(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】熱伝導シートの製造方法、積層体及び熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20241203BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20241203BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241203BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20241203BHJP
B32B 25/14 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
B32B27/18 Z
B32B7/027
B32B25/14
(21)【出願番号】P 2022528772
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2021020012
(87)【国際公開番号】W WO2021246262
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2020097217
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐戸 洋一
(72)【発明者】
【氏名】河合 道弘
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 真
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-284651(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0381832(US,A1)
【文献】特開2009-295921(JP,A)
【文献】特開2004-035721(JP,A)
【文献】特開2010-114421(JP,A)
【文献】特開2010-033918(JP,A)
【文献】特表2010-515807(JP,A)
【文献】特開2002-026202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H05K 7/20
B32B 27/18
B32B 7/027
B32B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールから巻き出した基材上に有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む一次シートを形成する一次シート形成工程と、
前記一次シートを捲回して前記一次シートの積層体を形成する積層体形成工程と、
前記一次シートの積層体を厚み方向に沿ってスライスするスライス工程と、を備える、熱伝導シートの製造方法。
【請求項2】
前記一次シートに含まれる熱伝導粒子は形状に異方性を有するものであり、前記一次シートの面方向に沿って配向した状態である、請求項1に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項3】
前記熱伝導シートに含まれる熱伝導粒子は、前記熱伝導シートの厚み方向に沿って配向した状態である、請求項1又は請求項2に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項4】
前記有機高分子化合物はブロック共重合体からなるアクリル系エラストマーを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
前記一次シートの形成は塗工機を用いて行う、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
前記基材は前記一次シートが形成される面に離型処理がされている、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む一次シートを捲回した状態である、積層体。
【請求項8】
請求項7に記載の積層体から作製された、熱伝導シート。
【請求項9】
有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む熱伝導シートであって、
前記熱伝導粒子が、前記熱伝導シートの厚み方向に配向した状態であり、
前記有機高分子化合物が、ブロック共重合体からなるアクリル系エラストマーを含む、
熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートの製造方法、積層体及び熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等の電子デバイスの高集積化、モジュールの小型化、高密度化を背景に、これらの放熱対策が重要性を増している。このため、電子部品などの発熱体にアルミニウム、銅などの熱伝導性の高い材料からなる放熱部品が取り付けられる場合がある。さらに、放熱効果をより高めるために、発熱体と放熱部品との間に樹脂と熱伝導性材料とを含む熱伝導シートが配置される場合がある。
【0003】
近年、電子部品の発熱量が増大する傾向にあり、熱伝導シートの熱伝導性のいっそうの向上が求められている。熱伝導シートの熱伝導性を高める方策としては、熱伝導シートに含まれる熱伝導性材料の量を増やすことが考えられるが、熱伝導性材料の量を増やすとシートが硬く脆くなる傾向にある。
