(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20241203BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B62D6/00 ZYW
(21)【出願番号】P 2021155194
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】服部 達哉
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-176643(JP,A)
【文献】特開2013-086627(JP,A)
【文献】特開2005-178534(JP,A)
【文献】特開2005-184911(JP,A)
【文献】特開2020-026160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
B62D 6/00-6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右1対の駆動輪及び操舵輪と運転者が前記操舵輪の操舵操作を行うためのステアリングとを具備した車両の走行制御装置において、
前記左右1対の駆動輪をそれぞれ独立して回転駆動する左右1対の駆動部と、
前記ステアリングの操作量を検出する操作量検出部と、
前記操舵輪の舵角を検出する舵角検出部と、
前記車両の旋回状態を検出する旋回状態検出部と、
前記操作量検出部により検出された前記ステアリングの操作量、前記舵角検出部により検出された前記操舵輪の舵角、及び前記旋回状態検出部により検出された前記車両の旋回状態に基づいて、運転者が意図した方向に前記車両が走行しているかどうかを判定する走行状態判定部と、
前記走行状態判定部により前記運転者が意図した方向に前記車両が走行していないと判定されたときに、前記運転者が意図した方向に前記車両が走行するように前記駆動部を制御する駆動制御部とを備え
、
前記旋回状態検出部は、前記車両のヨーレートまたは横加速度を検出し、
前記走行状態判定部は、前記ステアリングの操作量、前記操舵輪の舵角及び前記車両のヨーレートまたは横加速度に基づいて、前記運転者が意図した通り前記車両が直進走行しているかどうかを判定し、
前記駆動制御部は、前記運転者の意図に反して前記車両が直進走行していないと判定されたときに、前記車両のヨーレートまたは横加速度がゼロに近づくように前記駆動部を制御し、
前記走行状態判定部は、前記ステアリングの操作量及び前記操舵輪の舵角の少なくとも一方が予め決められた第1閾値以下であると共に、前記車両のヨーレートまたは横加速度が予め決められた第2閾値よりも大きいときは、前記運転者の意図に反して前記車両が直進走行していないと判定する走行制御装置。
【請求項2】
前記走行状態判定部は、前記ステアリングの操作量及び前記操舵輪の舵角の少なくとも一方が
前記第1閾値よりも大きいと共に、前記車両のヨーレートまたは横加速度が
前記第2閾値以下であるときは、前記運転者の意図に反して前記車両が直進走行していないと判定する請求項
1記載の走行制御装置。
【請求項3】
左右1対の駆動輪及び操舵輪と運転者が前記操舵輪の操舵操作を行うためのステアリングとを具備した車両の走行制御装置において、
前記左右1対の駆動輪をそれぞれ独立して回転駆動する左右1対の駆動部と、
前記ステアリングの操作量を検出する操作量検出部と、
前記操舵輪の舵角を検出する舵角検出部と、
前記車両の旋回状態を検出する旋回状態検出部と、
前記操作量検出部により検出された前記ステアリングの操作量、前記舵角検出部により検出された前記操舵輪の舵角、及び前記旋回状態検出部により検出された前記車両の旋回状態に基づいて、運転者が意図した方向に前記車両が走行しているかどうかを判定する走行状態判定部と、
前記走行状態判定部により前記運転者が意図した方向に前記車両が走行していないと判定されたときに、前記運転者が意図した方向に前記車両が走行するように前記駆動部を制御する駆動制御部とを備え、
前記旋回状態検出部は、前記車両のヨーレートまたは横加速度を検出し、
前記走行状態判定部は、前記ステアリングの操作量、前記操舵輪の舵角及び前記車両のヨーレートまたは横加速度に基づいて、前記運転者が意図した通り前記車両が直進走行しているかどうかを判定し、
前記駆動制御部は、前記運転者の意図に反して前記車両が直進走行していないと判定されたときに、前記車両のヨーレートまたは横加速度がゼロに近づくように前記駆動部を制御し、
前記走行状態判定部は、前記ステアリングの操作量及び前記操舵輪の舵角の少なくとも一方が予め決められた第1閾値よりも大きいと共に、前記車両のヨーレートまたは横加速度が予め決められた第2閾値以下であるときは、前記運転者の意図に反して前記車両が直進走行していないと判定する走行制御装置。
【請求項4】
前記走行状態判定部により前記運転者が意図した方向に前記車両が走行していないと判定されたときに、前記駆動制御部による制御処理が実行中であることを通知する第1通知部を更に備える請求項1~
