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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/06 20060101AFI20241203BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20241203BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241203BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20241203BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20241203BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20241203BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20241203BHJP
   B60W 20/11 20160101ALI20241203BHJP
   F16H 61/14 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/48 ZHV
B60W10/08 900
B60W20/15
B60K6/547
B60W10/02 900
B60W10/10 900
B60W20/11
F16H61/14 601B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021127311
(22)【出願日】2021-08-03
(65)【公開番号】P2023022436
(43)【公開日】2023-02-15
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 宝
【審査官】熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-205586(JP,A)
【文献】特開2005-299705(JP,A)
【文献】国際公開第2012/053116(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/06
B60K 6/48
B60W 10/08
B60W 20/15
B60K 6/547
B60W 10/02
B60W 10/10
B60W 20/11
F16H 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから駆動輪までの動力伝達経路に、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ、自動変速機およびモータジェネレータがこの順に設けられる車両であって、
前記自動変速機、前記ロックアップクラッチおよび前記トルクコンバータに用いられる作動油の温度を検出する油温センサと、
前記作動油の温度が所定温度未満である場合に、前記エンジンの出力を増加させることで前記作動油を昇温する昇温制御を実行する制御装置とを備え、
前記ロックアップクラッチは、前記作動油の温度が前記所定温度以上である場合に係合され、
前記制御装置は、前記ロックアップクラッチの係合履歴および前記エンジンの燃料消費履歴を含む前記車両の走行履歴を用いて、前記昇温制御の実行を許容するか否かを判定し、
前記制御装置は、
前記走行履歴を用いて、前記ロックアップクラッチが係合されていない解放期間中に前記ロックアップクラッチを係合することによる前記エンジンの消費燃料の低減量と、前記昇温制御を実行することによる前記エンジンの消費燃料の増加量とを算出し、
前記消費燃料の低減量の大きさが前記消費燃料の増加量の大きさよりも大きい場合に前記昇温制御の実行を許容し、
前記消費燃料の低減量の大きさが前記消費燃料の増加量の大きさよりも小さい場合に前記昇温制御の実行を許容しない、車両。
【請求項2】
前記ロックアップクラッチは、前記車両の走行状態が所定状態である場合であって、かつ前記作動油の温度が前記所定温度よりも高い場合に係合され、
前記解放期間は、前記車両の走行状態が前記所定状態であるが前記作動油の温度が前記所定温度未満であることによって前記ロックアップクラッチが解放されている期間である、請求項に記載の車両。
【請求項3】
前記車両の走行モードには、前記自動変速機を非動力伝達状態にして前記モータジェネレータの動力で走行するモータ走行モードが含まれ、
前記制御装置は、前記モータ走行モード中に前記昇温制御を実行する場合、前記自動変速機を前記非動力伝達状態に維持したまま前記エンジンを作動させることで前記トルクコンバータを回転させる、請求項1または2に記載の車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記モータ走行モード中に前記昇温制御を実行する場合で、かつ前記車両が減速中である場合には、前記自動変速機を動力伝達状態にして前記駆動輪から伝達される動力で前記自動変速機を回転させる、請求項に記載の車両。
【請求項5】
前記車両の走行モードには、前記自動変速機を動力伝達状態にして前記エンジンおよび前記モータジェネレータの少なくとも一方の動力で走行するハイブリッド走行モードが含まれ、
