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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】内燃機関用の点火コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/12 20060101AFI20241203BHJP
   F02P 15/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01F38/12 Z
H01F38/12 L
F02P15/00 303A
F02P15/00 303E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021162890
(22)【出願日】2021-10-01
(65)【公開番号】P2023053698
(43)【公開日】2023-04-13
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】入江 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】山口 宏尚
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0307467(US,A1)
【文献】特開2007-059259(JP,A)
【文献】特開2019-132370(JP,A)
【文献】実開昭63-096776(JP,U)
【文献】国際公開第2017/047390(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/149195(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/12
F02P 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイル(21)及び二次コイル(22)と、
電子回路が形成された回路基板(6)と、
前記一次コイル、前記二次コイル及び前記回路基板が収容されたコイルケース(5)と、
前記コイルケースに配置され、複数のコネクタ端子(31)が設けられたコネクタ(3)と、を備え、
前記回路基板のいずれかの端部には、導体層(62A)が内側面(611)に設けられた溝部(61)が複数形成されており、
前記一次コイルのコイル端部(211)、前記二次コイルのコイル端部(221)、前記一次コイルのコイル端部に接続された中継端子(23)、及び前記二次コイルのコイル端部に接続された中継端子(23)のうちの少なくともいずれか、並びに複数の前記コネクタ端子のうちの少なくともいずれかは、前記溝部に挿入されて前記導体層に電気接続されている、内燃機関用の点火コイル(1)。
【請求項2】
前記溝部は、前記回路基板の、前記コイルケースの開口部(53)の側に位置する端部(601)において、前記回路基板の板厚方向(T)に貫通する状態で、前記回路基板の幅方向(B)に並んで複数形成されており、
前記コイル端部又は前記中継端子は、前記板厚方向の一方側から前記溝部に挿入されており、
前記コネクタ端子は、前記板厚方向の他方側から前記溝部に挿入されている、請求項1に記載の内燃機関用の点火コイル。
【請求項3】
前記中継端子及び前記コネクタ端子は、断面が扁平形状に形成されており、
前記中継端子及び前記コネクタ端子の厚み方向は、前記回路基板の前記幅方向に向けられており、
前記中継端子及び前記コネクタ端子の前記厚み方向の両側の表面は、前記溝部における、前記幅方向の両側に位置する一対の前記内側面に設けられた前記導体層に接触している、請求項2に記載の内燃機関用の点火コイル。
【請求項4】
前記溝部の一対の前記内側面の少なくとも一方における、前記回路基板の前記板厚方向及び前記幅方向の両方に直交する深さ方向(F)の一部には、一対の前記内側面の間における前記幅方向の幅を縮小するよう突出する突出部(613)が形成されており、
前記中継端子及び前記コネクタ端子の少なくとも一方の前記厚み方向の表面は、前記突出部に設けられた前記導体層に接触している、請求項3に記載の内燃機関用の点火コイル。
【請求項5】
前記中継端子及び前記コネクタ端子の少なくとも一方の前記厚み方向の少なくとも一方の表面には、前記溝部の前記内側面に接触する凸部(614)が形成されている、請求項3又は4に記載の内燃機関用の点火コイル。
【請求項6】
前記回路基板における、前記突出部の前記幅方向の外側に隣接する位置には、前記回路基板を前記板厚方向に貫通して形成され、前記突出部に弾性力を付与するための貫通孔(616)が形成されている、請求項4に記載の内燃機関用の点火コイル。
