(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】製鉄用容器および製鉄用容器の操業方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/44 20060101AFI20241203BHJP
C21C 1/06 20060101ALI20241203BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20241203BHJP
F27B 3/16 20060101ALI20241203BHJP
F27B 3/22 20060101ALI20241203BHJP
C04B 35/043 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C21C5/44 Z
C21C1/06
F27D1/00 N
F27B3/16
F27B3/22
C04B35/043
(21)【出願番号】P 2021209214
(22)【出願日】2021-12-23
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】日野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】細原 聖司
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-095784(JP,A)
【文献】国際公開第2006/112485(WO,A1)
【文献】特開2017-095783(JP,A)
【文献】特開2017-071517(JP,A)
【文献】特開2017-065978(JP,A)
【文献】特開2017-081786(JP,A)
【文献】特開2017-081810(JP,A)
【文献】特開平09-278515(JP,A)
【文献】特開2012-122131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/44
C21C 1/06
F27D 1/00
F27B 3/16
F27B 3/22
C04B 35/043
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄に用いられる製鉄用容器の操業方法であって、
下記(1)、(2)、及び(3)を含む混合原料が含有されたカーボン含有不焼成れんが耐火物を少なくとも一部に用いたワーク耐火物を内部に設けた前記製鉄用容器の操業前に、
前記製鉄用容器内を予熱して前記カーボン含有不焼成れんが耐火物を焼成することで、下記(3)の混合物からカーボンナノチューブを生成させる予熱工程を有する、製鉄用容器の操業方法。
(1)耐火物原料
(2)黒鉛原料
(3)平均粒子径が1μm以下である
粉末状の遷移金属又は遷移金属を含有する遷移金属化合物を有機系物質からなる液状のバインダーに混合した混合物
(但し、前記遷移金属又は遷移金属を含有する遷移金属化合物を溶媒に懸濁した状態で前記液状のバインダーに添加して混合した混合物を除く)
【請求項2】
前記製鉄用容器は、内部に溶鉄を保持し、前記溶鉄に炉底部からガスを吹き込むためのガス吹き込み羽口を有する製鉄用精錬容器であって、
少なくとも前記炉底部に配された前記ガス吹き込み羽口を有する部位のワーク耐火物に、前記カーボン含有不焼成れんが耐火物を用いる、請求項1に記載の
製鉄用容器の操業方法。
【請求項3】
前記製鉄用容器は、溶銑を輸送する、または前記溶銑を輸送する途中で前記溶銑に予備処理を実施するための製鉄用溶銑輸送容器である、請求項1に記載の
製鉄用容器の操業方法。
【請求項4】
前記耐火物原料は、Al
2O
3及びMgOのうち少なくとも1種類の化合物で構成され、
前記化合物は、平均粒子径で3mm以上が5~40質量%、1mm以上3mm未満が10~45質量%、0.15mm以上1mm未満が15~30質量%、及び0.15mm未満が5~45質量%の粒度範囲からなる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の
製鉄用容器の操業方法。
【請求項5】
前記バインダーの質量は、前記耐火物原料及び前記黒鉛原料の合計質量に対して外数で2質量%以上5質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の
製鉄用容器の操業方法。
【請求項6】
前記遷移金属化合物は、Fe又はNiを含有している化合物からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の
製鉄用容器の操業方法。
【請求項7】
前記Fe又はNiを含有している化合物は、Fe
2O
3、Fe
3O
4、FeO、NiCO
3、及びNiOのいずれかである、請求項6に記載の
製鉄用容器の操業方法。
【請求項8】
