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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20241203BHJP
   B60R 21/233 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/233
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021158459
(22)【出願日】2021-09-28
(65)【公開番号】P2023048884
(43)【公開日】2023-04-07
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】北村 将央
(72)【発明者】
【氏名】酒井 崇
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-510765(JP,A)
【文献】国際公開第2021/033433(WO,A1)
【文献】特開2017-185873(JP,A)
【文献】特開2022-110956(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0289134(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109229048(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第04140829(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60R 21/233
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトを装着してシートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置であって、
前記シートベルトと、前記シートに折り畳まれて収納されるエアバッグと、を備える構成とされ、
前記シートベルトが、装着時に、上下方向に対して傾斜するように配置されて前記乗員の上半身を拘束するショルダーベルトと、該ショルダーベルトから連なって左右方向に略沿うように配置されて前記乗員の腰部を拘束するラップベルトと、を備える三点拘束式として、構成され、
前記エアバッグが、内部に膨張用ガスを流入させて前方に向かって突出するように膨張して、膨張完了時に、前記乗員の少なくとも前記ショルダーベルトの上端側の位置する側方を、頭部から上半身にかけて覆うような構成とされるとともに、膨張完了時の前端側から凹ませるように形成されて、前記ショルダーベルトの上端側の領域を挿通可能なスリット部を、備える構成とされ、
該スリット部が、前記エアバッグにおける膨張完了時の前端側にかけて下降するように、前後方向に対して傾斜するとともに、凹みの先端側となる後端側の開口幅寸法を前記ショルダーベルトを挿通可能な寸法とし、前後の中間部位を狭幅として、前端側にかけて拡開されるように、形成されていることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記シートベルトが、前記シートの車外側の車体側にリトラクタを配設させて、前記ショルダーベルトを、前記シートの車外側側方における背もたれ部の上端よりも上方となる位置から繰り出し可能に、構成されていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記エアバッグが、膨張完了時に、前記乗員の左右方向側の両側方を、頭頂部を含めて連続的に覆い可能に、構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記エアバッグが、膨張完了時における前記スリット部の凹みの先端を、少なくとも前記シートの背もたれ部における背もたれ面と略同等となる位置に配置させるように、構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の乗員保護装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトを装着してシートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗員保護装置としては、シートに着座した乗員の両側方を、頭頂部を含めて囲むように、エアバッグを膨張させる構成のものがあった(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第10112570号明細書