3の何れか一項記載の走行制御装置。
【請求項5】
前記駆動制御部による前記駆動部の制御量を時系列に記録して保存し、前記駆動部の時系列の制御量変化に基づいて、前記駆動輪の状態を検知する車輪状態検知部と、
前記車輪状態検知部により検知された前記駆動輪の状態情報を通知する第2通知部とを更に備える請求項1~
4の何れか一項記載の走行制御装置。
【請求項6】
左右1対の駆動輪及び操舵輪と運転者が前記操舵輪の操舵操作を行うためのステアリングとを具備した車両の走行制御装置において、
前記左右1対の駆動輪をそれぞれ独立して回転駆動する左右1対の駆動部と、
前記ステアリングの操作量を検出する操作量検出部と、
前記操舵輪の舵角を検出する舵角検出部と、
前記車両の旋回状態を検出する旋回状態検出部と、
前記操作量検出部により検出された前記ステアリングの操作量、前記舵角検出部により検出された前記操舵輪の舵角、及び前記旋回状態検出部により検出された前記車両の旋回状態に基づいて、運転者が意図した方向に前記車両が走行しているかどうかを判定する走行状態判定部と、
前記走行状態判定部により前記運転者が意図した方向に前記車両が走行していないと判定されたときに、前記運転者が意図した方向に前記車両が走行するように前記駆動部を制御する駆動制御部と、
前記駆動制御部による前記駆動部の制御量を時系列に記録して保存し、前記駆動部の時系列の制御量変化に基づいて、前記駆動輪の状態を検知する車輪状態検知部と、
前記車輪状態検知部により検知された前記駆動輪の状態情報を通知する通知部とを備える走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の走行制御装置としては、例えば特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1に記載の走行制御装置は、駆動源からの駆動力を左右の駆動輪に配分して車両のヨーモーメントを制御すると共に、制動力を左右の車輪に配分して車両のヨーモーメントを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、例えば左右の車輪の空気圧、摩耗量及び接地荷重等の不均等が生じると、運転者が意図した方向に車両が走行しないことがあり、車両の走行安定性の低下につながる。
【0005】
本発明の目的は、車輪の状態に関わらず、車両の走行安定性を向上させることができる走行制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、左右1対の駆動輪及び操舵輪と運転者が操舵輪の操舵操作を行うためのステアリングとを具備した車両の走行制御装置において、左右1対の駆動輪をそれぞれ独立して回転駆動する左右1対の駆動部と、ステアリングの操作量を検出する操作量検出部と、操舵輪の舵角を検出する舵角検出部と、車両の旋回状態を検出する旋回状態検出部と、操作量検出部により検出されたステアリングの操作量、舵角検出部により検出された操舵輪の舵角、及び旋回状態検出部により検出された車両の旋回状態に基づいて、運転者が意図した方向に車両が走行しているかどうかを判定する走行状態判定部と、走行状態判定部により運転者が意図した方向に車両が走行していないと判定されたときに、運転者が意図した方向に車両が走行するように駆動部を制御する駆動制御部とを備える。
【0007】
このような走行制御装置においては、ステアリングの操作量、操舵輪の舵角及び車両の旋回状態に基づいて、運転者が意図した方向に車両が走行しているかどうかが判定される。そして、運転者が意図した方向に車両が走行していないと判定されたときは、運転者が意図した方向に車両が走行するように駆動部が制御される。従って、左右1対の駆動輪の空気圧及び摩耗量等の不均等があっても、運転者が意図した方向に車両が走行するようになる。これにより、車輪の状態に関わらず、車両の走行安定性が向上する。
【0008】
旋回状態検出部は、車両のヨーレートまたは横加速度を検出し、走行状態判定部は、ステアリングの操作量、操舵輪の舵角及び車両のヨーレートまたは横加速度に基づいて、運転者が意図した通り車両が直進走行しているかどうかを判定し、駆動制御部は、運転者の意図に反して車両が直進走行していないと判定されたときに、車両のヨーレートまたは横加速度がゼロに近づくように駆動部を制御してもよい。このような構成では、運転者が直進走行を意図しているにも関わらず、車両が直進走行していないときでも、車両のヨーレートまたは横加速度がゼロに近づくため、車両が直進走行するようになる。これにより、車輪の状態に関わらず、車両の直進走行安定性が向上する。
【0009】
走行状態判定部は、ステアリングの操作量及び操舵輪の舵角の少なくとも一方が予め決められた第1閾値以下であると共に、車両のヨーレートまたは横加速度が予め決められた第2閾値よりも大きいときは、運転者の意図に反して車両が直進走行していないと判定してもよい。このような構成では、運転者が直進走行を意図しているにも関わらず車両が直進走行していない状態であることが容易に判定される。
