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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】液体循環装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/12 20060101AFI20241203BHJP
   B23Q 11/14 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
B23Q11/12 C
B23Q11/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023505028
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021009952
(87)【国際公開番号】W WO2022190338
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 雄司
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-63945(JP,A)
【文献】特開2019-76999(JP,A)
【文献】特開平10-156661(JP,A)
【文献】特開平10-80839(JP,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2017-0004149(KR,U)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0082153(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/12
B23Q 11/14
F25D 17/00
F28D 15/00
F28D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定配置される固定部材と、
前記固定部材に対し移動可能に配置される移動部材と、
前記移動部材に設けられ、前記移動部材と共に移動可能な第1熱交換器と、
前記固定部材に設けられる第2熱交換器と、
大気開放されている前記移動部材の第1発熱部と前記第1熱交換器との間で第1循環液が循環する第1循環経路と、
密封されている前記移動部材の第2発熱部と前記第2熱交換器との間で第2循環液が循環する第2循環経路と、
を備え、
前記第1循環経路のうち前記第1発熱部の排出部から前記第1熱交換器を通って前記第1発熱部の供給部に至るまで前記第1循環液を圧送し、前記第2循環経路にて前記第2循環液を圧送する、液体循環装置。
【請求項2】
前記第2循環経路は、前記移動部材の第2発熱部と前記第1熱交換器と前記第2熱交換器との間で第2循環液が循環するように設けられ、前記第1熱交換器にて前記第1循環液と前記第2循環液との間で熱交換を行う、請求項1に記載の液体循環装置。
【請求項3】
前記移動部材は、回転工具を保持して回転駆動される主軸を備える主軸装置である、請求項1又は2に記載の液体循環装置。
【請求項4】
前記主軸装置は、
前記第1発熱部として前記主軸を回転させる回転駆動部を構成する減速機と、
前記第2発熱部として前記主軸を回転可能に支持する軸受と、
を備え、
前記第1循環液は、前記減速機を潤滑及び冷却し、前記第2循環液は、前記軸受を冷却する、請求項3に記載の液体循環装置。
【請求項5】
前記第1循環経路は、前記主軸を回転させる回転駆動部を構成する主軸モータの冷却用のファンの近傍を通過するように設けられ、前記ファンは、送風により前記第1循環経路を通る前記第1循環液を冷却する、請求項3又は4に記載の液体循環装置。
【請求項6】
前記第1熱交換器は、前記第1循環液を貯留するタンクを備える、請求項1-5の何れか一項に記載の液体循環装置。
【請求項7】
