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特許7597187イオン発生装置、質量分析装置及びイオン発生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】イオン発生装置、質量分析装置及びイオン発生方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/16 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
H01J49/16 100
H01J49/16 400
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2023185819
(22)【出願日】2023-10-30
(65)【公開番号】P2024091438
(43)【公開日】2024-07-04
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】202211666403.0
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スン ウェンジャン
(72)【発明者】
【氏名】ゲン ヂィー
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0134305(US,A1)
【文献】特開平11-014571(JP,A)
【文献】特開平03-165447(JP,A)
【文献】特開2015-179572(JP,A)
【文献】特開2014-123461(JP,A)
【文献】特開2013-020748(JP,A)
【文献】特開2006-073437(JP,A)
【文献】特開2005-265450(JP,A)
【文献】特開2002-323478(JP,A)
【文献】特開2001-108657(JP,A)
【文献】特開2009-170354(JP,A)
【文献】特開2000-275218(JP,A)
【文献】特開平10-334847(JP,A)
【文献】特開平10-149795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の領域に試料粒子を脱離させる脱離装置と、
光ビームを発射し、前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する光源と、
前記光源から発せられ、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返す反射集束装置とを含み、
前記反射集束装置は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡と前記光源とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第一凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記光ビームが前記第一凹面鏡の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生し、前記光ビームが前記第二凹面鏡の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生することを特徴とするイオン発生装置。
【請求項2】
前記光ビームは、前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡との間で前記所定の領域に複数回反射および集束されることを特徴とする請求項に記載のイオン発生装置。
【請求項3】
所定の領域に試料粒子を脱離させる脱離装置と、
光ビームを発射し、前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する光源と、
前記光源から発せられ、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返す反射集束装置とを含み、
前記反射集束装置は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡と前記光源とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第一凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記光ビームが前記反射集束装置の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生し、
前記光ビームは、前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡との間で前記所定の領域に複数回反射および集束され、
前記光ビームは、前記第二凹面鏡の縁に沿って前記第一凹面鏡の表面まで入射することを特徴とするイオン発生装置。
【請求項4】
前記第二凹面鏡は貫通孔を有し、前記光ビームは前記貫通孔を通過して前記第一凹面鏡の表面まで入射することを特徴とする請求項に記載のイオン発生装置。
【請求項5】
前記光源は凸レンズを含み、前記凸レンズの焦点は前記所定の領域内に位置することを特徴とする請求項に記載のイオン発生装置。
【請求項6】
所定の領域に試料粒子を脱離させる脱離装置と、
光ビームを発射し、前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する光源と、
前記光源から発せられ、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返す反射集束装置とを含み、
前記反射集束装置は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡と前記光源とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第一凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記光ビームが前記反射集束装置の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生し、
