(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ファイバープレイスメント装置
(51)【国際特許分類】
B29C 70/38 20060101AFI20241203BHJP
B29C 70/54 20060101ALI20241203BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20241203BHJP
D04H 3/04 20120101ALI20241203BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20241203BHJP
【FI】
B29C70/38
B29C70/54
B29C70/16
D04H3/04
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2021519681
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012353
(87)【国際公開番号】W WO2021200498
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2020059393
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 保
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泰啓
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/047141(WO,A1)
【文献】特開2004-066593(JP,A)
【文献】特開2014-100911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/38
B29C 70/54
B29C 70/16
D04H 3/04
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバープレイスメント装置であって、
強化繊維糸条が配置され積層される配置面を有する配置台と、
前記強化繊維糸条を前記配置面に押し付けつつ繰り出して、前記強化繊維糸条を第1方向に沿って前記配置面上に配置できる糸条配置機構と、
前記配置面の一部の領域を加熱できる加熱機構と、
前記ファイバープレイスメント装置を制御する制御部と、を備え、
前記配置台と前記糸条配置機構とは、前記第1方向と交わる第2方向に相対移動できるように構成されており、
前記配置台と前記加熱機構とは、前記第2方向に相対移動できるように構成されており、
前記制御部は、配置サイクルを繰り返し実施することができ、
前記配置サイクルは、
前記糸条配置機構によって前記強化繊維糸条を前記第1方向に沿ってあらかじめ定められた長さで前記配置面上に配置する第1処理と、
前記配置台を前記糸条配置機構に対して前記第2方向に相対移動させる第2処理と、を含み、
前記加熱機構は、前記糸条配置機構とは独立に、前記配置台に対して移動可能であり、
前記制御部は、(n-1)回目(nは2以上の自然数)の配置サイクルが完了するまでに、n回目の配置サイクルにおいて前記強化繊維糸条が配置される領域の少なくとも一部を、前記加熱機構に加熱させる、ファイバープレイスメント装置。
【請求項2】
請求項1に記載のファイバープレイスメント装置であって、
前記制御部は、(n-1)回目の配置サイクルが完了するまでに、n回目の配置サイクルにおいて前記強化繊維糸条が配置されるすべての領域を、前記加熱機構に加熱させる、ファイバープレイスメント装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のファイバープレイスメント装置であって、
前記制御部は、(n-1)回目の配置サイクルが実行される期間中に、n回目の配置サイクルにおいて前記強化繊維糸条が配置される領域の少なくとも一部を、前記加熱機構に加熱させる、ファイバープレイスメント装置。
【請求項4】
ファイバープレイスメント装置であって、
強化繊維糸条が配置され積層される配置面を有する配置台と、
前記強化繊維糸条を前記配置面に押し付けつつ繰り出して、前記強化繊維糸条を第1方向に沿って前記配置面上に配置できる糸条配置機構と、
前記配置面の一部の領域を加熱できる加熱機構と、
前記ファイバープレイスメント装置を制御する制御部と、を備え、
前記配置台と前記糸条配置機構とは、前記第1方向と交わる第2方向に相対移動できるように構成されており、
前記配置台と前記加熱機構とは、前記第2方向に相対移動できるように構成されており、
前記制御部は、配置サイクルを繰り返し実施することができ、
前記配置サイクルは、
前記糸条配置機構によって前記強化繊維糸条を前記第1方向に沿ってあらかじめ定められた長さで前記配置面上に配置する第1処理と、
前記配置台を前記糸条配置機構に対して前記第2方向に相対移動させる第2処理と、を含み、
前記制御部は、(n-1)回目(nは2以上の自然数)の配置サイクルが完了するまでに、n回目の配置サイクルにおいて前記強化繊維糸条が配置される領域の少なくとも一部を、前記加熱機構に加熱さ
せ、
前記加熱機構は、前記第1方向に沿って配される複数の加熱装置であって、それぞれが独立して制御されることができる複数の加熱装置を備え、
前記制御部は、前記複数の加熱装置のうち、n回目の配置サイクルにおいて最後に前記強化繊維糸条が配置される領域を加熱する加熱装置の温度を、前記複数の加熱装置のうち、n回目の配置サイクルにおいて最初に前記強化繊維糸条が配置される領域を加熱する加熱装置の温度よりも、高く設定する、ファイバープレイスメント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年3月30日に出願された特許出願番号2020-059393号に基づくものであって、その優先権の利益を主張するものであり、その特許出願のすべての内容が、参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本開示は、強化繊維プラスチック製品の製造に使用されるファイバープレイスメント装置に関する。
【背景技術】
【0003】
