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特許7597047正極層、正極層の製造方法および全固体電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】正極層、正極層の製造方法および全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241203BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241203BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241203BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241203BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20241203BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M4/36 C
H01M4/139
H01B1/10
C01B25/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022007009
(22)【出願日】2022-01-20
(65)【公開番号】P2023105951
(43)【公開日】2023-08-01
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】ビスバル メンドザ ヘイディ ホデス
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-207793(JP,A)
【文献】特開2014-146458(JP,A)
【文献】特開2017-117635(JP,A)
【文献】国際公開第2021/195111(WO,A1)
【文献】特開2013-164942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
H01B 1/10
C01B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池に用いられる正極層であって、
正極活物質と、
硫化物固体電解質、および、前記硫化物固体電解質の表面を被覆し、金属硫酸塩を含有する被覆層を有する被覆硫化物固体電解質と、を有し、
前記被覆硫化物固体電解質に対するX線光電子分光測定(XPS)により得られるS2pスペクトルにおいて、163eV付近に現れるピークの強度P1に対する、167eV付近に現れるピークの強度P2の比(P2/P1)が、0.15以上0.36未満であり
前記硫化物固体電解質は、Li、PおよびSを含有し、
前記163eV付近に現れるピークがP-S結合に由来し、
前記167eV付近に現れるピークがS-O結合に由来する、正極層。
【請求項2】
前記金属硫酸塩は、リチウム硫酸塩である、請求項1に記載の正極層。
【請求項3】
前記正極活物質の表面には、一般式LiAO(Aは、Nb、B、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも一種であり、xおよびyは正の数である。)で表されるLiイオン伝導性酸化物が被覆されている、請求項1または請求項2に記載の正極層。
【請求項4】
全固体電池に用いられる正極層の製造方法であって、
硫化物固体電解質に対し、ドライガス中で100℃以上190℃未満の温度で5分以上1時間以下の熱処理を行うことにより、前記硫化物固体電解質の表面に金属硫酸塩を含有する被覆層を形成し、被覆硫化物固体電解質を得る工程と、
前記被覆硫化物固体電解質および正極活物質を含むスラリーを塗工し、乾燥することにより、前記正極層を形成する工程と、を有する、正極層の製造方法。
【請求項5】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記正極層が、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の正極層である、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極層、正極層の製造方法および全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に、固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。
【0003】
活物質と他の物質との間の界面抵抗の上昇を抑制するために、活物質の表面に、被覆層を形成する技術が知られている。例えば、特許文献1には、酸化物系正極活物質表面にLi含有硫酸塩が形成されたLi含有硫酸塩被覆酸化物系正極活物質と、硫化物系固体電解質材料とを含有する正極層を有する全固体リチウム二次電池が開示されている。
【0004】
特許文献2には、リチウム金属酸化物活物質及び前記活物質の表面に位置するコーティング層を含み、コーティング層は、LiS、LiSO、及び、Li(nは、1≦n≦8である)からなる群から選択される1つ以上を含む硫黄化合物を含むものである、リチウム二次電池用正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-080168号公報
