IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気株式会社の特許一覧

特許7597126信号処理装置、信号処理方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/06 20060101AFI20241203BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20241203BHJP
   H03F 1/32 20060101ALI20241203BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H04B7/06 982
H04B1/04 R
H03F1/32
H03F3/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022571016
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2021019815
(87)【国際公開番号】W WO2022137593
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2020217508
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】望月 拓志
(72)【発明者】
【氏名】石田 一博
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-511802(JP,A)
【文献】特表2019-536381(JP,A)
【文献】国際公開第2008/111471(WO,A1)
【文献】特開2010-283779(JP,A)
【文献】特開2012-244553(JP,A)
【文献】特開2012-231270(JP,A)
【文献】特開平09-102759(JP,A)
【文献】国際公開第2020/144889(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02-7/12
H04B 1/04
H03F 1/32
H03F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に対して非線形歪を補償する歪補償処理を行い、前記歪補償処理がなされた信号を出力する歪補償手段と、
前記歪補償手段が出力した信号を増幅し、通信用の通信信号として出力する増幅器と、
前記通信信号が出力されないタイミングで、前記通信信号の周波数帯域をカバーする周波数帯域を有し、前記歪補償処理を調整するための調整信号を、前記入力信号として前記歪補償手段に出力する信号出力手段と、を備え、
前記信号出力手段は、前記調整信号として、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)又はスペクトラム拡散による変調がなされた信号を、自装置のキャリブレーション動作時に出力するキャリブレーション信号とタイミングが重ならないように出力する、
信号処理装置。
【請求項2】
前記歪補償手段に入力される前記入力信号として、前記調整信号のピークレベルのパワーは、前記通信信号のピークレベルのパワーよりも高く、
前記歪補償手段は、前記調整信号に基づいて、前記歪補償処理に用いるDPD(Digital Pre-Distortion)補償係数を設定する、
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記調整信号の周波数帯域は、前記キャリブレーション信号の周波数帯域をカバーし、前記調整信号は、前記キャリブレーション信号よりも前のタイミングで出力される、
請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記歪補償手段と、前記増幅器の間に送信機をさらに備え、
前記信号出力手段は、前記通信信号のデータスロットの前であって、前記送信機がオフからオンに遷移する区間、及び、前記通信信号のデータスロットの後であって、前記送信機がオンからオフに遷移する区間の少なくともいずれかにおいて、前記調整信号を出力する、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記信号出力手段は、前記調整信号として、信号区間の最初に信号のピークを有する信号を出力する、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記信号処理装置は、前記増幅器からの出力信号を無線送信する無線送信手段をさらに備えた無線通信装置である、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記信号処理装置は、複数の前記増幅器を備え、
前記無線送信手段は、前記複数の増幅器に対応する複数のアンテナを備え、
前記複数のアンテナは、前記調整信号を、隣接した各アンテナにおいて位相が異なるように無線送信する、
請求項に記載の信号処理装置。
【請求項8】
歪補償手段が、入力信号に対して非線形歪を補償する歪補償処理を行い、前記歪補償処理がなされた信号を出力し、
前記歪補償手段が出力した信号を増幅し、通信用の通信信号として出力し、
前記通信信号が出力されないタイミングで、前記通信信号の周波数帯域をカバーする周波数帯域を有し、前記歪補償処理を調整するための調整信号を、前記入力信号として前記歪補償手段に出力し、
前記調整信号は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)又はスペクトラム拡散による変調がなされた信号であり、キャリブレーション動作時に出力するキャリブレーション信号とタイミングが重ならないように出力される、
信号処理方法。
【請求項9】
歪補償手段が、入力信号に対して非線形歪を補償する歪補償処理を行い、前記歪補償処理がなされた信号を出力し、
前記歪補償手段が出力した信号を増幅し、通信用の通信信号として出力し、
前記通信信号が出力されないタイミングで、前記通信信号の周波数帯域をカバーする周波数帯域を有し、前記歪補償処理を調整するための調整信号を、前記入力信号として前記歪補償手段に出力し、
前記調整信号は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)又はスペクトラム拡散による変調がなされた信号であり、キャリブレーション動作時に出力するキャリブレーション信号とタイミングが重ならないように出力される、
ことをコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は信号処理装置、信号処理方法及び非一時的なコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
5G(5th Generation)等の無線通信に関する技術が進展している。この技術分野において、信号中に存在する歪みを補償することは、信号内容の正確な伝達を担保するのに重要である。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の増幅器を起因とする歪みを補償する歪み補償部を備えたアンテナ装置が開示されている。アンテナ装置の検出部は、電力増幅器の歪み特性として、例えば、AM(Amplitude Modulation)-AM歪みや、AM-PM(Phase Modulation)歪みを検出する。歪み補償部は、この検出結果に基づいて、複数の増幅器の歪み補償を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-136772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無線通信システムにおいて、増幅器の前段にDPD(Digital Pre-Distortion)補償部を設けることにより、増幅器によって生成される歪みを抑制し、増幅器の出力信号における線形範囲を拡大することがなされている。しかしながら、増幅器に入力される信号に急な変化(例えば、狭帯域信号から広帯域信号への変化)が生じた場合に、その変化にDPDの補償が対応できないことがある。この場合、増幅器からの出力信号が劣化するため、所望の通信特性を得られない可能性がある。
【0006】
本開示の目的は、出力信号の劣化を抑制するための信号処理装置、信号処理方法及び非一時的なコンピュータ可読媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態にかかる一態様の信号処理装置は、入力信号に対して非線形歪を補償する歪補償処理を行い、前記歪補償処理がなされた信号を出力する歪補償手段と、前記歪補償手段が出力した信号を増幅し、通信信号として出力する増幅器と、前記通信信号が出力されないタイミングで、前記通信信号の周波数帯域をカバーする周波数帯域を有し、前記歪補償処理を調整するための調整信号を、前記入力信号として前記歪補償手段に出力する信号出力手段を備える。
