(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20241203BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20241203BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241203BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20241203BHJP
B60W 30/12 20200101ALI20241203BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20241203BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20241203BHJP
【FI】
G08G1/16 F
B62D6/00
B62D5/04
B60W50/14
B60W30/12
B62D119:00
B62D101:00
(21)【出願番号】P 2021184779
(22)【出願日】2021-11-12
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永江 元
【審査官】宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/064825(WO,A1)
【文献】特開2017-226340(JP,A)
【文献】特開2005-324782(JP,A)
【文献】特開2019-023079(JP,A)
【文献】特開2009-143309(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0001875(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 30/00-60/00
B60W 30/12
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 119/00
B62D 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が車線の区画線を越えて車線から逸脱する虞があると判定したときには、転舵輪の自動転舵及び警報の発出の少なくとも一方の車線逸脱予防制御を実行する制御ユニットを含む運転支援装置において、
前記制御ユニットは、前記車両が車線の区画線がない特定の領域を通過する上で障害となる他車両が存在しないと判定したときには、標準の仮想区画線を設定し、前記車両が前記特定の領域を通過する上で障害となる他車両が存在すると判定したときには、標準の仮想区画線に対し他車両から離れた位置を通るように修正の仮想区画線を設定するよう構成され、更に運転者の覚醒度が低下していると判定したときには、前記車両が設定された前記仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があると判定したときに、前記少なくとも一方の車線逸脱予防制御を実行するよう構成された運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両の運転支援装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両の運転支援装置により行われる車線逸脱防止制御においては、車線に対する車両の位置が検出され、検出された車両の位置に基づいて車両が車線から逸脱する虞があると判定されたときには、転舵輪の自動転舵及び警報の発出の少なくとも一方が行われる。
【0003】
車線逸脱防止装置の一つとして、車両が交差点のように車線の区画線がない特定の領域を通過する際には、仮想区画線を設定し、車両が仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があると判定したときには、警報の発出を行う車線逸脱防止装置が知られている。例えば、この種の車線逸脱防止装置が下記の特許文献1に記載されており、この種の車線逸脱防止装置よれば、車両が特定の領域を通過する際に車線から逸脱する虞を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
〔発明が解決しようとする課題〕
しかし、交差点のような特定の領域においては、他車両が右左折のために停止して待機していることがあり、そのため運転者は他車両との衝突を回避するよう、意図的に仮想区画線を越えて走行することがある。
【0006】
上記特許文献1に記載された車線逸脱防止装置のような従来の車線逸脱防止装置においては、上述のような状況においても転舵輪の自動転舵や警報の発出が行われるため、運転者が煩わしさを覚えることが避けられない。
【0007】