前記遷移金属及び前記遷移金属化合物の合計質量は、前記バインダーの質量に対して0.1質量%以上8.0質量%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の
製鉄用容器の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温プロセスで用いられる製鉄用容器について、カーボン含有不焼成れんが耐火物をワーク耐火物として施工した製鉄用容器及び製鉄用容器の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製鉄プロセスにおいて、溶鉱炉から出湯される溶銑は、トピード・カーや溶銑鍋に代表される製鉄用溶銑輸送容器で製鋼工程へ輸送される。その後、転炉や電気炉に代表される製鉄用精錬容器にて精錬処理を行い、当該精錬処理が施された溶鋼は取鍋等の容器に移され、2次精錬や連続鋳造等の次工程へ輸送される。このうち、転炉や電気炉などの製鉄用精錬容器(製鉄用容器の一例)は、脱炭精錬を行なうのみならず、溶鋼温度の調整等のため重要な役割を果たす。また、トピード・カーに備えられる溶銑鍋(高炉鍋)などの製鉄用溶銑輸送容器(製鉄用容器の一例)は、高炉から製鋼工場までの溶銑の輸送を行なうのみならず、輸送の途中において脱珪、脱りん、脱硫処理(溶銑予備処理)の実施等、精錬処理のコストダウンにおいて重要な役割を果たす。
【0003】
製鋼プロセスでは、複数の精錬工程のそれぞれがバッチ式であることが多く、それ故、設備における熱の吸収及び放出が周期的に行われる。耐火物設備において、熱負荷を繰り返し受け続けると、耐火物に発生する熱応力もそれに応じて変動する。そのため、耐火物内に亀裂が発生し、耐火物の破壊が引き起こされる。よって、耐火物の靭性を向上させて耐用性向上を達成できれば、製鉄プロセスの中で耐火物設備の寿命増加をもたらし、設備の補修等にかかるコストダウンを達成できる。
【0004】
例えば、上底吹き転炉に代表される転炉は、転炉等の反応容器内に酸化性ガスを供給することにより脱炭精錬を行う方法が公知の技術として利用されている。上吹きランスを介して炉内に酸化性ガス(主に酸素ガス)を供給し、以下の(3)式に示す通り、溶鋼中の炭素が酸素ガスと反応して一酸化炭素COを発生させる反応(以下、1次燃焼という)を進行させて、溶銑の脱炭処理を行う。
【0005】
C + 1/2O2 = CO ・・・(3)式
【0006】
同時に、溶銑の攪拌を行い、反応効率を高めるため炉底部よりガス(主に不活性ガス)を溶銑に供給する。Q-BOPと呼ばれる底吹き転炉においても、炉底部に配した羽口より炉内に酸化性ガスを供給して脱炭精錬を行う。これらの羽口は金属のパイプに耐火物を施工した構造となっている。羽口耐火物は、溶銑(溶鋼)から莫大な熱エネルギーを受けると共に、金属パイプから高流速のガスを溶銑(溶鋼)に供給するため、羽口耐火物には非常に高い熱勾配の分布が生じる。また、転炉からの出鋼時に、酸化鉄含有スラグと接触する可能性もある。そのため、羽口部用の耐火物として耐熱衝撃性(耐熱スポーリング性)、耐食性が求められ、上記の観点から、MgO-Cれんがが使用される。側壁部のワーク耐火物層に対しても、熱衝撃、機械的衝撃への耐用性が求められる。
【0007】
また、溶銑輸送容器のワーク耐火物にはAl2O3-SiC-Cれんがが使用されている。ワーク耐火物は、溶銑輸送時および溶銑予備処理時に、酸化鉄含有スラグと接触する可能性がある。また、溶銑輸送容器における熱の吸収及び放出を踏まえると、溶銑充填時にはワーク耐火物は高温状態になり、溶銑払い出し後には熱が放出されるため、熱の出入りが繰り返し行われ、それに応じてワーク耐火物に発生する熱応力も繰り返し発生する。この繰り返し発生する熱応力が起因となり、熱疲労破壊が起こる。そのため、溶銑輸送用容器のワーク耐火物としては耐熱衝撃性(耐熱スポーリング性)及び耐食性が求められる。
【0008】
このうち、耐火物の靭性を向上させる方法の一つとしては、材料内における破壊の原因となる亀裂の発生・進展を妨げることが挙げられる。亀裂の発生・進展を妨げる方法としては、繊維状物質のようなアスペクト比の高い物質を耐火物に添加し、ブリッジングを強化することが考えられる。
【0009】
また、近年、カーボンブラックや、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と記載することがある。)、カーボンナノファイバー(以下「CNF」と記載することがある。)、フラーレン、グラフェンなど、数多くのカーボンナノ材料が発見され、それらナノマテリアルの添加により機械特性向上、特に、耐スポーリング性の向上を図った技術も多く使用されている。例えば、特許文献1には、メゾフェーズピッチ+熱硬化性樹脂を耐火物中に添加させて、メゾフェーズピッチ+熱硬化性樹脂の熱分解(1000℃以下)により、カーボンナノファイバー(径:最大500nm、長さ:100μm)を生成させ、耐食性かつ耐熱衝撃性を向上させる技術が開示されている。また、特許文献2には、フラーレン類を5%以下の範囲で耐火物中に添加し、耐スポーリング性の向上を図る技術が開示されている。その原理は、フラーレン類とバインダーであるフェノールレジンとが熱間(熱処理:最大1500℃)で反応し、カーボンナノファイバー(CNF)が生成することに因る。この生成されたCNFが、ブリッジング効果の役割をなすため、耐スポーリング性の向上が達成される。ここで、耐スポーリング性の一種として、耐熱スポーリング性がある。
