(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】スポット溶接におけるナゲット径の推定方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20241203BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20241203BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20241203BHJP
B23K 11/25 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B23K31/00 Z
G06N20/00
B23K11/11 593Z
B23K11/25
(21)【出願番号】P 2022025335
(22)【出願日】2022-02-22
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松木 優樹
(72)【発明者】
【氏名】泉野 亨輔
(72)【発明者】
【氏名】関口 智彦
(72)【発明者】
【氏名】小倉 修平
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-160510(JP,A)
【文献】特開平11-58028(JP,A)
【文献】特開2019-185530(JP,A)
【文献】特開2020-179406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
G06N 20/00
B23K 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接におけるナゲット径の推定方法であって、
前記ナゲット径の大小に影響を与え得る外乱条件を変化させて前記スポット溶接を実行した場合の前記ナゲット径と、前記スポット溶接における溶接パラメータの時系列データである溶接波形とを、前記外乱条件ごとに紐付けた教師データを含む、データセットを取得する取得工程と、
前記データセットを学習済みの第1学習モデルに入力することによって、予め定められた複数の特徴パラメータごとの値を、前記溶接波形の特徴量として生成する特徴量生成工程と、
前記特徴パラメータと、前記特徴パラメータに対応する前記特徴量と、を学習済みの第2学習モデルに入力することによって、前記ナゲット径との相関が高い前記特徴パラメータを選別する選別工程と、
複数の機械学習モデルである複数の回帰モデルのそれぞれに対して、選別された前記特徴パラメータに係る前記特徴量を入力することによって、前記選別された前記特徴パラメータに係る前記特徴量を説明変数とし、前記ナゲット径を目的変数とした回帰式を、前記複数の回帰モデルのそれぞれについて機械学習によって作成する回帰式作成工程と、
機械学習された複数の前記回帰式の中から、前記ナゲット径との相関が高い回帰式を選定する回帰式選定工程と、を備える、推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スポット溶接におけるナゲット径の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タガネ試験などの実物確認に基づいた溶接品質の良否に係る判定結果を学習した機械学習モデルを用いて、スポット溶接の溶接品質を診断する技術が知られている(特許文献1)。この技術では、電極間変位量などの溶接時における時系列的な推移を示す時系列データが内部関数として入力され、溶接品質の良否が出力されるように構成された機械学習モデルに対して、実物確認による判定結果が直接に入力される。これにより、閾値やパラメータの調整などを行うことなく、内部関数の学習が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、溶接品質を判定するための内部関数をシステムが一から学習している。つまり、時系列データに含まれる種々の特徴の中から溶接品質の良否に関わる要素を抽出するための抽出項目の選別についても、学習の過程で行う必要がある。そのため、より精度の高い内部関数を構築するためには、大量のデータを準備する工数を要する。また、従来の技術では、システムが内部関数を構築するため、内部関数に複雑な特徴量が含まれる場合が生じ得る。そのため、内部関数に不備が生じた場合に、修正すべき箇所や修正方法を人間が理解することが困難となる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、スポット溶接におけるナゲット径の推定方法が提供される。スポット溶接におけるナゲット径の推定方法は、前記ナゲット径の大小に影響を与え得る外乱条件を変化させて前記スポット溶接を実行した場合の前記ナゲット径と、前記スポット溶接における溶接パラメータの時系列データである溶接波形とを、前記外乱条件ごとに紐付けた教師データを含む、データセットを取得する取得工程と、前記データセットを学習済みの第1学習モデルに入力することによって、予め定められた複数の特徴パラメータごとの値を、前記溶接波形の特徴量として生成する特徴量生成工程と、前記特徴パラメータと、前記特徴パラメータに対応する前記特徴量と、を学習済みの第2学習モデルに入力することによって、前記ナゲット径との相関が高い前記特徴パラメータを選別する選別工程と、複数の機械学習モデルである複数の回帰モデルのそれぞれに対して、選別された前記特徴パラメータに係る前記特徴量を入力することによって、前記選別された前記特徴パラメータに係る前記特徴量を説明変数とし、前記ナゲット径を目的変数とした回帰式を、前記複数の回帰モデルのそれぞれについて機械学習によって作成する回帰式作成工程と、機械学習された複数の前記回帰式の中から、前記ナゲット径との相関が高い回帰式を選定する回帰式選定工程と、を備える。この形態によれば、溶接波形に含まれる種々の特徴の中からナゲット径との相関が高い要素を抽出するための抽出項目が予め設定された学習モデルによって、回帰式の説明変数として用いる特徴パラメータおよび特徴量を選別することができる。さらに、この形態によれば、外乱条件を変化させてスポット溶接を実行した場合のナゲット径と溶接波形とを、外乱条件ごとに紐付けた教師データを含むデータセットを用いて、回帰式が作成される。これにより、データセットに含まれる教師データの数が少ない場合であっても、特徴パラメータの選別に係る精度が低下することを抑制できる。よって、大量のデータを準備する工数を要することなく、より精度の高い回帰式を選別して、ナゲット径を推定することができる。また、この形態によれば、特徴パラメータの種類および特徴パラメータの選別方法が予め設定されており、選別された特徴パラメータに係る特徴量が回帰式の説明変数として用いられる。そのため、特徴パラメータおよび特徴量の選別に係る根拠や、説明変数を構成する要素を人間が把握することができる。つまり、学習の過程において、回帰式を導き出す根拠となるパラメータを人間が認識することができる。よって、回帰式に不備が生じた場合に、修正すべき箇所や修正方法を人間が理解しやすくできる。
本開示は、上記のスポット溶接におけるナゲット径の推定方法以外の種々の形態で実現することが可能である。例えば、スポット溶接におけるナゲット径の推定装置の製造方法、推定装置の制御方法、その制御方法を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムに記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態におけるスポット溶接装置の概略構成を示す模式図。
【
図3】本実施形態におけるナゲット径の推定方法を示すフローチャート。
【
図5】抵抗値の溶接波形を外乱条件ごとに示したグラフ。
【
図6】加圧力の溶接波形を外乱条件ごとに示したグラフ。
【
図7】外乱条件を変化させて溶接した場合におけるナゲット径の一例を示す図。
【
図8】特徴量生成工程の詳細を示すフローチャート。
【
図9】第1学習モデルから出力される選別前特徴量データの一部を示す図。
【
図11】第2学習モデルから出力される選別後特徴量データの一部を示す図。
【
図13】回帰式作成工程の詳細を示すフローチャート。
【
図14】回帰式選定工程の詳細を示すフローチャート。
【
図16】第2実施形態における選別工程の詳細を示すフローチャート。
【
