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  • 特許-再生樹脂の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】再生樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/24 20060101AFI20241203BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C08J11/24 ZAB
G02B1/04
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021567586
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048331
(87)【国際公開番号】W WO2021132419
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2019238734
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】緒方 龍展
(72)【発明者】
【氏名】越智 紀明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宣之
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-124480(JP,A)
【文献】特開2006-160794(JP,A)
【文献】特開2012-153887(JP,A)
【文献】特開平11-060795(JP,A)
【文献】特開昭51-020976(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163535(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J11/00-11/28
G02B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)及び(B)を含む、再生樹脂の製造方法であって、廃樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびポリエステルカーボネート樹脂から選択される少なくとも一つを含む、方法
(A) 廃樹脂及びアリールアルコールを1:0.1~1:4の重量比で含む組成物を、140℃以上前記アリールアルコールの沸点未満の温度に加熱して廃樹脂をアリールアルコールに溶解させ、重量平均分子量が19,000以上の樹脂Aを生成する工程
(B) 前記工程(A)で得られた組成物からアリールアルコールを除去する工程
【請求項2】
前記廃樹脂は、酸化防止剤を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(A)における前記樹脂Aの分子量保持率が、50%以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記廃樹脂が、脂肪族末端構造を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記廃樹脂が、下記一般式(1)~(5)のいずれかの構成単位を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【化3】
〔式中、
、X、X、X、X、およびXは、各々独立に、炭素数1~4のアルキレン基を表し、
、R、R、R、R、およびRは、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数5~20のシクロアルキル基、炭素数5~20のシクロアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基、O、NおよびSから選択される1つ以上のヘテロ環原子を含む炭素数6~20のヘテロアリール基、炭素数6~20のアリールオキシ基、ならびに-C≡C-Rから選択され、
は炭素数6~20のアリール基またはO、NおよびSから選択される1つ以上のヘテロ環原子を含む炭素数6~20のヘテロアリール基を表し、
a、b、c、d、e、およびfは、各々独立に、0~10の整数を表し、
h、i、j、k、m、およびnは、各々独立に、0~4の整数を表し、
およびRは、各々独立に、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。〕
【請求項6】
前記廃樹脂は、樹脂成形時に発生するスプールおよび/またはランナーである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(A)において、廃樹脂及びアリールアルコールの重量比が、1:0.8~1:1.4の範囲である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(A)において、触媒の添加を行わない、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(i)前記工程(A)において、および/または、(ii)前記工程(A)の後工程(B)前に、さらにアルカリ金属触媒を添加することを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(B)がアルカリ金属触媒の存在下で行われる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属触媒の添加量が、前記廃樹脂に対し、10~1000μmol/kgである、請求項または1に記載の方法。
【請求項12】
(i)前記工程(A)において、および/または、(ii)前記工程(A)の後工程(B)前に、さらに炭酸ジエステルおよび/又はジヒドロキシ化合物を添加することを含み、
前記炭酸ジエステルおよび/またはジヒドロキシ化合物の添加量の合計が、前記廃樹脂に対し、0.01~100g/kgである、請求項1~1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(A)で得られた樹脂Aの重量平均分子量が、前記廃樹脂の重量平均分子量と同じ又は小さく、
前記工程(B)で得られた樹脂の重量平均分子量が、前記廃樹脂の重量平均分子量と同じ又は大きい、請求項1~1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
さらに、以下の工程(C)を含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の方法。
(C) 前記工程(B)の前に、前記工程(A)で得られた組成物から未溶融物を除去する工程
【請求項15】
さらに、以下の工程(D)を含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の方法。
(D) 前記工程(B)後に、前記工程(B)で得られた樹脂をペレット化する工程
【請求項16】
前記工程(A)の前に、廃樹脂を最長径5cm以下のサイズに粉砕することを含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記再生樹脂が光学材料用である、請求項1~1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記光学材料は、光学レンズまたは光学フィルムである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記工程(A)を、90~105kPaの圧力で行う、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然環境の悪化および廃棄物の排出量の増大に対する懸念が高まり、循環型社会の実現を目指して、プラスチック製品をリユースやリサイクルする動きが一段と強まっている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂などの合成樹脂は、家電製品、電子・電気機器、OA機器、光メディア、自動車部品、建築部材等の各種用途に広く使用されている。上記の部品・部材が製造される際や部品・部材の使用後には、合成樹脂の廃材が大量に排出されるため、これらの廃材の再利用が行われている。特に、樹脂製品を金型成形した後には、通常、製品の他にスプール、ランナーや成形不良品などの廃樹脂が発生する。これらの廃樹脂を廃棄することなく、リサイクルして再び製品に利用する取り組みがなされている。
【0004】
