(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】栽培環境制御装置
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
A01G7/00 601Z
(21)【出願番号】P 2020165576
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-09-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516046628
【氏名又は名称】MIRAI株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520381230
【氏名又は名称】ユメックスソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】武村 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大樹
(72)【発明者】
【氏名】野澤 永光
(72)【発明者】
【氏名】挽野 佳之
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 幸成
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/208949(WO,A1)
【文献】特開2013-111073(JP,A)
【文献】国際公開第2015/155915(WO,A1)
【文献】特開平05-153871(JP,A)
【文献】特開2016-202050(JP,A)
【文献】特開2017-135091(JP,A)
【文献】特開2017-136046(JP,A)
【文献】特開昭62-051931(JP,A)
【文献】特開2013-201903(JP,A)
【文献】国際公開第2016/178314(WO,A1)
【文献】特開2020-146006(JP,A)
【文献】特表2020-518961(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1045302(KR,B1)
【文献】特開2006-325516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 31/00 - 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隙をもって複数配置され、植物に光を照射する光照射部と、
前記植物の周囲に気流を発生させる複数の気流発生部と、
前記間隙を利用して前記気流発生部により前記植物の芯に対して気流を発生させる複数の気流制御機構と、
前記光照射部と前記気流制御機構とを保持する保持部と、を備え、
前記気流制御機構は、長手状かつ筒状に形成されると共に、前記植物の芯に対応する位置に開口部を有しており、
前記気流発生部は、前記気流制御機構の長手方向一端部にそれぞれ
保持されて前記保持部の外縁部よりも内方に位置しており、
前記光照射部および前記気流発生部は、間欠制御または強弱制御される
ことを特徴とする栽培環境制御装置。
【請求項2】
前記光照射部は、前記気流制御機構と同一高さに位置して
側面視で前記気流制御機構と上下方向にラップしている
ことを特徴とする請求項1記載の栽培環境制御装置。
【請求項3】
前記気流発生部は、前記気流制御機構により、前記植物の芯に対して0.3m/s以上1.5m/s以下の所定速度の気流を生じさせる
ことを特徴とする請求項1または2記載の栽培環境制御装置。
【請求項4】
前記光照射部は、色温度が3000K以上の白色光、または、波長が620nm以上700nm以下の赤色光を含み、
前記光照射部を10μs以上20ms以下の所定の周期で通電と非通電とを繰り返すように間欠制御する制御部を備える
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の栽培環境制御装置。
【請求項5】
前記光照射部は、対をなして配置され、
一方の前記光照射部と、他方の前記光照射部と、に対し、同一の電源から交互に給電される
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか一記載の栽培環境制御装置。
【請求項6】
互いに間隙をもって複数配置され、植物に光を照射する光照射部と、
前記植物の周囲に気流を発生させる複数の気流発生部と、
前記間隙を利用して前記気流発生部により前記植物の芯に対して気流を発生させる複数の気流制御機構と、を備え、
前記光照射部は、前記気流制御機構と同一高さに位置して
側面視で前記気流制御機構と上下方向にラップしており、