【文献】特開2021-86834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
全固体電池の高入出力化の観点から、抵抗が低い正極層が求められている。本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、抵抗が低い正極層を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示においては、全固体電池に用いられる正極層であって、正極活物質と、硫化物固体電解質、および、上記硫化物固体電解質の表面を被覆し、金属硫酸塩を含有する被覆層を有する被覆硫化物固体電解質と、を有し、上記被覆硫化物固体電解質に対するX線光電子分光測定(XPS)により得られるS2pスペクトルにおいて、163eV付近に現れるピークの強度P1に対する、167eV付近に現れるピークの強度P2の比(P2/P1)が、0.15以上0.36未満である、正極層を提供する。
【0008】
本開示によれば、正極層が、所定の被覆硫化物固体電解質を含むことにより、抵抗が低い正極層となる。
【0009】
上記開示において、上記硫化物固体電解質は、Li、PおよびSを含有し、上記163eV付近に現れるピークがP-S結合に由来し、上記167eV付近に現れるピークがS-O結合に由来することが好ましい。
【0010】
上記開示において、上記金属硫酸塩は、リチウム硫酸塩であることが好ましい。
【0011】
上記開示において、上記正極活物質の表面には、一般式LiAO(Aは、Nb、B、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも一種であり、xおよびyは正の数である。)で表されるLiイオン伝導性酸化物が被覆されていることが好ましい。
【0012】
また、本開示においては、全固体電池に用いられる正極層の製造方法であって、硫化物固体電解質に対し、ドライガス中で100℃以上190℃未満の温度で5分以上1時間以下の熱処理を行うことにより、上記硫化物固体電解質の表面に金属硫酸塩を含有する被覆層を形成し、被覆硫化物固体電解質を得る工程と、上記被覆硫化物固体電解質および正極活物質を含むスラリーを塗工し、乾燥することにより、上記正極層を形成する工程と、を有する、正極層の製造方法を提供する。
【0013】
本開示によれば、硫化物固体電解質を、ドライガス中で所定の温度および所定の時間熱処理することにより得られた被覆硫化物固体電解質を用いることにより、抵抗が低い正極層を製造することができる。
【0014】
また、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記正極層が、上述の正極層である、全固体電池を提供する。
【0015】
本開示によれば、上述した正極層を用いることで、抵抗が低い全固体電池となる。
【発明の効果】
【0016】
本開示においては、抵抗が低い正極層を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示における被覆硫化物固体電解質の一例を示す概略断面図である。
図2】本開示における正極層の製造方法の一例を示すフロー図である。
図3】本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。
図4】実施例3および比較例1で作製した被覆硫化物固体電解質のXPS測定により得られたS2pスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示における正極層、正極層の製造方法および全固体電池について、詳細に説明する。
【0019】
A.正極層
以下、本開示における正極層の詳細を説明する。本開示における正極層は、所定の被覆硫化物固体電解質および正極活物質を含む。図1は、本開示における被覆硫化物固体電解質の一例を示す概略断面図である。本開示における被覆硫化物固体電解質11は、硫化物固体電解質11aと、硫化物固体電解質11aの表面を被覆し、金属硫酸塩を含む被覆層11bと、を有する。さらに、被覆硫化物固体電解質11に対するX線光電子分光測定(XPS)により得られるS2pスペクトルにおいて、163eV付近に現れるピークの強度P1に対する、167eV付近に現れるピークの強度P2の比(P2/P1)が、0.15以上0.36未満である。また、本開示における正極層は、全固体電池に用いられる。
【0020】
本開示によれば、所定の被覆硫化物固体電解質を含むことにより、抵抗が低い正極層となる。
【0021】
従来、正極活物質の表面にニオブ酸リチウム(LiNbO)を含む被覆層が形成された被覆正極活物質が知られている。この被覆層は、正極活物質と硫化物固体電解質との界面部に生じる高抵抗層の形成を抑制して、正極活物質と硫化物固体電解質との界面をリチウムイオンが移動する際の界面抵抗を低減する機能を有する。一方、このような被覆正極活物質を用いた場合、硫化物固体電解質中の硫黄とニオブ酸リチウム中の酸素とが反応して、抵抗層が形成される場合がある。例えば、以下の反応式で表される副反応が生じると推測される。
LiNbO+0.95LiPS→0.08Li(NbS+0.75LiPO+0.2NbPS10+0.59Li
(LiPS1モル当たりのエンタルピー変化量(ΔH)=-160.9kJ/mol)
【0022】
また、特許文献1には、正極活物質の表面にLi含有硫酸塩が形成されたLi含有硫酸塩被覆酸化物系正極活物質が開示されている。Li含有硫酸塩を正極活物質の表面に形成した場合、例えば、以下の反応式で示されるように、Li含有硫酸塩と硫化物電解質とが反応し、抵抗層が形成される場合がある。例えば、以下の反応式で表される副反応が生じると推測される。
