(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0247 20160101AFI20241203BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20241203BHJP
H01M 8/0271 20160101ALI20241203BHJP
H01M 8/2483 20160101ALI20241203BHJP
H01M 8/0273 20160101ALN20241203BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241203BHJP
【FI】
H01M8/0247
H01M8/021
H01M8/0271
H01M8/2483
H01M8/0273
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2022079940
(22)【出願日】2022-05-16
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】竹広 直樹
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-185982(JP,A)
【文献】特表2020-522089(JP,A)
【文献】特開2014-093212(JP,A)
【文献】特開2004-047270(JP,A)
【文献】特開2019-125552(JP,A)
【文献】特開2010-113864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス製のセパレータを備えた単セルを複数積層したセル積層体を有する燃料電池スタックであって、
前記単セルは、カソードセパレータ、アノードセパレータ、及び、当該カソードセパレータと当該アノードセパレータの間に配置される絶縁シートを備え、
複数の前記単セルの内の少なくとも1つの単セルにおいて、前記カソードセパレータ及び前記アノードセパレータの内の少なくとも1つの前記セパレータは、前記単セルの冷却液マニホールドに面方向に隣接する領域に、積層方向に隣接する前記絶縁シートと接着されていない犠牲電食領域と、当該犠牲電食領域と面方向に隣接し且つ当該絶縁シートと接着されているシール領域を有し、
前記犠牲電食領域において、前記セパレータの冷却液導出入領域の形状は、前記絶縁シートと接する平板状であり、当該犠牲電食領域における当該冷却液導出入領域以外の領域の形状は、当該絶縁シートと少なくとも一部接しない凹凸状である、燃料電池スタック。
【請求項2】
前記犠牲電食領域の前記冷却液マニホールドの冷却液入出口側の端部からの面方向の幅を犠牲電食距離W(mm)としたとき、当該犠牲電食距離W(mm)と前記セパレータの厚みD(mm)との積である犠牲電食面積W×Dが0.25mm
2以上である、請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
複数の前記単セルの内発電に寄与し且つ電気的に最も高電位となる最高電位単セルのカソードセパレータ、当該最高電位単セルに隣接し且つ発電に寄与しない端部単セルのカソードセパレータ、及び、当該端部単セルのアノードセパレータからなる群より選ばれる少なくとも一種のセパレータは、当該セパレータに隣接する前記絶縁シートよりも前記冷却液マニホールドの一部の領域に面方向に突出した犠牲電食領域突出部を有する、請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
前記最高電位単セルのカソードセパレータが、前記犠牲電食領域突出部を有する、請求項3に記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記犠牲電食距離W(mm)が2.1~13mmであり、
前記セパレータの厚みD(mm)が、0.08~0.12mmである、請求項2に記載の燃料電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池については、様々な研究がなされている。
例えば特許文献1では、冷却水マニホールドで生じる電食に対し、犠牲部材を別途設けて、犠牲部材により対応する技術が開示されている。
例えば特許文献2では、セパレータに腐食が発生することを抑えることができる燃料電池スタックが開示されている。
例えば特許文献3では、特に高電位側のセパレータ等が腐食するのを効果的に抑制する燃料電池システムが開示されている。
