(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】電機子の製造装置及び電機子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/085 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
H02K15/085
(21)【出願番号】P 2021127631
(22)【出願日】2021-08-03
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】竹本 雅昭
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-211880(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0201935(US,A1)
【文献】特開2002-125338(JP,A)
【文献】特開2021-087284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/085
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットを有する円筒状の鉄心と、前記スロットの内部に配置されたコイルと、前記スロットの内面と前記コイルとの間に配置された絶縁体と、を備え、前記コイルが、前記鉄心の径方向に並んで複数配置されている電機子の製造装置であって、
前記スロットの内部において前記鉄心の軸線方向に延びるように配置された導線を前記径方向において前記スロットの内面に向けて押圧して塑性変形させることで前記コイルを形成する押圧治具を備え、
前記押圧治具は、前記導線のうち前記スロットの内部に配置される配置部を前記軸線方向の全体にわたって押圧する押圧面を有し、
前記押圧面は、前記径方向において前記スロットの内面に最も近接する最近接部と、前記最近接部に連なるとともに前記軸線方向において前記最近接部から離れるほど前記径方向において前記内面から離れるように傾斜する傾斜部と、を有する、
電機子の製造装置。
【請求項2】
前記最近接部は、前記軸線方向に延びる平坦部である、
請求項1に記載の電機子の製造装置。
【請求項3】
前記傾斜部は、前記軸線方向において前記鉄心の端よりも外側まで延びている、
請求項1または請求項2に記載の電機子の製造装置。
【請求項4】
前記最近接部は、前記軸線方向における前記鉄心の両端の位置の間に設けられており、
前記傾斜部は、前記軸線方向における前記最近接部の第1端に連なる第1傾斜部と、前記軸線方向における前記最近接部の前記第1端とは反対側の第2端に連なる第2傾斜部と、を有する、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の電機子の製造装置。
【請求項5】
前記コイルは、互いに異なる2つの前記スロットの内部にそれぞれ配置される2つの前記配置部と、前記2つの配置部から前記軸線方向の一側にそれぞれ延びるとともに互いに独立した2つの第1コイルエンドと、前記2つの配置部から前記軸線方向の前記一側とは反対側にそれぞれ延びる2つの第2コイルエンドと、前記第2コイルエンド同士を連結する連結部と、を有するセグメントコイルであり、
前記傾斜部は、前記軸線方向において前記第2コイルエンド側に向かって延びている、
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の電機子の製造装置。
【請求項6】
前記最近接部は、前記軸線方向における前記鉄心の両端の間の位置に設けられており、
前記傾斜部は、前記軸線方向における前記最近接部の第1端に連なる第1傾斜部と、前記軸線方向における前記最近接部の前記第1端とは反対側の第2端に連なる第2傾斜部と、を有しており、
前記第1傾斜部は、前記軸線方向における前記鉄心の両端のうち前記第1コイルエンド側の端よりも外側まで延びており、
前記第2傾斜部は、前記軸線方向における前記鉄心の両端のうち前記第2コイルエンド側の端よりも外側まで延びており、
前記軸線方向に延びる仮想直線と前記第2傾斜部とのなす角度は、前記仮想直線と前記第1傾斜部とのなす角度よりも大きい、
請求項5に記載の電機子の製造装置。
【請求項7】
複数のスロットを有する円筒状の鉄心と、前記スロットの内部に配置されたコイルと、前記スロットの内面と前記コイルとの間に配置された絶縁体と、を備え、前記コイルが、前記鉄心の径方向に並んで複数配置されている電機子の製造方法であって、
前記スロットの内部に前記鉄心の軸線方向に延びるように導線を配置する導線配置工程と、
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の前記押圧治具によって前記導線を前記スロットの内面に向けて押圧することで、前記導線を塑性変形させて前記コイルを形成する押圧工程と、を備える、