【文献】国際公開第2018/114723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の乗員保護装置では、シートに着座した乗員を拘束するためのシートベルトに関しては、何ら記載されていなかった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、シートベルトを装着してシートに着座した乗員を、シートベルトとエアバッグとによって円滑に保護可能な乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る乗員保護装置は、シートベルトを装着してシートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置であって、
シートベルトと、シートに折り畳まれて収納されるエアバッグと、を備える構成とされ、
シートベルトが、装着時に、上下方向に対して傾斜するように配置されて乗員の上半身を拘束するショルダーベルトと、ショルダーベルトから連なって左右方向に略沿うように配置されて乗員の腰部を拘束するラップベルトと、を備える三点拘束式として、構成され、
エアバッグが、内部に膨張用ガスを流入させて前方に向かって突出するように膨張して、膨張完了時に、乗員の少なくともショルダーベルトの上端側の位置する側方を、頭部から上半身にかけて覆うような構成とされるとともに、膨張完了時の前端側から凹ませるように形成されて、ショルダーベルトの上端側の領域を挿通可能なスリット部を、備える構成とされていることを特徴とする。
【0007】
本発明の乗員保護装置では、シートベルトを装着した状態の乗員の側方を覆うように、エアバッグを膨張させる構成であり、エアバッグの膨張完了時にも、シートベルトのショルダーベルトが、乗員の上半身の前方を、上下方向に対して傾斜するように斜めに交差して覆い、ラップベルトが、乗員の腰部を拘束していることから、シートベルト自体によって、乗員を的確に拘束することができ、例えば、前後方向側からの衝撃力の作用時等においては、乗員を、シートベルトによって的確に拘束することができる。また、本発明の乗員保護装置では、エアバッグが、シートベルトを装着している乗員の少なくともショルダーベルトの上端側となる側方を、頭部から上半身にかけて、覆うような構成とされていることから、側方からの衝撃力の作用時等においては、乗員を、膨張したエアバッグによって保護することができる。さらに、本発明の乗員保護装置では、エアバッグが、ショルダーベルトの上端側に対応した位置に、膨張完了時の前端側から凹ませるようにして、ショルダーベルトを挿通可能なスリット部を、有する構成である。すなわち、本発明の乗員保護装置では、シートベルトを装着済みの乗員の側方からエアバッグが突出しても、スリット部内にシートベルトのショルダーベルトにおける上端側を配置させた状態で、ショルダーベルトを押すことなく、エアバッグを、円滑に、乗員の側方で膨張を完了させることができる。
【0008】
したがって、本発明の乗員保護装置では、シートベルトを装着してシートに着座した乗員を、シートベルトとエアバッグとによって円滑に保護することができる。
【0009】
具体的には、本発明の乗員保護装置において、シートベルトを、シートの車外側の車体側にリトラクタを配設させて、ショルダーベルトをシートの車外側側方における背もたれ部の上端よりも上方となる位置から繰り出し可能な構成とすれば、エアバッグが、乗員の車外側を覆うように膨張することとなり、乗員を、車外側のパネル(ドア等)に対して、膨張を完了させたエアバッグによって保護することができて、好ましい。
【0010】
さらに、上記構成の乗員保護装置において、エアバッグを、膨張完了時に、乗員の左右方向側の両側方を頭頂部を含めて連続的に覆い可能な構成とすれば、左右の側方からの衝撃力の作用等に、左右両側方を覆うように膨張するエアバッグによって、乗員を、一層的確に保護することが可能となって、好ましい。
【0011】
さらにまた、上記構成の乗員保護装置において、エアバッグを、膨張完了時におけるスリット部の凹みの先端を、少なくともシートの背もたれ部における背もたれ面と略同等となる位置に配置させるように、構成すれば、エアバッグの膨張完了時において、ショルダーベルトの上端側の内側で膨張する部位が、乗員側に延びず、ショルダーベルトと背もたれ部との間にのみ介在されることから、この部位によって、乗員を押圧することを、的確に抑制できて、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態である乗員保護装置を搭載させたシートの正面図である。
