(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】毛乳頭細胞のFGF-7産生促進剤およびVEGF産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/06 20060101AFI20241203BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A61K38/06 ZNA
A61P43/00 111
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021150798
(22)【出願日】2021-09-16
(62)【分割の表示】P 2021521073の分割
【原出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2019190689
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398034593
【氏名又は名称】株式会社アジュバンホールディングス
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】中村 荘太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】中池 佑紀美
(72)【発明者】
【氏名】永谷 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】金澤 由紀
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝
(72)【発明者】
【氏名】小川 美帆
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-524885(JP,A)
【文献】特表2013-525261(JP,A)
【文献】特表2009-535310(JP,A)
【文献】国際公開第2015/157692(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105147534(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106798655(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/06
A61P 43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を含む毛乳頭細胞のFGF-7産生促進剤。
【請求項2】
パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を含む毛乳頭細胞のVEGF産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育毛剤に関する。さらに詳しくは、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を含む外用剤である育毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを始めとする哺乳動物において、育毛効果および毛種・毛質を改善する育毛剤などの外用剤の需要が伸びている。育毛効果および毛種・毛質を改善のため、毛のライフサイクルである毛周期を調節することに寄与する有効成分が提案され、育毛剤として上市されつつある。
【0003】
たとえば、育毛剤の有効成分としてミノキシジルの利用が提案され(特許文献1~3などを参照。)、ヒト臨床試験を経て、ミノキシジルを有効成分とする育毛剤が上市されている。しかしながら、その医薬用途は本邦においては男性の壮年性脱毛症に限られるなど、育毛効果および毛種・毛質改善効果を所望する幅広い消費者の要望を十分に叶えるものとはなっていない。
【0004】
また、育毛剤の有効成分としてchiro-イノシトールの利用が提案されている(特許文献4を参照。)。しかしながら、特許文献4に記載のchiro-イノシトールを含む外用剤である育毛剤は、インスリン抵抗性ではない対象においてのみ育毛効果が裏付けられるに留まり、投与対象者が限られている。そのため、育毛効果および毛種・毛質改善効果を所望する幅広い消費者の要望を十分に叶えるものとはなっていない。
【0005】
パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸は、化粧品原材料として知られている(特許文献5を参照。)。しかしながら、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の育毛効果に関する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第4139619号明細書
【文献】特開昭63-150211号公報
【文献】特開昭63-145217号公報
【文献】国際公開第2017/188393号
【文献】特許第5028474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた育毛作用を有する育毛剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を有効成分とすることで、優れた育毛活性を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の第1の手段は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を含む外用剤である育毛剤である。
【0010】