図17】選別された特徴パラメータの特徴量とナゲット径との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、本実施形態におけるスポット溶接装置10の概略構成を示す模式図である。スポット溶接装置10は、複数の金属板W1,W2を重ね合わせた被溶接材Wを溶融して接合する装置である。スポット溶接装置10は、スポット溶接ガンGと、ロボットアームRAと、制御装置100と、測定機構9と、を備える。
【0009】
スポット溶接ガンGは、ガン本体1と、一対の電極である上部電極2および下部電極3と、電極昇降装置4と、電流調整装置5とを備える。ガン本体1は、ロボットアームRAに保持されている。上部電極2はガン本体1の上部1aに電極昇降装置4を介して装着されている。下部電極3は、ガン本体1の下部1bに配置されている。被溶接材Wを溶接する場合には、上部電極2と下部電極3とによって被溶接材Wが挟まれて加圧され、上部電極2と下部電極3との間に電流が流される。これにより、抵抗発熱によって被溶接材Wが溶融して、その後に凝固することで、複数の金属板W1,W2が接合される。複数の金属板W1,W2が接合された接合界面には、ナゲットが形成される。ナゲットは、金属板W1,W2が溶融した後に凝固した接合部分である。ナゲットの形状は、一般に、接合部を中心面とする概ね碁石形状である。
【0010】
電極昇降装置4は、上部電極2を保持して昇降させる電動式の装置である。電極昇降装置4は、ガン本体1の上部1aの先端に装着されている。電極昇降装置4は、サーボモータ41と、サーボモータ41の駆動軸と結合している昇降部材42とを備える。電極昇降装置4は、制御装置100からの指令信号に従ってサーボモータ41を作動させることで、昇降部材42を昇降させる。これにより、上部電極2と下部電極3との間で被溶接材Wが挟持される。
【0011】
電流調整装置5は、制御装置100から送信される電流指令に応じて上部電極2と下部電極3との間に流す溶接電流の値(以下、電流値)を調整する。電流調整装置5は、例えば、可変抵抗器を備えた装置やコンバータを備えた装置である。
【0012】
制御装置100は、スポット溶接装置10の動作を制御すると共に、溶接品質を判定する一手段としてスポット溶接におけるナゲットの寸法(以下、ナゲット径D1)を推定する。つまり、本実施形態では、制御装置100は、スポット溶接におけるナゲット径D1を推定するための推定装置としての機能を併せ持つ。なお、推定装置は、制御装置100とは別体に構成され、有線や無線によってデータ通信する構成であってもよい。
【0013】
図2は、制御装置100の概略構成を示す図である。制御装置100は、通信部30と、ディスプレイ40と、入力操作部50と、記憶部60と、CPU20とを備える。制御装置100は、例えば、各構成要素20~60を備えるコンピュータである。通信部30は、スポット溶接装置10における他の構成要素と、制御装置100とを通信可能に接続する。ディスプレイ40は、例えば、液晶ディスプレイであり、CPU20の指令に応じて、情報を表示する。入力操作部50は、例えば、キーボードやマウスを有し、ユーザからの指示を受け付ける。
【0014】
記憶部60は、スポット溶接装置10の動作を制御する各種プログラムと、後述するデータセットDと、後述する複数の機械学習モデルMとを含む各種情報を記憶する。本実施形態では、機械学習モデルMは、第1学習モデルM1と、第2学習モデルM2と、第1回帰モデルMR1と、第2回帰モデルMR2と、第3回帰モデルMR3と、によって構成されている。データセットDおよび機械学習モデルMの詳細は、後述する。記憶部60は、RAMやROM、書き換え可能な不揮発性メモリなどを含む。
【0015】
CPU20は、記憶部60に記憶された各種プログラムを展開することにより、動作制御部210と、取得部220と、特徴量生成部230と、特徴量選別部240と、回帰式作成部250と、回帰式選定部260として機能する。
【0016】
動作制御部210は、スポット溶接装置10の動作を制御する。スポット溶接装置10の動作は、溶接に際して予め設定されたパラメータ(以下、溶接パラメータ)に応じて制御される。つまり、溶接パラメータは、スポット溶接を実行する際に予め設定される溶接条件である。溶接パラメータは、例えば、電流値、電圧値、通電時間、通電のタイミング、電極2,3の加圧力、加圧のタイミング、上部電極2の変位量(以下、電極変位)である。動作制御部210は、これらの動作を統合的に制御する。スポット溶接装置10の動作は、例えば、入力操作部50を介して、溶接パラメータがユーザによって設定されることで、動作制御部210により制御される。
【0017】
取得部220は、ナゲット径D1と、測定機構9によって測定された各種データD2を含むデータセットDを取得する。特徴量生成部230は、データセットDを学習済みの第1学習モデルM1に入力して、後述する特徴パラメータごとの特徴量を生成する。特徴量選別部240は、生成された特徴量などのデータを学習済みの第2学習モデルM2に入力して、後述する特徴パラメータを選別する。回帰式作成部250は、スポット溶接におけるナゲット径D1を推定するための複数の回帰式F1~F3を、第1回帰モデルMR1~第3回帰モデルMR3を機械学習することで作成する。回帰式選定部260は、ナゲット径D1との相関が高い回帰式F1~F3を選定する。なお、CPU20の少なくとも一部の機能は、ハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0018】
図1に示すように、測定機構9は、スポット溶接装置10を用いた溶接に必要な物理量として、溶接パラメータの実測値を測定する機構である。ここで言う溶接パラメータの実測値とは、動作制御部210から送信される溶接条件に係る指令、つまり、予め設定された溶接パラメータに応じてスポット溶接を実行した場合に、実際に観測される溶接パラメータの値である。本実施形態では、測定機構9は、
図2に示すように、電流測定部91と、電圧測定部92と、抵抗値算出部93と、加圧力測定部94と、電極変位測定部95とを備える。
【0019】
電流測定部91は、上部電極2と下部電極3との間に流れた実際の電流値を測定する。電流測定部91は、例えば、電流センサである。電流測定部91は、スポット溶接が実行されている間(以下、溶接中)において、予め定められた時間ごとに電流値を測定する。
【0020】
電圧測定部92は、上部電極2と下部電極3との間における電圧(電位差)を測定する。電圧測定部92は、例えば、電圧センサである。電圧測定部92は、溶接中において、予め定められた時間ごとに電圧値を測定する。
【0021】
抵抗値算出部93は、通電時において測定された電流値と電圧値とを用いて電気抵抗の値(以下、抵抗値)を算出する。具体的には、抵抗値算出部93は、電圧値を電流値で除算することで、抵抗値を算出する。このとき、抵抗値の算出には、溶接中において同じタイミングで測定された電流値と電圧値とが用いられる。なお、抵抗値算出部93は、CPU20の一機能として実現されてもよい。
【0022】
加圧力測定部94は、被溶接材Wに対する各電極2,3による加圧力を測定する。加圧力測定部94は、例えば、電極昇降装置4の内部に収容されたロードセルである。加圧力測定部94は、溶接中において、予め定められた時間ごとに加圧力を測定する。
【0023】
電極変位測定部95は、上部電極2の昇降位置を測定する。電極変位測定部95は、例えば、電極昇降装置4の内部に収容され、サーボモータ41の出力軸の回転角度位置を検出して上部電極2の昇降位置を測定するエンコーダである。電極変位測定部95は、溶接中において、予め定められた時間ごとに上部電極2の昇降位置を測定する。
【0024】
測定機構9によって測定された溶接パラメータの実測値は、通信部30を介して、CPU20に送信される。なお、測定機構9は、他の溶接パラメータを測定するための機構やナゲット径D1を測定するための機構をさらに備えてもよい。例えば、ナゲット径D1を非破壊検査によって測定する場合には、ナゲット径D1を測定するためのナゲット径測定部を設けてもよい。この場合、ナゲット径測定部は、例えば、超音波法や電磁気法によってナゲット径D1を測定する装置である。
【0025】
図3は、本実施形態におけるナゲット径D1の推定方法を示すフローチャートである。本実施形態では、制御装置100(
図2)が