LiSO+0.89LiPS→0.89LiPO+0.44SO+Li
(LiPS1モル当たりのエンタルピー変化量(ΔH)=-166.3kJ/mol)
【0023】
これに対し、本開示は、硫化物固体電解質の表面が、予め、金属硫酸塩を含む被覆層で被覆された被覆硫化物固体電解質を用いる。このような被覆硫化物固体電解質は、金属硫酸塩を含む被覆層と、硫化物固体電解質とが化学的に結合していることで、表面エネルギー等が変化し、上記のようなLi含有硫酸塩と、硫化物固体電解質との副反応が抑制されると推察される。また、硫化物固体電解質の表面が、金属硫酸塩を含む被覆層で被覆されていることで、正極活物質と硫化物固体電解質とが反応することによる高抵抗層の生成を抑制することができる。
【0024】
さらに、表面にニオブ酸リチウム(LiNbO)を含む被覆層が形成された正極活物質を用いる場合にも、被覆硫化物固体電解質における被覆層中の金属硫酸塩とニオブ酸リチウムとの反応が生じにくい(熱力学的に安定な化合物が存在しない)。従って、高抵抗層の形成を抑制することができる。
【0025】
1.被覆硫化物固体電解質
本開示における被覆硫化物固体電解質は、硫化物固体電解質、および、硫化物固体電解質の表面を被覆し、金属硫酸塩を含む被覆層を有する。
【0026】
被覆硫化物固体電解質に対するX線光電子分光測定(XPS)により得られるS2pスペクトルにおいて、163eV付近に現れるピークの強度P1に対する、167eV付近に現れるピークの強度P2の比(P2/P1)が、0.15以上0.36未満である。上記P2/P1は、0.18以上であってもよいし、0.20以上であってもよい。一方、上記P2/P1は、0.35以下であってもよいし、0.30以下であってもよい。
【0027】
163eV付近に現れるピークは、P-S結合に由来し、例えば、159eV~163eVに現れ、167eV付近に現れるピークは、S-O結合に由来し、例えば、165eV~175eVに現れる。上記P2/P1の値が大きいほど、被覆硫化物固体電解質の表面におけるP-S結合の割合が少なく、S-O結合の割合が多いことを意味し、すなわち、被覆層の形成が進んでいることを意味している。
【0028】
本開示によれば、上記P2/P1が小さすぎると、リチウムイオン伝導に対する抵抗を低減することができない。これは、被覆層の形成が不十分であり、硫化物固体電解質と正極活物質とが反応し、高抵抗層の形成を抑制することができないためであると推定される。また、上記P2/P1が大きすぎても、電池抵抗を低減することができない。これは、被覆層が過剰に形成されており、リチウムイオンパスが制限されているためであると推定される。
【0029】
(1)被覆層
本開示における被覆層は、硫化物固体電解質の表面に形成され、金属硫酸塩を含む。金属硫酸塩に含まれる金属としては、例えば、Li、Na等のアルカリ金属が挙げられる。本開示における金属硫酸塩としては、Liを含有する金属硫酸塩が好ましく、中でも、LiSOであることが好ましい。Li伝導度が高いためである。また、LiSOは、金属元素としてLiのみを有する硫酸塩であるため、その他の金属元素が、正極活物質または硫化物固体電解質と反応することがない。そのため、このような反応による抵抗層の形成が抑制され、リチウムイオン伝導に対する抵抗が小さくなる。
【0030】
また、本開示における被覆層の膜厚は特に限定されないが、例えば1nm以上であり、5nm以上であってもよい。一方、20nm以下であり、15nm以下であってもよい。被覆層の膜厚をより薄くすることにより、リチウムイオン伝導に対する抵抗をより小さくすることができるからである。被覆層の膜厚は、蛍光X線分析(XRF)等の手法を採用し、解析することができる。
【0031】
本開示における被覆層は、硫化物固体電解質の表面の少なくとも一部を被覆する。被覆層は、硫化物固体電解質の表面の一部に形成されていてもよく、全面に形成されていてもよい。被覆層の被覆率は、例えば50%以上であり、70%以上であってもよく、90%以上であってもよい。
【0032】
本開示における被覆硫化物固体電解質は、表面の酸素量が多いほど、被覆層の形成が進んでいると推察される。被覆硫化物固体電解質の表面における酸素量(%)は、XPSで得られる各元素の元素濃度を用いて、以下の式により算出される。
酸素量(%)=(O元素濃度/O元素以外の元素濃度)×100
上記被覆硫化物固定電解質の表面における酸素量(%)は、例えば5%以上であり、20%以上であってもよく、40%以上であってもよい。
【0033】
例えば、Li、P、S、BrおよびIを含む被覆硫化物固体電解質の場合には、被覆硫化物固体電解質の表面における酸素の割合(%)は、XPSで得られる各元素(O、S、P、Li、BrおよびI)の元素濃度を用いて、下記式で算出される。
酸素量(%)={O元素濃度/(S+P+Li+Br+I)元素濃度}×100
【0034】
(2)硫化物固体電解質
本開示における硫化物固体電解質は、通常、アニオン元素の主成分として硫黄(S)を含有する。本開示における硫化物固体電解質は、Li、PおよびSを含有することが好ましい。本開示における硫化物固体電解質は、Li、PおよびSのみを含有していても良く、他の元素を含有していても良い。他の元素としては、X(Xは、ハロゲン元素である)が挙げられる。Xとしては、例えば、F、Cl、Br、Iが挙げられる。Xは、一種であってもよく、二種以上であってもよい。中でも、硫化物固体電解質は、BrおよびIの少なくとも一方をさらに含有することが好ましい。