【0010】
走行状態判定部は、ステアリングの操作量及び操舵輪の舵角の少なくとも一方が予め決められた第1閾値よりも大きいと共に、車両のヨーレートまたは横加速度が予め決められた第2閾値以下であるときは、運転者の意図に反して車両が直進走行していないと判定してもよい。このような構成では、運転者が直進走行を意図しているにも関わらず車両が直進走行していない状態であることが容易に判定される。
【0011】
走行制御装置は、走行状態判定部により運転者が意図した方向に車両が走行していないと判定されたときに、駆動制御部による制御処理が実行中であることを通知する第1通知部を更に備えてもよい。このような構成では、運転者は、車両が意図した方向に走行していないために車両の走行制御が実施されている状況であることが直ちに分かる。
【0012】
走行制御装置は、駆動制御部による駆動部の制御量を時系列に記録して保存し、駆動部の時系列の制御量変化に基づいて、駆動輪の状態を検知する車輪状態検知部と、車輪状態検知部により検知された駆動輪の状態情報を通知する第2通知部とを更に備えてもよい。このような構成では、運転者は、左右1対の駆動輪の状態の変化を知ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車輪の状態に関わらず、車両の走行安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る走行制御装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】
図1に示された走行制御装置が適用されるフォークリフトの側面図である。
【
図3】
図1に示された走行状態判定部により実行される走行状態判定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】運転者の意図に反してフォークリフトが直進走行していないと判定される状態の一例を示すグラフである。
【
図5】運転者の意図に反してフォークリフトが直進走行していないと判定される状態の他の例を示すグラフである。
【
図6】運転者の意図に反してフォークリフトが直進走行していないと判定される状態の更に他の例を示すグラフである。
【
図7】運転者の意図に反してフォークリフトが直進走行していないと判定される状態の更に他の例を示すグラフである。
【
図8】
図1に示された駆動制御部により実行される駆動制御処理の手順を示すフローチャートである。
【
図9】フォークリフトが左方向に旋回しているときに、フォークリフトのヨーレートがゼロになるように左右1対の前輪を回転させる走行モータを制御する様子を示す概念図である。
【
図10】
図1に示された通知制御部により実行される通知制御処理の手順を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の第2実施形態に係る走行制御装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図12】本発明の第3実施形態に係る走行制御装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の第1実施形態に係る走行制御装置の構成を示すブロック図である。
図1において、本実施形態の走行制御装置1は、産業車両であるフォークリフト2(
図2参照)に搭載されている。走行制御装置1は、運転者によりフォークリフト2の手動運転を実施している際に、フォークリフト2の走行制御を行う装置である。
【0017】
フォークリフト2は、
図2に示されるように、車体3と、この車体3の前部に配置された左右1対の駆動輪である前輪4A,4B(
図9参照)と、車体3の後部に配置された左右1対の操舵輪である後輪5A,5B(
図9参照)と、前輪4A,4Bをそれぞれ独立して回転させる左右1対の走行モータ6A,6B(
図1参照)と、運転者が後輪5A,5Bの操舵操作を行うためのステアリング7と、油圧ポンプ(図示せず)を回転させる荷役モータ8と、走行モータ6A,6B及び荷役モータ8に電力を供給するバッテリ9とを具備している。前輪4A,4B及び後輪5A,5Bは、フォークリフト2の車輪である。走行モータ6A,6Bは、前輪4A,4Bを回転駆動する駆動部である。
【0018】
また、フォークリフト2は、車体3の前端部に立設されたマスト10と、このマスト10にリフトブラケット11を介して取り付けられ、荷物Wを保持する左右1対のフォーク12と、このフォーク12を昇降させるリフトシリンダ13と、マスト10を介してフォーク12を傾動させるティルトシリンダ14とを有している。リフトシリンダ13及びティルトシリンダ14は、油圧ポンプ(前述)からの作動油により駆動される。
【0019】
走行制御装置1は、操作量センサ21と、舵角センサ22と、ヨーレートセンサ23と、傾斜角センサ24と、上記の走行モータ6A,6Bと、警報器25と、表示器26と、電子制御ユニット27(ECU:Electronic Control Unit)とを備えている。