図3に示すステップS1~ステップS9を実行することで、ナゲット径D1を推定するための回帰式F1~F3が機械学習によって取得される。これにより、溶接条件(例えば、複数の溶接パラメータの少なくとも1つの値)を変更した場合に、変更後の溶接パラメータなどを回帰式F1~F3に入力することで、変更後の溶接条件おいてスポット溶接を実行したときのナゲット径D1が推定可能となる。スポット溶接におけるナゲット径D1の推定方法は、取得工程(ステップS1)、特徴量生成工程(ステップS3)、選別工程(ステップS5)、回帰式作成工程(ステップS7)、回帰式選定工程(ステップS9)の順に実行される。
【0026】
図4は、取得工程(ステップS1)の詳細を示すフローチャートである。取得工程(ステップS1)は、外乱条件を変化させてスポット溶接を実行した場合のナゲット径D1と、後述する溶接波形D2とを、外乱条件ごとに紐付けた教師データを含む、データセットDを取得する工程である。取得工程(ステップS11~ステップS18)では、溶接工程(ステップS11~ステップS14)と、データセット生成工程(ステップS15~ステップS18)とが、この順で実行される。なお、教師データには、外乱条件が後述する正常状態のときの条件(以下、基準外乱条件)も含む。
【0027】
外乱条件とは、ナゲット径D1の大小に影響を与え得る条件である。具体的には、外乱条件は、正常状態におけるスポット溶接を基準とした場合に、正常状態とは異なる基準外状態を意図的に作り出すための条件である。外乱条件を変化させることで、例えば、複数の金属板W1,W2の間に隙間が形成された状態や、金属板W1,W2に対する各電極2,3の接触角度と接触位置との少なくとも一方が正常状態とは異なる状態でスポット溶接が実行される。ここで、本実施形態では、
図1に示すように、水平面に載置された金属板W1,W2に対して、各電極2,3がそれぞれ垂直に接触する状態を正常状態とする。つまり、金属板W1,W2に対する各電極2,3の接触角度が正常状態とは異なる状態で溶接される場合とは、水平面に載置された金属板W1,W2に対して、上部電極2と下部電極3との少なくとも一方が垂直ではない状態で接触する場合を指す。垂直ではない状態とは、例えば、水平面に対して30°傾いた状態である。また、金属板W1,W2に対する電極2,3の接触位置が正常状態とは異なる状態で溶接される場合とは、例えば、金属板W1,W2の端部W1a,W2a側に電極2,3が接触して、端部W1a,W2a側が溶接される場合を指す。なお、外乱条件は、これに限られるものではなく、他の条件であってもよい。以下において、正常状態において溶接されたサンプルを基準サンプルとも呼び、外乱条件を基準外乱条件から変化させた基準外状態で溶接されたサンプルを基準外サンプルとも呼ぶ。
【0028】
図4に示すように、まず、溶接工程(ステップS11~ステップS14)が実行される。溶接工程(ステップS11~ステップS14)は、データセットDを構成する教師データを取得するために、各サンプルを溶接して、溶接に係る各種データを測定する工程である。
【0029】
ステップS11において、外乱条件を変化させてスポット溶接を実行した場合のデータを取得するために、外乱条件が設定される。外乱条件の設定は、例えば、入力操作部50を介してユーザによって行われる。基準サンプルのデータを取得する場合には、外乱条件が「基準外乱条件」となるように設定する。基準外サンプルのデータを取得する場合は、基準外乱条件から変化させた所望の外乱条件を設定する。このとき、1個のサンプルを溶接する場合には、基準外乱条件に対して、1種類の外乱条件を変化させてもよいし、2種類以上の外乱条件を同時に変化させてもよい。本実施形態では、基準サンプルと、基準外乱条件からそれぞれ1種類の外乱条件を変化させた複数の基準外サンプルと、が準備されている。具体的には、基準外サンプルとしての第1基準外サンプル、第2基準外サンプル、および、第3基準外サンプルと、基準外乱条件の基準サンプルと、の4種類のサンプルをスポット溶接によって形成する。基準サンプルと第1~第3基準外サンプルとはそれぞれ、例えば、25個ずつ作製される。この場合、教師データとして、合計で100個のデータが取得される。
【0030】
ステップS11の後に、ステップS12が実行される。ステップS12において、動作制御部210は、スポット溶接を開始させる。本実施形態では、4種類のサンプルがそれぞれ順に溶接される。なお、各サンプルは、外乱条件が異なるのみで、溶接パラメータの設定値は同一である。
【0031】
ステップS12の後に、ステップS13が実行される。ステップS13において、取得部220は、溶接パラメータの実測値を取得する。具体的には、測定機構9が、予め定められた時間ごとに溶接パラメータの各値を測定する。本実施形態では、電流値、電圧値、加圧力、および電極変位の4つの溶接パラメータが測定される。そして、抵抗値算出部93が、電流値および電圧値の実測値を用いて、抵抗値を算出する。その後、取得部220が溶接パラメータの実測値および抵抗値を取得する。
【0032】
ステップS13の後に、ステップS14が実行される。動作制御部210は、例えば、溶接が開始された時点(以下、開始時点)から予め設定された通電時間が経過した場合に、溶接が完了したと判定する(ステップS14:Yes)。ステップS14において「Yes」の判定が成された場合には、ステップS15およびステップS16が実行される。
【0033】
これに対して、動作制御部210は、例えば、溶接の開始時点から予め設定された通電時間が経過していない場合には、溶接が完了していないと判定する(ステップS14:No)。ステップS14において「No」の判定が成された場合には、動作制御部210は、電極2,3への通電を継続させるなど、スポット溶接装置10の溶接動作を継続させる。そして、ステップS14において「Yes」の判定が成されるまでの間において、ステップS13が繰り返し実行される。つまり、溶接パラメータの実測値は、溶接の開始時点から完了時点までの間において、連続的に測定されている。なお、溶接が完了したか否かの判定は、他の方法によって行われてもよい。
【0034】
溶接工程(ステップS11~ステップS14)の後に、データセット生成工程(ステップS15~ステップS18)が実行される。データセット生成工程(ステップS15~ステップS18)は、溶接工程(ステップS11~ステップS14)において作製されたサンプルのデータから教師データを取得して、データセットDを生成する工程である。
【0035】
ステップS14の後に、ステップS15およびステップS16が実行される。ステップS15において、取得部220は、溶接波形D2を生成する。溶接波形D2は、溶接パラメータの実測値を時系列順に並べた時系列データである。つまり、溶接波形D2は、溶接中における溶接パラメータごとに実測値の推移を表したデータである。
【0036】
図5は、抵抗値の溶接波形D2を外乱条件ごとに示したグラフである。
図6は、加圧力の溶接波形D2を外乱条件ごとに示したグラフである。
図5および
図6では、測定機構9によって測定ないし算出された溶接パラメータのうち、抵抗値と加圧力とのそれぞれにおける溶接波形D2の一例を示している。
図5の縦軸は、抵抗値の実測値を表している。
図5の横軸は、溶接の開始時点からの経過時間を表している。また、
図6の縦軸は、加圧力の実測値を示している。
図6の横軸は、溶接の開始時点からの経過時間を表している。
図5および
図6では、外乱条件の内容による差を分かりやすくするために、基準サンプル、および、第1~第3基準外サンプルの溶接波形D2を異なる線種によって表している。
【0037】
図5および
図6に示すように、外乱条件の内容によって、溶接波形D2の形状が異なる。つまり、溶接波形D2は、外乱条件に応じて異なる傾向を示す。なお、溶接波形D2は、
図5および
図6のように、グラフとして生成されてもよく、テーブルなどの数値データの集合体として生成されてもよい。溶接波形D2は、適宜ディスプレイ40に表示される。
【0038】
データ領域などを調整する前処理が適宜施された溶接波形D2が教師データとして用いられてもよい。データ領域は、例えば、
図5の横軸におけるデータの幅であり、時間幅である。
図5に示すように、溶接の開始時点から完了時点まで継続的に一定以上の変動が見られる溶接パラメータもあれば、
図6に示すように、溶接の開始時点からしばらくの間には、外乱条件に関わらず変動が極めて小さい溶接パラメータもある。そこで、後の学習において、複数の溶接波形D2から特徴量を抽出する場合に、異なる溶接パラメータに係る溶接波形D2同士を比較しやすくするため、データ領域を統一する前処理を施してもよい。なお、前処理の態様は、これに限られるものではない。例えば、溶接波形D2において特徴的なピークなどの特徴部分が見られる場合などには、特徴部分が含まれるデータ領域を切り出した溶接波形D2を生成する前処理を施してもよい。
