(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】温度制御システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/633 20140101AFI20241203BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20241203BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20241203BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20241203BHJP
H01M 10/6568 20140101ALI20241203BHJP
H01M 10/6571 20140101ALI20241203BHJP
H01M 10/663 20140101ALI20241203BHJP
【FI】
H01M10/633
B60H1/22 611D
B60H1/22 671
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/6568
H01M10/6571
H01M10/663
(21)【出願番号】P 2022021580
(22)【出願日】2022-02-15
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 優
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-055342(JP,A)
【文献】特開2019-169260(JP,A)
【文献】特開2020-026197(JP,A)
【文献】特開2020-040431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H1/00-3/06
B60K11/00-15/10
B60L1/00-3/12
B60L7/00-13/00
B60L15/00-58/40
H01M10/52-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調用熱媒体を循環するとともに前記空調用熱媒体と室内空気の熱交換によって室内の温度を調整する空調回路と、
電池用熱媒体を循環するとともに、前記電池用熱媒体と電池の熱交換によって電池の温度を調整する電池温調回路と、
前記空調用熱媒体と、前記電池用熱媒体の間で熱交換する熱交換器と、
前記電池の電池温度を検出する温度計と
前記空調回路と、前記電池温調回路を制御する制御部と、
を含み、
前記空調回路は、
前記空調用熱媒体を加熱する加熱部と、
前記空調用熱媒体の流量を調整する空調用流量調整部と、
を含み、
前記電池温調回路は、
前記電池用熱媒体の流量を調整する電池用流量調整部、
を含み、
前記制御部は、前記電池の昇温要求と、前記室内の暖房要求と、前記電池温度と、に応じて、前記空調用熱媒体および前記電池用熱媒体のうちの少なくとも一方の流量を可変制御する、
温度制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の温度制御システムであって、
前記制御部は、前記昇温要求と、前記暖房要求と、前記電池温度と、に応じて、前記電池用熱媒体の流量を可変制御する、
温度制御システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の温度制御システムであって、
前記昇温要求は、前記電池の急速充電を行うときに発せられる要求である、
温度制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の加熱および室内の暖房の両方を行う温度制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車室内の温度調節を行う冷媒が循環する冷媒回路と、前記冷媒との間で熱交換を行う液体が循環し車室内の温度調節を行う加熱回路と、前記冷媒との間で熱交換を行う液体を高電圧バッテリに導入することで高電圧バッテリの温度調節を行う電池温度調節回路と、を備える、車両の熱管理システムが示されている。そして、加熱回路は高電圧ヒータを有しており循環する液体を加熱することができる。
【0003】
従って、高電圧ヒータにより車室内の暖房や高電圧バッテリの昇温を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、高電圧ヒータにより加熱した液体を利用して暖房を行うことおよびこれを電池温度調節回路に導入して高圧バッテリを昇温することが示されている。ここで、高電圧ヒータの熱を電池の昇温と暖房の両方に使用する場合には、状況に応じて電池と暖房に適切に熱を分配することが求められるが、特許文献1では、このような点について考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空調用熱媒体を循環するとともに前記空調用熱媒体と室内空気の熱交換によって室内の温度を調整する空調回路と、電池用熱媒体を循環するとともに、前記電池用熱媒体と電池の熱交換によって電池の温度を調整する電池温調回路と、前記空調用熱媒体と、前記電池用熱媒体の間で熱交換する熱交換器と、前記電池の電池温度を検出する温度計と前記空調回路と、前記電池温調回路を制御する制御部と、を含み、前記空調回路は、前記空調用熱媒体を加熱する加熱部と、前記空調用熱媒体の流量を調整する空調用流量調整部と、を含み、前記電池温調回路は、前記電池用熱媒体の流量を調整する電池用流量調整部、を含み、前記制御部は、電池の昇温要求と、室内の暖房要求と、前記電池温度と、に応じて、前記空調用熱媒体および前記電池用熱媒体のうちの少なくとも一方の流量を可変制御する。
