(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】非破壊検査の計測装置、非破壊検査方法、非破壊検査の情報処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/83 20060101AFI20241203BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20241203BHJP
G01R 33/06 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
G01N27/83
G01R33/02 Z
G01R33/06
(21)【出願番号】P 2021139332
(22)【出願日】2021-08-27
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 博
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 克智
(72)【発明者】
【氏名】三森 満
(72)【発明者】
【氏名】橋本 好之
(72)【発明者】
【氏名】高倉 一徳
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/027043(WO,A1)
【文献】特開2015-042975(JP,A)
【文献】国際公開第2020/027028(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/039880(WO,A1)
【文献】特開2016-170059(JP,A)
【文献】特開2016-114533(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111272862(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
G01R 33/00-33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体に内包される磁性材料を検査対象物とした非破壊検査の計測装置であって、
磁場を印加する磁場印加ユニットと、磁場を計測するセンサーユニットとを備え、
前記磁場印加ユニットは、前記センサーユニットの第1方向に沿った一方の端部にも、他方の端部にも着脱可能とされ、
前記センサーユニットは、少なくとも第1方向に沿った異なる複数の位置の磁場を計測可能とされ
、前記センサーユニットによる計測データを外部出力可能とされ、
前記磁場印加ユニットを前記一方の端部に配置し前記他方の端部に配置しない状態で、前記センサーユニットにより計測した第1計測データと、
前記磁場印加ユニットを前記他方の端部に配置し前記一方の端部に配置しない状態で、前記センサーユニットにより計測した第2計測データと、
に基づき判定用データを演算する手段を有し、
前記判定用データを外部出力可能とされている非破壊検査の計測装置。
【請求項2】
前記一方の端部に着脱可能な前記磁場印加ユニットと、前記他方の端部に着脱可能な前記磁場印加ユニットとは、同一のものが共用可能とされている請求項
1に記載の非破壊検査の計測装置。
【請求項3】
前記センサーユニットは、3軸方向の磁場を検知可能な磁気センサーを有する請求項
1又は請求項
2に記載の非破壊検査の計測装置。
【請求項4】
前記センサーユニットは、前記第1方向と、前記第1方向に直交する第2方向とに2次元的に配列された複数の磁気センサーを有する請求項
1から請求項
3のうちいずれか一に記載の非破壊検査の計測装置。
【請求項5】
前記磁場印加ユニットを前記一方の端部に配置し、前記他方の端部に配置しない状態で、前記センサーユニットにより計測した第1計測データと、
前記磁場印加ユニットを前記他方の端部に配置し、前記一方の端部に配置しない状態で、前記センサーユニットにより計測した第2計測データと、
を外部出力可能とされた請求項
1から請求項4のうちいずれか一に記載の非破壊検査の計測装置。
【請求項6】
非磁性体に内包される磁性材料を検査対象物とした非破壊検査方法であって、
磁場印加ユニットからN極性又はS極性である第一極性の磁場を、前記非磁性体の表面から前記検査対象物に印加して、前記磁場印加ユニットから離れるに従い磁場が第一極性の範囲で減衰する磁場分布を形成した状態の同検査対象物からの磁場を、前記磁場印加ユニットに隣接した前記非磁性体の表面上において磁気センサーにより、前記磁場印加ユニットから離れる第1方向に沿って前記磁場印加ユニットからの距離が異なる複数の位置で計測された計測データを取得する計測データ取得工程と、
前記計測データ取得工程で取得した計測データに基づき、前記検査対象物の状態を判定するための判定用データを演算する判定用データ演算工程と、を備え、
前記計測データ取得工程において、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の一方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第1計測データと、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の他方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第2計測データとを取得し、
前記判定用データ演算工程において、前記第1計測データと前記第2計測データとに基づき判定用データを合成する非破壊検査方法。
【請求項7】
前記計測データ取得工程において、
前記磁場印加ユニットによる前記検査対象物への印加磁場が除外された条件下で計測された補完計測データを取得し、
前記判定用データ演算工程において、前記第1計測データから前記補完計測データを減算し、前記第2計測データから前記補完計測データを減算し、当該減算後のデータに基づき前記判定用データを合成する請求項
6に記載の非破壊検査方法。
【請求項8】
前記第1計測データから減算する前記補完計測データは、当該第1計測データの計測後に前記一方側の印加位置から前記磁場印加ユニットが撤去された状態で計測された計測データであり、
前記第2計測データから減算する前記補完計測データは、当該第2計測データの計測後に前記他方側の印加位置から前記磁場印加ユニットが撤去された状態で計測された計測データである請求項
7に記載の非破壊検査方法。
【請求項9】
前記第1計測データから減算する前記補完計測データと、前記第2計測データから減算する前記補完計測データとは、同一である請求項
7に記載の非破壊検査方法。
【請求項10】
前記判定用データ演算工程において、前記第1計測データに対して前記一方側の磁場印加ユニットからの距離に応じた磁場の低下を緩和する距離補正を行い、前記第2計測データに対して前記他方側の磁場印加ユニットからの距離に応じた磁場の低下を緩和する距離補正を行い、当該距離補正後のデータに基づき前記判定用データを合成する請求項
6から請求項
9のうちいずれか一に記載の非破壊検査方法。
【請求項11】
前記距離補正として、当該距離のN乗を当該距離における計測値に乗じる演算を行う請求項