【0039】
図4に示すように、ステップS16において、外乱条件を変化させたサンプルごとにナゲット径D1を測定する。本実施形態では、基準サンプルおよび第1~第3基準外サンプルは、教師データを得るための実験用サンプルである。よって、これらのナゲット径D1は、タガネ試験などの破壊検査によって測定している。なお、実際の製造過程において生産された製品を教師データとして用いる場合には、非破壊検査などによってナゲット径D1を測定してもよい。
【0040】
図7は、外乱条件を変化させてスポット溶接を実行した場合におけるナゲット径D1の一例を示す図である。
図7では、教師データとして用いられるサンプルのうち、一部のサンプルに係るデータを代表して図示している。
図7に示すように、外乱条件の内容によって、ナゲット径D1が異なる。具体的には、第3基準外サンプルのように基準サンプルにおけるナゲット径D1よりも大きなナゲット径D1が形成される場合と、第1および第2基準外サンプルのように基準サンプルにおけるナゲット径D1よりも小さなナゲット径D1が形成される場合とが観測され得る。なお、ステップS15とステップS16とは、ステップS14の後にステップS18が開始されるまでの間において、いずれか一方が先に実行されてもよく、同時並行的に実行されてもよい。
【0041】
図4に示すように、ステップS15およびステップS16の後に、ステップ18が実行される。ステップS18において、取得部220は、ステップS15において生成された溶接波形D2と、ステップS16において取得されたナゲット径D1と、を外乱条件ごとに紐付けた教師データをサンプルごとに生成する。そして、取得部220は、複数の教師データを含むデータセットDを生成する。生成されたデータセットDは、記憶部60に記憶される。
図4に示すステップS18までの各工程(ステップS11~ステップS18)の実行により、取得工程(ステップS1)は終了する。
【0042】
なお、データセットDに含まれる教師データの数および種類は、これに限られるものではない。データセットDには、例えば、第1~第3基準外サンプルとは異なる外乱条件のサンプルに係るデータが含まれてもよい。また、同じ外乱条件のサンプルを複数準備して、それぞれを教師データとして用いてもよい。
【0043】
図3に示すように、取得工程(ステップS1)の後に、特徴量生成工程(ステップS3)が実行される。
図8は、特徴量生成工程(ステップS3)の詳細を示すフローチャートである。特徴量生成工程(ステップS3)は、データセットDを学習済みの第1学習モデルM1(
図2)に入力することによって、予め定められた複数の特徴パラメータごとの値を、溶接波形D2の特徴量として生成する工程である。
【0044】
ステップS31において、特徴量生成部230は、記憶部60に記憶されたデータセットDを読み込む。
【0045】
ステップS31の後に、ステップS33が実行される。ステップS33において、特徴量生成部230は、読み込まれたデータセットDを学習済みの第1学習モデルM1に入力する。そして、ステップS35において、特徴量生成部230は、第1学習モデルM1からの出力された選別前特徴量データDF1を取得する。選別前特徴量データDF1は、適宜ディスプレイ40に表示される。
【0046】
図9は、第1学習モデルM1から出力される選別前特徴量データDF1の一部を示す図である。
図9では、抵抗値に係る特徴パラメータの一例として、特徴パラメータA~Qが図示され、加圧力に係る特徴パラメータの一例として、特徴パラメータa~fが図示されている。また、
図9では、特徴パラメータに対応する特徴量が、サンプルごと、かつ、溶接パラメータごとに図示されている。
【0047】
第1学習モデルM1は、学習済みの機械学習モデルMである。第1学習モデルM1には、データセットDを入力した場合に、1つのサンプルに対して溶接パラメータごとに存在する複数種類の溶接波形D2から、溶接波形D2ごとの特徴を示す成分(特徴量)を抽出するためのプログラムが記憶されている。第1学習モデルM1は、例えば、プログラミング言語の一種であるpythonによって作成された既存のプログラムによって構成される。
【0048】
第1学習モデルM1には、溶接波形D2に含まれる特徴を、特徴量として抽出するための抽出項目として、複数の特徴パラメータが予め設定されている。そのため、ステップS33(
図8)において、データセットDが第1学習モデルM1に入力されると、特徴量生成部230は、
図9に示すように、各溶接波形D2に対して、特徴パラメータの値を特徴量としてそれぞれ算出する。そして、ステップS35(
図8)において、特徴量生成部230は、特徴パラメータと特徴量との対応関係をサンプルおよび溶接パラメータごとにまとめたデータとして、
図9に示すような選別前特徴量データDF1を生成する。つまり、
図8に示すステップS33およびステップS35は、既存の学習モデルM1のアルゴリズム内に、データセットDを入力することで、特徴パラメータに対応する特徴量を自動的に算出する工程である。
【0049】
特徴パラメータは、例えば、溶接波形D2の最大値や最小値、分散値、フーリエ係数である。本実施形態では、第1学習モデルM1には、約1000種類の特徴パラメータが予め設定されている。つまり、選別前特徴量データDF1には、各サンプルの溶接波形D2ごとに、約1000種類の特徴パラメータに係る値が特徴量として生成される。
【0050】
さらに、選別前特徴量データDF1では、各サンプルに係る特徴量などのデータと、各サンプルのナゲット径D1とが紐付けられている。
【0051】
なお、第1学習モデルM1を構成するプログラムは、pythonによって作成された既存のプログラム以外のプログラムであってもよい。第1学習モデルM1は、任意の特徴パラメータが予め定められ、データセットDを入力した場合に特徴パラメータごとの値を特徴量として算出できればよい。また、特徴パラメータの数や種類、特徴量の値は、これに限定されるものではない。特徴パラメータの種類は、溶接パラメータごとに異なっていてもよく、同一であってもよい。
図8に示すステップS35までの各工程(ステップS31~ステップS35)の実行により、特徴量生成工程(ステップS3)は終了する。
【0052】
図3に示すように、特徴量生成工程(ステップS3)の後に、選別工程(ステップS5)が実行される。
図10は、選別工程(ステップS5)の詳細を示すフローチャートである。選別工程(ステップS5)は、選別前特徴量データDF1を学習済みの第2学習モデルM2(
図2)に入力することによって、選別前特徴量データDF1に含まれる複数の特徴パラメータの中から、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータを選別する工程である。
【0053】
ステップS51において、特徴量選別部240は、記憶部60に記憶された選別前特徴量データDF1を読み込む。
【0054】
ステップS51の後に、ステップS53が実行される。ステップS53において、特徴量選別部240は、読み込まれた選別前特徴量データDF1を学習済みの第2学習モデルM2に入力する。そして、ステップS55において、特徴量選別部240は、第2学習モデルM2から出力された選別後特徴量データDF2を取得する。選別後特徴量データDF2は、適宜ディスプレイ40に表示される。
【0055】
図11は、第2学習モデルM2から出力される選別後特徴量データDF2の一部を示す図である。
図11では、
図10に示す選別工程(ステップS5)の実行により追加されるデータを、
図9の抵抗値に係るデータに追記して図示している。
【0056】
第2学習モデルM2は、学習済みの機械学習モデルMである。第2学習モデルM2には、選別前特徴量データDF1を入力した場合に、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータを選別するためのプログラムが記憶されている。第2学習モデルM2は、例えば、プログラミング言語の一種であるpythonによって作成された既存のプログラムによって構成される。第2学習モデルM2には、例えば、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータを選別するために、相関係数を算出するための第1プログラムと、相関係数を用いてナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータを抽出するための第2プログラムとが含まれる。
【0057】
ステップS53(