前記光照射部および前記気流発生部は、間欠制御または強弱制御される
ことを特徴とする栽培環境制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物に光を照射する光照射部を備える栽培環境制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の栽培において、露地栽培、あるいはハウス栽培は、豪雨、台風といった突発的な自然災害や気変動への対策が難しい。そのため、年間を通じての予想が立て難く、特に野菜の卸売り、小売り業からは農作物の安定生産が求められている。
【0003】
そのため、屋内の環境制御による栽培、いわゆる閉鎖型植物工場が注目されている。しかしながら、光、温度、湿度、気流といった栽培環境を、電気を主とした人工エネルギーを投入して制御、維持する必要があるため、生産量が同じであれば露地栽培に対して生産コストが増加する。したがって、より生産効率を増加させかつ投入エネルギーの小さな栽培環境制御の仕組みが求められている。
【0004】
栽培環境の内、温度、湿度を均質化させることで葉の褐変(チップバーン)を防ぎ、かつ植物への二酸化炭素の供給を促すことで植物の成長を促進させ、生産効率を高める方法としては、植物への送風が知られている。このような植物への送風を植物工場で実施する形態として、植物の側面から送風する方法(例えば、特許文献1参照)、あるいは、植物の上方から送風する方法(例えば、特許文献2参照)、あるいは植物の下方から送風する方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0005】
また、環境制御、特に光の照射および送風の方法は、チップバーン抑制と成長促進の効果を最大化するために植物の種類に合わせて調整する必要がある。その場合、環境制御装置の変更可能な条件の幅が狭いと、植物の種類毎に異なる環境制御装置を準備する、または既設の環境制御装置を新しいものに交換する必要が生じるが、それらは栽培コストの増大につながる。したがって、環境制御装置には、複数種の植物の栽培に対応可能な拡張性が求められる。例えば、栽培設備に対し送風制御装置が固定な例(例えば、特許文献4参照)、および、送風制御装置が可変な例(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6244554号公報
【文献】特開2019-41694号公報
【文献】特開2017-205072号公報
【文献】特開2012-125196号公報
【文献】特開2020-25480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に記載された方法のように、光の照射に加えて送風を実施する場合、消費エネルギーの低減と栽培環境制御の拡張性の確保とが求められる。
【0008】
本発明は、消費エネルギーの低減を図ることができ、かつ導入以降大幅な装置の追加や変更の必要がない栽培環境制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の栽培環境制御装置は、植物に光を照射する光照射部と、前記植物の周囲に気流を発生させる気流発生部と、を備え、前記光照射部および前記気流発生部は、間欠制御または強弱制御されるものである。
【0010】
請求項2記載の栽培環境制御装置は、請求項1記載の栽培環境制御装置において、前記光照射部および前記気流発生部を保持する保持部を備え、前記保持部と前記植物との間の距離は、調整可能であるものである。
【0011】
請求項3記載の栽培環境制御装置は、請求項1または2記載の栽培環境制御装置において、前記光照射部は、互いに間隙をもって複数配置され、前記間隙を利用して前記気流発生部により前記植物の芯に対して気流を発生させる気流制御機構を備えるものである。
【0012】
請求項4記載の栽培環境制御装置は、請求項3記載の栽培環境制御装置において、前記気流発生部は、前記気流制御機構により、前記植物の芯に対して0.3m/s以上1.5m/s以下の所定速度の気流を生じさせるものである。
【0013】
請求項5記載の栽培環境制御装置は、請求項1ないし4いずれか一記載の栽培環境制御装置において、前記光照射部は、色温度が3000K以上の白色光、または、波長が620nm以上700nm以下の赤色光を含み、前記光照射部を10μs以上20ms以下の所定の周期で通電と非通電とを繰り返すように間欠制御する制御部を備えるものである。
【0014】