そこで、鱗片状、繊維状などの異方性を有する形状の熱伝導性材料をシートの厚み方向に配向させることで、熱伝導性材料の使用を抑えつつ、厚み方向の熱伝導性を高めたものが提案されている(たとえば、特開2002-26202号公報及び特開2015-73067号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2002-26202号公報に記載された熱伝導シートは、樹脂と熱伝導性の無機粒子を含む混練物を成形した一次シートを作製した後、複数枚の一次シートを所定の厚さに積層し、シート面にほぼ垂直な方向に積層体をスライスして得られる。
特開2015-73067号公報に記載された熱伝導シートは、熱伝導粒子が配向した薄い樹脂シートを作製し、これを垂直方向に折り畳んで溶着させることにより得られる。
これらの文献に記載された方法は、操作が煩雑である、特殊な装置を必要とするなどの理由から、生産性及びコストの面で改善の余地がある。
さらに、従来の方法で作製された熱伝導シートは耐熱性に改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、特別な装置を使用せず実施でき、かつ生産性に優れる熱伝導シートの製造方法を提供することを課題とする。
本発明はさらに、特別な装置を使用せず実施でき、かつ生産性よく熱伝導シートを製造できる積層体、及びこの積層体から得られる熱伝導シートを提供することを課題とする。
本発明はさらに、耐熱性に優れる熱伝導シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1>ロールから巻き出した基材上に有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む一次シートを形成する一次シート形成工程と、
前記一次シートを捲回して前記一次シートの積層体を形成する積層体形成工程と、
前記一次シートの積層体を厚み方向に沿ってスライスするスライス工程と、を備える、熱伝導シートの製造方法。
<2>前記一次シートに含まれる熱伝導粒子は形状に異方性を有するものであり、前記一次シートの面方向に沿って配向した状態である、<1>に記載の熱伝導シートの製造方法。
<3>前記熱伝導シートに含まれる熱伝導粒子は、前記熱伝導シートの厚み方向に沿って配向した状態である、<1>又は<2>に記載の熱伝導シートの製造方法。
<4>前記有機高分子化合物はブロック共重合体からなるアクリル系エラストマーを含む、<1>~<3>のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。
<5>前記一次シートの形成は塗工機を用いて行う、<1>~<4>のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。
<6>前記基材は前記一次シートが形成される面に離型処理がされている、<1>~<5>のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。
<7>有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む一次シートを捲回した状態である、積層体。
<8><7>に記載の積層体から作製された、熱伝導シート。
<9>有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む熱伝導シートであって、
前記熱伝導粒子が、前記熱伝導シートの厚み方向に配向した状態であり、
前記有機高分子化合物が、ブロック共重合体からなるアクリル系エラストマーを含む、
熱伝導シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特別な装置を使用せず実施でき、かつ生産性に優れる熱伝導シートの製造方法が提供される。
本発明によればさらに、特別な装置を使用せず実施でき、かつ生産性よく熱伝導シートを製造できる積層体、及びこの積層体から得られる熱伝導シートが提供される。
本発明によればさらに、耐熱性に優れる熱伝導シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】熱伝導シートの製造方法に使用する装置の構成の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において「(メタ)アクリル」は「アクリル及びメタクリル」と「アクリル又はメタクリル」のいずれも含む意味で使用され、「A及び/又はB」は「A及びB」と「A又はB」のいずれも含む意味で使用される。
本発明において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0010】
<熱伝導シートの製造方法>
本開示の熱伝導シートの製造方法は、ロールから巻き出した基材上に有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む一次シートを形成する一次シート形成工程と、
前記一次シートを捲回して前記一次シートの積層体を形成する積層体形成工程と、
前記一次シートの積層体を厚み方向に沿ってスライスするスライス工程と、を備える、熱伝導シートの製造方法である。
【0011】