強化繊維プラスチック製品の製造に用いられる3次元形状を有するプリフォームであって、ガラス繊維や炭素繊維といった強化繊維で構成されるプリフォームを製造する方法として、以下の技術が知られている。この技術においては、まず、強化繊維から構成される帯状の織物基材から、目的とするプリフォームの形状に応じた2次元形状を有するカットパターンが切り出される。そのカットパターンがプレスされることによって、3次元形状を有するプリフォームが形成される。しかし、この方法においては、帯状の織物基材からカットパターンが切り出された後に残る織物基材は、廃棄される。このため、この方法は、強化繊維の歩留まりが悪く、製造コストが高いという問題を有していた。
【0004】
この問題を解決する方法のひとつとして、ファイバープレイスメント法が知られている。ファイバープレイスメント法においては、目的とするプリフォームの形状に応じた2次元形状となるように、複数の強化繊維糸条が、テーブル上の必要な場所にのみ配置され、相互に結着される。そのように2次元状に配置された強化繊維糸条がプレスされることにより、3次元形状を有するプリフォームが製造される。
【0005】
例えば特許文献1には、この方法を用いて高速で強化繊維糸条をテーブル上に配置できるファイバープレイスメント装置が、開示されている。この装置は、強化繊維糸条をテーブルに押し付け可能な糸条押付機構と、強化繊維糸条をテーブルに対して供給可能な糸条供給機構と、この糸条供給機構とは独立して位置決めされ、上記の糸条押付機構によって強化繊維糸条を刃先に押付けることで強化繊維糸条を切断可能な切刃と、を備えている。この装置を用いれば、所望の2次元形状となるようにテーブル上に強化繊維糸条を配置できる。このため、強化繊維の歩留まりが改善される。さらには、この装置によれば、糸条供給機構の走行を減速することなく強化繊維条を切断できる。このため、強化繊維糸条の配置が高速化される。
【0006】
一方、配置された強化繊維糸条の上にさらに強化繊維糸条を積層する技術については、例えば特許文献2に、以下のような装置が開示されている。この装置は、バインダーが付着した強化繊維基材を、加熱兼加圧ローラによって、プリフォーム成形治具上に積層された強化繊維基材層またはプリフォーム成形治具に、押し付ける。この加熱兼加圧ローラによって強化繊維基材が押しつけられている間に、バインダーが溶融し、強化繊維基材を接着する。
【0007】
配置中の強化繊維基材に含まれるバインダーの加熱時間を確保する技術として、例えば特許文献3には、以下のような装置が開示されている。この装置は、強化繊維糸条を積層治具に押し付けるための加圧ローラを備える。この装置は、加圧ローラに対して上流側にある強化繊維糸条に加えて、積層治具のうち加圧ローラの進行方向上にある一部の領域を予熱する。この装置に用いることにより、強化繊維糸条が配置される領域を予め加熱することができる。その結果、予熱した領域に強化繊維糸条を配置することで、比較的短時間の加熱でバインダーを軟化または溶融させることができ、プリフォームの製造に要するタクトタイムを短くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2016/047141号公報
【文献】特開2011-57767号公報
【文献】国際公開2016/146902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の装置においては、強化繊維糸条をテーブル上に固定するための手段として、吸着テーブルが使用されている。このため、この吸着テーブルと直接接触している強化繊維糸条は、吸着テーブル上に固定される。しかし、吸着テーブル上のすでに強化繊維糸条が配置された領域に、さらに強化繊維糸条を重ねて配置する際には、強化繊維糸条は、吸着テーブル上に固定されることができない。そのため、上記装置を使用して、複数の強化繊維糸条を積層させたプリフォームを得るためには、以下の処理が必要である。すなわち、生成されるプリフォームに応じた2次元形状に1層分の強化繊維糸条群が配置された後、この強化繊維糸条群は、別の積層テーブルに移送される。そして、この強化繊維糸条群は、積層テーブル上ですでに積層されている複数層分の強化繊維糸条群の上に、さらに積層される。このような処理を行うため、特許文献1の技術には、プリフォームの製造にかかるタクトタイムが長くなり、製造コストが増大する、という問題があった。
【0010】
また、特許文献2に記載の装置を使用して、強化繊維基材を接着するためには、加熱兼加圧ロールと、前記加熱兼加圧ロールに誘導された強化繊維基材と、が接触している間に、強化繊維基材中のバインダー粒子を溶融点まで加熱する必要がある。したがって、加熱兼加圧ロールと強化繊維基材の接触時間を十分確保する必要がある。このため、強化繊維基材の配置速度が制限され、プリフォームの製造にかかるタクトタイムが長くなる。
【0011】
特許文献3に記載の装置においては、積層治具を予熱するための加熱機構は、加圧ロールを含む配置ヘッドに搭載されている。そして、加熱機構により予熱される領域は、加圧ロールの進行方向上の領域に限られている。そのため、加圧ロールの進行方向にある領域を十分に加熱するためには、やはり、強化繊維糸条の配置速度を、高く設定することはできなかった。その結果、プリフォーム製造にかかるタクトタイムの削減の効果は限定的なものであった。
【0012】
本開示の課題は、バインダーの溶融または軟化のための加熱待ち時間を削減することにより、強化繊維糸条の配置を高速に行い、プリフォームの製造に要する時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、上述の課題の少なくとも一部を取り扱うためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0014】
(1)本開示の一形態によれば、ファイバープレイスメント装置が提供される。このファイバープレイスメント装置は、強化繊維糸条が配置され積層される配置面を有する配置台と、前記強化繊維糸条を前記配置面に押し付けつつ繰り出して、前記強化繊維糸条を第1方向に沿って前記配置面上に配置できる糸条配置機構と、前記配置面の一部の領域を加熱できる加熱機構と、前記ファイバープレイスメント装置を制御する制御部と、を備える。前記配置台と前記糸条配置機構とは、前記第1方向と交わる第2方向に相対移動できるように構成されている。前記配置台と前記加熱機構とは、前記第2方向に相対移動できるように構成されている。前記制御部は、配置サイクルを繰り返し実施することができる。前記配置サイクルは、前記糸条配置機構によって前記強化繊維糸条を前記第1方向に沿ってあらかじめ定められた長さで前記配置面上に配置する第1処理と、前記配置台を前記糸条配置機構に対して前記第2方向に相対移動させる第2処理と、を含む。前記制御部は、(n-1)回目(nは2以上の自然数)の配置サイクルが完了するまでに、n回目の配置サイクルにおいて前記強化繊維糸条が配置される領域の少なくとも一部を、前記加熱機構に加熱させる。
