(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/19 20060101AFI20241203BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241203BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20241203BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241203BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241203BHJP
C12N 15/88 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20241203BHJP
【FI】
A61K9/19 ZNA
A61K47/10
A61K47/24
A61K47/26
A61K47/28
A61K47/69
A61K48/00
A61K31/7088
C12N15/88 Z
A61K47/14
(21)【出願番号】P 2021549024
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036196
(87)【国際公開番号】W WO2021060440
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2019176253
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(72)【発明者】
【氏名】丹下 耕太
(72)【発明者】
【氏名】中井 悠太
(72)【発明者】
【氏名】玉川 晋也
(72)【発明者】
【氏名】種市 さくら
(72)【発明者】
【氏名】秋田 英万
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩揮
(72)【発明者】
【氏名】白根 大貴
(72)【発明者】
【氏名】萩原 伸哉
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121942(WO,A1)
【文献】特開2011-172519(JP,A)
【文献】特表2005-525992(JP,A)
【文献】国際公開第2019/092280(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/073480(WO,A1)
【文献】特表平10-501822(JP,A)
【文献】特表2019-525901(JP,A)
【文献】特表2014-523870(JP,A)
【文献】特表2018-521083(JP,A)
【文献】SHIRANE, D. et al.,Development of an Alcohol Dilution-Lyophilization Method for Preparing Lipid Nanoparticles Containin,Biol. Pharm. Bull.,2018年,41,p.1291-1294 and Supplementary Materials
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を含まず、イオン性脂質、ステロール、PEG脂質、pH1~6に緩衝作用を有する酸性緩衝液成分および凍結保護剤を含む脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物であって、
凍結保護剤と総脂質の重量比が10:1~1000:1であり、
イオン性脂質が3級アミノ基を含むイオン性脂質である、
核酸を含む水溶液と混合して核酸内封脂質ナノ粒子を調製するために用いられる凍結乾燥組成物。
【請求項2】
リン脂質をさらに含む請求項1記載の凍結乾燥組成物。
【請求項3】
凍結保護剤と総脂質の重量比が30:1~1000:1である請求項1または2記載の凍結乾燥組成物。
【請求項4】
凍結保護剤の濃度が凍結乾燥前の組成物として80~800mg/mLである請求項1~3のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項5】
凍結保護剤の濃度が凍結乾燥前の組成物として160~800mg/mLである請求項1~4のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項6】
イオン性脂質が式(1)で表される化合物である請求項1~5のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物:
【化1】
(式(1)中、
R
1a及びR
1bはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキレン基を表し、
X
a及びX
bはそれぞれ独立して、炭素数が1~6であり、かつ3級アミノ基の数が1の非環状のアルキル3級アミノ基、又は炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1~2の環状のアルキレン3級アミノ基を表し、
R
2a及びR
2bはそれぞれ独立して、炭素数8以下のアルキレン基又はオキシジアルキレン基を表し、
Y
a及びY
bはそれぞれ独立して、エステル結合、アミド結合、カーバメート結合、エーテル結合又はウレア結合を表し、
Z
a及びZ
bはそれぞれ独立して、炭素数が3~16であり、少なくとも1つの芳香環を有し、かつヘテロ原子を有していてもよい芳香族化合物から誘導される2価の基を表し、
R
3a及びR
3bはそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミンとコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は水酸基を有するステロール誘導体とコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表す。)。
【請求項7】
凍結保護剤が二糖である請求項1~6のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項8】
凍結保護剤がスクロースである請求項1~6のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項9】
以下の工程を含む、核酸内封脂質ナノ粒子の製造方法:
a)イオン性脂質、ステロールおよびPEG脂質を含むアルコール溶液とpH1~6に緩衝作用を有する酸性緩衝液を混合し、核酸を含まない脂質ナノ粒子の懸濁液を調製する工程であって、イオン性脂質が3級アミノ基を含むイオン性脂質である工程、
b)核酸を含まない脂質ナノ粒子の懸濁液と凍結保護剤を混合して、80~800mg/mLの凍結保護剤を含み、pH1~6の混合物を得る工程、
c)工程bで得られた混合物を凍結乾燥して、凍結乾燥組成物を得る工程、
d)凍結乾燥組成物を、核酸を含み、任意にアルコール0~25v/v%を含む水溶液と混合し、任意に混合物を0~95℃で0~60分間インキュベートして、核酸内封脂質ナノ粒子を得る工程、および
e)透析、限外ろ過または希釈によって、得られた核酸内封脂質ナノ粒子の外水相を中性緩衝液に交換する工程であって、外水相を中性緩衝液に交換した後の核酸内封脂質ナノ粒子のゼータ電位が-15~+15mVである工程。
【請求項10】
工程aにおいて、脂質ナノ粒子の懸濁液の調製後に透析、限外ろ過または希釈によって、外水相をpH1~6に緩衝作用を有する別の酸性緩衝液に交換する工程をさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程aにおいて、アルコール溶液がリン脂質をさらに含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
工程bにおいて、混合物中の凍結保護剤の濃度が160~800mg/mLである、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
イオン性脂質が式(1)で表される化合物である請求項9~12のいずれか1項に記載の方法:
【化2】
(式(1)中、
R
1a及びR
1bはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキレン基を表し、
X
a及びX
bはそれぞれ独立して、炭素数が1~6であり、かつ3級アミノ基の数が1の非環状のアルキル3級アミノ基、又は炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1~2の環状のアルキレン3級アミノ基を表し、
R
2a及びR
2bはそれぞれ独立して、炭素数8以下のアルキレン基又はオキシジアルキレン基を表し、
Y
a及びY
bはそれぞれ独立して、エステル結合、アミド結合、カーバメート結合、エーテル結合又はウレア結合を表し、
Z
a及びZ
bはそれぞれ独立して、炭素数が3~16であり、少なくとも1つの芳香環を有し、かつヘテロ原子を有していてもよい芳香族化合物から誘導される2価の基を表し、
R
3a及びR
3bはそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミンとコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は水酸基を有するステロール誘導体とコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表す。)。
【請求項14】
凍結保護剤が二糖である請求項9~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
凍結保護剤がスクロースである請求項9~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
核酸を含まず、イオン性脂質、ステロール、PEG脂質、pH1~6に緩衝作用を有する酸性緩衝液および80~800mg/mLの凍結保護剤を含む脂質ナノ粒子の組成物を凍結乾燥する工程を含む、脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物の製造方法であって、
イオン性脂質が3級アミノ基を含むイオン性脂質である、製造方法。
【請求項17】
脂質ナノ粒子の組成物がリン脂質をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
凍結乾燥前の組成物中の凍結保護剤の濃度が160~800mg/mLである、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
イオン性脂質が式(1)で表される化合物である請求項16~18のいずれか1項に記載の方法:
【化3】
(式(1)中、
R
1a及びR
1bはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキレン基を表し、
X
a及びX
bはそれぞれ独立して、炭素数が1~6であり、かつ3級アミノ基の数が1の非環状のアルキル3級アミノ基、又は炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1~2の環状のアルキレン3級アミノ基を表し、
R
2a及びR
2bはそれぞれ独立して、炭素数8以下のアルキレン基又はオキシジアルキレン基を表し、
Y
a及びY
bはそれぞれ独立して、エステル結合、アミド結合、カーバメート結合、エーテル結合又はウレア結合を表し、
Z
a及びZ
bはそれぞれ独立して、炭素数が3~16であり、少なくとも1つの芳香環を有し、かつヘテロ原子を有していてもよい芳香族化合物から誘導される2価の基を表し、
R
3a及びR
3bはそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミンとコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は水酸基を有するステロール誘導体とコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表す。)。
【請求項20】
凍結保護剤が二糖である請求項16~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
凍結保護剤がスクロースである請求項16~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
請求項1~8のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物を含む
、
核酸を含む水溶液と混合して核酸内封脂質ナノ粒子を調製するために用いられる核酸導入剤。
【請求項23】
生体外において、核酸を内封した請求項22記載の核酸導入剤と細胞とを接触させることを含む、当該核酸を当該細胞内に導入する方法。
【請求項24】
以下の工程を含む、核酸を細胞内に導入する方法:
a)イオン性脂質、ステロールおよびPEG脂質を含むアルコール溶液とpH1~6に緩衝作用を有する酸性緩衝液を混合し、核酸を含まない脂質ナノ粒子の懸濁液を調製する工程であって、イオン性脂質が3級アミノ基を含むイオン性脂質である工程、
b)核酸を含まない脂質ナノ粒子の懸濁液と凍結保護剤を混合して、80~800mg/mLの凍結保護剤を含み、pH1~6の混合物を得る工程、
c)工程bで得られた混合物を凍結乾燥して、凍結乾燥組成物を得る工程、
d)凍結乾燥組成物を、当該核酸を含み、任意にアルコール0~25v/v%を含む水溶液と混合し、任意に混合物を0~95℃で0~60分間インキュベートして、核酸内封脂質ナノ粒子を得る工程、
e)透析、限外ろ過または希釈によって、得られた核酸内封脂質ナノ粒子の外水相を中性緩衝液に交換する工程であって、外水相を中性緩衝液に交換した後の核酸内封脂質ナノ粒子のゼータ電位が-15~+15mVである工程、および
f)生体外において、得られた核酸内封脂質ナノ粒子と当該細胞とを接触させる工程。
【請求項25】
工程aにおいて、脂質ナノ粒子の懸濁液の調製後に透析、限外ろ過または希釈によって、外水相をpH1~6に緩衝作用を有する別の酸性緩衝液に交換する工程をさらに含む請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核酸を含まない脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物およびこれを用いた核酸封入脂質ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
siRNAなどのオリゴ核酸を用いた核酸治療やmRNAやpDNA等を用いた遺伝子治療を実用化するために、効果的で安全な核酸送達キャリアが求められている。ウイルスベクターは、発現効率のよい核酸送達キャリアであるが、より安全に使用できる非ウイルス核酸送達キャリアの開発が進められている。
【0003】
四級アミンを有するカチオン性脂質を用いたカチオン性のリポソームは正に帯電しているため、負に帯電した核酸と静電相互作用によってコンプレックス(リポプレックス)を形成することができ、細胞内に核酸を送達することができる。さらに四級アミンが核酸と静電相互作用することを利用して、核酸を含まないカチオン性リポソームの凍結乾燥組成物を作製し、核酸の水溶液で再水和することでもリポプレックスを形成させることができるため、遺伝子導入試薬としても利用できることが示されている(特許文献1および2)。
【0004】