上記方法によれば、厚み方向に熱伝導粒子が配向した状態の熱伝導シートを、特別な装置を使用せずに製造することができる。たとえば、上記方法における一次シート形成工程では、ロールから巻き出した基材上に塗膜を形成するための塗工機などとして一般的に使用されるRoll to Roll方式の装置を用いることができる。またこの方法では、ロールから巻き出した基材の上に一次シートを形成する。このため、たとえば、所定の寸法に切断した基材ごとに一次シートを形成する場合に比べ、大量の基材の上に一次シートを一度に形成することができ、生産性に優れている。
また上記方法における積層体形成工程では、一次シートを捲回してその積層体を形成する。このため、枚葉状の一次シートを複数枚積層する方法に比較して、一次シートの積層体を効率よく形成することができる。
【0012】
(一次シート形成工程)
一次シート形成工程では、ロールから巻き出した基材上に有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む一次シートを形成する。
【0013】
ロールから巻き出した基材上に一次シートを形成する方法は、特に制限されない。たとえば、基材の表面から所定の間隔を設けて配置した塗工ヘッドを備えた塗工機を用いて有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む組成物を塗工し、必要に応じて乾燥することで、一次シートを形成してもよい。または、有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む組成物から、先端にTダイを備えた押出機等を用いた押出成形により一次シートを形成してもよい。
【0014】
塗工機を用いる場合、塗工機が有する塗工ヘッドとしては、特に制限なく公知のものを用いることができる。具体的な塗工ヘッドとしては、ダイコーター、ロールコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ナイフコーター等が挙げられる。これらの中でも、ダイコーター、ロールコーター、コンマコーターが比較的広い粘度範囲の塗工液に適用可能であることから好ましい。
【0015】
塗工機の構成は特に制限されず、公知のものを用いることができる。
塗工機は、基材を巻き出すためのロール(巻き出しロール)及び上述した塗工ヘッドに加え、乾燥炉、巻き出しロール以外のロール(巻き取りロール、ガイドロールなど)、各種センサー等を備えていてもよい。上記センサーでは、塗工量、張力、残留溶剤量の他、塗工液及び乾燥炉の温度等を検知することができる。
【0016】
熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、形成される一次シートに含まれる熱伝導粒子が形状に異方性を有するものであり、かつ一次シートの面方向(厚み方向と垂直な方向)に沿って配向した状態であることが好ましい。
【0017】
一次シートに含まれる熱伝導粒子が一次シートの面方向に沿って配向した状態であると、一次シートの積層体を厚み方向に沿ってスライスして得られる熱伝導シートに含まれる熱伝導粒子が熱伝導シートの厚み方向に沿って配向した状態になりやすい。このため、熱伝導シートの厚み方向における熱伝導性が向上する。
【0018】
本開示において「熱伝導粒子が一次シートの面方向に沿って配向した状態」とは、一次シートに含まれる形状に異方性を有する熱伝導粒子が、その長軸と一次シートの面方向とがなす角度が0°~30°の範囲、好ましくは0°~15°の範囲である状態を意味する。
【0019】
本開示において「形状に異方性を有する粒子」とは、粒子の短軸に対する長軸の比(長軸/短軸、アスペクト比)が1より大きい粒子を意味する。形状に異方性を有する粒子の状態は特に制限されず、楕球状、板状、鱗片状、繊維状、棒状などであってよい。
【0020】
本開示において「熱伝導粒子が一次シートの面方向に沿って配向した状態」には、一次シートに含まれる熱伝導粒子のすべてが一次シートの面方向に沿って配向した状態と、熱伝導性粒子の一部が一次シートの面方向に沿って配向した状態の両方が含まれる。
【0021】
熱伝導性の観点からは、熱伝導粒子のうち、一次シートの面方向に沿って配向した状態であるものの割合が個数基準で50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
一次シートに含まれる熱伝導粒子が一次シートの面方向に沿って配向した状態であるか否かは、たとえば、一次シートの切断面を電子顕微鏡等で観察して確認することができる。
【0023】
一次シートに含まれる熱伝導粒子が一次シートの面方向に沿って配向した状態にする方法は、特に制限されない。たとえば、基材上に有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む組成物を付与する際に、組成物にせん断応力を与える方法が挙げられる。
【0024】
基材上に形成される一次シートの厚みは、特に制限されない。たとえば、10μm~500μmの範囲であってもよく、20μm~300μmの範囲であってもよく、50μm~100μmの範囲であってもよい。
【0025】
基材の材質は、特に制限されるものではなく、たとえば、樹脂、紙、金属、これらの組み合わせ等を用いることができる。
樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルナフタレート、メチルペンテンフィルムなどが挙げられる。