例えば特許文献4では、燃料電池から熱を回収する冷却水によるセパレータ板の腐食を防止する機構を備えた燃料電池が開示されている。
例えば特許文献5では、燃料電池から熱を回収する冷却液による導電性セパレータなどの燃料電池スタック構成部材の腐食を防止する機構を備えた燃料電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4901169号
【文献】特開2016-096033号公報
【文献】特開2008-016216号公報
【文献】特開2010-113864号公報
【文献】特開2010-113863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池スタックの冷却液マニホールドの冷却液導出入領域において、特に出口側では温度が高い冷却液が流れ出るため、冷却液のイオン伝導度が上昇し、冷却液のイオン抵抗が低下し、電食が集中し、燃料電池スタックの寿命が短くなる。
従来技術では冷却液マニホールドで生じる電食に対し、犠牲部材を別途設けて、犠牲部材により対応するため、燃料電池スタックを構成する部品が増え、燃料電池スタックのコストが上昇する。
また、冷却液マニホールドで生じる電食に対し、電食が生じるセルのセパレータ基材を安価なSUSなどのステンレス製材料から耐食性の高いTiなどの材料に変更すると、燃料電池スタックのコストが上昇する。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、安価な構成で寿命を長くすることができる燃料電池スタックを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示においては、ステンレス製のセパレータを備えた単セルを複数積層したセル積層体を有する燃料電池スタックであって、
前記単セルは、カソードセパレータ、アノードセパレータ、及び、当該カソードセパレータと当該アノードセパレータの間に配置される絶縁シートを備え、
複数の前記単セルの内の少なくとも1つの単セルにおいて、前記カソードセパレータ及び前記アノードセパレータの内の少なくとも1つの前記セパレータは、前記単セルの冷却液マニホールドに面方向に隣接する領域に、積層方向に隣接する前記絶縁シートと接着されていない犠牲電食領域と、当該犠牲電食領域と面方向に隣接し且つ当該絶縁シートと接着されているシール領域を有し、
前記犠牲電食領域において、前記セパレータの冷却液導出入領域の形状は、前記絶縁シートと接する平板状であり、当該犠牲電食領域における当該冷却液導出入領域以外の領域の形状は、当該絶縁シートと少なくとも一部接しない凹凸状である、燃料電池スタックを提供する。
【0007】
本開示の燃料電池スタックは、前記犠牲電食領域の前記冷却液マニホールドの冷却液入出口側の端部からの面方向の幅を犠牲電食距離W(mm)としたとき、当該犠牲電食距離W(mm)と前記セパレータの厚みD(mm)との積である犠牲電食面積W×Dが0.25mm2以上であってもよい。
【0008】
本開示の燃料電池スタックは、複数の前記単セルの内発電に寄与し且つ電気的に最も高電位となる最高電位単セルのカソードセパレータ、当該最高電位単セルに隣接し且つ発電に寄与しない端部単セルのカソードセパレータ、及び、当該端部単セルのアノードセパレータからなる群より選ばれる少なくとも一種のセパレータは、当該セパレータに隣接する前記絶縁シートよりも前記冷却液マニホールドの一部の領域に面方向に突出した犠牲電食領域突出部を有していてもよい。
【0009】
本開示の燃料電池スタックは、前記最高電位単セルのカソードセパレータが、前記犠牲電食領域突出部を有していてもよい。
【0010】
本開示の燃料電池スタックは、前記犠牲電食距離W(mm)が2.1~13mmであり、
前記セパレータの厚みD(mm)が、0.08~0.12mmであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の燃料電池スタックは、安価な構成で寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態の燃料電池スタックの冷却液排出マニホールド付近の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の第2実施形の燃料電池スタックの冷却液排出マニホールド付近の犠牲電食距離Wとセパレータの厚みDを説明するための一例を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