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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】プリント配線板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/18 20060101AFI20241203BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H05K3/18 G
C25D7/00 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023081481
(22)【出願日】2023-05-17
(62)【分割の表示】P 2021529671の分割
【原出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2023103401
(43)【公開日】2023-07-26
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】池邉 茉紀
(72)【発明者】
【氏名】新田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】酒井 将一郎
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-169597(JP,A)
【文献】特開2013-060660(JP,A)
【文献】特開2014-125679(JP,A)
【文献】特開2007-182623(JP,A)
【文献】特開2011-171423(JP,A)
【文献】特開2017-188565(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110259(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/10 - 3/26
H05K 3/38
H05K 3/46
H05K 1/09
C25D 7/00
C25D 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有するベースフィルムと、
上記ベースフィルムの少なくとも一方の面側に積層された導電パターンと
を備え、
上記導電パターンが複数の配線部を含み、
上記複数の配線部の平均幅が5μm以上20μm以下であり、
上記複数の配線部が、銅を主成分とするシード層と、上記シード層に積層され、銅を主成分とするめっき層とを有し、
上記めっき層に含まれる銅結晶粒の平均粒径が、0.2μm以上5μm以下であり、かつ上記銅結晶粒の標準偏差が2.60μm以上9.60μm以下であり、
上記めっき層に含まれる銅結晶粒の結晶面には(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面が含まれ、
下記式(1)で求められる上記(220)面のX線回折強度の強度比IR220が0.05以上0.14以下であり、
上記シード層の厚さが0.01μm以上2μm以下であるプリント配線板。
IR220=I220/(I111+I200+I220+I311)・・・(1)
(式(1)中、I111は(111)面のX線回折強度であり、I200は(200)面のX線回折強度であり、I220は(220)面のX線回折強度であり、I311は(311)面のX線回折強度である。)
【請求項2】
上記(220)面の強度比IR 220 が0.11以下である請求項1に記載のプリント配線板。
【請求項3】
上記めっき層に含まれる銅結晶粒の平均粒径が、1.0μm以上である請求項1又は請求項2に記載のプリント配線板。
【請求項4】
上記(220)面の強度比IR 220 が0.08以下である請求項1又は請求項3に記載のプリント配線板。
【請求項5】
上記複数の配線部の平均幅が10μmの場合に上記(220)面の強度比IR220が0.08以下である請求項に記載のプリント配線板。
【請求項6】
絶縁性を有するベースフィルムと、
上記ベースフィルムの少なくとも一方の面側に積層された導電パターンと
を備え、
上記導電パターンが複数の配線部を含み、
上記複数の配線部の平均幅が5μm以上20μm以下であり、
上記複数の配線部が、銅を主成分とするシード層と、上記シード層に積層され、銅を主成分とするめっき層とを有し、
上記めっき層に含まれる銅結晶粒の平均粒径が、0.2μm以上5μm以下であり、かつ上記銅結晶粒の標準偏差が2.60μm以上9.60μm以下であり、
上記銅結晶粒の結晶面には(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面が含まれ、
下記式(1)で求められる上記(220)面のX線回折強度の強度比IR220が0.05以上0.14以下であり、
上記シード層の厚さが0.01μm以上2μm以下であるプリント配線板の製造方法であって、
