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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
B23B51/00 S
B23B51/00 L
B23B51/00 K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021160339
(22)【出願日】2021-09-30
(65)【公開番号】P2023050297
(43)【公開日】2023-04-11
【審査請求日】2024-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晃
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-283933(JP,A)
【文献】実開昭63-70814(JP,U)
【文献】特開2021-109396(JP,A)
【文献】特開2004-195561(JP,A)
【文献】特開2008-149433(JP,A)
【文献】特開2009-184031(JP,A)
【文献】特開2003-285210(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0151842(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸回りに回転されるドリルであって、
中心軸に沿って延びるボディと、前記ボディの先端に位置する切刃と、前記切刃から前記ボディの後端側に向かって延びる切屑排出溝と、を備え、
前記ボディは、互いに異なる外径を有する第1外径区間と第2外径区間とを有し、
前記第1外径区間は前記ボディの先端部に位置し、前記第2外径区間は前記第1外径区間の後端側に連続する区間であり、
前記第1外径区間および前記第2外径区間はいずれも、前記ボディの外径が先端側から後端側に向かって徐々に細くなるバックテーパー形状であり、
前記第1外径区間のテーパー量は、前記第2外径区間のテーパー量よりも大きく、
前記第1外径区間と前記第2外径区間との境界部に、前記ボディの径方向内側へ凹む滑らかな凹曲面状の外径遷移区間を有する、
ドリル。
【請求項2】
前記外径遷移区間の軸方向長さは、前記切刃の外径の50%以下である、
請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記第2外径区間のテーパー量は、0.01/100以上である、
請求項1または2に記載のドリル。
【請求項4】
前記ボディのウェブは、互いに異なる芯厚を有する第1芯厚区間と、第2芯厚区間とを有し、
前記第1芯厚区間は前記ウェブの先端部に位置し、前記第2芯厚区間は前記第1芯厚区間の後端側に連続する区間であり、
前記第1芯厚区間および前記第2芯厚区間はいずれも、前記芯厚が先端側から後端側に向かって徐々に細くなるバックテーパー形状であり、
前記第1芯厚区間のテーパー量は、前記第2芯厚区間のテーパー量よりも大きい、
請求項1から3のいずれか1項に記載のドリル。
【請求項5】
前記第1芯厚区間と前記第2芯厚区間との境界部に、前記ウェブの径方向内側へ凹む滑らかな凹曲面状の芯厚遷移区間を有する、
請求項4に記載のドリル。
【請求項6】
前記芯厚遷移区間の軸方向位置は、前記外径遷移区間の軸方向位置に重なる、
請求項5に記載のドリル。
【請求項7】
前記第2芯厚区間のテーパー量は、0.01/100以上である、
請求項4から6のいずれか1項に記載のドリル。
【請求項8】
前記ボディは、前記切刃の外周端から前記切屑排出溝の端縁に沿って後端側へ延びるマージンを有し、
前記マージンの後端側の端部は、前記第2外径区間内に位置する、
請求項1から7のいずれか1項に記載のドリル。
【請求項9】
前記第1外径区間の軸方向長さは、前記切刃の外径の3倍以上9倍以下である、
請求項1から8のいずれか1項に記載のドリル。
【請求項10】
前記切屑排出溝の溝長は、前記切刃の外径の13倍以上である、
