(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ガラスセラミック材料、積層体、及び、電子部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/16 20060101AFI20241203BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C04B35/16
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
(21)【出願番号】P 2023505474
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2022009046
(87)【国際公開番号】W WO2022191020
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2021040275
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】坂本 禎章
(72)【発明者】
【氏名】千秋 裕
(72)【発明者】
【氏名】足立 大樹
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/014035(WO,A1)
【文献】特表2021-530421(JP,A)
【文献】特開2003-201170(JP,A)
【文献】特開2003-183071(JP,A)
【文献】特開2002-187768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/16
C03C 10/04
H01G 4/10
H01G 4/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO
2、B
2O
3及びM
2O(Mはアルカリ金属)を含むガラスと、
クォーツを含むフィラーと、
MnO、NiO、CuO及びZnOからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物と、を含有し、
前記金属酸化物の含有量が、前記ガラス及び前記フィラーの合計100重量部に対して0.05重量部以上、2重量部以下であり、
前記ガラスは、酸化物に換算して、SiO
2を70重量%以上、85重量%以下含み、
前記ガラス中のB
2O
3の含有量は、酸化物に換算して、10重量%以上、
25重量%以下である、
ことを特徴とするガラスセラミック材料。
【請求項2】
前記ガラス及び前記フィラーの合計100重量部に対して、前記ガラスを50重量部以上、90重量部以下含み、前記フィラーを10重量部以上、50重量部以下含む、請求項1に記載のガラスセラミック材料。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のガラスセラミック材料の焼結体であるガラスセラミック層が複数積層されてなる、ことを特徴とする積層体。
【請求項4】
積層方向に隣接する前記ガラスセラミック層の間、及び/又は、前記ガラスセラミック層の表面に設けられた導体層をさらに備える、請求項
3に記載の積層体。
【請求項5】
前記導体層の主成分がCuであり、前記ガラスセラミック層に含まれる前記金属酸化物が少なくともCuOを含有する、請求項
4に記載の積層体。
【請求項6】
請求項
3~
5のいずれか一項に記載の積層体を備える、ことを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミック材料、積層体、及び、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、1000℃以下の温度で導体材料と同時に焼成できる誘電体材料の焼結体が多層セラミック基板に使用されている。例えば、特許文献1には、SiO270~85%、B2O310~25%、K2O0.5~5%、Al2O30.01~1%からなるホウ珪酸ガラス50~90%とα-石英、α-クリストバライト、β-トリジマイトの群から選ばれる1種以上のSiO2フィラー10~50%からなることを特徴とするガラスセラミックス複合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラスセラミックス複合材料(以下、ガラスセラミック材料ともいう)の焼成時においては、最高温度を保持している間、ガラスの粘性流動により緻密化が進行する。一定量の焼成対象物を焼成炉内に投入する場合には、焼成対象物の間で最高温度に到達する時刻にばらつきが生じてしまう。そのため、最高温度への到達が遅れた焼成対象物の緻密化が十分となるように、保持時間を長めに調整する必要がある。