【0035】
また、本開示における硫化物固体電解質は、Li、PおよびSを含有するイオン伝導体を含むことが好ましい。イオン伝導体は、オルト組成のアニオン構造(PS 3-)をアニオンの主成分として有することが好ましい。化学安定性が高いからである。オルト組成のアニオン構造の割合は、イオン伝導体における全アニオン構造に対して、例えば70mol%以上であり、80mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。オルト組成のアニオン構造の割合は、例えば、ラマン分光法、NMR、XPSにより決定することができる。
【0036】
硫化物固体電解質は、上記イオン伝導体に加えて、ハロゲン化リチウムを含有していてもよい。ハロゲン化リチウムとしては、例えば、LiF、LiCl、LiBrおよびLiIが挙げられ、中でも、LiCl、LiBrおよびLiIが好ましい。硫化物固体電解質におけるLiX(X=F、I、Cl、Br)の割合は、例えば5mol%以上であり、15mol%以上であってもよい。一方、上記LiXの割合は、例えば30mol%以下であり、25mol%以下であってもよい。
【0037】
硫化物固体電解質は、xLiI・yLiBr・z(αLi2S・(1-α)P)で表される組成を有していてもよい。ここで、x+y+z=100、0≦x<100、0≦y<100、0<z≦100、0.70≦α≦0.80である。xは、0より大きくてもよい。この場合、xは、5以上であってもよく、10以上であってもよい。また、xは、50以下であってもよく、30以下であってもよい。また、yは、0より大きくてもよい。この場合、yは、5以上であってもよく、10以上であってもよい。また、yは、50以下であってもよく、30以下であってもよい。zは、50以上であってもよく、60以上であってもよい。αは、0.72以上であってもよく、0.74以上であってもよい。一方、αは、0.78以下であってもよく、0.76以下であってもよい。
【0038】
硫化物固体電解質は、ガラス系硫化物固体電解質であってもよく、ガラスセラミックス系硫化物固体電解質であってもよく、結晶系硫化物固体電解質であってもよい。
【0039】
硫化物固体電解質の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば0.1μm以上であり、1μm以上であってもよい。一方、硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、30μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察により求めることができる。サンプル数は多いことが好ましく、例えば100以上である。また、硫化物固体電解質はイオン伝導度が高いことが好ましい。25℃におけるイオン伝導度は、例えば1×10-5S/cm以上であり、1×10-4S/cm以上であってもよく、1×10-3S/cm以上であってもよい。
【0040】
(3)被覆硫化物固体電解質
正極層における被覆硫化物固体電解質の割合は、例えば、5重量%以上、75重量%以下であり、10重量%以上、60重量%以下であってもよい。被覆硫化物固体電解質の割合が少ないと、イオン伝導パスが十分に形成されない可能性がある。一方、被覆硫化物固体電解質の割合が多いと、体積エネルギー密度が低くなる可能性がある。
【0041】
本開示における正極層は固体電解質として、被覆硫化物固体電解質のみを含有していてもよく、他の固体電解質を含有していてもよい。正極層に含まれる全ての固体電解質に対する、被覆硫化物固体電解質の合計の割合は、例えば50重量%以上であり、70重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。
【0042】
被覆硫化物固体電解質を製造する方法としては、上述した被覆硫化物固体電解質が得られれば、特に限定されないが、例えば、後述する「B.正極層の製造方法 1.被覆硫化物固体電解質作製工程」に記載の方法が挙げられる。
【0043】
また、本開示における被覆硫化物固体電解質は、上記硫化物固体電解質に対して、酸素プラズマ処理を行うことによっても製造することができる。この場合、被覆硫化物固体電解質に対するXPSにより得られるS2pスペクトルの上記P2/P1が所定の範囲となるように、酸素プラズマ条件を調整する。
【0044】
2.正極活物質
本開示における正極層は、正極活物質を有する。本開示における正極活物質の一例としては、酸化物活物質を挙げることができる。酸化物活物質は、特に硫化物固体電解質との間に高抵抗層を形成しやすい。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、LiTi12、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等のオリビン型活物質、LiTi等のラムスデライト型活物質、LiMnOを含む固溶体型活物質等を挙げることができる。
【0045】
また、酸化物活物質は、例えば、一般式Li(MはLi以外の金属元素であり、x=0.02~2.2、y=1~2、z=1.4~4)で表されるものであっても良い。上記一般式において、Mは、Co、Al、Mn、Ni、V、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、Co、Ni、Al、およびMnからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
