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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】溶解パルプシート
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/04 20060101AFI20241203BHJP
   D21C 9/18 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
D21H11/04
D21C9/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021201131
(22)【出願日】2021-12-10
(65)【公開番号】P2022093319
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020206088
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松山 光平
(72)【発明者】
【氏名】中山 広大
【審査官】塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-165060(JP,A)
【文献】特開2014-29044(JP,A)
【文献】特開2013-227705(JP,A)
【文献】特開2015-206138(JP,A)
【文献】特開2018-119053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00- 1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00- 9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
広葉樹を原料とする溶解パルプからなる溶解パルプシートであって、
下記式で求められるセルロース純度が97.0%以上であり、
破裂強度が350kPa超900kPa以下であり、
密度が0.3g/cm以上0.9g/cm以下である、溶解パルプシート。
セルロース純度(%)=グルコース量/(グルコース量+キシロース量)×100
(式中、グルコース量およびキシロース量は、溶解パルプシート中のグルコース量およびキシロース量である。)
【請求項2】
前記溶解パルプシートのアセチル化反応後の反応溶液(原料パルプ換算で3.7質量%の濃度)の670nmの透過率が、80.0%以上である、請求項1に記載の溶解パルプシート。
【請求項3】
前記溶解パルプシートのシート水分率が6質量%以上8質量%以下である、請求項1または2に記載の溶解パルプシート。
【請求項4】
前記溶解パルプシートの灰分が0.1%以下である、請求項1~3のいずれか1つに記載の溶解パルプシート。
【請求項5】
前記溶解パルプの長さ加重平均繊維長が0.50mm以上0.80mm以下である、請求項1~4のいずれか1つに記載の溶解パルプシート。
【請求項6】
前記溶解パルプシートの破裂強度が750kPa以下である、請求項1~5のいずれか1つに記載の溶解パルプシート。
【請求項7】
前記溶解パルプの、下記式で求められるセルロース純度が97.0%以上である、請求項1~6のいずれか1つに記載の溶解パルプシート。
セルロース純度(%)=グルコース量/(グルコース量+キシロース量)×100
(式中、グルコース量およびキシロース量は、溶解パルプ中のグルコース量およびキシロース量である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解パルプシートに関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロース物質から溶解パルプを製造するには、リグノセルロース物質中のヘミセルロースとリグニンとを選択的に除去し、セルロース純度を高める必要がある。セルロース純度を表す指標としては、一般にαセルロース含量が用いられ、その値が大きいほど、高品質の溶解パルプであるとされている。溶解パルプの製造方法としては、古くから酸性サルファイト蒸解法および前加水分解-クラフト蒸解法の二法が知られている。酸性サルファイト蒸解法ではリグノセルロース物質中の多くのヘミセルロースとリグニンとを蒸解工程で一度に除去する。一方、前加水分解-クラフト蒸解法は前加水分解工程では大部分のヘミセルロースを酸加水分解して除去し、続くクラフト蒸解で少量のヘミセルロースと大部分のリグニンを除去する。前加水分解工程では、リグノセルロース物質に水を加えて加熱するだけで、ヘミセルロース中のアセチル基が脱離して酢酸を生成し、自動的に酸性状態となり、酸加水分解が進むため、一般には酸を外から添加することなく行なわれる。酸性サルファイト蒸解法と前加水分解-クラフト蒸解法とを比較すると、溶解パルプを製造することのみに焦点をあてた場合、酸性サルファイト蒸解の方が一工程でヘミセルロースとリグニンを除去できるため効率的と言える。しかし、副産物のヘミセルロース、リグニンを廃棄せず、それぞれ分離して有効利用することにも焦点をあてた場合には、前加水分解-クラフト蒸解法の方が有利ということになる。近年、バイオマス原料であるリグノセルロース物質中のセルロース、ヘミセルロース、リグニンを分離して、それぞれから価値の高い物質を製造することはバイオリファイナリーと呼ばれ、注目度が高まってきており、前加水分解-クラフト蒸解法の重要性が再認識されてきている。
【0003】
このような溶解パルプのパルプシートとして、特許文献1には、アルカリ溶解性を向上させることを目的として、パルプシートの厚さの最大値と最小値を特定の比とする溶解パルプシートが開示されている。
また、特許文献2には、高品質で低水分の溶解パルプシートを得ることを目的として、溶解パルプをワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートの工程を順に通過させて脱水し、平判状または巻取状に仕上げるパートと連続的に製品包装仕上げするパートを行う製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-143355号公報