請求項6記載の栽培環境制御装置は、請求項1ないし5いずれか一記載の栽培環境制御装置において、前記光照射部は、対をなして配置され、一方の前記光照射部と、他方の前記光照射部と、に対し、同一の電源から交互に給電されるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、消費エネルギーの低減を図ることができ、かつ導入以降大幅な装置の追加や変更の必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の実施の形態に係る栽培環境制御装置を示し、(a)は栽培環境制御装置の断面図、(b)は栽培環境制御装置の一部の斜視図である。
【
図2】(a)は同上栽培環境制御装置の植物の配置を示す平面図、(b)は気流制御機構により気流を発生させる位置を示す平面図である。
【
図3】同上栽培環境制御装置の構成を示すブロック図であり、(a)は一例を示し、(b)は他の例を示し、(c)はさらに他の例を示す。
【
図4】同上栽培環境制御装置の制御部を模式的に示すブロック図である。
【
図5】(a)同上制御部のRC回路における電圧の時間変化の一例を示すグラフ、(b)は同上制御部のインバータ回路における電圧の時間変化の一例を示すグラフ、(c)は同上制御部のスイッチ素子からの出力電圧の一例を示すグラフである。
【
図6】(a)は光照射部の常時点灯時とパルス制御時との電力の時間変化の一例を示すグラフ、(b)は光照射部のオンオフ切り替え周期が短いときの電力の時間変化の一例を示すグラフ、(c)は光照射部のオンオフ切り替え周期が長いときの電力の時間変化の一例を示すグラフである。
【
図7】
図3に示す各構成における消費電力の時間変化を模式的に示すグラフであり、(a)は
図3(a)に示す例に対応する例を示し、(b)は
図3(b)に示す例に対応する例を示し、(c)は
図3(c)に示す例に対応する例を示す。
【
図8】第2の実施の形態に係る栽培環境制御装置を示し、(a)は栽培環境制御装置の断面図、(b)は栽培環境制御装置の一部の斜視図である。
【
図9】(a)は同上栽培環境制御装置の植物の配置を示す平面図、(b)は気流発生部により気流を発生させる位置を示す平面図である。
【
図10】第3の実施の形態に係る栽培環境制御装置を示し、(a)は栽培環境制御装置の断面図、(b)は栽培環境制御装置の一部の斜視図である。
【
図11】第4の実施の形態に係る栽培環境制御装置を示し、(a)は栽培環境制御装置の一部を模式的に示す斜視図、(b)は消費電力の時間変化を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1(a)において、1は栽培環境制御装置を示す。栽培環境制御装置1は、植物Pの水耕栽培において、光、温度、湿度、気流等の栽培環境を制御するものである。栽培環境制御装置1は、植物工場、特に閉鎖型植物工場に好適に用いられる。
【0019】
栽培環境制御装置1は、植物Pが配置された栽培棚2に設置される。栽培棚2は、例えば、複数の支柱間に架設される支持部である梁4を有する骨組みからなる多段式のものである。栽培棚2が設置される室内の温度および湿度は、空調装置により制御される。なお、以下、上下方向は、栽培棚2の段が積層されている方向とし、左右方向は
図1(b)等に示す矢印X方向、前後方向は
図1(b)等に示す矢印Y方向とする。
【0020】
図1(a)に示すように、栽培棚2には、各段に空間5が形成され、この空間5に、植物Pが栽培される栽培パネル6が設置される。栽培パネル6には、複数の植物Pが配置される。図示される例では、栽培パネル6には、穴部6aが形成され、各穴部6aに植物Pが配置される。栽培パネル6は、空間5に複数配置される。
図2(a)に示す例では、栽培パネル6は左右方向に長手状に形成され、左右方向に2つ、前後方向に5つ並んで配置される。一例として、栽培パネル6は、左右方向に1.2m、前後方向に1.5m程度の大きさのものが用いられる。各栽培パネル6において、穴部6aは、前後および左右にそれぞれ等間隔または略等間隔に離れて配置され、全体として千鳥状に配置されており、前後方向に沿う列が左右方向に複数形成され、互いに隣接する列同士での穴部6aの位置が前後に交互にずれている。
図1(a)に示すように、各穴部6aに植物Pが配置されている。つまり、植物Pの配置は、穴部6aと同一となっている。基本的に、同一の栽培パネル6には、同一種類の植物Pが配置される。また、空間5の内部にて栽培パネル6の下方に、水耕栽培をするための養液7が流れる栽培プール8が備えられる。栽培棚2は、工場の規模に応じて、単数または複数設置される。
【0021】
そして、栽培環境制御装置1は、栽培棚2の空間5に配置された保持部10を有する。保持部10は、空間5にて栽培パネル6の上方に離れて配置された保持体(リテーナ)である。保持部10は、任意の移動機構により上下方向に移動可能に設けられ、植物Pに対して空間5の内部で植物Pとの間の距離を調整できるように構成されている。図示される例では、保持部10は、梁4に対し、高さ調整部である線状体11により吊り下げられ、線状体11の長さを調整することで植物Pとの間の距離を調整可能となっている。