図2図1のシートの左側面図である。
図3図1のシートにおいて、インフレーターの配置部位を示す部分拡大概略横断面図である。
図4】実施形態の乗員保護装置において使用されるエアバッグの右側面図である。
図5図4のエアバッグの左側面図である。
図6図4のエアバッグを単体で膨張させた状態において、スリット部の部位を示す部分拡大縦断面図である。
図7】実施形態の乗員保護装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態のシートの正面図である。
図8】実施形態の乗員保護装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態のシートの右側面図である。
図9】実施形態の乗員保護装置において、エアバッグの膨張完了時におけるスリット部の凹みの先端側の領域を示す概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態の乗員保護装置Sは、図1,2に示すように、車両Vのシート3に搭載されるもので、シートベルト15と、エアバッグ35と、エアバッグ35に膨張用ガスを供給するガス供給部としてのインフレーター30L,30Rと、を備えている。実施形態では、車両Vの右側に配置される(右方を車外側Oとしている)シート3に搭載される乗員保護装置Sを、例に取り、説明する。
【0014】
実施形態の乗員保護装置Sを搭載させるシート3は、ヘッドレスト部6と背もたれ部5とを一体化させたシートバック4と、座部11と、を備えている。また、シートバック4は、図3に示すように、板金素材からなるシートフレーム8と、シートフレーム8の周囲を覆うように配置されるシートクッション9と、を備える構成である。シートフレーム8は、実施形態の場合、詳細な図示を省略するが、シートバック4の外縁4a側において、略全周にわたって配置されるものであり、エアバッグ35とインフレーター30L,30Rとを取り付けられることとなる。
【0015】
シートベルト15は、後述するリトラクタ25を車体1側に設けられるようにして車両Vに搭載されるもので、三点拘束式とされている。具体的には、シートベルト15は、図1,2に示すように、シート3に着座した乗員MPを拘束するためのベルト本体16と、ベルト本体16に取り付けられるタングプレート20と、タングプレート20を連結させるためのバックル21と、ベルト本体16を巻取可能なリトラクタ25と、を備える構成とされている。
【0016】
リトラクタ25は、車体1側に配置されており、具体的には、図2に示すように、シート3におけるシートバック4の車外側O(実施形態の場合、シートバック4の右側)であって、車両Vのセンターピラー1aの部位における下端側(詳細には、座部11のやや後方)となる位置に、配設されている。このリトラクタ25は、ベルト本体16を巻き取るための図示しない巻取軸を備えるとともに、プリテンショナー機構26も、備えている。リトラクタ25は、車両Vの衝突時等における衝撃力の作用時において、ベルト本体16の急激な引き出しを止めることにより、乗員MPのシート3への着座状態を維持するように作用するものであり、プリテンショナー機構26は、このとき、さらに所定の力でベルト本体16を引き込むことにより、乗員MPをシート3側に引き戻すように作用するものである。プリテンショナー機構26は、車両Vに搭載される図示しない制御回路に電気的に接続されて作動を制御されるもので、実施形態の場合、ベルト本体16(ショルダーベルト17)と干渉せずに、エアバッグ35を円滑に膨張可能とするように、インフレーター30L,30Rの作動後(例えば、エアバッグ35の膨張完了後等)に、作動する構成とされている。
【0017】
ベルト本体16は、図1,2に示すように、リトラクタ25の巻取軸に一端を係止され、センターピラー1aから突出されつつ、センターピラー1aに設けられる挿通部材1bを経て、他端側を、シート3における座部11の後端右方に配置されるアンカ部材22(図8参照)に、係止されている。バックル21は、図1,2に示すように、シート3における座部11の後端左方に、配置されている。そして、ベルト本体16は、乗員着座時においてタングプレート20をバックル21に連結させた状態で(乗員装着時に)、上下方向に対して傾斜して配置されて乗員MPの上半身MUを拘束するショルダーベルト17と、ショルダーベルト17から連なって左右方向に略沿うように配置されて乗員MPの下半身MD(腰部MW)を拘束するラップベルト18と、を備えている。