前記光源は凸レンズを含み、前記凸レンズの焦点は前記所定の領域内に位置することを特徴とするイオン発生装置。
【請求項7】
所定の領域に試料粒子を脱離させる脱離装置と、
光ビームを発射し、前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する光源と、
前記光源から発せられ、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返す反射集束装置とを含み、
前記反射集束装置は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡と前記光源とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第一凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記光ビームが前記反射集束装置の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生し、
前記光ビームは、前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡との間で前記所定の領域に複数回反射および集束され、
前記光源は凸レンズを含み、前記凸レンズの焦点は前記所定の領域内に位置することを特徴とするイオン発生装置。
【請求項8】
所定の領域に試料粒子を脱離させる脱離装置と、
光ビームを発射し、前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する光源と、
前記光源から発せられ、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返す反射集束装置とを含み、
前記反射集束装置は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡と前記光源とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第一凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記光ビームが前記反射集束装置の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生し、
前記光ビームは、前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡との間で前記所定の領域に複数回反射および集束され、
前記光ビームは、前記第二凹面鏡の縁に沿って前記第一凹面鏡の表面まで入射し、
前記光源は凸レンズを含み、前記凸レンズの焦点は前記所定の領域内に位置することを特徴とするイオン発生装置。
【請求項9】
所定の領域に試料粒子を脱離させる脱離装置と、
光ビームを発射し、前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する光源と、
前記光源から発せられ、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返す反射集束装置とを含み、
前記反射集束装置は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡と前記光源とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第一凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記光ビームが前記反射集束装置の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生し、
前記光ビームは、前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡との間で前記所定の領域に複数回反射および集束され、
前記光ビームは、前記第二凹面鏡の縁に沿って前記第一凹面鏡の表面まで入射し、
前記第二凹面鏡は貫通孔を有し、前記光ビームは前記貫通孔を通過して前記第一凹面鏡の表面まで入射し、
前記光源は凸レンズを含み、前記凸レンズの焦点は前記所定の領域内に位置することを特徴とするイオン発生装置。
【請求項10】
前記凸レンズは、前記第一凹面鏡の光軸と同軸であることを特徴とする請求項に記載のイオン発生装置。
【請求項11】
所定の領域に試料粒子を脱離させる脱離装置と、
光ビームを発射し、前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する光源と、
前記光源から発せられ、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返す反射集束装置とを含み、
前記反射集束装置は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡と前記光源とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第一凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記光ビームが前記反射集束装置の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生し、
前記光源は凸レンズを含み、前記凸レンズの焦点は前記所定の領域内に位置し、
前記凸レンズは、前記第一凹面鏡の光軸と同軸であることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項12】
所定の領域に試料粒子を脱離させる脱離装置と、
光ビームを発射し、前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する光源と、
前記光源から発せられ、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返す反射集束装置とを含み、
前記反射集束装置は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡と前記光源とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第一凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記光ビームが前記反射集束装置の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生し、
