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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】異音検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01H 3/00 20060101AFI20241203BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20241203BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20241203BHJP
【FI】
G01H3/00 A
G01H17/00 Z
G01M99/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021155733
(22)【出願日】2021-09-24
(65)【公開番号】P2023046893
(43)【公開日】2023-04-05
【審査請求日】2023-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川合 窒登
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 和明
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-166483(JP,A)
【文献】特開2017-142124(JP,A)
【文献】特開2018-179863(JP,A)
【文献】国際公開第2020/026829(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/068446(WO,A1)
【文献】特開2005-215833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 3/00 - 3/14
G01H 17/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象である対象機器の動作音に含まれる異音を検出する異音検出装置であって、
前記対象機器の動作音を、音圧信号の強度の経時変化を示す時間信号である音圧時間信号として取得する音取得部(10)と、
前記音圧時間信号を、周波数毎の音圧信号の強度を示す周波数特性に変換する信号変換部(22)と、
前記周波数特性に基づいて、前記周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの前記対象機器の異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させた異音強調信号を求める異音強調部(23)と、
前記異音強調信号に基づいて前記対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する異音判定部(25)と、
前記異音強調信号における音圧信号の強度に関する特徴を示す異音特徴量を求める音分析部(24)と、
前記異音特徴量を記憶する記憶部(21)と、
前記異音強調部が前記異音強調信号を求めるために前記周波数特性における周波数毎の音圧信号を変化させる際の変化量を設定する変化量設定部(40)と、を備え、
前記対象機器は、複数の構成機器(M1、M2、C)を有し、
前記異音強調部は、前記周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの前記対象機器の異音に含まれると推定される周波数の音圧信号の強度を増加させる増加調整および前記対象機器の異音に含まれると推測される周波数とは異なる周波数の音圧信号の強度を減少させる減少調整のうち、少なくとも前記増加調整を行うことで前記異音強調信号を求めるとともに、前記周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの前記複数の構成機器毎それぞれが正常状態で動作する際の動作音に含まれる周波数の音圧信号の強度を強調させることで前記複数の構成機器毎に前記異音強調信号を求め、
前記音分析部は、前記異音強調部が前記複数の構成機器毎に求める前記異音強調信号に基づいて、前記複数の構成機器毎に前記異音特徴量を求め、
前記異音判定部は、前記記憶部に記憶された過去の前記複数の構成機器毎の前記異音特徴量と、前記音分析部が今回求めた前記複数の構成機器毎の前記異音特徴量とに基づいて前記対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する異音検出装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記対象機器の動作音に含まれる異音に関する情報である異音情報を予め記憶
前記異音判定部は、前記異音強調信号および前記異音情報に基づいて前記対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する請求項1に記載の異音検出装置。
【請求項3】
前記異音情報が、異常状態で動作する前記対象機器の動作音に基づいて設定される請求項2に記載の異音検出装置。
【請求項4】
記異音情報が、前記複数の構成機器が動作する際における前記複数の構成機器それぞれが動作する際の動作音に基づいて設定されており、
前記異音強調部は、前記周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの前記記憶部が記憶する前記複数の構成機器の動作音に含まれる周波数の音圧信号の強度を強調させることで前記異音強調信号を前記複数の構成機器毎に求める請求項2に記載の異音検出装置。
【請求項5】
検査対象である対象機器の動作音に含まれる異音を検出する異音検出装置であって、
前記対象機器の動作音を、音圧信号の強度の経時変化を示す時間信号である音圧時間信号として取得する音取得部(10)と、
前記音圧時間信号を、周波数毎の音圧信号の強度を示す周波数特性に変換する信号変換部(22)と、
前記周波数特性に基づいて、前記周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの前記対象機器の異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させた異音強調信号を求める異音強調部(23)と、
前記異音強調信号に基づいて前記対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する異音判定部(25)と、
前記異音強調信号における音圧信号の強度に関する特徴を示す異音特徴量を求める音分析部(24)と、
前記対象機器の動作音に含まれる異音に関する情報である異音情報および前記異音特徴量を予め記憶する記憶部(21)と、
前記異音強調部が前記異音強調信号を求めるために前記周波数特性における周波数毎の音圧信号を変化させる際の変化量を設定する変化量設定部(40)と、を備え、
前記対象機器は、複数の構成機器(M1、M2、C)を有し、
前記異音情報が、前記複数の構成機器が動作する際における前記複数の構成機器それぞれが動作する際の動作音に基づいて設定されており、
前記異音強調部は、前記周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの前記対象機器の異音に含まれると推定される周波数の音圧信号の強度を増加させる増加調整および前記対象機器の異音に含まれると推測される周波数とは異なる周波数の音圧信号の強度を減少させる減少調整のうち、少なくともどちらか一方の調整を行うとともに、前記周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの前記記憶部が記憶する前記複数の構成機器の動作音に含まれる周波数の音圧信号の強度を強調させることで前記異音強調信号を求めるとともに、前記周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの前記複数の構成機器毎それぞれが正常状態で動作する際の動作音に含まれる周波数の音圧信号の強度を強調させることで前記複数の構成機器毎に前記異音強調信号を求め、
前記音分析部は、前記異音強調部が前記複数の構成機器毎に求める前記異音強調信号に基づいて、前記複数の構成機器毎に前記異音特徴量を求め、
前記異音判定部は、前記記憶部に記憶された過去の前記複数の構成機器毎の前記異音特徴量と、前記音分析部が今回求めた前記複数の構成機器毎の前記異音特徴量とに基づいて前記対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する異音検出装置。
【請求項6】
記異音情報は、前記対象機器の異音が含まれる動作音を周波数毎の音圧信号の強度で示し、周波数毎の音圧信号のうち前記対象機器の異音に含まれると推定される周波数の音圧信号の強度を強調させたものであって、
前記記憶部は、前記異音情報の音圧信号の強度に関する特徴を示す推定特徴量を前記異音情報として記憶しており、
前記異音判定部は、前記異音特徴量および前記推定特徴量に基づいて前記対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する請求項2ないし5のいずれか1つに記載の異音検出装置。
【請求項7】
検査対象である対象機器の動作音に含まれる異音を検出する異音検出装置であって、
前記対象機器の動作音を、音圧信号の強度の経時変化を示す時間信号である音圧時間信号として取得する音取得部(10)と、
前記音圧時間信号を、周波数毎の音圧信号の強度を示す周波数特性に変換する信号変換部(22)と、
前記周波数特性に基づいて、前記周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの前記対象機器の異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させた異音強調信号を求める異音強調部(23)と、
前記異音強調信号に基づいて前記対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する異音判定部(25)と、
前記異音強調信号における音圧信号の強度に関する特徴を示す異音特徴量を求める音分析部(24)と、
前記異音特徴量を記憶する記憶部(21)と、
前記異音強調部が前記異音強調信号を求めるために前記周波数特性における周波数毎の音圧信号を変化させる際の変化量を設定する変化量設定部(40)と、を備え、
前記対象機器は、複数の構成機器(M1、M2、C)を有し、
前記異音強調部は、前記周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの前記複数の構成機器毎それぞれが正常状態で動作する際の動作音に含まれる周波数の音圧信号の強度を強調させることで前記複数の構成機器毎に前記異音強調信号を求め、
前記音分析部は、前記異音強調部が前記複数の構成機器毎に求める前記異音強調信号に基づいて、前記複数の構成機器毎に前記異音特徴量を求め、
前記異音判定部は、前記記憶部に記憶された過去の前記複数の構成機器毎の前記異音特徴量と、前記音分析部が今回求めた前記複数の構成機器毎の前記異音特徴量とに基づいて前記対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する異音検出装置。
【請求項8】
前記異音強調部は、前記周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの前記対象機器の異音に含まれると推定される周波数の音圧信号の強度を増加させる増加調整および前記対象機器の異音に含まれると推測される周波数とは異なる周波数の音圧信号の強度を減少させる減少調整のうち、少なくともどちらか一方の調整を行うことで前記異音強調信号を求める請求項に記載の異音検出装置。
【請求項9】
前記異音判定部は、前記記憶部に記憶された過去の前記複数の構成機器毎の前記異音特徴量と前記異音強調部が今回求めた前記複数の構成機器毎の前記異音特徴量との差に基づいて算出される前記異音特徴量の経時変化に基づいて前記対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する請求項7または8のいずれか1つに記載の異音検出装置。
