(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ワイヤロープ検査方法、ワイヤロープ検査装置およびワイヤロープ検査システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/82 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
G01N27/82
(21)【出願番号】P 2021132889
(22)【出願日】2021-08-17
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】戸波 寛道
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/152939(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/150539(WO,A1)
【文献】特開2020-008500(JP,A)
【文献】特開2013-035693(JP,A)
【文献】特開昭61-035348(JP,A)
【文献】実開昭61-157859(JP,U)
【文献】特開2018-200197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00 - B66B 5/28
G01N 27/72 - G01N 27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープに対して磁界を印加することによって、前記ワイヤロープを励振する励振ステップと、
前記励振ステップにおいて励振された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出ステップと、
前記検出ステップにおいて検出した検出信号に基づく信号波形である検出信号波形に、予め取得した前記ワイヤロープの異常部分の信号波形である異常波形を重畳加算する重畳加算ステップと、
前記検出信号波形に前記異常波形が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、前記検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定する、判定ステップと、を備える、ワイヤロープ検査方法。
【請求項2】
前記重畳加算ステップに先立って、検査対象である前記ワイヤロープと同じ仕様の他のワイヤロープから検出した異常部分発生前後の検出信号の波形の差分に基づいて、前記ワイヤロープの異常部分の信号波形である前記異常波形を取得する、異常波形取得ステップをさらに備え、
前記判定ステップは、前記重畳加算部分において前記検出信号波形に重畳加算された前記異常波形が前記検出信号波形のノイズに埋もれるか否かを判定するために、前記検出信号波形に、前記異常波形取得ステップにおいて取得される前記異常波形が重畳加算された前記重畳加算波形に基づく値が、前記検出信号波形のノイズに対応する前記所定の範囲を超えるか否かを判定する、請求項1に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項3】
前記判定ステップは、前記重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が、前記検出信号波形のノイズに対応する前記所定の範囲を超えるか否かを判定する、請求項1または2に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項4】
前記判定ステップは、前記重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が、前記検出信号波形を微分処理した波形の前記重畳加算部分を基準とする特定区間におけるノイズに起因するピークの最大値に基づいて設定されるノイズレベル値を超えるか否かを判定する、請求項1~3のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項5】
前記重畳加算波形に基づく値が前記所定の範囲を超えると前記判定ステップにおいて判定された後に、前記重畳加算波形に基づく値が前記所定の範囲を超えないことをユーザに通知する、通知ステップをさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項6】
前記重畳加算ステップは、前記検出ステップにおいて検出した検出信号の波形である前記検出信号波形の全ての領域に対して、予め取得した前記異常波形を順次重畳加算するステップを含み、
前記判定ステップは、前記重畳加算ステップにおいて前記検出信号波形に前記異常波形が順次重畳加算されるたびに、前記検出信号波形に前記異常波形が重畳加算された前記重畳加算波形に基づく値が前記所定の範囲を超えるか否かを判定するステップを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項7】
前記重畳加算波形に基づく値が前記所定の範囲を超えないと前記判定ステップにおいて判定された後に、前記検出ステップよりも検出信号の検出感度を上げた状態で、前記ワイヤロープの磁束の変化を検出するための高感度検出モードに切り替える、モード切替ステップをさらに備える、請求項1~6のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項8】
前記モード切替ステップは、前記ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部を前記検出ステップよりも前記ワイヤロープに近づけるか、または、前記ワイヤロープの磁束の変化の検出時における前記ワイヤロープの移動速度を前記検出ステップよりも遅くするかの少なくとも一方の状態で、前記ワイヤロープの磁束の変化を検出するモードである前記高感度検出モードに変更するステップである、請求項7に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項9】
前記モード切替ステップ後において、少なくとも前記重畳加算波形に基づく値が前記所定の範囲を超えると前記判定ステップにおいて判定された区間において、前記ワイヤロープの磁束の変化の検出を、前記高感度検出モードによって再度行う、再検出ステップをさらに備える、請求項7または8に記載のワイヤロープ検査方法。
【請求項10】
ワイヤロープに対して磁界を印加することによって、前記ワイヤロープを励振する励振部と、
前記励振部において励振された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部と、
前記検出部が検出した検出信号を処理する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記検出部が検出した検出信号の波形である検出信号波形に、予め取得した前記ワイヤロープの異常部分の検出信号の波形である異常波形を重畳加算し、前記検出信号波形に前記異常波形が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、前記検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定するように構成されている、ワイヤロープ検査装置。
【請求項11】
ワイヤロープの磁束の変化を検出するワイヤロープ検査装置と、
前記ワイヤロープ検査装置による前記ワイヤロープの測定結果を処理する処理装置と、を備え、
前記ワイヤロープ検査装置は、前記ワイヤロープに対して磁界を印加することによって、前記ワイヤロープを励振する励振部と、前記励振部において励振された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部と、を備え、
前記処理装置は、前記検出部が検出した検出信号の波形である検出信号波形に、予め取得した前記ワイヤロープの異常部分の検出信号の波形である異常波形を重畳加算し、前記検出信号波形に前記異常波形が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、前記検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定するように構成されている、ワイヤロープ検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープ検査方法、ワイヤロープ検査装置およびワイヤロープ検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、励振コイルと、検知コイルとを備える磁性体検査装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、ワイヤロープを励振する励振コイルと、ワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルとを備える磁性体検査装置が開示されている。この磁性体検査装置は、検知コイルにより出力された検出信号によって、ワイヤロープの状態の判定を行う。また、上記特許文献1のような従来の磁性体検査装置では、ワイヤロープの磁界に基づく検出信号の変化(信号波形の変化)に基づいて、ワイヤロープの異常部分の有無を判定している。なお、ワイヤロープの「異常部分」とは、素線断線、キンク、錆、異物の付着など、ワイヤロープの断面積または組成の変化が発生した部分を含む広い概念である。また、キンクとは、ワイヤロープに発生するよじれ、ねじれ、または、もつれのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のような従来の磁性体検査装置では、ワイヤロープの磁界に基づく検出信号の変化(信号波形の変化)に基づいて、ワイヤロープの異常部分の有無を判定している。このような従来の磁性体検査装置では、ワイヤロープの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することによって、ワイヤロープの異常部分を検出することが可能であるが、ワイヤロープには、ノイズに起因して(ノイズに埋もれて)、ワイヤロープの異常部分に起因する検出信号の変化を検出すること(異常部分の検出)が困難な箇所が発生する場合がある。また、ワイヤロープが疲労していくにつれて、ノイズはしだいに大きくなり、異常部分の検出が困難な箇所は、さらに発生していく。このような、ノイズに起因して異常部分の検出が困難な箇所に対しては、通常の検査時よりも高感度な検査、または、目視、触診による検査を行うなど、精細な検査を行う必要がある。そのため、ワイヤロープにおいて、ノイズに起因して異常部分の検出が困難な箇所を検出することが望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ワイヤロープにおいて、ノイズに起因して異常部分の検出が困難な箇所を検出可能なワイヤロープ検査方法、ワイヤロープ検査装置およびワイヤロープ検査システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の局面におけるワイヤロープ検査方法は、ワイヤロープに対して磁界を印加することによって、ワイヤロープを励振する励振ステップと、励振ステップにおいて励振されたワイヤロープの磁束の変化を検出する検出ステップと、検出ステップにおいて検出した検出信号に基づく信号波形である検出信号波形に、予め取得したワイヤロープの異常部分の信号波形である異常波形を重畳加算する重畳加算ステップと、検出信号波形に異常波形が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定する、判定ステップと、を備える。
【0008】
この発明の第2の局面におけるワイヤロープ検査装置は、ワイヤロープに対して磁界を印加することによって、ワイヤロープを励振する励振部と、励振部において励振されたワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部と、検出部が検出した検出信号を処理する制御部と、を備え、制御部は、検出部が検出した検出信号の波形である検出信号波形に、予め取得したワイヤロープの異常部分の検出信号の波形である異常波形を重畳加算し、検出信号波形に異常波形が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定するように構成されている。
【0009】