詳細には、ラップベルト18は、アンカ部材22とバックル21との間において左右方向に略沿うように配置される構成である。ショルダーベルト17は、図1,2に示すように、シートバック4の右方(車外側O)のセンターピラー1aに設けられる挿通部材1bから延びつつ、座部11の後端左方(シートバック4の下端左縁側)に配置されるバックル21にかけて斜めに配置される構成であり、乗員MPの上半身MU(肩部MSから腹部にかけて)を拘束する構成である。ベルト本体16を挿通させている挿通部材1bは、詳細には、シートバック4より僅かに後方であって、背もたれ部5の上端5aよりも上方となる位置に配置されており(図1,2参照)、換言すれば、ショルダーベルト17は、背もたれ部5の車外側Oにおいて背もたれ部5の上端5aよりも上方となる位置から繰り出し可能な構成とされている。
【0018】
ガス供給部としてのインフレーター30L,30Rは、実施形態の場合、エアバッグ35における後述する左側カバー部36Lと右側カバー部36Rとにそれぞれ膨張用ガスGを供給するように、2個配設されている。各インフレーター30L,30Rは、外形形状を略円柱状としたシリンダタイプとされるもので、シートバック4の外縁4a側における後端近傍において、シート3に着座した乗員MPの腹部の左方と右方となる位置に、軸方向を上下方向に略沿わせるようにして、配置されている(図1,2参照)。具体的には、実施形態の場合、各インフレーター30L,30Rは、図3に示すように、ブラケット(図符号省略)を用いて、シートフレーム8に取り付けられている。インフレーター30L,30Rは、作動時に、エアバッグ35(左側カバー部36L,右側カバー部36R)内に膨張用ガスGを供給するもので、左側カバー部36L,右側カバー部36Rに形成される各接続口部42L,42Rに、クランプ31を利用して取り付けられる構成である(図4,5の二点鎖線参照)。各インフレーター30L,30Rは、車両Vに搭載される図示しない制御回路に電気的に接続されて作動を制御されるもので、車両Vの衝突検知時に、作動信号を入力させて、エアバッグ35(左側カバー部36L,右側カバー部36R)内に、膨張用ガスを流出させる構成である。
【0019】
エアバッグ35は、シート3に折り畳まれて収納されるもので、実施形態の場合、シートバック4の外縁4a側に、折り畳まれて収納されている。詳細には、折り畳まれたエアバッグ35は、シート3に着座した乗員MPの左右の側方から頭頂部HUにかけての周囲を連続的に囲むように、シートバック4の外縁4aの全周にわたって、連続的に配設されている(図1,2参照)。具体的には、実施形態のエアバッグ35は、図3に示すように、シートバック4の外縁4a側において、シートフレーム8とシートクッション9との間の隙間の領域であって、インフレーター30L,30Rの配置部位においては、インフレーター30L,30Rの前側となる位置に、折り畳まれて収納されている。このエアバッグ35は、膨張完了時の後縁36d側に配設される後述する取付タブ46a(図4,5参照)を、詳細な図示は省略するが、シートフレーム8に取り付けることにより、後縁36d側をシート3に連結される構成であり、実施形態の場合、平らに展開した状態で、前端36c側を後述する内側壁部37a側に向かって巻くようにロール折りされた状態で、図3に示すように、シートフレーム8とシートクッション9との間の隙間の領域に、収納されている。このエアバッグ35は、インフレーター30L,30Rからの膨張用ガスを内部に流入させて、図3の二点鎖線に示すように、シートクッション9を、一部を破断させるようにして、シートクッション9の外縁側部位9aを左右の外方に押し開きつつ、一旦外方に向かい、その後、前方に向かって突出するようにして、膨張することとなる。
【0020】
エアバッグ35は、実施形態の場合、膨張完了時に、乗員MPの左右方向側の両側方を、頭頂部HUを含めて連続的に覆い可能に、構成されており、詳細には、ラップベルト13に拘束されている腰部MWの両側方から頭頂部HUにかけて、連続的に覆う構成とされている(図7参照)。具体的には、エアバッグ35は、図4~6に示すように、それぞれ別体からなる左側カバー部36Lと右側カバー部36Rとを備え、この左側カバー部36Lと右側カバー部36Rとを、上縁36a,36a相互を、縫合部位57を形成するように縫着(結合)させることにより、一体化させて、乗員MPの側方を、頭頂部HUを含めて連続的に覆う構成とされている。左側カバー部36Lは、乗員MPの車内側であって、装着時におけるショルダーベルト17の下端側(バックル21側)に位置する側方(左方)を、頭頂部HUから腰部MWにかけて覆う構成であり、右側カバー部36Rは、乗員MPの車外側Oであって、装着時におけるショルダーベルト17の上端17a側に位置する側方(右方)を、頭頂部HUから腰部MWにかけて覆う構成である。