【0046】
中でも、酸化物活物質は、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(NCA)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(NCM)、ニッケル酸リチウムであることが好ましい。
【0047】
本開示における正極活物質の表面には、イオン伝導性酸化物を含むコート層が形成されていることが好ましい。Liイオン伝導性酸化物は、特に限定されるものではないが、例えば、一般式LiAO(Aは、Nb、B、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも一種であり、xおよびyは正の数である。)で表されるLiイオン伝導性酸化物を挙げることができる。具体的には、LiNbO、LiBO、LiBO、LiAlO、LiSiO、LiSiO、LiPO、LiSO、LiTiO、LiTi12、LiTi、LiZrO、LiMoO、LiWO等を挙げることができる。また、Liイオン伝導性酸化物は、Liイオン伝導性酸化物の複合化合物であっても良い。中でも、LiNbOが好ましい。
【0048】
コート層の厚さは、例えば、0.1nm~100nmの範囲内であることが好ましく、1nm~20nmの範囲内であることがより好ましい。コート層が厚すぎると、Liイオン伝導性および電子伝導性が低下する可能性がある。なお、コート層の厚さの測定方法としては、例えば、蛍光X線分析(XRF)、透過型電子顕微鏡(TEM)等を挙げることができる。
【0049】
また、正極活物質表面におけるコート層の被覆率は高いことが好ましく、具体的には、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また、コート層は、正極活物質の表面全てを覆っていても良い。なお、コート層の被覆率の測定方法としては、例えば、X線光電子分光法(XPS)等を挙げることができる。例えば、正極活物質であるニッケルコバルトマンガン酸リチウム(NCM)の表面に、ニオブ酸リチウム(LiNbO)を含む被覆層が形成されている場合、XPSで正極活物質の表面におけるNi、Co、Mn、及びNbのモル数を測定し、Ni、Co、Mn及びNbの総モル数に対するNbのモル分率から算出することができる。
【0050】
正極層における正極活物質の割合は、例えば20重量%以上であり、30重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよい。一方、正極活物質の割合は、例えば90重量%以下であり、85重量%以下であってもよく、80重量%以下であってもよい。
【0051】
3.正極層
本開示における正極層は、上述した被覆硫化物固体電解質および正極活物質を含有する。また、必要に応じて、導電材およびバインダーの少なくとも一方をさらに含有していてもよい。
【0052】
導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。正極層における導電材の割合は、例えば、0.1重量%以上、10重量%以下であり、0.3重量%以上、10重量%以下であってもよい。
【0053】
バインダーとしては、例えば、ゴム系バインダー、フッ化物系バインダーが挙げられる。正極層におけるバインダーの含有量は、例えば、0.1重量%以上30重量%以下であり、0.1重量%以上15重量%以下であってもよい。
【0054】
正極層の厚さは、例えば0.1μm以上1000μm以下である。
【0055】
B.正極層の製造方法
図2は、本開示における正極層の製造方法の一例を示すフロー図である。図2に示す製造方法では、まず、硫化物固体電解質をドライガス中で、100℃以上190℃未満の温度で5分以上1時間以下の熱処理を行うことにより、硫化物固体電解質の表面に金属硫酸塩を含有する被覆層を形成し、被覆硫化物固体電解質を得る(被覆硫化物固体電解質作製工程)。次に、被覆硫化物固体電解質および正極活物質を含むスラリーを塗工し、乾燥することにより、正極層を形成する(正極層形成工程)。
【0056】
本開示によれば、抵抗が低い全固体電池用の正極層を製造することができる。以下、本開示における正極層の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0057】
1.被覆硫化物固体電解質作製工程
本工程で用いる硫化物固体電解質としては、上述した「A.正極層 1.被覆硫化物固体電解質 (2)硫化物固体電解質」に記載した硫化物固体電解質と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0058】
ドライガスは、露点温度0℃以下の低露点のガスとする。露点温度は、例えば、-50℃以下であってもよいし、-60℃以下であってもよい。ドライガスにおける酸素濃度は、例えば、20体積%以下である。また、ドライガスは、例えばドライエアである。
【0059】
ドライガス中での熱処理は、例えば、ドライガスグローブボックス中でホットプレート等により熱処理する方法等を採用することができる。
【0060】
