(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】炉蓋及び炉蓋の冷却方法
(51)【国際特許分類】
F27D 1/18 20060101AFI20241203BHJP
B22D 41/00 20060101ALI20241203BHJP
F27D 1/12 20060101ALI20241203BHJP
F27B 3/12 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
F27D1/18 A
B22D41/00 C
F27D1/12 L
F27B3/12
(21)【出願番号】P 2022020113
(22)【出願日】2022-02-14
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 純一
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-189327(JP,A)
【文献】特開平10-170162(JP,A)
【文献】特開2019-171416(JP,A)
【文献】特開平03-087594(JP,A)
【文献】特開2011-224660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 14/00、14/08、14/12
F21D 1/00 - 1/18
F27B 1/00 - 3/28
B22D 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の開口部の上端面を覆う炉蓋内に設けられた中空の冷却室と、
前記冷却室内に内壁に向けて冷却水を噴射するために設けられたノズルと、
前記冷却室の下端部にその周方向に設けられた環状の排水路と、
前記排水路に接続された排水口と、
を備え、
前記排水路の内壁側の内径は、前記容器の開口部の内径より大きくなっており、前記内壁側の内径が最大となる位置より下部の前記排水路の内壁側は、内径が同一の円筒状であるか、又は下方へ向かい縮径
し、
前記排水路の内壁側の内径が最大となる位置より上部の内壁側は、下方へ向かいその内径が大きくなる傾斜面となっている、炉蓋。
【請求項2】
前記排水路の内壁側の内径が最大となる位置は、前記排水路に存在する冷却水の最大水位の水面より下方にある請求項
1に記載の炉蓋。
【請求項3】
さらに、前記排水路の分岐部に接続し、前記排水路より外側、かつ前記排水路より低い位置に配置される外周排水溝を有しており、少なくとも前記排水路の分岐部以外の内壁側の内径が、前記容器の開口部の内径より大きくなっている、請求項1
又は2に記載の炉蓋。
【請求項4】
前記排水路の内壁側の最大の内径は、前記排水路に存在する冷却水の最大水位の水面位置
に基づいて設定される請求項1から
3のいずれか1項に記載の炉蓋。
【請求項5】
溶融金属が収容されている前記容器に前記炉蓋を取着する場合であって、炉蓋の内壁のセットバックは、式(1)を満足する請求項
4に記載の炉蓋。
(セットバック量)/(溶融金属面の高さ)>0.10・・・式(1)
ここで、上記式(1)において、セットバック量とは、容器の開口部上端に対する排水路の内壁側の下端の外側へのずれ量、溶融金属面の高さとは、容器の開口部の上端面から溶融金属面までの距離をいう。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項に記載の炉蓋を用いて、前記冷却室内の内壁へ前記ノズルから冷却水を噴射することによって前記内壁を冷却し、前記内壁に噴射する冷却水を、排水路を介して排水口から前記炉蓋の外へ排水する炉蓋の冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍋精錬炉、電気炉などの容器の開口部の上端面を覆う炉蓋、及び炉蓋の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鍋精錬炉や電気炉用容器などの高温の溶融金属を収容する容器の炉蓋は、精錬時における高熱によって変形や溶損が生じるおそれがある。