【0008】
本実施形態にかかる一態様の信号処理方法は、歪補償手段が、入力信号に対して非線形歪を補償する歪補償処理を行い、前記歪補償処理がなされた信号を出力し、前記歪補償手段が出力した信号を増幅し、通信用の通信信号として出力し、前記通信信号が出力されないタイミングで、前記通信信号の周波数帯域をカバーする周波数帯域を有し、前記歪補償処理を調整するための調整信号を、前記入力信号として前記歪補償手段に出力する。
【0009】
本実施形態にかかる一態様の非一時的なコンピュータ可読媒体は、歪補償手段が、入力信号に対して非線形歪を補償する歪補償処理を行い、前記歪補償処理がなされた信号を出力し、前記歪補償手段が出力した信号を増幅し、通信用の通信信号として出力し、前記通信信号が出力されないタイミングで、前記通信信号の周波数帯域をカバーする周波数帯域を有し、前記歪補償処理を調整するための調整信号を、前記入力信号として前記歪補償手段に出力することをコンピュータに実行させるプログラムが格納されたものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、出力信号の劣化を抑制するための信号処理装置、信号処理方法及び非一時的なコンピュータ可読媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1にかかる信号処理装置の一例を示すブロック図である。
図2A】実施の形態1にかかる信号処理装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図2B】実施の形態1にかかる信号処理装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図3】実施の形態2にかかる無線通信装置の一例を示す概略図である。
図4】実施の形態2にかかるBBユニットの一例を示すブロック図である。
図5】実施の形態2にかかるFEユニットの一例を示すブロック図である。
図6】実施の形態2にかかる無線通信装置における送信機のパワーレベルの一例を示すグラフである。
図7】実施の形態2にかかる各送信機用のDLキャリブレーション信号の周波数配置の一例を示す図である。
図8A】実施の形態2にかかる各信号の一例を示すグラフである。
図8B】実施の形態2にかかるCAL信号とSSBの詳細な例を示す3次元グラフである。
図8C】実施の形態2にかかるCAL信号とSSBの詳細な例を示すグラフである。
図9A】実施の形態2において、DPDがオフの状態における、所定の周波数帯域でのゲインの例を示すグラフである。
図9B】実施の形態2において、DPDがオフの状態でDLキャリブレーションを実行した場合のDL-CAL信号の例を示すグラフである。
図9C】実施の形態2において、DPDがオンの状態における、所定の周波数帯域でのゲインの例を示すグラフである。
図9D】実施の形態2において、DPDがオンの状態でDLキャリブレーションを実行した場合のDL-CAL信号の例を示すグラフである。
図10A】実施の形態2にかかるDPDトレーニング信号とSSBの詳細な例を示す3次元グラフである。
図10B】実施の形態2にかかるDPDトレーニング信号とSSBの詳細な例を示すグラフである。
図11】実施の形態2にかかるDPDトレーニング信号が出力されるタイミング例を示すグラフである。
図12】実施の形態2にかかる無線通信装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図13】実施の形態3にかかる送信電力のパターン例を示すグラフである。
図14】各実施の形態にかかる装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1
以下、図面を参照して本開示の実施の形態1について説明する。図1は、実施の形態1に係る信号処理装置を示すブロック図である。信号処理装置100は、電気信号を処理する装置であって、例えば通信システムの無線通信装置に対して適用できるが、適用対象はそれに限定されない。
【0013】
信号処理装置100は、歪補償部101、アンプ102及び信号出力部103を備える。以下、各構成要素について説明する。
【0014】
歪補償部101は、入力信号INに対して非線形歪を計測し、計測した非線形歪を補償する歪補償処理を行い、歪補償処理がなされた信号を、対応するアンプ102に出力する。この歪補償処理によって、アンプ102によって出力される信号の非線形歪みが抑制される。
【0015】
歪補償部101は、歪補償処理として、例えばDPD補償処理を実行する。DPD補償処理が実行される場合には、歪補償部101の内部には、振幅及び位相に関するDPD補償係数が格納される。DPD補償係数は、アンプ102の非線形AM/PM成分を補償するための重みであり、歪補償部101は入力信号INの特性に基づいて、振幅及び位相に関する適切なDPD補償係数を選択する。歪補償部101は、選択したDPD補償係数を用いて、入力信号INにDPD補償処理を実行する。例えば、歪補償部101には、入力信号INの振幅又は(I,Q)の値と、その値に対応するDPD補償係数とが関連付けられたLUT(ルックアップテーブル)が格納されている。歪補償部101は、入力信号INの値を判定し、その値に基づいてLUTを参照することで、適切なDPD補償係数を選択し、DPD補償処理を実行する。なお、歪補償部101は、アンプ102の出力のフィードバックFBを用いて、振幅及び位相に関するDPD補償係数を適宜更新する。
【0016】
アンプ102は、歪補償部101から出力された信号を増幅し、出力信号OUTとして出力する増幅器である。アンプ102は、出力信号OUTとして、無線又は有線での通信に用いられる通信信号を出力することができる。通信信号は、例えば信号処理装置100から他装置に送信される送信信号であっても良いし、信号処理装置100が他装置から受信する受信信号であっても良い。なお、アンプ102として、任意の種類の増幅器を用いることができる。
【0017】
信号出力部103は、アンプ102から通信信号が出力されないタイミングで、通信信号の周波数帯域をカバーする周波数帯域を有し、歪補償処理を調整するための調整信号を、入力信号INとして歪補償部101に出力する。「通信信号の周波数帯域をカバーする周波数帯域」とは、通信信号の周波数帯域が周波数F1からF2(F1>F2)であり、調整信号の周波数帯域が周波数F3からF4(F3>F4)である場合に、F3がF1以上であり、F4がF2以下であることをいう。調整信号は、例えば、信号の周波数帯域においてガードバンドのような空白の周波数帯が存在しない密な信号である。具体的には、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)による変調がなされることで、多数の狭帯域のサブキャリアが周波数軸上で多重伝送されるものであっても良い。具体的には、信号の帯域内の全サブキャリアに送信データを割り当てて、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)の処理を実行することで、所望の調整信号を生成することができる。また、調整信号は、スペクトラム拡散による変調がなされることで、周波数帯域全体に信号が拡散された信号であっても良い。スペクトラム拡散方式は、CDMA(Code Division Multiple Access)方式で用いられる方法であり、例えば、直接拡散方式である。スペクトラム拡散方式では、送信データにスクランブルコードをかけて、データレートを上げることにより、広帯域の信号を得ることができる。ただし、調整信号は、以上の方法に限られず、任意の方法で生成することができる。
【0018】
なお、通信信号が、信号処理装置100から他装置に送信される送信信号である場合、信号出力部103は、調整信号の生成とは異なるタイミングで通信信号を生成して、歪補償部101に出力しても良い。
【0019】
図2Aは、通信信号がアンプ102に入力される場合に、信号処理装置100が実行する処理を示したフローチャートである。
【0020】
まず、歪補償部101は、入力される通信信号に対して歪補償処理を行い、歪補償処理がなされた信号を出力する(ステップS11)。アンプ102は、歪補償部101が出力した通信信号を増幅して出力する(ステップS12)。歪補償部101は出力信号のフィードバックFBを用いて、歪補償処理を調整する(ステップS13)。ここでは、歪補償部101は、DPD補償係数を更新する。このように歪補償処理がなされることで、通信信号のSINRを向上させることができる。
【0021】
図2Bは、通信信号が出力されないタイミングにおいて、調整信号が入力信号としてアンプ102に入力される場合に、信号処理装置100が実行する処理を示したフローチャートである。まず、信号出力部103は、調整信号を入力信号INとしてアンプ102に出力する(ステップS14)。歪補償部101は、調整信号に対して歪補償処理を行い、歪補償処理がなされた調整信号を出力する(ステップS15)。アンプ102は、歪補償部101が出力した調整信号を増幅して出力する(ステップS16)。歪補償部101は出力信号のフィードバックを用いて、歪補償処理を調整する(ステップS17)。