この発明の第3の局面におけるワイヤロープ検査システムは、ワイヤロープの磁束の変化を検出するワイヤロープ検査装置と、ワイヤロープ検査装置によるワイヤロープの測定結果を処理する処理装置と、を備え、ワイヤロープ検査装置は、ワイヤロープに対して磁界を印加することによって、ワイヤロープを励振する励振部と、励振部において励振されたワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部と、を備え、処理装置は、検出部が検出した検出信号の波形である検出信号波形に、予め取得したワイヤロープの異常部分の検出信号の波形である異常波形を重畳加算し、検出信号波形に異常波形が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定するように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の局面におけるワイヤロープ検査方法、第2の局面におけるワイヤロープ検査装置および第3の局面におけるワイヤロープ検査システムでは、上記のように、検出信号に基づく信号波形である検出信号波形に、予め取得したワイヤロープの異常部分の信号波形である異常波形を重畳加算する。これにより、予め取得した検査対象自体とは異なるワイヤロープの異常部分の信号波形である異常波形が、検出信号波形に重畳加算されることによって、異常部分が発生した場合に検出される信号波形の予想として、検出信号波形に異常波形が重畳加算された重畳加算波形を取得することができる。そして、検出信号波形に異常波形が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定する。これにより、異常部分が発生した場合に検出される信号波形の予想として取得される重畳加算波形に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えない場合には、重畳加算部分に異常部分が実際に発生したとしても、検出信号波形のノイズに起因して(検出信号波形のノイズに埋もれて)、ワイヤロープの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難であると判定することができる。その結果、異常波形を重畳加算させた重畳加算部分が、異常部分が実際に発生した際に、検出信号波形のノイズに起因して異常部分の検出が困難な箇所であるか否かを判定することができるので、ワイヤロープにおいて、ノイズに起因して異常部分の検出が困難な箇所を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】検査装置本体のエレベータへの取り付け位置の一例を示した模式図である。
【
図2】第1実施形態によるワイヤロープ検査装置の全体構成を示したブロック図である。
【
図3】Z方向における検出部および励磁コイルの配置を示した模式図である。
【
図5】
図3の800―800線に沿った断面における運転モード時の検出コイルおよび励磁コイルの配置を示した模式図である。
【
図6】通常検出モード時および高感度検出モード時における検出コイルの配置を示した模式図である。
【
図8】検出信号波形への重畳加算処理を示した第1図である。
【
図9】検出信号波形への重畳加算処理を示した第2図である。
【
図10】検出信号波形への重畳加算処理を示した第3図である。
【
図11】ワイヤロープ検査時における処理フローの一例を示した第1フロー図である。
【
図12】ワイヤロープ検査時における処理フローの一例を示した第2フロー図である。
【
図13】第2実施形態によるワイヤロープ検査装置の構成を示したブロック図である。
【
図14】第3実施形態によるワイヤロープ検査システムの構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
[第1実施形態]
図1~
図6を参照して、第1実施形態によるワイヤロープ検査装置100の構成について説明する。なお、以下の説明において、「直交」とは、90度および90度近傍の角度をなして交差することを意味する。
【0014】
(ワイヤロープ検査装置の構成)
ワイヤロープ検査装置100は、検査対象物であり磁性体であるワイヤロープWの素線断線および錆などの異常部分を検査するための装置である。ワイヤロープ検査装置100は、全磁束法によって、ワイヤロープWの異常部分の有無などのワイヤロープWの状態を解析(判定)することにより、目視により確認しにくいワイヤロープWの劣化を確認可能な装置である。ワイヤロープWに素線断線および錆などの異常部分が含まれる場合には、異常部分における磁束が正常部分とは異なる。全磁束法は、ワイヤロープWの表面の異常部分などからの漏洩磁束のみを測定する方法と異なり、ワイヤロープWの内部の素線断線および錆などの異常部分をも測定可能な方法である。
【0015】
ワイヤロープ検査装置100は、ワイヤロープWの磁束を計測する検査装置本体110(
図1参照)と、検査装置本体110が取得した検出信号に基づくデータを取得して処理するPC120(
図1参照)とを備えている。PC120は、後述するように、検査装置本体110によるワイヤロープWの磁束の計測結果、および、検査装置本体110によるワイヤロープWの磁束の計測結果に基づく解析結果(検査結果)の表示などを行うように構成されている。PC120は、たとえばタブレットPC(Personal Computer)などのタブレット端末である。なお、PC120は、ノートPCでもよい。
【0016】
ユーザ(作業者)は、ワイヤロープ検査装置100を用いてワイヤロープWの異常を検査することにより、目視により確認しにくいワイヤロープWの異常部分を確認可能である。
図1では、検査装置本体110が、エレベータ900のかご901の移動に用いられるワイヤロープWを検査する例を示している。
【0017】
図1に示すように、エレベータ900は、かご901、シーブ(滑車)902、シーブ903、および、ワイヤロープWを備える。エレベータ900は、巻き上げ機に設けられたシーブ902が回動してワイヤロープWを巻き上げることによって、人および積み荷などを積載するかご901を上下方向(鉛直方向)に移動させるように構成されている。なお、エレベータ900は、ダブルラップ方式(フルラップ方式)のロープ式エレベータであってもよいし、シングルラップ方式のロープ式エレベータであってもよい。検査装置本体110は、ワイヤロープWに対して移動しないように固定された状態で、巻き上げ機のシーブ902により移動させられるワイヤロープWの異常を検査する。なお、
図1では、シーブ902とシーブ903との間の位置に、検査装置本体110を取り付けているが、検査装置本体110の取り付け位置は、エレベータ900のかご901とシーブ902との間であってもよい。また、検査装置本体110の取り付け位置は、シーブ902に対して、シーブ902が設けられる位置とは反対側の位置(シーブ903の下方)であってもよい。
【0018】
ワイヤロープWは、素線材料である複数のストランドをより合わせることにより形成されており、Z方向に沿って延びる長尺材からなる磁性体である。なお、ストランドは、複数本の素線がより合わさって構成されている。ワイヤロープWは、劣化による切断が生じることを未然に防ぐために、検査装置本体110により検査されている。ワイヤロープWの磁束の計測の結果、ワイヤロープWの異常部分および劣化の程度が決められた基準を超えたと判断されるワイヤロープWは、ユーザ(作業者)により交換される。
【0019】
検査装置本体110は、ワイヤロープWの表面に沿って、ワイヤロープWに対して相対的に移動しながら、ワイヤロープWの磁束を計測する。エレベータ900に使用されるワイヤロープWのように、ワイヤロープW自体が移動する場合には、検査装置本体110に対してワイヤロープWを移動させながら、検査装置本体110によるワイヤロープWの磁束の計測が行われる。これにより、ワイヤロープWの長手方向(ワイヤロープWが延びる方向)であるZ方向の各位置における磁束を計測することができるので、ワイヤロープWの長手方向の各位置における異常部分を検査可能である。
【0020】
(検査装置本体の構成)
検査装置本体110(ワイヤロープ検査装置100)は、
図2に示すように、励磁コイル11と、検出部20とを備える。また、検出部20は、第1検出コイル21と、第2検出コイル22とを備える。なお、励磁コイル11は、特許請求の範囲の「励振部」の一例である。
【0021】
励磁コイル11は、ワイヤロープWに対して磁界を印加することによって、ワイヤロープWを励振するように構成されている。具体的には、励磁コイル11には、交流電流が流されており、周期的に電流が流れることにより、内部(コイルの内側)に磁界を発生させるとともに、周期的に発生させた磁界を内部に配置されたワイヤロープWに印加する。すなわち、励磁コイル11は、ワイヤロープWの磁化の状態を励振させるように構成されている。また、励磁コイル11は、ワイヤロープWに対して相対的に移動するように構成されている。
【0022】
検出部20は、励磁コイル11において励振されたワイヤロープWの磁束の変化を検出するように構成されている。検出部20は、ワイヤロープWに対して相対的に移動しながら、励磁コイル11によって周期的に磁界が印加されたワイヤロープWの磁束の変化を検出するように構成されている。また、検出部20は、第1検出コイル21および第2検出コイル22を含む。すなわち、第1検出コイル21および第2検出コイル22は、ワイヤロープWに対して相対的に移動しながら、励磁コイル11によって磁界が印加されたワイヤロープWの磁束の変化を検出(計測)するように構成されている。
【0023】
第1検出コイル21と第2検出コイル22は、検出したワイヤロープWの磁束に応じた検出信号を送信(電圧を出力)する。検出部20は、全磁束法によってワイヤロープWの内部の磁束を検出するように構成されている。なお、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)の詳細な説明は、後述する。
【0024】
また、検査装置本体110は、回路基板30を備える。回路基板30は、制御部31と、励振I/F32と、受信I/F33と、電源回路34と、記憶部35と、通信部36とを備える。回路基板30は、導体により配線パターンが形成され、電子部品が搭載(実装)されたプリント回路基板(PCB:Printed Circuit Board)である。
【0025】
制御部31は、検査装置本体110の各部を制御するように構成されている。制御部31は、CPUなどのプロセッサ、メモリ、ADコンバータなどを含んでいる。制御部31は、検出部20が検出した検出信号を処理するように構成されている。具体的には、受信I/F33によって増幅される検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)の検出信号を処理するように構成されている。
【0026】
制御部31は、後述するように、検出部20が検出した検出信号の波形である検出信号波形に、予め取得したワイヤロープWの異常部分の検出信号の波形である異常波形60(
図8~
図10参照)を重畳加算するように構成されている。そして、制御部31は、後述するように、検出信号波形に異常波形60が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形(
図8~
図10参照)に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定するように構成されている。これにより、制御部31は、重畳加算部分において、異常部分を検出することができるか否かを判定する処理(異常部分検出可否判定処理)を行うように構成されている。なお、制御部31による重畳加算処理および異常部分検出可否判定処理の詳細は、後述する。
【0027】
また、制御部31は、ワイヤロープWの計測結果に基づいて、ワイヤロープWの状態を解析し、素線断線および錆などのワイヤロープWの異常部分の有無を判定する。すなわち、制御部31は、検出部20により検出された検出信号(検出信号波形)に基づいて、異常部分の有無などのワイヤロープWの状態を判定する処理(異常部分有無判定処理)を行うように構成されている。
【0028】
励振I/F32は、制御部31からの制御信号を受信する。励振I/F32は、受信した制御信号に基づいて、励磁コイル11に対する電力の供給を制御する。
【0029】
受信I/F33は、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)の検出信号(差動信号)を受信(取得)して、制御部31に送信する。受信I/F33は、増幅器を含んでいる。受信I/F33は、増幅器により検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)の検出信号を増幅して、制御部31に送信する。
【0030】
電源回路34は、外部から電力を受け取って、励磁コイル11などの検査装置本体110の各部に電力を供給する。記憶部35は、たとえばフラッシュメモリを含む記憶媒体であり、ワイヤロープWの計測結果(計測データ)などの情報を記憶(格納)する。通信部36は、通信用のインターフェースであり、検査装置本体110とPC120とを通信可能に接続する。
【0031】
また、検査装置本体110(ワイヤロープ検査装置100)は、励磁コイル11によって磁界が印加されたワイヤロープWの磁束を整える整磁部40を備える。整磁部40は、ワイヤロープWに磁界を印加し、磁性体であるワイヤロープWの磁化の方向を整える(整磁する)ように構成されている。なお、整磁部40の詳細な説明は、後述する。
