IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャボン玉石けん株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-バイオフィルム除去剤 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】バイオフィルム除去剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/201 20060101AFI20241203BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20241203BHJP
   A01N 37/06 20060101ALI20241203BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20241203BHJP
   A61L 26/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20241203BHJP
   A61P 31/02 20060101ALI20241203BHJP
   C11D 1/04 20060101ALI20241203BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A61K31/201
A01N25/04
A01N37/06
A01P3/00
A61K9/06
A61K47/12
A61L26/00
A61P17/00 101
A61P17/02
A61P31/02
C11D1/04
C11D17/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018113339
(22)【出願日】2018-06-14
(65)【公開番号】P2019214536
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-05-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501172235
【氏名又は名称】シャボン玉石けん株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 貴佳
(72)【発明者】
【氏名】田北 美紀
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】井上 千弥子
【審判官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-185036(JP,A)
【文献】特開2013-124229(JP,A)
【文献】早野 清治ほか,北海道教育大学紀要(教育科学編),2009年,Vol.60,No.1,pp.121-127
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/201
A61L26/00
A01N37/00-37/52
A01N25/04
C11D 1/04
C11D17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度25℃および温度40℃においてゲル状であるバイオフィルム除去剤であって、
水と、オレイン酸カリウムと、を含有し、
前記オレイン酸カリウムの配合量が、前記バイオフィルム除去剤全量に対して、20質量%以上30質量%以下であり、
前記オレイン酸カリウム以外の抗菌成分を含有せず、かつ、
前記オレイン酸カリウム以外の増粘成分を含有しない、
ことを特徴とするバイオフィルム除去剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム除去剤およびバイオフィルム除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルム(菌膜)とは、微生物により形成される構造体である。そして、このバイオフィルムが、人の皮膚表面における創傷部位に形成されることで、創傷の治癒を遅延させることが知られている。
そこで、このバイオフィルムを除去する方法が検討されており、例えば、ゲル状のバイオフィルム除去剤が提案されている。バイオフィルム除去剤がゲル状である場合には、創傷に流れ込んで創傷床に密着して、創傷全体に抗菌効果をもたらしたり、創傷全体の湿潤環境を保持できるという利点がある。
ゲル状のバイオフィルム除去剤としては、例えば、抗菌剤源およびバイオフィルムを破壊する薬剤を含む、皮膚および創傷への使用に適する殺菌組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の殺菌組成物は、バイオフィルムを破壊する薬剤の他に、抗菌剤源を含有している。また、この殺菌組成物は、殺菌組成物をゲル状とするために、増粘剤なども含有している。一方で、バイオフィルム除去剤としては、長期使用によって望ましくない副作用(例えば、細胞傷害性、過敏症反応など)が発生しないことが求められる。そのため、特許文献1に記載の殺菌組成物においては、各成分についての副作用も含めて検討する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-209385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ゲル状であり、バイオフィルムの除去性能が優れ、かつ人体への負荷が少ないバイオフィルム除去剤、並びにそれを用いたバイオフィルム除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、次の知見を見出した。すなわち、バイオフィルムを除去できる成分の中には、その濃度を調整することで、バイオフィルム除去剤をゲル状とできるものがあることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のバイオフィルム除去剤は、ゲル状であるバイオフィルム除去剤であって、水と、オレイン酸カリウムおよびオレイン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種と、を含有し、前記オレイン酸カリウムおよび前記オレイン酸ナトリウムの合計の配合量が、前記バイオフィルム除去剤全量に対して、12質量%以上32質量%以下であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明のバイオフィルム除去剤においては、前記オレイン酸カリウムまたは前記オレイン酸ナトリウム以外の抗菌成分を含有しないことが好ましい。
