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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の分極抑制装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20241203BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01M10/44 P
H02J7/04 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022141991
(22)【出願日】2022-09-07
(65)【公開番号】P2024037269
(43)【公開日】2024-03-19
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】石垣 将紀
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 司
(72)【発明者】
【氏名】駒形 将吾
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-021608(JP,A)
【文献】特開2001-006756(JP,A)
【文献】特開2011-040237(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109659637(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111162332(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第114567041(CN,A)
【文献】特開2019-146481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/44
H02J 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の正極と負極に接続された交流発生回路と、
前記リチウムイオン電池に100kHz以上の交流電流が印加されるように、前記交流発生回路を制御する制御装置と、を備える、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分極抑制装置であって、
前記交流発生回路は、
前記リチウムイオン電池の充電時又は放電時の直流電流に前記交流電流を重畳させる、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
【請求項3】
請求項2に記載の分極抑制装置であって、
前記制御装置は、
前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流の振幅が大きくなるように、前記交流発生回路を制御する、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
【請求項4】
請求項2に記載の分極抑制装置であって、
前記制御装置は、
前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流の周波数が増加するように、前記交流発生回路を制御する、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
【請求項5】
請求項2に記載の分極抑制装置であって、
前記制御装置は、
前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流を印加する時間が増加するように、前記交流発生回路を制御する、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
【請求項6】
請求項2に記載の分極抑制装置であって、
前記制御装置は、
前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流を印加する頻度が増加するように、前記交流発生回路を制御する、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
【請求項7】
請求項1、2または6に記載の分極抑制装置であって、
前記交流発生回路は、
コイル、キャパシタ、及びスイッチング素子の直列回路を含み、前記直列回路により規定される共振周波数の電流を前記リチウムイオン電池に印加するように構成され、
前記制御装置は、前記スイッチング素子のオン/オフを制御する、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1つに記載の分極抑制装置であって、
前記交流発生回路は、
前記リチウムイオン電池に、正弦波、矩形波、または三角波のいずれかの電流を印加する回路である、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の分極抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気自動車やハイブリッド車等の電動車両のモータに電力を供給する電池として、リチウムイオン二次電池(以下、リチウムイオン電池と言う)が用いられている。また、携帯電話等の通信機器、パソコン等の情報機器等においても、リチウムイオン電池が用いられている。リチウムイオン電池は、使用に応じて分極やリチウムの析出を生じ得ることが知られている。