、本開示の第2実施形態の燃料電池スタックのイオン伝導度が異なるセパレータの犠牲電食距離Wと燃料電池スタックの寿命との関係の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本開示の第3実施形態の燃料電池スタックの冷却液排出マニホールド付近の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示による実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄(例えば、本開示を特徴付けない燃料電池スタックの一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、数値範囲における上限値と下限値は任意の組み合わせを採用できる。
【0014】
本開示においては、ステンレス製のセパレータを備えた単セルを複数積層したセル積層体を有する燃料電池スタックであって、
前記単セルは、カソードセパレータ、アノードセパレータ、及び、当該カソードセパレータと当該アノードセパレータの間に配置される絶縁シートを備え、
複数の前記単セルの内の少なくとも1つの単セルにおいて、前記カソードセパレータ及び前記アノードセパレータの内の少なくとも1つの前記セパレータは、前記単セルの冷却液マニホールドに面方向に隣接する領域に、積層方向に隣接する前記絶縁シートと接着されていない犠牲電食領域と、当該犠牲電食領域と面方向に隣接し且つ当該絶縁シートと接着されているシール領域を有し、
前記犠牲電食領域において、前記セパレータの冷却液導出入領域の形状は、前記絶縁シートと接する平板状であり、当該犠牲電食領域における当該冷却液導出入領域以外の領域の形状は、当該絶縁シートと少なくとも一部接しない凹凸状である、燃料電池スタックを提供する。
【0015】
本開示においては、電食が生じるセルにおいて、安価なステンレス製材料を用いて、冷却液マニホールドの端部から所定の領域を犠牲電食領域とし、その領域の外側に、シール構造を設定する。
本開示においては、ステンレス製セパレータを用いた、燃料電池の冷却液マニホールドにおいて、犠牲電食領域を持ち、犠牲電食領域の冷却液導出入領域では、セパレータが平板状であり、片面のみが冷却液に接する一方、犠牲電食領域の冷却液導出入領域以外の部分は、凹凸形状であり、絶縁シートと接しない領域を備え、電食中にセパレータの両面が冷却液に接する構造を備える。表面凹凸を付与して面積を増加させることにより、犠牲電食領域をより犠牲材として機能させる。
本開示によれば、犠牲電食領域の絶縁シートと接していない領域では、セパレータの両面で電食が生じるため、電食反応が促進される。そのため、該当部分の犠牲電食としての効果が大きくなり、冷却液導出入領域への電食集中が緩和され燃料電池スタックの寿命を延ばすことができる。また、ステンレス製のセパレータを用い、安価な構成とすることができる。
【0016】
本開示の燃料電池スタックは、ステンレス製のセパレータを備えた単セルを複数積層したセル積層体を有する。
本開示においては、単セル、及び、単セルを積層した燃料電池スタックのいずれも、燃料電池と呼ぶ場合がある。
本開示においては単セルをセルと呼ぶ場合がある。
【0017】
セル積層体は、単セルを複数個積層した積層体である。
セル積層体における単セルの積層数は特に限定されず、2~数百個であってもよい。
セル積層体は、締結部材により締結荷重が付与されていてもよい。
締結部材は、両端ネジ付きボルトとナット等のシャフト部材、及び、ばね部材等が挙げられる。
燃料電池スタックは、セル積層体の積層方向両端に一対のエンドプレートを有していてもよい。
セル積層体の締結は、セル積層体の積層方向両端に配置される一対のエンドプレートを介して、両端ネジ付きボルトとナット等のシャフト部材等を用いてネジ締めにより締結荷重を付与する方法、ばね部材を用いて締結荷重を付与する方法等が挙げられる。
【0018】
燃料電池の単セルは、カソードセパレータ、アノードセパレータ、及び、当該カソードセパレータと当該アノードセパレータの間に配置される絶縁シートを備え、通常、膜電極ガス拡散層接合体(MEGA)を備える。
膜電極ガス拡散層接合体は、アノード側ガス拡散層及び、アノード触媒層及び、電解質膜及び、カソード触媒層及び、カソード側ガス拡散層をこの順に有する。
【0019】
カソード(酸化剤極)は、カソード触媒層及びカソード側ガス拡散層を含む。
アノード(燃料極)は、アノード触媒層及びアノード側ガス拡散層を含む。