【請求項10】
前記異音強調信号を、音圧信号の強度の経時変化を示す時間信号である強調音信号に変換する信号逆変換部(26)と、
前記強調音信号に基づいて前記対象機器の動作音に対して前記対象機器の異音を強調した音を発生させる音発生部(50)と、を備える請求項1ないしのいずれか1つに記載の異音検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検査対象である対象機器の異音を検出する異音検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象機器から発する音を解析して、音に含まれる異音の発生要因を特定する異常発生要因特定システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。この異常発生要因特定システムは、異音を含む音の音圧データから所定の時間毎に分割した分割データを作成し、各分割データのFFTデータから得られる異常度に基づいて異音の発生要因を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-81364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、対象機器の異常によって発生する異音は、異常発生開始直後等、対象機器から発する音に含まれる異音が僅かである場合、音圧データを解析する際の異音の音圧信号の大きさが小さい。このように対象機器から発する音に含まれる異音が僅かである場合、特許文献1に記載の異常発生要因特定システムのような対象機器から発する音を解析して異音を検出する異音検出装置において、異音の発生を検出することが難しい。
【0005】
本開示は上記点に鑑みて、僅かな異音であっても検出可能な異音検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、
検査対象である対象機器の動作音に含まれる異音を検出する異音検出装置であって、
対象機器の動作音を、音圧信号の強度の経時変化を示す時間信号である音圧時間信号として取得する音取得部(10)と、
音圧時間信号を、周波数毎の音圧信号の強度を示す周波数特性に変換する信号変換部(22)と、
周波数特性に基づいて、周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの対象機器の異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させた異音強調信号を求める異音強調部(23)と、
異音強調信号に基づいて対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する異音判定部(25)と、
異音強調信号における音圧信号の強度に関する特徴を示す異音特徴量を求める音分析部(24)と、
異音特徴量を記憶する記憶部(21)と、
異音強調部が異音強調信号を求めるために周波数特性における周波数毎の音圧信号を変化させる際の変化量を設定する変化量設定部(40)と、を備え、
対象機器は、複数の構成機器(M1、M2、C)を有し、
異音強調部は、周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの対象機器の異音に含まれると推定される周波数の音圧信号の強度を増加させる増加調整および対象機器の異音に含まれると推測される周波数とは異なる周波数の音圧信号の強度を減少させる減少調整のうち、少なくとも増加調整を行うことで異音強調信号を求めるとともに、周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの複数の構成機器毎それぞれが正常状態で動作する際の動作音に含まれる周波数の音圧信号の強度を強調させることで複数の構成機器毎に異音強調信号を求め、
音分析部は、異音強調部が複数の構成機器毎に求める異音強調信号に基づいて、複数の構成機器毎に異音特徴量を求め、
異音判定部は、記憶部に記憶された過去の複数の構成機器毎の異音特徴量と、音分析部が今回求めた複数の構成機器毎の異音特徴量とに基づいて対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
また、請求項5に記載の発明は、
検査対象である対象機器の動作音に含まれる異音を検出する異音検出装置であって、
対象機器の動作音を、音圧信号の強度の経時変化を示す時間信号である音圧時間信号として取得する音取得部(10)と、
音圧時間信号を、周波数毎の音圧信号の強度を示す周波数特性に変換する信号変換部(22)と、
周波数特性に基づいて、周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの対象機器の異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させた異音強調信号を求める異音強調部(23)と、
異音強調信号に基づいて対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する異音判定部(25)と、
異音強調信号における音圧信号の強度に関する特徴を示す異音特徴量を求める音分析部(24)と、
対象機器の動作音に含まれる異音に関する情報である異音情報および異音特徴量を予め記憶する記憶部(21)と、
異音強調部が異音強調信号を求めるために周波数特性における周波数毎の音圧信号を変化させる際の変化量を設定する変化量設定部(40)と、を備え、
対象機器は、複数の構成機器(M1、M2、C)を有し、
異音情報が、複数の構成機器が動作する際における複数の構成機器それぞれが動作する際の動作音に基づいて設定されており、
異音強調部は、周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの対象機器の異音に含まれると推定される周波数の音圧信号の強度を増加させる増加調整および対象機器の異音に含まれると推測される周波数とは異なる周波数の音圧信号の強度を減少させる減少調整のうち、少なくともどちらか一方の調整を行うとともに、周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの記憶部が記憶する複数の構成機器の動作音に含まれる周波数の音圧信号の強度を強調させることで異音強調信号を求めるとともに、周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの複数の構成機器毎それぞれが正常状態で動作する際の動作音に含まれる周波数の音圧信号の強度を強調させることで複数の構成機器毎に異音強調信号を求め、
音分析部は、異音強調部が複数の構成機器毎に求める異音強調信号に基づいて、複数の構成機器毎に異音特徴量を求め、
異音判定部は、記憶部に記憶された過去の複数の構成機器毎の異音特徴量と、音分析部が今回求めた複数の構成機器毎の異音特徴量とに基づいて対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
また、請求項に記載の発明は、
検査対象である対象機器の動作音に含まれる異音を検出する異音検出装置であって、
対象機器の動作音を、音圧信号の強度の経時変化を示す時間信号である音圧時間信号として取得する音取得部(10)と、
音圧時間信号を、周波数毎の音圧信号の強度を示す周波数特性に変換する信号変換部(22)と、
周波数特性に基づいて、周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの対象機器の異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させた異音強調信号を求める異音強調部(23)と、
異音強調信号に基づいて対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する異音判定部(25)と、
異音強調信号における音圧信号の強度に関する特徴を示す異音特徴量を求める音分析部(24)と、
異音特徴量を記憶する記憶部(21)と、
異音強調部が異音強調信号を求めるために周波数特性における周波数毎の音圧信号を変化させる際の変化量を設定する変化量設定部(40)と、を備え、
対象機器は、複数の構成機器(M1、M2、C)を有し、
異音強調部は、周波数特性における周波数毎の音圧信号のうちの複数の構成機器毎それぞれが正常状態で動作する際の動作音に含まれる周波数の音圧信号の強度を強調させることで複数の構成機器毎に異音強調信号を求め、
音分析部は、異音強調部が複数の構成機器毎に求める異音強調信号に基づいて、複数の構成機器毎に異音特徴量を求め、
異音判定部は、記憶部に記憶された過去の複数の構成機器毎の異音特徴量と、音分析部が今回求めた複数の構成機器毎の異音特徴量とに基づいて対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
【0007】
このように、対象機器の異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させた異音強調信号に基づいて対象機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定することで、対象機器の動作音に含まれる異音が僅かであっても、当該異音を検出することができる。
【0008】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る異音検出装置の概略構成図である。
図2】音圧時間信号の一例を示す図である。
図3】第1実施形態に係るEQ部の概略構成図である。
図4】周波数特性の一例を示す図である。
図5】異常音テンプレートの一例を示した図である。
図6】異音強調特性の一例を示した図である。
図7】強調音信号の一例を示す図である。
図8】第1実施形態に係るEQ部が実行する制御処理を説明するための図である。
図9】第2実施形態に係る異音検出装置の概略構成図である。
図10】切削異常テンプレートの一例を示した図である。
図11】第2実施形態に係るEQ部が実行する制御処理を説明するための図である。
図12】周波数特性の一例を示す図である。
図13】第1モータ強調特性の一例を示した図である。
図14】第2モータ強調特性の一例を示した図である。
図15】切削強調特性の一例を示した図である。
図16】第3実施形態に係る異音検出装置の概略構成図である。
図17】第3実施形態に係るEQ部の概略構成図である。
図18】第3実施形態に係る入力装置の設定部を示す図である。
図19】第3実施形態に係るEQ部が実行する制御処理を説明するための図である。
図20】第1モータ強調特性の一例を示した図である。
図21】第2モータ強調特性の一例を示した図である。
図22】切削強調特性の一例を示した図である。
図23】第3実施形態の変形例に係る入力装置の設定部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0011】
(第1実施形態)
本実施形態について、図1図8を参照して説明する。本実施形態の異音検出装置1は、検査対象である対象機器Pの動作音に基づいて、当該動作音に異音が含まれるか否かを判定する装置である。対象機器Pは、例えば、工場に設置された設備である。また、異音とは、対象機器Pが正常状態ではない異常状態で動作するときに発生する音である。図1に示すように、異音検出装置1は、音取得部10と、EQ部20と、音出力部30と、スピーカー50とを備える。異音検出装置1は、異音検出装置1の外部に設けられたマイクロホンMCから対象機器Pの動作音を取得する。
【0012】
マイクロホンMCは、異音の検出対象である対象機器Pの動作音を検出し、検出した動作音に対応する信号を音圧信号として外部に出力する音検出部である。マイクロホンMCは、対象機器Pに設置されており、対象機器Pの動作音に応じた音圧信号をアナログ信号として、例えば所定の周期毎に、音取得部10に送信する。
【0013】
音取得部10は、マイクロホンMCから送信される動作音に応じた音圧信号を受信するインターフェース部である。音取得部10は、マイクロホンMCから送信されるアナログ信号を所定サンプリング間隔でサンプリングして、アナログ信号からデジタル信号に変換する。そして、音取得部10は、対象機器Pが動作する際に発生する動作音を、音圧信号の強度の経時変化を示す時間信号である音圧時間信号Ts1として取得する。音圧時間信号Ts1には、図2に示すように、時間経過に伴う音圧信号の強度変化の情報が含まれている。音取得部10は、取得した音圧時間信号Ts1をEQ部20に出力する。