逆に、運転者が例えば長時間に亙る運転により疲労している場合のように、運転者の覚醒度が低下している状況においては、車両が特定の領域を通過する際にも車両が仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があるときには、転舵輪の自動転舵や警報の発出が行われることが好ましい。
【0008】
本発明の主要な課題は、車両が特定の領域を通過する際に、意図的ではなく車両が車線から逸脱する虞があるときには、その虞を低減することができ、意図的に車両が車線から逸脱するときに運転者が煩わしさを覚える虞が低減された運転支援装置を提供することである。
【0009】
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
本発明によれば、車両(50)が車線(54)の区画線を越えて車線から逸脱する虞があると判定したときには、転舵輪(24)の自動転舵及び警報の発出の少なくとも一方の車線逸脱予防制御を実行する制御ユニット(運転支援ECU10)を含む運転支援装置(100)が提供される。
【0010】
制御ユニットは、車両が車線の区画線がない特定の領域(交差点70)を通過する上で障害となる他車両(84、86)が存在しないと判定したときには(S40)、標準の仮想区画線(76L、76R)を設定し(S50)、車両が特定の領域を通過する上で障害となる他車両が存在すると判定したときには(S40)、標準の仮想区画線に対し他車両から離れた位置を通るように修正の仮想区画線(78L、78R)を設定する(S60)よう構成され、更に運転者の覚醒度が低下していると判定したときには(S20)、車両が設定された仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があると判定したときに(S70)、少なくとも一方の車線逸脱予防制御を実行する(S80)よう構成される。
【0011】
上記の構成によれば、車両が車線の区画線がない特定の領域を通過する上で障害となる他車両が存在しないと判定されたときには、標準の仮想区画線が設定される。これに対し、車両が特定の領域を通過する上で障害となる他車両が存在すると判定されたときには、標準の仮想区画線に対し他車両から離れた位置を通るように修正の仮想区画線が設定される。更に、運転者の覚醒度が低下していると判定されたときには、車両が設定された仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があると判定したときに、少なくとも一方の車線逸脱予防制御が実行される。
【0012】
よって、特定の領域に障害となる他車両が存在する状況において、運転者が自らの意図により車両が他車両と衝突しないように他車両から離れた経路に沿って車両を走行させても、車両が修正の仮想区画線を越えると判定される虞が低減される。従って、不必要な車線逸脱予防制御が実行される虞が低減されるので、修正の仮想区画線が設定されない場合に比して、運転者が車線逸脱予防制御に起因して煩わしさを覚える虞を低減することができる。
【0013】
また、上記の構成によれば、運転者の覚醒度が低下していると判定され、車両が設定された仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があると判定したときには、少なくとも一方の車線逸脱予防制御が実行される。よって、車両が特定の領域を通過する際に車両が仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があるときには、転舵輪の自動転舵及び警報の発出の少なくとも一方により、車両が仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞を低減することができる
【0014】
上記説明においては、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態に対応する発明の構成に対し、その実施形態で用いられる名称及び/又は符号が括弧書きで添えられている。しかし、本発明の各構成要素は、括弧書きで添えられた名称及び/又は符号に対応する実施形態の構成要素に限定されるものではない。本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態にかかる運転支援装置を示す概略構成図である。
【
図2】車両が車線の長手方向に対し傾斜して走行する状況を示す図
【
図3】実施形態の交差点における車線逸脱防止制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図4】車両が右左折の待機車両が存在しない交差点を直進にて通過する場合を示す図である。
【
図5】車両が右折の待機車両が存在する交差点を直進にて通過する場合を示す図である。
【