【0005】
しかし、焼成時の最高温度の保持時間が長くなると、緻密化が早く進行した部分では、微量残っているカーボン成分がガス化してポアが発生する。焼成後に得られる焼結体にポアが閉じ込められると、外部に排出されずに空隙として残るため、焼結体の緻密度が低下し、絶縁性が低下するという問題があった。特に、特許文献1のようにSiO2成分を多く含むガラスセラミック材料では、焼成時の最高温度でのガラス粘度が比較的高い。このため、焼成時の最高温度の保持時間を長くする必要があり、上記問題が顕著になる。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、焼成時に最高温度の保持時間を長くした場合でも緻密な焼結体を得ることが可能なガラスセラミック材料と、上記ガラスセラミック材料の焼結体であるガラスセラミック層が複数積層されてなる積層体と、上記積層体を備える電子部品と、を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガラスセラミック材料は、SiO2、B2O3及びM2O(Mはアルカリ金属)を含むガラスと、クォーツを含むフィラーと、MnO、NiO、CuO及びZnOからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物と、を含有し、上記金属酸化物の含有量が、上記ガラス及び上記フィラーの合計100重量部に対して0.05重量部以上、2重量部以下である、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の積層体は、上記ガラスセラミック材料の焼結体であるガラスセラミック層が複数積層されてなる、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の電子部品は、上記積層体を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼成時に最高温度の保持時間を長くした場合でも緻密な焼結体を得ることが可能なガラスセラミック材料と、上記ガラスセラミック材料の焼結体であるガラスセラミック層が複数積層されてなる積層体と、上記積層体を備える電子部品と、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の積層体の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は本発明の電子部品の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のガラスセラミック材料、積層体、及び、電子部品について説明する。なお、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更されてもよい。また、以下において記載する個々の好ましい構成を複数組み合わせたものもまた本発明である。
【0013】
本発明のガラスセラミック材料は、低温同時焼成セラミックス(LTCC)材料である。本明細書中、「低温同時焼成セラミックス材料」とは、1000℃以下の焼成温度で焼結可能なガラスセラミック材料を意味する。
【0014】
[ガラスセラミック材料]
本発明のガラスセラミック材料は、SiO2、B2O3及びM2O(Mはアルカリ金属)を含むガラスと、クォーツを含むフィラーと、MnO、NiO、CuO及びZnOからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物と、を含有し、上記金属酸化物の含有量が、上記ガラス及び上記フィラーの合計100重量部に対して0.05重量部以上、2重量部以下である、ことを特徴とする。
【0015】
本発明のガラスセラミック材料は、上記の金属酸化物を特定量含むことにより、焼成時に最高温度の保持時間を長くした場合であっても、緻密化が均一に進行するため、緻密な焼結体を得ることが可能である。
【0016】
<ガラス>
本発明のガラスセラミック材料において、ガラスはSiO2、B2O3及びM2O(Mはアルカリ金属)を含む。
【0017】
ガラス中のSiO2は、ガラスセラミック材料が焼成されたときに、誘電率の低下に寄与する。その結果、電気信号の高周波化に伴う浮遊容量等が抑制される。