【0003】
特許文献1には、リチウムイオン二次電池の充電時において、負極から正極への向きに流れる充電電流と、充電電流が流れる方向とは逆方向に流れる逆パルス電流とを、交互に繰り返して与える構成が開示されている。この構成によれば、リチウムの析出を抑制すること、及び負極表面に析出したリチウムを定期的に溶解させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-191300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン電池の分極を、簡素な構成で抑制できる装置が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、リチウムイオン電池の分極を抑制できる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るリチウムイオン電池の分極抑制装置は、リチウムイオン電池の正極と負極に接続された交流発生回路と、前記リチウムイオン電池に100kHz以上の交流電流が印加されるように、前記交流発生回路を制御する制御装置と、を備える、ことを特徴とする。
【0008】
本発明に係るリチウムイオン電池の分極抑制装置において、前記交流発生回路は、前記リチウムイオン電池の充電時又は放電時の直流電流に前記交流電流を重畳させる、としてもよい。
【0009】
本発明に係るリチウムイオン電池の分極抑制装置において、前記制御装置は、前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流の振幅が大きくなるように、前記交流発生回路を制御する、としてもよい。
【0010】
本発明に係るリチウムイオン電池の分極抑制装置において、前記制御装置は、前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流の周波数が増加するように、前記交流発生回路を制御する、としてもよい。
【0011】
本発明に係るリチウムイオン電池の分極抑制装置において、前記制御装置は、前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流を印加する時間が増加するように、前記交流発生回路を制御する、としてもよい。
【0012】
本発明に係るリチウムイオン電池の分極抑制装置において、前記制御装置は、前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流を印加する頻度が増加するように、前記交流発生回路を制御する、としてもよい。
【0013】
本発明に係るリチウムイオン電池の分極抑制装置において、前記交流発生回路は、コイル、キャパシタ、及びスイッチング素子の直列回路を含み、前記直列回路により規定される共振周波数の電流を前記リチウムイオン電池に印加するように構成され、前記制御装置は、前記スイッチング素子のオン/オフを制御する、としてもよい。
【0014】
本発明に係るリチウムイオン電池の分極抑制装置において、前記交流発生回路は、前記リチウムイオン電池に、正弦波、矩形波、または三角波のいずれかの電流を印加する回路である、としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リチウムイオン電池の内部に100kHz以上の高周波電流を発生させることができる。リチウムイオン電池の内部において、高周波電流は、正極と負極の活物質では表皮効果により端のみに流れるが、活物質よりも導電率が低い電界液では表皮効果が緩和されて均一(またはそれに近い状態)で流れることになる。活物質と電界液の界面では、活物質の端を流れていた電流が面方向に拡散して均一に流れることになる。つまり、活物質と電界液の界面では面方向に電流を流すことができる。分極は電流密度の集中により発生するため、面方向に電流を流すことで、分極を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態の高周波発生装置の構成を示す図である。
図2】第1実施形態の高周波発生装置における減衰振動電流の例を示す図である。
図3】低周波電流と高周波電流が流れた時の電池内部の電流密度を模式的に示す図である。
図4】第2実施形態の高周波発生装置の構成を示す図である。
図5】第3実施形態の高周波発生装置の構成を示す図である。
図6】第4実施形態の高周波発生装置の構成を示す図である。
図7】高周波発生装置と充放電装置の組み合わせの例を示す図である。
図8】電池電流の一例を示す図である。
図9】高周波発生装置と充放電装置の組み合わせの別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
各図を参照して本発明の各実施形態について説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。複数の図面に示されている同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を簡略化する。
【0018】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の高周波発生装置10Aの構成を示す図である。第1実施形態および他の実施形態の高周波発生装置は、リチウムイオン電池12に高周波電流を印加する装置であり、リチウムイオン電池12の分極抑制装置として機能する。
