(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】レーザー溶接用アルミニウム合金部材
(51)【国際特許分類】
C25D 5/30 20060101AFI20241203BHJP
C25D 5/16 20060101ALI20241203BHJP
B23K 26/322 20140101ALI20241203BHJP
B23K 26/323 20140101ALI20241203BHJP
B23K 26/211 20140101ALI20241203BHJP
【FI】
C25D5/30
C25D5/16
B23K26/322
B23K26/323
B23K26/211
(21)【出願番号】P 2022570894
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048483
(87)【国際公開番号】W WO2022137444
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】桜田 賢人
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/049885(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0190961(US,A1)
【文献】特開平10-041193(JP,A)
【文献】国際公開第2010/041461(WO,A1)
【文献】特開2019-044213(JP,A)
【文献】特開2010-269339(JP,A)
【文献】特開昭62-192559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金上にニッケルメッキ層を有し、前記ニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaが、100nm以上
500nm以下であ
り、
前記ニッケルメッキ層の膜厚が、3μm以上16μm以下であり、
前記ニッケルメッキ層側からレーザーを照射することによってアルミニウム合金と銅合金との異種材料をレーザー溶接により強固に接合するための、レーザー溶接用アルミニウム合金部材。
【請求項2】
前記表面の算術平均粗さSaが、185nm以上である、請求項1に記載のレーザー溶接用アルミニウム合金部材。
【請求項3】
前記ニッケルメッキ層の膜厚が、5μm以上である、請求項1または2に記載のレーザー溶接用アルミニウム合金部材。
【請求項4】
前記ニッケルメッキ層の膜厚が、8μm以上である、請求項3に記載のレーザー溶接用アルミニウム合金部材。
【請求項5】
前記ニッケルメッキ層の膜厚が、14μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のレーザー溶接用アルミニウム合金部材。
【請求項6】
前記ニッケルメッキ層のニッケル粒子の粒径が、0.8μm以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のレーザー溶接用アルミニウム合金部材。
【請求項7】
前記ニッケルメッキ層の光沢度が、
0.40以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のレーザー溶接用アルミニウム合金部材。
【請求項8】
前記アルミニウム合金の厚さは、0.2mm以上1mm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のレーザー溶接用アルミニウム合金部材。
【請求項9】
前記アルミニウム合金部材は、溶接相手部材と溶接部以外は離間していることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のレーザー溶接用アルミニウム合金部材。
【請求項10】
レーザー溶接用アルミニウム合金部材と、溶接相手部材である前記アルミニウム合金とは異なる金属部材と
、溶接部
と、を備える金属部材の溶接構造であって、
前記アルミニウム合金部材は
、ニッケルメッキ層を有し、前記ニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaが100nm以上
500nm以下であ
り、
前記ニッケルメッキ層の膜厚が、3μm以上16μm以下であり、
前記溶接部は前記アルミニウム合金部材および前記金属部材が溶融凝固されたものである、金属部材の溶接構造。
【請求項11】
前記アルミニウム合金部材は、前記溶接相手部材と前記溶接部以外は離間していることを特徴とする請求項10に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項12】
複数の前記溶接相手部材がそれぞれ前記溶接部を有して前記アルミニウム合金部材へ溶接されていることを特徴とする請求項10または11に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項13】
前記アルミニウム合金とは異なる金属部材は、銅合金製の金属部材である、請求項10~12のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項14】
前記アルミニウム合金部材は、電極タブと接合するバスバーである、請求項10~13のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項15】
前記溶接部の形成に用いたレーザー種が、YAGレーザである、請求項10~14のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項16】
前記ニッケルメッキ層
の光沢度が、0.38以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のレーザー溶接用アルミニウム合金部材。