【0020】
操作量センサ21は、ステアリング7の操作量を検出するセンサ(操作量検出部)である。舵角センサ22は、操舵輪である後輪5A,5Bの舵角を検出するセンサ(舵角検出部)である。
【0021】
ヨーレートセンサ23は、フォークリフト2のヨーレートを検出するセンサである。ヨーレートセンサ23は、フォークリフト2の旋回状態を検出する旋回状態検出部を構成している。傾斜角センサ24は、フォークリフト2が走行している路面の傾斜角を検出するセンサである。
【0022】
警報器25は、フォークリフト2の走行制御に関する警報音を発生させる。表示器26は、フォークリフト2の走行制御に関する画面表示及び警報表示等を行う。なお、警報器25及び表示器26は、1つの機器から構成されていてもよい。
【0023】
電子制御ユニット27は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等から構成されている。電子制御ユニット27は、走行状態判定部28と、駆動制御部29と、通知制御部30とを有している。
【0024】
走行状態判定部28は、操作量センサ21により検出されたステアリング7の操作量、舵角センサ22により検出された後輪5A,5Bの舵角、及びヨーレートセンサ23により検出されたフォークリフト2のヨーレートに基づいて、運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行しているかどうかを判定する。ここでは、走行状態判定部28は、ステアリング7の操作量、後輪5A,5Bの舵角及びフォークリフト2のヨーレートに基づいて、運転者が意図した通りフォークリフト2が直進走行しているかどうかを判定する。
【0025】
走行状態判定部28は、ステアリング7の操作量及び後輪5A,5Bの舵角の少なくとも一方が予め決められた第1閾値以下であると共に、フォークリフト2のヨーレートが予め決められた第2閾値よりも大きいときは、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定する。フォークリフト2のヨーレートが第2閾値よりも大きい状態は、通常はフォークリフト2が旋回している状態に相当する。
【0026】
また、走行状態判定部28は、ステアリング7の操作量及び後輪5A,5Bの舵角の少なくとも一方が第1閾値よりも大きいと共に、フォークリフト2のヨーレートが第2閾値以下であるときも、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定する。フォークリフト2のヨーレートが第2閾値以下である状態は、通常はフォークリフト2が旋回していない状態に相当する。
【0027】
図3は、走行状態判定部28により実行される走行状態判定処理の手順の詳細を示すフローチャートである。本処理は、例えばフォークリフト2が始動されると実行される。
【0028】
図3において、走行状態判定部28は、まず操作量センサ21、舵角センサ22及びヨーレートセンサ23の検出値を取得する(手順S101)。そして、走行状態判定部28は、操作量センサ21の検出値に基づいて、ステアリング7の操作量が規定量以下であるかどうかを判断する(手順S102)。規定量は、フォークリフト2を直進走行させるためのステアリング7の操作量の限界値であり、上記の第1閾値に相当する。
【0029】
走行状態判定部28は、ステアリング7の操作量が規定量以下であると判断したときは、舵角センサ22の検出値に基づいて、後輪5A,5Bの舵角が規定角以下であるかどうかを判断する(手順S103)。規定角は、フォークリフト2が直進走行するための後輪5A,5Bの舵角の限界値であり、上記の第1閾値に相当する。
【0030】
走行状態判定部28は、後輪5A,5Bの舵角が規定角以下であると判断したときは、ヨーレートセンサ23の検出値に基づいて、フォークリフト2のヨーレートが規定値以下であるかどうかを判断する(手順S104)。規定値は、フォークリフト2が旋回しないためのヨーレートの限界値であり、上記の第2閾値に相当する。
【0031】
走行状態判定部28は、フォークリフト2のヨーレートが規定値以下であると判断したときは、運転者が意図した通りフォークリフト2が直進走行していると判定する(手順S105)。走行状態判定部28は、フォークリフト2のヨーレートが規定値よりも大きいと判断したときは、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定する(手順S106)。
【0032】
走行状態判定部28は、手順S103において後輪5A,5Bの舵角が規定角よりも大きいと判断したときは、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定する(手順S106)。
【0033】