【0019】
高周波発生装置10Aは、充放電装置(電源又は負荷)が接続されていないリチウムイオン電池12に適用されてもよいし、図7に示すように、充放電装置70が接続されたリチウムイオン電池12に適用されてもよい。これは、他の実施形態の高周波発生装置10B~10D(図4~6)も同じである。
【0020】
高周波発生装置10Aは、交流発生回路14Aと制御装置15Aを備える。交流発生回路14Aは、インダクタ(コイルとも言う)20、キャパシタ24、抵抗素子22、およびスイッチング素子26を備える。スイッチング素子26は、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等である。なお、他の実施形態のスイッチング素子も、第1実施形態のスイッチング素子26と同様のものであってよい。
【0021】
インダクタ20の一端はリチウムイオン電池12の正極に接続され、他端はキャパシタ24の一端に接続されている。キャパシタ24の他端は、スイッチング素子26の一端に接続され、スイッチング素子26の他端は、リチウムイオン電池12の負極に接続されている。キャパシタ24には抵抗素子22が並列接続されている。なお、キャパシタ24に並列接続された抵抗素子22は、キャパシタ24に充電された電荷を放電するためのものである。
【0022】
リチウムイオン電池12の正極と負極との間の経路には、インダクタ20、キャパシタ24、抵抗素子22およびスイッチング素子26によって減衰振動回路が構成されている。インダクタ20、キャパシタ24、およびスイッチング素子26は、直列に接続されて直列回路を構成し、その直列回路の両端が、リチウムイオン電池12の正極と負極に接続されている。
【0023】
制御装置15Aは、マイクロコンピュータを備える。マイクロコンピュータは、演算処理や制御処理を行うCPU(中央演算装置)、ROMやRAMなどのメモリ、およびI/Oポート(入力/出力回路)などを含んで構成される。制御装置15Aは、メモリに記憶された制御データ及びプログラムに従って動作し、交流発生回路14Aを制御する。具体的には、制御装置15Aは、交流発生回路14Aのスイッチング素子26のオン/オフを制御する。なお、他の実施形態の制御装置15B~15D(図4~6)も、同様のマイクロコンピュータを備えることができる。
【0024】
図2は、交流発生回路14Aにおける減衰振動電流Iresの例を示す図であり、(a)は、スイッチング素子26をオンにした際の電流Iresの変化を示し、(b)は、(a)に比べて長い時間におけるスイッチング素子26のオン/オフの変化と、電流Iresの変化を示す。スイッチング素子26をオンにすると、図2(a)に示すように、リチウムイオン電池12から減衰振動電流Iresが流れる。具体的には、以下の(数1)に従った共振周波数f(Hz)で振動しながら減衰する減衰振動電流Iresが流れる。
【0025】
【数1】
【0026】
(数1)において、Lは、インダクタ20のインダクタンス(H)であり、Cは、キャパシタ24の静電容量(F)である。インダクタ20とキャパシタ24は、共振周波数f(Hz)が100kHz以上となるように選定される。減衰振動電流Iresの減衰率は、インダクタ20のLと、リチウムイオン電池12の内部抵抗で決定される。
【0027】
制御装置15Aは、図2(b)に示すように、スイッチング素子26を繰り返しパルス的に導通させる制御を行う。ここで、パルス的に導通させる制御とは、スイッチング素子26をオフからオンにし、予め定められた時間だけオンの状態を維持した後に、オンからオフにする制御である。
【0028】
次に、以上説明した高周波発生装置10Aの作用効果について説明する。
【0029】
以上説明した高周波発生装置10Aによれば、リチウムイオン電池12の内部に100kHz以上の高周波電流が発生することになる。図3(a)は、低周波電流が流れた時の電池内部の電流密度を模式的に示す図であり、図3(b)は、高周波電流が流れた時の電池内部の電流密度を模式的に示す図である。図3(a)に示すように、直流電流または低周波電流が電池内部を流れる際には、電流は正極、負極、および電界液で、一様またはそれに近い状態で流れることになる。
【0030】
一方、図3(b)に示すように、本実施形態の高周波発生装置10Aにより、リチウムイオン電池12の内部に高周波電流が流れた時の電流密度は、直流電流または低周波電流が流れた時の電流密度とは状態が異なっている。図3(b)に示すように、高周波電流が電池内部を流れる際には、導電率σの高い正極、負極の活物質層では表皮効果により、電流が活物質層の端に集中することになる。一方、電解液(セパレータ)部では導電率σが低いため、表皮効果がほとんど現れず(または表皮効果が緩和されて)、電流が電解液部を均一またはそれに近い状態で流れることになる。このような導電率σの差により、活物質層と電界液の界面では、活物質層の端を流れていた電流が面方向に拡散して均一に流れることになる。つまり、活物質層と電界液の界面で面方向に電流を流すことができる。
【0031】
電池分極は、面方向での電流密度分布を偏在化させ、これによりポテンシャルが場所によって異なり、リチウム析出などを発生させる。本実施形態の高周波発生装置10Aによれば、高周波電流により面方向に電流を流すことができるため、分極を緩和、抑制することができる。分極の抑制により、電池の出力向上、リチウム析出の抑制を期待することができる
【0032】
