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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】電極および全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241203BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241203BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241203BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241203BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241203BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022067720
(22)【出願日】2022-04-15
(65)【公開番号】P2023157665
(43)【公開日】2023-10-26
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビスバル メンドザ ヘイディ ホデス
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-039062(JP,A)
【文献】特開2015-167095(JP,A)
【文献】特開2015-011901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物固体電解質と、複合粒子と、を含む電極であって、
前記硫化物固体電解質は、SおよびPを含み、PS結晶相を有し、PおよびSからなる相の総量に対するPS結晶相のモル比率が60%以上であり、
前記複合粒子は、活物質粒子と、前記活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆するコーティング膜と、を備え、
前記コーティング膜は、リン化合物を含み、
前記リン化合物は、ガラスネットワーク形成元素である第1元素および遷移元素である第2元素の少なくとも一方と、リンとを含み、
前記第1元素は、ホウ素、珪素、およびゲルマニウムからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記コーティング膜において、下記式(1)の関係を満たす、電極。
Li/(CP+CE1+CE2)≦2.5 …(1)
(上記式(1)中、
Li、CP、CE1、CE2は、X線光電子分光法により測定される元素濃度を示し、
Liは、リチウムの元素濃度を示し、
Pは、リンの元素濃度を示し、
E1は、前記第1元素の元素濃度を示し、
E2は、前記第2元素の元素濃度を示す。)
【請求項2】
前記第2元素は、第2遷移元素および第3遷移元素からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記硫化物固体電解質は、さらにLiを含む、請求項1に記載の電極。
【請求項4】
前記活物質粒子は正極活物質粒子であり、前記電極は正極である、請求項1に記載の電極。
【請求項5】
請求項1に記載の電極を含む、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極および全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第4982866号公報(特許文献1)には、リチウムイオン伝導性固体電解質(硫化物固体電解質)を用いた全固体リチウム電池(硫化物系全固体電池)において、正極活物質の表面がリチウムイオン伝導性酸化物で被覆され、該リチウムイオン伝導性酸化物が正極活物質と硫化物固体電解質との間に介在することにより、高電位での硫化物固体電解質と正極活物質との接触界面における高抵抗層の形成を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4982866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
硫化物系全固体電池(以下「全固体電池」と略記され得る。)、硫化物固体電解質を含む。硫化物固体電解質が正極活物質粒子等と直接接触すると、硫化物固体電解質が劣化し得る。硫化物固体電解質(イオン伝導パス)の劣化により、電池抵抗が増大し得る。そこで、正極活物質粒子の表面にコーティング膜を形成することが提案されている。コーティング膜が正極活物質粒子と硫化物固体電解質との直接接触を阻害することにより、硫化物固体電解質の劣化が軽減され得る。
【0005】
従来、コーティング膜の材料として、例えば、LiNbO3およびLi3PO4が知られている。LiNbO3は、Li3PO4に比して低抵抗を有し得る。そのため、LiNbO3の普及が進んでいる。ただし、本発明者らの新たな知見によれば、高電圧下における耐久性に関しては、Li3PO4等のリン化合物がLiNbO3に比して優位である。また、本発明者らは、特定のリン化合物を含むリン系コーティング膜が低抵抗を有することを見出した。
【0006】
しかし、本発明者らは、当該リン系コーティング膜で被覆された活物質と硫化物固体電解質とを含む電極(および該電極を備える電池)において、サイクル試験後などに抵抗が増加する場合があることを見出した。
【0007】