絶縁性を有するベースフィルムの少なくとも一方の面側に、セミアディティブ法によって複数の配線部を含む導電パターンを形成する工程を備え、
上記導電パターンを形成する工程が、
上記ベースフィルムの上記一方の面側に銅を主成分とするシード層を積層する工程と、
上記シード層の表面に上記複数の配線部の反転形状を有するレジストパターンを形成する工程と、
上記レジストパターンを形成する工程後の上記シード層の表面に銅を主成分とするめっき層を積層する工程と、
上記めっき層を積層する工程後に上記レジストパターンを除去する工程と、
上記めっき層を積層する工程終了後から24時間以上後に、上記レジストパターンを除去する工程により露出したシード層をエッチングにより除去する工程と
を有するプリント配線板の製造方法。
IR220=I220/(I111+I200+I220+I311)・・・(1)
(式(1)中、I111は(111)面のX線回折強度であり、I200は(200)面のX線回折強度であり、I220は(220)面のX線回折強度であり、I311は(311)面のX線回折強度である。)
【請求項7】
上記めっき層を積層する工程で使用するめっき液の銅含有量が2質量%以上であり、かつ上記めっき液が添加剤を含有する請求項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項8】
上記シード層をエッチングにより除去する工程を、上記めっき層を積層する工程終了後から30時間以上後に行う請求項6又は請求項7に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項9】
上記シード層をエッチングにより除去する工程を、上記めっき層を積層する工程終了後から40時間以上後に行う請求項6又は請求項7に記載のプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プリント配線板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化、小型化、軽量化などが求められている。これに伴い、微細化した導電パターンを有するプリント配線板が求められている。ここで微細化した導電パターンを有するフレキシブルプリント回路基板及びその製造方法が提案されている。この提案は、プラスチックフィルムの少なくとも片面に銅又は銅を主成分とする合金からなる銅薄膜を直接接着したフレキシブルプリント回路基板であって、成膜するべきプラスチックフィルム基板表面の状態を制御し、銅薄膜の成膜条件を最適化することにより、プラスチックフィルムと銅薄膜との界面構造及び引き続き成長させる銅薄膜の結晶構造を制御し、密着性が非常に強固でエッチングによる高精細回路パターン化が可能なフレキシブルプリント回路基板、及びその製造方法に関するものである(特開2004-31370号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-31370号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示のプリント配線板は、絶縁性を有するベースフィルムと、上記ベースフィルムの少なくとも一方の面側に積層された導電パターンとを備え、上記導電パターンが複数の配線部を含み、上記複数の配線部の平均幅が5μm以上20μm以下であり、上記複数の配線部が、銅を主成分とするシード層と、上記シード層に積層され、銅を主成分とするめっき層とを有し、上記めっき層に含まれる銅結晶粒の結晶面には(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面が含まれ、下記式(1)で求められる上記(220)面のX線回折強度の強度比IR220が0.05以上0.14以下である。
IR220=I220/(I111+I200+I220+I311)・・・(1)
(式(1)中、I111は(111)面のX線回折強度であり、I200は(200)面のX線回折強度であり、I220は(220)面のX線回折強度であり、I311は(311)面のX線回折強度である。)
【0005】
本開示のプリント配線板の製造方法は、絶縁性を有するベースフィルムの少なくとも一方の面側に、セミアディティブ法によって複数の配線部を含む導電パターンを形成する工程を備え、上記導電パターンを形成する工程が、上記ベースフィルムの上記一方の面側に銅を主成分とするシード層を積層する工程と、上記シード層の表面に上記複数の配線部の反転形状を有するレジストパターンを形成する工程と、上記レジストパターンを形成する工程後の上記シード層の表面に銅を主成分とするめっき層を積層する工程と、上記めっき層を積層する工程後に上記レジストパターンを除去する工程と、上記めっき層を積層する工程終了後から24時間以上後に、上記レジストパターンを除去する工程により露出したシード層をエッチングで除去する工程とを有するプリント配線板の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るプリント配線板を示す模式的断面図である。