請求項1から9のいずれか1項に記載のドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、深穴加工用のドリルでは、切屑排出の観点から、ドリル先端側の部分の芯厚を、ドリル先端側からシャンク側に向かって徐々に細くなるテーパー状とし、所定位置からシャンク側の部分では一定の芯厚とした構成が知られている(例えば特許文献1~3参照)。さらに、特許文献1には、ドリル外径が軸方向に沿って変化する構成が開示されている。具体的に、特許文献1のドリルにおいて、ドリル先端側に位置する大径部は、シャンク側に向かってバックテーパーで小径となる形状を有し、小径部は一定の直径寸法の円柱形状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3720010号公報
【文献】米国特許第9844819号明細書
【文献】特開2005-169600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載のドリルのように、ドリル外径もシャンク側に向かって細くなる形状とすることで、切屑排出性をさらに向上させることができる。しかし、ドリル外周面の大径部と小径部との境界に段差が設けられていると、急激に形状が変化する段差部分に応力が集中しやすい課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
中心軸回りに回転されるドリルであって、中心軸に沿って延びるボディと、前記ボディの先端に位置する切刃と、前記切刃から前記ボディの後端側に向かって延びる切屑排出溝と、を備え、前記ボディは、互いに異なる外径を有する第1外径区間と第2外径区間とを有し、前記第1外径区間は前記ボディの先端部に位置し、前記第2外径区間は前記第1外径区間の後端側に連続する区間であり、前記第1外径区間および前記第2外径区間はいずれも、前記ボディの外径が先端側から後端側に向かって徐々に細くなるバックテーパー形状であり、前記第1外径区間のテーパー量は、前記第2外径区間のテーパー量よりも大きく、前記第1外径区間と前記第2外径区間との境界部に、前記ボディの径方向内側へ凹む滑らかな凹曲面状の外径遷移区間を有する、ドリル。
【0006】
この構成によれば、第1外径区間と第2外径区間の両方がバックテーパー形状であることにより、被削材とボディとのクリアランスを大きくできるので、加工穴内でのスラッジ溜まりを抑制でき、優れた切屑排出性を得ることができる。
また、第1外径区間と第2外径区間との境界部に、ボディの径方向内側へ凹む滑らかな凹曲面状の外径遷移区間が設けられる。この構成により、外径遷移区間において、テーパー量を緩やかに変化させることができるため、ドリルを用いた切削加工時に、第1外径区間と第2外径区間との境界部に応力が集中するのを抑制できる。これにより、十分な工具剛性を有するドリルとすることができる。
【0007】
前記外径遷移区間の軸方向長さは、前記切刃の外径の50%以下である構成としてもよい。この構成によれば、切屑排出性を保持しつつ、外径遷移区間における応力集中を緩和できる。
【0008】
前記第2外径区間のテーパー量は、0.01/100以上である構成としてもよい。この範囲とすることで、第2外径区間の後端部が過度に細くなるのを防ぎ、ドリルの強度を保つことができる。
【0009】
前記ボディのウェブは、互いに異なる芯厚を有する第1芯厚区間と、第2芯厚区間とを有し、前記第1芯厚区間は前記ウェブの先端部に位置し、前記第2芯厚区間は前記第1芯厚区間の後端側に連続する区間であり、前記第1芯厚区間および前記第2芯厚区間はいずれも、前記芯厚が先端側から後端側に向かって徐々に細くなるバックテーパー形状であり、前記第1芯厚区間のテーパー量は、前記第2芯厚区間のテーパー量よりも大きい構成としてもよい。この構成によれば、いずれもバックテーパー形状の第1外径区間および第2外径区間を有するボディにおいて、溝長のほぼ全体にわたって一定以上の深さを有する切屑排出溝を形成しやすくなる。これにより、切屑排出溝からクリアランスへの切屑のはみ出しを抑制でき、切屑を円滑に排出できる。
【0010】
前記第1芯厚区間と前記第2芯厚区間との境界部に、前記ウェブの径方向内側へ凹む滑らかな凹曲面状の芯厚遷移区間を有する構成としてもよい。この構成により、芯厚遷移区間において、ウェブのテーパー量を緩やかに変化させることができるため、ドリルを用いた切削加工時に、第1芯厚区間と第2芯厚区間との境界部において切屑が引っかかりにくくなる。これにより、さらに良好な切屑排出性を得ることができる。
【0011】