そこで、内部に形成された中空の冷却室内に冷却水を噴射することによって炉蓋を冷却するスプレー式炉蓋が、その対応として、知られている。スプレー式炉蓋は、噴流によって炉蓋の内壁面を水冷することにより、水冷ジャケット方式に比べて、少ない流量で大きな冷却効果を得ることができる。しかし、炉蓋の底面に溜まった排水の水位より下側は、スプレー水が当たらず、排水口へ向かう遅い流速による緩やかな冷却しか得られないため、冷却不足によりヒートクラックが発生して水漏れに至るおそれがある。水漏れは容器内の高温の溶融金属との接触によって、水蒸気爆発が発生する恐れがあり、安全上大きな問題となる。
【0003】
この対応として、特許文献1には、外周排水溝を設け、外周排水溝へ排水を自然落下させる方法が開示されている。特許文献2には、排水路内に排水流加速用のノズルを設置する方法が開示されている。特許文献3には、真空ポンプによって排水の吸引排出を行う方法及び炉蓋内側下部に水冷ジャケットを設置する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-260367号公報
【文献】特開平10-246576号公報
【文献】特開2017-116186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来技術には以下のような問題がある。
【0006】
特許文献1の方法では、炉蓋の外周に排水溝を設けることで、炉蓋の底面に排水が溜まることを抑制することができ、炉蓋の底面で冷却不足が生じることを防ぐことができる。しかし、排水溝が、炉蓋の外周面側に出っ張るため、炉蓋の吊りアームや周囲の設備等に干渉する虞がある。このため、炉蓋の全周にわたって排水溝を設けることは難しく、排水溝が設けられていない箇所では冷却不足となってしまう。
【0007】
特許文献2の方法では、排水流を加速するノズルを設けることにより、排水路内に排水が溜まることを抑制することができる。しかし、十分に大きい流速を得るには、スプレー水とは別に多量の水が必要となり、排水処理装置の大型化が避けられない。
【0008】
特許文献3の真空ポンプによって排水の吸引排出を行う方法では、真空ポンプにより排水を吸引して排出することで炉蓋の底面に排水が溜まることを抑制することができる。しかし、これだけ多量の排水を吸引して排出する真空ポンプは、装置の仕様が厳しく、かつ高額である。
【0009】
特許文献3の炉蓋内側下部に水冷ジャケットを設置する方法では、水冷ジャケットによって炉蓋を冷却することで炉蓋底部の冷却不足を解消することができる。しかし、炉蓋の底部の溜まり水部を覆うように、炉内側に新たに小型水路を設ける場合、十分な冷却効果を得るためには冷却水を圧送して流速を上げる必要がある。操業中に溶融金属が飛散するなどで小型水路が損傷を受けた場合、圧送の圧力によって冷却水が多量に噴き出すため、安全上のリスクが存在する。なお、スプレー冷却および溜まり水の場合は、炉蓋内は大気圧のため、噴出の恐れはない。
【0010】
また、上記以外に知られている方法として、排水の水位を下げるために炉蓋の外径を拡大して排水路の幅を広げる方法がある。しかし、周囲設備と干渉が生じることとなり、また炉蓋の重量が大幅に増加して炉蓋の昇降装置が大型化するなどして設備上コストがかかる。
【0011】
そこで、本発明は、炉蓋の内壁におけるヒートクラックの発生を抑制するスプレー冷却式の炉蓋、及び炉蓋の冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を有利に解決する本発明に係る炉蓋は以下のように構成される。
【0013】