一次シートとの分離を容易にする観点から、基材の一次シートが形成される面に離型処理が施されてもよい。
基材は、再利用されるものであっても再利用されないものであってもよい。
【0026】
(積層体形成工程)
積層体形成工程では、一次シート形成工程で得られた一次シートを捲回して一次シートの積層体を形成する。
【0027】
本開示において「一次シートを捲回して一次シートの積層体を形成する」とは、一次シートを巻き取ることにより、当該一次シートが複数層重なってなる多層構造体を形成することを意味する。捲回の方法は特に制限されず、たとえば、巻き芯に一次シートを巻き取る方法、一次シートを渦巻きロール状に巻き取る方法などから選択できる。
【0028】
一次シートの捲回を巻き芯を用いて行う場合、巻き芯は一次シート形成工程に使用する装置の一部(たとえば、塗工機における巻き取りロール)に備えてもよいし、当該装置とは別の装置に備えてもよい。
【0029】
一次シートの捲回を巻き芯を用いて行う場合、巻き芯の断面形状は特に制限されず、円形でも円形以外の形状であってもよい。たとえば、楕円形、長円形、多角形等の曲率が低い部分又は直線部分を含む形状であってもよい。巻き芯の断面形状が曲率の低い部分又は直線部分を含む形状であると、巻き芯の周囲に形成される一次シートの積層体の少なくとも一部を平面的にすることができる。このため、スライス工程で一次シートの積層体をスライスする作業が容易になる、スライスして得られる熱伝導シートの厚みを一定にできるなどの点で有利である。
【0030】
積層体形成工程の一実施形態では、基材上に形成された一次シートを基材から分離するとともに、巻き取りロールに基材から分離した一次シートを巻き取ることで一次シートの積層体を形成する。
【0031】
積層体形成工程の別の実施形態では、一次シートが形成された基材を、巻き取りロールに巻き取った後、これを巻き戻す際に一次シートを基材から分離するとともに、一次シートを捲回して一次シートの積層体を形成する。
【0032】
積層体形成工程において一次シートを基材から分離する方法は、特に制限されない。たとえば、分離した一次シートと基材とを、それぞれ別のロールに巻き取ることで行ってもよい。
【0033】
必要に応じ、一次シートを捲回する際には一次シートの積層体に対して加圧、加熱などを行って積層体を構成する層間の密着性を向上させてもよい。圧力の付与は、一次シートを巻き取る際の張力(巻き取り圧)、またはニップロールとのニップ圧等を調整することで行ってもよい。
【0034】
(スライス工程)
スライス工程では、一次シートの積層体を厚み方向に沿ってスライスして、熱伝導シートを得る。積層体をスライスして得られる熱伝導シートの厚み方向は、積層体に含まれる一次シートの面方向に相当する。したがって、熱伝導粒子が一次シートの面方向に沿って配向した状態であると、この一次シートの積層体を厚み方向に沿ってスライスして得られる熱伝導シートに含まれる熱伝導粒子は、熱伝導シートの厚み方向に沿って配向した状態となる。その結果、熱伝導シートの厚み方向における熱伝導性が向上する。
【0035】
スライス工程を実施する方法は、特に制限されず、ナイフ、回転刃、超音波カッター等の公知の手段を用いて実施できる。スライス幅(熱伝導シートの厚み)は特に制限されず、得られる熱伝導シートの性能、用途等に応じて設定できる。たとえば、0.1mm~5mmの範囲であってもよく、0.2mm~3mmの範囲であってもよく、0.3mm~2mmの範囲であってもよく、0.5mm~1.0mmの範囲であってもよい。
【0036】
スライスの方向は、一次シートの積層体を厚み方向に沿ったものであれば特に制限されない。たとえば、厚み方向に平行な面とスライス面とのなす角度が0°~30°の範囲となるように行ってもよく、0°~15°の範囲となるように行ってもよい。
【0037】
基材の上に形成される一次シートを有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む組成物を用いて形成する場合、組成物は有機高分子化合物及び熱伝導粒子のみを含むものであっても、その他の成分をさらに含むものであってもよい。組成物に含まれる有機高分子化合物及び熱伝導粒子及び必要に応じて含まれるその他の成分の詳細は、後述する有機高分子化合物及び熱伝導粒子及び必要に応じて含まれるその他の成分と同様である。
組成物は、粘度調整等のために溶剤を含んでもよい。溶剤は、組成物の塗工後に乾燥して除去してもよい。
組成物は溶剤を含まずに、有機高分子化合物、熱伝導粒子及び必要に応じて含まれるその他の成分を必要に応じて加熱混練等して調製してもよい。
組成物は、必要に応じて有機高分子化合物を架橋させるために架橋剤を含んでもよい。
【0038】
(有機高分子化合物)
上記方法で使用する有機高分子化合物の種類は、特に制限されない。熱伝導シートの柔軟性及び一次シートの積層体の形成しやすさの観点からは、ガラス転移温度(Tg)が50℃以下となる有機高分子化合物が好ましい。
【0039】