しかしながら、このような方法で作製されたリポプレックスは粒子径の制御が困難であり、また正に帯電したカチオン性脂質に由来する細胞毒性が問題となる。
【0005】
このため、酸性条件では正に帯電し、中性付近では電荷を持たない三級アミンを分子内に有するイオン性脂質を用いた脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle、またはLNPという)が開発され、現在最も一般的に使用されている非ウイルス核酸送達キャリアとなっている(非特許文献1)。
【0006】
三級アミンを分子内に有するイオン性脂質用いた脂質ナノ粒子としては、イオン性脂質に分解性基を付与した例もある(特許文献3)。
【0007】
このように様々な非ウイルスキャリアが開発されているが一般に核酸は不安定な化合物であることから、製剤としての安定性には未だ課題がある。
【0008】
製剤としての安定性を高める方法のひとつとして核酸を内封した脂質ナノ粒子を凍結乾燥し、使用時に再水和して脂質ナノ粒子を再構成する試みがなされている(特許文献4および非特許文献2)。
【0009】
これらの方法は特定の核酸を内封した脂質ナノ粒子の保存安定性を高める方法としては有用であるが、任意の核酸をより簡便に脂質ナノ粒子に内封する方法としては課題がある。
【0010】
任意の核酸を簡便に脂質ナノ粒子に内封する方法としては、特許文献1および2記載の方法のように、核酸を含まない凍結乾燥組成物を作製した後に核酸の水溶液で再水和する方法が挙げられる。
【0011】
しかしながら三級アミンを分子内に有するイオン性脂質を用いて得られる脂質ナノ粒子は調製後の表面電荷が弱負電荷から中性であることから核酸と静電相互作用せず、特許文献1および2で開示されている核酸を含まない凍結乾燥組成物を作製した後に核酸の水溶液で再水和する方法では核酸内封脂質ナノ粒子を調製することができない。
【0012】
以上のように任意の核酸を高い核酸封入率で且つ簡便に脂質ナノ粒子に封入する手段は無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第4919397号公報
【文献】特許第4598908号公報
【文献】特許第6093710号公報
【文献】国際公開第2017/218704号
【非特許文献】
【0014】
【文献】Gene Therapy 6:271-281, 1999
【文献】Biol. Pharm. Bull. 41, 1291-1294(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、従来技術では達成し得なかった任意の核酸を高効率且つ簡便に封入可能な凍結乾燥組成物を提供すること、およびこれを用いた核酸内封脂質ナノ粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意努力した結果、核酸を含まない脂質ナノ粒子を酸性バッファー中で調製し、さらに凍結保護剤を加えて凍結乾燥した後、核酸を含む水溶液で再水和することで任意の核酸を高効率且つ簡便に脂質ナノ粒子に内封できることを見出した。さらに本方法で調製した脂質ナノ粒子を用いて細胞への遺伝子導入実験を行い、凍結乾燥前の凍結保護剤の濃度を高めることで細胞への均一な遺伝子導入が可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
即ち、本発明は以下の内容を包含する。
[1] 核酸を含まず、イオン性脂質、ステロール、PEG脂質、pH1~6に緩衝作用を有する酸性緩衝液成分および凍結保護剤を含む脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物であって、
凍結保護剤と総脂質の重量比が10:1~1000:1である、凍結乾燥組成物。
【0018】
[2] リン脂質をさらに含む[1]記載の凍結乾燥組成物。
【0019】
[3] 凍結保護剤と総脂質の重量比が30:1~1000:1である[1]または[2]記載の凍結乾燥組成物。
【0020】
[4] 凍結保護剤の濃度が凍結乾燥前の組成物として80~800mg/mLである[1]~[3]のいずれか1つに記載の凍結乾燥組成物。
【0021】
[5]凍結保護剤の濃度が凍結乾燥前の組成物として160~800mg/mLである[1]~[4]のいずれか1つに記載の凍結乾燥組成物。
【0022】
[6] イオン性脂質が式(1)で表される化合物である[1]~[5]のいずれか1つに記載の凍結乾燥組成物:
【0023】
【0024】
(式(1)中、
R1a及びR1bはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキレン基を表し、
Xa及びXbはそれぞれ独立して、炭素数が1~6であり、かつ3級アミノ基の数が1の非環状のアルキル3級アミノ基、又は炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1~2の環状のアルキレン3級アミノ基を表し、
R2a及びR2bはそれぞれ独立して、炭素数8以下のアルキレン基又はオキシジアルキレン基を表し、
Ya及びYbはそれぞれ独立して、エステル結合、アミド結合、カーバメート結合、エーテル結合又はウレア結合を表し、
Za及びZbはそれぞれ独立して、炭素数が3~16であり、少なくとも1つの芳香環を有し、かつヘテロ原子を有していてもよい芳香族化合物から誘導される2価の基を表し、
R3a及びR3bはそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミンとコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は水酸基を有するステロール誘導体とコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表す。)。
【0025】
[7] 凍結保護剤が二糖である[1]~[6]のいずれか1つに記載の凍結乾燥組成物。
【0026】
[8] 凍結保護剤がスクロースである[1]~[6]のいずれか1つに記載の凍結乾燥組成物。
【0027】
[9] 以下の工程を含む、核酸内封脂質ナノ粒子の製造方法:
a)イオン性脂質、ステロールおよびPEG脂質を含むアルコール溶液とpH1~6に緩衝作用を有する酸性緩衝液を混合し、核酸を含まない脂質ナノ粒子の懸濁液を調製する工程、
b)核酸を含まない脂質ナノ粒子の懸濁液と凍結保護剤を混合して、80~800mg/mLの凍結保護剤を含み、pH1~6の混合物を得る工程、
c)工程bで得られた混合物を凍結乾燥して、凍結乾燥組成物を得る工程、
d)凍結乾燥組成物を、核酸を含み、任意にアルコール0~25v/v%を含む水溶液と混合し、任意に混合物を0~95℃で0~60分間インキュベートして、核酸内封脂質ナノ粒子を得る工程、および
e)透析、限外ろ過または希釈によって、得られた核酸内封脂質ナノ粒子の外水相を中性緩衝液に交換する工程。
【0028】
[10] 工程aにおいて、脂質ナノ粒子の懸濁液の調製後に透析、限外ろ過または希釈によって、外水相をpH1~6に緩衝作用を有する別の酸性緩衝液に交換する工程をさらに含む[9]に記載の方法。
【0029】
[11] 工程aにおいて、アルコール溶液がリン脂質をさらに含む、[9]または[10]に記載の方法。
【0030】
[12] 工程bにおいて、混合物中の凍結保護剤の濃度が160~800mg/mLである、[9]~[11]のいずれか1つに記載の方法。
【0031】
[13] イオン性脂質が前記式(1)で表される化合物である[9]~[12]のいずれか1つに記載の方法。
【0032】
[14] 凍結保護剤が二糖である[9]~[13]のいずれか1つに記載の方法。
【0033】
[15] 凍結保護剤がスクロースである[9]~[13]のいずれか1つに記載の方法。
【0034】
[16] 核酸を含まず、イオン性脂質、ステロール、PEG脂質、pH1~6に緩衝作用を有する酸性緩衝液および80~800mg/mLの凍結保護剤を含む脂質ナノ粒子の組成物を凍結乾燥する工程を含む、脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物の製造方法。
【0035】
[17] 脂質ナノ粒子の組成物がリン脂質をさらに含む、[16]に記載の方法。
【0036】
[18] 凍結乾燥前の組成物中の凍結保護剤の濃度が160~800mg/mLである、[16]または[17]に記載の方法。
【0037】
[19] イオン性脂質が前記式(1)で表される化合物である[16]~[18]のいずれか1つに記載の方法。
【0038】
[20] 凍結保護剤が二糖である[16]~[19]のいずれか1つに記載の方法。
【0039】
[21] 凍結保護剤がスクロースである[16]~[19]のいずれか1つに記載の方法。
【0040】
[22] [1]~[8]のいずれか1つに記載の凍結乾燥組成物を含む核酸導入剤。
【0041】
[23] 生体外において、核酸を内封した[22]記載の核酸導入剤と細胞とを接触させることを含む、当該核酸を当該細胞内に導入する方法。
【0042】
[24] 核酸を内封した[22]記載の核酸導入剤を、標的細胞に送達されるように、生体へ投与することを含む、当該核酸を当該細胞内へ導入する方法。
【0043】
[25] 以下の工程を含む、核酸を細胞内に導入する方法:
a)イオン性脂質、ステロールおよびPEG脂質を含むアルコール溶液とpH1~6に緩衝作用を有する酸性緩衝液を混合し、核酸を含まない脂質ナノ粒子の懸濁液を調製する工程、
b)核酸を含まない脂質ナノ粒子の懸濁液と凍結保護剤を混合して、80~800mg/mLの凍結保護剤を含み、pH1~6の混合物を得る工程、
c)工程bで得られた混合物を凍結乾燥して、凍結乾燥組成物を得る工程、
d)凍結乾燥組成物を、当該核酸を含み、任意にアルコール0~25v/v%を含む水溶液と混合し、任意に混合物を0~95℃で0~60分間インキュベートして、核酸内封脂質ナノ粒子を得る工程、
e)透析、限外ろ過または希釈によって、得られた核酸内封脂質ナノ粒子の外水相を中性緩衝液に交換する工程、および
f)生体外において、得られた核酸内封脂質ナノ粒子と当該細胞とを接触させる工程。
【0044】
[26] 工程aにおいて、脂質ナノ粒子の懸濁液の調製後に透析、限外ろ過または希釈によって、外水相をpH1~6に緩衝作用を有する別の酸性緩衝液に交換する工程をさらに含む[25]に記載の方法。
【0045】
[27] 以下の工程を含む、核酸を標的細胞内へ導入する方法:
a)イオン性脂質、ステロールおよびPEG脂質を含むアルコール溶液とpH1~6に緩衝作用を有する酸性緩衝液を混合し、核酸を含まない脂質ナノ粒子の懸濁液を調製する工程、
b)核酸を含まない脂質ナノ粒子の懸濁液と凍結保護剤を混合して、80~800mg/mLの凍結保護剤を含み、pH1~6の混合物を得る工程、
c)工程bで得られた混合物を凍結乾燥して、凍結乾燥組成物を得る工程、
d)凍結乾燥組成物を、当該核酸を含み、任意にアルコール0~25v/v%を含む水溶液と混合し、任意に混合物を0~95℃で0~60分間インキュベートして、核酸内封脂質ナノ粒子を得る工程、
e)透析、限外ろ過または希釈によって、得られた核酸内封脂質ナノ粒子の外水相を中性緩衝液に交換する工程、および
f)得られた核酸内封脂質ナノ粒子を、当該標的細胞に送達されるように、生体へ投与する工程。
【0046】
[28] 工程aにおいて、脂質ナノ粒子の懸濁液の調製後に透析、限外ろ過または希釈によって、外水相をpH1~6に緩衝作用を有する別の酸性緩衝液に交換する工程をさらに含む[27]に記載の方法。
【発明の効果】
【0047】
本発明は核酸を含まない脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物およびこれを用いた脂質ナノ粒子の調製方法に関する。
本発明の凍結乾燥組成物は核酸を含む水溶液で再水和することで任意の核酸を高効率且つ簡便に内封した脂質ナノ粒子を調製できる。
本発明の脂質ナノ粒子の調製方法は本発明の凍結乾燥組成物に任意の核酸水溶液とさらにアルコールを加えてインキュベーションすることで核酸の内封率をさらに高めることができる。
本発明の方法により調製した脂質ナノ粒子を用いて遺伝子導入を行うと、均一に細胞に遺伝子導入することができる。さらに本発明の方法により調製した脂質ナノ粒子は粒子径が50~200nmで且つ粒子径分布が狭いため生体内での遺伝子導入に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】スクロース濃度による細胞への遺伝子導入の均一性への影響を評価した図である。
【
図2】スクロース濃度による細胞への遺伝子導入の発現強度への影響を評価した図である。
【
図3】リン脂質としてDOPCを用いた際の脂質組成による細胞への遺伝子導入効率の影響を評価した図である。
【
図4】リン脂質としてPOPCを用いた際の脂質組成による細胞への遺伝子導入効率の影響を評価した図である。
【
図5】リン脂質としてDOPEを用いた際の脂質組成による細胞への遺伝子導入効率の影響を評価した図である。
【
図6】リン脂質としてPOPEを用いた際の脂質組成による細胞への遺伝子導入効率の影響を評価した図である。
【
図7】マウスin vivoでのmRNA発現効率を評価した図である。
【
図8】マウスin vivoでのCTL活性を評価した図である。
【
図9】細胞への遺伝子導入効率において従来の方法で調製した粒子と本発明の粒子を比較した図である。
【
図10】マウスin vivoでのmRNA発現効率において従来の方法で調製した粒子と本発明の粒子を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
本発明は、核酸を含まず、イオン性脂質、ステロール、PEG脂質、pH1~6に緩衝作用を有する酸性緩衝液成分および凍結保護剤を含む脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物であって、
凍結保護剤と総脂質の重量比が10:1~1000:1である、凍結乾燥組成物に関する。
【0051】
脂質ナノ粒子とは、両親媒性脂質の親水基が界面の水相側に向かって配列した膜構造を有する粒子を意味する。「両親媒性脂質」とは、親水性を示す親水性基、および疎水性を示す疎水性基の両方を有する脂質のことを意味する。両親媒性脂質としては、例えば、イオン性脂質、リン脂質、PEG脂質等を挙げることができる。
本発明の脂質ナノ粒子は、膜の構成物質としてイオン性脂質、ステロールおよびPEG脂質を含有し、さらにリン脂質を含有してもよい。脂質ナノ粒子の粒子径は、特に制限は無いが、好ましくは10nm~500nmであり、より好ましくは30nm~300nmである。粒子径の測定は、例えばZetasizer Nano(Malvern社)などの粒度分布測定装置を用いて行うことができる。脂質ナノ粒子の粒子径は、脂質ナノ粒子の調製方法により、適宜調整することができる。本発明おいて、粒子径とは、動的光散乱法により測定した平均粒子径(個数平均)を意味する。
本発明において、「総脂質」は脂質の総量を意味する。脂質としては、イオン性脂質、ステロール、PEG脂質、リン脂質が挙げられる。
本発明において、「核酸を含まず」または「核酸を含まない」とは、実質的に核酸を含まないことを意味し、核酸の含有量が検出限界以下であることを意味する。
本発明において、「核酸内封脂質ナノ粒子」とは、脂質ナノ粒子の内部に核酸が封入された脂質ナノ粒子を意味する。
【0052】