合成樹脂のリサイクル方法の中で、廃材を再資源化する方法としては、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルが知られている。マテリアルリサイクルは、廃棄された合成樹脂類を破砕溶解などの処理を行った後、再生樹脂の原料として再利用する方法である。しかし、マテリアルリサイクル品を再成形すると分子量低下、物性低下、および着色等の問題が生じやすい。これに対して、ケミカルリサイクルは、廃棄された合成樹脂を化学的に分解することにより製品原料として再利用する方法であり、高品質な製品への再利用も可能なリサイクル方法である。例えば、特許文献1~3には、ポリカーボネート樹脂を解重合させて原料モノマーを回収する方法が開示されている。また、原料モノマーまで完全に分解するのではなく、オリゴカーボネートの段階にまで樹脂を崩壊させて、これらオリゴカーボネートを重縮合して樹脂を製造する方法も開示されている(特許文献4)。しかし、このようなモノマーやオリゴマーへの解重合は大きなエネルギーや複数の処理工程が必要となるほか、解重合ステップにおいて低下した分子量を回復するための重縮合反応が必要となる。また、重縮合反応は、反応性基の量比の制御が難しい場合があるうえ、脂肪族末端構造を有する樹脂の場合にはオリゴマー化の際に末端基の熱変性が生じ、樹脂の構造変化や熱履歴による物性低下が生じる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-96596号公報
【文献】特許5721300号公報
【文献】特開平6-287295号公報
【文献】特開平6-220184号公報
【文献】特開平11-152371号公報
【文献】特開2004-189887号公報
【発明の概要】
【0006】
このような状況下において、再生樹脂を製造する改善した方法が求められている。
【0007】
本発明は、例えば次の通りである。
[1] 以下の工程(A)及び(B)を含む、再生樹脂の製造方法。
(A) 廃樹脂及びアリールアルコールを1:0.1~1:4の重量比で含む組成物を、140℃以上前記アリールアルコールの沸点未満の温度に加熱して、重量平均分子量が19,000以上の樹脂Aを生成する工程
(B) 前記工程(A)で得られた組成物からアリールアルコールを除去する工程
[2] 前記廃樹脂は、酸化防止剤を含有する、[1]に記載の方法。
[3] 工程(A)における前記樹脂Aの分子量保持率が、50%以上である、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記廃樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびポリエステルカーボネート樹脂から選択される少なくとも一つを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記廃樹脂が、脂肪族末端構造を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
【0008】
[6] 前記廃樹脂が、下記一般式(1)~(5)のいずれかの構成単位を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
【化1】
〔式中、
、X、X、X、X、およびXは、各々独立に、炭素数1~4のアルキレン基を表し、
、R、R、R、R、およびRは、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数5~20のシクロアルキル基、炭素数5~20のシクロアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基、O、NおよびSから選択される1つ以上のヘテロ環原子を含む炭素数6~20のヘテロアリール基、炭素数6~20のアリールオキシ基、ならびに-C≡C-Rから選択され、
は炭素数6~20のアリール基またはO、NおよびSから選択される1つ以上のヘテロ環原子を含む炭素数6~20のヘテロアリール基を表し、
a、b、c、d、e、およびfは、各々独立に、0~10の整数を表し、
h、i、j、k、m、およびnは、各々独立に、0~4の整数を表し、
およびRは、各々独立に、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。〕
[6a] 前記式(1)~(3)中、a、b、c、d、e、およびfは、各々独立に、1~10の整数を表す、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記廃樹脂は、樹脂成形時に発生するスプールおよび/またはランナーである、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記工程(A)において、廃樹脂及びアリールアルコールの重量比が、1:0.8~1:1.4の範囲である、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 前記工程(A)において、触媒の添加を行わない、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10] (i)前記工程(A)において、および/または、(ii)前記工程(A)の後工程(B)前に、さらにアルカリ金属触媒を添加することを含む、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
【0009】
[11] 前記工程(B)がアルカリ金属触媒の存在下で行われる、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12] 前記アルカリ金属触媒の添加量が、前記廃樹脂に対し、10~1000μmol/kgである、[10]または[11]に記載の方法。
[13] (i)前記工程(A)において、および/または、(ii)前記工程(A)の後工程(B)前に、さらに炭酸ジエステルおよび/又はジヒドロキシ化合物を添加することを含み、
前記炭酸ジエステルおよび/またはジヒドロキシ化合物の添加量の合計が、前記廃樹脂に対し、0.01~100g/kgである、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 前記工程(A)で得られた樹脂Aの重量平均分子量が、前記廃樹脂の重量平均分子量と同じ又は小さく、
前記工程(B)で得られた樹脂の重量平均分子量が、前記廃樹脂の重量平均分子量と同じ又は大きい、[1]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15] さらに、以下の工程(C)を含む、[1]~[14]のいずれかに記載の方法。
(C) 前記工程(B)の前に、前記工程(A)で得られた組成物から未溶融物を除去する工程
【0010】
[16] さらに、以下の工程(D)を含む、[1]~[15]のいずれかに記載の方法。
(D)前記工程(B)後に、前記工程(B)で得られた樹脂をペレット化する工程
[17] 前記工程(A)の前に、廃樹脂を最長径5cm以下のサイズに粉砕することを含む、[1]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18] 前記再生樹脂が光学材料用である、[1]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19] 前記光学材料は、光学レンズまたは光学フィルムである、[18]に記載の方法。
[20] 前記工程(A)が強アルカリの非存在下で行われる、[1]~[19]のいずれかに記載の方法。
【0011】
[21] 含窒素化合物または含リン化合物から選択される触媒を含まない、[1]~[20]のいずれかに記載の方法。
[22] 前記廃樹脂中の酸化防止剤の含有量が、1~3000重量ppmの範囲である、[1]~[21]のいずれかに記載の方法。
[23] [1]~[22]のいずれかに記載の方法により製造された再生樹脂。
[24] [23]に記載の再生樹脂を用いた光学レンズまたは光学フィルム。
【0012】

本発明は、以下の一以上の効果を有する。
(1)本発明の再生処理は低分子量域やモノマーレベルへの樹脂への分解を伴わないので、分子量を回復するための余分な熱エネルギーを費やすことなく、効率的に樹脂をリサイクルすることが可能である。
(2)本発明の再生処理は、余分な熱履歴を樹脂に与えることもなく、樹脂の変性を防ぎ、良質な再生樹脂を得ることが可能である。 (3)熱変性しやすい脂肪族末端構造を有する樹脂についても良質な再生樹脂を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の再生樹脂の製造において用いた温度および圧力のプロファイルを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本明細書において記載する用語等の意義を説明し、本発明を詳細に説明する。
「アルキル」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。
「シクロアルキル」とは、指定された数の炭素原子を有する環状の飽和脂肪族炭化水素基である。
「アルキレン」とは、指定された数の炭素原子を有する2価の直鎖状または分岐状の炭化水素基である。
「シクロアルキレン」とは、指定された数の炭素原子を有する2価の環状の炭化水素基である。
「アリール」とは、芳香族性の炭化水素環式環系を指す。
