(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】フローセンサチップ
(51)【国際特許分類】
G01F 1/688 20060101AFI20241203BHJP
G01F 1/692 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
G01F1/688
G01F1/692 A
(21)【出願番号】P 2021039435
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】521515735
【氏名又は名称】MMIセミコンダクター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠井 隆
(72)【発明者】
【氏名】桃谷 幸志
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-122747(JP,A)
【文献】特開2021-12134(JP,A)
【文献】特開2020-187009(JP,A)
【文献】特開2002-286519(JP,A)
【文献】特開2002-156283(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第4222499(DE,A1)
【文献】米国特許第6182509(US,B1)
【文献】特開平8-278323(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0216144(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0096396(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/68-1/699
G01P 5/10-5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有するキャビティが形成されている基板と、
前記開口を覆うように、前記基板の表面に配置されているメンブレンと、
前記メンブレンに設けられたヒータと、
前記メンブレンに設けられ、前記ヒータを挟んで配置された第1のサーモパイル及び第2のサーモパイルと、
前記基板と前記メンブレンとの間の熱の伝導路となる熱伝導部材と、を備え、
前記第1のサーモパイルが有する熱電対の第1の温接点及び第1の冷接点、並びに、前記第2のサーモパイルが有する熱電対の第2の温接点及び第2の冷接点は、前記基板表面の法線方向から見て前記開口と重複する位置に配置されており、
前記熱伝導部材は、前記第1の冷接点と前記基板との間の熱の伝導路となる第1の熱伝導部材と、前記第2の冷接点と前記基板との間の熱の伝導路となる第2の熱伝導部材と、を有することを特徴とするフローセンサチップ。
【請求項2】
前記第1の熱伝導部材は、前記メンブレンにおける前記基板側と反対側の表面に設けられており、前記基板表面の法線方向から見て前記メンブレンと前記基板とが重なっている領域から前記第1の冷接点より前記第1の温接点側まで延びており、
前記第2の熱伝導部材は、前記メンブレンにおける前記基板側と反対側の表面に設けられており、前記基板表面の法線方向から見て前記メンブレンと前記基板とが重なっている領域から前記第2の冷接点より前記第2の温接点側まで延びている、
ことを特徴とする請求項1に記載のフローセンサチップ。
【請求項3】
前記第1の熱伝導部材は、前記メンブレンの内部に設けられており、前記基板表面の法線方向から見て前記メンブレンと前記基板とが重なっている領域から前記第1の冷接点の側方まで延びており、
前記第2の熱伝導部材は、前記メンブレンの内部に設けられており、前記基板表面の法線方向から見て前記メンブレンと前記基板とが重なっている領域から前記第2の冷接点の側方まで延びている、
ことを特徴とする請求項1に記載のフローセンサチップ。
【請求項4】
前記第1の熱伝導部材は、前記第1の冷接点と一体化した金属材料からなり、
前記第2の熱伝導部材は、前記第2の冷接点と一体化した金属材料からなる、
ことを特徴とする請求項3に記載のフローセンサチップ。
【請求項5】
前記第1の熱伝導部材及び前記メンブレンは、外部と前記キャビティとを連通する第1の貫通孔が形成されており、
前記第2の熱伝導部材及び前記メンブレンは、外部と前記キャビティとを連通する第2の貫通孔が形成されている、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載のフローセンサチップ。
【請求項6】
前記第1の貫通孔は、メッシュ状に複数個形成されており、
前記第2の貫通孔は、メッシュ状に複数個形成されている、
ことを特徴とする請求項5に記載のフローセンサチップ。
【請求項7】
前記第1の貫通孔は、前記第1の冷接点が並ぶ方向に沿って一辺が形成されている矩形の長穴であり、
前記第2の貫通孔は、前記第2の冷接点が並ぶ方向に沿って一辺が形成されている矩形の長穴である、
ことを特徴とする請求項5に記載のフローセンサチップ。
【請求項8】
前記熱伝導部材は、電気的にGND電位に接続されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のフローセンサチップ。
【請求項9】
