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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】動力システム
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/06 20060101AFI20241203BHJP
   F01P 7/16 20060101ALI20241203BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20241203BHJP
   F02D 17/00 20060101ALI20241203BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20241203BHJP
   F02M 26/15 20160101ALI20241203BHJP
【FI】
F02D41/06
F01P7/16 506
F02D13/02 J
F02D17/00 G
F02D21/08 301C
F02M26/15
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023202610
(22)【出願日】2023-11-30
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 伸匡
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-174377(JP,A)
【文献】特開2010-112281(JP,A)
【文献】特開2016-113900(JP,A)
【文献】特開2016-211486(JP,A)
【文献】特開2018-096298(JP,A)
【文献】特開2024-092171(JP,A)
【文献】実開平03-052351(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/16
F02D 13/02
F02D 17/00
F02D 21/08
F02D 41/00-45/00
F02M 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの複数の気筒のうち第一気筒群の排気弁の開閉を制御する排気弁制御部と、
前記第一気筒群の排気、及び前記複数の気筒のうち前記第一気筒群と異なる第二気筒群の排気の前記エンジンの吸気管路への還流を制御する還流制御部と、
前記複数の気筒の各々の燃焼室への燃料の噴射を制御する噴射制御部と、
を有し、
前記排気弁制御部が前記第一気筒群の圧縮工程中に前記第一気筒群の排気弁を開くように制御する場合、
前記還流制御部は、前記第一気筒群の排気が前記吸気管路に還流せず、前記第二気筒群の排気が前記吸気管路に還流するように制御し、
前記噴射制御部は、
前記第一気筒群の燃焼室への燃料噴射を停止させ、かつ、
前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁が閉じている状態で前記第二気筒群の燃焼室に噴射させる燃料の第一噴射量よりも多い第二噴射量の燃料を、前記第二気筒群の燃焼室に噴射させる、
動力システム。
【請求項2】
前記第一気筒群の排気を前記吸気管路に還流する第一還流管路と、
前記第二気筒群の排気を前記吸気管路に還流する第二還流管路と、を有する、
請求項1に記載の動力システム。
【請求項3】
前記噴射制御部は、前記第一気筒群の排気工程中に前記排気弁が開く場合、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁が開いている状態の前記エンジンに生じる負荷に応じた量だけ前記第一噴射量よりも多い前記第二噴射量の燃料を前記第二気筒群の燃焼室に噴射させる、
請求項1に記載の動力システム。
【請求項4】
前記排気弁制御部は、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記第一気筒群の排気弁が開いていた第一開放時間と、前記第二気筒群の圧縮工程中に前記第二気筒群の排気弁が開いていた第二開放時間とを同じにする、
請求項1に記載の動力システム。
【請求項5】
前記排気弁制御部は、前記第一開放時間が前記第二開放時間よりも所定時間以上大きい場合、
前記第二気筒群の圧縮工程中に前記第二気筒群の排気弁を開き、
前記第一気筒群の圧縮工程中に前記第一気筒群の排気弁を閉じた状態にすることで、前記第一開放時間と前記第二開放時間を同じにする、
請求項4に記載の動力システム。
【請求項6】
前記噴射制御部は、前記第一開放時間が前記第二開放時間よりも前記所定時間以上大きい場合、
前記第二気筒群への燃料噴射を停止させ、
圧縮工程中に排気弁が閉じている状態の前記第一気筒群の燃焼室に、前記第二気筒群の圧縮工程中に排気弁が閉じている状態で噴射させる燃料の第三噴射量よりも多い第四噴射量の燃料を噴射部に噴射させ、
前記還流制御部は、圧縮工程中に排気弁が閉じている前記第一気筒群の排気を前記吸気管路に還流させ、かつ圧縮工程中に排気弁が開いている前記第二気筒群の排気を前記吸気管路に還流させない、
請求項5に記載の動力システム。
【請求項7】
前記エンジンの冷却水の温度を取得する取得部を有し、
前記排気弁制御部は、前記冷却水の温度が所定水温以下の場合に、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁を開く、
請求項1に記載の動力システム。
【請求項8】
前記エンジンの回転数を取得する取得部を有し、
前記排気弁制御部は、前記回転数が所定回転数以下の場合に、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁を開く、
請求項1に記載の動力システム。
【請求項9】
前記取得部は、前記燃焼室に噴射する燃料の指示噴射量を取得し、
前記排気弁制御部は、前記回転数が前記所定回転数以下であり、かつ前記指示噴射量が前記燃焼室に噴射可能な最大噴射量よりも小さい場合、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁を開く、
請求項8に記載の動力システム。
【請求項10】
前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁が開く場合に前記第一気筒群のピストンへの潤滑油の供給を停止させる供給制御部を有する、
請求項1に記載の動力システム。
【請求項11】
前記供給制御部は、前記第一気筒群のピストンへの前記潤滑油の供給が停止している場合、前記潤滑油を供給するポンプの吐出量を、前記第一気筒群のピストンへ前記潤滑油が供給されている場合の前記ポンプの吐出量よりも少なくする、