【0032】
また、検査装置本体110は、検出部移動機構50を備える。検出部移動機構50は、検出部20を支持する支持部51と、支持部51を移動させるための駆動部52とを含む。駆動部52は、制御部31によって制御されるモータなどの図示しないアクチュエータを含む。駆動部52は、制御部31の制御によって、支持部51を移動させるように構成されている。なお、検出部移動機構50による検出部20の移動の詳細な説明は、後述する。
【0033】
(PCの構成)
PC120(タブレット端末)は、検査装置本体110とは別個に設けられている。PC120は、
図2に示すように、通信部121と、制御部122と、記憶部123と、ディスプレイ部124とを備えている。
【0034】
通信部121は、通信用のインターフェースであり、検査装置本体110とPC120とを通信可能に接続する。PC120は、通信部121を介して、検査装置本体110によるワイヤロープWの計測結果(検出部20により検出された検出信号のデータ)、および、ワイヤロープWの計測結果に基づく解析結果(異常部分有無判定処理の結果および異常部分検出可否判定処理の結果など)などのデータを受信する。
【0035】
制御部122は、PC120の各部を制御するように構成されている。制御部122は、CPUなどのプロセッサ、メモリなどを含んでいる。
【0036】
記憶部123は、たとえばフラッシュメモリを含む記憶媒体であり、ワイヤロープWの計測結果(検出部20により検出された検出信号のデータ)、および、ワイヤロープWの計測結果に基づく解析結果などのデータを記憶(格納)する。
【0037】
ディスプレイ部124は、たとえば、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイを含むタッチパネルディスプレイであり、ワイヤロープWの計測結果、および、ワイヤロープWの計測結果に基づく解析結果などの情報を表示する表示部であるとともに、ユーザの操作を受け付ける操作部である。また、ワイヤロープ検査装置100では、ユーザが操作部としてディスプレイ部124を操作することによって、検査装置本体110の操作を行えるように構成されている。
【0038】
また、ディスプレイ部124は、後述するように、重畳加算波形(
図8~
図10参照)に基づく値が所定の範囲を超えないと判定された後に、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないこと(異常部分検出可否判定処理の結果)をユーザに通知するように構成されている。
【0039】
また、
図3に示すように、エレベータ900には、ワイヤロープWが複数設けられている。複数のワイヤロープWは、各々の長手方向(Z方向)に直交する方向(X方向)に並ぶように(互いに平行に)設けられている。また、検査装置本体110は、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)および励磁コイル11が設けられるユニット10を備える。検査装置本体110のユニット10は、ワイヤロープWに接触しないように、固定されている。
【0040】
そして、検出部20は、複数のワイヤロープWに対応して複数設けられている。すなわち、検出部20は、複数のワイヤロープWの本数と同数設けられている。たとえば、
図3に示すように、ワイヤロープWが6本の場合には、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)は、6つ設けられる。そして、検出部20は、複数のワイヤロープWが延びるZ方向に沿って相対的に移動するとともに、ワイヤロープWの磁束の変化を検出するように構成されている。
【0041】
また、整磁部40は、
図3に示すように、ユニット10とは、別個に設けられている。また、整磁部40は、ユニット10のZ2方向側において、複数のワイヤロープWに接触しないように固定されている。なお、整磁部40は、検出部20および励磁コイル11が設けられるユニット10と一体的に設けられてもよい。
【0042】
(整磁部の構成)
整磁部40は、ワイヤロープWに対して予め磁界を印加し、磁性体であるワイヤロープWの磁化の大きさおよび方向を整えるように構成されている。整磁部40は、
図4に示すように、検査対象物であるワイヤロープWに対して予めY方向から磁界を印加し磁性体であるワイヤロープWの磁化の大きさおよび方向を整える(整磁する)ように構成されている。また、整磁部40は、磁石40aおよび40bを含む。
【0043】
整磁部40(磁石40aおよび40b)は、
図4に示すように、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)および励磁コイル11に対して、ワイヤロープWの延びる方向の一方側(Z2方向側)に配置されている。そして、ワイヤロープWがZ1方向に移動する際には、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)の内部(内側)へ入る前に、整磁部40(磁石40aおよび40b)によって、ワイヤロープWに対して予め磁界が印加され、ワイヤロープWの磁化の大きさおよび方向が整えられる(整磁される)。
【0044】
すなわち、整磁部40は、ワイヤロープWが検出部20の内部(内側)へ入る前に、ワイヤロープWが延びるZ方向(ワイヤロープWの長手方向)と複数のワイヤロープWが隣り合うX方向とに直交するY方向から磁界を予め印加するように構成されている。また、
図4では、磁石40aおよび40bの各々のN極同士が対向するように配置される例を示しているが、磁石40aおよび40bの各々のS極同士が対向するように配置されてもよい。また、整磁部40は、磁石40aおよび40bのうち、一方のみが設けられる構成でもよい。
【0045】
(励磁コイルおよび検出コイルに関する構成)
ワイヤロープWは、
図5に示すように、検出部20および励磁コイル11の内部(内側)を通過する。そして、検出部20は、励磁コイル11の内側に配置される。励磁コイル11は、
図5に示すように、複数のワイヤロープWを取り囲むように設けられている。すなわち、励磁コイル11は、複数のワイヤロープWに対して共通に設けられている。励磁コイル11は、複数のワイヤロープWの磁化の状態を同時に励振するように構成されている。具体的には、励磁コイル11に電流が流されることにより、励磁コイル11の内部において、電流に基づいて発生する磁界(磁束)が複数のワイヤロープWに対して周期的に印加されるように構成されている。また、
図5に示すように、励磁コイル11は、複数の検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)に対しても共通に設けられている。また、回路基板30は、検出部20および励磁コイル11の外側(Y1方向側)に設けられている。
【0046】
また、
図5に示すように、検出部20は、ワイヤロープWが延びるZ方向および複数のワイヤロープWが隣り合うX方向に交差するY方向において、ワイヤロープWの一方側(Y1方向側)に配置される第1検出コイル21と、ワイヤロープWの他方側(Y2方向側)に配置される第2検出コイル22とを含む。すなわち、第1検出コイル21および第2検出コイル22は、互いにワイヤロープWを挟むように配置されている。
【0047】
また、第1検出コイル21および第2検出コイル22は、
図5に示すように、Z方向(Z1方向側またはZ2方向側)から見て、ワイヤロープWから離間する方向に凸のU字状(鞍型形状)に配置(形成)されている。なお、第1検出コイル21および第2検出コイル22は、Z方向(Z1方向側またはZ2方向側)から見て、ワイヤロープWから離間する方向に凸の半円状になるように配置(形成)されてもよい。また、Z方向(Z1方向側またはZ2方向側)から見て、検出部20(第1検出コイル21と第2検出コイル22と合わせた形状)が、矩形状に配置(形成)されていてもよい。
【0048】
第1検出コイル21と第2検出コイル22は、直列接続されており、磁束の変化に対し、互いに逆方向に電流が流れるように構成されている。すなわち、第1検出コイル21と第2検出コイル22は、差動接続されている。検出部20は、第1検出コイル21により得られた信号と第2検出コイル22により得られた信号との差動信号を検出信号として出力するように構成されている。
【0049】
第1検出コイル21および第2検出コイル22は、可撓性を有する部材によって形成されている。たとえば、第1検出コイル21および第2検出コイル22は、FPC(Flexible Printed Circuits)の導体パターンによって形成されている。
【0050】
そして、検出部20は、
図5に示すように、検出部移動機構50の支持部51によって支持されている。支持部51は、第1支持部51aと、第2支持部51bとを含む。そして、第1検出コイル21は、第1支持部51aによって支持されており、第2検出コイル22は、第2支持部51bによって支持されている。
【0051】
また、検査装置本体110では、駆動部52によって、第1支持部51aおよび第2支持部51bを、Y方向(Y1方向またはY2方向)に移動させることによって、Y方向におけるワイヤロープWの中心P(
図5参照)と第1検出コイル21との間の距離、および、Y方向における検出部20のワイヤロープWの中心P(
図5参照)と第2検出コイル22との間の距離とを変更(調整)可能に構成されている。なお、検査装置本体110(検出部20)は、検出部20の中心にワイヤロープWの中心Pが位置するように、ワイヤロープWに取り付けられている。
【0052】
なお、第1実施形態では、駆動部52による支持部51(検出部20)の移動の制御は、前述したように、制御部31によって行われるが、支持部51(検出部20)の移動は、ユーザの手によって(手動により)行われてもよい。たとえば、駆動部52にハンドルを設け、ユーザがハンドルを操作(回す)ことによって、支持部51(検出部20)が移動するように構成してもよい。
【0053】
また、ワイヤロープ検査装置100(検査装置本体110)は、エレベータ900の通常運転時におけるモードである運転モード(
図5参照)と、ワイヤロープWの検査を行う際のモードとに切り替え可能に構成されている。また、ワイヤロープ検査装置100(検査装置本体110)は、ワイヤロープWの検査を行う際のモードとして、通常検出モードと、高感度検出モードとを備える。各モード(運転モード、通常検出モード、および、高感度検出モード)への切り替えは、制御部31によって制御されている。なお、ワイヤロープ検査装置100における各モードへの切り替えは、制御部31が自動的に行うように構成してもよいし、ユーザの操作に基づいて制御部31が行うように構成してもよい。
【0054】
通常検出モードおよび高感度検出モードにおけるワイヤロープWの検査時において、ワイヤロープW(エレベータ900)の移動速度は、エレベータ900の通常運転時(運転モード時)よりも遅くする(低速にする)。すなわち、エレベータ900の通常運転時においては、ワイヤロープWの検査時よりも、ワイヤロープW(エレベータ900)の移動速度が速い。そして、ワイヤロープWの検査時よりも、ワイヤロープW(エレベータ900)の移動速度が速くなるので、エレベータ900の通常運転時においては、ワイヤロープWの振動幅も、ワイヤロープWの検査時よりも大きくなる。
【0055】
そこで、第1実施形態では、ワイヤロープ検査装置100(検査装置本体110)は、
図5に示すように、駆動部52により支持部51(第1支持部51aおよび第2支持部51b)をワイヤロープWから離間させることによって、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)をワイヤロープWから離間させる。具体的には、Y方向におけるワイヤロープWの中心Pと第1検出コイル21との間の距離D1(
図5参照)、および、Y方向におけるワイヤロープWの中心Pと第2検出コイル22との間の距離D2(
図5参照)が、後述するワイヤロープWの検査時(通常検出モードおよび高感度検出モード)における距離よりも長くなるように、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)をワイヤロープWから離間させている。これにより、検査装置本体110は、エレベータ900の通常運転時(ワイヤロープWの検査時以外)においても、支持部51(検出部20)に、振動したワイヤロープWが接触しないようにすることができる。その結果、ワイヤロープ検査装置100は、エレベータ900の通常運転時(ワイヤロープWの検査時以外)において、ワイヤロープWから検査装置本体110を取り外す必要がないので、エレベータ900の複数のワイヤロープWに対して、検査装置本体110を常設することが可能である。
【0056】