前記光ビームは、前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡との間で前記所定の領域に複数回反射および集束され、
前記光源は凸レンズを含み、前記凸レンズの焦点は前記所定の領域内に位置し、
前記凸レンズは、前記第一凹面鏡の光軸と同軸であることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項13】
所定の領域に試料粒子を脱離させる脱離装置と、
光ビームを発射し、前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する光源と、
前記光源から発せられ、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返す反射集束装置とを含み、
前記反射集束装置は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡と前記光源とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第一凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記光ビームが前記反射集束装置の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生し、
前記光ビームは、前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡との間で前記所定の領域に複数回反射および集束され、
前記光ビームは、前記第二凹面鏡の縁に沿って前記第一凹面鏡の表面まで入射し、
前記光源は凸レンズを含み、前記凸レンズの焦点は前記所定の領域内に位置し、
前記凸レンズは、前記第一凹面鏡の光軸と同軸であることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項14】
所定の領域に試料粒子を脱離させる脱離装置と、
光ビームを発射し、前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する光源と、
前記光源から発せられ、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返す反射集束装置とを含み、
前記反射集束装置は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡と前記光源とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第一凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置し、
前記光ビームが前記反射集束装置の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生し、
前記光ビームは、前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡との間で前記所定の領域に複数回反射および集束され、
前記光ビームは、前記第二凹面鏡の縁に沿って前記第一凹面鏡の表面まで入射し、
前記第二凹面鏡は貫通孔を有し、前記光ビームは前記貫通孔を通過して前記第一凹面鏡の表面まで入射し、
前記光源は凸レンズを含み、前記凸レンズの焦点は前記所定の領域内に位置し、
前記凸レンズは、前記第一凹面鏡の光軸と同軸であることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項15】
前記試料粒子は、イオン、中性粒子又は両者の組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載のイオン発生装置。
【請求項16】
前記脱離装置は、レーザ脱離装置、熱脱離装置、超音波脱離装置のうちの1種又は複数種の組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載のイオン発生装置。
【請求項17】
前記脱離装置は、マトリックス支援レーザ脱離装置であり、前記所定の領域は、前記マトリックス支援レーザ脱離装置の粒子プルームが通過する且つ前記マトリックス支援レーザ脱離装置の試料電極板に隣接する領域であることを特徴とする請求項16に記載のイオン発生装置。
【請求項18】
前記光ビームは、前記反射集束装置と作用する度にエネルギー損失が10%未満になることを特徴とする請求項1に記載のイオン発生装置。
【請求項19】
試料電極板を有するマトリックス支援レーザ脱離装置と、
レーザ光源と、
前記レーザ光源と同軸に設置され、焦点が前記マトリックス支援レーザ脱離装置の粒子プルームが通過する且つ前記試料電極板に隣接する所定の領域内に位置する凸レンズと、
前記レーザ光源と前記所定の領域を挟んで対向して設置され、球心が前記所定の領域内に位置する第一凹面鏡と
前記第一凹面鏡と前記所定の領域を挟んで対向して設置され、球心が前記所定の領域内に位置する第二凹面鏡とを含むことを特徴とするイオン発生装置。
【請求項20】
前記マトリックス支援レーザ脱離装置は、前記レーザ光源が発射する光ビームの偏向角度を変更するための反射鏡群をさらに含むことを特徴とする請求項19に記載のイオン発生装置。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項に記載のイオン発生装置を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項22】
所定の領域に試料粒子を脱離させるステップと、
光源から光ビームを発射して前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化するステップと、
