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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20241203BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20241203BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20241203BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022019571
(22)【出願日】2022-02-10
(65)【公開番号】P2023117075
(43)【公開日】2023-08-23
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庄野 彰一
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-088436(JP,A)
【文献】特開2007-030849(JP,A)
【文献】特開2006-159995(JP,A)
【文献】特開2016-016738(JP,A)
【文献】特開2006-347400(JP,A)
【文献】特開2017-149216(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0144705(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00 - 5/32
B62D 6/00 - 6/10
B60G 1/00 - 99/00
B60W 30/00
B60W 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって操作されるステアリング操作部材と、そのステアリング操作部材の操作に対して操作反力を付与する反力モータと、車輪を転舵するための電動アクチュエータを有する転舵装置と、前記電動アクチュエータの動作量に対応する車輪の転舵量を制御対象として車輪の転舵を前記転舵装置に実行させるためのコントローラとを備え、運転者のステアリング操作力に依らずに前記電動アクチュエータが発生させる力によって車輪を転舵するように構成されて車両に搭載されたステアバイワイヤ式のステアリングシステムであって、
当該車両が運転者による手動運転と自動運転との両方で走行可能とされており、
前記コントローラが、
車輪の転舵量の目標となる目標転舵量を、手動運転の際には前記ステアリング操作部材の操作量に基づいて決定し、自動運転の際には自動運転電子制御ユニットからの情報に基づいて入手するとともに、その目標転舵量に基づいて、前記電動アクチュエータへ電流を供給するように構成され、かつ、
記電動アクチュエータへ供給する電流を低減させる電流低減処理を、手動運転の際には、車両の走行速度が設定走行速度以下となっているときに、自動運転の際には、車両の走行速度に拘わらず行うように構成されたステアリングシステム。
【請求項2】
前記コントローラが、前記電流低減処理として、
当該電流低減処理を行うときにだけ、前記目標転舵量にローパスフィルタ処理を施す、若しくは、当該電流低減処理を行わないときに比較して、前記目標転舵量に施すローパスフィルタ処理におけるカットオフ周波数を低くするように構成された請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
前記コントローラが、
前記目標転舵量に対する実際の転舵量の偏差に基づくフィードバック制御により前記電動アクチュエータへ電流を供給するように構成され、
前記電流低減処理として、前記フィードバック制御におけるゲインを小さくするように構成された請求項1または請求項2に記載のステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の挙動を制御するための車両挙動制御システムに関し、具体的には、ステアバイワイヤ式のステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両では、ステアバイワイヤ式ステアリングシステム,アクティブスタビライザシステム,電磁サスペンションシステム等、電動アクチュエータを用いて車両の挙動を制御するシステムが多く用いられている。車両の電動化が図られる中、それらの車両挙動制御システムにおける省エネ化が求められている。例えば、下記特許文献に記載のステアリングシステムでは、転舵範囲の端、つまり、転舵エンド付近において、アクチュエータへの電力供給を制限するようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-218553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載された技術では、転舵エンドにおけるストッパへの当接荷重の低減という観点では効果が期待されるが、省エネルギという観点からは、必ずしも充分とは言い難い。つまり、省エネルギという観点からすれば、車両挙動制御システムには、改良の余地が多分に残されており、何らかの改良を施すことによって、車両挙動制御システムの実用性が向上するのである。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いステアバイワイヤ式のステアリングシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の基礎となる車両挙動制御システム(以下、便宜的に、「本発明の車両挙動制御システム」と言う場合があることとする)は、
車両に搭載されてその車両の姿勢を変更するための電動アクチュエータと、その電動アクチュエータの動作量若しくはその電動アクチュエータが発生させる力を制御対象として制御するコントローラとを備えた車両挙動制御システムであって、
前記コントローラが、
車両のとるべき姿勢と車両の姿勢を変化させる要因との少なくとも一方に基づいて、前記制御対象の目標値を決定し、その目標値に基づいて、前記電動アクチュエータへ電流を供給するように構成され、かつ、
特定状況下、前記電動アクチュエータへ供給する電流を低減させる電流低減処理を行うように構成され
本発明のステアリングシステムは、具体的には、
運転者によって操作されるステアリング操作部材と、そのステアリング操作部材の操作に対して操作反力を付与する反力モータと、車輪を転舵するための電動アクチュエータを有する転舵装置と、前記電動アクチュエータの動作量に対応する車輪の転舵量を制御対象として車輪の転舵を前記転舵装置に実行させるためのコントローラとを備え、運転者のステアリング操作力に依らずに前記電動アクチュエータが発生させる力によって車輪を転舵するように構成されて車両に搭載されたステアバイワイヤ式のステアリングシステムであって、
当該車両が運転者による手動運転と自動運転との両方で走行可能とされており、
前記コントローラが、
車輪の転舵量の目標となる目標転舵量を、手動運転の際には前記ステアリング操作部材の操作量に基づいて決定し、自動運転の際には自動運転電子制御ユニットからの情報に基づいて入手するとともに、その目標転舵量に基づいて、前記電動アクチュエータへ電流を供給するように構成され、かつ、
前記電動アクチュエータへ供給する電流を低減させる電流低減処理を、手動運転の際には、車両の走行速度が設定走行速度以下となっているときに、自動運転の際には、車両の走行速度に拘わらず行うように構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の車両挙動制御システムでは、上記電流低減処理によって、特定状況下、特定状況でないときに比較して、電動アクチュエータへの供給電流が低減されるため、ある程度大きな省エネルギ効果が期待できる。その結果、本発明の車両挙動制御システムは、実用性の高いものとなる。
【発明の態様】
【0007】
本発明の対象となる車両挙動制御システムは、車両の姿勢を変更するための電動アクチュエータ(以下、単に「アクチュエータ」と言う場合がある)と、そのアクチュエータの動作量若しくはそのアクチュエータが発生させる力(以下、「アクチュエータ力」という場合がある)を制御対象として制御するコントローラとを備えたものであれば、具体的な構造,機能,用途等が特に限定されるものではない。アクチュエータは、例えば、電動モータを駆動源とするものを採用することができる。アクチュエータが変更する「車両の姿勢」は、ピッチ姿勢,ロール姿勢(車体の前後方向,車幅方向の傾き)や、車両の進行方向に対するスリップ角(旋回方向と旋回の程度)等を意味する。
【0008】
具体的に言えば、本発明は、車輪を転舵させるステアリングシステム,スタビライザバーを備えて車体のロールを抑制するとともにスタビライザバーが発揮するロール抑制力を制御可能なアクティブスタビライザシステム,車体と車輪とにバウンドおよびリバウンド方向の力を付与するとともにその力を制御可能なアクティブサスペンションシステム等に適用することが可能である。
【0009】
さらに詳しく言えば、本発明の車両挙動制御システムがステアリングシステムである場合、そのステアリングシステムは、運転者のステアリング操作力を電動アクチュエータが発生させる力によってアシストするシステム、つまり、いわゆるパワーステアリングシステムであってもよく、また、運転者のステアリング操作力に依らずにアクチュエータが発生させる力によって車輪を転舵するシステム、つまり、いわゆるステアバイワイヤ式のステアリングシステム(以下、「ステアバイワイヤシステム」という場合がある)であってもよい。ステアバイワイヤシステムの場合、一般的に、アクチュエータの動作量と車輪の転舵量とが特定の関係にあるため、アクチュエータの動作量を、コントローラの制御対象とすればよい。そして、コントローラは、ステアリングホイール等のステアリング操作部材の操作量を、車両がとるべき姿勢の指標として把握し、その操作量に基づいて、車輪の転舵量、すなわち、アクチュエータの動作量の目標値を決定し、その目標値に基づいて、アクチュエータに電流を供給すればよい。
【0010】
本発明の車両挙動制御システムがアクティブスタビライザシステムである場合、アクチュエータは、車体のロール姿勢を変更するためのものとなる。具体的には、当該車両に、両端が左右の車輪にそれぞれ接続されて車体のロールを抑制するためのスタビライザバーが配設されている場合には、そのスタビライザバーが発揮するロール抑制力を変更するように構成すればよい。その場合、コントローラの制御対象を、スタビライザバーが発揮するロール抑制力がアクチュエータの動作量に依存するときには、その動作量とし、アクチュエータ力に依存するときには、そのアクチュエータ力とすればよい。そして、コントローラは、車体に生じている横加速度,車体のヨーレートおよび車両走行速度(以下、「車速」という場合がある),車体に作用する横力等を、車両の姿勢を変化させる要因として把握し、それら横加速度等に基づいて、アクチュエータの動作量若しくはアクチュエータ力の目標値を決定し、その目標値に基づいて、アクチュエータに電流を供給すればよい。
【0011】
本発明の車両挙動制御システムがアクティブサスペンションシステムである場合、アクチュエータは、車体のピッチ姿勢,ロール姿勢,バウンス姿勢等、言い換えれば、各車輪と車体との上下方向の相対距離(以下、「ストローク量」という場合がある)を変更するためのものとなる。アクチュエータ力が、直接的に車輪と車体との間に作用するように構成されている場合には、そのアクチュエータ力を、コントローラの制御対象とすればよい。アクチュエータ力は、車体と車輪との相対動作に対する減衰力として作用させてもよく、また、ストローク量を直接的に変更するための力(以下、「ストローク量変更力」という場合がある)として作用させてもよい。さらに言えば、アクチュエータ力は、減衰力の成分とストローク量変更力の成分とを合成した力として作用させてもよい。例えば、アクチュエータが、車体のピッチ姿勢,ロール姿勢を変更するものである場合、アクチュエータ力、詳しくは、アクチュエータ力のストローク量変更成分を、コントローラの制御対象とすればよい。そして、コントローラは、車体に作用する前後加速度,横加速度を、車両の姿勢を変化させる要因として把握し、それら前後加速度,横加速度に基づいて、アクチュエータ力の、詳しく言えば、アクチュエータ力のストローク量変更成分の目標値を決定し、その目標値に基づいて、アクチュエータに電流を供給すればよい。