なお、上記の作用効果は、以降説明する他の実施形態の高周波発生装置10B~10D(図4~6)でも得られるものである。また、図7、8を用いて説明する、充電電流または放電電流に高周波電流を重畳させる形態においても得られるものである。
【0033】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態の高周波発生装置10Bについて説明する。図4は、第2実施形態の高周波発生装置10Bの構成を示す図である。第2実施形態は、第1実施形態とは異なり、外部から高周波信号を挿入するものである。第2実施形態の電流Iresは、第1実施形態とは異なり、高周波電流の振幅が維持されるもの(減衰しないもの)である。
【0034】
図4に示すように、高周波発生装置10Bは、交流発生回路14Bと制御装置15Bを備える。交流発生回路14Bは、2つのキャパシタ27、29と交流発生装置28を備える。交流発生装置28は、正弦波、矩形波(方形波)、または三角波のいずれかの電流をリチウムイオン電池12に印加する信号発生器である。
【0035】
キャパシタ27の一端はリチウムイオン電池12の正極に接続され、他端は交流発生装置28の一端に接続されている。交流発生装置28の他端は、キャパシタ29の一端に接続され、キャパシタ29の他端は、リチウムイオン電池12の負極に接続されている。
【0036】
制御装置15Bは、交流発生装置28を制御する。具体的には、制御装置15Bは、交流発生装置28から発生させる信号の態様(正弦波、矩形波、三角波等)、振幅、周波数、信号を印加する時間の長さ、信号を印加する頻度等を制御する。制御装置15Bは、100kHz以上の高周波電流がリチウムイオン電池12に印加されるように、交流発生装置28を制御するとよい。以上説明した第2実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0037】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態の高周波発生装置10Cについて説明する。図5は、第3実施形態の高周波発生装置10Cの構成を示す図である。高周波発生装置10Cは、交流発生回路14Cと制御装置15Cを備える。交流発生回路14Cは、4つのインダクタ30と、4つのスイッチング素子31と、4つのキャパシタ34と、4つのスイッチング素子35と、1つの抵抗素子32と、1つのスイッチング素子36を備える。
【0038】
4つのインダクタ30は、L(インダクタンス)が2の累乗倍で異なっており、各インダクタ30に直列に接続されたスイッチング素子31をともなって、並列に接続されている。4つのキャパシタ34は、C(静電容量)が2の累乗倍で異なっており、各キャパシタ34に直列に接続されたスイッチング素子35をともなって、並列に接続されている。
【0039】
各インダクタ30の一端はリチウムイオン電池12の正極に接続され、他端はスイッチング素子31を介して各キャパシタ34の一端に接続されている。各キャパシタ34の他端は、スイッチング素子35を介してスイッチング素子36の一端に接続されている。スイッチング素子36の他端は、リチウムイオン電池12の負極に接続されている。抵抗素子32は、キャパシタ34とスイッチング素子35からなる直列回路に、並列接続されている。
【0040】
制御装置15Cは、4つのスイッチング素子31と、4つのスイッチング素子35と、1つのスイッチング素子36を制御する。具体的には、制御装置15Cは、4つのスイッチング素子31の1つ以上を選択的にオンにして、かつ、4つのスイッチング素子35の1つ以上を選択的にオンにする。その後、制御装置15Cは、第1実施形態のスイッチング素子26の制御(図2参照)と同様に、スイッチング素子36(図5)を繰り返しパルス的に導通させる制御を行う。
【0041】
この実施形態によれば、各スイッチング素子31、35のオン/オフのパターンにより、インダクタ30とキャパシタ34それぞれの合成インピーダンスを変化させることができる。様々な共振周波数の減衰振動電流Iresを、リチウムイオン電池12に印加することができる。共振周波数は、インダクタ30とキャパシタ34のそれぞれの合成インピーダンスから決定され、電流振幅はインダクタ30の合成インピーダンスによって決定される。なお、制御装置15Cは、100kHz以上の高周波電流がリチウムイオン電池12に印加されるように、スイッチング素子31、35を制御するとよい。制御装置15Cは、スイッチング素子36(共振用スイッチ)のオン/オフの周期を変えることで、トータルで流す電流量を調整することができる。
【0042】
以上説明した第3実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。なお、以上説明した実施形態では、インダクタ30とキャパシタ34はそれぞれ、4つ並列接続されていたが、並列接続する数は4つ以外であってもよい。
【0043】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態の高周波発生装置10Dについて説明する。図6は、第4実施形態の高周波発生装置10Dの構成を示す図である。以上で説明した第3実施形態では、スイッチング素子31,35を用いて交流発生回路14Cのインダクタンスと静電容量を変化させていたが、第4実施形態では、端子間電圧で容量が変化する可変容量キャパシタ(バリキャップ)50、52を用いて、交流発生回路14Dのインダクタンスと静電容量を変化させる。
【0044】