走行状態判定部28は、手順S102においてステアリング7の操作量が規定量よりも大きいと判断したときは、舵角センサ22の検出値に基づいて、後輪5A,5Bの舵角が規定角よりも大きいかどうかを判断する(手順S107)。規定角は、手順S103における規定角と同じ値である。
【0034】
走行状態判定部28は、後輪5A,5Bの舵角が規定角よりも大きいと判断したときは、ヨーレートセンサ23の検出値に基づいて、フォークリフト2のヨーレートが規定値よりも大きいかどうかを判断する(手順S108)。規定角は、手順S104における規定角と同じ値である。
【0035】
走行状態判定部28は、フォークリフト2のヨーレートが規定値よりも大きいと判断したときは、運転者が意図した通りフォークリフト2が直進走行していると判定する(手順S105)。走行状態判定部28は、フォークリフト2のヨーレートが規定値以下であると判断したときは、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定する(手順S106)。
【0036】
走行状態判定部28は、手順S107において後輪5A,5Bの舵角が規定角以下であると判断したときは、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定する(手順S106)。
【0037】
走行状態判定部28は、手順S105または手順S106が実行された後、判定結果を駆動制御部29及び通知制御部30に出力する(手順S109)。
【0038】
以上のような処理により、
図4に示されるように、運転者がステアリング7の操作を行っておらず、後輪5A,5Bの舵角が0度であるが、フォークリフト2のヨーレートが発生しているときは、運転者が直進走行を意図しているにも関わらず、フォークリフト2が直進走行していない状態であると判定される。
【0039】
また、
図5に示されるように、運転者がステアリング7の操作を行っていないが、後輪5A,5Bの舵角が規定角よりも大きくなっており、フォークリフト2のヨーレートが発生しているときも、運転者が直進走行を意図しているにも関わらず、フォークリフト2が直進走行していない状態であると判定される。
【0040】
一方、
図6に示されるように、運転者がステアリング7の操作を行っており、後輪5A,5Bの舵角が規定角よりも大きくなっているが、フォークリフト2のヨーレートが発生していないときも、運転者が直進走行を意図しているにも関わらず、フォークリフト2が直進走行していない状態であると判定される。例えば、フォークリフト2が坂路を走行する場合には、フォークリフト2を直進走行させるために、運転者がステアリング7の操作を行うことがあり得る。この場合には、フォークリフト2が旋回動作しないと、フォークリフト2が直進しないこととなる。
【0041】
また、
図7に示されるように、フォークリフト2を直進走行させるために、運転者が一定の間隔でステアリング7の操作を行うことがある。この場合には、一定の間隔で、後輪5A,5Bの舵角が規定角よりも大きくなり、フォークリフト2のヨーレートが発生しない状態となる。
【0042】
図1に戻り、駆動制御部29は、走行状態判定部28により運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行していない、つまり運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定されたときに、ヨーレートセンサ23の検出値に基づいて、フォークリフト2のヨーレートがゼロに近づくことで運転者が意図した通りフォークリフト2が直進走行するように走行モータ6A,6Bを制御する。
【0043】
図8は、駆動制御部29により実行される駆動制御処理の手順を示すフローチャートである。本処理の実行開始のタイミングは、走行状態判定部28と同様である。
【0044】
図8において、駆動制御部29は、まず走行状態判定部28により運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していない状態であると判定されたかどうかを判断する(手順S111)。駆動制御部29は、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していない状態であると判定されたと判断したときは、ヨーレートセンサ23の検出値を取得する(手順S112)。
【0045】
そして、駆動制御部29は、フォークリフト2のヨーレートがゼロになるような走行モータ6A,6Bの駆動力を求める(手順S113)。走行モータ6A,6Bの駆動力は、走行モータ6A,6Bのトルクまたは回転数である。
【0046】
例えば
図9に示されるように、フォークリフト2が左方向に旋回しているときは、左側の前輪4Aを回転させる走行モータ6Aの駆動力を微増させてもよいし(
図9(a)参照)、或いは右側の前輪4Bを回転させる走行モータ6Bの駆動力を微減させてもよい(
図9(b)参照)。これにより、フォークリフト2は右方向に旋回するようになる。
【0047】