【0012】
本発明の車両挙動制御システムでは、上記電流低減処理を、特定状況下において行う。当該車両挙動制御システムが、車両の挙動を制御するためのシステムであることに鑑みれば、アクチュエータへ供給する電流を低減することで、その制御に関する当該システムの応答性、すなわち、アクチュエータの作動の応答性が低下することが予想される。平たく言えば、アクチュエータの動作量,アクチュエータ力が、予定している動作量,力に到達するまでに、ある程度時間がかかることが予想されるのである。そこで、電流低減処理は、アクチュエータに応答性が要求されない状況を、特定状況として、その状況下において、電流低減処理を行うことが望ましい。具体的には、例えば、一般的に車速が低い場合に当該システムに応答性が要求されないことを考慮して、車速が設定速度以下となっているときを上記特定状況であるとみなして、そのときに、電流低減処理を行えばよい。また、例えば、当該車両が運転者による手動運転と自動運転との両方で走行可能とされている場合、一般的には、自動運転のときは応答性が要求されるような車両の操作、簡単に言えば、ある程度過激な操作を行わないようにされていることを考慮し、自動運転で走行しているときを上記特定状況であるとみなして、そのときに、電流低減処理を行えばよい。
【0013】
電流低減処理を行う際に従う手法については、特に限定されないが、例えば、コントローラは、以下に具体的に説明するような手法に従って、電流低減処理を行えばよい。
【0014】
先に説明したように、コントローラは、制御対象の目標値を決定する。1つの手法に従った電流低減処理を行うため、コントローラを、特定状況下にだけ、目標値にローパスフィルタ処理を施す、若しくは、特定状況下に、特定状況でないときに比較して、目標値に施すローパスフィルタ処理におけるカットオフ周波数を低くするように構成することができる。ローパスフィルタは、目標値の出力に対して遅れを生じさせるものであり、ローパスフィルタにより、目標値の急変を抑えることができ、また、ローパスフィルタのカットオフ周波数を低くすることで、目標値の変化速度をより遅くすることができる。このような手法によって、アクチュエータへ供給する電流を低減することが可能となる。
【0015】
コントローラは、制御対象の目標値に対する実際値の偏差に基づくフィードバック制御によりアクチュエータへ電流を供給するように構成することができる。そのような構成の場合、もう1つの手法に従った電流低減処理を行うため、コントローラを、特定状況下に、特定状況でないときに比較して、そのフィードバック制御におけるゲインを小さくするように構成することもできる。このような手法によって、アクチュエータへ供給する電流を低減することが可能となる。ちなみに、フィードバック制御は、後に詳しく説明するように、比例項成分,微分項成分,積分項成分を足し合わせるようにして行うことができる。その場合、応答性に寄与する成分である比例項成分および微分項成分を決定するためのゲインだけを、電流低減処理において小さくしてもよい。
【0016】
なお、電流低減処理において、上記2つの手法のいずれか一方だけを採用してもよく、また、両方を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施例の車両挙動制御システムである車両用ステアリングシステムの全体構成を示す図である。
図2】車両用ステアリングシステムを構成する転舵アクチュエータの全体図、および、転舵量センサが配設されている部分の断面図である。
図3】転舵モータおよび動作変換機構を説明するための転舵アクチュエータの断面図である。
図4】ステアリングギヤ比、ローパスフィルタ処理におけるカットオフ周波数、転舵電流の決定のために用いられる比例項ゲイン,微分項ゲインを、車速に基づいて決定若しくは設定するためのマップデータを示すグラフである。
図5】ステアリング電子制御ユニットの機能を示すブロック図である。
図6】目標転舵量に施されるローパスフィルタ処理の効果を説明するためのグラフである。
図7】ステアリング電子制御ユニットにおいて実行される転舵制御プログラムのフローチャートである。
図8】第2実施例の車両挙動制御システムであるアクティブスタビライザシステムの全体構成を示す図である。
図9】アクティブスタビライザシステムを構成する前輪側,後輪側のスタビライザ装置を示す図である。
図10】スタビライザ装置が有するアクチュエータの断面図である。
図11】スタビライザ電子制御ユニットにおいて実行されるスタビライザ制御プログラムのフローチャートである。
図12】第3実施例の車両挙動制御システムであるアクティブサスペンションシステムの全体構成を示す図である。
図13】アクティブサスペンションシステムを構成するサスペンション装置を示す図である。
図14】サスペンション装置の電磁式アクチュエータを示す断面図である。
図15】サスペンション装置のダンパを示す断面図である。
図16】サスペンション装置の実装置モデルおよび制御モデルを示す概念図である。
図17】サスペンション電子制御ユニットにおいて実行されるサスペンション制御プログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例である車両用ステアリングシステム,アクティブスタビライザシステム,アクティブサスペンションシステムを、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例
【0019】
[1]車両用ステアリングシステム(第1実施例)
以下に、第1実施例の車両挙動制御システムである車両用ステアリングシステム(以下、単に「ステアリングシステム」という場合がある)について説明する。
【0020】
(a)車両用ステアリングシステムの構成
i)全体構成
本ステアリングシステムは、図1に模式的に示すように、それぞれが車両10の前輪である左右の2つの車輪12を転舵するステアバイワイヤ型のステアリングシステムであり、大まかには、それら車輪12を転舵するための転舵装置14と、運転者によって操作されるステアリング操作部材であるステアリングホイール16を有する操作装置18と、ステアリングホイール16の操作に応じた車輪12の転舵を転舵装置14に実行させるためのコントローラとしてのステアリング電子制御ユニット20(以下、「ステアリングECU20」という場合がある)とを含んで構成されている。
【0021】
車輪12の各々は、サスペンション装置を介して回動可能に車体に支持されたステアリングナックル(図示を省略)によって、回転可能に保持されている。転舵装置14は、駆動源としての電動モータである転舵モータ24を有して転舵ロッド26を左右に動かす電動アクチュエータである転舵アクチュエータ28と、転舵ロッド26の両端にそれぞれ一端がボールジョイント30を介して連結されたリンクロッド32とを含んで構成されている。リンクロッド32の各々の他端は、対応するステアリングナックルに設けられたナックルアーム(図示を省略)にボールジョイント(図示を省略)を介して連結されている。転舵ロッド26が左右に動かされることによって、各ステアリングナックルが回動して各車輪12が転舵される。
【0022】
ii)転舵アクチュエータの構造
転舵装置14を構成する転舵アクチュエータ28は、車両10に搭載されて当該車両10の姿勢を変更するためのもの、詳しく言えば、車両10の進行方向に対するオリエンテーション(向き)、つまり、車両10のスリップ角を変更するためのものである。転舵アクチュエータ28の基本構造について、図2図3をも参照しつつ説明すれば、転舵アクチュエータ28は、全体の外観を示す図2(a),転舵モータ24の内部および転舵アクチュエータ28の内部を示す図3から解るように、ハウジング40内には、転舵ロッド26が、それの軸線の回りに回転不能かつ左右に移動可能に保持されている。転舵ロッド26の外周には、ねじ溝42が形成されている。また、ハウジング40内には、保持筒44が、それの軸線の回りに回転可能かつ左右に移動不能に保持されている。この保持筒44には、ベアリングボールを保持するナット46が固定的に保持されている。ナット46と転舵ロッド26とは互いに螺合させられて、それらはボールねじ機構を構成している。つまり、転舵ロッド26に設けられたねじと、そのねじと螺合するねじが設けられたナット46とを含むねじ機構が構成されていると考えることができるのである。
【0023】
転舵モータ24は、ハウジング40の外部に、自身の軸線と転舵ロッド26の軸線とが互いに平行となる姿勢で配設されており、モータ回転軸48(以下、単に「モータ軸48」という場合がある)の一端には、タイミングプーリ50が付設されている。保持筒44の外周には、タイミングプーリ50と同様に係合歯52が形成されており、保持筒44は、タイミングプーリ50と対をなすもう1つのタイミングプーリとして機能する。保持筒44,タイミングプーリ50には、伝達ベルトとしてのタイミングベルト54が巻き掛けられており、転舵モータ24の回転(厳密には、モータ軸48の回転である)によって、ナット46が回転し、転舵ロッド26が、左右方向において、転舵モータ24の回転方向に応じた向きに移動させられる。つまり、保持筒44,タイミングプーリ50,タイミングベルト54を含んで構成されるベルト伝達機構が設けられており、そのベルト伝達機構と上述のねじ機構とによって、モータ軸48の回転動作をその回転動作の量に応じた動作量の転舵ロッド26の動作に変換する動作変換機構55が設けられているのである。
【0024】
本ステアリングシステムでは、転舵モータ24は、3相のブラシレスDCモータである。詳しく言えば、モータ軸48の外周には、磁石56が周方向に並んで固定的に配設されており、それら磁石56に対向するようにして、コイル58が、当該転舵モータ24のハウジングであるモータハウジング59に保持されるようにして、配設されている。コイル58への通電によって転舵モータ24は回転する。転舵モータ24が発生させるトルク、すなわち、転舵ロッド26を左右に移動させる力は、概して、コイル58に供給される電流に比例したものとなる。
【0025】
iii)操作装置の構成
図1に示すように、操作装置18は、ステアリングホイール16と、ステアリングホイール16に固定されてステアリングホイール16と一体的に回転可能とされたステアリングシャフト60と、電動モータである反力モータ62とを含んで構成されている。反力モータ62のモータ軸はステアリングシャフト60と一体化されており、反力モータ62は、ステアリングホイール16に回転トルクを付与する。この回転トルクは、運転者によるステアリングホイール16の操作、つまり、ステアリング操作に対する反力(操作反力)として機能する。したがって、反力モータ62は、反力アクチュエータを構成するものとなる。反力モータ62は、詳しい構造の図示は省略するが、転舵モータ24と同様、ブラシレスDCモータとされている。操作反力は、反力モータ62への通電によって発生し、その大きさは、概して、反力モータ62に供給される電流に比例したものとなる。なお、操作反力は、ステアリングホイール16を中立位置(右にも左にも操作されていない位置)に戻す力としても機能する。
【0026】
iv)制御に関する構成
当該ステアリングシステムの制御を司るステアリングECU20は、CPU,ROM,RAM等によって構成されるコンピュータと、転舵モータ24,反力モータ62の各々の駆動回路(ドライバ)であるインバータとを含んで構成されている。図1から解るように、ステアリングECU20は、詳しくは、ステアリングECU20の各インバータは、コンバータ64を介して、電源であるバッテリ66に接続されており、転舵モータ24,反力モータ62に、それぞれ、コンピュータの指令に基づく電流を供給する。
【0027】