【文献】特開2015-206138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、溶解パルプシートは、レーヨン、セロファン、医薬製造用の賦形剤、食品添加物、液晶フィルム等の用途にも広がりを見せており、そうした用途では、溶解パルプシートを原料として得られるセルロース誘導体や繊維等にこれまで以上に高い透明性が必要とされている。また、精密な繊維やフィルムを製造する際に溶媒に溶解しない不溶物や未反応物があることで、製造プロセスや製品の品質に問題が生じることとなっていた。
そこで、本発明は、溶解パルプシートまたは当該溶解パルプシートを原料として得られるセルロース誘導体を溶媒に溶解させて得られる溶液の透明性に優れる溶解パルプシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、広葉樹を原料とする溶解パルプからなり、セルロース純度が特定の値以上であり、破裂強度と密度が特定の値以下である、溶解パルプシートが、前記課題を解決することを見出した。
すなわち、本発明は、以下の<1>~<7>に関する。
<1> 広葉樹を原料とする溶解パルプからなる溶解パルプシートであって、下記式で求められるセルロース純度が97.0%以上であり、破裂強度が350kPa超900kPa以下であり、密度が0.3g/cm以上0.9g/cm以下である、溶解パルプシート。
セルロース純度(%)=グルコース量/(グルコース量+キシロース量)×100
(式中、グルコース量およびキシロース量は、溶解パルプシート中のグルコース量およびキシロース量である。)
<2> 前記溶解パルプシートのアセチル化反応後の反応溶液(原料パルプ換算で3.7質量%の濃度)の670nmの透過率が、80.0%以上である、<1>に記載の溶解パルプシート。
<3> 前記溶解パルプシートのシート水分率が6質量%以上8質量%以下である、前記<1>または<2>に記載の溶解パルプシート。
<4> 前記溶解パルプシートの灰分が0.1%以下である、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の溶解パルプシート。
<5> 前記溶解パルプの長さ加重平均繊維長が0.50mm以上0.80mm以下である、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の溶解パルプシート。
<6> 前記溶解パルプシートの破裂強度が750kPa以下である、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の溶解パルプシート。
<7> 前記溶解パルプの、下記式で求められるセルロース純度が97.0%以上である、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の溶解パルプシート。
セルロース純度(%)=グルコース量/(グルコース量+キシロース量)×100
(式中、グルコース量およびキシロース量は、溶解パルプ中のグルコース量およびキシロース量である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶解パルプシートまたは当該溶解パルプシートを原料として得られるセルロース誘導体を溶媒に溶解させて得られる溶液の透明性に優れる溶解パルプシートを提供することができる。そのため、本発明の溶解パルプシートは、各種用途に使用する際に、その用途先での製品の品質を向上させ、さらに生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の溶解パルプシートは、広葉樹を原料とする溶解パルプからなる溶解パルプシートであって、下記式で求められるセルロース純度が97.0%以上であり、破裂強度が350kPa超900kPa以下であり、密度が0.3g/cm以上0.9g/cm以下である。
セルロース純度(%)=グルコース量/(グルコース量+キシロース量)×100
(式中、グルコース量およびキシロース量は、溶解パルプシート中のグルコース量およびキシロース量である。)
以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるAおよびBを含む数値範囲を意味する。
【0009】
一般的に、溶解パルプの溶解性を調整する指標として、αセルロース含量が用いられ、αセルロース含量を特定量以上にすることで、溶解パルプシートの溶解性を向上させる試みがなされているが、本発明の検討において、αセルロース含量のみでは、前記透明性の指標として十分でないことがわかってきた。
本発明では、前記式で表されるセルロース純度と破裂強度と密度を特定の値とすることで、溶解パルプシートまたは当該溶解パルプシートを原料として得られるセルロース誘導体を溶媒に溶解させて得られる溶液の透明性に優れる、広葉樹を原料とする溶解パルプシートが得られる。
【0010】
本発明の溶解パルプシートは、セルロース純度を特定の値以上とすることにより、本発明の溶解パルプシートを原料として得られる溶液の透明性を向上させている。さらに、本発明の溶解パルプシートは、破裂強度および密度を特定の値以下とすることにより、パルプシートの解繊性を向上させることができる。そのため、本発明の溶解パルプシートを原料として得られる溶液の透明性を優れたものにできると考えられる。
さらに、本発明の溶解パルプシートの破裂強度および密度を特定の値以上とすることにより、溶解パルプシートの強度および絶乾坪量を一定以上とすることができるため、生産性や輸送適正を向上させることができる。
【0011】
[溶解パルプ]
本発明の溶解パルプシートは、広葉樹を原料とする溶解パルプからなる。
溶解パルプの原料となる広葉樹は、生産効率を考慮すると、容積重が高いものが好適に用いられる。広葉樹は容積重が高く、好適であり、さらに広葉樹の中でも容積重が高い一部のユーカリ属植物やアカシア属植物が好適に用いられ、より好ましくはユーカリ属植物である。該当する広葉樹としては、ユーカリ・グロブラス、ユーカリ・グランディス、ユーカリ・ユーログランディス、ユーカリ・カマルドレンシス、ユーカリ・ペリータ、ユーカリ・ブラシアーナ、アカシア・メランシ等を挙げることができる。容積重の値で表現すると、450~700kg/m3のものがよく、さらに好ましくは500~650kg/m3のものである。容積重が450kg/m3以上であれば、パルプの生産効率の面からは有利である。一方、容積重が700kg/m3以下であれば、溶解パルプ製造時における前加水分解やアルカリ蒸解時の薬液浸透が良好になりやすく、結果としてパルプ品質が向上する可能性があるため、有利である。前記広葉樹はそれぞれ単独で使用することもできるし、組み合わせて使用することもできるし、その組み合わせは限定されるものではない。