また、検査装置本体110は、通常検出モードおよび高感度検出モードにおけるワイヤロープWの検査時には、駆動部52によって、支持部51をワイヤロープWに近接させることによって、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)を、運転モード時よりもワイヤロープWに近接させるように構成されている。
【0057】
通常検出モードは、前述したように、ワイヤロープWの検査を行うためのモードである。通常検出モードでは、Y方向におけるワイヤロープWの中心Pと第1検出コイル21との間の距離D3(
図6参照)を、運転モードでのY方向におけるワイヤロープWの中心Pと第1検出コイル21との間の距離D1(
図5参照)よりも短くする。また、通常検出モードでは、Y方向におけるワイヤロープWの中心Pと第2検出コイル22との間の距離D4(
図6参照)を、運転モードでのY方向におけるワイヤロープWの中心Pと第2検出コイル22との間の距離D2(
図5参照)よりも短くする。なお、駆動部52は、通常検出モードにおいて、距離D3およびD4(
図6参照)が略等しくなるように、支持部51(検出部20)を移動させる。
【0058】
また、高感度検出モードは、前述したように、ワイヤロープWの検査を行うためのモードであり、通常検出モードでは検出が困難なワイヤロープWの磁束の変化を検出するためのモードである。高感度検出モードは、ワイヤロープWの磁束の変化を検出する検出部20を運転モードよりもワイヤロープWに近づけるともに、ワイヤロープWの磁束の変化の検出時におけるワイヤロープWの移動速度を通常検出モードよりも遅くした状態で、ワイヤロープWの磁束の変化を検出するモードである。
【0059】
高感度検出モードでは、Y方向におけるワイヤロープWの中心Pと第1検出コイル21との間の距離を、運転モードでのY方向におけるワイヤロープWの中心Pと第1検出コイル21との間の距離D1(
図5参照)よりも短くする。また、高感度検出モードでは、Y方向におけるワイヤロープWの中心Pと第2検出コイル22との間の距離を、運転モードでのY方向におけるワイヤロープWの中心Pと第2検出コイル22との間の距離D2(
図5参照)よりも短くする。第1実施形態では、高感度検出モードにおけるY方向におけるワイヤロープWの中心Pと第1検出コイル21との間の距離、および、Y方向におけるワイヤロープWの中心Pと第2検出コイル22との間の距離は、通常検出モード(
図6参照)と同じである。
【0060】
このように、通常検出モードおよび高感度検出モードにおいて、Y方向におけるワイヤロープWの中心Pと第1検出コイル21との間の距離、および、Y方向におけるワイヤロープWの中心Pと第2検出コイル22との間の距離は、運転モード時よりも短い。また、第1実施形態では、ワイヤロープWの移動速度は、速度の速い方から、運転モード、通常検出モード、高感度検出モードとなる。
【0061】
また、各モード(運転モード、通常検出モード、および、高感度検出モード)への切り替えは、検出部20の位置の変更および検査時におけるワイヤロープWの移動速度の変更のみならず、信号処理のモード(方法)を各々のモードに対応して切り替えるように構成されてもよい。すなわち、各モード(運転モード、通常検出モード、および、高感度検出モード)への切り替えでは、ハードウェアのモード切り替えのみならず、ソフトウェアのモード切り替えが行われてもよい。
【0062】
(制御部による処理)
次に、
図7~
図10を参照して、制御部31による信号処理について説明する。なお、
図7~
図10の各グラフの縦軸は、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)の検出信号を受信I/F33によって増幅した検出信号波形(検出信号波形を微分処理した微分処理波形)の信号出力である。そして、
図7~
図10の各グラフの横軸は、ワイヤロープWの検査開始位置からのワイヤロープWの移動距離である。すなわち、横軸は、ワイヤロープWの長手方向(Z方向)における位置に対応する。
【0063】
制御部31は、検出部20によって検出した検出信号に基づく信号波形である検出信号波形に、予め取得したワイヤロープWの異常部分の信号波形である異常波形60を重畳加算する処理(重畳加算処理)を行うように構成されている。
【0064】
第1実施形態では、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)の検出信号を受信I/F33によって増幅した信号の波形(生信号波形)に、異常波形60を重畳加算する処理(重畳加算処理)を行う。すなわち、第1実施形態では、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)の検出信号を受信I/F33によって増幅した信号の波形(生信号波形)を、異常波形60を重畳加算させる検出信号波形として用いる。
【0065】
ワイヤロープWの異常部分の信号波形である異常波形60の取得は、
図7に示すように、ワイヤロープ検査装置100の検査対象であるワイヤロープWと同じ仕様の他のワイヤロープから検出した異常部分(素線断線)発生前後の検出信号の波形の差分に基づいて、ワイヤロープWの異常部分の信号波形である異常波形60を取得する。異常波形60の取得は、制御部31による重畳加算処理に先立って実施される。なお、
図7~
図10を参照した説明においては、異常波形60として、素線断線に起因し、右上がりの特徴を持つ断線信号出の波形(断線波形)を用いた重畳加算処理および異常部分検出可否判定処理(ワイヤロープWの異常部分を検出できる状態であるか否かを判定する処理)を一例として挙げている。なお、錆または異物の付着などの素線断線以外の異常についても、各々の特有の波形パターン(波形の特徴)を取得することによって、素線断線と同様に、重畳加算処理および異常部分検出可否判定処理を行うことができる。
【0066】
そして、異常波形60のデータは、ワイヤロープWの検査前に予めワイヤロープ検査装置100に記憶(格納)されている。異常波形60のデータは、たとえば、検査装置本体110の記憶部35(
図2参照)に記憶されている。なお、異常波形60のデータは、PC120の記憶部123(
図2参照)に記憶されていてもよい。また、異常波形60のデータは、素線断線や錆などの異常の種類に応じた各々の異常波形60のデータを含む。さらに、異常波形60のデータは、素線断線における断線の本数ごとの異常波形60など、各種の異常の状態(進行度合い)に応じた各々の異常波形60のデータを含んでいる。これにより、重畳加算する異常波形60を変更することによって、たとえば、素線断線が2本の場合には、素線断線(異常部分)に起因する検出信号の変化を取得することができるが、素線断線が1本の場合には、検出信号波形のノイズに起因して(検出信号波形のノイズに埋もれて)、素線断線(異常部分)に起因する検出信号の変化を取得することが困難であるといったことが、異常部分検出可否判定処理(ワイヤロープWの異常部分を検出できる状態であるか否かを判定する処理)によって判定することができる。このように、素線断線における断線の本数ごとの異常波形60など、各種の異常の状態(進行度合い)に応じた各々の異常波形60を重畳加算することによって、ワイヤロープWがどの程度疲労しているかも判定することができる。すなわち、ワイヤロープWの疲労度合いを定量的に得ることができるので、ワイヤロープWの交換時期(寿命)を容易に把握することができる。
【0067】
また、制御部31は、
図8~
図10に示すように、検出部20によって検出した検出信号の波形である検出信号波形の全ての領域に対して、予め取得した異常波形60を順次重畳加算する。制御部31は、所定の間隔(所定の移動距離)毎に、検出信号波形に予め取得した異常波形60を重畳加算する処理(重畳加算処理)を行う。制御部31は、たとえば、コンマ数mm毎など検出部20による最小サンプリング間隔毎に、検出信号波形に重畳加算処理を行う。これにより、素線断線などの異常部分が発生した場合に得られる検出信号波形の予想として、重畳加算波形を取得(算出)することができる。
【0068】
そして、制御部31は、重畳加算処理後の検出信号波形を、所定の微分区間で微分することによって、微分処理波形を算出する。所定の微分区間は、重畳加算される異常波形60の幅および変化(傾き)に対応して設定される検査時のワイヤロープWの移動距離(移動時間)の区間である。これにより、素線断線の異常波形60を重畳加算した場合には、重畳加算処理後の検出信号波形において、素線断線の異常波形60と同じような幅で右上がりに変化する部分が、
図8~
図10に示すように、微分処理波形の山(ピーク)として現れる。なお、
図8~
図10の上に示したグラフは、重畳加算処理前の検出信号波形(生信号波形)と、重畳加算処理前の検出信号波形の微分処理した微分処理波形とを示している。また、
図8~
図10の下に示したグラフは、重畳加算処理後の検出信号波形と、重畳加算処理後の検出信号波形の微分処理した微分処理波形とを示している。
【0069】
また、重畳加算波形を、検出信号波形に予め取得した異常波形60を重畳加算する処理(重畳加算処理)によって取得(算出)した際には、重畳加算部分を含む検出信号波形から、周囲のノイズレベルも同時に把握することができるため、検査対象のワイヤロープWに素線断線などの異常部分があった場合に、検査対象のワイヤロープWは素線断線などの異常部分の発生が検知できる状態にあるのか否か(周囲のノイズに埋もれるか否か)を判定することが可能となる。
【0070】
第1実施形態では、制御部31は、重畳加算処理において検出信号波形に異常波形60が順次重畳加算されるたびに、検出信号波形に異常波形60が重畳加算された重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えるか否かを判定する。具体的には、制御部31は、重畳加算処理を行うごとに、各々の重畳加算部分において、重畳加算波形を微分処理した波形(微分処理波形)のピークが、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かの判定を行う。これにより、制御部31は、重畳加算処理を行うごとに、各々の重畳加算部分において、重畳加算波形を微分処理した波形(微分処理波形)のピークが、検出信号波形のノイズに埋もれるか否かを判定する。
【0071】
異常部分検出可否判定処理に用いる所定の範囲は、検出信号波形のノイズに対応して設定されている。第1実施形態では、所定の範囲として、検出信号波形を微分処理した波形(微分処理波形)の重畳加算部分を基準とする特定区間におけるノイズに起因するピークの最大値に基づいて、ノイズレベル値が設定されている。
【0072】
具体的には、ノイズレベル値は、各々の重畳加算部分周辺(ワイヤロープWの移動距離が重畳加算部分に近い区間)におけるノイズに起因するピークの最大値に基づいて設定されている。たとえば、ノイズレベル値は、特定区間として、重畳加算部分が中心となるように設定される各々の区間内(各々の重畳加算部分の前後の区間内)におけるノイズに起因するピークの最大値である。
図8~
図10の例では、移動距離Lx地点周辺における微分処理波形のピークの最大値が、各々の重畳加算部分を基準とする特定区間におけるノイズに起因するピークの最大値である。そのため、
図8~
図10の例では、移動距離Lx地点周辺における微分処理波形のピークの最大値が、異常部分検出可否判定に用いるノイズレベル値として設定されている。なお、ノイズレベル値は、各々の重畳加算部分に対して、複数設定されてもよい。
【0073】
また、第1実施形態では、異常部分検出可否判定処理に用いる所定の範囲として、ノイズレベル値とは別に、異常部分検出可否判定に用いる検出可否判定閾値が、検出信号波形のノイズに対応して設定されている。検出可否判定閾値は、重畳加算波形を微分処理した波形に対して、素線断線の本数などの異常部分の状態(進行度合い)、および、異常部分同士の間隔といったユーザが求める条件に合わせて設定される閾値である。また、ノイズレベル値は、重畳加算部分毎に設定される値であり、検出可否判定閾値は、全ての重畳加算部分に対して共通に設定される値である。
【0074】
そして、第1実施形態では、制御部31は、重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲(検出可否判定閾値またはノイズレベル値)を超えるか否かを判定する。これにより、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲(検出可否判定閾値またはノイズレベル値)を超えていない場合には、重畳加算された異常波形60が検出信号波形のノイズに埋もれることが分かる。
【0075】
すなわち、第1実施形態では、重畳加算部分において検出信号波形に重畳加算された異常波形60が検出信号波形のノイズに埋もれるか否かを判定するために、検出信号波形に異常波形60が重畳加算された重畳加算波形に基づく値(重畳加算部分における微分処理波形のピークの最大値)が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲(検出可否判定閾値またはノイズレベル値)を超えるか否かが、制御部31よって判定されている。