請求項10に記載の動力システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを用いた動力システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの冷間始動時にエンジンや浄化装置を昇温させる技術が知られている。特許文献1には、エンジンの燃焼室に噴射する燃料の量を増やすことで燃焼温度を上昇させ、高温になった排気で浄化装置を昇温させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-320386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、燃料の噴射量を増やしすぎるとエンジンの出力が大きくなりすぎてしまうため、増量可能な噴射量に限界があり、燃焼温度を十分に上昇させられないことがあった。また、噴射量を増量して燃焼温度を上昇させると、燃焼時に生成される窒素酸化物が増加してしまっていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、窒素酸化物の増加を抑制し、かつ燃焼温度を適切に昇温させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様においては、エンジンの複数の気筒のうち第一気筒群の排気弁の開閉を制御する排気弁制御部と、前記第一気筒群の排気、及び前記複数の気筒のうち前記第一気筒群と異なる第二気筒群の排気の前記エンジンの吸気管路への還流を制御する還流制御部と、前記複数の気筒の各々の燃焼室への燃料の噴射を制御する噴射制御部と、を有し、前記排気弁制御部が前記第一気筒群の圧縮工程中に前記第一気筒群の排気弁を開くように制御する場合、前記還流制御部は、前記第一気筒群の排気が前記吸気管路に還流せず、前記第二気筒群の排気が前記吸気管路に還流するように制御し、前記噴射制御部は、前記第一気筒群の燃焼室への燃料噴射を停止させ、かつ、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁が閉じている状態で前記第二気筒群の燃焼室に噴射させる燃料の第一噴射量よりも多い第二噴射量の燃料を、前記第二気筒群の燃焼室に噴射させる、動力システムを提供する。
【0007】
前記第一気筒群の排気を前記吸気管路に還流する第一還流管路と、前記第二気筒群の排気を前記吸気管路に還流する第二還流管路と、を有してもよい。
【0008】
前記噴射制御部は、前記第一気筒群の排気工程中に前記排気弁が開く場合、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁が開いている状態の前記エンジンに生じる負荷に応じた量だけ前記第一噴射量よりも多い前記第二噴射量の燃料を前記第二気筒群の燃焼室に噴射させてもよい。
【0009】
前記排気弁制御部は、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記第一気筒群の排気弁が開いていた第一開放時間と、前記第二気筒群の圧縮工程中に前記第二気筒群の排気弁が開いていた第二開放時間とを同じにしてもよい。
【0010】
前記排気弁制御部は、前記第一開放時間が前記第二開放時間よりも所定時間以上大きい場合、前記第二気筒群の圧縮工程中に前記第二気筒群の排気弁を開き、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記第一気筒群の排気弁を閉じた状態にすることで、前記第一開放時間と前記第二開放時間を同じにしてもよい。
【0011】
前記噴射制御部は、前記第一開放時間が前記第二開放時間よりも前記所定時間以上大きい場合、前記第二気筒群への燃料噴射を停止させ、圧縮工程中に排気弁が閉じている状態の前記第一気筒群の燃焼室に、前記第二気筒群の圧縮工程中に排気弁が閉じている状態で噴射させる燃料の第三噴射量よりも多い第四噴射量の燃料を噴射部に噴射させ、前記還流制御部は、圧縮工程中に排気弁が閉じている前記第一気筒群の排気を前記吸気管路に還流させ、かつ圧縮工程中に排気弁が開いている前記第二気筒群の排気を前記吸気管路に還流させなくてもよい。
【0012】
前記エンジンの冷却水の温度を取得する取得部を有し、前記排気弁制御部は、前記冷却水の温度が所定水温以下の場合に、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁を開いてもよい。
【0013】
前記エンジンの回転数を取得する取得部を有し、前記排気弁制御部は、前記回転数が所定回転数以下の場合に、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁を開いてもよい。
【0014】
前記取得部は、前記燃焼室に噴射する燃料の指示噴射量を取得し、前記排気弁制御部は、前記回転数が前記所定回転数以下であり、かつ前記指示噴射量が前記燃焼室に噴射可能な最大噴射量よりも小さい場合、前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁を開いてもよい。
【0015】
前記第一気筒群の圧縮工程中に前記排気弁が開く場合に前記第一気筒群のピストンへの潤滑油の供給を停止させる供給制御部を有してもよい。
【0016】
前記供給制御部は、前記第一気筒群のピストンへの前記潤滑油の供給が停止している場合、前記潤滑油を供給するポンプの吐出量を、前記第一気筒群のピストンへ前記潤滑油が供給されている場合の前記ポンプの吐出量よりも少なくしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、窒素酸化物の増加を抑制し、かつ燃焼温度を適切に昇温できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】動力システムの構成を説明するための図である。
図2】エンジンの気筒の模式図である。
図3】エンジン制御装置の構成を説明するための図である。
図4】圧縮工程中に排気弁を開く条件を説明するための図である。
図5】エンジンを昇温する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6】第二気筒群を圧縮開放する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】第一気筒群を圧縮開放する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[動力システムSの構成]
動力システムSは、エンジン1を用いた動力システムである。動力システムSは、エンジン1の温度がエンジン1の周辺の温度と同程度、もしくは周辺の温度以下の状態からエンジン1を始動させる冷間始動時に、エンジンやエンジンの排気を浄化する装置の昇温に係る時間を短くするためのシステムである。動力システムSの構成を、図1図2及び図3を用いて説明する。図1は、動力システムSの構成を説明するための図である。図2は、エンジン1の気筒の模式図である。図3は、エンジン制御装置6の構成を説明するための図である。動力システムSは、エンジン1と、吸気管路12と、排気管路3と、第一還流管路131と、第二還流管路132と、浄化装置34と、過給機16と、エンジン制御装置6と、を有する。また、エンジン1は、複数の気筒2を有する。