電機子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電機子の製造装置及び電機子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機のステータなどの電機子は、複数のスロットを有する円筒状の鉄心と、スロットの内部に配置されたコイルと、スロットの内面とコイルとの間に配置された絶縁シートとを備えている。
【0003】
詳しくは、鉄心は、円筒状のヨークと、ヨークから径方向の内側に突出した複数のティースとを有している。スロットは、互いに隣り合うティース同士の間に形成されている。
例えば特許文献1には、スロットの内部において軸線方向に延びるように配置された導線を、押圧治具を用いて径方向においてスロットの内面に向けて押圧して塑性変形させることで上記コイルを形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示の押圧治具を含む従来の押圧治具は、鉄心の径方向に直交する平坦な押圧面を有している。こうした押圧治具を用いる場合には、軸線方向における鉄心の端の位置において絶縁シートに応力が集中しやすいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する電機子の製造装置は、複数のスロットを有する円筒状の鉄心と、前記スロットの内部に配置されたコイルと、前記スロットの内面と前記コイルとの間に配置された絶縁体と、を備え、前記コイルが、前記鉄心の径方向に並んで複数配置されている電機子の製造装置であって、前記スロットの内部において前記鉄心の軸線方向に延びるように配置された導線を前記径方向において前記スロットの内面に向けて押圧して塑性変形させることで前記コイルを形成する押圧治具を備え、前記押圧治具は、前記導線のうち前記スロットの内部に配置される配置部を前記軸線方向の全体にわたって押圧する押圧面を有し、前記押圧面は、前記径方向において前記スロットの内面に最も近接する最近接部と、前記最近接部に連なるとともに前記軸線方向において前記最近接部から離れるほど前記径方向において前記内面から離れるように傾斜する傾斜部と、を有する。
【0007】
また、上記課題を解決する電機子の製造方法は、複数のスロットを有する円筒状の鉄心と、前記スロットの内部に配置されたコイルと、前記スロットの内面と前記コイルとの間に配置された絶縁体と、を備え、前記コイルが、前記鉄心の径方向に並んで複数配置されている電機子の製造方法であって、前記スロットの内部に前記鉄心の軸線方向に延びるように導線を配置する導線配置工程と、前記押圧治具によって前記導線を前記スロットの内面に向けて押圧することで、前記導線を塑性変形させて前記コイルを形成する押圧工程と、を備える。
【0008】
上記構成及び上記方法によれば、押圧治具の押圧面により導線の配置部を押圧する際の荷重は、最近接部において最も大きくなる。また、押圧治具の押圧面は傾斜部を有しているため、軸線方向において最近接部から離れている押圧面の端部では、最近接部に比べて上記荷重が小さくなる。また、押圧面が傾斜部を有しているため、軸線方向において上記荷重が急激に変化することが抑制される。これらのことから、軸線方向における鉄心の端の位置において絶縁体に応力が集中することを抑制できる。したがって、絶縁体への応力集中を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態におけるステータを示す断面図である。
【
図3】
図3は、同実施形態におけるステータコアとセグメントコイルとを離して示す分解斜視図である。
【
図4】
図4は、同実施形態におけるステータコアのスロットの内部に配置されたセグメントコイルと押圧治具とを離して示す断面斜視図である。
【
図5】
図5は、同実施形態におけるステータコアのスロットの内部に配置されたセグメントコイルと押圧治具とを離して示す断面図である。
【
図6】
図6は、同実施形態におけるステータコアのスロットの内部に5つのセグメントコイルが配置されている状態を示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図6に対応する図であって、同実施形態の5つのセグメントコイルと押圧治具とを離して示す断面図である。
【
図8】
図8は、
図6に対応する図であって、同実施形態の5つのセグメントコイルが押圧治具によって押圧されている状態を示す断面図である。
【
図9】
図9は、
図6に対応する図であって、同実施形態の8つのセグメントコイルが押圧治具によって押圧されている状態を示す断面図である。
【
図11】
図11は、
図10に対応する図であって、従来の押圧治具によってセグメントコイルが押圧された状態を示す断面図である。
【
図12】
図12は、第1変形例によってセグメントコイルが押圧された状態を示す断面図である。
【
図13】
図13は、第2変形例によってセグメントコイルが押圧された状態を示す断面図である。
【
図14】
図14は、第3変形例によってセグメントコイルが押圧された状態を示す断面図である。
【
図15】