ドライガス中での熱処理温度は、通常、100℃以上であり、120℃以上であってもよく、130℃以上であってもよい。熱処理温度が低すぎると、被覆層が十分に形成されず、高抵抗層の形成を抑制することができない。一方、通常、190℃未満であり、180℃以下であってもよく、170℃以下であってもよい。熱処理温度が高すぎると、被覆層が過剰に形成され、リチウムイオンパスが制限される場合がある。
【0061】
ドライガス中での熱処理時間は、通常、5分以上1時間以下である。
【0062】
また、本工程により作製される被覆硫化物固体電解質については、上記「A.正極層 1.被覆硫化物固体電解質」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。なお、本工程によれば、通常、被覆層がリチウム硫酸塩を含む被覆硫化物固体電解質が作製される。
【0063】
2.正極層形成工程
本工程は、被覆硫化物固体電解質および正極活物質を含むスラリーを塗工し、乾燥することにより、正極層を形成する工程である。スラリーは、必要に応じて、バインダー、導電材、溶媒をさらに含有していてもよい。なお、溶媒とは、分散媒も含まれる広義の意味である。
【0064】
上記スラリーは、集電体上に塗工することが好ましい。スラリーの塗工方法は、特に限定されず、公知の任意の塗工方法を採用することができる。また、上述した各工程により作製される正極層については、上記「A.正極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0065】
C.全固体電池
図3は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。図3に示される全固体電池10は、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層2の間に配置された固体電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5と、を有する。本開示においては、正極層1が、上記「A.正極層」に記載した正極層である。
【0066】
本開示によれば、上述した正極層を用いることで、抵抗が低い全固体電池となる。
【0067】
1.正極層
本開示における正極層については、上記「A.正極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0068】
2.負極層
本開示における負極層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極活物質層は、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0069】
負極活物質は、特に限定されないが、例えば、金属活物質、炭素活物質、酸化物活物質が挙げられる。金属活物質としては、例えば、金属単体、金属合金が挙げられる。金属活物質に含まれる金属元素としては、例えば、Si、Sn、In、Alが挙げられる。金属合金は、上記金属元素を主成分として含有する合金であることが好ましい。
【0070】
一方、カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボンが挙げられる。また、酸化物活物質としては、例えば、LiTi12等のチタン酸リチウムが挙げられる。
【0071】
負極層における負極活物質の割合は、例えば20重量%以上であり、30重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよい。一方、負極活物質の割合は、例えば80重量%以下であり、70重量%以下であってもよく、60重量%以下であってもよい。
【0072】
固体電解質としては、後述する「3.固体電解質層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0073】
導電材およびバインダーについては、上記「A.正極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0074】
3.固体電解質層
本開示における固体電解質層は、上記正極層および上記負極層の間に配置される。固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有し、バインダーをさらに含有していてもよい。
【0075】
固体電解質は、全固体リチウムイオン電池に通常用いられる、従来公知の固体電解質とすることができるが、例えば硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物等を挙げることができ、中でも硫化物固体電解質が好ましい。硫化物固体電解質としては、上記「A.正極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0076】
バインダーについては、「A.正極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0077】
4.全固体電池