カソード触媒層及びアノード触媒層をまとめて触媒層と称する。
触媒層は、例えば、電気化学反応を促進する触媒金属、プロトン伝導性を有する電解質、及び、電子伝導性を有する担体等を備えていてもよい。
触媒金属としては、例えば、白金(Pt)、及び、Ptと他の金属とから成る合金(例えばコバルト、及び、ニッケル等を混合したPt合金)等を用いることができる。
電解質としては、フッ素系樹脂等であってもよい。フッ素系樹脂としては、例えば、ナフィオン溶液等を用いてもよい。
上記触媒金属は担体上に担持されており、各触媒層では、触媒金属を担持した担体(触媒担持担体)と電解質とが混在していてもよい。
触媒金属を担持するための担体は、例えば、一般に市販されているカーボンなどの炭素材料等が挙げられる。
【0020】
カソード側ガス拡散層及びアノード側ガス拡散層をまとめてガス拡散層と称する。
ガス拡散層は、ガス透過性を有する導電性部材等であってもよい。
導電性部材としては、例えば、カーボンクロス、及びカーボンペーパー等のカーボン多孔質体、並びに、金属メッシュ、及び、発泡金属などの金属多孔質体等が挙げられる。
【0021】
電解質膜は、固体高分子電解質膜であってもよい。固体高分子電解質膜としては、例えば、水分が含まれたパーフルオロスルホン酸の薄膜等のフッ素系電解質膜、及び、炭化水素系電解質膜等が挙げられる。電解質膜としては、例えば、ナフィオン膜(デュポン社製)等であってもよい。
【0022】
絶縁シートは、カソードセパレータとアノードセパレータとの間に配置される。絶縁シートは、膜電極ガス拡散層接合体の外周に配置されていてもよい。
絶縁シートは、骨格部と、開口部と、孔を有していてもよい。
骨格部は、膜電極ガス拡散層接合体と接続する絶縁シートの主要部分である。
開口部は、膜電極ガス拡散層接合体の保持領域であり、膜電極ガス拡散層接合体を収納するために骨格部の一部を貫通する領域である。開口部は、絶縁シートにおいて、膜電極ガス拡散層接合体の周囲(外周部)に骨格部が配置される位置に配置されていればよく、絶縁シートの中央に有していてもよい。
絶縁シートの孔は、反応ガス、及び、冷却液等の流体を単セルの積層方向に流通させる。絶縁シートの孔は、セパレータの孔と連通するように位置合わせされて配置されていてもよい。
絶縁シートは、枠状のコア層と、コア層の両面に設けられた枠状の二つのシェル層、即ち、第1シェル層と第2シェル層とを含んでいてもよい。
第1シェル層及び第2シェル層は、コア層と同様に、コア層の両面に枠状に設けられていてもよい。
【0023】
コア層は、ガスシール性、絶縁性を有する構造部材であればよく、燃料電池の製造工程での熱圧着時の温度条件下でも構造が変化しない材料により形成されていてもよい。具体的には、コア層の材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、PC(ポリカーボネート)、PPS(ポリフェニレンスルファイド)、PET(ポリエチレンテレフタラート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PA(ポリアミド)、PI(ポリイミド)、PS(ポリスチレン)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、シクロオレフィン、PES(ポリエーテルサルホン)、PPSU(ポリフェニルスルホン)、LCP(液晶ポリマー)、エポキシ樹脂等の樹脂等であってもよい。コア層の材料は、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)、フッ素系ゴム、シリコン系ゴム等のゴム材であってもよい。
コア層の厚さは、絶縁性を担保する観点から、5μm以上であってもよく、20μm以上であってもよく、セル厚さを低減する観点から、200μm以下であってもよく、150μm以下であってもよい。
【0024】
第1シェル層及び第2シェル層は、コア層とアノードセパレータ及びカソードセパレータとを接着してシール性を確保するために、他の物質との接着性が高く、熱圧着時の温度条件下で軟化し、コア層よりも粘度及び融点が低い性質を有していてもよい。具体的には、第1シェル層及び第2シェル層は、ポリエステル系及び変性オレフィン系等の熱可塑性樹脂であってもよく、変性エポキシ樹脂である熱硬化性樹脂であってもよい。
第1シェル層を構成する樹脂と第2シェル層を構成する樹脂とは、同種の樹脂であってもよく、異なる種類の樹脂であってもよい。コア層の両面にシェル層を設けることで、絶縁シートと2つのセパレータとの間の加熱プレスによる接着が容易になる。