前記移動部材は、前記第1循環液を前記第1循環経路を通して前記第1発熱部に圧送するポンプを備える、請求項1-6の何れか一項に記載の液体循環装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばマシニングセンタに設けられる液体循環装置は、主軸装置の主軸を回転させる回転駆動部を構成する減速機のギヤの潤滑や冷却のため(特許文献1,2,3参照)、及び主軸を支持する軸受のジャケットの冷却のため(特許文献2,3参照)に循環液(冷却油、潤滑油)を循環させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平3-10737号公報
【文献】国際公開第2015/037139号
【文献】実開平5-2859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
主軸装置の主軸を支持する軸受は密封されておらず、循環経路も密封されていないため、循環液を圧送できない。軸受の外周部に設けられた循環経路は密封されているため、循環液を圧送できる。このため、循環経路をマシニングセンタにおいて自由に取り回すことができ、循環経路のコンパクト化が可能である。一方、主軸装置の主軸を回転させる回転駆動部を構成する減速機では、循環液を加圧すると減速機内に循環液が充満し、攪拌熱の増加や減速機外への液漏れが発生するおそれがある。
【0005】
そこで、減速機内は大気開放されており、循環液を自重により落下(自然落下)させている。しかし、自然落下が可能な循環経路が必要となるため、循環経路はマシニングセンタにおいて広いスペースを占有することになり、マシニングセンタのカバーが大型化してコスト増を招く問題がある。
【0006】
本発明は、循環液の循環経路のコンパクト化が可能な液体循環装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体循環装置は、固定配置される固定部材と、前記固定部材に対し移動可能に配置される移動部材と、前記移動部材に設けられ、前記移動部材と共に移動可能な第1熱交換器と、前記固定部材に設けられる第2熱交換器と、大気開放されている前記移動部材の第1発熱部と前記第1熱交換器との間で第1循環液が循環する第1循環経路と、密封されている前記移動部材の第2発熱部と前記第2熱交換器との間で第2循環液が循環する第2循環経路と、を備え、前記第1循環経路のうち前記第1発熱部の排出部から前記第1熱交換器を通って前記第1発熱部の供給部に至るまで前記第1循環液を圧送し、前記第2循環経路にて前記第2循環液を圧送する。
【0008】
この液体循環装置は、第1熱交換器と第2熱交換器を備えており、各熱交換器は、分離された第1循環経路と第2循環経路に設けられている。第1熱交換器は、移動部材に設けられており、液体循環装置は、第1循環液を第1循環経路の一部、すなわち移動部材の第1発熱部の排出部から第1熱交換器を通って第1発熱部の供給部に至るまで圧送し、第1循環経路の他部、すなわち第1発熱部では圧送しない。これにより、第1循環経路の一部を移動部材において自由に取り回すことができ、第1循環経路の一部のコンパクト化が可能となる。そして、第1循環経路の他部である大気開放されている第1発熱部では第1循環液を圧送しないので、第1発熱部における第1循環液の充満による発熱増や液漏れの発生を防止できる。さらに、液体循環装置は、第2循環液を密封されている移動部材の第2発熱部と第2熱交換器との間で循環する第2循環経路にて圧送するので、第2循環経路を自由に取り回すことができ、第2循環経路のコンパクト化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態の液体循環装置を備える工作機械の概略図である。
図2】液体循環装置の詳細構成を示す図である。
図3】液体循環装置の第1熱交換器の別形態の詳細構成を示す図である。
図4】工作機械の数値制御装置の制御動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.液体循環装置7を備える工作機械1の概略構成)