【請求項7】
前記回路基板は、前記コネクタの前記コネクタ端子を利用して外部から送られるスイッチング信号によって、前記一次コイルへの通電及び通電の遮断を行う機能を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の内燃機関用の点火コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用の点火コイルは、内燃機関としてのエンジンの燃焼室において、燃料と燃焼用空気との混合気に点火するために用いられる。点火コイルは、一次コイル、一次コイルの外周側に同軸状に配置されて一次コイルに磁気的に結合される二次コイル、一次コイルへの通電及び通電の遮断を行う回路基板等を備える。また、一次コイル、二次コイル、イグナイタ等の各構成部品はコイルケース内に配置され、コイルケース内の隙間には、各構成部品を絶縁して固着する充填樹脂が充填される。回路基板は、モールド樹脂によってモールドされた状態で充填樹脂の中に埋設されることの他に、モールドされない状態で充填樹脂の中に埋設されることもある。
【0003】
また、コイルケースには、コネクタ端子が設けられたコネクタ部が配置されている。そして、回路基板から引き出された回路端子とコネクタ端子とが接続されており、一次コイル及び二次コイルのコイル端部が、中継端子等を介してコネクタ端子又は回路端子に接続されている。
【0004】
例えば、特許文献1の点火コイルにおいては、コイルの複数の出力端子とコネクタの複数のコネクタ端子とが、電子回路基板に設けられた複数の回路端子に、圧入によって接続されることが記載されている。この圧入による接続を行えば、溶接を行う際に生じるスパッタ、ヒューム等の異物がコイルに付着することがなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2010/149195A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の点火コイルにおいては、電子回路基板の端面又は表面から突出する状態で複数の回路端子を設ける必要がある。この複数の回路端子を設けるために、点火コイルにおける部品点数が多く、点火コイルの製造工程を簡略化することの妨げになっている。また、複数の回路端子を設けることが、点火コイルを小型化することの妨げとなっている。従って、点火コイルの生産性の向上及び小型化を図るためには更なる工夫が必要とされる。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、点火コイルの生産性の向上及び小型化を図ることができる内燃機関用の点火コイルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
一次コイル(21)及び二次コイル(22)と、
電子回路が形成された回路基板(6)と、
前記一次コイル、前記二次コイル及び前記回路基板が収容されたコイルケース(5)と、
前記コイルケースに配置され、複数のコネクタ端子(31)が設けられたコネクタ(3)と、を備え、
前記回路基板のいずれかの端部には、導体層(62A)が内側面(611)に設けられた溝部(61)が複数形成されており、
前記一次コイルのコイル端部(211)、前記二次コイルのコイル端部(221)、前記一次コイルのコイル端部に接続された中継端子(23)、及び前記二次コイルのコイル端部に接続された中継端子(23)のうちの少なくともいずれか、並びに複数の前記コネクタ端子のうちの少なくともいずれかは、前記溝部に挿入されて前記導体層に電気接続されている、内燃機関用の点火コイル(1)にある。
【発明の効果】
【0009】
前記一態様の内燃機関用の点火コイルにおいては、回路基板のいずれかの端部に、導体層が内側面に設けられた溝部が複数形成されている。そして、一次コイルのコイル端部、二次コイルのコイル端部、一次コイルのコイル端部に接続された中継端子、及び二次コイルのコイル端部に接続された中継端子のうちの少なくともいずれか、並びに複数のコネクタ端子のうちの少なくともいずれかは、溝部に挿入されて導体層に電気接続されている。
【0010】
このような導体層を有する溝部の形成により、回路基板には、端子等の金具を設ける必要がなくなる。そのため、点火コイルにおける部品点数を少なくすることができ、点火コイルの製造工程を簡略化することができる。また、点火コイルにおいて、回路基板に対するコイル端部、中継端子又はコネクタ端子の電気接続を行うスペースを小さくすることができる。そのため、点火コイルの小型化を図ることができる。