前記芯厚遷移区間の軸方向位置は、前記外径遷移区間の軸方向位置に重なる構成としてもよい。この構成によれば、ボディの外径のテーパー量が変化する位置と、ウェブの芯厚のテーパー量が変化する位置が軸方向において一致する。これにより、軸方向における切屑排出溝の深さの変化を抑えることができ、円滑に切屑を排出しやすくなる。
【0012】
前記第2芯厚区間のテーパー量は、0.01/100以上である構成としてもよい。この範囲とすることで、第2芯厚区間の後端部が過度に細くなるのを防ぎ、ドリルの強度を保つことができる。
【0013】
前記ボディは、前記切刃の外周端から前記切屑排出溝の端縁に沿って後端側へ延びるマージンを有し、前記マージンの後端側の端部は、前記第2外径区間内に位置する構成としてもよい。この構成によれば、クーラントの流路となる二番取り面を後端側へ長く延ばすことができるため、被削材とボディとのクリアランスにクーラントを流しやすくなり、スラッジ溜まりを抑制できる。
【0014】
前記第1外径区間の軸方向長さは、前記切刃の外径の3倍以上9倍以下である構成としてもよい。この範囲とすることで、第1外径区間におけるテーパー量の管理がしやすくなる。また、第1外径ボディの外径が過度に細くなるのを抑制できる。
【0015】
前記切屑排出溝の溝長は、前記切刃の外径の13倍以上である構成としてもよい。切屑詰まりが生じやすいドリルにおいて、切屑排出性を改善できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、工具剛性を保持しつつ切屑排出性を向上させたドリルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)は、実施形態のドリルの側面図である、(b)は、切屑排出溝を直溝として示す模式断面図である。
図2図2は、実施形態のドリルの先端部を拡大して示す部分側面図である。
図3図3は、実施形態のドリルの正面図である。
図4図4は、図1(b)の境界区間付近を拡大して示す図である。
図5図5(a)は、変形例のドリルのボディを示す側面図である、(b)は変形例のドリルの切屑排出溝を直溝として示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1(a)は、本実施形態のドリルの側面図である。図1(b)は、切屑排出溝を直溝として示す模式断面図である。図2は、本実施形態のドリルの先端部を拡大して示す部分側面図である。図3は、本実施形態のドリルの正面図である。図4は、図1(b)の境界区間付近を拡大して示す図である。
【0019】
本実施形態のドリル1は、深穴加工用のドリルである。
ドリル1は、中心軸Oを中心とする略円柱状である。ドリル1は、それぞれ中心軸Oに沿って延びるボディ10およびシャンク11を有する。ドリル1は、ボディ10の先端面を被削材に対向させ中心軸O周りに回転することで被削材への穿孔を行う。
本実施形態のドリル1は、超硬合金等からなる基材を有するソリッドドリルである。ドリル1は、基材表面を被覆する金属窒化物等からなる硬質皮膜を有していてもよい。
【0020】
ドリル1の中心軸Oに沿う方向(中心軸Oが延びる方向)を軸方向と呼ぶ。軸方向のうち、シャンク11からボディ10へ向かう方向を先端側と呼び、ボディ10からシャンク11へ向かう方向を後端側と呼ぶ。
中心軸Oと直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Oに接近する方向を径方向内側と呼び、中心軸Oから離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
中心軸O回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。また、周方向のうち、穴あけ加工時にボディ10が回転する方向を回転方向前方側と呼び、その反対側を回転方向後方側と呼ぶ。
【0021】
ボディ10は、ボディ10の先端に位置する一対の切刃15、15と、切刃15、15から後端側に向かってボディ10の外周を螺旋状に延びる一対の切屑排出溝14、14と、を有する。
ドリル1には、シャンク11の後端面から先端側に向けて2つのクーラント穴9が中心軸Oに関して対称に、切屑排出溝14と等しいリードで捩れるように形成されている。これらのクーラント穴9は、ボディ10において切屑排出溝14の間を通り、先端逃げ面13にそれぞれ開口する。ドリル1を用いた穴明け加工時には、2つのクーラント穴9から切削油剤や圧縮空気等のクーラントが噴出される。また、先端逃げ面13は、ドリル回転方向Tとは反対側に向けて逃げ角が大きくなる2段の逃げ面によって形成される。クーラント穴9は、上記2段の逃げ面のうちドリル回転方向Tとは反対側の逃げ面に開口する。
