(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】物体検出装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/527 20060101AFI20241203BHJP
G01S 7/32 20060101ALI20241203BHJP
G01S 7/526 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
G01S7/527
G01S7/32 220
G01S7/526 M
(21)【出願番号】P 2023533537
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2022025400
(87)【国際公開番号】W WO2023282096
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2021112222
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅江 一平
(72)【発明者】
【氏名】脇田 幸典
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-174007(JP,A)
【文献】特開2008-170287(JP,A)
【文献】特開平10-148671(JP,A)
【文献】実開平05-079487(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0010457(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第105699949(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
13/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波を送信する送信部と、
前記送信波が物体に反射されることにより生じる受信波を受信する受信部と、
ある検出タイミングで受信された前記受信波に対応する処理対象信号の値である処理対象値と、前記検出タイミングの前後の所定期間に受信された前記受信波に対応する参照信号群の各値の移動平均値に基づく基準値との差分値を取得するCFAR処理部と、
前記差分値に基づいて前記物体に関する情報を生成する検出処理部と、
予め設定された複数の前記基準値から前記検出タイミングに対応する検出距離に適合する前記基準値を選択する設定部と、
を備え
、
前記設定部は、前記検出距離が近いほど前記基準値が大きくなるように前記基準値を設定する、
物体検出装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記検出距離が所定の近距離範囲にある場合に複数の前記基準値から第1基準値を選択し、前記検出距離が前記近距離範囲より遠い中距離範囲にある場合に複数の前記基準値から前記第1基準値より小さい第2基準値を選択し、前記検出距離が前記中距離範囲より遠い遠距離範囲にある場合に複数の前記基準値から前記第2基準値より小さい第3基準値を選択する、
請求項
1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
前記第1基準値は、前記検出タイミングより前の第1所定時間に受信された前記受信波に対応する第1参照信号群の各値の平均値である第1平均値と、前記検出タイミングより後の第2所定時間に受信された前記受信波に対応する第2参照信号群の各値の平均値である第2平均値とのうち大きい方の値である最大平均値であり、
前記第2基準値は、前記第1参照信号群の各値と前記第2参照信号群の各値とを含む全参照値の平均値である全平均値であり、
前記第3基準値は、前記第1平均値と前記第2平均値とのうち小さい方の値である最小平均値である、
請求項
2に記載の物体検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両制御システム等において、TOF(Time Of Flight)法を利用して車両の周辺に存在する物体を検出する装置が利用されている。TOF法とは、超音波等の送信波が送信されたタイミングと、送信波が物体に反射されることにより生じる受信波(反射波)が受信されたタイミングとの差に基づいて、車両等から物体までの距離等を算出する技術である。また、TOF法による物体検出の精度を向上させるための技術として、ある受信信号の値から当該受信信号の前後の所定期間に取得された受信信号の値の移動平均値を差し引くことにより路面クラッタ等の影響を抑制するCFAR(Constant False Alarm Rate)処理が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の課題の一つは、CFAR処理を利用して物体を高精度に検出可能な物体検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一例としての物体検出装置は、送信波を送信する送信部と、送信波が物体に反射されることにより生じる受信波を受信する受信部と、ある検出タイミングで受信された受信波に対応する処理対象信号の値である処理対象値と、検出タイミングの前後の所定期間に受信された受信波に対応する参照信号群の各値の移動平均値に基づく基準値との差分値を取得するCFAR処理部と、差分値に基づいて物体に関する情報を生成する検出処理部と、複数の基準値から検出タイミングに対応する検出距離に適合する基準値を選択する設定部と、を備える。