【0014】
EQ部20は、CPU等を備えたコンピュータとして構成されている。EQ部20は、図3に示すように、記憶部21と、信号変換部22と、異音強調部23と、音分析部24と、異音判定部25と、信号逆変換部26とを含んでいる。記憶部21は、RAM、ROM、書き込み可能な不揮発性記憶媒体等を含む。RAM、ROM、書き込み可能な不揮発性記憶媒体は、いずれも非遷移的実体的記憶媒体である。記憶部21には、信号変換部22、異音強調部23、音分析部24、異音判定部25および信号逆変換部26が処理を実行するためのプログラムおよび対象機器Pの動作音に関する後述の情報が予め記憶されている。
【0015】
信号変換部22、異音強調部23、音分析部24、異音判定部25および信号逆変換部26は、記憶部21のROMまたは書き込み可能な不揮発性記憶媒体に記録されたプログラムに従った処理を実行する装置である。そして、信号変換部22、異音強調部23、音分析部24、異音判定部25および信号逆変換部26は、プログラムを実行する際には、記憶部21のRAMを作業領域として使用する。
【0016】
すなわち、EQ部20は、記憶部21に記憶されたプログラムを実行することで、信号変換部22、異音強調部23、音分析部24、異音判定部25、信号逆変換部26として機能する。なお、EQ部20は、記憶部21、信号変換部22、異音強調部23、音分析部24、異音判定部25、信号逆変換部26に1対1に対応する複数の回路モジュールを備えていてもよい。
【0017】
信号変換部22は、音取得部10から送信される音圧時間信号Ts1を周波数毎の音圧信号の強度を示す信号に変換するものである。具体的に、信号変換部22は、入力された音圧時間信号Ts1を所定の長さの時間だけを抽出して短時間フーリエ変換することで、図4に示すように、周波数毎の音圧信号の強度を示す周波数特性Fs1に変換する。
【0018】
本実施形態の信号変換部22は、音圧時間信号Ts1を、0Hzから一般的に可聴領域のおおよその最大値とされる周波数である20000Hzまでの周波数帯域における周波数毎の音圧信号の強度に変換する。図4に示す周波数特性Fs1では、対象機器Pの動作音の音圧信号の大きさおよび当該動作音に含まれる異音の音圧信号の大きさの情報が含まれる一例を示している。
【0019】
異音強調部23は、信号変換部22が変換した周波数特性Fs1における周波数毎の音圧信号のうちの対象機器Pの異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させるものである。異音強調部23は、周波数特性Fs1における0~20000Hzの周波数のうち、予め記憶部21に定められた対象機器Pの異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させる。
【0020】
記憶部21には、対象機器Pの動作音に含まれる異音に関する情報として、対象機器Pの動作音に異音が含まれる場合の実際の動作音に関する図5に示す音圧信号の情報が記憶されている。具体的に、記憶部21には、実際に対象機器Pの異音が含まれる動作音を周波数特性Fs1と同様に0~20000Hzの周波数毎の音圧信号に変換した上で、異音に含まれる周波数の音圧信号を強調した異常音テンプレートFs2の情報が予め記憶されている。すなわち、異常音テンプレートFs2は、対象機器Pが異常状態である場合の動作音に基づいている。
【0021】
さらに、記憶部21には、異常音テンプレートFs2の音圧信号の強度に関する特徴量が予め記憶されている。具体的に、記憶部21には、異常音テンプレートFs2が示す周波数毎の音圧信号の強度を特徴ベクトルに変換したテンプレートベクトルVtの情報が予め記憶されている。
【0022】
また、記憶部21には、異常音テンプレートFs2における0~20000Hzの周波数帯域のうち、他の周波数に比較して比較的音圧信号が大きい周波数の情報も予め記憶されている。異常音テンプレートFs2において、他の周波数に比較して比較的音圧信号が大きい周波数とは、対象機器Pの動作音に含まれる周波数のうちの異音に含まれる周波数である。
【0023】
ところで、対象機器Pの動作音に含まれる異音は、対象機器Pが正常状態ではなく、異常状態で動作する際に発生する。そして、対象機器Pが異常状態で動作する際に発生する異音は、対象機器Pが正常状態から異常状態になる度に、比較的同じ周波数を含む可能性が高い。このため、対象機器Pが異常状態である場合の動作音に基づいて設定される異常音テンプレートFs2において、他の周波数に比較して比較的音圧信号が大きい周波数は、対象機器Pが正常状態から異常状態になった際の異音に含まれると推定される周波数である。異常音テンプレートFs2は異音情報に対応する。また、テンプレートベクトルVtは推定特徴量に対応する。
【0024】
以下、異常音テンプレートFs2における周波数帯域のうち、他の周波数に比較して比較的音圧信号が大きい周波数を異音周波数Fa、当該異音周波数Faとは異なる周波数を通常周波数Fnとも呼ぶ。
【0025】
本実施形態では、例えば、異音周波数Faは、異常音テンプレートFs2において音圧信号が最大となる周波数を中心とした所定の帯域幅を有する周波数帯域で設定される。所定の帯域幅は、予め定められており、例えば100Hzで設定される。
【0026】
このため、図5に示す異常音テンプレートFs2において音圧信号が最大となる周波数が2400Hzである場合、異音周波数Faは、0~20000Hzの帯域うち、2350Hz~2450Hzの帯域幅を有する周波数帯域で設定される。また、通常周波数Fnは、0~20000Hzのうち、2350Hzより小さい周波数帯域および2450Hzより大きい周波数帯域で設定される。
【0027】
なお、所定の帯域幅は、100Hzより小さい帯域幅で設定されてもよいし、100Hzより大きい帯域幅で設定されてもよい。所定の帯域幅は、異常音テンプレートFs2において適宜設定される。
【0028】
これら異常音テンプレートFs2、テンプレートベクトルVt、異音周波数Fa、通常周波数Fnのそれぞれの情報は、対象機器Pを異常状態で動作させた際の実際の異音が含まれる動作音を収集して音解析を行う実験結果等から得られる。異音検出装置1には、異音検出を行う前に予め行う実験結果等から得られるこれら異常音テンプレートFs2、テンプレートベクトルVt、異音周波数Fa、通常周波数Fnそれぞれの情報が記憶部21に記憶されている。
【0029】
図5に示す異常音テンプレートFs2では、異音に含まれると推定される周波数の音圧信号を強調するために、異音が含まれる実際の動作音の音圧信号を周波数毎の音圧信号で示した際において、異音周波数Faの音圧信号を所定の増加量だけ増加させた。さらに、当該異常音テンプレートFs2では、異音に含まれる周波数の音圧信号を強調するために、異音が含まれる実際の動作音の音圧信号を周波数毎の音圧信号で示した際において、通常周波数Fnの音圧信号を所定の減少量だけ減少させた。これにより、図5に示す異常音テンプレートFs2では、異音が含まれる実際の動作音の音圧信号において、異音に含まれる周波数の音圧信号が強調されている。
【0030】
なお、異音に含まれると推定される周波数の音圧信号を強調するための所定の増加量および所定の減少量は、周波数特性Fs1における周波数のうちの異音周波数Faの音圧信号の強度を強調可能な値で予め設定される。また、当該所定の増加量および所定の減少量は、互いの絶対値が同じ値に設定されてもよいし、異なる値で設定されてもよい。
【0031】
異音強調部23は、異音検出装置1が対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定する際に、対象機器Pの異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させるイコライジング処理を行うものである。具体的に、異音強調部23は、信号変換部22が求めた周波数特性Fs1における0~20000Hzの周波数毎の音圧信号のうちの予め記憶部21に定められた異音周波数Faの音圧信号の強度を強調させる。本実施形態の異音強調部23は、周波数特性Fs1における音圧信号のうち異音周波数Faの音圧信号を所定の増加量だけ増加させる増加調整を行うとともに、通常周波数Fnの音圧信号を所定の減少量だけ減少させる減少調整を行う。
【0032】
すなわち、異音強調部23は、周波数特性Fs1における異音周波数Faの音圧信号を、異常音テンプレートFs2の異音周波数Faにおいて増加させた音圧信号と同じ所定の増加量だけ増加させる。また、異音強調部23は、周波数特性Fs1における通常周波数Fnの音圧信号を、異常音テンプレートFs2において減少させた音圧信号と同じ所定の減少量だけ減少させる。このように異音強調部23によってイコライジングされることによって、信号変換部22が変換した周波数特性Fs1は、図6に示すように、対象機器Pの異音に関する周波数の音圧信号の強度が強調される。また、信号変換部22が変換した周波数特性Fs1をイコライジングすることによって得られる音圧信号の波形を、異常音テンプレートFs2の波形に近付けることができる。
【0033】
以下、異音強調部23によって対象機器Pの異音に関する周波数の音圧信号の強度が強調された信号を異音強調特性Fs3とも呼ぶ。異音強調特性Fs3は異音強調信号に対応する。
【0034】
異音強調部23は、異音強調特性Fs3の情報を音分析部24および信号逆変換部26に出力する。
【0035】
音分析部24は、異音強調部23から入力される異音強調特性Fs3に基づいて異音強調特性Fs3における音圧信号の強度に関する異音特徴量を算出するものである。本実施形態では、音分析部24は、異音特徴量を、異音強調特性Fs3が示す周波数毎の音圧信号の強度を特徴ベクトルに変換した強調ベクトルVpとして求める。音分析部24は、算出した強調ベクトルVpの情報を異音判定部25に出力する。
【0036】
異音判定部25は、音分析部24から入力される強調ベクトルVpの情報および記憶部21に予め記憶されているテンプレートベクトルVtに基づいて、対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定するものである。具体的に、異音判定部25は、異音強調特性Fs3の異音特徴量である強調ベクトルVpおよび異常音テンプレートFs2の特徴量であるテンプレートベクトルVtを比較することで、異音強調特性Fs3と異常音テンプレートFs2との類似度を求める。そして、異音判定部25は、異音強調特性Fs3と異常音テンプレートFs2との類似度の情報に基づいて、対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定する。異音判定部25の詳細については、後述の作動の説明において説明する。
【0037】
信号逆変換部26は、異音強調部23から入力される異音強調特性Fs3を、音圧信号の強度の経時変化を示す信号に変換して出力するものである。具体的に、信号逆変換部26は、フーリエ変換で得られた周波数特性Fs1に基づく異音強調特性Fs3を逆短時間フーリエ変換して逆変換することで異音強調特性Fs3を音圧信号の強度の経時変化を示す時間信号である強調音信号Ts2に変換する。強調音信号Ts2は、図7に示すように、時間経過に伴う音圧信号の強度変化の情報が含まれている。また、強調音信号Ts2は、対象機器Pの動作音に対して異音に含まれる周波数の音圧信号が強調されている。信号逆変換部26は、変換した強調音信号Ts2を、音出力部30に出力する。
【0038】
音出力部30は、信号逆変換部26から入力された強調音信号Ts2を、例えばアナログ信号に変換して出力する信号出力部である。音出力部30は、対象機器Pの動作音に対して異音に含まれる周波数の音圧信号が強調された音圧信号に応じた信号をスピーカー50へ出力する。
【0039】
スピーカー50は、音出力部30から入力される信号に基づいて、対象機器Pの動作音に対して異音を強調した音を出力する音発生部である。スピーカー50は、例えば、異音検出装置1の操作を行う作業者の周辺に設置されており、作業者へ対象機器Pの動作音に対して異音を強調した音を発報する。