図2図2は、図1のプリント配線の板製造方法におけるシード層を積層する工程を示す模式的断面図である。
図3図3は、図1のプリント配線の板製造方法におけるレジストパターンを形成する工程を示す模式的断面図である。
図4図4は、図1のプリント配線の板製造方法におけるめっき層を積層する工程を示す模式的断面図である。
図5図5は、図1のプリント配線の板製造方法におけるレジストパターンを除去する工程を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1で提案されているような微細化した導電パターンを有するプリント配線板を作製すると、従来のプリント配線板を作製するのに比べ、製造時の配線部表面の荒れによる製品不良が発生するおそれがある。
【0008】
本開示は、このような事情に基づいてなされたものであり、微細化した導電パターンを有するプリント配線板において製造時の配線部表面の荒れが小さいプリント配線板及びその製造方法の提供を目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、微細化した導電パターンを有するプリント配線板であっても、製造時の配線部表面の荒れを小さくすることができるプリント配線板を提供することができ、また、微細化した導電パターンを有するプリント配線板であって、配線部表面の荒れが小さいプリント配線板を製造することができるプリント配線板の製造方法を提供することができる。
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の実施態様を列記して説明する。
【0011】
本発明の一態様に係るプリント配線板は、絶縁性を有するベースフィルムと、上記ベースフィルムの少なくとも一方の面側に積層された導電パターンとを備え、上記導電パターンが複数の配線部を含み、上記複数の配線部の平均幅が5μm以上20μm以下であり、上記複数の配線部が、銅を主成分とするシード層と、上記シード層に積層され、銅を主成分とするめっき層とを有し、上記めっき層に含まれる銅結晶粒の結晶面には(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面が含まれ、下記式(1)で求められる上記(220)面のX線回折強度の強度比IR220が0.05以上0.14以下であるプリント配線板である。
IR220=I220/(I111+I200+I220+I311)・・・(1)
ここで、式(1)中、I111は(111)面のX線回折強度であり、I200は(200)面のX線回折強度であり、I220は(220)面のX線回折強度であり、I311は(311)面のX線回折強度である。
【0012】
本発明者らが鋭意検討したところ、複数の配線部の平均幅が20μm以下の微細化した導電パターンを有するプリント配線板では、エッチング後の配線部表面が荒れていると外観不良や高周波特性の悪化といった製品不良の原因となり、これは配線部のめっき層に含まれる銅結晶粒に含まれる結晶面の削れやすい配向性の面の箇所からエッチングされ、又は銅結晶粒の粒径が小さい箇所からエッチングされることが配線部表面の荒れにつながることが分かった。また、めっき層を積層する工程に必要なめっき液に含まれる添加剤が銅結晶粒の粒径を小さくする原因の一つであることが分かった。当該プリント配線板は、めっき層に含まれる銅結晶粒の削れやすい配向性をもつ面の構成比率が減少していたり、銅結晶粒の平均粒径が大きくなっていることにより、製造時の配線部表面の荒れが小さくなる。
【0013】
上記銅結晶粒の平均粒径は0.2μm以上8μm以下であるとよい。このように、上記銅結晶粒の平均粒径が上記範囲内であることによって、上記銅結晶粒の粒径のばらつきが抑えられ、製造時の配線部表面の荒れを小さくすることができる。
【0014】
下記式(2)で求められる上記(111)面のX線回折強度の強度比IR111が0.74以上であるとよい。
IR111=I111/(I111+I200+I220+I311)・・・(2)
ここで、式(2)中のI111、I200、I220、I311は、前述の式(1)について定義したとおりである。
上記(111)面の強度比IR111が0.74以上であることによって、削れやすい配向性をもつ面が減少し、製造時の配線部表面の荒れを小さくすることができる。
【0015】
上記複数の配線部の平均幅が20μmの場合に上記銅結晶粒の(220)面の強度比IR220が0.14以下であり、かつ上記複数の配線部の平均幅が15μmの場合に上記(220)面の強度比IR220が0.11以下であるとよい。上記複数の配線部の平均幅の条件下で(220)面の強度比IR220がそれぞれ上記数値以下であると削れやすい配向性をもつ面が減少し、製造時の配線部表面の荒れを小さくすることができる。
【0016】
上記複数の配線部の平均幅が10μmの場合に上記銅結晶粒の(220)面の強度比IR220が0.08以下であるとよい。このように、上記配線部の平均幅が10μmであっても銅結晶粒の(220)面の強度比IR220が0.08以下であると削れやすい配向性をもつ面が減少し、製造時の配線部表面の荒れを小さくすることができる。