【0012】
本発明の溶解パルプシートは、前記式で求められるセルロース純度が97.0%以上であるが、当該シートを構成する溶解パルプも同様のセルロース純度である。
すなわち、本発明の溶解パルプシートを構成する溶解パルプは、下記式で求められるセルロース純度が97.0%以上であることが好ましい。
セルロース純度(%)=グルコース量/(グルコース量+キシロース量)×100
(式中、グルコース量およびキシロース量は、溶解パルプ中のグルコース量およびキシロース量である。)
【0013】
溶解パルプのセルロース純度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは97.1%以上であり、さらに好ましくは97.2%以上であり、よりさらに好ましくは97.5%以上であり、よりさらに好ましくは98.0%以上である。セルロース純度は高いほど好ましいため、上限に制限はなく、100%以下である。
セルロース純度は、NREL法(NREL:米国 The National Renewable Energy Laboratory)で測定される溶解パルプ中のグルコース量およびキシロース量から前記式によって求められるものであり、具体的には実施例に記載した方法によって求めることができる。セルロース純度の単位である「%」は「質量%」である。
【0014】
本発明の溶解パルプシートを構成する溶解パルプは、前記の通り、前記式で求められるセルロース純度が97.0%以上であることが好ましいが、さらに次の特性を有することが好ましい。
本発明の溶解パルプシートを構成する溶解パルプの灰分は、好ましくは0.1%以下であり、より好ましくは0.08%以下であり、さらに好ましくは0.07%以下であり、よりさらに好ましくは0.06%以下である。灰分が前記の範囲であると、透明性が向上するため、好ましい。
なお、灰分は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0015】
本発明の溶解パルプシートを構成する溶解パルプの長さ加重平均繊維長は、好ましくは0.50~0.80mmであり、より好ましくは0.55~0.75mmであり、さらに好ましくは0.60~0.75mmであり、よりさらに好ましくは0.67~0.70mmである。長さ加重平均繊維長が前記の範囲であると、透明性が向上するため、好ましい。
なお、溶解パルプの長さ加重平均繊維長は、ISO 16065-2(2007)に準拠した長さ加重平均繊維長であり、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0016】
本発明の溶解パルプシートを構成する溶解パルプは、セルロース純度を特定の値以上にすることで、シートが溶解した際の透明性を向上させるものであるが、溶解パルプのαセルロース含量も下記の範囲であることが好ましい。
本発明の溶解パルプシートを構成する溶解パルプのαセルロース含量は、好ましくは93.0%以上であり、より好ましくは94.0%以上であり、さらに好ましくは95.0%以上である。上限に制限はないが、100%以下である。
なお、αセルロース含量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
本発明の溶解パルプシートを構成する溶解パルプの水分率は、外販のための輸送時の輸送ロスを軽減するために、20質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下とすることがより好ましい。また、反応性や透明性を向上させる観点からは、好ましくは3~10質量%であり、より好ましくは5~8質量%であり、さらに好ましくは6~8質量%であり、よりさらに好ましくは7~8質量%であり、よりさらに好ましくは7~7.5質量%である。水分率が前記の範囲であると、透明性が向上するため、好ましい。
【0017】
<溶解パルプの製造方法>
本発明の溶解パルプシートを構成する溶解パルプは、得られる溶解パルプシートのセルロース純度が前記の範囲になるものであれば、いかなる製造方法によって製造してもよいが、前加水分解工程とアルカリ蒸解工程とを含む方法によって好適に製造される。以下に、前加水分解とアルカリ蒸解を含む方法による溶解パルプの製造方法を説明するが、もちろんこれに限定されるものではない。なお、溶解パルプの製造における種々条件を適宜調整することにより、所望のセルロース純度に調整することができる。具体的には、後述の前加水分解の強度を上げ、Pファクターの値を高めることによって達成される。
【0018】
本発明では、まず広葉樹の木材(広葉樹材)を水の存在下で、加温して前加水分解処理を行う。ここで、広葉樹材に対する水の量(液比)は、好ましくは1.0~10であり、より好ましくは1.5~8.0であり、さらに好ましくは2.0~7.0であり、よりさらに好ましくは2.7~5.0である。液比が1.0以上であると、加水分解が十分に進み反応が均一となるので好ましい。10以下であると、所望の温度まで加熱するのに要する熱量が少なくなり、経済的であるため好ましい。水の添加方法としては、特に限定されるものではなく、外部から水を添加してもよいし、広葉樹材に元々含まれる水を利用してもよいし、加熱時に蒸気を使用する場合には蒸気に含まれる水を利用してもよい。また、水と共にアルカリ、酸、キレート剤等、多糖の加水分解を直接的、間接的に補助する薬品を添加することもできる。前加水分解の強度はPファクターとして好ましくは200~1000であり、より好ましくは330~600であり、さらに好ましくは380~500であり、よりさらに好ましくは430~500である。温度は好ましくは140~200℃であり、より好ましくは150~170℃であり、処理時間は処理温度に対応して決定されるが、好ましくは50~300分間であり、より好ましくは100~200分間であり、さらに好ましくは100~170分間であり、よりさらに好ましくは130~170分間であり、よりさらに好ましくは130~150分間である。なお、Pファクターは前加水分解時の温度と時間の積であり、下記式1として表される。