【0040】
以下、以上のような構成の異音検出装置1の作動について図8を参照して説明する。音取得部10がマイクロホンMCから対象機器Pの動作音に応じた信号を受信すると、音取得部10は、取得した音圧時間信号Ts1を信号変換部22に出力する。
【0041】
信号変換部22は、音取得部10から音圧時間信号Ts1を受信すると、当該音圧時間信号Ts1を短時間フーリエ変換することで、図4に示す周波数特性Fs1に変換する。信号変換部22は、変換した周波数特性Fs1を異音強調部23へ出力する。
【0042】
異音強調部23は、信号変換部22が変換した周波数特性Fs1を受信すると、記憶部21に記憶された異常音テンプレートFs2における異音周波数Faおよび通常周波数Fnの情報を読み込む。そして、異音強調部23は、周波数特性Fs1、異音周波数Faおよび通常周波数Fnに基づいて、異音強調特性Fs3を求める。
【0043】
具体的に、異音強調部23は、信号変換部22が変換した周波数特性Fs1において、2350Hz~2450Hzの周波数の音圧信号の強度を所定の増加量だけ増加させる増加調整を行う。さらに、異音強調部23は、2350Hzより小さい周波数の音圧信号および2450Hzより大きい周波数の音圧信号の強度を所定の減少量だけ減少させる減少調整を行う。これにより、異音強調部23は、信号変換部22が変換した周波数特性Fs1に対して対象機器Pの異音に関する周波数帯域の音圧信号の強度が強調された図5に示す異音強調特性Fs3を得る。異音強調部23は、異音強調特性Fs3の情報を音分析部24および信号逆変換部26に出力する。
【0044】
音分析部24は、異音強調部23から異音強調特性Fs3の情報が入力されると、異音強調特性Fs3に基づいて強調ベクトルVpを求める。音分析部24は、算出した強調ベクトルVpの情報を異音判定部25に出力する。
【0045】
異音判定部25は、音分析部24から強調ベクトルVpの情報が入力されると、記憶部21に記憶されたテンプレートベクトルVtの情報を読み込む。そして、異音判定部25は、強調ベクトルVpとテンプレートベクトルVtとを比較することで、異音強調特性Fs3と異常音テンプレートFs2との類似度を求める。本実施形態では、異音判定部25は、異音強調特性Fs3と異常音テンプレートFs2との類似度を、テンプレートベクトルVtに対する強調ベクトルVpのコサイン類似度として算出する。そして、異音判定部25は、算出したコサイン類似度が予め定められた所定の判定閾値以上であるか否かに基づいて、対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
【0046】
コサイン類似度は、0以上1以下の値であって、テンプレートベクトルVtに対する強調ベクトルVpの類似度が高いほど値が大きくなる。換言すれば、異常音テンプレートFs2と異音強調特性Fs3との類似度が高いほどコサイン類似度が大きくなる。所定の判定閾値は、対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定するために予め実験等によって定められる基準値であって、例えば、0.2で設定される。
【0047】
異音判定部25は、コサイン類似度の値が0.2以上である場合、対象機器Pの動作音に異音が含まれると判定する。これに対して、異音判定部25は、コサイン類似度の値が0.2以上であると判定されない場合、対象機器Pの動作音に異音が含まれないと判定する。異音判定部25は、対象機器Pの動作音に異音が含まれる否かの判定結果を信号逆変換部26へ出力する。
【0048】
なお、所定の判定閾値は、対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定可能な値であれば、0.2より小さい値であってもよいし、0.2より大きい値であってもよい。
【0049】
ところで、図5に示す異常音テンプレートFs2に基づいて算出されるテンプレートベクトルVtに対する図6に示す異音強調特性Fs3に基づいて算出される強調ベクトルVpのコサイン類似度は約0.229であった。すなわち、異常音テンプレートFs2と異音強調特性Fs3との類似度は、約0.229であった。
【0050】
これに対して、図5に示す異常音テンプレートFs2に基づいて算出したテンプレートベクトルVtに対する図4に示す周波数特性Fs1の特徴量として強調ベクトルVpと同様に算出したベクトル量のコサイン類似度は約0.147であった。すなわち、異常音テンプレートFs2と周波数特性Fs1との類似度は、約0.147であった。
【0051】
このように、対象機器Pの動作音に異音が含まれる場合の音圧信号を解析する場合、異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調する場合、強調しない場合とでそれぞれの音圧信号に対する類似度が大きく異なる。そして、異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調することと、異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調しない場合に比較して、当該類似度を大きくすることができる。このため、予め定められた所定の判定閾値によって、対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かの判定を行い易くできる。
【0052】
信号逆変換部26は、異音判定部25から対象機器Pの動作音に異音が含まれるという判定結果を受信すると、異音強調部23から入力される異音強調特性Fs3を逆短時間フーリエ変換して図7に示す強調音信号Ts2に変換する。そして、信号逆変換部26は、変換した強調音信号Ts2を音出力部30へ出力する。音出力部30は、信号逆変換部26から入力された強調音信号Ts2に応じた信号をスピーカー50へ出力する。そして、スピーカー50は、対象機器Pの動作音に対して異音を強調した音を発報させる。
【0053】
なお、信号逆変換部26は、異音判定部25から対象機器Pの動作音に異音が含まれないという判定結果を受信すると、異音強調部23から入力される異音強調特性Fs3を逆短時間フーリエ変換せず、強調音信号Ts2を音出力部30へ出力しない。このため、スピーカー50からは、対象機器Pの動作音に対して異音を強調した音が発報されない。
【0054】
以上の如く、異音検出装置1は、対象機器Pの動作音に対して対象機器Pの異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させた異音強調特性Fs3を求め、当該異音強調特性Fs3に基づいて対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
【0055】
このように、対象機器Pの異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させた異音強調特性Fs3に基づいて対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定することで、対象機器Pの動作音に含まれる異音が僅かであっても、当該異音を検出し易くできる。
【0056】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0057】
(1)上記実施形態では、異音強調部23が、周波数特性Fs1における周波数毎の音圧信号に対して、異音周波数Faの音圧信号を増加させる増加調整を行うとともに、通常周波数Fnの音圧信号を減少させる減少調整を行う。
【0058】
これによれば、対象機器Pの動作音に対して異音に関する周波数の音圧信号の強度を簡易に強調させることができる。また、周波数特性Fs1における音圧信号に対して、増加調整および減少調整のうちのどちらか一方の調整を行う場合に比較して、対象機器Pの動作音に対して異音に関する周波数の音圧信号の強度をより強調させることができる。
【0059】
(2)上記実施形態では、記憶部21に、対象機器Pの動作音に含まれる異音に関する情報である異常音テンプレートFs2が予め定められている。
【0060】
これによれば、異音強調特性Fs3を、対象機器Pの動作音に含まれる異音に関する情報である異常音テンプレートFs2と比較することで、対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かの判定を行い易くできる。
【0061】
(3)上記実施形態では、異常音テンプレートFs2が異常状態で動作する対象機器Pの動作音に基づいて設定されている。
【0062】
これによれば、実際に異常状態で動作する対象機器Pの動作音に基づいて設定された異常音テンプレートFs2に基づいて対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定することができるので、当該判定の精度を向上させることができる。
【0063】
(4)上記実施形態では、音分析部24が異音強調特性Fs3における音圧信号の強度に関する異音特徴量である強調ベクトルVpを算出する。また、記憶部21は、異常音テンプレートFs2における音圧信号の強度に関する特徴量であるテンプレートベクトルVtを記憶している。そして、異音判定部25は、音分析部24が求める強調ベクトルVpおよび記憶部21が記憶するテンプレートベクトルVtに基づいて対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
【0064】
これによれば、異音強調特性Fs3および異常音テンプレートFs2それぞれの特徴量に基づいて対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定することができるので、当該判定を行い易くできる。
【0065】
(5)上記実施形態では、異音検出装置1は、異音強調部23が求める異音強調特性Fs3を、音圧信号の強度の経時変化を示す強調音信号Ts2に変換して出力する信号逆変換部26を備える。また、異音検出装置1は、強調音信号Ts2に基づいて対象機器Pの動作音に対して異音を強調した音を発生させるスピーカー50を備えている。
【0066】
これによれば、対象機器Pの動作音に対して異音を強調した音を、例えば、異音検出装置1を操作する作業者へ発報することができる。
【0067】
(第1実施形態の第1の変形例)
上述の第1実施形態では、異音強調部23が周波数特性Fs1に対して対象機器Pの異音に関する周波数帯域の音圧信号の強度を強調する際に、増加調整および減少調整を行う例について説明したが、これに限定されない。例えば、異音強調部23は、増加調整および減少調整のうちのどちらか一方のみを行うことによって、周波数特性Fs1に対して対象機器Pの異音に関する周波数帯域の音圧信号の強度を強調させてもよい。
【0068】
(第1実施形態の第2の変形例)
上述の第1実施形態では、異音判定部25が対象機器Pの動作音に異音が含まれると判定した場合、異音検出装置1は、対象機器Pの動作音に対して異音を強調した音をスピーカー50から発報させる例について説明したが、これに限定されない。例えば、異音検出装置1は、異音判定部25が行う対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かの判定処理に関わらず、スピーカー50から対象機器Pの動作音を発報させる構成でもよい。
【0069】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、図9図15を参照して説明する。本実施形態では、記憶部21が予め記憶する対象機器Pの動作音に含まれる異音に関する情報が第1実施形態と相違する。また、本実施形態では、異音強調部23、音分析部24および異音判定部25が行う処理が第1実施形態と相違している。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明し、第1実施形態と同様の部分について説明を省略することがある。
【0070】
本実施形態の対象機器Pは、例えば、不図示の被切削物に対して切削加工を行う切削機械である。そして、対象機器Pは、図9に示すように、切削加工を行うための構成機器として、被切削物を切削する工具Tを有する。また、対象機器Pは、切削加工を行うための構成機器として、工具Tを動作させるための第1モータM1および被切削物を移動させるための第2モータM2を有する。このように、対象機器Pは、複数の構成機器を有する。