【0010】
特許文献3には、有機バインダーと、粒径1000nm以下の微粒子が溶媒中に分散されたコロイド状又は懸濁液状の遷移金属又は遷移金属塩の溶液又は分散液と、耐火物原料とを混練し、600℃~1200℃の温度で熱処理し、炭素繊維状組織と粒子径1000nm以下の遷移金属又は遷移金属塩とを含む微粒子を分散して生成することにより、耐火物の靭性を向上させる技術が開示されている。
【0011】
また、特許文献4には、耐火原料の表面に触媒として、V、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Pd、Rh、W、Ptからなる群のうち1種または2種以上の金属が被覆された触媒被覆耐火原料と、有機高分子樹脂またはその前駆体とを原料とし、その耐火物を熱処理することによって、組織中にナノカーボンチューブを均一に分散させて、靭性を向上させる技術が開示されている。
【0012】
更に、特許文献5には、耐火物原料の表面にCNT、CNFを被覆した耐火原料を用いた耐火物を適用することにより、強度や耐破壊特性に優れた耐火物を提供する技術が開示されている。
【0013】
これらの技術は、いずれも耐火物の組織中に繊維状物質を存在させて、繊維状物質によるブリッジング効果により、機械的負荷を原因とした耐火物中に発生する亀裂の進展を防ぐことを狙いとする。なお、上記した従来技術は、カーボン含有率の低い低カーボンれんがのみならず、比較的高いカーボン含有量を有するれんがにも適用でき、耐火物の更なる高強度化、あるいは耐スポーリング性の更なる向上に寄与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2005-139062号公報
【文献】特開2006-8504号公報
【文献】特許第4641316号公報
【文献】特許第4856513号公報
【文献】特許第5192774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1の場合には、添加する物質が比較的高価なメゾフェーズピッチであり、製造コストの面で問題がある。特許文献2の場合においても、添加する物質が比較的高価なフラーレンであり、耐火物の製造コストの増大も招きかねない。
【0016】
また、特許文献3の場合、液状の有機バインダーとともにコロイド状、または液状の物質を新たに添加することになる。この時、混錬物の流動性が過剰に増大し、耐火物の成形が非常に困難になる。これは、バインダー添加量をコロイド状物質、あるいは懸濁液量の制限を結果として生じさせることになり、耐火物の製造に関して大きな制約を受けることになる。さらに、特許文献4及び特許文献5に開示された技術は、両者ともに被覆技術を適用したものである。この被覆技術は、通常CVD等の蒸着法を用いるが、この手法もコストが非常に高くなり、また、大量に被覆することが非常に難しいのが課題である。したがって、これらの技術は必ずしも有効とは言えない。
【0017】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたもので、耐火物の製鉄用容器への施工の後に当該製鉄用容器の予熱処理を経ることで、耐火物の耐熱スポーリング性を向上させることができる製鉄用容器および製鉄用容器の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]製鉄に用いられる製鉄用容器であって、内側からワーク耐火物、永久耐火物、鉄皮の順に構成され、前記ワーク耐火物の少なくとも一部に、下記(1)、(2)、及び(3)を含む混合原料が含有されたカーボン含有不焼成れんが耐火物を用いる、製鉄用容器。
(1)耐火物原料
(2)黒鉛原料
(3)平均粒子径が1μm以下である遷移金属又は遷移金属を含有する遷移金属化合物を有機系物質からなる液状のバインダーに混合した混合物
[2]前記製鉄用容器は、内部に溶鉄を保持し、前記溶鉄に炉底部からガスを吹き込むためのガス吹き込み羽口を有する製鉄用精錬容器であって、少なくとも前記炉底部に配された前記ガス吹き込み羽口を有する部位のワーク耐火物に、前記カーボン含有不焼成れんが耐火物を用いる、[1]に記載の製鉄用容器。
[3]前記製鉄用容器は、溶銑を輸送する、または前記溶銑を輸送する途中で前記溶銑に予備処理を実施するための製鉄用溶銑輸送容器である、[1]に記載の製鉄用容器。
[4]前記耐火物原料は、Al2O3及びMgOのうち少なくとも1種類の化合物で構成され、前記化合物は、平均粒子径で3mm以上が5~40質量%、1mm以上3mm未満が10~45質量%、0.15mm以上1mm未満が15~30質量%、及び0.15mm未満が5~45質量%の粒度範囲からなる、[1]~[3]のいずれか1つに記載の製鉄用容器。