【請求項17】
前記ニッケルメッキ層
の光沢度が、0.40以下である、請求項10~15のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶接用アルミニウム合金部材およびこれを用いた金属部材の溶接構造に関する。本明細書および特許請求の範囲において、ある金属種Mの合金には、純金属Mも含まれるものとする。例えば、アルミニウム合金には、JIS規格で定める純アルミニウム(純度99.00%以上のアルミニウム)も含まれる。銅合金には、JIS規格で定める純銅(純度99.90%以上の銅)も含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
電池の正極タブ(アルミニウム合金)および負極タブ(銅)を接続するためのバスバーとして、アルミニウム(Alとも記す)合金と銅(Cuとも記す)とを圧接したクラッド材を用いていた。クラッド材はそれぞれの電極タブと同種金属であるためレーザー溶接が容易であったが、低コスト化を目的としてアルミニウム合金からなるバスバーにより正極タブ、負極タブと溶接する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の溶接方法の場合、負極タブ(銅)とアルミニウム合金のバスバーとは異種材であり、レーザー溶接が困難であることがわかった。具体的には、アルミニウム合金と銅とが溶融混合せずに強度が出ない。また、バスバーなどの大きい部材の場合は、材料公差により溶接する箇所のアルミニウム合金部材と銅部材(負極タブ)との相互に対峙する表面同士の間に隙間ができるため、より溶融混合しにくいことがわかった。
【0005】
そこで本発明は、アルミニウム合金と銅との異種材料をレーザー溶接により強固に接合するためのレーザー溶接用アルミニウム合金部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザー溶接用アルミニウム合金部材は、アルミニウム合金上にニッケルメッキ層を形成し、この際にニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaを100nm以上とする点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レーザーを照射する母材中のアルミニウムよりもニッケル(Niとも記す)の方がレーザー吸収率が高く、かつ表面を粗化することで平滑面よりも吸収率を向上させることができる。そのため効率的にアルミニウム合金と、アルミニウム合金以外の異種金属との溶融混合を行うことができ強固な接合構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】従来のレーザー溶接用アルミニウム合金部材において、レーザー照射により材料温度が上昇し、過大なエネルギーが合金部材内部に投入された様子を表した模式図である。
【
図2】本発明のレーザー溶接用アルミニウム合金部材において、ニッケルメッキ層の表面を粗化することで、レーザー照射により入射光および反射光の多くがメッキ層内部に吸収される様子を表した模式図である。
【
図3】本発明のレーザー溶接用アルミニウム合金部材のニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaを光干渉顕微鏡を用いて測定した様子を表した模式図である。
図3Aおよび
図3Bは、メッキ層表面の粗さを色相(色・色み)の違いで表現(凹側:紫色→青色→緑色→黄色→凸側:赤色)したカラー画像(2次元画像および3次元画像)を白黒画像で表した図面である。
図3Cおよび
図3Dは、上記カラー画像(2次元画像および3次元画像)をマスキングして任意の20μm×40μmのエリアを切り取った1箇所につきカラー画像(2次元画像および3次元画像)を白黒画像で表した図面である。
【
図4】本発明のレーザー溶接用アルミニウム合金部材のニッケルメッキ層の膜厚を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて計測した様子を表した図面である。
【
図5】本発明のレーザー溶接用アルミニウム合金部材のニッケルメッキ層のニッケル粒子の粒径を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて計測した様子を表した図面である。
図5Aおよび
図5Bは、JIS G0551:2020「鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法」に示す顕微鏡写真において、
図5Aは、線分が横切る結晶粒を数え、その数を表示した図面であり、
図5Bは、線分が横切る結晶粒界を数え、その数を表示した図面である。
【
図6】本発明のレーザー溶接用アルミニウム合金部材のニッケルメッキ層の光沢度をデンシトメーターを用いて計測する様子を表した図面である。
【
図7】レーザー溶接用アルミニウム合金部材と、前記アルミニウム合金とは異なる金属部材とを溶融混合し凝固されて溶接部を形成する様子を模式的に表した図面である。
【
図8】金属部材の溶接構造の強度(引っ張り応力)を測定する様子を模式的に表した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0010】
<レーザー溶接用アルミニウム合金部材;第1実施形態>
本発明に係るレーザー溶接用アルミニウム合金部材の一実施形態(第1実施形態)は、アルミニウム合金上にニッケルメッキ層を有し、前記ニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaが100nm以上であることを特徴とするものである。かかる構成を有することにより、上記効果を有効に発現することができる。
【0011】