【0017】
また、本発明の他の態様に係るプリント配線板の製造方法は、絶縁性を有するベースフィルムの少なくとも一方の面側に、セミアディティブ法によって複数の配線部を含む導電パターンを形成する工程を備え、上記導電パターンを形成する工程が、上記ベースフィルムの上記一方の面側に銅を主成分とするシード層を積層する工程と、上記シード層の表面に上記複数の配線部の反転形状を有するレジストパターンを形成する工程と、上記レジストパターンを形成する工程後の上記シード層の表面に銅を主成分とするめっき層を積層する工程と、上記めっき層を積層する工程後に、上記レジストパターンを除去する工程と、上記めっき層を積層する工程終了後から24時間以上後に、上記レジストパターンを除去する工程により露出したシード層をエッチングにより除去する工程とを有するプリント配線板の製造方法である。
【0018】
本発明者らが鋭意検討したところ、複数の配線部の平均幅が20μm以下の微細化した導電パターンを有するプリント配線板では、エッチング後の配線部表面が荒れていると外観不良や高周波特性の悪化といった製品の不良原因となり、これは配線部のめっき層に含まれる銅結晶粒に含まれる結晶面の削れやすい配向性の面の箇所からエッチングされ、又は銅結晶粒の粒径が小さい箇所からエッチングされることが配線部表面の荒れにつながることが分かった。また、めっき層を積層する工程に必要なめっき液に含まれる添加剤が銅結晶粒の粒径を小さくする原因の一つであることが分かった。当該プリント配線板は、レジストパターンを除去する工程後にめっき層を積層する工程終了後から24時間以上後にエッチング工程を行うことでめっき層に含まれる銅結晶粒の削れやすい配向性をもつ面の構成比率が減少していたり、銅結晶粒の平均粒径が大きくなっていることにより、製造時の配線部表面の荒れを小さくすることができる。
【0019】
上記めっき層を積層する工程で使用するめっき液の銅含有量が2質量%以上であり、かつ上記めっき液が添加剤を含有するのが好ましい。上記めっき液の銅含有量が2質量%以上であることでめっきに必要な銅イオンを供給できる。また、上記めっき液が添加剤を含有することによりめっき表面の光沢化と平滑化をもたらす。
【0020】
なお、本開示において、複数の配線部の「平均幅」とは、各配線部の長手方向と垂直な断面における最大幅を平均した値をいう。「主成分」とは、質量換算で含有量が最も大きい成分をいい、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。「平均粒径」とは、銅結晶粒の二次粒径の平均値をいい、レーザ回折法で測定した累積分布から算出されるメディアン径(D50)として定義される。
【0021】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係るプリント配線板及びプリント配線板の製造方法について図面を参照しつつ詳説する。
【0022】
[プリント配線板]
図1のプリント配線板は、絶縁性を有するベースフィルム1と、ベースフィルム1の一方の面側に積層された導電パターン2とを備え、導電パターン2が複数の配線部11を含む。複数の配線部11は、銅を主成分とするシード層11aと、シード層11aに積層される銅を主成分とするめっき層11bとを有する。複数の配線部11の平均幅Wは5μm以上20μm以下である。
【0023】
銅を主成分とするめっき層11bに含まれる銅結晶粒の結晶面には(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面が含まれ、下記式(1)で求められる上記(220)面のX線回折強度の強度比IR220は0.05以上0.14以下である。
IR220=I220/(I111+I200+I220+I311)・・・(1)
【0024】
<ベースフィルム>
ベースフィルム1は、合成樹脂を主成分とし、電気絶縁性を有する。ベースフィルム1は、導電パターン2を形成するための基材層である。ベースフィルム1は可撓性を有していてもよい。ベースフィルム1が可撓性を有する場合、当該プリント配線板はフレキシブルプリント配線板として用いられる。
【0025】
上記合成樹脂としては、例えばポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0026】
当該プリント配線板がフレキシブルプリント配線板である場合、ベースフィルム1の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、ベースフィルム1の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。ベースフィルム1の平均厚さが上記下限未満であると、ベースフィルム1の絶縁強度が不十分となるおそれがある。逆に、ベースフィルム1の平均厚さが上記上限を超えると、当該プリント配線板が不必要に厚くなるおそれや、可撓性が不十分となるおそれがある。ここで、ベースフィルムの平均厚さとは、ベースフィルムを厚み測定器で10点測定し平均化したものである。