【0022】
保持部10には、栽培対象となる植物Pに光を照射する一または複数の光照射部12と、植物Pが位置する周囲の空間5に気流を生じさせる一または複数の気流発生部13と、が着脱可能に一体的に配置されている。つまり、保持部10によって、光照射部12と気流発生部13とがユニット化されている。本実施の形態において、光照射部12および気流発生部13は、1つの保持部10にそれぞれ複数保持されている。これら光照射部12および気流発生部13には、商用電源等の外部電源である電源14(
図3(a)ないし
図3(c))から給電される。本実施の形態では、電源14(
図3(a)ないし
図3(c))は、例えば1つの保持部10毎に1つ設定され、その保持部10に保持された複数の光照射部12および複数の気流発生部13に1つの電源14(
図3(a)ないし
図3(c))から給電する。つまり、一つの保持部10と、その保持部10に保持される複数の光照射部12および気流発生部13とがユニットとなっており、ユニット毎に電源14(
図3(a)ないし
図3(c))から給電する。
【0023】
光照射部12は、植物Pの成長を促進する光を植物Pに照射する。光照射部12は、光源またはランプであり、好ましくは発光素子、例えばLEDが用いられる。光照射部12は、色温度が3000K以上の白色光、または、波長が620nm以上700nm以下の赤色光を含む。光照射部12は、互いに所定以上の間隙をもって保持部10に複数保持されている。光照射部12は、長手状に形成されている。
図1(b)に示す例では、長手方向を前後方向に沿わせて、左右方向に複数列、例えば5列、長手方向を左右方向に沿わせて1列、それぞれ配置されている。本実施の形態において、光照射部12は、外殻が円筒状に形成されている。図示される例では、光照射部12は、透光性を有する外殻の内部に、複数の発光素子が長手方向に並んで配置されている。
【0024】
本実施の形態において、隣接する光照射部12同士の間隙は、1cm以上に設定されている。つまり、図示される例では、左右方向に隣接する光照射部12の間隙、および、前後方向の端部に位置する光照射部12と左右方向に並ぶ複数の光照射部12との間隙が、それぞれ1cm以上となっている。
図1(a)に示すように、これら光照射部12の間隙が、植物Pの上方に位置するように保持部10が配置されている。1株の植物Pに対し、複数の光照射部12から光が照射される配置となっている。また、光照射部12と保持部10との間、つまり光照射部12の上部に、反射体15が配置されている。反射体15は、光照射部12から上方に出射する光を植物P側である下側へと反射させるものである。本実施の形態において、反射体15は、光照射部12の上部に沿って断面円弧状に湾曲された板状の反射板である。反射体15を介して、光照射部12が保持部10に取り付けられている。
【0025】
また、本実施の形態において、光照射部12は、保持部10の本体部10aの下部に配置されている。本体部10aは、板状に形成されている。本体部10aは、保持部10の下端部に位置する。本体部10aは、空間5に配置された栽培パネル6の全体を覆うように配置されている。本実施の形態において、本体部10aは、四角形状に形成されている。
【0026】
光照射部12の点灯状態は、
図4に示す制御部17により制御される。制御部17は、制御盤18を介して電源14と電気的に接続され、電源14から光照射部12への給電を制御する。制御部17には、電源14からの給電の周期を設定する発振回路であるRC回路17aと、RC回路17aにより設定された周期の信号を出力するドライバ回路であるインバータ回路17bと、インバータ回路17bから出力される信号に応じてスイッチングされるスイッチ素子17cと、を有するパルス波発生機が備えられる。
【0027】
RC回路17aには、所定の容量のコンデンサ、および、所定の抵抗値の抵抗器が備えられる。コンデンサとしては、例えば100nFのものが用いられる。抵抗器は、好ましくは可変抵抗器が用いられ、抵抗値に応じて周期を可変設定可能となっている。そして、RC回路17aでは、コンデンサの充放電が繰り返される(
図5(a)の実線に示す)ことで、インバータ回路17bの通電期を設定する信号が生成される。
【0028】
インバータ回路17bは、好ましくはインバータICが用いられる。本実施の形態では、RC回路17aのコンデンサに加わる電圧が電源電圧の50%以上の場合にインバータ回路17bに電流が流れるようになっている(
図5(b)の実線および細線に示す)。インバータ回路17bを流れる電流に応じてスイッチ素子17cのオンオフが切り替えられる。