左側カバー部36Lと右側カバー部36Rとは、上述したごとく、それぞれ、インフレーター30L,30Rから吐出される膨張用ガスを内部に流入させて膨張する構成とされている。左側カバー部36Lと右側カバー部36Rとは、外形形状を略同一とされるもので、膨張完了形状を、下端側にかけて僅かに狭幅とされる略長方形板状として、前後方向側の幅寸法を、乗員MPの上半身MU全体の側方を広く覆い可能な寸法に設定され、上下方向側の幅寸法を、下端36b側を、座部11の座面11aよりも下側に位置させるような寸法に、設定されている(図8参照)。
【0021】
具体的には、左側カバー部36Lと右側カバー部36Rとは、図4,5に示すように、ショルダーベルト17の上端17a側となる車外側Oを覆うように配置される右側カバー部36Rに、スリット部55を配設させる以外は、外形形状を略同一に設定されている。実施形態では、右側カバー部36Rを例に取り、詳細に説明する。左側カバー部36Lは、図5に示すごとく、スリット部を備えず、後述する区画部48FL,48BLの長さ寸法を異ならせる以外は、右側カバー部36Rと同一の構成であることから、同一の図符号の末尾に「L」を付して、詳細な説明を省略する。
【0022】
右側カバー部36Rは、ポリアミド糸やポリエステル糸等からなる織布の所定箇所を、縫合糸を用いて縫着させることにより、袋状とされている。右側カバー部36Rは、膨張完了時に内側(乗員MP側)に位置する内側壁部37aと外側に配置される外側壁部37bとを離隔させるように内部に膨張用ガスGを流入させて膨張するガス流入部37Rと、内側壁部37aと外側壁部37bとを結合させてなる膨張用ガスを流入させない非流入部45R(閉じ部)と、を備えている(図4,6参照)。
【0023】
ガス流入部37Rは、図4に示すように、上側の領域から構成されて膨張完了時に乗員MPの頭部MHの側方を覆うように配置される頭部保護部39Rと、下側の領域から構成されて膨張完了時に乗員MPの上半身MU(詳細には肩部MSから腰部MWにかけて)の側方を覆うように配置される胴部保護部40Rと、膨張完了時の後縁36d側に配置されて頭部保護部39Rと胴部保護部40Rとを連通させる連通路部41Rと、インフレーター30Rと接続される接続口部42Rと、を備えている。実施形態の場合、頭部保護部39Rは、下縁39aを前下がりに傾斜させるように、前側にかけて上下に幅広として、構成されている(図4参照)。胴部保護部40Rは、平らに展開した状態の前後方向側の幅寸法を、頭部保護部39Rの前後方向側の幅寸法よりもわずかに小さく設定され、また、下端側にかけて僅かに幅狭となるように構成されている。接続口部42Rは、右側カバー部36Rの上下の略中央となる位置において、連通路部41Rと連通されて、後下がりに傾斜するように、形成されている。
【0024】
右側カバー部36Rは、膨張完了時の前端36c側から凹ませるようにして、ショルダーベルト17の上端17a側の領域を挿通可能なスリット部55を、備える構成である。スリット部55は、頭部保護部39Rと胴部保護部40Rとの境界部位に形成され、スリット部55の凹みの先端55aが、連通路部41Rの前縁41aを、構成している。すなわち、スリット部55は、図4に示すように、頭部保護部39Rの下縁39aと、胴部保護部40Rの上縁40aと、連通路部41Rの前縁41aと、によって周囲を囲まれるようにして、形成されている。スリット部55は、右側カバー部36Rを平らに展開した状態で、凹みの先端55aを、右側カバー部36Rの上下の略中央に位置させ、右側カバー部36Rの前端36c側にかけて下降するように前後方向に対して傾斜して、前下がりに形成されるもので、凹みの先端55a側の開口幅寸法を、ショルダーベルト17を挿通可能に、ショルダーベルト17よりやや大きく設定されている。実施形態の場合、スリット部55は、前後の中間部位を一旦やや狭幅とし、前端側にかけて拡開されるように、構成されている。このスリット部55の凹みの先端55a(連通路部41Rの前縁41a)は、エアバッグの膨張完了時において、シート3の背もたれ部5における背もたれ面5b(前面)と略同等となる位置に配置されるように、構成されている(図9参照)。
【0025】