【0027】
<導電パターン>
導電パターン2は、導電性を有する材料からなる層であり、複数の配線部11を含む。複数の配線部11は、例えばコイルパターンを形成する配線である。また、導電パターン2は、複数の配線部11以外の例えばランド部等のパターンを含んでもよい。
【0028】
導電パターン2は、ベースフィルム1の一方の面に積層されるシード層11aと、シード層11aの一方の面(ベースフィルム1との積層面と反対側の面)に積層されるめっき層11bとを有する。シード層11a及びめっき層11bは、他の層を介さずこの順で直接積層されている。導電パターン2は、シード層11a及びめっき層11bの2層構造体である。
【0029】
〈シード層〉
シード層11aは、ベースフィルム1の一方の面側に電気めっきを施すためのめっき形成用の金属層である。シード層11aをベースフィルム1の一方の面に積層する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば蒸着法、スパッタリング法等の公知の方法を採用することができる。また、シード層11aは、ベースフィルム1の一方の面に金属粒子を含むインクを塗布し、金属粒子を焼結させた金属粒子の焼結層であってもよい。シード層11aの主成分は、ベースフィルム1との密着性が高く、かつめっき開始表面として適する銅である。銅以外の金属としては、例えばニッケル、金、銀、タングステン、モリブデン、スズ、コバルト、クロム、鉄、亜鉛等が挙げられる。シード層11aの平均厚さとしては、面内方向において切れ目が生じるのを防止しつつ、エッチングによる除去効率を高める観点から、例えば0.01μm以上2μm以下程度とすることができる。
【0030】
〈めっき層〉
めっき層11bは電気めっきによって形成される。めっき層11bの主成分は、銅である。銅は導電性が高く、比較的安価であると共に、シード層11aの主成分が銅であるのでシード層11aとの高い密着性が得られる。めっき層11bは、比較的安価でかつ厚さを調節しやすい等の観点から、添加剤を含む硫酸銅めっき浴を用いた電気めっきによって形成されることが好ましい。
【0031】
めっき層11bに含まれる銅結晶粒の結晶面には(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面が含まれる。下記式(1)で求められる上記(220)面のX線回折強度の強度比IR220は0.05以上0.14以下である。
IR220=I220/(I111+I200+I220+I311)・・・(1)
上記(220)面の強度比IR220の下限は0.05であるが、0.08が好ましい。一方、上記(220)面の強度比IR220の上限は0.14であるが、0.11が好ましい。上記(220)面の強度比IR220が上記下限に満たないと、配線部に欠けが生じるおそれがある。逆に、上記(220)面の強度比IR220が上記上限を超えると製造時の配線部表面が荒れるおそれがある。
【0032】
めっき層11bの平均厚さは、どのような導電パターンを作製するかによって設定されるもので特に限定されるものではなく、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0033】
〈配線部〉
複数の配線部11は、線状かつ略同一形状に形成されている。複数の配線部11の平均幅Wの下限としては、上述のように5μmであるが、6μmが好ましい。一方、複数の配線部11の平均幅Wの上限としては、上述のように20μmであるが、18μmが好ましい。上記平均幅Wが上記下限に満たないと、複数の配線部11の製造が容易でなくなるおそれがある。逆に、上記平均幅Wが上記上限を超えると所望の配線密度を得難くなるおそれがある。
【0034】
上記銅結晶粒の平均粒径の下限としては、0.2μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1.5μmがさらに好ましい。一方、上記銅結晶粒の平均粒径の上限としては、上述のように8μmが好ましく、6μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。このように、上記銅結晶粒の平均粒径が上記下限に満たないと、平均粒径がばらつき配線部表面が荒れるおそれがある。逆に、上記銅結晶粒の平均粒径が上記上限を超えると配線部に欠けが生じるおそれがある。
【0035】
下記式(2)で求められる上記銅結晶粒の(111)面のX線回折強度の強度比IR111は0.74以上が好ましく、0.75以上がより好ましく、0.79以上がさらに好ましい。
IR111=I111/(I111+I200+I220+I311)・・・(2)
このように、上記(111)面の強度比IR111が上記数値範囲であることによって、上記銅結晶粒の粒径のばらつきが抑えられ、複数の配線部11表面の荒れを小さくすることができる。
【0036】