上記の課題を解決するための本発明の第2の手段は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の含有量が全体に対して0.001~20重量%である、本発明の第1の手段に記載の育毛剤である。
【0011】
上記の課題を解決するための本発明の第3の手段は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の含有量が全体に対して0.005~10重量%である、本発明の第1の手段または第2の手段に記載の育毛剤である。
【0012】
上記の課題を解決するための本発明の第4の手段は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸とを含有してなり、その質量比(パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニン/パルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸)が99/1~1/99である、本発明の第1~第3の手段のいずれか1の手段に記載の育毛剤である。
【0013】
上記の課題を解決するための本発明の第5の手段は、毛幹成長促進または発毛に用いるための、本発明の第1~第4の手段のいずれか1の手段に記載の育毛剤である。
【0014】
上記の課題を解決するための本発明の第6の手段は、毛幹伸長速度を向上させるために使用する、本発明の第1~第5の手段のいずれか1の手段に記載の育毛剤である。
【0015】
上記の課題を解決するための本発明の第7の手段は、毛幹最大長を向上させるために使用する、本発明の第1~第5の手段のいずれか1の手段に記載の育毛剤である。
【0016】
上記の課題を解決するための本発明の第8の手段は、毛幹径を増大させるために使用する、本発明の第1~第5の手段のいずれか1の手段に記載の育毛剤である。
【0017】
上記の課題を解決するための本発明の第9の手段は、毛数を増加させるために使用する、本発明の第1~第5の手段のいずれか1の手段に記載の育毛剤である。
【0018】
上記の課題を解決するための本発明の第10の手段は、溶液である、本発明の第1~第9の手段のいずれか1の手段に記載の育毛剤である。
【0019】
上記の課題を解決するための本発明の第11の手段は、頭髪、眉毛および/または睫毛用の、本発明の第1~第10の手段のいずれか1の手段に記載の育毛剤である。
【0020】
上記の課題を解決するための本発明の第12の手段は、本発明の第1~第11の手段のいずれか1の手段に記載の育毛剤を対象に投与することを含む育毛方法である。
【0021】
上記の課題を解決するための本発明のその他の手段は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を含む外用剤であるスカルプケア剤である。
【0022】
上記の課題を解決するための本発明のその他の手段は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を含む外用剤であるスカルプケア剤を対象に投与することを含む頭皮症状改善方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の手段により、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を、外用剤である育毛剤の有効成分とすることで、頭髪、眉毛および/または睫毛における毛幹成長促進、毛幹伸長速度の向上、毛幹最大長の向上、毛幹径の増大の効果並びにスカルプケア効果が奏される優れた育毛剤およびスカルプケア剤が提供されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、60%エタノール水溶液の塗布後の、マウスの薬剤塗布部位における毛幹長の変化を示すプロットである。縦軸は毛幹長(mm)を表し、横軸は日数を表す。なお、第一毛周期は、薬剤を含まない60%エタノール水溶液を塗布した標準データを示す。
【
図2】
図2は、ミノキシジル(5%)を含む60%エタノール水溶液の塗布後の、マウスの薬剤塗布部位における毛幹長の変化を示すプロットである。縦軸は毛幹長(mm)を表し、横軸は日数を表す。なお、第一毛周期は、薬剤を含まない60%エタノール水溶液を塗布した標準データを示す。
【
図3】
図3は、ミノキシジル(3%)を含む60%エタノール水溶液の塗布後の、マウスの薬剤塗布部位における毛幹長の変化を示すプロットである。縦軸は毛幹長(mm)を表し、横軸は日数を表す。なお、第一毛周期は、薬剤を含まない60%エタノール水溶液を塗布した標準データを示す。
【
図4】
図4は、ミノキシジル(1%)を含む60%エタノール水溶液の塗布後の、マウスの薬剤塗布部位における毛幹長の変化を示すプロットである。縦軸は毛幹長(mm)を表し、横軸は日数を表す。なお、第一毛周期は、薬剤を含まない60%エタノール水溶液を塗布した標準データを示す。
【
図5】
図5は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸(3%)を含む60%エタノール水溶液の塗布後の、マウスの薬剤塗布部位における毛幹長の変化を示すプロットである。縦軸は毛幹長(mm)を表し、横軸は日数を表す。なお、第一毛周期は、薬剤を含まない60%エタノール水溶液を塗布した標準データを示す。
【
図6】
図6は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸(1%)を含む60%エタノール水溶液の塗布後の、マウスの薬剤塗布部位における毛幹長の変化を示すプロットである。縦軸は毛幹長(mm)を表し、横軸は日数を表す。なお、第一毛周期は、薬剤を含まない60%エタノール水溶液を塗布した標準データを示す。
【
図7】