本発明のバイオフィルム除去方法は、前記バイオフィルム除去剤を用いたバイオフィルム除去方法であって、前記バイオフィルム除去剤を塗布する工程と、塗布されたバイオフィルム除去剤を水で除去する工程と、を備えることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゲル状であり、バイオフィルムの除去性能が優れ、かつ人体への負荷が少ないバイオフィルム除去剤、並びにそれを用いたバイオフィルム除去方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るバイオフィルム除去方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のバイオフィルム除去剤およびバイオフィルム除去方法の実施形態を説明する。
[バイオフィルム除去剤]
先ず、本実施形態のバイオフィルム除去剤について説明する。
本実施形態のバイオフィルム除去剤は、ゲル状であるバイオフィルム除去剤であって、以下説明する水と、オレイン酸カリウムおよびオレイン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種と、を含有するものである。本実施形態のバイオフィルム除去剤は、ゲル状であるため、バイオフィルム除去剤が、創傷に流れ込んで創傷床に密着して、創傷全体を覆うことで保護ができ、また創傷全体の湿潤環境を保持できる。
【0011】
本実施形態のバイオフィルム除去剤は、水と、オレイン酸カリウムおよびオレイン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種と、からなることが好ましい。このオレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウムにより、バイオフィルム除去性能を確保できる。また、このオレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウムにより、バイオフィルム除去剤をゲル状とできる。そして、本実施形態のバイオフィルム除去剤においては、オレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウム以外のバイオフィルム除去成分を用いる必要がなく、また、オレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウム以外の増粘成分を用いる必要がない。そのため、本実施形態のバイオフィルム除去剤においては、オレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウム以外のバイオフィルム除去成分を含有しないことが好ましい。さらに、本実施形態のバイオフィルム除去剤においては、オレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウム以外の増粘成分を含有しないことが好ましい。
また、本実施形態のバイオフィルム除去剤においては、必要のない成分を用いないという観点から、オレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウム以外の抗菌成分を含有しないことが好ましい。
【0012】
本実施形態のバイオフィルム除去剤は、水、および、オレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウムのみからなり、これらの成分以外の成分を実質的に含有しないことが好ましい。オレイン酸カリウムは、天然にきわめて多く存在する脂肪酸であるオレイン酸のカリウム塩であり、人体への負荷が少ないことも確認されている。また、オレイン酸ナトリウムは、天然にきわめて多く存在する脂肪酸であるオレイン酸のナトリウム塩であり、人体への負荷が少ないことも確認されている。本実施形態のバイオフィルム除去剤は、水以外には、実質的にオレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウムしか含有していないため、人体への負荷が少ない。
本実施形態のバイオフィルム除去剤に用いる水は、精製水であることが好ましい。精製水としては、RO(Reverse Osmosis)水、脱イオン水、および蒸留水などが挙げられる。また、精製水としては、日本薬局方または医薬部外品原料規格に合致した精製水であることがより好ましい。
また、本実施形態に用いるオレイン酸カリウムは、不純物として、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、パルミトオレイン酸カリウム、リノール酸カリウム、およびリノレン酸カリウムなどを含有してもよい。ただし、不純物の含有量は、オレイン酸カリウム全量に対して、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
また、本実施形態に用いるオレイン酸ナトリウムは、不純物として、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、パルミトオレイン酸ナトリウム、リノール酸ナトリウム、およびリノレン酸ナトリウムなどを含有してもよい。ただし、不純物の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
なお、本実施形態に用いるオレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウムは、原料としてオレイン酸と、カリウム化合物(水酸化カリウムなど)またはナトリウム化合物(水酸化ナトリウムなど)とから得られる。ここで、原料としてオレイン酸には、通常、不純物が含まれている。この不純物としては、多くはリノール酸であるが、それ以外には、ステアリン酸、リノレン酸およびパルチミン酸などが含まれている。
【0013】