【0022】
切屑排出溝14は、ボディ10の外周において、切刃15から中心軸O方向の後端側へ向かうに従い一定のねじれ角でドリル回転方向T後方側にねじれる。一対の切屑排出溝14、14は、中心軸Oに関して対称に配置されている。切屑排出溝14の溝長L0(中心軸O方向に沿った長さ)は、ドリル1の切刃15の外径Dに対して8.0D~30.0Dの範囲である。なお、切刃15の外径は、切刃15の外周端における中心軸O回りの回転軌跡がなす円の外径、すなわちドリル径である。
【0023】
切刃15、15は、ボディ10の先端において、一対の切屑排出溝14、14のドリル回転方向T前方側を向く内壁面と先端逃げ面13との交差稜線部にそれぞれ形成されている。一対の切刃15、15は、中心軸Oに関して対称に配置されている。切刃15は、ボディ10の外周側(径方向外側)に向かうに従い後端側に延び、先端角が与えられている。
【0024】
ボディ10は、図1(b)に示すように、軸方向において、互いに異なる外径を有する第1外径区間21と、第2外径区間22とを有する。図1(b)では、切屑排出溝14を直溝として、ボディ10の外径および芯厚を表示している。
【0025】
図1(b)に示すように、第1外径区間21はボディ10の先端部に位置し、第2外径区間22は第1外径区間21の後端側に連続する区間である。第1外径区間21および第2外径区間22はいずれも、ボディ10の外径D1が先端側から後端側に向かって徐々に細くなるバックテーパー形状である。
【0026】
第1外径区間21のテーパー量は、第2外径区間22のテーパー量よりも大きい。すなわち、第1外径区間21の軸方向長さに対する第1外径区間21両端の外径D1の変化量は、第2外径区間22の軸方向長さに対する第2外径区間22両端の外径D1の変化量よりも大きい。この構成により、ボディ10の先端部による過大なバニシングを抑制でき、切屑排出性も高めることができる。第1外径区間21のテーパー量は、例えば0.1/100~1.0/100の範囲である。第2外径区間22のテーパー量は、例えば0.01/100~0.1/100の範囲である。
【0027】
第2外径区間22のテーパー量は、0.01/100以上であることが好ましい。この範囲とすることで、例えば、第2外径区間22の軸方向長さL2が、切刃15の外径Dの50倍程度もある長尺のドリル1においても、バックテーパー形状を確保しながら、第2外径区間22のシャンク11側の端部が過度に細くなるのを防ぎ、ドリル1の強度を保つことができる。
【0028】
本実施形態のドリル1は、図4の拡大図に示すように、第1外径区間21と第2外径区間22との境界部に、ボディ10の径方向内側へ凹む滑らかな凹曲面状の外径遷移区間24を有する。すなわち、第1外径区間21と第2外径区間22は、軸方向において、段差なく滑らかに接続される。外径遷移区間24において、外周面のテーパー角は、第1外径区間21から第2外径区間22に向かって連続的に変化する。
【0029】
本実施形態の場合、第1外径区間21のうち外径遷移区間24を除く区間(直線区間21a)では、外径D1は、ほぼ一定の割合でドリル後端に向かって減少する。また、第2外径区間22のうち外径遷移区間24を除く区間(直線区間22a)においても、外径D1は、ほぼ一定の割合でドリル後端に向かって減少する。外径遷移区間24は、外周面のテーパ-角が、直線区間21aのテーパー角から、直線区間22aのテーパー角へ連続的に変化する区間である。したがって、外径遷移区間24のテーパー角は、直線区間22aのテーパー角以上、かつ直線区間21aのテーパー角以下の角度範囲にある。
【0030】
外径遷移区間24の軸方向長さは、切刃15の外径の50%以下であることが好ましい。この構成によれば、切屑排出性を保持しつつ、外径遷移区間24における応力集中を緩和できる。直線区間21a、22aのテーパー角を固定して外径遷移区間24の軸方向長さを大きくすると、外径遷移区間24における外径D1が大きくなるため、加工穴の壁面とボディ10の外周面との隙間が小さくなり、切屑排出性が低下する傾向となる。
【0031】