図15は、第4変形例によってセグメントコイルが押圧された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1~
図11を参照して、電機子の製造装置及び電機子の製造方法をステータの製造装置及びステータの製造方法として具体化した一実施形態について説明する。
各図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率については実際と異なる場合がある。
【0011】
(ステータ10)
図1及び
図2に示すように、ステータ10は、ステータコア20と、コイル30と、複数の絶縁シート50とを備えている。ステータコア20は、円筒状をなしている。コイル30は、ステータコア20に巻回されている。各絶縁シート50は、コイル30の外面を覆っている。ステータコア20は、「鉄心」に相当する。
【0012】
本実施形態のステータ10は、三相同期型の回転電機に用いられるものであり、図示しないロータを取り囲むように設けられている。
以降において、ステータコア20の軸線方向、径方向、及び周方向を単にそれぞれ軸線方向、径方向、及び周方向と称する。
【0013】
(ステータコア20)
ステータコア20は、ヨーク21と、複数のティース22と、複数のスロット23とを有している。ヨーク21は円筒状をなしている。複数のティース22は、ヨーク21から径方向の内側に突出するとともに周方向に互いに間隔をおいて設けられている。スロット23は、周方向において隣り合うティース22同士の間に1つずつ形成されている。各スロット23は、径方向の内側及び軸線方向の両側において開口している。本実施形態のステータコア20は、都合48個のスロット23を有している。
【0014】
図1に示すように、ステータコア20は、ヨーク21から径方向の外側に突出した3つの固定部24を有している。3つの固定部24は、周方向に互いに間隔をおいて設けられている。各固定部24には、固定部24を軸線方向に貫通するボルト孔24aが設けられている。ボルト孔24aに挿入された図示しないボルトが図示しないハウジングに締結されることで、ステータコア20が当該ハウジングに対して固定されている。
【0015】
こうしたステータコア20は、例えば、軸線方向において積層された複数の電磁鋼板が互いに接合されることにより構成されている。
(コイル30)
コイル30は、U相、V相、及びW相を構成する3つの相巻線により構成されている。各相巻線は、複数のティース22に跨がって巻回されている。
【0016】
コイル30は、導体と、導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有している。導体は、例えばアルミニウム合金などの金属材料により形成されている。各図においては、絶縁被覆の図示が省略されている。
【0017】
図3及び
図4に示すように、コイル30は、複数の配置部31と、複数の第1コイルエンド32と、複数の第2コイルエンド33とを有している。
配置部31は、スロット23の内部に配置されている。配置部31は、軸線方向において直線状に延びている。スロット23の内部には、8つの配置部31が径方向に並んで設けられている。
【0018】
図2及び
図4に示すように、コイル30の長さ方向に直交する断面形状は、長辺及び短辺を有する長方形状をなしている。配置部31の断面形状における長辺は、スロット23の幅方向に延びており、配置部31の断面形状における短辺は、径方向に延びている。配置部31の上記長辺は、絶縁シート50の開口幅と同一である。なお、スロット23の幅方向とは、軸線方向と径方向との双方に直交する方向である。
【0019】
第1コイルエンド32は、配置部31から軸線方向の一方に延びている。第1コイルエンド32は、軸線方向の一方においてスロット23から突出している。図示は省略するが、第1コイルエンド32は、周方向に屈曲することで、異なる2つのスロット23の内部に配置された2つの配置部31同士を連結している。
【0020】
第2コイルエンド33は、配置部31から軸線方向の一方とは反対側に延びている。第2コイルエンド33は、軸線方向の一方とは反対の他方においてスロット23から突出するとともに周方向に屈曲している。第2コイルエンド33は、異なる2つのスロット23の内部に配置された2つの配置部31同士を連結している。
【0021】
(セグメントコイル40)
図2及び
図4に示すように、上述したコイル30の各相巻線は、複数のセグメントコイル40が互いに接合されることによって構成されている。本実施形態では、1つのスロット23の内部において、8つのセグメントコイル40が径方向に並んで配置される。
【0022】
図3に示すように、セグメントコイル40は、平行に延びる2つの直線部34と、2つの直線部34の端部同士を連結する連結部35とを有している。セグメントコイル40は、U字状をなしている。
【0023】