前記光源と前記所定の領域を挟んで対向して設置され、球心が前記所定の領域内に位置する第一凹面鏡と、前記第一凹面鏡と前記所定の領域を挟んで対向して設置され、球心が前記所定の領域内に位置する第二凹面鏡とを用いて、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返し、前記光ビームが前記第一凹面鏡の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生し、前記光ビームが前記第二凹面鏡の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生するステップとを含むイオン発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析技術分野に関し、より詳しくは、イオン発生装置、質量分析装置及びイオン発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の物質分析機器の一部では、物質を分析する場合、まず物質の試料粒子をイオン化、断片化又は原子化し、次に試料分子が解離した試料粒子を検出して物質の元素組成又は分子情報を同定するする必要がある。それに応じて、イオン発生装置は、このような物質分析機器の重要な構成要素である。
【0003】
研究により下記の知見を得た。一次解離後の試料は、多量の完全に解離しなかった粒子を含むことが多い。これはイオン発生装置の解離効率を大きく制限し、さらに分析機器の感度も制限するため、従来技術におけるイオン発生装置は、試料粒子に対して複数回の解離を行うのが一般的である。マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI、Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)を例として、2015年Soltwischらによって発表された「Mass spectrometry imaging with laser-induced postionization」という文献には、MALDI-TOF(time of flight)質量分析装置が開示されており、260-280nmの範囲内の波長可変のレーザ光源を用いて一次イオン化により得られた粒子プルームを後段イオン化(ポストイオン化)し、該質量分析装置は、一部の脂質及び小分子物質のイオン収率を3桁程度向上させることができ、該後段イオン化技術は現在MALDI-2技術とも呼ばれる。
【0004】
しかしながら、MALDI-2のような後段イオン化技術のイオン化効率はさらに改善する必要がある。
【0005】
特許文献1には、対向して配置された一対の反射鏡を利用してイオン化効率を向上させるMALDI-IM(ion mobility)-TOF質量分析装置が開示されているが、この技術案において、反射鏡の焦点を粒子プルームが位置する領域に位置合わせるため、レーザ光が粒子プルームで一回集束するには複数回の反射が必要であり、これは、後段イオン化のイオン化効率の大幅な低下に繋がる。また、反射する度にレーザエネルギーが減衰し、後段イオン化効果はレーザエネルギーと正の相関があるため、反射後のイオン化効果を保証するために、レーザエネルギーの更なる増強が求められている。また、反射されたが集束しない光線は焦点から外れるため、ずれた光線と合わせるために一次イオン化の装置サイズや位置を変更する必要があり、装置内部の光路がより複雑になり、取り扱いが困難になる。
【0006】
特許文献2には、粒子の質量分析に用いられる装置及び方法が提案されており、具体的には、光共振器の原理を利用してレーザ光を共振器内で試料粒子の近傍まで繰り返し反射して、試料粒子を複数回イオン化するイオン発生装置が開示されている。しかしながら、レーザ脱離イオン化の解離効率は、レーザ光と試料の作用時間と空間だけでなく、レーザ光の強度にも影響され、特許文献2における共振器は、半透過反射鏡と全反射鏡との組み合わせによってレーザ光を複数回反射する必要があり、レーザ光は、当該半透過反射鏡を透過して共振器内に入射するため、レーザパワーの大幅な損失を招く。一般的に、共振器における凹面鏡の反射率R>99.99%であり、レーザ光が第一凹面鏡の中心から入射し、10-4程度のパワーしか共振器内に入ることができないため、入射したレーザ光が試料を解離できる強度に達するには、より高いエネルギーの入射レーザ光を提供する必要がある。ところが、レーザエネルギーの増強は、イオン発生装置の体積の増大や高コスト化に繋がる。
【0007】
したがって、従来のイオン発生装置の上記問題を解決するために、改良案が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US8558168B2
【文献】CN101592628A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術の上記問題に鑑み、本発明の技術案は、比較的低コストでイオン発生装置の解離(即ち、イオン化、断片化又は原子化)の効率をさらに向上させることができるイオン発生装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、所定の領域に試料粒子を脱離させる脱離装置と、光ビームを発射し、前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する光源と、前記光源から発せられ、前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返す反射集束装置とを含むイオン発生装置を提供し、前記光ビームが前記反射集束装置の表面で反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生する。
【発明の効果】
【0011】
この技術案によれば、反射集束装置を設けることにより、所定の領域に集束して通過した光ビームを再び所定の領域まで反射し再集束させることで、試料粒子の繰り返し解離を実現し、試料粒子に対する解離効率を効果的に向上させることができるとともに光ビームのずれによる装置の複雑化を回避することができる。また、反射する度に対応的に集束が一回発生するため、レーザ光が所定の領域に集束される回数が多くなり、毎回の集束によるエネルギー損失が低減され、試料粒子に対する解離効率をさらに高めることができる。
【0012】
選択的な技術案として、前記反射集束装置は、第一凹面鏡を含み、前記第一凹面鏡と前記光源とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第一凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置する。