本開示の目的は、硫化物固体電解質と、リン系コーティング膜を備える複合粒子(被覆活物質)と、を含む電極において、経時的な抵抗の増加を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 硫化物固体電解質と、複合粒子と、を含む電極であって、
前記硫化物固体電解質は、SおよびPを含み、PS結晶相を有し、PおよびSからなる相の総量に対するPS結晶相のモル比率が60%以上であり、
前記複合粒子は、活物質粒子と、前記活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆するコーティング膜と、を備え、
前記コーティング膜は、リン化合物を含み、
前記リン化合物は、ガラスネットワーク形成元素である第1元素および遷移元素である第2元素の少なくとも一方と、リンとを含み、
前記コーティング膜において、下記式(1)の関係を満たす、電極。

Li/(CP+CE1+CE2)≦2.5 …(1)

(上記式(1)中、
Li、CP、CE1、CE2は、X線光電子分光法により測定される元素濃度を示し、
Liは、リチウムの元素濃度を示し、
Pは、リンの元素濃度を示し、
E1は、前記第1元素の元素濃度を示し、
E2は、前記第2元素の元素濃度を示す。)
【0009】
上記[1]の電極によれば、硫化物固体電解質と、リン系コーティング膜を備える複合粒子(被覆活物質)と、を含む電極において、経時的な抵抗の増加を抑制することことができる。
その理由は、比較的硬い材料であるリン系コーティング膜を用いることで、電極中において固体電解質(SE)の硬さがコーティング膜より軟らかくなる場合、両者の硬度のミスマッチング等により、被覆活物質のコーティング膜と固体電解質との界面における接触状態が悪い(接着強度が低い)ため、サイクル試験後などにおいて該界面での抵抗が増加すると考えられる。これに対して、上記[1]の電極では、固体電解質(硫化物SE)として、結晶性の高い(PS結晶相の比率が高い)固体電解質、すなわち硬い固体電解質を用いることで、被覆活物質のコーティング膜と固体電解質との硬さが揃うため、アンカー効果等により、両者の界面での接触状態が改善される(接着強度が向上する)ことで、経時的な抵抗の増加が抑制されると考えられる。
【0010】
[2] 前記第1元素は、ホウ素、珪素、窒素、硫黄、ゲルマニウム、および水素からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載の電極。
【0011】
[3] 前記第2元素は、第2遷移元素および第3遷移元素からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の電極。
【0012】
[4] 前記硫化物固体電解質は、さらにLiを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の電極。
【0013】
[5] 前記活物質粒子は正極活物質粒子であり、前記電極は正極である、[1]~[4]のいずれかに記載の電極。
【0014】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の電極を含む、全固体電池。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態における全固体電池を示す概念図である。
図2】本実施形態における複合粒子の製造方法の概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【0017】
なお、本明細書において、単数形で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も意味し得る。
【0018】
化合物が化学量論的組成式(例えば「LiCoO2」等)によって表現されている場合、該化学量論的組成式は該化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されているとき、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0019】
<電極>
本実施形態の電極は、硫化物固体電解質と、複合粒子と、を含む。電極は、正極および負極のいずれであってもよい。
【0020】
(硫化物固体電解質)
硫化物固体電解質は、活物質層内にイオン伝導パスを形成し得る。硫化物固体電解質は、SおよびPを含む。硫化物固体電解質は、さらにLiを含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、O、Si等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、ヨウ素(I)、臭素(Br)等のハロゲンをさらに含んでいてもよい。
【0021】
硫化物固体電解質におけるPS結晶相(構造ユニット)のモル比率(PおよびSからなる相(構造ユニット)の総量に対するモル比率:結晶化度)は、60%以上であり、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。
【0022】
硫化物固体電解質は、例えば、アルジロダイト型、ペロブスカイト型等であってもよく、PS結晶相(構造ユニット)の割合が上記条件を満たせばガラスセラミックス型であってもよい。硫化物固体電解質は、好ましくはアルジロダイト型である。
【0023】
硫化物固体電解質は、例えば、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P25、LiI-Li2O-Li2S-P25、LiI-Li2S-P25、LiI-Li3PO4-P25、Li2S-P25、Li3PS4、LiCl-LiBr-Li3PS4、LiCl-LiBr-Li2S-P25、およびLiCl-LiBr-Li2S-SiS2からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0024】