本実施形態において、オレイン酸カリウムおよびオレイン酸ナトリウムの合計の配合量は、バイオフィルム除去剤全量に対して、12質量%以上32質量%以下であることが必要である。オレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウムの配合量が12質量%未満では、常温(25℃)においてバイオフィルム除去剤が液状となってしまう。他方、オレイン酸カリウムまたはオレイン酸ナトリウムの配合量が32質量%を超えると、ゲルの流動性が低すぎるために、均一に混ぜることが困難になる。
オレイン酸カリウムおよびオレイン酸ナトリウムの合計の配合量は、高温環境でもゲル状を維持できるという観点から、バイオフィルム除去剤全量に対して、17質量%以上であることが好ましく、18質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。
オレイン酸カリウムおよびオレイン酸ナトリウムの合計の配合量は、ゲルの流動性を向上できるという観点から、バイオフィルム除去剤全量に対して、30質量%以下であることが好ましく、26質量%以下であることがより好ましく、23質量%以下であることが特に好ましい。
【0014】
本実施形態のバイオフィルム除去剤は、本発明の目的を阻害しない範囲内において、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、pH調整剤およびキレート剤からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。また、より具体的な添加剤としては、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、シュウ酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、グリコール酸、フィチン酸、またはこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
また、上記の添加剤を用いる場合、本実施形態のバイオフィルム除去剤は、水と、オレイン酸カリウムおよびオレイン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種と、上記の添加剤と、からなることが好ましい。
【0015】
本実施形態のバイオフィルム除去剤は、水と、オレイン酸カリウムおよびオレイン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種と、を上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0016】
[バイオフィルム除去方法]
次に、本実施形態のバイオフィルム除去方法について説明する。
本実施形態のバイオフィルム除去方法は、前記本実施形態のバイオフィルム除去剤を用いたバイオフィルム除去方法であって、以下説明する塗布工程および除去工程を備える方法である。
【0017】
塗布工程においては、図1(A)および図1(B)に示すように、バイオフィルム除去剤1を、皮膚表面における創傷部位2およびその周辺部に塗布する。
塗布方法としては、従来公知のゲルの塗布方法を採用できる。具体的には、(i)チューブ入りのバイオフィルム除去剤をチューブから押出して塗布する方法、(ii)バイオフィルム除去剤を、手で塗りつける方法などが挙げられる。
バイオフィルム除去剤1の温度は、ゲルの塗布しやすさの観点から、15℃以上45℃以下であることが好ましく、20℃以上35℃以下であることがより好ましい。
バイオフィルム除去剤1の塗布量は、特に限定されず、傷の状態に応じて、適宜決定すればよい。
【0018】
本実施形態においては、塗布工程の後に、塗布されたバイオフィルム除去剤1を、被覆材で覆う工程(被覆工程)を備えていてもよい。
被覆材としては、カーゼ、およびフィルムなどのドレッシング材などが挙げられる。被覆材で覆うことで、創傷部位2を保護できるとともに、バイオフィルム除去剤1中の水分の蒸発を抑制できる。
この被覆工程を行った場合には、後の除去工程の前に、被覆材を剥がす工程を行うことが必要となる。
【0019】
除去工程においては、図1(C)に示すように、塗布されたバイオフィルム除去剤1を水3で除去する。
水3としては、精製水、生理食塩水および水道水などが挙げられる。
水3の温度は、人にとって適温であるという観点から、15℃以上40℃以下であることが好ましく、25℃以上35℃以下であることがより好ましい。
【0020】
以上のように、本実施形態のバイオフィルム除去方法により、ゲル状のバイオフィルム除去剤を用いて、バイオフィルムを除去できる。また、本実施形態のバイオフィルム除去剤は、人体への負荷が少ないので、本実施形態のバイオフィルム除去方法により、人体への負荷が少ない方法で、バイオフィルムを除去できる。
【実施例
【0021】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
先ず、オレイン酸カリウムを、次のようにして作製した。
すなわち、反応槽に、精製水78.3gを投入し、その後、水酸化カリウム(100質量%)4.1gを投入し、この反応槽を70℃の温浴に入れ、攪拌機により攪拌しながら、オレイン酸(純分:87質量%)17.6gを加えて、反応させた。その後、冷却して、バイオフィルム除去剤(水80質量%、オレイン酸カリウム20質量%)を得た。
【0023】
[実施例2~4および比較例1~3]
精製水およびオレイン酸カリウムの配合量を下記のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、バイオフィルム除去剤を得た。
実施例2:水83質量%、オレイン酸カリウム17質量%
実施例3:水75質量%、オレイン酸カリウム25質量%
実施例4:水70質量%、オレイン酸カリウム30質量%
比較例1:水90質量%、オレイン酸カリウム10質量%
比較例2:水65質量%、オレイン酸カリウム35質量%
比較例3:水60質量%、オレイン酸カリウム40質量%
【0024】
[実施例5~9並びに比較例4および5]
精製水およびオレイン酸ナトリウムの配合量を下記のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、バイオフィルム除去剤を得た。