【0071】
本実施形態の対象機器Pは、切削加工を行う際に第1モータM1の動作音である第1モータ音と、第2モータM2の動作音である第2モータ音と、工具Tが被切削物を切削する切削音を同時に発生させる。異音検出装置1は、対象機器Pである切削機械が切削加工を行う際に同時に発生するこれら第1モータ音と、第2モータ音と、切削音とを含む動作音に異音が含まれるか否かを判定する。以下、対象機器Pが動作する際に発生する第1モータ音と、第2モータ音と、切削音とを含む動作音を単に対象機器Pの動作音と呼ぶこともある。
【0072】
本実施形態の記憶部21は、対象機器Pの動作音に含まれる異音に関する情報として、これら第1モータM1および第2モータM2の動作音に関する情報および工具Tの切削音に関する情報が記憶されている。記憶部21には、第1モータM1が正常状態で動作する際の第1モータ音および第2モータM2が正常状態で動作する際の第2モータ音それぞれに含まれる周波数の情報が独立して予め記憶されている。また、記憶部21には、対象機器Pが正常に切削加工を行う際の切削音に含まれる周波数の情報が、正常状態の第1モータ音および正常状態の第2モータ音それぞれに含まれる周波数の情報と独立して予め記憶されている。換言すれば、記憶部21は、構成機器毎に、第1モータM1、第2モータM2、工具Tそれぞれが正常に動作する際の動作音に含まれる周波数の情報を記憶している。
【0073】
具体的に、記憶部21には、これら第1モータM1の正常音、第2モータM2の正常音、工具Tの正常切削音それぞれの動作音毎に、他の周波数に比較して比較的音圧信号が大きい周波数の情報が記憶されている。本実施形態の記憶部21は、これら構成機器毎に0~20000Hzの周波数毎の音圧信号の大きさで示し、当該0~20000Hzを複数の周波数帯域に分割した際の帯域単位で他の周波数帯域に比較して比較的音圧信号が大きいか否かの情報を記憶している。
【0074】
より具体的に、記憶部21は、0~20000Hzの周波数帯域に対して2500Hz毎の等しい帯域幅を有する第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8に分割した際の、他の帯域に比較して比較的音圧信号が大きい帯域の情報をこれら構成機器毎に記憶している。これら構成機器毎の第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8毎の音圧信号の情報は、後述する図10に示す切削異常テンプレートFs4を得るためおよび異音強調部23が後述の制御処理を実行する際に用いられる。
【0075】
本実施形態では、第1モータM1の正常音は、第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8のうち、第1周波数帯域R1および第2周波数帯域R2の音圧信号が他の帯域の音圧信号に比較して比較的大きい。また、第2モータM2の正常音は、第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8のうち、第5周波数帯域R5、第6周波数帯域R6、第7周波数帯域R7、第8周波数帯域R8の音圧信号が他の帯域の音圧信号に比較して比較的大きい。そして、工具Tの正常切削音は、第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8のうち、第5周波数帯域R5、第6周波数帯域R6、第7周波数帯域R7、第8周波数帯域R8の音圧信号が他の帯域の音圧信号に比較して比較的が大きい。
【0076】
以下、第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8において、第1モータM1の正常音に含まれる周波数のうち、比較的音圧信号が大きい帯域を第1モータ帯域RM1とも呼ぶ。また、第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8において、第2モータM2の正常音に含まれる周波数のうち、比較的音圧信号が大きい帯域を第2モータ帯域RM2とも呼ぶ。そして、第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8において、工具Tの正常切削音に含まれる周波数のうち、比較的音圧信号が大きい帯域を切削帯域RCとも呼ぶ。記憶部21には、これら第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RCの情報が予め記憶されている。
【0077】
ところで、対象機器Pの動作音に含まれる異音が構成機器に起因する場合、構成機器の異音は、当該構成機器が異常状態で動作する際に発生する。そして、構成機器が異常状態で動作する際に発生する異音は、当該構成機器が正常状態で動作する際に発生する動作音に含まれる周波数を含む可能性が高い。このため、対象機器Pの構成機器であるこれら第1モータM1、第2モータM2、工具Tそれぞれが正常状態である場合の動作音において比較的音圧信号が大きい周波数は、対象機器Pが正常状態から異常状態になった際の異音に含まれると推定される周波数である。このため、第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RCは、本実施形態の対象機器Pの動作音に含まれる異音に関する周波数の情報である。
【0078】
第1モータ帯域RM1は、正常状態の第1モータM1を独立して動作させた際の実際の第1モータ音を収集して音解析を行う実験結果等から得られる。第2モータ帯域RM2は、正常状態の第2モータM2を独立して動作させた際の実際の第2モータ音を収集して音解析を行う実験結果等から得られる。切削帯域RCは、工具Tによって切削加工が正常に行わる場合の実際の切削音を収集して音解析を行う実験結果等から得られる。
【0079】
また、本実施形態の記憶部21には、第1モータ音の異音と、第2モータ音の異音と、切削音の異音のこれら全ての異音が含まれた動作音に関する図10に示す切削異常テンプレートFs4が記憶されている。
【0080】
切削異常テンプレートFs4では、実際に第1モータ音、第2モータ音、切削音それぞれの異音が含まれた対象機器Pの動作音の音圧信号を周波数毎の音圧信号に変換し、第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RCの音圧信号が強調されている。具体的に、図10に示す切削異常テンプレートFs4は、第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RCの音圧信号を、第1実施形態における異常音テンプレートFs2を得る際と同様に、所定の増加量だけ増加させた。
【0081】
なお、本実施形態では、第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2および切削帯域RCを跨ることによって、第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8の全ての帯域が含まれる。このため、図10に示す切削異常テンプレートFs4では、0~20000Hzの全ての周波数毎の音圧信号を所定の増加量だけ増加させた。
【0082】
仮に、第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2および切削帯域RCのいずれによっても第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8の全ての帯域を跨ぐことができない場合、当該跨ぐことができない帯域の音圧信号を増加させる必要はない。
【0083】
さらに、記憶部21には、切削異常テンプレートFs4の音圧信号の強度に関する特徴量として、切削異常テンプレートFs4が示す周波数毎の音圧信号の強度を特徴ベクトルに変換した切削テンプレートベクトルVtcが予め記憶されている。切削異常テンプレートFs4は対象機器Pの動作音に含まれる異音に関する情報であって、異音情報に対応する。また、切削テンプレートベクトルVtcは推定特徴量に対応する。
【0084】
切削異常テンプレートFs4および切削テンプレートベクトルVtcは、第1モータM1および第2モータM2が異常状態であって、工具Tによって正常に切削加工が行われない場合の実際の動作音を収集して音解析を行う実験結果等から得られる。また、切削異常テンプレートFs4は、対象機器Pの構成機器である第1モータM1、第2モータM2、工具Tそれぞれが異常状態で動作する際に発生する動作音である第1モータ音、第2モータ音、切削音に基づいている。
【0085】
以下、以上のような構成の本実施形態の異音検出装置1の作動について図11を参照して説明する。なお、図11を用いて説明する本実施形態の作動説明において、図8を用いて説明した第1実施形態における作動と同じ制御処理については、その説明を省略する場合がある。
【0086】
信号変換部22は、音取得部10から音圧信号の強度の経時変化を示す時間信号を受信すると、当該信号を短時間フーリエ変換することで、図12に示す周波数特性Fs5に変換する。信号変換部22は、変換した周波数特性Fs5を異音強調部23へ出力する。
【0087】
異音強調部23は、信号変換部22が変換した周波数特性Fs5を受信すると、記憶部21に記憶された第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RCそれぞれの情報を読み込む。そして、異音強調部23は、周波数特性Fs5と、第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RCとに基づいて、周波数特性Fs5における周波数のうち異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させる。
【0088】
具体的に、異音強調部23は、信号変換部22が変換した周波数特性Fs5に対して個別に第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RCそれぞれの帯域の音圧信号の強度を所定の増加量だけ増加させる増加調整を行う。
【0089】
すなわち、異音強調部23は、周波数特性Fs5に対して第1モータ帯域RM1の音圧信号の強度を増加させることで第1モータM1の異音を強調した図13に示す第1モータ強調特性Fm1を求める。第1モータ強調特性Fm1は、図12に示す周波数特性Fs5に対して、第1モータ帯域RM1の音圧信号の強度を増加させたものである。
【0090】
また、異音強調部23は、周波数特性Fs5に対して第2モータ帯域RM2の音圧信号の強度を増加させることで第2モータM2の異音を強調した図14に示す第2モータ強調特性Fm2を求める。第2モータ強調特性Fm2は、図12に示す周波数特性Fs5に対して、第2モータ帯域RM2の音圧信号の強度を増加させたものである。
【0091】
そして、異音強調部23は、周波数特性Fs5に対して切削帯域RCの音圧信号の強度を増加させることで工具Tの切削音の異音を強調した図15に示す切削強調特性Fcを求める。切削強調特性Fcは、図12に示す周波数特性Fs5に対して、切削帯域RCの音圧信号の強度を増加させたものである。
【0092】
異音強調部23は、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの情報を音分析部24および信号逆変換部26に出力する。なお、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcは、異音強調信号に対応する。
【0093】
音分析部24は、異音強調部23から第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcの情報が入力されると、これら第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの異音特徴量を求める。
【0094】