【0006】
上記構成によれば、CFAR処理において使用される基準値(処理対象値から差し引かれる値)を距離に応じて適正化できる。これにより、CFAR処理を利用した物体検出の精度を向上させることができる。
【0007】
また、設定部は、検出距離が近いほど基準値が大きくなるように基準値を設定してもよい。
【0008】
これにより、近距離における物体の誤検出及び遠距離における物体の検出漏れを抑制できる。
【0009】
また、設定部は、検出距離が所定の近距離範囲にある場合に複数の基準値から第1基準値を選択し、検出距離が近距離範囲より遠い中距離範囲にある場合に複数の基準値から第1基準値より小さい第2基準値を選択し、検出距離が中距離範囲より遠い遠距離範囲にある場合に複数の基準値から第2基準値より小さい第3基準値を選択してもよい。
【0010】
これにより、近距離、中距離、及び遠距離のそれぞれについて適切な基準値を設定できる。
【0011】
また、第1基準値は、検出タイミングより前の第1所定時間に受信された受信波に対応する第1参照信号群の各値の平均値である第1平均値と、検出タイミングより後の第2所定時間に受信された受信波に対応する第2参照信号群の各値の平均値である第2平均値とのうち大きい方の値である最大平均値であり、第2基準値は、第1参照信号群の各値と第2参照信号群の各値とを含む全参照値の平均値である全平均値であり、第3基準値は、第1平均値と第2平均値とのうち小さい方の値である最小平均値であってもよい。
【0012】
これにより、全平均値、最大平均値、及び最小平均値を利用して、近距離、中距離、及び遠距離のそれぞれの基準値を設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係る運転支援システムを備えた車両の外観の一例を示す上面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るECU及び物体検出装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、TOF法による距離の算出方法の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態にかかる物体検出装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態にかかるCFAR処理及び基準値設定処理の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態にかかる全平均値、最大平均値、及び最小平均値の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態にかかる物体検出装置における基準値設定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態の構成、並びに当該構成によってもたらされる作用及び効果はあくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0015】
図1は、実施形態に係る運転支援システムを備えた車両1の外観の一例を示す上面図である。以下に例示する運転支援システムは、超音波を利用して車両1の周辺に存在する物体(他車両、路上障害物、人、動物等)を検出し、その検出結果に基づいて車両1の運転を支援するための処理を行うシステムである。
【0016】
図1に示すように、運転支援システムは、一対の前輪3Fと一対の後輪3Rとを有する車両1の内部に搭載されたECU(Electronic Control Unit)100と、車両1の外装に搭載された物体検出装置201~204とを備えている。
【0017】
図1に示す例では、物体検出装置201~204は、車両1の外装としての車体2の後端部(例えばリヤバンパ等)において互いに異なる位置に設置されている。本実施形態において、物体検出装置201~204が有するハードウェア構成及び機能は、それぞれ同一である。従って、以下では、簡単化のため、物体検出装置201~204を総称して物体検出装置200と記載することがある。
【0018】
なお、物体検出装置200の設置位置は、
図1に示す例に限定されるものではない。物体検出装置200は、例えば、車体2の前端部(例えばフロントバンパ等)や側面部に設置されてもよい。また、物体検出装置200の個数も
図1に示す例に限定されるものではない。
【0019】
図2は、第1実施形態に係るECU100及び物体検出装置200のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0020】
ECU100は、入出力装置110と、記憶装置120と、プロセッサ130とを備えている。
【0021】
入出力装置110は、ECU100と外部デバイス(物体検出装置200等)との間における情報の送受信を可能にするインターフェースである。記憶装置120は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置、及び/又はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置を含んでいる。プロセッサ130は、記憶装置120に記憶されたプログラムに従って各種演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)等を含む演算処理装置である。プロセッサ130は、入出力装置110から入力される各種情報(例えば物体検出装置200の検出結果等)に基づいて各種処理(例えば自動運転、警報出力等を実現するための処理)を行う。