【0020】
エンジン1は、燃料と新気(空気)との混合気を燃焼、膨張させて、動力を発生させる内燃機関である。エンジン1は、例えば自動車や船舶に搭載されたディーゼルエンジンであるが、ガソリンエンジンでもよい。複数の気筒2は、第1気筒211、第2気筒212、第3気筒213及び第4気筒214の4つの気筒を含む。以下、第1気筒211、第2気筒212、第3気筒213及び第4気筒214を区別する必要がない場合、気筒2と言う。エンジン1の複数の気筒2のうちの第1気筒211及び第4気筒214は、第一気筒群21である。エンジン1の複数の気筒2のうちの第2気筒212及び第3気筒213は、第一気筒群21とは異なる第二気筒群22である。
【0021】
なお、本実施の形態における各気筒の燃焼順序は、第1気筒211、第3気筒213、第4気筒214、第2気筒212である。そのため、第1気筒211及び第4気筒214を第一気筒群21とし、第2気筒212及び第3気筒213を第二気筒群22とした。第一気筒群21及び第二気筒群22は、各気筒の燃焼順序に応じて変えてもよい。また、エンジン1の気筒の数に応じて変えてもよい。一例を挙げると、エンジン1が6つの気筒を有し、各気筒の燃焼順序が第1気筒、第5気筒、第3気筒、第6気筒、第2気筒、第4気筒である場合、第1気筒、第2気筒及び第3気筒を第一気筒群とし、第4気筒、第5気筒及び第6気筒を第二気筒群とする。
【0022】
気筒2は、吸気弁41、排気弁42、噴射部43及びピストン241を有する。吸気弁41及び排気弁42は、エンジン1の動作サイクルの開始時において閉じている。まず、ピストン241が下がるときに吸気弁41が開かれて、新気が気筒2内に吸い込まれる(吸気工程)。次に、ピストン241が下死点に至るときに吸気弁41が閉じて、ピストン241が上死点まで上昇するときに空気が圧縮される(圧縮工程)。続いて、噴射部43により燃料が噴射され、圧縮加熱された空気と混合した燃料が燃焼し、膨張した燃焼ガスによりピストン241が下死点まで押し下げられる(燃焼工程)。そして、慣性や他の気筒2での膨張に伴い、ピストン241が再度上死点まで上昇するときに排気弁42を開くことにより、燃焼ガスが気筒2外に押し出されて排気ガスとして排気管路3に排出される(排気工程)。
【0023】
気筒2には、オイルジェット51が設けられている。オイルジェット51は、エンジン制御装置6の制御により、ピストン241の下面に向けて潤滑油を噴射する。ポンプ52は、エンジン1の出力軸に連結されており、出力軸が回転することにより動作して、オイルジェット51に潤滑油を供給する。ポンプ52は、例えば潤滑油の吐出量を変更可能な可変容量ベーンポンプであるが、これに限定するものではない。
【0024】
吸気管路12は、エンジン1に新気を供給する管路である。吸気管路12は、各気筒2に対応するように分岐して、新気を各気筒2に供給するための管路である。吸気管路12には、インタークーラ143が設けられている。インタークーラ143は、エンジン1に供給される新気を冷却する。インタークーラ143は、エンジン1の冷却水又は外気と、新気とを熱交換させることで新気を冷却する熱交換器である。
【0025】
排気管路3は、エンジン1の排気を外部に排出するための管路である。排気管路3には、エンジン1に供給される新気を圧縮する過給機16のタービン162が設けられている。タービン162は、排気が通過することで回転する。タービン162は、過給機16のコンプレッサ161に連結されている。コンプレッサ161は、吸気管路12に設けられている。コンプレッサ161は、タービン162の回転に連動して回転することで、新気を圧縮して過給する。
【0026】
排気管路3は、第1管路31と、第2管路32と、第3管路33とを有する。第1管路31は、第一気筒群21と接続し、第一気筒群21の排気をタービン162に供給するための管路である。第2管路32は、第二気筒群22と接続し、第二気筒群22の排気をタービン162に供給するための管路である。第3管路33は、タービン162を通過した排気を外部に排出するための管路である。
【0027】
第一還流管路131は、第1管路31と吸気管路12を接続し、第一気筒群21の排気を吸気管路12に還流するための管路である。第一還流管路131には、排気冷却器141が設けられている。排気冷却器141は、第一気筒群21の排気と、エンジン1の冷却水又は外気とを熱交換させることで、第一気筒群21の排気を冷却する熱交換器である。第一還流管路131における吸気管路12と排気冷却器141の間には、第一制御弁151が設けられている。第一制御弁151は、吸気管路12へ流れる第一気筒群21の排気の流量を調整する。第一制御弁151は、エンジン制御装置6の制御により、流路の面積を調整する調整弁が作動することにより、流路の面積が調整されて第一制御弁151を通過する第一気筒群21の排気の流量が調整される。
【0028】
第二還流管路132は、第2管路32と吸気管路12を接続し、第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流するための管路である。第二還流管路132には、排気冷却器142が設けられている。排気冷却器142は、第二気筒群22の排気と、エンジン1の冷却水又は外気とを熱交換させることで、第二気筒群22の排気を冷却する熱交換器である。第二還流管路132における吸気管路12と排気冷却器142の間には、第二制御弁152が設けられている。第二制御弁152は、吸気管路12へ流れる第二気筒群22の排気の流量を調整する。第二制御弁152は、エンジン制御装置6の制御により、流路の面積を調整する調整弁が作動することにより、流路の面積が調整されて第二制御弁152を通過する第二気筒群22の排気の流量が調整される。
【0029】
第3管路33には、浄化装置34が設けられている。浄化装置34は、エンジン1の排気を浄化する。浄化装置34は、例えばDPD(ディーゼル・パティキュレート・ディフューザー)や選択触媒還元脱硝装置(いわゆる尿素SCR(Selective Catalytic Reduction))であるが、これに限定するものではない。DPDは、排気中の粒子状物質(例えば煤)を除去する浄化装置である。DPDは、粒子状物質を捕集するフィルタを有している。選択触媒還元脱硝装置は、排気中の窒素酸化物を低減する浄化装置である。選択触媒還元脱硝装置は、アンモニアの前駆体である尿素水を、第3管路33を流れる排気に噴射することにより、窒素酸化物とアンモニアとを反応させて、窒素と水に還元させる。
【0030】