【0022】
以上のように、信号処理装置100の信号出力部103は、アンプ102から通信信号が出力されないタイミングで、その周波数帯域内に通信信号の周波数帯域を含む調整信号を、入力信号INとして歪補償部101に出力する。アンプ102が出力した調整信号を用いて歪補償処理を調整するため、歪補償部101では、調整信号の周波数帯域においてゲインが降下しないような歪補償の設定がなされる。例えば、歪補償部101がDPD補償処理を実行する場合には、歪補償部101は、アンプ102の出力信号のフィードバックを用いて、DPD補償係数を調整信号に適したものに更新する。この更新により、信号処理装置100は、調整信号の出力後に通信信号を出力する場合であっても、歪補償部101によって通信信号のゲインが劣化することを抑制することができる。
【0023】
一例として、調整信号は、OFDM又はスペクトラム拡散による変調がなされた信号であっても良い。これにより、信号処理装置100は、調整信号の周波数帯域上のどこに通信信号の周波数成分があっても通信信号のゲインの劣化を抑制できる調整信号を、公知の技術によって比較的容易に生成することができる。
【0024】
なお、信号処理装置100は、アンプ102が複数設けられていても良い。つまり、信号処理装置100において、信号チャネルが複数あっても良い。この場合、歪補償部101は信号チャネル毎に設けられても良い。又は、アンプ102が設けられているが、歪補償部101が設けられていない信号チャネルがあっても良い。また、1ユニットの歪補償部101が、複数の信号チャネルにおいて歪補償処理を行い、歪補償処理がなされた信号を、複数のアンプ102に出力しても良い。
【0025】
実施の形態2
以下、図面を参照して本開示の実施の形態2について説明する。実施の形態2では、実施の形態1で示した信号処理について、詳細な具体例を示して説明する。
【0026】
以下、通信方式としてTDD(Time Division Duplex)が用いられ、無線による送受信がMIMO(Multi User-Multi Input Multi Output)が用いられる無線通信装置の実施例を示す。また、高い周波数利用効率を実現するために、この無線通信装置では、デジタルビームフォーミングの技術が用いられる。
【0027】
図3は、実施の形態2に係る無線通信装置10の一例を示すブロック図である。無線通信装置10は、信号処理装置100の具体的な適用例であり、5G用超多素子AAS(Active Antenna System)を搭載し、例えば、基地局に設けられる装置である。図3に示されるように、無線通信装置10は、BF-BB(Beamforming-Baseband)部20と、AAS部30とを備える。ここで、AAS部30は、光トランシーバ31、TRX-BB部32、フロントエンド(Frontend)部33、32個のアンテナ34(無線送信部)、分配合成器35、SW(Switch)36及びCAL-TRX(キャリブレーション用送受信機)37、及びこれらの各部を制御する図示しない制御部を備える。なお、以下で示すアップリンク(UL)とは、図示しないUE(User Equipment)から無線通信装置10への通信路を意味し、ダウンリンク(DL)とは、無線通信装置10からUEへの通信路を意味する。
【0028】
BF-BB部20は、ビームフォーミング信号を生成する機能を有するベースバンド部である。BF-BB部20は、予め設定された受信系特性[CAL-RX(固定)]を、内部に格納する。また、BF-BB部20は、無線通信装置10が起動した場合及び周期的に、TRX-BB部32が動作することにより取得した、各信号チャネルの特性TX#n*[CAL-RX]を内部に格納し、新たな値が得られる度に更新する。BF-BB部20は、これらの値を利用し、通信用の通信信号をAAS部30に出力することで、DL方向への通信を行う。この処理の詳細については後述する。
【0029】
また、BF-BB部20は、無線通信装置10が起動した場合及び周期的に、DL又はULキャリブレーション動作を実行することにより、キャリブレーションウェイト(以下、CALウェイトと記載)をDL又はULについて決定し、記憶する。このDL/UL―CALウェイトは、後述の各TX又はRXの振幅及び位相のばらつきを補正するための値であり、DL/UL―CAL信号に基づいて、DL/ULキャリブレーション動作により決定される。例えば、DLキャリブレーションは、データビームフォーミングによる無線信号を無線通信装置10が送信する前に、無線信号放射において形成されるヌルポイントの角度及び深さを精度よく生成するためになされる。
【0030】
BF-BB部20は、DLキャリブレーションを実行する場合、IQ信号であるDLキャリブレーション信号(以下、DL―CAL信号と記載)を生成し、光トランシーバ31、TRX-BB部32、フロントエンド部33、分配合成器35及びSW36を介して、CAL-TRX37に出力する。CAL-TRX37は、入力されたRF信号をIQ信号に変換したDL―CAL信号を、BF-BB部20に出力する。BF-BB部20は、元のDL―CAL信号と、CAL-TRX37が出力したDL―CAL信号との振幅及び位相の差分を測定することにより、各信号チャネルに適用するDL-CALウェイトを決定する。
【0031】
また、BF-BB部20は、ULキャリブレーションを実行する場合、IQ信号であるULキャリブレーション信号(以下、UL―CAL信号と記載)を生成し、CAL-TRX37に直接送信する。CAL-TRX37は、IQ信号をRF信号に変換したUL―CAL信号を、SW36、分配合成器35、フロントエンド部33、TRX-BB部32及び光トランシーバ31を介してBF-BB部20に出力する。BF-BB部20は、元のUL―CAL信号と、CAL-TRX37が送信したUL―CAL信号との振幅及び位相の差分を測定することにより、各信号チャネルに適用するUL-CALウェイトを決定する。このようにして、BF-BB部20は、ビームフォーミング信号を生成する機能を有するベースバンドとして機能する。なお、図3、4では、BF-BB部20とCAL-TRX37との間で送受信されるIQ信号であるDL/UL-CAL信号を、DL/UL-CAL IQと表示している。
【0032】
次に、AAS部30の各部について説明する。光トランシーバ31は、BF-BB部20とTRX-BB部32との間で送受信される信号(例えば、複数レイヤ信号)の光電変換及びその逆の変換を行う。
【0033】
TRX-BB部32は、送受信機ベースバンド部であって、光トランシーバ31とフロントエンド部33との間で、送受信される通信信号を媒介するユニットであり、32個のBBユニット40#0~#31を備える。以下、BBユニット40#0~#31を総称して、BBユニット40と記載する。
【0034】
図4は、BBユニット40のブロック図である。BBユニット40は、CFR処理部41、DPD処理部42を備える。なお、BBユニット40#0~#31の各々は、図4に示したものと同じ構成を有する。
【0035】
CFR処理部41は、BF-BB部20から出力され、光トランシーバ31を介して入力されたIQ信号(複数レイヤ信号)のピークレベルをCFR閾値に抑圧して、DPD処理部42に出力する。CFR閾値は、最大ピーク成分を抑圧するための閾値である。具体的には、CFR処理部41は、入力された複数レイヤ信号の振幅が、CFR閾値を超過している場合、複数レイヤ信号の振幅をCFR閾値に抑圧して、DPD処理部42に出力する。
【0036】
DPD処理部42は、実施の形態1に係る歪補償部101に対応し、各CFR処理部41と、各TRX51との間に設けられる。DPD処理部42は、CFR処理部41から出力されたIQ信号(複数レイヤ信号)と、送信アンプ52(送信電力増幅器)から出力後、方向性結合器53、FBパスを介して出力されたIR信号(複数レイヤ信号)とを用いて、送信アンプ52において生じるAM-AM及びAM-PMの入出力特性における非線形の歪みを補償する。なお、IR信号は、図4、5では信号FBとして表される。
【0037】
DPD処理部42は、後段の送信アンプ52の入出力特性と逆の特性を表すDPD補償係数に基づいて、CFR処理部41から出力された無線通信用のIQ信号の振幅及び位相を補償するDPD補償処理を行い、DPD補償処理がなされた信号を信号TRとしてFEユニット50に出力する。DPD処理部42がTRX51毎に設けられることで、個別のTRX51の特性に基づいたDPD補償処理を実行することができる。このDPD補償処理は、DLのSINR(Signal to Interference plus Noise Ratio)性能を向上するために行われる。また、DPD補償処理によって、送信アンプ52のEVM(Error Vector Magnitude)やACLR(Adjacent Channel Leakage Ratio)を改善することもできる。