なぜ、本実施形態のレーザー溶接用アルミニウム合金部材により上記効果が得られるのか、詳細は不明であるが、下記のような作用メカニズム(作用機序)が考えられる。なお、下記の作用メカニズムは推測によるものであり、本実施形態は下記作用メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0012】
例えば、Al-Cuといった異種金属を溶接させる場合は、材料を融点まで上昇させる熱エネルギーが必要である。しかしながら、異種金属が反応し生成する金属間化合物が脆性的なため、過剰にエネルギーを投入すると溶接強度は下がり、電気抵抗は上がり、電気接続として低品位なものになってしまうという課題があった。なお、異種金属として、例えば、AlとCuを溶接させる場合、AlCu、Al2Cu、Al4Cu9が主に生成するAlとCuの金属間化合物である。
【0013】
また、
図1に示すように、既存のレーザー溶接用アルミニウム合金部材のように吸収率の小さな材料であるアルミニウム合金11を使った場合、溶接開始点ではレーザー照射12により表面反射13が発生し、狙い通りのエネルギー14を投入することができる。しかしながら、アルミニウム合金11は、溶接している間に材料温度が上がると、レーザー吸収率が上昇し、狙い値以上の過大なエネルギー15を投入してしまうという課題がった。
【0014】
上記課題に対し、本実施形態では、ニッケルメッキ層のニッケルは、表面エネルギーを吸収する材質であり、レーザーを照射する母材のアルミニウムよりもニッケルの方がレーザー吸収率を高く、かつニッケルメッキ層の表面を粗化することで平滑面よりも吸収率を向上させることができる。即ち、
図2に示すように、ニッケルメッキ層の表面21を粗化することで、粗化された表面21にレーザー光22が照射されると、その表面で入射光22aはニッケルメッキ層内に屈折し吸収され、反射光22bもニッケルメッキ層に再吸収され、入射光22aおよび反射光22bの多くが吸収される。一方、平滑面(図示せず)では、表面にレーザーが照射されても、その表面で入射光はニッケルメッキ層に吸収されるが、反射光はニッケルメッキ層表面で入射(照射)方向と逆方向(光源側)に反射し、ニッケルメッキ層に再吸収されることはほとんどない。そのため、ニッケルメッキ層の表面を粗化することで平滑面よりも吸収率を向上させることができる。そのため効率的にアルミニウム合金と、銅等のアルミニウム合金以外の異種金属(負極タブ等)との溶融混合を行うことができ強固な接合構造を得ることができると考えられる。
【0015】
以下、本実施形態のレーザー溶接用アルミニウム合金部材(以下、単にアルミニウム合金部材ともいう)につき、構成要件ごとに説明する。
【0016】
〔母材〕
(母材の材質)
本実施形態のアルミニウム合金部材の母材は、アルミニウム合金からなるものであればよい。すなわち、メッキをすることによるエネルギー吸収率の向上効果の為、添加物で多少の融点に差はあるが、全ての合金系で効果を享受できるためである。そのため、溶接性が低い合金も含まれる。一般に、アルミニウム合金には国際アルミニウム合金名が使用され、JIS(日本産業規格)においても、4桁の数字からなる国際アルミニウム合金名がアルミニウム合金の名前の一部に取り入れられている。それぞれNo.1000ごとに混合されている物質が異なり、その番号で何の物質との合金なのか判断することができる。上記アルミニウム合金としては、A1050-H24、A1100-O、A1100-H24、A2011-T3、A2011-T8、A2017-T4、A2024-T3、A2024-T4、A2024-T6、A2024-T81、A5052-O、A5052-H34、A5052-H112、A5056-H34、A5056-H112、A5083-O、A6061-T6、A6061-T651、A6063-T5、A6082-T6、A6101-T6、A7075-T651などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。いずれも先頭のAはアルミニウムを表し、Aに続く4桁の数字は材質記号、スラッシュの後の記号は質別記号を示す。なお、母材のアルミニウム合金自体の融点はその種類(材質)によりほとんど変わらない。そのため、ニッケル(メッキ層)が吸収したエネルギーで母材および母材と接合させる異種金属部材を溶かす分には母材のアルミニウム合金の種類(6101、1100等)は影響しない。よって、母材のアルミニウム合金の種類(材質)は、溶融特性(融点)以外の用途毎の要求性能、例えば、耐振動衝撃性能などに応じて適宜選択すればよい。
【0017】
(母材の材質、形状および大きさ)
上記母材の材質、形状および大きさに関しては、既存のレーザー溶接用アルミニウム合金部材と同じ材質、形状、大きさのものをそのまま適用することができる。即ち、既存のアルミニウム合金部材を母材とし、この母材上に表面粗化(算術平均粗さSa=100nm以上)されてなるニッケルメッキ層を有する構造部材を、本実施形態のレーザー溶接用アルミニウム合金部材とすることができる。但し、本実施形態の母材では、既存のレーザー溶接用アルミニウム合金部材と同じ材質、形状、大きさとしてもよいが、軽量化などの観点から、材質、形状および大きさのいずれか1つ以上を変更したものであってもよい。
【0018】
(母材のアルミニウム合金の形状)
上記母材のアルミニウム合金の形状は、既存のレーザー溶接用アルミニウム合金部材と同じ形状のものをそのまま適用することができ、この場合、平板形状が一般的である。
【0019】
(母材のアルミニウム合金の厚さ)
また、上記母材のアルミニウム合金の大きさは、既存のレーザー溶接用アルミニウム合金部材と同じ大きさのものをそのまま適用することができる。母材のアルミニウム合金が平板形状等のように厚みがある場合、アルミニウム合金の厚さは、0.2mm以上1mm以下の範囲が好ましい。アルミニウム合金の厚さが0.2mm以上であれば、溶接時の相手部材との公差を十分に吸収し得る点で好ましい。一方、アルミニウム合金の厚さが1mm以下であれば、吸収したエネルギーで溶けやすくなり、その他にも軽くでき、安価にできる点で好ましい。