本実施形態において、第1外径区間21の軸方向長さL1は、切刃15の外径Dの3倍以上9倍以下であることが好ましい。軸方向長さL1が、切刃15の外径Dの3倍未満であると、第1外径区間21が短すぎるために、第1外径区間21におけるバックテーパー量の管理が難しく、製造性が低下する。一方、軸方向長さL1が、切刃15の外径Dの9倍を超えると、第1外径区間21の後端における外径D1の縮小幅が過大となり、工具強度を保つことが難しくなる。あるいは、強度低下を防ぐために第1外径区間21のテーパー量を小さくすると、第2外径区間22のテーパー量はさらに小さくなるため、バックテーパー形状の第2外径区間22による切屑排出性の改善効果が低くなる。
【0032】
本実施形態の構成は、溝長L0は、切刃15の外径Dに対して13D以上のドリルに好適な構成である。溝長L0が13D以上のドリルは、切刃15の外径Dに対して穴深さが10倍以上の加工に用いられる。このような深穴加工では、切屑詰まりが顕著に生じやすくなる。本実施形態のドリル1によれば、上記した優れた切屑排出性により、10D以上の深穴加工用途における切屑排出の課題を解決できる。
【0033】
本実施形態において、ボディ10のウェブ30は、互いに異なる芯厚D2を有する第1芯厚区間31と、第2芯厚区間32とを有する。第2芯厚区間32のシャンク11側には、切屑排出溝14の後端部の溝切上がり区間33が連続する。
【0034】
ボディ10の芯厚D2は、切屑排出溝14の底部によって形成されるウェブ30の厚さ(直径)である。第1芯厚区間31はウェブ30の先端部に位置し、第2芯厚区間32は第1芯厚区間31の後端側に連続する。第1芯厚区間31および第2芯厚区間32はいずれも、芯厚D2が先端側から後端側に向かって徐々に細くなるバックテーパー形状である。溝切り上がり区間33は、切屑排出溝14の終端部であり、ドリル後端に向かって切屑排出溝14が浅くなる区間である。
【0035】
第1芯厚区間31のテーパー量は、第2芯厚区間32のテーパー量よりも大きい。すなわち、第1芯厚区間31の軸方向長さに対する第1芯厚区間31両端の芯厚D2の変化量は、第2芯厚区間32の軸方向長さに対する第2芯厚区間32両端の芯厚D2の変化量よりも大きい。この構成により、第1外径区間21における切屑排出溝14の深さと、第2外径区間22における切屑排出溝14の深さが顕著に異なってしまうのを防げる。
第1芯厚区間31のテーパー量は、例えば0.1/100~1.0/100の範囲である。第2芯厚区間32のテーパー量は、例えば0.01/100~0.1/100の範囲である。第2芯厚区間32のテーパー量は、0.01/100以上であることが好ましい。この範囲とすることで、第2芯厚区間32のシャンク11側の端部が過度に細くなるのを防ぎ、ドリル1の強度を保つことができる。
【0036】
本実施形態のドリル1は、図4の拡大図に示すように、第1芯厚区間31と第2芯厚区間32との境界部に、ウェブ30の径方向内側へ凹む滑らかな凹曲面状の芯厚遷移区間34を有する。すなわち、第1芯厚区間31と第2芯厚区間32は、軸方向において、段差なく滑らかに接続される。芯厚遷移区間34において、ウェブ30のテーパー角は、第1芯厚区間31から第2芯厚区間32に向かって連続的に変化する。
【0037】
本実施形態の場合、第1芯厚区間31のうち芯厚遷移区間34を除く区間(直線区間31a)では、芯厚D2は、ほぼ一定の割合でドリル後端に向かって減少する。また、第2芯厚区間32のうち芯厚遷移区間34を除く区間(直線区間32a)においても、芯厚D2は、ほぼ一定の割合でドリル後端に向かって減少する。芯厚遷移区間34は、ウェブ30のテーパ-角が、直線区間31aのテーパー角から、直線区間32aのテーパー角へ連続的に変化する区間である。したがって、芯厚遷移区間34のテーパー角は、直線区間32aのテーパー角以上、かつ直線区間31aのテーパー角以下の角度範囲にある。
【0038】
芯厚遷移区間34の軸方向長さは、切刃15の外径の50%以下であることが好ましい。この構成によれば、良好な切屑排出性を得やすくなる。直線区間31a、32aのテーパー角を固定して芯厚遷移区間34の軸方向長さを大きくすると、芯厚遷移区間34における芯厚D2が大きくなるため、切屑排出溝14の深さが小さくなり、切屑排出性が低下する傾向となる。
【0039】