【0019】
【数1】

上記式において、PはPファクターを表し、Tは絶対温度(℃+273.5)を表し、tは加熱処理時間(時間)を表し、kH1(T)/k100℃はグリコシド結合の酸加水分解の相対速度を表す。
Pファクターが200以上であると、ヘミセルロースの酸加水分解が十分となり、その後のアルカリ蒸解において、パルプのセルロース純度を十分に高められるため、好ましい。Pファクターが1000以下であると、セルロースの酸加水分解が抑制でき、パルプのセルロース純度を十分に高めることができ、パルプ粘度を維持することもでき、さらにはパルプ収率も高くなるため、好ましい。前加水分解温度が140℃以上であると、反応時間を10時間未満とすることができ、巨大な反応容器を準備する必要がないことから経済的であり、好ましい。200℃以下であると、反応の制御が容易となり、好ましい。
【0020】
前加水分解工程で用いる装置は、広葉樹材を含水状態の加圧状態にて所望の時間、保持できるものであればよく、特に限定されるものではないが、好適には汎用の連続蒸解釜、バッチ釜等が用いられる。本発明の前加水分解工程では、反応終了後、脱水あるいは希釈洗浄、脱水して、次のアルカリ蒸解工程に送られる。なお、前加水分解後の排水は、フラッシュタンクに送り、ガス層と液層とに分け、ガス層に多く含まれるフルフラール類を抽出して利用し、液層に多く含まれるヘミセルロースの分解物を抽出して利用することもできる。
【0021】
アルカリ蒸解工程に用いられる装置は、特に限定されるものではないが、好適には汎用の連続蒸解釜、バッチ釜等が用いられる。アルカリ蒸解法としては、クラフト蒸解、ポリサルファイド蒸解、ソーダ蒸解、アルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を用いることができるが、パルプ品質、エネルギー効率等を考慮すると、クラフト蒸解法が好適に用いられる。広葉樹材をクラフト蒸解する場合、クラフト蒸解液の硫化度は5~75%が好ましく、20~35%がより好ましい。有効アルカリ添加率は絶乾木材質量当たり5~30質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。蒸解温度は140~170℃が好ましく、蒸解白液を分割で添加する蒸解法でもよく、その方式は特に問わないが、広葉樹材に対する水の量(液比)は、好ましくは1.0~10であり、より好ましくは1.5~8.0であり、さらに好ましくは2.0~7.0であり、よりさらに好ましくは2.7~5.0である。
【0022】
蒸解において、使用する蒸解液に、蒸解助剤として、公知の環状ケト化合物、例えばベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、アントロン、フェナントロキノンおよび前記キノン系化合物のアルキル、アミノ等の核置換体、あるいは前記キノン系化合物の還元型であるアントラヒドロキノンのようなヒドロキノン系化合物、さらにはディールスアルダー法によるアントラキノン合成法の中間体として得られる安定な化合物である9,10-ジケトヒドロアントラセン化合物等から選ばれた1種または2種以上を添加してもよい。その添加率は木材チップの絶乾質量当たり0.001~1.0質量%が好ましい。
【0023】
蒸解後のカッパー価は特に限定されるものではないが、パルプ品質やその後の漂白性等を考慮すると、カッパー価は6~18が好ましい。
【0024】
前記クラフト蒸解により得られた未晒パルプは洗浄、粗選および精選工程を経て、公知の漂白法で漂白処理される。好ましくは、まず酸素脱リグニン法により脱リグニンされる。酸素脱リグニン法は、中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できるが、パルプ濃度が8~15質量%で行われる中濃度法が、特殊な脱水装置を必要とせず、操業性がよいため好ましい。酸素脱リグニン法に用いるアルカリとしては苛性ソーダまたは酸化されたクラフト白液を使用することができる。酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等を用いることができる。前記酸素ガスとアルカリは中濃度ミキサーにおいて中濃度のパルプスラリーに添加され混合が十分に行われた後、加圧下でパルプ、酸素およびアルカリの混合物を一定時間保持できる反応塔へ送られ、脱リグニンされる。酸素ガスの分圧は、0.1~2MPaが好ましく、0.2~1MPaが好ましく、酸素ガスの添加率は、絶乾パルプ質量当たり0.5~3質量%が好ましく、アルカリ添加率は、絶乾パルプ質量当たり0.5~4質量%が好ましい。反応温度は80~120℃が好ましく、反応時間は15~100分間が好ましく、パルプ濃度は8~15質量%が好ましい。この他の条件は公知のものを適用してもよい。本発明では、酸素脱リグニン工程において、上記酸素脱リグニンを連続して複数回行い、できる限り脱リグニンを進めるのが好ましい。酸素脱リグニンを施されたパルプは洗浄段へ送られ、酸素晒後パルプを得る。
【0025】
酸素脱リグニン後の洗浄段に限らず、漂白段毎に洗浄段を設けるのが好ましい。洗浄段で使用される洗浄機としては、プレッシャーディフューザー、ディフュージョンウオッシャー、加圧型ドラムウオッシャー、水平長網型ウオッシャー、プレス洗浄機等を挙げることができ、特に限定されるものではない。各洗浄段では、一機の洗浄機でまかなうこともできるし、複数の洗浄機を使用することもできる。本発明においては、各洗浄段の洗浄水には金属成分、特に鉄分が少ないことが好ましく、金属成分をイオン交換等で除去してもよい。各洗浄段の洗浄水にアルカリ、酸、キレート剤、界面活性剤等の洗浄助剤を添加することもできる。また、洗浄排水を前段の洗浄段の洗浄水として再利用する向流洗浄を行なうこともできる。
【0026】