10に記載の非破壊検査方法。
【請求項12】
前記判定用データ演算工程において、前記第1計測データに対して、1次近似式又は2次近似式を求め、求めた近似式の値を前記第1計測データから減算し、前記第2計測データに対して、1次近似式又は2次近似式を求め、求めた近似式の値を前記第2計測データから減算し、当該減算後のデータに基づき前記判定用データを合成する請求項
6から請求項
11のうちいずれか一に記載の非破壊検査方法。
【請求項13】
検査時の前記判定用データに基づき、当該検査対象物の異常の有無を判定するとともに、
異常有りの場合、当該検査時の前記判定用データの正のピークと負のピークの間の0値となる位置を検査対象物の異常個所と判定する請求項
6から請求項
12のうちいずれか一に記載の非破壊検査方法。
【請求項14】
非磁性体に内包される磁性材料を検査対象物としたコンピューターによる非破壊検査の情報処理装置であって、
前記コンピューターは、
磁場印加ユニットからN極性又はS極性である第一極性の磁場を、前記非磁性体の表面から前記検査対象物に印加して、前記磁場印加ユニットから離れるに従い磁場が第一極性の範囲で減衰する磁場分布を形成した状態の同検査対象物からの磁場を、前記磁場印加ユニットに隣接した前記非磁性体の表面上において磁気センサーにより、前記磁場印加ユニットから離れる第1方向に沿って前記磁場印加ユニットからの距離が異なる複数の位置で計測された計測データを取得する計測データ取得手段と、
前記計測データ取得手段で取得した計測データに基づき、前記検査対象物の状態を判定するための判定用データを演算する判定用データ演算手段として機能し、
前記計測データ取得手段は、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の一方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第1計測データと、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の他方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第2計測データとを取得することが可能であり、
前記判定用データ演算手段は、前記第1計測データと前記第2計測データとに基づき判定用データを合成することが可能である非破壊検査の情報処理装置。
【請求項15】
前記計測データ取得手段は、
前記磁場印加ユニットによる検査対象物への印加磁場が除外された条件下で計測された補完計測データを取得することが可能であり、
前記判定用データ演算手段は、前記第1計測データから前記補完計測データを減算し、前記第2計測データから前記補完計測データを減算し、当該減算後のデータに基づき前記判定用データを合成することが可能である請求項
14に記載の非破壊検査の情報処理装置。
【請求項16】
前記第1計測データから減算する前記補完計測データは、当該第1計測データの計測後に前記一方側の印加位置から前記磁場印加ユニットが撤去された状態で計測された計測データであり、
前記第2計測データから減算する前記補完計測データは、当該第2計測データの計測後に前記他方側の印加位置から前記磁場印加ユニットが撤去された状態で計測された計測データである請求項
15に記載の非破壊検査の情報処理装置。
【請求項17】
前記第1計測データから減算する前記補完計測データと、前記第2計測データから減算する前記補完計測データとは、同一である請求項
15に記載の非破壊検査の情報処理装置。
【請求項18】
前記判定用データ演算手段は、前記第1計測データに対して前記一方側の磁場印加ユニットからの距離に応じた磁場の低下を緩和する距離補正を行い、前記第2計測データに対して前記他方側の磁場印加ユニットからの距離に応じた磁場の低下を緩和する距離補正を行い、当該距離補正後のデータに基づき前記判定用データを合成することが可能である請求項
14から請求項
17のうちいずれか一に記載の非破壊検査の情報処理装置。
【請求項19】
前記判定用データ演算手段は、前記距離補正として、当該距離のN乗を当該距離における計測値に乗じる演算を行うことが可能である請求項
18に記載の非破壊検査の情報処理装置。
【請求項20】
前記判定用データ演算手段は、前記第1計測データに対して、1次近似式又は2次近似式を求め、求めた近似式の値を前記第1計測データから減算し、前記第2計測データに対して、1次近似式又は2次近似式を求め、求めた近似式の値を前記第2計測データから減算し、当該減算後のデータに基づき前記判定用データを合成することが可能である請求項
14から請求項
19のうちいずれか一に記載の非破壊検査の情報処理装置。
【請求項21】
前記コンピューターは、判定手段として機能し、
前記判定手段は、
検査時の前記判定用データに基づき、当該検査対象物の異常の有無を判定するとともに、異常有りの場合、当該検査時の前記判定用データの正のピークと負のピークの間の0値となる位置を検査対象物の異常個所と判定することが可能である請求項
14から請求項
20のうちいずれか一に記載の非破壊検査の情報処理装置。
【請求項22】
コンピューターを、非磁性体に内包される磁性材料を検査対象物とした非破壊検査の情報処理装置として機能させるためのコンピューター・プログラムであって、
前記コンピューターを、
磁場印加ユニットからN極性又はS極性である第一極性の磁場を、前記非磁性体の表面から前記検査対象物に印加して、前記磁場印加ユニットから離れるに従い磁場が第一極性の範囲で減衰する磁場分布を形成した状態の同検査対象物からの磁場を、前記磁場印加ユニットに隣接した前記非磁性体の表面上において磁気センサーにより、前記磁場印加ユニットから離れる第1方向に沿って前記磁場印加ユニットからの距離が異なる複数の位置で計測された計測データを取得する計測データ取得手段と、
前記計測データ取得手段で取得した計測データに基づき、前記検査対象物の状態を判定するための判定用データを演算する判定用データ演算手段として機能させ、
前記計測データ取得手段は、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の一方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第1計測データと、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の他方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第2計測データとを取得することが可能であり、
前記判定用データ演算手段は、前記第1計測データと前記第2計測データとに基づき判定用データを合成することが可能である非破壊検査の情報処理プログラム。
【請求項23】
前記計測データ取得手段は、
前記磁場印加ユニットによる検査対象物への印加磁場が除外された条件下で計測された補完計測データを取得することが可能であり、
前記判定用データ演算手段は、前記第1計測データから前記補完計測データを減算し、前記第2計測データから前記補完計測データを減算し、当該減算後のデータに基づき前記判定用データを合成することが可能である請求項