続いて、駆動制御部29は、走行モータ6A,6Bの駆動力に対応する制御信号を走行モータ6A,6Bに出力する(手順S114)。すると、走行モータ6A,6Bは、制御信号に応じて駆動される。走行モータ6A,6Bの駆動力に対応する制御信号は、フォークリフト2のヨーレートをフィードバック制御する際の制御量である。これにより、フォークリフト2のヨーレートがゼロに近づき、フォークリフト2が直進走行するようになる。
【0048】
駆動制御部29は、上記の手順S111において、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していない状態であると判定されていないと判断したとき、つまり運転者が意図した通りフォークリフト2が直進走行している状態であると判定されたと判断したときは、上記の手順S112~S114を実行しない。
【0049】
図1に戻り、通知制御部30は、走行状態判定部28により運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定されたときに、駆動制御部29による制御処理が実行中であることを通知するように警報器25及び表示器26を制御する。通知制御部30は、警報器25及び表示器26と協働して、走行状態判定部28により運転者が意図した方向に車両が走行していないと判定されたときに、駆動制御部29による制御処理が実行中であることを通知する第1通知部を構成している。
【0050】
図10は、通知制御部30により実行される通知制御処理の手順を示すフローチャートである。本処理の実行開始のタイミングは、走行状態判定部28と同様である。
【0051】
図10において、通知制御部30は、まず走行状態判定部28により運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していない状態であると判定されたかどうかを判断する(手順S121)。
【0052】
通知制御部30は、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していない状態であると判定されたと判断したときは、フォークリフト2のヨーレート制御が実行中である旨の通知信号を警報器25及び表示器26に出力する(手順S122)。すると、警報器25から警報音が発生すると共に、表示器26により警報表示が行われる。
【0053】
続いて、通知制御部30は、傾斜角センサ24の検出値を取得する(手順S123)。そして、通知制御部30は、フォークリフト2が走行している現在の路面の傾斜角のデータを含む表示信号を表示器26に出力する(手順S124)。すると、表示器26により現在の路面の傾斜角が表示される。これにより、運転者は、フォークリフト2のヨーレート制御が実行中である旨と共に、現在の路面の傾斜角が直ちに分かる。
【0054】
駆動制御部29は、上記の手順S121において、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していない状態であると判定されていないと判断したとき、つまり運転者が意図した通りフォークリフト2が直進走行している状態であると判定されたと判断したときは、上記の手順S122~S124を実行しない。
【0055】
ところで、運転者が直進走行しようとしているにも関わらず、フォークリフト2が運転者の意図に反して直進走行せずに斜め方向に進むことがある。運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行しない原因としては、左右の前輪4A,4B及び後輪5A,5Bの空気圧や摩耗量の不均等、駆動輪である左右の前輪4A,4Bの駆動力や接地荷重の不均等、水はけ用の路面の傾斜(勾配)等がある。左右の前輪4A,4Bの駆動力が不均等になる要因としては、前輪4A,4Bのトルクやギヤ損失の不均等及び左右の走行モータ6A,6Bの出力差等がある。このようにフォークリフト2が運転者の意図に反して走行すると、フォークリフト2の走行安定性の低下につながる。
【0056】
そのような課題に対し、本実施形態では、ステアリング7の操作量、操舵輪である後輪5A,5Bの舵角及びフォークリフト2のヨーレートに基づいて、運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行しているかどうかが判定される。そして、運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行していないと判定されたときは、運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行するように走行モータ6A,6Bが制御される。従って、左右1対の駆動輪である前輪4A,4Bの空気圧及び摩耗量等の不均等があっても、運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行するようになる。これにより、前輪4A,4B及び後輪5A,5Bの状態に関わらず、フォークリフト2の走行安定性が向上する。
【0057】