Tgが50℃以下となる有機高分子化合物として具体的には、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のTgが低い(メタ)アクリル系単量体由来の構造を主たる構造とするポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(いわゆるアクリル系エラストマー)、ポリジメチルシロキサン構造を主たる構造とする高分子化合物(いわゆるシリコーンゴム)、ポリイソプレン構造を主たる構造とする高分子化合物(いわゆるイソプレンゴム、天然ゴム)、クロロプレンを主要な原料成分とした高分子化合物(ポリクロロプレン、いわゆるネオプレンゴム)、ポリブタジエン構造を主たる構造とする高分子化合物(いわゆるブタジエンゴム)、ポリエステル系またはポリエーテル系のソフトセグメントを有するウレタン系高分子化合物(いわゆるウレタン系エラストマー)等の、一般にエラストマーやゴムと称される柔軟な有機高分子化合物が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、アクリル系エラストマーが柔軟性、化学的安定性及び加工性に優れ、さらに粘着性をコントロールしやすく、比較的廉価であるため好ましい。
【0041】
アクリル系エラストマーを構成するポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物及び/又は(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル化合物を構成単量体として用いてもよい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物及び/又は(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル化合物の割合は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の全構成単量体に基づき、50質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。また、99.9質量%以下であってもよく、99質量%以下であってもよく、95質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。上記割合が50質量%以上の場合、Tgの低い柔軟な重合体を得やすい。
【0042】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル及び(メタ)アクリル酸ドデシル等の(メタ)アクリル酸の直鎖状又は分岐状アルキルエステル化合物;
(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等の(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル化合物などが挙げられる。
【0043】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシブチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシブチルなどが挙げられる。
【0044】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物は、架橋性官能基を含んでもよい。上記架橋性官能基の導入は、例えば、架橋性官能基を有するビニル化合物を共重合することによって導入することができる。架橋性官能基を有するビニル化合物としては、不飽和カルボン酸、ヒドロキシ基含有ビニル化合物、エポキシ基含有ビニル化合物等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、桂皮酸、更には、不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等のモノアルキルエステル)等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
ヒドロキシ基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、並びに、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
エポキシ基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が架橋性官能基を有する場合、当該架橋性官能基の導入量は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の全構造単位に基づいて好ましくは0.01モル%以上であり、より好ましくは0.1モル%以上であり、さらに好ましくは1.0モル%以上であり、特に好ましくは2.0モル%以上である。
【0049】
耐熱性の観点からは、有機高分子化合物はブロック共重合体からなるアクリル系エラストマーを含むことが好ましい。
ブロック共重合体からなるアクリル系エラストマーは、ハードセグメントとしての重合体ブロック(A)及びソフトセグメントとしての重合体ブロック(B)を各々1つ以上有する。ブロック共重合体の構造について特に制限はなく、AB型ジブロックポリマー、又は、ABA型及びABC型トリブロックポリマー等、各種の線状又は分岐状のブロック共重合体を用いることができる。
【0050】
エラストマー材料として良好な性能が得られる点では、重合体ブロック(A)-重合体ブロック(B)-重合体ブロック(A)からなる、ABAトリブロック共重合体等のA-(BA)n型構造を有するものが好ましい。ブロック共重合体が、上記重合体ブロック(A)及び/又は重合体ブロック(B)を2つ以上有する場合、各ブロックの構造は同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