【0038】
なお、アンテナ34から出力された受信信号REは、FEユニット50を介して光トランシーバ31に出力される。
【0039】
さらに、TRX-BB部32は、DL/ULキャリブレーション動作時以外のタイミングで、各DPD処理部42を介してDPDトレーニング信号を出力することで、各DPD処理部42にDPD補償の設定を調整させる。したがって、TRX-BB部32は、実施の形態1に係る信号出力部103に対応する。この処理の詳細は後述する。
【0040】
図3に戻り、AAS部30の説明を続ける。フロントエンド部33は、32個のFEユニット50#0~#31を備える。以下、FEユニット50#0~#31を総称して、FEユニット50と記載する。
【0041】
図5は、FEユニット50のブロック図である。FEユニット50は、TRX51、送信アンプ(送信電力増幅器)52、方向性結合器(COUPLER)53、SW54及び受信アンプ(受信電力増幅器)55を備える。なお、FEユニット50#0~#31の各々は、図5に示したものと同じ構成を有する。
【0042】
TRX51は、送受信機であり、不図示の送信機TX及び受信機RXを備えている。送信機TXは、TRX-BB部32から受信したIQ信号をRF信号に変換し、アンテナ34又はCAL-TRX37に出力する。無線通信装置10が無線信号を送信する場合には、送信機TXはRF信号をアンテナ34に出力し、DLキャリブレーションを実行する場合には、送信機TXは分配合成器35を介してCAL-TRX37にRF信号を出力する。
【0043】
また、受信機RXは、アンテナ34又はCAL-TRX37から受信したRF信号をIQ信号に変換し、TRX-BB部32に出力する。無線通信装置10がUEから無線信号を受信する場合には、TRX51はRF信号をアンテナ34から受信する。ULキャリブレーションが実行される場合には、TRX51はCAL-TRX37から分配合成器35を介してUL-CAL信号(RF信号)を受信する。そして、受信したUL-CAL信号をUL-CAL信号(IQ信号)に変換し、変換したUL-CAL信号を、TRX-BB部32を介してBF-BB部20に出力する。
【0044】
さらに、TRX51は、方向性結合器53から出力されたRF信号FBをIQ信号に変換し、前述のDPD処理部42に出力するFBパスを有する。
【0045】
各送信アンプ52は、実施の形態1に係るアンプ102に対応し、各アンテナ34と、各アンテナ34に対応して設けられたTRX51との間に配置される。送信アンプ52は、TRX51から出力されたRF信号(無線通信用の信号又はDL-CAL信号)を増幅して、方向性結合器53に出力する。
【0046】
各方向性結合器53は、各送信アンプ52と各アンテナ34との間に設けられたカプラである。方向性結合器53は、各送信アンプ52から出力されたRF信号をアンテナ34に出力すると共に、対応するTRX51に出力する。TRX51は、出力されたRF信号をFBパスによってDPD処理部42に出力する。DPD処理部42は、FBパスから出力されたIQ信号を受信して、上述のとおり、送信アンプ52において生じるAM-AM及びAM-PMの入出力特性における非線形の歪みを補償する。
【0047】
SW54は、AAS部30の制御部からの制御信号に基づいて、TRX51に入力又は出力される信号を切り替えるスイッチである。すなわち、AAS部30の制御によって、フロントエンド部33の接続先が切り替えられる。
【0048】
具体的には、無線通信装置10が無線通信を実行している場合には、各信号チャネル#0~#31において、フロントエンド部33とアンテナ34が接続され、フロントエンド部33とCAL-TRX37とは接続されないよう、SW54が制御される。これにより、データ送信時には、TRX51からのRF信号をアンテナ34に出力される一方、データ受信時には、SW54は、アンテナ34からのRF信号をTRX51に出力させる。
【0049】
これに対し、無線通信装置10がDL/ULキャリブレーションを実行する場合、各信号チャネル#0~#31において、フロントエンド部33とCAL-TRX37が接続され、フロントエンド部33とアンテナ34とは接続されないよう、SW54が制御される。換言すると、TRX51と、分配合成器35とが接続される一方、アンテナ34とTRX51との接続は解除される。なお、無線通信装置10がDLキャリブレーションを実行する場合は、送信アンプ52から出力されたDL-CAL信号が分配合成器35に出力される。また、無線通信装置10がULキャリブレーションを実行する場合は、分配合成器35から出力されたUL-CAL信号が受信アンプ55に出力される。
【0050】
無線通信装置10は、各SW54を制御することにより、各TRX51で処理するDL/UL-CAL信号が、他システムからの干渉の影響を受けることを回避する。すなわち、各TRX51で処理するDL/UL-CAL信号に干渉成分が含まれなくなるので、AAS部30は、各TRX51に適用するCALウェイトを正確に決定することが可能である。また、DL/ULキャリブレーションが完了すると、AAS部30の制御部は、各TRX51と、各アンテナ34とが接続されるように、各SW54を制御する。
【0051】
各受信アンプ55は、各アンテナ34と、各アンテナ34に対応して設けられたTRX51との間に配置される。送信アンプ52は、受信したRF信号(無線通信用の信号又はUL-CAL信号)を増幅して、対応するTRX51に出力する。
【0052】
図3に戻り、AAS部30の説明を続ける。アンテナ34は、各TRX51、各送信アンプ52及び各受信アンプ55に対応して設けられるアンテナである。アンテナ34は、+45度と-45度の互いに直交する偏波を有する偏波ダイバーシティアンテナであって、8セットのものが4個、つまり合計32個設けられている。各アンテナ34は、各FEユニット50から受信したRF信号を、無線によって1又は複数のUEに送信する。なお、各アンテナ34の前段側に、適宜、フィルタ及びデュプレクサの少なくともいずれかが設けられていても良い。
【0053】
分配合成器35は、無線通信装置10がDLキャリブレーションを実行する場合に、各SW54から出力されたDL-CAL信号を合成し、合成されたDL-CAL信号をSW36に出力する。また、分配合成器35は、ULキャリブレーションを実行する場合は、SW36から出力されたUL-CAL信号を分配し、分配されたUL-CAL信号を各SW54に出力する。
【0054】
SW36は、信号方向を切り替えるスイッチである。SW36は、無線通信装置10がDLキャリブレーションを実行する場合は、分配合成器35から出力されたDL-CAL信号をSW36に出力させる。また、SW36は、無線通信装置10がULキャリブレーションを実行する場合は、SW36から出力されたUL-CAL信号を分配合成器35に出力させる。
【0055】
CAL-TRX37は、無線通信装置10がDLキャリブレーションを実行する場合に、SW36から出力されたDL-CAL信号(RF信号)をDL-CAL信号(IQ信号)に変換する。そして、変換したDL-CAL信号をBF-BB部20に出力する。
【0056】
また、CAL-TRX37は、無線通信装置10がULキャリブレーションを実行する場合に、BF-BB部20から出力されたUL-CAL信号(IQ信号)をUL-CAL信号(RF信号)に変換し、変換したUL-CAL信号をSW36に出力する。なお、CAL-TRX37は、TRX51と同様に、送信機及び受信機を備えていても良い。
【0057】
以下、無線通信装置10のDLキャリブレーション動作及びULキャリブレーション動作について説明する。
【0058】
<DLキャリブレーション動作>
まず、DLキャリブレーション動作について説明する。まず、BF-BB部20は、予め設定されたDL-CAL信号(IQ信号)を、光トランシーバ31及びTRX-BB部32を介してフロントエンド部33に出力する。フロントエンド部33内の各TRX51(の送信機TX)は、DL-CAL信号(IQ信号)をDL-CAL信号(RF信号)に変換する。各TRX51で変換されたDL-CAL信号(RF信号)は、送信アンプ52及びSW54を介して、分配合成器35に出力され、分配合成器35で合成される。分配合成器35で合成されたDL-CAL信号は、SW36を介してCAL-TRX37に出力される。なお、AAS部30は、信号チャネル毎にタイミングを分けてDL-CAL信号を出力しても良い。
【0059】
CAL-TRX37は、受信したDL-CAL信号(RF信号)をDL-CAL信号(IQ信号)に変換して、BF-BB部20に出力する。CAL-TRX37から送出されたDL-CAL信号は、各TRX51#nから送出されたDL-CAL信号が周波数多重により合成された状態になっている。そのため、BF-BB部20は、CAL-TRX37から送出されたDL-CAL信号を、FFT(Fast Fourier Transform)により周波数分離して、信号チャネル#0~#31毎に、DL-CAL信号を抽出し、DL-CALウェイトを計算する。