【0013】
当該技術案によれば、光源の他に一つの凹面鏡を設置することにより、一回集束した光ビームの再反射と集束を実現する。また、第一凹面鏡の球心位置を所定の領域内に設置することにより、一回集束した光ビームを再び所定の領域に集束させることができ、光ビームによって試料粒子を繰り返し解離する回数を増やし、解離効率の向上と装置の簡素化との両立を図ることができる。
【0014】
選択的な技術案として、前記反射集束装置は、第二凹面鏡をさらに含み、前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置する。
【0015】
この技術案によれば、第一凹面鏡と第二凹面鏡とが所定の領域を挟んで対向して設置され、それらの球心がいずれも所定の領域内に設置されることにより、光源から所定の領域に合焦された光ビームは、第一、第二凹面鏡の間で反射可能となり、反射されるたびに光ビームを再び所定の領域まで集束させて、毎回の光ビームが集束可能であるとともに、集束された光ビームが所定の領域内の試料粒子と重なることができるため、イオン発生装置の解離効率をさらに向上させる。
【0016】
選択的な技術案として、前記光ビームは、前記第一凹面鏡と前記第二凹面鏡との間で前記所定の領域に複数回繰り返し反射及び集束される。
【0017】
この技術案によれば、例えば、第一凹面鏡及び第二凹面鏡の反射面を、共通の球心の周りに延びる円弧面とするか、又は、第一凹面鏡及び第二凹面鏡を球心が同一である複数の凹面鏡アセンブリとすることにより、第一凹面鏡と第二凹面鏡との間で光ビームを複数回繰り返し反射及び集束させることができ、解離効率をさらに向上させる。
【0018】
選択的な技術案として、前記光ビームは、前記第二凹面鏡の縁に沿って前記第一凹面鏡の表面まで入射する。
【0019】
この技術案によれば、光ビームを第二凹面鏡の縁から入射させることで、光ビームの集束反射回数をさらに増やすことができる。また、従来技術における半透過反射鏡を介して共振器に入射する技術に対して、光線入射時のエネルギー損失を低減することができる。
【0020】
選択的な技術案として、前記第二凹面鏡は貫通孔を有し、前記光ビームは前記貫通孔を通過して前記第一凹面鏡の表面まで入射する。
【0021】
この技術案によれば、第二凹面鏡の貫通孔から入射した光ビームが、2つの球心が同一または近い第一凹面鏡と第二凹面鏡との間で反射するとき、光ビームを第一凹面鏡と第二凹面鏡の反射面との間で一定の回数だけ往復反射させることができるとともに、光ビームの入射時のエネルギー消費を低減することができる。
【0022】
選択的な技術案として、前記光源は凸レンズを含み、前記凸レンズの焦点は前記所定の領域内に位置する。
【0023】
この技術案によれば、光源から出射された平行光ビームが凸レンズを介して所定の領域内に集束され、集束された高エネルギー光子が所定の領域内の粒子プルームと作用し、粒子プルーム中の粒子が解離する。
【0024】
選択的な技術案として、前記凸レンズは前記第一凹面鏡の光軸と同軸である。
【0025】
この技術案によれば、同軸に設けられた凸レンズ及び第一凹面鏡は、反射された光ビームが正確に所定の領域に集束されることを保証するとともに、装置構造を簡素化することができる。
【0026】
選択的な技術案として、前記試料粒子は、イオン、中性粒子又は両者の組み合わせである。
【0027】
選択的な技術案として、脱離装置は、レーザ脱離装置、熱脱離装置、超音波脱離装置のうちの1種又は複数種の組み合わせである。
【0028】
選択的な技術案として、前記脱離装置は、マトリックス支援レーザ脱離装置であり、前記所定の領域は、マトリックス支援レーザ脱離装置の粒子プルームが通過する且つ前記マトリックス支援レーザ脱離装置の試料電極板に隣接する領域である。
【0029】
選択的な技術案として、前記光ビームは前記反射集束装置と作用する度にエネルギー損失が10%未満になる。
【0030】
この技術案によれば、例えば、全反射凹面鏡を反射集束装置として採用することにより、光ビームが反射集束する度に発生するエネルギー損失を低減することができ、光ビームが複数回反射した後も高いエネルギーを有し、試料粒子を解離することができる。
【0031】
本発明は試料電極板を有するマトリックス支援レーザ脱離装置と、レーザ光源と、前記レーザ光源と同軸に設置され、焦点が前記マトリックス支援レーザ脱離装置の粒子プルームが通過する且つ前記試料電極板に隣接する所定の領域内に位置する凸レンズと、前記レーザ光源と前記所定の領域を挟んで対向して設置され、球心が前記所定の領域内に位置する第一凹面鏡と、を備える別のイオン発生装置を更に提供する。
【0032】
当該技術案によれば、マトリックス支援レーザ脱離装置のレーザ光源は、試料電極板上の試料にレーザ光を発射し、試料に対して1回目の解離を行い、試料が1回目の解離を経てから粒子プルームを生成し、粒子プルームが試料電極板の近傍の所定の領域に逸散した後、光源から発射された光ビームは凸レンズによって集束照射されて所定の領域内の粒子プルームの2回目の解離を生じ、集束された光ビームは第一凹面鏡の表面に入射し、再び所定の領域内に反射集束されて所定の領域内の粒子プルームに対して3回目の解離を行う。
【0033】
イオン発生装置は簡単な装置設定で試料粒子を三次解離させることができ、光ビームと試料粒子とが作用する時間と空間上での試料粒子の解離度合いを効果的に向上させることができる。本発明に係るイオン発生装置の光源から出射された光ビームは所定の領域に集束され、反射された光ビームは再び所定の領域に集束されるため、光ビームのエネルギーが同じである場合、試料粒子の解離度合いを効果的に向上させ、イオン発生装置の解離効率を高めることができる。
【0034】
選択的な技術案として、イオン発生装置は、第二凹面鏡をさらに含み、前記第二凹面鏡と前記第一凹面鏡とは前記所定の領域を挟んで対向して設置され、前記第二凹面鏡の球心は前記所定の領域内に位置する。
【0035】
選択的な技術案として、前記マトリックス支援レーザ脱離装置は、前記レーザ光源が発射する光ビームの偏向角度を変更するための反射鏡群をさらに含む。
【0036】