【0018】
ガラス中のB2O3は、ガラス粘度の低下に寄与する。そのため、ガラスセラミック材料の焼結体が緻密なものとなる。
【0019】
ガラス中のM2Oは、ガラス粘度の低下に寄与する。そのため、ガラスセラミック材料の焼結体が緻密なものとなる。M2Oとしては、アルカリ金属酸化物であれば特に限定されないが、Li2O、K2O又はNa2Oが好ましく、K2Oがより好ましい。M2Oとしては、1種類が用いられてもよく、複数種類が用いられてもよい。
【0020】
上記ガラス中のSiO2の含有量は、酸化物に換算して、好ましくは65重量%以上、90重量%以下である。より好ましくは70重量%以上、85重量%以下である。
【0021】
上記ガラス中のB2O3の含有量は、酸化物に換算して、好ましくは5重量%以上、30重量%以下である。より好ましくは10重量%以上、25重量%以下である。
【0022】
上記ガラス中のM2Oの含有量は、酸化物に換算して、好ましくは1重量%以上、5重量%以下である。より好ましくは1.5重量%以上、4.5重量%以下である。M2Oとして複数種類のアルカリ金属酸化物が用いられる場合、それらの合計量をM2Oの含有量とする。
【0023】
上記ガラスは、Al2O3をさらに含んでいてもよい。ガラス中のAl2O3は、ガラスの化学的安定性の向上に寄与する。
【0024】
上記ガラスがAl2O3を含む場合、上記ガラス中のAl2O3の含有量は、酸化物に換算して、好ましくは0.1重量%以上、2重量%以下である。より好ましくは0.5重量%以上、1重量%以下である。
【0025】
上記ガラスは、CaO等のアルカリ土類金属酸化物をさらに含んでいてもよい。しかしながら、ガラス中のSiO2の含有量を多くして誘電率及び誘電損失を低くする観点からは、ガラスはアルカリ土類金属酸化物を含まないことが好ましく、アルカリ土類金属酸化物を含む場合であっても、その含有量は好ましくはガラス中に15重量%未満であり、より好ましくは5重量%未満であり、さらに好ましくは1重量%未満である。
【0026】
ガラスは、上記成分以外に、不純物を含んでいてもよい。ガラス中の不純物の含有量は、好ましくは5重量%未満であり、より好ましくは1重量%未満である。
【0027】
<フィラー>
本発明のガラスセラミック材料において、フィラーはクォーツを含む。フィラーは、ガラスセラミック材料が焼成されたときに、機械強度の向上に寄与する。本明細書中、「フィラー」は、ガラスに含まれない無機添加剤を意味する。
【0028】
フィラー中のクォーツは、ガラスセラミック材料が焼成されたときに、熱膨張係数を大きくすることに寄与する。ガラスの熱膨張係数が約6ppm/Kであるのに対して、クォーツの熱膨張係数は約15ppm/Kであるため、ガラスセラミック材料がクォーツを含有することによって、焼成されたときに高熱膨張係数が得られる。そのため、焼成後の冷却過程において圧縮応力が発生し、機械強度(例えば、抗折強度)が高まる。また、実装基板(例えば、樹脂基板)への実装時の信頼性が高まる。
【0029】
上記フィラーはクォーツのみを含んでいてもよいが、クォーツ以外のSiO2をさらに含んでいてもよい。また、上記フィラーは、Al2O3及び/又はZrO2をさらに含んでいてもよい。
【0030】
ガラスセラミック材料が、フィラーとしてAl2O3及びZrO2を含有することによって、焼成されたときにクリストバライト結晶の析出が防止される。クリストバライト結晶はSiO2結晶の一種であるが、約280℃で相転移するため、ガラスセラミック材料の焼成過程でクリストバライト結晶が析出すると、高温環境下で体積が大きく変化し、信頼性が低下する。また、フィラー中のAl2O3及びZrO2は、ガラスセラミック材料が焼成されたときに、低誘電損失、高熱膨張係数、及び、高機械強度にも寄与する。
【0031】
フィラーがAl2O3及びZrO2を含有する場合、含有量はそれぞれ1重量%以上、5重量%以下が好ましい。
【0032】
上記フィラーは、クォーツのみを含むことがより好ましい。
【0033】
本発明のガラスセラミック材料は、上記ガラス及び上記フィラーの合計100重量部に対して、上記ガラスを50重量部以上、90重量部以下含み、上記フィラーを10重量部以上、50重量部以下含むことが好ましい。より好ましくは、上記ガラスが60重量部以上、80重量部以下であり、上記フィラーが20重量部以上、40重量部以下である。
【0034】
<金属酸化物>