以下、本発明の実施形態の液体循環装置を備える工作機械について図面を参照しつつ説明する。工作機械としては、3軸マシニングセンタを例に挙げて説明する。つまり、当該工作機械は、駆動軸として相互に直交する3つの直進軸(X,Y,Z軸)を有する工作機械である。図1に示すように、工作機械1は、ベッド2、コラム3、サドル4、テーブル5、主軸装置6、液体循環装置7及び数値制御装置8等を備える。
【0011】
ベッド2は、床面Fに固定配置されており、上面にX軸方向(水平方向)に延在する一対のレール11及びX軸方向と直交するZ軸方向(水平方向)に延在する一対のレール12が設けられる。コラム3は、X軸モータ9によりベッド2に対してX軸方向に移動可能に一対のレール11に係合される。コラム3の前側面には、X軸方向及びZ軸方向と直交するY軸方向(垂直方向)に延在する一対のレール13が設けられる。
【0012】
サドル4は、Y軸モータ10によりコラム3に対してY軸方向に移動可能に一対のレール13に係合される。テーブル5は、Z軸モータ14によりベッド2に対してZ軸方向に移動可能に一対のレール12に係合される。テーブル5の上面には、工作物Wが図示しないクランプ装置により保持される。
【0013】
主軸装置6は、詳細は後述するが、サドル4に対してZ軸方向の前後に突出するように設けられる。主軸装置6は、主軸61を軸線回りに回転可能に支持する軸受62と、主軸61を軸線回りに回転させる回転駆動部である主軸モータ63及び減速機64を備える。軸受62は、主軸ハウジング65に内蔵され、主軸モータ63及び減速機64は、主軸ハウジング65、サドル4及びコラム3にかけて内蔵される。主軸61は、先端側(図1の左側)に回転工具Tを保持し、軸受62に支持されて主軸モータ63及び減速機64により回転駆動される。回転工具Tとしては、例えば、ボールエンドミル、エンドミル、ドリル、タップ等である。
【0014】
そして、主軸装置6は、X軸モータ9によるコラム3の移動に伴ってベッド2に対してX軸方向に移動する。さらに、主軸装置6は、Y軸モータ10によるサドル4の移動に伴ってベッド2に対してY軸方向に移動する。つまり、移動部材である主軸装置6は、固定部材であるベッド2に対し移動可能に配置される。また、テーブル5は、Z軸モータ14により主軸装置6に対してZ軸方向に移動する。
【0015】
液体循環装置7は、詳細は後述するが、第1熱交換器71及び第2熱交換器72を備える。第1熱交換器71は、主軸ハウジング65からコラム3側に張り出す主軸ブラケット66に取り付けられ、主軸装置6と共に移動可能に設けられる。第1熱交換器71は、主軸装置6の第1発熱部である減速機64のギヤの潤滑及び冷却に使用する第1循環液の熱交換(冷却)を行う。
【0016】
第2熱交換器72は、ベッド2を載置する固定部材である床面Fに設置される。第2熱交換器72の熱交換部72cには、図略のタンク内を通る螺旋状の管74Cが設けられる。螺旋状の管74Cは、一端に第2循環経路往路用ホース74Aが接続され、他端に第2循環経路復路用ホース74Bが接続される。
【0017】
第2熱交換器72から延びる第2循環経路往路用ホース74A及び第2循環経路復路用ホース74Bは、ベッド2の側面に配管されてベッド2とコラム3とを接続するX軸ケーブルベア(登録商標)74Dに送管される。そして、コラム3の内部に配管されてコラム3と主軸ブラケット66とを接続するY軸ケーブルベア(登録商標)74Eに送管される。
【0018】
そして、第2循環経路往路用ホース74Aは、第1熱交換器71を通って主軸装置6の第2発熱部である軸受62に至るように配管される。また、第2循環経路復路用ホース74Bは、軸受62に直接に至るように配管される。第2熱交換器72は、熱交換部72cのタンクに送られる冷媒液と、タンク内の螺旋状の管74C内を通る軸受62の冷却に使用する第2循環液との間で熱交換(冷却)を行う。
【0019】
数値制御装置8は、数値制御データに基づいて、主軸モータ63を駆動制御して回転工具Tを回転させるとともに、コラム3、サドル4及びテーブル5の各軸モータ9,10,14を駆動制御して工作物Wに対して回転工具Tを相対移動させて工作物Wの加工を行う。また、液体循環装置7を稼働して第1循環液及び第2循環液を循環させ、主軸装置6の減速機64のギヤの潤滑及び冷却を行うとともに主軸装置6の軸受62の冷却を行う。