【0060】
具体的には、BF-BB部20は、信号チャネル毎に送信されたDL-CAL信号のDL-CAL信号と、元の(すなわち送信前の)DL-CAL信号との振幅及び位相の差分を測定することにより、信号チャネル毎のDL-CAL信号の振幅及び位相のばらつきを学習する。BF-BB部20は、その学習結果を基に、各TRX51#nのDL-CALウェイトを計算する。
【0061】
ここで、各TRX51#nのDL-CALウェイトは、以下の数式1で表されるように、TRX51#nの送信系特性(振幅及び位相特性)[TX#n]と、CAL-TRX37の受信系特性(振幅及び位相特性)[CAL-RX]とが乗算されたものになる。
【数1】
【0062】
以上でDLキャリブレーション動作が終了する。BF-BB部20は、このDL-CALウェイトを内部に格納する。以降、通常のDLに係る無線通信時には、BF-BB部20は、各TRX51に対し、その各TRX51について、上述のDL-CALウェイトで重み付けしたDL信号を出力することになる。
【0063】
続いて、BF-BB部20のDL動作の動作例について説明する。BF-BB部20は、BF信号(IQ信号)を内部の回路で生成する。そして、生成したBF信号を、信号チャネル#0~#31の各々について、上述のDL-CALウェイトで補正した上で、光トランシーバ31を介してTRX-BB部32に出力する。
【0064】
具体的には、BF-BB部20は、DL-CALウェイトを分母に、CAL-TRX37の固定の受信系特性[CAL-RX(固定)]を分子に持つ分数を、BF信号に乗算する。補正後のBF信号は、以下の数式2のように表される。なお、[CAL-RX(固定)]は、BF-BB部20の記憶部(不図示)に予め格納されている。
【数2】
【0065】
補正後のBF信号は、TRX-BB部32の各TRX51#nにてIQ信号からRF信号に変換されて送出され、各送信アンプ52#nにて増幅されて、フロントエンド部33から出力される。フロントエンド部33から出力されたBF信号は、各TRX51#nを通過するため、以下の数式3のように表される。
【数3】
【0066】
また、数式3は、[TX#n]を消去して簡単に表現すると、以下の数式4のように表される。
【数4】
【0067】
数式4において、[CAL-RX(固定)]=[CAL-RX]であれば、BF信号は理想状態になり、理想状態のBF信号が各アンテナ34#nから送信されることになる。なお、[CAL-RX(固定)]=[CAL-RX]となるには、CAL-RXの安定性が重要となる。
【0068】
以上の動作を行うことにより、各送信機TX#nの振幅及び位相特定のばらつきを補償することが可能となる。このDLキャリブレーション動作により、データビームフォーミングによる無線信号を送信する前に、無線信号放射において形成されるヌルポイントの角度及び深さを精度良く決定することができる。また、空間の各方向における3次相互変調歪み起因の非線形歪放射が生ずることも抑制することができる。
【0069】
なお、以上に示したDL-CALウェイトの更新は、後述のとおり、ファンビームフォーミングによる無線信号の送信と、データビームフォーミングによる無線信号の送信間になされても良い。又は、DL-CALウェイトの更新は、定期的になされても良い。さらに別の例として、環境変化(例えば温度変化)や信号の経時変化が生じたことを、無線通信装置10のセンサが検知したことをトリガとして、無線通信装置10がDL-CALウェイトを更新しても良い。この場合の更新周期は、例えば1分以上の周期となる。
【0070】
<ULキャリブレーション動作>
次に、ULキャリブレーション動作について説明する。BF-BB部20は、予め設定されたUL-CAL信号(IQ信号)を、直接CAL-TRX37に出力する。CAL-TRX37は、UL-CAL信号(IQ信号)をUL-CAL信号(RF信号)に変換する。CAL-TRX37で変換されたUL-CAL信号(RF信号)は、SW36を介して、分配合成器35に出力され、分配合成器35で分配される。分配合成器35で分配されたUL-CAL信号は、各SW54及び受信アンプ55を介して、各TRX51に出力される。各TRX51は、UL-CAL信号(RF信号)をUL-CAL信号(IQ信号)に変換して、TRX-BB部32及び光トランシーバ31を介してBF-BB部20に出力する。
【0071】
BF-BB部20は、各TRX51で受信されたUL-CAL信号のUL-CAL信号と、元のUL-CAL信号と、の振幅及び位相の差分を測定し、UL-CAL信号の振幅及び位相のばらつきを学習する。BF-BB部20は、その学習結果を基に、各TRX51のUL-CALウェイトを計算する。
【0072】
以上でULキャリブレーション動作が終了する。BF-BB部20は、このUL-CALウェイトを内部に格納する。以降、通常のULに係る無線通信時には、BF-BB部20は、各TRX51に対し、その各TRX51について、上述のUL-CALウェイトで重み付けしたUL信号を出力することになる。
【0073】
<キャリブレーション実行タイミング>
次に、DL及びULキャリブレーション実行タイミングについて説明する。上述のとおり、無線通信装置10は、TDDモード(TDD通信方式)に対応する無線通信装置である。TDDモードは、上下リンク(UL/DL)で同一周波数を用いて、時間的にDL通信及びUL通信を切り替えて送受信を行う通信方式である。DL通信にはDLスロットが伝送され、UL通信にはULスロットが伝送される。また、DL通信からUL通信に切り替わるタイミングでは、フレキシブルスロットが伝送される。フレキシブルスロットは、DL Symbol、UL Symbol及びFlexible Symbolにより構成されるスロットである。DL SymbolはDL通信のためにリザーブされるフィールドであり、UL SymbolはUL通信のためにリザーブされるフィールドであり、Flexible SymbolはDL通信及びUL通信いずれを行ってもよいフィールドである。
【0074】
無線通信装置10は、例えば、Flexible SymbolでDLからULに切り替わる遷移区間、またはULスロットからDLスロットに切り替わる遷移区間に、DLキャリブレーション及びULキャリブレーションのいずれかを実行する。
【0075】
<キャリブレーション実行時の送信機パワーレベルについて>
図6は、DL及びULタイミングの各タイミングにおける送信機TXのパワーレベルを示す。図6の横軸は時間を示し、縦軸はパワーレベルを示す。図6の実線L1は無線通信装置10の送信機TXの送信パワーレベルの遷移を示している。図6からは、当初のトランスミッタオフ区間においてオフパワーレベルであった送信パワーレベルが、トランスミッタ遷移区間を経てトランスミッタオン区間においてオンパワーレベルとなり、再度のトランスミッタ遷移区間を経てトランスミッタオフ区間においてオフパワーレベルとなることが見て取れる。なお、図6において、ULトランスミッションと記載されている時間区間は、UL通信の時間区間であることを示す。また、DLトランスミッションと記載されている時間区間は、DL通信の時間区間であることを示している。また、ULトランスミッションと記載されている時間区間は、UL通信の時間区間であることを示している。
【0076】
無線通信装置10は、DL/ULの切り替え区間(トランスミッタ遷移区間)にDLキャリブレーション又はULキャリブレーションを実行する。この時間区間は、アップリンク-ダウンリンクフレームタイミングの区間内に含まれる。(a)送信機TXがOFFからONの状態に遷移する時間区間、及び(b)ONからOFFの状態に遷移する時間区間は、例えば10μsである。無線通信装置10は、(a)及び(b)の少なくともいずれかの区間で、上述のDLキャリブレーション又はULキャリブレーションを実行することができる。つまり、この例において、DL/UL-CAL信号の出力時間は、10μs以内であれば良い。また、DL/UL-CAL信号のパワーは、最大定格以下であれば良い。このようにして、DL-CALウェイトは、周期的に算出され、BF-BB部20内部に格納される。
【0077】
<DL-CAL信号の周波数配置について>
さらに、各TRX#n毎に周波数直交させたDL-CAL信号の周波数配置の例について説明する。ここでは、図3に示した通り、32個のTRX#nが設けられている場合における、各送信機TX#n用のDL-CAL信号の周波数配置の例について説明する。
【0078】
図7を参照して、各送信機TX#n用のDL-CAL信号の周波数配置の例について説明する。図5は、各送信機TX#n用のDL-CAL信号の周波数配置を例示する。
【0079】