この技術案によれば、反射鏡群は、光ビームの偏向角度を変えることにより、脱離レーザによる試料電極板における光スポットの位置を制御して、試料電極板の近傍の複数の所定の領域の試料粒子を脱離させることができ、試料のプルームの流れ方向に沿って光スポットの位置が移動するように制御することもでき、これにより、所定の領域の試料粒子をより迅速に低慣性で走査することが容易になり、試料電極板を移動させる必要がなくなる。
【0037】
本発明は上記のいずれか1つ又は複数の技術案が組み合わせたイオン発生装置を備える質量分析装置をさらに提供する。
【0038】
本発明は、
所定の領域に試料粒子を脱離させるステップと、
光ビームを発射して前記所定の領域に前記光ビームを集束することにより、前記所定の領域内の前記試料粒子をイオン化、断片化又は原子化するステップと、
前記所定の領域内を通過した前記光ビームを反射し前記所定の領域に集束させることにより、前記所定の領域における前記試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返し、前記光ビームが反射する度に前記所定の領域への集束が対応して一回発生するステップを含む
イオン発生方法をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の実施形態に係るイオン発生装置のブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係るイオン発生装置の構造模式図である。
図3】本発明の他の実施形態に係るイオン発生装置の構造模式図である。
図4】本発明の別の実施形態に係るイオン発生装置の構造模式図である。
図5】本発明の実施形態に係るイオン発生方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら概略的に説明する。なお、本発明の実施は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の実施形態を採用することができる。
【0041】
[用語]
特に断らない限り、「光ビームと試料粒子とが重なる時間」とは、光ビームと試料粒子とが重なる合計時間を意味し、例えば、1回目に反射された光ビームが所定の領域4を通過するときに試料粒子プルームと重なる時間が0.05sであり、2回目に反射された光ビームが所定の領域4を通過するときに試料粒子プルームと重なる時間が0.05sであると、2回の反射において「光ビームと試料粒子とが重なる時間」が0.05+0.05=0.1sである。「光ビームと試料粒子とが重なる空間」とは、光ビームと試料粒子とが重なる空間体積を意味し、例えば、1回目に反射された光ビームと所定の領域4との重なり体積はn1であり、2回目に反射された光ビームと所定の領域4との重なり体積はn2であり、空間nはn1とn2との和集合であり、試料粒子の所定の領域4における濃度をcとすると、2回の反射における光ビームと試料粒子との重なり体積はn*cである。
「解離」とは、特に試料粒子がイオン化することを指すものではなく、試料粒子をイオン化、断片化又は原子化させるプロセスを指し、それに対応する「解離度」とは、試料粒子がイオン化、断片化又は原子化する割合を指し、割合が高いほど、試料の解離度合いが高くなる。
【0042】
本実施形態は、イオン発生装置を提供し、図1は、本発明の実施形態に係るイオン発生装置のブロック図である。図1に示すように、本発明に係るイオン発生装置は、脱離装置2、光源1及び反射集束装置3を含む。
【0043】
本実施形態では、反射集束装置3を設けることにより、所定の領域4に集束して通過した光ビームを所定の領域4まで反射し再集束させることで、試料粒子の解離を繰り返し行い、試料粒子に対する解離効率を効果的に向上させることができる。また、反射する度に集束が対応して一回発生し(本実施形態では一回反射、一回集束を例として説明する)、所定の領域4にレーザ光が集束される回数が1回増える。複数回の反射に一回の集束が対応する形態に比べて、集束によるエネルギー損失が低減され、試料粒子に対する解離効率をさらに向上させることができる。
【0044】
具体的には、本実施形態において、脱離装置2は、分析対象物質の試料を脱離させるものであり、当該脱離装置2は、レーザ脱離装置、熱脱離装置、超音波脱離装置のうちの1種又は複数種の組み合わせであってもよく、ここでは限定されない。試料脱離によって発生した原子、中性粒子、イオン又はイオンフラグメントからなる粒子プルームは所定の領域4に散逸する。所定の領域4は通常、試料の近くにあるが、他のガイド装置によって粒子プルームを比較的に遠くの所定の領域4内までガイドしてもよい。
【0045】
光源1から発射された光ビームは、試料粒子を解離させることができる高エネルギー光子、例えばUVレーザ光を含み、光源1は光ビームを発射して該光ビームを所定の領域4内に集束し、所定の領域4内の粒子プルームに対して1回目の解離を行うことができる。
【0046】
反射集束装置3は、1回目に集束した光ビームを受信し、1回目に集束した光ビームを再び所定の領域4内に反射集束し、所定の領域4内の粒子プルームに対して2回目の解離を行う。
【0047】
本実施形態において、簡単な装置設定で試料粒子を少なくとも2回解離させる、即ち集束した光ビームが試料粒子と重なり少なくとも2回照射することが実現され、照射回数を増やすことにより、光ビームと試料粒子とが重なる時間と空間を増加させ、試料粒子の解離度合いを効果的に向上させることができる。そして、本実施形態におけるイオン発生器は、光源1から発射された光ビームを所定の領域4に集束させ、反射された光ビームは再び所定の領域4に集束されることで、所定の領域4内の高エネルギー光子の密度を向上させ、試料粒子の解離度合いを向上させ、イオン発生装置の解離効率を向上させる。
【0048】
図2は本発明の実施形態に係るイオン発生装置の構造模式図である。図2に示す構造は、本発明に係るイオン発生装置のより具体的な好ましい構造である。以下、図面を参照しながら、本実施形態に係るイオン発生装置をより具体的に説明する。
【0049】
図1及び図2を参照すると、本実施形態における脱離装置2は、マトリックス支援レーザ脱離装置20であってもよく、所定の領域4は、マトリックス支援レーザ脱離装置20の粒子プルームが通過するかつマトリックス支援レーザ脱離装置20の試料電極板22に隣接する領域であり、具体的には、マトリックス支援レーザ脱離装置20は、レーザ光源21及び試料電極板22を含み、試料電極板22には、マトリックスと試料との混合物質が載置され、レーザ光源21は、試料電極板22にレーザを発射し、好ましくは、レーザ光源21が発射するレーザはUVレーザである。