以上の構成を備える本実施形態のドリル1は、ボディ10が中心軸O回りに回転されつつ中心軸O方向の先端側へ向かって送られることにより、ボディ10の先端に位置する切刃15、15で被削材を切削して、被削材に加工穴を形成する。切刃15、15から生成される切屑は、切屑排出溝14、14内を中心軸O方向の後端側へ向かって排出される。
【0040】
本実施形態では、第1外径区間21と第2外径区間22の両方が、ドリル先端からシャンク11に向けて外径D1が徐々に減少するバックテーパー形状である。この構成により、被削材とボディ10とのクリアランスを大きくできるので、加工穴内でのスラッジ溜まりを抑制でき、優れた切屑排出性を得ることができる。
【0041】
また本実施形態では、第1外径区間21と第2外径区間22との境界部に、ボディ10の径方向内側へ凹む滑らかな凹曲面状の外径遷移区間24が設けられる。この構成により、外径遷移区間24において、テーパー量を緩やかに変化させることができるため、ドリル1を用いた切削加工時に、第1外径区間21と第2外径区間22との境界部に応力が集中するのを抑制できる。これにより、十分な工具剛性を有するドリル1とすることができる。
【0042】
また本実施形態では、ウェブ30の第1芯厚区間31と第2芯厚区間32の両方が、ドリル先端からシャンク11に向けて芯厚D2が徐々に減少するバックテーパー形状である。この構成によれば、いずれもバックテーパー形状の第1外径区間21および第2外径区間22を有するボディ10において、溝長L0のほぼ全体にわたって一定以上の深さを有する切屑排出溝14を形成しやすくなる。これにより、切屑排出溝14からクリアランスへの切屑のはみ出しを抑制でき、切屑を円滑に排出できる。
【0043】
また本実施形態では、第1芯厚区間31と第2芯厚区間32との境界部に、ウェブ30の径方向内側へ凹む滑らかな凹曲面状の芯厚遷移区間34が設けられる。この構成により、芯厚遷移区間34において、ウェブ30のテーパー量を緩やかに変化させることができるため、ドリル1を用いた切削加工時に、第1芯厚区間31と第2芯厚区間32との境界部において切屑が引っかかりにくくなる。これにより、さらに良好な切屑排出性を得ることができる。
【0044】
本実施形態では、図4に示すように、芯厚遷移区間34と外径遷移区間24の軸方向位置が互いに重なる。この構成によれば、ボディ10の外径D1のテーパー量が変化する位置と、ウェブ30の芯厚D2のテーパー量が変化する位置が軸方向において一致する。これにより、軸方向における切屑排出溝14の深さの変化を抑えることができ、円滑に切屑を排出しやすくなる。
【0045】
さらに本実施形態の場合、第1外径区間の外径D1のテーパー量と第1芯厚区間31の芯厚D2のテーパー量はほぼ同等である。第2外径区間22の外径D1のテーパー量と第2芯厚区間32の芯厚D2のテーパー量はほぼ同等である。この構成によれば、第1芯厚区間31および第2芯厚区間32の全体にわたって切屑排出溝14の深さをほぼ一定にできる。切屑排出溝14の内側に切屑が詰まりにくくなる。
なお、第1外径区間の外径D1のテーパー量と第1芯厚区間31の芯厚D2のテーパー量とを互いに異ならせることもできる。また、第2外径区間22の外径D1のテーパー量と第2芯厚区間32の芯厚D2のテーパー量とを互いに異ならせることもできる。すなわち、外径D1と芯厚D2のテーパー量を異ならせることにより、切屑排出溝14の軸方向の深さ分布を調整してもよい。
【0046】
ボディ10は、2つの切屑排出溝14、14の間に、ランド16、16を有する。ランド16のドリル回転方向T前方側の端部に第1マージン16Aが設けられている。ランド16のドリル回転方向T後方側の端部に第2マージン16Bが設けられている。第1マージン16Aおよび第2マージン16Bは、切屑排出溝14の端縁に沿って螺旋状に延びる。ボディ10は、第1マージン16Aと第2マージン16Bとの間に、径方向内側に凹む二番取り面16Cを有する。
【0047】
第1マージン16Aおよび第2マージン16Bは、ボディ10の先端部分にのみ形成されている。本実施形態の場合、図1に示す二番取り面16Cの軸方向長さL3は、切屑排出溝14の溝長L0の4割程度である。本実施形態のドリル1では、第1マージン16Aの後端側の端部、あるいは二番取り面16Cの後端側の端部が、第2外径区間22の区間内に位置する。この構成によれば、クーラントの流路となる二番取り面16Cを後端側へ長く延ばすことができるため、被削材とボディ10とのクリアランスにクーラントを流しやすくなり、スラッジ溜まりを抑制できる。