本開示において、「全固体電池」とは、固体電解質層(少なくとも固体電解質を含有する層)を備える電池をいう。また、本開示における全固体電池は、正極層、固体電解質層および負極層を有する発電要素を少なくとも1つ有し、2以上有していてもよい。全固体電池が複数の発電要素を有する場合、それらは、並列接続されていてもよく、直列接続されていてもよい。発電要素は、通常、正極集電体および負極集電体を有する。正極集電体は、例えば、正極層の固体電解質層とは反対側の面に配置される。正極集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。正極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。また、正極集電体の正極層側の面にはカーボンコート層が形成されていてもよい。一方、負極集電体は、例えば、負極層の固体電解質層とは反対側の面に配置される。負極集電体の材料としては、例えば、銅、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。負極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。
【0078】
本開示における全固体電池は、上記発電要素を収容する外装体を備えていてもよい。外装体としては、例えば、ラミネート型外装体、ケース型外装体が挙げられる。また、本開示における全固体電池は、上記発電要素に対して、厚さ方向の拘束圧を付与する拘束治具を備えていてもよい。拘束治具として、公知の治具を用いることができる。拘束圧は、例えば、0.1MPa以上50MPa以下であり、1MPa以上20MPa以下であってもよい。拘束圧が小さいと、良好なイオン伝導パスおよび良好な電子伝導パスが形成されない可能性がある。一方、拘束圧が大きいと、拘束治具が大型化し、体積エネルギー密度が低下する可能性がある。
【0079】
本開示における全固体電池の種類は、特に限定されないが、典型的にはリチウムイオン二次電池である。全固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0080】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0081】
[実施例1]
(負極構造体の作製)
負極活物質(Si粒子、平均粒径0.5μm)と、硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75LiS・0.25P)(mol%)、平均粒径0.5μm)と、導電材(VGCF-H)と、バインダー(SBR)とを準備した。これらを、重量比で、負極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダー=47.0:44.6:7.0:1.4となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、負極スラリーを得た。得られた負極スラリーを、負極集電体(Ni箔、厚さ22μm)上に、アプリケーターによるブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させた。その後、負極集電体の反対側の面にも同様に塗工を行うことで、負極層と負極集電体を有する両面負極構造体を得た。負極層の片面厚さは60μmであった。
【0082】
(被覆硫化物固体電解質の作製)
硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75LiS・0.25P)(mol%)、平均粒径0.5μm)2gに対し、露点-70℃、酸素体積濃度20%雰囲気のドライエア中で、ホットプレートを用いて、100℃、5分間、加熱処理を行った。これにより、硫化物固体電解質の表面にリチウム硫酸塩を含む被覆層を形成し、被覆硫化物固体電解質を得た。
【0083】
(正極用部材の作製)
転動流動造粒コーティング装置でLiNbOコートを行った正極活物質(LiNi0.8Co0.15Al0.05、平均粒径10μm)と、上記で得られた被覆硫化物固体電解質と、導電材(VGCF-H)と、バインダー(SBR)とを準備した。これらを、重量比で、正極活物質:被覆硫化物固体電解質:導電材:バインダー=83.3:14.4:2.1:0.2となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、正極スラリーを得た。得られた正極スラリーを、Al箔(厚さ15μm)上に、アプリケーターによるブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させた。これにより、正極層とAl箔を有する正極用部材を得た。正極層の厚さは100μmであった。
【0084】
(固体電解質層用部材の作製)
硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75LiS・0.25P)(mol%)、平均粒径2.0μm)と、バインダー(SBR)とを、重量比で、硫化物固体電解質:バインダー=99.6:0.4となるように秤量した。これらを、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、固体電解質層用スラリーを得た。得られた固体電解質層用スラリーを、Al箔(厚さ15μm)上に、アプリケーターによるブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させた。これにより、Al箔および固体電解質層を有する固体電解質層用部材を得た。固体電解質層の厚さは30μmであった。
【0085】
(全固体電池の作製)
負極構造体および固体電解質層用部材を、7.2cm×7.2cmのサイズに切り出した。一方、正極用部材を、7.0cm×7.0cmのサイズに切り出した。