本発明の凍結乾燥組成物はイオン性脂質、ステロール、PEG脂質またはさらにリン脂質を水溶性有機溶媒に溶解させ、酸性緩衝液と混合して組織化を誘導することで得られる脂質ナノ粒子にさらに凍結保護剤を加えて凍結乾燥することで得られる。水溶性有機溶媒としては、例えば、tert-ブタノール、エタノール等のアルコールを挙げることができる。
【0053】
イオン性脂質
本発明に利用できるイオン性脂質としては、三級アミノ基と疎水基から構成されており、脂質ナノ粒子を構成可能なものであればよい。
イオン性脂質の具体例としては、1,2-dioleoyloxy-3-dimethylaminopropane(DODAP)、1,2-dioleyloxy-3-dimethylaminopropane(DODMA)、1,2-dilinoleyloxy-3-dimethylaminopropane(DLinDMA)、2,2-dilinoleyl-4-(2-dimethylaminoethyl)-[1,3]-dioxolane(DLin-KC2-DMA)、heptatriaconta-6,9,28,31-tetraen-19-yl-4-(dimethylamino)butanoate(DLin-MC3-DMAまたはMC3という)、下記式(1)または式(2)の化合物が挙げられ、好ましくは下記式(1)、式(2)の化合物、DODMA、MC3であり、最も好ましくは下記式(1)の化合物である。
式(1)
【0054】
【0055】
(式(1)中、
R1a及びR1bはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキレン基を表し、
Xa及びXbはそれぞれ独立して、炭素数が1~6であり、かつ3級アミノ基の数が1の非環状のアルキル3級アミノ基、又は炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1~2の環状のアルキレン3級アミノ基を表し、
R2a及びR2bはそれぞれ独立して、炭素数8以下のアルキレン基又はオキシジアルキレン基を表し、
Ya及びYbはそれぞれ独立して、エステル結合、アミド結合、カーバメート結合、エーテル結合又はウレア結合を表し、
Za及びZbはそれぞれ独立して、炭素数が3~16であり、少なくとも1つの芳香環を有し、かつヘテロ原子を有していてもよい芳香族化合物から誘導される2価の基を表し、
R3a及びR3bはそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミンとコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は水酸基を有するステロール誘導体とコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表す。)で示される化合物。
【0056】
R1a及びR1bはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキレン基を表し、直鎖状であっても良く、分岐を有していても良いが、好ましくは直鎖状である。該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~2である。炭素数1~6のアルキレン基としては、具体的にはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピレン基、テトラメチレン基、イソブチレン基、ペンタメチレン基、ネオペンチレン基等を挙げることができる。R1a及びR1bは、好ましくはそれぞれ独立して、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピレン基又はテトラメチレン基であり、最も好ましくはそれぞれエチレン基である。
【0057】
R1aはR1bと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、R1aはR1bと同一の基である。
【0058】
Xa及びXbはそれぞれ独立して、炭素数が1~6であり、かつ3級アミノ基の数が1の非環状のアルキル3級アミノ基、又は炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1~2の環状のアルキレン3級アミノ基を表し、好ましくはそれぞれ独立して、炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1~2の環状のアルキレン3級アミノ基である。
【0059】
炭素数が1~6であり、かつ3級アミノ基の数が1の非環状のアルキル3級アミノ基中の炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であっても環状であっても良い。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~3である。炭素数1~6のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、2-メチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができ、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0060】
炭素数が1~6であり、かつ3級アミノ基の数が1の非環状のアルキル3級アミノ基の好ましい具体的な構造は、X1で示される。
【0061】
【0062】
X1のR5は炭素数1~6のアルキル基を表し、直鎖状であっても分岐状であっても環状であっても良い。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~3である。炭素数1~6のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、2-メチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができ、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0063】
炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1~2の環状のアルキレン3級アミノ基中の炭素数は、好ましくは4~5である。炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1~2の環状のアルキレン3級アミノ基としては、具体的にはアジリジレン基、アゼチジレン基、ピロリジレン基、ピペリジレン基、イミダゾリジレン基、ピペラジレン基であり、好ましくはピロリジレン基、ピペリジレン基、ピペラジレン基であり、最も好ましくはピペリジレン基である。
【0064】
炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1の環状のアルキレン3級アミノ基の好ましい具体的な構造はX2で示される。
【0065】
【0066】
X2のpは1又は2である。pが1のときX2はピロリジレン基であり、pが2のときX2はピペリジレン基である。好ましくはpは2である。
【0067】
炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が2の環状のアルキレン3級アミノ基の好ましい具体的な構造はX3で示される。
【0068】
【0069】
X3のwは1又は2である。wが1のときX3はイミダゾリジレン基であり、wが2のときX3はピペラジレン基である。
【0070】
XaはXbと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、XaはXbと同一の基である。
【0071】
R2a及びR2bはそれぞれ独立して、炭素数8以下のアルキレン基又はオキシジアルキレン基を表し、好ましくはそれぞれ独立して、炭素数8以下のアルキレン基である。
【0072】
炭素数8以下のアルキレン基は、直鎖状であっても、分岐を有していても良いが、好ましくは直鎖状である。当該アルキレン基に含まれる炭素数は、好ましくは6以下であり、最も好ましくは4以下である。炭素数8以下のアルキレン基としては、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、テトラメチレン基、イソブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基等を挙げることができ、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基であり、最も好ましくはエチレン基である。
【0073】
炭素数8以下のオキシジアルキレン基とは、エーテル結合を介したアルキレン基(アルキレン-O-アルキレン)を示し、2つ存在するアルキレン基の炭素数の合計が8以下のものである。ここで、2つ存在するアルキレンは同一でも異なっていてもよいが、好ましくは同一である。炭素数8以下のオキシジアルキレン基としては、具体的にはオキシジメチレン基、オキシジエチレン基、オキシジプロピレン基、オキシジブチレン基等を挙げることができる。好ましくは、オキシジメチレン基、オキシジエチレン基、オキシジプロピレン基であり、最も好ましくはオキシジエチレン基である。
【0074】
R2aはR2bと同一であっても異なっていても良いが、好ましくは、R2aはR2bと同一の基である。
【0075】
Ya及びYbはそれぞれ独立して、エステル結合、アミド結合、カーバメート結合、エーテル結合又はウレア結合であり、好ましくはそれぞれ独立して、エステル結合、アミド結合又はカーバメート結合であり、より好ましくはそれぞれ独立して、エステル結合又はアミド結合であり、最も好ましくはそれぞれエステル結合である。Ya及びYbの結合の向きは制限されないが、YaおよびYbがエステル結合の場合、好ましくは、-Za-CO-O-R2a-および-Zb-CO-O-R2b-の構造を呈する。
【0076】
YaはYbと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、YaはYbと同一の基である。
【0077】
Za及びZbはそれぞれ独立して、炭素数が3~16であり、少なくとも1つの芳香環を有し、かつヘテロ原子を有していてもよい芳香族化合物から誘導される2価の基を表す。当該芳香族化合物に含まれる炭素数は好ましくは6~12であり、最も好ましくは6~7である。また、当該芳香族化合物に含まれる芳香環は、好ましくは1つである。
【0078】
炭素数3~16の芳香族化合物に含まれる芳香環の種類として、芳香族炭化水素環については、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、芳香族ヘテロ環についてはイミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、トリアジン環、ピロール環、フランチオフェン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピリジン環、プリン環、プテリジン環、ベンズイミダゾール環、インドール環、ベンゾフラン環、キナゾリン環、フタラジン環、キノリン環、イソキノリン環、クマリン環、クロモン環、ベンゾジアゼピン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、アクリジン環等を挙げることができ、好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環であり、最も好ましくは、ベンゼン環である。
芳香環は置換基を有してもよく、その置換基としては、炭素数2~4のアシル基、炭素数2~4のアルコキシカルボニル基、炭素数2~4のカルバモイル基、炭素数2~4のアシルオキシ基、炭素数2~4のアシルアミノ基、炭素数2~4のアルコキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~4のアルキルスルファニル基、炭素数1~4のアルキルスルホニル基、炭素数6~10のアリールスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、シアノ基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のウレイド基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素6~10のアリール基、炭素数6~10のアリールオキシ基等を挙げることができ、好ましい例としてはアセチル基、メトキシカルボニル基、メチルカルバモイル基、アセトキシ基、アセトアミド基、メトキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチルスルファニル基、フェニルスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、シアノ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、ウレイド基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基、フェニル基およびフェノキシ基等が挙げられる。
【0079】
Za及びZbの好ましい具体的な構造としては、Z1が挙げられる。
【0080】
【0081】
式中、sは0~3の整数を表し、tは0~3の整数を表し、uは0~4の整数を表し、u個のR4はそれぞれ独立して置換基を表す。
【0082】
Z1のsは、好ましくは0~1の整数であり、より好ましくは0である。
【0083】
Z1のtは、好ましくは0~2の整数であり、より好ましくは1である。
【0084】
Z1のuは、好ましくは0~2の整数であり、より好ましくは0~1の整数である。
【0085】
Z1のR4は、当該カチオン性脂質の合成過程における反応を阻害しない、炭素数3~16の芳香族化合物に含まれる芳香環(ベンゼン環)の置換基である。該置換基としては、炭素数2~4のアシル基、炭素数2~4のアルコキシカルボニル基、炭素数2~4のカルバモイル基、炭素数2~4のアシルオキシ基、炭素数2~4のアシルアミノ基、炭素数2~4のアルコキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~4のアルキルスルファニル基、炭素数1~4のアルキルスルホニル基、炭素数6~10のアリールスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、シアノ基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のウレイド基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素6~10のアリール基、炭素数6~10のアリールオキシ基等を挙げることができ、好ましい例としてはアセチル基、メトキシカルボニル基、メチルカルバモイル基、アセトキシ基、アセトアミド基、メトキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチルスルファニル基、フェニルスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、シアノ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、ウレイド基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基、フェニル基およびフェノキシ基等が挙げられる。R4が複数個存在する場合、各R4は同一であっても異なっていてもよい。
【0086】
ZaはZbと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、ZaはZbと同一の基である。