前記熱伝導部材は、アルミニウム、チタン、銅、タングステン、モリブデン、タンタルからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属材料であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のフローセンサチップ。
【請求項10】
前記基板の上に設けられた金属端子を更に備え、
前記熱伝導部材及び前記金属端子は、同じ材料かつ同じ膜厚で構成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のフローセンサチップ。
【請求項11】
前記熱伝導部材及び前記金属端子は、金、白金、銀、アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属材料であることを特徴とする請求項10に記載のフローセンサチップ。
【請求項12】
前記第1の熱伝導部材は、前記第1のサーモパイルが有する熱電対の第1の冷接点が並ぶ方向に沿って一辺が形成されている矩形又はU字状の金属層であり、
前記第2の熱伝導部材は、前記第2のサーモパイルが有する熱電対の第2の冷接点が並ぶ方向に沿って一辺が形成されている矩形又はU字状の金属層である、
ことを特徴とする請求項2乃至11のいずれか一項に記載のフローセンサチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローセンサチップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体の流量や流速を検出するフローセンサが考案されている。フローセンサには、様々な方式が存在するが、その中の一つの方式として熱線式のフローセンサが知られている。熱線式のフローセンサは、センサチップ中央にヒータを有し、ヒータを挟んで上流側熱電対及び下流側熱電対が配置されている。そして、ヒータにより加熱された雰囲気の温度分布が、センサチップの表面を流れる気体の流量に応じて、偏ることを利用して、上流側熱電対と下流側熱電対との起電力差から気体の流量が検出される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の
図1に示す検出装置の場合、上流側熱電対の温接点、下流側熱電対の温接点及びヒータは、基板に設けられたキャビティの開口部の上に位置しており、基板を介した熱の移動が起きにくい。一方、上流側熱電対の冷接点及び下流側熱電対の冷接点は、各熱電対を覆う膜と基板とが接している領域の上に位置している。この場合、基板を介して2つの冷接点の温度は一定に維持され易い。
【0005】
しかしながら、基板に設けられているキャビティの形状や位置は、プロセス上の寸法誤差を完全になくすことは困難である。そのため、仮に、寸法誤差が許容範囲にない場合、キャビティに対する温接点や冷接点の位置が上流側熱電対と下流側熱電対とで対称とならない。また、基板自体に温度分布が生じた場合、法線方向から見て基板と重なる領域の膜の内部に存在する各冷接点は、基板から受ける熱の影響に差があるため、冷接点同士に温度差が乗じることとなる。
【0006】
その結果、気体の流れがないにもかかわらず、基板の影響によりヒータにより加熱された雰囲気の温度分布が対称とならず、上流側熱電対と下流側熱電対との起電力差が生じることとなり、気体の流量の検出精度が低下するおそれがある。また、キャビティの寸法のバラツキによって、流量の検出結果にもバラツキができるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、基板に形成されるキャビティの寸法のバラツキが流量の検出精度に与える影響を緩和する新たな構成のフローセンサチップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、開口を有するキャビティが形成されている基板と、開口を覆うように、基板の表面に配置されているメンブレンと、メンブレンに設けられたヒータと、メンブレンに設けられ、ヒータを挟んで配置された第1のサーモパイル及び第2のサーモパイルと、基板とメンブレンとの間の熱の伝導路となる熱伝導部材と、を備えるフローセンサチップである。このフローセンサチップにおいて、第1のサーモパイルが有する熱電対の第1の温接点及び第1の冷接点、並びに、第2のサーモパ
イルが有する熱電対の第2の温接点及び第2の冷接点は、基板表面の法線方向から見て開口と重複する位置に配置されている。熱伝導部材は、第1の冷接点と基板との間の熱の伝導路となる第1の熱伝導部材と、第2の冷接点と基板との間の熱の伝導路となる第2の熱伝導部材と、を有する。
【0009】
この態様によると、第1の冷接点及び第2の冷接点は、基板表面の法線方向から見て開口と重複する位置に配置されている。つまり、第1の冷接点及び第2の冷接点は、基板とメンブレンとが接している領域ではなく、メンブレンが基板ではなくキャビティと対向する領域に含まれている。そのため、仮にキャビティの寸法(形状)にバラツキが生じ、基板とメンブレンとが重なる領域の面積や位置が所望の値からずれた場合であっても、基板から離れた場所にある各冷接点が基板から受ける影響の差(例えば、冷却効果の差)が緩和される。一方、基板を介した各冷接点の冷却は、第1の冷接点と基板との間の熱の伝導路となる第1の熱伝導部材と、第2の冷接点と基板との間の熱の伝導路となる第2の熱伝導部材とが担うことになるので、第1の冷接点及び第2の冷接点の温度は従来同様にほぼ同じにできる。また、仮に基板内で温度分布が発生しても、第1の冷接点及び第2の冷接点は基板から直接熱が伝わることはないため、温度分布の影響を受けにくい。