前記制御装置は、前記ハイブリッド走行モード中に前記昇温制御を実行する場合、前記エンジンの出力を増加させることで前記トルクコンバータおよび前記自動変速機の回転量を増加させるとともに、前記エンジンの出力増加量に相当する回生電力を前記モータジェネレータで発生させる、請求項1~のいずれかに記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路に、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ、自動変速機およびモータジェネレータがこの順に設けられるハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-197024号公報(特許文献1)には、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路にモータジェネレータおよび自動変速機がこの順に設けられるハイブリッド車両が開示されている。このハイブリッド車両においては、エンジンが冷間時であるときは、エンジンの出力を増加させてエンジンの回転数を増加させることでエンジンを暖機しつつ、エンジンの出力増加分でモータジェネレータによる回生発電を行なうことでエンジンの暖機に消費されたエネルギの一部が回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-197024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド車両において、十分な燃費向上効果を得るためには、エンジンだけではなく、自動変速機等のエンジン以外の駆動部品についても適切に暖機することが望ましい。駆動部品の暖機が不十分であると、駆動部品の摩擦損失が大きい状態が継続し、意図した燃費向上効果が得られない場合があるためである。
【0005】
ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータおよび自動変速機を備えるハイブリッド車両においては、自動変速機の暖機が不十分であると、自動変速機の摩擦損失の増加に加えて、ロックアップ機能による燃費向上効果が得られない場合がある。ロックアップ機能とは、トルクコンバータによるトルク増幅が必要ない定常走行状態(たとえば高速で一定速度で走行している状態)において、ロックアップクラッチを係合してトルクコンバータの入力要素と出力要素とを機械的に接続することによって、駆動力の損失を低減する機能である。一般的に、ロックアップクラッチの係合およびトルクコンバータの動力伝達に用いられる作動油には、自動変速機の潤滑および冷却等に用いられる作動油(ATF:Automatic Transmission Fluid)が共用される。ATFの温度が予め定められたロックアップ可能温度未満である場合には、たとえ定常走行状態であっても、ロックアップクラッチの係合は許容されない。そのため、自動変速機の暖機が不十分であると、ATFの温度がロックアップ可能温度未満である状態が継続してロックアップクラッチが係合されないため、ロックアップ機能による燃費向上効果が得られ難くなる。
【0006】
特に、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路に、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ、自動変速機およびモータジェネレータがこの順に設けられるハイブリッド車両においては、エンジンを停止してモータジェネレータの動力を用いて走行するモータ走行モード中には自動変速機が非動力伝達状態(ニュートラル状態)とされ、自動変速機は駆動されない。そのため、自動変速機の暖機頻度が少なく、その分、ATFが昇温されずにロックアップクラッチの係合頻度が低下してしまうことが懸念される。
【0007】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路に、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ、自動変速機およびモータジェネレータがこの順に設けられる車両において、ロックアップクラッチの係合頻度を適切に増加させることによって燃費を適切に向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本開示による車両は、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路に、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ、自動変速機およびモータジェネレータがこの順に設けられる車両である。この車両は、自動変速機、ロックアップクラッチおよびトルクコンバータに用いられる作動油の温度を検出する油温センサと、作動油の温度が所定温度未満である場合に、エンジンの出力を増加させることで作動油を昇温する昇温制御を実行する制御装置とを備える。ロックアップクラッチは、作動油の温度が所定温度以上である場合に係合される。制御装置は、ロックアップクラッチの係合履歴およびエンジンの燃料消費履歴を含む車両の走行履歴を用いて、昇温制御の実行を許容するか否かを判定する。
【0009】