「ヘテロアリール」とは、少なくとも1つの環ヘテロ原子を有する芳香族性の単環式環系又は環系に存在する少なくとも1つの環が芳香族であり且つ少なくとも1つの環ヘテロ原子を有する多環式環系を指す。
「アルコキシ」とは、指定された数の炭素原子を有するアルキルの末端に酸素原子(O)が結合した基である。
「アリールオキシ」とは、指定された数の炭素原子を有するアリールの末端に酸素原子(O)が結合した基である。
「ハロゲン」はフッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、またはヨウ素原子(I)である。
【0015】
本発明の一形態は、廃樹脂から再生樹脂を製造する方法に関する。再生樹脂の製造方法は、以下の工程を有する。工程(C)および工程(D)は必要に応じて実施される任意工程である。
工程(A) 廃樹脂及びアリールアルコールを1:0.1~1:4の重量比で含む組成物を、140℃以上前記アリールアルコールの沸点未満の温度に加熱して、重量平均分子量が19,000以上の樹脂Aを生成する工程
工程(B) 前記工程(A)で得られた組成物からアリールアルコールを除去する工程
工程(C) 前記工程(B)の前に、前記工程(A)で得られた組成物から未溶融物を除去する工程
工程(D) 前記工程(B)後に、前記工程(B)で得られた樹脂をペレット化する工程
以下、各工程について説明する。
【0016】
(1)工程(A)
工程(A)は、廃樹脂をアリールアルコールに溶解させ、加熱する工程である。廃樹脂及びアリールアルコールを含む組成物を加熱することにより、重量平均分子量が19,000以上の樹脂Aを生成する。
【0017】
工程(A)では、過度の解重合反応の進行を抑制しつつ、廃樹脂を溶解させる。工程(A)では、加熱により廃樹脂の一定程度の分子量低下が生じる場合がある。特に、廃樹脂に触媒が含まれる場合や、工程(A)において触媒が添加された場合には、工程(A)において一定程度の廃樹脂の解重合反応が生じ得る。このため、工程(A)で得られる樹脂Aの重量平均分子量は、通常、廃樹脂の重量平均分子量と同じ又は小さい。
本発明では、工程(A)で得られる樹脂Aの重量平均分子量を、19,000以上とする点に特徴を有する。高い分子量領域で工程(A)を終了し、工程(B)へ進むことにより、余分な熱履歴を樹脂に与えることなく、樹脂の変性を防ぎ、良質な再生樹脂を得ることが可能となる。さらに、分子量の低下が抑制されるため、分子量を回復するための余分な熱エネルギーを費やすことなく、効率的に樹脂をリサイクルすることが可能である。
【0018】
本発明において、樹脂の重量平均分子量(Mw)はゲル浸透クロマトグラフ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量を意味し、後述の実施例に記載の方法で測定される。
樹脂Aの重量平均分子量は、好ましくは19,400以上であり、より好ましくは20,000以上であり、さらに好ましくは29,000以上であり、一層好ましくは30,000以上であり、特に好ましくは35,000以上である。
【0019】
本発明において、樹脂Aの分子量保持率は、50%以上であることが好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。樹脂Aの分子量保持率は、廃樹脂の重量平均分子量(MW1)および樹脂Aの重量平均分子量(MW2)から下記式にしたがって算出される。
樹脂Aの分子量保持率(%)=(MW2)/(MW1)×100
【0020】
加熱温度は、140℃以上アリールアルコールの沸点未満の温度である。140℃未満であると、樹脂のガラス転移温度(Tg)と同程度またはTg未満となる場合があり、樹脂の溶解性に劣る。組成物の加熱温度は好ましくは140~250℃であり、より好ましくは140~200℃であり、さらに好ましくは160~200℃である。かかる温度範囲であると、樹脂のアリールアルコールへの溶解性に優れるとともに組成物の粘性が低下して攪拌動力が減少する。
【0021】
加熱は、二段階以上で行うことが好ましい。一実施形態において、140~200℃(好ましくは145~180℃、より好ましくは160~180℃)に加熱した後に、180℃以上アリールアルコールの沸点未満の温度(好ましくは180~200℃、より好ましくは185~195℃)に加熱することが好ましい。多段階で加熱することにより、過度な解重合の進行を抑制しつつ、樹脂のアリールアルコールへの溶解性を高めることができる。加熱は、三段階以上で行ってもよい。
【0022】
工程(A)の圧力は特に制限されないが、アリールアルコールの系中からの留去または揮発を防止する観点から、90~105kPaが好ましく、95~105kPaがより好ましく、95~102kPaがさらに好ましい。一実施形態において、省エネルギーの観点から、工程(A)を大気圧付近で行う。
【0023】
工程(A)において、廃樹脂及びアリールアルコールの重量比(廃樹脂:アリールアルコール)は、1:0.1~1:4である。1:0.1よりも小さい(すなわちアリールアルコール量が少ない)場合には、溶解状態に到達するまでに長時間を要する、または、溶解自体ができなくなる傾向があり、好ましくない。1:4よりも大きい(すなわちアリールアルコール量が多い)場合には、解重合反応が促進されて、モノマーや低分量域オリゴマーが生成し、樹脂の分子量が低下する場合や、続く工程(B)においてアリールアルコールの除去ができない場合やアリールアルコールの除去に長時間を要する場合があるため好ましくない。
廃樹脂及びアリールアルコールの重量比は、過大な装置によらずにリサイクルが可能である点、廃樹脂の溶解性に優れる点、および/またはアリールアルコールの除去を効率的に行う点から、より好ましくは1:0.8~1:1.4の範囲であり、さらに好ましくは1:0.9~1:1.2の範囲である。
【0024】
工程(A)の処理時間(加熱時間)は、特に制限されないが、樹脂に過度に熱履歴を与えることなく、均一に溶解できる点で1~13時間が好ましく、1~8時間がより好ましく、1~7時間がさらに好ましい。加熱時間が長いほど、廃樹脂のアリールアルコールへの溶解性を高めることができる。加熱時間が短いほど、熱履歴の小さい樹脂が得られ、好ましい。
【0025】
工程(A)において、触媒を添加してもよい。ただし、上記のとおり触媒存在下で廃樹脂およびアリールアルコールを加熱すると廃樹脂の解重合反応が生じる場合があるため、分子量の過度の低下が生じない範囲で触媒の添加および加熱処理を行う。過度な解重合反応を抑制する観点およびコスト面に優れ入手も容易である点から、触媒は、アルカリ金属触媒であることが好ましい。触媒を含むことにより、後述する工程(B)において樹脂の分子量を増加させることができる。
一実施形態において、工程(A)で添加する触媒は、廃樹脂の製造時に使用した触媒と同一のものが好ましい。廃樹脂中に含まれている触媒と同一の触媒を用いることで、新たな不純物の混入を回避でき、樹脂物性への影響を少なくできる。好ましい形態において、工程(A)で添加する触媒および廃樹脂の製造時に使用した触媒はともにアルカリ金属触媒である。
【0026】
アルカリ金属触媒としては、例えば、アルカリ金属の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物又はアルコキシド等が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩もしくは2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩もしくはリチウム塩等が用いられる。上記アルカリ金属触媒のうち、強アルカリの化合物は、解重合反応を促進しやすい傾向がある。解重合反応を抑制する観点から、好ましくは炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、炭酸カリウムであり、さらに好ましくは炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウムである。触媒は1種類を使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0027】
また、分子量の低下を抑制するため、工程(A)は、強アルカリの非存在下で行われることが好ましい。
【0028】
触媒としては、アルカリ金属触媒のほか、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの含窒素化合物、含リン化合物、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシドなどのエステル交換触媒を用いてもよい。
特定の実施形態において、触媒はアルカリ金属触媒と助触媒としての含窒素化合物とを含む。
【0029】
また、特定の実施形態において、触媒は、含窒素化合物や含リン化合物を含まないことが好ましい。これらの触媒は、比較的分解度温度が低く、続く工程(B)などの高温下で分解されやすく、工程(A)により低下した分子量を工程(B)において回復することが難しい。また、これらの触媒は、アルカリ金属触媒と比較して樹脂が着色しやすい。