【0020】
(2.主軸装置6及び液体循環装置7の詳細構成)
上述の主軸装置6及び液体循環装置7の詳細構成について図面を参照しつつ説明する。図2に示すように、主軸装置6は、主軸61、軸受62、主軸モータ63、減速機64、主軸ハウジング65、主軸ブラケット66及び円筒部材67を備える。軸受62は、主軸61を軸線回りに回転可能に支持する。主軸モータ63及び減速機64は、主軸61を軸線回りに回転させる。
【0021】
減速機64は、図略の太陽歯車、内歯車、遊星歯車及び遊星キャリアを有する遊星歯車式減速機64Aと、第1平歯車及び第2平歯車を有する平歯車式減速機64Bを備える。遊星歯車式減速機64Aは、太陽歯車が主軸モータ63に連結され、内歯車が減速機ハウジング64bに固定される。そして、遊星キャリアが平歯車式減速機64Bの第1平歯車に連結され、第1平歯車と噛み合う第2平歯車が主軸61に嵌め込まれる。
【0022】
円筒部材67は、主軸ハウジング65に設けられる断面円形の内部空間に嵌め込まれる。円筒部材67の内周には、軸受62が嵌め込まれる。円筒部材67の外周には、軸受62の軸受冷却ジャケット68として機能する螺旋状の螺旋溝67aが形成される。そして、螺旋溝67aの始端及び終端の近傍の主軸ハウジング65の内壁には、第2循環液が螺旋溝67aに流入及び流出する入口穴65a及び出口穴65bが形成される。
【0023】
主軸ハウジング65の内周と螺旋溝67a間には、螺旋状に連通する軸受冷却ジャケット68を構成し、軸受冷却ジャケット68の一端は入口穴65aに連通し、軸受冷却ジャケット68の他端は出口穴65bに連通し、軸受冷却ジャケット68に第2循環液が流れることによって、軸受冷却ジャケット68は円筒部材67を介して軸受62を冷却する。軸受冷却ジャケット68は、入口穴65aと出口穴65b以外には連通しない密閉された空間であり、第2循環液を圧送することが出来る。
【0024】
図2に示すように、液体循環装置7は、第1熱交換器71、第2熱交換器72、第1循環経路73(図示一点鎖線)及び第2循環経路74(図示二点鎖線)を備える。第1熱交換器71と第2熱交換器72は、分離された第1循環経路73と第2循環経路74にそれぞれ設けられている。
【0025】
第1熱交換器71は、詳細は後述するが、第1循環液を貯留する直方体状のタンク75と、タンク75内に収納され、第2循環液を通す第1熱交換用配管79とを備える。主軸装置6の第1発熱部である減速機64からタンク75に回収される第1循環液は加熱されているため、そのまま使い続けると第1循環液が高温となり、減速機64のギヤが潤滑不良を起こす可能性がある。これを防ぐため、第1熱交換器71は、タンク75内の第1循環液と第1熱交換用配管79内の第2循環液との間で熱交換(冷却)を行う。タンク75内には、第1循環液と第2循環液との接触を長時間にするための仕切り板75Aが設けられる。
【0026】
第2熱交換器72は、一般的な冷却装置(チラー)であり、第1循環液と冷却液との間で熱交換を行う熱交換部72cを有する。冷媒液は図略のポンプで圧縮され、熱交換部で膨張させることで冷却される。主軸装置6の第2発熱部である軸受62(軸受冷却ジャケット68)から回収される第2循環液は加熱されているため、そのまま使い続けると第2循環液が高温となり、軸受62が膨張し、転動不良を起こす可能性がある。これを防ぐため、第2熱交換器72は、第2循環液の冷却を行う。なお、本例では、第2熱交換器72は、固定部材である床面Fに設置する構成としたが、固定部材であるベッド2に設ける構成としてもよい。
【0027】
第1循環経路73は、第1熱交換器71のタンク75と主軸装置6の第1発熱部である遊星歯車式減速機64Aとの間で第1循環液が図示一点鎖線の矢印方向に循環するように配管される。詳しくは、第1熱交換器71で冷却される第1循環液は、タンク75に設けられる第1出液口73bからポンプ76で吸い上げられ、フィルタ77を介して減速機ハウジング64bの注液口64a(供給部)から遊星歯車式減速機64Aの内部に送り込まれる。