【0010】
ここで、基板は、例えば、単結晶シリコンやセラミックスといった温度による形状の変化が小さい材料が好ましい。また、基板は、半導体プロセスによる高精度な加工が容易な材料であってもよい。例えば、キャビティを半導体プロセスのエッチングで形成する場合、単結晶シリコンを用いることでキャビティの形状の制御が容易となる。また、キャビティとは、基板の内部に形成されているものであり、少なくとも基板の一方の表面に開口を有していることが好ましい。なお、キャビティは、基板を貫通するように基板の両方の表面に開口を有していてもよい。また、メンブレンとは、ヒータやサーモパイルを内包できる構成であればよく、材料は特に限定されないが、ヒータやサーモパイルを流れる電流を考慮すれば、半導体プロセスで形成可能な絶縁性の薄膜が好ましい。また、メンブレンの内部に設けられているヒータやサーモパイルは、その全体が完全に包み込まれていなくてもよく、一部が外部に露出したり、他の部品と接合したりしていてもよい。
【0011】
また、第1の熱伝導部材は、メンブレンにおける基板側と反対側の表面に設けられており、基板表面の法線方向から見てメンブレンと基板とが重なっている領域から第1の冷接点より第1の温設点側まで延びていてもよい。また、第2の熱伝導部材は、メンブレンにおける基板側と反対側の表面に設けられており、基板表面の法線方向から見てメンブレンと基板とが重なっている領域から第2の冷接点より第2の温接点側まで延びていてもよい。これにより、第1の冷接点は、第1の熱伝導部材を介して基板へ熱を逃がすことができる。同様に、第2の冷接点は、第2の熱伝導部材を介して基板へ熱を逃がすことができる。各熱伝導部材は,メンブレンにヒータやサーモパイルを形成した後に成膜プロセスなどにより熱伝導部材を付与することで実現でき、メンブレンにおける基板側と反対側の表面にあると作製工法がシンプルになる。
【0012】
また、第1の熱伝導部材は、メンブレンの内部に設けられており、基板表面の法線方向から見てメンブレンと基板とが重なっている領域から第1の冷接点の側方まで延びていてもよい。また、第2の熱伝導部材は、メンブレンの内部に設けられており、基板表面の法線方向から見てメンブレンと基板とが重なっている領域から第2の冷接点の側方まで延びていてもよい。これにより、各熱伝導部材をメンブレンの上に設ける必要がなくなり、センサチップの厚みを抑えることができる。また、メンブレンの内部に各熱伝導部材があることで、熱伝導効果を高めることも期待できる。
【0013】
また、第1の熱伝導部材は、第1の冷接点と一体化した金属材料からなってもよい。これにより、第1の熱伝導部材と第1の冷接点とを同時に形成することができる。また、第
2の熱伝導部材は、第2の冷接点と一体化した金属材料からなってもよい。これにより、第2の熱伝導部材と第2の冷接点とを同時に形成することができる。各熱伝導部材と各冷接点とを同時に形成できることで、作製工法の簡易化を図ることができる。また、各熱伝導部材と各冷接点が一体化していることで,熱伝導の効果を高めることができる。
【0014】
また、第1の熱伝導部材及びメンブレンは、外部とキャビティとを連通する第1の貫通孔が形成されていてもよい。加えて、第2の熱伝導部材及びメンブレンは、外部とキャビティとを連通する第2の貫通孔が形成されていてもよい。これにより、検出対象である流体は、メンブレンの上を通過しながらヒータの熱による温度分布を偏らせるだけでなく、基板の内部に形成されているキャビティを通過しながらキャビティ内の温度分布を偏らせることができる。そのため、流体の流量や流速の検出感度が向上する。また、流体が流れる流路の上流側に第1の貫通孔が形成され、下流側に第2の貫通孔が形成されることで、流体がキャビティ内をスムーズに通過できる。
【0015】
また、第1の貫通孔は、メッシュ状に複数個形成されていてもよい。また、第2の貫通孔は、メッシュ状に複数個形成されていてもよい。これにより、キャビティ内を通過する流体の流れの偏りを緩和できる。さらに、1つあたりの貫通孔の穴径が小さいことで、気体に含まれる異物が貫通孔を通りづらくなり、異物への耐性も向上する。
【0016】
また、第1の貫通孔は、第1の冷接点が並ぶ方向に沿って一辺が形成されている矩形の長穴であってもよい。また、第2の貫通孔は、第2の冷接点が並ぶ方向に沿って一辺が形成されている矩形の長穴であってもよい。これにより、キャビティ内を通過する流体の量を増やすことができる。そのため、流体の流量や流速の検出感度が向上する。
【0017】
熱伝導部材は、電気的にGND電位に接続されていてもよい。これにより、熱伝導部材が電磁シールドとして機能し、熱伝導部材周辺での電流や信号に対する電気的な外乱の影響が抑制され、ノイズ耐性が向上する。また、帯電した異物がGND電位の熱伝導部材に引き寄せられトラップされることにより、異物が貫通孔からキャビティ内に侵入しづらくなる。
【0018】
熱伝導部材は、アルミニウム、チタン、銅、タングステン、モリブデン、タンタルからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属材料であってもよい。ここで、金属材料とは、複数の元素からなる合金であってもよい。これにより、冷接点と基板との間の熱の伝導が効率良く行われる。また、これらの金属は半導体プロセスで多く使われている材料であり、シリコン基板への成膜が容易である。