図6】車両が左折の待機車両が存在する交差点を直進にて通過する場合を示す図である。
【
図7】車両が右左折の待機車両が存在しない交差点を右折にて通過する場合を示す図である。
【
図8】車両が左折の待機車両が存在する交差点を右折にて通過する場合を示す図である。
【
図9】車両が右左折の待機車両が存在しない交差点を左折にて通過する場合を示す図である。
【
図10】車両が右折の待機車両が存在する交差点を左折にて通過する場合を示す図である。
【
図11】修正例の交差点における車線逸脱防止制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付の図を参照して、本発明の実施形態にかかる運転支援装置について詳細に説明する。
【0017】
<構成>
図1に示されているように、実施形態にかかる運転支援装置100は、電動パワーステアリングECU20を備えた車両50に適用され、運転支援ECU10を含んでいる。本明細書においては、電動パワーステアリングは必要に応じてEPS(Electric Power Steeringの略)と呼称される。
【0018】
運転支援ECU10及びEPS・ECU20は、マイクロコンピュータを主要部として備える電子制御装置(Electronic Control Unit)であり、CAN(Controller Area Network)52を介して相互に情報を送受信可能に接続されている。各マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースなどを含んでいる。CPUは、ROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。これらのECUは、幾つか又は全部が一つのECUに統合されてもよい。
【0019】
後に詳細に説明するように、運転支援ECU10のROMは、車線逸脱防止制御のプログラムを記憶しており、CPUは、該プログラムに従って車線逸脱防止制御を実行する。運転支援ECU10には、前方撮影カメラセンサ12、レーダセンサ14、室内撮影カメラセンサ16及び警報装置18が接続されている。
【0020】
前方撮影カメラセンサ12は、カメラ部と、カメラ部によって撮影して得られた画像データを解析して道路の白線などの物標を認識する認識部とを備えている。カメラ部は、車両50の前方の風景を撮影する。認識部は、認識した物標に関する情報を所定の時間毎に運転支援ECU10に供給する。
【0021】
図2に示されているように、カメラセンサ12は、車線54の区画線である白線56L及び56Rを認識すると共に、白線と車両50の位置との関係に基づいて、車線54に対する車両の相対的な位置関係を検出することができるようになっている。ここで、車両50の位置とは、車両の重心50Aの位置であるが、車両の平面視における中心位置であってもよい。後述する車両の横位置とは、重心の位置の車線幅方向における位置を表し、車両の横速度は、重心の位置の車線幅方向における速度を表す。これらは、カメラセンサ12によって検出される白線と車両との相対的な位置関係に基づいて求められる。
【0022】
レーダセンサ14は、レーダ送受信部及び信号処理部(図示せず)を備えており、レーダ送受信部が、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」と称呼する)を放射し、放射範囲内に存在する立体物(例えば、他車両)によって反射されたミリ波(即ち、反射波)を受信する。信号処理部は、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及びミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間などに基づいて、自車両と立体物との距離、自車両と立体物との相対速度、自車両に対する立体物の相対位置(方向)などを表す情報(以下、立体物情報と呼ぶ)を所定の時間毎に運転支援ECU10に供給する。
【0023】
運転支援ECU10は、カメラセンサ12から供給される物標情報とレーダセンサ14から供給される立体物情報とを合成して、精度の高い立体物情報を取得する。よって、カメラセンサ12及びレーダセンサ14は、車両12の前方の停止した他車両のような障害物を検出する障害物検出装置として機能する。なお、カメラセンサ12に代えて、LiDAR(Light Detection And Ranging)が使用されてもよい。
【0024】
また、運転支援ECU10は、カメラセンサ12から供給される物標情報に基づいて車両50が車線から逸脱する虞があるか否かを判定する。この場合、車両50が区画線を越えて車線から逸脱する虞があるか否かの判定は、例えば以下の要領にて行われてよい。まず、