例えば、「LiI-LiBr-Li3PS4」は、LiIとLiBrとLi3PS4とが任意のモル比で混合されることにより生成された硫化物固体電解質を示す。例えば、メカノケミカル法により硫化物固体電解質が生成されてもよい。「Li2S-P25」はLi3PS4を含む。Li3PS4は、例えばLi2SとP25とが「Li2S/P25=75/25(モル比)」で混合されることにより生成され得る。
【0025】
電極中の硫化物固体電解質の配合量は、100体積部の複合粒子(被覆活物質)に対して、例えば、1~200体積部であってもよいし、50~150体積部であってもよいし、40~85体積部であってもよい。
【0026】
(複合粒子)
複合粒子は、活物質粒子とコーティング膜とを備える。複合粒子は、例えば「被覆活物質」等と称され得る。
【0027】
複合粒子は、例えば凝集体を形成していてもよい。すなわち1個の複合粒子が、2個以上の活物質粒子を含んでいてもよい。複合粒子は、例えば、1~50μmのD50を有していてもよいし、1~20μmのD50を有していてもよいし、5~15μmのD50を有していてもよい。
【0028】
なお、本明細書において、「D50」は、体積基準の粒子径分布において、粒子径が小さい側からの頻度の累積が50%に到達する粒子径を示す。D50は、レーザ回折法により測定され得る。
【0029】
《コーティング膜》
コーティング膜は、活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。コーティング膜は、複合粒子のシェルである。
コーティング膜は、リン化合物を含む。
【0030】
(リン化合物)
リン化合物は、第1元素(E1)および第2元素(E2)の少なくとも一方と、Pとを含む。なお、本明細書において、第1元素が「E1」と略記され、第2元素が「E2」と略記され得る。
【0031】
第1元素(E1)は、ガラス形成能を有する元素(ガラスネットワーク形成元素)、すなわち、Oと結合することによりネットワーク構造を有する酸化物ガラスを形成し得る元素である。E1の添加により、混合アニオン効果の発現が期待される。
【0032】
E1は、例えば、ホウ素(B)、珪素(Si)、窒素(N)、硫黄(S)、ゲルマニウム(Ge)、および水素(H)からなる群より選択される少なくとも1種である。E1は、例えば、BおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種である。E1は、単独で酸化物ガラスを形成していてもよい。E1は、Pと共に複合酸化物ガラスを形成していてもよい。
【0033】
第2元素(E2)は、遷移元素である。「遷移元素」は、周期表の第3族~第11族の元素である。
【0034】
E2は、Pよりも大きいイオン半径を有する。E2は、リン化合物の結晶化を阻害し得る。E2は、例えば、第1遷移元素(3d遷移元素)、第2遷移元素(4d遷移元素)、第3遷移元素(5d、4f遷移元素)、および第4遷移元素からなる群より選択される少なくとも1種である。E2は、例えば、第2遷移元素および第3遷移元素からなる群より選択される少なくとも1種である。第3遷移元素は、ランタノイドを含む。すなわちE2は、例えばランタノイドを含んでいてもよい。
【0035】
E2は、例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、スカンジウム(Sc)、銅(Cu)、Y、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、および金(Au)からなる群より選択される少なくとも1種である。
E2は、例えば、La、Ce、Zr、およびYからなる群より選択される少なくとも1種である。E2は、例えば、La、Ce、およびYからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0036】
リン化合物(または複合粒子)中に含まれるPの比率は、複合粒子の総量に対して、例えば、1~10質量%である。
【0037】
リン化合物は、例えば、Li、O、炭素(C)等をさらに含んでいてもよい。
【0038】
リン化合物は、例えば、リン酸骨格を含んでいてもよい。すなわち、リン化合物はリン酸化合物であってもよい。リン化合物がリン酸骨格を含むとき、例えば、TOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)により、複合粒子を分析すると、PO2 -やPO3 -等のフラグメントが検出され得る。
【0039】
コーティング膜(またはリン化合物)において、Liの組成比「CLi/(CP+CE1+CE2)」は、2.5以下である〔上記式(1)参照〕。Liの組成比が2.5以下であり、なおかつ、E1およびE2の少なくとも一方が存在することにより、電池抵抗が顕著に低減され得る。
【0040】
上記Liの組成比は、例えば、2.38以下であってもよいし、2.26以下であってもよいし、2.18以下であってもよいし、2.03以下であってもよいし、1.89以下であってもよいし、1.73以下であってもよいし、1.42以下であってもよいし、1.1以下であってもよい。Liの組成比は、例えば、0.1以上であってもよいし、0.5以上であってもよいし、1.05以上であってもよい。Liの組成比は、例えば、1.05~2.38であってもよい。