【0020】
〔ニッケルメッキ層〕
(ニッケルメッキ層の配置箇所)
前記アルミニウム合金部材のニッケルメッキ層が、上記母材のアルミニウム合金上に設けられていることを特徴とする。詳しくは、前記ニッケルメッキ層は、上記母材のアルミニウム合金の一方の表面上に設けられてなるものである。かかる部材構造により、溶接時に前記ニッケルメッキ層が、前記母材と、前記母材とは異なる金属部材と、が溶融凝固される溶接部と対向する母材表面側になるように配置することで、以下の効果を有効に発現できる。即ち、ニッケルメッキ層の構成成分であるニッケルは、表面エネルギーを吸収する材質であり、レーザーを照射する母材の構成成分であるアルミニウムよりもニッケルの方がレーザー吸収率を高くすることができる。また、前記ニッケルメッキ層は、少なくとも前記溶接部に対向する表面部分に設けられていればよい。例えば、前記溶接部と対向する側の母材表面のうち、前記溶接部に対向する表面部分とその近傍(例えば、溶接部に対向する表面部分の外縁からさらに5~10mm程度外側までの範囲)に設けられていてもよい。さらに広い範囲まで設けられていてもよく、最も広い範囲としては前記溶接部と対向する側の母材表面の全面である。前記ニッケルメッキ層の形成のし易さ、さらに溶接時に部材同士の位置合わせを厳密に行わなくてよい(ある程度の位置ずれを許容し得る)などの観点から、前記ニッケルメッキ層は、前記溶接部と対向する側の母材表面の全面に設けるのが好ましい。なお、前記溶接部に対向する母材表面の一部分にニッケルメッキ層を有する部材構造とするには、例えば、ニッケルメッキ層を設けない表面部分に剥離可能な絶縁性フィルムをメッキ処理前に貼り付けて被覆する。絶縁性フィルムで部分被覆した母材をメッキ処理した後、絶縁性フィルムを母材から剥離する方法が挙げられるが、かかる方法に制限されるものではない。また、前記ニッケルメッキ層は、上記母材のアルミニウム合金の一方の表面上に設けられてなるものであり、上記母材のアルミニウム合金のもう一方の表面上には、何も設けないのが好ましい。そのため、アルミニウム合金のもう一方の表面全体に剥離可能な絶縁性フィルムをメッキ処理前に貼り付けて被覆し、絶縁性フィルムで被覆した母材をメッキ処理した後、絶縁性フィルムを母材から剥離する方法等を用いることができる。
【0021】
(ニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSa)
前記ニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaが、100nm以上であることを特徴とする。かかる構成を有することにより、表面のエネルギー吸収率(レーザー吸収効率)が上がり、必要以上に大きなエネルギー投入を避けることで、過剰なエネルギー投入による異種金属の反応で生成する脆性的な金属間化合物の発生を抑制することができる。これにより溶接部の脆弱化(強度低下)を防止でき、溶接強度が向上する(安定する)。また、前記表面の算術平均粗さSaが大きくなればなるほど、表面のエネルギー吸収率が上がることから、前記表面の算術平均粗さSaは、185nm以上であるのが好ましい。かかる構成では吸収効率がさらに高くなるSa領域であるため、より少ないエネルギーを投入でも溶接することができる。即ち、表面のエネルギー吸収率(レーザー吸収効率)がより一層上がり、より少ないエネルギーを投入で模様席できることから、金属間化合物の生成をさらに抑制することができ、溶接強度がより一層向上する(安定する)。また、前記表面の算術平均粗さSaの上限としては、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、250nm以下がより好ましい。これは、エネルギーの吸収で合金部材のアルミニウム合金母材が溶けて異種金属(銅など)部材に突き刺さるが、算術平均粗さSaを粗くする(大きくする)には、ニッケルメッキ層の膜厚も上がる方向になる。しかるに、算術平均粗さSaが上記した上限値(500nm)以下であれば、ニッケル(メッキ層)だけにエネルギーが溜まる(エネルギーを吸収するニッケル(メッキ層)の体積が大きくなる)のを効果的に防止することができる。そのため、必要以上に大きなエネルギー投入を避けることができ、金属間化合物の生成を抑制することができ、溶接強度を向上させる(安定させる)ことができる。
【0022】
(ニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaの測定方法)
ニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaは、以下の方法により測定し、算出することができる。
【0023】
Bruker社製光干渉顕微鏡 115倍レンズでメッキ層表面の粗さを観察(計測)し、表面粗さの画像を得る。具体的には、上記光干渉顕微鏡により、メッキ層表面の粗さ(凹凸状態)を計測し、メッキ層表面の粗さ(凹凸状態)を色相(色・色み)の違いで表現(凹側:紫色→青色→緑色→黄色→凸側:赤色)したカラー画像(2次元画像および3次元画像)を得る。これらのカラー画像を白黒画像で表したものを
図3Aおよび
図3Bに示す。これらのカラー画像について、うねりの影響を排除するためマスキングし任意の20μm×40μmのエリアを切り取った3箇所のSa(面の算術平均粗さ)を計測し、平均を算出する。かかる平均値をニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaとする。マスキングして任意の20μm×40μmのエリアを切り取った1箇所につきカラー画像(2次元画像および3次元画像)を白黒画像で表したものを
図3Cおよび