図7は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物による細胞分裂活性評価を示す。BrdU取り込みが確認できる細胞を上向きの矢印で示した。
【
図8】
図8は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物による細胞分裂活性評価を示す。
【
図9】
図9は、薬剤塗布後の毛幹径の測定結果を示す。
【
図10】
図10は、ヒト毛乳頭細胞におけるパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物24時間刺激による遺伝子発現量の変化を示すグラフである。
図10(a)はFGF-7遺伝子発現量の変化、
図10(b)はVEGF遺伝子発現量の変化を示す。
【
図11】
図11は、ヒト毛乳頭細胞におけるパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物72時間刺激による遺伝子発現量の変化を示すグラフである。
図11(a)はFGF-7遺伝子発現量の変化、
図11(b)はVEGF遺伝子発現量の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示にのみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0026】
本発明に係る外用剤である育毛剤およびスカルプケア剤の有効成分は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニン(Palmitoyl Dipeptide-5 Diaminobutyloyl Hydroxythreonine(Palm-Lys-Val-Dab-Thr-OH))およびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸(Palmitoyl Dipeptide-5 Diaminohydroxybutyrate(Palm-Lys-Val-Dab-OH))とからなる。
【0027】
本発明の育毛剤およびスカルプケア剤における有効成分であるパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物の濃度は、育毛剤およびスカルプケア剤の全体に対し、0.001~20重量%である。より具体的には、0.005~10重量%である。
【0028】
本発明のパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸とを含有してなる育毛剤の質量比(パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニン/パルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸)は、99/1~1/99である。
【0029】
本発明の育毛剤およびスカルプケア剤は、医薬品、医薬部外品、頭髪、眉毛および/または睫毛用化粧品および頭皮用化粧品を含む化粧品などとし、軟膏、パップ、リニメント、ローション、外用液剤、散布剤、クリーム、ジェル、乳液、ヘアトニック、ヘアスプレーなどといった様々な態様の製剤として使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
また、さらに、本発明の育毛効果およびスカルプケア効果を妨げない程度において、医薬品、医薬部外品、頭髪、眉毛および/または睫毛用化粧品および頭皮用化粧品を含む化粧品などにおいて通常含有することが許容される添加物等の成分を、配合したものとしてもよい。この添加物等の成分としては、例えば賦形剤、安定剤、矯臭剤、基剤、分散剤、希釈剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性重合体、非イオン性重合体、エチレンオキシド・プロピレンオキシドブロック共重合体、アルコール類、乳化剤、経皮吸収促進剤、pH調整剤、保存剤、着色剤、油脂、鉱物油などの油分、保湿剤、増粘剤、ポリマー、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、細胞賦活剤、保湿剤、無機塩、機能性ビーズ・カプセル類、シリコーン類、金属キレート剤、酸化防止剤、防腐剤、清涼剤、消臭剤、顔料、染料、香料、糖類、アミノ酸類、ビタミン類、有機酸、有機アミン、植物抽出物、粘土鉱物や各種ポリマーなどの粘度調整剤などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本発明の育毛剤およびスカルプケア剤は、発毛、育毛、養毛などの効果を有する公知の成分を含有するものとしてもよい。
【0032】
本発明の手段における育毛剤およびスカルプケア剤の1投与あたりの有効成分の投与量は、本発明の育毛剤およびスカルプケア剤の効果が奏されるように調節することができる。そして、その投与量は、例えば0.005~200mg、具体的には0.05~100mg、より具体的には0.5~10mgとすることができる。
【0033】
本発明の育毛剤およびスカルプケア剤の投与回数は、本発明の育毛剤およびスカルプケア剤の効果が奏されるよう、1回もしくは複数回とすることができる。そして、本発明の育毛剤およびスカルプケア剤の投与回数は、例えば1日あたり1~6回とすることができる。そして、具体的には1日あたり1~3回、より具体的には1日あたり1~2回とすることができる。
【0034】
本発明の育毛剤およびスカルプケア剤は、毛幹成長促進、発毛および脱毛防止に関するものであり、好ましくは毛幹成長促進および発毛に関するものである。
【0035】
本明細書において、「毛幹成長促進」との用語は、毛幹伸長速度を向上させること、毛幹最大長を向上させること、および/または毛幹径を増大させることを意味する。