第1シェル層及び第2シェル層のそれぞれのシェル層の厚さは、接着性を担保する観点から、5μm以上であってもよく、30μm以上であってもよく、セル厚さを低減する観点から、100μm以下であってもよく、40μm以下であってもよい。
【0025】
絶縁シートにおいて、第1シェル層及び第2シェル層は、それぞれアノードセパレータ及びカソードセパレータと接着する部分(セパレータのシール領域)にのみに設けられていてもよい。コア層の一方の面に設けられた第1シェル層は、カソードセパレータと接着していてもよい。コア層の他方の面に設けられた第2シェル層は、アノードセパレータと接着していてもよい。そして、絶縁シートは、一対のセパレータにより挟持されてもよい。
【0026】
燃料電池スタックは、各供給孔が連通した供給マニホールド、及び、各排出孔が連通した排出マニホールド等の各孔が連通したマニホールドを有していてもよい。
供給マニホールドは、燃料ガス供給マニホールド、酸化剤ガス供給マニホールド、及び、冷却液供給マニホールド等が挙げられる。
排出マニホールドは、燃料ガス排出マニホールド、酸化剤ガス排出マニホールド、及び、冷却液排出マニホールド等が挙げられる。
本開示においては、冷却液供給マニホールド、及び、冷却液排出マニホールドをまとめて冷却液マニホールドという。
【0027】
燃料電池スタックは隣り合う単セルの間にガスケットを備えていてもよい。ガスケットは各反応ガス系からの反応ガスの漏れを防止するためのシール材として用いる。
ガスケットは、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)ゴム、シリコンゴム、熱可塑性エラストマー樹脂等であってもよい。
【0028】
単セルは、一対のセパレータを備える。
一対のセパレータは、絶縁シートを挟持し、通常、さらに膜電極ガス拡散層接合体も挟持する。
一対のセパレータは、一方がアノードセパレータであり、もう一方がカソードセパレータである。本開示では、アノードセパレータとカソードセパレータとをまとめてセパレータという。
セパレータは、反応ガス及び冷却液等の流体を単セルの積層方向に流通させるための供給孔及び排出孔等の孔を有していてもよい。冷却液としては、低温時の凍結を防止するために例えばエチレングリコールと水との混合溶液を用いることができる。
供給孔は、燃料ガス供給孔、酸化剤ガス供給孔、及び、冷却液供給孔等が挙げられる。
排出孔は、燃料ガス排出孔、酸化剤ガス排出孔、及び、冷却液排出孔等が挙げられる。
本開示においては、これらの孔を便宜的にマニホールドと称する場合がある。
セパレータは、ガス拡散層に接する面に反応ガス流路を有していてもよい。また、セパレータは、ガス拡散層に接する面とは反対側の面に燃料電池の温度を一定に保つための冷却液流路を有していてもよい。
アノードセパレータは、アノード側ガス拡散層に接する面に燃料ガス流路を有していてもよい。また、アノードセパレータは、アノード側ガス拡散層に接する面とは反対側の面に燃料電池の温度を一定に保つための冷却液流路を有していてもよい。
カソードセパレータは、カソード側ガス拡散層に接する面に酸化剤ガス流路を有していてもよい。また、カソードセパレータは、カソード側ガス拡散層に接する面とは反対側の面に燃料電池の温度を一定に保つための冷却液流路を有していてもよい。
セパレータは、SUS等のステンレス製の板であってもよい。
セパレータの形状は、長方形、横長6角形、横長8角形、円形、及び、長丸形状等であってもよい。
【0029】
本開示においては、燃料ガス、及び、酸化剤ガスをまとめて反応ガスと称する。アノードに供給される反応ガスは、燃料ガスであり、カソードに供給される反応ガスは酸化剤ガスである。燃料ガスは、主に水素を含有するガスであり、水素であってもよい。酸化剤ガスは、酸素を含有するガスであり、酸素、空気、及び、乾燥空気等であってもよい。
【0030】
セパレータは、冷却液マニホールドを構成する冷却液供給孔又は冷却液排出孔と、冷却液流路との間に冷却液導出入領域を有する。
具体的には、セパレータは、冷却液供給マニホールドを構成する冷却液供給孔と、冷却液流路との間に冷却液導入領域を有し、冷却液排出マニホールドを構成する冷却液排出孔と、冷却液流路との間に冷却液導出領域を有する。
冷却液導出入領域は、冷却液導入領域又は冷却液導出領域を意味する。
セパレータにおける単セルの冷却液マニホールド(冷却液マニホールドを構成する冷却液供給孔又は冷却液排出孔)に面方向に隣接する領域は、冷却液導出入領域と冷却液導出入領域以外の領域を有する。