【0011】
それ故、前記一態様の内燃機関用の点火コイルによれば、点火コイルの生産性の向上及び小型化を図ることができる。
【0012】
なお、本発明の一態様において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態1にかかる、内燃機関用の点火コイルを正面から見た状態の断面で示す説明図である。
図2図2は、実施形態1にかかる、充填樹脂が充填されていない状態の内燃機関用の点火コイルを上方から見た状態の断面で示す説明図である。
図3図3は、実施形態1にかかる、充填樹脂が充填されていない状態の内燃機関用の点火コイルを上方から見た状態で示す説明図である。
図4図4は、実施形態1にかかる、中継端子及びコネクタ端子が溝部に挿入された回路基板の一部を示す斜視図である。
図5図5は、実施形態1にかかる、中継端子及びコネクタ端子が溝部に挿入される前の回路基板の一部を示す斜視図である。
図6図6は、実施形態1にかかる、中継端子又はコネクタ端子が溝部に挿入された回路基板の一部を示す断面図である。
図7図7は、実施形態2にかかる、中継端子又はコネクタ端子が溝部に挿入された回路基板の一部を示す断面図である。
図8図8は、実施形態2にかかる、中継端子又はコネクタ端子が溝部に挿入された他の回路基板の一部を示す断面図である。
図9図9は、実施形態2にかかる、中継端子又はコネクタ端子が溝部に挿入された他の回路基板の一部を示す断面図である。
図10図10は、実施形態2にかかる、中継端子又はコネクタ端子が溝部に挿入された他の回路基板の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前述した内燃機関用の点火コイルにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態の内燃機関用の点火コイル1は、図1図3に示すように、一次コイル21及び二次コイル22と、電子回路が形成された回路基板6と、一次コイル21、二次コイル22及び回路基板6が収容されたコイルケース5と、コイルケース5に配置され、複数のコネクタ端子31が設けられたコネクタ3とを備える。回路基板6のいずれかの端部601には、導体層62Aが内側面611に設けられた溝部61が複数形成されている。
【0015】
一次コイル21の一対のコイル端部211にそれぞれ接続された中継端子23、二次コイル22の低電圧側L2のコイル端部221に接続された中継端子23、及び複数のコネクタ端子31は、溝部61に挿入されて導体層62Aに電気接続されている。
【0016】
以下に、本形態の内燃機関用の点火コイル1について詳説する。
(点火コイル1)
図1に示すように、点火コイル1は、車両の内燃機関としてのエンジンにおいて、シリンダヘッドカバーに配置され、シリンダヘッドに配置されたスパークプラグから、シリンダヘッドの燃焼室内に火花放電を発生させるために用いられる。本形態の点火コイル1は、車載用のものである。点火コイル1は、一次コイル21、二次コイル22等によって構成されたコイル本体部11と、コイル本体部11から突出して、二次コイル22とスパークプラグとを電気的に接続するためのジョイント部12とを有する。コイル本体部11は、シリンダヘッドカバーに配置され、ジョイント部12は、シリンダヘッドカバーのプラグホールに配置される。
【0017】
図1及び図2に示すように、点火コイル1は、一次コイル21、二次コイル22及び回路基板6の他に、内側コア41、外側コア42、コイルケース5、充填樹脂7等を備える。内側コア41は、一次コイル21及び二次コイル22の内側に配置されており、外側コア42は、一次コイル21及び二次コイル22の外側に配置されている。一次コイル21、二次コイル22、内側コア41、外側コア42及び回路基板6はコイルケース5内に収容されている。コイルケース5内における隙間は、充填樹脂7によって充填されている。なお、図2及び図3は、充填樹脂7がコイルケース5内に充填されていない状態の点火コイル1を示す。
【0018】
(軸方向L,装着方向D,横方向W)
図1図3に示すように、点火コイル1において、一次コイル21及び二次コイル22の中心軸線が延びる方向を軸方向Lという。軸方向Lにおいて、二次コイル22に高電圧が生じる側を高電圧側L1といい、高電圧側L1の反対側を低電圧側L2という。軸方向Lに直交する方向であって、コイルケース5の底部52と開口部53とが並ぶ方向を装着方向Dという。装着方向Dにおいて、底部52が位置し、スパークプラグが配置される側を底側D1といい、底側D1の反対側であって開口部53が位置する側を開口側D2という。また、軸方向L及び装着方向Dの両方に直交する方向を横方向Wという。