非流入部45Rは、ガス流入部37Rの外周縁を構成する周縁部46Rと、ガス流入部37Rの領域内に配置される区画部48FR,48BRと、を備えている。周縁部46Rは、図4に示すように、接続口部42Rの下端42a側を除いて、ガス流入部37Rの周縁を全周にわたって囲むように形成されている。周縁部46Rにおける後縁側(右側カバー部36Rの後縁36d側)には、詳細な図示を省略するが、シートフレーム8に取り付けられる取付タブ46aが、上下方向に沿って複数箇所に、配設されている。区画部48FR,48BRは、頭部保護部39Rの領域内において、頭部保護部39Rの下縁39a側(スリット部55の上縁側)から上方に延びるように、上下方向に略沿った直線状として、スリット部55の凹みの先端55a付近と、頭部保護部39Rの前端付近と、の2箇所に、形成されている。
【0026】
左側カバー部36Lは、上述したごとく、スリット部を備えない構成であり、左側カバー部36Lに形成される区画部48FL,48BLは、右側カバー部36Rに形成される区画部48FR,48BRと略同一の位置に配置されている。後側に配置される区画部48BLは、左側カバー部36Lにおいては、連通路部41Lの前縁を、構成するように、下方に延びるように形成されている(図5参照)。
【0027】
実施形態の乗員保護装置Sでは、シート3に着座した乗員MPがシートベルト15を装着した状態での車両Vの衝突時に、図示しない制御回路からの作動信号を受けてインフレーター30L,30Rが作動すれば、エアバッグ35における左側カバー部36L,右側カバー部36Rが、それぞれ、インフレーター30L,30Rから吐出される膨張用ガスGを内部に流入させて膨張し、エアバッグ35が、図3の二点鎖線に示すように、シートバック4から前方に突出して、乗員MPの側方を覆うように膨張を完了させることとなる(図7~9参照)。
【0028】
そして、実施形態の乗員保護装置Sでは、シートベルト15を装着した状態の乗員MPの側方を覆うように、エアバッグ35を膨張させる構成であり、エアバッグ35の膨張完了時にも、シートベルト15のショルダーベルト17が、乗員MPの上半身MUの前方を、上下方向に対して傾斜するように斜めに交差して覆い、ラップベルト18が、乗員MPの腰部MWを拘束していることから、シートベルト15自体によって、乗員MPを的確に拘束することができ、例えば、前後方向側からの衝撃力の作用時等においては、乗員MPを、シートベルト15によって的確に拘束することができる。また、実施形態の乗員保護装置Sでは、エアバッグ35が、シートベルト15を装着している乗員MPの少なくともショルダーベルト17の上端17a側(実施形態の場合、車外側O)となる側方を、頭部MHから上半身MUにかけて、覆うような構成とされていることから、側方からの衝撃力の作用時等においては、乗員MPを、膨張したエアバッグ35によって保護することができる。さらに、実施形態の乗員保護装置Sでは、エアバッグ35(具体的には、車外側Oに配置される右側カバー部36R)が、ショルダーベルト17の上端17a側に対応した位置に、膨張完了時の前端36c側から凹ませるようにして、ショルダーベルト17を挿通可能なスリット部55を、有する構成である。すなわち、実施形態の乗員保護装置Sでは、シートベルト15を装着済みの乗員MPの側方からエアバッグ35(右側カバー部36R)が突出しても、スリット部55内にシートベルト15のショルダーベルト17における上端17a側を配置させた状態で、ショルダーベルト17を押すことなく、エアバッグ35(右側カバー部36R)を、円滑に、乗員MPの側方で膨張を完了させることができる。
【0029】
したがって、実施形態の乗員保護装置Sでは、シートベルト15を装着してシート3に着座した乗員MPを、シートベルト15とエアバッグ35とによって円滑に保護することができる。
【0030】
特に、実施形態の乗員保護装置Sでは、エアバッグ35の右側カバー部36Rに形成されるスリット部55が、凹みの先端55a側を最も上方に位置させるように、前下がりに傾斜して形成されていることから、スリット部55の上側に配置される頭部保護部39Rが、膨張完了時に乗員MPの肩部MSの後上方に位置しているスリット部55の凹みの先端55aから、下縁39aを前下がりで傾斜させるように、前端側にかけて上下に幅広として配置されることとなり(図8参照)、頭部保護部39Rによって、頭部MHの側方(右方)を上下に広く覆うことができる。また、頭部保護部39Rは、下縁39aを前下がりで傾斜させるように配置されることから、エアバッグ35の膨張完了時に、前端側における下縁39a側を、胴部保護部40Rの前端側における上縁40a側と、車内外方向で重ねられるように配置されることとなる(図7参照)。なお、このような点を考慮しなければ、スリット部は、膨張完了時の前端側から、前後方向に略沿って凹ませるように、形成してもよい。
【0031】