負極構造体の一方の表面側に位置する負極層に、固体電解質層用部材の固体電解質層を接触させ、負極構造体の他方の表面側に位置する負極層にも、固体電解質層用部材の固体電解質層を接触させた。得られた積層体を、ロールプレス法により線圧1.6t/cmでプレスした。次に、それぞれの固体電解質層からAl箔を剥離し、固体電解質層を露出させた。その後、露出させた固体電解質層に、それぞれ、正極用部材の正極層を直接接触させるように貼り合わせた。得られた積層体を、ロールプレス法により線圧1.6t/cmでプレスした。次に、それぞれの正極活物質層からAl箔を剥離し、正極活物質層を露出させ、さらにロールプレス法により線圧5t/cmでプレスした。次に、ロールプレスした正極活物質層に、正極集電体(Al箔、厚さ15μm)をそれぞれ配置した。次に、集電用のタブを、正極集電体および負極集電体にそれぞれ設置し、ラミネート封止することにより、全固体電池を得た。
【0086】
[実施例2~実施例4および比較例4]
硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75LiS・0.25P)(mol%)、平均粒径0.5μm)2gに対し、露点-70℃、酸素体積濃度20%雰囲気のドライエア中で、ホットプレートを用いて、表1に示す温度および時間の条件で加熱した。これにより、被覆硫化物固体電解質を得た。
得られた被覆硫化物固体電解質を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0087】
[比較例1および比較例3]
硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75LiS・0.25P)(mol%)、平均粒径0.5μm)に対して、ドライエア中に表1に示す時間、室温で載置することにより、被覆硫化物固体電解質を得た。
得られた被覆硫化物固体電解質を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0088】
[比較例2]
硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75LiS・0.25P)(mol%)、平均粒径0.5μm)に対して、ドライエア中での加熱処理を行わずにそのまま用いた以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0089】
(XPS測定)
実施例1~4および比較例1~4で作製した被覆硫化物固体電解質に対して、X線光電子分光測定(XPS)を行った。S2pスペクトルの163eV付近に現れるピークの強度P1に対する、167eV付近に現れるピークの強度P2の比(P2/P1)の値を表1に示す。なお、163eV付近に現れるピークがP-S結合に由来し、167eV付近に現れるピークがS-O結合に由来する。また、図4に、実施例3および比較例1で作製した被覆硫化物固体電解質に対するXPS測定により得られたS2pスペクトルを示す。
【0090】
実施例1~4および比較例1~4で作製した被覆硫化物固体電解質の表面における酸素量(%)を、XPSで得られる各元素(O、S、P、Li、BrおよびI)の元素濃度を用いて、以下の式により算出した。比較例1の酸素量を1とした場合の、実施例1~実施例4および比較例2~比較例4の酸素量の相対値を表1に示す。
酸素量(%)=O/(S+P+Li+Br+I)
【0091】
(充放電試験)
実施例1~実施例4および比較例1~比較例4で得られた全固体電池を、5MPaの拘束圧で定寸拘束し、0.0194Aで4.05Vまで定電流-定電圧(CC-CV)充電した。その後、0.0194Aで3.0VまでCC-CV放電を行った。その後、再度全固体電池を充電した。この時の充電を初回充電とした。初回の放電開始時から0.1秒経過時の電圧降下量から、放電開始時(0秒)から0.1秒経過時までの抵抗を算出した。結果を、表1の「初期0.1s抵抗」の欄に示す。さらに、0.1秒経過時から10秒経過時までの電圧降下量により、0.1秒経過時から10秒経過時までの抵抗を算出した。結果を、表1の「初期10s抵抗」の欄に示す。なお、「初期0.1s抵抗」は、正極活物質と硫化物固体電解質との界面抵抗と相関していると考えられる。「初期10s抵抗」は、正極層内におけるイオン伝導抵抗と相関していると考えられる。
【0092】
(高サイクル時の反応抵抗評価)
実施例1~実施例4および比較例1~比較例4で得られた全固体電池を、5MPaの拘束圧で定寸拘束し、0.461mAで4.35Vまで定電流-定電圧(CC-CV)充電した。その後、0.461mAで3.0VまでCC-CV放電を行った。その後、再度全固体電池を充電した。この時の充電を初回充電とした。サイクルは2Cで100サイクルまで評価を行った。
【0093】
インピダンス法による内部抵抗評価を行った。具体的には、初回充放電の後、SOC40%に調整し、インピダンスの円孔成分値を求めた。また、同様に上記100サイクル後の内部抵抗評価を行った。下記式により、抵抗増加率(倍)を算出した。結果を表1に示す。
抵抗増加率(倍)=100サイクル後内部抵抗÷1サイクル後内部抵抗
【0094】
【表1】
【0095】
表1の結果から、実施例1~実施例4の全固体電池は、比較例1~比較例4の全固体電池に対して、抵抗が低いことが確認された。
【符号の説明】
【0096】
1 …正極層
2 …負極層
3 …固体電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
10 …全固体電池
11 …被覆硫化物固体電解質
11a…硫化物固体電解質
11b…被覆層
図1
図2
図3
図4