【0022】
物体検出装置200は、送受信器210と、制御部220とを備えている。
【0023】
送受信器210は、圧電素子等の振動子211を有し、振動子211の作用により超音波の送受信を実現する。具体的には、送受信器210は、振動子211の振動に応じて発生する超音波を送信波として送信し、当該送信波として送信された超音波が外部に存在する物体に反射されて戻ってくることでもたらされる振動子211の振動を受信波として受信する。
図2に示す例では、送受信器210からの送信波を反射する物体として、路面RS上に設置された障害物Oが例示されている。
【0024】
なお、
図2には、送信波の送信と受信波の受信との両方が単一の振動子211を有する単一の送受信器210により実現される構成が例示されているが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、送信波の送信用の第1振動子と受信波の受信用の第2振動子とが別々に設けられた構成のように、送信側の機構と受信側の機構とが分離された構成であってもよい。
【0025】
制御部220は、入出力装置221と、記憶装置222と、プロセッサ223とを備えている。
【0026】
入出力装置221は、制御部220と外部デバイス(ECU100、送受信器210等)との間における情報の送受信を可能するインターフェースである。記憶装置222は、ROM、RAM等の主記憶装置、及び/又はHDD、SSD等の補助記憶装置を含んでいる。プロセッサ223は、記憶装置333に記憶されたプログラムに従って各種演算処理を行うCPU等を含む演算処理装置である。プロセッサ223は、入出力装置221から入力される各種情報(例えば送受信器210の検出データ等)に基づいて各種処理(例えば障害物Oに関する情報の生成等)を行う。
【0027】
本実施形態に係る物体検出装置200は、いわゆるTOF法と呼ばれる技術により物体(例えば障害物O等)までの距離を検出する。以下に詳述するように、TOF法とは、送信波が送信された(より具体的には送信され始めた)タイミングと、受信波が受信された(より具体的には受信され始めた)タイミングとの差に基づき、物体までの距離を算出する技術である。
【0028】
図3は、TOF法による距離の算出方法の一例を示す図である。
図3には、送受信器210が送受信する超音波の強度(信号レベル)の経時的変化を示す包絡線L11(エコー情報)が例示されている。
図3に示すグラフにおいて、横軸は時間(TOF)に対応し、縦軸は送受信器210により送受信される超音波の強度(振動子211の振動の大きさ)に対応する。
【0029】
包絡線L11は、振動子211の振動の大きさを示す強度の経時的変化を示している。
図3に例示する包絡線L11から、振動子211がタイミングt0から時間Taだけ駆動されて振動することで、タイミングt1で送信波の送信が完了し、その後タイミングt2に至るまでの時間Tbの間、慣性による振動子211の振動が減衰しながら継続する、ということが読み取れる。従って、
図3に示すグラフにおいて、時間Tbは、いわゆる残響時間に対応している。
【0030】
包絡線L11は、送信波の送信が開始したタイミングt0から時間Tpだけ経過したタイミングt4で、振動子211の振動の大きさが検出閾値Th以上となるピークを迎える。この検出閾値Thは、振動子211の振動が障害物O(他車両、構造物、歩行者等)からの反射波の受信によってもたらされたものか、障害物O以外の物体(例えば路面RS等)からの反射波の受信によってもたらされたものかを識別するために設定される値である。なお、ここでは検出閾値Thが一定値として示されているが、検出閾値Thは、状況に応じて変化する変動値であってもよい。検出閾値Th以上のピークを有する振動は、障害物Oからの反射波の受信によってもたらされたものとみなすことができる。
【0031】
本例の包絡線L11では、タイミングt4以降で振動子211の振動が減衰していることが示されている。従って、タイミングt4は、障害物Oからの反射波の受信が完了したタイミング、換言すればタイミングt1で最後に送信された送信波が反射波として戻ってくるタイミングに対応する。
【0032】
また、包絡線L11において、タイミングt4におけるピークの開始点としてのタイミングt3は、障害物Oからの反射波の受信が開始したタイミング、換言すればタイミングt0で最初に送信された送信波が反射波として戻ってくるタイミングに対応する。従って、タイミングt3とタイミングt4との間の時間ΔTは、送信波の送信時間としての時間Taと等しくなる。
【0033】
以上のことから、TOFを利用して超音波の送受信元から障害物Oまでの距離を求めるためには、送信波が送信され始めたタイミングt0と反射波が受信され始めたタイミングt3との間の時間Tfを求めることが必要となる。この時間Tfは、タイミングt0と反射波の強度が検出閾値Thを超えてピークを迎えるタイミングt4との差分としての時間Tpから、送信波の送信時間としての時間Taに等しい時間ΔTを差し引くことで求めることができる。
【0034】
送信波が送信され始めたタイミングt0は、物体検出装置200が動作を開始したタイミングとして容易に特定することができ、送信波の送信時間としての時間Taは、設定等によって予め定められている。従って、反射波の強度が検出閾値Th以上となるピークを迎えるタイミングt4を特定することにより、送受信元から障害物Oまでの距離を求めることができる。