22に記載の非破壊検査の情報処理プログラム。
【請求項24】
前記第1計測データから減算する前記補完計測データは、当該第1計測データの計測後に前記一方側の印加位置から前記磁場印加ユニットが撤去された状態で計測された計測データであり、
前記第2計測データから減算する前記補完計測データは、当該第2計測データの計測後に前記他方側の印加位置から前記磁場印加ユニットが撤去された状態で計測された計測データである請求項
23に記載の非破壊検査の情報処理プログラム。
【請求項25】
前記第1計測データから減算する前記補完計測データと、前記第2計測データから減算す
る前記補完計測データとは、同一である請求項
23に記載の非破壊検査の情報処理プログラム。
【請求項26】
前記判定用データ演算手段は、前記第1計測データに対して前記一方側の磁場印加ユニットからの距離に応じた磁場の低下を緩和する距離補正を行い、前記第2計測データに対して前記他方側の磁場印加ユニットからの距離に応じた磁場の低下を緩和する距離補正を行い、当該距離補正後のデータに基づき前記判定用データを合成することが可能である請求項
22から請求項
25のうちいずれか一に記載の非破壊検査の情報処理プログラム。
【請求項27】
前記判定用データ演算手段は、前記距離補正として、当該距離のN乗を当該距離における計測値に乗じる演算を行うことが可能である請求項
26に記載の非破壊検査の情報処理プログラム。
【請求項28】
前記判定用データ演算手段は、前記第1計測データに対して、1次近似式又は2次近似式を求め、求めた近似式の値を前記第1計測データから減算し、前記第2計測データに対して、1次近似式又は2次近似式を求め、求めた近似式の値を前記第2計測データから減算し、当該減算後のデータに基づき前記判定用データを合成することが可能である請求項
22から請求項
27のうちいずれか一に記載の非破壊検査の情報処理プログラム。
【請求項29】
前記コンピューターは、判定手段として機能し、
前記判定手段は、
検査時の前記判定用データに基づき、当該検査対象物の異常の有無を判定するとともに、異常有りの場合、当該検査時の前記判定用データの正のピークと負のピークの間の0値となる位置を前記検査対象物の異常個所と判定することが可能である請求項
22から請求項
28のうちいずれか一に記載の非破壊検査の情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気を利用した非破壊検査における計測と計測データの処理に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気を利用した非破壊検査の応用範囲としては、コンクリートやゴム等の非磁性体材料に内包された鉄筋や鋼棒、ワイヤー等の磁性材料の腐食や劣化による破断の診断、特には、道路や鉄道の橋桁や橋脚、床版内のPC鋼材や鉄筋の破断診断が挙げられる。
特許文献1に記載の非破壊検査装置は、磁気センサーの片側だけに磁場印加ユニットを配置し、磁石等の磁場印加ユニットからN極性又はS極性である第一極性の磁場を検査対象物に印加して、磁場印加ユニットから離れるに従い磁場が第一極性の範囲で減衰する磁場分布を形成した状態の同検査対象物からの磁場を磁気センサーで検知する構成を有する。第一方向に沿って磁場印加ユニットからの距離が異なる複数の位置で磁気センサーにより磁場を計測し、磁場印加ユニットからの距離に応じた磁場分布が得られようにし、同磁場分布に基づき、検査対象物の異常を判断することができる。
特許文献1に記載の発明によれば、磁気センサーの片側だけに磁場印加ユニットを配置すればよいので、装置の小型軽量化が図られ、可搬性も良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明のように、検査対象物に磁場を印加して同検査対象物からの磁場を磁気センサーで計測し、その計測データを参照することで、同検査対象物の損傷の有無及びその個所を判断することができる。
しかしながら、磁気センサーの片側だけに磁場印加ユニットを配置して当該磁気センサーにより得られた計測データは、検査対象物由来の磁場成分が弱い。そのため、同計測データ中における同検査対象物の損傷の有無による変化も小さい。したがって、同計測データから同検査対象物の損傷の有無による変化を読み取ることが難しくなる場合がある。
【0005】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、磁気を利用した非破壊検査において、磁気センサーの片側だけに磁場印加ユニットを配置した計測方法を踏襲しつつ、新たな計測方法によって検査対象物由来の磁場成分を強めることで、検査対象物の損傷の有無及びその個所の判定を容易化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
また本発明の他の一形態は、非磁性体に内包される磁性材料を検査対象物とした非破壊検査の計測装置であって、
磁場を印加する磁場印加ユニットと、磁場を計測するセンサーユニットとを備え、
前記磁場印加ユニットは、前記センサーユニットの第1方向に沿った一方の端部にも、他方の端部にも着脱可能とされ、
前記センサーユニットは、少なくとも第1方向に沿った異なる複数の位置の磁場を計測可能とされ、前記センサーユニットによる計測データを外部出力可能とされ、
前記磁場印加ユニットを前記一方の端部に配置し前記他方の端部に配置しない状態で、前記センサーユニットにより計測した第1計測データと、
前記磁場印加ユニットを前記他方の端部に配置し前記一方の端部に配置しない状態で、前記センサーユニットにより計測した第2計測データと、
に基づき判定用データを演算する手段を有し、
前記判定用データを外部出力可能とされている非破壊検査の計測装置である。
【0008】
また本発明の他の一形態は、非磁性体に内包される磁性材料を検査対象物とした非破壊検査方法であって、
磁場印加ユニットからN極性又はS極性である第一極性の磁場を、前記非磁性体の表面から前記検査対象物に印加して、前記磁場印加ユニットから離れるに従い磁場が第一極性の範囲で減衰する磁場分布を形成した状態の同検査対象物からの磁場を、前記磁場印加ユニットに隣接した前記非磁性体の表面上において磁気センサーにより、前記磁場印加ユニットから離れる第1方向に沿って前記磁場印加ユニットからの距離が異なる複数の位置で計測された計測データを取得する計測データ取得工程と、
前記計測データ取得工程で取得した計測データに基づき、前記検査対象物の状態を判定するための判定用データを演算する判定用データ演算工程と、を備え、
前記計測データ取得工程において、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の一方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第1計測データと、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の他方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第2計測データとを取得し、