【0036】
本明細書において、「発毛」との用語は、毛が生えていない(表皮から外に毛幹が出ていない)または毛数の少ない部位において発毛が停止した、または発毛能力が低下した毛穴から新しい毛が生えることを促進して毛数を増加させることを意味し、詳細には、毛周期における休止期を短縮すること、および/または停止した毛周期を再開させることを意味する。
【0037】
本明細書において、「毛幹成長促進効果を有する」とは毛幹成長促進に有利に作用することを意味し、毛幹成長促進効果を示す特質を「毛幹成長促進活性」と称する。また、「発毛効果を有する」とは発毛に有利に作用することを意味し、発毛効果を示す特質を「発毛促進活性」と称する。
【0038】
本明細書において、「脱毛」との用語は毛穴から毛幹が脱落する現象を意味し、詳細には、細胞増殖を阻害する抑制性サイトカイン等の増加および、それらの細胞死を意味する。脱毛防止効果を示す特質を「脱毛防止活性」と称する。また、「脱毛防止効果を有する」とは、抑制サイトカインの阻害もしくは減少、および細胞死の抑制を介して、毛穴からの毛幹の脱落数が減少することを意味し、毛幹成長促進、発毛効果を示す特質とは異なる生理現象である。
【0039】
本明細書において、「頭皮症状」とは、ふけ、頭皮の肌荒れ、頭皮のかさつき、紅斑、かゆみ、吹き出物などの症状を意味する。そして、本明細書において「頭皮症状改善」とは、ふけ、頭皮の肌荒れ、頭皮のかさつき、紅斑、かゆみ、吹き出物などの抑制又は改善を意味する。
【0040】
本発明の育毛剤は、毛幹伸長速度または毛幹最大長を向上させるために使用することができる。そして、毛幹伸長速度については、毛周期の標準データにおける毛幹伸長速度と比較して、例えば最大110%程度向上させることができ、具体的には25~110%程度向上させることができ、より具体的には33~110%程度向上させることができる。また、毛幹最大長については、毛周期の標準データにおける毛幹最大長と比較して、例えば最大49%程度向上させることができ、具体的には1~49%程度向上させることができ、より具体的には2~49%程度向上させることができる。
【0041】
本発明の育毛剤は、毛幹径を増大させるために使用することができる。
【0042】
本発明の育毛剤は、毛が生えていない(表皮から外に毛幹が出ていない)または毛数の少ない部位において発毛が停止した、または発毛能力が低下した毛穴から新しい毛が生えることを促進して毛数を増加させるために使用することができ、詳細には毛周期における休止期を短縮する、および/または停止した毛周期を再開させるために使用することができる。
【0043】
本発明の育毛剤およびスカルプケア剤は、ヒトの他、家畜や愛玩動物などの動物用に使用することもできる。本発明の1つの側面において、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を含む外用剤を、ヒト及び家畜や愛玩動物などの動物を含む対象に投与することを含む、育毛方法および頭皮症状改善方法が提供される。
【実施例】
【0044】
<試験例1:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物による育毛活性評価>
【0045】
1. 材料と方法
(1)実験動物
C57BL/6Nマウス(オス)およびBalb/c nu/nuマウス(メス)を日本エスエルシー株式会社(日本)より購入し、飼育の後に以下の実験に供した。なお、動物の飼育および試験は、関連法規、省令、および指針を遵守し、理化学研究所実験倫理審査会の承認のもとに実施した。
【0046】
(2)試薬
以下の試薬をそれぞれ用意した。
比較例1:60%エタノール水溶液
比較例2:ミノキシジル 5%溶液
比較例3:ミノキシジル 3%溶液
比較例4:ミノキシジル 1%溶液
実施例1:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物 3%溶液
実施例2:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物 1%溶液
【0047】
(3)マウス背部体毛皮膚由来の皮膚試験片の作製
【0048】
抜毛後12~14日目の成長期VI皮膚を背部体毛皮膚として採取するため、7~8週齢のC57BL/6Nマウスの背部体毛皮膚採取予定部位を抜毛し、12~14日飼育した。その後、抜毛したC57BL/6Nマウスを頸椎脱臼により安楽死させた後に、背部体毛皮膚採取予定部位から背部体毛皮膚を適量採取した。
【0049】
採取した皮膚は、10mM HEPES、10%牛胎児血清、および1%ペニシリン・ストレプトマイシン溶液を含むDMEM培地(以下、「DMEM10」という。)に浸した。採取した背部体毛皮膚を先曲がりピンセットでつまみ、滅菌用溶液に10秒浸して処理する。ポビドンヨード7%溶液処理2回、PBS(-)処理3回、DMEM10処理2回の順で、それぞれ新鮮な溶液を用いて滅菌処理を行った。滅菌処理後、清浄なDMEM10中に浸漬した。
【0050】
滅菌処理後の背部体毛皮膚を切り分け、ブロック化する。皮膚の皮筋層に付着している透明な結合組織を曲ハサミを用いて切除し、毛群を毛流に沿って長方形の短冊状に切り分ける。その際、毛包が短軸5列になるように調整し、長軸の毛包が6列になるようにして切り分け、ブロック化した。
【0051】
(4)皮膚試験片のBalb/c nu/nuマウスへの移植
【0052】
上記で作製した背部体毛皮膚由来の皮膚試験片を、4~6週齢のBalb/c nu/nuマウスに移植する。定法に従い、マウスに対してイソフルランによるガス麻酔を行った。次いで、マウスの背部をポビドンヨード7%溶液にて消毒した後、自然横臥位をとらせた。そして、マニーオフサルミックナイフ(マニー株式会社、日本)を用いてマウスの背部を穿刺し、皮膚表皮層から真皮層下層部に至る移植創を形成した。