具体的には、セパレータにおける単セルの冷却液供給マニホールドに面方向に隣接する領域は、冷却液導入領域と冷却液導入領域以外の領域を有し、セパレータにおける単セルの冷却液排出マニホールドに面方向に隣接する領域は、冷却液導出領域と冷却液導出領域以外の領域を有する。
冷却液導出入領域以外の領域とは、セパレータにおける単セルの冷却液供給マニホールドに面方向に隣接する領域であり、且つ、冷却液流路と連通していない領域であってもよい。
【0031】
(1)第1実施形態
本開示の第1実施形態の燃料電池スタックの複数の単セルの内の少なくとも1つの単セルにおいて、カソードセパレータ及びアノードセパレータの内の少なくとも1つのセパレータは、単セルの冷却液マニホールドに面方向に隣接する領域に、積層方向に隣接する絶縁シートと接着されていない犠牲電食領域と、当該犠牲電食領域と面方向に隣接し且つ当該絶縁シートと接着されているシール領域を有する。
すなわち、犠牲電食領域は、セパレータにおける、冷却液マニホールドに面方向に隣接する領域であり、且つ、絶縁シートと接着されていない領域である。
また、シール領域は、セパレータにおける、犠牲電食領域と面方向に隣接する領域であり、且つ、絶縁シートと接着されている領域である。
犠牲電食領域は、カソードセパレータ及びアノードセパレータの内の少なくとも1つのセパレータに設けられていればよく、両方のセパレータに設けられていてもよい。
犠牲電食領域は、複数の単セルの内の少なくとも1つの単セルにおいて設けられていればよく、すべての単セルに設けられていてもよい。
【0032】
犠牲電食領域において、セパレータの冷却液導出入領域の形状は、絶縁シートと接する平板状である。
犠牲電食領域におけるセパレータの冷却液導出入領域以外の領域の形状は、絶縁シートと少なくとも一部接しない凹凸状であればよく、凹凸状であれば絶縁シートと全部接していなくてもよい。
犠牲電食領域において、セパレータの冷却液導入領域の形状は、絶縁シートと接する平板状であり、当該犠牲電食領域における当該冷却液導入領域以外の領域の形状は、当該絶縁シートと少なくとも一部接しない凹凸状であってもよい。
犠牲電食領域において、セパレータの冷却液導出領域の形状は、絶縁シートと接する平板状であり、当該犠牲電食領域における当該冷却液導出領域以外の領域の形状は、当該絶縁シートと少なくとも一部接しない凹凸状であってもよい。
【0033】
図1は、本開示の第1実施形態の燃料電池スタックの冷却液排出マニホールド付近の一例を示す断面模式図である。
図1で示すように、本開示の第1実施形態の燃料電池スタックは、各単セルにおいて、カソードセパレータ及びアノードセパレータは、単セルの冷却液排出マニホールドに面方向に隣接する領域に、積層方向に隣接する絶縁シートと接着されていない犠牲電食領域と、当該犠牲電食領域と面方向に隣接し且つ当該絶縁シートと接着されているシール領域を有する。
犠牲電食領域において、セパレータの冷却液導出領域の形状は、絶縁シートと接する平板状であり、当該犠牲電食領域における当該冷却液導出領域以外の領域の形状は、当該シートと一部接しない凹凸状である。
なお、
図1では、冷却液マニホールドとして冷却液排出マニホールドの例を示したが、冷却液マニホールドが冷却液供給マニホールドの場合も、冷却液排出マニホールドの場合と同様の構成とすることができる。
【0034】
(2)第2実施形態
本開示の第2実施形態の燃料電池スタックは、犠牲電食領域の冷却液マニホールドの冷却液入出口側の端部からの面方向の幅を犠牲電食距離W(mm)としたとき、当該犠牲電食距離W(mm)とセパレータの厚みD(mm)との積である犠牲電食面積W×Dが0.25mm2以上であってもよく、燃料電池スタックの体格(エネルギー密度)と寿命のバランスの観点から上限は1.00mm2以下であってもよい。
犠牲電食距離W(mm)が2.1~13mmであってもよく、下限は2.5mm以上であってもよく、3mm以上であってもよく、上限は6mm以下であってもよく、4mm以下であってもよい。
セパレータの厚みD(mm)が、0.08~0.12mmであってもよく、下限は0.1mm以上であってもよい。
セパレータのイオン伝導度は、特に限定されず、1~8μS/cm2であってもよく、2~6μS/cm2であってもよい。
犠牲電食領域の冷却液マニホールドの冷却液入出口側の端部は、セパレータの冷却液導出入領域の冷却液マニホールド側の端部としてもよい。
犠牲電食領域の冷却液供給マニホールドの冷却液入口側の端部は、セパレータの冷却液導入領域の冷却液供給マニホールド側の端部としてもよい。