具体的に、音分析部24は、第1モータ強調特性Fm1における音圧信号の強度に関する異音特徴量を、第1モータ強調特性Fm1が示す周波数毎の音圧信号の強度を特徴ベクトルに変換した第1モータベクトルVm1として求める。また、音分析部24は、第2モータ強調特性Fm2における音圧信号の強度に関する異音特徴量を、第2モータ強調特性Fm2が示す周波数毎の音圧信号の強度を特徴ベクトルに変換した第2モータベクトルVm2として求める。さらに、音分析部24は、切削強調特性Fcにおける音圧信号の強度に関する異音特徴量を、切削強調特性Fcが示す周波数毎の音圧信号の強度を特徴ベクトルに変換した切削ベクトルVcとして求める。
【0095】
音分析部24は、算出した第1モータベクトルVm1、第2モータベクトルVm2、切削ベクトルVcそれぞれの情報を異音判定部25に出力する。
【0096】
異音判定部25は、音分析部24から第1モータベクトルVm1、第2モータベクトルVm2、切削ベクトルVcそれぞれの情報が入力されると、記憶部21に記憶された切削テンプレートベクトルVtcの情報を読み込む。そして、異音判定部25は、第1モータベクトルVm1、第2モータベクトルVm2、切削ベクトルVcそれぞれとテンプレートベクトルVtとを比較する。これにより、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれと切削異常テンプレートFs4との類似度が異音判定部25によって求められる。
【0097】
具体的に、異音判定部25は、第1モータ強調特性Fm1と切削異常テンプレートFs4との類似度を、第1モータベクトルVm1と切削テンプレートベクトルVtcのコサイン類似度として算出する。また、異音判定部25は、第2モータ強調特性Fm2と切削異常テンプレートFs4との類似度を、第2モータベクトルVm2と切削テンプレートベクトルVtcのコサイン類似度として算出する。さらに、異音判定部25は、切削強調特性Fcと切削異常テンプレートFs4との類似度を、切削ベクトルVcと切削テンプレートベクトルVtcのコサイン類似度として算出する。
【0098】
そして、異音判定部25は、算出した第1モータベクトルVm1、第2モータベクトルVm2、切削ベクトルVcそれぞれに対応するコサイン類似度のうち、少なくとも1つのコサイン類似度の値が0.2以上であるか否かを判定する。
【0099】
異音判定部25は、第1モータベクトルVm1、第2モータベクトルVm2、切削ベクトルVcそれぞれに対応するコサイン類似度のうち、少なくとも1つの値が0.2以上である場合、対象機器Pの動作音に異音が含まれると判定する。そして、異音判定部25は、算出した第1モータベクトルVm1、第2モータベクトルVm2、切削ベクトルVcそれぞれに対応するコサイン類似度の値が0.2以上であるベクトル量に対応する構成機器が異音発生の要因と判定する。
【0100】
これに対して、異音判定部25は、算出した第1モータベクトルVm1、第2モータベクトルVm2、切削ベクトルVcそれぞれに対応するコサイン類似度の全てが0.2以上であると判定されない場合、対象機器Pの動作音に異音が含まれないと判定する。
【0101】
例えば、図10に示す切削異常テンプレートFs4に基づいて算出した切削テンプレートベクトルVtcに対する図13に示す第1モータ強調特性Fm1に基づいて算出した第1モータベクトルVm1のコサイン類似度は約0.10であった。また、図10に示す切削異常テンプレートFs4に基づいて算出した切削テンプレートベクトルVtcに対する図14に示す第2モータ強調特性Fm2に基づいて算出した第2モータベクトルVm2のコサイン類似度は約0.25であった。そして、図10に示す切削異常テンプレートFs4に基づいて算出した切削テンプレートベクトルVtcに対する図15に示す切削強調特性Fcに基づいて算出した切削ベクトルVcのコサイン類似度は約0.15であった。
【0102】
この場合、異音判定部25は、対象機器Pの動作音に異音が含まれると判定する。さらに、異音判定部25は、対象機器Pが有する構成機器である第1モータM1、第2モータM2、工具Tのうち、異音発生の要因が第2モータM2である判定する。異音判定部25は、対象機器Pの動作音に異音が含まれると判定した場合、異音発生の要因となる構成機器の情報を信号逆変換部26に出力する。
【0103】
信号逆変換部26は、異音判定部25から異音発生の要因となる構成機器の情報を受信すると、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcのうち、異音発生の要因と判定された構成機器に対応する特性を逆短時間フーリエ変換する。これにより、異音発生の要因と判定された構成機器に対応する特性が音圧信号の強度の経時変化を示す時間信号に変換される。そして、信号逆変換部26は、変換して得られた時間信号を音出力部30へ出力する。音出力部30は、信号逆変換部26から入力された時間信号に応じた信号をスピーカー50へ出力する。そして、スピーカー50は、対象機器Pの構成機器のうち、異音発生の要因と判定された構成機器の動作音を強調した対象機器Pの動作音を発報させる。
【0104】
以上の如く、第1モータM1、第2モータM2、工具Tを有する対象機器Pにおいて、切削異常テンプレートFs4が、第1モータM1、第2モータM2、工具Tそれぞれの動作音に基づいて設定されている。また、異音強調部23は、信号変換部22が変換する周波数特性Fs5における音圧信号のうち、記憶部21が記憶する第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RCの音圧信号の強度を個別に強調させる。これにより、構成機器毎に、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcが異音強調部23によって求められる。
【0105】
これによれば、異音判定部25は、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcを、第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RCの音圧信号を強調させた切削異常テンプレートFs4と比較することができる。その結果、対象機器Pの動作音に異音が含まれる場合、構成機器である第1モータM1、第2モータM2、工具Tのうち、異音発生要因となる構成機器を推定することができる。
【0106】
(第2実施形態の第1の変形例)
上述の第2実施形態では、異音判定部25が対象機器Pの動作音に異音が含まれないと判定した場合、スピーカー50が異音発生の要因となる構成機器の動作音を強調した音を発報させる例について説明したが、これに限定されない。例えば、異音検出装置1は、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fc全てを逆短時間フーリエ変換させることで、第1モータM1、第2モータM2、工具T全ての動作音を個別に強調させた動作音を発報させる構成でもよい。
【0107】
(第2実施形態の第1の変形例)
上述の第2実施形態では、第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RCが、対象機器Pの構成機器である第1モータM1、第2モータM2、工具Tそれぞれが正常状態である場合の動作音に基づいている例について説明したが、これに限定されない。第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RCは、第1モータM1、第2モータM2、工具Tそれぞれが異常状態である場合の動作音に基づいていてもよい。
【0108】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、図16図22を参照して説明する。本実施形態では、記憶部21が予め記憶する対象機器Pの動作音に関する情報が第1実施形態および第2実施形態と相違する。また、本実施形態では、EQ部20の構成の一部が異なるのに加えて、異音強調部23、音分析部24および異音判定部25が行う処理が第1実施形態および第2実施形態と相違している。本実施形態では、第1実施形態および第2実施形態と異なる部分について主に説明し、第1実施形態および第2実施形態と同様の部分について説明を省略することがある。
【0109】
本実施形態の対象機器Pは、第2実施形態と同様の切削機械である。そして、本実施形態の異音検出装置1は、第2実施形態と同様、対象機器Pである切削機械が切削加工を行う際に発生する第1モータ音と、第2モータ音と、切削音とを含む動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
【0110】
但し、第1実施形態および第2実施形態と異なり、本実施形態の記憶部21には、異音検出を行う前に検出される対象機器Pの動作音に含まれる異音に関する情報が記憶されていない。具体的に、記憶部21には、第1モータ帯域RM1、第2モータ帯域RM2、切削帯域RC、切削異常テンプレートFs4および切削テンプレートベクトルVtcの情報が記憶されていない。換言すれば、記憶部21には、構成機器である第1モータM1、第2モータM2、工具Tの正常音および異音を含む対象機器Pの動作音に関する情報が記憶されていない。
【0111】
これに対して、本実施形態の記憶部21は、後述するように、異音強調部23が求める第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの異音特徴量を記憶可能に構成されている。また、記憶部21は、後述する変化量設定部40に設定される設定情報を記憶可能に構成されている。
【0112】
本実施形態の異音検出装置1は、図16に示すように、第1実施形態および第2実施形態に比較して変化量設定部40が追加されている。変化量設定部40は、異音検出装置1の外部に設けられた入力装置Dに接続されている。
【0113】
また、本実施形態の音分析部24は、図17に示すように、記憶部21に接続されており、音分析部24が算出する第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの異音特徴量を記憶部21に出力可能に構成されている。
【0114】
また、本実施形態の異音判定部25は、記憶部21に接続されており、音分析部24が記憶部21に過去に出力した第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの異音特徴量を記憶部21から読み込み可能に構成されている。
【0115】
変化量設定部40は、記憶部21のROMまたは書き込み可能な不揮発性記憶媒体に記録されたプログラムに従った処理を実行する装置である。変化量設定部40は、異音強調部23が対象機器Pの構成機器の動作音に含まれる周波数の音圧信号の強度を強調させる際の音圧信号の変化量を設定する。具体的に変化量設定部40は、構成機器の動作音に含まれる周波数の音圧信号の強度を増加させる際の増加量を予め設定可能であって、且つ構成機器の動作音に含まれる周波数とは異なる周波数の音圧信号の強度を減少させる際の減少量を設定可能に構成されている。
【0116】
また、変化量設定部40は、これら増減量および減少量を、異音強調部23が求める第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの周波数毎に設定可能に構成されている。
【0117】
具体的に、変化量設定部40が設定する音圧信号の増加量および減少量は、第1実施形態に示した所定の増加量または所定の減少量を基準に、予め定められた所定の増減範囲内で設定可能に構成されている。所定の増減範囲は、予め設定される。例えば、本実施形態の所定の増減範囲は、-3dB~+3dBで設定されている。なお、所定の増減範囲は、-3dB~+3dBの範囲に限定されるものでなく、最小値が-3dBより小さい値に設定されてもよいし、-3dBより大きい値に設定されてもよい。また、なお、所定の増減範囲の最大値は、+3dBより小さい値に設定されてもよいし、+3dBより大きい値に設定されてもよい。
【0118】
また、本実施形態において、変化量設定部40が設定する音圧信号の増加量および減少量は、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fc毎に、予め定められた周波数帯域毎に設定可能に構成されている。具体的に、変化量設定部40が設定する音圧信号の増加量および減少量は、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fc毎に、第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8における帯域毎に設定可能に構成されている。