上記構成によれば、燃料消費を伴う昇温制御の実行を許容するか否かが、車両の走行履歴を用いて判定される。この走行履歴には、ロックアップクラッチの係合履歴およびエンジンの燃料消費履歴が含まれている。そのため、たとえば過去にロックアップクラッチが係合されていない解放期間中にロックアップクラッチを係合することによる燃費向上が見込めるか否かを見極めた上で、昇温制御の実行を許容するか否かを決めることができる。その結果、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路に、ロックアップクラッチの係合頻度を適切に増加させることによって燃費を適切に向上させることができる。
【0010】
(2) ある態様においては、制御装置は、走行履歴を用いて、ロックアップクラッチが係合されていない解放期間中にロックアップクラッチを係合することによるエンジンの消費燃料の低減量と、昇温制御を実行することによるエンジンの消費燃料の増加量とを算出する。制御装置は、消費燃料の低減量の大きさが消費燃料の増加量の大きさよりも大きい場合に昇温制御の実行を許容し、消費燃料の低減量の大きさが消費燃料の増加量の大きさよりも小さい場合に昇温制御の実行を許容しない。
【0011】
上記構成によれば、過去のロックアップクラッチの解放期間中にロックアップクラッチを係合することによる燃費向上が見込める場合に、昇温制御の実行が許容される。そのため、燃費をより適切に向上させることができる。
【0012】
(3) ある態様においては、ロックアップクラッチは、車両の走行状態が所定状態である場合であって、かつ作動油の温度が所定温度よりも高い場合に係合される。解放期間は、車両の走行状態が所定状態であるが作動油の温度が所定温度未満であることによってロックアップクラッチが解放されている期間である。
【0013】
上記構成によれば、消費燃料の低減量を算出する基準となる解放期間が、車両の走行状態ではなく作動油の温度が要因でロックアップクラッチが解放されている期間に限定される。これにより、昇温制御の実行によって燃費向上が見込めるか否かを、より適切に判定することができる。
【0014】
(4) ある態様においては、車両の走行モードには、自動変速機を非動力伝達状態にしてモータジェネレータの動力で走行するモータ走行モードが含まれる。制御装置は、モータ走行モード中に昇温制御を実行する場合、自動変速機を非動力伝達状態に維持したままエンジンを作動させることでトルクコンバータを回転させる。
【0015】
上記構成によれば、モータ走行モード中の昇温制御によって、自動変速機を非動力伝達状態に維持したままエンジンを作動させてトルクコンバータを回転させる。これにより、エンジンの出力を駆動輪に伝達することなく作動油を昇温することができる。
【0016】
(5) ある態様においては、制御装置は、モータ走行モード中に昇温制御を実行する場合で、かつ車両が減速中である場合には、自動変速機を動力伝達状態にして駆動輪から伝達される動力で自動変速機を回転させる。
【0017】
上記構成によれば、モータ走行モード中において、エンジンの出力ではなく車両の減速エネルギで自動変速機を回転させることによって、作動油を昇温することができる。
【0018】
(6) ある態様においては、車両の走行モードには、自動変速機を動力伝達状態にしてエンジンおよびモータジェネレータの少なくとも一方の動力で走行するハイブリッド走行モードが含まれる。制御装置は、ハイブリッド走行モード中に昇温制御を実行する場合、エンジンの出力を増加させることでトルクコンバータおよび自動変速機の回転量を増加させるとともに、エンジンの出力増加量に相当する回生電力をモータジェネレータで発生させる。
【0019】
上記構成によれば、ハイブリッド走行モード中の昇温制御によって、エンジンの出力を増加させることによって作動油を昇温しつつ、作動油の昇温に消費されたエネルギの一部を回生電力として回収することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路に、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ、自動変速機およびモータジェネレータがこの順に設けられる車両において、ロックアップクラッチの係合頻度を適切に増加させることによって燃費を適切に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】車両の全体構成図である。
図2】ECUがロックアップクラッチの係合制御を行なう場合の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3】ECUがATF昇温制御を行なう場合の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0023】
<全体構成>
図1は、本実施の形態による車両1の全体構成図である。車両1は、エンジン10と、モータジェネレータ(以下「MG」ともいう)20と、PCU(Power Control Unit)21と、バッテリ22と、トルクコンバータ30と、自動変速機40と、油圧回路45と、油温センサ46と、駆動輪50と、ECU(Electronic Control Unit、電子制御装置)100とを備える。トルクコンバータ30は、ポンプインペラ31と、タービンランナ32と、ステータ33と、ロックアップクラッチ(LUC)34とを備える。
【0024】