[5]前記バインダーの質量は、前記耐火物原料及び前記黒鉛原料の合計質量に対して外数で2質量%以上5質量%以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の製鉄用容器。
[6]前記遷移金属化合物は、Fe又はNiを含有している化合物からなる、[1]~[5]のいずれか1つに記載の製鉄用容器。
[7]前記Fe又はNiを含有している化合物は、Fe2O3、Fe3O4、FeO、NiCO3、及びNiOのいずれかである、[6]に記載の製鉄用容器。
[8]前記遷移金属及び前記遷移金属化合物の合計質量は、前記バインダーの質量に対して0.1質量%以上8.0質量%以下である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の製鉄用容器。
[9]製鉄に用いられる製鉄用容器の操業方法であって、下記(1)、(2)、及び(3)を含む混合原料が含有されたカーボン含有不焼成れんが耐火物を少なくとも一部に用いたワーク耐火物を内部に設けた前記製鉄用容器の操業前に、前記製鉄用容器内を予熱して前記カーボン含有不焼成れんが耐火物を焼成することで、下記(3)の混合物からカーボンナノチューブを生成させる予熱工程を有する、製鉄用容器の操業方法。
(1)耐火物原料
(2)黒鉛原料
(3)平均粒子径が1μm以下である遷移金属又は遷移金属を含有する遷移金属化合物を有機系物質からなる液状のバインダーに混合した混合物
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐火物の製鉄用容器への施工の後に当該製鉄用容器の予熱処理を経ることで、耐火物中に繊維状物質を効率的に生成させることが可能となる。そして、耐火物の耐熱スポーリング性の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】製鉄用精錬容器の耐火物ライニング構造に関する断面模式図である。
【
図2】製鉄用溶銑輸送容器の耐火物ライニング構造に関する断面模式図である。
【
図3】バインダー及び遷移金属(遷移金属化合物)の混合物の加熱温度パターンを示す図である。
【
図4】遷移金属化合物(Fe
2O
3)を用いた場合におけるフェノール樹脂乾留生成物(CNT)のTEM写真を示す図である。
【
図5】遷移金属化合物(NiCO
3)を用いた場合におけるフェノール樹脂乾留生成物(CNT)のTEM写真を示す図である。
【
図6】通常れんが及びNiCO
3添加れんがにおける荷重及び変位の関係を示すグラフである。
【
図7】通常れんが及びNiCO
3添加れんがにおける静的弾性率を示すグラフである。
【
図8】遷移金属としてFeOをフェノール樹脂に添加した場合におけるCNT生成メカニズムを簡易的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を通じて本発明を説明する。本発明における「不焼成れんが耐火物」は、耐火物原料、黒鉛原料、バインダー等を配合して成形する成形工程と、成形工程にて成形された成形物を焼成する焼成工程とを行うことによって製造されるれんが耐火物に対して、当該焼成工程を実施する前のれんが耐火物を意味する。なお、成形工程には、必要に応じてバインダーを熱硬化させるための処理(例えば成形品を150~300℃程度で長時間(24~72時間)保持する処理(キュアリング処理))が含まれる。
【0022】
<製鉄用容器について>
(第1実施形態)
本発明に係る製鉄用容器が転炉等の製鉄用精錬容器である場合について、
図1を用いて説明する。
図1は、製鉄用精錬容器の耐火物ライニング構造を示す断面模式図である。製鉄用精錬容器10は、内部に溶鉄を保持するとともに、溶鉄に炉底部からガスを吹き込むためのガス吹き込み羽口4を有する。製鉄用精錬容器10は、内側からワーク耐火物3、永久耐火物2、鉄皮1の順に構成されている。製鉄用精錬容器10の鉄皮1に接するように永久耐火物2が設けられ、永久耐火物2の内側にワーク耐火物3が設けられる。永久耐火物2としては、例えば、MgOれんがが用いられる。ワーク耐火物3として、後述するカーボン含有不焼成れんが耐火物が施工される。本実施形態では、少なくとも特に熱負荷を受けやすい製鉄用精錬容器10の炉底部に配されたガス吹き込み羽口4を有する部位(羽口の周囲)のワーク耐火物3をカーボン含有不焼成れんが耐火物とすることが好ましいが、ガス吹き込み羽口4を有する部位以外のワーク耐火物3についても、カーボン含有不焼成れんが耐火物としても良い。
【0023】
ここで、
図1に示す通り、転炉等の製鉄用精錬容器10の内部には、溶鉄として溶鋼8及びスラグ7が保持されている。また、溶鉄に対して上方から酸素ガス6を吹き込む上吹きランス5が設けられ、炉底部からも底吹き撹拌ガス9が吹き込まれる。
【0024】