【0035】
図4は、実施形態にかかる物体検出装置200の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態にかかる物体検出装置200は、送信部411、送信制御部412、受信部421、前処理部422、CFAR処理部423、設定部424、及び検出処理部425を備える。これらの機能的構成要素411,412,421~425は、例えば、
図2に例示するような物体検出装置200のハードウェア構成要素、及びプログラム等のソフトウェア構成要素の協働により実現され得る。なお、
図4に示す例では、送信側の構成と受信側の構成とが分離されているが、このような図示の態様は、あくまで説明の便宜のためのものである。本実施形態では、上述したように、送信波の送信と受信波の受信との両方が単一の振動子211を有した単一の送受信器210により実現される。ただし、上述したように、送信側の構成と受信側の構成とが分離された構成も適用可能である。
【0036】
送信部411は、上述した振動子211を振動させることにより外部へ向けて送信波を送信する。送信部411は、振動子211の他に、例えば、搬送波を生成する回路、搬送波に付与すべき識別情報に対応するパルス信号を生成する回路、パルス信号に応じて搬送波を変調する乗算器、乗算器から出力された送信信号を増幅する増幅器等を利用して構成され得る。
【0037】
送信制御部412は、送信波の送信を制御する。送信制御部412は、例えば、送信波の送信時間、送信間隔、強度、波長、周波数等を制御する。送信制御部412は、例えば、物体の検出結果、路面RSの状態、車両1の速度等に基づいて送信波の送信を調整してもよい。
【0038】
受信部421は、送信部411から送信された送信波が物体に反射されることにより生じる受信波(反射波)を受信する。受信部421は、振動子211の他に、例えば、AD変換器等を利用して構成され得る。
【0039】
前処理部422は、受信波の強度の経時的変化を示すエコー情報(例えば
図3に例示するような包絡線)を生成する前処理を行う。前処理には、例えば、受信波に対応する受信信号を増幅する増幅処理、増幅された受信信号に含まれるノイズを低減するフィルタ処理、送信信号と受信信号との類似度を示す相関値を取得する相関処理等が含まれ得る。
【0040】
CFAR処理部423は、前処理部422により生成されたエコー情報に対してCFAR処理を実行する。CFAR処理部423は、ある検出タイミングで受信された受信波に対応する処理対象信号の値である処理対象値と、当該検出タイミングの前後の所定期間に受信された受信波に対応する参照信号群の各値の移動平均値に基づく基準値との差分値を取得する。本実施形態にかかるCFAR処理部423は、CFAR処理として、CA-CFAR(Cell Averaging Constant False Alarm Rate)処理、GO-CFAR(Greatest Of Constant False Alarm Rate)処理、及びSO-CFAR(Smallest Of Constant False Alarm Rate)処理を行う。CA-CFAR処理とは、検出タイミングより前の第1所定期間に受信された受信波に対応する第1参照信号群の各値と、検出タイミングより後の第2所定期間に受信された受信波に対応する第2参照信号群の各値とを含む全参照値の平均値(全平均値)を基準値とする処理である。GO-CFAR処理とは、第1参照信号群の各値の平均値である第1平均値と第2参照信号群の各値の平均値である第2平均値とのうち大きい方の値(最大平均値)を基準値とする処理である。SO-CFAR処理とは、第1平均値と第2平均値とのうち小さい方の値(最小平均値)を基準値とする処理である。
【0041】
設定部424は、予め設定された複数の基準値から上記検出タイミングに対応する検出距離に基づいて、CFAR処理において用いられる基準値を選択する基準値設定処理を実行する。本実施形態にかかる設定部424は、検出距離が近いほどCFAR処理における基準値が大きくなるように当該基準値を設定(選択)する。基準値設定処理の具体例については後述する。
【0042】
検出処理部425は、CFAR処理部423により取得された差分値に基づいて物体に関する情報を生成する。検出処理部425は、例えば、差分値が所定の閾値(例えば
図3に例示する検出閾値Th)を超えたときのTOFに基づいて、物体(障害物O)の存否、物体までの距離等を示す情報を生成する。
【0043】
図5は、実施形態にかかるCFAR処理及び基準値設定処理の一例を示す図である。
図5において、処理対象信号501、第1参照信号群502、及び第2参照信号群503が例示されている。処理対象信号501は、ある検出タイミングに受信された受信波に対応する受信信号である。第1参照信号群502は、処理対象信号501に対応する検出タイミングより前の第1位所定期間に受信された受信波に対応する受信信号群である。第2参照信号群503は、処理対象信号501に対応する検出タイミングより後の第2所定期間に受信された受信波に対応する受信信号群である。
【0044】
図5に示すように、CFAR処理部423は、第1参照信号群502の各値の平均値である第1平均値と、第2参照信号群503の各値の平均値である第2平均値と、第1参照信号群502の各値及び第2参照信号群503の各値を含む全参照値の平均値である全平均値とを算出する。
【0045】