【0029】
スイッチ素子17cは、フィルタリング機能とスイッチ機能とを有する。スイッチ素子17cは、好ましくはパワーMOSFETが用いられる。スイッチ素子17cは、インバータ回路17bに電流が流れたときにのみオンされることで、電源14から供給される光照射部12への電圧をオンオフするようになっている(
図5(c)の実線に示す)。
【0030】
したがって、本実施の形態において、光照射部12は、制御部17により、間欠的に駆動される。すなわち、光照射部12は、微視的には制御部17により間欠制御される。本実施の形態において、制御部17は、所定のデューティ比、例えば50%のデューティ比で光照射部12をPWM制御するように構成されている。ここで、光照射部12が特にLEDの場合、消費電力が低いため、オン前後とオフ前後等の切り替え時に損失が生じることで、スイッチ損失(
図6(b)、
図6(c)の網掛部分)は、通電と非通電との切り替え周期が短い(
図6(b))ほど増加し省エネルギー効果が低くなり、光照射部12の通電と非通電との切り替え周期が長いと(
図6(c))、植物Pの成長の促進効果が低下する。そこで、本実施の形態では、光照射部12は、10μs以上20ms以下、好ましくは400μs以上4ms以下の所定の周期で通電と非通電とを繰り返すように間欠制御される(
図6(a))。
【0031】
さらに、制御部17は、一日のうち、稼働される期間と稼働されない期間とが設定される。制御部17が稼働される期間は、この制御部17により光照射部12が電源14から通電と非通電とを繰り返すように間欠制御され、光照射部12から植物P(
図1(a))に対しパルス光が照射される期間(明期)である。また、制御部17が稼働される期間は、制御部17による電源14からの光照射部12への通電/非通電が制御されず、光照射部12が消灯状態を維持して光照射部12から植物P(
図1(a))に対し光が照射されない期間(暗期)である。本実施の形態において、制御部17に対する電源14からの給電期間は、
図3(a)ないし
図3(c)に示すタイマ20により制御される。タイマ20は、例えば制御盤18に設けられている。タイマ20は、例えば既知のタイムスイッチでもよいし、PLC、あるいはコンピュータ等により構成されてもよい。したがって、光照射部12は、巨視的にはタイマ20により間欠制御される。本実施の形態において、タイマ20により、光照射部12は、24時間の内、12時間~18時間を明期とし、残りの時間を暗期として稼働される。
【0032】
また、
図1(a)および
図1(b)に示す気流発生部13は、植物Pの光合成時の蒸散により生じる蒸気を拡散させて除湿するものである。気流発生部13は、モータファンが用いられる。気流発生部13としては、ブロワファンやコンプレッサが用いられてもよい。気流発生部13は、光照射部12の間隙の位置から植物Pの中央部である芯に対して気流を生じさせる。本実施の形態において、気流発生部13は、保持部10の取付部10bの上部に配置されている。取付部10bは、板状に形成されている。取付部10bは、保持部10の上端部に位置する。取付部10bは、本体部10aの上方にこの本体部10aと対向して配置されている。取付部10bは、外縁部が本体部10aと連結されている。取付部10bと本体部10aとの間に、気流発生部13の排気側または吸気側と連通する風路部10cが形成されている。風路部10cは、保持部10の内部に形成された通気空間部である。風路部10cには、気流発生部13の動作により空気が流れる。また、
図2(a)および
図2(b)に示すように、保持部10には、栽培パネル6の穴部6aに対向する位置に、開口部10dがそれぞれ形成されている。つまり、開口部10dは、
図1(a)に示すように、植物Pと同数配置され、植物Pの上方に位置している。開口部10dは、本体部10aを貫通して形成され、風路部10cと連通している。
【0033】
そして、風路部10cと開口部10dとにより、光照射部12の間隙の位置から気流発生部13により植物Pの芯に対して均一な気流を発生させる気流制御機構21が構成される。つまり、気流制御機構21は、開口部10dを有するダクトである。本実施の形態において、気流発生部13は、この気流制御機構21により、植物Pの芯に対し所定速度の気流を送風または吸引により生じさせることが可能となっている。図示される例では、気流発生部13は、植物Pの上方から植物Pの芯に対し所定速度の気流を吹き付け可能である。所定速度としては、0.3m/s以上1.5m/s以下とすることが好ましい。風速が0.3m/s未満の場合には、蒸気の拡散が不十分で湿度が下がらず、1.5m/sより大きい場合には、植物Pが気流によって倒れたり曲がったりするおそれがあるからである。また、植物Pの芯に対する気流を吹き付ける向きは、真下でもよいし、斜めからでもよい。