エンジン制御装置6は、エンジン1を制御するECU(Electronic Control Unit)である。エンジン制御装置6は、エンジン1の冷間始動時に、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開くことで、エンジン1に負荷をかける。さらに、エンジン制御装置6は、第二気筒群22の燃焼室242に噴射させる燃料の量を、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開放しない場合よりも増やす。また、エンジン1が冷間始動でない、所謂通常の使用状態では、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開いたり、第二気筒群22の燃焼室242に噴射させる燃料の量を増やしたりする制御を行わない。上述のように制御することにより、エンジン制御装置6は、エンジン1の実出力を大きくすることなく、適切に燃焼温度を上昇させることができる。
【0031】
また、エンジン制御装置6は、エンジン1の冷間始動時に第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開く場合、第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流させ、第一気筒群21から排出される未燃焼の新気(空気)を還流させない。言い換えると、エンジン制御装置6は、エンジン1の冷間始動時に第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開く制御を実施する間、第一気筒群21から排出される未燃焼の新気を還流させない。具体的には、エンジン制御装置6は、第一制御弁151を開き、第二制御弁152を閉じることにより、第一気筒群21の排気を吸気管路12に還流させ、かつ第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流させない。
【0032】
これにより、エンジン制御装置6は、第二気筒群22の燃焼室242に供給される新気と排気の混合気体の酸素濃度を低下させることが可能になり、生成される窒素酸化物の増加を抑制できる。
以下、エンジン制御装置6の具体的な構成を説明する。
【0033】
エンジン制御装置6は、記憶部61及び制御部62を有する。記憶部61は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスク等を含む記憶媒体である。記憶部61は、制御部62が実行するプログラムを記憶する。
【0034】
制御部62は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む計算リソースである。制御部62は、記憶部61に記憶されたプログラムを実行することにより、取得部621、排気弁制御部622、噴射制御部623、還流制御部624及び供給制御部625としての機能を実現する。
【0035】
取得部621は、動力システムSに関する情報を取得するセンサ群11から、当該情報を取得する。例えば、センサ群11は、エンジン1の回転数を取得するセンサ、及びエンジン1の冷却水の温度を取得するセンサを含む。取得部621は、エンジン1の回転数とエンジン1の冷却水の温度とをセンサ群11から取得する。
【0036】
取得部621は、燃焼室242に噴射する燃料の指示噴射量を取得する。例えば、取得部621は、エンジン1の出力を制御する操作部の操作量に応じた指示噴射量を取得する。具体例を挙げると、エンジン1が車両に搭載されている場合、取得部621は、操作部であるアクセルペダルの踏込量が大きいほど大きい指示噴射量を取得する。また、取得部621は、エンジン1に対する要求トルクに応じた指示噴射量を取得してもよい。この場合、取得部621は、要求トルクが大きいほど大きい指示噴射量を取得する。
【0037】
排気弁制御部622は、複数の気筒2の排気弁42の開閉を制御する。排気弁制御部622は、エンジン1の動作サイクルの工程に応じて、複数の気筒2の各々の排気弁42の開閉制御を行う。また、排気弁制御部622は、エンジン1の動作状態に応じて、動作サイクルの工程における排気弁42の開閉制御を行う。動作状態は、例えば、エンジン1が冷間始動状態であるか、通常の動作状態であるかを含む。例えば、排気弁制御部622は、第一気筒群21(第1気筒211及び第4気筒214)の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42の開閉を制御する。具体的には、エンジン1の冷間始動時に、排気弁制御部622は、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開き、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開く場合には第二気筒群22(第2気筒212及び第3気筒213)の圧縮工程中に排気弁42を閉じた状態にする。
【0038】
排気弁制御部622は、冷却水の温度に基づいて、エンジン1の冷間始動時であるか否かを判定する。冷却水の温度が低い場合、エンジン1や浄化装置34の温度が上がっていない状態であると考えられる。そこで、排気弁制御部622は、冷却水の温度が所定水温以下の場合に、エンジン1の冷間始動時であると判定して第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開く。所定水温は、適宜定めればよく、例えば摂氏0度であるが、これに限定するものではない。所定水温は、外気の温度であってもよい。排気弁制御部622は、冷却水の温度が外気温センサが検出した外気の温度以下である場合に、冷間始動時であると判定する。このようにすることで、排気弁制御部622は、冷却水の温度が低く、エンジン1や浄化装置34を昇温する必要がある場合にエンジン1に負荷をかけて、第二気筒群22に噴射する燃料の量を増加可能な状態にできる。
【0039】
噴射制御部623は、第一気筒群21及び第二気筒群22の各噴射部43を制御して、第一気筒群21及び第二気筒群22の燃焼室242への燃料の噴射を制御する。例えば、噴射制御部623は、第一気筒群21の噴射部43を制御して、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が開く場合、第一気筒群21の燃焼室242への燃料噴射を停止させる。これにより、噴射制御部623は、圧縮工程中に排気弁42が開くため、混合気の温度が燃焼可能な温度にならない第一気筒群21の燃焼室242への燃料噴射を抑制できる。
【0040】