また、特定の実施形態において、触媒は、エステル交換触媒を含まないことが好ましい。エステル交換触媒は、アルカリ金属触媒と比較して樹脂が着色しやすい。
【0030】
アルカリ金属触媒の添加量は、分子量の過度の低下が生じない範囲であれば特に制限されないが、例えば、廃樹脂に対し、10~1000μmol/kgが好ましく、10~500μmol/kgがより好ましく、10~200μmol/kgがさらに好ましい。
【0031】
工程(A)において、触媒の添加を行わないことも好ましい。工程(A)における分子量の低下を抑制でき、熱履歴の少ない樹脂を得ることができる
【0032】
廃樹脂には樹脂製造時に用いた触媒が含まれている場合があり、そのような廃樹脂をアリールアルコールとともに加熱すると、工程(A)において触媒を添加しない場合であっても解重合反応が生じる場合がある。
過度な解重合反応を抑制する観点から、廃樹脂が触媒を含む場合、当該触媒は、アルカリ金属触媒であることが好ましい。使用可能なアルカリ金属触媒の具体例は上記の工程(A)において添加されうる触媒として例示したものと同様である。
【0033】
廃樹脂中の触媒(好ましくはアルカリ金属触媒)の合計の含有量は、廃樹脂の全重量(100重量%)に対して好ましくは0.1~1000重量ppmの範囲であり、より好ましくは0.1~100重量ppmの範囲であり、さらに好ましくは0.1~10重量ppmの範囲である。
廃樹脂中に含まれる触媒の含有量は、例えば、ICP発光分光分析、蛍光X線分析、原子吸光分析などの方法により測定することができる。具体的なICP質量分析法(ICP-MS)を用いた測定方法の一例は以下の通りである。
試料の硫酸炭化を行った後、ICP-MSにより金属濃度を測定する。すなわち、合成石英ビーカーに樹脂試料2gを秤量し、2.5mLの硫酸を添加し、炭化直前に0.1mLの硫酸を加えながらホットプレート上で加熱する。引き続き、石英皿でフタをし、電気炉で500℃、10時間、加熱し、炭化する。さらに、硫酸を加え加熱し乾固、硝酸を加え加熱し乾固することにより、加熱酸分解を行った。硝酸水溶液を加え50mLとし、50℃に加温し、ICP-MSによる定量分析を行う。
ICP-MS装置:株式会社島津製作所:ICPE-9000
【0034】
工程(A)において、廃樹脂およびアリールアルコールを含む組成物に、さらに炭酸ジエステルおよび/又はジヒドロキシ化合物を添加してもよい。
反応系に炭酸ジエステルおよび/又はジヒドロキシ化合物が存在する場合、続く工程(B)において重合反応が進み、高分子量化および分子量調節が可能である。
【0035】
炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも特に、ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0036】
ジヒドロキシ化合物としては、廃樹脂を構成する構成単位に対応するジヒドロキシ化合物が好ましいが当該ジヒドロキシ化合物以外の化合物であってもよい。該化合物としては、例えば、ビスフェノール型ジヒドロキシ化合物(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールPH、ビスフェノールZ、ビスフェノールTMCなど)が挙げられる。
【0037】
炭酸ジエステルおよび/またはジヒドロキシ化合物の添加量の合計は、廃樹脂に対し、好ましくは0.01~100g/kgであり、より好ましくは0.1~50g/kgであり、さらに好ましくは1.0~10g/kgである。
【0038】
(廃樹脂)
本発明の方法において用いられる廃樹脂の種類は特に制限されず、熱可塑性樹脂(例えば、ポリカーボネード樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂など)が挙げられる。廃樹脂は、1種単独の樹脂から構成されていてもよいし、2種以上の樹脂から構成されていてもよい。廃樹脂は、中でも好ましくは、アリールアルコールとの相溶性に優れ、および/または比較的価格が高くリサイクルの採算性が見込める観点から、ポリカーボネード樹脂、ポリエステル樹脂、およびポリエステルカーボネート樹脂から選択される少なくとも一つを含むことが好ましく、ポリカーボネート樹脂を含むことがより好ましい。一実施形態において、廃樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂を含む。
【0039】
また、廃樹脂は、熱可塑性樹脂(好ましくはポリカーボネード樹脂、ポリエステル樹脂、およびポリエステルカーボネート樹脂の少なくとも一つ、より好ましくはポリカーボネート樹脂)を廃樹脂の全重量に対して好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含むことが好ましい。
【0040】
廃樹脂は、上記熱可塑性樹脂に加えて他の樹脂成分(例えば、ポリアミド、ポリスチレン、アモルファスポリオレフィン、ABS、ASなどの合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂などの少なくとも一つ)を含んでいてもよい。
【0041】
一実施形態において、廃樹脂は、脂肪族末端構造を有する。脂肪族末端を有する樹脂は、一般に、アリール末端構造を有する樹脂と比較して熱変性が生じやすい。本発明の方法では、余分な熱履歴を樹脂に与えることなく、樹脂の変性を抑制することができるため、本発明は当該実施形態の廃樹脂の再生に有利である。
【0042】
廃樹脂は、製品の一部として市場に利用されたのちに回収された成形品、成形工程で発生する不良品や成形工程で付随して発生する成形物(例えばスプールやランナーなど)、製品化工程で生じる不良品、不要となった未使用の成形品などに由来するものが挙げられる。廃樹脂の形状もパウダー、ペレット、シート、フィルム、成形品等に限定されず、廃棄されたレンズ、シート、フィルム;製造時及び/又は成形加工時に発生する不良品、バリ;製造廃棄物、樹脂を使用した製品の廃棄物から回収された固形物、それらの粉砕物;などが使用される。
【0043】
中でも、成形工程で発生する不良品や成形工程で付随して発生する成形物(例えばスプールやランナーなど)を廃樹脂の全重量に対して5重量%以上(より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上)含むことが好ましい。さらに、樹脂成形時に発生するスプールおよび/またはランナーを廃樹脂の全重量に対して80重量%以上(より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、特に好ましくは全量(100重量%))含むことが好ましい。
好ましい一形態において、廃樹脂は、光学材料用のポリカーボネート樹脂の射出成形工程で発生するスプールおよび/またはランナーである。本発明の方法では、熱履歴の少ない再生樹脂を得ることができるため、熱履歴の影響を受けやすい高品質な光学材料を廃樹脂として用いて再生し、高品質な再生樹脂を再生産することが可能である。
【0044】
廃樹脂は、光学レンズ用の樹脂のように高品質でコストの高いものがリサイクルの採算性および高品質のリサイクル品を得る観点から好ましい。また、廃樹脂は、アリールアルコールとの相溶性の高いものが好ましい。かかる観点から、廃樹脂は、下記一般式(1)~(5)のいずれかの構成単位を含むことが好ましく、下記一般式(1)~(5)のいずれかの構成単位から実質的になることがより好ましい。本明細書において「~から実質的になる」とは、例えば、樹脂の構成単位のうち、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上が一般式(1)~(5)で表される構成単位からなる。
廃樹脂が一般式(1)~(5)で表される構成単位の少なくとも1種を含む場合、これらの構成単位がどのように樹脂に含まれるかは特に限定されない。本発明の一態様において、廃樹脂は、一般式(1)~(5)で表される構成単位のそれぞれの構成単位からなるホモポリマーであってもよいし、一般式(1)~(5)で表される構成単位の複数の構成単位から構成されるコポリマー(例えば二元系樹脂、三元系樹脂など)や一般式(1)~(5)で表される構成単位の少なくとも1種と式(1)~(5)以外のその他構成単位とから構成されるコポリマーであってもよい。あるいは、これらのホモポリマーどうし、あるいはホモポリマーおよびコポリマーのブレンドであってもよい。また、樹脂は、ランダム、ブロック及び交互共重合構造のいずれでもよい。
【0045】
【化2】
【0046】
上記式(1)~(3)中、X、X、X、X、X、およびXは、各々独立に、炭素数1~4のアルキレン基を表す。
上記式(1)~(3)中、R、R、R、R、R、およびRは、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数5~20のシクロアルキル基、炭素数5~20のシクロアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基、O、NおよびSから選択される1つ以上のヘテロ環原子を含む炭素数6~20のヘテロアリール基、炭素数6~20のアリールオキシ基、ならびに-C≡C-Rから選択される。一実施形態において、R、R、R、R、R、およびRは、各々独立に、水素原子、フェニル基、1-ナフチル基、および2-ナフチル基から選択される。