【0053】
形成された移植創へ、背部体毛皮膚由来の皮膚試験片を、移植創の体表側に毛群が向くようにして挿入した。皮膚試験片の移植深度は、移植創上端部に毛群の上端部が露出した状態となるように調節した。次いで、背部体毛皮膚由来の皮膚試験片が移植された移植創を、ナースバン(登録商標)(株式会社サンプラネット、日本)およびサージカルテープ(スリーエム ジャパン株式会社、日本)を保護テープとして用いて被覆し、移植創を保護した。
【0054】
移植後5-7日で保護テープを除去し、移植した背部体毛皮膚由来の皮膚試験片の生着を目視またはデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス、日本)で判定した後に経過観察を行った。
【0055】
(5)移植皮膚試験片への薬剤塗布
毛周期の1周期目は、60%エタノール水溶液をプラセボとして塗布する。上記の皮膚試験片を移植したBalb/c nu/nuマウスに、マイクロピペットを用いて25μLの60%エタノールを、皮膚試験片の生着させた左右の背部にそれぞれ塗布した。その後、ドライヤーを用いて冷風をあててエタノールを素早く乾燥させた。この作業を、マウス左右背部に各4回ずつ繰り返した。
【0056】
毛周期の2周期目以降は、上記の方法に従い、毛群移植したBalb/c nu/nuマウスに、60%エタノール水溶液に換えて、各種濃度のパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合溶液を塗布した。
【0057】
(6)発毛経過観察および組織学的分析
Balb/c nu/nuマウスの皮膚試験片の移植部位から3領域をそれぞれ選択し、それら領域からそれぞれ5本の毛を選択して、発毛の状態を確認し記録した。観察と記録は、目視およびデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス、日本)により行った。
【0058】
2. 結果
【0059】
薬剤ごとに、1~3日おきに毛幹の長さを計測し、経時的に変化する各時点での毛幹の長さの平均値を1つのドットとしてグラフにプロットし、同様のプロットを3匹分繰返した。結果を表1~6および
図1~6に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
上記表2中、*はp<0.05で有意であることを示す。
【0063】
【0064】
上記表3中、*はp<0.05、**はp<0.01で有意であることを示す。
【0065】
【0066】
上記表4中、**はp<0.01で有意であることを示す。
【0067】
【0068】
上記表5中、*はp<0.05、**はp<0.01で有意であることを示す。
【0069】
【0070】
上記表6中、*はp<0.05で有意であることを示す。
【0071】
マウスの皮膚試験片の移植部位に、60%エタノール水溶液を塗布した場合には、溶液塗布を行っていない標準データと比較して、毛幹成長速度および毛幹最大長はいずれも有意差は見られず、育毛活性は認められなかった(表1および
図1を参照。)。
【0072】
マウスの皮膚試験片の移植部位に、ミノキシジルを5%、3%、または1%含有する溶液を塗布した場合には、標準データと比較して毛幹成長速度および毛幹最大長がともに有意に向上しており、育毛活性が認められた(表2~4および
図2~4を参照。)。
【0073】
一方、マウスの皮膚試験片の移植部位に、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物を3%で含有する溶液を塗布した場合には、標準データと比較して毛幹成長速度は有意に向上した。また、毛幹最大長は、有意差が見られないが向上していた(表5および
図5を参照。)。これらの結果から、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物を3%で含有する溶液には、育毛活性が認められた。
【0074】
一方、マウスの皮膚試験片の移植部位に、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物を1%で含有する溶液を塗布した場合には、標準データと比較して毛幹成長速度は第二毛周期に有意差が見られず、毛幹最大長は第三毛周期に有意差が見られないが向上していた(表6および
図6を参照。)。これらの結果から、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物を1%で含有する溶液の育毛活性は、有意傾向であった。
【0075】
したがって、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の育毛活性の有効下限濃度は、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物の含有量として、1%から3%の間であることが示唆された。
【0076】
<試験例2:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物による細胞分裂活性評価>
【0077】
1. 材料と方法
(1)実験動物
6~8週齢のC57BL/6Nマウス(日本エスエルシー株式会社、日本)より背部体毛皮膚を採取した。動物の飼育および実験は、関連法規、省令、および指針を遵守し、理化学研究所実験倫理審査会の承認のもとに実施した。
【0078】
(2)薬剤
以下の薬剤をそれぞれ用意した。
実施例1:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物 3%溶液
実施例2:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物 1%溶液