【0087】
R3a及びR3bはそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミンとコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は水酸基を有するステロール誘導体とコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表し、好ましくはそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミンとコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基であり、最も好ましくはそれぞれ独立して、炭素数12~22の脂肪族炭化水素基である。
【0088】
水酸基を有する脂溶性ビタミンとしては、例えばレチノール、エルゴステロール、7-デヒドロコレステロール、カルシフェロール、コルカルシフェロール、ジヒドロエルゴカルシフェロール、ジヒドロタキステロール、トコフェロール、トコトリエノール等を挙げることができる。水酸基を有する脂溶性ビタミンは、好ましくはトコフェロールである。
【0089】
水酸基を有するステロール誘導体としては、例えばコレステロール、コレスタノール、スチグマステロール、β-シトステロール、ラノステロール、及びエルゴステロール等が挙げられ、好ましくはコレステロール、又はコレスタノールである。
【0090】
炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐を有していても良い。当該脂肪族炭化水素基は、飽和であっても不飽和であっても良い。不飽和脂肪族炭化水素基の場合、当該脂肪族炭化水素基に含まれる不飽和結合の数は通常1~6個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。不飽和結合には炭素-炭素二重結合及び炭素-炭素三重結合が含まれるが、好ましくは炭素-炭素二重結合である。当該脂肪族炭化水素基に含まれる炭素数は、好ましくは13~19であり、最も好ましくは13~17である。脂肪族炭化水素基には、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が含まれるが、好ましくはアルキル基又はアルケニル基が含まれる。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、ドデカジエニル基、トリデカジエニル基、テトラデカジエニル基、ペンタデカジエニル基、ヘキサデカジエニル基、ヘプタデカジエニル基、オクタデカジエニル基、ノナデカジエニル基、イコサジエニル基、ヘンイコサジエニル基、ドコサジエニル基、オクタデカトリエニル基、イコサトリエニル基、イコサテトラエニル基、イコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基、イソステアリル基、1-ヘキシルヘプチル基、1-ヘキシルノニル基、1-オクチルノニル基、1-オクチルウンデシル基、1-デシルウンデシル基等を挙げることができる。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は、好ましくはトリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、ノナデシル基、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基、1-ヘキシルノニル基であり、特に好ましくはトリデシル基、ヘプタデシル基、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基である。
【0091】
本発明の一態様において、R3a及びR3bで表される炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は脂肪酸由来である。この場合、脂肪酸由来のカルボニル炭素は式(1)中の-CO-O-に含まれる。脂肪族炭化水素基の具体例としては、脂肪酸としてリノール酸を用いた場合ではヘプタデカジエニル基となり、脂肪酸としてオレイン酸を用いた場合ではヘプタデセニル基となる。
【0092】
R3aはR3bと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、R3aはR3bと同一の基である。
【0093】
本発明の一態様において、R1aはR1bと同一であり、XaはXbと同一であり、R2aはR2bと同一であり、YaはYbと同一であり、ZaはZbと同一であり、R3aはR3bと同一である。
【0094】
式(1)で示されるカチオン性脂質の好適な例としては、以下のカチオン性脂質が挙げられる。
[カチオン性脂質(1-1)]
R1a及びR1bがそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキレン基(例、メチレン基、エチレン基)であり;
Xa及びXbがそれぞれ独立して、炭素数が1~6であり、かつ3級アミノ基の数が1の非環状のアルキル3級アミノ基(例、-N(CH3)-)、又は炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1~2の環状のアルキレン3級アミノ基(例、ピペリジレン基)であり;
R2a及びR2bがそれぞれ独立して、炭素数8以下のアルキレン基(例、メチレン基、エチレン基、プロピレン基)であり;
Ya及びYbがそれぞれ独立してエステル結合又はアミド結合であり;
Za及びZbがそれぞれ独立して、炭素数が3~16であり、少なくとも1つの芳香環を有し、かつヘテロ原子を有していてもよい芳香族化合物から誘導される2価の基(例、-C6H4-CH2-、-CH2-C6H4-CH2-)であり;
R3a及びR3bがそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミン(例、トコフェロール)とコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基(例、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基、1-ヘキシルノニル基)である;
カチオン性脂質(1)。
【0095】
[カチオン性脂質(1-2)]
R1a及びR1bがそれぞれ独立して、炭素数1~4のアルキレン基(例、メチレン基、エチレン基)であり;
Xa及びXbがそれぞれ独立して、炭素数が1~3であり、かつ3級アミノ基の数が1の非環状のアルキル3級アミノ基(例、-N(CH3)-)、又は炭素数が2~5であり、かつ3級アミノ基の数が1の環状のアルキレン3級アミノ基(例、ピペリジレン基)であり;
R2a及びR2bがそれぞれ独立して、炭素数6以下のアルキレン基(例、メチレン基、エチレン基、プロピレン基)であり;
Ya及びYbがそれぞれ独立してエステル結合又はアミド結合であり;
Za及びZbがそれぞれ独立して、炭素数が6~12であり、1つの芳香環を有し、かつヘテロ原子を有していてもよい芳香族化合物から誘導される2価の基(例、-C6H4-CH2-、-CH2-C6H4-CH2-)であり;
R3a及びR3bがそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミン(例、トコフェロール)とコハク酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数13~19の脂肪族炭化水素基(例、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基、1-ヘキシルノニル基)である;
カチオン性脂質(1)。
【0096】
[カチオン性脂質(1-3)]
R1a及びR1bがそれぞれ独立して、炭素数1~2のアルキレン基(例、メチレン基、エチレン基)であり;
Xa及びXbがそれぞれ独立して、X1:
【0097】
【0098】
(式中、R5は炭素数1~3のアルキル基(例、メチル基)である。)、又はX2:
【0099】
【0100】
(式中、pは1又は2である。)
であり;
R2a及びR2bがそれぞれ独立して、炭素数4以下のアルキレン基(例、メチレン基、エチレン基、プロピレン基)であり;
Ya及びYbがそれぞれ独立してエステル結合又はアミド結合であり;
Za及びZbがそれぞれ独立して、Z1:
【0101】
【0102】
(式中、sは0~1の整数であり、tは0~2の整数であり、uは0~2の整数(好ましくは0)であり、u個のR4は、それぞれ独立して置換基を表す。)
であり;
R3a及びR3bがそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミン(例、トコフェロール)とコハク酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数13~17の脂肪族炭化水素基(例、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基、1-ヘキシルノニル基)である;
カチオン性脂質(1)。
【0103】
式(1)で示されるカチオン性脂質の具体例として、以下のO-Ph-P3C1、O-Ph-P4C1、O-Ph-P4C2、O-Bn-P4C2、E-Ph-P4C2、L-Ph-P4C2、HD-Ph-P4C2、O-Ph-amide-P4C2、O-Ph-C3Mを挙げることができる。
【0104】
【0105】
【0106】
式(2)
【0107】
【0108】
式(2)中、Xa及びXbは独立して、以下に示すX1又はX2であり、好ましくはX1である。
【0109】
【0110】
X1中のR4は炭素数1~6のアルキル基を表し、直鎖状あっても分岐状であっても環状であっても良い。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~3である。炭素数1~6のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、2-メチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。R4は好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0111】
X2中のsは1又は2である。sが1のときX2は好ましくはピロリジレン基であり、sが2のときX2は好ましくはピペリジレン基である。好ましくはsが2である。
【0112】
XaはXbと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、XaはXbと同一の基である。
【0113】
na及びnbは独立して、0又は1であり、好ましくは1である。naが1の場合、R3aはYa及びR2aを介してXaと結合し、naが0の場合にはR3a-Xa―R1a―S-の構造を呈する。同様に、nbが1の場合、R3bはYb及びR2bを介してXbと結合し、nbが0の場合にはR3b-Xb―R1b―S-の構造を呈する。
【0114】
naはnbと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、naはnbと同一である。
【0115】
R1a及びR1bは独立して、炭素数1~6のアルキレン基を表し、直鎖状であっても良く、分岐を有していても良いが、好ましくは直鎖状である。炭素数1~6のアルキレン基としては、具体的にはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピレン基、テトラメチレン基、イソブチレン基、ペンタメチレン基、ネオペンチレン基等を挙げることができる。R1a及びR1bは、好ましくはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピレン基又はテトラメチレン基であり、最も好ましくはエチレン基である。
【0116】
R1aはR1bと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、R1aはR1bと同一の基である。
【0117】
R2a及びR2bは独立して、炭素数1~6のアルキレン基を表し、直鎖状であっても良く、分岐を有していても良いが、好ましくは直鎖状である。炭素数1~6のアルキレン基としては、R1a及びR1bの炭素数1~6のアルキレン基の例として列挙したものを挙げることができる。R2a及びR2bは、好ましくはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピレン基又はテトラメチレン基であり、最も好ましくはトリメチレン基である。
【0118】
R2aはR2bと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、R2aはR2bと同一の基である。
【0119】
Ya及びYbは独立して、エステル結合、アミド結合、カーバメート結合、エーテル結合、尿素結合であり、好ましくはエステル結合、アミド結合、カーバメート結合であり、最も好ましくはエステル結合である。Ya及びYbの結合の向きは制限されないが、Yaがエステル結合の場合、好ましくは、R3a-CO-O-R2a-の構造を呈し、Ybがエステル結合の場合、好ましくは、R3b-CO-O-R2b-の構造を呈する。
【0120】
YaはYbと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、YaはYbと同一の基である。
【0121】
R3a及びR3bはそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミンとコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は水酸基を有するステロール誘導体とコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を表し、好ましくはそれぞれ独立して、水酸基を有する脂溶性ビタミンとコハク酸無水物又はグルタル酸無水物との反応物由来の残基、又は炭素数12~22の脂肪族炭化水素基であり、最も好ましくはそれぞれ独立して、炭素数12~22の脂肪族炭化水素基である。
【0122】
水酸基を有する脂溶性ビタミンとしては、例えばレチノール、エルゴステロール、7-デヒドロコレステロール、カルシフェロール、コルカルシフェロール、ジヒドロエルゴカルシフェロール、ジヒドロタキステロール、トコフェロール、トコトリエノール等を挙げることができる。水酸基を有する脂溶性ビタミンは、好ましくはトコフェロールである。
【0123】
水酸基を有するステロール誘導体としては、例えばコレステロール、コレスタノール、スチグマステロール、β-シトステロール、ラノステロール、及びエルゴステロール等が挙げられ、好ましくはコレステロール、又はコレスタノールである。
【0124】
炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐を有していても良い。当該脂肪族炭化水素基は、飽和であっても不飽和であっても良い。不飽和脂肪族炭化水素基の場合、当該脂肪族炭化水素基に含まれる不飽和結合の数は通常1~6個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。不飽和結合には炭素-炭素二重結合及び炭素-炭素三重結合が含まれるが、好ましくは炭素-炭素二重結合である。当該脂肪族炭化水素基に含まれる炭素数は、好ましくは13~19であり、最も好ましくは13~17である。脂肪族炭化水素基には、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が含まれるが、好ましくはアルキル基又はアルケニル基が含まれる。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、ドデカジエニル基、トリデカジエニル基、テトラデカジエニル基、ペンタデカジエニル基、ヘキサデカジエニル基、ヘプタデカジエニル基、オクタデカジエニル基、ノナデカジエニル基、イコサジエニル基、ヘンイコサジエニル基、ドコサジエニル基、オクタデカトリエニル基、イコサトリエニル基、イコサテトラエニル基、イコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基、イソステアリル基、1-ヘキシルヘプチル基、1-ヘキシルノニル基、1-オクチルノニル基、1-オクチルウンデシル基、1-デシルウンデシル基等を挙げることができる。炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は、好ましくはトリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、ノナデシル基、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基、1-ヘキシルノニル基であり、特に好ましくはトリデシル基、ヘプタデシル基、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基である。
【0125】
本発明の一態様において、R3a及びR3bで表される炭素数12~22の脂肪族炭化水素基は脂肪酸由来である。この場合、脂肪酸由来のカルボニル炭素は式(1)中の-CO-O-に含まれる。脂肪族炭化水素基の具体例としては、脂肪酸としてリノール酸を用いた場合ではヘプタデカジエニル基となり、脂肪酸としてオレイン酸を用いた場合ではヘプタデセニル基となる。
【0126】
R3aはR3bと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、R3aはR3bと同一の基である。
【0127】
本発明の一態様において、R1aはR1bと同一であり、XaはXbと同一であり、R2aはR2bと同一であり、YaはYbと同一であり、R3aはR3bと同一である。
【0128】
式(2)で示されるカチオン性脂質の具体例として、以下のB-2、B-2-5、TS-P4C2、L-P4C2、O-P4C2を挙げることができる。
【0129】
【0130】
次に式(1)で示されるカチオン性脂質(以下、カチオン性脂質(1)ともいう)の製造方法について説明する。
【0131】
カチオン性脂質(1)は、-S-S-(ジスルフィド)結合を有している。そのため、製造方法としては、R3a-CO-O-Za-Ya-R2a-Xa-R1a-を有するSH(チオール)化合物、及びR3b-CO-O-Zb-Yb-R2b-Xb-R1b-を有するSH(チオール)化合物を製造後、これらを酸化(カップリング)することで-S-S-結合を含むカチオン性脂質(1)を得る方法、-S-S-結合を含む化合物に、必要な部分を順次合成していき、最終的にカチオン性脂質(1)を得る方法等が挙げられる。好ましくは、後者の方法である。
【0132】
後者の方法の具体例を以下に挙げるが、製造方法はこれらに限定されない。
【0133】
出発化合物としては、-S-S-結合を含む両末端カルボン酸、両末端アミン、両末端イソシアネート、両末端アルコール、メタンスルホニル基などの脱離基を有する両末端アルコール、p-ニトロフェニルカーボネート基などの脱離基を有する両末端カーボネートなどが挙げられる。
【0134】
例えば、R1aおよびR1bが同一でR1であり、XaおよびXbが同一でXであり、R2aおよびR2bが同一でR2であり、YaおよびYbが同一でYであり、Za及びZbが同一でZであり、かつR3aおよびR3bが同一でR3であるカチオン性脂質(1)を製造する場合、以下に示す合成経路にて目的とする式(1’)のカチオン性脂質物を得ることができる。
【0135】
【0136】
-S-S-結合を含む化合物(I)中の両末端官能基(FG1)を、二級アミンと末端に1つの官能基(FG2)を有する化合物(II)中の二級アミンに反応させて化合物(III)を合成する。R3を有する化合物(IV)と、水酸基と反応性官能基(FG3)を有するZを含む化合物(V)中の水酸基とを反応させて化合物(VI)を合成し、最後に化合物(VI)の反応性官能基(FG3)と化合物(III)の反応性官能基(FG2)とを反応させることにより、-S-S-結合、R1、X、R2、Y、ZおよびR3を含む式(1’)のカチオン性脂質を得ることができる。
【0137】
上述の製造方法のうち、化合物(III)は、US2014/0335157A1又は国際公開第2016/121942号に記載された方法により製造することが出来る。
【0138】
化合物(IV)と化合物(V)の反応には、触媒として炭酸カリウムや炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン(以下、「DMAP」と称する)などの塩基触媒を使用しても良く、p-トルエンスルホン酸やメタンスルホン酸などの酸触媒存在下、または無触媒で行ってもよい。
【0139】
また、ジシクロヘキシルカルボジイミド(以下、「DCC」と称する)、ジイソプロピルカルボジイミド(以下、「DIC」と称する)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下、「EDC」と称する)などの縮合剤を使用して、化合物(IV)と化合物(V)を直接反応させてもよく、または、化合物(IV)を、縮合剤を使用して無水物などに変換した後、化合物(V)と反応させてもよい。
【0140】
化合物(IV)の仕込み量は、化合物(V)に対して、通常1~50mol当量であり、好ましくは1~10mol当量である。
【0141】
化合物(IV)と化合物(V)との反応に使用される触媒は、反応させる化合物種によって、適宜選択してよい。
【0142】
触媒量は、化合物(V)に対して、通常0.05~100mol当量であり、好ましくは、0.1~20mol当量であり、より好ましくは0.1~5mol当量である。
【0143】
化合物(IV)と化合物(V)の反応に使用する溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であればよく、特に制限なく使用することができる。例えば水、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、トルエンなどが挙げられる。これらの中ではクロロホルム、トルエンが好ましい。
【0144】
反応温度は、通常0~150℃であり、好ましくは0~80℃であり、より好ましくは10~50℃である。反応時間は、通常1~48時間であり、好ましくは1~24時間である。
【0145】
上記反応によって得られた反応物(VI)は、抽出精製、再結晶、吸着精製、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどの一般的な精製法によって、適宜精製することができる。
【0146】
化合物(III)と化合物(VI)とを反応させる場合には、化合物(IV)と化合物(V)の反応のように、触媒として炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジンなどの塩基触媒を使用しても良く、p-トルエンスルホン酸やメタンスルホン酸などの酸触媒存在下、または無触媒で行ってもよい。
【0147】
また、DCC、DIC、EDCなどの縮合剤を使用して、化合物(III)と化合物(VI)とを直接反応させてもよく、または、化合物(VI)を、縮合剤を使用して無水物などに変換した後、化合物(III)と反応させてもよい。
【0148】
化合物(VI)の仕込み量は、化合物(III)に対して、通常1~50mol当量であり、好ましくは1~10mol当量である。
【0149】
化合物(III)と化合物(VI)との反応に使用される触媒は、反応させる化合物種によって、適宜選択してよい。
【0150】
触媒量は、化合物(III)に対して、通常0.05~100mol当量であり、好ましくは、0.1~20mol当量であり、より好ましくは0.1~5mol当量である。
【0151】
化合物(III)と化合物(VI)の反応に使用する溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であればよく、特に制限なく使用することができる。例えば水、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、トルエンなどが挙げられる。これらの中ではクロロホルム、トルエンが好ましい。
【0152】
反応温度は、通常0~150℃であり、好ましくは0~80℃であり、より好ましくは10~50℃である。反応時間は、通常1~48時間であり、好ましくは1~24時間である。
【0153】
上記反応によって得られたカチオン性脂質(1)は、抽出精製、再結晶、吸着精製、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどの一般的な精製法によって、適宜精製することができる。
【0154】
式(2)で示されるカチオン性脂質(以下、カチオン性脂質(2)ともいう)は、US2014/0335157A1に記載された方法により製造することが出来る。
【0155】
リン脂質
リン脂質は脂質ナノ粒子の脂質膜構成成分として用いることができる。
リン脂質の例としては、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PC)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン(PE)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルセリン(PS)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルグリセロール(PG)、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(PA)、またはこれらのリゾ体があり、
具体的には、
1,2-ジデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DDPC)、
1,2-ジライウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、
1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、
1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLoPC)、
1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DEPC)、
1-ミリストイル-2-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(MPPC)、
1-ミリストイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(MSPC)、
1-パルミトイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PMPC)、
1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PSPC)、
1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、
1-ステアロイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SOPC)があり、これらのPCを適宜PE,PS,PG,PAに変換したものを用いることができる。
【0156】
本発明に用いるリン脂質として好ましくは、PCまたはPEであり、さらに好ましくはDOPC,POPC,DOPE(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン),POPE(1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)である。
【0157】
ステロール
ステロールは脂質ナノ粒子の脂質膜の流動性を調節する成分として用いることができる。ステロールの例としては、コレステロール、ラノステロール、フィトステロール、ジモステロール、ジモステノール、デスモステロール、スティグマスタノール、ジヒドロラノステロール、および7-デヒドロコレステロールがあり、好ましくはコレステロール、ラノステロール、フィトステロールであり、さらに好ましくはコレステロールである。
【0158】
PEG脂質
PEG脂質は、脂質ナノ粒子の表面を親水性ポリエチレングリコール(PEG)で被覆し、粒子同士の凝集を抑制することによる安定化剤や、生体に投与した際に生体成分と粒子の相互作用を抑制するために用いられる。
PEG領域は任意の分子量のものであり得る。いくつかの態様において、PEG領域は、200~10,000Daの分子量を有し、直鎖であっても分岐であってもよい。
【0159】
PEG脂質の例としてはPEG-リン脂質およびPEG-セラミド、PEG-ジアシルグリセロール、PEG-コレステロールがあり、好ましくはPEGの分子量が1,000~10,000のジアシルグリセロールPEGであり、さらに好ましくは、PEGの分子量が1,000~10,000のジミリストイルグリセロールPEGまたはジステアロイルグリセロールPEGである。
【0160】
酸性緩衝液および酸性緩衝液成分
酸性領域に緩衝作用がある緩衝液または緩衝液成分を用いることができる。「酸性緩衝液成分」とは、酸性緩衝液から水を実質的に除いた成分を意味する。酸性緩衝液成分に含まれる水のレベルは、約5w/v%未満、または4%w/v未満、または3w/v%未満、または2w/v%未満、または1%w/v未満であり得る。具体的にはHCl/KCl緩衝液、p-トルエンスルホン酸/同Na塩緩衝液、酒石酸/NaOH緩衝液、クエン酸/NaOH緩衝液、フタル酸HK/HCl緩衝液、グリシン/HCl緩衝液、trans-アコニット酸/NaOH緩衝液、ギ酸/ギ酸Na緩衝液、クエン酸/クエン酸Na緩衝液、3,3-ジメチルグルタル酸/NaOH緩衝液、3,3-ジメチルグルタル酸/NaOH/0.1M NaCl緩衝液、フェニル酢酸/同Na塩緩衝液、酢酸/酢酸Na緩衝液、コハク酸/NaOH緩衝液、フタル酸HK/NaOH緩衝液、カコジル酸Na/HCl緩衝液、マレイン酸HNa/NaOH緩衝液、マレイン酸/Tris/NaOH緩衝液、リン酸緩衝液、KH2PO4/NaOH緩衝液、イミダゾール/HCl緩衝液、s-コリジン (2,4,6-トリメチルピリジン)/HCl緩衝液、トリエタノールアミンHCl/NaOH緩衝液、5,5-ジエチルバルビツール酸Na/HCl緩衝液、N-メチルモルホリン/HCl緩衝液、ピロリン酸Na/HCl緩衝液、MES緩衝液、リンゴ酸緩衝液、ADA緩衝液、PIPES緩衝液、ACES緩衝液、HEPES、BES、ビストリス緩衝液、ビストリスプロパン緩衝液、無水炭酸ナトリウム緩衝液、グリシルグリシン緩衝液、MOPS、MOPSO、TESが挙げられる。
【0161】