(2)上記形態のファイバープレイスメント装置において、前記制御部は、(n-1)回目の配置サイクルが完了するまでに、n回目の配置サイクルにおいて前記強化繊維糸条が配置されるすべての領域を、前記加熱機構に加熱させる、態様とすることができる。
(3)上記形態のファイバープレイスメント装置において、前記制御部は、(n-1)回目の配置サイクルが実行される期間中に、n回目の配置サイクルにおいて前記強化繊維糸条が配置される領域の少なくとも一部を、前記加熱機構に加熱させる、態様とすることができる。
(4)上記形態のファイバープレイスメント装置において、前記加熱機構は、前記第1方向に沿って配される複数の加熱装置であって、それぞれが独立して制御されることができる複数の加熱装置を備え、前記制御部は、前記複数の加熱装置のうち、n回目の配置サイクルにおいて最後に前記強化繊維糸条が配置される領域を加熱する加熱装置の温度を、前記複数の加熱装置のうち、n回目の配置サイクルにおいて最初に前記強化繊維糸条が配置される領域を加熱する加熱装置の温度よりも、高く設定する、態様とすることができる。
【0015】
上記課題を取り扱うための本開示に係るファイバープレイスメント装置は、以下の(1)~(4)の構成を有する。
(1)強化繊維糸条を配置・積層する配置面と、前記強化繊維糸条を前記配置面に押し付け配置する糸条配置機構と、前記配置面を部分的に加熱する加熱機構とを少なくとも備えるファイバープレイスメント装置であって、
前記糸条配置機構を所定位置に移動させ、前記加熱機構によって予め加熱された前記配置面に向けて前記糸条配置機構から前記強化繊維糸条を押し付けた後、前記糸条配置機構を第1の軸方向に所定長さ分移動させ、前記強化繊維糸条を前記配置面上に接着固定させた後、前記配置面を前記第1の軸方向に直交する第2の軸方向に移動させる配置サイクルを繰り返し実施することを可能とし、
前記加熱機構は前記配置面に対して前記第2の軸方向に沿って相対移動可能に構成され、(n-1)回目(nは2以上の自然数)の配置サイクルが完了するまでに前記加熱機構をn回目の配置サイクルにおける強化繊維糸条が配置される領域の上方に移動させ、前記領域を予め加熱しておくことを特徴とするファイバープレイスメント装置。
(2)(1)に記載のファイバープレイスメント装置であって、n回目の配置サイクルにおける強化繊維糸条が配置される領域に移動させた前記加熱機構により、前記n回目の配置サイクルにおける強化繊維糸条が配置される領域全体を予め加熱しておくことを特徴とする、ファイバープレイスメント装置。
(3)(1)または(2)に記載のファイバープレイスメント装置であって、n回目の配置サイクルにおける強化繊維糸条が配置される領域に移動させた前記加熱機構により、(n-1)回目の配置サイクルの実施中に、前記n回目の配置サイクルにおける強化繊維糸条が配置される領域を予め加熱しておくことを特徴とする、ファイバープレイスメント装置。
(4)(1)から(3)のいずれかに記載のファイバープレイスメント装置であって、前記加熱機構が前記第1の軸方向に沿って複数領域に分割された加熱装置群からなり、前記加熱装置群が各々独立して加熱状態を調整可能に構成されていることを特徴とする、ファイバープレイスメント装置。
【0016】
本開示は、ファイバープレイスメント装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、ファイバープレイスメント装置の製造方法やファイバープレイスメント装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示のファイバープレイスメント装置を用いれば、強化繊維糸条に含まれるバインダーの溶融または軟化にかかる加熱処理と、糸条配置機構の配置動作とを分離して実施できる。これにより、前記バインダーの加熱待ち時間によらず、強化繊維糸条を高速で配置面上に配置し積層することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の一実施形態であるファイバープレイスメント装置100全体の斜視図である。
【
図2】本開示の一実施形態であるファイバープレイスメント装置100の加熱機構50の動作を説明するためのY軸方向視図である。
【
図3】第1実施形態の変形例であるファイバープレイスメント装置100a全体の斜視図である。
【
図4】本開示の一実施形態であるファイバープレイスメント装置100b全体の斜視図である。
【
図5】ファイバープレイスメント装置100cが有する加熱機構50bを、Y軸方向に沿ってみた状態を示す説明図である。
【
図6】本開示の一実施形態であるファイバープレイスメント装置100cの加熱機構50cの動作を説明するための説明図である。
【
図7】ファイバープレイスメント装置100cが有する加熱機構50cを、Y軸方向に沿ってみた状態を示す説明図である。
【
図8A】本開示の一実施形態における、糸条配置機構による配置サイクルと、加熱機構による加熱領域との位置関係を説明するための説明図である。
【
図8B】本開示の一実施形態における、糸条配置機構による配置サイクルと、加熱機構による加熱領域との位置関係を説明するための説明図である。
【
図8C】本開示の一実施形態における、糸条配置機構による配置サイクルと、加熱機構による加熱領域との位置関係を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.第1実施形態:
A.第1実施形態の構成および作用:
以下、本開示の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明は、本開示の理解を容易にするためのものであって、本開示を何ら限定するものではない。ただし、当業者には容易に理解されるよう、個々の実施形態における好ましい態様やバリエーションについての言及は、同時に本開示の上位概念としてのファイバープレイスメント装置の説明と解釈し得るものである。
【0020】