図2に示されているように、車両50の前方の画像情報に基づいて、車線54の長手方向60に対し車両の進行方向62がなす角度θyが推定される。角度θyは、車線54の長手方向60に対し車両50の進行方向62が左側である場合に正の値である。車線54の長手方向60に対し垂直な方向への車両50の移動速度Vyが、角度θy及び車速Vに基づいてVsinθyとして推定される。
【0025】
また、車両50が接近する側の白線(
図2の場合、白線56L)と車両の重心との間の車線幅方向の距離Dy(図示せず)が推定される。更に、Δtを予め設定された時間として、Dy-VyΔtが予め設定された基準値Dyc(正の定数)以下であるときに、車両50が車線から逸脱する虞があると判定されてよい。なお、以上の推定及び判定は、車線が湾曲している場合には、車両の重心位置における車線の接線方向について行われてよい。
【0026】
車内撮影カメラセンサ16は、ダッシュボードあるいはステアリングコラムに設けられ、運転者の顔を撮影するカメラ部と、カメラ部によって撮影して得られた運転者の顔の画像データを処理する画像処理部とを備えている。画像処理部は、運転者の顔の画像データの情報を所定の時間毎に運転支援ECU10に供給する。よって、車内撮影カメラセンサ16は、運転者モニタカメラとして機能する。
【0027】
運転支援ECU10のCPUは、運転者の顔の画像データの情報に基づいて、運転者の毎分の閉眼率、眼の開眼の状況、まばたきの頻度、又は眼球運動などから運転者の覚醒度を判定する。覚醒度とは、運転者が睡眠不足などにより意識が朦朧とした状態ではなく覚醒していることを示す度合である。覚醒度の判定手法は特に限定されず、当技術分野において公知の任意の手法が採用されてよい。また、覚醒度の判定に際しては、運転者のステアリングホイールのグリップ圧、アームレストへの押圧力、心拍数、筋電の情報及び脳波パターンの少なくとも何れかが考慮されてもよい。
【0028】
警報装置18は、運転支援ECU10により車両50が車線から逸脱する虞があると判定されたときに作動され、車線逸脱予防制御の一つとしての警報の発出、即ち車両50が衝突する虞がある旨の警報の発出を行う。警報装置18は、警報ランプのような視覚警報を発する警報装置、警報ブザーのような聴覚警報を発する警報装置、シートの振動のような体感警報を発する警報装置の何れであってもよく、それらの任意の組合せであってもよい。
【0029】
EPS・ECU20は、EPS装置22を制御することにより、転舵輪24を必要に応じて転舵することができる。よって、EPS・ECU20及びEPS装置22は、必要に応じて転舵輪24を自動的に転舵する転舵装置26を構成している。EPS・ECU20は、運転支援ECU10により車両50の走行経路を修正する必要があると判定されたときには、他の一つの車線逸脱予防制御として、車両50の走行経路を修正するための転舵輪24の自動転舵を行う。
【0030】
図1に示されているように、ドライバーにより操作されるステアリングホイール28が一体的に連結されたステアリングシャフト30には、操舵トルクTsを検出するトルクセンサ32が設けられている。トルクセンサ32により検出された操舵トルクTsを示す信号は、EPS・ECU20へ入力される。EPS・ECU22は、操舵トルクTs及び
図1には示されていない車速センサにより検出された車速に基づいて、当技術分野において公知の要領にてEPS装置22を制御することにより、操舵アシストトルクを制御し、運転者の操舵負担を軽減する。操舵トルクTsを示す信号は、EPS・ECU20からCAN52を介して運転支援ECU10へ入力される。
【0031】
運転支援ECU10のROMは、車線逸脱防止制御の一部として、
図2に示されたフローチャートに対応する交差点における車線逸脱防止制御のプログラムを記憶しており、CPUは、該プログラムに従って交差点における車線逸脱防止制御を実行する。
【0032】
<交差点における車線逸脱防止制御ルーチン>
次に、
図3に示されたフローチャートを参照して実施形態の交差点における車線逸脱防止制御ルーチンについて説明する。
図3に示されたフローチャートによる車線逸脱防止制御は、
図1には示されていない車線逸脱防止制御スイッチがオンであるときに、所定の制御周期にて繰返し運転支援ECU10のCPUにより実行される。以下の説明においては、交差点における車線逸脱防止制御を単に「制御」と指称する。
【0033】
まず、ステップS10においては、CPUは、車両50が交差点を通過する状況であるか否かの判定、即ちこれから交差点を通過する状況又は交差点を通過している状況であるか否かの判定を行う。CPUは、否定判定をしたときには、制御を一旦終了し、肯定判定をしたときには、制御をステップS20へ進める。
【0034】
ステップS20においては、CPUは、車内撮影カメラセンサ16から供給される運転者の顔の画像データの情報に基づいて上述のように判定された運転者の覚醒度が基準値以下に低下しているか否かの判定を行う。CPUは、否定判定をしたときには、制御一旦終了し、肯定判定をしたときには制御をステップS30へ進める。