[1]容器の開口部の上端面を覆う炉蓋内に設けられた中空の冷却室と、前記冷却室内に内壁に向けて冷却水を噴射するために設けられたノズルと、前記冷却室の下端部にその周方向に設けられた環状の排水路と、前記排水路に接続された排水口と、を備え、前記排水路の内壁側の内径は、前記容器の開口部の内径より大きくなっており、前記内壁側の内径が最大となる位置より下部の前記排水路の内壁側は、内径が同一の円筒状であるか、又は下方へ向かい縮径している、炉蓋である。
[2]上記の[1]において、前記排水路の内壁側の内径が最大となる位置より上部の内壁側は、下方へ向かいその内径が大きくなる傾斜面となっている炉蓋である。
[3]上記の[1]又は[2]において、前記排水路の内壁側の内径が最大となる位置は、前記排水路に存在する冷却水の最大水位の水面より下方にある炉蓋である。
[4]上記の[1]から[3]のいずれかにおいて、さらに、前記排水路の分岐部に接続し、前記排水路より外側、かつ前記排水路より低い位置に配置される外周排水溝を有しており、少なくとも前記排水路の分岐部以外の内壁側の内径が、前記容器の開口部の内径より大きくなっている炉蓋である。
[5]上記の[1]から[4]のいずれかにおいて、前記排水路の内壁側の最大の内径は、前記排水路に存在する冷却水の最大水位の水面位置に基づいて設定される炉蓋である。
[6]上記の[5]において、溶融金属が収容されている前記容器に前記炉蓋を取着する場合であって、炉蓋の内壁のセットバックは、式(1)を満足する炉蓋である。
(セットバック量)/(溶融金属面の高さ)>0.10・・・式(1)
ここで、上記式(1)において、セットバック量とは、容器の開口部上端に対する排水路の内壁側の下端の外側へのずれ量、溶融金属面の高さとは、容器の開口部の上端面から溶融金属面までの距離をいう。
【0014】
上記課題を有利に解決する本発明に係る炉蓋の冷却方法は以下のように構成される。
[7]上記の[1]から[6]のいずれかに記載の炉蓋を用いて、前記冷却室内の内壁へ前記ノズルから冷却水を噴射することによって前記内壁を冷却し、前記内壁に噴射する冷却水を、排水路を介して排水口から前記炉蓋の外へ排水する炉蓋の冷却方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、容器の開口部の上端面に炉蓋を取着するに際し、中空の冷却室下端に設けた環状排水路の内壁側を容器の開口部の外側にずらす、すなわち排水路の内壁側内径を容器開口部の内径より大きく形成し、さらにその内径が最大となる位置より下部の排水路の内壁側を円筒状にし、または容器内側に縮径させることで排水溜まり水の水位低減を図ったので、熱負荷低減によってヒートクラックを抑制することができる。
また、本発明は、真空ポンプが不要で、しかも多量の排水処理装置も必要としないため、設備コストが抑えられ、溶融金属が飛散してくる可能性のある冷却水圧送部がないので安全である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の炉蓋の一実施態様を示す概略水平断面図である。
【
図2】本発明の炉蓋の一実施態様を示す、外周部の概略縦断面図であり、(a)は
図1のA-A断面図であり、(b)は
図1のB-B断面図であり、(c)は
図1のC-C断面図である。
【
図3】従来の炉蓋であり、(a)は概略水平断面図であり、(b)は概略縦断面図である。
【
図4】内壁のセットバックと排水路の水面高さから見える溶鋼面(溶融金属面)の関係を説明する概略図である。
【
図5】セットバック量/溶鋼面(溶融金属面)の高さと可視溶鋼面積割合及び排水水位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態にかかる炉蓋は、鍋精錬炉、電気炉などの容器の開口部の上端面を覆うためのものである。なお、容器内には溶融金属の一例である溶鋼が収容されている。本実施形態にかかる炉蓋の一例を
図1及び
図2に示す。本実施形態の炉蓋は中空の冷却室を形成し、冷却室内は、冷却水による冷却機能、冷却水を排水する排水機能及び溶鋼の輻射熱を低減する輻射熱低減機能を含む構造となっている。また、従来の炉蓋の一例を