図6に示すように、高周波発生装置10Dは、交流発生回路14Dと制御装置15Dを備える。交流発生回路14Dは、インダクタ40と、抵抗素子42と、スイッチング素子46と、2つの可変容量キャパシタ50、52と、2つの電源60、62を備える。
【0045】
インダクタ40の一端はリチウムイオン電池12の正極に接続され、他端は抵抗素子42の一端に接続されている。抵抗素子42の他端は、スイッチング素子46の一端に接続され、スイッチング素子46の他端は、リチウムイオン電池12の負極に接続されている。インダクタ40には可変容量キャパシタ50が並列接続されている。抵抗素子42には可変容量キャパシタ52が並列接続されている。可変容量キャパシタ50には、その端子間に電圧を印加する電源60が接続されている。可変容量キャパシタ52には、その端子間に電圧を印加する電源62が接続されている。
【0046】
制御装置15Dは、2つの電源60、62と、スイッチング素子46を制御する。具体的には、制御装置15Dは、電源60により可変容量キャパシタ50の端子間電圧を変化させて可変容量キャパシタ50の静電容量を調整し、電源62により可変容量キャパシタ52の端子間電圧を変化させて可変容量キャパシタ52の静電容量を調整する。その後、制御装置15Dは、第1実施形態のスイッチング素子26の制御(図2参照)と同様に、スイッチング素子46(図6)を繰り返しパルス的に導通させる制御を行う。
【0047】
この実施形態によれば、インダクタ40と並列に接続された可変容量キャパシタ50の静電容量の値によって、LC並列回路の合成インピーダンスが変化するため、交流発生回路14Dのインダクタンスの値を変化させることができる。なお、制御装置15Dは、100kHz以上の高周波電流(減衰振動電流Ires)がリチウムイオン電池12に印加されるように、2つの可変容量キャパシタ50、52の静電容量を制御するとよい。交流発生回路14Dは、L(インダクタ40のインダクタンス)、C1(可変容量キャパシタ50の静電容量)の共振周波数が、L、C2(可変容量キャパシタ52の静電容量)の共振周波数よりも高い値となるC1の範囲で使用するとよい。以上説明した第4実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0048】
<充放電装置と高周波発生装置の組み合わせ>
次に、充放電装置(電源又は負荷)が接続されたリチウムイオン電池12に、高周波発生装置10を適用した構成について説明する。図7は、充放電装置70と高周波発生装置10の組み合わせの例を示す図である。充放電装置70は、リチウムイオン電池12を使用する各種製品(電動車両、通信機器、情報機器等)の電源と負荷の部分を一体化して表したものである。充放電装置70は、リチウムイオン電池12の充電時は電源として機能し、リチウムイオン電池12の放電時は負荷として機能する。
【0049】
高周波発生装置10は、以上で説明した第1~4実施形態の高周波発生装置10A~10D(図1、4~6)のいずれか1つである。なお、図7では、充放電装置70と高周波発生装置10が分離されている。これは、既存の充放電装置70に新たな機能として、高周波発生装置10を追加した形態を表している。充放電装置70は、リチウムイオン電池12に並列接続され、高周波発生装置10も、リチウムイオン電池12に並列接続されている。なお、図9に示すように、充放電装置80の中に高周波発生装置10を組み込んで、それらを一体化した構成としてもよい。
【0050】
ここで、リチウムイオン電池12の正極、負極を流れる電池電流Ib(図7)について説明する。図8には、リチウムイオン電池12の充電時の電池電流Ibの一例が示されている。図8に示すように、リチウムイオン電池12の充電時において、電池電流Ibは、直流の充電電流に、高周波発生装置10による高周波電流(交流電流)が重畳した状態となる。また、図示されていないが、リチウムイオン電池12の放電時において、電池電流Ibは、直流の放電電流に、高周波発生装置10による高周波電流(交流電流)が重畳した状態となる。このような直流電流でオフセットされた高周波電流を用いても、リチウムイオン電池12の分極を抑制することができる。
【0051】
なお、高周波発生装置10は、充電電流または放電電流の大きさに応じて、高周波電流の各種パラメータ(振幅、周波数、高周波電流を印加する時間、高周波電流を印加する頻度等)を変化させてもよい。この場合、高周波発生装置10の制御装置15A~15D(図1、4~6、以下、制御装置15と記す)は、充放電装置70から充電電流Ibcおよび放電電流Ibd(いずれも直流)の値を受け取り、以下のように交流発生回路14A~14D(図1、4~6、以下、交流発生回路14と記す)を制御するとよい。
【0052】
制御装置15は、リチウムイオン電池12の充電電流Ibcが大きい場合(Ibc=Ibc_1)には、それが小さい場合(Ibc=Ibc_2、Ibc_2<Ibc_1)に比べて、高周波電流の振幅が大きくなるように、交流発生回路14を制御する。また、制御装置15は、リチウムイオン電池12の放電電流Ibdが大きい場合(Ibd=Ibd_1)には、それが小さい場合(Ibd=Ibd_2、Ibd_2<Ibd_1)に比べて、高周波電流の振幅が大きくなるように、交流発生回路14を制御する。
【0053】
制御装置15は、リチウムイオン電池12の充電電流Ibcが大きい場合には、それが小さい場合に比べて、高周波電流の周波数が増加するように、交流発生回路14を制御する。また、制御装置15は、リチウムイオン電池12の放電電流Ibdが大きい場合には、それが小さい場合に比べて、高周波電流の周波数が増加するように、交流発生回路14を制御する。