比較例1:60%エタノール水溶液
比較例5:RiUPX5PLUS(大正製薬、日本)
【0079】
(3)薬剤塗布
C57BL/6Nマウスの背部の体毛を抜毛した。C57BL/6Nマウスの左右背部に、マイクロピペットを用いて25μLの薬剤を塗布した。その後、塗布部位にドライヤーを用いて冷風をあてて薬剤を素早く乾燥させた。この作業を左右背部に各4回ずつ繰り返した。この薬剤塗布作業を抜毛した翌日から7日間行った。
【0080】
(4)BrdU投与
7日間薬剤を塗布したC57BL/6Nマウスから背部体毛皮膚を採取する24時間および48時間前に、各マウスの後足部分の腹部に10mg/mLのBrdU/生理食塩水 0.5mLを注射器(テルモ株式会社、日本)を用いて投与した。
【0081】
(5)マウス皮膚組織採取及び固定
8日目に投与した時間と同じ時間にC57BL/6Nマウスを頸椎脱臼により安楽死させた後に、毛球部を傷つけないように皮膚組織を採取した。採取した皮膚組織をSuperFix(東洋紡株式会社、日本)に16~24時間固定液に浸した後、1×PBSで4回洗い、新しい1×PBSに入れ保管した。その皮膚組織を必要な部分を切り出しし、パラフィン液交換機(Leica Microsystems GmbH、ドイツ)にてパラフィンブロックを作製した。
【0082】
(6)切片作製
パラフィン化した皮膚組織のブロックをミクロトーム(Leica Microsystems GmbH、ドイツ)で切片化し、プラチナコートしたスライドガラス(プラチナ プロ(松浪硝子工業株式会社、日本))に切片を張り付けて、40℃のウォームスチームで8~10時間放置し、乾燥させた。
【0083】
(7)BrdU免疫染色
脱パラフィン処理を施すため、サンプルの乗ったスライドガラスを、キシレン、キシレン、100%エタノール、95%エタノール、70%エタノールに、順に3分間ずつ浸した。脱パラフィン処理を施したスライドガラスを、室温にて2M HClに30分間浸した。スライドガラスをベンタディスカバリーULTRA(自動染色装置)にセットし、プログラムを起動した。1次抗体Anti-BrdU antibody-Proliferation Marker(abcam、英国)を希釈溶液(1%BSA、0.1%TX100/PBS)にて160倍希釈し、1次抗体を加えるタイミングで100μL/サンプル数 添加した。2次抗体Donkey Anti-Sheep IgG H&L(Alexa Flour 594)(Thermo Fisher Scientific、米国)およびへキスト(Hoechst33342)を希釈溶液(1%BSA、0.1%TX100/PBS)にて500倍希釈し、100μL/サンプル数 添加した。プログラム終了後、0.1%TX100/PBSにて流しながら洗浄し、1×PBSに浸した。水溶性封入剤(0.5%没食子酸、90%グリセロール/PBS)を80μL/サンプル数 滴下した後、カバーガラスを乗せ、黄色チップで空気を押し出し、アスピレーターでカバーガラスの位置を修正しながら余分な封入剤を除き、トップコート(マニュキュア用)を使ってカバーガラスの4辺に封をした。トップコートが乾いていることを確認し、Axio Scanで画像をスキャンし、解析した。
【0084】
(8)BrdUの計測方法
5000μmの線を引き、その範囲にある表皮層、真皮層、毛包にあるBrdUの数を計測した。
【0085】
2.結果
本試験例では、抜毛したC57BL/6Nマウスを用いて、60%エタノールへ溶解した濃度1%および3%のパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を試験用の薬剤液とし、連日塗布を施した。陰性対照として60%エタノールおよび陽性対象としてRiUP(5%製剤)を塗布を施した。これら塗布は、1回/日で総塗布量100μlとなるようにして7日間行った。また、6、7日目の同じ時間にBrdUを腹部から投与し、その翌日に皮膚組織を採取した。採取した皮膚組織をパラフィン化し切片を作製し、BrdUの免疫染色を行い、BrdU数の計測により細胞活性を観察した。結果を
図7及び
図8に示す。
【0086】
図7及び
図8から明らかであるように、陰性対照および陽性対象と比較して、本発明の手段の有効成分であるパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の塗布によって、細胞分裂活性増大傾向が得られており、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸 3%において少なくとも毛包における細胞分裂活性が向上しており、本発明の手段の有効成分に育毛活性があることが示唆される結果が得られた。また、本発明の手段の有効成分であるパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の塗布によって、表皮基底層における細胞分裂活性の亢進も確認され、本発明の手段の有効成分によりスカルプケア効果が得られることが確認された。本発明の手段の有効成分であるパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸は、優れた育毛活性を奏するものであるとともに、塗布部分におけるスカルプケア効果をも同時に発揮することが可能な優れた効果を奏するものであることが明らかとなった。
【0087】
<試験例3:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物による太毛化活性評価>
【0088】
1. 材料と方法
(1)実験動物
上記試験例1と同様の手順にて、7~8週齢のC57BL/6Nマウス(SLC)より背部体毛皮膚を採取し、作製した背部体毛皮膚由来の毛群を4~6週齢のBal