図3に示す。従来の炉蓋の冷却室内では、内壁7へスプレーされた冷却水が排水路1を介して排水として1カ所の排水口1Aに集められる。排水路1の内壁側は、内径が同一の円筒状をなし、その内径は、容器20の開口部の上端の内径と一致する。なお、炉蓋の外周には、炉蓋吊アーム3が設けられている。炉蓋吊アーム3は炉蓋を吊り上げる際に用いられるものであり、4つの炉蓋吊アーム3が炉蓋の四方からそれぞれ突出している。なお、
図1に示す例では、4つの炉蓋吊アーム3のうち2つのみを図示している。
【0018】
<冷却機能>
図2(c)に示すように、本実施形態の炉蓋は、内壁7、外壁8、及び底壁11によって囲まれた中空の冷却室を形成する。複数のノズル13がその冷却室内に設けられている。そのノズル13には、冷却水供給用の管が接続されており、そのノズル13から冷却室内の内壁7に向かって冷却水が噴射され、内壁7が冷却される。
【0019】
<排水機能>
図1、
図2(b)に示すように、炉蓋の底面(内壁7、外壁8、及び底壁11によって囲まれた部分)である冷却室の下端は、全周にわたって環状の排水路1となっている。そして、ノズル13から内壁7へ噴射された冷却水が溜まるようになっている。排水路1に溜まった冷却水15は、排水路1を介して排水路1に接続された排水口1Aへと向かい、排水口1Aから炉蓋の外へと排水される。
【0020】
また、
図1、
図2(a)に示すように、冷却室の下端に形成された排水路1には、部分的に外周排水溝2が接続されることが好ましい。すなわち、排水路1は、外周排水溝2が接続された分岐部4と、外周排水溝2が接続されていない非分岐部5とを有する。外周排水溝2は排水路1より外側、かつ排水路1より低い位置に設けられている。このように、外周排水溝2を設けることで、炉蓋の排水路1内の水位を下げることができる。もって、炉蓋の内壁7の冷却効果を向上させることができる。
【0021】
また、本実施形態の一例として、炉蓋の容器の着脱側とは反対側のみに外周排水溝2を形成することが好ましい。
図1に示す例では、炉蓋の左半分のみに外周排水溝2を形成している。これにより、炉蓋の右側から左側に向かって容器(鍋)を移動させ、容器に炉蓋を取り付ける際に、外周排水溝2が容器に干渉して外周排水溝2が破損することを防ぐことができる。
【0022】
<輻射熱低減機能>
図2(b)や(c)に示すように、炉蓋の排水路1の内壁7側には、拡径部9が形成されている。この拡径部9は、内径が容器20の開口部の内径より大きく、かつ内径が最大となる位置10Bより下部(すなわち拡径部の下部10)は、排水路1の内壁7側の内径が同一の円筒状をなすか、又は下方へ向かうほど排水路1の内壁7側の内径が小さくなり縮径している。下部10が内径同一の円筒状の場合には、その上端を内径が最大となる位置10Bとする。
【0023】
具体的には、拡径部9は、内径が最大となる位置より上方の「上部」10Aと、内径が最大となる位置10Bより下方の「下部」10に分かれており、拡径部の上部10Aは、下方へ向かうにつれて排水路1の内壁7側の内径が大きくなり、傾斜面(略截頭円錐面)を有する。一方、拡径部の下部10は、
図2(b)や(c)の例では排水路1の内壁7側の内径が同一の円筒状(垂直面)である。なお、排水路1の内壁7側の内径が最大となる位置10Bは、排水路1に溜まる冷却水(排水)15の最大水位の水面より下方であることが好ましい。さらに、排水路1に溜まる冷却水15の最小水位の水面より上方であることがより好ましい。
【0024】
なお、拡径部の下部10は、排水路1の内壁7側の内径が同一の円筒状ではなく、下方へ向かうにつれて排水路1の内壁7側の内径が縮径する傾斜面(略截頭円錐面)としてもよい。また、拡径部の上部10Aは、下方へ向かうにつれて炉蓋の内径が大きくなるような形状であれば傾斜面に限らず、例えば段差部を有する形状などとしてもよい。