車両1は、エンジン10から駆動輪50までの動力伝達経路に、ロックアップクラッチ34付きのトルクコンバータ30、自動変速機40およびMG20がこの順に設けられるハイブリッド車両である。
【0025】
エンジン10の出力軸12は、トルクコンバータ30を介して自動変速機40の入力軸41に接続される。より具体的には、エンジン10の出力軸12はトルクコンバータ30のポンプインペラ31に接続され、自動変速機40の入力軸41はトルクコンバータ30のタービンランナ32に接続される。
【0026】
自動変速機40の出力軸42は、回転軸35に接続される。回転軸35は、駆動輪50に接続される。MG20のロータは、回転軸35に接続される。
【0027】
エンジン10は、ガソリンエンジンあるいはディーゼルエンジン等の内燃機関である。MG20は、バッテリ22からPCU21を経由して供給される高電圧の電力によって駆動される。また、MG20は、回転軸35から伝達される動力(エンジン10あるいは駆動輪50から伝達される動力)によって回転されることによって発電する。バッテリ22は、高電圧で作動するMG20に供給するための電力を蓄える。PCU21は、MG20とバッテリ22との間で電力変換を行なう。
【0028】
トルクコンバータ30のロックアップクラッチ34は、ECU100からの制御信号に基づいて、係合状態(ロックアップ状態)あるいは解放状態(非ロックアップ状態)に制御される。ロックアップクラッチ34が解放状態であると、ポンプインペラ31とタービンランナ32との間の動力伝達が作動油によって行われるため、ポンプインペラ31とタービンランナ32との間の回転速度差(トルクコンバータ30の滑り)が生じ得る状態となる。ロックアップクラッチ34が係合状態であると、トルクコンバータ30のポンプインペラ31(入力要素)とタービンランナ32(出力要素)とが機械的に接続されて一体的に回転する。したがって、ロックアップクラッチ34を係合状態にすることで、トルクコンバータ30によって伝達される駆動力の損失を低減することができる。
【0029】
自動変速機40は、たとえば変速比の異なる複数のギヤ段を選択的に形成可能な有段式の自動変速機である。自動変速機40は、ECU100からの制御信号に基づいて、動力伝達状態あるいは非動力伝達状態(ニュートラル状態)に制御される。自動変速機40が動力伝達状態であると、自動変速機40の入力軸41と出力軸42との間で動力が伝達される状態となり、エンジン10がMG20および駆動輪50に接続される。自動変速機40が非動力伝達状態であると、自動変速機40の入力軸41と出力軸42との間で動力が伝達されない状態となり、エンジン10がMG20および駆動輪50から切り離される。
【0030】
自動変速機40の内部には、自動変速機40内の潤滑および冷却、および自動変速機40の制御(変速比の切り替え)等に用いられる作動油であるATF(Automatic Transmission Fluid)が充填されている。ATFは、ロックアップクラッチ34の制御(係合および解放の切り替え)、およびトルクコンバータ30のポンプインペラ31とタービンランナ32との間の動力伝達にも用いられる。
【0031】
油圧回路45は、図示しない機械式オイルポンプあるいは電動オイルポンプから供給されるATFの油圧を元圧として、自動変速機40の制御油圧、ロックアップクラッチ34の制御油圧を、ECU100からの制御信号によってそれぞれ調圧する。これにより、自動変速機40およびロックアップクラッチ34が、ECU100からの制御信号に応じた状態に制御される。
【0032】
油温センサ46は、ATFの温度を検出し、検出結果をECU100に出力する。なお、車両1には、油温センサ46に加えて、アクセル開度、エンジン回転速度、MG回転速度、車速など、車両1を制御するために必要な物理量を検出するための複数のセンサ(いずれも図示せず)が設けられる。これらのセンサは、検出結果をECU100に送信する。
【0033】
ECU100は、図示しないCPU(Central Processing Unit)および内部メモリを備える。ECU100は、各センサからの情報およびメモリに記憶された情報に基づいて所定の演算処理を実行し、演算結果に基づいて車両1の各機器を制御する。
【0034】
車両1の走行モードには、モータ走行モードと、ハイブリッド走行モードとが含まれれる。
【0035】
モータ走行モード中においては、ECU100は、自動変速機40を非動力伝達状態(ニュートラル状態)にすることによってエンジン10を回転軸35から切り離して、MG20の動力で回転軸35を回転させて車両1を走行させる。
【0036】
ハイブリッド走行モード中においては、ECU100は、自動変速機40を動力伝達状態にすることによってエンジン10を回転軸35に接続して、エンジン10およびMG20の少なくとも一方の動力で回転軸35を回転させて車両1を走行させる。
【0037】
<ロックアップクラッチの係合制御>
図2は、ECU100がロックアップクラッチ(LUC)34の係合制御を行なう場合の処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、予め定められた条件が成立する毎(たとえば所定周期毎)に繰り返し実行される。
【0038】
