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特許7597305反射型フォトマスクブランク、反射型フォトマスク及び反射型フォトマスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】反射型フォトマスクブランク、反射型フォトマスク及び反射型フォトマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20241203BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20241203BHJP
   G03F 1/48 20120101ALI20241203BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/54
G03F1/48
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024153115
(22)【出願日】2024-09-05
(62)【分割の表示】P 2024031508の分割
【原出願日】2024-03-01
【審査請求日】2024-10-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】テクセンドフォトマスク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀亮
(72)【発明者】
【氏名】山形 悠斗
(72)【発明者】
【氏名】武田 直也
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-273678(JP,A)
【文献】特開2017-151427(JP,A)
【文献】国際公開第2022/065421(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、
基板と、
前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、
前記反射層の上に形成された吸収層と、を有し、
前記吸収層は、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上45原子%以下の範囲内で含有する材料で形成され、
前記吸収層の膜厚は、17nm以上50nm以下の範囲内であり、
前記吸収層の表面粗さは、0.4nm以下である反射型フォトマスクブランク。
【請求項2】
前記吸収層は、前記タンタル(Ta)を20原子%以上40原子%以下の範囲内で含有する材料で形成されている請求項1に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項3】
前記吸収層は、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、金(Au)、銀(Ag)、ヨウ素(I)、テルル(Te)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、及びホウ素(B)からなる群から選択された1種以上の元素をさらに含有する請求項1に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項4】
前記吸収層の上にハードマスクを有し、
前記ハードマスクの膜厚は、2nm以上30nm以下の範囲内である請求項3に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項5】
前記ハードマスクは、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、金(Au)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、及びシリコン(Si)、並びにそれらの酸化物、窒化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物の群から選択された1種以上からなる請求項4に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項6】
前記吸収層の上に酸化膜を有する請求項3に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項7】
前記反射層と前記吸収層との間にキャッピング層が形成されている請求項1~6のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項8】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクであって、
基板と、
前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、
前記反射層上に形成された吸収パターン層と、を有し、
前記吸収パターン層は、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上45原子%以下の範囲内で含有する材料で形成され、
前記吸収パターン層の膜厚は、17nm以上50nm以下の範囲内であり、
前記吸収パターン層の表面粗さは、0.4nm以下である反射型フォトマスク。
【請求項9】
前記吸収パターン層は、タンタル(Ta)を20原子%以上40原子%以下の範囲内で含有する材料で形成されている請求項8に記載の反射型フォトマスク。
【請求項10】
前記吸収パターン層は、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、金(Au)、銀(Ag)、ヨウ素(I)、テルル(Te)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、及びホウ素(B)からなる群から選択された1種以上の元素をさらに含有する請求項9に記載の反射型フォトマスク。
【請求項11】
前記吸収パターン層の上と前記吸収パターン層の側面の少なくとも一方に酸化膜を有する請求項10に記載の反射型フォトマスク。
【請求項12】
前記反射層と前記吸収パターン層との間にキャッピング層が形成されている請求項8~11のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
【請求項13】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクの製造方法であって、
基板上に多層膜を含む反射層を形成する工程と、
前記反射層上に吸収パターン層を形成する工程と、を有し、
前記吸収パターン層は、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上45原子%以下の範囲内で含有する材料で形成され、
前記吸収パターン層の膜厚は、17nm以上50nm以下の範囲内であり、
前記吸収パターン層の表面粗さは、0.4nm以下である反射型フォトマスクの製造方法。
【請求項14】
前記吸収パターン層は、タンタル(Ta)を20原子%以上40原子%以下の範囲内で含有する材料で形成されている請求項13に記載の反射型フォトマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型フォトマスクブランク、反射型フォトマスク及び反射型フォトマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィ技術の微細化に対する要求が高まっている。フォトリソグラフィにおける転写パターンの最小解像寸法は、露光光源の波長に大きく依存し、波長が短いほど最小解像寸法を小さくできる。このため、露光光源は、従来の波長193nmのArFエキシマレーザー光から、波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)領域の光に置き換わってきている。
【0003】
EUV領域の光は、ほとんどの物質で高い割合で吸収されるため、EUV露光用のフォトマスク(EUVマスク)としては、反射型のフォトマスクが使用される(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ガラス基板上にモリブデン(Mo)層及びシリコン(Si)層を交互に積層した多層膜からなる反射層を形成し、その上にタンタル(Ta)を主成分とする光吸収層を形成し、この光吸収層にパターンを形成することで得られたEUVフォトマスクが開示されている。
【0004】
また、EUVリソグラフィは、前記のように、光の透過を利用する屈折光学系が使用できないことから、露光機の光学系部材もレンズではなく、反射型(ミラー)となる。このため、反射型フォトマスク(EUVマスク)への入射光とEUVマスクでの反射光とが同軸上に設計できない問題があり、通常、EUVリソグラフィでは、光軸をEUVマスクの垂直方向から6度傾けて入射し、マイナス6度の角度で反射する反射光を半導体基板に導く手法が採用されている。
【0005】
このように、EUVリソグラフィではミラーを介し光軸を傾斜することから、EUVマスクに入射するEUV光がEUVマスクのマスクパターン(パターン化された光吸収層)の影をつくる、いわゆる「射影効果」と呼ばれる問題が発生することがある。
現在のEUVマスクブランクでは、光吸収層として膜厚60~90nmのタンタル(Ta)を主成分とした膜が用いられている。このマスクブランクを用いて作製したEUVマスクでパターン転写の露光を行った場合、EUV光の入射方向とマスクパターンの向きとの関係によっては、マスクパターンの影となるエッジ部分で、コントラストの低下を引き起こす恐れがある。これに伴い、半導体基板上の転写パターンのラインエッジラフネスの増加や、線幅が狙った寸法に形成できないなどの問題が生じ、転写性能が悪化することがある。