【0025】
拡径部の上部10Aを傾斜面とすることで、ノズル13の角度(ノズル13から噴射される冷却水角度)に対して内壁7の角度をほぼ直角にすることができ、抜熱の効率を上げることができる。また、拡径部の上部10Aを傾斜面形状とすることで、段差形状とする場合に比べ、排水(冷却水)が溜まることを抑制することができる。
【0026】
なお、本実施形態では、上述した拡径部9は、排水路1の内壁7側の全周、すなわち分岐部4と非分岐部5の両方に形成されている。しかし、排水が溜まりやすいのは外周排水溝2が設けられていない非分岐部5であるため、拡径部9は、少なくとも排水路1の非分岐部5に面する内壁7に形成されていればよい。つまり、排水路1の分岐部4に外周排水溝2が接続され、その排水路1の分岐部4の内壁7側は、容器の開口部の内径と同一の半径を持つ円筒状としてもよい。外周排水溝2が設けられた分岐部4の内壁7側を、容器の開口部の上端の内径と同一の円筒状とすることで、炉蓋の製造や補修が容易となる。また、容器の開口部の上端面と炉蓋の底壁11との重なりが大きくなるため、溶鋼と外気との遮断性を高めることができる。
【0027】
本実施形態では、特に外周排水溝2を設けない排水路1の非分岐部5では、
図4に示すように排水路1の内壁7側の下端を容器の外側にずらして拡径部9を形成する。ここで、以下の説明では、排水路1の内壁7側の下端の容器の開口部上端に対する外側へのずれをセットバック12という。
このセットバック12により、炉蓋を容器20に取着した時、溶鋼面(溶融金属面)14から発する輻射熱のうち、一部は容器20の開口部の上端の縁に遮られて排水路1の内壁7側に達しなくなる。この効果は、下部ほど顕著になる。
【0028】
また、本実施形態の炉蓋の内壁7において、排水路1に溜まる冷却水15(排水溜まり水)の水位高さ18より上の部分は、冷却水のスプレーによって強冷却されるため、ヒートクラックは発生しにくい。一方、排水溜まり水の水位高さ18より下の部分は、溶鋼面(溶融金属面)14から発する輻射熱が遮られる効果がより顕著になる。
したがって、冷却と熱負荷の点から、排水路1における排水溜まり水の水位高さ18の内壁7(鉄皮)部分で、もっともヒートクラックが発生しやすく、水位高さを下げることが重要である。
【0029】
排水路1における排水溜まり水の水位高さ18は、溜まり水が外周排水溝2のある分岐部4(排水がほとんど溜まらない範囲)に流れ出す流速によって決まるが、これは四角堰に相当するものであり、トリチェリの定理によれば、水位高さの深い位置ほど流出流速が大きくなる。
このため、炉蓋の内壁7の拡径部9の下部10を外側に向かって傾斜させてしまうと、つまり下方へ向かって内径を大きくしてしまうと、流出流速が速くなる水位高さの深い位置での水平面積が小さく、結果として、同一流出量では水位が高くなる。
これに対し、炉蓋の内壁7の拡径部9の下部10について、内径を変えない、つまり垂直に下方へ向かう、又は内径を小さくする、つまり容器20の内側に傾斜させ、水位高さの深い位置ほど水平面積を広くすることで水位を下げることが可能である。
【0030】
また、本実施形態では、拡径部9の内径が最大となる位置(最大内径の位置)10Bは、排水路1に溜まる冷却水15(排水溜まり水)の最大の水位高さ18に基づいて設定される。炉蓋の外壁8の位置が一定であるとした場合、内壁7の内径を大きくすればするほど、内壁7の熱負荷を下げる効果、すなわち溶鋼面14が容器の縁に遮られる面積17を増やす効果がある一方、排水路1の流路が狭くなって水位が高くなるという相反関係があり、内壁7の位置には最適値がある。また、内壁7のセットバック12量と、溶鋼面(溶融金属面)14の高さ(容器の開口部の上端面から溶鋼面(溶融金属面)14までの距離19)との間には、相関関係がある。
【0031】