【0035】
ステップS30においては、CPUは、
図1には示されていないウインカレバーの位置に基づいて、運転者が意図する交差点における車両の走行方向が、直進方向、右折方向及び左折方向の何れであるかを特定する。
【0036】
ステップS40においては、CPUは、ステップS30において特定した車両の走行方向への車両50が走行する上で障害となる虞がある他車両が交差点内にあるか否かの判定を行う。CPUは、肯定判定をしたときには、制御をステップS60へ進め、否定判定をしたときには、制御をステップS50へ進める。
【0037】
ステップS50においては、CPUは、後に具体例について説明するように、ステップS30において特定した車両50の走行方向へ車両が走行するための標準の仮想区画線を交差点の領域に設定する。標準の仮想区画線は、車両50が現在走行している車線の外側の区画線及び内側の区画線と、車両50が交差点を通過した後に走行する車線の外側の区画線及び内側の区画線をそれぞれ滑らかに接続するように設定されてよい。
【0038】
ステップS60においては、CPUは、後に具体例について説明するように、ステップS30において特定した車両50の走行方向への車両が走行するための修正の仮想区画線を交差点の領域に設定する。修正の仮想区画線は、標準の仮想区画線に比して、他車両から離れた位置を通るように設定される。
【0039】
ステップS70においては、CPUは、カメラセンサ12により検出された物標に対する車両50の相対的な位置関係に基づいて、当技術分野において公知の要領にて車両が仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があるか否かを判定する。CPUは、否定判定をしたときには制御を一旦終了し、肯定判定をしたときには制御をステップS80へ進める。
【0040】
特に、前方撮影カメラセンサ12に加えて左右の側方撮影カメラセンサ、後方撮影カメラセンサが設けられている場合には、各カメラセンサにより撮影された画像データを当技術分野において公知の処理することにより、車両の全周の俯瞰画像が生成されてよい。更に、俯瞰画像上に仮想区画線が重畳され、俯瞰画像上における仮想区画線に対する車両の位置及び移動方向に基づいて、車両が仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があるか否かが判定されてもよい。
【0041】
ステップS80においては、CPUは、車線逸脱予防制御を実行する。即ち、CPUは、警報装置18を作動させることにより、車両50が仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞がある旨の警報を発出する。また、CPUは、EPS・ECU22へ自動転舵の指令信号を出力することにより、車両50が仮想区画線を越えて車線から逸脱しないよう、EPS装置22によって転舵輪24を自動的に転舵する。
【0042】
<交差点における車線逸脱防止制御の具体例>
次に、
図4乃至
図10を参照して、運転者の覚醒度が低下している状況において行なわれる交差点における車線逸脱防止制御の具体例C1乃至C9について説明する。なお、
図4乃至
図10において、符号70は交差点を示し、符号72は道路の外側の区画線を示し、符号74は中央分離線(内側の区画線)を示している。更に、符号76L及び76Rは、それぞれ左右の標準の仮想区画線を示し、符号78L及び78Rは、それぞれ左右の修正の仮想区画線を示している。
【0043】
<C1:車両50が直進で、交差点内に待機車両が存在しない場合(
図4)>
図4は、車両50が右左折の待機車両が存在しない交差点70を直進にて通過する場合を示している。この場合には、車両50が現在走行している車線80の外側の区画線72及び内側の区画線74と、車両50が交差点70を通過した後に走行する車線82の外側の区画線72及び内側の区画線74とに基づいて、左側及び右側の標準の仮想区画線76L及び76Rが設定される。
図4に示されているように、左側の仮想区画線76Lは、車線80及び82の外側の区画線72を滑らかに結ぶ直線として設定され、右側の仮想区画線76Rは、車線80及び82の内側の区画線74を滑らかに結ぶ直線として設定される。
【0044】
<C2:車両50が直進で、交差点内に右折の待機車両が存在する場合(
図5)>
図5は、車両50が右折の待機車両84が存在する交差点70を直進にて通過する場合を示している。この場合には、修正の仮想区画線78L及び78Rが、両端部を除き、それぞれ左側及び右側の標準の仮想区画線76L及び76Rに比して待機車両84から離れた位置を通るように設定される。
図5に示されているように、修正の仮想区画線78L及び78Rは、それぞれ左側及び右側の標準の仮想区画線76L及び76Rに対し、待機車両84から離れる方向へ膨出する曲線を描く。