【0076】
図8および
図10に示した例では、重畳加算波形を微分処理した波形(重畳加算部分における微分処理波形)のピークの最大値が検出可否判定閾値およびノイズレベル値を超えており、重畳加算された異常波形60は検出信号波形のノイズに埋もれない。そのため、
図8および
図10に示した重畳加算部分では、実際に素線断線(異常部分)が発生した場合でも、素線断線に起因する検出信号の変化を取得することができる。一方で、
図9に示した例では、重畳加算波形を微分処理した波形(重畳加算部分における微分処理波形)のピークの最大値が、検出可否判定閾値およびノイズレベル値を超えておらず、素線断線に起因する検出信号の変化は検出信号波形のノイズに埋もれてしまっている。そのため、
図9に示した重畳加算部分において、実際に素線断線(異常部分)が発生した場合には、検出信号波形のノイズに起因して(検出信号波形のノイズに埋もれて)、素線断線に起因する検出信号の変化を検出することが困難であることが想定される。
【0077】
そして、第1実施形態では、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲(検出可否判定閾値またはノイズレベル値)を超えないと制御部31の判定処理において判定された後には、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないことが、PC120のディスプレイ部124によって、ユーザに通知(表示)される。この際、検出信号波形のノイズに起因して、異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難な箇所が、ワイヤロープWの検査領域における、どの位置に存在しているかが通知(表示)される。また、前述したように、ワイヤロープWが、どの程度疲労しているか(ワイヤロープWの疲労度合い)も取得することができるので、ワイヤロープWの長手方向(Z方向)における位置に応じて、ワイヤロープWの疲労度合いの変化を表示させることもできる。
【0078】
また、ワイヤロープ検査装置100は、制御部31によって重畳加算波形に基づく値が所定の範囲(検出可否判定閾値またはノイズレベル値)を超えないと判定された後に、制御部31によって前述した高感度検出モードに切り替えられるように構成されている。そして、ワイヤロープ検査装置100は、高感度検出モードへの切り替え後において、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないと判定された区間において、ワイヤロープWの磁束の変化の検出を、高感度検出モードによって再度行うように構成されている。
【0079】
(ワイヤロープの検査)
次に、第1実施形態によるワイヤロープ検査装置100を用いたワイヤロープWの検査方法の処理フローについて、
図11および
図12を参照して説明する。なお、
図11および
図12に示した処理(ステップ401~412)の前には、前述したように、検査対象であるワイヤロープWと同じ仕様の他のワイヤロープから検出した、素線断線などの異常部分発生前後の検出信号の波形の差分に基づいて、ワイヤロープWの異常部分の信号波形である異常波形60の取得(異常波形取得ステップ)が行われている。
【0080】
まず、ステップ401において、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)を移動させる。具体的には、前述したように、通常運転時(運転モード時)の状態よりも、ワイヤロープWに近接させるように、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)の位置を移動(
図6参照)させる。そして、ステップ401の完了後、処理ステップは、ステップ402に移行する。
【0081】
ステップ402では、ワイヤロープWに対して磁界が印加されることによって、ワイヤロープWが励振される。ステップ402では、ワイヤロープ検査装置100(検査装置本体110)は、ワイヤロープWに対して磁界を印加する。ステップ402において、複数のワイヤロープWは、励磁コイル11によって、磁界が印加(励振)される。また、ステップ402(励磁コイル11による磁界の印加)の開始は、ステップ401と同時におこなわれてもよい。なお、ステップ402は、特許請求の範囲の「励振ステップ」の一例である。ステップ402の完了後、処理ステップは、ステップ403に移行する。
【0082】
ステップ403において、ワイヤロープWの磁束の変化に基づく信号が、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)によって検出される。ステップ403では、ステップ402(励振ステップ)において励振されたワイヤロープWの磁束の変化が検出される。ステップ403では、互いにワイヤロープWを挟むように配置された第1検出コイル21および第2検出コイル22を、ワイヤロープWに対して相対的に移動させながら、ステップ402において磁界が印加されたワイヤロープWの磁束の変化を検出する。なお、ステップ403は、特許請求の範囲の「検出ステップ」の一例である。ステップ403の完了後、処理ステップは、ステップ404に移行する。
【0083】
そして、ステップ404では、ステップ403(検出ステップ)において検出した検出信号に基づく信号波形である検出信号波形に、予め取得したワイヤロープWの異常部分の信号波形である異常波形60を重畳加算する重畳加算処理(異常波形重畳加算処理)が行われる。また、前述したように、ワイヤロープWの異常部分の信号波形である異常波形60は、ステップ404に先立って取得されている。なお、ステップ404は、特許請求の範囲の「重畳加算ステップ」の一例である。ステップ404の完了後、処理ステップは、ステップ405に移行する。
【0084】
ステップ405において、異常部分検出可否判定処理(ワイヤロープWの異常部分を検出できる状態であるか否かの判定)が行われる。ステップ405では、検出信号波形に異常波形60が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かが判定される。なお、ステップ405は、特許請求の範囲の「判定ステップ」の一例である。
【0085】
ステップ405(判定ステップ)では、前述したように、重畳加算部分において検出信号波形に重畳加算された異常波形60が検出信号波形のノイズに埋もれるか否かを判定するために、検出信号波形に、異常波形60が重畳加算された重畳加算波形に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かが判定される。第1実施形態では、前述したように、重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲(検出可否判定閾値またはノイズレベル値)を超えるか否かが判定される。ステップ405の完了後、処理ステップは、ステップ406に移行する。
【0086】
ステップ406において、ワイヤロープWの検査領域における全領域での異常部分検出可否判定が完了したか否かが判定される。ワイヤロープWの検査領域における全領域での異常部分検出可否判定が完了していると判定された場合には、処理ステップは、ステップ407(
図12参照)に移行する。ワイヤロープWの検査領域における全領域での異常部分検出可否判定が完了していないと判定された場合には、処理ステップは、ステップ404に戻る。すなわち、ワイヤロープWの検査領域における全領域での異常部分検出可否判定が完了するまで、ステップ404および405の処理が繰り返される。
【0087】
このようにして、ステップ403(検出ステップ)において検出した検出信号の波形である検出信号波形の全ての領域に対して、予め取得した異常波形60が順次重畳加算される。そして、検出信号波形に異常波形60が順次重畳加算されるたびに、重畳加算処理後の微分処理波形のピークの最大値(検出信号波形に異常波形60が重畳加算された重畳加算波形に基づく値)が所定の範囲(検出可否判定閾値またはノイズレベル値)を超えるか否かが判定される。なお、ステップ404(重畳加算ステップ)およびステップ405(判定ステップ)の処理は、ステップ403(検出ステップ)と並行して行われてもよい。すなわち、ステップ403(検出ステップ)において検出される検出信号波形に対して、リアルタイムに重畳加算処理および異常部分検出可否判定処理が行われてもよい。
【0088】
ステップ407(
図12参照)において、ワイヤロープWにおける素線断線や錆などの異常部分の有無が判定される。ワイヤロープ検査装置100(検査装置本体110の制御部31)は、素線断線や錆などのワイヤロープWの異常部分の有無の判定を、検出信号波形(生信号波形)を微分処理した微分処理波形に基づいて行う。なお、ワイヤロープWの異常部分の有無の判定は、検出信号波形(生信号波形)に基づいて行ってもよい。ステップ407の完了後、処理ステップは、ステップ408に移行する。
【0089】
ステップ408において、ワイヤロープWの異常部分の有無の判定結果(異常部分有無判定結果)および異常部分検出可否判定結果の通知が行われる。ステップ408では、PC120のディスプレイ部124に、異常部分有無判定結果および異常部分検出可否判定結果が表示される。具体的には、検査装置本体110(通信部36)からPC120(通信部121)に、検査装置本体110によるワイヤロープWの検査結果(異常部分有無判定結果および異常部分検出可否判定結果)が送信される。そして、PC120の制御部122は、受信したワイヤロープWの検査結果(異常部分有無判定結果および異常部分検出可否判定結果)をディスプレイ部124に表示する処理を行う。このようにして、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲(検出可否判定閾値またはノイズレベル値)を超えない場合には、ステップ408において、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないことがユーザに通知される。なお、ステップ408は、特許請求の範囲の「通知ステップ」の一例である。
【0090】
そして、ステップ409において、ワイヤロープWの検査領域において、重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が、検出可否判定閾値またはノイズレベル値以下であった箇所があるか否かが判定される。ワイヤロープWの検査領域において、重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が、検出可否判定閾値またはノイズレベル値以下であった箇所があると判定された場合には、処理ステップは、ステップ410に移行する。ワイヤロープWの検査領域の全領域において、重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が、検出可否判定閾値またはノイズレベル値以下であった箇所がないと判定された場合には、処理ステップは終了する。
【0091】
ステップ410において、検出モードの切り替えが行われる。ステップ410では、ステップ403(検出ステップ)よりも検出信号の検出感度を上げた状態で、ワイヤロープWの磁束の変化を検出するための高感度検出モードに切り替えられる。具体的には、ステップ410では、検査時のモードが、通常検出モードから高感度検出モードに切り替えられる。なお、ステップ410は、特許請求の範囲の「モード切替ステップ」の一例である。また、ステップ408(通知ステップ)における異常部分有無判定結果および異常部分検出可否判定結果の通知に基づいて、ユーザが高感度検出モードへの切り替えるための操作を行い、高感度検出モードへの切り替え(ステップ410)が行われてもよい。ステップ410の完了後、処理ステップは、ステップ411に移行する。
【0092】
そして、ステップ410(モード切替ステップ)後のステップ411において、ワイヤロープWの磁束の変化の再検出が行われる。ステップ411では、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲(検出可否判定閾値またはノイズレベル値)を超えないと判定ステップにおいて判定された区間において、ワイヤロープWの磁束の変化の検出を、高感度検出モードによって再度行う。なお、ステップ411は、特許請求の範囲の「再検出ステップ」の一例である。
【0093】
そして、ステップ412では、高感度検出モードにおける検査結果(異常部分有無判定結果)が通知される。ステップ412では、再検出を行った箇所におけるワイヤロープWの異常部分の有無が、ディスプレイ部124に表示される。
【0094】