そこで、セットバック12量を溶融金属面の高さ(距離19)で除する値と、容器の溶鋼面(溶融金属面)14の表面積に対する排水溜まり水の水面高さから視野に入る溶鋼(溶融金属)の表面積である可視溶鋼面積16の割合及び排水溜まり水の水位高さ18(排水水位)との関係について、外周排水溝2を設置した場合(
図1)と従来の排水路1を有する場合(
図3)で検討した結果を
図5に示す。ここで、セットバック12量とは、容器20の開口部上端に対する排水路1の内壁7側の下端の外側へのずれ量、すなわち容器20の開口部内径と拡径部9の最大内径10Bの差(半径差)の距離をいう(
図2(c)、
図4)。いずれの場合においても、可視溶鋼面積16の割合は、(セットバック12量)/(距離19)を0.20まで増やすにつれて、小さくなっていく。
しかし、その分、排水溜まり水の水位高さ18が上がっていくため、(セットバック12量)/(距離19)が0.20を超えると、むしろ可視溶鋼面積16が大きくなる。このため、
図5では、(セットバック12量)/(距離19)は0.20が最適値となる。
内壁の熱負荷を下げる観点から、可視溶鋼面積16は90%以下であることが好ましく、
図5では、従来の排水路1(
図3)を有する炉蓋において(セットバック12量)/(距離19)が0.10のときに可視溶鋼面積16が90%となる。したがって、溶融金属が収容されている容器に炉蓋を取着する場合のセットバックは、内壁の熱負荷を下げるため、下記の式(1)を満足する範囲で設定する。
(セットバック量)/(溶融金属面の高さ)>0.10・・・式(1)
【0032】
なお、外周排水溝2を設置した場合は、排水路1における排水溜まり水の水位高さ18が低いため、可視溶鋼面積16の割合については、外周排水溝2を設置した場合の方が、より低くすることができる。
【実施例】
【0033】
従来の炉蓋と上記実施形態の炉蓋において、炉蓋の内壁面を冷却しその効果を確認した。
(1)従来の炉蓋(
図3)
炉蓋の内壁における熱伝達係数は6,000~7,500W/m
2・K、排水溜まり水部における熱伝達係数は600~2,500W/m
2・Kであり、冷却水によるスプレー冷却は排水路の溜まり水に比べ、冷却能力は高い。
排水路における溜まりの最大水位hを次のように算出した。
【数1】
【数2】
v(y):排水の水面の高さhから深さyにおける流出速度
g:重力加速度
W:排水路から2カ所の流出 流出断面の幅 281mm
Q:流出量
排水量=給水量:180 t/h
その結果、排水水位hは96.8mm、可視溶鋼面積の割合は100%(セットバックなし)であった。炉蓋の内壁において、排水の水面高さ位置で微小のヒートクラックが観察された。これは、水位96.8mmから下の内壁は、スプレー水による強冷却を受けられず、熱負荷を受けたためと考えられる。
【0034】
(2)上記実施形態の炉蓋(
図1、
図2)
炉蓋の中空部内に冷却水を噴射するためのノズルを設置し、外周排水溝を設置し、さらに内壁の下端(排水路の内壁側)に拡径部を形成し、炉蓋の内径を拡大し、拡径部の上部は、下方に向かい傾斜面とし、拡径部の下部10は、円筒状として、炉蓋の内径を一定にした構造を有する炉蓋で冷却水により冷却を行った。(セットバック量)/(溶融金属面の高さ)は、0.20であった。
その結果、排水水位は120.0mmであり、可視溶鋼面積の割合は76%と評価された。炉蓋の内壁でヒートクラックは発生しなかった。
【符号の説明】
【0035】
1 排水路
1A 排水口
2 外周排水溝
3 炉蓋吊アーム
4 分岐部
5 非分岐部
7 内壁
8 外壁
9 拡径部
10 拡径部の下部
10A 拡径部の上部
10B 拡径部の内径が最大となる位置
11 底壁
12 セットバック
13 ノズル
14 溶鋼面(溶融金属面)
15 排水路に溜まる冷却水(排水溜まり水)
16 排水溜まり水の水面高さから視野に入る溶鋼(溶融金属)の表面積:可視溶鋼面積
17 溶鋼(溶融金属面)が容器の縁に遮られる面積
18 排水溜まり水の水位高さ
19 容器の開口部の上端面から溶鋼面(溶融金属面)までの距離
20 容器