【0050】
本実施形態において、マトリックス支援レーザ脱離装置20は、他の脱離装置と比較して、マトリックスを介してレーザエネルギーを試料に伝達することができるため試料特に気化しにくい、または熱に敏感な生体高分子試料を保護することができ、レーザ光のエネルギーがマトリックスを介して試料に伝達されて試料を解離させる。
【0051】
しかしながら、マトリックス支援レーザ脱離装置20の解離プロセスは比較的マイルドであるため、1回目の解離によって生成された粒子プルームには多量の完全に解離しなかった中性粒子が含まれ、これらの粒子プルームは通常、マトリックス支援レーザ脱離装置20の試料電極板22から、マトリックス支援レーザ脱着装置20のレーザ光源21から離れる方向に逸散するため、所定の領域4を試料電極板22に隣接する領域(例えば図2に例示するレーザ光源21が試料電極板22の下方にある構造では、所定の領域4は試料電極板22の上方付近に設置されている)に設置されることで、逸散した粒子プルームをほとんど所定の領域4に位置させ、所定の領域4内の試料粒子濃度が増加し、二次解離時に光ビームが試料粒子と重なる空間が増加し、イオン発生装置の解離効率が向上する。
【0052】
好ましい実施形態として、マトリックス支援レーザ脱離装置20は、脱離レーザ光ビームの偏向角度を変更するための反射鏡群(図示しない)をさらに含む。反射鏡群は、レーザ光源21と試料電極板22との間に設けられ、少なくとも2つ以上の反射鏡からなるものであってもよい。具体的には、レーザ光源21から出射されたレーザ光ビームが、複数の反射鏡で反射された光スポットが試料電極板22に照射され、ここで、少なくとも1つの反射鏡は反射面を移動又は回転させることができることで、反射された光スポットが試料電極板22上を移動できるようにレーザ光路を制御する。即ち、試料電極板22を移動させることなく、試料電極板22の上方の所定の領域4における試料粒子の走査を実現することができる。
【0053】
光源1は、光ビームを発射し所定の領域4に集束することで、所定の領域4内の試料粒子をイオン化、断片化又は原子化する。具体的には、光源1は、光ビーム発生装置11と、光ビーム発生装置11と所定の領域4との間に設置された凸レンズ12とを含み、凸レンズ12の焦点は、所定の領域4内に位置し、光ビーム発生装置11から発射された平行光ビームは、凸レンズ12を介して所定の領域4内に集束され、集束した高エネルギー光子は、所定の領域4内の粒子プルームと重なり、粒子プルーム中の粒子が解離する。なお、ここでの光ビーム発生装置11が発射する光ビームのエネルギーは、解離のニーズに応じて調整することができ、例えば、試料粒子に対してイオン化を行う場合、光ビームをUVレーザとしてもよいが、試料粒子をフラグメント化する場合、必要に応じて、発射光ビームをより高いエネルギーの光ビームとするように調整してもよい。
【0054】
反射集束装置3は、光源1から発せられた所定の領域4内を通過した光ビームを反射し所定の領域4に集束させることにより、所定の領域4内の試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも一回繰り返し、光ビームが反射集束装置3の表面で反射する度に所定の領域4への集束が対応して一回発生する。具体的には、反射集束装置3は凹面鏡であってもよく、また、光ビームの反射時のエネルギー損失を減少させることができることから反射集束装置3は高反射率の凹面鏡であることが好ましい。例えば、反射率R>99.99%の凹面鏡を選択すると、光ビームが反射集束装置3と作用する時のエネルギー損失が10%未満となり、それによって、光ビームが複数回反射された後も高いエネルギーを有し、試料粒子を解離することができる。
【0055】
図2には、反射集束装置3が第一凹面鏡31である場合を例示し、図2に示すように、第一凹面鏡31と光源1とが所定の領域4を挟んで対向して設置され、且つ第一凹面鏡31の球心が所定の領域4内に位置する。光源1とは別の側に第一凹面鏡32を設置することにより、一回集束した後の光ビームの再反射と集束を可能にする。また、第一凹面鏡31の球心位置を所定の領域4内に設置することにより、一回集束した光ビームを再び所定の領域に集束可能となるため、光ビームと試料粒子との重なり時間と空間を改善するとともに光ビームのエネルギーも高める。
【0056】
特に、第一凹面鏡31と光源1とが所定の領域4を挟んで対向して設置された上で、第一凹面鏡31は、光源1の凹面鏡の光軸と同軸である。同軸に配置された凸レンズ及び第1凹面鏡によって、反射された光ビームを所定の領域に正確に再集束させることができ、装置構造が簡素化される。
【0057】
図3は、本発明の他の実施形態に係るイオン発生装置の反射集束装置3の構造模式図である。図3におけるイオン発生装置と図2の違いは、図3における反射集束装置3は、第一凹面鏡31と第二凹面鏡32とを含み、第一凹面鏡31と第二凹面鏡32とは所定の領域4を挟んで対向して設置され、第二凹面鏡32の球心は所定の領域4内に位置している。第一凹面鏡31、第二凹面鏡32は、所定の領域4を挟んで対向して設置されかつ球心が共に所定の領域4内に設置されることで、光源1により所定の領域4に集束された光ビームは、第一凹面鏡31、第二凹面鏡32の間で反射され、且つ反射するたびに光ビームを再び所定の領域4に集束させることができることで、光ビームが毎回集束し補強されるとともに、集束し補強された光ビームが所定の領域4内の試料粒子と重なり、イオン発生装置の解離効率をさらに向上させることができる。
【0058】
特に、光源1から発射された光ビームは、第二凹面鏡32の縁に沿って第一凹面鏡31の表面に入射し、光ビームの光学特性によれば、凹面鏡の外部から入射した光ビームが、2つの球心が同一又は近い凹面鏡の間で反射する場合、凹面鏡の反射面が変化しないと、入射角(光ビームと凹面鏡の光軸とがなす角度)が大きいほど、反射回数が少なくなるため、光ビームを第二凹面鏡32の縁を介して入射させることで光ビームの集束反射回数の最大化を図ることができる。また、従来技術における半透過反射鏡を介して共振器に入射する技術に対して、光線入射時のエネルギー損失を低減することができる。