まず、ECU100は、ロックアップ走行条件が成立しているか否かを判定する(ステップS10)。この判定は、車両1の走行状態がロックアップクラッチ34を係合して走行するのに適している定常走行状態(たとえば高速で一定速度で走行している状態)であるか否かを判定するために行なわれる。たとえば、ECU100は、アクセル開度および車速に基づいて車両1が上記の定常走行中であるか否かを判定し、車両1が定常走行中である場合にロックアップ走行条件が成立していると判定する。
【0039】
ロックアップ走行条件が成立している場合(ステップS10においてYES)、ECU100は、油温センサ46からATF温度を取得し、ATF温度が予め定められたLU(ロックアップ)可能温度よりも高いか否かを判定する(ステップS12)。この判定は、ATF温度が低いとATFの粘度が高いことによってロックアップクラッチ34の係合時に異音が生じたり乗り心地が悪化したりする場合があることに鑑み、このような異音および乗り心地の悪化が生じない程度にATF温度が高いか否かを判定するために行なわれる。
【0040】
ATF温度がLU可能温度よりも高い場合(ステップS12においてYES)、ECU100は、ロックアップクラッチ34を係合状態(ロックアップ状態)にする(ステップS14)。
【0041】
一方、ロックアップ走行条件が成立していない場合(ステップS10においてNO)、あるいはロックアップ走行条件が成立していてもATF温度がLU可能温度よりも低い場合(ステップS12においてNO)、ECU100は、ロックアップクラッチ34を解放状態(非ロックアップ状態)にする(ステップS16)。
【0042】
<ATF昇温制御>
図1に示したような構成の車両1においては、モータ走行モード中には自動変速機40が非動力伝達状態(ニュートラル状態)とされ、自動変速機40は駆動されない。そのため、自動変速機40の暖機頻度が少なく、その分、ATFが昇温されずにLU可能温度未満である状態が継続し、ロックアップクラッチ34の係合頻度が低下してしまうことが懸念される。
【0043】
そこで、本実施の形態によるECU100は、ATF温度がLU可能温度未満である場合に、エンジン10の出力を増加させることでATFを昇温する「ATF昇温制御」を実行する。ATF昇温制御の実行によってATF温度をLU可能温度よりも高めることで、ロックアップクラッチ34の係合頻度を増加させて燃費向上を図ることができる。
【0044】
しかしながら、ATF昇温制御はエンジン10の燃料消費を伴うため、車両1の走行状態によっては、ATF昇温制御によってATF温度をLU可能温度よりも高くしてもロックアップクラッチ34が係合されず、かえって燃費が悪化してしまうことも想定される。
【0045】
そのため、ECU100は、ロックアップクラッチ34の係合履歴およびエンジン10の燃料消費履歴を含む車両1の走行履歴を用いてATF昇温制御による燃費向上が見込めるか否かを見極めた上で、ATF昇温制御の実行を許容するか否かを判定する。
【0046】
図3は、ECU100がATF昇温制御を行なう場合の処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、車両1のトリップ開始時(車両1の制御システムの起動時)に開始される。
【0047】
ECU100は、ロックアップクラッチ34の係合履歴およびエンジン10の燃料消費履歴を含む車両1の走行履歴を用いて、1トリップ中のLU(ロックアップ)外れ期間の割合P1、1トリップ中の燃料消費量F1、1トリップ中の燃料消費率R1を算出する(ステップS20)。
【0048】
ここで、1トリップとは、車両1の1回の走行期間であり、代表的には、車両1の制御システムが起動されてから次に停止されるまでの期間である。LU外れ期間は、車両1の走行状態がロックアップクラッチ34の係合に適した定常走行状態であるがATF温度がLU可能温度未満であることによってロックアップクラッチ34が解放されている期間である。1トリップ中のLU外れ期間の割合P1は、1トリップ中のLU外れ期間を1トリップ期間で割った値である。
【0049】
1トリップ中の燃料消費量F1は、1トリップ中におけるエンジン10の燃料消費量(単位:g)である。1トリップ中の燃料消費率R1は、1トリップ中におけるエンジン10の燃料消費量(単位:g)を、1トリップ中に要した走行パワー(単位:kWh)で割った値(単位:g/kWh)である。
【0050】
なお、1トリップ中のLU外れ期間の割合P1、1トリップ中の燃料消費量F1、1トリップ中の燃料消費率R1は、たとえば、直近の1トリップの値であってもよいし、直近の複数のトリップの平均値であってもよい。
【0051】
次いで、ECU100は、1トリップ中のLU外れ期間中にロックアップクラッチ34を係合することによるエンジン10の消費燃料の低減量ΔFdを、下記の式(1)を用いて算出する(ステップS22)。
【0052】
ΔFd=F1×P1×k …(1)
式(1)において、「F1」は上述の1トリップ中の燃料消費量(g)であり、「P1」は上述の1トリップ中のLU外れ期間の割合である。「k」は、ロックアップクラッチ34の解放時のトルクコンバータ30の伝達効率に対する、ロックアップクラッチ34の係合時のトルクコンバータ30の伝達効率の割合に相当する値である。なお、「k」は、トルクコンバータ30のハード諸元等によって概ね決まるため、定数とすることができる。
【0053】
次いで、ECU100は、ATF昇温制御を実行することによるエンジン10の消費燃料の増加量ΔFuを、下記の式(2)を用いて算出する(ステップS24)。