【0019】
(一次コイル21)
図1及び図2に示すように、一次コイル21は、巻線としてのマグネットワイヤを、熱可塑性樹脂からなる一次スプール210の外周面に巻き付けることによって形成されている。一次コイル21は、導電性の導体と、導体の周りに設けられた絶縁性の被覆層とによって形成されている。一次コイル21は、エンジン制御装置からの指令を受けた回路基板6のスイッチング素子によって、通電及び通電の遮断が繰り返されるものである。一次コイル21の巻線の端部は、中継端子23を介して、回路基板6における、電源又はスイッチング素子の導体層に接続されている。
【0020】
(二次コイル22)
図1及び図2に示すように、二次コイル22は、一次コイル21の外側において、一次コイル21と同軸状に配置されている。二次コイル22は、巻線としてのマグネットワイヤを、熱可塑性樹脂からなる二次スプール220の外周面に巻き付けることによって形成されている。二次コイル22は、導電性の導体と、導体の周りに設けられた絶縁性の被覆層とによって形成されている。
【0021】
二次コイル22の巻線は一次コイル21の巻線よりも細く、二次コイル22の巻線数は一次コイル21の巻線数よりも多い。二次コイル22は、一次コイル21への通電が遮断されたときに、相互誘導作用による誘導起電力を発生させるものである。一次コイル21及び二次コイル22の中心軸線は、コイルケース5の開口部53に対して直交する方向に向けられている。二次コイル22の巻線の低電圧側L2の端部は、中継端子23を介して、回路基板6における、グラウンド又は電源の導体層に接続されている。二次コイル22の巻線の高電圧側L1の端部は、スパークプラグの中心側電極に繋がる高圧端子24に接続されている。
【0022】
(中継端子23)
図に示すように、本形態の一次コイル21の一対のコイル端部211には、回路基板6の溝部61に挿入するための導電性の中継端子23が設けられている。また、二次コイル22の低電圧側L2のコイル端部221には、回路基板6の溝部61に挿入するための中継端子23が設けられている。中継端子23は、一次コイル21又は二次コイル22のコイル端部211,221を回路基板6に電気接続することを容易にするために、各コイル端部211,221に設けられている。中継端子23は、一次スプール210又は二次スプール220に取り付けられていてもよく、一次スプール210又は二次スプール220にインサート成形によって設けられていてもよい。なお、一次コイル21及び二次コイル22の各コイル端部211,221は、中継端子23を用いずに、回路基板6の溝部61に直接挿入してもよい。
【0023】
(内側コア41)
図1及び図2に示すように、一次コイル21の内側(内周側)には、一次コイル21及び二次コイル22によって生じる磁束を通過させるための内側コア41が配置されている。本形態の内側コア41は、軟磁性材料からなる板状の電磁鋼板が複数積層されて形成されている。なお、内側コア41は、軟磁性材料からなる粉末が圧縮成形されて形成されたものであってもよい。
【0024】
(外側コア42)
図1及び図2に示すように、二次コイル22の外側(外周側)には、一次コイル21及び二次コイル22によって生じる磁束を通過させるための外側コア42が配置されている。内側コア41と外側コア42とによって、磁束が通過する閉磁路が形成されている。本形態の外側コア42は、軟磁性材料からなる板状の電磁鋼板が複数積層されて形成されている。なお、外側コア42は、軟磁性材料からなる粉末が圧縮成形されて形成されたものであってもよい。
【0025】
内側コア41と外側コア42とによって、磁束が通過する閉磁路が形成されている。内側コア41と外側コア42との間には、磁気飽和を防止するための永久磁石43が配置されている。
【0026】
(コイルケース5)
図1及び図2に示すように、コイルケース5は、熱可塑性樹脂の成形品として形成されている。コイルケース5は、一次コイル21、二次コイル22、内側コア41、外側コア42、回路基板6等を収容する収容部51を有する。コイルケース5には、一次コイル21、二次コイル22、内側コア41、外側コア42、回路基板6等が組み付けられたコイル組付体を収容部51に配置するための開口部53が形成されている。コイルケース5は、ジョイント部12の側に位置する底部52、底部52の周囲から起立する側壁部54、及び側壁部54の装着方向Dの開口側D2に位置する開口部53を有する。
【0027】
(コネクタ3)