複数の配線部11の平均幅Wが20μmの場合に上記銅結晶粒の(220)面の強度比IR220が0.14以下であり、かつ配線部11の平均幅Wが15μmの場合に上記(220)面の強度比IR220が0.11以下であるとよい。上記複数の配線部11の平均幅Wが特定の値である条件下で(220)面の強度比IR220が上記数値以下であると複数の配線部11表面の荒れを小さくすることができる。
【0037】
複数の配線部11の平均幅Wが10μmの場合に上記銅結晶粒の(220)面の強度比IR220が0.08以下であるとよい。このように、複数の配線部11の平均幅Wが10μmであっても銅結晶粒の(220)面の強度比I220が0.08以下であると複数の配線部11表面の荒れを小さくすることができる。
【0038】
[プリント配線板の製造方法]
次に、図2図5を参照して、図1のプリント配線板の製造方法の一例について説明する。
【0039】
当該プリント配線板の製造方法は、絶縁性を有するベースフィルム1の一方の面側に、セミアディティブ法によって複数の配線部11を含む導電パターン2を形成する工程を備える(導電パターンを形成する工程)。上記導電パターンを形成する工程は、ベースフィルム1の一方の面側に銅を主成分とするシード層11aを積層する工程(シード層を積層する工程)と、上記シード層を積層する工程で積層されるシード層11aの表面に複数の配線部11の反転形状を有するレジストパターンRを形成する工程(レジストパターンをを形成する工程)と、上記レジストパターンを形成する工程後のシード層11aの表面に銅を主成分とするめっき層11bを積層する工程(めっき層を積層する工程)と、上記めっき層を積層する工程後に、上記レジストパターンRを除去する工程(レジストパターンを除去する工程)と、上記めっき層を積層する工程終了後から24時間以上後に、上記レジストパターンを除去する工程により露出したシード層11aをエッチングにより除去する工程(エッチング工程)とを有する。
【0040】
上記導電パターンを形成する工程では、まずベースフィルム1の一方の面の略全面にシード層11aを積層したうえ(図2)、シード層11aの表面に配線部11の反転形状を有するレジストパターンRを形成する(図3)。続いて、上記レジストパターンを形成する工程後のシード層11a表面におけるレジストパターンRの非積層領域にめっき層11bを積層した後(図4)、レジストパターンRを剥離して除去し(図5)、上記めっき層を積層する工程終了後から24時間以上後に、レジストパターンRの除去によって露出したシード層11aの露出部分をエッチングにより除去することで複数の配線部11を形成する(図1)。
【0041】
(シード層を積層する工程)
上記シード層を積層する工程では、図2に示すように、ベースフィルム1の一方の面の略全面に電気めっきを施すためのめっき形成用のシード層11a(金属層)を積層する。上記シード層を積層する工程でシード層11aを積層する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば蒸着法、スパッタリング法等が挙げられる。また、上記シード層を積層する工程では、ベースフィルム1の一方の面の略全面に金属粒子を含むインクを塗布し、この金属粒子を焼結させることで、ベースフィルム1の一方の面に金属粒子の焼結層を積層してもよい。シード層11aの主成分としては、ベースフィルム1との密着性が高く、かつめっき開始表面として適する銅が好適である。銅以外の金属では、例えばニッケル、金、銀、タングステン、モリブデン、スズ、コバルト、クロム、鉄、亜鉛等が挙げられる。
【0042】
(レジストパターンを形成する工程)
上記レジストパターンを形成する工程では、まず上記シード層を積層する工程で積層されたシード層11aの表面の略全面にフォトレジスト膜を形成する。このフォトレジスト膜は、感光することにより高分子の結合が強化されて現像液に対する溶解性が低下するネガ型レジスト組成物、又は感光することにより高分子の結合が弱化されて現像液に対する溶解性が増大するポジ型レジスト組成物によって形成される。
【0043】
上記レジストパターンを形成する工程では、まず上記フォトレジスト膜を、例えば液状レジスト組成物の塗工及び乾燥によって、又は室温で流動性を有しないドライフィルムレジストの熱圧着によってシード層11aの表面に形成する。
【0044】
次に、上記レジストパターンを形成する工程では、フォトマスク等を用いて上記フォトレジスト膜を選択的に露光することにより、上記フォトレジスト膜に現像液に溶解する部分と溶解しない部分とを形成する。続いて、現像液を用いて上記フォトレジスト膜の溶解性の高い部分を洗い流すことで、図3に示すように複数の配線部11の形成領域に対応する開口を有するレジストパターンRを形成する。
【0045】
(めっき層を積層する工程)
上記めっき層を積層する工程では、図4に示すように、シード層11aの表面にめっき層11bを積層する。上記めっき層を積層する工程では、シード層11aの表面のうち、レジストパターンRの非積層領域(レジストパターンRの開口に対応する領域)にめっき層11bを積層する。
【0046】