上記重合体ブロック(A)を構成する重合体のTgは、耐熱性の点で100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。Tgは170℃以上であってもよく、200℃以上であってもよい。使用可能な構成単量体単位の制限から、Tgの上限は350℃であってもよい。
重合体ブロックを構成する重合体のTgの値は、示差走査熱量測定(DSC)により得ることができる。また、重合体ブロックを構成する単量体単位から計算により求めることもできる。
【0052】
重合体ブロック(A)は、スチレン類及びマレイミド化合物に由来する構造単位を有するものであってもよい。また、重合体ブロック(A)は、ポリメタクリル酸メチルからなるものであってもよい。
【0053】
上記スチレン類には、スチレン及びその誘導体が含まれる。重合体ブロック(A)において、上記スチレン類に由来する構造単位が占める割合は、重合体ブロック(A)の全構造単位に対して好ましくは1質量%~70質量%であり、より好ましくは5質量%~70質量%であり、さらに好ましくは10質量%~70質量%であり、一層好ましくは20質量%~60質量%である。スチレン類に由来する構造単位が1質量%以上であると、成形性に優れるブロック共重合体が得られる傾向にある。
【0054】
上記マレイミド化合物には、マレイミド及びN-置換マレイミド化合物が含まれる。重合体ブロック(A)において、上記マレイミド化合物に由来する構造単位が占める割合は、重合体ブロック(A)の全構造単位に対して、好ましくは30質量%~99質量%であり、より好ましくは30質量%~95質量%であり、さらに好ましくは30質量%~90質量%であり、一層好ましくは40質量%~80質量%である。マレイミド化合物に由来する構造単位が30質量%以上であると、得られるブロック共重合体の耐熱性が良好となる傾向にある。
【0055】
上記重合体ブロック(B)を構成する重合体のTgは、好ましくは20℃以下であり、より好ましくは0℃以下であり、さらに好ましくは-10℃以下である。Tgが20℃以下であると、得られるブロック共重合体の柔軟性が充分に得られる傾向にある。使用可能な構成単量体単位の制限から、Tgの下限は、たとえば、-80℃である。
また、Tgが-20℃以下の場合には、低温環境下でも柔軟性が確保される点で好ましい。耐寒性を加味した場合、より好ましくは-30℃以下であり、さらに好ましくは-40℃以下である。
【0056】
重合体ブロック(B)は、アクリル系エステル単量体を含む単量体を重合することにより得ることができる。アクリル系エステル単量体の内でも、柔軟性に優れたブロック共重合体が得られる点で炭素数1~12のアルキル基又は炭素数2~8のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル化合物が好ましい。
重合体ブロック(B)において、アクリル系エステル単量体に由来する構造単位が占める割合は、機械的物性の観点から、重合体ブロック(B)の全構造単位に対して好ましくは20質量%~100質量%の範囲であり、より好ましくは50質量%~100質量%であり、さらに好ましくは80質量%~100質量%であり、一層好ましくは90質量%~100質量%である。
【0057】
有機高分子化合物のTgは、50℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましく、0℃以下であることがさらに好ましい。
有機高分子化合物のTgは、動的粘弾性測定装置(DMA)で測定できる。動的粘弾性測定装置(DMA)としては、たとえば、セイコーインスツル社製のDMS6100を用いることができる。測定条件としては、昇温速度:2℃/分、測定周波数:1.0Hzとする。あるいは、有機高分子化合物の原料である単量体を単独重合体としたときのTgから計算することができる。
【0058】
有機高分子化合物の重量平均分子量は、特に制限されない。熱伝導シートの硬さ及び柔軟性の観点からは、重量平均分子量が1万~500万の範囲であることが好ましい。重量平均分子量は、5万~200万の範囲であってもよく、10万~100万の範囲であってもよく、20万~80万の範囲であってもよい。
【0059】
有機高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
一次シート及び一次シートを用いて得られる熱伝導シートに含まれる有機高分子化合物は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0060】
一次シート及び一次シートを用いて得られる熱伝導シートに含まれる有機高分子化合物の含有量は、特に制限されない。熱伝導シートの熱伝導性と柔軟性とのバランスの観点からは、全体の10質量%~70質量%であることが好ましく、10質量%~60質量%であることがより好ましく、10質量%~50質量%であることがさらに好ましい。
【0061】
(熱伝導粒子)
上記方法で使用する熱伝導粒子は、熱伝導シートの厚み方向における熱伝導性を高める観点からは、形状に異方性を有する粒子を含むことが好ましい。
熱伝導シートの厚み方向における熱伝導性を高める観点からは、熱伝導粒子は、アスペクト比が3以上である粒子を含むことが好ましく、10以上である粒子を含むことがより好ましい。熱伝導粒子のアスペクト比は、200以下であってもよい。
【0062】