【0007】
前記制御部は、前記昇温要求と、前記暖房要求と、前記電池温度と、に応じて、前記電池用熱媒体の流量を可変制御するとよい。
【0008】
前記昇温要求は、前記電池の急速充電を行うときに発せられる要求であるとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電池の昇温要求と、暖房要求と、電池温度と、に応じて、電池用熱媒体の流量を可変制御することで、電池昇温と暖房への熱量分配を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る温度制御システムのシステム構成を示すブロック図である。
【
図2】空調回路10および電池温調回路20の制御を示すフローチャートである。
【
図3】大出力と、通常出力におけるウォーターポンプ22のデューティー比の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。
【0012】
「システム構成」
図1は、実施形態に係る温度制御システムのシステム構成を示すブロック図である。なお、本システムは、車両に搭載されることを前提としている。
【0013】
温度制御システム1は、空調回路10と、電池温調回路20と、両者の間で熱交換する熱交換器30を含む。
【0014】
空調回路10は、空調用熱媒体を循環する回路であり、ウォーターポンプ(WP)12と、ヒータ14と、ヒータコア16を含む。ウォーターポンプ12により吐出された空調用熱媒体は、ヒータ14により加熱昇温された後、ヒータコア16を通過し、ヒータコア16において室内空気との熱交換により室内空気を昇温する。なお、ヒータ14を加熱部と呼ぶ。
【0015】
空調用熱媒体としては、例えば防錆剤などを添加した水などの液体が採用され、ウォーターポンプ12としては各種の液体ポンプが採用可能である。ヒータ14は、車載バッテリからの電力の供給を受け発熱する電熱ヒータが採用され、通路を流通する空調用熱媒体を伝熱で加熱するとよい。ヒータコア16は、熱交換器であり、空調用熱媒体が流通する通路の外側に室内空気が流通され、ここで熱交換によって室内空気が昇温される。室内空気をヒータコア16に流通されるためにブロア18が設けられている。なお、ウォーターポンプ12を空調用流量調整部と呼ぶ。
【0016】
また、ヒータ14からヒータコア16に向かう流路には、分岐弁44が設けられており、ヒータ14からの空調用熱媒体の一部または全部がヒータコア16をバイパスして熱交換器30に循環できるようになっている。
【0017】
電池温調回路20は、電池用熱媒体を循環する回路であり、ウォーターポンプ(WP)22より吐出された電池用熱媒体を、電池24に流通し、ここにおける熱交換によって、電池24を昇温する。ウォーターポンプ22を電池用流量調整部と呼ぶ。
【0018】
電池用熱媒体には空調用熱媒体と同様の水などの液体が採用でき、またウォーターポンプ22にはウォーターポンプ12と同様なものを採用できる。
【0019】
電池24は、例えばリチウムイオン電池が採用され、所定数の電池セルの直列接続で所定の電圧を得るとともに、並列接続で所定の電池容量を確保する。電池24の出力は、通常数100V以上であり、車両の駆動用モータの電源などとして使用され、またDCDCコンバータなどで降圧して、補機電池の充電に利用される。ヒータ14は、補機電池から電力供給を受けてもよいが、電池24から直接電力供給を受けることも可能である。電池24のケース内に電池用熱媒体の流路が形成され、ここにおける熱交換で電池24が昇温される。
【0020】
熱交換器30は、空調用熱媒体の流路と電池用熱媒体の流路が隣接することで、両者間での熱交換を行う。
【0021】
電池24には、温度計32が取り付けられており、電池温度(電池セルの温度)が測定される。温度計32により測定された電池温度は、制御部40に供給される。
【0022】
制御部40には、室内温度や、暖房スイッチの状態(暖房要求)、電池24の充電要求などの情報が供給され、ウォーターポンプ12,22の駆動などを制御する。制御部40は、電池24の充電要求があって電池温度が低い時には、電池温調回路20により電池24を昇温する。また、暖房要求がある場合には、空調回路10により室内を暖房する。そして、電池温調回路20は、熱交換器30からの熱、すなわちヒータ14の熱を利用して電池24を昇温するため、電池昇温と暖房の両方の要求がある場合には、ヒータ14による熱を空調回路10と電池温調回路20の両者で利用する。そこで、制御部40が、ヒータ14からの熱の分配を調整する。
【0023】
「システムの制御」
図2は、制御部40による、空調回路10および電池温調回路20の制御を示すフローチャートである。
【0024】
まず、充電要求、特に急速充電要求があるかを判定する(S11)。例えば、停車中であって、外部の急速充電器からの電力で、電池24の充電を行う場合が該当する。また、この急速充電は、ハイブリッド車において、エンジンによる発電電力で充電を行う場合や、回生制動による回生電力によって充電を行う場合を含んでよい。