は炭素数6~20のアリール基またはO、NおよびSから選択される1つ以上のヘテロ環原子を含む炭素数6~20のヘテロアリール基を表す。一実施形態において、Rは、水素原子、フェニル基、1-ナフチル基、および2-ナフチル基から選択される。
【0047】
上記式(1)~(3)中、a、b、c、d、e、およびfは、各々独立に、0~10の整数(例えば0~5、0~3、または0もしくは1)を表す。
一実施形態において、a、b、c、d、e、およびfは、各々独立に、1~10の整数(例えば1~5、1~3、1~2、または1)を表す。このような脂肪族末端構造を有する樹脂は、一般に、アリール末端構造を有する樹脂と比較して熱変性が生じやすい。本発明の方法では、余分な熱履歴を樹脂に与えることなく、樹脂の変性を抑制することができるため、本発明は当該実施形態の廃樹脂の再生に有利である。
【0048】
上記式(1)~(3)中、h、i、j、k、m、およびnは、各々独立に、0~4の整数を表す。
【0049】
上記式(4)~(5)中、RおよびRは、各々独立に、水素原子または炭素数1~3のアルキル基(好ましくは水素原子)を表す。
【0050】
式(1)で表される構成単位の具体例としては、2,2’-ビス(1-ヒドロキシメトキシ)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1 ,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(3-ヒドロキシプロピルオキシ)-1,1’- ビナフタレン、2,2’-ビス(4-ヒドロキシブトキシ)-1,1’-ビナフタレン等に由来する構成単位が挙げられる。一実施形態において、式(1)で表される構成単位は、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフ タレン(「BHEBN」とも称する)に由来する構成単位である。これらは単独で使用してもよく、又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
式(2)で表される構成単位の具体例としては、9,9-ビス[4-(2-ヒドロ キシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)- 3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3- tert-ブチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ) -3-イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ )-3-シクロヘキシルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエト キシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン(以下“BPPEF”と省略することがある )等に由来する構成単位が挙げられる。一実施形態において、式(2)で表される構成単位は、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン及び9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンから選択される化合物に由来する構成単位である。これらは単独で使用してもよく、又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0052】
式(3)で表される構成単位の具体例としては、9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類に由来する構成単位が挙げられる。例えば、9,9-ビス[ 6-(1-ヒドロキシメトキシ)ナフタレン-2-イル]フルオレン、9,9-ビス[6 -(2-ヒドロキシエトキシ)ナフタレン-2-イル]フルオレン、9,9-ビス[6- (3-ヒドロキシプロポキシ)ナフタレン-2-イル]フルオレン、及び9,9-ビス[ 6-(4-ヒドロキシブトキシ)ナフタレン-2-イル]フルオレンから選択される化合物に由来する構成単位が挙げられる。一実施形態において、式(3)で表される構成単位は、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)ナフタレン-2-イル]フルオレンに由来する構成単位である。これらは単独で使用してもよく、又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0053】
式(4)で表される構成単位の具体例としては、デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレンジオール類(「D-NDM」とも称する)に由来する構成単位が挙げられる。例えば、(デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,6-ジイル)ジメタノール、(デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,7-ジイル)ジメタノール、(2-メチルデカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,6-ジイル)ジメタノール、(2-メチルデカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,7-ジイル)ジメタノール、(2-エチルデカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,6-ジイル)ジメタノール、(2-エチルデカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,7-ジイル)ジメタノールから選択される化合物に由来する構成単位が挙げられる。
【0054】
式(5)で表される構成単位の具体例としては、デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2-メトキシカルボニル-6(7)-メタノール類に由来する構成単位が挙げられる。例えば、デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2-メトキシカルボニル-6-メタノール、デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2-メトキシカルボニル-7-メタノール、2-メチル-デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2-メトキシカルボニル-6-メタノール、2-メチル-デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2-メトキシカルボニル-7-メタノール、2-エチル-デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2-メトキシカルボニル-6-メタノール、2-エチル-デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2-メトキシカルボニル-7-メタノールから選択される化合物に由来する構成単位が挙げられる。
【0055】
廃樹脂における、上記式(1)の構成単位の割合は、高屈折率を有し、全光線透過率が高い樹脂として市場価値が高い点から、廃樹脂の樹脂成分の全重量に対して、1~100重量%であることが好ましく、20~90質量%であることがより好ましく、30~80質量%であることがさらに好ましい。
廃樹脂における、上記式(2)の構成単位の割合は、高屈折率を有し、全光線透過率が高い樹脂として市場価値が高い点から、廃樹脂の樹脂成分の全重量に対して、1~100重量%であることが好ましく、20~100質量%であることがより好ましく、30~100質量%であることがさらに好ましい。
廃樹脂における、上記式(3)の構成単位の割合は、高屈折率を有し、全光線透過率が高い樹脂として市場価値が高い点から、廃樹脂の樹脂成分の全重量に対して、1~100重量%であることが好ましく、19~90質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることがさらに好ましい。
廃樹脂における、上記式(4)の構成単位の割合は、光学レンズ用として、適度なバランスの屈折率およびアッベ数を有し、全光線透過率が高い樹脂として市場価値が高い点から、廃樹脂の樹脂成分の全重量に対して、1~100重量%であることが好ましく、20~100質量%であることがより好ましく、30~100質量%であることがさらに好ましい。