【0059】
図4は、本発明の別の実施形態に係る反射集束装置3の構造模式図である。図4に示すように、第二凹面鏡32は、貫通孔321を有し、光ビームは、貫通孔321を通って第一凹面鏡31の表面に入射する。
【0060】
本実施形態では、第二凹面鏡32の貫通孔321から入射した光ビームが、2つの球心が同一または近い第一凹面鏡31と第二凹面鏡32との間で反射する際に、光ビームがすぐに第一凹面鏡31または第二凹面鏡32の範囲外に出射されることなく、第一凹面鏡31または第二凹面鏡32の反射面の間で一定の回数だけ往復反射させることができ、光ビームが試料粒子と重なる時間と空間を最大限に増加させることができる。また、従来技術における半透過反射鏡を通過する入射方式に対して、光ビームが貫通孔321から入射することで、光ビームの入射時のエネルギー消費を低減することができる。
【0061】
さらに、本発明の他の実施形態において、図3又は図4における第一凹面鏡31及び第二凹面鏡32の反射面を、共通の球心の周りに延びる円弧面としてもよい。また、本発明の実施形態において、第一凹面鏡31及び第二凹面鏡32を球心が同一の複数の凹面鏡アセンブリとし、複数の凹面鏡アセンブリの球心がいずれも所定の領域4に設置されるように構成されてもよく、これによって、第一又は第二凹面鏡32の間での光ビームの反射回数を増加させ、光ビームと試料イオンとが重なる時間と空間を改善させることができる。それに基づいて、第一凹面鏡31と第二凹面鏡32の反射面の面積が所定の領域4を球心とする球面の面積とほぼ等しい場合、光ビームを球面内の任意の位置において反射面に接触し反射させることができ、光ビームが試料粒子と重なる回数を最大限に増加させ、即ち、光ビームが試料粒子と重なる時間と空間を増加させることができる。
【0062】
図5は本発明の実施形態に係るイオン発生方法のフローチャートである。以下、図2及び図5を参照しながら、イオン発生装置の解離プロセスについて説明する。
【0063】
まず、イオン発生装置のマトリックス支援レーザ脱離装置20は、試料粒子を所定の領域4内に脱離させるステップS1を実行する。具体的には、マトリックス支援レーザ脱離装置20のレーザ光源21が試料電極板上の試料にレーザ光を発射し、試料に対して1回目の解離を行い、試料が1回目の解離を経て粒子プルームを生成し、粒子プルームが試料電極板22の近傍の所定の領域4に逸散する。
【0064】
そして、イオン発生装置の光源1は光ビームを発射し所定の領域4に集束することで所定の領域4内の試料粒子をイオン化、断片化又は原子化するステップS2を実行する。具体的には、光源1の光ビーム発生装置11が平行光ビームを発射し、平行光ビームが凹面鏡を通過した後に所定の領域4内に集束され、所定の領域4内の試料粒子と重なり、試料粒子を解離(イオン化、断片化又は原子化)させる。
【0065】
最後に、所定の領域内を通過した光ビームを反射して所定の領域4に集束させることにより、所定の領域4における試料粒子のイオン化、断片化又は原子化を少なくとも1回繰り返し、光ビームが反射集束装置3の表面で反射する度に所定の領域4への集束が対応して一回発生するステップS3を実行する。具体的には、集束された光ビームが凹面鏡の表面に入射し、再び所定の領域4内に反射集束されて所定の領域4内の粒子プルームを解離する。
【0066】
本実施形態では、簡単な装置設計で試料粒子を三回解離させることができ、光ビームが試料粒子と重なる時間及び空間に工夫して試料粒子の解離度合いを効果的に向上させることができる。本実施形態に係るイオン発生装置の光源1から発射された光ビームは所定の領域4に集束し、反射された光ビームは再び所定の領域4に集束するため、光ビームのエネルギーが同じである場合、所定の領域4内の試料粒子に照射される高エネルギー光子のエネルギーを効果的に増強させ、試料粒子の解離度合いを向上させ、ひいてはイオン発生装置の解離効率を向上させることができる。
【0067】
また、マトリックス支援レーザ脱離装置20による試料粒子の解離が比較的にマイルドであり、1回目の解離によって生成された粒子プルームに大量の中性粒子が含まれているため、マトリックス支援レーザ脱離装置20によって解離された粒子プルームに対して二次解離を行うことによって、粒子プルームにおける有効粒子の割合を効果的に増加させることができ、これにより、イオン発生装置全体の解離効率を向上させることができる。なお、マトリックス支援レーザ脱離装置20は、気化しにくい又は熱に敏感な物質、例えば、生体試料に適用されることが多く、このような物質は気化して粒子を発生させることが難しいため、解離の難度がかなり高い。そこで、本実施形態に係るイオン発生装置は、まず、マイルドなマトリックス支援レーザ脱離装置20によって試料に対して1回目の解離を行い、1回目の解離によって生じた粒子プルームに対して二次解離を行うことにより、試料を気化させることなく、試料粒子を生成することができるとともに、試料粒子の複数回の解離によって試料の解離度合いを向上させることにより、物質分析装置によってこのような物質に対して組成分析を行うのをより容易にする。
【0068】
実際の応用シーンに応じて、本発明のイオン発生装置が適用する物質検出機器は、各種の質量分析装置、イオン移動度分光装置、クロマトグラフ、分光計、電気化学分析装置を含んでもよく、それらと置き換えてもよい。
【0069】
本発明の他の実施形態では、上記のいずれかの実施形態におけるイオン発生装置を含み、イオン発生装置が解離して得られたイオン、イオンフラグメントまたは原子を分析することができる質量分析装置をさらに提供する。
【0070】
以上、図面を参照して本発明の技術案を説明したが、本発明の保護範囲はこれらの具体的な実施形態に限定されないのは当業者にとって自明なことである。本発明の原理を逸脱しない前提で、当業者は技術特徴に対して同等の変更又は置換を行うことができ、これらの変更又は置換後の技術案はいずれも本発明の保護範囲内に属する。
【符号の説明】
【0071】
1-光源;11-光ビーム発生装置;12-凸レンズ;2-脱離装置;20-マトリックス支援レーザ脱離装置;21-レーザ光源;22-試料電極板;3-反射集束装置;31-第一凹面鏡;32-第二凹面鏡;321-貫通孔;4-所定の領域
図1
図2
図3
図4
図5