未晒パルプは、好ましくは酸素脱リグニン工程を経て、多段漂白工程へ送られる。多段漂白工程では、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)といった公知のECF漂白段を組み合わせて使用でき、各漂白段後には前述の洗浄段を設けることができる。また、多段漂白工程中に、高温酸処理段(A)や酸洗浄段、高温二酸化塩素漂白段、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)やジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段等を導入することもできる。多段漂白工程では、パルプの白色度が89.0~92.0%ISOになるように、漂白することが好ましい。白色度は91.0~92.0%ISOがより好ましく、91.5~92.0%ISOがさらに好ましい。白色度が89.0%ISO以上であると、その後の酸性下での過酸化物添加処理を行うことで白色度が高まり、溶解パルプとしての品質が向上するので好ましい。白色度が92.0%ISO以下であると、多段漂白工程で使用する漂白薬品量が多くなりすぎず経済的であり、溶解パルプに余計な官能基が導入されることなく、溶解パルプの品質が高まるので好ましい。
【0027】
以上のようにして得られた溶解パルプは、本発明の溶解パルプシートの原料として好適に用いられる。溶解パルプシートを製造するにあたり、ここで得られた溶解パルプはパルプスラリーとして、溶解パルプシートの製造に供することが好ましい。
当該パルプスラリーの固形分濃度は特に限定されるものではないが、0.5~5質量%が好ましい。
また、必要に応じて、歩留向上剤、濾水性向上剤、界面活性剤、紙力増強剤、嵩高剤、柔軟剤、内添サイズ剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添助剤を添加してもよく、これらの内添助剤は本発明の溶解パルプシートを構成する溶解パルプの一部を構成する。
【0028】
[溶解パルプシート]
本発明の溶解パルプシートは、広葉樹を原料とする溶解パルプからなる溶解パルプシートであって、下記式で求められるセルロース純度が97.0%以上であり、破裂強度が350kPa超900kPa以下であり、密度が0.3g/cm以上0.9g/cm以下である。
セルロース純度(%)=グルコース量/(グルコース量+キシロース量)×100
(式中、グルコース量およびキシロース量は、溶解パルプシート中のグルコース量およびキシロース量である。)
本発明での溶解パルプシートには、連続的に平判形状に断裁されたシートや、ロール形状(巻き取り)のシートも含まれる。
【0029】
本発明の溶解パルプシートは、広葉樹を原料とする溶解パルプからなり、好ましい溶解パルプは前記[溶解パルプ]の項で説明した通りである。
【0030】
本発明の溶解パルプシートのセルロース純度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは97.1%以上であり、さらに好ましくは97.2%以上であり、よりさらに好ましくは97.5%以上であり、よりさらに好ましくは98.0%以上である。セルロース純度は高いほど好ましいため、上限に制限はなく、100%以下である。
セルロース純度は、NREL法で測定される溶解パルプシート中のグルコース量およびキシロース量から前記式によって求められるものであり、具体的には実施例に記載した方法によって求めることができる。セルロース純度の単位である「%」は「質量%」である。
【0031】
本発明の溶解パルプシートの破裂強度の上限値は、900kPa以下であり、好ましくは850kPa以下、より好ましくは800kPa以下、さらに好ましくは750kPa以下である。溶解パルプシートの破裂強度の上限値が前記の範囲であると、溶解パルプシートの解繊性を向上させることができるため、溶解パルプシートの反応性および溶解性が高まり、本発明の溶解パルプシートを原料として得られる溶液の透明性を向上させることができる。
また、破裂強度の下限値は、350kPa超であり、好ましくは360kPa以上、より好ましくは370kPa以上、さらに好ましくは380kPa以上である。破裂強度の下限値が前記の範囲であることで、溶解パルプシートの密度または絶乾坪量を所望の範囲内とし、溶解パルプシートの生産性や輸送適正を向上させることができる。
溶解パルプシートの破裂強度は、実施例に記載の方法により測定される。
また、本発明の溶解パルプシートのセルロース純度および破裂強度が前記範囲であることによって、溶解パルプからなる溶解パルプシートの溶液、および当該溶解パルプシートを原料として得られるセルロース誘導体の溶液の透明性に優れる。
【0032】
本発明の溶解パルプシートの密度の上限値は、0.9g/cm以下であり、好ましくは0.8g/cm以下、より好ましくは0.7g/cm以下、さらに好ましくは0.65g/cm以下である。密度の上限値が前記の範囲であることで、溶解パルプシートの解繊性を向上させることができるため、溶解パルプシートの反応性および溶解性が高まり、本発明の溶解パルプシートを原料として得られる溶液の透明性を向上させることができる。
また、密度の下限値は、0.3g/cm以上であり、好ましくは0.4g/cm以上であり、より好ましくは0.45g/cm以上であり、さらに好ましくは0.5g/cm以上である。密度の下限値が前記の範囲であることで、得られる溶解パルプシートの破裂強度を上記の範囲とでき、紙の強度を向上し易いため、製造中の紙切れを抑止することができる。また、製品の溶解パルプシートの輸送効率を向上させることができる。
溶解パルプシートの密度は、JIS P 8118:2014に準拠して測定される。
【0033】
本発明の溶解パルプシートは、前記の通り、前記式で求められるセルロース純度が97.0%以上であり、破裂強度が350kPa超900kPa以下であり、密度が0.3g/cm以上0.9g/cm以下であるが、さらに次の特性を有することが好ましい。
本発明の溶解パルプシートのシート水分率は、外販のための輸送時の輸送ロスを軽減するために、20質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下とすることがより好ましい。また、反応性や透明性を向上させる観点からは、好ましくは3~10質量%であり、より好ましくは5~8質量%であり、さらに好ましくは6~8質量%であり、よりさらに好ましくは7~8質量%であり、よりさらに好ましくは7~7.5質量%である。シート水分率が前記の範囲であると、透明性が向上するため、好ましい。
また、本発明の溶解パルプシートの灰分は、好ましくは0.1%以下であり、より好ましくは0.08%以下であり、さらに好ましくは0.07%以下であり、よりさらに好ましくは0.06%以下である。灰分が前記の範囲であると、透明性が向上するため、好ましい。