【0028】
そして、遊星歯車式減速機64Aの内部で加熱される第1循環液は、減速機ハウジング64bのドレンポート64c(排出部)から吸い出され、タンク75に設けられる第1注液口73aから第1熱交換器71内に送り込まれる。これにより、減速機64を除く第1循環経路73を主軸ブラケット66において自由に取り回すことができる。遊星歯車式減速機64Aの内部は、密閉された空間でないので、第1潤滑液を圧送出来ない。第1循環経路73を太くせざるを得ない。第1循環経路73をX軸ケーブルベア(登録商標)74D及びY軸ケーブルベア(登録商標)74Eに送管する従来の工作機械は、工作機械が大型化する。それに比べて本願の工作機械1はコンパクトに出来る効果がある。
【0029】
ポンプ76は、第1循環液の圧送が可能な一般的な電動式もしくはエア式の定量ポンプである。ポンプ76は、常時駆動されており、タンク75内の第1循環液を吸い上げて減速機ハウジング64bの内部に送り込む。そして、遊星歯車式減速機64Aのギヤで加熱される第1循環液は、減速機ハウジング64bのドレンポート64c(排出部)から自重により排出される。
【0030】
遊星歯車式減速機64Aの内部の第1潤滑液は自重により排出されるため、送り込まれる第1循環液は遊星歯車式減速機64Aの内部に溜まることはない。つまり、ポンプ76は、第1熱交換器71から減速機ハウジング64bの注液口64a(供給部)へ第1循環液を供給し、つまり低いところから高いところへ供給し、遊星歯車式減速機64Aの内部に第1循環液を圧送しない。
【0031】
よって、遊星歯車式減速機64Aの内部に第1循環液が充満することはなく、攪拌熱の増加や遊星歯車式減速機64Aの外部への液漏れの発生を防止できる。また、従来のように第1循環液の自重による落下(自然落下)が可能な広いスペースを必要とする循環経路を設ける必要はなく、X軸ケーブルベア(登録商標)74D及びY軸ケーブルベア(登録商標)74Eの大型化を回避でき、工作機械1のカバーの大型化によるコスト増を回避できる。
【0032】
フィルタ77は、第1循環液に含まれる減速機64で発生するギヤの磨耗粉の除去が可能な一般的なフィルタである。これにより、減速機ハウジング64bの内部に送り込まれる第1循環液にはギヤの磨耗粉が含まれていないので、減速機64のギヤの磨耗が促進されることを抑制できる。
【0033】
また、フィルタ77の目詰まりやポンプ76の故障、液漏れ等により、第1循環液が減速機ハウジング64bの内部に正常に供給されない事態が発生した場合、減速機64は潤滑異常で故障するおそれがある。そこで、フィルタ77の下流側には一般的な機械式もしくは電気式の圧力スイッチ78が設けられる。圧力スイッチ78は、第1循環液の供給圧力が設定値以下になったとき、数値制御装置8に異常信号を出し、主軸61を停止させる。即ち、主軸モータ63、第1熱交換機71、ポンプ76の駆動を停止する。
【0034】
また、フィルタ77から減速機64に至る第1循環経路73の一部の経路73A(図示点線の楕円形で囲まれる部分)は、主軸モータ63に備えられている冷却用のファン63Aの近傍に配管されてもよい。これにより、第1循環経路73の一部の経路73Aを流れる第1循環液は、ファン63Aにより空冷されるので、第1熱交換器71の負荷を減らし、第1熱交換器71のさらなる小型化及びコスト低減化を図ることが可能となる。
【0035】
第2循環経路74(第2循環経路往路用ホース74A及び第2循環経路復路用ホース74B)は、第2熱交換器72と第1熱交換器71と主軸装置6の第2発熱部である軸受62との間で第2循環液が図示二点鎖線の矢印方向に循環するように配管される。詳しくは、第2熱交換器72の熱交換部72cで冷却される第2循環液は、第2循環経路往路用ホース74Aの出液口72aから第1熱交換用配管79の第2注液口74bを通して第1熱交換器71に送り込まれる。
【0036】