転舵装置14,操作装置18には、それらの動作状態を検出するために各種のセンサが設けられている。ステアリングECU20は、それらセンサの検出値に基づいて制御を行う。具体的に言えば、転舵アクチュエータ28には、転舵ロッド26の動作量、すなわち、転舵ロッド26の左右方向の動作位置を、車輪12の転舵量(転舵角)θとして検出するための転舵量センサ80が設けられている。転舵アクチュエータ28において当該転舵量センサ80が設けられている部分の断面を示す図2(b)を参照しつつ詳しく説明すれば、転舵ロッド26には、ラック82が形成されており、そのラック82と噛合するピニオン84を有するピニオン軸86が、ハウジング40に保持されている。ちなみに、当該転舵アクチュエータ28は、いわゆるパワーステアリングシステムに採用されているアクチュエータであり、ピニオン軸86は、トーションバー88を介して、入力軸90に接続されている。本ステアリングシステムでは、当該転舵アクチュエータ28がパワーステアリングシステムに採用される場合において操舵トルクを検出するためのトルクセンサが設けられている箇所に、そのトルクセンサに代えて、転舵量センサ80が設けられている。一方で、操舵装置18には、ステアリングホイール16の操作量(操作角)δを検出するための操作量センサ92が設けられている。転舵量センサ80,操作量センサ92は、いわゆるステアリングセンサであり、一般的な構造のものであるのでここでの詳しい説明は省略する。
【0028】
なお、各車輪12には、それぞれの回転速度である車輪速vWを検出するための車輪速センサ94が設けられており、ステアリングECU20は、それら車輪速センサ94の検出値に基づいて、当該車両10の走行速度である車速vを推定するようにされている。
【0029】
また、本車両10は、自動運転が可能であり、インスツルメントパネルには、自動運転を実行するための自動運転スイッチ96が設けられており、さらには、走行モードを切り換えるための走行モード選択スイッチ98が設けられている。詳しい説明は省略するが、走行モードは、燃費を優先するECOモードと、きびきびした走りを実現するためのスポーツモードとが準備されており、モード選択スイッチ98は、それら2つのモードを切り換えるようにされている。それら自動運転スイッチ96,モード選択スイッチ98も、ステアリングECU20に繋げられている。
【0030】
(b)車両用ステアリングシステムの制御
本ステアリングシステムにおいて、コントローラであるステアリングECU20は、詳しくは、ステアリングECU20のコンピュータは、車両10のスリップ角を制御すべく、転舵アクチュエータ28に対して、車輪12の転舵の制御(以下、「転舵制御」という場合がある)を実行する。また、運転者によるステアリング操作に対する操作反力をステアリングホイール16に付与すべく、操作装置18、詳しくは、操作装置18の反力モータ62に対して、反力制御を実行する。この反力制御は一般的な制御であるため、その反力制御についてのここでの説明は省略することとし、以下、転舵制御について、詳しく説明する。
【0031】
i)基本的な転舵制御
転舵制御は、簡単に言えば、操舵要求に応じた車輪12の転舵を実現するための制御である。車両10が手動運転されている場合には、操作量センサ92によって検出されたステアリングホイール16の操作量δが操舵要求であり、ステアリングECU20は、その操作量δに基づいて、車輪12の転舵量θの目標となる目標転舵量θ*を決定する。詳しく説明すれば、本ステアリングシステムは、ギヤ比可変ステアリングシステム(VGRS:variable gear ratio system)を採用しており、ステアリングECU20は、車輪速センサ94によって検出された車輪速vWに基づいて、車両10の車速vを推定し、その車速vに対応したステアリングギヤ比(操作量δに対する転舵量θの比)γを決定する。ステアリングギヤ比γは、当該ステアリングECU20に格納されているマップデータが参照されて決定される。詳しい説明は省略するが、ステアリングギヤ比γは、図4(a)に示すように、車速vが高くなるほど小さくなるように設定されている。そして、ステアリングECU20は、次式に従って、
θ*=γ・δ
目標転舵量θ*を決定する。
【0032】
一方で、自動運転スイッチ96の操作によって当該車両10が自動運転されている場合には、ステアリングECU20は、自動運転電子制御ユニット(以下、「自動運転ECU」という場合がある。図示は省略)から送信されてくる情報に基づいて、目標転舵量θ*を入手する。
【0033】
なお、転舵量θは、転舵ロッド26の左右方向の移動量、すなわち、転舵アクチュエータ28の動作量と考えることができるものであり、本ステアリングシステムの転舵制御における制御対象となる。したがって、目標転舵量θ*は、制御対象の目標値となる。ちなみに、本ステアリングシステムでは、転舵アクチュエータ28が有するピニオン軸86の回転量(回転位置)として、規定されている。
【0034】
ステアリングECU20は、制御対象の実際値として、転舵アクチュエータ28が有する転舵量センサ80を介して、実際の転舵量θ(以下、「実転舵量θ」という場合がある)を検出する。ステアリングECU20は、目標転舵量θ*に対する実転舵量θの偏差である転舵量偏差Δθを決定し、その転舵量偏差Δθに基づいて、フィードバック制御の手法に従って、転舵モータ24に供給する電流(以下、「転舵電流」という場合がある)ISを決定する。詳しく言えば、以下の式に従って、転舵電流ISを決定する。
S=KP・Δθ+KD・dΔθ/dt+KI・∫Δθdt
上記式における右辺の第1項,第2項,第3項は、それぞれ、比例成分,微分成分,積分成分であり、KP,KD,KIは、それぞれ、比例項ゲイン,微分項ゲイン,積分項ゲインである。ステアリングECU20は、上述のようにして決定された転舵電流ISに基づいて、インバータを介して、転舵モータ24に電流を供給する。
【0035】
ii)電流低減処理
本ステアリングシステムでは、省エネルギ化,省電化を考慮して、特定状況下において、転舵アクチュエータ28への供給電流に対して、電流低減処理が施される。以下に、この電流低減処理の内容について説明する。
【0036】
転舵アクチュエータ28に供給される電流を低減すると、転舵アクチュエータ28の発生させる力(以下、「アクチュエータ力」という場合がある)が低下し、転舵アクチュエータ28の動作に遅れが生じる可能性がある。つまり、転舵アクチュエータ28の応答性が低下するのである。具体的には、車輪12の転舵において、実転舵量θの変化が、目標転舵量θ*の変化に追従しないという事態を引き起こす可能性がある。その可能性は、目標転舵量θ*の変化が大きいとき、言い換えれば、比較的急激なステアリング操作が行われるときや、比較的大きなアクチュエータ力が必要とされるときに、高くなる。
【0037】
そこで、本ステアリングシステムでは、電流低減処理を行う特定状況を、電動アクチュエータの作動に応答性が要求されない状況に限定している。具体的に言えば、例えば、車速vが高いと、転舵される車輪12に作用するセルフアライニングトルクが大きくなり、比較的大きなアクチュエータ力が必要とされ、また、車両10の操作フィーリング,操作安定性等の観点から、ある程度高い応答性が要求される。それらのことに鑑み、車速vが低いとき、詳しく言えば、車速vが閾車速vTH(例えば、20~30km/h)以下であるときに、ステアリングECU20は、特定状況であると認定し、電流低減処理を行うようにされている。
【0038】
本ステアリングシステムでは、互いに手法の異なる2つの電流低減処理が実行される。2つの電流低減処理のうちの一方は、目標転舵量θ*に施すローパスフィルタ処理(以下、単に、「フィルタ処理」という場合がある)である。詳しく説明すれば、ステアリングECU20は、上述のようにして決定された目標転舵量θ*に、カットオフ周波数fCより高い周波数を有する目標転舵量θ*の変化を禁止するような処理、言い換えれば、カットオフ周波数fCより高い周波数を有する目標転舵量θ*の変化に対して、遅れを生じさせる処理を実行する。カットオフ周波数fCは、図4(b)のグラフに示すように、車速vが閾車速vTH以下のときに、低い周波数である低周波数fCLとされる。本車両10には、走行モードが、2つ設定されており、その1つは、省エネルギ性を重視したECOモードであり、もう1つは、車両運動性能を重視したスポーツモードである。グラフでは、ECOモード,スポーツモードのそれぞれにおけるカットオフ周波数fCの変化を、それぞれ、実線,破線でしめしており、そのグラフから解るように、応答性が要求される程度の違いを考慮し、低周波数fCLとして、ECOモードの場合は低周波数fCL1が、スポーツモードの場合には、低周波数fCL2(>fCL1)が、設定される。カットオフ周波数fCは、グラフから解るように、いずれの走行モードであっても、車速vが閾車速vTHを超えて高くなるにつれ、徐々に高くなるように設定され、ある程度以上の車速vにおいて、高周波数fCHに設定される。ちなみに、例えば、低周波数fCL1は、5Hz程度、低周波数fCL2は、10Hz程度、高周波数fCHは、30Hz程度とすることができる。
【0039】
2つの電流低減処理のうちのもう一方は、上述のフィードバック制御の手法に従った転舵電流ISの決定において、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDを、小さくする処理(以下、「ゲイン低減処理」という場合がある)である。具体的には、図4(c)のグラフに示すように、車速vが閾車速vTH以下のときに、応答性に関係する比例項ゲインKP,微分項ゲインKDが、それぞれ、低ゲインKPL,低ゲインKDLに設定される。そして、車速vが閾車速vTHを超えて高くなるにつれ、徐々に高くなるように設定され、ある程度以上の車速vにおいて、高ゲインKPH,高ゲインKDHに設定される。
【0040】
また、先に説明したように、本車両10は、手動運転と自動運転との両方で走行可能とされており、自動運転においては、当該車両10が比較的緩慢な操舵しか行われないように設定されている。そのことを考慮して、ステアリングECU20は、自動運転されているときは、車速vの如何に拘わらず、特定状況であるとして、電流低減処理を行うようにされている。
【0041】
詳しく言えば、手動運転の場合には、フィルタ処理におけるカットオフ周波数fC,転舵電流ISの決定における比例項ゲインKP,微分項ゲインKDが、上述したように、車速vに依存して設定されるものの、自動運転の場合には、車速vに拘わらず、カットオフ周波数fCが、低周波数fCL1に、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDが、低ゲインKPL,低ゲインKDLに、それぞれ、設定される。
【0042】
本ステアリングシステムでは、目標転舵量θ*に対して、特定状況でない場合にも、フィルタ処理が実行されるが、特定状況でない場合に、フィルタ処理を施さないようにしてもよい。また、本ステアリングシステムでは、フィルタ処理、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDの設定において、車速vが閾車速vTHを超えたときに、車速vに依存してカットオフ周波数fC、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDを、それぞれ、低周波数fCL、低ゲインKPL,低ゲインKDLから高周波数fCH、高ゲインKPH,高ゲインKDHまで、徐々に高くするようにされていたが、車速vが閾車速vTHを超えたときに、カットオフ周波数fC、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDを、それぞれ、ステップ的に高周波数fCH、高ゲインKPH,高ゲインKDHに設定するようにしてもよい。さらに、本ステアリングシステムでは、電流低減処理として、上記フィルタ処理におけるカットオフ周波数fCの変更と、転舵電流ISの決定における比例項ゲインKP,微分項ゲインKDの変更との両方を行うようにされていたが、それらの一方だけを行うようにしてもよい。
【0043】
iii)転舵制御に関する機能ブロック図
上述の電流低減処理を含む転舵制御に関するステアリングECU20の機能を、ブロック図で示せば、図5のようになる。ステアリングECU20は、車輪速センサ94による4つの車輪12の各々の車輪速vWに基づいて当該車両10の車速vを推定する車速推定部400を有しており、また、その車速vを基に図4(a)に示すようなマップデータに従って、ステアリングギヤ比γを決定し、そのステアリングギヤ比γと、操作量センサ92によって検出されたステアリングホイール16の操作量δとに基づいて、目標転舵量θ*を決定する目標転舵量決定部402を有している。