こうしたセグメントコイル40の2つの直線部34は、異なる2つのスロット23のそれぞれに対して、軸線方向の一方から挿入される。その後、スロット23から突出した直線部34の一部が周方向の一方または他方に曲げられる。そして、1つのセグメントコイル40の直線部34と、当該セグメントコイル40とは別のセグメントコイル40の直線部34とが接合される。これにより、各相巻線が構成されている。
【0024】
上記各直線部34は、第1コイルエンド32、配置部31、及び第2コイルエンド33によって構成されている。したがって、セグメントコイル40は、互いに異なる2つのスロット23の内部にそれぞれ配置される2つの配置部31と、互いに独立した2つの第1コイルエンド32と、2つの第2コイルエンド33とを有している。セグメントコイル40における2つの第1コイルエンド32は、2つの配置部31からそれぞれ片持ち状に延びている。2つの第2コイルエンド33は、2つの配置部31における第1コイルエンド32とは反対側の部分同士が連結部35によって連結されている。セグメントコイル40が、「導線」に相当する。
【0025】
(絶縁シート50)
図2に示すように、絶縁シート50は、各スロット23の内部に1つずつ配置されている。絶縁シート50は、スロット23の内面とコイル30の外面との間に配置されている。絶縁シート50は、スロット23の内面全体を覆っている。絶縁シート50は、例えば、スロット23と同様に、径方向の内側及び軸線方向の両側において開口している。軸線方向における絶縁シート50の両端は、スロット23から突出している。絶縁シート50は、合成樹脂材料によって構成されている。絶縁シート50が、「絶縁体」に相当する。
【0026】
(ステータの製造装置60)
図4及び
図5に示すように、ステータの製造装置60(以下、製造装置60と称する)は、押圧治具70を備えている。押圧治具70は、スロット23の内部において軸線方向に延びるように配置されたセグメントコイル40を径方向においてスロット23の内面23aに向けて押圧して塑性変形させるものである。
【0027】
(押圧治具70)
図4及び
図5に示すように、押圧治具70は、軸線方向及び径方向の双方に延びる板状をなしている。押圧治具70の軸線方向における長さは、セグメントコイル40の軸線方向における長さよりも大きい。押圧治具70の幅は、軸線方向において一定の大きさであり、絶縁シート50の開口幅と略同一である。
【0028】
押圧治具70の材料としては、例えば、鉄系材料などの金属材料が挙げられる。
図4及び
図5に示すように、押圧治具70は、セグメントコイル40の配置部31を軸線方向の全体にわたって押圧する押圧面71を有している。
【0029】
押圧面71は、最近接部72と、第1傾斜部75、及び第2傾斜部76を有している。
最近接部72は、押圧面71のうち径方向においてスロット23の内面23aに最も近接する部位である。
【0030】
最近接部72は、径方向に直交する平坦部73である。すなわち、最近接部72は、軸線方向及びスロット23の幅方向の双方に延びている。
最近接部72は、軸線方向におけるステータコア20の両端20a,20bの位置の間に設けられている。
【0031】
第1傾斜部75及び第2傾斜部76は、最近接部72に連なるとともに軸線方向において最近接部72から離れるほど径方向において内面23aから離れるように傾斜する部位である。
【0032】
第1傾斜部75は、軸線方向における最近接部72の第1端72a、すなわち第1コイルエンド32側の端に連なっている。
第1傾斜部75は、軸線方向におけるステータコア20の両端20a,20bのうち第1コイルエンド32側の端20aよりも外側まで延びている。
【0033】
第2傾斜部76は、軸線方向における最近接部72の第1端72aとは反対側の第2端72b、すなわち第2コイルエンド33側の端に連なっている。
第2傾斜部76は、軸線方向におけるステータコア20の両端20a,20bのうち第2コイルエンド33側の端20bよりも外側まで延びている。
【0034】
ここで、軸線方向に延びる仮想直線Vと第2傾斜部76とのなす角度α2は、仮想直線Vと第1傾斜部75とのなす角度α1よりも大きい(α2>α1)。
(ステータの製造方法)
ステータの製造方法は、絶縁シート配置工程、コイル配置工程、押圧工程、及び接合工程を備えている。本実施形態では、絶縁シート配置工程、コイル配置工程、押圧工程、及び接合工程がこの順で行われる。ただし、コイル配置工程及び押圧工程は、この順で複数回繰り返し行われる。
【0035】
(絶縁シート配置工程)
図6に示すように、絶縁シート配置工程では、スロット23の内部に絶縁シート50が配置される。このとき、絶縁シート50は、径方向の内側からスロット23の内部に挿入されてもよいし、軸線方向からスロット23の内部に挿入されてもよい。
【0036】
(コイル配置工程)
コイル配置工程では、スロット23の内部に複数のセグメントコイル40が配置される。本実施形態では、まず、1つのスロット23の内部に配置される都合8つのセグメントコイル40のうち、5つのセグメントコイル40がスロット23の内部において径方向に並んで配置される。
【0037】