廃樹脂における、上記式(5)の構成単位の割合は、光学レンズ用として、適度なバランスの屈折率およびアッベ数を有し、全光線透過率が高い樹脂として市場価値が高い点から、廃樹脂の樹脂成分の全重量に対して、1~100重量%であることが好ましく、20~100質量%であることがより好ましく、30~100質量%であることがさらに好ましい。
廃樹脂における、上記式(1)~(5)の構成単位の合計の割合は、光学物性に優れた樹脂として市場価値が高いの点から、廃樹脂の樹脂成分の全重量に対して、0.01~100重量%であることが好ましく、0.1~100質量%であることがより好ましく、1~100質量%であることがさらに好ましい。
【0056】
上記式(1)~(5)の構成単位を有する樹脂の例としては、例えば、国際公開WO2014/073496号、特開2010-248445号、特開2008-111047号、国際公開WO2016/052370号、国際公開WO2018/016516号、PCT/JP2019/042232に記載されている。
【0057】
廃樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、例えば光学レンズ用の樹脂として適切な強度を保つ観点からは、好ましくは19,000~7,0000であり、より好ましくは25,000~60,000であり、さらに好ましくは30,000~60,000である。
【0058】
廃樹脂は、樹脂成分以外に、触媒、酸化防止剤、加工安定剤、光安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、可塑剤、相溶化剤、強化剤、失活剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0059】
好ましい一形態において、廃樹脂は酸化防止剤を含む。酸化防止剤を含むことにより、工程(A)において解重合反応が抑制され、樹脂の分子量の低下(特に、低分子量域やモノマーレベルへの低下)を抑制することができる。
酸化防止剤としては、特に制限されないが、例えば、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマイド)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルホスホネート-ジエチルエステル、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート及び3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどが挙げられる。酸化防止剤は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
廃樹脂中の酸化防止剤の含有量は、廃樹脂の全重量(100重量%)に対して好ましくは1~3000重量ppmの範囲であり、より好ましくは300~2800重量ppmの範囲であり、さらに好ましくは500~2500重量ppmの範囲であり、特に好ましくは500~2000重量ppmの範囲である。
廃樹脂中に含まれる酸化防止剤の含有量は、例えばNMRや液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)を用いて測定することができる。
例えば、LC-MSを用いた測定方法の一例は、異なる濃度の酸化防止剤の標準液を調製し、LC‐MSで分析して、検量線を作成し、作成した検量線により分析試料の定量分析を行う方法である。あるいは、ビスフェノールAのような純度の高い化合物の標準液を用いて検量線を作成し、ビスフェノールA換算値として定量分析を行うこともできる。
【0061】
一実施形態において廃樹脂は失活剤を含む。失活剤を含む場合の廃樹脂中の失活剤の含有量は、廃樹脂の全重量(100重量%)に対して好ましくは1~3000重量ppmの範囲であり、より好ましくは300~2800重量ppmの範囲であり、さらに好ましくは500~2500重量ppmの範囲であり、特に好ましくは500~2000重量ppmの範囲である。なお、廃樹脂に失活剤が含まれている場合でも、廃樹脂中に含有される触媒の影響で、工程(A)において一定程度の廃樹脂の解重合反応が生じる場合や、後述する工程(B)における樹脂の分子量増加が生じる場合がある。
廃樹脂中に含まれる失活剤の含有量は、酸化防止剤と同様に、例えばNMRや液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)を用いて測定することができる。
【0062】
工程(A)において、酸化防止剤を添加してもよい。工程(A)は廃樹脂、アリールアルコール、および酸化防止剤を含む組成物を加熱する工程であってよい。例えば、該組成物中の酸化防止剤の含有量は、廃樹脂の全重量(100重量%)に対して好ましくは0.001~0.3重量%であり、より好ましくは0.030~0.28重量%であり、さらに好ましくは0.050~0.25重量%であり、特に好ましくは0.0500~0.20重量%である。
【0063】
廃樹脂は一般的に埃や油等の環境物質が付着している場合があるため、必要に応じて、再生処理の前に、エアー吹きによる乾式洗浄法、水や有機溶剤、界面活性剤を使用する湿式洗浄法で表面を洗浄していてもよい。
【0064】
廃樹脂は、工程(A)の前に、最長径5cm以下(好ましくは0.001~3cm、より好ましくは0.01~2cm、さらに好ましくは0.1~1cm)のサイズに粉砕処理を行ってもよい。粉砕することにより、(1)アリールアルコールへの溶解性が増す、(2)運搬性が良好となる、(3)反応容器への投入が容易になる、(4)廃樹脂への熱履歴が均一となるなどの点で好ましい。
【0065】
(アリールアルコール)
アリールアルコールは、アリールの水素原子をヒドロキシ基で置換した化合物である。アリールアルコールは、廃樹脂との相溶性に優れ、アリールアルコールの沸点が、廃樹脂中に含まれる樹脂成分のガラス転移温度と同じか、それ以上の沸点を有するものであれば特に制限されないが、例えば、置換されたまたは非置換のフェノールが挙げられる。フェノールの置換基は広範囲な有機基から選択できるが、例えば、置換基は、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基およびハロゲン原子などから選択される。
中でも、工程(B)の処理が実施しやすく、安価であり、しかも、高純度のものが市場に流通している点から、アリールアルコールは、非置換フェノールまたはモノ-、ジ-もしくはトリ-置換フェノール(例えば、o-、m-またはp-クレゾール、o-、m-またはp-エチルフェノール、o-、m-またはp-クロロフェノール、o-、m-またはp-メトキシフェノール、2,3-、2,4-または3,4-ジメチルフェノールなど)から選択されることが好ましく、非置換フェノールであることがより好ましい。非置換フェノールは廃樹脂中にも若干量含まれる場合が多く、新たな不純物の混入を回避でき、樹脂物性への影響を少なくできる。
アリールアルコールは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
(2)工程(B)
工程(B)では、前記工程(A)で得られた組成物からアリールアルコールを除去する。これにより、再生樹脂が得られる。
【0067】
アリールアルコールの除去手段は特に限定されないが、例えば、0.01~105kPa(好ましくは0.1~105kPa、より好ましくは0.1~102kPa)の圧力下、180~260℃の温度(好ましくは190~260℃の温度、より好ましくは190~250℃の温度)にすることによりアリールアルコールが除去される。好ましくは、工程(A)終了後圧力を低下させながら(例えば、90~105kPaの範囲の圧力を0.01~5kPaの圧力へと低下させながら)、アリールアルコールの除去速度に合わせて、徐々に加熱して最大260℃(好ましくは250℃)の付近の温度まで加熱することによりアリールアルコールを除去することが好ましい。
【0068】
工程(B)の処理時間は、特に制限されないが、樹脂の熱劣化の進行を抑制する点で1~7時間が好ましく、1.5~5時間がより好ましく、2~4時間がさらに好ましい。
【0069】
工程(A)の後、前記工程(B)の前にさらに触媒を添加してもよい。触媒としては、工程(A)に添加しうる触媒として記載したアルカリ金属触媒が同様に好ましく用いられる。
触媒を含むことにより、工程(B)において樹脂の分子量を増加させることができる。
また、樹脂は、成形時にも分子量が低下しやすいが触媒を含有している場合には、成形時に低下した分子量を工程(B)で本来の樹脂の分子量まで回復できるという利点も有する。
一実施形態において、工程(B)がアルカリ金属触媒の存在下で行われる。
【0070】
工程(A)の後、前記工程(B)の前にさらに炭酸ジエステルおよび/又はジヒドロキシ化合物を添加してもよい。触媒としては、工程(A)に添加しうる触媒として記載したアルカリ金属触媒が同様に好ましく用いられる。工程(B)において炭酸ジエステルおよび/又はジヒドロキシ化合物が存在する場合、続く工程(B)において重合反応が進み、高分子量化および分子量調節が可能である。
