集合体1を適用する場合に想定される220℃程度の高温下においても、CNT内にFeClが保持されていると言える。
【0033】
また、ラマンスペクトルにおけるGバンドピーク位置のシフトは、CNTへのp型ドーピングの状態を反映する。図19は、C-1~C-3について、励起波長532nmの励起光を用いてラマンスペクトルのGバンドピーク位置を測定した結果を示している。各サンプルについて高温放置試験を行っており、高温放置試験における熱処理前および熱処理後のGバンドピーク位置を測定している。ただし、C-1については、ドープしていないサンプルであり、熱処理前と熱処理後とで変化しないと考えられるため、熱処理前の測定結果のみを示してある。
【0034】
高温放置試験における熱処理前のC-2およびC-3のGバンドピーク位置は、それぞれ、1601cm-1および1609cm-1であり、C-1でのピーク位置である1593cm-1と比較すると、電気抵抗率の変化に比例してそのピークシフトが大きかった。これに対し、高温放置試験における熱処理後では、これらのピークシフトはC-3では1596m-1を示す一方で、C-3ではその値には変化はなかった。このことは、熱処理前後でのC-3は、p型ドーピングの状態が保持されていることを示唆している。
【0035】
TG-DTAでは、C-1~C-3およびFeCl粉末について分析を行った。その結果、図20に示すように、FeClではドーピングの有無において異なる熱安定性を示した。すなわち、FeCl粉末のみの熱重量測定(TG)では200℃付近からの重量低下が確認された一方で、C-3では500℃と700℃辺りから急激な重量減少が確認された。後者はC-1における500℃や700℃の近傍温度域での急激な重量減少と傾きがほぼ同じことからCNTそのものの重量減少であり、前者はFeClの重量減少であると推測できる。このことから、CNTに内包されたFeClおよびCNTは、単体時に対して、熱的に安定になったと考えられる。また、この現象はC-2においても確認され、他の物質の内包化による熱安定性向上という結果を支持していると言える。
【0036】
なお、CNT間空間の金属化合物3は、酸化物4とCNT2によって保護されるため、CNT2の密度が高いほど耐熱性が高くなる。具体的には、CNT2の密度は0.1g/cm以上であることが望ましく、0.6g/cm以上であることがさらに望ましく、0.8g/cm以上であることがさらに望ましい。
【0037】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では、金属化合物3としてMoCl、FeClをCNT集合体1に添加する場合について説明したが、他の金属塩化物を添加してもよいし、金属塩化物以外の金属化合物を添加してもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、金属化合物3がCNT2の内部の空間およびCNT間空間に添加されているが、図21図22に示すように、金属化合物3がCNT2の内部の空間のみに添加されていてもよい。この場合にも、上記第1実施形態と同様に、金属化合物3の酸化物4によってCNT2の開口部がキャップされ、CNT集合体の内部の金属化合物3が大気から遮蔽されるため、従来よりも耐熱性が向上し、200℃以上の耐熱性が得られる。
【0040】
また、図23図25に示すように、金属化合物3がCNT間空間のみに添加されていてもよい。この場合にも、上記第1実施形態と同様に、金属化合物3の酸化物4によってCNT間空間の開口部がキャップされ、CNT集合体の内部の金属化合物3が大気から遮蔽されるため、従来よりも耐熱性が向上し、200℃以上の耐熱性が得られる。また、図26に示すように、複数のCNT2の束で囲まれた空間に金属化合物3が添加されていてもよい。
【符号の説明】
【0041】
2 CNT
3 金属化合物
4 酸化物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26