前記判定用データ演算工程において、前記第1計測データと前記第2計測データとに基づき判定用データを合成する非破壊検査方法である。
【0009】
また本発明の他の一形態は、非磁性体に内包される磁性材料を検査対象物としたコンピューターによる非破壊検査の情報処理装置であって、
前記コンピューターは、
磁場印加ユニットからN極性又はS極性である第一極性の磁場を、前記非磁性体の表面から前記検査対象物に印加して、前記磁場印加ユニットから離れるに従い磁場が第一極性の範囲で減衰する磁場分布を形成した状態の同検査対象物からの磁場を、前記磁場印加ユニットに隣接した前記非磁性体の表面上において磁気センサーにより、前記磁場印加ユニットから離れる第1方向に沿って前記磁場印加ユニットからの距離が異なる複数の位置で計測された計測データを取得する計測データ取得手段と、
前記計測データ取得手段で取得した計測データに基づき、前記検査対象物の状態を判定するための判定用データを演算する判定用データ演算手段として機能し、
前記計測データ取得手段は、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の一方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第1計測データと、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の他方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第2計測データとを取得することが可能であり、
前記判定用データ演算手段は、前記第1計測データと前記第2計測データとに基づき判定用データを合成することが可能である非破壊検査の情報処理装置である。
【0010】
また本発明の他の一形態は、コンピューターを、非磁性体に内包される磁性材料を検査対象物とした非破壊検査の情報処理装置として機能させるためのコンピューター・プログラムであって、
前記コンピューターを、
磁場印加ユニットからN極性又はS極性である第一極性の磁場を、前記非磁性体の表面から前記検査対象物に印加して、前記磁場印加ユニットから離れるに従い磁場が第一極性の範囲で減衰する磁場分布を形成した状態の同検査対象物からの磁場を、前記磁場印加ユニットに隣接した前記非磁性体の表面上において磁気センサーにより、前記磁場印加ユニットから離れる第1方向に沿って前記磁場印加ユニットからの距離が異なる複数の位置で計測された計測データを取得する計測データ取得手段と、
前記計測データ取得手段で取得した計測データに基づき、前記検査対象物の状態を判定するための判定用データを演算する判定用データ演算手段として機能させ、
前記計測データ取得手段は、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の一方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第1計測データと、
前記磁気センサーにより計測する前記複数の位置より、前記第1方向の他方側の印加位置に前記磁場印加ユニットを配置して計測された第2計測データとを取得することが可能であり、
前記判定用データ演算手段は、前記第1計測データと前記第2計測データとに基づき判定用データを合成することが可能である非破壊検査の情報処理プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁気を利用した非破壊検査において、磁気センサーの片側だけに磁場印加ユニットを配置した計測方法を踏襲しつつ、新たな計測方法によって検査対象物由来の磁場成分を強めることで、検査対象物の損傷の有無及びその個所の判定を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る非破壊検査システムの全体構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る非破壊検査の計測装置の正面模式図(a)及び平面模式図(b)であって、第1計測時の状態を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係るセンサー基板の斜視図である。
【
図4】本発明の磁気ストリーム法による計測状態図である。
【
図5】Z方向磁場成分の第1方向Xに沿った磁場分布の計測波形図の一例である。
【
図6】健全モデルについて計測したX-Z平面上における磁場の2次元分布図である。
【
図7】破断モデルについて計測したX-Z平面上における磁場の2次元分布図である。
【
図8】交差スターラップがある場合の計測状態図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る計測とその後の処理を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の一実施形態に係る非破壊検査の計測装置の正面模式図であって、磁石なし計測時の状態を示す。
【
図11】本発明の一実施形態に係る非破壊検査の計測装置の正面模式図であって、第2計測時の状態を示す。
【
図12】環境除去処理後の第1計測データ及び第2計測データの一例を示すグラフである。(a)は検査対象物が健全の場合を、(b)は検査対象物に破断がある場合を示す。
【
図13】
図12のデータの距離補正後に相当するグラフである。
【
図14】
図13に示すデータの1次近似式に相当するグラフである。
【
図15】
図13に示すデータの2次近似式に相当するグラフである。
【
図16】
図13に示すデータの、
図14に示す1次近似式による補正処理後に相当するグラフである。
【
図17】
図13に示すデータの、
図15に示す2次近似式による補正処理後に相当するグラフである。
【
図18】
図16に示す第1計測データと第2計測データとの差分に相当する判定用データのグラフである。
【
図19】
図17に示す第1計測データと第2計測データとの差分に相当する判定用データのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0014】
〔非破壊検査の概要〕
本発明の一実施形態に係る非破壊検査の概要につき説明する。本発明の一実施形態に係る非破壊検査システムの全体構成図を
図1に示す。
図1に示すように本実施形態の非破壊検査システム10は非破壊検査の計測装置1とクラウドコンピューター9と可搬型コンピューター4とを備える。計測装置1は、センサーユニット2と、磁場印加ユニット3とを備える。センサーユニット2は磁気計測するためのブロックで、複数の磁気センサー21を搭載している。磁気センサー21は検査対象物方向からの1軸方向の磁場成分を検知する1軸センサーでもよいが、磁気センサー周囲の3軸方向の磁場を検知可能な3軸センサーであることがより好ましい。磁気センサー21として3軸センサーを適用する場合、互いに直交する3軸方向の磁場成分を検知可能な3軸センサーが好ましいが、同3軸方向にセンサー軸がそれぞれ配置された3つの1軸センサーの複合により構成されていてもよい。