【0034】
さらに、気流発生部13は、間欠制御される。気流発生部13の間欠制御は、光照射部12の間欠制御に同期していてもよいし、同期していなくてもよい。
【0035】
例えば、植物Pが主として光照射部12の明期に蒸散を活発化させることを考慮して、気流発生部13の間欠制御を光照射部12の間欠制御に同期させる場合には、
図3(a)および
図7(a)に示すように、タイマ20に対し制御部17と電気的に並列に気流発生部13を接続することで、光照射部12の明期にのみ気流発生部13を動作させ、光照射部12の暗期には気流発生部13を停止させるようにしてもよいし、
図3(b)および
図7(b)に示すように、電源14に対しタイマ20と電気的に直列に接続された別のタイマ22を利用し、光照射部12の明期において、気流発生部13を光照射部12とは別個に間欠制御し、光照射部12の暗期に停止させるようにして、植物P(
図1(a))の蒸散によって生じた植物P(
図1(a))周辺の湿度を拡散させる気流を必要最小限としてもよい。この場合、
図3(a)および
図7(a)に示す構成の方が、イニシャルコストが少なく、
図3(b)および
図7(b)に示す構成の方が、ランニングコストが少ない。
【0036】
他方、植物P(
図1(a))が光照射部12の暗期においても多少の蒸散をしていることを考慮して、気流発生部13の間欠制御を光照射部12の間欠制御に同期させない場合には、
図3(c)および
図7(c)に示すように、電源14に対してタイマ20と電気的に並列に接続された別のタイマ22を利用し、光照射部12の明期・暗期を通じてこれらとは別個に気流発生部13を間欠制御してもよい。この場合には、
図3(a)および
図7(a)に示す構成、および、
図3(b)および
図7(b)に示す構成と比較して、光照射部12の暗期においても湿度をより確実に一定に保ち、植物Pの品質の一層の向上が見込める。
【0037】
次に、第1の実施の形態の動作を説明する。
【0038】
栽培環境制御装置1は、電源14からの給電を制御部17により間欠的に光照射部12に供給することにより、光照射部12の通電と非通電とを所定の周期で繰り返しつつ、植物Pに対して必要な光を照射する。つまり、光照射部12からは、植物Pに対し所定の周期のパルス光が照射される。また、光照射部12は、制御部17に対する電源14からの給電期間がタイマ20により制御されることで、通電と非通電とを繰り返しつつ植物Pに光を照射する明期と、植物Pに光を照射しない暗期とが設定される。
【0039】
このように、光照射部12を間欠制御することにより、光照射部12からの発熱が40%~50%低下する。そのため、空調装置の動作時間が減ることで、空間5の湿度が上昇する。空間5の湿度の上昇を抑制するために、除湿装置を使用するとエネルギーを消費し、電力コストが上昇する。
【0040】
そこで、電源14からの給電をタイマ20、および/または、タイマ22により制御することで、気流発生部13を間欠制御する。気流発生部13が動作することで、気流制御機構21により植物Pの芯に対して所定速度の気流を生じさせ、植物Pの蒸散により生じる蒸気を拡散させて、光照射部12の発熱低下に伴う空調装置の動作時間の減少に起因する周囲の空間5の湿度の上昇を抑えることができる。
【0041】
そして、気流発生部13による送風によって植物Pの成長とチップバーンの低減を促すと同時に、気流発生部13を含めた送風と光照射部12との栽培環境制御装置1の消費エネルギーの低減を図り、かつ光照射部12の供給熱低下による湿度上昇が栽培植物にもたらす品質低下を、消費エネルギーの大幅な増大なく防止する。また、保持部10により光照射部12および気流発生部13の高さを調整可能とすることで、サイズや形状の異なる植物Pへの対応を可能とする。
【0042】
このように、本実施の形態によれば、光照射部12と気流発生部13とを間欠動作させることで、光照射部12および気流発生部13をそれぞれ低消費エネルギーで稼働させつつ、植物Pの成長に必要な光を光照射部12から照射し、かつ、気流発生部13により生じさせる気流によって湿度環境を整えて、植物Pの品質を確保しつつ消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0043】
また、光照射部12と気流発生部13とがユニット化されているため、拡張性が高く、植物Pの種類に合わせて光の照射および気流の供給が容易に調整可能であり、導入以降大幅な装置の追加や変更の必要がない。
【0044】