なお、Liの組成比は、ゼロであってもよい。すなわち、コーティング膜(複合粒子)の表面にLiが存在していなくてもよく、コーティング膜(またはリン化合物)が全くLiを含んでいなくてもよい。
【0041】
(Liの組成比のXPS測定)
複合粒子の表面におけるLiの組成比「CLi/(CP+CE1+CE2)」は、次の手順でXPSにより測定され得る。XPS装置が準備される。例えば、アルバック・ファイ社製のXPS装置「製品名 PHI X-tool」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。複合粒子からなる試料粉末がXPS装置にセットされる。224eVのパスエネルギーにより、ナロースキャン分析が実施される。測定データが解析ソフトフェアにより処理される。例えば、アルバック・ファイ社製の解析ソフトフェア「製品名 MulTiPak」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。Li1sスペクトルのピーク面積(積分値)が、Liの元素濃度(CLi)に変換される。P2pスペクトルのピーク面積が、Pの元素濃度(CP)に変換される。E1およびE2については、その種類に応じて、適切なスペクトルが選択される。例えばBの場合、B1sスペクトルのピーク面積が、Bの元素濃度(CE1)に変換される。例えばLaの場合、La3d5スペクトルのピーク面積が、Laの元素濃度(CE2)に変換される。CP、CE1およびCE2の合計でLiが除されることにより、粒子表面におけるLiの組成比が求まる。
【0042】
例えば、コーティング膜が複数種のE1を含む場合、CE1は、複数種のE1の合計元素濃度を示す。E2およびCE2についても同様である。
【0043】
XPSによる組成比「CLi/(CP+CE1+CE2)」は、コーティング膜(リン化合物)におけるLiの組成比を反映するが、コーティング膜におけるLiの組成比と等価ではない。XPSにおいては、下地(活物質粒子)の組成も反映され得るためである。例えば、XPSにおいて下地のLiが検出されることにより、XPSによるLiの組成比が、実際のコーティング膜におけるLiの組成比より大きくなる可能性もある。
【0044】
リン化合物の化学組成は、例えば下記式(2)により表されてもよい。
Liw1 x2 yPOz …(2)
上記式(2)中、E1はE1を示す。E2はE2を示す。w、x、y、zは、任意の数である。w、x、y、zは、例えば、複合粒子の断面のコーティング膜の部分がSTEM-EDX(Scanning Transmission Electron Microscope - Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)等により分析されることにより特定され得る。断面試料は、後述の(膜厚測定)と同様の手順に従って作製される。
【0045】
具体的なリン化合物としては、例えば、LiPO(LPO)、BPO(BPO)およびPOx(P6、等)からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0046】
複合粒子において、活物質粒子の表面のコーティング膜による被覆率は、例えば70%以上であってもよい。被覆率が70%以上であることにより、電池抵抗の低減が期待される。被覆率は、例えば、85%以上であってもよいし、88%以上であってもよいし、89%以上であってもよいし、90%以上であってもよいし、94%以上であってもよいし、95%以上であってもよいし、97%以上であってもよい。被覆率は、例えば100%であってもよいし、99%以下であってもよい。被覆率は、例えば、85~97%であってもよいし、90~97%であってもよい。
【0047】
(被覆率のXPS測定)
被覆率もXPSにより測定される。パスエネルギーを120eVとした点以外は上記の(Liの組成比のXPS測定)と同様にして得られる測定データが解析されることにより、C1s、O1s、P1s、M2p3、Co2p3、およびNi2p3の各ピーク面積(強度値)から、各元素の比率(元素濃度)が求まる。下記式(3)により、被覆率が求まる。
θ=(P+E1+E2)/(P+E1+E2+M)×100 …(3)
上記式(3)中、θは被覆率(%)を示す。P、E1、E2、Mは、各元素の比率を示す。
【0048】
「M2p3」および上記式(3)中のMは、活物質粒子(正極活物質粒子)の構成元素であって、LiおよびO以外の元素を示す。すなわち、活物質粒子(正極活物質粒子)は下記式(4)により表されてもよい。
LiMO2 …(4)
Mは、1種の元素からなっていてもよいし、複数の元素からなっていてもよい。Mは、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。Mが複数の元素を含むとき、各元素の組成比の合計は1であってもよい。
【0049】
例えば、正極活物質粒子が「LiNi1/3Co1/3Mn1/32」であるとき、上記式(3)は、下記式(3’)に変形され得る。
θ=(P+E1+E2)/(P+E1+E2+Ni+Co+Mn)×100 …(3’)
上記式(3’)中のNiは、Ni2p3のピーク面積から求まるニッケルの元素比率を示す。Coは、Co2p3のピーク面積から求まるコバルトの元素比率を示す。Mnは、Mn2p3のピーク面積から求まるマンガンの元素比率を示す。
【0050】
コーティング膜は、例えば、5~100nmの厚さを有していてもよいし、5~50nmの厚さを有していてもよいし、10~30nmの厚さを有していてもよい。
【0051】
(膜厚測定)
膜厚(コーティング膜の厚さ)は、蛍光X線分析(XRF)により、検量線から測定され得る。
【0052】