磁気センサー21としては半導体センサーであるホール素子や磁気抵抗センサーであるMRセンサー、MIセンサー、TMRセンサーなどが知られている。本計測装置1においては磁気感度とダイナミックレンジのバランスからホール素子センサーを採用している。
【0015】
磁気センサー21で生じた電圧をA/D部22でデジタル値に変換して生成した計測データを、モバイル通信ユニット23を介して、外部に送信する。
センサーユニット2には全体制御するCPU24の他、操作部25も備わっている。送信されたデータは、本システムの情報処理装置の一例であるクラウドコンピューター9で検査のための処理にかけられる。
このように計測装置1は、センサーユニット2による計測データを外部出力可能とされている。計測データを外部出力可能とする形態としては、有線又は無線によるデータ通信のほか、センサーユニット2に着脱可能な記録媒体に計測データを保存することでもよい。
【0016】
本実施形態において磁場印加ユニット3は、永久磁石を含むものである。
本実施形態においては、磁場印加ユニット3は検査対象物である磁性体、例えばコンクリート構造物等の非磁性体に内包される鋼材等の検査対象物にN極性またはS極性のどちらかの磁場を非磁性体の表面の印加位置から印加して、検査対象物に磁気流路を形成する。センサーユニット2は磁気流路が形成されている状態で検査対象物から漏れだしてくる磁気を磁気センサー21で計測する。これを磁気ストリーム法と呼ぶ。
クラウドコンピューター9はWebサーバーであって、センサーユニット2からアップロードされた計測データを直ちに処理して、可搬型コンピューター4のブラウザアプリで表示することができるようにする。
【0017】
図2、
図3に本発明の本実形態の非破壊検査の計測装置の機構図を示す。
図2に示すように筐体26の中には磁気センサー21(21M,21R)を一つ又は複数搭載したセンサアレイが計測面26Mに近接して配置されている。本実施形態ではセンサアレイが構成されている場合を主に説明する。第1方向をX軸、第2方向をY軸、第3方向をZ軸として図中に直交3軸XYZを示す。
図2に示すように磁場印加ユニット3と、磁気センサー21とが第1方向Xに配列する。
図2(b)に示すようにY方向に複数の磁気センサー21が配列する。
図2(a)及び
図3に示すようにZ方向に2つの磁気センサー21M,21Rが配列する。計測面26MはXY平面に平行な筐体26の外表面の一つであって磁気センサー21が近接配置された側である。筐体26内の反対側のスペースには、操作部25のほか上記A/D部22、モバイル通信ユニット23、CPU24等を搭載した回路基板等が配置される。磁場印加ユニット3のS極又はN極である端面が計測面26MとZ軸座標上の略同位置に配置されて、磁場印加ユニット3がセンサーユニット2に対して装着される。センサーユニット2のX方向の一方の端部(図上左端部)には、ホルダー26Lが筐体26に連結して設けられている。センサーユニット2のX方向の他方の端部(図上右端部)には、ホルダー26Rが筐体26に連結して設けられている。ホルダー26L,26Rに磁場印加ユニット3を着脱することが可能とされている。例えばこのようにして磁場印加ユニット3は、センサーユニット2の第1方向Xに沿った一方の端部にも、他方の端部にも着脱可能とされている。磁場印加ユニット3をホルダー26L(26R)に装着することによって、センサーユニット2に対して相対的に定められる印加位置に磁場印加ユニット3が正確に配置される。これにより作業者の技量によらず再現性よく正確な位置に印加位置を決定することができる。
また、一方の端部のホルダー26Lと、他方の端部のホルダー26Rの着脱構造が共通であることによって、一方の端部のホルダー26Lに着脱可能な磁場印加ユニット3と、他方の端部のホルダー26Rに着脱可能な磁場印加ユニット3とは、同一のものが共用可能とされている。これにより、磁場印加ユニット3を1つ使用すればよく、計測装置1が簡素化し、計測作業や管理が効率化する。
Z方向に配列する2つの磁気センサー21M,21Rは、計測面26Mに近い側がメインセンサー21M、遠い側がリファレンスセンサー21Rである。
【0018】
センサーユニット2は、磁気センサー21をモータ27Mで駆動されるセンサー走査機構27により、X方向に移動させつつ検知する走査検知が可能とされている。実際の計測時には、筐体26の計測面26Mを検査対象物が内包される計測対象構造物の被計測面(コンクリート表面など)に合せて設置した状態で、磁気センサー21の走査検知が実行される。計測時に、センサーユニット2及び磁場印加ユニット3の設置位置を検査対象物に対して固定した位置から移動させなければ、センサー走査機構27は磁気センサー21を任意の位置に走査しながらの計測や任意の位置に停止させての計測が可能な構成になっており、何度でも同じ位置を繰り返し計測することが可能であり、また計測位置の磁場印加ユニット3に対する距離も再現性がある。
例えば以上のようにしてセンサーユニット2は、第1方向Xに沿った異なる複数の位置の磁場を計測可能とされている。これを実現するためには、上記のような走査式ではなく、X方向に複数の磁気センサーが配列したセンサアレイ式を構成してもよい。例えば、センサーユニット2は、第1方向Xと、第1方向に直交する第2方向Yとに2次元的に配列された複数の磁気センサーを有する構成としてよい。これによっても、計測面26Mに沿った各XY座標における計測値を得ることができる。
【0019】
図4を参照して本発明の磁気ストリーム法による計測原理につき説明する。
図4は本発明の測定原理に係る磁気流路を形成している状態を模したものである。
検査対象物8は磁性材料である鉄筋鋼棒またはPC鋼材を想定し、中央部にギャップ1cm程度の破断部8Bが生じている状態を想定する(周りの非磁性体(コンクリート)を不図示とする。以下同じ)。
磁場印加ユニット3からN極性の磁場が検査対象物8に印加され、磁性体である検査対象物8内を磁気が流れる。磁性体を流れる磁気は少しずつ外部に放出されてゆき、徐々に減衰する。磁気センサー21はこの検査対象物8に沿って走査可能な構成となっており、検査対象物8の長手方向の漏洩磁束を捉えることができる構成となっている。磁場印加ユニット3から検査対象物8に印加する磁場はN極性、S極性のいずれでも構わない。すなわち、本実施形態の計測装置1は、磁場印加ユニット3と磁気センサー21との第1方向Xの配列に対し第3方向Zに隣接した検査対象物8に対し、磁場印加ユニット3からN極性又はS極性である第一極性の磁場を印加して、第1方向Xに沿って磁場印加ユニット3から離れるに従い磁場が第一極性の範囲で減衰する磁場分布を形成した状態の同検査対象物8からの磁場を磁気センサー21で検知する構成を有する。そして、第1方向Xに沿って磁場印加ユニット3からの距離が異なる複数の位置で磁気センサー21により磁場を計測し、磁場印加ユニット3からの距離に応じた第1方向Xに沿った磁場分布が得られるようにされている。センサーユニット2を上述した走査式又はセンサアレイ式とすることで、磁場印加ユニット3からの距離に応じた第1方向Xに沿った磁場分布が得られるようにされる。
ここで、検査対象物8に破断がなければ、磁場印加ユニット3から離れるに従って徐々に漏洩磁力が弱まってゆくが、