本発明のガラスセラミック材料は、MnO、NiO、CuO及びZnOからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含み、上記金属酸化物は、上記ガラス及び上記フィラーの合計100重量部に対して0.05重量部以上、2重量部以下含まれる。金属酸化物が複数種用いられる場合、用いる全ての金属酸化物の合計が上記ガラス及び上記フィラーの合計100重量部に対して0.05重量部以上、2重量部以下となるように調整する。
【0035】
本発明のガラスセラミック材料に金属酸化物が上記の範囲で含まれることにより、焼成時間が長くなっても、相対密度の高い緻密な焼結体が得られる。このような焼結体は、誘電率及びQ値(誘電損失の逆数)に優れている。上記金属酸化物としては、CuOが好ましい。
【0036】
以上のように、本発明のガラスセラミック材料によれば、焼成時間が長い場合であっても、緻密化が均一に進行するため、緻密な焼結体を得ることが可能である。なお、ガラスセラミック材料の焼結体においては、透過型電子顕微鏡(TEM)で電子回折パターンを分析することによって、ガラス及びフィラーを判別することができる。
【0037】
本発明のガラスセラミック材料の組成として、後述するガラスセラミック材料の焼結体の組成を測定したものを用いてもよい。例えば、特許文献1のようにSiO2成分を多く含むガラスセラミック材料では、上述のとおり、焼成時の最高温度でのガラス粘度が比較的高い。したがって、焼成中にガラスからの結晶の析出等が起こりにくい。この場合、本発明のガラスセラミック材料の組成は、ガラスセラミック材料の焼結体の組成と実質的に同じであると考えて差し支えない。
【0038】
[積層体]
本発明の積層体は、本発明のガラスセラミック材料の焼結体であるガラスセラミック層が複数積層されてなる、ことを特徴とする。複数のガラスセラミック層の組成は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよいが、互いに同じであることが好ましい。
【0039】
上記積層体の相対密度は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。相対密度は、アルキメデス法で測定した見掛け密度を真密度で割った値である。真密度は積層体を粉砕して得られた粉末の密度である。見掛け密度は空隙を含んだ密度であり、見掛け密度を真密度で割ることにより、積層体が有する空隙の容積割合を算出することができる。相対密度が100%である場合、積層体が空隙を含まないことを意味する。
【0040】
上記積層体の比誘電率は、好ましくは4.5以下である。比誘電率は、摂動法によって3GHz条件下で測定される。
【0041】
上記積層体の誘電損失の逆数であるQ値は、好ましくは250以上である。Q値は、摂動法による3GHzでの誘電損失の測定値の逆数として求められる。
【0042】
本発明の積層体は、導体層をさらに備えていてもよい。導体層は、積層方向に隣接する上記ガラスセラミック層の間、及び/又は、上記ガラスセラミック層の表面に設けられる。
【0043】
本発明の積層体は、ビア導体をさらに備えてもよい。ビア導体は、上記ガラスセラミック層を貫通するように設けられる。
【0044】
導体層及びビア導体は、Ag又はCuを含む導電性ペーストを用いて、スクリーン印刷法、フォトリソグラフィ法、等によって形成可能である。
【0045】
図1は、本発明の積層体の一例を示す断面模式図である。
図1に示すように、本発明の積層体は、多層セラミック基板に適用されてもよい。
図1に示す積層体(多層セラミック基板)1は、ガラスセラミック層3が複数(
図1では5層)積層されてなる。
【0046】
積層体1には、導体層9、10、11、及び、ビア導体12が形成されていてもよい。これらは、例えば、コンデンサ、インダクタ等の受動素子を構成したり、素子間の電気的接続を担う接続配線を構成したりする。
【0047】
導体層9、10、11、及び、ビア導体12は、Ag又はCuを主成分として含有することが好ましい。このような低抵抗の金属を用いることによって、電気信号の高周波化に伴う信号伝播遅延の発生が防止される。また、ガラスセラミック層3の構成材料として本発明のガラスセラミック材料、すなわち、低温同時焼成セラミックス材料が用いられているため、Ag又はCuとの同時焼成が可能である。
【0048】
導体層9は、積層体1の内部に配置されている。具体的には、導体層9は、積層方向に隣接する2つのガラスセラミック層3の間に配置されている。
【0049】