コイル配置工程では、スロット23の幅よりも小さい幅、より詳しくは、絶縁シート50の開口幅よりも小さい幅を有する配置部31がスロット23の内部に配置される。したがって、配置部31と絶縁シート50との間には、スロット23の幅方向において隙間が設けられている。コイル配置工程が、「導線配置工程」に相当する。
【0038】
(押圧工程)
図7及び
図8に示すように、押圧工程では、セグメントコイル40の配置部31が、押圧治具70によって径方向の外側におけるスロット23の内面23aに向けて押圧される。これにより、配置部31がスロット23の内面23aに沿って塑性変形する。このため、上述した配置部31と絶縁シート50との隙間が無くなる。したがって、配置部31の幅が絶縁シート50の開口幅と同一になる。
【0039】
図9に示すように、次に、残り2つのセグメントコイル40において、コイル配置工程及び押圧工程がこの順で行われた後に、残り1つのセグメントコイル40において、コイル配置工程及び押圧工程がこの順で行われる。なお、残り3つのセグメントコイル40において、コイル配置工程及び押圧工程がこの順で行われてもよい。
【0040】
(接合工程)
図示は省略するが、接合工程では、各第1コイルエンド32に係合する円環状の捻り治具によって、各セグメントコイル40における一方の第1コイルエンド32が周方向の一方に捻られるとともに、他方の第1コイルエンド32が周方向の他方に捻られる。これにより、セグメントコイル40における第1コイルエンド32の端部と、当該セグメントコイル40とは別のセグメントコイル40における第1コイルエンド32の端部とが、径方向において隣接する。そして、これらの端部同士が溶接によって接合されることによりコイル30が製造される。
【0041】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図10に示すように、押圧治具70の押圧面71によりセグメントコイル40の配置部31を押圧する際の荷重は、最近接部72において最も大きくなる。
【0042】
また、押圧治具70の押圧面71は第1傾斜部75及び第2傾斜部76を有しているため、軸線方向において最近接部72から離れている押圧面71の端部では、最近接部72に比べて上記荷重が小さくなる。
【0043】
また、押圧面71が第1傾斜部75及び第2傾斜部76を有しているため、軸線方向において上記荷重が急激に変化することが抑制される。
これらのことから、軸線方向におけるステータコア20の端20a,20bの位置において絶縁シート50に応力が集中することを抑制できる。
【0044】
一方、
図11に示すように、従来の押圧治具170は、ステータコア20の径方向に直交する平坦な押圧面171を有している。この場合、軸線方向におけるステータコア20の端20a,20bの位置において絶縁シート50に応力が集中しやすい。
【0045】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)製造装置60の押圧治具70は、セグメントコイル40のうちスロット23の内部に配置される配置部31を軸線方向の全体にわたって押圧する押圧面71を有している。押圧面71は、最近接部72と、傾斜部としての第1傾斜部75及び第2傾斜部76とを有している。
【0046】
こうした構成によれば、上記作用を奏することにより、絶縁シート50への応力集中を抑制できる。
(2)最近接部72は、軸線方向に延びる平坦部73を有している。
【0047】
こうした構成によれば、配置部31のうち最近接部72によって押圧される範囲を拡大することが可能となる。このため、押圧面71に占める最近接部72の割合、すなわち平坦部73の割合を増やすことによって、配置部31のうち均一の荷重によって押圧される部分の割合を増やすことができる。したがって、コイル30の占積率を高めることができる。
【0048】
(3)最近接部72は、軸線方向におけるステータコア20の両端20a,20bの位置の間に設けられている。傾斜部としての第1傾斜部75及び第2傾斜部76は、軸線方向においてステータコア20の端20a,20bよりも外側の位置まで延びている。
【0049】
こうした構成によれば、軸線方向のステータコア20の端20a,20bの位置において絶縁シート50に作用する荷重が傾斜部によって逃がされるようになる。したがって、軸線方向におけるステータコア20の端20a,20bの位置において絶縁シート50に応力が集中することを一層抑制できる。
【0050】
(4)第2傾斜部76は、軸線方向において第2コイルエンド33側に向かって延びている。
セグメントコイル40においては、連結部35によって連結される2つの第2コイルエンド33は、互いに独立した2つの第1コイルエンド32と比べて、押圧治具70によって押圧する際の反力が大きくなりやすく、塑性変形し難い。このため、押圧治具70の押圧面71によりセグメントコイル40の配置部31を押圧する際、配置部31における第2コイルエンド33側の端部には、上記反力に抗するために、第1コイルエンド32側の端部よりも大きな荷重が作用することとなる。その結果、絶縁シート50のうち配置部31における第2コイルエンド33側の端部を覆う部分に、特に応力集中が生じやすい。