図4に示すように検査対象物8に破断部8Bがあると破断部8Bで磁気の流れが断ち切られるため、破断部8Bの手前で多くの磁気が放出され、破断部8B以降の検査対象物8に流れる磁気が減る。計測装置1によって、破断の有無による検査対象物8の漏洩磁束の分布の違いを捉えることができる。
【0020】
図5に第1方向Xに沿った磁場分布の計測波形図の一例を示す。
図5は、
図4に示すように検査対象物の中央部に破断がある場合(破断モデル)と、これに対し検査対象物8に破断が無い健全の場合(健全モデル)との2条件に対して、磁気センサー21により検査対象物8からZ方向に一定距離離れたXY面上におけるZ方向磁場成分の分布をとらえたものである。また、別途計測したXZ平面上における磁場の2次元分布図(カラーヒートマップをグレースケールに変換したもの)を、健全モデルにつき
図6に、破断モデルにつき
図7に示す。
図6及び
図7において、より白い部分が強い磁場部分を示しており、磁気センサー21の計測位置を黒い正方形で示す。
前述したように、検査対象物8に破断がない場合、検査対象物8の
図4中左側に配置された磁場印加ユニット3によって印加された磁力が、検査対象物8の内部をY方向に流れる中で少しずつ減衰しながら外部に放出される(
図5の実線グラフ及び
図6参照)。
それに対して、検査対象物8の中央部に破断がある場合、磁場印加ユニット3によって印加された磁力は、破断部8Bまでは検査対象物8の内部を流れる中で少しずつ減衰しながら外部に放出されるが、破断部8Bで検査対象物8に流れる流路が断ち切られるため、破断部8B以降に磁力がほとんど流れず、破断部8Bを境に急減衰した波形(
図5の破線グラフ及び
図7参照)となる。また、逆に破断部8Bの手前で多くの磁気が放出されるため、破断部8Bより手前側の、図では左側の領域の破断ありの計測値が破断なしの計測値を上回ることも破断による特徴である。以上の破断の有無による磁場分布の傾向は、
図6及び
図7中の磁気センサー21の計測位置(黒い正方形)の磁場分布でも成立する。磁気センサー21の計測位置(黒い正方形)の磁場分布を、X方向に沿って磁石から離れるように観察すると、
図6の健全モデルでは、ほぼ一定の減少率で減衰するが、
図7の破断モデルにあっては破断部8B前で磁場が強まっており、逆に、破断部8Bを過ぎると急減衰している。したがって、検査対象物8からZ方向に離れた磁気センサー21により
図5に示したような磁場分布を計測できることがわかる。
【0021】
〔計測とその後の処理〕
ここでは、計測時の条件として
図8に示す要素を想定する。
コンクリートなどの非磁性材料に、PC鋼材などの検査対象物8及び交差スターラップ5が内包されている。交差スターラップ5は検査対象物8以外の磁性材料に相当する。
磁場印加ユニット3を非磁性材料の表面に設置し検査対象物8に磁場(H1)を印加する。磁場印加ユニット3から離れるように、かつ、検査対象物8の長手方向(X方向)に沿って磁気センサー21により計測する。例えば図示するようにY方向に5つの磁気センサー(21-1~5)が配列する構成を採用するが、その数は任意である。
交差スターラップ5は、計測面26Mが設けられる非磁性材料の表面と検査対象物8との間に位置しており、Y方向に延在し、X方向に複数が並ぶ。
【0022】
計測とその後の処理については、
図9のフローチャートを参照する、
(計測段階)
まず、第1計測工程S11を行う。
第1計測工程S11では、
図2に示すようにホルダー26Lに磁場印加ユニット3を装着した計測装置1により計測を実行する。
第1計測工程S11では、磁気センサー21により計測するX方向の複数の位置より、X方向の一方側の印加位置(ホルダー26L)に磁場印加ユニット3を配置して計測する。これにより取得したデータを第1計測データとする。
計測装置1により、XY面における2次元分布データが得られる。各座標においてX方向磁場成分、Y方向磁場成分、Z方向磁場成分の各計測値が得られる。
図12(a)に示す一例のグラフG11hは第1計測データに相当し、横軸をX軸としたZ方向磁場成分の分布グラフであり、検査対象物8が健全の場合を示す。但し、後述する環境除去工程S13後のデータを示す。
図12(b)に示す一例のグラフG11dは第1計測データに相当し、横軸をX軸としたZ方向磁場成分の分布グラフであり、検査対象物8に破断がある場合を示す。但し、後述する環境除去工程S13後のデータを示す。
【0023】
次に、磁石なし計測工程S12を行う。
磁石なし計測工程S12では、
図10に示すように第1計測工程S11における磁場印加ユニット3をホルダー26Lから外して撤去し、磁場印加ユニット3による検査対象物8への印加磁場が除外された条件下で計測する。第1計測工程S11での磁場印加ユニット3による磁場印加の影響が残留した状態での計測条件となる。これにより計測された計測データを補完計測データとする。
磁石なし計測工程S12で計測される補完計測データは、第1計測データの計測後に一方側の印加位置(ホルダー26L)から磁場印加ユニット3が撤去された状態で計測された計測データに相当する。
【0024】
一方、第2計測工程S21を行う。
第2計測工程S21では、
図11に示すようにホルダー26Rに磁場印加ユニット3を装着した計測装置1により計測を実行する。なお、第1計測工程S11と第2計測工程S21の後先は問わない。なお、第1計測工程S11と第2計測工程S21と磁石なし計測工程S12,S22とでセンサーユニット2を検査対象物8に対して移動しないようにする。同じ位置の計測データを得るためである。
第2計測工程S21では、磁気センサー21により計測するX方向の複数の位置より、X方向の他方側の印加位置(ホルダー26R)に磁場印加ユニット3を配置して計測する。これにより取得したデータを第2計測データとする。
図12(a)に示す一例のグラフG21hは第2計測データに相当し、横軸をX軸としたZ方向磁場成分の分布グラフであり、検査対象物8が健全の場合を示す。但し、後述する環境除去工程S23後のデータを示す。
図12(b)に示す一例のグラフG21dは第2計測データに相当し、横軸をX軸としたZ方向磁場成分の分布グラフであり、検査対象物8に破断がある場合を示す。但し、後述する環境除去工程S23後のデータを示す。
【0025】
次に、磁石なし計測工程S22を行う。
磁石なし計測工程S22では、
図10に示すように第2計測工程S21における磁場印加ユニット3をホルダー26Rから外して撤去し、磁場印加ユニット3による検査対象物8への印加磁場が除外された条件下で計測する。第2計測工程S21での磁場印加ユニット3による磁場印加の影響が残留した状態での計測条件となる。これにより計測された計測データを補完計測データとする。
磁石なし計測工程S22で計測される補完計測データは、第2計測データの計測後に他方側の印加位置(ホルダー26R)から磁場印加ユニット3が撤去された状態で計測された計測データに相当する。なお、一方側の印加位置と他方側の印加位置とを、ホルダー26L、ホルダー26Rのどちらに対応させるかは任意である。
【0026】