導体層10は、積層体1の一方の主面上に配置されている。
【0050】
導体層11は、積層体1の他方の主面上に配置されている。
【0051】
ビア導体12は、ガラスセラミック層3を貫通するように配置されており、別々の階層の導体層9同士を電気的に接続したり、導体層9、10を電気的に接続したり、導体層9、11を電気的に接続したりする役割を担っている。
【0052】
本発明の積層体の一例である多層セラミック基板は、例えば、以下のように製造される。
(A)ガラスセラミック材料の調製
ガラスと、フィラーと、金属酸化物とを所定の組成で混合することによって、本発明のガラスセラミック材料を調製する。
【0053】
(B)グリーンシートの作製
本発明のガラスセラミック材料を、バインダ、可塑剤等と混合し、セラミックスラリーを調製する。そして、セラミックスラリーを基材フィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)上に成形した後、乾燥させることによって、グリーンシートを作製する。
【0054】
(C)積層グリーンシートの作製
グリーンシートを積層することによって、未焼成状態の積層グリーンシートを作製する。積層グリーンシートには、導体層及びビア導体を形成してもよい。
【0055】
(D)積層グリーンシートの焼成
積層グリーンシートを焼成する。その結果、
図1に示すような積層体(多層セラミック基板)1が得られる。
【0056】
積層グリーンシートの焼成温度は、グリーンシートを構成する本発明のガラスセラミックスが焼結可能な温度であれば特に限定されず、例えば、1000℃以下である。
【0057】
積層グリーンシートの焼成雰囲気は、特に限定されないが、導体層及びビア導体として、Ag等の酸化しにくい材料を用いる場合には空気雰囲気が好ましく、Cu等の酸化しやすい材料を用いる場合には窒素雰囲気等の低酸素雰囲気が好ましい。また、積層グリーンシートの焼成雰囲気は、還元雰囲気であってもよい。
【0058】
なお、積層グリーンシートは、拘束用グリーンシートで挟まれた状態で焼成されてもよい。拘束用グリーンシートは、グリーンシートを構成する本発明のガラスセラミックス材料の焼結温度では実質的に焼結しない無機材料(例えば、Al2O3)を主成分として含有するものである。そのため、拘束用グリーンシートは、積層グリーンシートの焼成時に収縮せず、積層グリーンシートに対して主面方向での収縮を抑制するように作用する。その結果、得られる積層体1(特に、導体層9、10、11、及び、ビア導体12)の寸法精度が高まる。
【0059】
本発明の積層体が導体層を備える場合、上記導体層の主成分がCuであり、上記ガラスセラミック層に含まれる上記金属酸化物が少なくともCuOを含有することが好ましい。
【0060】
従来の積層グリーンシートでは、導体層の主成分がCuであると、焼成時に導体層から積層グリーンシートにCuが拡散し、焼結が不均一になり遅くなるという問題があった。これは、導体層に近い部分ではCuが多く拡散しており焼結が遅く、導体層から遠い部分ではCuの拡散が少なく焼結が早いためであると考えられる。これに対し、ガラスセラミック材料に金属酸化物としてCuOを添加して積層グリーンシートを作製すれば、焼成前から積層グリーンシート中にCuOが拡散しているため、焼結の不均一が起こりにくいと考えられる。
【0061】
本明細書において、上記導体層の主成分がCuとは、導体層の90体積%以上がCuで形成されていることを意味する。上記導体層は、Cuとガラスと酸化アルミニウムとの混合物で形成されていることが好ましい。上記導体層の形成に用いるガラスは、本発明のガラスセラミック材料に含まれるガラスと同じもの等を用いることができる。
上記金属酸化物が少なくともCuOを含有するとは、上記金属酸化物がCuOのみを含有すること、又は、CuOとCuO以外の金属酸化物を1種又は2種以上含有することを意味する。上記金属酸化物は、CuOのみを含有することがより好ましい。
【0062】
本発明の積層体がビア導体を備える場合、上記ビア導体の主成分がCuであり、上記ガラスセラミック層に含まれる上記金属酸化物が少なくともCuOを含有することが好ましい。
【0063】
[電子部品]
本発明の電子部品は、本発明の積層体を備える、ことを特徴とする。
【0064】
本発明の電子部品は、例えば、本発明の積層体の一例である多層セラミック基板と、上記多層セラミック基板に搭載されたチップ部品と、を備える。チップ部品としては、例えば、LCフィルタ、コンデンサ、インダクタ、等が挙げられる。