図1及び図2に示すように、コネクタ3は、熱可塑性樹脂の成形品として形成されており、コイルケース5の側壁部54に配置されている。コイルケース5における軸方向Lの低電圧側L2の側壁部54の一部は、コネクタ3によって形成されている。本形態のコネクタ3は、側壁部54に形成された装着用切欠き56に装着されている。コネクタ3の、装着方向Dの底側D1の端部及び横方向Wの両側の端部には、装着用切欠き56の縁部を両側から挟持する挟持部32が形成されている。
【0028】
コネクタ3には、回路基板6の溝部61に挿入される複数の導電性のコネクタ端子31が、インサート成形によって設けられている。コネクタ3は、コイルケース5の外部に突出する状態で、コイルケース5に装着されている。複数のコネクタ端子31は、コネクタ3において、点火コイル1の横方向Wに並ぶ状態で配置されている。
【0029】
コネクタ3には、点火コイル1をエンジン制御装置に電気接続するための相手コネクタが装着される。複数のコネクタ端子31の両端部は、コイルケース5の内部と外部とに向けられている。コネクタ端子31の用途は、電源、グラウンド、点火信号の他、点火検出等がある。
【0030】
(回路基板6)
図1図3に示すように、点火コイル1は、エンジン制御装置からの指令を受けて、一次コイル21に通電及び通電の遮断を繰り返し行うための回路基板6を備える。換言すれば、回路基板6は、コネクタ3のコネクタ端子31を利用して外部から送られるスイッチング信号によって、一次コイル21への通電及び通電の遮断を行う機能を有する。回路基板6は、一次コイル21及び二次コイル22の軸方向Lにおいて、外側コア42の低電圧側L2の部位に対面して配置されている。回路基板6は、コイルケース5に装着されたコネクタ3と、一次コイル21、二次コイル22、内側コア41及び外側コア42との軸方向Lの間に配置されている。回路基板6には、スイッチング回路を形成するスイッチング素子等の電子部品が設けられている。
【0031】
点火コイル1において、溝部61が形成された回路基板6は、複数配置されていてもよい。また、溝部61が形成された回路基板6は、一次コイル21への通電及び通電の遮断を行う機能とは異なる機能を有するものとしてもよい。
【0032】
回路基板6において、一対の板面(最も広い表面)が並ぶ方向であって、点火コイル1の軸方向Lに向けられた方向を板厚方向Tという。また、板厚方向Tに直交する方向であって、点火コイル1の横方向Wに向けられた方向を幅方向Bという。また、板厚方向T及び幅方向Bの両方に直交する方向を深さ方向Fという。深さ方向Fにおいて、装着方向Dの底側D1を底側F1といい、装着方向Dの開口側D2を開口側F2という。
【0033】
なお、点火コイル1の他の実施形態として、回路基板6の板厚方向Tが点火コイル1の横方向Wに向けられ、回路基板6の幅方向Bが点火コイル1の軸方向Lに向けられていてもよい。
【0034】
回路基板6は、モールド樹脂によってモールドされない露出状態、換言すればコイルケース5内に充填された充填樹脂7に接触する状態に形成されている。回路基板6の、コイルケース5の開口部53の側に位置する端部601には、回路基板6の板厚方向Tに貫通して、回路基板6の幅方向Bに並ぶ状態で、溝部61が複数形成されている。複数の溝部61は、回路基板6の深さ方向Fの開口側F2から底側F1へ凹む状態で形成されている。これらの構成により、回路基板6の溝部61に対して中継端子23及びコネクタ端子31を電気接続するスペースを小さくすることができる。
【0035】
回路基板6は、樹脂、ガラス繊維、ガラス不織布等の絶縁性基材60と、絶縁性基材60の表面に設けられた導電性の導体層62A,62Bとを有する。溝部61の一対の内側面611に設けられた導体層62Aは、回路基板6の表面に設けられて、スイッチング素子等の種々の電子部品等に電気接続される導体層62Bに繋がっている。各導体層62A,62Bは、絶縁性基材60にメッキ、エッチング等を行って形成される。
【0036】
(回路基板6と中継端子23及びコネクタ端子31との関係)
図1図5に示すように、一次コイル21の一対の中継端子23、及び二次コイル22の低電圧側L2の中継端子23は、回路基板6の板厚方向Tの一方側であって点火コイル1の軸方向Lの高電圧側L1から、回路基板6の溝部61に挿入されている。複数のコネクタ端子31は、回路基板6の板厚方向Tの他方側であって点火コイル1の軸方向Lの低電圧側L2から、回路基板6の溝部61に挿入されている。
【0037】
中継端子23及びコネクタ端子31は、所定の長さを有する長尺形状であって、断面が扁平形状に形成されている。中継端子23及びコネクタ端子31は、用途に応じて決められた位置まで延びる所定の形状に形成されている。扁平形状とは、断面が扁平していればよく、長方形状等の一方向に厚みが薄くなった断面の形状のことをいう。