また、ステップ411の完了後のいずれかのタイミング、および、ワイヤロープWの検査領域の全領域において、重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が検出可否判定閾値またはノイズレベル値以下であった箇所がないと判定された場合のステップ409後において、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)の位置をワイヤロープWから離間させるように移動(
図6参照)させるステップを設けてもよい。すなわち、ステップ411の完了後のいずれかのタイミング、および、ワイヤロープWの検査領域の全領域において、重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が検出可否判定閾値またはノイズレベル値以下であった箇所がないと判定された場合のステップ409後において、検出部20の位置を、高感度検出モード(通常検出モード)における位置から、運転モードにおける位置に変更する処理を行ってもよい。
【0095】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態によるワイヤロープ検査方法およびワイヤロープ検査装置100では、以下のような効果を得ることができる。
【0096】
第1実施形態では、上記のように、検出信号に基づく信号波形である検出信号波形に、予め取得したワイヤロープWの異常部分の信号波形である異常波形60を重畳加算する。これにより、予め取得した検査対象自体とは異なるワイヤロープWの異常部分の信号波形である異常波形60が、検出信号波形に重畳加算されることによって、異常部分が発生した場合に検出される信号波形の予想として、検出信号波形に異常波形60が重畳加算された重畳加算波形を取得することができる。そして、検出信号波形に異常波形60が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲(検出可否判定閾値またはノイズレベル値)を超えるか否かを判定する。これにより、異常部分が発生した場合に検出される信号波形の予想として取得される重畳加算波形に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えない場合には、重畳加算部分に異常部分が実際に発生したとしても、検出信号波形のノイズに起因して(ノイズに埋もれて)、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難であると判定することができる。その結果、異常波形60を重畳加算させた重畳加算部分が、異常部分が実際に発生した際に、検出信号波形のノイズに起因して異常部分の検出が困難な箇所であるか否かを判定することができるので、ワイヤロープWにおいて、ノイズに起因して異常部分の検出が困難な箇所を検出することができる。
【0097】
また、第1実施形態によるワイヤロープ検査方法では、以下のように構成したことによって、下記のような更なる効果が得られる。
【0098】
第1実施形態では、上記のように、検査対象であるワイヤロープWと同じ仕様の他のワイヤロープから検出した異常部分発生前後の検出信号の波形の差分に基づいて、ワイヤロープWの異常部分の信号波形である異常波形60を取得する。これにより、ワイヤロープW自体に起因する検出信号の変化を除外した異常波形60のそのものを取得することができる。そして、第1実施形態では、上記のように、重畳加算部分において検出信号波形に重畳加算された異常波形60が検出信号波形のノイズに埋もれるか否かを判定するために、検出信号波形に異常波形60が重畳加算された重畳加算波形に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定する。これにより、検出信号波形に、検査対象であるワイヤロープWと同じ仕様の他のワイヤロープから検出した異常部分発生後の検出信号の波形を重畳加算する場合と異なり、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを、ワイヤロープW自体に起因する検出信号の変化を除外した異常波形60のそのものが重畳加算された重畳加算波形に基づく値から判定することができる。その結果、検出信号波形のノイズに埋もれて、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難であるか否かを精度よく判定することができる。
【0099】
第1実施形態では、上記のように、ステップ405(判定ステップ)において、重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定する。これにより、重畳加算波形を微分処理することによって、重畳加算波形におけるワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化(傾き)を波形として取得することができる。その結果、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化(傾き)に対応する波形のピークの最大値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定することができる。これにより、異常波形60を重畳加算させた重畳加算部分において、検出信号波形のノイズに埋もれて、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難であるか否かを容易に判定することができる。
【0100】
第1実施形態では、上記のように、ステップ405(判定ステップ)において、重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が、検出信号波形を微分処理した波形の重畳加算部分を基準とする特定区間におけるノイズに起因するピークの最大値に基づいて設定されるノイズレベル値(所定の範囲)を超えるか否かを判定する。これにより、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化(傾き)に対応するピークの最大値が、重畳加算部分を基準とする特定区間において発生するノイズに起因するピークの最大値に基づいて設定されるノイズレベル値(所定の範囲)を超えるか否かを判定することができる。その結果、異常波形60を重畳加算させた重畳加算部分において、重畳加算部分を基準とする特定区間において発生するノイズに起因して、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難であるか否かを容易に判定することができる。
【0101】
第1実施形態では、上記のように、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないとステップ405(判定ステップ)において判定された後のステップ408(通知ステップ)において、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないことをユーザに通知する。これにより、ユーザは、重畳加算波形に基づく値が検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えない箇所が存在することを容易に把握することができる。その結果、検出信号波形のノイズに起因して(検出信号波形のノイズに埋もれて)、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難な箇所が存在することを容易に把握することができる。これにより、ユーザは、検出信号波形のノイズに起因して、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難な箇所について、再検出や目視による確認などの対策を講じることができる。
【0102】
第1実施形態では、上記のように、ステップ404(重畳加算ステップ)において、ステップ403(検出ステップ)において検出した検出信号の波形である検出信号波形の全ての領域に対して、予め取得した異常波形60を順次重畳加算する。そして、ステップ405(判定ステップ)おいて、ステップ404(重畳加算ステップ)において検出信号波形に異常波形60が順次重畳加算されるたびに、検出信号波形に異常波形60が重畳加算された重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えるか否かを判定する。これにより、ワイヤロープWの磁束の変化を検出した全ての領域(全検出領域)において、検出信号波形のノイズに埋もれて、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難な箇所を取得することができる。その結果、ワイヤロープW全体における異常部分を検出することが困難な箇所の割合を取得することができるので、ワイヤロープW全体における疲労度(劣化度)を把握することができる。これにより、ワイヤロープWの交換時期(寿命)をユーザが容易に把握することができる。
【0103】
第1実施形態では、上記のように、ステップ410(モード切替ステップ)において、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないとステップ405(判定ステップ)において判定された後に、ステップ403(検出ステップ)よりも検出信号の検出感度を上げた状態で、ワイヤロープWの磁束の変化を検出するための高感度検出モードに切り替えられる。これにより、高感度検出モードによって、ステップ403(検出ステップ)よりも検出信号の検出感度を上げた状態で、ワイヤロープWの磁束の変化を検出することができる。その結果、検出信号波形のノイズに埋もれて、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難な箇所においても、ワイヤロープWの異常部分に起因する信号を精度よく検出することができる。
【0104】
第1実施形態では、上記のように、ステップ410(モード切替ステップ)において、ワイヤロープWの磁束の変化の検出時におけるワイヤロープWの移動速度をステップ403(検出ステップ)の通常検出モードよりも遅くした状態の高感度検出モードに変更する。これにより、ワイヤロープWの磁束の変化の検出時におけるワイヤロープWの移動速度をステップ403(検出ステップ)よりも遅くすることによって、ワイヤロープWの振動に起因するノイズを抑制し、検出感度を上げることができる。その結果、ワイヤロープWの磁束の変化をより高精度に検出することができる。これにより、検出信号波形のノイズに埋もれて、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難な箇所においても、ステップ403(検出ステップ)に比べて、ワイヤロープWの異常部分に起因する信号の変化を精度よく検出することができる。
【0105】
第1実施形態では、上記のように、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないとステップ405(判定ステップ)において判定された区間において、ワイヤロープWの磁束の変化の検出を、高感度検出モードによって再度行う。これにより、ステップ405(判定ステップ)よりも検出感度を上げた状態で、検出信号波形のノイズに埋もれて、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難な箇所を再検査することができる。その結果、検出信号波形のノイズに起因して、ワイヤロープWの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難な箇所においても、ワイヤロープWの異常部分の有無を精度よく確認することができる。
【0106】
[第2実施形態]
図13を参照して、第2実施形態によるワイヤロープ検査装置200の構成について説明する。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の構成の部分には、同一の符号を付している。
【0107】
ワイヤロープ検査装置200は、
図13に示すように、ワイヤロープWの磁束の変化を検出する検査装置本体210と、検査装置本体210によるワイヤロープWの測定結果を処理するPC220とを備える。
【0108】
第2実施形態によるワイヤロープ検査装置200では、検査装置本体110の制御部31が重畳加算処理および判定処理を行う第1実施形態とは異なり、PC220の制御部222が、重畳加算処理および異常部分検出可否判定処理を行うように構成されている。PC220の制御部222は、第1実施形態における制御部31と同様に、検出信号波形への重畳加算処理および異常部分検出可否判定処理を行うように構成されている。また、重畳加算処理に用いる異常波形60のデータは、PC220の記憶部123に記憶(格納)されている。すなわち、ワイヤロープ検査装置200においては、重畳加算処理および異常部分検出可否判定処理を、検査装置本体110(制御部31)の外部において行うように構成されている。また、PC220の制御部222は、重畳加算処理および異常部分検出可否判定処理に加えて、素線断線や錆などのワイヤロープWの異常部分の有無を判定する処理(異常部分有無判定処理)を行うように構成されている。