犠牲電食領域の冷却液排出マニホールドの冷却液出口側の端部は、セパレータの冷却液導出領域の冷却液排出マニホールド側の端部としてもよい。
【0035】
図2は、本開示の第2実施形の燃料電池スタックの冷却液排出マニホールド付近の犠牲電食距離Wとセパレータの厚みDを説明するための一例を示す断面模式図である。
なお、
図2では、冷却液マニホールドとして冷却液排出マニホールドの例を示したが、冷却液マニホールドが冷却液供給マニホールドの場合も、冷却液排出マニホールドの場合と同様の構成とすることができる。
【0036】
図3は、本開示の第2実施形態の燃料電池スタックのイオン伝導度が異なるセパレータの犠牲電食距離Wと燃料電池スタックの寿命との関係の一例を示すグラフである。
燃料電池スタックの寿命は、例えばセパレータの犠牲電食体積V(mm
3)とセパレータの電食速度S(mol/s)とセパレータのイオン伝導度(μS/cm
2)の関係から経験則を考慮して推算してもよい。
本開示において、セパレータの犠牲電食体積V(mm
3)は、セパレータの厚みD(mm)と冷却液マニホールドの冷却液入出口の端部からの面方向の幅である犠牲電食距離W(mm)と冷却液マニホールド周長L(mm)の積D×W×Lである。
本開示において、セパレータの電食速度S(mol/s)は、冷却液マニホールド周長L(mm)と、セパレータの電食反応領域長さd(mm)と、単位面積当たりの反応速度v(mol/s・mm
2)の積L×d×vである。
【0037】
本開示の第2実施形態によれば、冷却液マニホールドでのセパレータの電食が犠牲電食領域に限られる。そのため、犠牲電食領域でセパレータが溶解した後も単セルのシール構造が破壊されず、単セルのシール機能を保護することができ、燃料電池スタックの寿命を延ばすことができる。
また、所定の犠牲電食面積以下とすることで燃料電池スタックの寿命とエネルギー密度とのバランスを良好にすることができる。
【0038】
(3)第3実施形態
本開示の第3実施形態の燃料電池スタックにおいては、複数の単セルの内発電に寄与し且つ電気的に最も高電位となる最高電位単セルのカソードセパレータ、当該最高電位単セルに隣接し且つ発電に寄与しない端部単セルのカソードセパレータ、及び、当該端部単セルのアノードセパレータからなる群より選ばれる少なくとも一種のセパレータは、当該セパレータに隣接する絶縁シートよりも冷却液マニホールドの一部の領域に面方向に突出した犠牲電食領域突出部を有していてもよい。
本開示の第3実施形態の燃料電池スタックは、少なくとも最高電位単セルのカソードセパレータが、犠牲電食領域突出部を有していてもよく、さらに、最高電位単セルに隣接し且つ発電に寄与しない端部単セルのカソードセパレータ、及び、当該端部単セルのアノードセパレータが、犠牲電食領域突出部を有していてもよい。
犠牲電食領域突出部は、絶縁シートよりも冷却液供給マニホールドの一部の領域に面方向に突出していてもよく、冷却液排出マニホールドの一部の領域に面方向に突出していてもよく、冷却液供給マニホールド、及び、冷却液排出マニホールドの一部の領域に面方向に突出していてもよい。
犠牲電食領域突出部は、絶縁シートよりも冷却液マニホールドの一部の領域に面方向に突出していればよく、冷却液マニホールドを塞がないように突出していてもよい。
【0039】
図4は、本開示の第3実施形態の燃料電池スタックの冷却液排出マニホールド付近の一例を示す断面模式図である。
図4で示すように、本開示の第3実施形態の燃料電池スタックにおいては、複数の単セルの内発電に寄与し且つ電気的に最も高電位となる最高電位単セルのカソードセパレータは、当該カソードセパレータに隣接する絶縁シートよりも冷却液排出マニホールドの一部の領域に面方向に突出した犠牲電食領域突出部を有する。
なお、
図4では、冷却液マニホールドとして冷却液排出マニホールドの例を示したが、冷却液マニホールドが冷却液供給マニホールドの場合も、冷却液排出マニホールドの場合と同様の構成とすることができる。
【0040】
本開示の第3実施形態において、積層した発電セルのセパレータのうち、最も電位が高く、かつ、最もマイナス側に近い、カソードセパレータ、又はそれに隣接する端部セルのセパレータでのみ、セパレータが隣接する絶縁シートより冷却液マニホールド側に飛び出させる。
これにより、飛び出しているセパレータのエッジ部より、セパレータが電食し、犠牲電極として働くことで、ほかの部材が守られる。
また、絶縁シートより飛び出しているセパレータが1~3つのため、電位の異なる他のセパレータと接触し絶縁破壊にいたる懸念がない。