b/c nu/nuマウス(SLC)に移植した後、薬剤を塗布した。動物の飼育および実験は、関連法規、省令、および指針を遵守し、理化学研究所実験倫理審査会の承認のもとに実施した。
【0089】
(2)薬剤
以下の薬剤を試験に使用した。
実施例1:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物 3%溶液
実施例2:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物 1%溶液
比較例1:60%エタノール水溶液
比較例5:RiUPX5PLUS(登録商標)(大正製薬、日本)
(3)太毛化の計測方法
試験例1において3周期目終了した成長した毛幹を用いて、太毛化の計測を行った。採取した毛幹のうち、Zigzag毛の2本を用いた。その中心部分の太くなっている範囲を1辺 100μmの正方形で3か所を選択した。選択した範囲の5か所を計測した。
【0090】
2. 結果
薬剤塗布後の毛を用い、毛幹径を計測した結果を
図9に示す。また、対照となる60%エタノール水溶液を塗布した比較例1における毛幹径からの増加率を評価した結果を表7に示す。
【0091】
【0092】
本発明の手段の有効成分であるパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を塗布すると、、対照となる60%エタノール水溶液を塗布した比較例1に比べ、明らかな太毛化が生じたことが確認された。この太毛化の程度は比較例5と同等であり、上市されている育毛剤であるRiUPX5PLUSと同等の活性が認められた。
【0093】
<試験例4:ヒト毛乳頭細胞におけるFGF-7遺伝子及びVEGF遺伝子発現の評価>
【0094】
1. 材料と方法
(1)ヒト毛乳頭細胞及び培地について
ヒト毛乳頭細胞(カタログ番号:CA60205a、白色人種、29歳男性由来、東洋紡株式会社(日本))を購入し、プロトコールに記載されるようにして細胞を維持・培養して試験評価を行った。
【0095】
(2)薬剤
試験用薬剤として、以下の各濃度(終濃度)の薬剤溶液を調製し、使用した。
実施例1:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物 3%溶液
実施例3:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物 0.1%溶液
実施例4:パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物 0.025%溶液
ミノキシジル 30μM
アデノシン 100μM
【0096】
(3)試験方法
ヒト毛乳頭細胞を5×104個/ウェルとなるように、96ウェルプレートに播種した。CO2インキュベーター(5%CO2、37℃)内で、1日間培養後、各試験用薬剤を含む培地に置換した。その後、細胞プレートをCO2インキュベーターに戻し、さらに24時間又は72時間培養した。培養後、各ウェルより、全RNAを抽出、回収して、それをcDNAに逆転写した。調製したcDNAを用いて、リアルタイムPCR法にてFGF-7遺伝子の発現を測定した。内部標準としてGAPDH遺伝子を用い、陰性対照群との相対値としてFGF-7遺伝子の発現量を算出した。
【0097】
細胞からの全RNAの回収にはFastGene RNA Basic Kit(カタログ番号:FG-80250、日本ジェネティクス株式会社(日本))を使用した。
【0098】
ウェルあたり100μLの溶解バッファーRLを添加し、ピペッティングにて細胞を溶解した。細胞溶解液に70%エタノールを100μL添加し、ピペッティングにて混合した。サンプル溶液をFastGene RNA binding columnに添加し、10000gで1分間、室温で遠心した。カラムを通過したろ液をコレクションチューブから廃棄し、FastGene RNA binding columnを元のコレクションチューブに戻した後、600μLの洗浄バッファーRW1をFastGene RNA binding columnに加え、10000gで1分間、 室温で遠心した。FastGene RNA binding columnを新しいコレクションチューブに移してセットし、700μLの洗浄バッファーRW2をFastGene RNA binding columnに加え、10000gで1分間、 室温で遠心した。FastGene RNA binding columnを新しいコレクションチューブに移してセットし、15000rpmで1分間、 室温で遠心した。FastGene RNA binding columnを新しいコレクションチューブに移してセットし、50μLの溶出バッファー RE をFastGene RNA binding columnのメンブレンの中央に添加し、10000gで1分間、室温で遠心し、精製したRNAを回収した。回収したRNAの濃度をNanoDrop Lite(カタログ番号:ND-LITE、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)にて測定し、-80℃にて次のcDNA化作業まで保存した。
【0099】
cDNAの合成にはFastGene scriptaseII cDNAsynthesis 5× Ready Mix(カタログ番号:NE-LS64、日本ジェネティクス株式会社(日本))を使用した。新しい チューブに生成した全RNA の濃度が20ng/mL になるように、RNase Free Waterで希釈し、このサンプル溶液16μLにFastGene scriptaseII cDNAsynthesis 5× Ready Mixを4μL添加し、ボルテックスにて攪拌した。 MiniAmpサーマルサイクラー (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用い、25℃で10分間、42℃で60分間、85℃で5分間インキュベートし、cDNAを合成した。