【0054】
制御装置15は、リチウムイオン電池12の充電電流Ibcが大きい場合には、それが小さい場合に比べて、高周波電流を印加する時間が増加するように、交流発生回路14を制御する。また、制御装置15は、リチウムイオン電池12の放電電流Ibdが大きい場合には、それが小さい場合に比べて、高周波電流を印加する時間が増加するように、交流発生回路14を制御する。
【0055】
制御装置15は、リチウムイオン電池12の充電電流Ibcが大きい場合には、それが小さい場合に比べて、高周波電流を印加する頻度が増加するように、交流発生回路14を制御する。また、制御装置15は、リチウムイオン電池12の放電電流Ibdが大きい場合には、それが小さい場合に比べて、高周波電流を印加する頻度が増加するように、交流発生回路14を制御する。
【0056】
なお、以上説明した充電電流または放電電流の大きさに応じた高周波電流の制御は、全て実行されなくてもよく、選択的に1つ以上実行されてよい。上記した充電電流または放電電流の大きさに応じた高周波電流の制御によれば、リチウムイオン電池12の分極を効果的に抑制することができる。
【0057】
<付記>
以上説明した各実施形態では、リチウムイオン電池12に100kHz以上の高周波電流(交流電流)が印加されるようにした。リチウムイオン電池12に印加する高周波電流としては、一例として100kHz~30MHzであってよい。しかし、高周波電流の周波数の上限は、30MHzに限られず、それよりも低い又は高い周波数であってもよい。
【0058】
[本願発明の構成]
構成1:
リチウムイオン電池の正極と負極に接続された交流発生回路と、
前記リチウムイオン電池に100kHz以上の交流電流が印加されるように、前記交流発生回路を制御する制御装置と、を備える、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
構成2:
構成1に記載の分極抑制装置であって、
前記交流発生回路は、
前記リチウムイオン電池の充電時又は放電時の直流電流に前記交流電流を重畳させる、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
構成3:
構成2に記載の分極抑制装置であって、
前記制御装置は、
前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流の振幅が大きくなるように、前記交流発生回路を制御する、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
構成4:
構成2に記載の分極抑制装置であって、
前記制御装置は、
前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流の周波数が増加するように、前記交流発生回路を制御する、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
構成5:
構成2に記載の分極抑制装置であって、
前記制御装置は、
前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流を印加する時間が増加するように、前記交流発生回路を制御する、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
構成6:
構成2に記載の分極抑制装置であって、
前記制御装置は、
前記リチウムイオン電池の充電電流又は放電電流が大きい場合には、それが小さい場合に比べて、前記交流電流を印加する頻度が増加するように、前記交流発生回路を制御する、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
構成7:
構成1、2または6に記載の分極抑制装置であって、
前記交流発生回路は、
コイル、キャパシタ、及びスイッチング素子の直列回路を含み、前記直列回路により規定される共振周波数の電流を前記リチウムイオン電池に印加するように構成され、
前記制御装置は、前記スイッチング素子のオン/オフを制御する、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
構成8:
構成1~6のいずれか1つに記載の分極抑制装置であって、
前記交流発生回路は、
前記リチウムイオン電池に、正弦波、矩形波、または三角波のいずれかの電流を印加する回路である、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の分極抑制装置。
【符号の説明】
【0059】
10,10A,10B,10C,10D 分極抑制装置(高周波発生装置,高周波電流発生装置)、12 リチウムイオン電池、14,14A,14B,14C,14D 交流発生回路、15,15A,15B,15C,15D 制御装置、20 インダクタ(コイル)、22 抵抗素子、24 キャパシタ、26 スイッチング素子、27 キャパシタ、28 交流発生装置、29 キャパシタ、30 インダクタ(コイル)、31 スイッチング素子、32 抵抗素子、34 キャパシタ、35,36 スイッチング素子、40 インダクタ(コイル)、42 抵抗素子、46 スイッチング素子、50,52 可変容量キャパシタ、60,62 電源、70,80 充放電装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9