なお、シート水分率および灰分は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
本発明の溶解パルプシートの絶乾坪量の上限値は、解繊性を向上させ、本発明の溶解パルプシートを原料として得られる溶液の透明性を向上させる観点から、好ましくは1200g/m以下、より好ましくは1100g/m以下、さらに好ましくは1000g/m以下、よりさらに好ましくは900g/m以下である。また、絶乾坪量の下限値は、十分な量の溶解パルプを含む溶解パルプシートとし、生産性を向上させる観点から、好ましくは400g/m以上、より好ましくは500g/m以上、さらに好ましくは600g/m以上、よりさらに好ましくは700g/m以上である。
溶解パルプシートの絶乾坪量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
本発明の溶解パルプシートの比破裂強度の上限値は、解繊性を向上させ、本発明の溶解パルプシートを原料として得られる溶液の透明性を向上させる観点から、好ましくは2.0kPa/(g/m)以下、より好ましくは1.5kPa/(g/m)以下、さらに好ましくは1.2kPa/(g/m)以下、よりさらに好ましくは1.0kPa/(g/m)以下、である。また、比破裂強度の下限値は、溶解パルプシートの密度または絶乾坪量を所望の範囲内とし、溶解パルプシートの生産性を向上させる観点から、好ましくは0.3kPa/(g/m)以上、より好ましくは0.4kPa/(g/m)以上、さらに好ましくは0.45kPa/(g/m)以上である。 溶解パルプシートの比破裂強度は、上記破裂強度を上記坪量で除したものであり、下記の式により求められる。
比破裂強度(kPa/(g/m))=破裂強度(kPa)/坪量(g/m
【0036】
本発明の溶解パルプシートの厚さ上限値は、溶解パルプシートの破裂強度、密度および絶乾坪量を上記の範囲内とする観点および溶解パルプシートの強度を向上させ、製造中の紙切れを抑止する観点から、好ましくは2200μm以下、より好ましくは1800μm以下、さらに好ましくは1600μm以下、よりさらに好ましくは1500μm以下である。また、厚さの下限値は、十分な量の溶解パルプを含む溶解パルプシートとし、生産性を向上させる観点から、好ましくは600μm以上、より好ましくは950μm以上、さらに好ましくは1150μm以上である。
溶解パルプシートの厚さは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0037】
本発明の溶解パルプシートは、セルロース純度を特定の値以上にすることで、シートが溶解した際の透明性を向上させるものであるが、溶解パルプシートのαセルロース含量も下記の範囲であることが好ましい。
本発明の溶解パルプシートのαセルロース含量は、好ましくは93.0%以上であり、より好ましくは94.0%以上であり、さらに好ましくは95.0%以上である。上限に制限はないが、100%以下である。
なお、αセルロース含量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0038】
本発明の溶解パルプシートまたは当該溶解パルプシートを原料として得られるセルロース誘導体は、溶媒に溶解させて得られる溶液の透明性に優れる。なかでも次に示すように、アセチル化反応を行った後の透明性に優れる。このような性質を有するため、本発明の溶解パルプおよび溶解パルプシートは、各種用途に使用する際に、その用途先での製品の品質を向上させ、さらに生産性を向上させることができる。
具体的には、アセチル化反応後の反応溶液(原料パルプ換算で3.7質量%の濃度)の670nmの透過率が、好ましくは80.0%以上であり、より好ましくは81.6%以上であり、さらに好ましくは83.1%以上であり、よりさらに好ましくは84.6%以上であり、よりさらに好ましくは86.2%以上である。
透過率が高く、透明性に優れることでアセチル化後の溶液の未反応繊維が少なく、紡糸の際にノズル詰まりなどの製造時の問題が生じない。
【0039】
<溶解パルプシートの製造方法>
本発明の溶解パルプシートは、上述した溶解パルプを原料として得ることが好ましい。本発明の溶解パルプシートは、前記[溶解パルプ]の項で説明した溶解パルプを原料として得ることが好ましく、そのうち、好適な溶解パルプシートも前記[溶解パルプ]の項で説明した好適な溶解パルプを原料として得ることがより好ましい。
【0040】
本発明の溶解パルプシートは、前記<溶解パルプの製造方法>で説明した多段漂白工程後に得られた溶解パルプ(晒パルプ)のスラリーを公知の方法で抄紙することで形成することが好ましい。
本発明の溶解パルプシートの好ましい製造方法は、下記式で求められるセルロース純度が97.0%以上である溶解パルプのスラリーを抄紙し、破裂強度が900kPa以下となるように溶解パルプシートを形成する方法である。
セルロース純度(%)=グルコース量/(グルコース量+キシロース量)×100
(式中、グルコース量およびキシロース量は、溶解パルプ中のグルコース量およびキシロース量である。)
すなわち、本発明の溶解パルプシートは、好ましくは前記[溶解パルプ]の項で説明した溶解パルプのスラリー、より好ましくは前記<溶解パルプの製造方法>で説明した多段漂白工程後に得られた溶解パルプ(晒パルプ)のスラリーを抄紙することで形成することが好ましい。そのうち、さらに好ましい溶解パルプも、前記[溶解パルプ]の項で説明した、さらに好ましい溶解パルプである。
具体的には、溶解パルプをワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートを順に通過させて脱水して得ることが好ましい。
【0041】
また、本発明の溶解パルプシートは、本発明の効果を妨げない範囲で、パルプ繊維間結合の阻害機能を有する嵩高剤、柔軟剤を使用してもよい。これらの嵩高剤、柔軟剤を用いることにより、溶解パルプシートの密度および厚さを調整することができるため、破裂強を所望の範囲とし易くでき、さらに、本発明の溶解パルプシートを原料として得られる溶液の透明性を向上させやすくすることができる。