【0119】
さらに具体的に、変化量設定部40は、異音強調部23が第1モータ帯域RM1の音圧信号を増加させる際の増加量および第1モータ帯域RM1とは異なる周波数帯域の音圧信号を減少させる際の減少量を設定することができる。
【0120】
また、変化量設定部40は、異音強調部23が第2モータ帯域RM2の音圧信号を増加させる際の増加量および第2モータ帯域RM2とは異なる周波数帯域の音圧信号を減少させる際の減少量を設定することができる。
【0121】
そして、変化量設定部40は、異音強調部23が切削帯域RCの音圧信号を増加させる際の増加量および切削帯域RCとは異なる周波数帯域の音圧信号を減少させる際の減少量を設定することができる。変化量設定部40は、入力側に入力装置Dに接続されており、入力装置Dから入力される信号によってこれらの増加量および減少量が制御される。また、変化量設定部40は、出力側にEQ部20の記憶部21が接続されており、入力装置Dから入力される信号によって設定された設定情報を記憶部21に出力する。
【0122】
入力装置Dは、変化量設定部40が設定する音圧信号の増加量および減少量を設定するための操作を行うための入力部である。入力装置Dは、異音検出装置1に取り付けられていてもよいし、異音検出装置1から離れた位置に設けられていてもよい。あるいは、入力装置Dは、異音検出装置1の操作を行う作業者が携帯する端末であってもよい。その場合、入力装置Dと変化量設定部40とが無線通信することにより、変化量設定部40が設定する音圧信号の増加量および減少量が制御される。
【0123】
入力装置Dは、図18に示すように、操作ボタンDbを有する設定部Dsを含む。入力装置Dは、作業者の操作ボタンDbの操作によって、構成機器である第1モータM1、第2モータM2、工具T毎に、変化量設定部40が設定する音圧信号の増加量および減少量を制御可能に構成されている。入力装置Dは、変化量設定部40が設定する第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8それぞれの音圧信号の増加量および減少量を制御する。
【0124】
例えば、図18では、異音強調部23が第1モータ強調特性Fm1を算出する際において、第1モータ帯域RM1である第1周波数帯域R1および第2周波数帯域R2の音圧信号を、所定の増加量を基準としてさらに3dB増加させるための設定が示されている。作業者は、異音検出を行う前に予め行う実験結果等から得た第1モータ帯域RM1に基づいて、異音強調部23が第1モータ強調特性Fm1を算出する際の増減量および減少量を設定する。
【0125】
また、図18では、異音強調部23が第2モータ強調特性Fm2を算出する際に、第2モータ帯域RM2である第5周波数帯域R5~第8周波数帯域R8の音圧信号を、所定の増加量を基準としてさらに3dB増加させるための設定が示されている。作業者は、異音検出を行う前に予め行う実験結果等から得た第2モータ帯域RM2に基づいて、異音強調部23が第2モータ強調特性Fm2を算出する際の増減量および減少量を設定する。
【0126】
そして、図18では、異音強調部23が切削強調特性Fcを算出する際に、切削帯域RCである第3周波数帯域R3~第6周波数帯域R6の音圧信号を、所定の増加量を基準としてさらに3dB増加させるための設定が示されている。さらに、図18では、切削帯域RCとは異なる帯域である第1周波数帯域R1、第2周波数帯域R2、第7周波数帯域R7および第8周波数帯域R8の音圧信号を、所定の減少量を基準としてさらに-3dB減少させるための設定が示されている。
【0127】
作業者は、異音検出を行う前に予め行う実験結果等から得た切削帯域RCに基づいて、異音強調部23が切削強調特性Fcを算出する際の増減量および減少量を設定する。
【0128】
以下、以上のような構成の本実施形態の異音検出装置1の作動について図19を参照して説明する。なお、図19を用いて説明する本実施形態の作動説明において、図8を用いて説明した第1実施形態における作動または図11を用いて説明した第2実施形態における作動と同じ制御処理については、その説明を省略する場合がある。
【0129】
異音強調部23は、信号変換部22が変換した周波数特性Fs5を受信すると、記憶部21に記憶された第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの増減量および減少量の情報を読み込む。そして、異音強調部23は、周波数特性Fs5、当該第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの増減量および減少量に基づいて、周波数特性Fs5における周波数のうち異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させる。
【0130】
具体的に、異音強調部23は、信号変換部22が変換した周波数特性Fs5に対して第1モータ帯域RM1の帯域の音圧信号の強度を強調させた第1モータ強調特性Fm1を求める。また、異音強調部23は、信号変換部22が変換した周波数特性Fs5に対して第2モータ帯域RM2の帯域の音圧信号の強度を強調させた第2モータ強調特性Fm2を求める。そして、異音強調部23は、信号変換部22が変換した周波数特性Fs5に対して切削帯域RCの帯域の音圧信号の強度を強調させた切削強調特性Fcを求める。このように、異音強調部23は、構成機器毎に第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcを求める。
【0131】
ここで、本実施形態では、入力装置Dから入力される入力信号によって、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれに対して図18に示す音圧信号の増加量および減少量が設定されている。
【0132】
このため、異音強調部23が求める第1モータ強調特性Fm1は、図20に示すように、変化量設定部40によって第1モータ帯域RM1の音圧信号が第2実施形態の図13において示した第1モータ強調特性Fm1よりも増加されている。このため、第1モータ強調特性Fm1は、変化量設定部40によって第1モータ帯域RM1の音圧信号が増加されない場合に比較して、第1モータM1の動作音に含まれる周波数の音圧信号がさらに強調される。なお、図20に示す破線は、第1モータ強調特性Fm1における第1モータ帯域RM1の音圧信号を変化量設定部40によって強調しない場合の音圧信号を示す。
【0133】
また、異音強調部23が求める第2モータ強調特性Fm2は、図21に示すように、変化量設定部40によって第2モータ帯域RM2の音圧信号が第2実施形態の図14において示した第2モータ強調特性Fm2よりも増加されている。このため、第2モータ強調特性Fm2は、変化量設定部40によって第2モータ帯域RM2の音圧信号が増加されない場合に比較して、第2モータM2の動作音に含まれる周波数の音圧信号がさらに強調される。なお、図21に示す破線は、第2モータ強調特性Fm2における第2モータ帯域RM2の音圧信号を変化量設定部40によって強調しない場合の音圧信号を示す。
【0134】
そして、異音強調部23が算出する切削強調特性Fcは、図22に示すように、変化量設定部40によって切削帯域RCの音圧信号が第2実施形態の図15において示した切削強調特性Fcよりも増加されている。さらに、図22に示す切削強調特性Fcは、変化量設定部40によって切削帯域RCとは異なる帯域の音圧信号が第2実施形態の図15において示した切削強調特性Fcよりも減少されている。
【0135】
このため、切削強調特性Fcは、変化量設定部40によって切削帯域RCの音圧信号が増加されず、切削帯域RCとは異なる帯域の音圧信号が減少されない場合に比較して、工具Tが被切削物を切削する際の動作音に含まれる周波数の音圧信号がさらに強調される。なお、図22に示す破線は、切削強調特性Fcにおける切削帯域RCの音圧信号を変化量設定部40によって強調しない場合の音圧信号を示す。
【0136】
異音強調部23は、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの情報を音分析部24および信号逆変換部26に出力する。
【0137】
音分析部24は、異音強調部23から第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcの情報が入力されると、これら第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの異音特徴量を求める。
【0138】
具体的に、音分析部24は、第1モータ強調特性Fm1における音圧信号の強度に関する異音特徴量を、第1モータ強調特性Fm1の音圧信号の最大値と最小値との差の絶対値である第1モータ特徴量Pm1として求める。また、音分析部24は、第2モータ強調特性Fm2における音圧信号の強度に関する異音特徴量を、第2モータ強調特性Fm2の音圧信号の最大値と最小値との差の絶対値である第2モータ特徴量Pm2として求める。さらに、音分析部24は、切削強調特性Fcにおける音圧信号の強度に関する異音特徴量を、切削強調特性Fcの音圧信号の最大値と最小値との差の絶対値である切削特徴量Pcとして求める。
【0139】
音分析部24は、算出した第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcそれぞれの情報を記憶部21および異音判定部25に出力する。
【0140】
記憶部21は、音分析部24から入力される第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcそれぞれの情報を記憶する。
【0141】
異音判定部25は、第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcそれぞれの情報が入力されると、第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcに基づいて対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
【0142】
具体的に、異音判定部25は、今回の制御周期において音分析部24が求めた第1モータ特徴量Pm1と、記憶部21に記憶された過去に音分析部24が求めた第1モータ特徴量Pm1を比較する。また、異音判定部25は、今回の制御周期において音分析部24が求めた第2モータ特徴量Pm2と、記憶部21に記憶された過去に音分析部24が求めた第2モータ特徴量Pm2を比較する。そして、異音判定部25は、今回の制御周期において音分析部24が求めた切削特徴量Pcと、記憶部21に記憶された過去に音分析部24が求めた切削特徴量Pcを比較する。
【0143】
過去に音分析部24が求めた第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcは、例えば、直前の制御周期において音分析部24が求めた第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcである。
【0144】
そして、異音判定部25は、比較結果に基づいて第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcそれぞれの差を求めることで、第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcそれぞれの経時変化を求める。異音判定部25は、第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcそれぞれの経時変化に基づいて、対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
【0145】
具体的に、異音判定部25は、第1モータ特徴量Pm1の変化量、第2モータ特徴量Pm2の変化量、切削特徴量Pcの変化量それぞれが予め定められた所定の判定基準値以上であるか否かに基づいて、構成機器の動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
【0146】