【0006】
そこで、光吸収層をタンタル(Ta)からEUV光に対する吸収性(消衰係数)が高い材料への変更や、タンタル(Ta)に吸収性の高い材料を加えた反射型フォトマスクブランクが検討されている。例えば、特許文献2では、光吸収層を、Pt、Zn、Au、NiO、AgO、Ir、Fe、SnO、Coなどから選ばれた少なくとも2つの材料を含む合金で構成された反射型フォトマスクブランクが記載されている。
【0007】
しかしながら、EUV光への吸収性の高い材料の中にはドライエッチングによる加工が難しい材料もあり、フォトマスクブランクを成膜(作製)しても、フォトマスクブランクに備わる光吸収層をパターニングができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5418293号
【文献】特表2019-527382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、以上のような事情の元になされ、極端紫外領域の波長の光を光源として使用するパターニング転写用の反射型フォトマスクであって、良好なパターン加工性を有する吸収層を備えた反射型フォトマスク及びその反射型フォトマスクを製造するために用いる反射型フォトマスクブランク並びにその反射型フォトマスクブランクを用いた反射型フォトマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は上記課題を解決するために成されたものであって、本開示の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、基板と、前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、前記反射層の上に形成された吸収層と、を有し、前記吸収層は、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上50原子%未満の範囲内で含有する材料で形成され、前記吸収層の膜厚は、17nm以上50nm以下の範囲内であり、前記吸収層のEUV光に対する消衰係数は、0.049以上であり、前記吸収層の表面粗さは、0.4nm以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本開示の一態様に係る反射型フォトマスクは、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクであって、基板と、前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、前記反射層上に形成された吸収パターン層と、を有し、前記吸収パターン層は、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上50原子%未満の範囲内で含有する材料で形成され、前記吸収パターン層の膜厚は、17nm以上50nm以下の範囲内であり、前記吸収層のEUV光に対する消衰係数は、0.049以上であり、前記吸収パターン層の表面粗さは、0.4nm以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本開示の一態様に係る反射型フォトマスクの製造方法は、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクの製造方法であって、基板上に多層膜を含む反射層を形成する工程と、前記反射層上に吸収パターン層を形成する工程と、を有し、前記吸収パターン層は、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上50原子%未満の範囲内で含有する材料で形成され、前記吸収パターン層の膜厚は、17nm以上50nm以下の範囲内であり、前記吸収パターン層のEUV光に対する消衰係数は、0.049以上であり、前記吸収パターン層の表面粗さは、0.4nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様に係る反射型フォトマスクブランクであれば、良好なパターン加工性を有する吸収層の作成が可能になる。つまり、本開示の一態様に係る反射型フォトマスクブランクであれば、吸収層のパターン加工性に優れた反射型フォトマスクブランクを提供することができる。換言すると、本開示の一態様に係る反射型フォトマスクブランクであれば、良好なパターン加工性を得ることができ、且つ極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニングにおいて半導体基板への転写性能の向上が期待できる吸収層を備えた反射型フォトマスクブランクを提供することができる。
【0014】
また、本開示の一態様に係る反射型フォトマスクであれば、良好なパターン加工性を有する吸収層を備えた反射型フォトマスクを提供することができる。つまり、本開示の一態様に係る反射型フォトマスクであれば、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニングにおいて半導体基板への転写性能の向上が期待できる。
また、本開示の一態様に係る反射型フォトマスクの製造方法であれば、良好なパターン加工性を有する吸収層を備えた反射型フォトマスクを製造することができる。つまり、本開示の一態様に係る反射型フォトマスクの製造方法であれば、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニングにおいて半導体基板への転写性能の向上が期待できる反射型フォトマスクを製造できる。
【0015】
このように、本開示の一態様であれば、極端紫外領域の波長の光を光源として使用するパターニング転写用の反射型フォトマスクであって、良好なパターン加工性を有する吸収層を備えた反射型フォトマスク及びその反射型フォトマスクを製造するために用いる反射型フォトマスクブランク並びにその反射型フォトマスクブランクを用いた反射型フォトマスクの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
図3】EUV光の波長における各金属材料の光学定数を示すグラフである。
図4】本発明の他の実施形態に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
図5】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
図6】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
図7】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
図8】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
図9】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
図10】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの設計パターンの形状を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の構造を示す概略断面図である。また、図2は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20の構造を示す概略断面図である。ここで、図2に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20は、図1に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の吸収層4をパターニングして形成したものである。
【0019】
(全体構造)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10は、基板
1と、基板1上に形成された反射層2と、反射層2の上に形成されたキャッピング層3と、キャッピング層3の上に形成された吸収層4と、を備えている。
【0020】
(基板)
本発明の実施形態に係る基板1には、例えば、平坦なSi基板や合成石英基板等を用いることができる。また、基板1には、チタンを添加した低熱膨張ガラスを用いることができるが、熱膨張率の小さい材料であれば、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
(反射層)
本発明の実施形態に係る反射層2は、露光光であるEUV光(極端紫外光)を反射するものであればよく、EUV光に対する屈折率の大きく異なる材料の組み合わせによる多層反射膜であってもよい。多層反射膜を含む反射層2は、例えば、Mo(モリブデン)とSi(シリコン)、またはMo(モリブデン)とBe(ベリリウム)といった組み合わせの層を40周期程度繰り返し積層することにより形成したものであってもよい。
【0022】
(キャッピング層)
本発明の実施形態に係るキャッピング層3は、吸収層4に転写パターン(マスクパターン)を形成する際に行われるドライエッチングに対して耐性を有する材質で形成されており、吸収層4をエッチングする際に、反射層2へのダメージを防ぐエッチングストッパとして機能するものである。キャッピング層3は、例えば、Ru(ルテニウム)で形成されている。ここで、反射層2の材質やエッチング条件により、キャッピング層3は形成されていなくてもかまわない。また、図示しないが、基板1の反射層2を形成していない面に裏面導電膜を形成することができる。裏面導電膜は、反射型フォトマスク20を露光機に設置するときに静電チャックの原理を利用して固定するための膜である。
【0023】