嵩高剤、柔軟剤の具体例としては、例えば、脂肪酸系誘導体、脂肪酸ポリアミドアミン、多価アルコール系界面活性剤、油脂系非イオン界面活性剤等が例示できる。嵩高剤、柔軟剤の添加量は、乾燥質量対比でパルプに対して、好ましくは0.05質量%以上2.0質量以下である。
【0042】
ワイヤーパートの形式は、特に限定されるものではなく、例えば、長網式、短網式、円網式、ツインワイヤー式等が挙げられる。
プレスパートの型式は、特に限定されるものではなく、例えば、ツインバープレス、トライニッププレス、トライベントプレス、ENP、シュープレス、タンデムシュープレス、ベビープレス、ツインワイヤープレス、ヘビーデューティープレス等を使用することができる。このうちの1種、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。プレスパートの圧力を高めることで、破裂強度を目的の範囲に調整することができる。
【0043】
本発明の溶解パルプシートは、プレスパートのプレス圧を調整することにより、所望の破裂強度および密度とすることができ、本発明の溶解パルプシートを原料として得られるセルロース誘導体を溶媒に溶解させて得られる溶液の透明性を向上させることができ、特にアセチル化反応を行った後の透明性を向上させることができる。
パルプシートのプレス圧を低くすると、溶解パルプシートの密度は小さくなり、溶解パルプシートの繊維間結合および繊維内結合を減少させることができ、破裂強度を小さくすることができる。その結果、溶解パルプシートの解繊性を向上させることができ、得られる溶液の透明性を向上させることができる。また、プレスパートのプレス圧を高くすることにより、溶解パルプシートの密度および破裂強度を一定の範囲とすることができるため、紙切れを防止することができる。また、製品の溶解パルプシートの輸送効率を向上し易くできる。
一方で、プレスパートのプレス圧が低すぎる場合は、密度および破裂強度が小さくなりすぎるため、紙切れが起こりやすくなり、また、製品の溶解パルプシートの輸送効率が低下する。また、プレス圧が高すぎる場合は、溶解パルプシートの密度が大きくなりすぎ、溶解パルプシートの繊維間結合および繊維内結合が増加することとなり、破裂強度が高くなりすぎてしまい、得られる溶液の透明性が劣るものとなってしまう。
以上の観点から、プレスパートのプレス圧は、面圧として、好ましくは35kgf/cm以上、より好ましくは40kgf/cm以上、さらに好ましくは45kgf/cm以上、よりさらに好ましくは50kgf/cm以上であり、そして、好ましくは200kgf/cm以下、より好ましくは190kgf/cm以下、さらに好ましくは180kgf/cm以下、よりさらに好ましくは170kgf/cm以下である。
【0044】
プレスパート後のパルプシートの水分率は特に限定されないが、70質量%以下とすることにより、ドライヤーパートにかかる負荷を低減でき、効率的なパルプシートの製造が可能となる。
【0045】
ドライヤーパートの型式は、特に限定されるものではなく、例えば、シリンダードライヤー、IRドライヤー、熱風式エアドライヤー等を使用することができ、このうちの1種、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができるが、上記の好適な水分率とするために、100℃以下で調湿することが好ましい。
【実施例
【0046】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0047】
[分析方法・評価方法]
[セルロース純度]
NREL/TP-510-42618法に従って、溶解パルプシートを、硫酸を用いて酸加水分解した後、イオンクロマトグラフィを用いて単糖の定量分析を行った。得られたデータを下に、下記式からセルロース純度を算出した。
セルロース純度(%)=グルコース量/(グルコース量+キシロース量)×100
なお、前記式中、グルコース量とキシロース量はそれぞれ下記式で求めた。
グルコース量(g)=グルコース測定結果(μM)×162(グルコース単位の分子量)/酸による糖の過分解率(%)
キシロース量(g)=キシロース測定結果(μM)×132(キシロース単位の分子量)/酸による糖の過分解率(%)
【0048】
[破裂強度]
JIS P 8131:2009に従って測定した。
【0049】
[密度]
JIS P 8118:2014に従って測定した。
【0050】
[αセルロース含量]
Tappi T203に従って測定した。
【0051】
[水分率]
溶解パルプシートを室温23℃、湿度50%の部屋で24時間調湿した後、105℃、24時間の条件で乾燥させ、乾燥前後のパルプシート質量の差から水分率を算出した。なお、溶解パルプシートの質量はJIS P 8127:2010に従って測定した。
【0052】
[灰分]
JIS P 8251:2003に従って測定した。
【0053】
[長さ加重平均繊維長]
ISO 16065-2(2007)に準拠して測定した。
【0054】
[絶乾坪量]
JIS P 8124:2011に従って測定した。
【0055】
[厚さ]
JIS P 8118:2014に従って測定した。
【0056】
[透明性(アセチル化反応性)]
溶解パルプシートをペーパーナイフでシート表面を削ってフラッフ状にし、絶乾重量で1.0g精秤した。前記フラッフ化パルプを100mLの三角フラスコに入れ、そこへ酢酸18.75g/無水酢酸7.50g/硫酸0.09gの混合溶液を氷浴上にて添加し、5分間静置した。5分後、得られた溶液をホットプレートスターラーにて40℃で撹拌し、300分間、アセチル化反応を行い、試料溶液を得た。試料溶液を2mL分取し、分光光度計(HITACHI製、U-2001 spectrophotometer)によって、試料溶液と、溶媒(酢酸/無水酢酸)のみのブランク溶媒の670nmの透過率を測定し、下記式により試料の透過率とし、透明性(アセチル化反応性)を下記の基準で評価した。
透過率(%)=(試料溶液の670nmの透過率)/(ブランク溶媒の670nmの透過率)×100
(評価基準)
9:透過率が86.2%以上
8:透過率が84.6%以上、86.2%未満
7:透過率が83.1%以上、84.6%未満
6:透過率が81.6%以上、83.1%未満
5:透過率が80.0%以上、81.6%未満
4:透過率が78.5%以上、80.0%未満
3:透過率が77.0%以上、78.5%未満