【0044】
そして、ステアリングECU20は、目標転舵量決定部402によって決定された目標転舵量θ*に対してローパスフィルタ処理を施すローパスフィルタ404を有している。ローパスフィルタ404は、一般的な構成のものであり、簡単に説明すれば、積分要素406と比例要素408とを含んで構成されている。比例要素408における“a”は、次式で規定されるものである。
a=1/T T:時定数
また、ローパスフィルタ404の伝達関数G(s)は、次式のようなものである。
G(s)=1/(1+T・s) s:ラプラス演算子
さらに、時定数Tと、カットオフ周波数fCとの関係は、次式で表すことができる。
T=1/(2・π・fC
【0045】
ローパスフィルタ404は、上述したように、走行モード,自動運転であるか手動運転であるかに依拠して、車両10が手動運転されている場合には、推定された車速vに基づき、図4(b)に示すようなマップデータを参照して、カットオフ周波数fCを設定し、また、車両10が自動運転されている場合には、カットオフ周波数fCを低周波数fCL1に設定する。そして、設定されたカットオフ周波数fCを基に、時定数Tを決定し、フィルタ処理を実行する。
【0046】
ステアリングECU20は、フィルタ処理が施された目標転舵量θ*に対しての、アクチュエータ28の転舵量センサ80によって検出された実転舵量θの偏差である転舵量偏差Δθを決定する。ステアリングECU20は、比例項ゲイン乗算器410,微分項ゲイン乗算器412,積分項ゲイン乗算器414,微分器416,積分器418を有しており、転舵量偏差Δθに基づいて、比例項ゲイン乗算器410を介して、転舵電流ISの比例成分を、微分器416,微分項ゲイン乗算器412を介して、転舵電流ISの微分成分を、積分器418,積分項ゲイン乗算器414を介して、転舵電流ISの積分成分をそれぞれ決定する。そして、ステアリングECU20は、それらの成分を加算して、転舵電流ISを決定する。比例成分,微分成分の決定にあたって、ステアリングECU20は、自動運転であるか手動運転であるかに依拠して、車両10が手動運転されている場合には、推定された車速vに基づき、図4(c)に示すようなマップデータを参照して、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDを、それぞれ、決定し、車両10が自動運転されている場合には、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDを、低ゲインKPL,低ゲインKDLに、それぞれ設定する。決定された転舵電流ISについての指令は、インバータ420に送られ、インバータ420は、アクチュエータ28の転舵モータ24に、その電流を供給する。
【0047】
iv)電流低減処理による効果
次に、電流低減処理による効果、詳しくは、上記目標転舵量θ*に対するローパスフィルタ処理による効果について、図6を参照しつつ説明する。図6(a)、図6(b)のグラフは、フィルタ処理を施さなかった場合における時間tの経過に対する目標転舵量θ*,実転舵量θの変化、転舵電流ISの変化を、それぞれ示し、図6(c)、図6(d)のグラフは、フィルタ処理を施した場合における時間tの経過に対する目標転舵量θ*,実転舵量θの変化、転舵電流ISの変化を、それぞれ示している。なお、フィルタ処理におけるカットオフ周波数fCは、5Hzに設定されており、フィルタ処理を施した場合と施さない場合とで、転舵条件、つまり、車速v,ステアリングホイール16の操作量δ,操作速度dδ/dt等の条件は、同じとされている。ちなみに、ステアリングホイール16の操作は、時刻t0において開始されている。また、転舵モータ24は、3相のブラシレスモータであり、転舵電流ISは、U相,V相,W相のそれぞれの電流が示されている。
【0048】
図6(a)のグラフから解るように、フィルタ処理を施さない場合には、目標転舵量θ*の増加勾配は比較的急であり、実転舵量θは目標転舵量θ*に対して充分には追従しない。一方、図6(c)のグラフから解るように、フィルタ処理を施した場合には、目標転舵量θ*の増加勾配は比較的緩やかであり、実転舵量θは目標転舵量θ*に対して比較的良好に追従している。その結果、図6(b)のグラフと図(d)のグラフとを比較して解るように、各相の電流の振幅は、フィルタ処理を施さない場合に比較して、フィルタ処理を施した場合の方が小さくなっている。つまり、転舵電流ISは、フィルタ処理を施すことにより、低減されるのである。
【0049】
v)制御フロー
以上説明した転舵制御は、ステアリングECU20のコンピュータが、図7にフローチャートを示す転舵制御プログラムを、短い時間ピッチ(例えば、数m~数十msec)で繰り返し実行することによって行われる。以下に、転舵制御プログラムに従った処理の流れを、フローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0050】
転舵制御プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、「S1」と略す。他のステップも同様。)において、自動運転スイッチ96の操作状態から、車両10が自動運転されているのか否かが判定される。自動運転されていない場合、すなわち、手動運転されている場合には、S2において、自動運転フラグFLADが、“0”に設定される。自動運転フラグFLADは、手動運転されているときには、“0”に設定され、自動運転されているときには、“1”に設定されるフラグである。
【0051】
続くS3において、車輪速センサ94によって検出された各車輪12の車輪速vWに基づいて、当該車両10の車速vが推定され、S4において、推定された車速vに基づき、上述の図4(a)に示すようなマップデータを参照して、ステアリングギヤ比γが決定される。そして、S5において、決定されたステアリングギヤ比γを用いて、上述の式に従って、目標転舵量θ*が決定される。
【0052】
S1において自動運転されていると判定された場合には、S6において、自動運転フラグFLADが、“1”に設定され、S7において、自動運転ECUから送信されてくる情報に基づいて、目標転舵量θ*が取得される。
【0053】
次のS8において、自動運転フラグFLADのフラグ値に基づく判定が行われ、手動運転されている場合には、S9において、走行モード選択スイッチ98の操作状態に基づいて、現時点で選択されている走行モード、すなわち、ECOモードであるか、スポーツモードであるかが特定される。そして、特定された現時点での走行モードと車速vとに基づいて、図4(b)に示すようなマップデータを参照し、フィルタ処理におけるカットオフ周波数fCが設定される。一方で、自動運転されている場合には、S11において、カットオフ周波数fCが低周波数fCL1に設定される。そして、S12において、決定されている目標転舵量θ*に対して、上述したようなローパスフィルタ処理が施される。当該プログラムにおいて実行されるローパスフィルタ処理の具体的なプロセスは、一般的なものであるため、ここでの説明は省略する。
【0054】
続くS13において、再度、自動運転フラグFLADのフラグ値に基づく判定が行われる。手動運転されている場合には、S14において、車速vに基づき、図4(c)に示すようなマップデータを参照して、PIDフィードバック制御則に従った転舵電流ISの決定において採用される比例項ゲインKP,微分項ゲインKDが設定される。一方で、自動運転されている場合には、S15において、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDが、それぞれ、低ゲインKPL,低ゲインKDLに設定される。
【0055】
次のS16において、転舵量センサ80によって、実転舵量θが検出され、S17において、フィルタ処理が施された目標転舵量θ*に対する実転舵量θの偏差である転舵量偏差Δθが決定され、その転舵量偏差Δθと、設定されている比例項ゲインKP,微分項ゲインKD,積分項ゲインKIとに基づき、PIDフィードバック制御則に従った上記手法にて、転舵モータ24に供給されるべき転舵電流ISが決定される。そして、S18において、その転舵電流ISが供給され、当該転舵制御プログラムの1回の実行が終了する。
【0056】
[2]アクティブスタビライザシステム(第2実施例)
以下に、第2実施例の車両挙動制御システムであるアクティブスタビライザシステム(以下、単に「スタビライザシステム」という場合がある)について説明する。なお、本スタビライザシステムは、上記ステアリングシステムが搭載されている車両10に、搭載されている。
【0057】
(a)アクティブスタビライザシステムの構成
本スタビライザシステムは、図8に示すように、車両10の前輪側、後輪側の各々に配設された2つのスタビライザ装置114を含んで構成されている。スタビライザ装置114はそれぞれ、両端部において左右の車輪12の各々を保持する車輪保持部材としてのサスペンションロアアーム(図示を省略)の各々に、連結部材としてのリンクロッド118を介して連結されたスタビライザバー120を備えている(図9参照)。そのスタビライザバー120は、それが分割された1対のスタビライザバー部材、すなわち右スタビライザバー部材122と左スタビライザバー部材124とを含んで構成されている。それら1対のスタビライザバー部材122,124がそれぞれ、電動アクチュエータであるアクチュエータ130を介して相対回転可能に接続されており、大まかにいえば、スタビライザ装置114は、アクチュエータ130が、左右のスタビライザバー部材122,124を相対回転させることによって、スタビライザバー120全体の見かけ上の剛性(以下、「スタビライザ剛性」という場合がある)を変化させて車体のロール抑制を行う。なお、本スタビライザシステムは、前輪側のスタビライザ装置114と後輪側のスタビライザ装置114とで部分的に構成が異なるので、以下の説明において、特に前輪側と後輪側とで区別する必要がある場合には、前輪側の符号にfを、後輪側の符号にrを付して記載し、さらに左右について区別する場合には、それぞれの符号にfr、fl、rr、rl(それぞれ、右前輪側,左前輪側,右後輪側,左後輪側を意味する)を付して記載する。
【0058】
図9(a)に示すように、前輪側スタビライザ装置114fの各スタビライザバー部材122f,124fは、それぞれ、概して車幅方向に延びるトーションバー部160fr,160flと、各トーションバー部160fr,160flと一体化されてそれと交差して概ね車両後方に延びるアーム部162とに区分することができる。右スタビライザバー部材122fのトーションバー部160frは、比較的短く形成されており、左スタビライザバー部材124fのトーションバー部160flは比較的長く形成されている。左スタビライザバー部材124fは、さらに、トーションバー部160flが軸線からシフトした状態で曲がった部分であるシフト部163を有する形状とされている。一方、後輪側スタビライザ装置114rにおいては、図9(b)に示すように、1対のスタビライザバー部材122r,124rは、それぞれ、略車幅方向にほぼ同じ長さに延びるトーションバー部160rr,160rlと、各トーションバー部160rr,160rlと一体化されてそれと交差して概ね車両前方に延びるアーム部162とに区分することができる。前輪側スタビライザ装置114fと異なり、トーションバー部160rr,160rlは、ともに直線的な形状をなし、アクチュエータ130とアーム部162との間の長さが互いに略等しくされている。
【0059】