本開示に係るファイバープレイスメント装置は、強化繊維糸条を配置・積層する配置面と、前記強化繊維糸条を前記配置面に押し付け配置する糸条配置機構と、前記配置面を部分的に加熱する加熱機構とを少なくとも備えるファイバープレイスメント装置であって、前記糸条配置機構を所定位置に移動させ、前記加熱機構によって予め加熱された前記配置面に向けて前記糸条配置機構から前記強化繊維糸条を押し付けた後、前記糸条配置機構を第1の軸方向に所定長さ分移動させ、前記強化繊維糸条を前記配置面上に接着固定させた後、前記配置面を前記第1の軸方向に直交する第2の軸方向に移動させる配置サイクルを繰り返し実施することを可能とし、前記加熱機構は前記配置面に対して前記第2の軸方向に沿って相対移動可能に構成され、(n-1)回目(nは2以上の自然数)の配置サイクルが完了するまでに前記加熱機構をn回目の配置サイクルにおける強化繊維糸条が配置される領域の上方に移動させ、前記領域を予め加熱しておくことを特徴とするファイバープレイスメント装置である。
【0021】
本開示の一実施形態に係るファイバープレイスメント装置100の全体斜視図を
図1に示す。加熱機構50および糸条配置機構20を
図1のY軸+(プラス)側から見た状態を、
図2に示す。
図2においては、
図1に示すファイバープレイスメント装置100の加熱機構50と糸条配置機構20との位置関係が示されている。なお、
図1および
図2に示すファイバープレイスメント装置100の実施形態は一例であり、本開示においてはファイバープレイスメント装置の構成は、各実施形態によって何ら限定されない。
【0022】
本実施形態において、ファイバープレイスメント装置100は:強化繊維糸条1を配置し積層するための配置面10sを有する配置台10と;強化繊維糸条1を配置面10sに対し押付け配置可能な糸条配置機構20と;糸条配置機構20とは独立して位置決めされ、糸条配置機構20内部に設けられた糸条押付機構21により強化繊維糸条1が刃先に押し付けられることによって強化繊維糸条1が切断される糸条切断機構40と;糸条配置機構20および糸条切断機構40とは独立に位置決めされ、配置面10sを加熱可能な加熱機構50と;上述の各機構の状態を監督し、強化繊維糸条1を所望形状に配置面10s上に配置および積層するよう使用者から与えられるプログラムに従って各機器の動作を制御する制御部60と、を備えている。
【0023】
本開示において、ファイバープレイスメント装置100は、以下で説明する配置サイクルを繰り返し実施する。まず、ファイバープレイスメント装置100は、糸条配置機構20を所定位置に移動させる。糸条配置機構20は、具体的には、加熱機構50によって予め加熱された配置面10s上に、移動される。ファイバープレイスメント装置100は、糸条配置機構20から繰り出した強化繊維糸条1を配置面10s上に押し付けた後、糸条配置機構20を第1の軸方向(
図1のY軸方向)に所定長さ分移動させる。強化繊維糸条1が配置面10s上に接着されることにより固定された後、ファイバープレイスメント装置100は、配置台10を第1の軸方向に直交する第2の軸方向(
図1のX軸方向)に移動させる。ファイバープレイスメント装置100は、以上で説明した配置サイクルを繰り返し実施する。以下で、ファイバープレイスメント装置100の具体的な構成及び動作について説明する。
【0024】
強化繊維糸条1は、強化繊維と加熱により粘着性を発現する樹脂成分を少なくとも含んだ一方向繊維基材である。強化繊維糸条1の材質や形態は、作業時の取扱性や成形後の要求特性に合わせて様々に選択することができる。例えば、強化繊維の材質としては、炭素繊維やガラス繊維、アラミド、ケブラー、天然繊維等が使用できる。樹脂成分の材質としては、熱硬化性のエポキシやフェノール樹脂であったり、熱可塑性のポリアミドやポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルスルホンであったりが使用できる。また、強化繊維に対する樹脂成分の混合状態は、特に限定されない。強化繊維の糸束内部に液状の樹脂成分が含浸していてもよい。糸束表面に対し樹脂成分が薄膜状に塗布されているものでもよい。粉体状の樹脂成分が糸束表面に付着しているものであってもよい。
【0025】
配置台10は、強化繊維糸条1が配置され積層される配置面10sを有する。配置台10は、糸条配置機構20に対して、X軸方向に相対移動できるように構成されている。
【0026】
具体的には、配置台10は、強化繊維糸条1を所望の外周形状に引き揃えて配置するための配置面10sを備える。配置台10は、配置面移動機構13を備える。配置面移動機構13は、前述の配置サイクルにおいて糸条配置機構20によって強化繊維糸条1が配置面10sに配置された後に、糸条配置機構に対してX軸方向に配置台10相対移動させる。また、強化繊維糸条1が所望の外周形状に配置された後、その上にさらに重ねて2層目以降の強化繊維糸条1を配置し積層する場合においては、1層目の強化繊維糸条1も含めて配置面10sと見做して2層目以降の配置サイクルが行われる。
【0027】
なお、配置サイクルにおいて、配置台10と糸条配置機構20および加熱機構50は、X軸方向に相対移動可能な構成であればよい。したがって、前記配置面移動機構13は必ずしも配置台10に備わっている必要はなく、例えば、配置台10を固定して、糸条配置機構20と糸条切断機構40と加熱機構50とがそれぞれX軸方向に移動可能な構成であってもよい。
【0028】
糸条配置機構20は、強化繊維糸条1を配置面10sに押し付けつつ繰り出して、強化繊維糸条1をY軸方向に沿って配置面10s上に配置することができる。糸条配置機構20は、配置台10に対して、X軸方向に相対移動できるように構成されている。
【0029】
具体的には、糸条配置機構20は、Y軸方向に移動可能なスライダ機構22に取付けられている(
図1の矢印Ap11参照)。スライダ機構22がY軸の-(マイナス)方向に移動することによって、糸条配置機構20は、Y軸方向について、所望の糸条配置開始位置の上方まで移動される。このとき、強化繊維糸条1は、糸条配置機構20に備えられたニップローラ101を経て、同じく糸条配置機構20に備えられたニップ部102で把持されている。強化繊維糸条1の先端は、糸条配置機構20に設けられたファイナルガイド23により、糸条押付機構21の下部まで誘導されている。そのため、糸条配置機構20がY軸の-(マイナス)方向へ移動されるのに伴って、図示しない上流の糸条繰出し部から、当該配置サイクルでの配置に必要な分だけ強化繊維糸条1が引き出される。
【0030】
その後、糸条押付機構21がZ軸の-(マイナス)方向に下降し、配置面10sに対して接近することで、強化繊維糸条1の端部は、配置面10s上の糸条配置開始位置へ押し付けられる(