好ましくはpH1~6、より好ましくはpH3~6に緩衝作用を有する酸性緩衝液または酸性緩衝液成分であり、酒石酸/NaOH緩衝液、クエン酸/NaOH緩衝液、フタル酸HK/HCl緩衝液、グリシン/HCl緩衝液、trans-アコニット酸/NaOH緩衝液、ギ酸/ギ酸Na緩衝液、クエン酸/クエン酸Na緩衝液、3,3-ジメチルグルタル酸/NaOH緩衝液、3,3-ジメチルグルタル酸/NaOH/0.1M NaCl緩衝液、フェニル酢酸/同Na塩緩衝液、酢酸/酢酸Na緩衝液、コハク酸/NaOH緩衝液、フタル酸HK/NaOH緩衝液、カコジル酸Na/HCl緩衝液、マレイン酸HNa/NaOH緩衝液、マレイン酸/Tris/NaOH緩衝液、リン酸緩衝液、KH2PO4/NaOH緩衝液、MES緩衝液、リンゴ酸緩衝液、ビストリス緩衝液、グリシルグリシン緩衝液などが挙げられ、さらに好ましくはリンゴ酸緩衝液またはMES緩衝液である。
【0162】
本発明の脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物は、当該凍結乾燥組成物100~500mgを0~30℃の注射用蒸留水1~5mLに懸濁したとき、pHが1~6であることが好ましく、pHが3~6であることがより好ましい。
【0163】
脂質ナノ粒子の調製方法
脂質ナノ粒子を調製するための「組織化を誘導する操作」としては、例えば、マイクロ流路又はボルテックスを用いたアルコール希釈法、単純水和法、超音波処理、加熱、ボルテックス、エーテル注入法、フレンチ・プレス法、コール酸法、Ca2+融合法、凍結-融解法、逆相蒸発法等の自体公知の方法が挙げられ、好ましくはマイクロ流路又はボルテックスを用いたアルコール希釈法であり、さらに好ましくはマイクロ流路を用いたアルコール希釈法である。マイクロ流路を用いたアルコール希釈法での粒子調製は例えばNanoAssemblr(Precision NanoSystems社)を用いて行うことができる。調製した脂質ナノ粒子は限外ろ過、透析、希釈等の操作によって外水相の緩衝液を交換することができる。
【0164】
凍結保護剤
本発明に利用可能な凍結保護剤としては単糖、糖アルコール、二糖、オリゴ糖、多糖またはポリマーを用いることができ、具体的には、グリセルアルデヒド、エリトロース、トレオース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース、エリトルロース、リブロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、エリトリトール、グリセリン、イソマルトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、イノシトール、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチビオース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、ゲンチビオース、マンノビオース、メリビオース、メリビウロース、ネオラクトース、ガラクトスクロース、シラビオース、ネオヘスペリドース、ルチノース、ルチヌロース、ビシアノース、キシロビオース、プリメベロース、トレハロサミン、マルチトール、ラクトサミン、ラクチトール、スクラロース、ラフィノース、パノース、マルトトリオース、メレジトース、ゲンチアノース、スタキオース、シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられ、好ましくは二糖であり、さらに好ましくは還元性がない二糖であり、最も好ましくはスクロースである。
【0165】
凍結保護剤の濃度としては、凍結乾燥前の濃度として80~800mg/mLが好ましく、さらに好ましくは160~800mg/mLである。凍結保護剤の凍結乾燥後の総脂質に対する重量比として好ましくは総脂質に対して10~1000倍であり、さらに好ましくは30~1000倍である。
【0166】
凍結乾燥工程
凍結乾燥プロセスは、医薬の技術分野において知られている、ガラス容器(または例えばガラスバイアル)または二室式容器などの任意の好適な容器において行われ得る。
凍結保護剤を含有する安定化された本発明の脂質ナノ粒子組成物はガラス容器中に導入され得る。容器に加えられる組成物の体積は、0.1~20mL、または1~10mLであり得る。
任意の凍結乾燥プロセス(医薬の技術分野において知られたものを含む)が使用され得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Mack Publishing Co., Easton, Penn. (1990)を参照。
凍結乾燥プロセスは、凍結保護剤によって安定化された脂質ナノ粒子組成物を約-55℃~約-30℃の温度で凍結することを含み得る。凍結された組成物は凍結乾燥された組成物の乾燥した形態であり得る。
いくつかの態様において、凍結工程は、数分にわたって温度を室温から最終的な温度まで徐々に上げ得る。温度勾配は約1℃/分であり得る。
いくつかの態様において、乾燥工程は、約0~250mTorr、または50~150mTorrの圧力で、約-55℃~約40℃の温度で行われ得る。乾燥工程は、室温までの高温域で、数日間までの所定の期間にわたって継続され得る。固体の凍結乾燥組成物における残余の水のレベルは、約5w/v%未満、または4%w/v未満、または3w/v%未満、または2w/v%未満、または1%w/v未満であり得る。
【0167】
再水和工程
再水和工程は、本発明の凍結乾燥組成物に核酸を含む水溶液を加えて核酸内封脂質ナノ粒子を調製する工程である。核酸の量は凍結乾燥組成物に含まれる総脂質と核酸の比が例えば総脂質/核酸=1~1000nmol/μg、好ましくは総脂質/核酸=50~500nmol/μgの核酸を含む水溶液を加え、ピペッティングやボルテックスによって混合することで核酸内封脂質ナノ粒子を調製することができる。また、核酸内封率を高めるために再水和時にアルコールを添加することができ、アルコールとしてはメタノール、エタノール、n-ブタノール、t-ブタノールを用いることができ、好ましくはエタノールである。核酸を含む水溶液中のアルコールの濃度は0~50v/v%、好ましくは0~30v/v%、さらに好ましくは0~25v/v%である。また、さらに再水和工程では核酸内封効率を高めるために、凍結乾燥組成物に核酸を含む水溶液、さらにまたはアルコールを加えた後にインキュベーションすることができる。インキュベーションの条件は例えば0~100℃で0~120分間であり、好ましくは0~95℃で0~60分間である。
【0168】
外水相を中性緩衝液に交換する工程
再水和工程で得られた核酸内封脂質ナノ粒子の外水相を中性緩衝液に交換することにより、核酸導入剤として使用可能な核酸内封脂質ナノ粒子を調製することができる。
外水相を中性緩衝液に交換する方法としては、透析、限外ろ過または希釈による方法が挙げられる。
中性緩衝液としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Tris-HCl緩衝液、ADA, PIPES, PIPES sesquisodium, ACES, MOPS, BES, MOPSO, BES, MOPS, TES, HEPES, TAPSO, POPSO, HEPSOなどが挙げられる。中性緩衝液のpHは6~8である。
【0169】
本発明の脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物に核酸を内封させ、これを細胞へ接触させることにより、生体内及び/又は生体外において該核酸を該細胞内へ導入することができる。従って、本発明は、上記本発明の脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物を含む、核酸導入剤を提供するものである。
また、本発明は、本発明の脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物を用いて調製した核酸内封脂質ナノ粒子を含む核酸導入剤を提供するものである。
【0170】
本発明の核酸導入剤は、任意の核酸を細胞内へ導入することができる。核酸の種類としては、DNA、RNA、RNAのキメラ核酸、DNA/RNAのハイブリッド等を挙げることができるがこれらに限定されない。また、核酸は1~3本鎖のいずれも用いることができるが、好ましくは1本鎖又は2本鎖である。核酸は、プリン又はピリミジン塩基のN-グリコシドであるその他のタイプのヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のオリゴマー(例えば、市販のペプチド核酸(PNA)等)、又は特殊な結合を有するその他のオリゴマー(但し、該オリゴマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置を持つヌクレオチドを含有する)などであってもよい。さらに該核酸は、例えば、公知の修飾の付加された核酸、当該分野で知られた標識のある核酸、キャップの付いた核酸、メチル化された核酸、1個以上の天然ヌクレオチドを類縁物で置換した核酸、分子内ヌクレオチド修飾された核酸、非荷電結合(例えば、メチルスルホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カーバメート等)を持つ核酸、電荷を有する結合又は硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)を持つ核酸、例えば蛋白質(例えば、ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジン等)や糖(例えば、モノサッカライド等)等の側鎖基を有している核酸、インターカレント化合物(例えば、アクリジン、プソラレン等)を持つ核酸、キレート化合物(例えば、金属、放射活性を持つ金属、ホウ素、酸化性の金属等)を含有する核酸、アルキル化剤を含有する核酸、修飾された結合を持つ核酸(例えば、αアノマー型の核酸等)等であってもよい。
【0171】
本発明において使用できるDNAの種類は特に制限されず、使用の目的に応じて適宜選択することができる。例えば、プラスミドDNA、cDNA、アンチセンスDNA、染色体DNA、PAC、BAC、CpGオリゴ等が挙げられ、好ましくはプラスミドDNA、cDNA、アンチセンスDNAであり、より好ましくはプラスミドDNAである。プラスミドDNA等の環状DNAは適宜制限酵素等により消化され、線形DNAとして用いることもできる。
【0172】
本発明において使用できるRNAの種類は特に制限されず、使用の目的に応じて適宜選択することができる。例えば、siRNA、miRNA、shRNA、アンチセンスRNA、メッセンジャーRNA(mRNA)、一本鎖RNAゲノム、二本鎖RNAゲノム、RNAレプリコン、トランスファーRNA、リボゾーマルRNA等が挙げられ、好ましくは、siRNA、miRNA、shRNA、mRNA、アンチセンスRNA、RNAレプリコンである。
【0173】
本発明において用いられる核酸は、当業者が通常用いる方法により精製されていることが好ましい。
【0174】
核酸を内封した本発明の核酸導入剤は、例えば疾患の予防および/又は治療を目的として、生体内(in vivo)投与することができる。従って、本発明において用いられる核酸は、ある所定の疾患に対して予防および/又は治療活性を有するもの(予防・治療用核酸)が好ましい。そのような核酸としては、例えば、いわゆる遺伝子治療に用いられる核酸などが挙げられる。
【0175】
核酸を内封した本発明の核酸導入剤は、核酸等を特定の細胞内に選択的に送達するためのドラッグデリバリーシステムとして用いることができ、例えば、樹状細胞への抗原遺伝子導入によるDNAワクチンや腫瘍の遺伝子治療薬や、RNA干渉を利用した標的遺伝子の発現を抑制する核酸医薬品などに有用である。
【0176】
核酸を内封した脂質ナノ粒子の粒子径は、特に制限は無いが、好ましくは10nm~500nmであり、より好ましくは30nm~300nmである。粒子径の測定は、例えばZetasizer Nano(Malvern社)などの粒度分布測定装置を用いて行うことができる。脂質ナノ粒子の粒子径は、脂質ナノ粒子の調製方法により、適宜調整することができる。
【0177】
核酸を内封した脂質ナノ粒子の表面電位(ゼータ電位)は、特に制限は無いが、好ましくは-15~+15mV、さらに好ましくは-10~+10mVである。従前の遺伝子導入においては、表面電位がプラスに荷電された粒子が主に用いられてきた。これは、負電荷を有する細胞表面のヘパリン硫酸との静電的相互作用を促進し、細胞への取り込みを促進するための方法としては有用であるが、正の表面電荷は、細胞内において送達核酸との相互作用によるキャリアからの核酸の放出の抑制や、mRNAと送達核酸との相互作用によるタンパク質の合成が抑制される可能性がある。表面電荷を上記の範囲内に調整することにより、この問題を解決し得る。表面電荷の測定は、例えばZetasizer Nanoなどのゼータ電位測定装置を用いて行うことができる。脂質ナノ粒子の表面電荷は、脂質ナノ粒子の構成成分の組成により、調整することができる。
【0178】
生体外(in vitro)において核酸を内封した脂質ナノ粒子と細胞とを接触させる工程を以下において具体的に説明する。
【0179】
細胞は当該脂質ナノ粒子との接触の数日前に適当な培地に懸濁し、適切な条件で培養する。脂質ナノ粒子との接触時において、細胞は増殖期にあってもよいし、そうでなくてもよい。
【0180】
当該接触時の培養液は、血清含有培地であっても血清不含培地であってもよいが、培地中の血清濃度は30重量%以下が好ましく、20重量%以下であることがより好ましい。培地中に過剰な血清等の蛋白質が含まれていると、当該脂質ナノ粒子と細胞との接触が阻害される可能性がある。
【0181】
当該接触時の細胞密度は、特には限定されず、細胞の種類等を考慮して適宜設定することが可能であるが、通常1×104~1×107細胞/mLの範囲である。
【0182】
このように調製された細胞に、例えば、上述の核酸が内封された脂質ナノ粒子の懸濁液を添加する。該懸濁液の添加量は、特に限定されず、細胞数等を考慮して適宜設定することが可能である。細胞へ接触させる際の脂質ナノ粒子の濃度は、目的とする核酸の細胞内への導入が達成可能な限り特には限定されないが、脂質濃度として、通常1~100nmol/mL、好ましくは10~50nmol/mLであり、核酸の濃度として、通常0.01~100μg/mL、好ましくは0.1~10μg/mLである。
【0183】
上述の懸濁液を細胞に添加した後、該細胞を培養する。培養時の温度、湿度、CO2濃度等は、細胞の種類を考慮して適宜設定する。細胞が哺乳動物由来の細胞である場合は、通常、温度は約37℃、湿度は約95%、CO2濃度は約5%である。また、培養時間も用いる細胞の種類等の条件を考慮して適宜設定できるが、通常0.1~76時間の範囲であり、好ましくは0.2~24時間の範囲であり、より好ましくは0.5~12時間の範囲である。上記培養時間が短すぎると、核酸が十分細胞内へ導入されず、培養時間が長すぎると、細胞が弱ることがある。
【0184】
上述の培養により、核酸が細胞内へ導入されるが、好ましくは培地を新鮮な培地と交換するか、又は培地に新鮮な培地を添加して更に培養を続ける。細胞が哺乳動物由来の細胞である場合は、新鮮な培地は、血清又は栄養因子を含むことが好ましい。
【0185】