なお、電極(例えば、正極)および電池において、上述のリン化合物を含有し、低抵抗を有するリン系コーティング膜を備える複合粒子を用いることで、高電圧下における耐久性と、高出力との両立が期待される。
【0053】
《活物質粒子》
活物質粒子は、複合粒子のコアである。活物質粒子は、二次粒子(一次粒子の集合体)であってもよい。活物質粒子(二次粒子)は、例えば、1~50μmのD50を有していてもよいし、1~20μmのD50を有していてもよいし、5~15μmのD50を有していてもよい。一次粒子は、例えば、0.1~3μmの最大フェレ径を有していてもよい。
【0054】
活物質粒子は、任意の成分を含み得る。活物質粒子は、正極活物質粒子でも負極活物質粒子でもよい。
【0055】
正極活物質粒子は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。Li(NiCoMn)O2は、例えばLi(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2等を含んでいてもよい。なお、正極活物質粒子は、Hi-Nickel(Niの比率が高い正極活物質)でも、3元系正極活物質でもよい。
【0056】
<全固体電池>
図1は、本実施形態における全固体電池を示す概念図である。全固体電池100は、例えば、外装体(不図示)を含んでいてもよい。外装体は、例えば、金属箔ラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。外装体が、発電要素50を収納していてもよい。発電要素50は、正極10とセパレータ層30と負極20とを含む。すなわち全固体電池100は、正極10とセパレータ層30と負極20とを含む。
【0057】
《正極》
正極10は層状である。正極10は、例えば、正極活物質層と、正極集電体とを含んでいてもよい。例えば、正極集電体の表面に正極合材が塗着されることにより、正極活物質層が形成されていてもよい。正極集電体は、例えば、Al箔等を含んでいてもよい。正極集電体は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。
【0058】
正極活物質層は、例えば、10~200μmの厚さを有していてもよい。正極活物質層は、セパレータ層30に密着している。正極活物質層は正極合材を含む。正極合材は、複合粒子(被覆正極活物質)と硫化物固体電解質とを含む。すなわち正極10は、複合粒子と硫化物固体電解質とを含む。複合粒子および硫化物固体電解質の詳細は、前述のとおりである。
【0059】
正極活物質層は、例えば導電材をさらに含んでいてもよい。導電材は、正極活物質層内に電子伝導パスを形成し得る。導電材の配合量は、100質量部の複合粒子(正極活物質)に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンフレークからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0060】
正極活物質層は、例えばバインダをさらに含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の複合粒子(正極活物質)に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0061】
《負極》
負極20は層状である。負極20は、例えば、負極活物質層と、負極集電体とを含んでいてもよい。例えば、負極集電体の表面に負極合材が塗着されることにより、負極活物質層が形成されていてもよい。負極集電体は、例えば、Cu箔、Ni箔等を含んでいてもよい。負極集電体は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。
【0062】
負極活物質層は、例えば、10~200μmの厚さを有していてもよい。負極活物質層は、セパレータ層30に密着している。負極活物質層は負極合材を含む。負極合材は、負極活物質粒子と硫化物固体電解質とを含む。負極合材は、導電材およびバインダをさらに含んでいてもよい。負極合材と正極合材との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。負極活物質粒子は、任意の成分を含み得る。負極活物質粒子は、例えば、黒鉛、Si、SiOx(0<x<2)、およびLi4Ti512からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0063】
《セパレータ層》
セパレータ層30は、正極10と負極20との間に介在している。セパレータ層30は、正極10を負極20から分離している。セパレータ層30は、硫化物固体電解質を含む。セパレータ層30はバインダをさらに含んでいてもよい。セパレータ層30と正極合材との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。セパレータ層30と負極合材との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0064】
<複合粒子の製造方法>
図2は、本実施形態における複合粒子の製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態における複合粒子の製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。本製造方法は、「(a)混合物の準備」および「(b)複合粒子の製造」を含む。本製造方法は、例えば「(c)熱処理」等をさらに含んでいてもよい。
【0065】
《(a)混合物の準備》