図3Dに示す。なお、上記では、光干渉顕微鏡にBruker社製のものを用いる例を示したが、本実施形態は、Bruker社製のものに制限されるものではない。即ち、上記した表面の粗さの計測およびマスキングして任意の20μm×40μmのエリアを切り取った画像の算術平均粗さSaの解析が可能なソフトウエア搭載の画像解析装置等を備えた光干渉顕微鏡を適宜利用することができる。
【0024】
(ニッケルメッキ層の膜厚)
前記ニッケルメッキ層の膜厚は、3μm以上であるのが好ましく、5μm以上であるのがより好ましい。これは、ニッケルメッキ層の膜厚が厚くなるほど表層の表面粗さ=めっき粒径(ニッケル粒子の粒径)が粗大化し、表面粗化によるレーザー吸収向上効果が得られやすいためである。かかるレーザー吸収向上効果により、溶接強度が向上する(安定する)。かかる観点から、ニッケルメッキ層の膜厚は、8μm以上であるがさらに好ましい。また、ニッケルメッキ層の膜厚は、16μm以下であるのが好ましく、14μm以下であるのがより好ましい。エネルギーの吸収でアルミニウム合金部材の母材が溶けて溶接相手部材である異種金属(銅)部材に突き刺さることで、アルミニウム合金と異種金属(銅)との溶融混合を行うことができ、溶接強度が向し(安定し)強固な溶接構造を得ることができる。ニッケルメッキ層の膜厚が上限値(16μm)以下であれば、ニッケル(メッキ層)だけにエネルギーが溜まり、エネルギーを吸収するニッケル(メッキ層)の体積が大きくなるのを効果的に防止することができる。そのため、必要以上に大きなエネルギー投入を避けることができ、脆弱な金属間化合物の生成を抑制することができ、溶接強度を向上させる(安定させる)ことができる。
【0025】
(ニッケルメッキ層の膜厚の測定方法)
ニッケルメッキ層の膜厚は、以下の方法で測定することができる。
【0026】
断面研磨機で断面加工したアルミニウム合金部材の試料(サンプル)の断面を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察し、断面の画像を得る。この断面の画像からニッケルメッキ層の膜厚を計測する。詳しくは、
図4に示すように、倍率3000倍の断面の画像より、ニッケルメッキ層の膜厚を、当該FE-SEMに備えられた画像解析装置を用いて計測することができる。なお、ニッケルメッキ層の表面は、測定中の最低値=膜厚とカウントする(表面の凸凹の凹のところ)。
【0027】
(ニッケルメッキ層のニッケル粒子の粒径)
前記ニッケルメッキ層のニッケル粒子の粒径は、0.5μm以上であるのが好ましく、0.8μm以上であるのがより好ましい。これは、ニッケル粒子の粒径が上記範囲に粗大化すると表面粗さが増大し、結果レーザー吸収率が向上し、溶接強度が向上する(安定する)ためである。なお、ニッケルメッキ層のニッケル粒子の粒径の上限は、特に制限されるものではないが、ニッケルメッキ層の膜厚との関係などから、1.0μm以下であるのが好ましい。
【0028】
(ニッケルメッキ層のニッケル粒子の粒径の測定方法)
ニッケルメッキ層のニッケル粒子の粒径は、以下の方法で測定することができる。
【0029】
断面研磨機で断面加工したアルミニウム合金部材の試料(サンプル)の断面を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察し、断面の画像を得る。詳しくは、倍率1万倍の反射電子像を得る。得られた反射電子像から、ニッケルメッキ層のニッケルの結晶粒界の数Pを計測し、結晶粒の数Nを求める。具体的には、ニッケルの結晶粒の数Nは、JIS G0551:2020「鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法」により、
図5A、
図5Bに示すように、線分の端がその内部にある結晶粒は1/2個と数えることで、結晶粒の数N≒結晶粒界の数Pとみなせる。ここで、
図5Aと
図5Bは、同じ顕微鏡写真において、5Aは、線分が横切る結晶粒を数え、その数を表示した図面であり、
図5Bは、線分が横切る結晶粒界を数え、その数を表示した図面である。上記により、線分が横切る結晶粒の数は、反射電子像から計測した結晶粒界の数Pとみなせる。次に、高山,軽金属,44,p.48「結晶粒度の評価方法」(1994)に記載の切片法(切断法)により、平均結晶粒度を算出する。詳しくは、上記切片法(切断法)により、対象となる試料(サンプル)断面(反射電子像)に全長Lの線分を引き、この線分が横切った結晶粒の数n
L(N)≒結晶粒界の数Pとして、下記式(1)より、平均結晶粒度l
aveを求める。この平均結晶粒度l
aveをニッケルメッキ層のニッケル粒子の粒径とする。
【0030】
【0031】
(ニッケルメッキ層の光沢度)
前記ニッケルメッキ層の光沢度が、0.40以下であるのが好ましく、0.38以下であるのがより好ましい。これは、光沢度が小さいということはそれだけ光が散乱するため、表面内での吸収が上がる(レーザー吸収率が向上する)と考えられる。これにより、溶接強度が向上する(安定する)ためである。なお、ニッケルメッキ層の光沢度は小さいほど好ましいことから、光沢度の下限は、特に制限されるものではないが、現実的には0.2以上であるのが好ましい。
【0032】
(ニッケルメッキ層の光沢度の測定方法)
ニッケルメッキ層の光沢度は、以下の方法で測定することができる。
【0033】
日本電色工業株式会社製デンシトメーターND-11を用いて計測することができる。詳しくは、
図6に示すように、光源入射角0°とし、光源61はCIE標準光源の分光特性を有する白色光源であり、受光器62の開き角は45°とする。光沢度の測定は、検体(アルミニウム合金部材のニッケルメッキ層表面)63中央部のワーク表面(測定箇所)のφ3mmの箇所を3回計測し、平均値を算出する。この平均値をニッケルメッキ層の光沢度とする。光沢度はLog(I
in/I
out)(I
inは光源からの照射光(入射光)の強さ、I
outは検体で反射した光のうち受光器で検出した反射光の強さ)として計算される。
【0034】
(ニッケルメッキ層の形成方法)