製鉄用精錬容器10は、操業前に予熱工程を有する点を特徴とする。具体的には、製鉄用精錬容器10の鉄皮1の内側に永久耐火物2とワーク耐火物3を施工して製鉄用精錬容器10を構炉した後、製鉄用精錬容器10を予熱する(800~1200℃)ことにより、カーボン含有不焼成れんが耐火物を焼成する。これにより、カーボン含有不焼成れんが耐火物に、後述する
図8に示す機構によって反応が起こり、カーボン含有不焼成れんが耐火物の少なくとも一部に含有される混合物(混合原料)から、カーボンナノチューブ(CNT)が耐火物内部に一様に生成される。この生成したCNTによるブリッジング効果によって、耐火物の靭性が大きく向上し、耐火物寿命向上が達成される。
【0025】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る製鉄用容器がトピード・カーに搭載される製鉄用溶銑輸送容器である場合について、
図2を用いて説明する。
図2は、製鉄用溶銑輸送容器の耐火物ライニング構造に関する断面模式図である。本実施形態では、
図2に示すように、製鉄用容器が製鉄用溶銑輸送容器20である場合について説明する。製鉄用溶銑輸送容器20は、内部に溶鉄を保持し、溶銑の輸送及び輸送途中における脱炭精錬(溶銑予備処理)等に使用される。製鉄用溶銑輸送容器20は、内側からワーク耐火物13、永久耐火物12、鉄皮11の順に構成される。製鉄用溶銑輸送容器20の鉄皮1に接するように永久耐火物2が設けられ、永久耐火物2の内側にワーク耐火物3が設けられる。永久耐火物2としては、例えば、Al
2O
3-SiO
2系焼成れんがが用いられる。ワーク耐火物3として、後述するカーボン含有不焼成れんが耐火物が施工されている。
【0026】
製鉄用溶銑輸送容器20は、操業前に予熱工程を有する点を特徴とする。具体的には、製鉄用溶銑輸送容器20の鉄皮1の内側に永久耐火物2とワーク耐火物3を施工して製鉄用溶銑輸送容器20を構築した後、製鉄用溶銑輸送容器20を予熱する(800~1200℃)ことにより、カーボン含有不焼成れんが耐火物を焼成する。これにより、カーボン含有不焼成れんが耐火物において、後述する
図8に示す機構による反応が起こり、カーボン含有不焼成れんが耐火物の少なくとも一部に含有される混合物(混合原料)から、カーボンナノチューブ(CNT)が耐火物内部に一様に生成される。生成したCNTによるブリッジング効果によって、耐火物の靭性が大きく向上して耐火物寿命向上が達成される。
【0027】
<カーボン含有不焼成れんが耐火物>
耐火物の耐熱スポーリング性は、金属材料や他の延性材料に比べると決して高くない。耐熱スポーリング性を高める方法の一つに、耐火物の組織中への繊維状物質を存在させて、その繊維状物質によるブリッジング効果により、機械的負荷によって耐火物中に発生した亀裂の進展を妨げる方法が挙げられる。
【0028】
MgO-CれんがやAl2O3-SiC-Cれんが等に代表される耐火物は、骨材及び微粉などの耐火物原料、黒鉛原料(鱗状黒鉛)、フェノール樹脂などに代表される有機系物質からなる液状のバインダー、および各種添加材から構成される。ここで、有機系物質からなる液状のバインダーは加熱すると揮発分が抜け、アモルファスカーボンなどの炭素物質が生成する。この時、バインダーを原料として、カーボンナノチューブなどのナノ繊維状物質を加熱中に生成させることができれば、より低コストで繊維状物質を耐火物内に生成でき、各種課題を解決できる可能性がある。そこで、発明者らはバインダー材料(例えばタールや、フェノール樹脂、ピッチ等の有機樹脂)の加熱時にカーボンナノ繊維物質の生成可否について検討を行った。
【0029】
ここで、カーボンナノチューブの生成は、FeやNiの微粒子が存在すると、その微粒子を核としてナノチューブが生成し、成長することが分かっている。そこで、発明者らは加熱中にバインダー材料の成分により還元生成したFe、Ni粒子を核としたナノチューブ生成を狙いとして、Fe、Ni酸化物をバインダー材料に添加して観察を行った。以下、調査実験内容を記載する。
【0030】
原料は、遷移金属化合物として粉末状のFe
2O
3又はNiCO
3を用い、バインダーとしてフェノール樹脂を用いた。カーボンるつぼの中にフェノール樹脂を10g添加し、その後、粉末状のFe
2O
3、もしくはNiCO
3をるつぼ内に添加した。添加量、および実験水準を表1に示す。それぞれの条件とも、坩堝内でフェノール樹脂と粉末状の遷移金属化合物とを十分に混合し、
図3に示す温度パターンにて、Ar雰囲気で加熱した。そして、冷却後の試料をTEM(透過電子顕微鏡)にて観察した。それぞれの条件でのTEM写真を
図4~5に示す。
図4は、遷移金属化合物(Fe
2O
3)を用いた場合におけるフェノール樹脂乾留生成物の一例であるCNTのTEM写真を示す。
図5は、遷移金属化合物(NiCO
3)を用いた場合におけるフェノール樹脂乾留生成物の一例であるCNTのTEM写真を示す。
図4~5より、サブμmサイズの擬繊維状の物質の存在が確認された。