図7では、1つの送信機TX#nのDL-CAL信号の周波数配置において、DL-CAL信号の送出に用いるサブキャリアが、X[MHz]の間隔で配置されている。そして、隣接する送信機TX#n同士では、DL-CAL信号の周波数配置が、周波数方向にY[MHz]だけシフトされている。なお、fs0[MHz]は、基準となる周波数である。
【0080】
ここで、図7に示される例では、以下の2つの周波数配置条件A1,A2を満たす必要がある。
周波数配置条件A1:
X[MHz]>Y[MHz]×(送信機TX#nの数-1)が成立している。
周波数配置条件A2:
信号帯域幅の範囲内に、送信機TX#1用のDL-CAL信号の最下限のサブキャリアsc0の周波数“sc0=fs0[MHz]”から、送信機TX#31用のDL-CAL信号の最上限のサブキャリアsckの周波数“sck=fsc0+31Y+kX[MHz]”が入っている。
【0081】
次に、実施の形態2に係る具体的な課題について説明する。図8Aは、無線通信装置10内で出力される各信号の一例を示すグラフである。図8Aの横軸(X軸)は時間、縦軸(Y軸)は周波数を示し、フロントエンド部33が出力する信号が図8Aのグラフで示されている。図8Aにおいて、無線通信装置10はUEと個別のデータ通信を行っておらず、無線通信装置10は、SSB(Synchronization Signal Block)及びRS(Reference Signal)を、定期的に出力している。また、TRX51の送信機TXがオフからオンに遷移するイネーブル信号が出力される初期時刻において、無線通信装置10はDL-CAL信号を出力している。
【0082】
この例では、DL-CAL信号の周波数帯域は100MHz、信号の出力時間は8μsである。一方、SSBの周波数帯域は7.2MHz、出力時間は140μsであり、RSの周波数帯域は23.04MHz、出力時間は35.7μsである。DL-CAL信号の出力時間は、SSBと比較するとかなり少ないが、DL-CAL信号の周波数帯域は、SSBと比較するとかなり大きい。したがって、DL-CAL信号は広帯域信号、SSBは狭帯域信号ということができる。なお、DL-CAL信号の出力時間は、上述の通り、送信機TXの遷移時間である10μs未満の値である。
【0083】
図8Bは、図8Aに示したDL-CAL信号とSSBの詳細を示す3次元グラフである。図8BにおけるXY軸は、図8Aと同様、時間と周波数を示す。図8BにおけるZ軸は、各信号のパワーを示す。
【0084】
図8Bに示されるとおり、DL-CAL信号は、100MHzの周波数帯域内にある計10個のサブキャリアで構成されている。各サブキャリアの占める周波数帯域及びパワーは、略同一である。また、DL-CAL信号のピークレベルのパワーは、SSBのピークレベルのパワーよりも低い。
【0085】
図8Cは、図8Bに示したグラフから抜粋した周波数とパワーの関係を2次元のグラフとして示したものである。図8Cの横軸(X軸)は周波数、縦軸(Y軸)はパワーを示す。図8Cに示されるとおり、DL-CAL信号の各サブキャリアの周波数帯域は、SSBの周波数帯域よりも小さい。
【0086】
DL-CAL信号が以上に示した信号である場合に、無線通信装置10が無線信号を送信するにあたって、以下のような課題が生じることがある。
【0087】
図9A~9Dは、DPD補償がオフ又はオンの状態で無線通信装置10がDLキャリブレーションを実行する場合に、フロントエンド部33から出力されるDL-CAL信号の例を示すグラフである。この例では、SSBがフロントエンド部33から出力された後に、DL-CAL信号がどのように出力されるかが示される。
【0088】
図9Aは、DPD処理部42がDPD補償処理を実行しない状態で、AAS部30がSSBを生成して出力する場合を示すグラフである。図9Aは、DPD補償処理が実行されない場合(DPDがオフである場合)、AAS部30で設定される送信機ゲインの出力レベルが、周波数に関わらず一定である状態を示す。
【0089】
図9Bは、図9Aの後(つまり、AAS部30がSSBを生成して出力した後)、AAS部30がDL-CAL信号を生成して出力する場合を示すグラフである。DL-CAL信号は、図9Aに示された、周波数に関わらず一定となる送信機ゲインの周波数特性と、元々のDL-CAL信号自身の出力レベル(例えばOFDM出力レベル)に基づいて出力される。上述の通り、ゲインと出力レベルは、周波数帯域に関わらずフラット(一定)であるため、DPD処理部42が出力するDL-CAL信号の10個のサブキャリアは、パワーが略同一となる。そして、各送信機間での振幅レベル誤差分だけが、DL-CAL信号を用いて学習されることで、補正される。したがって、無線通信装置10におけるDLキャリブレーションが問題なく実行され、上述のDL―CALウェイトが正確に算出される。
【0090】
図9Cは、DPD処理部42がDPD補償処理を実行する状態で、AAS部30がSSBを生成して出力する場合を示すグラフである。図9Cにおける状況では、図9Aと異なり、AAS部30で実施されるDPD補正は、一部の周波数帯域にしかスペクトラムが存在しない信号領域が対象となっている。換言すれば、非線形歪補償が実施される周波数帯域の範囲が絞られる。すると、送信機ゲインの周波数特性は、一時的に、SSB周波数周辺を帯域内としたBPF(Band Pass Filter)で帯域制限がかかった様なゲイン周波数特性に設定されてしまう。なお、次のDLスロットで、SSBと異なる信号である広帯域信号がAAS部30を通過する場合には、送信機ゲインの周波数特性は、DPD更新処理において、同BPF帯域が変わった様に変化する。以上の理由で、図9Cに示したように、100MHzの帯域内における周波数特性が一定では無く、フィルタリンフされた様相となる場合がある。従い、図9Cの例において、送信機ゲインは、DL-CAL信号が出力される100MHzの周波数帯域において、ある周波数Fthを境にして降下する様に、不当に重み付けされてしまう様な周波数特性を有する。それにより、AAS部30が出力するDL-CAL信号の出力レベルも、不当に重み付けされてしまう。
【0091】
図9Dは、図9Cに示した状態において、AAS部30がSSBを生成して出力した後、AAS部30がDL-CAL信号を生成して出力する場合を示すグラフである。本来、DPD処理部42は、入力された信号に応じて、自身の補償係数を変更する。しかしながら、上述の通り、DL-CAL信号の出力時間は8μsと非常に短い。そのため、DPD処理部42は、DL-CAL信号に応じて自身の補償係数を変更することが間に合わない状態となってしまい、図9Cで設定された設定ゲインに基づいて、DL-CAL信号を出力してしまう。結果としてDL-CAL信号の10個のサブキャリアのゲインは、図9Dに示した通り、周波数Fthを境にして降下する。したがって、無線通信装置10におけるDLキャリブレーションが、本来のDL-CAL信号とは異なる信号でなされてしまうため、DL―CALウェイトが正確に算出されなくなってしまう。
【0092】
DL-CAL信号でなく、データ通信に係る広帯域信号においても、同様の現象が生じ得る。この現象は、DPD処理部42が次に自身の補償係数を変更するタイミングまで続く。また、送信アンプ52のEVMやACLRも劣化してしまう。
【0093】
実施の形態2では、無線通信装置10が無線信号としてSSBを送信後、DLキャリブレーションを実行することが想定される場合であっても、以下の処理によって、DLキャリブレーションを正確に実行することができる。
【0094】
図10Aは、DPDトレーニング信号とSSBの詳細な例を示す3次元グラフである。図10AにおけるX軸、Y軸及びZ軸は、それぞれ、時間、周波数及び信号のパワーを示す。
【0095】
DPDトレーニング信号は、TRX-BB部32がOFDM変調を用いて生成し、DPD処理部42を通過して、送信アンプ52に出力される広帯域かつ高密度な信号である。DPDトレーニング信号は、100MHzの周波数帯域を有し、その周波数帯域内において、多数のサブキャリアが周波数軸上で直交多重された状態となっている。ここで、各サブキャリアの占める周波数帯域及びパワーは、略同一である。なお、DPDトレーニング信号の出力時間は、後述の通り、送信機TXがOFFからON又はONからOFFの状態に遷移する時間以下であれば良い。この例では、出力時間は、8μsである。また、DPDトレーニング信号のパワーは、最大定格以下であれば良い。
【0096】
図10Bは、図10Aに示したグラフから抜粋した周波数とパワーの関係を2次元のグラフとして示したものである。図10Bの横軸(X軸)は周波数、縦軸(Y軸)はパワーを示す。図10Bに示されるとおり、また、DPDトレーニング信号のピークレベルのパワーは、SSB(通信信号)のピークレベルのパワーよりも高い。ただし、DPDトレーニング信号のピークレベルのパワーは、最大定格送信時のピークレベルのパワーよりも低い。
【0097】