各スタビライザバー部材122f,122r,124f,124rのトーションバー部160は、アーム部162に近い箇所において、車体に固定的に設けられた支持部164に回転可能に支持され、互いに同軸に配置されている。前輪側スタビライザ装置114f、後輪側スタビライザ装置114rとも、左右のトーションバー部160を繋ぐようにして、上述のアクチュエータ130が配設されており、後に詳しく説明するが、各トーションバー部160の端部(アーム部162とは反対側の端部)は、それぞれ、そのアクチュエータ130に接続されている。以上のような構成から、前輪側スタビライザ装置114fは、アクチュエータ130が車幅方向において中央部から右側にシフトした位置に配設された構造とされ、後輪側スタビライザ装置114rは、アクチュエータ130が車幅方向の略中央部に配設された構造とされている。一方、各アーム部162の端部(トーションバー部160側とは反対側の端部)は、リンクロッド118を介して車輪保持部材に連結されている。なお、前輪側スタビライザ装置114fは、トーションバー部160flに固定的に設けられた規制部材166とアクチュエータ130とが2つの支持部164の互いに向かい合う側面に当接するようにされていることで、車幅方向の位置変動が規制され、後輪側スタビライザ装置114rは、トーションバー部160rr,160rlの各々に固定的に設けられた規制部材166の各々が2つの支持部164の互いに向かい合う側面に当接するようにされていることで、車幅方向の位置変動が規制されている。
【0060】
アクチュエータ130は、前輪側および後輪側のスタビライザ装置114ともに同じ構造のものが採用されており、図10に模式的に示すように、駆動源としての電動モータ170と、電動モータ170の回転を減速する減速機172とを含んで構成されている。これら電動モータ170および減速機172は、アクチュエータ130の外殻部材であるハウジング174内に設けられている。図から解るように、左スタビライザバー部材124は、ハウジング174の端部に固定的に接続されており、また、右スタビライザバー部材122は、ハウジング174内に延び入る状態で配設されるとともに、ハウジング174に対して回転可能かつ軸方向に移動不能に支持されている。その右スタビライザバー部材122のハウジング174内に存在する端部は、減速機172に接続されている。
【0061】
電動モータ170は、ハウジング174の周壁の内面に沿って一円周上に固定して配置された複数のステータコイル184と、ハウジング174に回転可能に保持された中空状のモータ軸186と、モータ軸186の外周においてステータコイル184と向きあうようにして一円周上に固定して配設された永久磁石188とを含んで構成されている。電動モータ170は、ステータコイル184がステータとして機能し、永久磁石188がロータとして機能するモータであり、3相のDCブラシレスモータとされている。
【0062】
減速機172は、波動発生器(ウェーブジェネレータ)190,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)192およびリングギヤ(サーキュラスプライン)194を備え、ハーモニックギヤ機構を含んで構成されている。波動発生器190は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボール・ベアリングとを含んで構成されるものであり、モータ軸186の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ192は、周壁部が弾性変形可能なカップ形状をなすものとされており、周壁部の開口側の外周に複数の歯が形成されている。このフレキシブルギヤ192は、先に説明した右スタビライザバー部材122に接続され、それによって支持されている。詳しく言えば、右スタビライザバー部材122は、モータ軸186を貫通しており、それから延び出す端部において、当該減速機172の出力部としてのフレキシブルギヤ192の底部を貫通する状態でその底部とセレーション嵌合によって相対回転不能かつ軸方向に相対移動不能に接続されているのである。リングギヤ194は、概してリング状をなして内周に複数(フレキシブルギヤ192の歯数よりやや多い数、例えば2つ多い数)の歯が形成されたものであり、ハウジング174に固定されている。フレキシブルギヤ192は、その周壁部が波動発生器190に外嵌して楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ194と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。波動発生器190が1回転(360度)すると、つまり、電動モータ170のモータ軸186が1回転すると、フレキシブルギヤ192とリングギヤ194とが、それらの歯数の差分だけ相対回転させられる。
【0063】
以上の構成から、車両10の旋回等によって、車体に左右の車輪12の一方と車体との距離と、左右の車輪12の他方と車体との距離とを相対変化させる力、すなわちロールモーメントが作用する場合、左右のスタビライザバー部材122,124を相対回転させる力、つまり、アクチュエータ130に対する外部入力が作用する。その場合、電動モータ170が発生する力であるモータ力(電動モータ170が回転モータであることから、回転トルクと考えることができるため、回転トルクと呼ぶ場合がある)によって、アクチュエータ130がその外部入力に釣り合う力をアクチュエータ力として発揮しているときには、それら2つのスタビライザバー部材122,124によって構成された1つのスタビライザバー120が捩じられることになる。この捩りにより生じる弾性力は、ロールモーメントに対抗する力、すなわち、ロール抑制力となる。そして、モータ力によってアクチュエータ130の回転位置(動作位置のことである)を変化させることで、左右のスタビライザバー部材122,124の相対回転位置を変化させれば、上記ロール抑制力が変化し、車体のロール量を変化させることが可能となる。本スタビライザ装置114は、そのようにして、スタビライザ剛性を変化させることが可能な装置とされているのである。
【0064】
なお、アクチュエータ130には、ハウジング174内に、モータ軸186の回転角度、すなわち、電動モータ170の回転角度であるモータ回転角ψを検出するためのモータ回転角センサ196が設けられている。モータ回転角センサ196は、本アクチュエータ130ではエンコーダを主体とするものであり、モータ回転角ψは、左右のスタビライザバー部材122,124の相対回転角度(相対回転位置)、言い換えれば、アクチュエータ130の動作量すなわち回転量を指標するものとして、アクチュエータ130の制御、つまり、スタビライザ装置114の制御に利用される。
【0065】
アクチュエータ130が備える電動モータ170には、図8に示すように、バッテリ66から電力が供給される。本スタビライザシステムでは、バッテリ66による供給電圧を昇圧するためのコンバータ64が設けられており、そのコンバータ64とバッテリ66とを含んで電源が構成されている。コンバータ64と、2つのスタビライザ装置114との間には、スタビライザ電子制御ユニット(以下、単に「スタビライザECU」と記載する場合がある)140が設けられている。スタビライザECU140は、図示は省略するが、それぞれが電動モータ170の駆動回路としての2つのインバータと、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータとを含んで構成され、アクチュエータ130を制御するコントローラとして機能する。2つのスタビライザ装置114の各々が有する電動モータ170には、スタビライザECU140が有するインバータを介して電力が供給される。なお、電動モータ170は定電圧駆動されることから、供給電力量は、供給電流量を変更することによって変更され、電動モータ170は、その供給電流量に応じた力を発揮することとなる。ちなみに、供給電流量の変更は、インバータがPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
【0066】
図8を参照しつつ説明すれば、スタビライザECU140には、上記モータ回転角センサ196とともに、ステアリング操作部材であるステアリングホイール16の操作量(操作角)δを検出するための操作量センサ92,車体に実際に発生する横加速度Gyである実横加速度GyRを検出する横加速度センサ198が接続されている。スタビライザECU140には、さらに、4つの車輪12のそれぞれに対して設けられてそれぞれの車輪速vWを検出するための車輪速センサ94が接続され、スタビライザECU140のコンピュータは、それら車輪速センサ94の検出値に基づいて、車速vを検出するようにされている。
【0067】
(b)アクティブスタビライザシステムの制御
本スタビライザシステムは、上述のように、前輪側,後輪側の2つのスタビライザ装置114を備えており、コントローラであるスタビライザECU140は、それら2つのスタビライザ装置114を、設定されたロール剛性配分に従って、それぞれ個別に制御する。それら2つのスタビライザ装置114は、上述したように、概ね同じ構造のものであり、2つのスタビライザ装置114の各々に対する制御も、概ね同じである。そのことに鑑み、以下の説明は、前輪側であるか後輪側であるかを問わず、1つのスタビライザ装置114の制御について説明する。
【0068】
i)基本的な制御
スタビライザECU140は、車体が受けるロールモーメントを指標するロールモーメント指標量に基づいて、アクチュエータ130の目標回転位置を決定し、アクチュエータ130の回転位置がその目標回転位置となるように制御される。なお、ここで言うアクチュエータ130の回転位置とは、アクチュエータ130の動作量を意味し、車体にロールモーメントが全く作用しない状態を基準状態としてその基準状態でのアクチュエータ130の回転位置を中立位置とした場合において、その中立位置からの回転量を意味する。言い換えれば、アクチュエータ130の動作位置の中立位置に対する変位量である対中立位置変位量を意味する。また、アクチュエータ130の回転位置と電動モータ170の回転角であるモータ回転角とは対応関係にあるため、実際の制御では、アクチュエータ130の回転位置に代えてモータ回転角ψが使用される。さらに言えば、アクチュエータ130は、車両10の姿勢、詳しくは、車体のロール姿勢を変更するための電動アクチュエータであり、コントローラとしてのスタビライザECU140は、アクチュエータ130の動作量、すなわち、電動モータ170のモータ回転角ψを、制御対象として制御する。
【0069】
スタビライザ装置114の制御をより具体的に説明すれば、上記ロールモーメント指標量としての横加速度Gyは、車両10の姿勢を変化させる要因であり、スタビライザECU140は、その横加速度Gyに基づいて、適正なスタビライザ剛性を得るべく、モータ回転角ψの目標値としての目標モータ回転角ψ*を決定する。詳しく言えば、スタビライザECU140は、操作量センサ92によって検出されたステアリングホイール16の操作量δと、車輪速センサ94によって検出された各車輪12の車輪速vWに基づいて推定された車速vとに基づいて、横加速度Gyを推定し(以下、この横加速度Gyを「推定横加速度GyE」ということとする)、この推定横加速度GyEと、横加速度センサ198によって検出された実際の横加速度Gyである実横加速度GyRとに基づいて、制御に利用される横加速度Gyである制御横加速度Gy*を、次式に従って決定する。
Gy*=KE・GyE+KR・GyRE,KR:重み付け係数
【0070】
スタビライザECU140は、決定された制御横加速度Gy*に基づいて、目標モータ回転角ψ*を決定する。詳しく言えば、その制御横加速度Gy*に対応した適切なスタビライザ剛性を実現させるように、目標モータ回転角ψ*を決定する。一方で、スタビライザECU140は、回転角センサ196によって、モータ回転角ψの実際値である実モータ回転角ψを検出する。スタビライザECU140は、目標モータ回転角ψ*に対する実モータ回転角ψの偏差であるモータ回転角偏差Δψに基づき、PIDフィードバック制御手法に従って、電動モータ170への供給電流ISを決定する。具体的には、ステアリングシステムにおける式と同様の次式に従って、供給電流ISを決定する。
S=KP・Δψ+KD・dΔψ/dt+KI・∫Δψdt
そして、スタビライザECU140は、上述のようにして決定された供給電流ISに基づいて、インバータを介して、電動モータ170に電流を供給する。
【0071】
ii)電流低減処理
本スタビライザシステムでも、省エネルギ化,省電化を考慮して、特定状況下において、アクチュエータ130への供給電流に対して、電流低減処理が行われる。以下に、本スタビライザシステムにおける電流低減処理の内容について説明する。