本実施形態において、所定の判定基準値は、第1モータM1、第2モータM2、工具Tの動作音に異音が含まれるか否かを判定するために予め実験等によって定められる基準値である。第1モータM1、第2モータM2、工具Tそれぞれの動作音に異音が含まれるか否かを判定するための所定の判定基準値は、第1モータM1、第2モータM2、工具Tそれぞれに対応する互いに異なった値に設定されてもよいし、同じ値に設定されてもよい。
【0147】
異音判定部25は、第1モータ特徴量Pm1の変化量、第2モータ特徴量Pm2の変化量、切削特徴量Pcの変化量それぞれの値が所定の判定基準値以上であるか否かを判定する。
【0148】
異音判定部25は、第1モータ特徴量Pm1の変化量、第2モータ特徴量Pm2の変化量、切削特徴量Pcの変化量のうち、少なくとも1つの変化量の値が所定の判定基準値以上である場合、対象機器Pの動作音に異音が含まれると判定する。そして、異音判定部25は、対象機器Pの構成機器である第1モータM1、第2モータM2、工具Tのうち、異音特徴量の変化量の値が所定の判定基準値以上に該当する構成機器を異音発生の要因と判定する。
【0149】
これに対して、異音判定部25は、算出した第1モータ特徴量Pm1の変化量、第2モータ特徴量Pm2の変化量、切削特徴量Pcの変化量の全てが所定の判定基準値以上であると判定されない場合、対象機器Pの動作音に異音が含まれないと判定する。
【0150】
以上の如く、構成機器として第1モータM1、第2モータM2、工具Tを有する対象機器Pの異音を検出する異音検出装置1は、これらの異音特徴量である第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcそれぞれを求める音分析部24を備える。また、異音検出装置1は、構成機器毎に求められる第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcを記憶する記憶部21を備える。そして、異音判定部25は、過去の第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcと、音分析部24が今回求めた第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcとに基づいて対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
【0151】
これによれば、対象機器Pが異常状態で動作する際の動作音を予め実験等によって解析しなくとも、対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定することができる。
【0152】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0153】
(1)上記実施形態では、異音判定部25は、音分析部24が求める第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcそれぞれの経時変化に基づいて対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定する。
【0154】
これによれば、対象機器Pの構成機器の動作音の変化に基づいて対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かを判定するため、対象機器Pに異常が発生した場合の発生タイミングを検出し易い。
【0155】
(2)上記実施形態では、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcにおける周波数の音圧信号の強度を変化させる際の変化量を設定する変化量設定部40を備える。
【0156】
これによれば、第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれにおける異音に関する周波数の音圧信号を所望の大きさで強調させ易くできる。このため、異音判定部25が対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かの判定を行い易くできる。また、例えば、異音が含まれる動作音を作業者に発報して作業者でも異音検出作業を行わせる場合、作業者自身の要望に合わせて第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの音圧信号を所望の大きさに設定できる。
【0157】
(第3実施形態の第1の変形例)
上述の第3実施形態では、変化量設定部40が、第1周波数帯域R1~第8周波数帯域R8で示す8つの帯域のうち、1つまたは複数の帯域毎に音圧信号の増加量および減少量を設定可能に構成されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、変化量設定部40が音圧信号の増加量および減少量を設定可能な帯域の数は、8つより少ない数量であってもよいし、8つより多い数量であってもよい。
【0158】
なお、変化量設定部40によって音圧信号の増加量および減少量を設定可能な帯域の数は、過小であると対象機器Pの異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させ難くなる虞があり、過多であると増加量および減少量の設定時の操作が煩わしくなる虞がある。このため、変化量設定部40によって音圧信号の増加量および減少量を設定可能な帯域の数は、対象機器Pの異音に関する周波数の音圧信号の強度を強調させ易く、且つ、増加量および減少量の設定が煩わしくならない8つ~12つで設定されてもよい。
【0159】
また、変化量設定部40は、例えば、8つの帯域から選択した1つの帯域内における選択した周波数の音圧信号の増加量および減少量を、さらに詳細に設定された帯域毎に設定可能に構成されていてもよい。この場合、例えば、図23に示すように、変化量設定部40は、選択した1つの帯域内において、予め設定された10個の帯域の1つまたは複数の帯域毎に音圧信号の増加量および減少量を設定可能に構成されていてもよい。
【0160】
(第3実施形態の第2の変形例)
上述の第3実施形態では、第1モータ強調特性Fm1の異音特徴量を、第1モータ強調特性Fm1の音圧信号の最大値と最小値との差の絶対値である第1モータ特徴量Pm1として求めた。また、第2モータ強調特性Fm2の異音特徴量を、第2モータ強調特性Fm2の音圧信号の最大値と最小値との差の絶対値である第2モータ特徴量Pm2として求めた。さらに、切削強調特性Fcの異音特徴量を、切削強調特性Fcの音圧信号の最大値と最小値との差の絶対値である切削特徴量Pcとして求めた。しかし、これら第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの異音特徴量の求め方はこれに限定されない。
【0161】
例えば、第1モータ強調特性Fm1の異音特徴量として第1モータ強調特性Fm1の音圧信号の最大値を採用してもよい。また、第2モータ強調特性Fm2の異音特徴量として、第2モータ強調特性Fm2の音圧信号の最大値を採用してもよい。そして、切削強調特性Fcの異音特徴量として切削強調特性Fcの音圧信号の最大値を採用してもよい。
【0162】
または、第1モータ強調特性Fm1の異音特徴量として、所定のサンプリング時間における第1モータ強調特性Fm1の音圧信号の最大値と最小値との差の絶対値の平均値を採用してもよい。また、第2モータ強調特性Fm2の異音特徴量として、所定のサンプリング時間における第2モータ強調特性Fm2の音圧信号の最大値と最小値との差の絶対値の平均値を採用してもよい。そして、切削強調特性Fcの異音特徴量として、所定のサンプリング時間における切削強調特性Fcの音圧信号の最大値と最小値との差の絶対値の平均値を採用してもよい。
【0163】
(第3実施形態の第3の変形例)
上述の第3実施形態では、対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かの判定を、第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcそれぞれの経時変化に基づいて行う例について説明したがこれに限定されない。例えば、対象機器Pの動作音に異音が含まれるか否かの判定を、所定のサンプリング時間毎の第1モータ強調特性Fm1、第2モータ強調特性Fm2、切削強調特性Fcそれぞれの異音特徴量を統計解析した結果に基づいて行ってもよい。統計解析は、例えば、混合ガウス分布、ポアソン分布、正規分布などを用いてもよい。
【0164】
(第3実施形態の第4の変形例)
上述の第3実施形態では、過去の第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcを直前の制御周期における第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcとして採用する例について説明したが、これに限定されない。例えば、過去に音分析部24が求めた第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcは、所定のサンプリング時間において算出される第1モータ特徴量Pm1、第2モータ特徴量Pm2、切削特徴量Pcそれぞれの平均値を採用してもよい。
【0165】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0166】
上述の第1実施形態では、異音検出装置1が、異音強調特性Fs3を時間信号に変換する信号逆変換部26と、対象機器Pの動作音に対して異音を強調した音を発生させるスピーカー50とを備える例について説明したが、これに限定されない。例えば、異音検出装置1は、異音強調特性Fs3を時間信号に変換する信号逆変換部26と、対象機器Pの動作音に対して異音を強調した音を発生させるスピーカー50とを備えない構成であってもよい。
【0167】
上述の実施形態では、異音強調部23が増加調整を行う際に音圧信号の強度を所定の増加量だけ増加させ、異音強調部23が減少調整を行う際に音圧信号の強度を所定の減少量だけ減少させる例について説明したが、これに限定されない。異音強調部23は、増加調整を行う際に、異音周波数Faの音圧信号に対して所定の係数で乗算することで、当該異音周波数Faの音圧信号を乗算前の音圧信号よりも大きくしてもよい。また、異音強調部23は、減少調整を行う際に、通常周波数Fnの音圧信号に対して所定の係数で乗算することで、当該通常周波数Fnの音圧信号を乗算前の音圧信号よりも小さくしてもよい。
【0168】
上述の第2実施形態および第3実施形態では、異音強調部23が、0~20000Hzを2500Hz毎の等しい周波数帯域毎に8分割したうちの1つの帯域または複数の帯域の音圧信号を増加および減少させる例について説明したが、これに限定されない。例えば、異音強調部23は、0~20000Hzを2500Hzとは異なる大きさの帯域毎に分割したうちの1つの帯域または複数の帯域の音圧信号を増加および減少させてもよい。また、異音強調部23は、0~20000Hzを、中心周波数を10000Hzとした場合のオクターブバンドまたは1/3オクターブバンドで分割した1つの帯域または複数の帯域の音圧信号を増加および減少させてもよい。
【0169】
上述の第2実施形態および第3実施形態では、対象機器Pが切削加工を行う際に同時に発生する第1モータ音と、第2モータ音と、切削音とを含む動作音に異音が含まれるか否かの判定を異音検出装置1が行う例について説明したがこれに限定されない。
【0170】
例えば、異音検出装置1は、対象機器Pが切削加工を行う際に互いに異なるタイミングで発生する第1モータ音と、第2モータ音と、切削音とを含むそれぞれの動作音に異音が含まれるか否かの判定を行ってもよい。
【0171】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0172】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0173】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【符号の説明】
【0174】
10 音取得部
22 信号変換部
23 異音強調部
25 異音判定部
図1
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