図10)において、選別前特徴量データDF1が第2学習モデルM2に入力されると、特徴量選別部240は、
図11に示すように、第1プログラムを用いて、ナゲット径D1と各特徴パラメータとの相関係数を算出する。ここで言う相関係数とは、選別前特徴量データDF1に含まれる各特徴量に基づいて算出される値であって、ナゲット径D1と特徴パラメータとの相関関係の度合いを示す値である。つまり、相関係数は、任意の溶接パラメータ(例えば、抵抗値)について、選別前特徴量データDF1に含まれる特徴量を特徴パラメータごとに比較した場合に、ナゲット径D1の大小が見られるサンプル間で特徴量の差が顕著に表れるか否かを示す指標である。よって、相関係数が相対的に大きい特徴パラメータは、ナゲット径D1との相関が高い。これに対して、相関係数が相対的に小さい特徴パラメータは、ナゲット径D1との相関が低い。
【0058】
図11に示す例では、特徴パラメータDの相関係数よりも、特徴パラメータBの相関係数の方が大きい。つまり、
図9に示す選別前特徴量データDF1を用いる場合には、特徴パラメータDよりも特徴パラメータBの方がナゲット径D1の大小との関連性が高い。そのため、特徴パラメータDよりも特徴パラメータBを用いて後の工程にて回帰式F1~F3(
図2)を作成する方が、より精度の高い回帰式F1~F3を作成することができる。
【0059】
さらに、特徴量選別部240は、第2プログラムを用いて、相関係数が大きい特徴パラメータを抽出する。特徴量選別部240は、例えば、予め設定された閾値と相関係数とを比較して、相関係数が閾値以上となる特徴パラメータを抽出したり、予め定められた数だけ特徴パラメータが抽出されるように相関係数の大きい上位M個の特徴パラメータを抽出したりする。
【0060】
そして、特徴量選別部240は、抽出された特徴パラメータに選別フラグを付す。選別フラグは、特徴量選別部240によって抽出された相関係数の大きい特徴パラメータを識別するための識別フラグである。特徴量選別部240は、抽出された相関係数の大きい特徴パラメータに対して、例えば、「TRUE」の選別フラグを付す。これに対して、特徴量選別部240は、選別フラグが「TRUE」以外の特徴パラメータに対して、例えば、「FALSE」の選別フラグを付す。なお、選別フラグは、これに限られるものではない。選別フラグは、例えば、数値や記号であってもよい。選別フラグが数値である場合、特徴量選別部240は、例えば、相関係数の大きい特徴パラメータに対しては「1」を付し、選別フラグが「1」以外の特徴パラメータに対しては「0」を付してもよい。
【0061】
このように、特徴量選別部240は、ステップS55(
図10)において、特徴パラメータを予め定められた条件によって選別したデータとして、
図11に示すような選別後特徴量データDF2を生成する。つまり、
図10に示すステップS53およびステップS55は、既存の学習モデルM2のアルゴリズム内に、選別前特徴量データDF1を入力することで、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータを自動的に選別する工程である。
【0062】
本実施形態では、特徴量選別部240は、選別前特徴量データDF1(
図9)に含まれる複数の溶接パラメータのそれぞれにおいて存在する複数種類の特徴パラメータに係るデータの中から、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータを選別することとする。つまり、後の回帰式作成工程(ステップS7)において選別後特徴量データDF2を入力した場合には、溶接パラメータごとではなく、1つの回帰モデルMR1~MR3に対して1つの回帰式F1~F3が作成される。また、算出された相関係数の中から、相関係数が大きい上位3個の特徴パラメータB,F,Nを用いて後の工程を実行することとする。
【0063】
例えば、
図11では、複数存在する溶接パラメータおよび特徴パラメータのうち、抵抗値に係る3個の特徴パラメータB,F,Nが、最もナゲット径D1との相関が高いと判断された場合を示している。よって、特徴量選別部240は、相関係数が大きい上位3個の特徴パラメータとして、特徴パラメータBと、特徴パラメータFと、特徴パラメータNとを抽出して、これらに「TRUE」の選別フラグを付している。さらに、特徴量選別部240は、特徴パラメータB、特徴パラメータF、および、特徴パラメータN以外の特徴パラメータには、「FALSE」の選別フラグを付している。
【0064】
なお、溶接パラメータごとに回帰式F1~F3を作成する場合には、第2プログラムを用いた特徴パラメータの抽出および選別フラグの付与は、溶接パラメータごとに実行される。つまり、抵抗値のうちで、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータと、加圧力のうちで、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータと、がそれぞれ抽出される。この場合、回帰式F1~F3は、溶接パラメータごとに作成される。
【0065】
なお、第2学習モデルM2を構成するプログラムは、pythonによって作成された既存のプログラム以外のプログラムであってもよい。第2学習モデルM2は、選別前特徴量データDF1(
図9)を入力した場合に、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータを選別できればよい。また、特徴パラメータの選別方法は、これに限定されるものではない。
【0066】
図10に示すように、ステップS55の後に、ステップS57が実行される。
図12は、入力用特徴量データDF3の一部を示す図である。ステップS57(
図10)において、特徴量選別部240は、選別後特徴量データDF2を加工した入力用特徴量データDF3を生成する。
図12に示す入力用特徴量データDF3は、
図11に示す選別後特徴量データDF2のうち、ステップS55(
図10)において選別された特徴パラメータに係る特徴量とナゲット径D1とをサンプルごとに紐付けたデータである。つまり、ステップS57において、特徴量選別部240は、
図11に示す「TRUE」の選別フラグが付された特徴パラメータに係るデータのみを抽出した入力用特徴量データDF3を生成する。
図10に示すステップS57までの各工程(ステップS51~ステップS57)の実行により、選別工程(ステップS5)は終了する。
【0067】
図3に示すように、選別工程(ステップS5)の後に、回帰式作成工程(ステップS7)が実行される。
図13は、回帰式作成工程(ステップS7)の詳細を示すフローチャートである。回帰式作成工程(ステップS7)は、複数の回帰モデルMR1~MR3のそれぞれに対して、選別工程(ステップS5)において選別された特徴パラメータに係る特徴量と対応するナゲット径D1とを入力することによって回帰式F1~F3を作成する工程である。ここで言う回帰式F1~F3とは、選別工程(ステップS5)において選別された特徴パラメータに係る特徴量を説明変数とし、ナゲット径D1を目的変数とした、ナゲット径D1を推定するための関係式であり、例えば、重回帰分析によって導き出される回帰式である。複数の回帰式F1~F3はそれぞれ、複数の回帰モデルMR1~MR3のそれぞれについて機械学習によって作成される。
【0068】
ステップS71において、回帰式作成部250は、入力用特徴量データDF3(
図12)を用いて、学習用データセットおよびテスト用データセットを生成する。学習用データセットは、複数の回帰式F1~F3を作成するために、複数の回帰モデルMR1~MR3のそれぞれに入力されるデータセットである。テスト用データセットは、学習用データセットを用いて複数の回帰式F1~F3が作成された後に、作成された回帰式F1~F3の精度を評価するために用いられるデータセットである。例えば、入力用特徴量データDF3に100個のサンプルに係るデータが含まれる場合には、以下のようにデータを分ける。100個のサンプルに係るデータのうち、75個のサンプルに係るデータを学習用データセットとし、残りの25個のサンプルに係るデータをテスト用データセットとするように分けることで、学習用データセットとテスト用データセットとを生成する。なお、学習用データセットおよびテスト用データセットに含まれるデータの数および種類は、これに限られるものではない。
【0069】