【0019】
基板の上に設けられた金属端子を更に備えてもよい。熱伝導部材及び金属端子は、同じ材料かつ同じ膜厚で構成されていてもよい。これにより、熱伝導部材及び金属端子を同じプロセスで形成できる。なお、熱伝導部材及び金属端子の膜厚は、厳密に同じである必要はなく、製造プロセス上の誤差や、性能に影響しない程度の誤差があってもよい。
【0020】
熱伝導部材及び金属端子は、金、白金、銀、アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属材料であってもよい。これにより、熱伝導部材と金属端子とをワイヤーボンディングで接続する際の信頼性が向上する。また、熱伝導部材と金属端子を同一の金属材料とすることで、作製工法を簡素化することができる。
【0021】
第1の熱伝導部材は、第1のサーモパイルが有する熱電対の第1の冷接点が並ぶ方向に沿って一辺が形成されている矩形又はU字状の金属層であり、第2の熱伝導部材は、第2のサーモパイルが有する熱電対の第2の冷接点が並ぶ方向に沿って一辺が形成されている矩形又はU字状の金属層であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、基板に形成されるキャビティの寸法誤差が流量の検出精度に与える影響を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1に係るフローセンサチップの上面図である。
【
図2】
図1に示すフローセンサチップのA-A断面図である。
【
図3】サーモパイルの構成の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)は、実施例1に係るフローセンサチップの仕組みを説明するための断面図である。
【
図5】実施例2に係るフローセンサチップの上面図である。
【
図6】
図5に示すフローセンサチップのB-B断面図である。
【
図7】実施例3に係るフローセンサチップの上面図である。
【
図8】実施例4に係るフローセンサチップの断面図である。
【
図9】
図8に示すサーモパイル近傍の拡大図である。
【
図10】実施例5に係るフローセンサチップの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[適用例]
本適用例においては、サーモパイルを用いた熱式のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサチップをフローセンサに適用した場合について説明する。本適用例に係るフローセンサは対となる2つのサーモパイルを有し、それぞれのサーモパイルは複数の熱電対から構成される。それぞれの熱電対は、ヒータ側に位置する温接点、及びヒータと反対側に位置し、温接点と対を成す冷接点を備えている。
【0025】
熱電対は、温接点がヒータの熱を感知すると、ゼーベック効果により、冷接点との温度差によって起電力が生じる。起電力が生じると、サーモパイルの間の温度差の検知が可能となり、流体の流量の値を観測することが可能となる。ここで、流体の流量の値が増大するほど、サーモパイルの間の温度差の値も増大し、両者の値は個々に相関性を持っている。そのため、サーモパイルの間の温度差を測定することで流体の流量を取得することが可能となる。
【0026】
サーモパイルはヒータを挟んで対称に設けられており、流量検出の際に流体が流路に沿って流れてくる側を上流側、反対側を下流側としている。また、サーモパイルとヒータは、薄膜状の絶縁膜上又は絶縁膜内に配置されており、絶縁膜の一部は基板上の所定面側に開口した凹部であるキャビティを覆うように形成されている。
【0027】
しかしながら、前述のサーモパイル型センサにおいては、外部環境が原因で基板上に温度分布が生じることでサーモパイルの冷接点同士の間で温度差が生じる、あるいはキャビティの寸法のバラツキが生じた際にオフセット電圧が生じるといった可能性が考えられる。その結果、サーモパイル型センサの測定精度が低下したり、キャビティの寸法精度を向上させるために生産性が低下したりする不都合が生じ得る。
【0028】
そこで、本開示では、キャビティに対する冷接点の位置を工夫することで、基板にキャビティを形成する際の寸法誤差が流量の検出精度に与える影響を緩和できるフローセンサチップを考案した。具体的には、
図1や
図2に示すように、第1のサーモパイル6aが有する熱電対8aの第1の温接点9a及び第1の冷接点10a、並びに、第2のサーモパイル6bが有する熱電対8bの第2の温接点9b及び第2の冷接点10bは、基板3の表面3aの法線方向Zから見て開口2aと重複する位置に配置されているフローセンサチップ
1を考案した。この構成により、冷接点10a,10bが基板3と隣接せずに基板3から離れるため、基板3から冷接点10a,10bが受ける熱的な影響が緩和される。
【0029】