【0065】
図2は本発明の電子部品の一例を示す断面模式図である。
図2に示すように、積層体(多層セラミック基板)1には、導体層10と電気的に接続された状態で、チップ部品13、14が搭載されていてもよい。これにより、積層体1を備える電子部品2が構成される。
【0066】
電子部品2は、導体層11を介して電気的に接続されるように、実装基板(例えば、マザーボード)に実装されてもよい。
【0067】
以上では、本発明の積層体が多層セラミック基板に適用される例を示したが、本発明の積層体は、多層セラミック基板に搭載されるチップ部品に適用されてもよい。すなわち、本発明の積層体は、LCフィルタ、コンデンサ、インダクタ、等に適用されてもよい。例えば、本発明の積層体がコンデンサに適用される場合、上記積層体は、積層方向に隣接するガラスセラミック層の間に導体層を備える。
【0068】
本発明の積層体は、多層セラミック基板及びチップ部品以外に適用されてもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0070】
<ガラス粉末の調製>
表1に示す組成のガラス原料粉末G1~G4を混合してPt製のルツボに入れ、空気雰囲気中、1600℃で30分以上溶融させた。その後、得られた溶融物を急冷させて、カレットを得た。ここで、表1中のアルカリ金属酸化物であるK2Oの原料としては炭酸塩を用いた。表1中のK2Oの含有量は、炭酸塩を酸化物換算した割合を示している。カレットを粗粉砕した後、エタノール及びPSZボール(直径:5mm)とともに容器に入れ、ボールミルで混合した。ボールミルで混合する際、粉砕時間を調節することによって、中心粒径1μmのガラス粉末を得た。ここで、「中心粒径」は、レーザー回折・散乱法によって測定された中心粒径D50を意味する。
【0071】
【0072】
<ガラスセラミック材料の調製>
表2に示す組成で、ガラス粉末と、フィラーであるクォーツ粉末と、金属酸化物と、をエタノール中に入れてボールミルで混合し、ガラスセラミック材料を調製した。クォーツ粉末と金属酸化物の中心粒径はいずれも1μmであった。
【0073】
<グリーンシートの作製>
上記で調製したガラスセラミック材料と、エタノールに溶解したポリビニルブチラールのバインダ液と、可塑剤としてのフタル酸ジオクチル(DOP)液と、を混合し、セラミックスラリーを調製した。次いでセラミックスラリーをドクターブレードを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム上に成形した後、40℃で乾燥させることによって、厚み50μmのグリーンシートS1~S29を作製した。
【0074】
【0075】
<評価用試料の作製及び評価>
グリーンシートS1~S29をそれぞれ50mm角にカットして20枚積層し、金型に入れプレス機で圧着を行った。得られた積層グリーンシートを空気雰囲気中、900℃、30~180分で焼成を行った。焼成時間は表2の記載に従った。焼成後、得られた積層体について、アルキメデス法で見掛け密度、摂動法で3GHzでの比誘電率とQ値(誘電損失の逆数)を測定した。その後、積層体を粉砕して粉末の真密度を測定した。
アルキメデス法で測定した見掛け密度を真密度で割った値を相対密度として、下記式のように%単位で求めた。
(見掛け密度)/(真密度)×100=相対密度(%)
【0076】
表2に評価結果を示す。
相対密度が95%以上であれば緻密であると判定した。また、比誘電率が4.5以下であれば低誘電率、Q値が250以上であれば低誘電損失と判定した。
【0077】
実施例1~14の積層体では、相対密度が95%以上、比誘電率が4.5以下、及び、Q値が250以上であった。
【0078】
MnO等の金属酸化物を使用していない比較例1~3の積層体のうち、焼成時間が短い比較例1では相対密度、比誘電率及びQ値が適切な値であったが、焼成時間が120分以上の比較例2及び3では、相対密度が90%以下となり、比較例3はさらにQ値も低かった。
【0079】
比較例4~7の積層体では、金属酸化物の含有量が2重量部を超えており、いずれもQ値が低かった。
【0080】
比較例8~15の積層体では、金属酸化物の含有量が0.05重量部未満であり、いずれも相対密度が低く、比較例10及び11はさらにQ値も低かった。
【符号の説明】
【0081】
1 積層体(多層セラミック基板)
2 電子部品
3 ガラスセラミック層
9、10、11 導体層
12 ビア導体
13、14 チップ部品