(吸収層)
図2に示すように、反射型フォトマスクブランク10の吸収層4の一部を除去することにより、即ち吸収層4をパターニングすることにより、反射型フォトマスク20の吸収パターン(吸収パターン層)41が形成される。EUVリソグラフィにおいて、EUV光は斜めに入射し、反射層2で反射されるが、吸収パターン41が光路の妨げとなる射影効果により、ウェハ(半導体基板)上への転写性能が悪化することがある。この転写性能の悪化は、EUV光を吸収する吸収層4の厚さを薄くすることで低減される。吸収層4の厚さを薄くするためには、従来の材料よりEUV光に対する吸収性の高い材料、つまり波長13.5nmに対する消衰係数kの高い材料を適用することが好ましい。
【0024】
図3は、各金属材料のEUV光の波長13.5nmに対する光学定数を示すグラフである。図3の横軸は屈折率nを表し、縦軸は消衰係数kを示している。従来の吸収層4の主材料であるタンタル(Ta)の消衰係数kは0.041である。それより大きい消衰係数kを有する化合物材料であれば、従来に比べて吸収層4の厚さを薄くすることが可能である。
【0025】
上記のような消衰係数kを満たす材料としては、図3に示すように、例えば、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、インジウム(In)、コバルト(Co)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、テルル(Te)がある。しかしながら、これらの金属材料の一部は、フォトマスクが使用される環境下で必要とされる洗浄耐性や水素ラジカル耐性が低いという問題を有している。このため、これらの金属材料で形成された吸収層を備える反射型フォトマスクブランクを作製したとしても、その反射型フォトマスクブランクを用いて作製された反射型フォトマスクは露光環境下で使用することができない場合がある。
【0026】
また、水素ラジカルに対する耐性面では問題がない材料であっても、その材料の多くは
、ハロゲン化物の揮発性が低いためにドライエッチング性が悪いという問題を有している場合が多い。つまり、水素ラジカルに対しては耐性を有するがハロゲン化物の揮発性が低い材料で形成された吸収層は、吸収層のパターニングができず、その結果、反射型フォトマスクブランクを反射型フォトマスクに加工ができないという問題が生じ得る。
【0027】
上述の欠点を回避するため、本実施形態の反射型フォトマスクブランク10の吸収層4または本実施形態の反射型フォトマスク20の吸収パターン層41は、プラチナ(Pt)とタンタル(Ta)とを含む材料(合金)で形成されたものとする。プラチナ(Pt)単体は、フォトマスクの洗浄に用いられる液体に高い耐性を持っており、且つ水素ラジカルに対する耐性も高いが、ドライエッチング性が悪いということが知られている。
本願の発明者らは、吸収層4や吸収パターン層41を形成する材料として、プラチナ(Pt)とタンタル(Ta)とを特定の割合で含有する材料を用いることで高い水素ラジカル耐性を維持しつつ、ドライエッチングによる吸収層4の加工が可能となることを見出した。
【0028】
なお、本実施形態において「ドライエッチング性が悪い」とは、吸収パターン層41を形成した際に、反射層2の表面またはキャッピング層3の表面と、パターン形成部における吸収パターン層41の側面とで形成される角度であって、反射層2の表面またはキャッピング層3の表面を基準にした仰角(いわゆる側壁角)が80°未満である状態をいう。
また、本実施形態において「水素ラジカル耐性が高い」とは、マイクロ波プラズマを使って、電力1kWで水素圧力が0.36ミリバール(mbar)以下の水素ラジカル環境下で、膜減り速さが0.01nm/s以下であることをいう。
【0029】
吸収層4を構成する材料は、吸収層4全体の構成原子数に対してプラチナ(Pt)を50原子%以上含有している。なお、吸収層4を構成する材料は、吸収層4全体の構成原子数に対してプラチナ(Pt)を50原子%以上95原子%以下の範囲内で含有していれば好ましく、55原子%以上90原子%以下の範囲内で含有していればより好ましく、60原子%以上80原子%以下の範囲内で含有していればさら好ましい。
また、吸収層4には、吸収層4全体の構成原子数に対してタンタル(Ta)が5原子%以上50原子%未満の範囲内で含有されている。これは、吸収層4にプラチナ(Pt)以外の成分が含まれていると、EUV光吸収性が低下する可能性があるものの、プラチナ(Pt)以外の成分が50原子%未満であれば、EUV光吸収性の低下はごく僅かであり、EUVマスクの吸収層4としての性能の低下はほとんどないためである。
【0030】
更に、プラチナ(Pt)単体では、ドライエッチングによる加工が難しいものの、プラチナ(Pt)にタンタル(Ta)を添加することによってドライエッチングによる加工性が向上し、塩素系ガスまたはフッ素系ガスまたは混合ガスを用いたドライエッチングが可能となるため、反射型フォトマスクブランクを反射型フォトマスクに加工することができる。具体的には、吸収層4に含まれるタンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の構成原子数に対して5原子%以上50原子%未満の範囲内であれば、水素ラジカル耐性を維持しつつ、ドライエッチングによる吸収層4の加工性を向上できる。
【0031】
なお、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の構成原子数に対して5原子%未満であるとドライエッチングによる吸収層4の加工性が向上し得ない場合がある。また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の構成原子数に対して50原子%以上となるとEUV光の吸収性が低下し、吸収層4の薄膜化が望めなくなる場合がある。更に、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の構成原子数に対して50原子%を超えると波長190~260nmのDUV(Deep Ultra Violet)光におけるコントラストが低下するため、検査性が悪くなる場合がある。
したがって、タンタル(Ta)の含有量は吸収層4全体の構成原子数に対して5原子%
以上50原子%未満の範囲内であることが好ましく、10原子%以上45原子%以下の範囲内であることがより好ましく、20原子%以上40原子%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0032】
吸収層4を構成する材料の上記組成比は、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)による分析結果に基づき算出しており、分析手法によっては含有量が変動する可能性がある。例えば、プラチナ(Pt)の含有量がラザフォード後方散乱分析法(RBS)で全金属元素中50原子%~99原子%の材料を、X線光電子分光法(XPS)を用いて分析した結果、全金属元素中40原子%~75原子%となってもよく、エネルギー分散型X線分析法(EDX)を用いて分析した結果、全金属元素中45原子%~100原子%となってもよい。
【0033】
吸収層4の加工性には、構成する材料の結晶性も影響する。さらに結晶性は膜の平滑性や形成された吸収パターン層41のラインエッジラフネスにも影響する。本実施形態における吸収層4は、上記の理由のため結晶性の少ないアモルファスな膜で形成されていることが望ましい。結晶性の高い材料は結晶粒界の形成により表面粗さも大きくなる。従って吸収層4の表面粗さ(RMS)は0.4nm以下であること好ましく、0.2nm以下であることが更に好ましい。ここで、「吸収層4の表面粗さ(RMS)」とは、吸収層4(吸収パターン層41)の反射層2側とは反対側の面(表面)における粗さ(RMS)を意味する。
なお、本実施形態における表面粗さ(RMS)の測定は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定してもよい。
【0034】
前述の通り、吸収層4を構成する材料は、吸収層4全体の構成原子数に対して、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上50原子%未満の範囲内で含有していることが好ましいが、プラチナ(Pt)とタンタル(Ta)以外の材料として、例えば、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、金(Au)、銀(Ag)、ヨウ素(I)、テルル(Te)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、及びホウ素(B)からなる群(以下、便宜的に「添加元素群」と称する)から選択された1種以上の元素をさらに含有していてもよい。つまり、吸収層4は、プラチナ(Pt)とタンタル(Ta)以外に、上述した添加元素群から選択された1種以上の元素をさらに含有していてもよい。
【0035】
例えば、上述した添加元素群に含まれる元素のうち、テルル(Te)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)を吸収パターン層41に添加することで、EUV光に対する吸収性をさらに向上させ、さらに薄膜化が可能となる。
あるいは、上述した添加元素群に含まれる元素のうち、鉄(Fe)、パラジウム(Pd)、金(Au)、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)を吸収パターン層41に添加することで、EUV光に対する高吸収性を確保しながら、吸収パターン層41に導電性を付与することが可能となる。このため、マスクパターン検査において、検査性を高くすることが可能となる。