一方、そのままでは、冷接点10a,10bを冷却する効果も低下してしまうため、フローセンサチップ1は、基板3とメンブレン4との間の熱の伝導路となる熱伝導部材7a,7bを備えている。熱伝導部材7a,7bは、メンブレン4の主材料である酸化シリコンや窒化シリコンよりも熱伝導率が高く、例えば、熱伝導が良好な金属層によるカバーであり、アルミニウム、チタン、銅、タングステン、モリブデン、タンタルといった金属が利用できる。このような金属以外でも、熱伝導率が所定の値以上(例えば、15[W/m・K]以上)の材料であれば、熱伝導部材7a,7bとして利用できる。そして、熱伝導部材7a,7bが冷接点10a,10bと基板3との間の熱の伝導路となることで、キャビティの寸法誤差があっても、冷接点10a,10bが基板3を介して同じ温度に冷却されやすくなり、フローセンサチップ1による流量の検出精度が向上する。
【0030】
[実施例1]
以下、本開示の実施例1に係るサーモパイル型のフローセンサチップについて、図面を用いて詳細に説明する。以下の実施形態においては、本開示を熱式のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)フローセンサに適用した例について説明するが、本開示を赤外線センサ等、他のサーモパイル型センサに適用してもかまわない。なお、標準的なフローセンサは、フローセンサチップ以外に、流路を構成する筐体や、フローセンサチップの駆動や出力信号の処理を行う回路を備えているが、筐体や回路の構成については、本開示のフローセンサチップの構成や用途、目的に応じて適宜選択すればよい。また、本開示に係るフローセンサチップは、以下の構成には限定されない。
【0031】
<フローセンサチップ>
図1は、実施例1に係るフローセンサチップの上面図である。
図2は、
図1に示すフローセンサチップのA-A断面図である。フローセンサチップ1は、例えば、ガスメータや燃焼機器、自動車等の内燃機関、燃料電池、その他医療等の産業機器、組込機器に組み込まれ、流路を通過する流体の量を測定するための熱式のフローセンサに適用できる。
【0032】
フローセンサチップ1は、開口2aを有するキャビティ2が内部に形成されている基板3と、開口2aを覆うように、基板3の表面に配置されているメンブレン4と、メンブレン4の内部に設けられたヒータ5と、メンブレン4の内部に設けられ、ヒータ5の上流側に配置された第1のサーモパイル6a及びヒータ5の下流側に配置された第2のサーモパイル6bと、基板3とメンブレン4との間の熱の伝導路となる熱伝導部材7a,7bと、を備える。
【0033】
図2に示すように、フローセンサチップ1において、第1のサーモパイル6aが有する熱電対8aの第1の温接点9a及び第1の冷接点10a、並びに、第2のサーモパイル6bが有する熱電対8bの第2の温接点9b及び第2の冷接点10bは、基板3の表面3a(メンブレン4を支持している表面)の法線方向Zから見て開口2aと重複する位置に配置されている。熱伝導部材7a,7bは、第1の冷接点10aと基板3との間の熱の伝導路となる第1の熱伝導部材7aと、第2の冷接点10bと基板3との間の熱の伝導路となる第2の熱伝導部材7bとを有する。
【0034】
図1、
図2に示すように、サーモパイル6a,6bは、ヒータ5を挟んで対称に設けられている。基板3は、表面3aが所定の面方位となるように加工された板状の単結晶シリコンで構成されている。また、ヒータ5は、例えばポリシリコンで形成された抵抗である。サーモパイル6a,6bのそれぞれの形状は、チップ表面を上面から見て略矩形である。第1のサーモパイル6aは、ヒータ5の上流側に配置されており、第2のサーモパイル
6bは、ヒータ5の下流側に配置されている。ここで、ヒータ5の上流側、下流側とは、例えば、フローセンサチップ1の測定対象であるガス(流体)が、フローセンサチップ1表面上の流路を通常流れる方向Fを基準として定義される。
【0035】
ヒータ5及びサーモパイル6a,6bは、絶縁材料からなるメンブレン4の内部に形成され、メンブレン4は、基板3上に設けられている。なお、メンブレン4の内部に設けられているヒータ5やサーモパイル6a,6bは、その全体が完全にメンブレン4に包み込まれていなくてもよく、一部が外部に露出したり、他の部品と接合したりしていてもよい。
【0036】
フローセンサチップ1は、二つのサーモパイル6a,6bから出力された温度検出信号に基づいて、測定対象である流体の流量を示す値を検出する。具体的には、フローセンサチップ1は、第1のサーモパイル6aから出力された温度検出信号と、第2のサーモパイル6bから出力された温度検出信号との差分を算出し、差分に基づいて流体の流量を示す値を後段の電子回路部(不図示)へ出力する。なお、
図1では二つのサーモパイル6a,6bを示しているが、サーモパイルは二つ以上であればその数に限定はない。
【0037】
図3は、サーモパイルの構成の一例を示す模式図である。
図1では簡略化して示しているが、第1のサーモパイル6aは、複数の熱電対8aがメンブレン4上に所定の間隔で並んで配置されることで構成されている。複数の熱電対8aは直列接続された温度センサとして機能する。第1のサーモパイル6aは、複数の第1の温接点9aが
図1のY方向に並ぶように形成されている。また、第1のサーモパイル6aは、複数の第1の冷接点10aが
図1のY方向に並ぶように形成されている。第1のサーモパイル6aは、熱電対8aの第1極11、第2極12の構成材料として、それぞれ、N型ポリシリコン(P(リン)を注入したポリシリコン)、Al(アルミニウム)を採用しているが、必ずしもこの組合せに限られない。なお、第2のサーモパイル6bは、第1のサーモパイル6aと同様の構成であり、説明を省略する。