また、本実施形態では、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定されたときに、フォークリフト2のヨーレートがゼロに近づくように走行モータ6A,6Bが制御される。このため、運転者が直進走行を意図しているにも関わらず、フォークリフト2が直進走行していないときでも、フォークリフト2のヨーレートがゼロに近づくため、フォークリフト2が直進走行するようになる。これにより、前輪4A,4B及び後輪5A,5Bの状態に関わらず、フォークリフト2の直進走行安定性が向上する。
【0058】
また、本実施形態では、ステアリング7の操作量及び後輪5A,5Bの舵角の少なくとも一方が第1閾値以下であると共に、フォークリフト2のヨーレートが第2閾値よりも大きいときは、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定される。このため、運転者が直進走行を意図しているにも関わらずフォークリフト2が直進走行していない状態であることが容易に判定される。
【0059】
また、本実施形態では、ステアリング7の操作量及び後輪5A,5Bの舵角の少なくとも一方が第1閾値よりも大きいと共に、フォークリフト2のヨーレートが第2閾値以下であるときも、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定される。このため、運転者が直進走行を意図しているにも関わらずフォークリフト2が直進走行していない状態であることが容易に判定される。
【0060】
また、本実施形態では、運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行していないと判定されたときに、フォークリフト2のヨーレート制御処理が実行中であることが通知される。このため、運転者は、フォークリフト2が意図した方向に走行していないためにフォークリフト2の走行制御が実施されている状況であることが直ちに分かる。従って、運転者にフォークリフト2のメンテナンスを促し、フォークリフト2の故障予知に寄与することができる。
【0061】
図11は、本発明の第2実施形態に係る走行制御装置の構成を示すブロック図である。
図11において、本実施形態の走行制御装置1Aは、上記の第1実施形態における電子制御ユニット27に代えて、電子制御ユニット27Aを備えている。
【0062】
電子制御ユニット27Aは、上記の走行状態判定部28と、上記の駆動制御部29と、上記の通知制御部30と、車輪状態検知部31と、通知制御部32とを有している。
【0063】
車輪状態検知部31は、駆動制御部29による走行モータ6A,6Bの制御量を時系列に記録して保存し、走行モータ6A,6Bの時系列の制御量変化に基づいて、駆動輪である前輪4A,4Bの状態を検知する。
【0064】
例えば同じ平坦な路面において、フォークリフト2のヨーレートをゼロに近づけるために、左側の走行モータ6Aの駆動力を増やすように走行モータ6Aを制御した場合、走行モータ6Aの制御量変化に基づいて、左側の前輪4Aの状態が検知される。具体的には、2か月前には走行モータ6Aの駆動力を1Nmだけ増やすように制御され、1か月前には走行モータ6Aの駆動力を2Nmだけ増やすように制御され、今回は走行モータ6Aの駆動力を3Nmだけ増やすように制御されたときは、前輪4Aの空気圧が下がったり前輪4Aの摩耗量が増えていると検知される。
【0065】
通知制御部32は、車輪状態検知部31により検知された前輪4A,4Bの状態情報を通知するように表示器26を制御する。通知制御部32は、表示器26と協働して、車輪状態検知部31により検知された前輪4A,4Bの状態情報を通知する第2通知部を構成している。これにより、表示器26により前輪4A,4Bの状態が表示される。
【0066】
このような本実施形態では、走行モータ6A,6Bの時系列の制御量変化に基づいて、前輪4A,4Bの状態が検知され、前輪4A,4Bの状態情報が通知される。このため、運転者は、左右1対の前輪4A,4Bの状態の変化を知ることができる。
【0067】
図12は、本発明の第3実施形態に係る走行制御装置の構成を示すブロック図である。
図12において、本実施形態の走行制御装置1Bは、上記の第1実施形態におけるヨーレートセンサ23に代えて、横加速度センサ40を備えている。横加速度センサ40は、フォークリフト2の左右方向の加速度(横加速度)を検出するセンサである。横加速度センサ40は、フォークリフト2の旋回状態を検出する旋回状態検出部を構成している。
【0068】
また、走行制御装置1は、上記の第1実施形態における電子制御ユニット27に代えて、電子制御ユニット27Bを備えている。電子制御ユニット27Bは、走行状態判定部28Bと、駆動制御部29Bと、上記の通知制御部30とを有している。
【0069】
走行状態判定部28Bは、操作量センサ21により検出されたステアリング7の操作量、舵角センサ22により検出された後輪5A,5Bの舵角、及び横加速度センサ40により検出されたフォークリフト2の横加速度に基づいて、運転者が意図した通りフォークリフト2が直進走行しているかどうかを判定する。