【0036】
あるいは、上述した添加元素群に含まれる元素のうち、窒素(N)やハフニウム(Hf)、またはタングステン(W)、ヨウ素(I)、クロム(Cr)、ホウ素(B)、ルテニウム(Ru)を吸収層4に添加した場合、膜質をよりアモルファスにすることが可能となる。このため、ドライエッチング後の吸収層パターン(マスクパターン)41のラフネスや面内寸法均一性、あるいは転写像の面内均一性を向上させることが可能となる。
【0037】
なお、上述した添加元素群に含まれる元素の合計含有量は、タンタル(Ta)の含有量と同じであってもよい。つまり、吸収層4や吸収パターン層41は、プラチナ(Pt)と、タンタル(Ta)と、上述した添加元素群から選択された1種以上の元素とを含み、上述した添加元素群に含まれる元素の合計含有量は、タンタル(Ta)の含有量以下であればよい。より好ましくは、上述した添加元素群に含まれる元素の合計含有量は、タンタル(Ta)の含有量の0.9倍以下の範囲内であり、さらに好ましくは、上述した添加元素群に含まれる元素の合計含有量は、タンタル(Ta)の含有量の0.6倍以下の範囲内である。上記構成であれば、優れた転写性能を備えつつ、吸収層4に優れたパターン加工性を付与し、さらに上述した種々の機能を付与することができる。
【0038】
以下、吸収パターン層41におけるOD値について説明する。
吸収層4の一部が除去されて反射層2やキャッピング層3が露出した領域である反射部からの反射光の強度をRmとし、吸収層4が残存した領域である吸収部からの反射光の強度をRaとし、反射部と吸収部との光強度のコントラストを表す指標である光学濃度(OD:Optical Density)値は、(式1)で規定される。OD値は大きいほうがコントラストは良く高い転写性が得られ、OD値が1未満の場合には十分なコントラストを得ることができず、転写性能が低下する傾向がある。パターン転写にはOD>1であることが好ましく、1.5以上であるとさらに好ましい。
よって、転写パターンが形成された吸収層4(吸収パターン層41)のOD値は、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であるとさらに好ましい。
OD=-log(Ra/Rm) ・・・(式1)
【0039】
従来のEUV反射型フォトマスクの吸収層4(吸収パターン層41)には、上述のようにタンタル(Ta)を主成分とする化合物材料で形成されてきた。この場合、1以上のOD値を得るには、吸収層4の膜厚は40nm以上必要である。従来材料の消衰係数kは0.031だが、単体で消衰係数kが0.058のプラチナ(Pt)を主成分として含む化合物材料で吸収層4を形成することで、1以上のOD値であれば吸収層4の膜厚を17nmまで薄膜化することが可能である。ただし、吸収層4全体における消衰係数kは、プラチナ(Pt)に対するタンタル(Ta)の混合比率や、成膜された材料の結晶性によっても大きく変動し、吸収層4全体における消衰係数kが0.049未満であると十分な薄膜化効果が望めない場合が多い。そのため、従来よりも薄膜化を実現するため、吸収層4全体における消衰係数kは0.049以上が好ましく、0.051以上がさらに好ましい。
【0040】
さらに、吸収層4の膜厚が50nmを超えると、従来のタンタル(Ta)を主成分とした化合物材料で形成された膜厚60nmの吸収層と射影効果が同程度となってしまう。また、吸収層4の膜厚が50nmを超えると、吸収層4のパターン加工性が低下する場合がある。
そのため、本実施形態に係る吸収層4の膜厚は、17nm以上50nm以下の範囲内である。つまり、吸収層4の膜厚が17nm以上50nm以下の範囲内であると、タンタル(Ta)を主成分とした化合物材料で形成された従来の吸収層に比べて、射影効果を十分に低減することができ、転写性能が向上する。
なお、吸収層4の膜厚は25nm以上40nm以下の範囲内であればより好ましい。吸収層4の膜厚が25nm以上40nm以下の範囲内であれば、従来の吸収層に比べて、射影効果をさらに低減することができ、転写性能がさらに向上する。
また、上述した「主成分」とは、吸収層全体の原子数に対して50原子%以上含んでいる成分をいう。
【0041】
また、吸収層4の上面、または吸収パターン層41の上面および側面の少なくとも一方を酸化させて、酸化膜(図示せず)を形成してもよい。また、吸収層4の上面、または吸収パターン層41の上面および側面の少なくとも一方に、酸化膜(図示せず)を別途形成
してもよい。
この酸化膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、例えば、1nm以上5nm以下の範囲内である、
なお、上述した酸化膜は、反射型フォトマスクブランク10または反射型フォトマスク20を保管する際に、または反射型フォトマスクブランク10または反射型フォトマスク20を洗浄する際に自然に形成された自然酸化膜であってもよい。
【0042】
(ハードマスク)
図4に示すように、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10は、吸収層4の上にハードマスク5が形成されていてもよい。本実施形態に係るハードマスク5は吸収層4の上に形成することで、吸収層4の加工性をさらに高める機能を有する。
ハードマスク5を構成する材料は、吸収層4をドライエッチングする際に用いるガスと異なるガスによってドライエッチングできる材料であることが望ましい。つまり、吸収層4の形成材料であるプラチナ(Pt)とタンタル(Ta)と含む材料を、塩素系ガスでエッチングする場合には、ハードマスク5のエッチングガスとして塩素系ガス以外のガスを用いることが好ましい。また、吸収層4の形成材料であるプラチナ(Pt)とタンタル(Ta)と含む材料を、フッ素系ガスでエッチングする場合には、ハードマスク5のエッチングガスとしてフッ素系ガス以外のガスを用いることが好ましい。
【0043】
そのため、ハードマスク5の構成材料は、例えば、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、金(Au)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、及びシリコン(Si)、並びにそれらの酸化物、窒化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物の群から選択された1種以上を含んでいれば好ましい。つまり、吸収層4が、プラチナ(Pt)と、タンタル(Ta)と、上述した添加元素群から選択された1種以上の元素とを含み、且つハードマスク5が、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、金(Au)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、及びシリコン(Si)、並びにそれらの酸化物、窒化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物からなる群から選択された1種以上の元素を含んでいてもよい。
【0044】
一般に、ドライエッチングは、プラズマ中で導入ガスが電子と衝突し、活性ラジカルや種々の形に解離した反応性イオンが発生してエッチングを引き起こす。そのため、エッチング表面に低沸点の揮発性生成物が形成されるほどエッチングされやすく、その指標となるのは、被エッチング材料と導入ガスによる反応生成物の沸点や蒸気圧である。すなわち、沸点が低い反応生成物ほど気化して蒸気圧は高くなり排気されやすい。
【0045】
反射型フォトマスク20を作製する際の吸収層4のエッチングにおいては、前記の「エッチングされやすい」、あるいは「エッチングされにくい」の定義は、塩素系ガスに対してエッチングされやすい場合、エッチングによって生成する少なくとも一種の塩素系化合物の沸点が250℃以下であり、塩素系ガスに対してエッチングされにくい場合、エッチングによって生成する化学量論的にとり得る形態の塩化物の沸点が300℃以上であることである。フッ素系ガスに対しても同様である。
そのため、ハードマスク5として使用する材料は、フッ素系ガスまたは塩素系ガスのエッチングされやすい材料、即ちフッ素系化合物または塩素系化合物の沸点が低い物質が望ましい。
【0046】
表1に、金属のハロゲン系化合物の沸点を示した。表1の数値は各種文献(CRC Handbook of Chemistry and Ohysics, 97th E
dition (2016)など)及びウェブサイトで見られる値をまとめたものである。表1に示すようにフッ素系ガスでエッチングされやすい混合材料としては、例えば、ルテニウム(Ru)、ビスマス(Bi)、タンタル(Ta)、シリコン(Si)がある。また、塩素系ガスでエッチングされやすい混合材料としては、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、金(Au)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)がある。またこれらの混合材料の酸化物、窒化物、酸窒化物、窒化ホウ素化物を用いても良い。
【0047】
【表1】
【0048】
ただし、上記事項は、エッチングガス及びその反応性の一例であり、本実施形態におけるエッチングガスは、フッ素系ガス及び塩素系ガスの2種類に限定するものではない。フッ素系ガス及び塩素系ガスに加え、これらの混合ガスを用いてもよく、反応促進のために酸素ガスや水素ガス等の非ハロゲン系などのガスを含んでいてもよい。上記混合ガスを使用することで、フッ素系化合物または塩素系化合物の沸点が250℃以下でない材料もエッチングすることが可能である。
【0049】