実施例5:水87質量%、オレイン酸ナトリウム13質量%
実施例6:水84質量%、オレイン酸ナトリウム16質量%
実施例7:水83質量%、オレイン酸ナトリウム17質量%
実施例8:水80質量%、オレイン酸ナトリウム20質量%
実施例9:水70質量%、オレイン酸ナトリウム30質量%
比較例4:水90質量%、オレイン酸ナトリウム10質量%
比較例5:水65質量%、オレイン酸ナトリウム35質量%
【0025】
[実施例10]
精製水、オレイン酸カリウムおよびオレイン酸ナトリウムの配合量を下記のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、バイオフィルム除去剤を得た。
実施例10:水80質量%、オレイン酸カリウム10質量%、オレイン酸ナトリウム10質量%
【0026】
[バイオフィルム除去剤の評価(ゲル状か否か、塗布性)]
バイオフィルム除去剤の評価(ゲル状か否か、塗布性)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。また、各バイオフィルム除去剤におけるオレイン酸カリウムの配合量を表1に示す。
(1)ゲル状か否か
バイオフィルム除去剤の温度を、25℃および40℃とし、それぞれの温度において、ゲル状になっているか否かを観察した。そして、下記の基準に従って、評価を行った。
○:バイオフィルム除去剤がゲル状である。
×:バイオフィルム除去剤が液状である。
(2)塗布性
バイオフィルム除去剤をチューブに充填し、温度を25℃とした。そして、チューブを押して、バイオフィルム除去剤を押出して塗布した。そして、下記の基準に従って、塗布性を評価した。
○:バイオフィルム除去剤を均一に塗布できた。
×:バイオフィルム除去剤を均一に塗布できなかった。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、実施例1~10のバイオフィルム除去剤は、温度25℃においてゲル状であり、塗布性も良好であることが分かった。これに対し、オレイン酸カリウムおよびオレイン酸ナトリウムの合計の配合量が少な過ぎる場合(比較例1および4)には、バイオフィルム除去剤が温度25℃において液状となることが分かった。また、オレイン酸カリウムおよびオレイン酸ナトリウムの合計の配合量が多過ぎる場合(比較例2、3および5)には、塗布性が劣ることが分かった。
【0029】
[バイオフィルム除去剤の評価(バイオフィルム除去性)]
バイオフィルム除去剤の評価(バイオフィルム除去性)を以下のような方法で行った。なお、ゲル状のバイオフィルム除去剤は、塗布されたバイオフィルム除去剤を水で除去する際に、バイオフィルムを除去できる。そのため、水で薄まった状態のバイオフィルム除去剤のバイオフィルム除去率を調べれば、バイオフィルム除去性を評価できる。具体的には、下記の試料1から試料7を準備し、下記の試験方法によりバイオフィルムの除去率を測定した。
試料1:オレイン酸カリウム(C18:1)1質量%水溶液
試料2:オレイン酸ナトリウム(C18:1)1質量%水溶液
試料3:ラウリン酸カリウム(C12)1質量%水溶液
試料4:リノール酸カリウム(C18:2)1質量%水溶液
試料5:ラウレス硫酸ナトリウム(LES)1質量%水溶液
試料6:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)1質量%水溶液
試料7:ソフティEX-CARE泡ハンドウォッシュ(花王社製)
【0030】
(バイオフィルムの作製)
継代スラント(OJ-1、ATCC No.BAA-2856)を、TSA(Trypticase soy agar)スラント培地にて、37℃で24時間前培養した。次に、TSAスラント培地から菌を掻き取り、波長600nmにおける吸光度が0.1となるようにTSB(Tryptic Soybean Broth)で希釈し、菌液とした。次に、菌液を、ウェル(コーニング社製の細胞培養プレート12well、培養細胞用)へ1mLずつ分注した。次に、温度37℃で24時間静置培養し、バイオフィルムを形成させた。なお、菌液を分注せずに培養したウェルも準備した(除去率の算出に用いる)。
【0031】
(バイオフィルムの除去)
バイオフィルムの上澄み液を除去し、滅菌生理食塩水1mLを分注し取り除く操作(以下、洗浄という)を1回行った。次に、直前に数秒ボルテックスをかけた試料1mLを各ウェルに分注した。次に、常温で1分間静置処理した。次に、被検物質を除去し、滅菌生理食塩水1mLで3回洗浄した。各試料につき、N=3で同様の操作を行った。なお、試料の代わりに、滅菌生理食塩水を分注したものを測定し、ネガティブコントロールとした(除去率の算出に用いる)。
【0032】
(バイオフィルムの除去率の測定)
0.1質量%クリスタルバイオレット水溶液を0.5mLずつ分注し、1時間静置した。次に、上澄み液を除去し、滅菌生理食塩水1mLで2回洗浄し、その後、99.5容量%エタノールを2mLずつ分注した。次に、ウェル底に不溶化した沈着物をプラスチック製コーニング棒で掻き取り、1時間静置してクリスタルバイオレットを抽出した。次に、新しいプレートに移し替え、プレートリーダーを用いて、波長570nmにおける吸光度を測定した。
なお、滅菌生理食塩水接触後のウェルの吸光度(Ac)、菌液なしで培養したウェルの吸光度(Ab)、および、試料接触後のウェルの吸光度(As)を測定した。そして、これらの測定値より、下記数式(F1)に基づいて、バイオフィルムの除去率を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0033】
【数1】
【0034】
【表2】
【0035】
表2に示すように、試料1(オレイン酸カリウム1質量%水溶液)および試料2(オレイン酸ナトリウム1質量%水溶液)のバイオフィルムの除去率は、他の試料と比較して高いことが分かった。このことから、オレイン酸カリウムを含有するバイオフィルム除去剤は、バイオフィルムの除去性能が優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のバイオフィルム除去剤は、創傷を治癒するための技術として有用である。
【符号の説明】
【0037】
1…バイオフィルム除去剤
2…創傷部位
3…水
図1