【0031】
【0032】
調査実験結果を受け、粉末状のNiCO3をバインダーに対して1質量%分添加して、バインダーと粉末状のNiCO3を事前混合したバインダーを作成し、当該混合物と、耐火物原料と、黒鉛原料とを配合して成形した成形物に対して加熱処理を行うことで、MgO-10%Cれんがを試作した。ここで、「MgO-10%Cれんが」は、マグネシア(MgO)と、10質量%の黒鉛原料(C)とを混合して成るれんがを意味する。れんがの曲げ強度(σ:MPa)、静的弾性率(E:MPa)を3点曲げ試験(JIS R2213:2005 耐火れんがの曲げ強さの試験方法)から評価した。ここで、静的弾性率(E)は以下の(1)式を用いて評価した。ここで、Lは支点間距離(m)、Bは試料の幅(m)、Wは試料の高さ(m)、Δuはたわみ(mm)、ΔPは線形域の最大荷重(N)である。
【0033】
【0034】
結果を
図6~7に示す。静的弾性率は、NiCO
3を添加しなかった通常のMgO-Cれんがと比較してほぼ同様であり、曲げ強度は向上した。これにより、次の(2)式で定義される熱衝撃破壊抵抗R(単位:K)はナノNiCO
3を添加したバインダーの適用によって向上することが示唆された。(2)式において、νはポアソン比(無次元数(ここでは0.3))、αは材料の熱膨張係数(1/K)である。実際に熱衝撃破壊抵抗Rを両者で比較すると、通常れんがではRが22、NiCO
3添加れんがではRが34となり、熱衝撃破壊抵抗Rが大きく増加した。
【0035】
【0036】
ここで、本発明のCNT生成メカニズムについて、遷移金属としてFeOを添加した場合を例に、
図8を用いて説明する。熱処理の実施により、まず、
図8(a)に示す通り、フェノール樹脂(レジン)から還元性ガス(CxHy、H
2、CO)が揮発する。そして、
図8(b)に示す通り、還元性ガスとFeOとが酸化還元反応を起こし、金属Feが生成する。その後、
図8(c)に示す通り、フェノール樹脂から揮発した還元性ガスが金属Feの表面で分解し、金属Feを核としてカーボンが生成及び拡散される。これを受けて、
図8(d)に示す通り、金属Feの触媒作用により、金属Feの表面において拡散されたカーボンが結合(C-C結合)し、CNTとして生成及び成長する。
【0037】
この熱処理中の反応を利用して、耐火物中に効率よくCNTを生成させ、成長させることが可能である。転炉の築炉~操業を例にとると、築炉時は通常の耐火物と同様に施工し、転炉の予熱中(800~1200℃)に
図8に示す機構によって反応が起こり、CNTが耐火物内部に一様に生成される。この生成したCNTによるブリッジング効果によって、耐火物の靭性が大きく向上して耐火物寿命向上が達成される。
【0038】
ここで、本発明で用いる添加物には平均粒子径が1μm以下である遷移金属、あるいは遷移金属を含有する遷移金属化合物(酸化物、炭酸塩その他化合物)を用いるべきである。平均1μmを超える粒径を有する粒子はCNTが生成し難いためである。この時の粒子は遷移金属粒子を用いるのが最も好ましいが、比較的高価であると共に、取り扱い時の安全性に十分注意を払う必要がある。そこで、取扱い時の安全性を確保でき、同等の効果を有する意味で遷移金属化合物(酸化物や炭酸塩その他化合物)を添加する方が望ましい。化合物としてはFe、Niを含有することが好ましく、さらにNiCO3、Fe2O3、Fe3O4、FeO、NiO等であればなお好ましい。また、遷移金属として用いる場合は、Fe又はNiが好ましい。そして、バインダーへの添加物としては、遷移金属と遷移金属化合物との混合物(例えば、FeとFeOとの混合物)であってもよく、遷移金属化合物同士の混合物(例えば、Fe3O4とFeOとの混合物)であってもよい。
【0039】
また、平均粒子径が1μm以下である遷移金属、あるいは遷移金属化合物(酸化物、炭酸塩その他化合物)は、予め有機系物質からなる液状のバインダーと混合し、その後に当該混合物を耐火物原料及び黒鉛原料に添加して混合原料として用意する方が、耐火物内において分散性が確保され、よりCNTの生成が容易になるため望ましい。なお、混合方法はミキサーなどの撹拌機や混錬機など、様々な方法で行えばよく、その方法については限定しない。
【0040】
さらに、平均粒子径が1μm以下である遷移金属、あるいは遷移金属化合物(酸化物、炭酸塩その他化合物)の添加量は有機系物質からなる液状のバインダーに対して、0.1質量%以上8.0質量%以下とすることが望ましい。0.1質量%未満ではCNT生成量が抑制され、8.0質量%よりも多い添加量では、8.0質量%と効果が同等であり過度の効果が望めない。また、逆に耐火物組織の細密充填性に影響を及ぼすため好ましくない。
【0041】
また、添加されるバインダーの質量は、耐火物原料及び黒鉛原料の合計質量に対して外数(外掛け)で2質量%以上5質量%以下とすることが望ましい。2質量%未満ではバインダーとして十分でなく、5質量%超えでは逆にバインダーが多すぎて耐火物の成形時にバインダーが染み出すおそれがある。