ハードマスク5は、吸収層4のエッチングが完了するまで吸収層4の上に残っている必要がある。ただし、ハードマスク5の膜厚が30nmを超えると微細なパターンの形成が困難となる場合がある。また、ハードマスク5の膜厚が2nm未満であると、ハードマスク5の膜厚が薄すぎて均一な膜厚を有するハードマスク5の成膜が困難となる場合がある。
したがって、ハードマスク5の膜厚は、2nm以上30nm以下の範囲内であれば好ましく、5nm以上10nm以下の範囲内であればさらに好ましい。
なお、本実施形態における吸収層4の加工は、ドライエッチングに限定するものではない。例えば原子層エッチング(ALE)を用いて吸収層4の加工を行うことも可能である。
【0050】
以下、本発明に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクの実施例について説明する。
【0051】
[実施例1]
最初に、反射型フォトマスクブランク10の作製方法について図5を用いて説明する。
まず、図5に示すように、低熱膨張特性を有する合成石英の基板1の上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)とを一対とする積層膜が40枚積層されて形成された反射層2を形成する。反射層2の膜厚は280nmとした。
次に、反射層2上に、中間膜としてルテニウム(Ru)で形成されたキャッピング層3を、膜厚が3.5nmになるように成膜した。
次に、キャッピング層3の上に、プラチナ(Pt)とタンタル(Ta)とを含む吸収層4を膜厚が33nmになるように成膜した。成膜した吸収層4について、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)を用いて組成分析を行ったところ、吸収層4全体におけるプラチナ(Pt)の含有量は55原子%、タンタル(Ta)の含有量が45原子%であった。
【0052】
さらに、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.1nmであった。
また、吸収層4の結晶性をXRD(X線回析装置)で測定したところ、僅かに結晶性が見られるものの、アモルファスであった。
次に、基板1の反射層2が形成されていない側の面に、窒化クロム(CrN)で形成された裏面導電膜6を100nmの厚さで成膜し、実施例1の反射型フォトマスクブランク10を作成した。
基板1上へのそれぞれの膜の成膜(層の形成)は、スパッタリング装置を用いた。各々の膜の膜厚は、スパッタリング時間で制御した。
【0053】
次に、反射型フォトマスク20の作製方法について図6から図9を用いて説明する。
まず、図6に示すように、反射型フォトマスクブランク10の吸収層4の上に、ポジ型化学増幅型レジスト(SEBP9012:信越化学社製)を120nmの膜厚にスピンコートで塗布し、110℃で10分間ベークし、レジスト膜7を形成した。
次に、電子線描画機(JBX3030:日本電子社製)によってレジスト膜7に所定のパターンを描画した。その後、110℃、10分間のプリベーク処理を行い、次いでスプレー現像機(SFG3000:シグマメルテック社製)を用いて現像処理をした。これにより、図7に示すように、レジストパターン71を形成した。
【0054】
次に、レジストパターン71をエッチングマスクとして、塩素系ガスを主体としたドライエッチングにより、吸収層4のパターニングを行った。これにより、図8に示すように、吸収層4に吸収パターン(吸収パターン層)41を形成した。
次に、レジストパターン71を洗浄工程にて剥離を行い、図9に示すように、本実施例の反射型フォトマスク20を作製した。本実施例において、吸収層4に形成した吸収パターン41は、転写評価用の反射型フォトマスク20上で、線幅64nmLS(ラインアンドスペース)パターン、AFMを用いた吸収層の膜厚測定用の線幅200nmLSパターン、EUV反射率測定用の4mm角の吸収層除去部を含んでいる。本実施例では、EUV照射による射影効果の影響が見えやすくなるように、線幅64nmLSパターンを、図10に示すように、x方向とy方向それぞれに設計した。
【0055】
[実施例2-1]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の90原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の10原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が28nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.3nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2-1の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0056】
[実施例2-2]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の90原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の10原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が28nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.3nmであった。
次に、吸収層4の上に、二酸化ケイ素(SiO)で形成されたハードマスク(HD:図示せず)を膜厚が10nmになるように成膜した。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の反射型フォトマスクブランク10を作製した。
【0057】
次に、実施例1と同様の方法で、レジストパターン71を形成した。その後、レジストパターン71をエッチングマスクとして、フッ素系ガスを主体としたドライエッチングにより、ハードマスクのパターニングを行った。
次に、パターニングされたハードマスクをエッチングマスクとして、塩素系ガスを主体としたドライエッチングにより、吸収層4のパターニングを行った。これにより、吸収層4に吸収パターン(吸収パターン層)41を形成した。
次に、レジストパターン71を洗浄工程にて剥離を行った。
最後に、フッ素系ガスを主体としたドライエッチングにより、エッチングマスクとして使用したハードマスクを除去した。
それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2-2の反射型フォトマスク20を作製した。
【0058】
[実施例3]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の60原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の40原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が39nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.1nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0059】
[実施例4]
キャッピング層3の上に、プラチナ(Pt)とタンタル(Ta)とハフニウム(Hf)とを含む吸収層4を膜厚が40nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.1nmであった。また、成膜した吸収層4について、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)を用いて組成分析を行ったところ、吸収層4全体におけるプラチナ(Pt)の含有量は60原子%、タンタル(Ta)の含有量が30原子%、ハフニウム(Hf)の含有量が10原子%であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0060】
[実施例5]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の30原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が19nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.2nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0061】
[実施例6-1]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の30原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が33nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.1nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6-1の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0062】
[実施例6-2]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の30原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が33nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.1nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例2-2と同様の方法で、実施例6-2の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0063】