【0109】
なお、ワイヤロープ検査装置200(検査装置本体210およびPC220)は、PC220の制御部222が、重畳加算処理、異常部分検出可否判定処理、および、異常部分有無判定処理を行い、PC220の記憶部123が、重畳加算処理に用いる異常波形60のデータ記憶(格納)する以外は、第1実施形態におけるワイヤロープ検査装置100(検査装置本体110およびPC120)と同様の構成である。すなわち、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0110】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態によるワイヤロープ検査装置200では、以下のような効果を得ることができる。
【0111】
第2実施形態によるワイヤロープ検査装置200では、上記第1実施形態と同様に、ワイヤロープWにおいて、ノイズに起因して異常部分の検出が困難な箇所を検出することができる。
【0112】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0113】
[第3実施形態]
図14を参照して、第3実施形態によるワイヤロープ検査システム300の構成について説明する。なお、図中において、上記第1および第2実施形態と同様の構成の部分には、同一の符号を付している。
【0114】
ワイヤロープ検査システム300は、
図14に示すように、ワイヤロープWの磁束の変化を検出するワイヤロープ検査装置301と、ワイヤロープ検査装置301によるワイヤロープWの測定結果を処理するサーバ302とを備える。なお、サーバ302は、特許請求の範囲の「処理装置」の一例である。
【0115】
ワイヤロープ検査装置301は、検査装置本体310と、PC320とを備える。検査装置本体310は、通信部36によってネットワーク303に接続される。また、PC320は、通信部121によってネットワーク303に接続される。
【0116】
サーバ302は、ネットワーク303を介して、ワイヤロープ検査装置301および処理部321に接続される。サーバ302は、処理部321と、記憶部322とを備える。サーバ302の処理部321は、重畳加算処理、異常部分検出可否判定処理、および、異常部分有無判定処理を行うように構成されている。処理部321は、CPUなどのプロセッサ、メモリなどを含んでいる。また、記憶部322は、たとえば、SSD(Solid State Drive)またはHDD(Hard Disk Drive)などを含む記憶装置である。記憶部322は、異常波形60のデータ、ワイヤロープWの計測結果(検出部20により検出された検出信号のデータ)、および、ワイヤロープWの計測結果に基づく検査結果(異常部分有無判定結果および異常部分検出可否判定結果)などを記憶(格納)する。
【0117】
サーバ302は、第1実施形態の制御部31および第2実施形態の制御部222と同様に、検出部20が検出した検出信号の波形である検出信号波形に、予め取得したワイヤロープWの異常部分の検出信号の波形である異常波形60を重畳加算するように構成されている。そして、サーバ302は、第1実施形態の制御部31および第2実施形態の制御部222と同様に、検出信号波形に異常波形60が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲(検出可否判定閾値またはノイズレベル値)を超えるか否かを判定するように構成されている。すなわち、サーバ302は、第1実施形態の制御部31および第2実施形態の制御部222と同様に、検出信号波形への重畳加算処理および重畳加算処理後の異常部分検出可否判定処理を行うように構成されている。すなわち、ワイヤロープ検査システム300においては、重畳加算処理および異常部分検出可否判定処理をワイヤロープ検査装置301の外部において行うように構成されている。また、サーバ302(処理部321)は、重畳加算処理および異常部分検出可否判定処理に加えて、素線断線や錆などのワイヤロープWの異常部分の有無を判定する処理(異常部分有無判定処理)を行うように構成されている。
【0118】
なお、第3実施形態のその他の構成は、上記第1および第2実施形態と同様である。
【0119】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態によるワイヤロープ検査システム300では、以下のような効果を得ることができる。
【0120】
第3実施形態によるワイヤロープ検査システム300では、上記第1および第2実施形態と同様に、ワイヤロープWにおいて、ノイズに起因して異常部分の検出が困難な箇所を検出することができる。
【0121】
なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1および第2実施形態と同様である。
【0122】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0123】
上記第1~第3実施形態では、励磁コイル11は、複数のワイヤロープWに対して共通に設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ワイヤロープ1本ごとに、励磁コイルが設けられてもよい。また、ワイヤロープ検査装置によって検査されるワイヤロープは、1本のみであってもよい。
【0124】
また、上記第1~第3実施形態では、検出部20を用いて全磁束法によるワイヤロープWの磁束の検出を行い、ワイヤロープWの外表面(外部)および内部の異常部分を検査するワイヤロープ検査方法の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検出コイルを用いてワイヤロープの外表面からの漏洩磁束を検出し、外表面のみの異常部分を検査してもよい。
【0125】
また、上記第1~第3実施形態では、検出信号波形は、検出部20(第1検出コイル21および第2検出コイル22)の検出信号を受信I/F33によって増幅した信号の波形(生信号波形)である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検出信号波形は、検出ステップにおいて検出した検出信号に基づく信号波形であればよい。たとえば、過去の検査時おける生信号波形と現在(最新)の検査時における生信号波形の差分に基づいて信号波形(差分信号波形)を算出し、算出した差分信号波形を検出信号波形として用いて、重畳加算処理および異常部分検出可否判定処理を行ってもよい。この場合、過去の検査時おける生信号波形のデータは、検査装置本体110または210の記憶部35に記憶(格納)されていてもよいし、PC120または220の記憶部123に記憶(格納)されていてもよい。また、過去の検査時おける生信号波形のデータは、ワイヤロープ検査システム300のように、ワイヤロープ検査装置301に、ネットワーク303を介して接続されたサーバ302の記憶部322に記憶(格納)されていてもよい。
【0126】
また、上記第1~第3実施形態では、検査対象であるワイヤロープWと同じ仕様の他のワイヤロープから検出した異常部分(素線断線)発生前後の検出信号の波形の差分に基づいて、ワイヤロープWの異常部分の信号波形である異常波形60を取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検査対象であるワイヤロープと同じ仕様の他のワイヤロープから検出した異常部分発生後の検出信号の波形を、ワイヤロープの異常部分の信号波形である異常波形として取得してもよい。すなわち、異常波形のそのものに加えてワイヤロープ自体に起因する検出信号の変化を含む検出信号の波形を、ワイヤロープの異常部分の信号波形である異常波形として取得してもよい。
【0127】
また、上記第1~第3実施形態では、検出可否判定閾値およびノイズレベル値を用いて、異常部分検出可否判定(ワイヤロープWの異常部分を検出できる状態であるか否かの判定)を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検出可否判定閾値およびノイズレベル値のうち、いずれか一方のみを用いて異常部分検出可否判定を行ってもよい。
【0128】
また、上記第1~第3実施形態では、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないとステップ405(判定ステップ)において判定された後のステップ408(通知ステップ)において、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないことを、ディスプレイ部124に表示する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないと判定された場合に、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないことを表示せずに、自動的に通常検出モードから高感度検出モードに切り替わり、高感度検出モードによるワイヤロープの磁束の変化の再検出が行われるようにしてもよい。また、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないことを、音声または警告音などの音で通知してもよい。
【0129】
また、上記第1~第3実施形態では、ステップ404(重畳加算ステップ)において、ステップ403(検出ステップ)において検出した検出信号の波形である検出信号波形の全ての領域に対して、予め取得した異常波形60を順次重畳加算する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検出ステップにおいて検出した検出信号の波形である検出信号波形のうち、ユーザが指定した任意の領域に対して、予め取得した異常波形を重畳加算して、ユーザが指定した任意の領域において、異常波形が重畳加算された重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えるか否かを判定してもよい。
【0130】
また、上記第1~第3実施形態では、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないとステップ405(判定ステップ)において判定された後に、ステップ403(検出ステップ)よりも検出信号の検出感度を上げた状態で、ワイヤロープWの磁束の変化を検出するための高感度検出モードに切り替えられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないと判定ステップにおいて判定された後に、高感度検出モードへの切り替え(モード切替ステップへの移行)を行わなくてもよい。この場合、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないと判定ステップにおいて判定された後に、ユーザが、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないと判定ステップにおいて判定された箇所を、目視または触診によって確認(検査)するようにしてもよい。また、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないと判定ステップにおいて判定された後に、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないと判定ステップにおいて判定された箇所を、他の検査装置を用いて確認(検査)するようにしてもよい。
【0131】
また、上記第1~第3実施形態では、高感度検出モードは、ワイヤロープWの磁束の変化の検出時におけるワイヤロープWの移動速度を通常検出モードよりも遅くした状態で、ワイヤロープWの磁束の変化を検出するモードである例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、高感度検出モードは、ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部を通常検出モードよりもワイヤロープに近づけるモードであってもよい。この場合、ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部を通常検出モード(検出ステップ)よりもワイヤロープに近づけることによって、検出感度を上げることができるので、ワイヤロープの磁束の変化をより高精度に検出することができる。これにより、検出信号波形のノイズに埋もれて、ワイヤロープの異常部分に起因する検出信号の変化を検出することが困難な箇所においても、通常検出モード(検出ステップ)に比べて、ワイヤロープの異常部分に起因する信号の変化を精度よく検出することができる。また、高感度検出モードは、ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部を通常検出モード(検出ステップ)よりもワイヤロープに近づけるともに、ワイヤロープの磁束の変化の検出時におけるワイヤロープの移動速度を通常検出モードよりも遅くする(低速にする)モードであってもよい。また、本発明では、高感度検出モードとして、ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部を通常検出モード(検出ステップ)よりもワイヤロープに近づけるともに、ワイヤロープの磁束の変化の検出時におけるワイヤロープの移動速度を通常検出モードよりも遅くするモード、ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部を通常検出モードよりもワイヤロープに近づけるモード、および、ワイヤロープの磁束の変化の検出時におけるワイヤロープの移動速度を通常検出モードよりも遅くするモードをそれぞれ備えてもよい。また、本発明では、検出部をワイヤロープの長手方向(ワイヤロープが延びる方向)に移動可能に構成し、ワイヤロープを動かさずに検出部を動かすモードを高感度検出モードとして備えてもよい。この場合、ワイヤロープの磁束の変化の検出時において、ワイヤロープの振動に起因するノイズを抑制することができる。