光照射部12および気流発生部13を保持する保持部と植物Pとの間の距離を調整可能としたので、様々な種類やサイズ、形状の植物Pに応じた光照射部12からの光の照射条件、および、気流発生部13によって生じさせる気流の条件を、保持部10の高さに応じて設定でき、植物Pの品質の向上を図ることができる。
【0045】
また、光照射部12の互いの間隙を利用して気流発生部13により植物Pの芯に対して気流制御機構21によって気流を生じさせることで、栽培される植物Pにおいて湿度が上昇し易い生長点近傍の空気を移動させ、植物Pの蒸散および葉先へのカルシウム移流を効果的に促す。そのため、空気の移動とカルシウムの移流により植物Pの成長を促進できるとともに、カビおよびチップバーンの発生のリスクを低減できる。
【0046】
さらに、気流発生部13は、植物Pの芯部分に生じさせる気流の速度を0.3m/s以上、1.5m/s以下として、この気流発生部13を間欠制御することで、植物Pを気流によって倒れたり曲がったりさせることなく、蒸気を確実に拡散させて、植物Pの成長を効果的に促進できるとともに、カビおよびチップバーンの発生のリスクを大幅に低減できる。
【0047】
また、光照射部12は、色温度が3000K以上の白色光、または、波長が620nm以上700nm以下の赤色光を含み、電源14からの通電と非通電の1サイクルの時間を10μs以上20ms以下とすることで、植物Pの成長速度を低下させることなく、消費エネルギーを低減することができる。特に、LEDは、オンオフの応答性が良好であるため、短い周期でのオンオフ制御が可能となる。そして、制御部17は、交流の周波数と波形、または、RC回路等の発振回路を利用して任意の電気波形を作り、フィルタリング機能とスイッチ機能を有するパワー半導体を通すことで、非通電時は光照射部12を含めて電力消費が生じない構造とすることができる。
【0048】
気流発生部13としてモータファンを用いることで、一般的な除湿装置に比べ大幅に消費エネルギーを低減することができ、また気流発生部13の作動を植物Pの成長に影響のない範囲で間欠的に行うことでさらに消費エネルギーを抑えることが可能となる。
【0049】
この結果、植物Pの生産効率増加とコスト低減による植物工場の採算性の向上が可能となる。
【0050】
次に、本発明の第2の実施の形態について、
図8および
図9を参照して説明する。
【0051】
本実施の形態の栽培環境制御装置1は、保持部10の下部に、光照射部12と気流発生部13とがそれぞれ保持されている。
【0052】
気流発生部13は、
図8(b)に示すように、枠状に形成された保持部10に複数固定されている。保持部10は、四角形枠状の外枠部10eと、この外枠部10eに所定方向、本実施の形態では前後方向に沿って形成された複数のフレーム部10fと、を有する。そして、各フレーム部10fの両側に、気流発生部13がそれぞれ取り付けられている。光照射部12は、フレーム部10fに対し下方に取り付けられている。
【0053】
図9(a)および
図9(b)に示すように、気流発生部13は、穴部6aに対応する位置にそれぞれ配置されている。したがって、
図8(a)に示すように、気流発生部13は、各植物Pの芯の上方に配置される。つまり、本実施の形態において、気流発生部13は、植物Pと同数配置されている。これら気流発生部13は、それぞれ電源14に対し電気的に並列に接続されている。
【0054】
なお、この第2の実施の形態に係る栽培環境制御装置1のその他の構成は、上記第1の実施の形態と基本的に同一である。
【0055】
そして、栽培環境制御装置1は、光照射部12および気流発生部13を間欠制御する等、第1の実施の形態と同様の構成を有することにより、消費エネルギーの低減を図ることができ、かつ導入以降大幅な装置の追加や変更の必要がない等、第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0056】
また、植物Pの芯毎に気流発生部13を配置しているので、植物P毎の状態に応じて気流発生部13の動作を制御することで、各植物Pに適した気流を発生させることが可能となる。
【0057】
次に、本発明の第3の実施の形態について、
図10を参照して説明する。
【0058】
本実施の形態の栽培環境制御装置1は、保持部10の下部に、光照射部12と気流発生部13とがそれぞれ保持されているものである。
【0059】
光照射部12は、
図10(a)に示すように、基本的に第1の実施の形態と同様に保持部10の下部に保持されている。
【0060】
気流発生部13は、
図10(b)に示すように、保持部10の下部にて光照射部12間の間隙に取り付けられた気流制御機構である導風部10gの端部に保持されている。
【0061】