回帰式作成部250は、例えば、入力用特徴量データDF3に含まれる全サンプルからランダムにサンプルを選択することで、テスト用データセットを生成する。この場合、回帰式作成部250は、入力用特徴量データDF3のうち、テスト用データセットに用いられなかったサンプルに係るデータを学習用データセットとして生成する。また、回帰式作成部250は、K-分割交差検証法によって、学習用データセットとテスト用データセットとの組み合わせを複数作成してもよい。
【0070】
ステップS71の後に、ステップS73が実行される。ステップS73において、回帰式作成部250は、複数の回帰モデルMR1~MR3のそれぞれに対して、学習用データセットを入力する。そして、ステップS751~ステップS753において、回帰式作成部250は、複数の回帰モデルMR1~MR3のそれぞれを用いて複数の回帰式F1~F3を作成して出力する。本実施形態では、回帰式作成部250は、第1回帰モデルMR1と、第2回帰モデルMR2と、第3回帰モデルMR3とのそれぞれに対して、学習用データセットを入力している。
【0071】
第1回帰モデルMR1と、第2回帰モデルMR2と、第3回帰モデルMR3とは、いずれも機械学習モデルMであり、学習用データセットから異なる手法によって回帰式F1~F3を作成するためのプログラムが記憶されている。具体的には、第1回帰モデルMR1と、第2回帰モデルMR2と、第3回帰モデルMR3とは、学習用データセットに対して実行する回帰分析のアルゴリズムが異なる。複数の回帰モデルMR1~MR3のアルゴリズムは、例えば、Ridge回帰やLasso回帰、Elastic Netである。これにより、ステップS751~ステップS753において、回帰式作成部250は、同一の学習用データセットを用いて、選別された特徴パラメータに係る特徴量とナゲット径D1との関係性を複数の異なる回帰式F1~F3によって表すことができる。なお、回帰モデルMR1~MR3のアルゴリズムは、これに限られるものではない。
【0072】
本実施形態では、ステップS751において、回帰式作成部250は、第1回帰モデルMR1による機械学習によって、第1回帰式F1の係数を決定することで、第1回帰式F1を作成する。ステップS752において、回帰式作成部250は、第2回帰モデルMR2による機械学習によって、第2回帰式F2の係数を決定することで、第2回帰式F2を作成する。ステップS753において、回帰式作成部250は、第3回帰モデルMR3による機械学習によって、第3回帰式F3の係数を決定することで、第3回帰式F3を作成する。なお、ステップS751と、ステップS752と、ステップS753とは、ステップS73の後において、いずれかが先に実行されてもよく、同時並行的に実行されてもよい。また、作成される回帰式F1~F3の数は、これに限られるものではない。ステップS753までの各工程(ステップS71~ステップS753)の実行により、回帰式作成工程(ステップS7)は終了する。
【0073】
図3に示すように、回帰式作成工程(ステップS7)の後に、回帰式選定工程(ステップS9)が実行される。
図14は、回帰式選定工程(ステップS9)の詳細を示すフローチャートである。回帰式選定工程(ステップS9)は、機械学習された複数の回帰式F1~F3の中から、ナゲット径D1との相関が高い回帰式F1~F3を選定する工程である。
【0074】
ステップS91において、回帰式選定部260は、回帰式作成工程(ステップS7)において作成された複数の回帰式F1~F3のそれぞれについて、寄与率を算出する。寄与率は、作成された回帰式F1~F3の精度を評価するために算出される値である。ここで言う回帰式F1~F3の精度とは、ナゲット径D1との相関の大小を表しており、ナゲット径D1との相関が高いほど、回帰式F1~F3の精度が高い。また、寄与率は、目的変数の全変動のうち、説明変数によって説明できる割合を示している。換言すると、寄与率は、ナゲット径D1の実測値と、作成された回帰式F1~F3を用いて算出したナゲット径D1の推定値と、の乖離度合いを表す指標である。つまり、寄与率が大きい回帰式F1~F3は、ナゲット径D1の推定に係る精度が高い。寄与率が小さい回帰式F1~F3は、ナゲット径D1の推定に係る精度が低い。
【0075】
図15は、回帰式F1~F3ごとの寄与率を示す図である。本実施形態では、回帰式選定部260は、第1回帰式F1と、第2回帰式F2と、第3回帰式F3と、のそれぞれについて、学習用データセットに係る寄与率と、テスト用データセットに係る寄与率と、の2種類の寄与率を算出する。
図15では、回帰式F1~F3ごとに、学習用データセットに係る寄与率を上段に示し、テスト用データセットに係る寄与率を下段に示している。
【0076】
テスト用データセットに係る寄与率は、作成された複数の回帰式F1~F3のそれぞれに対して、テスト用データセットを入力することで算出される寄与率である。テスト用データセットに係る寄与率は、回帰式F1~F3の精度を評価するために算出される。テスト用データセットに係る寄与率は、回帰式F1~F3の作成に用いられていないデータであって、目的変数としてのナゲット径D1が実測により既知であるデータを用いて、回帰式F1~F3の精度の大小を表す。つまり、テスト用データセットに係る寄与率が大きいほど、学習用データセット以外のデータ(以下、未知データ)においても、精度良くナゲット径D1を推定できる可能性が高い。
【0077】
学習用データセットに係る寄与率は、作成された複数の回帰式F1~F3のそれぞれに対して、機械学習に用いた学習用データセットを再び入力することで算出される寄与率である。学習用データセットに係る寄与率は、算出されたテスト用データセットに係る寄与率の信憑性を確認するために算出される。具体的には、学習用データセットに係る寄与率は、機械学習に用いた学習用データセットと同一のデータを回帰式F1~F3に入力することで算出される値である。そのため、回帰式作成工程(ステップS7)において、問題なく回帰式F1~F3が作成された場合には、学習用データセットに係る寄与率が低くなることは起こりづらい。学習用データセットに係る寄与率が低い場合とは、例えば、寄与率が0.900未満である場合を指す。
【0078】
仮に、テスト用データセットに係る寄与率が大きい場合であっても、学習用データセットに係る寄与率が低い場合には、以下の可能性が生じ得る。具体的には、テスト用データセットに含まれるデータが偶然に回帰式F1~F3によって表される傾向に近い値を示すがために、実際には精度が低い回帰式F1~F3に対して、精度が高い回帰式F1~F3であると誤判定される可能性が生じ得る。そこで、本実施形態では、テスト用データセットに係る寄与率と、学習用データセットに係る寄与率と、の両者を用いて比較することで、複数の回帰式F1~F3の中から、ナゲット径D1との相関が最も高い1つの回帰式F1を選定する。
【0079】
図14に示すように、ステップS91の後に、ステップS93が実行される。ステップS93において、回帰式選定部260は、回帰式F1~F3ごとに算出されたテスト用データセットに係る寄与率、および、学習用データセットに係る寄与率を比較する。
【0080】
図15に示す例では、学習用データセットに係る寄与率は、いずれの回帰式F1~F3においても約0.950付近であり、テスト用データセットに係る寄与率の信憑性は問題ないと考えられる。
【0081】
これに対して、テスト用データセットに係る寄与率は、3つの回帰式F1~F3の中で、第1回帰式F1が最も大きい。このとき、第1回帰式F1における寄与率と、第2回帰式F2および第3回帰式F3における寄与率との間には、顕著な差が見られる。よって、ステップS95(
図14)において、回帰式選定部260は、複数の回帰式F1~F3の中から、ナゲット径D1との相関が高い回帰式F1として、第1回帰式F1を選定する。なお、回帰式選定部260は、寄与率とは異なる方法によって、ナゲット径D1との相関が高い回帰式F1~F3を選定してもよい。ステップS95までの各工程(ステップS91~ステップS95)の実行により、回帰式選定工程(ステップS9)は終了する。
【0082】
上記第1実施形態によれば、
図9に示すように、溶接波形D2の特徴を表すための抽出項目である複数の溶接パラメータが予め設定された学習済みの第1学習モデルM1によって、複数の溶接パラメータごとの特徴量が算出される。そして、