【0051】
この点、上記構成によれば、絶縁シート50のうち特に応力集中が生じやすい上記部分への応力集中を抑制できる。
(5)第1傾斜部75は、軸線方向におけるステータコア20の両端20a,20bのうち第1コイルエンド32側の端20aよりも外側まで延びている。第2傾斜部76は、軸線方向におけるステータコア20の両端20a,20bのうち第2コイルエンド33側の端20bよりも外側まで延びている。軸線方向に延びる仮想直線Vと第2傾斜部76とのなす角度α2は、仮想直線Vと第1傾斜部75とのなす角度α1よりも大きい(α2>α1)。
【0052】
こうした構成によれば、絶縁シート50のうち配置部31における第2コイルエンド33側の端20bを覆う部分に作用する荷重が、仮想直線Vとのなす角度が第2傾斜部76よりも大きい第1傾斜部75によって一層逃がされるようになる。したがって、上記部分への応力集中を一層抑制できる。
【0053】
(6)ステータの製造方法は、スロット23の内部にステータコア20の軸線方向に延びるようにセグメントコイル40の配置部31を配置するセグメントコイル配置工程を備える。ステータの製造方法は、押圧治具70によって配置部31をスロット23の内面23aに向けて押圧することで、配置部31を塑性変形させてコイル30を形成する押圧工程を備える。
【0054】
こうした方法によれば、上記作用を奏することにより、絶縁シート50への応力集中を抑制できる。
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0055】
・仮想直線Vと第2傾斜部76とのなす角度α2は、仮想直線Vと第1傾斜部75とのなす角度α1よりも大きいものに限定されず、角度α1以下であってもよい。例えばセグメントコイル40に代えて、連結部35が設けられていないストレート型の導線を用いる場合においては、仮想直線Vと第2傾斜部76とのなす角度α2を、仮想直線Vと第1傾斜部75とのなす角度α1と同一にしてもよい(α1=α2)。
【0056】
・本実施形態の押圧治具70の押圧面71において、第1傾斜部75を省略するとともに、第1傾斜部75に対応する部分を最近接部72によって構成するようにしてもよい。
・例えばセグメントコイル40に代えて、連結部35が設けられていないストレート型の導線を用いる場合においては、第1傾斜部75及び第2傾斜部76のいずれか一方を省略するようにしてもよい。この場合であっても、傾斜部が設けられていることによって、軸線方向において最近接部72から離れている押圧面71の端部では、最近接部72に比べて上記荷重が小さくなる。これにより、軸線方向におけるステータコア20の一方の端の位置において絶縁シート50に応力が集中することを抑制できる。
【0057】
・第1傾斜部75は、軸線方向におけるステータコア20の第1コイルエンド32側の端20aよりも外側まで延びていなくてもよい。また、第2傾斜部76は、軸線方向におけるステータコア20の端20bよりも外側まで延びていなくてもよい。
【0058】
図12及び
図13に示すように、例えば、第2傾斜部76全体は、軸線方向におけるステータコア20の端20bよりも内側に設けられている。また、押圧面71は、第2傾斜部76を挟んで最近接部72とは反対側に外側平坦部78を有している。外側平坦部78は、最近接部72と同様、ステータコア20の軸線方向及びスロット23の幅方向の双方に延びている。
【0059】
・最近接部72は、軸線方向に延びる平坦部でなくてもよい。
図14に示すように、最近接部72は、軸線方向における実質的な長さを有さないものであってもよい。
【0060】
また、
図15に示すように、押圧面71全体が、軸線方向において第2コイルエンド33側ほど径方向の内側に位置するように傾斜するものであってもよい。この場合、押圧面71のうち、軸線方向におけるステータコア20の端20aの位置に対応する部分が最近接部72となるとともに、最近接部72以外の部分が第2傾斜部76となる。
【0061】
・絶縁体は、本実施形態において例示した絶縁シート50に限定されない。絶縁体は、スロット23の内面とコイル30との間に配置されるものであればよく、スロット23の内面全体に設けられた塗膜によって構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10…ステータ
20…ステータコア(鉄心)
20a…第1端
20b…第2端
21…ヨーク
22…ティース
23…スロット
23a…スロットの内面
24…固定部
24a…ボルト孔
30…コイル
31…配置部
32…第1コイルエンド
33…第2コイルエンド
34…直線部
35…連結部
40…セグメントコイル
50…絶縁シート(絶縁体)
60…ステータの製造装置
70…押圧治具
71…押圧面
72…最近接部
72a…第1端
72b…第2端
73…平坦部
75…第1傾斜部
76…第2傾斜部