図1の矢印Ap12参照)。このとき、配置面10s上の糸条配置開始位置および当該配置サイクルでの配置予定領域11は、加熱機構50により予め加熱されている。このため、配置面10sの糸条配置開始位置および配置予定領域11に押し付けられた強化繊維糸条1に含まれる樹脂成分は、加熱されて軟化し、粘着性を発現させる。その結果、配置面10sに押し付けられた強化繊維糸条1は、前記粘着性によって配置面10sに対し接着され、固定される。
【0031】
スライダ機構22によって糸条配置機構20をY軸の+(プラス)方向に所定の距離だけ移動させることによって、糸条繰出し部から引き出されていた強化繊維糸条1は、順次配置面10sに押し付けられ、配置面10s上に接着され固定される(
図1の矢印Ap11参照)。このとき、強化繊維糸条1を配置する予定の配置予定領域11は、前述のとおり既に加熱機構50によって加熱されている。このため、強化繊維糸条1を接着するために、強化繊維糸条1の配置の直前に配置予定領域11を加熱する必要はない。したがって、糸条配置機構20を高速に移動させても、強化繊維糸条1を確実に配置面10s上に接着し、固定することができる。
【0032】
糸条切断機構40は、強化繊維糸条1を切断する切刃42を備える。糸条切断機構40は、Y軸方向およびZ軸方向に移動可能に構成されている(
図1の矢印Ap13,Ap14参照)。
【0033】
強化繊維糸条1が、Y軸方向に沿って配置面10s上に配置され固定された後(
図1の矢印Ap11参照)、スライダ機構41に取り付けられている糸条切断機構40の切刃42によって強化繊維糸条1が切断される。スライダ機構41は、スライダ機構22とは独立に、Y軸方向に移動可能に構成されている(
図1の矢印Ap13参照)。糸条押付機構21および糸条切断機構40が、Z軸の+(プラス)方向に上昇し配置面10sから退避する(
図1の矢印Ap12,A14参照)。その後、配置台10が、配置面移動機構13に沿って、X軸の+(プラス)方向に移動される(
図1の矢印Ap2参照)。
【0034】
上述の動作を一連の「配置サイクル」と呼ぶ。これを繰り返すことで、ファイバープレイスメント装置100は、配置面10s上において所望の二次元形状に、強化繊維糸条1を配置することができる。
【0035】
加熱機構50は、配置面10sの一部の領域を加熱することができる。加熱機構50は、配置台10に対して、X軸方向に相対移動することができるように構成されている。具体的には、加熱機構50は、配置台10の配置面10sに対して第2の軸方向(
図1のX軸方向)に沿って相対移動可能に構成されている。加熱機構50は、移動機構51と、温度計測部52と、ヒータ53と、ヒータハウジング54と、を備える。
【0036】
加熱機構50のヒータ53の加熱方式は、熱風による対流加熱方式や赤外線・ランプ・レーザなどによる輻射加熱方式など、加熱対象に対し非接触に加熱できる方式であれば自由に選択できる。本実施形態においては、対象物の単位面積当たりの加熱出力(以下、出力密度と呼ぶ)と装置コストおよび出力制御の容易さの点から、加熱機構50のヒータ53の加熱方式は、赤外線による輻射加熱とする。
【0037】
加熱機構50の出力密度は高いほど配置サイクルの高速化につながる。一方、高出力密度のヒータはファイバープレイスメント装置100の製造コストの増大にもつながる。このため、加熱機構50のヒータ53の出力密度は1W/mm2以下であることが好ましい。出力密度は1W/mm2以下のヒータ53は、入手が容易である。
【0038】
ヒータ53を把持するヒータハウジング54は、加熱機構50から放射される赤外線を反射させて単一の一方向のみに放射できる構造であることが好ましい。そのような態様とすることにより、加熱機構50の出力密度を高めることができる。例えば、ヒータハウジング54の断面形状としては、真下のみを加熱するアーチ形状などがある。
【0039】
移動機構51は、加熱機構50を把持し配置面10s上の所望の位置まで移動させる。移動機構51は、加熱機構50を、糸条配置機構20とは独立に、配置面10sに対してX軸方向に移動させることができる。このため、加熱対象とする領域を、X軸方向について、微調整することができる。
【0040】
移動機構51の方式は、ロボットアームやガントリークレーン、パラレルリンクなど自由に選択できる。移動機構51は、例えば糸条配置機構20を移動させるためのスライダ機構22から伸びたスライダ機構であってもよい。また、移動機構51は、加熱機構50の重量や慣性を考慮して十分な支持剛性を有していることが好ましい。そのような態様とすることにより、ヒータ53を配置面10s上の次回配置サイクルでの配置予定領域に、確実に配することができる。
【0041】
温度計測部52は、ヒータ53によって加熱された配置面10sの温度を計測する。
図2において、温度計測部52が温度を計測する配置面10sに、温度計測部52から向かう向きの矢印Asを、示す。温度計測部52は、配置面10sに対して非接触に温度計測できることが好ましい。そのような方式として、赤外線による放射温度計測やサーモグラフィ、光計測などが挙げられる。温度計測部52は、加熱され得る温度範囲に応じて、0℃~500℃の温度範囲について計測可能なものが好ましい。さらに、ヒータ53の出力密度が高い場合であっても配置面10sの温度を適切に管理できるよう、温度計測に係る応答速度は高い方がよい。具体的には、応答速度は、0.0001秒~1秒であることが好ましい。
【0042】
制御部60は、ファイバープレイスメント装置100を制御する。制御部60は、プロセッサーであるCPUと、RAMと、ROMと、を備えるコンピュータである。RAMは、メインメモリーと、補助記憶装置とを含む。制御部60のCPUは、補助記憶装置に記憶されたコンピュータプログラムをメインメモリーにロードして実行することによって、ファイバープレイスメント装置100を動作させる。
【0043】
制御部60は、上記の配置サイクルを繰り返し実施することができる。配置サイクルは、第1処理と第2処理と、を含む。第1処理は、糸条配置機構20によって強化繊維糸条1をY軸方向に沿ってあらかじめ定められた長さで配置面10s上に配置する処理である(
図1の矢印Ap11参照)。第2処理は、配置台10を糸条配置機構20に対してX軸方向に相対移動させる処理である(
図1の矢印Ap22参照)。制御部60は、(n-1)回目の配置サイクルが完了するまでに、n回目の配置サイクルにおいて強化繊維糸条1が配置される配置予定領域12を、加熱機構50に加熱させる。
【0044】