[実施例7-1]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の30原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が48nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.3nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例7-1の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0064】
[実施例7-2]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の30原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が48nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.3nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例2-2と同様の方法で、実施例7-2の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0065】
[実施例8-1]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の90原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の10原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が45nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.4nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例8-1の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0066】
[実施例8-2]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の90原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の10原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が45nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.4nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例2-2と同様の方法で、実施例8-2の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0067】
[実施例9]
キャッピング層3の上に、プラチナ(Pt)とタンタル(Ta)とヨウ素(I)とを含む吸収層4を膜厚が26nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗
さ(RMS)を測定したところ、0.1nmであった。また、成膜した吸収層4について、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)を用いて組成分析を行ったところ、吸収層4全体におけるプラチナ(Pt)の含有量は70原子%、タンタル(Ta)の含有量が20原子%、ヨウ素(I)の含有量が10原子%であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例9の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0068】
[実施例10]
キャッピング層3の上に、プラチナ(Pt)とタンタル(Ta)とコバルト(Co)とを含む吸収層4を膜厚が36nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.2nmであった。また、成膜した吸収層4について、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)を用いて組成分析を行ったところ、吸収層4全体におけるプラチナ(Pt)の含有量は60原子%、タンタル(Ta)の含有量が20原子%、コバルト(Co)の含有量が20原子%であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例10の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0069】
[実施例11]
キャッピング層3の上に、プラチナ(Pt)とタンタル(Ta)とテルル(Te)とを含む吸収層4を膜厚が24nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.3nmであった。また、成膜した吸収層4について、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)を用いて組成分析を行ったところ、吸収層4全体におけるプラチナ(Pt)の含有量は70原子%、タンタル(Ta)の含有量が15原子%、テルル(Te)の含有量が15原子%であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例11の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0070】
[実施例12]
キャッピング層3の上に、プラチナ(Pt)とタンタル(Ta)とホウ素(B)とを含む吸収層4を膜厚が41nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.1nmであった。また、成膜した吸収層4について、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)を用いて組成分析を行ったところ、吸収層4全体におけるプラチナ(Pt)の含有量は70原子%、タンタル(Ta)の含有量が25原子%、ホウ素(B)の含有量が5原子%であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例12の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0071】
[実施例13]
キャッピング層3の上に、プラチナ(Pt)とタンタル(Ta)とレニウム(Re)とを含む吸収層4を膜厚が33nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.2nmであった。また、成膜した吸収層4について、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)を用いて組成分析を行ったところ、吸収層4全体におけるプラチナ(Pt)の含有量は75原子%、タンタル(Ta)の含有量が15原子%、レニウム(Re)の含有量が10原子%であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例13の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0072】
[比較例1]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の45原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の55原子%となるように、吸収層4を成膜
した。また、吸収層4の膜厚が29nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.2nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0073】
[比較例2]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の30原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が28nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.3nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0074】
[比較例3]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の30原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が15nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.2nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0075】
[比較例4]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の30原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が55nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.4nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例4の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0076】