図11は、DPDトレーニング信号が出力されるタイミング例を示すグラフである。図11における横軸は時間を示す。図11の上段は、フロントエンド部33においてDL方向に出力される出力信号を示し、中段は、DPD処理部42におけるDPD信号キャプチャウィンドウを示し、下段は、TRX51における送信機TXのTXイネーブル信号を示す。
【0098】
なお、DPD信号キャプチャウィンドウは、DPD処理部42がDPD補償係数の更新に使用するIQデータを取り込む区間を示す。DPD処理部42は、DPD処理に応じてこの区間の一部のデータを用いてDPD補償係数の更新を実施する。
【0099】
DPD処理部42は、DPD信号キャプチャウィンドウ内において、最大ピークを検出した時刻から、DPD補償係数の更新に用いるデータを内部に格納するように設定される。また、TRX-BB部32は、DPDトレーニング信号が信号区間の最初に信号の最大ピークを有するように、DPDトレーニング信号を出力する。そのため、DPD処理部42は、DPDトレーニング信号を信号全体にわたって格納することができる。
【0100】
以下、時系列に沿って図11を説明する。AAS部30の制御部は、DLデータスロットのタイミングを把握し、DLデータスロットが開始される少し前のタイミングt1において、TXイネーブル信号をオンにする。これにより、TRX51における送信機TXが稼働する。この区間は、上述の遷移区間に相当する。
【0101】
タイミングt1から、DLデータスロットが開始されるまでのタイミングt2において、BF-BB部20がDL-CAL信号を生成し、出力する。これにより、無線通信装置10は、上述のとおり、DLキャリブレーションを実施する。なお、この例において、DLキャリブレーションは、数分に1回程度、定期的に、TXイネーブル信号がオンになってからDLデータスロットが開始されるまでの区間で実行される。
【0102】
なお、この区間に、DPD処理部42におけるDPD信号キャプチャウィンドウは位置しておらず、DPD信号キャプチャウィンドウはタイミングt1からtsh(=t2-t1)だけずれた時間から開始される。したがって、DPD処理部42では、DL-CAL信号に基づくDPD補償係数の設定がなされない。
【0103】
タイミングt2~t3は、DLデータスロットの開始から終了までの区間である。DPD処理部42におけるDPD信号キャプチャウィンドウはこの区間を含むように設定されており、DPD処理部42はDLデータスロットにおける通信信号のDPD補償処理を実行する。
【0104】
タイミングt3でDLデータスロットが終了した後、AAS部30の制御部は、タイミングt4において、TXイネーブル信号をオフにする。これにより、TRX51における送信機TXの稼働が停止する。
【0105】
タイミングt3~t4の区間では、DLキャリブレーションは実施されないため、DL-CAL信号は出力されない。しかしながら、TRX-BB部32は、DPDトレーニング信号を周期的に生成し、出力する。ここで、t2~t3の区間の送信信号がSSBだけの場合、DPDトレーニング信号のピークが高いので、DPD処理部42では、DPDトレーニング信号に基づくDPD補償係数の設定がなされる。一方、t2~t3の区間で最大定格レベルの信号が送信された場合は、DPDトレーニング信号よりも、そちらの信号のピークが高いので、最大定格の信号に基づくDPD補償係数の設定がなされる。
【0106】
タイミングt4~t5は、送信機TXの稼働が停止している区間であり、この区間において、無線通信装置10のUL通信がなされる。
【0107】
次に、TXイネーブル信号がオンとなるタイミングt5から、DLデータスロットが開始されるまでのタイミングt6において、TRX-BB部32は、DPDトレーニング信号を生成し、出力する。ここで、この区間に、DPD処理部42におけるDPD信号キャプチャウィンドウが位置しており、DPD処理部42では、DPDトレーニング信号に基づくDPD補償係数の設定がなされる。なお、タイミングt4~t5の区間では、DLキャリブレーションは実施されない。
【0108】
タイミングt6~t7は、DLデータスロットの開始から終了までの区間であり、この区間において、DPD処理部42はDLデータスロットにおける通信信号のDPD補償処理を実行する。
【0109】
タイミングt7~t8は、DLデータスロットが終了後、TXイネーブル信号がオフになるまでの区間である。この区間に、TRX-BB部32は、DPDトレーニング信号を生成し、出力する。ここで、この区間に、DPD処理部42におけるDPD信号キャプチャウィンドウが位置しており、DPD処理部42では、DPDトレーニング信号に基づくDPD補償係数の設定がなされる。
【0110】
図12は、1つのDLデータスロットの前後に着目して、DPDトレーニング信号の出力とDL通信に関する信号処理を示すフローチャートである。また、この例では、DL-CAL信号が出力されない場合を示す。以下、実施される信号処理について説明する。
【0111】
まず、TRX-BB部32は、無線通信装置10がDL通信を実施する前に、DPDトレーニング信号を生成し、出力する(ステップS21)。その後、無線通信装置10は、DL通信を実施する(ステップS22)。この後、TRX-BB部32は、再度DPDトレーニング信号を生成し、出力する(ステップS23)。無線通信装置10は、出力する各DLデータスロットについて、以上の処理を繰り返す。歪補償部101は、ステップS11又はS13の少なくともいずれかにおいて、DPDトレーニング信号に対してDPD補償係数の更新を行う。そのため、DPD処理部42では、DPDトレーニング信号に基づくDPD補償係数の設定がなされる。
【0112】
以上に示したタイミングt1~t2、t3~t4、t5~t6、t7~t8の区間は、送信機TXのON-OFF間の遷移区間であり、図4の例に示した通り、10μsである。そして、この例では、DPDトレーニング信号の出力時間が、それよりも短い8μsと設定されるため、TRX-BB部32は、送信アンプ52で増幅された信号をフィードバックし、DPD処理部42にキャプチャさせることが可能となる。
【0113】
また、DPDトレーニング信号は、広帯域かつ高密度な信号である。つまり、DPD処理部42においてDPDトレーニング信号により決定されるDPD補償係数は、DPDトレーニング信号の周波数帯域におけるどの帯域においても、補償がなされるように設定される。つまり、DPD処理部42は、汎用的なDPD補償係数を設定することができる。そのため、DPDトレーニング信号直前のDLデータスロットで狭帯域信号が出力後、次のDLデータスロットで広帯域信号が出力されるような場合でも、次のDLデータスロットにおける広帯域信号のゲインが劣化することを抑制することができる。また、DPDトレーニング信号直前のDLデータスロットで周波数成分が少ない(疎な)通信信号が出力後、次のDLデータスロットで周波数成分が多い(密な)通信信号が出力されるような場合でも、次のDLデータスロットにおける通信信号のゲインが劣化することを抑制することができる。
【0114】
なお、DPDトレーニング信号は、各DLデータスロットの前後両方ではなく、各DLデータスロットの前後いずれかにおいて出力されても良い。また、上述の通り、DPDトレーニング信号は、DL-CAL信号とタイミングが重ならないように出力されることが好ましい。これにより、DPDトレーニング信号の影響がキャリブレーション動作に及び、DL―CALウェイトが不正確に算出されることを抑制することができる。また、DPD処理部42が、広帯域信号に適さないDPD補償係数をDL-CAL信号の影響によって設定することを抑制することもできる。さらに、送信アンプ52のEVMやACLRも改善することもできる。
【0115】
また、DPDトレーニング信号の周波数帯域は、DL-CAL信号の周波数帯域をカバーしており、DPDトレーニング信号は、DL-CAL信号よりも前のタイミングで出力される。そのため、TRX-BB部32がDL-CAL信号を出力する場合であっても、DPDトレーニング信号によって事前に汎用的なDPD補償係数が設定されるため、無線通信装置10は、DL-CALウェイトを精度良く算出することができる。そのため、無線通信装置10は、振幅及び位相のばらつきを精度良く補償することができる。
【0116】
また、無線通信装置10は、DPD処理部42と、送信アンプ52の間にTRX51を備え、TRX-BB部32は、DPDトレーニング信号を次のタイミングにおいて出力する。すなわち、DLデータスロットの前であって、TRX51の送信機TXがオフからオンに遷移する区間、及び、DLデータスロットの後であって、送信機TXがオフからオンに遷移する区間の少なくともいずれかのタイミングである。これにより、無線通信装置10は、DL方向に信号が出力可能なタイミングにおいて、直前のDLデータスロットにおける通信信号が狭帯域信号であった場合でも、DPD補償係数に対するその影響を除去し、次のDLデータスロットにおける通信信号に対応可能なDPD補償係数を設定することができる。
【0117】