具体的には、制御部60は、(n-1)回目(nは2以上の自然数)の配置サイクルが完了するまでに、加熱機構50をn回目の配置サイクルにおける強化繊維糸条1が配置される領域の上方に移動させ、加熱機構50と向かい合う領域を加熱させる。
【0045】
さらに具体的には、以下の処理が実行される。加熱機構50が備える移動機構51は、スライダ機構22、41とは独立してX軸方向に移動可能である。その結果、加熱機構50は、糸条配置機構20対してX軸方向に相対移動可能である。加熱機構50は、糸条配置機構20に備えられた糸条押付機構21に対してX軸方向の-(マイナス)側に位置するよう制御される。温度計測部52は、加熱機構50が加熱した配置面10s上の領域の温度を計測する。
【0046】
糸条配置機構20が前記配置予定領域11に対して強化繊維糸条1を配置するための配置サイクルを実施中もしくは実施より前に、加熱機構50は、配置予定領域11の次に強化繊維糸条1を配置する配置予定領域12の上方に移動し、配置予定領域12を予め加熱する。配置予定領域11に対する配置サイクルが完了し、配置予定領域12に対する配置サイクルを開始するときには、配置予定領域12は所定の温度まで加熱されている。したがって、配置予定領域12の温度上昇を待つことなく、配置予定領域12に対する配置サイクルを開始することが可能である。
【0047】
以降、制御部60に入力された所望の外周形状を有する2次元形状を構成するように、強化繊維糸条が配置されるまで、上述の配置サイクルが繰り返される。その結果、X軸方向に伸びる複数の強化繊維糸条1がY軸方向に並んだ強化繊維シートの原型が形成される。
【0048】
従来のファイバープレイスメント装置においては、加熱機構は、糸条配置機構に搭載される。加熱機構は、糸条押付機構と、糸条押付機構に誘導された強化繊維糸条と、糸条配置機構の進行方向上にある配置面の一部と、を加熱するよう構成される。そのような態様においては、強化繊維糸条を配置面へ貼り付けるための加熱は、当該領域への配置サイクル中に行われる。したがって、配置動作の開始時には、強化繊維糸条の端部を配置面に貼り付けられるように配置面を加熱するための、初期加熱待ち時間を要する。また、配置動作中には、強化繊維糸条の配置に先立って配置面を加熱するための、連続加熱待ち時間を要する。このため、強化繊維糸条の配置を行う際には、糸条配置機構を移動させるスライダ機構は、連続加熱待ち時間に対応するために低速でしか移動できない。また、強化繊維糸条の配置の初期においては、スライダ機構は、初期加熱待ち時間に対応するために、ごく低速で移動を開始する必要がある。その結果、配置サイクルに要するタクトタイムが増大する。
【0049】
一方、本開示に係るファイバープレイスメント装置100においては、当該配置サイクルにおける強化繊維糸条の配置予定領域が、直前の配置サイクルにおいてあらかじめ加熱されている。このため、前述の初期加熱待ち時間および連続加熱待ち時間なしに強化繊維糸条を配置することができ、配置サイクルを高速化することが可能となる。
【0050】
配置サイクルをより高速化するため、n回目の配置サイクルにおける強化繊維糸条が配置される領域に移動された加熱機構50により、n回目の配置サイクルにおいて強化繊維糸条が配置される領域の全体が、予め加熱されることが好ましい。
【0051】
具体的には、糸条配置機構20が一度の配置サイクルで配置面10s上に配置可能な強化繊維糸条の幅と長さで規定される領域を、加熱機構50が配置面10sを同時に加熱可能な領域が、包含できることが、好ましい。本明細書において、糸条配置機構20が一度の配置サイクルで配置面10s上に配置可能な強化繊維糸条の最大の幅を、「最大配置幅」と呼ぶ。糸条配置機構20が一度の配置サイクルで配置面10s上に配置可能な強化繊維糸条の最大の長さを「最大配置長」と呼ぶ。加熱機構50が配置面10sを同時に加熱可能な領域を「加熱可能領域」と呼ぶ。
【0052】
加熱可能領域のY軸方向寸法は、最大配置長と一致していることがより好ましい。加熱可能領域のX軸方向寸法は、最大配置幅の1~10倍程度であることが好ましい。そのような態様とすれば、現在実行されている配置サイクルの次の配置サイクルでの配置予定領域に加えて、さらに後の配置サイクルの配置予定領域を加熱することができる。ただし、加熱可能領域を大きくすることは、ファイバープレイスメント装置のコストを増大させる要因となり、また、ファイバープレイスメント装置内の加熱機構以外の構成要素のレイアウトを難しくする。このため、加熱可能領域のX軸方向寸法は、最大配置幅の5倍以下であることがより好ましい。
【0053】
さらに、加熱機構50により、(n-1)回目の配置サイクルの実施中に、n回目の配置サイクルにおける強化繊維糸条1が配置される領域を予め加熱しておくことが好ましい。具体的には、少なくとも、糸条配置機構20が配置予定領域11に対する配置サイクルを実施している間に、加熱機構50は次回の配置予定領域12を加熱していることが好ましい。このような態様とすることにより、加熱から強化繊維糸条1の配置までの時間を短縮できる。このため、エネルギの利用効率を高めることができる。その結果、強化繊維糸条の配置に要するコストを低減することができる。
【0054】
配置予定領域11への配置サイクル実施以前に配置予定領域12への加熱を完了し、配置予定領域11への配置サイクル実施中は配置予定領域12への加熱を行わない態様においては、以下のような課題が生じる。配置予定領域12に与えられた熱は、配置面10s内への熱伝導や、周囲環境への対流および輻射によって、放熱される。その放熱量は周囲との温度差や配置面10sの熱容量および熱伝導率によって異なるものの、どのような態様においても、加熱に要したエネルギの一部は、放熱によって失われる。強化繊維糸条の配置に要するコストを低減するためには、加熱に要したエネルギを高い効率でバインダーの溶融に利用することが好ましい。したがって、配置予定領域12への加熱は、直前の配置予定領域11への配置サイクル実施中まで行っておくことが好ましい。
【0055】
A2.第1実施形態の変形例:
図3は、第1実施形態の変形例であるファイバープレイスメント装置100a全体の斜視図である。本変形例のファイバープレイスメント装置100aは、上記第1実施形態のファイバープレイスメント装置100が備える加熱機構50に代えて、加熱機構50aを備える。ファイバープレイスメント装置100aのハードウェア構成の他の点は、ファイバープレイスメント装置100と同じである。
【0056】