【0045】
<C3:車両50が直進で、交差点内に左折の待機車両が存在する場合(
図6)>
図6は、車両50が左折の待機車両86が存在する交差点70を直進にて通過する場合を示している。この場合には、修正の仮想区画線78L及び78Rは、両端部を除き、それぞれ左側及び右側の標準の仮想区画線76L及び76Rに比して待機車両86から離れた位置を通るように設定される。
図6に示されているように、修正の仮想区画線78L及び78Rは、それぞれ左側及び右側の標準の仮想区画線76L及び76Rに対し、待機車両86から離れる方向へ膨出する曲線を描く。
【0046】
<C4:車両50が右折で、交差点内に待機車両が存在しない場合(
図7)>
図7は、車両50が右左折の待機車両が存在しない交差点70を右折にて通過する場合を示している。この場合には、車両50が現在走行している車線80の外側の区画線72及び内側の区画線74と、車両50が交差点70を右折して通過した後に走行する車線88の外側の区画線72及び内側の区画線74とに基づいて、左側及び右側の標準の仮想区画線76L及び76Rが設定される。
図7に示されているように、左側の仮想区画線76Lは、車線80及び88の外側の区画線72を結ぶ円弧線として設定され、右側の仮想区画線76Rは、車線80及び88の内側の区画線74を結ぶ円弧線として設定される。
【0047】
<C5:車両50が右折で、交差点内に左折の待機車両が存在する場合(
図8)>
図8は、車両50が左折の待機車両86が存在する交差点70を右折にて通過する場合を示している。この場合には、修正の仮想区画線78L及び78Rは、両端部を除き、それぞれ左側及び右側の標準の仮想区画線76L及び76Rに比して待機車両86から離れた位置に設定される。
図8に示されているように、修正の仮想区画線78L及び78Rは、それぞれ左側及び右側の標準の仮想区画線76L及び76Rに対し、待機車両86から離れる方向へ変形された曲線を描く。
【0048】
<C6:車両50が左折で、交差点内に待機車両が存在しない場合(
図9)>
図9は、車両50が右左折の待機車両が存在しない交差点70を左折にて通過する場合を示している。この場合には、車両50が現在走行している車線80の外側の区画線72及び内側の区画線74と、車両50が交差点70を左折して通過した後に走行する車線90の外側の区画線72及び内側の区画線74とに基づいて、左側及び右側の標準の仮想区画線76L及び76Rが設定される。
図9に示されているように、左側の仮想区画線76Lは、車線80及び90の外側の区画線72を結ぶ円弧線として設定され、右側の仮想区画線76Rは、車線80及び90の内側の区画線74を結ぶ円弧線として設定される。
【0049】
<C7:車両50が左折で、交差点内に右折の待機車両が存在する場合(
図10)>
図10は、車両50が右折の待機車両84が存在する交差点70を左折にて通過する場合を示している。この場合には、修正の仮想区画線78L及び78Rは、両端部を除き、それぞれ左側及び右側の標準の仮想区画線76L及び76Rに比して待機車両84から離れた位置に設定される。
図10に示されているように、修正の仮想区画線78L及び78Rは、それぞれ左側及び右側の標準の仮想区画線76L及び76Rに対し、待機車両84から離れる方向へ変形された曲線を描く。
【0050】
上記C1、C4及びC6の場合においては、車両50が標準の仮想区画線76L及び76Rを越える虞があるか否かの判定により、車両が交差点70を通過する状況において車両が車線から逸脱するか否かの判定が行なわれる。車両50が標準の仮想区画線76L又は76Rを越える虞があると判定されたときには、警報装置18が作動されて警報が発せられると共に、車両50が標準の仮想区画線76L又は76Rを越えないよう、車両の走行経路を修正するための転舵輪24の自動転舵が行われる。
【0051】
これに対し、上記C2、C3、C5及びC7の場合においては、車両50が修正の仮想区画線78L及び78Rを越える虞があるか否かの判定により、車両が交差点70を通過する状況において車両が車線から逸脱するか否かの判定が行なわれる。車両50が修正の仮想区画線78L及び78Rを越える虞があると判定されたときには、警報装置18が作動されて警報が発せられると共に、車両50が修正の仮想区画線78L及び78Rを越えないよう、車両の走行経路を修正するための転舵輪24の自動転舵が行われる。
【0052】
以上の説明から解るように、実施形態によれば、車両50が車線の区画線がない特定の領域としての交差点70を通過する上で障害となる他車両84、86が存在しないと判定されたときには(S40)、標準の仮想区画線76L又は76Rが設定される(S50)。これに対し、車両が特定の領域を通過する上で障害となる他車両が存在すると判定されたときには(S40)、標準の仮想区画線に対し他車両から離れた位置を通るように修正の仮想区画線78L及び78Rが設定される(S60)。更に、運転者の覚醒度が低下していると判定されたときには(S20)、車両が設定された仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があると判定したときに(S70)、転舵輪の自動転舵及び警報の発出、即ち車線逸脱予防制御が実行される(S80)。