また、実施形態の乗員保護装置Sでは、シートベルト15が、シート3の車外側Oとなる車体1側にリトラクタ25を配設させて、ショルダーベルト17をシート3の車外側側方(実施形態の場合、センターピラー1a)における背もたれ部5の上端5aよりも上方となる位置から繰り出し可能な構成とされている。そのため、エアバッグ35(右側カバー部36R)が、乗員MPの車外側Oを覆うように膨張することとなり、乗員MPを、車外側Oのパネル(ドア等)に対して、膨張を完了させたエアバッグ35(右側カバー部36R)によって保護することができる。なお、このような点を考慮しなければ、シートベルトは、シートに搭載される構成としてもよい。
【0032】
さらに、実施形態の乗員保護装置Sでは、エアバッグ35が、膨張完了時に、乗員MPの左右方向側の両側方を頭頂部HUを含めて連続的に覆い可能な構成とされていることから、左右の側方からの衝撃力の作用等に、左右両側方(実施形態の場合、車内側と車外側と)を覆うように膨張するエアバッグ35によって、乗員MPを、一層的確に保護することができる。なお、このような点を考慮しなければ、エアバッグとして、乗員におけるショルダーベルトの上端側の位置する側方のみ(実施形態の場合、車外側のみ)を覆うような構成としてもよい。また、実施形態では、エアバッグ35としては、別体の左側カバー部36Lと右側カバー部36Rとを、上縁36a,36a相互を結合させたものを使用し、左側カバー部36Lと右側カバー部36Rとに、それぞれ、ガス供給部としてのインフレーター30L,30Rを連結させる構成としているが、エアバッグを、乗員の左側から右側にかけてを覆うような一体構造とし、一つのインフレーターにより膨張させる構成のものを使用してもよい。また、ガス供給部としてのインフレーターは、実施形態のごとく、シートバックに配置させてエアバッグの接続口部に直接接続させなくともよく、例えば、シートにおける座部の部位に配置させて、ガス供給パイプ等を介して、エアバッグに膨張用ガスを供給させる構成としてもよい。
【0033】
さらにまた、実施形態の乗員保護装置Sでは、エアバッグ35が、膨張完了時におけるスリット部55の凹みの先端55a(連通路部41Rの前縁41a)を、シート3の背もたれ部5における背もたれ面5bと略同等となる位置に配置させるように、構成されている(図9参照)。そのため、エアバッグ35の膨張完了時において、ショルダーベルト17の上端17a側の内側で膨張する部位(実施形態の場合、連通路部41Rの部位)が、乗員MP側に延びず、ショルダーベルト17と背もたれ部5との間にのみ介在されることから、この部位によって、乗員MPを押圧することを、的確に抑制できる。なお、このような点を考慮しなければ、エアバッグとして、膨張完了時におけるスリット部の凹みの先端を、背もたれ部の背もたれ面よりも前方に突出させるような位置に配置させる構成のものを、使用してもよい。
【0034】
なお、実施形態の乗員保護装置Sは、ヘッドレスト部6と背もたれ部5とを一体化させたシート3に搭載される構成であり、エアバッグ35は、ヘッドレスト部6を一体化させたシート3の外縁4a側に、折り畳まれて収納される構成である。そのため、乗員MPの側方における腰部MWから頭部MHにかけてを一体的に覆うエアバッグ35を、シート3の外縁4a側に連続的に収納させることができて、エアバッグ35を、収納領域から前方に突出させるように、円滑に展開しつつ膨張させることができる。勿論、このような点を考慮しなければ、ヘッドレストとシートバックとを別体とした構成のシートに、本発明の乗員保護装置を搭載させる構成としてもよい。
【0035】
また、実施形態では、右側を車外側Oとして、シートベルト15のショルダーベルト17を右側上方から繰り出すように配置されるシート3に、乗員保護装置Sを搭載させているが、勿論、左側を車外側としてショルダーベルトを左側上方から繰り出すように配置されるシートにも、本発明は適用可能である。このような構成のシートに搭載させる場合、エアバッグにおける左側カバー部に、スリット部を形成することとなる。
【符号の説明】
【0036】
1…車体、1b…挿通部材、3…シート、4…シートバック、5…背もたれ部、5b…背もたれ面、15…シートベルト、17…ショルダーベルト、17a…上端、18…ラップベルト、25…リトラクタ、30L,30R…インフレーター、35…エアバッグ、36L…左側カバー部、36R…右側カバー部、36c…前端、55…スリット部、55a…先端、MP…乗員、MU…上半身、MH…頭部、HU…頭頂部、MW…腰部、S…乗員保護装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9