噴射制御部623は、第一気筒群21の排気工程中に排気弁42が開く場合、第一噴射量よりも多い第二噴射量の燃料を、第二気筒群22の燃焼室242に噴射させる。第一噴射量は、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が閉じている状態で第二気筒群22の燃焼室242に噴射させる燃料の量である。具体的には、噴射制御部623は、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が開いている状態のエンジン1に生じる負荷に応じて第二噴射量を決定する。より具体的には、噴射制御部623は、第一噴射量に第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が開いている状態のエンジン1に生じる負荷に応じた量を加えて、第二噴射量を決定する。噴射制御部623は、噴射部43を制御して、決定した第二噴射量の燃料を第二気筒群22の燃焼室242に噴射させる。
【0041】
第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42が開く場合、エンジン1に負荷がかかる。つまり、燃焼室内の空気の圧力が減少した状態で膨張行程が行われることにより、エンジン1に負の仕事が発生するため、エンジン1に負荷がかかる。そして、噴射制御部623は、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42が開くことによる負荷がかかったエンジン1の第二気筒群22に噴射する燃料の量を増量する。例えば、噴射制御部623は、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42が開かれることによりエンジン1に生じた負の仕事を相殺できる分だけ、第二気筒群22の燃焼室242に噴射する燃料の量を増量する。これにより、噴射制御部623は、実質的なエンジン1の出力の増加を抑制しつつ、第二気筒群22の燃焼室242に噴射させる燃料の量を増加できる。その結果、混合気の燃焼温度が上昇し、エンジン1の温度が上昇しやすくなる。また、第二気筒群22の排気の温度も上昇するため、浄化装置34の温度が上昇しやすくなる。
【0042】
還流制御部624は、第一気筒群21の排気及び第二気筒群22の排気の還流を制御する。例えば、還流制御部624は、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が開く場合、第二気筒群22の排気を第二還流管路132に供給させることで吸気管路12に還流させる。還流制御部624は、第一気筒群21の排気を第一還流管路131に供給させないことで吸気管路12に還流させない。具体的には、還流制御部624は、第二制御弁152を開くことで第二気筒群22の排気を第二還流管路132に供給させ、第一制御弁151を閉じることで第一気筒群21の排気を第一還流管路131に供給させない。
【0043】
なお、還流制御部624は、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が開く場合、吸気管路12に還流される第一気筒群21の排気の量を減少させてもよい。例えば、還流制御部624は、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が開く場合の第一制御弁151の開度を、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が閉じている場合の第一制御弁151の開度よりも小さくする。
【0044】
このように、還流制御部624は、新気よりも酸素濃度が低い第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流させる。これにより、還流制御部624は、第二気筒群22の燃焼室242に供給される新気と排気の混合気体における酸素濃度を低下させるので、燃焼時に生成される窒素酸化物の増加を抑制できる。また、還流制御部624は、酸素濃度が排気よりも高い第一気筒群21から排出された空気(新気)を吸気管路12に還流させないので、第二気筒群22の燃焼室242に混合気体の酸素濃度の上昇を抑制し、燃焼時に生成される窒素酸化物の増加を抑制できる。
【0045】
排気弁制御部622は、エンジン1の状態が所定の条件を満たしている場合に、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開いてもよい。図4は、圧縮工程中に排気弁42を開く条件を説明するための図である。図4の横軸はエンジン1の回転数Rを示し、縦軸はエンジン1の燃焼室242に噴射させる燃料の指示噴射量Qを示す。
【0046】
エンジン1の回転数Rが所定回転数R1以下の場合、回転数Rが所定回転数R1よりも大きい場合よりも単位時間当たりの燃焼回数が少ないので、エンジン1の温度や排気の温度が上がりにくい。そのため、排気弁制御部622は、エンジン1の回転数Rが所定回転数R1以下の場合に第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開く。所定回転数R1は、エンジン1の仕様や実験などにより適宜定めればよい。所定回転数R1の具体的な値は、ディーゼルエンジンの場合、例えば毎分2000回転であるが、これに限定するものではない。これにより、排気弁制御部622は、エンジン1の温度や排気の温度が上がりにくい状況で、燃焼室242内の燃焼温度を上昇しやすくできる。
【0047】
エンジン1に大きな負荷がかかっている状態で、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が開かれる場合、過剰な負荷がエンジン1にかかってしまう。そこで、排気弁制御部622は、エンジン1の回転数Rが所定回転数R1以下であり、かつ指示噴射量Qが燃焼室242に噴射可能な最大噴射量Mよりも小さい場合に第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を開く。具体的には、排気弁制御部622は、指示噴射量Qが判定閾値N以下の場合に、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開く。
【0048】
判定閾値Nは、エンジン1の燃焼室242に噴射可能な最大噴射量Mよりも小さい。具体的には、排気弁制御部622は、最大噴射量Mよりも所定値Dだけ小さい判定閾値Nを決定する。所定値Dは、例えばエンジン1の仕様や実験などにより定められている。判定閾値Nの具体的な値は、最大噴射量Mの5分の1(20パーセント相当)であるがこれに限定するものではない。
【0049】
排気弁制御部622は、判定閾値N以下の斜線で塗りつぶした領域に、指示噴射量Qが含まれている場合に、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を開く。このようにすることで、排気弁制御部622は、大きな負荷がかかっている状態のエンジン1に、圧縮工程中に排気弁42を開くことによる負荷をかけることを抑制できるので、エンジン1に過剰な負荷がかかることを抑制できる。
【0050】