加熱機構50aは、Y軸方向に沿って配される8個の加熱装置501~508を備える。加熱装置501~508は、それぞれヒータ53を備える。加熱装置501~508は、それぞれ温度計測部52を備え、加熱対象の温度をフィードバック制御することができる。加熱装置501~508は、それぞれが独立して制御されることができる。具体的には、加熱装置501~508は、オン/オフ、ならびに出力を、独立に制御可能である。
【0057】
制御部60は、加熱装置501~508のうち、n回目の配置サイクルにおいて最後に強化繊維糸条1が配置される領域を加熱する加熱装置の温度を、加熱装置501~508のうち、n回目の配置サイクルにおいて最初に前記強化繊維糸条1が配置される領域を加熱する加熱装置の温度よりも、高く設定する。より具体的には、最初に強化繊維糸条1が配置される領域を加熱する加熱装置の設定温度は、加熱装置501~508の中で最も低く設定される。最後に強化繊維糸条1が配置される領域を加熱する加熱装置の設定温度は、加熱装置501~508の中で最も低く設定される。それら二つの加熱装置の間に位置する各加熱装置の設定温度は、最後に強化繊維糸条1が配置される領域を加熱する加熱装置に近いものほど、高く設定される。
図3の例においては、最初に前記強化繊維糸条1が配置される領域を加熱する加熱装置は、加熱装置503であり、最後に前記強化繊維糸条1が配置される領域を加熱する加熱装置は、加熱装置508である。
【0058】
ファイバープレイスメント装置によって形成される強化繊維シートの形状は、製品の最終形状に近いものである、このため、配置サイクルごとに強化繊維糸条が配置される長さが異なる場合が多い。以下、配置される強化繊維糸条のY軸方向の長さを、「配置長」とも呼ぶ。Y軸方向について、強化繊維糸条が配されていない部分については加熱せず、強化繊維糸条が配置されている部分を加熱することが好ましい。本変形例によれば、そのような加熱が実現可能である。
【0059】
なお、本変形例においては、加熱機構50aは、8個の加熱装置501~508を備える。ただし、加熱機構が備える加熱装置の数は、他の数であってもよい。ただし、加熱機構が備える加熱装置の数は、2~10であることが好ましい。
【0060】
本変形例においては、制御部60は、上述のように、個々の加熱装置の出力密度がY軸の-から+に向かう方向に沿って順に高くなるよう加熱を行う。
【0061】
配置予定領域12のY軸方向の両端のうち、+側の端に近い領域ほど、加熱機構50aが加熱を終えてから強化繊維糸条が配置されるまでの時間が長くなる。このため、Y軸方向+側の端に近い領域ほど、放熱量が多くなり、強化繊維糸条が配置される際の温度が、加熱されていたときよりも大きく低下する。複数の加熱装置の出力密度を上記のように設定することにより、放熱を考慮した温度勾配を配置予定領域に与えることができる。その結果、各配置予定領域が最適な温度にある状態で、強化繊維糸条が配置されることができる。また、配置予定領域12のY軸方向の両端のうち、-側の端に近い領域において、過剰な加熱を行うことがなくなるため、無駄なエネルギ消費を避けることができる。
【0062】
本実施形態におけるY軸方向を「第1方向」とも呼ぶ。X軸方向を「第2方向」とも呼ぶ。
【0063】
B.第2実施形態:
第1実施形態に係るファイバープレイスメント装置100とは別の実施形態としてのファイバープレイスメント装置100bの斜視図を、
図4に示す。また、ファイバープレイスメント装置100bが有する加熱機構50bをY軸方向に沿って見た状態を
図5に示す。
【0064】
ファイバープレイスメント装置100bは、第1実施形態のファイバープレイスメント装置100が備える糸条配置機構20に代えて、糸条配置機構20bを備える。ファイバープレイスメント装置100bは、ファイバープレイスメント装置100が備える加熱機構50に代えて、加熱機構50bを備える。ファイバープレイスメント装置100bの他の点は、第1実施形態のファイバープレイスメント装置100と同じである。
【0065】
糸条配置機構20bの構成は、加熱機構50bが取り付けられている点を除いて、第1実施形態の糸条配置機構20の構成と同じである。
【0066】
加熱機構50bは、糸条配置機構20bに設けられる。加熱機構50bは、糸条配置機構20bがスライダ機構22によってY軸方向に沿って移動される際に、糸条配置機構20bとともにY軸方向に沿って移動される。本実施形態においては、糸条配置機構20bの動作を妨げないように、加熱機構50bのサイズは、第1実施形態の加熱機構50に比べて、Y軸方向について小さく構成される。このため、加熱機構50bが加熱できる配置面10s上の領域のY軸方向の大きさは、最大配置長よりも短い。加熱機構50bは、糸条押付機構21から見てY軸方向+側にある配置面10sの一部およびX軸方向-側の配置面10sの一部の領域を加熱するよう構成されている。
【0067】
加熱機構50bは、前述の配置サイクルにおいて、糸条配置機構20がY軸方向に移動している間、加熱機構50bの直下にある配置面10sを加熱する。加熱機構50bの直下にある配置面10sは、現在配置している強化繊維糸条1に対してX軸方向-側にある配置予定領域であって、次回配置サイクルにおける配置予定領域である。
【0068】
本実施形態においては、加熱機構50bが小型化され、装置コストおよびランニングコストを低減することができる。そして、配置面10sが3次元形状であった場合でも次回の配置予定領域を加熱できる。このため、複雑形状の小物部品を製造する装置として好適である。
【0069】
C.第3実施形態:
さらに別の実施形態としてのファイバープレイスメント装置100cの斜視図を、
図6に示す。また、ファイバープレイスメント装置100cが有する加熱機構50cを、Y軸方向に沿ってみた状態を
図7に示す。
【0070】
ファイバープレイスメント装置100cは、第1実施形態のファイバープレイスメント装置100が備える加熱機構50に代えて、加熱機構50cを備える。ファイバープレイスメント装置100cの他の点は、第1実施形態のファイバープレイスメント装置100と同じである。
【0071】
加熱機構50cは、配置面10sのY軸方向全長にわたって設けられている。加熱機構50cは、スライダ機構22に取付けられている。加熱機構50cと糸条配置機構20のX軸方向についての距離は、一定である。したがって、このファイバープレイスメント装置100cにおいては、加熱機構50cは、ある配置サイクルにおいて、糸条配置機構20が配置している領域に対し、一定サイクル(例えば1~5サイクル)だけ後に強化繊維糸条が配置される領域を加熱する。ファイバープレイスメント装置100cは、ファイバープレイスメント装置100の移動機構51を備えない。このため、ファイバープレイスメント装置100cのコストは低い。