【0053】
よって、交差点に障害となる他車両が存在する状況において、運転者が自らの意図により車両が他車両と衝突しないように他車両から離れた経路に沿って車両を走行させても、車両が修正の仮想区画線を越えると判定される虞が低減される。従って、不必要な車線逸脱予防制御が実行される虞が低減されるので、修正の仮想区画線が設定されない場合に比して、運転者が車線逸脱予防制御に起因して煩わしさを覚える虞を低減することができる。
【0054】
また、実施形態によれば、運転者の覚醒度が低下していると判定され(S20)、車両が設定された仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があると判定したときには(S70)、車線逸脱予防制御が実行される(S80)。よって、運転者の覚醒度が低下している状況において、車両が特定の領域を通過する際に車両が仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞があるときには、車線逸脱予防制御の実行により、車両が仮想区画線を越えて車線から逸脱する虞を低減することができる。
【0055】
特に、実施形態によれば、運転者が意図する交差点における車両の走行方向が特定され(S30)、特定された走行方向について標準の仮想区画線76L及び76R又は修正の仮想区画線78L及び78Rが設定される(S50、S60)。よって、運転者が意図しない車両の走行方向について標準の仮想区画線又は修正の仮想区画線が無駄に設定されることを回避することができる。
【0056】
なお、実施形態においては、運転者の覚醒度が基準値以下に低下しているか否かの判定は、ステップS10とステップS30との間において行われる。しかし、修正例として
図11に図示されているように、運転者の覚醒度が基準値以下に低下しているか否かの判定(ステップS65)は、ステップS50及びS60とステップS70との間において行われてもよい。ただし、実施形態によれば、上記判定がステップS40乃至S60よりも先に実行されるので、運転者の覚醒度が基準値以下に低下していない状況において、標準の仮想区画線又は修正の仮想区画線が無駄に設定されることを回避することができる。
【0057】
以上においては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0058】
例えば、上述の実施形態においては、車線逸脱予防制御として、警報装置18の作動による警報の発出及びEPS装置22による転舵輪24の自動転舵が行なわれる。しかし、警報の発出及び転舵輪24の自動転舵の一方が省略されてもよい。
【0059】
また、上述の実施形態においては、車線の区画線がない特定の字路は交差点であるが、特定の領域は丁字路、Y字路のような十字路以外の領域であってもよい。
【0060】
また、上述の実施形態においては、車両が十字路を右折する場合及び左折する場合にも仮想区画線が設定されるようになっているが、十字路において仮想区画線が設定されるのは、車両が直進する場合に限定されてもよい。
【0061】
また、上述の実施形態においては、ステップS20において運転者の覚醒度が低下しているか否かが判定されるようになっているが、転者の覚醒度が低下しているか否かの判定は省略されてもよい。
【0062】
更に、上述の実施形態においては、ステップS30において運転者が意図する交差点における車両の走行方向が特定され、ステップS50、S60において特定された走行方向について標準の仮想区画線76L、6R及び修正の仮想区画線78L、78Rが設定される。しかし、ステップS30が省略され、車両が走行する可能性がある全ての方向について標準の仮想区画線及び修正の仮想区画線が設定されてもよい。
【0063】
更に、修正の仮想区画線が、外側又は内側の区画線を過剰にはみ出す場合には、修正の仮想区画線の過剰なはみ出しが終了するまで、車両を一旦停止させる警報が出力されるよう、車線逸脱防止制御が修正されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10…運転支援ECU、12…前方撮影カメラセンサ、14…レーダセンサ、16…室内撮影カメラセンサ、18…警報装置、20…電動パワーステアリングECU、22…EPS装置、24…転舵輪、50…車両、54…車線、56,58…白線、70…交差点、76L,76R…標準の仮想区画線、78L,78R…修正の仮想区画線、100…車線逸脱防止装置