以上の工程S11,S12,S21,S22の説明に拘わらず、磁石なし計測工程S12,S22を共通化して工程S11,S21の先又は後に実施してもよい。
【0027】
以上のように計測装置1により計測された第1計測データと第2計測データと補完計測データとが、外部出力されクラウドコンピューター9により取得される。
すなわち、計測装置1は、磁場印加ユニット3をX方向の一方の端部に配置し、他方の端部に配置しない状態で、センサーユニット2により計測した第1計測データと、磁場印加ユニット3を他方の端部に配置し、一方の端部に配置しない状態で、センサーユニット2により計測した第2計測データと、磁場印加ユニット3が撤去された状態で計測された補完計測データとを外部出力可能とされている。
【0028】
(計測後の処理段階)
クラウドコンピューター9は、非破壊検査の情報処理プログラムに基づき、計測データ取得手段及び判定用データ演算手段として機能し、計測データ取得工程及び判定用データ演算工程を実行する。
まず、クラウドコンピューター9は計測データ取得手段として機能し、第1計測データ、第2計測データ及び補完計測データを受信することで、計測データ取得工程を完了する。
【0029】
次に、クラウドコンピューター9は判定用データ演算手段として機能し、計測データ取得工程で取得した計測データに基づき、検査対象物8の状態を判定するための判定用データを演算する判定用データ演算工程(S13-16,S23-26,S30)を実行する。
判定用データ演算工程としては、まず、環境除去工程S13,S23を実行する。
環境除去工程S13では、第1計測データから磁石なし計測工程S12で計測した補完計測データを減算する。環境除去工程S23では、第2計測データから磁石なし計測工程S22で計測した補完計測データを減算する。ここで、磁石なし計測工程S12,S22を共通化している場合は、第1計測データから減算する補完計測データと、第2計測データから減算する補完計測データとは、同一である。
環境除去工程S13,S23により、磁場印加ユニット3に起因しない、環境磁場由来のノイズ成分を計測データから除去でき、検査対象物8の状態により変化する信号成分を読み取りやすくすることができる。
【0030】
次に、距離補正工程S14,S24を実行する。
距離補正工程S14では、第1計測データに対して一方側(ホルダー26L)の磁場印加ユニット3からの距離に応じた磁場の低下を緩和する距離補正を行う。距離補正工程S24では、第2計測データに対して他方側(ホルダー26R)の磁場印加ユニット3からの距離に応じた磁場の低下を緩和する距離補正を行う。
すなわち、当該距離が大きいほど信号を強める補正を行う。そのための一つの方法として、距離のN乗を当該距離における計測値に乗じる演算を行う。このとき、Nは、1.0~4.0の範囲とするとよい。
磁場印加ユニット3からの距離が遠いほど補正量を高める。例えば、磁場印加ユニット3のX座標を原点0とし、磁場印加ユニット3に最も近い計測位置のX座標をx1、各計測位置のX座標をxとしたとき、補正倍率Pをxの関数として、P(x)=(X/X1)
Nとする。このとき、距離補正は各X座標の計測値をP(x)倍に変換することとする。
距離補正工程S14,S24後のグラフを
図13に示す。距離補正によりグラフG11hがグラフG12hに変化し、グラフG21hがグラフG22hに変化し、グラフG11dがグラフG12dに変化し、グラフG21dがグラフG22dに変化した。
図13に示すように、距離により信号の低下が緩和されている。
距離補正工程S14,S24により、磁場印加ユニット3からの距離による変化成分が緩和され、検査対象物8の状態により変化する信号成分を読み取りやすくすることができる。
【0031】
次に、近似式作成工程S15,S25を実行する。
近似式作成工程S15では、第1計測データに対して、1次近似式又は2次近似式を求める。ここでは、環境除去処理及び距離補正後の第1計測データに対して行う。
図14に求めた1次近似式のグラフを示す。グラフG13hがグラフG12hに対する1次近似式のグラフである。グラフG13dがグラフG12dに対する1次近似式のグラフである。
図15に求めた2次近似式のグラフを示す。グラフG14hがグラフG12hに対する2次近似式のグラフである。グラフG14dがグラフG12dに対する2次近似式のグラフである。
近似式作成工程S25では、第2計測データに対して、1次近似式又は2次近似式を求める。ここでは、環境除去処理及び距離補正後の第2計測データに対して行う。
図14に求めた1次近似式のグラフを示す。グラフG23hがグラフG22hに対する1次近似式のグラフである。グラフG23dがグラフG22dに対する1次近似式のグラフである。
図15に求めた2次近似式のグラフを示す。グラフG24hがグラフG22hに対する2次近似式のグラフである。グラフG24dがグラフG22dに対する2次近似式のグラフである。
なお、1次近似式を求めるか、2次近似式を求めるかは選択して実施してよい。
【0032】
次に、近似式補正工程S16,S26を実行する。
近似式補正工程S16では、近似式作成工程S15で求めた近似式の値を第1計測データから減算する。
1次近似式の場合、グラフG12hの計測値からグラフG13hの同じX座標の計測値を減算し、
図16に示すグラフG15hとする演算を行う。同様に、グラフG12dの計測値からグラフG13dの同じX座標の計測値を減算し、
図16に示すグラフG15dとする演算を行う。
2次近似式の場合、グラフG12hの計測値からグラフG14hの同じX座標の計測値を減算し、
図17に示すグラフG16hとする演算を行う。同様に、グラフG12dの計測値からグラフG14dの同じX座標の計測値を減算し、
図17に示すグラフG16dとする演算を行う。
近似式補正工程S26では、近似式作成工程S25で求めた近似式の値を第2計測データから減算する。
1次近似式の場合、グラフG22hの計測値からグラフG23hの同じX座標の計測値を減算し、
図16に示すグラフG25hとする演算を行う。同様に、グラフG22dの計測値からグラフG23dの同じX座標の計測値を減算し、
図16に示すグラフG25dとする演算を行う。
2次近似式の場合、グラフG22hの計測値からグラフG24hの同じX座標の計測値を減算し、
図17に示すグラフG26hとする演算を行う。同様に、グラフG22dの計測値からグラフG24dの同じX座標の計測値を減算し、
図17に示すグラフG26dとする演算を行う。
図16及び
図17に示すように近似式補正工程S16,S26により、グラフ全体の右上がり又は左上がりの傾きが解消されるので、検査対象物8の状態により変化する信号成分を読み取りやすくすることができる。上述の距離補正では解消しきれなかったグラフ全体の傾きを解消することができる。
【0033】
次に波形合成工程S30を実行する。
波形合成工程S30では、近似式補正工程S16を実行した後の第1計測データと、近似式補正工程S26を実行した後の第2計測データとに基づき判定用データを合成する。ここでは、合成演算として差分計算を実行する。
1次近似式を採用した場合、グラフG15hの計測値からグラフG25hの同じX座標の計測値を減算し、
図18に示すグラフG31hとする演算を行う。同様に、グラフG15dの計測値からグラフG25dの同じX座標の計測値を減算し、