図11に示すように、特徴量とナゲット径D1との相関を特徴パラメータごとに評価するプログラムが予め設定された学習済みの第2学習モデルM2によって、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータが選別される。つまり、溶接波形D2に含まれる種々の特徴の中からナゲット径D1との相関が高い要素を抽出するための抽出項目が予め設定された学習モデルM1,M2によって、回帰式F1~F3の説明変数として用いる特徴パラメータおよび特徴量を選別することができる。そのため、ディープラーニングなどの学習手法を用いることなく、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータおよび特徴量を選別することができる。よって、データセットDに含まれる教師データの数が少ない場合であっても、特徴パラメータの選別に係る精度が低下することを抑制できる。これにより、大量のデータを準備する工数を要することなく、精度の高い回帰式F1~F3を作成および選別することができる。
【0083】
また、上記第1実施形態によれば、外乱条件を変化させてスポット溶接を実行した場合のナゲット径D1(
図7)と溶接波形D2(
図5,
図6)とを、外乱条件ごとに紐付けた教師データを含むデータセットDを用いて、回帰式F1~D3が作成される。つまり、データセットDには、外乱条件の差異に起因した傾向の異なるデータが含まれ、教師データに幅を持たせることができる。これにより、データセットDに含まれる教師データの数が少ない場合であっても、特徴パラメータの選別に係る精度が低下することを抑制できる。よって、大量のデータを準備する工数を要することなく、より精度の高い回帰式F1~F3を選別することができる。
【0084】
また、上記第1実施形態によれば、
図7に示すように、外乱条件を変化させることで、ナゲット径D1を異ならせたサンプルに係るデータを教師データとしている。これにより、特定のナゲット径D1においてのみ適合した回帰式F1~F3が作成される可能性を低減することができる。つまり、過学習を防ぐことができ、ナゲット径D1の推定において汎用性の高い回帰式F1~F3を作成できる。そのため、未知データに対しても、精度良くナゲット径D1を推定できる可能性を高めることができる。
【0085】
また、上記第1実施形態によれば、
図11に示すように、特徴パラメータと、特徴パラメータに対応する特徴量と、が学習済みの第2学習モデルM2に入力されることで、複数の溶接パラメータのそれぞれについて、特徴パラメータごとに相関係数が算出される。そして、相関係数が予め定められた基準以上となる特徴パラメータが、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータとして選別される。つまり、上記第1実施形態によれば、相関係数の大小を比較することで、ナゲット径D1の相関が高い特徴パラメータを選別することができる。これにより、特徴パラメータおよび特徴量の選別に係る根拠や、説明変数を構成する要素を人間が把握できる。
【0086】
また、上記第1実施形態によれば、
図11に示すように、相関係数が予め定められた基準以上となる特徴パラメータに対して、選別フラグが付される。これにより、選別された特徴パラメータおよび特徴量を人間が確認できる。つまり、回帰式F1~F3の説明変数として用いられた特徴パラメータおよび特徴量を人間が把握できる。よって、回帰式F1~F3に不備が生じた場合に、修正すべき箇所や修正方法を人間が理解しやすくできる。
【0087】
また、上記第1実施形態によれば、教師データには、データ領域などを調整する前処理が施された溶接波形D2が用いられる。これにより、解析に適した状態に加工された溶接波形D2を用いて、特徴量を算出することができる。
【0088】
また、上記第1実施形態によれば、
図9に示すように、学習済みの第1学習モデルM1であって、既存のプログラムによって構成される第1学習モデルM1によって、大量の特徴パラメータに係る特徴量を一括に生成することができる。これにより、特徴パラメータおよび特徴量の選別に要する時間や工数を削減することができる。
【0089】
また、上記第1実施形態によれば、
図11に示すように、既存のプログラムによって構成される第2学習モデルM2によって、大量の特徴パラメータに係る特徴量から、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータを容易に選別することができる。これにより、特徴パラメータおよび特徴量の選別に要する時間や工数をさらに削減することができる。
【0090】
また、上記第1実施形態によれば、
図13に示すように、入力用特徴量データDF3は、回帰式F1~F3の作成に用いられる学習用データセットと、作成された回帰式F1~F3の評価に用いられるテスト用データセットとに分けられる。そして、学習用データセットは、複数の回帰モデルMR1~MR3に入力される。これにより、同一の入力用特徴量データDF3から、ナゲット径D1を推定するための複数の異なる回帰式F1~F3を作成することができる。
【0091】
また、上記第1実施形態によれば、
図14に示すように、作成された回帰式F1~F3に対して、テスト用データセットに係る寄与率が算出される。これにより、回帰式F1~F3ごとの寄与率を比較することで、ナゲット径D1との相関が高い最適な回帰式F1を選定することができる。よって、同一の入力用特徴量データDF3を用いた場合であっても、複数の回帰式F1~F3の中から、ナゲット径D1の推定においてより好適な回帰式F1~F3を選定することができる。
【0092】
また、上記第1実施形態によれば、
図15に示すように、作成された回帰式F1~F3に対して、テスト用データセットに係る寄与率と、学習用データセットに係る寄与率と、の両者が算出される。これにより、算出されたテスト用データセットに係る寄与率の信憑性を確認することができる。そのため、ナゲット径D1の推定においてより一層好適な回帰式F1~F3を選定することができる。
【0093】
また、上記第1実施形態によれば、複数の溶接パラメータのそれぞれにおいて存在する全ての特徴パラメータの中から、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータが選別される。これにより、複数の溶接パラメータごとに存在する溶接波形D2を一義的に表した回帰式F1~F3を作成することができる。
【0094】
B.第2実施形態:
図16は、第2実施形態における選別工程(ステップS5)の詳細を示すフローチャートである。本実施形態の推定方法を実行するスポット溶接装置10は、前述した第1実施形態(
図1,
図2)と同一である。また、制御装置100は、第1実施形態と同様に、スポット溶接におけるナゲット径D1を推定するための回帰式F1~F3を作成して、最適な回帰式F1を選定する。本実施形態では、選別工程(ステップS5)における処理の一部が第1実施形態(
図10)とは異なる。これにより、回帰式作成工程(ステップS7)において、複数の回帰モデルMR1~MR3に入力されるデータの一部が第1実施形態(
図12)と異なる。よって、
図3に示す取得工程(ステップS1)、特徴量生成工程(ステップS3)、および、回帰式選定工程(ステップS9)は、第1実施形態と同一である。本実施形態の選別工程(ステップS5)が実行される前には、
図3に示す取得工程(ステップS1)と、特徴量生成工程(ステップS3)とがこの順で実行されている。また、本実施形態の選別工程(ステップS5)と回帰式作成工程(ステップS7)とが実行された後には、回帰式選定工程(ステップS9)が実行される。なお、第1実施形態における各ステップと同一のステップについては、同一の符号を付すと共に説明を省略する。
【0095】
図16に示すように、ステップS51と、ステップS53と、ステップS55と、ステップS57とがこの順に実行される。ステップS51~ステップS57の各工程は、第1実施形態と同一である。
【0096】
ステップS57の後に、ステップS59が実行される。ステップS59において、特徴量選別部240は、入力用特徴量データDF3(
図12)を加工した加工済入力用特徴量データを生成する。加工済入力用特徴量データは、入力用特徴量データDF3に含まれる特徴量のうち、異常値を示す特徴量を取り除いたデータである。
【0097】
図17は、選別された特徴パラメータに係る特徴量とナゲット径D1との関係を示すグラフである。本実施形態では、第1実施形態においてナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータとして選別された上位3個の特徴パラメータB,F,Nを例に挙げて説明する。
図17において左側に図示されている第1グラフG1は、特徴パラメータBに係る特徴量とナゲット径D1との関係を示すグラフである。