【0072】
なお、加熱機構50cが配置面10sに対して独立に移動可能であれば、加熱機構50cが固定される対象はスライダ機構22に限定されるものではない。加熱機構50cは、たとえば、スライダ機構22を支持するフレーム部材や、その他の部材に、ブラケットを介して固定されてもよい。
【0073】
D.配置予定領域と加熱領域との関係:
図8A~
図8Cは、加熱領域を示す説明図である。
図8A~
図8Cに示すいずれの例においても、配置面10sの上に強化繊維糸条1を配置し、さらに積層すべく、配置サイクルが繰り返し実施されている。
図8A~
図8Cの下段に、1層目を形成する強化繊維糸条を配する配置サイクルの順番を表す番号1~(n+3)を示す。
図8A~
図8Cのいずれにおいても、(n-1)回目(nは2以上の任意の整数)の配置サイクルが行われている途中の状態が表されている。
【0074】
図8A~
図8Cにおいて、太い破線で囲まれている領域14は、強化繊維糸条1が配される予定の領域である。
図8A~
図8Cにおいて、斜線が付されている領域は、すでに強化繊維糸条1が配された領域である。
図8A~
図8Cにおいて、細い破線で囲まれている領域15は、n回目以降の配置サイクルで強化繊維糸条1が配される領域である。
図8A~
図8Cにおいて、市松模様が付されている領域は、(n-1)回目(nは2以上の任意の整数)の配置サイクルが行われているときに加熱される加熱領域16,17,18である。
【0075】
(n-1)回目の配置サイクルが完了するまでのいずれかの時点において、n回目以降の配置サイクルにおける強化繊維糸条の配置予定領域15の少なくとも一部が加熱されている。
【0076】
本開示においては、(n-k)回目(kは、k<nを満たす自然数)の配置サイクル中に、n回目以降の配置サイクルの配置予定領域15の一部が加熱されていればよい。
図8Aの例においては、(n-1)回目の配置サイクルにおける加熱領域16は、(n+1)回目から(n+3)回目の配置予定領域の一部にそれぞれまたがるよう構成されている。
【0077】
配置サイクルをより高速化するためには、配置予定領域の全体を予め加熱することが好ましい。
図8Bの例においては、(n-1)回目の配置サイクルにおける加熱領域17は、(n+1)回目から(n+3)回目の配置予定領域全体である。
【0078】
予熱した領域からの放熱によるエネルギ損失を低減するためには、次回の配置サイクルにおける強化繊維糸条の配置予定領域を加熱することが好ましい。
図8Cの例においては、(n-1)回目の配置サイクルにおける加熱領域18は、n回目から(n+2)回目の配置予定領域全体である。
【0079】
E.他の実施形態:
E1.他の実施形態1:
第1実施形態においては、n回目の配置サイクルにおいて強化繊維糸条1が配置される配置予定領域12の全体が、加熱機構50によって、同時に加熱させる。しかし、n回目の配置サイクルにおいて強化繊維糸条が配置される領域は、複数回の加熱処理によって加熱されてもよい。
【0080】
E2.他の実施形態2:
上記第1実施形態および第3実施形態においては、制御部60は、(n-1)回目の配置サイクルが完了するまでに、n回目の配置サイクルにおいて強化繊維糸条1が配置されるすべての領域を、加熱機構50に加熱させる(
図8Bおよび
図8Cも参照)。しかし、
図8Aの例に示すように、(n-1)回目の配置サイクルが完了するまでに、n回目の配置サイクルにおいて強化繊維糸条1が配置される一部の領域が、加熱機構50によって加熱される態様とすることもできる。
【0081】
n回目の配置サイクルにおいて強化繊維糸条1が最初に配置される領域は、(n-1)回目の配置サイクルが完了するまでに、加熱を完了されていることが好ましい。すなわち、n回目の配置サイクルにおいて強化繊維糸条1が最初に配置される領域は、n回目の配置サイクルが開始されるまでに、目標温度まで昇温されていることが好ましい。
【0082】
E3.他の実施形態3:
図8Cに示す例においては、制御部60は、(n-1)回目の配置サイクルが実行される期間中に、n回目の配置サイクルにおいて強化繊維糸条1が配置される領域を、加熱機構50に加熱させる。しかし、制御部60は、(n-1)回目の配置サイクルが実行される期間中に、n回目よりも後の配置サイクルにおいて強化繊維糸条1が配置される領域を、加熱機構50に加熱させてもよい。
【0083】
E4.他の実施形態4:
上記第1実施形態の変形例においては、加熱機構50aは、Y軸方向に沿って配される複数の加熱装置501~508であって、それぞれが独立して制御されることができる複数の加熱装置501~508を備える。そして、制御部60は、複数の加熱装置501~508のうち、n回目の配置サイクルにおいて最後に強化繊維糸条1が配置される領域を加熱する加熱装置508の温度を、最初に強化繊維糸条1が配置される領域を加熱する加熱装置503の温度よりも、高く設定する。しかし、n回目の配置サイクルにおいて強化繊維糸条1が配置される領域は、すべて同一の目標温度を設定されて、加熱されてもよい。
【0084】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0085】
1…強化繊維糸条
2…強化繊維
3…樹脂成分
10…配置台
10s…配置面
11…当該配置サイクルにおける強化繊維糸条の配置予定領域
12…次回配置サイクルにおける強化繊維糸条の配置予定領域
13…配置面移動機構
14…所望の2次元形状を有する領域
15…n回目の配置サイクルにおける強化繊維糸条の配置予定領域
16…加熱領域
17…加熱領域
18…加熱領域
20…糸条配置機構
20b…糸条配置機構
21…糸条押付機構
22…スライダ機構
23…ファイナルガイド
40…糸条切断機構
41…スライダ機構
42…切刃
50…加熱機構
50a…加熱機構
50b…加熱機構
50c…加熱機構
51…移動機構
52…温度計測部
53…ヒータ
54…ヒータハウジング
60…制御部
100…ファイバープレイスメント装置
100a…ファイバープレイスメント装置
100b…ファイバープレイスメント装置
100c…ファイバープレイスメント装置
101…ニップローラ
102…ニップ部
501~508…加熱装置
Ap11…第1処理における糸条配置機構20の動作方向を示す矢印
Ap22…第2処理における配置台10の動作方向を示す矢印