熱伝導粒子の材質は、特に制限されない。たとえば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素、黒鉛などの粒子が挙げられる。これらの中でも窒化ホウ素粒子が好ましく、板状の窒化ホウ素粒子がより好ましい。
【0063】
板状の窒化ホウ素粒子は、層状で六方晶の結晶構造を有しており、粒子形状が板のような形状である窒化ホウ素粒子である。具体的には、層に平行な方向(a軸方向)と層に垂直な方向(c軸方向)のそれぞれの辺の比率(a/c)が1.5以上のものを、板状の窒化ホウ素粒子とする。
【0064】
熱伝導粒子は、1種のみでも材質又は形状が異なる2種以上の組み合わせであってもよい。また、形状に異方性を有する熱伝導粒子と球状の熱伝導粒子とを併用してもよい。このような熱伝導シートとしては、形状に異方性を有する熱伝導粒子と球状の熱伝導粒子の両方を含む一次シートの積層体、及び形状に異方性を有する熱伝導粒子のみを含む一次シートと球状の熱伝導粒子のみを含む一次シートとからなる積層体が挙げられる。この場合、熱伝導粒子に含まれる形状に異方性を有する(たとえば、上記アスペクト比を満たす)粒子の割合は個数基準で50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0065】
熱伝導粒子の粒子径は、特に制限されない。たとえば、レーザー回折・散乱法により測定される体積平均粒子径(D50)が2μm~1000μmであってもよく、5μm~500μmであってもよく、10μm~100μmであってもよく、10μm~50μmであってもよい。
【0066】
一次シート及び一次シートを用いて得られる熱伝導シートに含まれる熱伝導粒子の質量基準の含有量は、特に制限されない。熱伝導シートの熱伝導性と柔軟性とのバランスの観点からは、全体の30質量%~90質量%であることが好ましく、40質量%~90質量%であることがより好ましく、50質量%~90質量%であることがさらに好ましい。
【0067】
一次シート及び一次シートを用いて得られる熱伝導シートに含まれる熱伝導粒子の体積基準の含有量は、特に制限されない。熱伝導シートの熱伝導性と柔軟性とのバランスの観点からは、全体の10体積%~80体積%であることが好ましく、20体積%~80体積%であることがより好ましく、30体積%~80体積%であることがさらに好ましい。
【0068】
一次シート及び一次シートを用いて得られる熱伝導シートは、必要に応じ、有機高分子化合物及び熱伝導粒子以外の成分を含んでもよい。たとえば、難燃剤、カップリング剤、界面活性剤、イオントラップ剤、可塑剤、粘着付与剤、顔料等の各種添加剤を含んでもよい。
一次シート及び一次シートを用いて得られる熱伝導シートが有機高分子化合物及び熱伝導粒子以外の成分を含む場合、その合計含有率は、全体の0.1質量%~20質量%であってもよく、1質量%~10質量%であってもよく、2質量%~5質量%以下であってもよい。
【0069】
以下、熱伝導シートの製造方法の一例について図面に基づいて説明する。
ここで説明する方法では、一次シートを基材上に形成した後に、基材上に形成された一次シートを基材から分離するとともに、巻き取りロールに基材から分離した一次シートを巻き取ることで一次シートの積層体を形成する。
【0070】
図1は熱伝導シートの製造方法に使用する装置の構成の一例を概略的に示す図である。
図1に示す装置100は、基材を巻き出すための第1のロール1、基材から分離した一次シートを巻き取るための第2のロール2、一次シートから分離した基材を巻き取るための第3のロール3、基材上に一次シートを形成するための塗工ヘッド4、乾燥炉5、補助ロール6、7をそれぞれ備えている。
【0071】
第1のロールからは基材11が巻き出され、一次シート12が基材11の上に形成される。具体的には、有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む組成物が塗工ヘッド4によって基材11の上に付与された後、乾燥炉5を通過させることで形成される。上記組成物が溶媒を含む場合、乾燥炉5において溶媒が乾燥留去される。
次いで、基材11は一次シート12と分離されて、基材11は第3のロール3に巻き取られる。一次シート12は第2のロール2に巻き取られ、一次シートの積層体13を第2のロール2の周囲に形成する。
【0072】
第2のロール2の周囲に形成される一次シートの積層体13の厚み(積層数)が所定の水準に達したとき、操作を終了する。次いで、一次シートの積層体13を第2のロール2から取り外し、厚み方向に沿ってスライスして熱伝導シートを得る。あるいは、一次シートの積層体13を第2のロール2から取り外さない状態で、厚み方向に沿ってスライスして熱伝導シートを得る。
【0073】
<積層体>
本開示の積層体は、有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む一次シートを捲回した状態である、積層体である。
本開示の積層体を用いることで、特別な装置を使用せず実施でき、かつ生産性よく熱伝導シートを製造できる。
【0074】
本開示の積層体は、上述した熱伝導シートの製造方法の積層体形成工程において形成される一次シートの積層体であってもよい。
本開示の積層体に含まれる一次シートの詳細及び好ましい態様は、上述した熱伝導シートの製造方法に使用される一次シートの詳細及び好ましい態様と同様である。
【0075】
<熱伝導シート(第1実施形態)>