なお、本実施の形態において、判定閾値Nは、回転数Rに応じて定められているとする。例えば、記憶部61は、回転数Rと判定閾値Nを関連付けたデータテーブルとを記憶している。取得部621は、記憶部61を参照して、取得された回転数Rに対応する判定閾値Nを取得する。そして、排気弁制御部622は、取得された指示噴射量Qが、取得された回転数Rに対応する判定閾値N以下であるか否かを判定する。排気弁制御部622は、指示噴射量Qが判定閾値N以下の場合に第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開く。排気弁制御部622は、指示噴射量Qが判定閾値Nよりも大きい場合、第一気筒群21の圧縮工程中において排気弁42が閉じた状態を維持する。
【0051】
ところで、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を開き、第二気筒群22の圧縮工程中に第二気筒群22の排気弁42を開かないでいると、第二気筒群22のピストン241や気筒2の内壁が摩耗したり、第二気筒群22が過熱して第二気筒群22の噴射部43が破損したりするおそれがある。
【0052】
そこで、排気弁制御部622は、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42が開いていた第一開放時間と、第二気筒群22の圧縮工程中に第二気筒群22の排気弁42が開いていた第二開放時間とを同じにする。具体的には、排気弁制御部622は、第一開放時間が第二開放時間よりも所定時間以上大きい場合、第二気筒群22の圧縮工程中に第二気筒群22の排気弁42を開き、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を閉じた状態にする。所定時間は、気筒2の仕様や実験などにより適宜定めればよく、例えば60秒であるが、これに限定するものではない。これにより、排気弁制御部622は、第一開放時間と第二開放時間の差が大きくなりすぎた場合に、第一開放時間と第二開放時間の差を小さくすることが可能になる。
【0053】
排気弁制御部622は、第一開放時間と第二開放時間の差が所定時間よりも小さい切替時間未満になるまで、第二気筒群22の圧縮工程中に第二気筒群22の排気弁42を開き、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を閉じた状態にする。切替時間は、例えば10秒であるが、これに限定するものではない。排気弁制御部622は、第一開放時間と第二開放時間の差が切替時間未満になった場合、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を開き、第二気筒群22の圧縮工程中に第二気筒群22の排気弁42を閉じた状態にする。このように、排気弁制御部622は、圧縮工程中に排気弁42を開く気筒群を切り替えることで、第一開放時間と第二開放時間を同じにすることができる。
【0054】
排気弁制御部622が圧縮工程中に排気弁42を開く気筒群を切り替えた場合、燃料を噴射させる気筒群も切り替える必要がある。噴射制御部623は、第一開放時間が第二開放時間よりも所定時間以上大きい場合、第二気筒群22への燃料噴射を停止させる。噴射制御部623は、第二気筒群22への燃料噴射を停止させた場合、圧縮工程中に排気弁42が閉じている状態の第一気筒群21の燃焼室242に、第三噴射量よりも多い第四噴射量の燃料を第一気筒群21の燃焼室242に噴射させる。第三噴射量は、第二気筒群22の圧縮工程中に排気弁42が閉じている状態で噴射させる燃料の量である。このように、噴射制御部623は、排気弁制御部622が圧縮工程中に排気弁42を開く気筒群の切替に応じて、燃料噴射を停止する気筒群と噴射量を増量して燃料を噴射させる気筒群とを切り替えることができる。
【0055】
排気弁制御部622が圧縮工程中に排気弁42を開く気筒群を切り替えた場合、排気を還流する気筒群も切り替える必要がある。還流制御部624は、第一開放時間が第二開放時間よりも所定時間以上大きい場合、圧縮工程中に排気弁42が閉じている第一気筒群21の排気を吸気管路12に還流させ、かつ圧縮工程中に排気弁42が開いている第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流させない。具体的には、還流制御部624は、第一制御弁151を開き、第二制御弁152を閉じることにより、第一気筒群21の排気を吸気管路12に還流させ、かつ第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流させない。このように、還流制御部624は、排気弁制御部622が圧縮工程中に排気弁42を開く気筒群の切替えに応じて、排気を還流する気筒群を切り替えることができる。
【0056】
排気弁制御部622は、冷却水の温度が所定値以下の間、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を開く。排気弁制御部622は、冷却水の温度が所定水温よりも大きくなった場合、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を閉じた状態にして、圧縮工程中に排気弁42を開かない。具体的には、排気弁制御部622は、冷却水の温度が所定水温よりも大きい判定温度以上の場合、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を閉じた状態にする。判定温度は、エンジン1の仕様や実験により定めればよく、例えば摂氏40度であるが、これに限定するものではない。このようすることで、排気弁制御部622は、エンジン1や浄化装置34の温度が十分に昇温するまでの間、エンジン1や浄化装置34の温度を昇温しやすい状態にできる。
【0057】
上述した通り、冷却水温度と、エンジン1又は浄化装置34の温度とは対応しているので、排気弁制御部622は、冷却水の温度に基づいてエンジン1又は浄化装置34の温度が低い状態であるか否かを判定する。しかし、これに限らず、排気弁制御部622は、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を開く制御を実行するか否かを、冷却水の温度以外の手段で判定してもよい。例えば、排気弁制御部622は、エンジン1又は浄化装置34の温度が、外気温よりも低いか否かに応じて冷間始動時であるか否かを判定する。また、エンジン1が停止してから経過した停止時間の長さが長いほど、エンジン1の温度は低下して外気温に近づく。そこで、排気弁制御部622は、停止時間が所定時間以上である場合、冷間始動時であると判定し、停止時間が所定時間未満である場合、冷間始動時でないと判定する。所定時間は、例えば10時間であるが、これに限定するものではない。
【0058】