上記めっき層を積層する工程に用いる金属は、銅である。銅は導電性が高く、比較的安価であると共に、シード層11aの主成分が銅であるのでシード層11aとの高い密着性が得られる。銅以外の金属としては、ニッケル、銀などが挙げられる。上記めっき層を積層する工程で用いる金属は銅であるので、比較的安価でかつめっき層11bの厚さを調節しやすい等の観点から、添加剤を含む硫酸銅めっき浴を用いた電気めっきを行うことが好ましい。
【0047】
めっき層を積層する工程で使用されるめっき液は、銅含有量が2質量%以上である。上記めっき液の銅含有量が2質量%以上であることでめっきに必要な銅イオンを供給できる。本実施形態における添加剤は、サプレッサーと、ブライトナーと、レベラーとを含む。上記添加剤により、上記めっき液が凹凸の少ない均一な表面活性の高い銅皮膜を形成することができる。本実施形態におけるサプレッサーとは、例えば、ポリアルキレングリコール化合物といった化合物が用いられる。サプレッサーは、被膜形成作用を有する。本実施形態におけるブライトナーとは、例えば、3-メルカプトプロパンスルフォン酸やビス(3―スルフォプロピル)ジスルフィド2ナトリウム塩といった化合物が用いられる。ブライトナーとは、界面錯形成作用を有する。本実施形態におけるレベラーは、例えば、ベンゾチアゾールといった化合物が用いられる。レベラーはめっき表面の平滑化をもたらす作用を有する。
【0048】
(レジストパターンを除去する工程)
上記レジストパターンを除去する工程では、図5に示すように、レジストパターンRをシード層11aから剥離することでレジストパターンRを除去する。具体的には、上記めっき層を積層する工程後における、ベースフィルム1、シード層11a、めっき層11b及びレジストパターンRを有する積層体(図4)を剥離液に浸漬させることで、レジストパターンRを剥離液により膨張させる。これにより、レジストパターンRとシード層11aとの間に反発力が生じ、レジストパターンRがシード層11aから剥離する。この剥離液としては公知のものを用いることができる。
【0049】
(エッチング工程)
上記エッチング工程では、レジストパターンRの除去によって露出したシード層11aの露出部分をエッチングにより除去する。エッチングは上記めっき層を積層する工程から24時間以上経過した後に行う。このエッチングにはシード層11a及びめっき層11bを形成する金属を浸食するエッチング液が使用される。このシード層11aの除去によって、図1に示すようにベースフィルム1の一方の面側に複数の配線部11が形成される。
【0050】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0051】
例えば上記実施形態ではベースフィルムの一方の面側に導電パターンが積層される構成について説明したが、当該プリント配線板はベースフィルムの両面側に一対の導電パターンが積層されてもよい。また、当該プリント配線板の製造方法は、ベースフィルムの両面側に一対の導電パターンを形成してもよい。
【実施例
【0052】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
[No.1]
平均厚さ25μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製「アピカルNPI」)からなるベースフィルムを用意した。このベースフィルムの一方の面側に、セミアディティブ法によって複数(1000本)の配線部を含む導電パターンを形成した(導電パターンを形成する工程)。具体的には、まず水中に銅ナノ粒子が分散した銅ナノ粒子分散液をベースフィルムの一方の面に塗布し、焼成することで、ベースフィルムの一方の面に銅ナノ粒子の焼結体からなる平均厚さ0.3μmのシード層を積層した(シード層を積層する工程)。次に、上記シード層を積層する工程で積層されたシード層の表面の略全面にアクリル系ドライフィルムレジストの熱圧着によってフォトレジスト膜を積層した。そして、フォトマスクを用いて上記フォトレジスト膜を選択的に露光することにより、上記フォトレジスト膜に現像液に溶解する部分と溶解しない部分とを形成した。ついで、現像液を用いて上記フォトレジスト膜の溶解性の高い部分を洗い流すことで、複数の配線部の形成領域に対応する開口を有するレジストパターンを形成した(レジストパターンを形成する工程)。
【0054】
次に、レジストパターン形成後のシード層の表面に電気銅めっきを施すことで、平均厚さ10μmのめっき層を積層した(めっき層を積層する工程)。上記電気銅めっきは下記の条件で行った。
めっき浴に入れられためっき液の組成:硫酸銅五水和物100g/L、硫酸200g/L、塩素45mg/L、添加剤(BSC10―A2(石原ケミカル社製)2mL/L、BSC10―B(石原ケミカル社製)1.5mL/L、BSC10―C(石原ケミカル社製)6mL/L)
めっき浴温度:25℃
アノード:不溶性アノード
【0055】