設定部424は、第1平均値と第2平均値とを比較し、大きい方を最大平均値として出力し、小さい方を最小平均値として出力する。また、設定部424は、全平均値、最大平均値、及び最小平均値の中から、処理対象信号501に対応する検出タイミングに対応する距離(検出距離)に適合する平均値を選択し、選択した平均値を基準値として設定する。具体的には、設定部424は、検出距離が所定の近距離範囲にある場合には最大平均値を基準値として設定し、検出距離が近距離範囲より遠い所定の中距離範囲にある場合には全平均値を基準値として設定し、検出距離が中距離範囲より遠い所定の遠距離範囲にある場合には最小平均値を基準値として設定する。そして、CFAR処理部423は、設定部424により設定された基準値を処理対象値から差し引くことにより差分値を算出する。検出処理部425は、上記のように算出された差分値と閾値(例えば
図3に例示する検出閾値Th)との比較結果に基づいて障害物Oまでの距離等を示す測定結果を生成する。
【0046】
なお、近距離範囲、中距離範囲、及び遠距離範囲の具体的数値は特に限定されるべきものではないが、例えば近距離範囲を2m未満、中距離範囲を2m以上4m未満、遠距離範囲を4m以上等と設定できる。
【0047】
図6は、実施形態にかかる全平均値、最大平均値、及び最小平均値の一例を示す図である。
図6において、受信波の信号レベル(強度)の経時的変化を示す包絡線L700と、全平均値の経時的変化を示す全平均値線L701と、最大平均値の経時的変化を示す最大平均値線L702と、最小平均値の経時的変化を示す最小平均値線L703との関係が例示されている。
図6に示すように、最大平均値は全平均値より大きい値となり、最小平均値は全平均値より小さい値となる。このような大小関係を有する3つの平均値を利用することにより、CFAR処理における基準値を検出距離に合わせて適切に設定できる。
【0048】
図7は、実施形態にかかる物体検出装置200における基準値設定処理の一例を示すフローチャートである。送信部411が送信波を送信し、受信部421が受信波を受信すると(S101)、CFAR処理部423は、前処理部422により生成されたエコー情報から処理対象信号501の値である処理対象値(
図5参照)を取得する(S102)。その後、CFAR処理部423は、全平均値、第1平均値、及び第2平均値を算出し(S103)、設定部424は、第1平均値及び第2平均値のうち大きい方を最大平均値として決定し、小さい方を最小平均値として決定する(S104)。
【0049】
その後、設定部424は、検出距離が近距離範囲内にあるか否かを判定し(S105)、検出距離が近距離範囲内にある場合(S105:Yes)、基準値を最大平均値に設定する(S106)。検出距離が近距離範囲内にない場合(S105:No)、設定部424は、検出距離が中距離範囲内にあるか否かを判定する(S107)。検出距離が中距離範囲内にある場合(S107:Yes)、設定部424は、基準値を全平均値に設定する(S108)。検出距離が中距離範囲内にない場合(S107:No)、設定部424は、検出距離が遠距離範囲内にあるか否かを判定する(S109)。検出距離が遠距離範囲内にある場合(S109:Yes)、設定部424は、基準値を最小平均値に設定する(S110)。検出距離が遠距離範囲内にない場合(S109:No)、設定部424は、基準値を所定のデフォルト値に設定する(S111)。このように設定された基準値を用いたCFAR処理により差分値が算出され、当該差分値に基づいて物体(障害物O等)に関する情報が生成される。
【0050】
上記のような構成により、検出距離が近いほどCFAR処理における基準値が高く設定されるため、CFAR処理により算出される差分値が過度に大きい値となることが防止される。これにより、近距離における障害物Oの誤検出の可能性を低減できる。また、検出距離が遠いほど基準値が低く設定されるため、差分値が過度に小さい値となることが防止される。これにより、遠距離における障害物Oの検出漏れの可能性を低減できる。
【0051】
以上のように、本実施形態にかかる物体検出装置200によれば、CFAR処理に用いられる基準値を検出距離に応じて適切に設定できる。これにより、CFAR処理を利用した物体検出を高精度に行うことが可能となる。
【0052】
上記のような機能を実現するための処理をコンピュータ(上記実施形態ではプロセッサ223,130)に実行させるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータプログラムプロダクトとして提供されるようにしてもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するようにしてもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【0053】
以上、本開示の実施形態を説明したが、上述した実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1…車両、2…車体、3F…前輪、3R…後輪、100…ECU、110…入出力装置、120…記憶装置、130…プロセッサ、200,201~204…物体検出装置、210…送受信器、211…振動子、220…制御部、221…入出力装置、222…記憶装置、223…プロセッサ、411…送信部、412…送信制御部、421…受信部、422…前処理部、423…CFAR処理部、424…設定部、425…検出処理部、501…処理対象信号、502…第1参照信号群、503…第2参照信号群、L11,L700…包絡線、L701…全平均値線、L702…最大平均値線、L703…最小平均値線、Th…検出閾値