本製造方法は、コーティング液と正極活物質粒子とを混合する(正極活物質粒子の表面にコーティング液を付着させる)ことにより、混合物を準備することを含む。正極活物質粒子の詳細は、前述のとおりである。
【0066】
混合物は、例えば、懸濁液であってもよいし、湿粉であってもよく、混合物において、正極活物質粒子の表面にコーティング液が付着していればよい。例えば、コーティング液中に正極活物質粒子(粉末)が分散されることにより、懸濁液が形成されてもよい。例えば、正極活物質粒子の粉末中に、コーティング液が噴霧されることにより、湿粉が形成されてもよい。本製造方法においては、任意の混合装置、造粒装置等が使用され得る。
【0067】
コーティング液は、溶質(溶質および分散質を含む)と溶媒(溶媒および分散媒または溶媒)とを含む。溶質は、コーティング膜の原料として、第1元素(E1)および第2元素(E2)の少なくとも一方と、リン(P)と、を含む。コーティング液は、例えば、懸濁物(不溶解成分)、沈殿物等をさらに含んでいてもよい。
【0068】
溶質の総量は、100質量部の溶媒に対して、例えば、0.1~20質量部であってもよいし、1~15質量部であってもよいし、5~10質量部であってもよい。
【0069】
溶媒は、溶質が溶解する限り、任意の成分を含み得る。溶媒は、例えば、水、アルコール等を含んでいてもよい。溶媒は、例えば、イオン交換水等を含んでいてもよい。
【0070】
E1およびE2の詳細は、前述の通りである。
溶質は、例えば、E1のオキソ酸、およびE1の酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。溶質は、例えば、ホウ酸、ケイ酸、硝酸、硫酸、およびゲルマニウム酸からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。溶質は、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸等を含んでいてもよい。
溶質は、例えば、E2の酸化物を含んでいてもよい。溶質は、例えば、酸化ランタン、酸化セリウム、および酸化イットリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0071】
溶質は、例えば、リン酸化合物を含んでいてもよい。これにより、溶質はPを含み得る。リン酸化合物は、例えば、無水リン酸(P25)、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸〔(HPO3n〕、およびポリリン酸からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。リン酸化合物は、例えば、メタリン酸およびポリリン酸からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。メタリン酸およびポリリン酸は、その他のリン酸化合物に比して、長い分子鎖を有し得る。リン酸化合物が長い分子鎖を有することにより、連続性を有するコーティング膜が生成されやすくなると考えられる。コーティング膜が連続性を有することにより、例えば、被覆率の向上が期待される。
【0072】
上記のコーティング液において、例えば、下記式(5)の関係が満たされていてもよい。
0.040<(nE1+nE2)/nP≦1.51 …(5)
上記式(5)中、
Pは、コーティング液中におけるPのモル濃度を示す。
E1は、コーティング液中における第1元素のモル濃度を示す。
E2は、コーティング液中における第2元素のモル濃度を示す。
【0073】
「(nE1+nE2)/nP」は、コーティング液中におけるPに対する、第1元素(E1)および第2元素(E2)の合計のモル比(物質量比)を示す。該モル比が0.040超1.51以下である場合、電池抵抗の低減が期待される。
【0074】
上記モル比は、例えば、1.03以下であってもよいし、0.67以下であってもよいし、0.48以下であってもよいし、0.098以下であってもよいし、0.051以下であってもよい。モル比は、例えば、0.048以上であってもよいし、0.10以上であってもよい。モル比は、例えば、0.048~1.03であってもよい。
【0075】
(ICP測定)
コーティング液中の上記モル比「(nE1+nE2)/nP」は、次の手順で測定される。0.01gのコーティング液が純水で希釈されることにより、100mLの試料液が準備される。P、E1、E2の水溶液(1000ppm、10000ppm)が準備される。0.01gの水溶液が純水で希釈されることにより、標準液が準備される。ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)装置が準備される。ICP-AES装置により、標準液の発光強度が測定される。標準液の発光強度から、検量線が作成される。ICP-AES装置により、試料液(コーティング液の希釈液)の発光強度が測定される。試料液の発光強度と、検量線とから、コーティング液におけるP、E1、E2の質量濃度が求まる。さらにP、E1、E2の質量濃度がモル濃度に変換される。E1のモル濃度(nE1)と、E2のモル濃度(nE2)との合計が、Pのモル濃度(nP)で除されることにより、モル比が求まる。
【0076】
溶質は、さらにLiを含んでいてよく、例えば、リチウム化合物をさらに含んでいてもよい。リチウム化合物は、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム等であってもよい。
【0077】