上記のとおり、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開く場合、第一気筒群21の燃焼室242には燃料が噴射されない。燃料が噴射されない場合、第一気筒群21のピストン241に潤滑油を噴射する必要がない。そこで、供給制御部625は、圧縮工程中に排気弁42が開く第一気筒群21のピストン241への潤滑油を供給しない。具体的には、供給制御部625は、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が開く場合には、第一気筒群21のピストン241への潤滑油の供給を停止させる。より具体的には、供給制御部625は、オイルジェット51による潤滑油の噴射を停止させる。これにより、供給制御部625は、不要な潤滑油の供給を抑制できる。
【0059】
供給制御部625は、第一気筒群21のピストン241への潤滑油の供給が停止している場合、ポンプ52の吐出量を、第一気筒群21のピストン241へ潤滑油が供給されている場合のポンプ52の吐出量よりも少なくする。これにより、供給制御部625は、ポンプ52に過剰な負荷がかかることを抑制でき、ポンプ52を適切な負荷で動作させることが可能になり、ポンプ52が故障するおそれを低減できる。また、ポンプ52にかかる負荷が低減されるので、エンジン1の負荷が低減されることにより、エンジン1や浄化装置34を昇温する処理を実行中の燃料の消費量が低減される。
【0060】
[エンジン1を昇温する処理]
図5は、エンジン1を昇温する処理の流れの一例を示すフローチャートである。エンジン1を昇温する処理は、動作していないエンジン1が始動する場合に実行される。また、取得部621は、エンジン1の冷却水の温度、回転数R及び指示噴射量Qを取得しているものとする。
【0061】
排気弁制御部622は、冷却水の温度が所定水温以下か否かを判定する(ステップS1)。具体的には、排気弁制御部622は、冷却水の温度が所定水温以下か否かを判定することで、エンジン1が冷間始動時か否かを判定する。排気弁制御部622は、冷却水の温度が所定水温よりも高い場合(ステップS1でNo)、エンジン1が冷間始動時ではなく、エンジン1の昇温が不要であるため、エンジン1を昇温する処理を終了する。排気弁制御部622は、エンジン1が停止してから経過した停止時間が所定時間以上か否かに基づいてエンジン1が冷間始動時であるか否かを判定してもよい。
【0062】
排気弁制御部622は、冷却水の温度が所定水温以下の場合(ステップS1でYes)、エンジン1が冷間始動時であると判定する。排気弁制御部622は、エンジン1が冷間始動時出る場合、エンジン1の回転数Rが所定回転数R1以下か否かを判定する(ステップS2)。排気弁制御部622は、エンジン1の回転数Rが所定回転数R1よりも大きい場合(ステップS2でNo)、単位時間あたりの燃焼回数が多くエンジン1が昇温しやすい状況であるため、エンジン1を昇温する処理を終了する。
【0063】
排気弁制御部622は、エンジン1の回転数Rが所定回転数R1以下の場合(ステップS2でYes)、指示噴射量Qが判定閾値N以下か否かを判定する(ステップS3)。排気弁制御部622は、指示噴射量Qが判定閾値Nよりも大きい場合(ステップS3でNo)、噴射される燃料の量が多くエンジン1が昇温しやすい状況であるため、エンジン1を昇温する処理を終了する。
【0064】
排気弁制御部622は、指示噴射量Qが判定閾値N以下の場合(ステップS3でYes)、第一開放時間が第二開放時間よりも所定時間以上大きいか否かを判定する(ステップS4)。具体的には、排気弁制御部622は、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42が開いていた第一開放時間が、第二気筒群22の圧縮工程中に第二気筒群22の排気弁42を開いていた第二開放時間よりも所定時間以上大きいか否かを判定する。
【0065】
排気弁制御部622は、第一開放時間が第二開放時間よりも所定時間以上大きい場合(ステップS4でYes)、第二気筒群22を圧縮開放する処理を実行する(ステップS5)。図6は、第二気筒群22を圧縮開放する処理の流れの一例を示すフローチャートである。噴射制御部623は、第二気筒群22の燃焼室242への燃料噴射を停止させる(ステップS51)。排気弁制御部622は、第二気筒群22の圧縮工程中に第二気筒群22の排気弁42を開く(ステップS52)。具体的には、排気弁制御部622は、第二気筒群22の圧縮工程中に第二気筒群22の排気弁42を開き、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を閉じた状態にする。
【0066】
還流制御部624は、第二気筒群22の圧縮工程中に第二気筒群22の排気弁42が開く場合、第一気筒群21の排気を吸気管路12に還流する(ステップS53)。具体的には、還流制御部624は、第一制御弁151を開いて第一気筒群21の排気を吸気管路12に還流させ、第二制御弁152を閉じて第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流させない。
【0067】
噴射制御部623は、第一気筒群21の燃焼室242に第四噴射量の燃料を噴射させる(ステップS54)。具体的には、噴射制御部623は、第一気筒群21の噴射部43を制御して、第一気筒群21の燃焼室242に、第二気筒群22の圧縮工程中に排気弁42が閉じている状態で噴射させる燃料の第三噴射量よりも多い第四噴射量の燃料を噴射させる。
【0068】
排気弁制御部622は、第一開放時間が第二開放時間よりも所定時間以上大きくない、言い換えると、第一開放時間が第二開放時間よりも大きく、かつ第一開放時間と第二開放時間の差が所定時間未満の場合(ステップS4でNo)、第一気筒群21を圧縮開放する処理を実行する(ステップS6)。図7は、第一気筒群21を圧縮開放する処理の流れの一例を示すフローチャートである。噴射制御部623は、第一気筒群21の燃焼室242への燃料噴射を停止させる(ステップS61)。排気弁制御部622は、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を開く(ステップS62)。具体的には、排気弁制御部622は、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開き、第二気筒群22の圧縮工程中に排気弁42を閉じた状態にする。
【0069】
還流制御部624は、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42が開く場合、第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流する(ステップS63)。具体的には、還流制御部624は、第二制御弁152を開いて第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流させ、第一制御弁151を閉じて第一気筒群21の排気を吸気管路12に還流させない。
【0070】