【0054】
ΔFu=R1×h …(2)
式(2)において、「R1」は上述の1トリップ中の燃料消費率(g/kWh)であり、「h」は1回のATF昇温制御に必要な熱量に相当する値(kWh)である。なお、「h」は、自動変速機40のハード諸元等によって概ね決まるため、定数値とすることができる。
【0055】
次いで、ECU100は、ステップS22で算出された燃費減少量ΔFdの大きさ(絶対値)がステップS24で算出された燃料増加量ΔFuの大きさ(絶対値)よりも大きいか否かを判定する(ステップS26)。
【0056】
燃費減少量ΔFdの大きさが燃料増加量ΔFuの大きさよりも小さい場合(ステップS26においてNO)、ATF昇温制御による燃費向上が見込めないため、ECU100は、ATF昇温制御を許容しない(ステップS82)。
【0057】
一方、燃費減少量ΔFdの大きさが燃料増加量ΔFuの大きさよりも大きい場合(ステップS26においてYES)、ATF昇温制御による燃費向上が見込めるため、ECU100は、ATF昇温制御を許容する(ステップS30)。
【0058】
ATF昇温制御が許容されると、ECU100は、油温センサ46からATF温度を取得し(ステップS32)、ATF温度がLU可能温度未満であるか否かを判定する(ステップS34)。
【0059】
ATF温度がLU可能温度未満である場合(ステップS34においてYES)、ECU100は、ATF昇温制御を実行する(ステップS36)。
【0060】
ECU100は、モータ走行モード中にATF昇温制御を実行する場合、自動変速機40を非動力伝達状態に維持したままエンジン10を作動させることで、トルクコンバータ30を回転させる。これにより、エンジン10の出力を駆動輪50に伝達することなくATFを昇温することができる。
【0061】
なお、モータ走行モード中にATF昇温制御を実行する場合で、かつ車両1が減速中である場合には、自動変速機40を動力伝達状態にして駆動輪50から伝達される動力で自動変速機40を回転させるようにしてもよい。このようにすることで、モータ走行モード中において、エンジン10の出力ではなく車両1の減速エネルギで自動変速機40を回転させることによってATFを昇温することができる。
【0062】
ECU100は、ハイブリッド走行モード中にATF昇温制御を実行する場合、エンジン10の出力を増加させることでトルクコンバータ30および自動変速機40の回転量を増加させるとともに、エンジン10の出力増加量に相当する回生電力をMG20で発生させる。これにより、エンジン10の出力でATFを昇温しつつ、ATFの昇温に消費されたエネルギの一部を回生電力として回収することができる。
【0063】
ステップS36の実行後においては処理がステップS32に戻され、ATF昇温制御によってATF温度がLU可能温度以上になるまでATF昇温制御が継続される。そして、ATF温度がLU可能温度以上になると(ステップS34においてNO)、ECU100は、ATF昇温制御を停止する(ステップS38)。
【0064】
以上のように、本実施の形態によるECU100は、燃料消費を伴うATF昇温制御の実行を許容するか否かを、ロックアップクラッチ34の係合履歴およびエンジン10の燃料消費履歴を含む車両1の走行履歴を用いて判定する。そのため、過去にロックアップクラッチ34が係合されていない解放期間中にロックアップクラッチ34を係合することによる燃費向上が見込めるか否かを見極めた上で、ATF昇温制御の実行を許容するか否かを決めることができる。その結果、ATF昇温制御によるロックアップクラッチ34の係合頻度の増加によって燃費を適切に向上させることができる。
【0065】
より具体的には、本実施の形態によるECU100は、車両1の走行履歴を用いて、1トリップ中のLU外れ期間中にロックアップクラッチ34を係合することによるエンジン10の消費燃料の低減量ΔFdと、ATF昇温制御を実行することによるエンジン10の消費燃料の増加量ΔFuとを算出する。そして、ECU100は、低減量ΔFdの大きさが増加量ΔFuの大きさよりも大きい場合に、ATF昇温制御の実行を許容する。そのため、過去のLU外れ期間中にロックアップクラッチ34を係合することによる燃費向上が見込める場合に、ATF昇温制御の実行が許容される。そのため、燃費をより適切に向上させることができる。
【0066】
特に、本実施の形態においては、消費燃料の低減量ΔFdを算出する基準となる期間が、単にロックアップクラッチ34の解放期間ではなく、車両1の走行状態がロックアップクラッチ34の係合に適した定常走行状態であるがATF温度がLU可能温度未満であることによってロックアップクラッチ34が解放されている「LU外れ期間」に限定されている。これにより、ATF昇温制御の実行によって燃費向上が見込めるか否かを、より適切に判定することができる。
【0067】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 車両、10 エンジン、12,42 出力軸、20 モータジェネレータ、22 バッテリ、30 トルクコンバータ、31 ポンプインペラ、32 タービンランナ、33 ステータ、34 ロックアップクラッチ、35 回転軸、40 自動変速機、41 入力軸、45 油圧回路、46 油温センサ、50 駆動輪、100 ECU。
図1
図2
図3