導風部10gは、前後方向に長手状に形成されている。導風部10gは、一端部が閉塞された筒状、本実施の形態では円筒状に形成されたダクトまたはチューブである。導風部10gの他端部に、気流発生部13が取り付けられている。導風部10gには、下部に開口部10g1が形成されている。開口部10g1は、植物Pの芯に対応して位置する。つまり、本実施の形態において、開口部10g1は、植物Pと同数配置されている。気流発生部13は、それぞれ光照射部12に対し電気的に並列に接続されている。導風部10gに対し、気流発生部13は1対1でもよいし、多数対1でもよい。
【0062】
なお、この第3の実施の形態に係る栽培環境制御装置1のその他の構成は、上記第1の実施の形態と基本的に同一である。
【0063】
そして、栽培環境制御装置1は、光照射部12および気流発生部13を間欠制御する等、第1の実施の形態と同様の構成を有することにより、消費エネルギーの低減を図ることができ、かつ導入以降大幅な装置の追加や変更の必要がない等、第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0064】
また、開口部10g1の位置が異なる導風部10gに交換するだけで、異なる植物Pの配置に容易に対応することができる。
【0065】
次に、本発明の第4の実施の形態について、
図11を参照して説明する。
【0066】
本実施の形態の栽培環境制御装置1は、対をなす保持部10毎に単一の電源14が接続されているものである。
【0067】
つまり、
図11(a)に示すように、保持部10は、一または複数のものを一方のユニットU1、それと同数のものを他方のユニットU2として、一方の保持部10に取り付けられた光照射部12と、他方の保持部10に取り付けられた光照射部12と、に対し、同一の電源14から所定の周期で交互に給電されるように構成されている。したがって、本実施の形態では、一定面積の区間毎において、複数の光照射部12を1つの電源14から電力供給を受け通電・非通電を同期させるユニット構造とする。
【0068】
電源14では、一方の保持部10に取り付けられた光照射部12に対し給電する期間(
図11(b)の網掛部分)では、他方の保持部10に取り付けられた光照射部12を非通電とし、他方の保持部10に取り付けられた光照射部12に対し給電する期間(
図11(b)の白抜き部分)では、一方の保持部10に取り付けられた光照射部12を非通電とする。言い換えると、一方の保持部10に取り付けられた光照射部12と、他方の保持部10に取り付けられた光照射部12と、は、互いの通電期と非通電期とが逆に同期している。
【0069】
これらの切り替えは、制御部17に代えて、複数の光照射部12が並列に接続されたスイッチング回路により選択的にスイッチングすることで実現される。
【0070】
気流発生部13については、タイマ20またはタイマ22に対して電気的に接続することで、光照射部12とは別個に間欠制御できる。
【0071】
なお、この第4の実施の形態に係る栽培環境制御装置1のその他の構成は、上記第3の実施の形態と基本的に同一である。
【0072】
そして、栽培環境制御装置1は、光照射部12および気流発生部13を間欠制御する等、第1の実施の形態と同様の構成を有することにより、消費エネルギーの低減を図ることができ、かつ導入以降大幅な装置の追加や変更の必要がない等、第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0073】
また、光照射部12を備える複数のユニットに対し、個別の電源でそれぞれ別個に通電と非通電とを制御した場合、これらの周期が重なると瞬間的な使用電力が高くなり(例えば
図11(b)の二点鎖線)、電力コストが上がる。本実施の形態によれば、一方の光照射部12のユニットと、他方の光照射部12のユニットと、に対し、同一の電源14から所定の周期で交互に給電することにより、一方の光照射部12のユニットと他方の光照射部12のユニットとで通電と非通電との周期が重なることがなく、瞬間的な使用電力を下げることができ、電力コストを低減できる。
【0074】
さらに、一定面積の区間毎において、複数の光照射部12を1つの電源14から電力供給を受け通電・非通電を同期させるユニット構造とすることで、電気容量と設置位置の制約の範囲内でなるべく多くの植物Pに対し、同期させたパルス光を照射することが可能となる。
【0075】
なお、上記各実施の形態において、光照射部12および気流制御部13は、間欠制御、つまり通電と非通電とを切り替える構成としたが、これに限らず、光照射部12および気流制御部13を強弱制御する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 栽培環境制御装置
10 保持部
10g 気流制御機構である導風部
12 光照射部
13 気流発生部
14 電源
17 制御部
21 気流制御機構
P 植物