また、上述の通り、核酸を内封した脂質ナノ粒子を用いることで、生体外(in vitro)のみならず、生体内(in vivo)においても核酸を細胞内へ導入することが可能である。即ち、核酸を内封した脂質ナノ粒子を対象へ投与することにより、該脂質ナノ粒子が標的細胞へ到達・接触し、生体内で該脂質ナノ粒子に内封された核酸が細胞内へ導入される。該脂質ナノ粒子を投与可能な対象としては、特に限定されず、例えば、哺乳類(例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシ等)、鳥類(例えば、ニワトリ、ダチョウ等)、両生類(例えば、カエル等)、魚類(例えば、ゼブラフィッシュ、メダカ等)等の脊椎動物、昆虫(例えば、蚕、蛾、ショウジョウバエ等)等の無脊椎動物、植物等を挙げることができる。核酸を内封した脂質ナノ粒子の投与対象としては、好ましくはヒト又は他の哺乳動物である。
【0186】
標的細胞の種類は特に限定されず、核酸を内封した脂質ナノ粒子を用いることで、種々の組織(例えば、肝臓、腎臓、膵臓、肺、脾臓、心臓、血液、筋肉、骨、脳、胃、小腸、大腸、皮膚、脂肪組組織、リンパ節、腫瘍等)中の細胞へ、核酸を導入することが可能である。
【0187】
核酸および/または核酸以外の化合物が導入された脂質ナノ粒子の対象(例えば、脊椎動物、無脊椎動物など)への投与方法は、標的細胞へ該脂質ナノ粒子が到達・接触し、該脂質ナノ粒子に導入された化合物を細胞内へ導入可能な方法であれば特に限定されず、導入化合物の種類、標的細胞の種類や部位等を考慮して、自体公知の投与方法(例えば、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、局所投与、経皮投与、皮下投与、腹腔内投与、スプレー等)等)を適宜選択することができる。該脂質ナノ粒子の投与量は、化合物の細胞内への導入を達成可能な範囲であれば、特に限定されず、投与対象の種類、投与方法、導入化合物の種類、標的細胞の種類や部位等を考慮して適宜選択することができる。
【0188】
核酸を内封した脂質ナノ粒子を核酸導入剤として使用する場合は、常套手段に従って製剤化することができる。
【0189】
該核酸導入剤が研究用試薬として提供される場合、当該本発明の核酸導入剤は、核酸を内封した脂質ナノ粒子をそのままで、あるいは例えば水もしくはそれ以外の生理学的に許容し得る液(例えば、水溶性溶媒(例えば、リンゴ酸緩衝液、等)、有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール、DMSO、tert-ブタノールなど)もしくは水溶性溶媒と有機溶媒との混合液等)との無菌性溶液もしくは懸濁液を用いて提供され得る。本発明の核酸導入剤は適宜、自体公知の生理学的に許容し得る添加剤(例えば、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤等)を含むことが出来る。
【0190】
また、該核酸導入剤が医薬として提供される場合、当該本発明の核酸導入剤は、核酸を内封した脂質ナノ粒子をそのままで用いて、あるいは医薬上許容される公知の添加剤(例えば、担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤等)とともに用い、一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって、経口剤(例えば、錠剤、カプセル剤等)あるいは非経口剤(例えば注射剤、スプレー剤等)として、好ましくは非経口剤(より好ましくは、注射剤)として製造することができる。
【0191】
本発明の核酸導入剤は、成人用に加えて、小児用の製剤とすることもできる。
【実施例】
【0192】
以下に本発明の実施例について更に詳細に説明するが、本発明は当該実施例に何ら限定されない。
【0193】
本明細書において使用する略号の意味は、それぞれ以下の通りである。
Chol: コレステロール
DMG-PEG2k: 1,2-ジミリストイル-rac-グリセロール,メトキシポリエチレングリコール(PEG MW 2000)
DSPC: 1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
DOPC: 1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
POPC: 1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
DOPE: 1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン
POPE: 1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン
PBS: リン酸緩衝生理食塩水
MES: 2-モルホリノエタンスルホン酸
DPBS: ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水
【0194】
・比較例1-3の凍結乾燥組成物の調製
比較例として、下記のとおり中性の脂質ナノ粒子を作成後に凍結保護剤を添加し凍結乾燥することで凍結乾燥組成物を調製した。
表4に示す脂質組成にて、脂質のtert-ブタノール溶液とリンゴ酸buffer (pH3, 20mM)をNanoAssemblr(流速比:buffer/脂質=6/1(v/v)、総流速:1mL/min)で混合した。この溶液をMES buffer (pH5.5, 20mM)で希釈し、アミコンを用いた限外ろ過を行いながら、pH7.4のPBSへ置換した。理論値として脂質濃度として200nmol/100μLとなるようにLNPを濃縮して回収し、そこにスクロース溶液100μLを添加して混合した。この溶液をVerTis AdVantage Plus EL-85凍結乾燥機を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥は、はじめに常圧・-55℃で14時間から21時間溶液を凍結し、その後200ミリトールまで圧力を下げ、10℃ずつ温度を上昇させた。温度上昇プログラムは、-20℃までは3時間かけて温度を10℃上昇させ、-10℃以上では2時間かけて温度を10℃上昇させてその温度で1時間静置するように設定した。30℃まで温度が上昇したらその温度で3時間静置してから常圧に戻してサンプルを回収した。
【0195】
・実施例1-59の凍結乾燥組成物の調製
表5に示す脂質組成にて、脂質のtert-ブタノール溶液とリンゴ酸buffer (pH3.0, 20mM)をNanoAssemblr(流速比:buffer/脂質=6/1(v/v)、総流速:1mL/min)で混合した。このLNP溶液に等量のスクロース溶液 (スクロース終濃度が80 mg/mL, 160 mg/mL, 320 mg/mL, 433 mg/mLとなるように) を添加して混合し、脂質量が200 nmolおよび600 nmolとなるように分注した。この溶液をVerTis AdVantage Plus EL-85凍結乾燥機を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥は、はじめに常圧・-55℃で14時間から21時間溶液を凍結し、その後200ミリトールまで圧力を下げ、10℃ずつ温度を上昇させた。温度上昇プログラムは、-20℃までは3時間かけて温度を10℃上昇させ、-10℃以上では2時間かけて温度を10℃上昇させてその温度で1時間静置するように設定した。30℃まで温度が上昇したらその温度で3時間静置してから常圧に戻してサンプルを回収した。
【0196】
・実施例60-70の凍結乾燥組成物の調製
表5に示す脂質組成にて、脂質のtert-ブタノール溶液とMES buffer (pH5.0, 20mM)をNanoAssemblr(流速比:buffer/脂質=6/1(v/v)、総流速:1mL/min)で混合した。その後の操作は実施例1-59と同様に行った。
【0197】
・比較例1-3および実施例1-59の凍結乾燥組成物の再水和
表4および5に示す条件にて、凍結乾燥組成物に総脂質/mRNA(またはsiRNAまたはpDNA)=200nmol/μgとなる比率で、mRNA, siRNA, pDNAの水溶液(RNase freeを使用、12.5% or 25% EtOH含有)を加え、ピペッティングで混合した。MES buffer(pH5.5, 20mM)で希釈し、アミコンを用いた限外ろ過を行いながら、pH7.4のPBSへ置換した。理論値としてmRNA(またはsiRNAまたはpDNA)濃度として2.5 g/mLとなるようにLNPを濃縮して回収し、Ribogreen(登録商標)試薬またはPicogreen(登録商標)試薬を用いて核酸の回収率、封入率を測定した。粒子径およびゼータ電位はゼータサイザーを用いて測定した。
【0198】
・回収率、封入率の測定
(1) 核酸内封LNP溶液をDPBSで2.5倍希釈した溶液を250μL調製する(理論値1μg/mL )。
(2) 検量線用として、既知の濃度のmRNA溶液をmRNA濃度が2000ng/mL、1000ng/mL、500ng/mL、250ng/mL、125ng/mL、0ng/mLとなるようにDPBSで希釈した溶液を各250μL調製する。
(3) RiboGreen試薬またはPicoGreen試薬は、以下の表に示す条件にて調製する(1wellあたりの量)。n=2での分析用に(検量線数+サンプル数+1)×2の量を調製する。
【0199】
【0200】
(4) 黒色96wellのプレートの各wellに(1)、(2)で調製した溶液を50μLずつ入れた後、A液50μLまたはB液50μLを加える。
(5) プレートをアルミホイルで遮光し、振とう機で5分間インキュベートする(100-500rpm)。
(6) マイクロプレートリーダーで蛍光を測定する(Excitation:480nm, Emission:520nm)。
(7) 以下の計算式にて回収率、封入率を算出する。
【0201】
【0202】
・実施例60-63の凍結乾燥組成物の再水和
凍結乾燥組成物に総脂質/mRNA=200nmol/μgとなる比率で、mRNAの水溶液(RNase free)を加え、ピペッティングで混合したのち、95℃で5分間インキュベーションした。MES buffer(pH5.5, 20mM)で希釈し、アミコンを用いた限外ろ過を行いながら、pH7.4のPBSへ置換した。mRNA濃度として2.5μg/mLとなるようにLNPを濃縮して回収し、Ribogreen試薬を用いて核酸の回収率、封入率を測定した。粒子径およびゼータ電位はゼータサイザーを用いて測定した。
【0203】
・実施例64、65の凍結乾燥組成物の再水和
凍結乾燥組成物に総脂質/mRNA=200nmol/μgとなる比率で、mRNAの水溶液(RNase free)を加え、ピペッティングで混合したのち、95℃で5分間インキュベーションした。Ribogreen試薬を用いて核酸の回収率、封入率を測定した。粒子径およびゼータ電位はゼータサイザーを用いて測定した。
【0204】
・実施例66-70の凍結乾燥組成物の再水和
凍結乾燥組成物に総脂質/mRNA=200nmol/μgとなる比率で、mRNAの水溶液(RNase free)を加え、ピペッティングで混合したのち、MES buffer(pH5.5, 20mM)で希釈し、アミコンを用いた限外ろ過を行いながら、pH7.4のPBSへ置換した。mRNA濃度として2.5μg/mLとなるようにLNPを濃縮して回収し、Ribogreen試薬を用いて核酸の回収率、封入率を測定した。粒子径およびゼータ電位はゼータサイザーを用いて測定した。
【0205】
使用したmRNA, siRNA, pDNAの配列は下記に示す。
mRNA: CleanCap(登録商標) FLuc mRNA (TriLink社)
CleanCap(登録商標) EGFP mRNA (TriLink社)
CleanCap(登録商標) EPO mRNA (5moU) (TriLink社)
CleanCap(登録商標) OVA mRNA (TriLink社)
pDNA: pcDNA3.1-luc(Biomaterials 2011, 32, 6342.に記載の方法)
siRNA: siFVII (2'-F)
Sense 5'-GGAucAucucAAGucuuAcdT*dT-3'
Antisense 5'-GuAAGAcuuGAGAuGAuccdT*dT-3'
dT: deoxythymidine
*: phosphorothioate linkage
Capital letter: native (2'-OH) ribonucleotides
Small letter: 2'-Fluoro-modified nucleotides
【0206】
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
操作に従い、比較例の中性の脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物を再水和し、粒子物性と核酸の回収率、封入率を評価した結果を表6に示した。
表6の評価結果に示すとおり、中性の脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物では核酸水溶液での再水和時に核酸とイオン性脂質が静電相互作用しないため、核酸を脂質ナノ粒子に内封することはできなかった。
【0215】
【0216】
操作に従い、凍結保護剤としてのスクロース濃度を変化させた酸性の脂質ナノ粒子の凍結乾燥組成物を再水和し、粒子物性と核酸の回収率、封入率を評価した結果を表7に示した。
表7の評価結果に示すとおり、実施例1-3の酸性の凍結乾燥組成物では核酸を効率的に内封することができた。さらに表7に示すとおり凍結保護剤であるスクロースの濃度を高めることで核酸の内封効率を高めることができ、粒子物性としても粒子分布が小さい脂質ナノ粒子を調製することができた。
【0217】
【0218】
操作に従い、再水和時のエタノール濃度を変化させて、粒子物性と核酸の回収率、封入率を評価した結果を表8に示した。
表8の評価結果に示すとおり、エタノールの添加によって核酸内封効率を高めることができた。
【0219】
【0220】
操作に従い、再水和時の核酸の種類を変化させて、粒子物性と核酸の回収率、封入率を評価した結果を表9に示した。
表9の評価結果に示すとおり、核酸種によらず核酸を効率的に内封することができた。
【0221】
【0222】
操作に従い、リン脂質の種類および脂質組成を変化させて、粒子物性と核酸の回収率、封入率を評価した結果を表10に示した。
表10の評価結果に示すとおり、リン脂質の種類および脂質組成によらず核酸を効率的に内封することができた。
【0223】
【0224】
【0225】
操作に従い、イオン性脂質の種類を変化させて、粒子物性と核酸の回収率、封入率を評価した結果を表11に示した。
表11の評価結果に示すとおり、イオン性脂質の種類によらず核酸を効率的に内封することができた。
【0226】
【0227】
【試験例1】
【0228】
・EGFP-mRNA封入LNPによる発現強度および細胞あたりの発現効率の評価
EGFPを発現するmRNAを封入したLNP溶液を実施例に記載の方法で調製した。
トランスフェクション24時間前にヒト白血病T細胞であるJurkat細胞を5.0×10
4cells/1mL/wellとなるように1.2cmウェルに播種した。24時間後、調製したLNP溶液をmRNAとして0.1μgとなるように1.2cmウェルに加え、インキュベーターで24時間培養した。培養液をFACSバッファー(0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%NaN
3含有PBS)に交換し、フローサイトメーター(NovoCyte;ACEA Biosciences製)にて測定を行い、遺伝子導入された細胞の分析を行った。EGFPが発現した細胞の割合を
図1に、EGFPの発現強度を
図2に示した。