【0132】
また、上記第1~第3実施形態では、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないとステップ405(判定ステップ)において判定された区間において、ワイヤロープWの磁束の変化の検出を、高感度検出モードによって再度行う例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないと判定ステップにおいて判定された場合に、判定ステップにおいて重畳加算波形に基づく値が所定の範囲を超えないと判定された区間を含むワイヤロープの検査領域の全領域において、ワイヤロープの磁束の変化の検出を、高感度検出モードによって再度行ってもよい。
【0133】
また、上記第1~第3実施形態では、素線断線や錆などのワイヤロープWの異常部分の有無の判定を、現在(最新)の検査時における検出信号波形に基づいて行う例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、現在(最新)の検査時における検出信号波形と過去の検査時における検出信号波形との差分データに基づいて、ワイヤロープの異常部分の有無を判定してもよい。すなわち、履歴差分方式によって算出したデータ(差分データ)に基づいて、異常部分の有無などのワイヤロープの状態の解析(判定)を行ってもよい。この場合では、過去の検査時における検出信号波形として、ワイヤロープに異常部分が生じる以前の検査時の検出信号波形を用いる。たとえば、過去の検査時における検出信号波形として、初回の検査時における検出信号波形などを用いる。また、本発明では、現在(最新)の検査時における検出信号波形(生信号波形)を微分処理した微分処理波形と、過去の検査時における検出信号波形(生信号波形)を微分処理した微分処理波形との差分データに基づいて、異常部分の有無などのワイヤロープの状態の解析(判定)を行ってもよい。
【0134】
また、上記第1~第3実施形態では、検出部20は、複数のワイヤロープWに対応して複数設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、複数のワイヤロープ(複数の検出部)に対して、検出部が共通に設けられ、ワイヤロープの磁束の変化を一括して検出するように構成されてよい。
【0135】
また、上記第1~第3実施形態では、励磁コイル11によって磁界が印加されたワイヤロープWの磁束を整える整磁部40を備える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、整磁部による整磁を行わずに、励振部によって磁界が印加されたワイヤロープの磁束の変化を検出部によって検出するように構成してもよい。
【0136】
また、上記第1~第3実施形態では、
図4に示すように、整磁部40として、検出部20および励磁コイル11に対して、整磁部40(磁石40aおよび40b)が、Z2方向側に配置される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検出部および励磁コイルに対して、整磁部をZ1方向側に配置してもよい。また、整磁部を2つ設け、Z方向(ワイヤロープが延びる方向)において、検出部および励振部(励磁コイル)を挟むように配置させてもよい。この場合、2つの整磁部うち、一方の整磁部は、磁石のN極同士が対向するように配置させ、他方の整磁部は、磁石のS極同士が対向するように配置させてもよい。
【0137】
また、上記第1実施形態では、説明の便宜上、本発明のワイヤロープ検査時における処理を処理フローに沿って順番に処理を行うフロー駆動型のフローチャートを用いて説明したが、本発明はこれに限られない。本発明では、処理動作を、イベント単位で処理を実行するイベント駆動型(イベントドリブン型)の処理により行ってもよい。この場合、完全なイベント駆動型で行ってもよいし、イベント駆動およびフロー駆動を組み合わせて行ってもよい。
【0138】
また、上記第1~第3実施形態では、エレベータ900に用いられるワイヤロープWを検査するワイヤロープ検査方法、ワイヤロープ検査装置100(200、301)、および、ワイヤロープ検査システム300の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明は、クレーン、ロープウェイ、吊り橋、および、ロボットなどに用いられるワイヤロープを検査するワイヤロープ検査方法、ワイヤロープ検査装置、および、ワイヤロープ検査システムであってもよい。なお、吊り橋に使用されるワイヤロープのように、ワイヤロープ自体が移動しない場合には、ワイヤロープ検査装置の検出部をワイヤロープに沿って移動させながら、ワイヤロープ検査装置によるワイヤロープの磁束の計測が行われればよい。
【0139】
[態様]
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0140】
(項目1)
ワイヤロープに対して磁界を印加することによって、前記ワイヤロープを励振する励振ステップと、
前記励振ステップにおいて励振された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出ステップと、
前記検出ステップにおいて検出した検出信号に基づく信号波形である検出信号波形に、予め取得した前記ワイヤロープの異常部分の信号波形である異常波形を重畳加算する重畳加算ステップと、
前記検出信号波形に前記異常波形が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、前記検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定する、判定ステップと、を備える、ワイヤロープ検査方法。
【0141】
(項目2)
前記重畳加算ステップに先立って、検査対象である前記ワイヤロープと同じ仕様の他のワイヤロープから検出した異常部分発生前後の検出信号の波形の差分に基づいて、前記ワイヤロープの異常部分の信号波形である前記異常波形を取得する、異常波形取得ステップをさらに備え、
前記判定ステップは、前記重畳加算部分において前記検出信号波形に重畳加算された前記異常波形が前記検出信号波形のノイズに埋もれるか否かを判定するために、前記検出信号波形に、前記異常波形取得ステップにおいて取得される前記異常波形が重畳加算された前記重畳加算波形に基づく値が、前記検出信号波形のノイズに対応する前記所定の範囲を超えるか否かを判定する、前記1に記載のワイヤロープ検査方法。
【0142】
(項目3)
前記判定ステップは、前記重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が、前記検出信号波形のノイズに対応する前記所定の範囲を超えるか否かを判定する、前記1または2に記載のワイヤロープ検査方法。
【0143】
(項目4)
前記判定ステップは、前記重畳加算波形を微分処理した波形のピークの最大値が、前記検出信号波形を微分処理した波形の前記重畳加算部分を基準とする特定区間におけるノイズに起因するピークの最大値に基づいて設定されるノイズレベル値を超えるか否かを判定する、前記1~3のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【0144】
(項目5)
前記重畳加算波形に基づく値が前記所定の範囲を超えないと前記判定ステップにおいて判定された後に、前記重畳加算波形に基づく値が前記所定の範囲を超えないことをユーザに通知する、通知ステップをさらに備える、前記1~4のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【0145】
(項目6)
前記重畳加算ステップは、前記検出ステップにおいて検出した検出信号の波形である前記検出信号波形の全ての領域に対して、予め取得した前記異常波形を順次重畳加算するステップを含み、
前記判定ステップは、前記重畳加算ステップにおいて前記検出信号波形に前記異常波形が順次重畳加算されるたびに、前記検出信号波形に前記異常波形が重畳加算された前記重畳加算波形に基づく値が前記所定の範囲を超えるか否かを判定するステップを含む、前記1~5のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【0146】
(項目7)
前記重畳加算波形に基づく値が前記所定の範囲を超えないと前記判定ステップにおいて判定された後に、前記検出ステップよりも検出信号の検出感度を上げた状態で、前記ワイヤロープの磁束の変化を検出するための高感度検出モードに切り替える、モード切替ステップをさらに備える、前記1~6のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査方法。
【0147】
(項目8)
前記モード切替ステップは、前記ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部を前記検出ステップよりも前記ワイヤロープに近づけるか、または、前記ワイヤロープの磁束の変化の検出時における前記ワイヤロープの移動速度を前記検出ステップよりも遅くするかの少なくとも一方の状態で、前記ワイヤロープの磁束の変化を検出するモードである前記高感度検出モードに変更するステップである、前記7に記載のワイヤロープ検査方法。
【0148】
(項目9)
前記モード切替ステップ後において、少なくとも前記重畳加算波形に基づく値が前記所定の範囲を超えないと前記判定ステップにおいて判定された区間において、前記高感度検出モードによる前記ワイヤロープの磁束の変化の検出を再度行う、再検出ステップをさらに備える、前記7または8に記載のワイヤロープ検査方法。
【0149】
(項目10)
ワイヤロープに対して磁界を印加することによって、前記ワイヤロープを励振する励振部と、
前記励振部において励振された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部と、
前記検出部が検出した検出信号を処理する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記検出部が検出した検出信号の波形である検出信号波形に、予め取得した前記ワイヤロープの異常部分の検出信号の波形である異常波形を重畳加算し、前記検出信号波形に前記異常波形が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、前記検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定するように構成されている、ワイヤロープ検査装置。
【0150】
(項目11)
ワイヤロープの磁束の変化を検出するワイヤロープ検査装置と、
前記ワイヤロープ検査装置による前記ワイヤロープの測定結果を処理する処理装置と、を備え、
前記ワイヤロープ検査装置は、前記ワイヤロープに対して磁界を印加することによって、前記ワイヤロープを励振する励振部と、前記励振部において励振された前記ワイヤロープの磁束の変化を検出する検出部と、を備え、
前記処理装置は、前記検出部が検出した検出信号の波形である検出信号波形に、予め取得した前記ワイヤロープの異常部分の検出信号の波形である異常波形を重畳加算し、前記検出信号波形に前記異常波形が重畳加算された重畳加算部分の波形である重畳加算波形に基づく値が、前記検出信号波形のノイズに対応する所定の範囲を超えるか否かを判定するように構成されている、ワイヤロープ検査システム。
【符号の説明】
【0151】
11 励磁コイル(励振部)
20 検出部
31 (検査装置本体の)制御部
60 異常波形
100、200、301 ワイヤロープ検査装置
222 (PCの)制御部
300 ワイヤロープ検査システム
302 サーバ(処理装置)
W ワイヤロープ