[比較例5]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の55原子%となるように、また、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の45原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が33nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.5nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例5の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0077】
[比較例6]
吸収層4のプラチナ(Pt)の含有量が吸収層4全体の100原子%となるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が33nmになるように成膜した。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.6nmであった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例6の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0078】
前述の実施例及び比較例とは別に、従来のタンタル(Ta)系吸収パターン層であるTaBO/TaBNで構成された吸収パターン層を有する反射型フォトマスク(既存マスク)も参考例として比較した。反射型フォトマスクブランクは、前述の実施例及び比較例と同様に、低熱膨張特性を有する合成石英の基板上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)とを一対とする積層膜が40枚積層されて形成された反射層と、膜厚3.5nmのルテニウム(Ru)キャッピング層3とを有し、キャッピング層3上に形成された吸収層4
は、膜厚58nmのTaBN上に膜厚2nmのTaBOを成膜したものである。こうして成膜した吸収層4の表面粗さ(RMS)を測定したところ、0.1nmであった。
また、前述の実施例及び比較例と同様に、吸収層4がパターニングされたものを評価に用いた。
前述の実施例及び比較例において、吸収層4の膜厚は、透過電子顕微鏡によって測定した。
【0079】
以下、本実施例で評価した評価項目について説明する。
(加工性)
前述の実施例及び比較例において、SEMによる解析を行い、吸収パターン層41におけるパターンに断線や抜け不良(いわゆるパターン欠陥)がないか確認を行った。また、吸収パターン層41におけるパターンの断面形状の確認も行った。
形成したパターンに異常がなければ、加工適正(転写性能)に問題はないとして、本評価では「合格(△)」とした。また、形成したパターンに異常がなく、且つ断面画像から確認できる側壁角(キャッピング層3の表面を基準にした仰角)が80°以上である場合には、加工適正(転写性能)に何ら問題はないとして、本評価では「合格(〇)」とした。
つまり、実施例2-1、実施例6-1、実施例7-1、実施例8-1の各形態においては、ハードマスク(HD)を設けることにより、加工適正(転写性能)が向上することが示唆される。
【0080】
(反射率)
前述の実施例及び比較例において、作製した反射型フォトマスク20の吸収パターン層41領域(図10を参照)の反射率RaをEUV光による反射率測定装置で測定した。また吸収パターン層41が形成されていない反射部8(図10を参照)における反射率RmをEUV光による反射率測定装置で測定した。こうして、実施例及び比較例に係る反射型フォトマスク20のOD値を前述した式1を用いて算出した。
前述の通り、OD値が1.0未満の場合には、十分なコントラストを得ることができず、転写性能が低下する。したがって、OD値が1.0以上であれば転写性能に問題はないとして、本評価では「合格」とした。
【0081】
(ウェハ露光評価)
EUV露光装置(NXE3300B:ASML社製)を用いて、EUVポジ型化学増幅型レジストを塗布した半導体ウェハ上に、実施例及び比較例で作製した反射型フォトマスク20の吸収パターン41を転写露光した。このとき、露光量は、図10に示すx方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した。具体的には、本露光試験では、図10に示すx方向のLSパターン(線幅64nm)が、半導体ウェハ上で16nmの線幅となるように露光した。電子線寸法測定機により転写されたレジストパターンの観察及び線幅測定を実施し、HVバイアス値がどのように変化するかをシミュレーションにより比較した。
【0082】
HVバイアス値は、マスクパターンの向きに依存した転写パターンの線幅差、つまり、水平(Horizontal:H)方向の線幅と垂直(Vertical:V)方向の線幅との差のことである。H方向の線幅は、入射光と反射光が作る面(以下、「入射面」と称する場合がある)に直交する線状パターンの線幅を示し、V方向の線幅は、入射面に平行な線状パターンの線幅を示している。つまり、H方向の線幅は、入射面に平行な方向の長さであり、V方向の線幅は、入射面に直交する方向の長さである。
【0083】
評価方法としては、表2に「既存マスク」として示した、既存のタンタル(Ta)系フォトマスクのHVバイアス値を基準とし、HVバイアス値の大小で評価した。つまり、x
方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した状態で、y方向のLSパターンが設計通りに転写され、HVバイアスが既存のタンタル(Ta)系フォトマスクを用いた場合よりも小さい場合を本評価では「合格」とした。そして、x方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した状態で、設計通りに転写されない場合(y方向のLSパターンが解像しない場合)、あるいはHVバイアスが既存のタンタル(Ta)系フォトマスクを用いた場合よりも大きい場合を本評価では「不合格」とした。
これらの評価結果を、表に示した。なお、表には、上記評価結果に加えて、屈折率n及び消衰係数kも示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2において、各実施例及び各比較例のOD値の比較を示す。前述の通り、OD値が1.0未満の場合には、十分なコントラストを得ることができず、転写性能が低下する。
従来の膜厚60nmのタンタル(Ta)系吸収パターン層を備えた反射型フォトマスク(既存の反射型フォトマスク)のOD値は1.69であるのに対し、実施例1の反射型フォトマスク20のOD値は1.67であり、実施例2-1及び実施例2-2の反射型フォ
トマスク20のOD値はそれぞれ1.39であり、実施例3の反射型フォトマスク20のOD値は1.57であり、実施例4の反射型フォトマスク20のOD値は1.95であり、実施例5の反射型フォトマスク20のOD値は1.02であり、実施例6-1及び実施例6-2の反射型フォトマスク20のOD値はそれぞれ1.74であり、実施例7-1及び実施例7-2の反射型フォトマスク20のOD値はそれぞれ2.67であり、実施例8-1及び実施例8-2の反射型フォトマスク20のOD値はそれぞれ1.58であり、実施例9の反射型フォトマスク20のOD値は1.46であり、実施例10の反射型フォトマスク20のOD値は1.45であり、実施例11の反射型フォトマスク20のOD値は1.13であり、実施例12の反射型フォトマスク20のOD値は2.46であり、実施例13の反射型フォトマスク20のOD値は1.71であった。また、比較例においては、比較例1の反射型フォトマスク20のOD値は1.00であり、比較例2の反射型フォトマスク20のOD値は0.98であり、比較例3の反射型フォトマスク20のOD値は0.57であり、比較例4の反射型フォトマスク20のOD値は2.45であり、比較例5の反射型フォトマスク20のOD値は1.67であり、比較例6の反射型フォトマスク20のOD値は1.74であった。すなわち、比較例2、3はOD値がそれぞれ1.0未満であり、本評価における「合格」の基準を満たさなかった。
【0086】
表2において、各実施例及び各比較例のHVバイアスの比較を示す。
従来の膜厚60nmのタンタル(Ta)系吸収パターン層を備えた反射型フォトマスクを用いたEUV光によるパターニングの結果、HVバイアスは1.80nmであった。これに対し実施例1のHVバイアスは1.47nmであり、実施例2-1のHVバイアスは1.78nmであり、実施例3のHVバイアスは1.23nmであり、実施例4のHVバイアスは1.18nmであり、実施例5のHVバイアスは1.46nmであり、実施例6-1のHVバイアスは1.38nmであり、実施例7-1のHVバイアスは0.85nmであり、実施例8-1のHVバイアスは0.77nmであり、実施例9のHVバイアスは1.43nmであり、実施例10のHVバイアスは1.62nmであり、実施例11のHVバイアスは1.44nmであり、実施例12のHVバイアスは1.15nmであり、実施例13のHVバイアスは1.32nmであった。また、比較例においては、比較例4のHVバイアスは0.81nmであり、比較例5のHVバイアスは1.47nmであり、比較例6のHVバイアスは0.98nmであり、本評価における「合格」の基準を満たした。
【0087】
これに対し、比較例1のHVバイアスは1.85nmと、EUV光によるパターニングの結果、従来のタンタル(Ta)系フォトマスクと比較して転写性が悪化した。