【0071】
炭酸ジエステルおよび/またはジヒドロキシ化合物の添加量の合計は、廃樹脂に対し、好ましくは0.01~100g/kgであり、より好ましくは0.1~50g/kgであり、さらに好ましくは1.0~10g/kgである。なお、工程(A)および工程(B)の両方で炭酸ジエステルおよび/またはジヒドロキシ化合物を添加する場合、工程(A)および工程(B)で添加した炭酸ジエステルおよび/またはジヒドロキシ化合物の合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0072】
一般に、成形中に樹脂の分子量は低下する傾向があることから、工程(B)では廃樹脂と同程度の分子量か、あるいは、もとの製品レベルの分子量まで分子量を高めることが好ましい。工程(B)で得られる再生樹脂の重量平均分子量は、前記廃樹脂の重量平均分子量と同じ又は大きいことが好ましい。
再生樹脂の分子量保持率は、95%以上であることが好ましく、100%以上がより好ましく、120%以上がさらに好ましい。
再生樹脂の分子量保持率は、廃樹脂の重量平均分子量(MW1)および再生樹脂の重量平均分子量(MW3)から下記式にしたがって算出される。
再生樹脂の分子量保持率(%)=(MW3)/(MW1)×100
【0073】
アルカリ金属触媒の添加量は、分子量の過度の低下が生じない範囲であれば特に制限されないが、例えば、廃樹脂に対し、10~1000μmol/kgが好ましく、10~500μmol/kgがより好ましく、10~200μmol/kgがさらに好ましい。なお、工程(A)および工程(B)の両方で触媒を添加する場合、工程(A)および工程(B)で添加した触媒の合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0074】
(3)工程(C)
本発明の方法において、工程(B)の前に、前記工程(A)で得られた組成物から未溶融物を除去する工程を有してもよい。
【0075】
廃樹脂には複数の樹脂が含まれている場合や、金属材料や成形時に周囲から混入するダスト等の異物などの異種材料が含まれている場合があるが、工程(B)前に、前記工程(A)で得られた組成物から未溶融物を除去することにより、アリールアルコールへ溶解する樹脂成分を得ることができる。
特に、ポリカーボネート樹脂は、アリールアルコールへの溶解性が高いが、オレフィン系樹脂(例えばシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂やシクロオレフィンコポリマー(COC)樹脂)は一般にアリールアルコールへの溶解性が低い。廃樹脂がポリカーボネート樹脂を含む場合、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂成分を、オレフィン系樹脂などの溶解性の悪い樹脂成分から分離して得ることができる。
【0076】
除去手段としては特に制限されず、例えば、ポリマーフィルター等を用いたろ過、または活性炭による吸着除去により除去することが可能である。
【0077】
(4)工程(D)
工程(B)後に、工程(B)で得られた樹脂をペレット化する工程を有していてもよい。
上記で得られた再生樹脂は、そのまま、または、ペレット化されて、成形体として用いることが可能である。
【0078】
(再生樹脂)
上記方法により、再生樹脂が得られる。
再生樹脂には、本発明の特性を損なわない範囲において、酸化防止剤、加工安定剤、光安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、可塑剤、相溶化剤、強化剤、失活剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0079】
上記方法により得られる再生樹脂は、熱履歴が低減され、良質な再生樹脂を得ることができる。したがって上記方法により得られた再生樹脂を光学材料として用いることが可能である。
【0080】
本発明のさらなる一形態は、再生樹脂を含む成形品である。成形品の形状、模様、色彩、寸法等に制限はなく、その用途に応じて任意に設定すればよい。
成形品は、例えば、光学材料(部材)、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料等の他、塗料や接着剤の材料等の各種用途に有用である。
成形品としては、中でも、光学材料、例えば、光学レンズまたは光学フィルムが挙げられる。さらに、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、太陽電池等に使用される透明導電性基板、光学ディスク、液晶パネル、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、コネクター、蒸着プラスチック反射鏡、ディスプレイなどの光学部品の構造材料又は機能材料用途に適した光学用成形体として有利に使用することができる。
【実施例
【0081】
以下、本発明について実施例を参照して詳述するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0082】
実施例及び比較例において、廃樹脂、樹脂Aおよび再生樹脂の物性の測定は、以下の方法により行った。
【0083】
<重量平均分子量(Mw)>
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、テトラヒドロフランを展開溶媒として、既知の分子量(分子量分布=1)の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。この検量線に基づいて、GPCのリテンションタイムから樹脂の重量平均分子量を算出した。
[測定条件]
装置:東ソー株式会社製、HLC-8320GPC
カラム:
ガードカラム:TSK guardcolumn SuperMPHZ-M 1本
分析カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ-M 3本
溶媒:テトラヒドロフラン
注入量:10μL
試料濃度:0.2w/v% テトラヒドロフラン溶液
溶媒流速:0.35ml/min
測定温度:40℃
検出器:RI
【0084】
<分子量保持率>
廃樹脂の重量平均分子量(MW1)、樹脂Aの重量平均分子量(MW2)および再生樹脂の重量平均分子量(MW3)から下記式にしたがって分子量保持率を求めた。
再生樹脂の分子量保持率(%)=(MW3)/(MW1)×100
樹脂Aの分子量保持率(%)=(MW2)/(MW1)×100
【0085】
[製造例1]廃樹脂aの製造
原料として、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)ナフタレン-2-イル]フルオレン(BNEF)4.53kg(12.1モル)、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレン(BHEBN)7.5kg(20.03モル)、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン(BPPEF)8.72kg(14.8モル)、ジフェニルカーボネート(DPC)5.99kg(27.9モル)、及び2.5×10-2モル/リットルの炭酸水素ナトリウム(NaHCO)水溶液16ミリリットル(4.0×10-4モル、即ち、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、8.4×10-6モル)を攪拌機及び留出装置付きの50L反応器に入れ、窒素雰囲気760mmHgの下、30分かけて25℃から180℃に加熱した。加熱開始30分後に原料の完全溶解を確認した。その後180℃で、120分間攪拌を行った。引き続き、減圧度を200mmHgに調整すると同時に、60℃/hrの速度で200℃まで昇温を行った。この際、副生したフェノールの留出開始を確認した。その後、20分間200℃に保持して反応を行った。さらに、75℃/hrの速度で230℃まで昇温し、昇温終了10分後、その温度で保持しながら、2時間かけて減圧度を1mmHg以下とした。その後、60℃/hrの速度で245℃まで昇温し、さらに40分間攪拌を行った。反応終了後、反応器内に窒素を導入して常圧に戻し、生成した熱可塑性樹脂をペレタイズして取り出した。
【0086】
上記にて得られた樹脂に失活剤としてドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩(MGA-614、竹本油脂(株)製)15重量ppm、離型剤として3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(PEP-36、ADEKA社製)を300重量ppm、および酸化防止剤としてペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート](AO-60、ADEKA社製)1000重量ppmを溶融混練し、ペレット化した。