また、DPDトレーニング信号は、信号区間の最初に信号のピークを有する。DPD処理部42がこのピークを検出することにより、DPD処理部42がDPDトレーニング信号を信号全体にわたって格納することができる。したがって、DPD処理部42が、適切なDPD補償係数を確実に設定することができる。
【0118】
また、無線通信を実行する無線通信装置10において、MU-MIMO性能を決定するキャリブレーション動作と、広帯域信号に適したDPD補償処理を両立可能としたことで、無線通信の品質をより向上させることができる。
【0119】
実施の形態3
以下、図面を参照して本開示の実施の形態3について説明する。実施の形態3では、実施の形態2で示した信号処理のバリエーションについて説明する。
【0120】
上述の無線通信装置10のアンテナ34#0~#31は、例えば、ファンビームフォーミングによる無線信号の送信と、データビームフォーミングによる無線信号の送信をすることができる。ここで、ファンビームフォーミングによる無線信号の送信とは、無線通信装置10の正面及び正面から水平方向において所定の角度分の範囲に対して、略一定の強度の無線信号を送信することを意味し、例えばブロードキャストなデータ送信に用いられる。これに対し、データビームフォーミングによる無線信号の送信とは、無線通信装置10の正面や水平方向のある角度方向のポイントに対して強度が強い無線信号を送信する一方、別の水平方向のポイントであるヌルポイントに対して、強度が低い無線信号を送信することを意味する。この無線信号の送信方法は、特定のUEに対するデータ通信に用いられる。アンテナ34は、1又は複数の列(例えば4列)に、並べられて配置される。
【0121】
さらに、無線通信装置10は、DPDトレーニング信号によってDPD補償係数を設定する場合であっても、アンテナ34#0~#31から、DPDトレーニング信号に基づく無線信号を送信する。しかしながら、DPDトレーニング信号に基づく無線信号は、通信信号ではないため、本来、UEに送信する信号ではない。したがって、DPDトレーニング信号に基づいて送信される無線信号のパワーをできるだけ抑制することが好ましい。特に、無線通信装置10の正面方向(UEに対してデータ通信をすることが特に想定される方向)において、DPDトレーニング信号に基づいて送信される無線信号のパワーを減らすことが好ましい。これにより、無線通信装置10が構成するセル内にあるUEが不要な信号を受信することを抑制することができる。
【0122】
具体的には、DPDトレーニング信号を、隣接する各アンテナ34(すなわち、隣接する各信号チャネル)における無線信号の位相が異なるように、TRX-BB部32が各信号チャネルにおけるDPDトレーニング信号を生成する。
【0123】
図13は、無線通信装置10における送信電力のゲインのパターン例を示すグラフである。図13のグラフの横軸は、無線通信装置10の正面からの水平方向の角度を示し、図13のグラフの縦軸は、基準となる電力を0dBとしたときの、無線通信装置10から出力される無線信号の電力(dB)を示す。また、図13の(0)は、アンテナ34#0~#31が全て同位相でDPDトレーニング信号をビームフォーミング信号として出力した場合のパターンである。これに対し、(1)は、隣接した信号チャネルにおけるDPDトレーニング信号の位相が反転する(つまり、位相が180°変わる)ように、アンテナ34がDPDトレーニング信号をビームフォーミング信号として出力した場合のパターンである。
【0124】
図13に示される通り、(1)のパターンは、(0)のパターンと比較して、正面方向(0°付近)における送信電力のパワーが30dB程度下がる。さらに、正面から左右方向45°の範囲内における(1)のピーク電力は、(0)の正面方向のピーク電力と比較して、10dB以上低くなる。したがって、無線通信装置10が構成するセル内にあるUEが、DPDトレーニング信号に基づく不要な信号を受信することを抑制することができる。
【0125】
なお、この効果を達成するための処理として、TRX-BB部32が、信号チャネル毎に、相関性のないDPDトレーニング信号のデータを出力することも考えられる。しかしながら、上述の通り、隣接した各アンテナ34においてDPDトレーニング信号の位相が異なるように設定する方が、DPDトレーニング信号の生成に必要な無線通信装置10の記憶容量を減らすことができる。
【0126】
なお、無線通信装置10において、アンテナ34の数は例示したもの(32個)に限られない。無線通信装置10において、DPDトレーニング信号が、隣接した各アンテナにおいて位相が異なるように出力されていれば、上述の効果を達成することができる。
【0127】
なお、本開示は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、実施の形態2、3におけるチャネル信号数は、32に限られなくても良い。また、実施の形態2において、通信信号は、SSBに限られず、他の信号であっても良い。
【0128】
また、受信アンプ55の前段にDPD処理部が設けられる回路構成があれば、DLキャリブレーションに代えてULキャリブレーションに関して、実施の形態2と同様の処理を実行することで、DPD補償処理とULキャリブレーションの両立を図ることができる。
【0129】
本開示の技術が適用可能な無線通信の方式は、実施の形態2、3に記載したものに限られない。
【0130】
以上に示した実施の形態では、この開示をハードウェアの構成として説明したが、この開示は、これに限定されるものではない。この開示は、上述の実施形態において説明された装置の処理(ステップ)を、コンピュータ内のプロセッサにコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。
【0131】
図14は、以上に示した各実施の形態の処理が実行される情報処理装置(信号処理装置)のハードウェア構成例を示すブロック図である。図14を参照すると、この情報処理装置90は、信号処理回路91、プロセッサ92及びメモリ93を含む。
【0132】
信号処理回路91は、プロセッサ92の制御に応じて、信号を処理するための回路である。なお、信号処理回路91は、送信装置から信号を受信する通信回路を含んでいても良い。
【0133】
プロセッサ92は、メモリ93からソフトウェア(コンピュータプログラム)を読み出して実行することで、上述の実施形態において説明された装置の処理を行う。プロセッサ92の一例として、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Demand-Side Platform)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のうち一つを用いてもよいし、複数を並列で用いてもよい。
【0134】
メモリ93は、揮発性メモリ及び不揮発性メモリの組み合わせによって構成される。メモリ93は、プロセッサ92から離れて配置されたストレージを含んでもよい。この場合、プロセッサ92は、図示されていないI/O(Input / Output)インタフェースを介してメモリ93にアクセスしてもよい。
【0135】
図14の例では、メモリ93は、ソフトウェアモジュール群を格納するために使用される。プロセッサ92は、これらのソフトウェアモジュール群をメモリ93から読み出して実行することで、上述の実施形態において説明された処理を行うことができる。
【0136】
以上に説明したように、上述の実施形態における各装置が有する1又は複数のプロセッサは、図面を用いて説明されたアルゴリズムをコンピュータに行わせるための命令群を含む1又は複数のプログラムを実行する。この処理により、各実施の形態に記載された信号処理方法が実現できる。
【0137】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0138】
以上、実施の形態を参照して本開示を説明したが、本開示は上記によって限定されるものではない。本開示の構成や詳細には、開示のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0139】
この出願は、2020年12月25日に出願された日本出願特願2020-217508を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0140】
10 無線通信装置
20 BF-BB部
30 AAS部
31 光トランシーバ
32 TRX-BB部
33 フロントエンド部
34 アンテナ
35 分配合成器
36 SW
37 CAL-TRX
40 BBユニット
41 CFR処理部
42 DPD処理部
50 FEユニット
51 TRX
52 送信アンプ
53 方向性結合器
54 SW
55 受信アンプ
100 信号処理装置
101 歪補償部
102 アンプ
103 信号出力部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14