【0038】
前述のように、一対あたりの熱電対8aは、ポリシリコン配線上にAlの金属薄膜が形成された構成を有し、熱電対8aの両端において、ポリシリコン配線である第1極11が金属薄膜である第2極12と接続されている。このうち、ヒータ5と同じ側で接続されている箇所が第1の温接点9aであり、ヒータ5と反対側で接続されている箇所が第1の冷接点10aである。なお、熱電対8bは、熱電対8aと同様の構成である。
【0039】
このように、二つのサーモパイル6a,6bにおいて、第1の温接点9aと第2の温接とはヒータ5を挟んで互いに対向している。また、第1の冷接点10aは、熱電対8aの両端部のうち第1の温接点9aが設けられている一端とは反対側の他端に設けられている。同様に、第2の冷接点10bは、熱電対8bの両端部のうち第2の温接点9bが設けられている一端とは反対側の他端に設けられている。
【0040】
図4(a)及び
図4(b)は、実施例1に係るフローセンサチップ1の仕組みを説明するための断面図である。
図4(a)及び
図4(b)は、点線の楕円によって、ヒータ5が発熱した場合の温度分布を模式的に示している。なお、ヒータ5近辺の温度分布ほど温度が高いものとする。
図4(a)は、流体が流れていない状態でヒータ5に通電する場合の温度分布の一例を模式的に示している。一方、
図4(b)は、流体が矢印の方向Fに流れている状態でヒータ5に通電する場合の温度分布の一例を模式的に示している。第1のサーモパイル6a、ヒータ5及び第2のサーモパイル6bは、フローセンサチップ1内において、矢印の方向Fに沿って順に並んで配置されている。ヒータ5及びサーモパイル6a,6bの各々の長手方向(
図1に示すY方向)は、流体の流れ方向と直交(交差)する。
【0041】
流体が流れていない場合、ヒータ5の熱は、
図4(a)に示すように、ヒータ5を中心として対称に拡散する。よって、
図4(a)において、ヒータ5の左側(上流側)に配置されている第1の温接点9aの温度と、ヒータ5の右側(下流側)に配置されている第2の温接点9bの温度とは同一となる。すなわち、サーモパイル6a,6bのそれぞれの温度検出信号に差はなく、出力電圧は生じない。
【0042】
一方、流体が流れている場合、ヒータ5の熱は、流体の流れの影響を受けるため、ヒータ5を中心として対称に拡散せず、流体の流れに沿って非対称に拡散していく。よって、
図4(b)において、ヒータ5の左側に配置されている第1の温接点9aの温度と、ヒータ5の右側に配置されている第2の温接点9bの温度との間に差が生じる。そして、この温度差に比例してサーモパイル6a,6bのそれぞれの温度検出信号に差が生じ、出力電圧が生じる。また、流速に応じて温度差が大きくなるため、流速の大きさをサーモパイル6a,6bの起電力に基づいて検出できる。また、流体の流れる向きにより、
図4(b)に示す二つの温接点9a,9bの間の温度差の正負が逆転し、出力電圧の正負も逆転するため、流体の流れる向きを検出できる。フローセンサチップ1は、このようなヒータ5の熱の分布の偏りを利用して、流量を示す値を出力する。
【0043】
本実施例に係るフローセンサチップ1は、メンブレン4を搭載する基板3に、凹部であるキャビティ2が形成されている。そして、第1のサーモパイル6aが有する第1の温接点9a及び第2のサーモパイル6bが有する第2の温接点9bは、基板表面の法線方向から見て開口2aと重複する位置に配置されている。そして、ヒータ5からの発熱は、キャビティ2に放出されるため、基板3の内部への発熱の拡散は抑制される。つまり、ヒータ5によって基板3が加熱されることが緩和される。
【0044】
また、フローセンサチップ1は、第1のサーモパイル6aが有する第1の冷接点10a及び第2のサーモパイル6bが有する第2の冷接点10bも、基板表面の法線方向から見て開口2aと重複する位置に配置されている。つまり、第1の冷接点10a及び第2の冷接点10bは、基板3とメンブレン4とが接している領域R1ではなく、メンブレン4が基板3ではなくキャビティ2と対向する領域R2に含まれている。そのため、仮にキャビティ2の寸法(形状)にバラツキが生じ、法線方向から見て基板3とメンブレン4とが重なる領域R1の面積や位置が所望の値からずれた場合であっても、基板3から離れた場所にある各冷接点10a,10bが基板3から受ける影響の差が緩和される。基板3から受ける影響は、例えば、ヒータ5の熱を各冷接点10a,10bで冷却する効果や、周囲温度よって変化した基板3の熱が各冷接点10a,10bへ熱伝導する効果に基づく影響である。
【0045】
一方、基板3を介した各冷接点10a,10bの冷却は、第1の冷接点10aと基板3との間の熱の伝導路となる熱伝導部材7aと、第2の冷接点10bと基板3との間の熱の伝導路となる第2の熱伝導部材7bとが担うことになるので、第1の冷接点10a及び第2の冷接点10bの温度は従来同様にほぼ同じにできる。また、仮に基板内で温度分布が発生しても、第1の冷接点10a及び第2の冷接点10bは基板3から直接熱が伝わることはないため、温度分布の影響を受けにくい。その結果、本実施例に係るフローセンサチップ1は、基板3に形成されるキャビティ2の寸法誤差が流量の検出精度(例えば、オフセット電圧のバラツキ)に与える影響を緩和できる。
【0046】