次に、剥離液を用いてレジストパターンを除去し(レジストパターンを除去する工程)、めっき層に含有される銅結晶粒の(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面のそれぞれのX線回折強度I111、I200、I220、I311をX線回折装置(Мalven-Panalytical社製)で測定した。また、銅結晶粒の平均粒径を、走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製)で測定した。
(X線回折測定)
測定条件は以下の通りである。
装置:EMPYREAN(Мalven-Panalytical社製)
使用X線:Cu-Kα線 ラインフォーカス
励起条件:45kv 40mA
入射光学系:ミラー
スリット:1/2
マスク:10mm
試料台:X-Y-Z
受光光学系:平板コリメータ0.27
走査方法:θ-2θスキャン 2θスキャン
測定範囲:2θ=15°-100°
入射角:1°
ステップ幅:0.03°
積算時間:1sec
【0056】
次に、レジストパターンの除去によって露出するシード層の露出部分をエッチングにより除去し(エッチング工程)、No.1のプリント配線板を製造した。No.1のプリント配線板の複数の配線部の平均幅を表1に示す。
【0057】
No.1のプリント配線板の配線部上面を電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製)で撮影した。撮影して得た画像で配線部表面の不良検出数を確認した。結果を表1に示す。
【0058】
[No.2]
上記レジストパターンを除去する工程後、上記めっき層を積層する工程から24時間経過後にX線回折測定及び平均粒度測定を行い、その後エッチング工程を行ったこと以外は、No.1のプリント配線板と同様にしてNo.2のプリント配線板を製造した。No.2のプリント配線板の複数の配線部の平均幅を表1に示す。
【0059】
No.2のプリント配線板の配線部上面を電子顕微鏡で撮影した。撮影して得た画像で配線部表面の不良検出数を確認した。結果を表1に示す。
【0060】
[No.3-No.5]
上記めっき層を積層する工程後経過時間以外は、No.2のプリント配線板と同様にしてNo.3-No.5のプリント配線板を製造した。No.3-No.5のプリント配線板の上記経過時間と複数の配線部の平均幅を表1に示す。
【0061】
No.3-No.5のプリント配線板の配線部上面を電子顕微鏡で撮影した。撮影して得た画像で配線部表面の不良検出数を確認した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
<プリント配線板の品質>
(銅結晶粒)
「平均粒径」とは、銅結晶粒の二次粒径の平均値をいい、レーザ回折法で測定した累積分布から算出されるメディアン径(D50)として定義される。
【0064】
(強度比)
上記銅結晶粒に帰属する(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面のそれぞれのX線回折強度I111、I200、I220、I311から、各強度比IRを下記式(1)-(4)で求めた。
IR220=I220/(I111+I200+I220+I311)・・・(1)
IR111=I111/(I111+I200+I220+I311)・・・(2)
IR311=I311/(I111+I200+I220+I311)・・・(3)
IR200=I200/(I111+I200+I220+I311)・・・(4)
【0065】
(画像認識評価)
製造したプリント配線板の配線部の上面を電子顕微鏡で撮影して得た画像からプリント配線板の不良検出数を確認した(画像認識評価)。画像認識評価は、以下の基準に従って格付けした。結果を表1に示す。ここで、プリント配線板の不良検出数は、変色不良検出したが、実体顕微鏡で確認すると変色が見られないものの数をカウントしたものである。なお、不良は配線部表面の荒れである。
評価S:不良検出数が1個/m以下
評価A:不良検出数が1個/m超100個/m以下
評価B:不良検出数が100個/m超1000個/m以下
評価C:不良検出数が1000個/m
【0066】
<評価結果>
表1は、No.1のプリント配線板において、配線部の平均幅が狭くなるにつれ、不良検出数が増加していることを示している。これに対しNo.2-No.5のプリント配線板は、すべての配線部の平均幅でNo.1のプリント配線板と比べ、不良検出数が減少している。中でもNo.4、No.5のプリント配線板がすべての配線部の平均幅において、画像認識評価がS評価となっている。これは、めっき層を積層する工程後、エッチングを行うまでの時間が経過するに伴い(220)面の強度比IR220(構成比率)が減少していることと、銅結晶粒の平均粒径が大きくなっていくことが、不良検出数を減少させていること、すなわち配線部表面の荒れを小さくしていることを示している。
【符号の説明】
【0067】
1 ベースフィルム
2 導電パターン
11 配線部
11a シード層
11b めっき層
R レジストパターン
図1
図2
図3
図4
図5