図18に示すグラフG31dとする演算を行う。
2次近似式を採用した場合、グラフG16hの計測値からグラフG26hの同じX座標の計測値を減算し、
図19に示すグラフG32hとする演算を行う。同様に、グラフG16dの計測値からグラフG26dの同じX座標の計測値を減算し、
図19に示すグラフG32dとする演算を行う。
【0034】
次に、判定工程S31を実行する。
判定工程S31では、検査対象物の異常の有無と、異常が有る場合その異常個所を判定する。
まず、検査時の判定用データを、検査対象物8が健全の時の判定用データ(グラフG31h又はG32h)と対比して、当該検査対象物8の異常の有無を判定する。例えば、検査時の判定用データを表示したグラフが、グラフG31d(又はG32d)であったとする。
図18(
図19)に示すように、グラフG31d(G32d)は、健全の時のグラフG31h(G32h)から大きく離れている。これを数量的に評価し検査対象物8の異常が有ると判定する。より詳しく見ると、グラフG31d(G32d)は、正のピークP1及び負のピークP2が、健全の時のグラフG31h(G32h)から大きく離れて現れている。これを数量的に評価し検査対象物8の異常が有ると判定する。また、当該検査時の判定用データの正のピークP1と負のピークP2の間の0値となる位置P0を検査対象物8の異常個所と判定する。これにより、正確に検査対象物8の異常個所を判定することができる。
【0035】
判定工程S31は、クラウドコンピューター9が判定手段として機能し、自ら演算して実行されるものであってもよい(自動判定機能)。この場合、可搬型コンピューター4等を介して、ユーザーに判定結果(異常の有無と箇所)が表示される。
また、可搬型コンピューター4等を介してユーザーに判定用データの表示(グラフ表示等)のみを行い、ユーザーが判定用データを見て判定工程S31を実行してもよい。
もちろん、自動判定機能による判定結果と判定用データとが表示されるように実施してもよい。
【0036】
また、上記の判定用データ演算工程(S13-16,S23-26,S30)を実行する手段をも計測装置1が有し、計測装置1が自ら演算した判定用データを外部出力可能とされていてもよい。さらには、計測装置1が判定手段をも有し、判定結果を外部出力可能とされていてもよい。この外部出力は、計測装置1自体に備わる表示装置に表示することであってもよいし、クラウドコンピューター9に対するものであってもよいし、クラウドコンピューター9を介さず直接接続する可搬型コンピューターに対するものであってよい。いずれにしても、ユーザーが判定用データや判定結果を参照することができるからである。
【0037】
〔作用効果その他〕
以上説明した本発明の実施形態によれば、磁気を利用した非破壊検査において、磁気センサーの片側だけに磁場印加ユニットを配置した計測方法を踏襲しつつ、センサーユニット2の一方側に磁場印加ユニット3を配置して計測し、センサーユニット2の他方側に磁場印加ユニット3を配置して計測するという新たな計測方法によって検査対象物8由来の磁場成分を強めることで、検査対象物8の損傷の有無及びその個所の判定を容易化することができる。
図16又は
図17のグラフに示すように、中央に盛り上がっている磁場H2は、交差スターラップ5L、5R間の検査対象物8から漏れる磁場を検出したものである。磁場H2の両側の下に凸な磁場H3L,H3Rが交差スターラップ5L、5Rの影響による変化部分である。
破断があることによって生じる変化は
図16(b)又は
図17(b)に示すように左右対称に生じるから、一方側印加の第1計測データと他方側印加の第2計測データを取得していることで、この変化が顕著に出現する。したがって、
図18又は
図19に示すように検査対象物8の状態により変化する信号成分を顕著に抽出することができ、検査対象物の損傷の有無及びその個所の判定を容易化することができる。
また、
図18又は
図19に示すように交差スターラップ5L、5Rの影響による変化部分の磁場H3L,H3Rが相殺され、これにより検査対象物8の状態により変化する信号成分を読み取りやすくすることができる。
例えば、
図12(b)に示す破断ありのグラフG11dのみを参照するとわかるように、交差鉄筋(5)による磁力の吸収による波形変化(H3R)と破断による波形変化の特徴が類似するため、波形変化による破断判定が困難になる。例えば、
図12(a)に示す健全時のグラフG11hを見てH3Rの位置に破断ありと誤判定したり、
図12(b)に示す破断ありのグラフG11dの判断箇所をH3Rの位置と誤判断したりするおそれがあった。
これに対して以上説明した本発明の実施形態によれば、
図18又は
図19に示すグラフを参照して判定する例のように、検査対象物8の損傷の有無及びその個所の判定が容易である。
以上のように非破壊検査の判定性を向上することができる。
【0038】
以上の実施形態では、検査対象物8とセンサーユニット2との間に交差鉄筋(5)がある場合の計測について説明したが、本発明はそのような交差鉄筋が無い場合についても実施でき、第1計測データと第2計測データに基づき検査対象物由来の磁場成分を強める効果を得ることができる。
なお、以上の計測データは、メインセンサー21Mによる計測データであってもよいし、メインセンサー21Mによる計測データと、リファレンスセンサー21Rによる計測データとに基づき補正演算して構築されたデータであってもよい。
【0039】
以上の実施形態に拘わらず、検査対象物由来の磁場成分を顕在化する処理を行う情報処理装置は、クラウドコンピューター9に限らず、計測装置1に対して一対一に接続されるコンピューターであったり、計測装置1に一体に搭載されるコンピューターであったりなどハードウエア構成は問わない。クラウドコンピューター9の一局で処理する場合は、情報の集積、均一な処理、利用等の点で有利である。
以上の実施形態にあっては、磁気センサー21をX方向については走査式とし、Y方向についてセンサアレイ式としたが、X方向についてもセンサアレイ式、すなわち、筐体26上において磁気センサー21が第1方向Xに配列した複数により構成されていることで、磁場印加ユニット3からの距離に応じた第1方向Xに沿った磁場分布が得られるようにセンサーユニット2を構成してもよい。
また、X方向及びY方向について走査式にセンサーユニット2を構成してもよい。
また以上の実施形態にあっては、X方向及びY方向に複数列ある2次元分布データを取得する構成としたが、X方向に1列の1次元分布データを取得する構成として実施してもよい。
また、Z方向についても磁気センサー21を2つ配列した構成とせず、Z方向については単一の磁気センサー(メインセンサー)のみとして実施してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 非破壊検査の計測装置
2 センサーユニット
3 磁場印加ユニット
5 交差スターラップ
8 検査対象物
8B 破断部
9 クラウドコンピューター(情報処理装置)
10 非破壊検査システム
21 磁気センサー
25 操作部
26 筐体
26L ホルダー
26R ホルダー
27 センサー走査機構