換言すると、キャビティ2を製造する際の寸法のバラツキ(公差)がある程度大きくても、流量の検出精度の低下が抑えられるため、基板3へキャビティ2を形成する工程における良品の歩留りを向上できる。特に、単結晶シリコンからなる基板3へエッチングによりキャビティ2を形成する場合、キャビティ2の寸法のバラツキが小さい加工は難しいため、本実施例に係るフローセンサチップ1のように、キャビティ2の寸法のバラツキが流
量の検出精度に与える影響を緩和した構成が好ましい。
【0047】
また、第1の熱伝導部材7aは、メンブレン4の基板3と接している側4aと反対側の表面4bに設けられており、基板表面の法線方向から見てメンブレン4と基板3とが接している領域R1から第1の冷接点10aの上方まで延びている。また、第2の熱伝導部材7bは、メンブレン4の基板3と接している側4aと反対側の表面4bに設けられており、基板表面の法線方向から見てメンブレン4と基板3とが接している領域R1から第2の冷接点10bの上方まで延びている。これにより、第1の冷接点10aは、第1の熱伝導部材7aを介して基板3へ熱を逃がすことができる。同様に、第2の冷接点10bは、第2の熱伝導部材7bを介して基板3へ熱を逃がすことができる。
【0048】
なお、本実施例では、基板3が単結晶シリコンである場合を例示しているが、エッチングや他のプロセスで所望形状のキャビティ2を形成できる材料であれば基板に採用し得る。また、実施例1に係るキャビティ2は、基板3の内部に形成されているものであり、基板3の一方の表面3a側に開口2aを有しているが、基板3を貫通するように基板の両方の表面に開口が形成されていてもよい。また、キャビティ2の側面2bは、開口2aに向かって側面が広がるように傾斜を有している。
【0049】
また、本実施例に係るフローセンサチップ1において、第1の熱伝導部材7a及びメンブレン4は、流路が形成されている外部(流路13)とキャビティ2とを連通する第1の貫通孔14aが形成されている。加えて、第2の熱伝導部材7b及びメンブレン4は、外部(流路13)とキャビティ2とを連通する第2の貫通孔14bが形成されている。これにより、検出対象である流体は、メンブレン4の上を通過しながらヒータ5の熱による温度分布を偏らせるだけでなく、基板3の内部に形成されているキャビティ2を通過しながらキャビティ内の温度分布を偏らせることができる。そのため、流体の流量や流速の検出感度が向上する。また、流体が流れる流路13の上流側に第1の貫通孔14aが形成され、下流側に第2の貫通孔14bが形成されることで、流体がキャビティ2の内部をスムーズに通過できる。
【0050】
また、第1の貫通孔14aは、
図1に示すように、メッシュ状に複数個形成されている。同様に、第2の貫通孔14bは、メッシュ状に複数個形成されている。これにより、キャビティ内を通過する流体の流れの偏りを緩和できる。さらに、1つあたりの貫通孔の穴径が小さいことで、気体に含まれる異物が貫通孔を通りづらくなり、異物への耐性も向上する。
【0051】
また、熱伝導部材7a,7bは、Al、Ti(チタン)、Cu(銅)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属材料である。ここで、金属材料とは、複数の元素からなる合金であってもよい。これにより、冷接点10a,10bと基板3との間の熱の伝導が効率良く行われる。なお、金属材料は一般的に赤外線反射率が高い(放射率の低い)ため、熱伝導部材7a,7bによって外界から基板3への放射伝熱の影響を低減することができる。また、基板3やメンブレン4より熱伝導率の高い金属材料を用いて、基板3上の広範囲をカバーすることで基板3の温度分布の均質化が図られる。
【0052】
[実施例2]
図5は、実施例2に係るフローセンサチップの上面図である。
図6は、
図5に示すフローセンサチップのB-B断面図である。実施例2に係るフローセンサチップ15は、熱伝導部材7a,7bが電気的にGND電位に接続されている点を除いて、実施例1に係るフローセンサチップ1と同じ構成である。したがって、以下では、フローセンサチップ1と同じ構成は同じ符号を付し、説明を適宜省略する。
【0053】
実施例2に係るフローセンサチップ15は、金属等の導電性材料でもある熱伝導部材7a,7bが電磁シールドとして機能し、熱伝導部材周辺での電流や信号に対する電気的な外乱の影響が抑制され、ノイズ耐性が向上する。また、帯電した異物16がGND電位の熱伝導部材7a,7bに引き寄せられトラップされることにより、異物が貫通孔14a,14bからキャビティ2内に侵入しづらくなる。また、異物16を捕獲する熱伝導部材7a,7bは、流体がキャビティ2に入る入口である貫通孔14a,14bが形成されているため、効率的に異物16を捕獲できる。
【0054】
[実施例3]
図7は、実施例3に係るフローセンサチップの上面図である。実施例3に係るフローセンサチップ17は、熱伝導部材の形状及び貫通孔の形状を除いて、実施例1に係るフローセンサチップ1と同じ構成である。したがって、以下では、フローセンサチップ1と同じ構成は同じ符号を付し、説明を適宜省略する。
【0055】
実施例3に係るフローセンサチップ17は、矩形の熱伝導部材7a,7bの代わりに、冷接点10a,10bが並ぶ方向に一辺が形成されているU字状の金属層からなる熱伝導部材18a,18bが設けられている。また、第1の貫通孔19a及び第2の貫通孔19bは、冷接点10a,10bが並ぶ方向に沿って一辺が形成されている矩形の長穴である。したがって、流体が第1の貫通孔19aを介してキャビティ2に流入しやすくなるとともに、第2の貫通孔19bを経て外部へ流出しやすくなり、キャビティ2内を通過する流体の量を増やすことができる。その結果、フローセンサチップ17は、流体の流量や流速の検出感度が向上する。