2:透過率が75.4%以上、77.0%未満
1:透過率が75.4%未満
透過率が高いほど、アセチル化反応性が良好であり、透明性に優れる。
【0057】
[溶解パルプシートの製造]
[実施例1]
絶乾質量で240gのユーカリ材チップをオートクレーブに入れ、液比が3になるようにイオン交換水を加えた後、オートクレーブで前加水分解処理を実施した。この時の温度は155℃、時間は120分間でPファクターは400であった。前加水分解処理後のチップを再度オートクレーブに入れ、液比3、所定量の白液(活性アルカリ(AA)濃度18%、硫化度28%)を添加し、蒸解温度155℃で300分間クラフト蒸解を実施し、未晒クラフトパルプ(以下「UKP」と呼ぶ)を得た。
前記UKPを絶乾質量で70g採取し、絶乾パルプ質量あたり水酸化ナトリウム1.5%を添加し、次いでイオン交換水で希釈してパルプ濃度を10質量%に調製した。このパルプ懸濁液をオートクレーブに入れ、酸素分圧0.5MPaの下100℃で90分間酸素晒を行った。酸素晒終了後、パルプをイオン交換水で十分洗浄し、酸素晒パルプ(以下「OKP」と呼ぶ)を得た。
前記OKPを絶乾質量で60g採取し、絶乾パルプ質量あたり0.5質量%の二酸化塩素とイオン交換水でパルプ濃度を10質量%に調製し、80℃の恒温水槽に40分間浸漬して、D0段処理を行った。得られたパルプをイオン交換水で十分洗浄した後、絶乾パルプ質量あたり1.0質量%の水酸化ナトリウム、0.1質量%の過酸化水素、イオン交換水でパルプ濃度を10質量%に調製し、80℃の恒温水槽に60分間浸漬して、アルカリ抽出段(EP段)処理を行った。得られたパルプをイオン交換水で十分洗浄した後、絶乾パルプ質量あたり0.3質量%の二酸化塩素とイオン交換水でパルプ濃度を10質量%に調製し、80℃の恒温水槽に60分間浸漬して、D1段処理を行った。得られたパルプをイオン交換水で十分洗浄し、晒パルプ(以下「BKP」と呼ぶ)を得た。ただし、D0段、D1段においては反応後pHがそれぞれ約3、および約4になるよう適量の水酸化ナトリウムを反応前に添加した。
前記BKPをイオン交換水で希釈した後、角型手抄き機を用い、絶乾坪量が約800g/m2の手抄きシートを調製した。手抄き後、油圧式角型プレス機を使用し、面圧110kgf/cm2の条件で脱水した後風乾し、その後、室温23℃、湿度50%の条件にて調湿して、溶解パルプシート1を得た。
【0058】
[実施例2]
前加水分解の処理時間を146分間(Pファクター475)に変更し、クラフト蒸解のAA濃度を17%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシート2を得た。
【0059】
[実施例3]
蒸解の液比を2.5に変更した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシート3を得た。
【0060】
[実施例4]
油圧式角型プレス機による脱水を面圧160kgf/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシート4を得た。
【0061】
[実施例5]
油圧式角型プレス機による脱水を面圧90kgf/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシート5を得た。
【0062】
[実施例6]
油圧式角型プレス機による脱水を面圧65kgf/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシート6を得た。
【0063】
[実施例7]
手抄きの際、BKPを水道水で希釈した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシート7を得た。
【0064】
[実施例8]
油圧式角型プレス機で脱水した後のパルプシートを風乾した後、乾燥機で105℃、15分間乾燥させた以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシート8を得た。
【0065】
[実施例9]
樹種をブナに変更し、前加水分解の処理時間を180分間(Pファクター580)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシート9を得た。
【0066】
[実施例10]
手抄きの際、絶乾坪量が約650g/m2の手抄きシートを調製した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシート10を得た。
【0067】
[実施例11]
手抄きの際、絶乾坪量が約1000g/m2の手抄きシートを調製した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシート11を得た。
【0068】
[実施例12]
BKPをイオン交換水で希釈した際、嵩高剤としてPT8107(脂肪酸系誘導体、星光PMC株式会社製)を絶乾パルプ質量あたり0.5質量%添加した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシート12を得た。
【0069】
[比較例1]
油圧式角型プレス機による脱水を面圧230kgf/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシートC1を得た。
【0070】
[比較例2]
前加水分解の処理時間を95分間(Pファクター320)に変更し、クラフト蒸解のAA濃度を19%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシートC2を得た。
【0071】
[比較例3]
手抄きの際、絶乾坪量が約1400g/m2の手抄きシートを調製した以外は、実施例1と同様の方法で溶解パルプシートC3を得た。
【0072】
前記実施例および比較例で得られた溶解パルプシートの分析結果および評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、実施例の溶解パルプシートは、アセチル化反応後の反応溶液の透明性に優れ、アセチル化反応に優れることがわかる。このように、溶液の透明性に優れる本発明の溶解パルプシートは、各種用途に使用する際に、その用途先での製品の品質を向上させ、さらに生産性を向上させることができる。