P、E1およびE2の合計に対する、Liのモル比「nLi/(nP+nE1+nE2)」は、例えば、1.1未満であってもよいし、1.0以下であってもよいし、0.45以下であってもよいし、0.1以下であってもよいし、0.05以下であってもよい。なお、モル比「nLi/(nP+nE1+nE2)」は、例えばゼロであってもよい。すなわち、溶質はLiを含んでいなくてもよい。nLiは、ICP測定における検出限界未満であってもよい。モル比「nLi/(nP+nE1+nE2)」が小さい程、粒子表面におけるLiの組成比が低減することが期待される。
【0078】
《(b)複合粒子の製造》
本製造方法は、上記の混合物を乾燥することにより、複合粒子を製造することを含む。活物質粒子の表面に付着したコーティング液が乾燥することにより、コーティング膜が生成され、複合粒子が製造される。本製造方法においては、任意の乾燥方法が使用され得る。
【0079】
混合物が活物質粒子およびコーティング液を含む懸濁液である場合は、例えば、スプレードライ法により、複合粒子が形成されてもよい。すなわち、活物質粒子とコーティング液とを含む懸濁液がノズルから噴霧され、噴霧された液滴が、例えば熱風により、乾燥されることによって、複合粒子が形成され得る。スプレードライ法の使用により、例えば、被覆率の向上が期待される。
【0080】
スプレードライ用の懸濁液の固形分率は、体積分率で、例えば、1~50%であってもよいし、10~30%であってもよい。ノズル径は、例えば、0.1~10mmであってもよいし、0.1~1mmであってもよい。熱風温度は、例えば、100~200℃であってもよい。
【0081】
例えば、転動流動層コーティング装置により、複合粒子が製造されてもよい。転動流動層コーティング装置においては、「(a)混合物の準備」(活物質粒子の表面へのコーティング液の付着)および「(b)複合粒子の製造」が同時に実施され得る。
【0082】
《(c)熱処理》
本製造方法は、複合粒子に熱処理を施すことを含んでいてもよい。熱処理によりコーティング膜が定着し得る。熱処理は「焼成」とも称され得る。本製造方法においては、任意の熱処理装置が使用され得る。熱処理温度は、例えば、150~300℃であってもよい。熱処理時間は、例えば、1~10時間であってもよい。例えば、空気中で熱処理が実施されてもよいし、不活性雰囲気下で熱処理が実施されてもよい。
【実施例
【0083】
<実施例1>
〔複合粒子の調製〕
メタリン酸(富士フイルム和光純薬製)10.8gをイオン交換水166.0gに溶解させることにより、リン酸水溶液を得た。得られたリン酸水溶液に、水酸化リチウム一水和物を加えて溶解させることにより、コーティング液が調製された。なお、コーティング液中のPに対するLiのモル比率(CLi/C)が0.75となるように、水酸化リチウム一水和物の配合量が調整された。
【0084】
正極活物質粒子として、Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2が準備された。正極活物質粒子50質量部が、53.7質量部のコーティング液に分散されることにより、懸濁液が準備された。懸濁液のスプレードライによって、複合粒子の粉末が調製された。
【0085】
得られた複合粒子が大気雰囲気下で熱処理された。熱処理温度は200℃であった。熱処理時間は5時間であった。これにより、厚さ20nmのコーティング膜を有する実施例1の複合粒子(被覆正極活物質)が得られた。なお、実施例1の複合粒子において、コーティング膜はリン化合物であるLi3PO4(LPO)を含むと考えられる。
【0086】
〔全固体電池の作製〕
(正極の作製)
下記材料が準備された。
硫化物固体電解質:結晶性の高いセラミックスSE(300℃以上の温度で焼成されたLiCl-LiBr-Li3PS4、D50:0.8μm)
導電材:VGCF(気相法炭素繊維)
バインダ:SBR(ブタジエンゴム)
分散媒:ヘプタン
正極集電体:Al箔
【0087】
上記の複合粒子と、硫化物固体電解質と、導電材と、バインダと、分散媒とが混合されることにより、正極スラリーが準備された。複合粒子と硫化物固体電解質との混合比は「複合粒子/硫化物固体電解質=7/3(体積比)」であった。導電材の配合量は、100質量部の複合粒子に対して3質量部であった。バインダの配合量は、100質量部の複合粒子に対して0.7質量部であった。超音波ホモジナイザー(エスエムテー製:UH-50)により、正極スラリーが十分攪拌された。正極スラリーが正極集電体の表面に塗工されることにより、塗膜が形成された。ホットプレートにより、塗膜が100℃で30分間乾燥された。これにより正極原反が製造された。正極原反から、円盤状の正極が切り出された。正極の面積は1cm2であった。
【0088】
(負極の作製)
フィルミックス装置(プライミクス製30-L型)の混練容器に、硫化物固体電解質(LiIを含むLiS-P系ガラスセラミックス、D50:0.8μm)と、1質量%の導電助剤(VGCF)と、2質量%のバインダー(SBR)と、ヘプタンとを投入し、20000rpmで30分間撹拌した。
次いで、負極活物質(LiTi12粒子、D50:1μm)と固体電解質とを体積比率が6:4となるように、混練容器に投入し、フィルミックス装置を用いて15000rpmで60分間撹拌することにより、負極合を調製した。調製された負極合を銅箔上に塗工し、100℃にて30分間乾燥させた。これにより負極原反が製造された。負極原反から、円盤状の負極が切り出された。負極の面積は1cm2であった。
【0089】
(セパレータ層の作製)
内径断面積1cmの筒状セラミックスに、64.8mgの硫化物固体電解質(LiIを含むLiS-P系ガラスセラミックス、D50:2.5μm)を入れ、平滑にした後、1ton/cmでプレスし、セパレータ層(固体電解質層)を形成した。