アルミニウム合金上への算術平均粗さSaが100nm以上であるニッケルメッキ層の形成方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。但し、本実施形態のニッケルメッキ層の形成方法としては、以下の方法に制限されるものではなく、従来公知の表面を粗化させる無光沢ニッケルメッキ技術を適宜利用して形成することができる。
【0035】
本実施形態のニッケルメッキ層は、以下の条件で電解ニッケルメッキを行うことで形成することができる。
【0036】
<電解ニッケルメッキの条件>
・浴液:スルファミン酸浴、pH3.5~4.8、445~645ml/L(60%スルファミン酸ニッケル)
・不純物;硫黄含有量0.1wt%以下
・電流密度2~10A/dm2。
【0037】
上記スルファミン酸浴は、スルファミン酸ニッケル、ホウ酸、塩化ニッケル(または臭化ニッケル)が基本成分で、ワット浴よりも柔軟性に優れていて、高い電流密度を使用でき、内部応力も少ないのが特徴である。
【0038】
上記スルファミン酸浴は、445~645ml/L(60%スルファミン酸ニッケル)、ホウ酸20~40g/L、塩化ニッケル(または臭化ニッケル)5~20g/Lで構成される。スルファミン酸浴では、これらベースの3成分のみでメッキすることが多く、無光沢で表面を粗化させることが本実施形態の目的のため、光沢剤などを使用しないのがよい。但し、本実施形態の作用効果に影響を与えない範囲で、添加剤が加えられていてもよい。また、製膜時間は、目標膜厚(例えば、3~15μm)に応じて適宜決定すればよい(例えば、3~20分程度)。また、浴温度も、製膜速度などの関係から適宜決定すればよい(例えば、35~45℃程度)。ただし、これらの条件については、無光沢ニッケルメッキ法により上記した所定の表面粗さのニッケルメッキ層を形成し得るものであれば、上記範囲以外の条件であってもよい。濃度変化、pH変化、不純物に敏感で、これらを調整することで、所望の表面粗さ(ザラツキ)を得ることができる。
【0039】
(アルミニウム合金部材の溶接相手部材)
前記アルミニウム合金部材は、銅合金製の部材と溶接されるのが好ましい。異なる種類の材料との溶接を行えることで、低コスト化になる。また、従来、溶接強度が不十分であった異なる種類の材料との溶接が安定して行えることで、溶接強度が向上する(安定する)。なお、アルミニウム合金部材の溶接相手部材の材質(材料の種類)としては、原理的にはアルミニウムを含むすべての金属で効果があり、使用用途に応じて、適宜選択すればよい。
【0040】
前記アルミニウム合金部材は、前記溶接相手部材と溶接部以外は離間しているのが好ましい。アルミニウム合金部材は、前記溶接相手部材との間に隙間があれば、溶接時に気化した材料の逃げ場を確保することができ、ブローホールの発生を防止でき、強度低下を防止し、溶接強度が向上する(安定する)ことができる。前記溶接部以外の離間距離は、溶接部に相当する部分だけに開口部を有する鉄製等の薄板(厚さ0.2mm程度)を用いることなどができる。この薄板部材は、溶接後に簡単に取りだすことができるように、溶接部(開口部)を中心として左右(前後)に2以上の部材に切り分けられているのが好ましい。また、分割された薄板を取りだしが容易に行えるように、分割された薄板には、それぞれアルミニウム合金部材からはみ出した部分(持ち手となる部分)を有するのが好ましい。
【0041】
(溶接相手部材の厚さ)
溶接相手部材(銅板等)の厚さは、使用用途(電極タブや電極タブ以外の用途)に応じて適宜決定すればよい。
【0042】
(溶接相手部材の表面)
溶接相手部材(銅板等)は、本発明の作用効果を損なわない範囲であれば、アルミニウム合金部材との溶接部の側に光沢ニッケルメッキ層を有していてもよい。溶接相手部材(銅板等)の表面の酸化防止目的であり、銅板等の素地よりニッケルの方が酸化しにくいため、さまざまな環境的ネガティブを避けることができる。
【0043】
<金属部材の溶接構造;第2実施形態>
本発明に係る金属部材の溶接構造の一実施形態(第2実施形態)は、レーザー溶接用アルミニウム合金部材と、前記アルミニウム合金とは異なる金属部材とが溶融凝固された溶接部を備える金属部材の溶接構造であって、
前記アルミニウム合金部材は、前記溶接部と対向する側にニッケルメッキ層を有し、前記ニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaが100nm以上であることを特徴とするものである。かかる構成を有することにより、レーザーを照射するアルミニウム合金部材の母材中のアルミニウムよりもニッケルの方がレーザー吸収率が高い。そのため、合金部材表面のニッケルメッキ層でのエネルギー吸収率が上がり、必要以上に大きなエネルギー投入を避けることで、脆弱な金属間化合物の生成を抑制することができる。さらに表面を粗化することで平滑面よりも吸収率を向上させることができる。そのため効率的にアルミニウム合金と、アルミニウム合金以外の異種金属との溶融混合を行うことができ、溶接強度が向し(安定し)強固な溶接構造を得ることができる。
【0044】
(アルミニウム合金部材)
本実施形態のレーザー溶接用アルミニウム合金部材には、上記した第1実施形態のレーザー溶接用アルミニウム合金部材を適用することができる。よって、本実施形態のレーザー溶接用アルミニウム合金部材の説明については、上記した第1実施形態で説明した通りであり、重複説明を避けるため、ここでの再度の説明は省略する。
【0045】
本実施形態では、前記アルミニウム合金部材は、電極タブと接合するバスバーであるのが好ましい。本実施形態のアルミニウム合金部材をバスバーとして用いることで、電極タブを連結して導電性を確保しつつ、必要に応じて強度を確保することができるものである。
【0046】
(アルミニウム合金部材の溶接相手部材;アルミニウム合金とは異なる金属部材)