【0072】
本スタビライザシステムでは、上記ステアリングシステムと同様に、アクチュエータ130の応答性等に考慮して、スタビライザECU140は、当該車両10の車速vが、閾車速vTH(例えば、20~30km/h)以下であるとき、および、車両10が自動運転されているときを、特定状況であると認定し、電流低減処理を行うようにされている。
【0073】
本スタビライザシステムでは、上記ステアリングシステムと異なり、電流低減処理として、アクチュエータの目標動作量に対するローパスフィルタ処理が行われず、フィードバック制御の手法に従った供給電流ISの決定において、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDを、小さくするゲイン低減処理だけが行われる。ただし、本スタビライザシステムにおいては、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDに対して、それぞれ、高ゲインKPH,高ゲインKDHと、低ゲインKPL,低ゲインKDLとだけが設けられており、スタビライザECU140は、単に、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDを、特定状況ではない場合に高ゲインKPH,高ゲインKDHに、特定状況である場合に低ゲインKPL,低ゲインKDLに、それぞれ設定する。つまり、上記ステアリングシステムと異なり、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDを、車速vに応じて高ゲインKPH,高ゲインKDHと、低ゲインKPL,低ゲインKDLとの間で漸変させることは行われないのである。以上説明したような電流低減処理であっても、本スタビライザシステムの省エネルギ化,省電化を充分に図ることが可能である。
【0074】
なお、詳しい説明は省略するが、本スタビライザシステムにおいても、電流低減処理として、アクチュエータ130の制御対象の目標値である目標モータ回転角ψ*に対して、上記ステアリングシステムにおけるローパスフィルタ処理と同様のローパスフィルタ処理を施してもよい。また、上記ゲイン低減処理において、上記ステアリングシステムにおけるゲイン低減処理と同様に、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDを、車速vに応じて高ゲインKPH,高ゲインKDHと、低ゲインKPL,低ゲインKDLとの間で漸変させるようにしてもよい。
【0075】
上記ステアリングシステムでは、コントローラであるステアリングECU20の機能をブロック図によって説明したが、本スタビライザシステムのコントローラであるスタビライザECU140の機能も同様のものであるため、ブロック図を用いた説明は省略する。
【0076】
iii)制御フロー
以上説明したスタビライザ装置114の制御は、スタビライザECU140のコンピュータが、図11にフローチャートを示すスタビライザ制御プログラムを、短い時間ピッチ(例えば、数m~数十msec)で繰り返し実行することによって行われる。以下に、スタビライザ制御プログラムに従った処理の流れを、フローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0077】
スタビライザ制御プログラムに従う処理では、まず、S21において、車輪速センサ94によって検出された各車輪12の車輪速vWに基づいて、当該車両10の車速vが推定され、S22において、操作量センサ92を介してステアリングホイール16の操作量δが検出される。それら車速v,操作量δに基づいて、S23において、推定横加速度GyEが推定される。続くS24において、横加速度センサ198によって、実横加速度GyRが検出され、S25において、推定横加速度GyEと実横加速度GyRとに基づいて、上述したようにして、制御横加速度Gy*が決定される。
【0078】
次のS26において、決定された制御横加速度Gy*に基づいて、目標モータ回転角ψ*が決定され、S27において、回転角センサ196によって、実モータ回転角ψが検出される。
【0079】
S28では、当該車両10が自動運転されているか否かが判定され、手動運転されている場合には、S29において、車速vが閾車速vTH以下であるか否かが判定される。車速vが閾車速vTHを超えていると判定された場合には、S30において、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDが、それぞれ、高ゲインKPH,高ゲインKDHに設定される。一方で、自動運転されている場合、および、S29において、車速vが閾車速以下であると判定された場合には、S31において、比例項ゲインKP,微分項ゲインKDが、それぞれ、低ゲインKPL,低ゲインKDLに設定される。
【0080】
そして、S32において、目標モータ回転角ψ*に対する実モータ回転角ψの偏差であるモータ回転角偏差Δψが決定され、そのモータ回転角偏差Δψと、設定されている比例項ゲインKP,微分項ゲインKD,積分項ゲインKIとに基づき、PIDフィードバック制御則に従った上記手法にて、アクチュエータ130の電動モータ170への供給電流ISが決定される。その供給電流ISが、S33において、インバータを介して供給され、当該スタビライザ制御プログラムの1回の実行が終了する。
【0081】
[3]アクティブサスペンションシステム(第3実施例)
以下に、第3実施例の車両挙動制御システムであるアクティブサスペンションシステム(以下、単に「サスペンションシステム」という場合がある)について説明する。なお、本サスペンションシステムは、上記ステアリングシステム,上記スタビライザシステムが搭載されている車両10に、搭載されている。
【0082】
(a)アクティブサスペンションシステムの構成
第3実施例のサスペンションシステムは、図12に示すように、前後左右4つの車輪12に対応して設けられた4つのサスペンション装置220と、それらサスペンション装置220の制御を担う制御システムとを含んで構成されている。転舵輪である前輪のサスペンション装置220と非転舵輪である後輪のサスペンション装置220とは、車輪12を転舵可能とする機構を除き略同様の構成とみなせるため、サスペンション装置220の構成の説明は、後輪のサスペンション装置220を代表して説明する。
【0083】
i)サスペンション装置の構成
図13に示すように、サスペンション装置220は、独立懸架式のものであり、マルチリンク式サスペンション装置とされている。サスペンション装置220は、それぞれがサスペンションアームである第1アッパアーム230,第2アッパアーム232,第1ロアアーム234,第2ロアアーム236,トーコントロールアーム238を備えている。5本のアーム230,232,234,236,238のそれぞれの一端部は、車体に回動可能に連結され、他端部は、車輪12を回転可能に保持するアクスルキャリア240に回動可能に連結されている。それら5本のアーム230,232,234,236,238により、アクスルキャリア240は、車体に対して一定の軌跡に沿った上下動が許容されている。
【0084】
サスペンション装置220は、直列に配置された2つの圧縮コイルスプリング246,248と、電動アクチュエータである電磁式アクチュエータ(以下、単に「アクチュエータ」という場合がある)250と、液圧式のダンパ252とを備えている。それら2つのコイルスプリング246,248は、互いに協働して、ばね上部とばね下部とを弾性的に連結するサスペンションスプリングとして機能する。また、アクチュエータ250は、ショックアブソーバとして機能するものであり、ばね上部の一構成部分であるタイヤハウジングに設けられたマウント部254と、ばね下部の一構成部分である第2ロアアーム236との間に配設されている。
【0085】
ii)電磁式アクチュエータの構成
各サスペンション装置220が備えるアクチュエータ250は、図14に示すように、アウタチューブ260と、そのアウタチューブ260に嵌入してそのアウタチューブ260の上端部から上方に突出するインナチューブ262とを含んで構成されている。後に詳しく説明するが、アウタチューブ260は、圧縮コイルスプリング248を構成要素として有する連結機構264を介して、第2ロアアーム236に連結され、また、インナチューブ262は、それの上端部において、マウント部254に連結されている。
【0086】
アウタチューブ260には、それの内面において、アクチュエータ250の軸方向に延びる1対のガイド溝266が設けられており、その一方で、インナチューブ262には、それの下端部に、1対のキー268が付設されている。それら1対のキー268が1対のガイド溝266にそれぞれ嵌められており、それらキー268およびガイド溝266によって、アウタチューブ260とインナチューブ262とは、相対回転不能、かつ、軸方向に相対動作可能とされている。ちなみに、アウタチューブ260の上端部には、ダストシール270が設けられ、外部からの塵埃,泥等の侵入を防止するようにされている。
【0087】
また、アクチュエータ250は、雄ねじが形成された中空のねじロッド272と、ベアリングボールを保持してねじロッド272と螺合するナット274と、電動モータ276とを有している。
【0088】
電動モータ276は、モータケース278に固定して収容され、そのモータケース278の鍔部がマウント部254の上面に固定されることで、マウント部254に対して固定される。なお、モータケース278の鍔部には、鍔状に形成されたインナチューブ262の上端部も固定されており、そのような構造によって、インナチューブ262が、マウント部254に固定的に連結される。
【0089】
電動モータ276の回転軸であるモータ軸280は、中空軸とされ、ねじロッド272の上端部と一体的に接続されている。つまり、ねじロッド272は、モータ軸280を延長する状態でインナチューブ262内に配設され、電動モータ276によって回転力が付与される。一方、アウタチューブ260の底部には、支持筒282が、ねじロッド272を内部に収容する状態で固定されており、ナット274は、支持筒282の上端部に固定されている。ねじロッド272は、支持筒282に固定された状態のナット274と螺合させられており、それらねじロッド272とナット274とによってねじ機構284が構成されている。
【0090】
以上のような構造から、アクチュエータ250は、インナチューブ262,モータケース278,電動モータ276,ねじロッド272等を含んで構成されるばね上部側ユニット286と、アウタチューブ260,支持筒282,ナット274等を含んで構成されるばね下部側ユニット288とを備えるものとされている。アクチュエータ250は、ばね上部とばね下部との相対動作に伴って、ばね上部側ユニット286とばね下部側ユニット288とが相対動作し、ねじロッド272および電動モータ276が回転するようにされている。さらに、アクチュエータ250は、電動モータ276がねじロッド272に回転力を付与することでばね上部側ユニット286とばね下部側ユニット288との相対動作に対する力であるアクチュエータ力を発生させるようになっている。ちなみに、このアクチュエータ力は、圧縮コイルスプリング248を介して、ばね上部とばね下部とに作用することになる。
【0091】
iii)ダンパの構成
各サスペンション装置220が備えるダンパ252は、シリンダ装置として構成されており、アクチュエータ250と第2ロアアーム236との間に配置されている。ダンパ252は、概して円筒状のハウジング290を有している。このハウジング290は、それの下端部に固定的に設けられた連結部292において、第2ロアアーム236に連結されており、内部に作動液を収容している。ハウジング290の内部には、ピストン294が配設されており、そのピストン294は、ハウジング290の内部を、2つの液室である上液室296と下液室298とに区画するとともに、ハウジング290に対して摺動可能とされている。
【0092】