噴射制御部623は、第二気筒群22の燃焼室242に第二噴射量の燃料を噴射させる(ステップS64)。具体的には、噴射制御部623は、第二気筒群22の噴射部43を制御して、第二気筒群22の燃焼室242に、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が閉じている状態で噴射させる燃料の第一噴射量よりも多い第二噴射量の燃料を噴射させる。
【0071】
(変形例1)
上記の実施の形態の取得部621は、エンジン1の冷却水の温度を取得したが、これに限らず、浄化装置34の温度を取得してもよい。この場合、排気弁制御部622は、浄化装置34の温度が、浄化装置34が活性化して排気を浄化可能になる活性温度未満の場合に、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を開く。
【0072】
(変形例2)
上記の実施の形態の動力システムSは、第一制御弁151及び第二制御弁152を有していたが、これに限らず、三方弁を有していてもよい。例えば、動力システムSは、第一制御弁151に替えて第一還流管路131が第1管路31から分岐する分岐点に、第一気筒群21の排気を第一還流管路131に供給するか否かを切替え可能な第1三方弁を有する。噴射制御部623は、第1三方弁を制御して、第一気筒群21の排気を第一還流管路131に供給するか否かを切り替える。また、動力システムSは、第二制御弁152に替えて、第二還流管路132が第2管路32から分岐する分岐点に、第二気筒群22の排気を第二還流管路132に供給するか否かを切替え可能な第2三方弁を有する。噴射制御部623は、第2三方弁を制御して、第二気筒群22の排気を第二還流管路132に供給するか否かを切り替える。
【0073】
[動力システムSの効果]
以上説明したとおり、実施の形態に係る動力システムSは、エンジン1の複数の気筒2のうちの第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を開き、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が開く場合、第一気筒群21の燃焼室242への燃料噴射を停止させる。そして、動力システムSは、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42が閉じている状態で第二気筒群22の燃焼室242に噴射させる燃料の第一噴射量よりも多い第二噴射量の燃料を、第二気筒群22の燃焼室242に噴射させる。
【0074】
このように、動力システムSは、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開くので、エンジン1に負荷をかけることができる。そして、動力システムSは、第一気筒群21の排気弁42を開くことによりエンジン1にかかる負荷の分だけ、第二気筒群22の燃焼室242に噴射する燃料の量を多くすることが可能になる。これにより、動力システムSは、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を閉じている場合よりも、第二気筒群22の燃焼室242に噴射する燃料の量を多くすることができる。その結果、第二気筒群22の燃焼室242での燃焼温度や排気の温度が上昇するので、エンジン1や浄化装置34が昇温しやすくなり、エンジン1及び浄化装置34の昇温にかかる時間が短くなる。
【0075】
また、動力システムSは、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42を開く場合、第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流させ、かつ第一気筒群21の排気を吸気管路12に還流させない。これにより、動力システムSは、第一気筒群21から排出された未燃焼の新気(空気)が吸気管路12に還流されることを抑制し、第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流できる。その結果、動力システムSは、第二気筒群22に供給される新気の酸素濃度を低下できるので、窒素酸化物の増加を抑制できる。なお、第一気筒群21は、燃料が噴射されないので、第一気筒群21の燃焼室242では燃焼が生じない。そのため、第一気筒群21では窒素酸化物が生成されないので、動力システムSは、第一気筒群21での窒素酸化物の生成を抑制できる。
【0076】
つまり、動力システムSは、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42を開き、第二気筒群22への燃料噴射量を増加し、第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流し、かつ第一気筒群21の排気を吸気管路12に還流しない。このようにすることで、動力システムは、窒素酸化物の増加を抑制し、かつ燃焼温度を適切に昇温させることが可能になる。その結果、動力システムSは、発生する窒素酸化物を増加させないようにしながら、エンジン1の昇温にかかる時間を短くできる。
【0077】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0078】
1 エンジン
3 排気管路
12 吸気管路
16 過給機
161 コンプレッサ
162 タービン
31 第1管路
32 第2管路
33 第3管路
34 浄化装置
41 吸気弁
42 排気弁
43 噴射部
51 オイルジェット
52 ポンプ
131 第一還流管路
132 第二還流管路
141 排気冷却器
142 排気冷却器
143 インタークーラ
151 第一制御弁
152 第二制御弁
21 第一気筒群
22 第二気筒群
211 第1気筒
212 第2気筒
213 第3気筒
214 第4気筒
241 ピストン
242 燃焼室
6 エンジン制御装置
61 記憶部
62 制御部
621 取得部
622 排気弁制御部
623 噴射制御部
624 還流制御部
625 供給制御部
【要約】
【課題】窒素酸化物の増加を抑制し、かつ燃焼温度を適切に昇温させる。
【解決手段】動力システムSは、第一気筒群21の圧縮工程中に第一気筒群21の排気弁42の開閉を制御する排気弁制御部622と、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が開く場合、第二気筒群22の排気を吸気管路12に還流させ、かつ第一気筒群21の排気を吸気管路12に還流させない還流制御部624と、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が開く場合、第一気筒群21の燃焼室242への燃料噴射を停止させ、第一気筒群21の圧縮工程中に排気弁42が閉じている状態で第二気筒群22の燃焼室242に噴射させる燃料の第一噴射量よりも多い第二噴射量の燃料を、第二気筒群22の燃焼室242に噴射させる噴射制御部623と、を有する。
【選択図】図3


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7