図17において中央に図示されている第2グラフG2は、特徴パラメータFに係る特徴量とナゲット径D1との関係を示すグラフである。
図17において右側に図示されている第3グラフG3は、特徴パラメータNに係る特徴量とナゲット径D1との関係を示すグラフである。つまり、各グラフG1~G3は、同一の溶接波形D2に対する特徴を特徴パラメータごとに示したグラフである。
【0098】
図17に示す下部電極3つのグラフG1~G3は、例えば、外乱条件を変化させたサンプルが13個存在する入力用特徴量データDF3を、縦軸をナゲット径D1とし、横軸を特徴量として、特徴パラメータB,F,Nごとに表したグラフである。なお、
図17に示す各グラフG1~G3では13個のプロットが図示されているが、
図17では、特徴パラメータB,N,Fに係る特徴量とナゲット径D1との関係を模式的に図示しているに過ぎず、データの数および値はこれに限られるものではない。
【0099】
各グラフG1~G3を参照すると、各特徴パラメータB,F,Nについて、ナゲット径D1の大小に応じて、径大サンプル群Da1~Da3と、径小サンプル群Db1~Db3に大別できる。径大サンプル群Da1~Da3は、例えば、ナゲット径D1が予め定められた第1閾値T1以上である、ナゲット径D1の大きなサンプルのプロット群である。径小サンプル群Db1~Db3は、例えば、ナゲット径D1が第1閾値T1未満である、ナゲット径D1の小さなサンプルのプロット群である。
【0100】
第1グラフG1を参照すると、特徴パラメータBについては、径大サンプル群Da1において、ナゲット径D1と特徴量とに一定の相関が見られる。また、第2グラフG2を参照すると、特徴パラメータFについても、径大サンプル群Da2において、ナゲット径D1と特徴量とに一定の相関が見られる。特に、この2つの特徴パラメータB,Fでは、径大サンプル群Da1,Da2のプロットは、第1閾値T1よりも大きい第2閾値T2以上のナゲット径D1となっている。よって、この2つの特徴パラメータB,Fは、ナゲット径D1が大きい第2閾値T2以上の場合における特徴パラメータの選別に特に有効である。
【0101】
このとき、径小サンプル群Db1~Db3のように、ナゲット径D1が極めて小さい場合には、ナゲットが成長しておらず、複数の金属板W1,W2(
図1)が接合していない可能性が高い。そのため、ナゲット径D1が極めて小さいサンプルに係るデータを回帰式F1~F3の説明変数に含めた場合、回帰式F1~F3の精度が低下する場合が生じ得る。そこで、ナゲット径D1が極めて小さい径小サンプル群Db1~Db3に係るデータを異常値として取り除いた後に、回帰モデルMR1~MR3に入力されることが好ましい。
【0102】
第3グラフG3を参照すると、特徴パラメータNについて、径大サンプル群Da3と径小サンプル群Db3とは、ナゲット径D1の大小に応じて異なる傾向を示している。具体的には、径大サンプル群Da3のプロットはいずれも、径小サンプル群Db3と比べて、特徴労が極めて小さい値を示している。つまり、特徴パラメータNに係る特徴量に注目することで、ナゲット径D1が極めて小さいサンプルに係るデータを抽出することができる。
【0103】
特徴パラメータNを用いて異常値としての径小サンプル群Db3を抽出する場合には、例えば、第3グラフG3に示すように、第3閾値T3が設定される。第3閾値T3は、径大サンプル群Da3に係る特徴量と、径小サンプル群Db3に係る特徴量と、の間に設定される。これにより、ステップS59において、例えば、特徴量選別部240は、特徴パラメータNについて、第3閾値T3以上となった特徴量を異常値として抽出する。このとき、特徴量選別部240は、例えば、特徴量が第3閾値T3以上であるサンプルデータに対しては「1」を付し、特徴量が第3閾値T3未満であるサンプルデータには「0」を付す。そして、特徴量選別部240は、「1」が付されたデータを異常値と判定する。これにより、特徴量選別部240は、
図12に示す入力用特徴量データDF3から異常値と判定されたデータを取り除くことで、加工済入力用特徴量データを生成する。
【0104】
図16に示すステップS59までの各工程(ステップS51~ステップ59)の実行により、本実施形態における選別工程(ステップS5)は終了する。
図3に示すように、選別工程(ステップS5)の後に、回帰式作成工程(ステップS7)が実行される。このとき、
図13に示すように、ステップS71において、回帰式作成部250は、複数の回帰モデルMR1~MR3のそれぞれに対して、ステップS59において生成した加工済入力用特徴量データを入力する。つまり、本実施形態では、異常値を示すデータを取り除いたデータを用いて、回帰式F1~F3を作成する。他の工程(ステップS73~ステップS753)は、第1実施形態と同一であるため、説明を省略する。
【0105】
上記第2実施形態によれば、
図16に示すように、ステップS59において、ナゲット径D1の大小に応じて異なる特徴量の傾向を示す特徴パラメータNを用いてナゲット径D1が極めて小さいサンプルに係るデータが異常値として取り除かれる。これにより、加工済入力用特徴量データが生成される。そして、回帰式F1~F3は、加工済入力用特徴量データを用いて作成される。これにより、作成される回帰式F1~F3の精度が低下する可能性を低減させることができる。
【0106】
C.他の実施形態:
C-1.他の実施形態1:
教師データには、複数の溶接パラメータに係る溶接波形D2を足し合わせた波形(以下、合成波形)や、溶接波形D2に予め定められた係数を乗算した波形(以下、処理済波形)を用いてもよい。また、教師データには、電流値などの溶接条件を変化させて作成したサンプルに係るデータを含んでもよい。合成波形を生成する場合には、例えば、足し合わせる溶接波形D2同士のデータ領域を同一にする前処理を実行した後に、第1の溶接パラメータに係る溶接波形D2と第2の溶接パラメータに係る溶接波形D2とを足し合わせる。合成波形は、3種類以上の溶接パラメータに係る溶接波形D2同士を足し合わせた波形であってもよい。合成波形や処理済波形は、これらを教師データとして用いることで溶接波形D2の特徴がより顕著に表れる場合などに用いられる。このような形態であれば、溶接波形D2を予め加工した教師データを用いることで、ナゲット径D1との相関が高い特徴パラメータおよび特徴量をより一層抽出しやすくできる。
【0107】
C-2.他の実施形態2:
上記実施形態では、
図14に示すように、複数の回帰式F1~F3に対して算出された寄与率を比較することで、ナゲット径D1の推定に最適な回帰式F1を選定していた。しかし、最適な回帰式F1の選定方法は、これに限られるものではない。最適な回帰式F1は、例えば、複数の回帰式F1~F3に対して残査を算出して、算出された残査を比較することで選定されてもよい。ここで言う残査とは、ナゲット径D1の実測値と、作成された複数の回帰式F1~F3を用いて算出したナゲット径D1の推定値との数値差である。このような形態であっても、複数の回帰式F1~F3の中から、ナゲット径D1の推定精度が高い回帰式F1を選定することができる。なお、最適な回帰式F1は、寄与率と残査との両者を用いて選定されてもよく、他の方法によって選定されてもよい。
【0108】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0109】
1…ガン本体、1a…上部、1b…下部、2…上部電極、3…下部電極、4…電極昇降装置、5…電流調整装置、9…測定機構、10…スポット溶接装置、20…CPU、30…通信部、40…ディスプレイ、41…サーボモータ、42…昇降部材、50…入力操作部、60…記憶部、91…電流測定部、92…電圧測定部、93…抵抗値算出部、94…加圧力測定部、95…電極変位測定部、100…制御装置、210…動作制御部、220…取得部、230…特徴量生成部、240…特徴量選別部、250…回帰式作成部、260…回帰式選定部、A~Q,a~f…特徴パラメータ、D…データセット、D1…ナゲット径、D2…溶接波形、DF1…選別前特徴量データ、DF2…選別後特徴量データ、DF3…入力用特徴量データ、Da1,Da2,Da3…径大サンプル群、Db1,Db2,Db3…径小サンプル群、F1…第1回帰式、F2…第2回帰式、F3…第3回帰式、G…スポット溶接ガン、G1…第1グラフ、G2…第2グラフ、G3…第3グラフ、M…機械学習モデル、M1…第1学習モデル、M2…第2学習モデル、MR1…第1回帰モデル、MR2…第2回帰モデル、MR3…第3回帰モデル、RA…ロボットアーム、T1…第1閾値、T2…第2閾値、T3…第3閾値、W…被溶接材、W1,W2…金属板、W1a,W2a…端部