【0042】
本発明は、MgO-CやAl2O3-C、Al2O3-MgO-Cなどの各種カーボン含有れんがに適用できる。なお、耐火物原料としてAl2O3及びMgOのうち少なくとも1種類の化合物を用いる場合、Al2O3及びMgOの粒度範囲は、平均粒子径で3mm以上が5~40質量%、1mm以上3mm未満が10~45質量%、0.15mm以上1mm未満が15~30質量%、及び0.15mm未満が5~45質量%の粒度範囲とすることが耐火物として好ましい。もちろん、これらの耐火物にAlやSiなどの酸化防止剤を添加しても全くかまわない。むしろ、Alなどがウィスカー生成に寄与するため、より高い効果が十分期待できる。また、SiCを添加した耐火物でも適用できる。
【0043】
なお、本発明に使用する耐火物原料としては、電融品、焼結品、天然材質(海水MgO、バンド頁岩、シャモット、ろう石も含む)のいずれでも適用できる。SiCについても任意の品位、粒度、配合を問わず、各種設計思想に応じて使用することができる。また、黒鉛原料も、鱗状黒鉛、カーボンブラック、薄肉黒鉛など、各種材質が適用できる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
ヒートサイズ320t/ch規模の弱攪拌型上底吹き転炉の羽口部位に、MgO-C材質の羽口れんがを施工した。れんが中のカーボン濃度は20質量%とした。基準となるMgO-Cれんがの組成を表2に示す。表2に示す組成のMgO-Cれんがは、以下に説明する表3及び表4において、比較例1として示す例である。
【0045】
【0046】
発明例、および比較例の一覧を表3に示す。発明例1は平均粒子径が1μm以下の添加物としてCoCO3をバインダーに対して9.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。発明例2は平均粒子径が1μm以下の添加物としてNiOをバインダーに対して8.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。
【0047】
【0048】
これに対し、比較例1では表2に示す配合の通りで混合し、添加物には何も添加しなかった。比較例2は配合を見直し、黒鉛含有量を25.0質量%とした。比較例3は比較例1と同じ配合だが、ピッチを添加物として、外数で1.0質量%添加した。比較例4は比較例2と同じ配合だが、ピッチを添加物として、外数で1.0質量%添加した。比較例5は平均粒子径が1μm以下の添加物としてNiCO3をバインダーに対して10.0質量%の割合でバインダーとは別に添加した。比較例6は平均粒子径が1μm以下の添加物としてFe2O3を8.5質量%の割合でバインダーとは別に添加した。ここで、比較例5及び6における「バインダーと別々に添加」とは、金属粒子を耐火物原料に直接添加することを意味する。
【0049】
ここで、発明例及び比較例に係る耐火物について、耐火物が損耗限界に達するまでの所定期間(炉の使用回数で3000回程度)、脱炭吹錬を実施し、その時点における羽口耐火物の損耗速度及び炉寿命を比較し、評価を行った。発明例及び比較例に係る耐火物の比較の結果を表4に示す。
【0050】
【0051】
ここで、表4に示す損耗速度は、使用前後の耐火物の厚みの差(mm)を使用回数(Charge数(Ch))で除した値を意味する。炉寿命は、耐火物の使用可能回数(Charge数(Ch))を意味する。原単価指数は、耐火物原単位(溶鋼1トンあたりに使用される耐火物量(単位:kg/t-steel)と、耐火物の単価(単位重量当たりの耐火物の価格(単位円/kg))との積で定義される値を意味し、溶鋼単位重量当たりにかかる費用を指す。本願の実施例では、比較例1、9を「1.00」としたときの増減量を原単価指数と称する。
【0052】
平均粒子径が1μm以下である遷移金属化合物を添加した発明例1~2は、比較例1、2に比べて熱衝撃破壊抵抗Rが向上し、損耗速度が低減し、炉寿命が向上した。比較例3、4は、比較例1、2よりも損耗速度は低位となったが、コストが高く、原単価指数(比較例1を「1」とした場合)は高位となった。それに対して発明例1、2の原単価指数は、比較例1以下となった。
【0053】
更に、耐熱スポーリング性に着目して操業後れんがの表面観察結果を比較すると、本発明例1~2は、いずれも耐火物表面の亀裂は観察されなかったが、比較例1では大きな亀裂が、比較例2~4では細かい亀裂がそれぞれ観察された。これは、発明例の熱衝撃破壊抵抗R値が、比較例に比べて高位であることとほぼ同じ傾向となっている。更に、金属化合物をバインダーと別に添加した比較例5~6は、金属化合物の分散が不十分だったため、本発明例に比べ損耗速度や熱衝撃破壊抵抗Rの向上までは至らなかった。
【0054】
(実施例2)
次に、ヒートサイズ320t/ch規模の弱攪拌型上底吹き転炉の直胴部側壁部位にMgO-C材質の羽口れんがを施工した。れんが中のカーボン濃度は15.0質量%とした。基準となるMgO-Cれんがの組成を表5に示す。表5に示す組成のMgO-Cれんがは、以下に説明する表6及び表7において、比較例7として示す例である。