【0070】
走行状態判定部28Bは、ステアリング7の操作量及び後輪5A,5Bの舵角の少なくとも一方が予め決められた第1閾値以下であると共に、フォークリフト2の横加速度が予め決められた第2閾値よりも大きいときは、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定する。フォークリフト2の横加速度が第2閾値よりも大きい状態は、通常はフォークリフト2が旋回している状態に相当する。
【0071】
また、走行状態判定部28は、ステアリング7の操作量及び後輪5A,5Bの舵角の少なくとも一方が第1閾値よりも大きいと共に、フォークリフト2の横加速度が第2閾値以下であるときも、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定する。フォークリフト2の横加速度が第2閾値以下である状態は、通常はフォークリフト2が旋回していない状態に相当する。
【0072】
駆動制御部29Bは、走行状態判定部28Bにより運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定されたときに、横加速度センサ40の検出値に基づいて、フォークリフト2の横加速度がゼロに近づくことで運転者が意図した通りフォークリフト2が直進走行するように走行モータ6A,6Bを制御する。
【0073】
このような本実施形態においては、ステアリング7の操作量、操舵輪である後輪5A,5Bの舵角及びフォークリフト2の横加速度に基づいて、運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行しているかどうかが判定される。そして、運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行していないと判定されたときは、運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行するように走行モータ6A,6Bが制御される。これにより、上記の第1実施形態と同様に、前輪4A,4B及び後輪5A,5Bの状態に関わらず、フォークリフト2の走行安定性が向上する。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば上記実施形態では、ヨーレートセンサ23または横加速度センサ40を用いて、運転者が意図した方向にフォークリフト2が走行しているかどうかが判定されているが、特にそのような形態には限られない。例えば、ヨーレートセンサ23及び横加速度センサ40の両方を用いて、運転者が意図した通りフォークリフト2が直進走行しているかどうかを判定し、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定されたときは、フォークリフト2のヨーレート及び横加速度がゼロに近づくように走行モータ6A,6Bを制御してもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、運転者が意図した通りフォークリフト2が直進走行しているかどうかが判定され、運転者の意図に反してフォークリフト2が直進走行していないと判定されたときに、フォークリフト2が直進走行するように走行モータ6A,6Bが制御されているが、特にそのような形態には限られない。例えば、運転者が意図する方向として左方向または右方向にフォークリフト2が走行しているかどうかを判定し、運転者が意図する方向にフォークリフト2が走行していないと判定されたときに、運転者が意図する方向にフォークリフト2が走行するように走行モータ6A,6Bを制御してもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、左右1対の駆動輪である前輪4A,4Bと左右1対の操舵輪である後輪5A,5Bとを有する4輪タイプのフォークリフト2の走行制御が行われているが、本発明は、操舵輪である後輪の数が1つである3輪タイプのフォークリフトにも適用可能である。
【0077】
また、本発明は、左右1対の駆動輪及び操舵輪とステアリングとを具備していれば、フォークリフト等の産業車両以外の車両にも適用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1,1A,1B…走行制御装置、2…フォークリフト(車両)、4A,4B…前輪(駆動輪)、5A,5B…後輪(操舵輪)、6A,6B…走行モータ(駆動部)、7…ステアリング、21…操作量センサ(操作量検出部)、22…舵角センサ(舵角検出部)、23…ヨーレートセンサ(旋回状態検出部)、25…警報器(第1通知部、第2通知部)、26…表示器(第1通知部、第2通知部)、28,28B…走行状態判定部、29,29B…駆動制御部、30…通知制御部(第1通知部)、31…車輪状態検知部、32…通知制御部(第2通知部)、40…横加速度センサ(旋回状態検出部)。