【0038】
図4及び図5に示すように、複数の中継端子23及び複数のコネクタ端子31の厚み方向は、回路基板6の幅方向Bに向けられている。厚み方向とは、辺の長さが最も小さい方向のことをいう。つまり、複数の中継端子23及び複数のコネクタ端子31の厚み方向は、回路基板6の溝部61の導体層62Aに接触しやすくし、かつ溝部61に差し込みやすくするために、回路基板6の板厚方向Tに対して直交する方向に向けられている。そして、複数の中継端子23及び複数のコネクタ端子31の厚み方向の両側の表面は、溝部61における、幅方向Bの両側に位置する一対の内側面611に設けられた導体層62Aに接触している。この構成により、複数の中継端子23及び複数のコネクタ端子31と溝部61の導体層62Aとの接触面積を適切に確保することができる。なお、図4及び図5においては、中継端子23、コネクタ端子31及び溝部61の形状を簡略的に示す。
【0039】
図6に示すように、溝部61の一対の内側面611の一方における、回路基板6の板厚方向T及び幅方向Bの両方に直交する深さ方向Fの一部には、一対の内側面611の間における幅方向Bの幅を縮小するよう突出する突出部613が形成されている。溝部61の導体層62Aは、少なくとも一方の内側面611における突出部613及び他方の内側面611に設けられている。中継端子23及びコネクタ端子31の厚み方向の表面は、一方の内側面611の突出部613に設けられた導体層62A、及び他方の内側面611に設けられた導体層62Aに接触している。これらの構成により、中継端子23及びコネクタ端子31を溝部61へ嵌入する際の抵抗を小さくするとともに、溝部61から中継端子23及びコネクタ端子31が抜けにくくすることができる。また、突出部613の形成により、突出部613から中継端子23又はコネクタ端子31に、これらが抜けにくくするための適切な面圧力(押圧力)を与えることができる。
【0040】
また、溝部61における一対の内側面611の間の幅、換言すれば一方の内側面611の突出部613の導体層62Aと他方の内側面611の導体層62Aとの間の幅は、中継端子23の厚み及びコネクタ端子31の厚みよりも小さい。そして、中継端子23及びコネクタ端子31は、溝部61に圧入(嵌入)される。なお、本形態の導体層62Aは、溝部61の一対の内側面611及び底面612の全体に設けられていてもよい。本形態においては、中継端子23及びコネクタ端子31は、溝部61の導体層62Aに溶接されていない。
【0041】
また、図6に示すように、中継端子23及びコネクタ端子31における、溝部61に挿入される側の端部、換言すれば深さ方向Fの底側D1に位置する端部231,311には、一対の面取り形状又はテーパ面が形成されている。この構成により、溝部61への中継端子23及びコネクタ端子31の圧入を容易にすることができる。なお、この中継端子23及びコネクタ端子31の各端部には、面取り形状又はテーパ面の代わりに曲面形状が形成されていてもよい。
【0042】
(作用効果)
本形態の内燃機関用の点火コイル1においては、回路基板6の深さ方向Fの開口側D2の端部601に、導体層62Aが内側面611に設けられた溝部61が、幅方向Bに並んで複数形成されている。そして、一次コイル21の一対のコイル端部211に設けられた中継端子23、二次コイル22の低電圧側L2のコイル端部221に設けられた中継端子23、及び複数のコネクタ端子31は、溝部61に圧入されて、溝部61の導体層62Aに電気接続されている。
【0043】
このような導体層62Aを有する溝部61の形成により、回路基板6には、端子等の金具を設ける必要がなくなる。そのため、点火コイル1における部品点数を少なくすることができ、点火コイル1の製造工程を簡略化することができる。また、点火コイル1において、回路基板6に対する中継端子23及びコネクタ端子31の電気接続を行うスペースを小さくすることができる。そのため、点火コイル1の小型化を図ることができる。
【0044】
回路基板6に溝部61が形成されていることにより、回路基板6の板厚方向Tに対する中継端子23又はコネクタ端子31の位置ずれを許容することができる。すなわち、中継端子23の端部又はコネクタ端子31の端部は、直線形状に形成することができる。そして、中継端子23又はコネクタ端子31の回路基板6の板厚方向Tに対する位置がずれても、中継端子23又はコネクタ端子31と溝部61の導体層62Aとの接触状態に差は生じない。そのため、回路基板6の板厚方向Tに対する中継端子23又はコネクタ端子31の位置ずれが許容される。
【0045】
それ故、本形態の内燃機関用の点火コイル1によれば、点火コイル1の生産性の向上及び小型化を図ることができる。