図1、2に示すとおり本発明の凍結乾燥組成物を用いて作製した核酸内封脂質ナノ粒子は細胞に遺伝子を効率的に導入することができ、さらに凍結保護剤であるスクロース濃度を高めることで細胞への遺伝子導入の均一性や発現強度を高めることができた。
【試験例2】
【0229】
・Luc-mRNA封入脂質ナノ粒子を用いた細胞への遺伝子導入効率の評価
ルシフェラーゼを発現するmRNAを封入したLNP溶液を実施例に記載の方法で調製した。
トランスフェクション24時間前にヒト白血病T細胞であるJurkat細胞を2.0×10
5cells/1.9mL/Dishとなるように3.5cmディッシュに播種した。24時間後、終濃度が0.1mMとなるようにD-ルシフェリン入りの培地(RPMI1640)を各ディッシュに100μL加えた。そこへ、調製したLNP溶液をmRNAとして0.4μgとなるように加え、インキュベーター型ルミノメーターKronosDioにセットした。ルシフェラーゼの発光強度を3時間ごとに2分間計測した。得られた発現の時間変化から、24または48時間の累積発光強度を算出した。結果を
図3~6に示した。
図3~6に示すとおり、リン脂質としてDOPC,POPC,DOPE,POPEのいずれを用いても細胞に遺伝子を効率的に導入することができ、POPEを用いた場合に最も遺伝子導入効率が高かった。
【試験例3】
【0230】
・マウスin vivoでのmRNA発現効率の評価
エリスロポエチンを発現するmRNAを封入したLNP溶液を実施例に記載の方法で調製した。
調製したLNP溶液をmRNAの濃度で5μg/mLとなるようにPBSで希釈した。希釈したmRNA封入LNPを、6週齢の雌のBalb/cマウスに体重1gあたり10μLとなるように尾静脈内投与した(mRNAの投与量として0.05mg/kg)。投与後1、3、6、9、24時間後にマウス尾静脈から血液15μLを採取した。採取した血液は直ちに0.3μLのヘパリン溶液(5000U/5mL)と混合した。各血液サンプルを遠心条件(25℃,2000g,20min)で遠心分離し、上清を回収した。上清中のエリスロポエチン濃度をMouse Erythropoietin Quantikine ELISA Kit(R&D Systems製)を用いて、Kitのプロトコルに記載の方法で測定した。結果を
図7に示した。
図7に示すとおり、実施例39の通り作成した粒子の活性が最も高かったが、実施例39、実施例22、実施例38の全てにおいてマウスin vivoでのmRNA発現が確認できた。
【試験例4】
【0231】
・オボアルブミン(OVA;モデル抗原)を用いたCTL活性の評価
OVAをモデル抗原として抗原特異的細胞傷害性T細胞活性(CTL活性)の評価をおこなった。
OVAを発現するmRNAを封入したLNPを実施例に記載の方法で調製した。調製したLNP溶液をmRNAの濃度で1μg/mLとなるようにPBSで希釈した。希釈したmRNA封入LNPを、6週齢のC57BL6/Jマウスに一匹当たり0.1μgのmRNAとなるように、後背部の首の皮下へ投与した。投与7日後にCTLアッセイを行った。
CTLアッセイ:抗原に感作していない6週齢のC57BL6/Jマウスから脾臓を採取し、RPMI培地中で初めに5mLシリンジ、次いでピンセットを用いてほぐし、脾細胞を調製した。40μmのセルストレイナーを通した後、遠心した(4℃、500g、5分)。上清を除き、細胞塊を赤血球溶解バッファーに懸濁し5分後に再度遠心を行った(4℃、500g、5分)。上清を除き、RPMI培地を加え細胞数を計測した。細胞を1.0×10
7細胞/mLとなるように懸濁し、次に示す二つの処置群に分割した。ターゲット細胞群;OVAエピトープ(SIINFEKLペプチド)を400倍希釈になるよう加えて30分静置の後、遠心を行った(4℃、500g、5分)。1.0×10
7細胞/mLとなるように懸濁し、5μMのCFSEで染色することによりターゲット細胞群とした。コントロール細胞群;1.0×10
7細胞/mLとなるように懸濁し、0.5μMのCFSEで染色することによりコントロール細胞群とした。ターゲット細胞群とコントロール細胞群の溶液を等量混合し、合計1.0×10
7細胞とした細胞混合物を、前述のとおり免疫したマウスの尾静脈から投与した。投与から20時間後にマウスの脾臓を回収し、フローサイトメーター(NovoCyte;ACEA Biosciences製)にてCFSEの蛍光を測定した。コントロール細胞群の計測数は実験を通じてほぼ変化が無いことを確認した。各群についてコントロール細胞群に対するターゲット細胞群の生存割合を計算した。PBS投与マウス(非免疫群)におけるターゲット細胞の生存率から細胞傷害性T細胞活性の0%を決定し、免疫マウスにおけるターゲット細胞の生存率から各サンプルの細胞傷害性T細胞活性を計算することで、OVA特異的な細胞傷害性T細胞活性を評価した。
図8に示すように実施例62、実施例65の通り作成した粒子の活性が最も高かったが、実施例60、実施例62、実施例64、実施例65の全てにおいて抗原特異的な細胞傷害性T細胞活性を付与できることが確認された。
【0232】
比較例4の脂質ナノ粒子の調製
凍結乾燥工程を経ない従来公知の方法で下記の操作に従い粒子調製を行った。
脂質組成SS-OP/コレステロール/DOPC/DMG-PEG2k=52.5/40/7.5/1.5(mol)にて、総脂質/mRNA=200nmol/μgとなる比率で、脂質のエタノール溶液とmRNAのリンゴ酸buffer溶液(pH3.0, 20mM, 30mM NaCl含有)をNanoAssemblr(流速比:buffer/脂質=3/1(v/v)、総流速:4mL/min)で混合した。この溶液をMES buffer (pH5.5, 20mM)で希釈し、アミコンを用いた限外ろ過を行いながら、pH7.4のPBSへ置換した。理論値としてmRNAが10μg/mLとなるようにPBSで希釈し、脂質ナノ粒子を得た。
【0233】
実施例71の凍結乾燥組成物の調製
脂質組成SS-OP/コレステロール/DOPC/DMG-PEG2k=52.5/40/7.5/1.5(mol)にて、脂質のエタノール溶液とリンゴ酸buffer (pH3.0, 20mM)をNanoAssemblr(流速比:buffer/脂質=7/1(v/v)、総流速:1mL/min)で混合した。この溶液をMES buffer (pH6, 20mM)で希釈し、アミコンを用いた限外ろ過でMES buffer (pH6, 20mM)へ置換した。総脂質として400nmol/100μLとなるようにMES buffer (pH6, 20mM)で希釈して回収した。この溶液に等量のスクロース溶液(スクロース終濃度160 mg/mL)を添加して、vortexミキサーで混合した。200μLをバイアルへ分注し、EYELA凍結乾燥機を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥は、はじめに常圧・-40℃で3時間溶液を凍結し、その後200ミリトールまで圧力を下げ、-40℃で20時間、-30~0℃では10℃毎に6時間、10~30℃では10℃毎に3時間静置するように設定した。プログラム終了後、常圧に戻して、サンプルを回収した。
【0234】
実施例71の凍結乾燥組成物の再水和
回収した凍結乾燥サンプルに総脂質/mRNAが200nmol/μgとなるように、Luc-mRNA 2μgを加えた水を200μL加えて、タッピングで混合した。その後、95℃で5分間インキュベートを行い、200μLのPBSで中和した。
【0235】
実施例72の凍結乾燥組成物の調製
脂質組成SS-OP/コレステロール/DOPC/DMG-PEG2k=52.5/40/7.5/1.5(mol)にて、脂質のエタノール溶液とリンゴ酸buffer (pH3.0, 20mM)をNanoAssemblr(流速比:buffer/脂質=7/1(v/v)、総流速:16mL/min)で混合した。この溶液をMES buffer (pH6, 20mM)で希釈し、アミコンを用いた限外ろ過でMES buffer (pH6, 20mM)へ置換した。総脂質として400nmol/100μLとなるようにMES buffer (pH6, 20mM)で希釈して回収した。この溶液に等量のスクロース溶液(スクロース終濃度160 mg/mL)を添加して、vortexミキサーで混合した。200μLをバイアルへ分注し、EYELA凍結乾燥機を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥は、はじめに常圧・-40℃で3時間溶液を凍結し、その後200ミリトールまで圧力を下げ、-40℃で20時間、-30~0℃では10℃毎に6時間、10~30℃では10℃毎に3時間静置するように設定した。プログラム終了後、常圧に戻して、サンプルを回収した。
【0236】
実施例72の凍結乾燥組成物の再水和
回収した凍結乾燥サンプルに総脂質/mRNAが200nmol/μgとなるように、hEPO-mRNA 2μgを加えた水を200μL加えて、タッピングで混合した。その後、37℃で15分間インキュベートを行い、200μLのPBSで中和した。
【0237】
比較例4、実施例71、72の粒子物性および核酸の封入率を測定した結果を表12に示す。
【0238】
【試験例5】
【0239】
HeLa細胞を用いたin vitroでの遺伝子発現活性の評価
操作に従い調製した比較例4および実施例71の粒子を用いて細胞での遺伝子発現強度を以下の操作に従い評価した。
トランスフェクション24時間前にHeLa細胞を5.0×10
4cells/1.9mL/Dishとなるように3.5cmディッシュに播種した。24時間後、終濃度が0.1mMとなるようにD-ルシフェリン入りの培地(RPMI1640)を各ディッシュに100μL加えた。そこへ、調製したLNP溶液をmRNAとして0.4μgとなるように加え、インキュベーター型ルミノメーターKronosDioにセットした。ルシフェラーゼの発光強度を1時間ごとに2分間計測した。結果を
図9に示した。比較例4と比較して実施例71のナノ粒子は、in vitroにおいて約34倍高い遺伝子発現活性を示した。
【試験例6】
【0240】
マウスin vivoでの遺伝子発現活性の評価
操作に従い調製した比較例4および実施例72の粒子を用いて、マウスでの遺伝子発現強度を試験例3の方法と同様にして評価した。結果を
図10に示した。比較例4と比較して実施例72のナノ粒子は、in vivoにおいて約1.7倍高い遺伝子発現活性を示した。
【0241】
[製造例1]O-Ph-P4C2の合成
<オレイン酸の酸無水物化>
オレイン酸(日油(株)製)70.0g(248mmol)をクロロホルム560gに室温で溶解させ、10-15℃まで冷却した。そこへ、DCC((株)大阪合成有機化学研究所製)25.1g(121mmol)をクロロホルム140gで溶解させた懸濁液を滴下により加え、10-25℃で2時間反応させた。反応溶液をろ過後、ろ液をエバポレーターにより濃縮した。得られた濃縮物をヘキサン210gに再溶解させ、不溶物をろ過により除去した。得られたろ液をエバポレーターにより濃縮し、オレイン酸無水物を64.2g得た。
【0242】
<4-オレオイルオキシフェニル酢酸の合成>
オレイン酸無水物43.1g(78.9mmol)および4-ヒドロキシフェニル酢酸(東京化成工業(株)製)6.00g(39.4mmol)をクロロホルム647gに溶解させた。そこへDMAP(広栄化学(株)製)1.93g(15.8mmol)を加えて、室温で9時間反応を行った。反応溶液を10%酢酸水溶液216gで2回、イオン交換水216gで2回洗浄した後、硫酸マグネシウム(関東化学(株)製)12.9gを有機層へ加え、30分間攪拌した。硫酸マグネシウムをろ過後、ろ液をエバポレーターにて濃縮した。濃縮物をヘキサン284gで再溶解し、不溶物をろ過後、アセトニトリル168gを用いた抽出を6回行った。アセトニトリル層を回収し、エバポレーターにて濃縮することで、18.1gの粗体を得た。得られた粗体14.5gをカラム精製することで、4-オレオイルオキシフェニル酢酸を3.66g得た。
【0243】
<O-Ph-P4C2の合成>
US2014/0335157A1に記載の方法で合成したビス{2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジル]エチル}ジスルフィド(di-4PE体)0.350g(0.929mmol)と、4-オレオイルオキシフェニル酢酸0.813g(1.95mmol)、およびDMAP 0.0454g(0.372mmol)を室温でクロロホルム10.5gに溶解させた。そこへEDC 0.534g(2.79mmol)を加え、30-35℃で4時間反応させた。反応溶液を20%食塩水7.00gで2回洗浄した後、硫酸マグネシウム0.350gを用いて脱水した。硫酸マグネシウムをろ過後、ろ液をエバポレーターにて濃縮し、1.10gの粗体を得た。得られた粗体をカラム精製することで、O-Ph-P4C2を0.722g得た。
【0244】
[製造例2]E-Ph-P4C2の合成
<コハク酸D-α-トコフェロールの酸無水物化>
コハク酸D-α-トコフェロール(SIGMA-ALDRICH製)70.0g(132mmol)をクロロホルム560gに室温で溶解させ、10-15℃まで冷却した。そこへ、DCC((株)大阪合成有機化学研究所製)13.7g(66mmol)をクロロホルム140gで溶解させた懸濁液を滴下により加え、10-25℃で2時間反応させた。反応溶液をろ過後、ろ液をエバポレーターにより濃縮した。得られた濃縮物をヘキサン210gに再溶解させ、不溶物をろ過により除去した。得られたろ液をエバポレーターにより濃縮し、無水コハク酸D-α-トコフェロールを64.2g得た。
【0245】
<4-(D-α-トコフェロールヘミスクシニル)フェニル酢酸の合成>
無水コハク酸D-α-トコフェロール43.1g(41.3mmol)および4-ヒドロキシフェニル酢酸(東京化成工業(株)製)3.13g(20.6mmol)をクロロホルム647gに溶解させた。そこへDMAP(広栄化学(株)製)1.01g(8.26mmol)を加えて、室温で9時間反応を行った。反応溶液を10%酢酸水溶液216gで2回、イオン交換水216gで2回洗浄した後、硫酸マグネシウム(関東化学(株)製)12.9gを有機層へ加え、30分間攪拌した。硫酸マグネシウムをろ過後、ろ液をエバポレーターにて濃縮した。濃縮物をヘキサン284gで再溶解し、不溶物をろ過後、アセトニトリル168gを用いた抽出を6回行った。アセトニトリル層を回収し、エバポレーターにて濃縮することで、17.0gの粗体を得た。得られた粗体13.6gをカラム精製することで、4-(D-α-トコフェロールヘミスクシニル)フェニル酢酸を3.44g得た。
【0246】
<E-Ph-P4C2の合成>
di-4PE体 0.350g(0.929mmol)と、4-(D-α-トコフェロールヘミスクシニル)フェニル酢酸1.04g(1.95mmol)、およびDMAP 0.0454g(0.372mmol)を室温でクロロホルム10.5gに溶解させた。そこへEDC 0.534g(2.79mmol)を加え、30-35℃で4時間反応させた。反応溶液を20%食塩水7.00gで2回洗浄した後、硫酸マグネシウム0.350gを用いて脱水した。硫酸マグネシウムをろ過後、ろ液をエバポレーターにて濃縮し、1.31gの粗体を得た。得られた粗体をカラム精製することで、E-Ph-P4C2を0.860g得た。
【産業上の利用可能性】
【0247】
本発明によると、高効率で核酸を細胞内へ導入することが可能であるので、核酸医薬や遺伝子治療、生化学実験に有用である。
【0248】
本出願は、日本で出願された特願2019-176253を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。
【配列表】