また、ダンパ252は、ピストンロッド300を有しており、そのピストンロッド300は、下端部においてピストン294に連結されるとともに、ハウジング290の蓋部から延び出している。ピストンロッド300は、アウタチューブ260の底部に設けられた穴を貫通し、かつ、ねじロッド272およびモータ軸280をも貫通しており、上端部においてモータケース278に固定されている。
【0093】
ダンパ252は、ツインチューブ式のショックアブソーバに類似する構造を有している。図15を参照しつつさらに詳しく説明すれば、ハウジング290は、外筒302と内筒304と有する二重構造とされており、外筒302と内筒304との間には、バッファ室306が形成されている。また、ハウジング290内の底部付近には、仕切壁308が設けられ、連通穴310を介してバッファ室306と通じる補助液室312が形成されている。つまり、下液室298とバッファ室306とは、補助液室312を介して連通している。
【0094】
ピストン294には、それを軸方向に貫通し、上液室296と下液室298とを連通させる複数の連通路314,316(図15にはそれぞれ2つ図示されている)が設けられている。また、ピストン294には、それの下面および上面のそれぞれに、弾性材製の円板状をなす弁部材318,320が設けられており、弁部材318によって連通路314の下液室298側の開口が塞がれ、弁部材320によって連通路316の上液室296側の開口が塞がれている。
【0095】
また、仕切壁308には、ピストン294と同様に、下液室298と補助液室312とを連通させる複数の連通路322,324(図15にはそれぞれ2つ図示されている)が設けられている。また、仕切壁308には、それの下面および上面のそれぞれに、弾性材料製の円板状をなす弁部材326,328が設けられており、弁部材326によって連通路322の補助液室312側の開口が塞がれ、弁部材328によって連通路324の下液室298側の開口が塞がれている。
【0096】
例えば、ピストン294がハウジング290内を上方に移動させられる場合には、上液室296内の作動液の一部が連通路314を通って下液室298へ流れるとともに、バッファ室306の作動液の一部が液通路324を通って下液室298に流入する。その際、作動液が弁部材318,弁部材328を撓ませて下液室298内へ流入することによって、ピストン294の上方への移動に対して抵抗が付与される。一方、ピストン294がハウジング290内を下方に移動させられる場合には、下液室298内の作動液の一部が連通路316を通って上液室296へ流れるとともに、液通路322を通ってバッファ室306に流出する。その際、作動液が弁部材320,弁部材326を撓ませて下液室298から流出することによって、ピストン294の下方への移動に対して抵抗が付与される。
【0097】
上述のような構造から、ダンパ252は、ハウジング290に対するピストン294の上下動に伴って、上液室296と下液室298との間、および、下液室298とバッファ室306との間の作動液の流通を許容するとともに、その流通に対しての抵抗を付与する流通抵抗付与機構を備えるものとされている。つまり、ダンパ252は、ばね上部とばね下部との相対動作に対する抵抗力、つまり、その相対動作に対する減衰力を発生させるものとされているのである。
【0098】
iv)サスペンションスプリングおよび連結機構の構成
ハウジング290には、それの外周部において、下部スプリング座340が鍔状に付設されている。一方、アウタチューブ260には、それの外周部において、中間スプリング座342が鍔状に付設されている。圧縮コイルスプリング248は、それら下部スプリング座340と中間スプリング座342とに挟まれるようにして、圧縮状態で配設されている。さらに、マウント部254の下面には、防振ゴム344を介して、上部スプリング座346が付設されている。圧縮コイルスプリング246は、中間スプリング座342と上部スプリング座346とに挟まれるようにして、圧縮状態で配設されている。
【0099】
このような構造から、圧縮コイルスプリング246は、ばね上部とばね下部側ユニット288とを弾性的に連結する連結スプリングとして機能するものとなっており、圧縮コイルスプリング248は、ばね下部側ユニット288をばね下部に弾性的に支持させる支持スプリングとして機能するものとなっている。したがって、圧縮コイルスプリング246と圧縮コイルスプリング248とは、それらが協働することで、ばね上部とばね下部とを弾性的に連結するサスペンションスプリングとして機能し、また、圧縮コイルスプリング248は、ばね下部とばね下部側ユニット288とを弾性的に連結する連結機構264の構成要素とされている。
【0100】
つまり、本サスペンション装置220においては、アクチュエータ250のばね上部側ユニット286は、固定ユニットとして、ユニット固定部であるばね上部に固定的に連結され、その一方で、ばね下部側ユニット288は、浮動ユニットとして、ユニット浮動支持部であるばね下部に浮動支持されているのである。ちなみに、本サスペンション装置220では、ばね下部側ユニット288は、圧縮コイルスプリング246によって、ばね上部に対しても浮動支持されている。
【0101】
連結機構264は、ばね下部側ユニット288のばね下部に対する相対動作を許容するものとされているが、その相対動作におけるばね下部側ユニット288とばね下部との相対変位は、連結機構264が有する相対変位制限機構350によって制限されている。相対変位制限機構350は、アウタチューブ260の底部,ダンパ252のハウジング290の上端部,アウタチューブ260の底部に付設された筒状のスカート352,ハウジング290の外周部に付設された係止環354等によって構成されている。
【0102】
具体的に言えば、ばね下部側ユニット288がばね下部に接近する場合には、アウタチューブ260の底部がダンパ252のハウジング290の上端部に、緩衝ゴム356を介して当接することで、その接近が制限される。一方、ばね下部側ユニット288がばね下部から離間する場合には、上記スカート352の内鍔状に形成された下端部が、上記係止環354に、緩衝ゴム358を介して当接することで、その離間が制限される。
【0103】
v)制御システムの構成
本実施例のサスペンションシステムでは、図12に示すように、4つのアクチュエータ250の作動を、詳しくは、各アクチュエータ250のアクチュエータ力を制御対象として制御するためのコントローラであるサスペンション電子制御ユニット370(以下、「サスペンションECU370」と省略する場合がある)が設けられている。サスペンションECU370は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されたものであり、それぞれが各アクチュエータ250が有する電動モータ276の駆動回路である4つのインバータが含まれている。インバータの各々は、コンバータ64を介して、電源であるバッテリ66に接続されており、対応するアクチュエータ250の電動モータ276に接続されている。各電動モータ276は、DCブラシレスモータであり、定電圧駆動される。各アクチュエータ250のアクチュエータ力の制御は、各電動モータ276に流れる電流を制御することによって行われる。その電流の制御は、PWM(Pulse Width Modulation)におけるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。ちなみに、各電動モータ276の回転角φは、モータ回転角センサ378によって検出されており、インバータは、その検出されたモータ回転角φに基づいて各電動モータ76の作動を制御する。
【0104】
サスペンションECU370には、上記4つのモータ回転角センサ378に加え、ステアリング操作部材であるステアリングホイール16の操作量(操作角)δを検出するための操作量センサ92,車体に実際に発生している横加速度Gyである実横加速度GyRを検出するための横加速度センサ198,車体に発生している前後加速度Gxを検出する前後加速度センサ384が接続されている。さらには、4つのサスペンション装置220に対応して設けられた各種のセンサ、詳しくは、ばね上部の縦加速度であるばね上加速度GUを検出するばね上縦加速度センサ386,ばね下部の縦加速度であるばね下加速度GLを検出するばね下縦加速度センサ388,ばね上ばね下間距離に相当するストローク量Sを検出するためのストロークセンサ390等が、接続されている。サスペンションECU170には、さらに、4つの車輪に対応して設けられてそれぞれが対応する車輪の回転速度を検出するための4つの車輪速センサ94が接続され、サスペンションECU370は、それら車輪速センサ94の検出値に基づいて車両10の走行速度である車速vを検出するようにされている。
【0105】
本サスペンションシステムが有する制御システムにおいて、サスペンションECU370は、上記各種のセンサ等からの信号に基づいて、各アクチュエータ250が有する電動モータ276へ供給する電流を制御することで、各アクチュエータ250の作動の制御、つまり、各アクチュエータ250のアクチュエータ力の制御を行う。
【0106】
(b)電磁式アクチュエータの制御
本サスペンションシステムでは、サスペンションECU370は、4つのサスペンション装置220の各々のアクチュエータ250を制御することで、以下の2つの制御を実行する。詳しく言えば、ばね上部の振動を減衰するためのばね上部振動減衰制御,車体のピッチおよびロールを抑制するための車体姿勢変化抑制制御を実行する。車体姿勢変化抑制制御の意義に鑑みれば、アクチュエータ250は、車両の姿勢を変更するための電動アクチュエータと考えることができる。4つのアクチュエータ250は、互いに略同じ構造,機能を有しており、それら4つのアクチュエータ250の制御は、互いに同じであると考えることができる。そこで、以下、1つのサスペンション装置220の1つのアクチュエータ250について、それの制御を説明する。
【0107】
i)ばね上部振動減衰制御
上記サスペンション装置220の実際の装置構成に基づく振動モデル(以下、「実装置モデル」という場合がある)は、図16(a)に示すものとなる。この振動モデルは、ばね上部の慣性質量であるばね上質量MUと、ばね下部の慣性質量であるばね下質量MLとの他に、アクチュエータ250のばね下部側ユニット288の動作についての慣性質量(後述する)となる中間質量MIを含むモデルである。このモデルでは、ばね上質量MUとばね下質量MLとの間に、ダンパ252に相当するダンパ、すなわち、減衰係数がC1のダンパC1が、配設されている。また、ばね上質量MUと中間質量MIとの間に、圧縮コイルスプリング246に相当するばね、すなわち、ばね定数がK1のばねK1、および、アクチュエータ250に相当するアクチュエータAが、互いに並列的に配設されている。さらに、中間質量MIとばね下質量MLとの間に、圧縮コイルスプリング248に相当するばね、すなわち、ばね定数がK2のばねK2が配設され、また、ばね下質量MLと路面との間に、タイヤに相当するばね、すなわち、ばね定数がK3のばねK3が配設されている。
【0108】
一方、アクチュエータ250の制御のための理論モデルである制御モデルは、例えば、図16(b)に示すものであり、そのモデルでは、ばね上質量MUが、減衰係数がCSのスカイフックダンパCSによって懸垂されたモデルになっている。つまり、その制御モデルは、スカイフックダンパ理論に基づくモデルである。
【0109】
ばね上部振動減衰制御では、スカイフックダンパCSを配設した上記制御モデルに従って、実装置モデルにおけるアクチュエータAの発生させるアクチュエータ力が、制御モデルにおけるスカイフックダンパCSが発生させる減衰力に相当する力となるように、アクチュエータ250が制御される。より具体的に言えば、ばね上縦加速度センサ386によって検出されたばね上部の縦加速度GU(以下、「ばね上加速度GU」という場合がある)に基づいて、ばね上部の動作速度(絶対速度)であるばね上速度vUが算定され、次式に従ったアクチュエータ力、つまり、そのばね上速度vUに応じた大きさのアクチュエータ力を、ばね上部振動減衰成分FUとして発生させるように、電動モータ276の作動が制御されるのである。
U=CS・vU
【0110】