本開示の熱伝導シート(第1実施形態)は、上述した積層体から作製される熱伝導シートである。具体的には、積層体を一次シートの厚み方向に沿ってスライスすることで作製される熱伝導シートである。
積層体から熱伝導シートを作製する方法の詳細及び好ましい態様は、上述した熱伝導シートの製造方法において熱伝導シートを作製する方法の詳細及び好ましい態様と同様である。
【0076】
<熱伝導シート(第2実施形態)>
本開示の熱伝導シート(第2実施形態)は、有機高分子化合物及び熱伝導粒子を含む熱伝導シートであって、前記熱伝導粒子が、前記熱伝導シートの厚み方向に配向した状態であり、前記高分子化合物が、ブロック共重合体からなるアクリル系エラストマーを含む、熱伝導シートである。
【0077】
本開示の熱伝導シートは、有機高分子化合物としてブロック共重合体からなるアクリル系エラストマーを含むことで、優れた耐熱性を示す。
第2実施形態の熱伝導シートに含まれる有機高分子化合物及び熱伝導粒子、並びにその他の詳細及び好ましい態様は、上述した熱伝導シートの製造方法に記載した有機高分子化合物及び熱伝導粒子、並びにその他の詳細及び好ましい態様と同様である。
【実施例】
【0078】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
(1)組成物の調製
表1に示す材料を、表1に示す配合(質量部)で混合し、使用した有機高分子化合物溶液に含まれている有機溶剤で固形分が55質量%となるように希釈して、一次シートを作製するための組成物を調製した。表1に示す材料の詳細は、下記の通りである。
【0080】
有機高分子化合物溶液1:アクリル酸メチル(MA)30質量%、アクリル酸ブチル(BA)40質量%、アクリル酸メトキシエチル(MEA)25質量%、及びアクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)5質量%からなるランダム共重合体であるアクリル系エラストマーの酢酸エチル溶液(固形分:40質量%、重量平均分子量:45万、DMAによるTg:-21℃)
【0081】
有機高分子化合物溶液2:スチレン(60質量%)及びフェニルマレイミド(PhMI)40質量%からなる重合体ブロックA(DSCによるTg:210℃)と、アクリル酸ブチル(100質量%)からなる重合体ブロックB(DSCによるTg:-50℃)とからなるABA型ブロック共重合体であるアクリル系エラストマー(A/B質量比:15/85)のアセトニトリル溶液(固形分:40質量%、重量平均分子量:13万、DMAによるTg:-30℃)
【0082】
架橋剤:キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン変性体(三井化学株式会社製「タケネートD-110N」、固形分75質量%)
熱伝導粒子:板状の六方晶窒化ホウ素粒子(D50:12~13μm)
【0083】
(2)一次シートの作製
上記(1)で得た組成物を、片面に離型処理がされたポリエチレンテレフタレート基材の離型処理がされた面の上に、
図1に示すような構成の装置を用いて、幅200mmで塗工し、乾燥させて一次シートを形成した。乾燥後の一次シートの厚みは50μmとなるように調節した。
【0084】
(3)熱伝導シートの作製
図1に示すような構成の装置を用いて、ロールの周囲に上記(2)で得た一次シートの積層体(厚み約50mm)を円筒状になるように作製した。その後、カッターを用いて積層体を厚み方向に沿ってスライスし、厚みが1.0mmの実施例1~4の熱伝導シートを得た。
熱伝導シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ、いずれの実施例でも熱伝導粒子が熱伝導シートの厚み方向に沿って配向した状態であった。
【0085】
(4)熱伝導性の評価
上記(3)で得た熱伝導シートについて、厚み方向及び面方向の熱拡散率を測定した(Netzsch社製「LFA467」を使用)。次に、JIS K7123:2012に準拠してDSC(TAインスツルメンツ社、「Q100」を使用)にて-20℃から+50℃まで昇温したときの25℃通過点における比熱を測定した。また、水中でアルキメデス法にて密度を測定した。これらの測定結果から以下の式に従って、熱伝導率(W/m・K)を算出した。結果を表1に示す。
熱伝導率=比熱×密度×熱拡散率
【0086】
(5)耐熱性の評価
上記(3)で得た熱伝導シートの動的粘弾性測定における貯蔵弾性率E’が1×104Pa以下となる温度(℃)を可使温度の上限と捉え、耐熱性の評価とした。測定はセイコーインスツル社製「DMS6100」を用いて、測定範囲:-70℃~+250℃、昇温速度:2℃/分、測定周波数:1Hzの条件で行った。結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
表1に示すように、実施例1~4で作製した熱伝導シートの熱伝導率は、いずれも面方向よりも厚み方向の数値が高い結果を示した。これは、熱伝導粒子が熱伝導シートの厚み方向に沿って配向した結果、厚み方向の熱伝導性が効果的に高められたためと推察される。また、各実施例とも十分な耐熱性を有することがわかった。中でも、アクリル系エラストマーがブロック共重合体である実施例3、4は、アクリル系エラストマーがランダム共重合体である実施例1、2に比べて耐熱性により優れていることがわかった。
【0089】
日本国特許出願第2020-097217号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。