【0100】
上記の方法にて合成したcDNAをリアルタイムPCRに用いた。96ウェルプレートの所定のウェルに、各cDNA template 希釈液を添加し、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(カタログ番号: QPSー201、東洋紡株式会社(日本))とプライマーを添加して混合し、QuantStudio 7 Flex Real-Time PCR System(カタログ番号:4485693、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)にて遺伝子発現を解析した。PCR反応として、95℃5秒間、60℃30秒間、及び72℃30秒間を40サイクル行った。
【0101】
試験に使用したVEGF遺伝子に特異的なプライマー、FGF-7遺伝子に特異的なプライマー、及び内部標準としたGAPDH遺伝子に特異的なプライマーを以下に示す。
FGF-7遺伝子発現検出用プライマー
順方向:tctgtcgaacacagtggtacctgag(配列番号1)
逆方向:gccactgtcctgatttccatga(配列番号2)
VEGF遺伝子発現検出用プライマー
順方向:atcttcaagccatcctgtgtgc(配列番号3)
逆方向:caaggcccacagggattttc(配列番号4)
GAPDH遺伝子発現検出用プライマー
順方向:catccctgcctctactggcgctgcc(配列番号5)
逆方向:ccaggatgcccttgagggggccctc(配列番号6)
【0102】
以下のようにして各遺伝子の相対発現量を算出した。
各遺伝子の増幅曲線と閾値線との交点より、Ct値(PCRサイクル数)を算出した。目的遺伝子のCt値より内部標準GAPDH遺伝子のCt値で除した値が相対発現量となる。
【0103】
2. 結果
ヒト毛乳頭細胞にパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物を24時間及び72時間作用させた後のFGF-7遺伝子並びにVEGF遺伝子の発現量の変化を測定し、その結果を、それぞれ
図10(24時間)及び
図11(72時間)に示した。
【0104】
図10に示すように、ヒト毛乳頭細胞に対してパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物を終濃度3%にて24時間作用させた群では、無添加対照群に比して有意にFGF-7遺伝子発現量及びVEGF遺伝子発現量が上昇することが確認された。
【0105】
そして、これらFGF-7遺伝子発現量及びVEGF遺伝子発現量は、いずれもミノキシジル又はアデノシンを作用させた場合よりも大きいものであった。
【0106】
また、ヒト毛乳頭細胞に対してパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物を終濃度0.1%で24時間作用させた群においても、無添加対照群に比してFGF-7遺伝子発現量及びVEGF遺伝子発現量が有意に上昇することが確認された。
【0107】
またさらに、
図11に示すように、ヒト毛乳頭細胞に対してパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物を終濃度3%にて72時間作用させた群において、無添加対照群に比してFGF-7遺伝子発現量及びVEGF遺伝子発現量が有意に上昇することが確認された。また、それら遺伝子発現量の上昇の程度は、24時間作用させた場合に比してより大きくなることが確認された。
【0108】
そして、これらFGF-7遺伝子発現量及びVEGF遺伝子発現量は、いずれもミノキシジル又はアデノシンを作用させた場合よりも大きいものであった。
【0109】
また、ヒト毛乳頭細胞に対してパルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸の混合物を終濃度0.1%で72時間作用させた群においても、無添加対照群に比してFGF-7遺伝子発現量及びVEGF遺伝子発現量が有意に上昇することが確認された。
【0110】
ヒト毛乳頭細胞におけるFGF-7遺伝子の発現亢進、及びVEGF遺伝子の発現亢進は、いずれもヒトにおける育毛活性の亢進に寄与するものであることが知られている。上記に示した試験結果から、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸は、ヒト毛乳頭細胞におけるFGF-7遺伝子及びVEGF遺伝子の発現量をいずれも亢進させるものであること、及び、より長時間作用させることでそれら遺伝子発現量をより高めるものであることが示された。このように、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシトレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸は、ヒトにおける育毛活性を亢進させるための有効成分として大いに有用であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の手段により、外用剤である育毛剤の有効成分として、パルミトイルジペプチド-5ジアミノブチロイルヒドロキシスレオニンおよびパルミトイルジペプチド-5ジアミノヒドロキシ酪酸を用いるものとすることで、頭髪、眉毛および/または睫毛などの毛における毛幹の成長促進効果、毛幹伸長速度の向上効果、毛幹最大長の向上効果および毛幹径の増大の効果並びにスカルプケア効果を奏する新たな育毛剤およびスカルプケア剤を提供することが可能となる。