前記アルミニウム合金とは異なる金属部材は、銅合金製の金属部材であるのが好ましい。この銅合金製の金属部材は、アルミニウム合金部材(バスバー)の溶接相手部材として、自動車用途であって尚且つ導電用途でもある、電気自動車(EV)等の車載用蓄電池の負極タブなどに適している。
【0047】
(溶接相手部材の材質等)
アルミニウム合金とは異なる金属部材の材質としては、上記したように銅合金が好ましい。
【0048】
(溶接部の形態)
複数の前記溶接相手部材がそれぞれ前記溶接部を有して前記アルミニウム合金部材へ溶接されているのが好ましい。かかる構成を有することで、複数の溶接相手部材に対応する複数のアルミニウム合金部材を用意しなくてよいため、部品点数が減少し、低コストになるほか、部品管理も容易になる。また、複数の溶接相手部材を複数のアルミニウム合金部材を用いて溶接しなくてよいため、溶接作業が複雑化することなく、簡単に行うことができ、低コスト化になる。
【0049】
(溶接部の形成方法;溶接方法)
レーザー溶接用アルミニウム合金部材と、前記アルミニウム合金とは異なる金属部材とを溶融混合し凝固されて溶接部を形成する方法としては、以下の方法が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0050】
図7に示すように、上板であるアルミニウム合金部材71のニッケルメッキ層71b側から以下に示す条件でレーザー74を照射して溶接を行う。
【0051】
<レーザー溶接の条件>
・レーザーは、以下の条件で上板のアルミニウム合金部材のニッケルメッキ層側から照射
・レーザー種:YAGレーザー
・溶接速度:100±20mm/秒
・レーザーはWobbling(円を描きながら進む)
・ビード長さは溶接したい部分の長さで決まる(実施例では、21mm×2)。
【0052】
課題であったアルミニウム合金(バスバー)と銅(負極タブ)の異種材溶接と、製造上のバラツキ(許容誤差範囲)により生じる材料間の隙間に対しては、レーザー溶接技術の進歩による貢献も寄与している。すなわち、以前は直線的に溶接することで入熱過大で溶接強度が小さく全く成立しなかったものが、Wobblingという描円溶接をすることで、過大な入熱を回避しかつ材料を溶かせる技術が発展している。そこで、レーザー溶接において、Wobblingという描円溶接を用いるのが好ましい。これは、異種材溶接と材料間の隙間の課題に対して、本実施形態のレーザー溶接用アルミニウム合金部材を用い、Wobbling(描円溶接)を行うことで、材料間の隙間を塞ぎつつ、より低いエネルギーで異種材を溶融混合することができる。その結果、より強固な接合構造を得ることができる。またレーザー溶接において、レーザー種にYAGレーザーを用いるのが好ましい。YAGレーザーを用いることで、金属に対する光エネルギーの吸収性が、CO2レーザに優る。そのため、より少ないエネルギーで加工することができる。その結果、より強固な接合構造を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本実施形態を実施例を通して具体的に説明するが、本発明は以下の実施例には限定されない。なお、各実施例および比較例は、特に断らない限り、大気圧雰囲気下、室温(25℃±3℃の範囲)、相対湿度50%±5%RHの範囲で行った。
【0054】
(実施例1~5および比較例1~3)
(レーザー溶接用アルミニウム合金部材の作製)
レーザー溶接用アルミニウム合金部材の母材として、アルミニウム合金のA1100-H24またはA6101-T6を用いた。かかる母材合金の厚さは0.6mmとし、形状は、ニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSa、光沢度および膜厚、並びにメッキ層表面のニッケル粒子の粒径測定用に矩形形状の板材と、強度(引っ張り応力)測定用に断面がL字型の板材(
図8参照)をそれぞれ用いた。
【0055】
比較例2は、メッキ皮膜を形成することなく、母材のアルミニウム合金のA1100-H24をそのまま、レーザー溶接用アルミニウム合金部材として用いた。合金部材の厚さは0.6mmとし、形状は、強度(引っ張り応力)測定用に断面がL字型の板材(
図8参照)を用いた。
【0056】
比較例3は、メッキ皮膜を形成することなく、板状の母材のアルミニウム合金のA6101-T6をそのまま、レーザー溶接用アルミニウム合金部材として用いた。合金部材の厚さは0.6mmとし、形状は、強度(引っ張り応力)測定用に断面がL字型の板材(
図8参照)を用いた。
【0057】
実施例1~5および比較例1の母材のアルミニウム合金の一方の表面上にニッケルメッキ層を形成し、レーザー溶接用アルミニウム合金部材を得た。かかるニッケルメッキ層を形成するためのNiメッキの条件は、以下の通りとした。なお、母材のアルミニウム合金のもう一方の表面は、メッキ皮膜が形成されないように、離型性を有する絶縁性フィルムで被覆してから、メッキを行った。メッキ終了後、当該絶縁性フィルムは剥離した。
【0058】
<Niメッキの条件>
・浴液:スルファミン酸浴
・浴液(水溶液)中の成分濃度;スルファミン酸ニッケル(60%スルファミン酸ニッケル)545ml/L、塩化ニッケル10g/L、ホウ酸30g/L
・浴液のpH;4.0
・浴液の温度;40℃
・浴液中の不純物;硫黄含有量0.1wt%以下
・電流密度:3A/dm2。
【0059】
なお、比較例1の光沢電解ニッケルメッキでは、上記スルファミン酸浴に、上記3成分に加えて、光沢剤として、硫黄を0.1質量%加えて行った。なお、実施例1~5および比較例1の浴液のpHおよび製膜時間は、下記表1に示す条件とした。
【0060】
【0061】
<ニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaの測定>
上記で得られた実施例1~5および比較例1の板状のレーザー溶接用アルミニウム合金部材につき、ニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaを上記した方法により測定し、算出した。得られたニッケルメッキ層の表面の算術平均粗さSaを下記表2に示す。