【0055】
【0056】
発明例、および比較例の一覧を表6に示す。発明例3は、平均粒子径が1μm以下の添加物としてFeOをバインダーに対して8.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。発明例4は、平均粒子径が1μm以下の添加物として金属Feをバインダーに対して4.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。
【0057】
【0058】
これに対し、比較例7では表5に示す配合の通りで混合したMgO-15%Cれんがを適用した。比較例8では比較例7の配合のれんがにピッチを外数で1.0質量%添加した。
【0059】
ここで、発明例及び比較例に係る耐火物について、耐火物が損耗限界に達するまでの所定期間(炉の使用回数で1000回程度)、脱炭吹錬を実施し、その時点における側壁部耐火物の損耗速度を比較し評価を行った。発明例及び比較例に係る耐火物の比較の結果を表7に示す。
【0060】
【0061】
表7に示す通り、平均粒子径が1μm以下である遷移金属、あるいは遷移金属化合物を添加した発明例3、4は、比較例7、8に比べて損耗速度が低減した。
【0062】
(実施例3)
次に、ヒートサイズ280t/ch規模の溶銑鍋型容器にAl2O3-SiC-C材質のワークれんがを施工した。れんが中のカーボン濃度は10.0質量%とした。基準となるAl2O3-SiC-Cれんがの組成を表8に示す。表8に示す組成のAl2O3-SiC-Cれんがは、以下に説明する表9及び表10において、比較例9として示す例である。
【0063】
【0064】
発明例、および比較例の一覧を表9に示す。発明例5は平均粒子径が1μm以下の添加物としてCoCO3をバインダーに対して9.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。発明例6は平均粒子径が1μm以下の添加物としてNiOをバインダーに対して8.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。
【0065】
【0066】
これに対し、比較例9では表8に示す配合の通りで混合し、添加物には何も添加しなかった。比較例10は配合を見直し、黒鉛含有量を15.0質量%とした。比較例11は比較例9と同じ配合だが、ピッチを添加物として、外数で1.0質量%添加した。比較例12は比較例10と同じ配合だが、ピッチを添加物として、外数で1.0質量%添加した。比較例13は平均粒子径が1μm以下の添加物としてNiCO3をバインダーに対して10.0質量%の割合でバインダーとは別に添加した。比較例14は平均粒子径が1μm以下の添加物としてFe2O3を8.5質量%の割合でバインダーとは別に添加した。
【0067】
ここで、発明例及び比較例に係る耐火物について、耐火物が損耗限界に達するまで(炉の使用回数で1000回程度に達するまで)の溶銑輸送および溶銑予備処理(脱りん、脱硫処理)を実施し、その時点におけるワーク耐火物の損耗速度及び亀裂状況を比較し、評価を行った。発明例及び比較例に係る耐火物の比較の結果を表10に示す。
【0068】
【0069】
平均粒子径が1μm以下である遷移金属化合物を添加した発明例5、6は、比較例9、10に比べて熱衝撃破壊抵抗Rが向上し、損耗速度が低減した。比較例11、12は、比較例9、10よりも損耗速度は低位となったが、コストが高いことから原単価指数(比較例9を1とした場合)は高位となった。そして、発明例5、6における原単価指数は、比較例9、10以下となった。
【0070】
更に、耐熱スポーリング性に着目して操業後れんがの表面観察結果を比較すると、本発明例5、6は、いずれも耐火物表面の亀裂は観察されなかったが、比較例9では大きな亀裂が、比較例10~12では細かい亀裂がそれぞれ観察された。これは、発明例の熱衝撃破壊抵抗R値が比較例に比べて高位であることとほぼ同じ傾向となっている。更に、金属化合物をバインダーと別に添加した比較例13、14は、金属化合物の分散が不十分だったため、発明例に比べ損耗速度や熱衝撃破壊抵抗Rの向上までは至らなかった。
【0071】
以上から、本発明に係る製鉄用容器および製鉄用容器の操業方法を利用して、カーボン含有不焼成れんが耐火物の製鉄用容器への施工の後に当該製鉄用容器の予熱処理を経ることで、耐火物中に繊維状物質を効率的に生成させることが可能となる。そして、カーボン含有れんが耐火物の熱衝撃破壊抵抗性、すなわち耐熱スポーリング性に対して優れた効果を有することが明らかとなった。
【符号の説明】
【0072】
1、11 鉄皮
2、12永久耐火物
3、13ワーク耐火物
4 ガス吹き込み羽口
5 上吹きランス
6 酸素ガス
7 スラグ
8 溶鋼
9 底吹き撹拌ガス
10 製鉄用精錬容器
19 トピード・カー
20 製鉄用溶銑輸送容器