【0025】
S11の判定で、NOであれば、充電中の処理は不要であり、処理を終了する。S11の判定で、YESであれば、電池温度が設定温度1より低いかを判定する(S12)。設定温度1は電池24の昇温が必要か否かを判定する温度であり、例えば5-10℃程度の温度が採用される。電池温度が設定温度1より低くなければ電池昇温は不要であり、処理を終了する。
【0026】
S12の判定でYESであれば、暖房要求があるかを判定する(S13)。S13の判定でNOであれば、分配の処理は不要であり、処理を終了する。なお、上述したように、暖房要求は、室内における暖房のスイッチのオンにより検出すればよい。S13の判定でYESであれば、ヒータ14の出力を最大とする(S14)。電池昇温要求と、暖房要求の両方があった場合には、要求される熱量が大きいため、ヒータ14の発熱量を最大にした上で、分配する。
【0027】
次に、電池温度が設定温度2より低いかを判定する(S15)。設定温度2は、例えば0℃程度にする。これは、電池温度が0℃程度以下になると、電池セルの充電特性がかなり悪化し、電池24を昇温する必要性が大きくなるからである。
【0028】
S15の判定で、YESの場合には、空調回路10におけるウォーターポンプ12の出力を大出力に設定し、かつ分岐弁(三方弁)44を制御して、バイパスをオン、すなわちバイパス側に空調用熱媒体を分岐させる(S16)。分岐させる量は予め決定しておくとよく、例えば50%程度の値とするとよい。また、電池温度に応じて、電池温度が低いほど分岐量が多くなるように、分岐量を変更してもよい。
【0029】
さらに、電池温調回路20のウォーターポンプ22の出力を大出力に設定する(S17)。
【0030】
このように、S15の判定でYESの場合には、ヒータ14の出力を最大に設定して加熱量を最大とした状態で、空調回路10における熱交換器30に流通する空調用熱媒体の流量を大きくし、さらに電池温調回路20における熱交換器30に流通する空調用熱媒体の流量を大きくする。これによって、電池24に流通する電池用熱媒体の流量を大きくするできるとともに、その温度も高くなり、電池24の加熱量を大きくして、昇温を早めることができる。一方、ヒータコア16に流れる空調用熱媒体の量が少なくなり、暖房については十分ではなく、電池昇温を優先する電池昇温優先処理となる。
【0031】
S15の判定でNOの場合には、空調回路10におけるウォーターポンプ12の出力を通常に設定し、かつ分岐弁44によりバイパスをオフ、すなわちバイパス側に空調用熱媒体を分岐させない(S18)。また、電池温調回路20のウォーターポンプ22の出力を大出力に設定する(S19)。
【0032】
このように、S15の判定でNOの場合には、ヒータ14の出力を最大に設定し、空調回路10における熱交換器30に流通する空調用熱媒体の流量を大きくすることは同じであるが、空調回路10のバイパスはオフとしてヒータコア16に全量を流通する。従って、ヒータコア16に流れる空調用熱媒体の量は大きくなり、暖房について十分なものとなる。電池温調回路20における熱交換器30に流通する空調用熱媒体の流量を通常に設定する。これによって、電池24に流通する電池用熱媒体の流量は通常の流量になり、熱交換器30で受け取る熱量は、S15でYESの場合に比べ少なくなり、電池24の昇温については制限されたものになる。
【0033】
このように、S15の判定においてNOの場合には、電池24の昇温より、暖房を優先する暖房優先処理となる。
【0034】
図3には、ウォーターポンプ22の大出力と、通常出力の場合のウォーターポンプ22へ供給する電力のデューティー比の時間変化が示してある。このように、大出力の場合は立ち上がりが早く、設定されるデューティー比が大きく、通常出力の場合設定されるデューティー比が比較的小さい。このようなデューティー比の設定によって、ウォーターポンプ22の流量を設定することができる。なお、ウォーターポンプ12についても同様にデューティー比により流量を制御することができる。
【0035】
上記実施形態では、急速充電の際の電池24の昇温を対象とした。しかし、充電時でなくても、電池セルは低温であると能力が低くなる。そこで、電池温度が低温であり電池24の昇温要求と、暖房要求が重なった場合には、上述のような処理を適用するとよい。
【0036】
ここで、S15でYESの電池昇温優先の場合に、ブロア18の風量を少なくして、ヒータコア16での放熱量を少なくして、電池昇温に回す熱量を大きくしてもよい。
【0037】
また、S15でNOの暖房優先の場合には、室内の温度を計測し、目標温度との差に応じてブロア18の風量を自動調整してもよい。すなわち、目標温度との差が大きい場合に風量を大きくすることで、室温を目標温度に近づけることができる。さらに、目標温度との差が小さい時には、目標温度との差に応じてウォーターポンプ12の流量を自動調整してもよい。すなわち、目標温度との差が大きい場合に流量を大きくする。
【符号の説明】
【0038】
1:温度制御システム、10:空調回路、12:ウォーターポンプ、14:ヒータ、16:ヒータコア、18:ブロア、20:電池温調回路、22:ウォーターポンプ、24:電池、30:熱交換器、32:温度計、40:制御部、44:分岐弁。