なお、比較例2、3については、各OD値が小さく、吸収層4のパターン加工ができず、HVバイアスを測定することができなかった。
【0088】
ここで、本実施例では、実施例2-2、実施例6-2、実施例7-2、実施例8-2の各形態(つまり、ハードマスクを備えた形態)に対してはHVバイアスの評価を行わなかった。その理由は、優れた加工特性を備えており、HVバイアスの評価も「合格」の基準を満たしている、実施例2-1、実施例6-1、実施例7-1、実施例8-1の各形態(つまり、ハードマスクを備えない形態)であれば、ハードマスクをさらに備えた各形態であってもHVバイアス値が低下することはなく、HVバイアスの評価が「不合格」となることはないからである。
つまり、ハードマスクを備えた各形態(実施例2-2、実施例6-2、実施例7-2、実施例8-2)のHVバイアス値は、ハードマスクを備えない各形態(実施例2-1、実施例6-1、実施例7-1、実施例8-1)のHVバイアス値と同等であるため、表2ではその表記を省略している。
【0089】
表2において、加工性とOD値とHVバイアスの総合的評価を示す。射影効果を抑制ま
たは軽減でき、且つ吸収層の加工性を有する反射型フォトマスク20については、「判定」の欄に「○」と記し、射影効果を十分に抑制または軽減できなかった、又は吸収層の加工性が低い反射型フォトマスク20については、「判定」の欄に「×」と記した。従来のタンタル(Ta)系フォトマスクは比較対象であるため、「判定」の欄に「△」と記した。
【0090】
更に、実施例1~13及び比較例1~6の表面粗さ(RMS)も補足として確認している。測定には原子間力顕微鏡(AFM)を用いた。EUV光の反射率の影響を抑えるため、RMSが0.4nm以下を「合格」とした場合、実施例1~13及び比較例1~4の反射型フォトマスク20については、本評価における「合格」の基準を満たし、比較例5~6は「不合格」であった。
【0091】
これにより、吸収パターン層41が、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上50原子%未満の範囲内で含有する材料で形成され、吸収パターン層41の膜厚が17nm以上50nm以下の範囲内であり、吸収パターン層41のEUV光に対する消衰係数が0.049以上であり、吸収パターン層41の表面粗さが0.4nm以下である反射型フォトマスクであれば、吸収層4の加工性(パターン加工性)、光学濃度(OD値)、HVバイアスが共に良好であることから、反射型フォトマスクブランクに転写パターンを確実に形成することができ、射影効果を低減でき、且つ転写性能が高くなるという結果となった。
【0092】
また、例えば、本開示に係る反射型フォトマスクブランク、反射型フォトマスク及び反射型フォトマスクの製造方法は、以下のような構成を取ることができる。
(1)
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、
基板と、
前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、
前記反射層の上に形成された吸収層と、を有し、
前記吸収層は、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上50原子%未満の範囲内で含有する材料で形成され、
前記吸収層の膜厚は、17nm以上50nm以下の範囲内であり、
前記吸収層のEUV光に対する消衰係数は、0.049以上であり、
前記吸収層の表面粗さは、0.4nm以下である反射型フォトマスクブランク。
(2)
前記吸収層は、前記タンタル(Ta)を20原子%以上40原子%以下の範囲内で含有する材料で形成されている上記(1)に記載の反射型フォトマスクブランク。
(3)
前記吸収層は、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、金(Au)、銀(Ag)、ヨウ素(I)、テルル(Te)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、及びホウ素(B)からなる群から選択された1種以上の元素をさらに含有する上記(1)または(2)に記載の反射型フォトマスクブランク。
(4)
前記吸収層の上にハードマスクを有し、
前記ハードマスクの膜厚は、2nm以上30nm以下の範囲内である上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
(5)
前記ハードマスクは、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、金(Au)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、及びシリコン(Si)、並びにそれらの酸化物、窒化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物の群から選択された1種以上からなる上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
(6)
前記吸収層の上に酸化膜を有する上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
(7)
前記反射層と前記吸収層との間にキャッピング層が形成されている上記(1)から(6)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
(8)
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクであって、
基板と、
前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、
前記反射層上に形成された吸収パターン層と、を有し、
前記吸収パターン層は、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上50原子%未満の範囲内で含有する材料で形成され、
前記吸収パターン層の膜厚は、17nm以上50nm以下の範囲内であり、
前記吸収層のEUV光に対する消衰係数は、0.049以上であり、
前記吸収パターン層の表面粗さは、0.4nm以下である反射型フォトマスク。
(9)
前記吸収パターン層は、タンタル(Ta)を20原子%以上40原子%以下の範囲内で含有する材料で形成されている上記(8)に記載の反射型フォトマスク。
(10)
前記吸収パターン層は、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、金(Au)、銀(Ag)、ヨウ素(I)、テルル(Te)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、及びホウ素(B)からなる群から選択された1種以上の元素をさらに含有する上記(8)または(9)に記載の反射型フォトマスク。
(11)
前記吸収パターン層の上と前記吸収パターン層の側面の少なくとも一方に酸化膜を有する上記(8)から(10)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
(12)
前記反射層と前記吸収パターン層との間にキャッピング層が形成されている上記(8)から(11)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
(13)
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクの製造方法であって、
基板上に多層膜を含む反射層を形成する工程と、
前記反射層上に吸収パターン層を形成する工程と、を有し、
前記吸収パターン層は、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上50原子%未満の範囲内で含有する材料で形成され、
前記吸収パターン層の膜厚は、17nm以上50nm以下の範囲内であり、
前記吸収パターン層のEUV光に対する消衰係数は、0.049以上であり、
前記吸収パターン層の表面粗さは、0.4nm以下である反射型フォトマスクの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明にかかる反射型フォトマスクは、半導体集積回路などの製造工程において、EUV露光によって微細なパターンを形成するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0094】
1…基板
2…反射層
3…キャッピング層
4…吸収層
41…吸収パターン(吸収パターン層)
5…ハードマスク
10…反射型フォトマスクブランク
20…反射型フォトマスク
6…裏面導電膜
7…レジスト膜
71…レジストパターン
8…反射部
【要約】
【課題】本発明は、極端紫外領域の波長の光を光源として使用する反射型フォトマスクであって、良好なパターン加工性を有する吸収層を備えた反射型フォトマスク及びその反射型フォトマスクを製造するために用いる反射型フォトマスクブランク並びにその反射型フォトマスクブランクを用いた反射型フォトマスクの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10は、基板1と反射層2と吸収層4とを有し、吸収層4は、プラチナ(Pt)を50原子%以上含有し、且つタンタル(Ta)を5原子%以上50原子%未満の範囲内で含有する材料で形成され、吸収層4の膜厚は17nm以上50nm以下の範囲内であり、吸収層4のEUV光に対する消衰係数は0.049以上であり、吸収層4の表面粗さは0.4nm以下である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10