第1熱交換器71で第1循環液と熱交換(加熱)される第2循環液は、第1熱交換用配管79の第2出液口74aから軸受62の軸受冷却ジャケット68、すなわち螺旋状の螺旋溝67aの入口穴65aから溝内に送り込まれる。そして、軸受62で加熱される第2循環液は、螺旋状の螺旋溝67aの出口穴65bから排出され、第2循環経路復路用ホース74Bの注液口72bから第2熱交換器72の熱交換部72c内に送り込まれる。つまり、第2熱交換器72は、軸受冷却ジャケット68が密封されているため、第2循環液を第2循環経路74において圧送する。これにより、第2循環経路74を細くでき、X軸ケーブルベア(登録商標)74D及びY軸ケーブルベア(登録商標)74Eの大型化を回避でき、工作機械1のカバーの大型化によるコスト増を回避できる。
【0037】
(3.第1熱交換器71の別形態の詳細構成)
第1熱交換器71の別形態の詳細構成について説明する。図3に示すように、この第1熱交換器71は、前述の第1熱交換用配管79の代わりにタンク75内が仕切られて循環経路が設けられた構成となっている。タンク75の上面75aには、第1循環液の第1出液口73b及び第1注液口73aが水平方向(Z軸方向)に離間して設けられる。タンク75の左側面75bには、第2循環液の第2出液口74a及び第2注液口74bが垂直方向(Y軸方向)に離間して設けられる。タンク75の内部は、垂直方向(Y軸方向)に延びる互いに離間した複数(本例では7つ)の仕切り板75e1-75e7で、連通する複数(本例では6つ)の室75f1-75f6に区分される。
【0038】
つまり、室75f1は、第1注液口73bを有し、仕切り板75e1と仕切り板75e2とで区分される。室75f2は、仕切り板75e2と仕切り板75e3とで区分されるが、室75f1と下部で連通するように仕切り板75e2の下端はタンク75の底面75cと離間して設けられる。室75f3は、仕切り板75e3と仕切り板75e4とで区分されるが、室75f2と上部で連通するように仕切り板75e3の上端はタンク75の上面75aと離間して設けられる。
【0039】
室75f4は、仕切り板75e4と仕切り板75e5とで区分されるが、室75f3と下部で連通するように仕切り板75e4の下端はタンク75の底面75cと離間して設けられる。室75f5は、仕切り板75e5と仕切り板75e6とで区分されるが、室75f4と上部で連通するように仕切り板75e5の上端はタンク75の上面75aと離間して設けられる。室75f6は、第1出液口73aを有し、仕切り板75e6と仕切り板75e7とで区分されるが、室75f5と下部で連通するように仕切り板75e6の下端はタンク75の底面75cと離間して設けられる。
【0040】
さらに、室75f1と仕切り板75e1を隔てて隣接するタンク75の左側面75b側の空間は、第2出液口74aを有する室75g1と第2注液口74bを有する室75g2とに区分される。また、室75f6と仕切り板75e7を隔てて隣接するタンク75の右側面75d側の空間は、1つの室75g3として設けられる。そして、室75g1と室75g3とを繋ぐ配管75h1(本例では2本)が、仕切り板75e1-75e7を貫通するように設けられる。同様に、室75g2と室75g3とを繋ぐ配管75h2(本例では2本)が、仕切り板75e1-75e7を貫通するように設けられる。
【0041】
第1注液口73bから送り込まれる第1循環液は、室75f1内を上方から下方に向かって流れ、仕切り板75e2の下方から室75f2に流れ込んで室75f2内を下方から上方に向かって流れる。さらに、仕切り板75e3の上方から室75f3に流れ込んで室75f3内を上方から下方に向かって流れ、仕切り板75e4の下方から室75f4に流れ込んで室75f4内を下方から上方に向かって流れる。
【0042】
そして、仕切り板75e5の上方から室75f5に流れ込んで室75f5内を上方から下方に向かって流れ、仕切り板75e6の下方から室75f6に流れ込んで室75f6内を下方から上方に向かって流れ、第1出液口73aから排出される。つまり、タンク75内においては、第1注液口73bから第1出液口73aに至る間に第1循環液を上下にジグザグに流す第1循環経路73を形成している。