【0056】
[実施例4]
図8は、実施例4に係るフローセンサチップの断面図である。
図9は、
図8に示すサーモパイル近傍の拡大図である。実施例4に係るフローセンサチップ20は、熱伝導部材が冷接点と連なりながらメンブレン4の内部に設けられている点が、実施例1に係るフローセンサチップ1と異なる主な点である。したがって、以下では、フローセンサチップ1と同じ構成は同じ符号を付し、説明を適宜省略する。
【0057】
実施例4に係るフローセンサチップ20は、冷接点10a,10bの外側(ヒータ5がある中央側と反対側)に、前述の熱伝導部材と同じ機能を果たす熱伝導部材21a,21bがそれぞれ設けられている。熱伝導部材21a,21bは、矩形であり、冷接点の数と同じ数形成されている。熱伝導部材21a,21bは、冷接点10a,10bと連なっている一端21a1と反対側の他端21a2が、基板3とメンブレン4とが重なる領域R1まで延びている。換言すると、熱伝導部材21a,21bは、メンブレン4の内部に設けられており、基板3の表面3aの法線方向から見てメンブレン4と基板3とが重なっている領域R1から冷接点10a,10bの側方まで延びて冷接点10a,10bと一体化している。これにより、熱伝導部材21a,21bをメンブレン4の上に設ける必要がなくなり、フローセンサチップ20の厚みを抑えることができる。各熱伝導部材と各冷接点とを同時に形成できることで、作製工法の簡易化を図ることができる。また、各熱伝導部材と各冷接点が一体化していることで、熱伝導の効果を高めることができる。
【0058】
[実施例5]
図10は、実施例5に係るフローセンサチップの断面図である。実施例5に係るフローセンサチップ22は、基板3の上に設けられた金属端子23a,23bを備えている点が、実施例1に係るフローセンサチップ1と異なる主な点である。したがって、以下では、フローセンサチップ1と同じ構成は同じ符号を付し、説明を適宜省略する。
【0059】
実施例5に係るフローセンサチップ22においては、熱伝導部材7a,7b及び金属端子23a,23bは、同じ材料かつ同じ膜厚で構成されている。これにより、熱伝導部材7a,7b及び金属端子23a,23bを同じプロセスで形成でき、作製工法を簡素化できる。なお、熱伝導部材及び金属端子の膜厚は、厳密に同じである必要はなく、製造プロセス上の誤差や、性能に影響しない程度の誤差があってもよい。
【0060】
また、熱伝導部材7a,7b及び金属端子23a,23bは、金、白金、銀、アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属材料である。これにより、熱伝導部材7aと金属端子23a、熱伝導部材7bと金属端子23bをそれぞれワイヤーボンディングで接続する際の信頼性が向上する。
【0061】
以上、図面を参照しながら、この開示を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明した。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、開示が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この開示の範囲を上述の実施形態に限定する趣旨のものではなく、実施形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本開示に含まれるものである。
【0062】
なお、以下には本開示の構成要件と実施例の構成とを対比可能とするために、本開示の構成要件を図面の符号付きで記載しておく。
<付記1>
開口(2a)を有するキャビティ(2)が形成されている基板(3)と、
前記開口を覆うように、前記基板(3)の表面(3a)に配置されているメンブレン(4)と、
前記メンブレンに設けられたヒータ(5)と、
前記メンブレンに設けられ、前記ヒータを挟んで配置された第1のサーモパイル(6a)及び第2のサーモパイル(6b)と、
前記基板(3)と前記メンブレン(4)との間の熱の伝導路となる熱伝導部材(7a,7b)と、を備え、
前記第1のサーモパイル(6a)が有する熱電対(8a)の第1の温接点(9a)及び第1の冷接点(10a)、並びに、前記第2のサーモパイル(6b)が有する熱電対(8b)の第2の温接点(9b)及び第2の冷接点(10b)は、前記基板表面の法線方向から見て前記開口と重複する位置に配置されており、
前記熱伝導部材は、前記第1の冷接点(10a)と前記基板(3)との間の熱の伝導路となる第1の熱伝導部材(7a)と、前記第2の冷接点(10b)と前記基板(3)との間の熱の伝導路となる第2の熱伝導部材(7b)と、を有することを特徴とするフローセンサチップ(1)。
【符号の説明】
【0063】
1 フローセンサチップ
2 キャビティ
2a 開口
3 基板
3a 表面
4 メンブレン
5 ヒータ
6a 第1のサーモパイル
6b 第2のサーモパイル
7a 第1の熱伝導部材
7b 第2の熱伝導部材
8a 熱電対
8b 熱電対
9a 第1の温接点
9b 第2の温接点
10a 第1の冷接点
10b 第2の冷接点
14a 第1の貫通孔
14b 第2の貫通孔