【0062】
<ニッケルメッキ層の膜厚の測定>
上記で得られた実施例1~5および比較例1の板状のレーザー溶接用アルミニウム合金部材につき、ニッケルメッキ層の膜厚を上記した方法により測定した。得られたニッケルメッキ層の膜厚を下記表2に示す。
【0063】
<ニッケルメッキ層のニッケル粒子の粒径の測定>
上記で得られた実施例1~5および比較例1の板状のレーザー溶接用アルミニウム合金部材につき、ニッケルメッキ層のニッケル粒子の粒径を上記した方法で測定した。得られたニッケルメッキ層のニッケル粒子の粒径を下記表2に示す。
【0064】
<ニッケルメッキ層の光沢度の測定>
上記で得られた実施例1~5および比較例1の板状のレーザー溶接用アルミニウム合金部材につき、ニッケルメッキ層の光沢度を上記した方法で測定した。得られたニッケルメッキ層の光沢度を下記表2に示す。
【0065】
(金属部材の溶接構造の作製)
上記で得られた実施例1~5および比較例1~3の板状のレーザー溶接用アルミニウム合金部材を用いて、前記アルミニウム合金部材と、前記アルミニウム合金とは異なる金属部材とを、
図7に示すように配置して以下に示す条件でレーザー溶接を行った。これにより、前記アルミニウム合金部材と、前記アルミニウム合金とは異なる金属部材とが溶融凝固された溶接部を備える板状の金属部材の溶接構造を得た。
【0066】
詳しくは、前記アルミニウム合金とは異なる金属部材には、純銅(無酸素銅)のC1020-Oを用いた。厚みは0.2mmとし、形状は、矩形形状の板材と、強度(引っ張り応力)測定用に断面がL字型の板材(
図8参照)をそれぞれ用いた。なお、アルミニウム合金部材と、前記アルミニウム合金とは異なる金属部材とは、同じ大きさ、形状の板材を用いた。この金属部材の表面には、実施例1と同様にして、光沢ニッケルメッキ層を形成したものを用いた。
【0067】
次に、
図7に示すように配置して以下に示す条件でレーザー溶接を行った。詳しくは、上板のアルミニウム合金部材71と、下板の前記アルミニウム合金とは異なる金属部材である銅板72との板間には厚さ0.2mmのSUS製のスペーサ(φ10mm)(図示せず)で0.2mmの隙間(73)を空ける構成とした。上板のアルミニウム合金部材71は、溶接する側(銅板72と対峙する側)と対向する側(母材71aの上側=レーザー入射側)がニッケルメッキ層71bとなるように配置した。下板の銅板72は、溶接する側が光沢ニッケルメッキ層(図示せず)となるように配置した。
【0068】
かかるスペーサによる隙間は意図的に設けたものである。すなわち、各部材において製造上のバラツキ(許容誤差の範囲)で隙間ができる。車載用蓄電池のバスバーと負極タブの間では、バラツキの中央値が0.1mmであり、MAXが0.2mmであることから、かかる隙間が空いていても溶接により十分に塞ぐことができることの確認のために意図的に設けたものである。よって、今回の試験では使用したが、実際のレーザー溶接では、こうしたスペーサは使用しない。今回の試験では、スペーサは、溶接前にセットし、溶接後に外した。
【0069】
次に、
図7に示すように、上板のアルミニウム合金部材71の母材71a上のニッケルメッキ層71b側から以下に示す条件でレーザー74を照射して溶接を行った。実際には、矩形状の板材に代えて、断面がL字型の板材を、
図8に示すように、アルミニウム合金部材81は90°曲げた部分81aが上側(ニッケルメッキ層側)に向くように配置した。一方、銅板82は90°曲げた部分82aが下側(溶接しない裏側)に向くように配置した。アルミニウム合金部材81と銅板82とが0.2mmの間隔を空けて向き合う箇所を溶接した。得られた溶接部を符号83で示す。これにより
図8に示すように、強度(引っ張り応力)の測定の際に、アルミニウム合金部材81の上に90°曲げた部分81aと、銅板82の下に90°曲げた部分82aとを掴んで固定し、それぞれ上下方向(
図8中の矢印の方向)に引っ張ることで、強度を測定することができる溶接構造80とした。
【0070】
<レーザー溶接の条件>
・レーザーは、以下の条件で上板のニッケルメッキ層側から照射
・レーザー種:YAGレーザー
・溶接速度100mm/秒
・レーザーはWobbling(円を描きながら進む)
・ビード長さは21mm×2。
【0071】
上記レーザー溶接により、前記アルミニウム合金部材71と、前記アルミニウム合金とは異なる金属部材である銅板72とが溶融凝固された溶接部(図示せず)を備える断面L字型の板状の金属部材の溶接構造(
図8参照)を得た。
【0072】
[評価]
<溶接構造の強度(引っ張り応力)の測定>
実施例1~5および比較例1~3の金属部材の溶接構造につき、万能試験機 オートグラフ 引張試験機を用いて溶接構造の強度(引っ張り応力)の測定した。詳しくは、
図8に示すように、溶接構造のうち、アルミニウム合金部材81の上に90°曲げた部分81aと、銅板82の下に90°曲げた部分82aとを治具に固定し、剥離方向(図中の矢印方向)に引っ張り応力を加えた。オートグラフにて破断したときの最大荷重を記録し、N50(50個のサンプル)のデータの平均-3σ値を強度(N)とした。得られた溶接構造80の強度を下記表2に示す。
【0073】
【符号の説明】
【0074】
11 アルミニウム合金、 12 レーザー照射、 13 表面反射、
14 狙い通りのエネルギー、 15過大なエネルギー、
21 ニッケルメッキ層の表面、 22 レーザー光、
22a メッキ層内に屈折し吸収された入射光、
22b メッキ層に再吸収された反射光、 61 光源、 62 受光器、
63 検体、 71、81 アルミニウム合金部材(バスバー)、
71a 母材、 71b ニッケルメッキ層、
72、82 銅板、 73 隙間、 74 レーザー、
80 溶接構造、 81a、82a 90°曲げた部分、 83 溶接部。