【0043】
第2注液口74bから送り込まれる第2循環液は、室75g2内から配管75h2を通って室75g3内に流れ込む。そして、室75g3内を下方向から上方向に流れ、配管75h1を通って室75g1内に流れ込み、第2出液口74aから排出される。つまり、タンク75内においては、第2注液口74bから第2出液口74aに至る間に第2循環液を左右に往復させて流す第2循環経路74を形成している。
【0044】
つまり、第1熱交換器71においては、減速機ハウジング64bを通過してくる加熱された第1循環液を、第2熱交換器72から圧送される冷却された第2循環液により冷却する。この第1循環液は、タンク75内において仕切り板75e1-75e7でジグザグに流れるので、配管75h2及び配管75h1に長時間接触することになり、熱交換を効率良く行うことができる。このとき、第2循環液は、第1循環液との熱交換で多少加熱されることになるが、これにより軸受62の過冷却を防止できる。
【0045】
(4.数値制御装置8の制御動作)
次に、工作物Wを回転工具Tで加工する際の数値制御装置8の制御動作について図面を参照しつつ説明する。なお、テーブル5には工作物Wが保持され、主軸61には回転工具Tが保持されているものとする。
【0046】
図4に示すように、数値制御装置8は、第1熱交換器71のポンプ76を駆動するとともに第2熱交換器72を駆動する(ステップS1)。これにより、第1循環液は、主軸装置6の減速機64のギヤの潤滑及び冷却のために第1循環経路73(減速機ハウジング64bの内部は除く)を圧送されて循環し、第2循環液は、主軸装置6の軸受62の冷却のために第2循環経路74を圧送されて循環する。
【0047】
そして、数値制御装置8は、主軸モータ63を駆動し(ステップS2)、X,Y,Z軸モータを駆動して工作物Wの加工を開始する(ステップS3)。数値制御装置8は、圧力スイッチ78の作動状態を常時監視しており、圧力スイッチ78の作動により第1熱交換器71のポンプ76が停止したか否かを判断する(ステップS4)。
【0048】
数値制御装置8は、圧力スイッチ78が作動していないと判断したときは、工作物Wの加工が完了したか否かを判断し(ステップS5)、工作物Wの加工が完了していないときは、ステップS4に戻って上述の処理を繰り返す。一方、ステップS5において、工作物Wの加工が完了したときは、X,Y,Z軸モータを駆動して回転工具Tを初期位置に移動し(ステップS6)、主軸モータ63及びX,Y,Z軸モータを駆動停止する(ステップS7)。そして、第1熱交換器71のポンプ76及び第2熱交換器72を駆動停止し(ステップS8)、全ての処理を終了する。
【0049】
一方、ステップS4において、数値制御装置8は、圧力スイッチ78が作動して第1熱交換器71のポンプ76が停止したときは、減速機64の潤滑不良が発生したと判断し、工作機械1を異常停止する。すなわち、X,Y,Z軸モータを駆動して回転工具Tを退避位置に移動し(ステップS9)、主軸モータ63及びX,Y,Z軸モータを駆動停止して加工停止する(ステップS10)。このとき、数値制御装置8の表示画面に減速機64の潤滑不良の警告を表示し、また数値制御装置8のスピーカから警告音を発する。そして、第1熱交換器71のポンプ76及び第2熱交換器72を駆動停止し(ステップS8)、全ての処理を終了する。
【0050】
(5.その他)
なお、上述の実施形態では、液体循環装置7を工作機械1に適用する場合を説明したが、液体を循環して熱交換させる必要がある装置であれば適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…工作機械、 2…ベッド、 6…主軸装置、 7…液体循環装置、 8…数値制御装置、61…主軸、 62…軸受、 63…主軸モータ、 64…減速機、 71…第1熱交換器、 72…第2熱交換器、 73…第1循環経路、 74…第2循環経路、 75…タンク、 75e1-75e7…仕切り板、 76…ポンプ、 77…フィルタ、 78…圧力スイッチ
図1
図2
図3
図4