【0048】
第2外径区間22内における第1マージン16Aまたは二番取り面16Cの後端位置は適宜変更可能である。本実施形態のドリル1では、第2外径区間22がバックテーパー形状であるため、二番取り面16Cの軸方向長さL3を比較的短くしても、第2外径区間22のクリアランスにクーラントが流れやすい。二番取り面16Cの軸方向長さL3を短くすることで、ランド16の肉厚を確保でき、工具剛性を保持しやすくなる。第1マージン16Aまたは二番取り面16Cの後端位置は、例えば、第2外径区間22の先端位置から、第2外径区間22の軸方向長さL2の5%~40%の位置、あるいは10%~30%の位置とすることができる。
【0049】
なお、第1マージン16Aおよび第2マージン16Bの構成は本実施形態に限定されない。例えば、被削材とボディ10とのクリアランスを大きくできる場合には、第1マージン16Aあるいは二番取り面16Cの後端側の端部が、第1外径区間21の区間内に配置されていてもよい。また、第2マージン16Bは必要に応じて設ければよく、ボディ10は第2マージン16Bを備えない構成とすることもできる。
【0050】
(変形例)
図5(a)は、変形例のドリル1のボディ10を示す側面図である。図5(b)は変形例のドリル1の切屑排出溝14を直溝として示す模式断面図である。
図5に示すドリル1は、ウェブ30における芯厚遷移区間34の形状が、図1から図4に示した形状と異なる。
具体的に、変形例の芯厚遷移区間34は、第2芯厚区間32の直線区間32aとは段差無く滑らかに接続されているが、先端側の第1芯厚区間31の直線区間31aとは、段差34aを介して接続されている。
【0051】
変形例のドリル1では、芯厚遷移区間34が、先端側(直線区間31a側)に向かうに従って、中心軸Oに対する傾斜角であるテーパー角が大きくなる。芯厚遷移区間34のテーパー角は、芯厚遷移区間34と直線区間31aとの接続部において最大となる。芯厚遷移区間34と直線区間31aとの接続部における芯厚遷移区間のテーパー角は、直線区間31aのテーパー角よりも大きい。一方、芯厚遷移区間34のテーパー角は、後端側の直線区間32aとの接続部において、直線区間32aのテーパー角に一致する。
【0052】
本変形例の構成では、芯厚遷移区間34の先端側に段差34aがあるが、この段差の壁面はドリル1の後端側を向いている。切刃15で生じた切屑は、切屑排出溝14内をドリル先端から後端に向かって移動するため、段差34aが切屑の移動を阻害することはほぼない。そして、本変形例の構成によれば、芯厚遷移区間34の先端側の端部が段差になっていることで、第2芯厚区間32において切屑排出溝14の深さを大きく確保できる。これにより、第2芯厚区間32に進入した切屑を後端側へ排出しやすくなる。
【0053】
また、芯厚遷移区間34に段差34aを設けることで、芯厚遷移区間34の軸方向長さを短くできる。これにより、第1芯厚区間31の直線区間31aおよび第2芯厚区間32の直線区間32aのいずれかまたは両方の軸方向長さを大きくできる。直線区間31a、32aのテーパー量の管理がしやすくなり、製造性が向上する。
【0054】
なお、本変形例の外径遷移区間24の形状は、図1および図4に示した実施形態の形状と共通である。したがって、変形例のドリル1を用いた切削加工時にも、外径遷移区間24に応力が集中するのを抑制できる。
【0055】
本変形例においても、芯厚遷移区間34の軸方向位置は、外径遷移区間24の軸方向位置に重なる。外径D1のテーパー角が変化する位置と、芯厚D2のテーパー角が変化する位置が、一致している。第1芯厚区間31と第2芯厚区間32のそれぞれの区間内で、切屑排出溝14の深さがそれぞれほぼ一定になる。切屑排出溝14の内側を移動する切屑の挙動を安定させやすい。
【符号の説明】
【0056】
1…ドリル
9…クーラント穴
10…ボディ
11…シャンク
13…先端逃げ面
14…切屑排出溝
15…切刃
16…ランド
16A…第1マージン
16B…第2マージン
16C…二番取り面
21…第1外径区間
21a,22a,31a,32a…直線区間
22…第2外径区間
24…外径遷移区間
30…ウェブ
31…第1芯厚区間
32…第2芯厚区間
33…溝切上がり区間
34…芯厚遷移区間
34a…段差
D…切刃の外径
D1…外径
D2…芯厚
L0…溝長
L1,L2,L3…軸方向長さ
O…中心軸
T…ドリル回転方向
図1
図2
図3
図4
図5