ちなみに、減衰係数CSは、制御ゲインと考えることのできるものであり、ばね上共振周波数およびその近傍の周波数の振動を効果的に減衰させるのに適した値に設定されている。なお、本サスペンションシステムでは、ばね下部の共振現象への対処は、ダンパ252によって行われる。つまり、上記実装置モデルおよび制御モデルにおけるダンパC1の減衰係数C1、つまり、ダンパ252の減衰係数は、ばね下共振周波数およびその近傍の周波数の振動を効果的に減衰させるのに適した値に設定されている。
【0111】
ii)車体姿勢変化抑制制御
本サスペンションシステムでは、ばね上部振動減衰制御に加えて、車両の旋回に起因して生じる車体のロール、および、車両の加減速に起因して生じる車体のピッチを緩和すべく、車体姿勢変化抑制制御が実行される。その車体姿勢変化抑制制御では、車体のロールを生じさせる原因として車体に作用するロールモーメントに対抗する力、および、車体のピッチを生じさせる原因として車体に作用するピッチモーメントに対抗する力を、アクチュエータ250によって発生させる。
【0112】
さらに詳しく言えば、車体のロールに対しては、上記ロールモーメントに応じて、旋回内輪側の2つのサスペンション装置220の各々のアクチュエータ250に、ばね上部とばね下部が接近する方向(以下、「バウンド方向」という場合がある)のアクチュエータ力を、一方、旋回外輪側の2つのサスペンション装置220の各々のアクチュエータ250に、ばね上部とばね下部とが離間する方向(以下、「リバウンド方向」という場合がある)のアクチュエータ力を、それぞれ、ロール抑制成分FR(姿勢変化抑制成分の一種である)として発生させるのである。
【0113】
具体的に言えば、上述のスタビライザシステムにおける手法と同様の手法によって、ステアリングホイール16の操舵量δと車速vとに基づいて推定された推定横加速度GyEと、横加速度センサ198によって検出された実横加速度GyRとに基づいて、制御横加速度Gy*が、次式に従って、決定される。
Gy*=KE・GyE+KR・GyRE,KR:重み付け係数
そのように決定された制御横加速度Gy*は、車体に作用するロールモーメントを指標するロールモーメント指標量であり、その制御横加速度Gy*に基づいて、次式に従って、ロール抑制成分FRが決定される。
R=KY・Gy* (KY:ロール抑制ゲイン)
【0114】
ロール抑制成分FRは、アクチュエータ力の一成分であり、アクチュエータ250の制御対象である。また、横加速度Gyは、車両10の姿勢を変化させる要因である。サスペンションECU370は、上述のようにして、車両10の姿勢を変化させる要因である横加速度Gyに基づいて、制御対象の目標値として、ロール抑制成分FRを決定する。
【0115】
車体のピッチについて詳しく言えば、車体の制動時に発生する車体のノーズダイブに対しては、ピッチモーメントに応じて、前輪側の2つのサスペンション装置220の各々のアクチュエータ250に、リバウンド方向のアクチュエータ力を、その一方で、後輪側の2つのサスペンション装置220の各々のアクチュエータ250に、バウンド方向のアクチュエータ力を、それぞれピッチ抑制成分FPとして発生させる。また、車体の加速時に発生する車体のスクワットに対しては、ピッチモーメントに応じて、後輪側の2つのサスペンション装置220の各々のアクチュエータ250に、リバウンド方向のアクチュエータ力を、その一方で、前輪側の2つのサスペンション装置220の各々のアクチュエータ250に、バウンド方向のアブソーバ力を、それぞれピッチ抑制成分FP(姿勢変化抑制成分)として発生させる。
【0116】
具体的には、ピッチモーメントを指標するピッチモーメント指標量として、前後加速度センサ384によって検出された前後加速度Gxである実前後加速度Gxが採用され、その実前後加速度Gxに基づいて、ピッチ抑制成分FPが、次式に従って決定される。
P=KX・Gx (KX:ピッチ抑制ゲイン)
【0117】
ピッチ抑制成分FPも、アクチュエータ力の一成分であり、アクチュエータ250の制御対象である。また、前後加速度Gxも、車両10の姿勢を変化させる要因である。サスペンションECU370は、上述のようにして、車両10の姿勢を変化させる要因である前後加速度Gxに基づいて、制御対象の目標値として、ピッチ抑制成分FPを決定する。
【0118】
iii)2つの制御の総合
上述したばね上部振動減衰制御,車体姿勢変化抑制制御は、総合的に行われ、それらの制御におけるばね上部振動減衰成分FU,ロール抑制成分FR,ピッチ抑制成分FPは、一元的に扱われる。具体的には、それらの成分FU,FR,FPが、次式に従って合計され、アクチュエータ250の発生させるべき総合的なアクチュエータ力Fが決定される。
F=FU+FR+FP
【0119】
各成分FU,FR,FPが総合されたアクチュエータ力Fは、4つのサスペンション装置20の各々のアクチュエータ250が発生させるべきアクチュエータ力であり、そのアクチュエータ力を発生させるべく、各アクチュエータ250が有する電動モータ276の作動が制御される。具体的に言えば、発生させているアクチュエータ力Fとアクチュエータ250の電動モータ276に供給されている電流とは概ね比例関係にあり、サスペンションECU370は、各アクチュエータ250の発生させるべきアクチュエータ力Fに基づき、各アクチュエータ250の電動モータ276に供給すべき電流である供給電流ISを決定し、その供給電流ISに基づき、インバータを介して、それら電動モータ276に電流を供給する。
【0120】
iv)電流低減処理
本サスペンションシステムでも、省エネルギ化,省電力化を考慮して、特定状況下において、アクチュエータ250のへの供給電流、すなわち、電動モータ276への供給電流に対して、電流低減処理が行われる。以下に、本サスペンションシステムにおける電流低減処理の内容について説明する。
【0121】
本サスペンションシステムでは、上記ステアリングシステム,スタビライザシステムと同様に、アクチュエータ250の応答性等に考慮して、サスペンションECU370は、当該車両10の車速vが、閾車速vTH(例えば、20~30km/h)以下であるとき、および、車両10が自動運転されているときを、特定状況であると認定し、電流低減処理を行うようにされている。
【0122】
本サスペンションシステムにおいて電流低減処理の対象とされているのは、上記姿勢変化抑制成分、詳しくは、ロール抑制成分FR,ピッチ抑制成分FPだけであり、上記ばね上部振動減衰成分FUは、電流低減処理の対象とはされていない。また、上記ステアリングシステムとは異なり、上述のゲイン低減処理は行われず、アクチュエータの目標動作量に対するローパスフィルタ処理、つまり、ロール抑制成分FR,ピッチ抑制成分FPだけにローパスフィルタ処理が施される。ただし、このローパスフィルタ処理は、特定状況下においてのみ施され、特定状況下でないときには施されない。また、走行モードに基づくカットオフ周波数fCの変更も行われず、車速vに応じたカットオフ周波数fCの漸変も行われない。つまり、特定状況下においてのみ、ロール抑制成分FR,ピッチ抑制成分FPに、カットオフ周波数fCが低周波数fCL1に固定されたローパスフィルタ処理が施されるのである。このような電流低減処理であっても、本サスペンションシステムの省エネルギ化,省電化を充分に図ることが可能である。
【0123】
なお、ローパスフィルタ処理を、例えば、上記ステアリングシステムのように、特定状況下でなくても、カットオフ周波数fCを高くして行ってもよく、また、カットオフ周波数fCを、上記ステアリングシステムと同様に、車速v,走行モードに応じて変更して行うようにしてもよい。
【0124】
上記ステアリングシステムでは、コントローラであるステアリングECU20の機能をブロック図によって説明したが、本サスペンションシステムのコントローラであるサスペンションECU370の機能も容易に類推できるため、ブロック図を用いた説明は省略する。
【0125】
v)制御フロー
以上説明したアクチュエータ250の制御は、サスペンションECU370のコンピュータが、図17にフローチャートを示すサスペンション制御プログラムを、短い時間ピッチ(例えば、数m~数十msec)で繰り返し実行することによって行われる。以下に、サスペンション制御プログラムに従った処理の流れを、フローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0126】
サスペンション制御プログラムに従った処理では、まず、S41において、ばね上縦加速度センサ386によって、ばね上加速度GUが検出され、S42において、そのばね上加速度GUに基づいて、ばね上速度vUが算定される。次に、S43において、そのばね上速度vUと、スカイフックダンパの減衰係数CSとに基づいて、ばね上部振動減衰成分FUが、決定される。
【0127】
次に、S44において、制御横加速度Gy*が決定される。この制御横加速度Gy*の決定は、スタビライザ制御プログラムのS21~S25のプロセスと同様のプロセスによって行われる。決定された制御横加速度Gy*に基づき、S45において、ロール抑制成分FRが決定される。続くS46において、前後加速度センサ384によって、前後加速度Gxが検出され、S47において、検出された前後加速度Gxに基づいて、ピッチ抑制成分FPが決定される。
【0128】
S48では、当該車両10が自動運転されているか否かが判定され、手動運転されている場合には、S49において、車速vが閾車速vTH以下であるか否かが判定される。S48において自動運転されていると判定された場合、若しくは、S49において、車速vが閾車速vTH以下であると判定された場合には、S50において、ロール抑制成分FRとピッチ抑制成分FPとに、カットオフ周波数fCが低周波数とfCL1sとされたローパスフィルタ処理が施される。
【0129】
続いて、S51では、ばね上部振動減衰成分FUと、ローパスフィルタ処理が施された若しくは施されなかったロール抑制成分FR,ピッチ抑制成分FPとが加算されて、発生させるべき総合的なアクチュエータ力Fが決定され、S52において、そのアクチュエータ力Fに基づいて、アクチュエータ250の電動モータ276に供給されるべき電流である供給電流ISが決定される。そして、S53において、その供給電流ISに基づいて、インバータを介して、電動モータ276に電流が供給され、本サスペンション制御プログラムの1回の実行が終了する。
【符号の説明】
【0130】
《車両用ステアリングシステム》
10:車両 12:車輪 14:転舵装置 16:ステアリングホイール(ステアリング操作部材) 18:操作装置 20:ステアリング電子制御ユニット(ステアリングECU)〔コントローラ〕 24:転舵モータ〔電動モータ〕 28:転舵アクチュエータ〔電動アクチュエータ〕 400:車速推定部 402:目標転舵量決定部 404:ローパスフィルタ 406:積分要素 408:比例要素 410:比例項ゲイン乗算器 412:微分項ゲイン乗算器 414:積分項ゲイン乗算器 416:微分器 418:積分器 420:インバータ δ:操作量 θ:転舵量〔制御対象〕実転舵量〔実際値〕 θ*:目標転舵量〔目標値〕 Δθ:転舵量偏差 γ:ステアリングギヤ比 IS:転舵電流 v:車速 vTH:閾車速 KP:比例項ゲイン KPL:低ゲイン KPH:高ゲイン KD:微分項ゲイン KDL:低ゲイン KDH:高ゲイン KI:積分項ゲイン fC:カットオフ周波数 fCL,fCL1,fCL2:低周波数 fCH:高周波数 T:時定数
《アクティブスタビライザシステム》
114:スタビライザ装置 120:スタビライザバー 130:アクチュエータ 140:スタビライザ電子制御ユニット(スタビライザECU)〔コントローラ〕 170:電動モータ ψ:モータ回転角 〔制御対象〕〔実際値〕 ψ*:目標モータ回転角 〔目標値〕Δψ:モータ回転角偏差 Gy:横加速度 IS:供給電流
《アクティブサスペンションシステム》
220:サスペンション装置 250:電磁式アクチュエータ 276:電動モータ 370:サスペンション電子制御ユニット(サスペンションECU)〔コントローラ〕 Gx:前後加速度 vU:ばね上速度 F:アクチュエータ力 FU:ばね上部振動減衰成分 FR:ロール抑制成分〔制御対象〕〔目標値〕 FP:ピッチ抑制成分〔制御対象〕〔目標値〕
図1
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