得られたペレットを用いて、光学用レンズを射出成型機にて成形した。レンズが成形されると共に得られるランナー及びスプールを回収し、廃樹脂aとした。廃樹脂aの物性を表1に示す。表1中、廃樹脂中の酸化防止剤および触媒の量(重量ppm)は、それぞれ、製造例1で使用した酸化防止剤および触媒の量(仕込み値)から算出した値である。
【0087】
[実施例1]
工程(A)
製造例1で得られた廃樹脂a 100g、アリールアルコール(ArOH)としてフェノール(富士フィルム和光純薬株式会社製) 100gを500mLのタービン翼付きセパラブルフラスコに投入し、圧力を100kPaに設定し、1時間かけて30℃から170℃まで昇温した(工程i)。この間に樹脂が溶融したことを目視にて確認した。さらにタービン翼により200rpmで攪拌しながら、170℃で1時間保持した(工程ii)。
引き続き、圧力を100kPaに設定し、200rpmにて攪拌しつつ、190℃まで昇温した後、190℃で3時間、加熱攪拌を行った(工程iii)。一部サンプリングした樹脂を樹脂Aとして重量平均分子量(Mw)を測定した。
工程(B)
その後190℃で、反応系内の圧力を3時間かけて、250℃、0.13kPaまで減圧しつつ、フェノールを除去し、再生樹脂を得た。樹脂Aおよび再生樹脂の物性を表1に示す。
【0088】
[実施例2]
工程(A)において、工程iの170℃への昇温後に工程iiにおいて170℃で3時間保持し、その後工程iiiの190℃への昇温を行ったこと以外は、実施例1と同様に再生樹脂を得た。
【0089】
[実施例3]
工程(A)において、工程iの170℃への昇温後工程iiを行うことなくすぐに工程iiiの190℃への昇温を行ったこと以外は、実施例1と同様に再生樹脂を得た。
【0090】
[実施例4]
製造例1で得られた廃樹脂a 100g、アリールアルコール(ArOH)としてフェノール(富士フィルム和光純薬株式会社製) 100g、及び触媒として炭酸水素ナトリウム水溶液115μL(濃度0.10mol/L、炭酸水素ナトリウムとして廃樹脂aに対し115μmol/kg)を500mLのタービン翼付きセパラブルフラスコに投入する以外は、実施例1と同様に再生樹脂を得た。樹脂Aおよび再生樹脂の物性を表1に示す。
【0091】
[実施例5]
一部サンプリングして樹脂Aの重量平均分子量(Mw)を測定した後、減圧を開始する前に、触媒として炭酸水素ナトリウム水溶液115μL(濃度0.10mol/L、炭酸水素ナトリウムとして廃樹脂aに対し115μmol/kg)を添加する以外は、実施例2と同様に再生樹脂を得た。樹脂Aおよび再生樹脂の物性を表1に示す。
【0092】
[実施例6]
500mLのタービン翼付きセパラブルフラスコに廃樹脂aとともに添加する触媒を、炭酸水素ナトリウム水溶液34.5μL(濃度0.10 mol/L、炭酸水素ナトリウムとして廃樹脂aに対し34.5μmol/kg)に変更する以外は、実施例4と同様に再生樹脂を得た。樹脂Aおよび再生樹脂の物性を表1に示す。
【0093】
[実施例7]
製造例1で得られた廃樹脂a 100g、アリールアルコール(ArOH)としてフェノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)100g、触媒として炭酸水素ナトリウム水溶液115μL(濃度0.10mol/L、炭酸水素ナトリウムとして廃樹脂aに対し115μmol/kg)、及び炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネート(DPC) 0.2053gを500mLのタービン翼付きセパラブルフラスコに入れる以外は、実施例3と同様に再生樹脂を得た。樹脂Aおよび再生樹脂の物性を表1に示す。
【0094】
[実施例8]
廃樹脂aとアリールアルコール(ArOH)との重量比を1:0.8に変更した。工程(A)において、工程iの170℃への昇温後に工程iiにおいて170℃で1時間保持したところ、樹脂の溶け残りがあった。工程iiの時間を延長し、さらに170℃で3時間保持したところ、樹脂を溶解させることができた(工程iiの合計時間:4時間)。その後工程iiiの190℃への昇温を行った。これ以外は、実施例1と同様に再生樹脂を得た。
【0095】
[実施例9]
廃樹脂aとアリールアルコール(ArOH)との重量比を1:1.5に変更した。 工程(B)において、190℃で、反応系内の圧力を3時間かけて、設定温度を180~250℃とし、0.13kPaまで減圧しつつフェノールの除去を進めたが、フェノール量が多く、液温(内温)が185~240℃の範囲であり、設定温度に追従できなかった。そのため、工程(B)の時間を延長し、さらに追加で1時間保持したところ、液温が上昇し、再生樹脂を得ることができた。
【0096】
[比較例1]
廃樹脂aとアリールアルコール(ArOH)との重量比を1:0.08に変更したこと以外は、実施例1と同様に工程(A)を行ったが、工程(A)において廃樹脂を溶解させることがでず、処理の続行ができなかった。
【0097】
[比較例2]
廃樹脂aとアリールアルコール(ArOH)との重量比を1:5に変更したこと以外は、実施例9と同様に処理を行ったが、工程(B)において多量のフェノールが存在するために、フェノールの除去ができず、再生樹脂を得ることができなかった。
【0098】
[実施例10]
製造例1で得られた廃樹脂a 20kg、アリールアルコール(ArOH)としてフェノール(製造例1で留出したフェノール) 20Kgを50Lのダブルヘリカルリボン翼付反応槽に投入する以外は、実施例1と同様に行った。再生樹脂を反応槽の下部の抜き出し口からギアポンプを介しストランド状で抜き出し、水槽中を通過させ冷却し、ペレタイザーでカットしてペレット化した。
【0099】
【表1】
【0100】
表1に示すとおり、本発明の方法では、分子量の低下を抑制しつつ、廃樹脂をリサイクルすることが可能であった。具体的には、工程(A)後に得られた樹脂Aの重量平均分子量が19,000以上であり(分子量保持率が50%以上)、続く工程(B)後において分子量保持率97%以上の再生樹脂を得ることが可能であった。
触媒の添加を行わない実施例1~3、8~10においては、工程(A)における分子量保持率が93%以上であり、最終的に100%以上の分子量保持率を有する再生樹脂を得ることができた。廃樹脂aには製造の際に用いられた触媒(NaHCO)が含まれている。かかる触媒の存在により工程(B)においてエステル交換反応が生じ、分子量の増大につながったものと推測している。特に、実施例3では、工程(A)において、オリゴマーやモノマーの発生が抑制され、その分、工程(B)で分子量が増加しやすい環境になったと推測される。
工程(A)や工程(B)の前に触媒を添加した実施例4~7においては工程(A)において一定の分子量の低下が生じたものの、続く工程(B)後において高分子量かされ、最終的に廃樹脂と同等以上の分子量を達成することができた。特に、工程(B)の前に触媒を添加した実施例5および7においては、より高い分子量を得ることができた。
【0101】
廃樹脂aとアリールアルコール(ArOH)との重量比が1:0.1よりも小さい(すなわちアリールアルコール量が少ない)比較例1では廃樹脂をアリールアルコールに溶解させることができず、再生処理を進めることができなかった。
廃樹脂aとアリールアルコール(ArOH)との重量比が、実施例1(1:1)と比較して小さい(すなわちアリールアルコール量が少ない)実施例8(1:0.8)では、再生樹脂が得られたものの、実施例1と比較して、アリールアルコールを溶解させるのに必要な時間が長く、よりエネルギー消費が大きいことがわかる。
実施例10においては、工程(B)において、再生樹脂をそのままペレットとして得ることができた。
【0102】
廃樹脂aとアリールアルコール(ArOH)との重量比が1:4を超える(すなわちアリールアルコール量が多い)比較例2ではアリールアルコール量が多すぎて工程(B)においてアリールアルコールの除去が困難であった。このような比率でスケールアップすると、得られる再生樹脂の割に反応槽を大きくする必要があり、製造コストおよび効率の面から実用化は難しい。
廃樹脂aとアリールアルコール(ArOH)との重量比が1:1.5である実施例9では、再生樹脂が得られたものの、実施例1(重量比1:1)と比較して、アリールアルコール量が多いことに起因して、温度制御が難しく、組成物の内温を設定温度に到達させるために追加の熱エネルギーを与える必要があった(余分なエネルギー消費)。廃樹脂aとアリールアルコール(ArOH)との重量比1:1を用いた実施例1の方が、温度制御が容易であり、実製造に好適であるといえる。
【0103】
以上、説明したように、本発明は、分子量の低下を抑制しつつ、効率的に樹脂のリサイクルが可能である。
【0104】
本発明の範囲は以上の説明に拘束されることはなく、上記例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2019-238734号(2019年12月27日出願)の特許請求の範囲、明細書の開示内容を包含する。
図1