【0046】
<実施形態2>
本形態は、回路基板6の溝部61の周辺の形状が実施例1の場合と異なる場合について示す。
図7に示すように、回路基板6の溝部61はくさび形状に形成されていてもよい。本形態の溝部61は、一対の内側面611の間の幅が手前から奥に行くに連れて(深さ方向Fの底側D1に行くに連れて)狭くなる形状に形成されている。一対の内側面611には、導体層62Aが形成されている。一対の内側面611の間の幅は、中継端子23又はコネクタ端子31の幅よりも大きな状態から小さな状態に変化している。この場合には、中継端子23又はコネクタ端子31を、溝部61の深さ方向Fの開口側F2から底側F1へ圧入する際に、一対の内側面611から中継端子23又はコネクタ端子31に押圧力を作用させることができる。
【0047】
また、図7に示すように、溝部61における一対の内側面611の、深さ方向Fの開口側F2の端部611Aには、面取り形状が形成されている。この構成によっても、溝部61への中継端子23及びコネクタ端子31の圧入を容易にすることができる。なお、この溝部61の内側面611の端部611Aには、面取り形状の代わりに曲面形状が形成されていてもよい。
【0048】
図8に示すように、中継端子23の厚み方向の一方の表面、及びコネクタ端子31の厚み方向の一方の表面には、溝部61の一方の内側面611に接触する凸部614が形成されていてもよい。本形態の凸部614は、中継端子23又はコネクタ端子31の一部が厚み方向にオフセットするよう屈曲することによって、屈曲側の凸部614として形成されている。凸部614の反対側には、凹部615が形成されている。中継端子23又はコネクタ端子31の一方の表面の凸部614と他方の表面との間の幅は、溝部61の一対の内側面611の間の幅よりも大きい。この場合にも、中継端子23又はコネクタ端子31を、溝部61の深さ方向Fの開口側F2から底側F1へ圧入する際に、一対の内側面611から中継端子23又はコネクタ端子31に押圧力を作用させることができる。
【0049】
図9に示すように、回路基板6における、突出部613の幅方向Bの外側に隣接する位置には、回路基板6を板厚方向Tに貫通して形成され、突出部613に弾性力を付与するための貫通孔616が形成されていてもよい。貫通孔616の形成により、溝部61の一対の内側面611には、突出部613の一部による弾性力付与部617が形成されている。弾性力付与部617は、線状に架け渡されて形成されていることにより、弾性変形が可能である。
【0050】
この場合には、弾性力付与部617の長さ、厚み及び幅の大きさに応じて、中継端子23又はコネクタ端子31に付与される弾性力を調整することができる。突出部613、貫通孔616及び弾性力付与部617は、図9に示すように、溝部61の一対の内側面611に形成されていてもよく、図10に示すように、溝部61の一方の内側面611にのみ形成されていてもよい。これらの場合にも、中継端子23又はコネクタ端子31の幅は、溝部61の一対の内側面611の間の幅よりも若干大きくすればよい。
【0051】
また、貫通孔616及び弾性力付与部617が形成される場合において、導体層62Aは、溝部61の一対の内側面611の全体に形成すればよい。具体的には、導体層62Aは、貫通孔616の周辺の表面、弾性力付与部617の表面、溝部61の周辺の全体に設け、導体層62Bによって回路基板6に配置された電子部品等に電気接続されるようにする。
【0052】
本形態の点火コイル1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の構成要素と同様である。
【0053】
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。例えば、溝部61は、回路基板6の深さ方向Fの開口側F2の端部601以外の端部、例えば底側F1の端部に形成されていてもよい。そして、溝部61に対する中継端子23又はコネクタ端子31の挿入は、回路基板6の深さ方向Fの開口側F2の端部601以外の端部において行われていてもよい。
【0054】
また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本発明から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1 点火コイル
21 一次コイル
22 二次コイル
23 中継端子
3 コネクタ
31 コネクタ端子
5 コイルケース
6 回路基板
61 溝部
62A,62B 導体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10