【0090】
(電池の作製)
固体電解質層の一方の面に作製された正極を重ね、固体電解質層の他方の面に作製された負極を重ね合わせて、6ton/cm で1分間のプレスを行った。次いで、正極および負極に端子(ステンレス棒)が入れられた状態で、1tonで拘束することにより、全固体電池(全固体リチウムイオン電池)が作製された。
【0091】
<実施例2>
実施例2では、正極の作製用の硫化物固体電解質として、結晶性の高いガラスセラミックスSE(180℃以下の温度で焼成されたLiI-LiBr-LiS-P、D50:0.8μm)を用いた。それ以外の点は実施例1と同様にして、実施例2の正極および電池が作製された。
【0092】
<実施例3>
実施例3では、実施例1と同様のリン酸水溶液にホウ酸(ナカライテスク製)を加えて溶解させることにより、コーティング液が調製された。なお、ホウ酸の配合量は、Pに対するBのモル比(C/C)が1.0となるように調整された。それ以外の点は実施例1と同様にして、実施例3の正極および電池が作製された。なお、実施例3の複合粒子において、コーティング膜はリン化合物であるBPO4(BPO)を含むと考えられる。
【0093】
<実施例4>
実施例4では、正極の作製用の硫化物固体電解質として、結晶性の高いガラスセラミックスSE(180℃以下の温度で焼成されたLiI-LiBr-LiS-P、D50:0.8μm)を用いた。それ以外の点は実施例3と同様にして、実施例4の正極および電池が作製された。
【0094】
<評価>
上記の実施例の各々の電池(全固体電池)について、以下の方法による評価が実施された。
【0095】
(初期容量の確認)
各々の電池について、1/3Cレートにて定電流-定電圧(CC-CV)充電および定電流(CC)放電が3サイクル繰り返された。3サイクル目の放電容量が初期容量として確認された。なお、「C」は電流レートの単位である。「1C」は、1時間の充電により、SOC(充電率:State of Charge)が0%から100%に到達する電流レートを示す。
【0096】
〔初期DCIRの測定〕
上記の初期容量が確認された電池が、以下の条件での定電流-定電圧充電によりSOC(充電率)が40%の状態まで充電された。
定電流充電:電流値1/3C,充電終止電圧4.05V
定電圧充電:電圧値4.05V,電流値20A
その後、電池を25℃の雰囲気下において、3Cの電流値で2秒間の放電を行い、放電開始から2秒後の電圧値を測定した。電圧降下量と放電時の電流との関係から、直流内部抵抗(DCIR)が算出された。表1に、DCIR(初期DCIR)の測定結果が示される。
【0097】
〔耐久試験後のDCIRの測定〕
上記の初期DCIRが測定された電池に対して、耐久試験(充放電サイクル試験)が実施された。具体的には、下記サイクル条件により、充放電サイクル(CC充電とCC放電との一巡)が150回繰り返された。
(サイクル条件)
周囲温度:60℃
CC充電:電流=5C、終止電圧=2.5V(上限SOC=80%)
CC放電:電流=1C、終止電圧=1.5V
【0098】
この耐久試験後の電池について、前述の初期DCIRと同様にしてDCIRが測定された。表1に、耐久試験後のDCIRの初期DCIRに対する増加率を示す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1に示される結果から、結晶性の高い(PS結晶相のモル比率が60%以上である)硫化物固体電解質(セラミックスSEまたはガラスセラミックスSE)を用いた実施例1~4において、耐久試験後の電池抵抗増加率は比較的低い値であった。
【0101】
なお、PS結晶相のモル比率が70%以上である硫化物固体電解質(セラミックスSE)を用いた実施例1および3において、ガラスセラミックスSEを用いた実施例2および4に比べて、耐久試験後の電池抵抗増加率はより低い値であった。
【0102】
31P MAS-NMR測定>
前述の実施例1および3で用いたセラミックスSEと、実施例2および4で用いたガラスセラミックスSEの各々について、AVANCEIII600(Bruker製)を用いて、以下の測定条件で固体31P MAS-NMR スペクトルの測定を行った。
(測定条件)
・観測周波数(共鳴周波数):242.94MHz
・観測幅:250kHz
・測定法:シングルパルス法
・フリップ角:90°パルス
・繰り返し待ち時間(測定後の待ち時間):T31Pの緩和時間)の5倍以上
・プローブ:4.0mm
・MAS回転速度(回転数):15kHz
・化学シフトの標準物質:85%リン酸水溶液(0ppm)
【0103】
上記の測定で得られたスペクトルから、PS結晶相、PSアモルファス相およびP相の各々のモル比率を求めた。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に示される結果から、実施例1および3で用いたセラミックスSEは、PS結晶相のモル比率(結晶化度)が100%であり、PSアモルファス相およびP相は含んでおらず、結晶性が高いことが分かる。
一方、実施例2および4で用いたガラスセラミックスSEは、PS結晶相のモル比率が61.6%であり、PSアモルファス相およびP相も含んでいた。ただし、このガラスセラミックスSEも、PS結晶相のモル比率が60%以上であり、本開示において硫化物固体電解質として適用可能である。
【0106】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0107】
10 正極、20 負極、30 セパレータ層、50 発電要素、100 全固体電池。
図1
図2