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特許7597346タグペプチド及びポリペプチドの精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】タグペプチド及びポリペプチドの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20241203BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20241203BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20241203BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241203BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20241203BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241203BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C07K7/08
C07K7/06 ZNA
C07K14/00
C12N15/63 Z
C07K1/22
C07K19/00
C12N15/11 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020026375
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021129515
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】赤田 倫治
(72)【発明者】
【氏名】柳井 和弥
(72)【発明者】
【氏名】星田 尚司
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】特表平05-505940(JP,A)
【文献】特表2015-533121(JP,A)
【文献】SHARMA, Satish K. et al.,Methods,1992年,Vol. 4, Issue 1,pp. 57-67,DOI: 10.1016/1046-2023(92)90056-E
【文献】VOSTERS, A. F. et al.,Protein Expression and Purification,1992年02月,Vol. 3, Issue 1,pp. 18-26,DOI: 10.1016/1046-5928(92)90051-W
【文献】HOFSTROM, Camilla et al.,Journal of Medicinal Chemistry,2013年05月21日,Vol. 56, No. 12,pp. 4966-4974,DOI: 10.1021/jm400218y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1-3’)~(1-9’)のいずれかのポリペプチドからなるタグペプチド
1-3)配列番号3に示すアミノ酸配列において2又は3個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換し、かつ
ヒスチジン-アスパラギン酸若しくはヒスチジン-グルタミン酸を2又は3か所、又はアスパラギン酸-ヒスチジン若しくはグルタミン酸-ヒスチジンを2又は3か所含むポリペプチド;
(1-4)配列番号4に示すアミノ酸配列において2又は3個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換し、かつ
ヒスチジン-アスパラギン酸若しくはヒスチジン-グルタミン酸を2又は3か所、又はアスパラギン酸-ヒスチジン若しくはグルタミン酸-ヒスチジンを2又は3か所含むポリペプチド;
(1-5)配列番号5に示すアミノ酸配列において個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換し、かつ
ヒスチジン-アスパラギン酸若しくはヒスチジン-グルタミン酸を3か所、又はアスパラギン酸-ヒスチジン若しくはグルタミン酸-ヒスチジンを3か所含むポリペプチド;
(1-6)配列番号6に示すアミノ酸配列において3又は4個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換し、かつ
ヒスチジン-アスパラギン酸若しくはヒスチジン-グルタミン酸を3又は4か所、又はアスパラギン酸-ヒスチジン若しくはグルタミン酸-ヒスチジンを3又は4か所含むポリペプチド;
(1-7)配列番号7に示すアミノ酸配列において4又は5個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換し、かつ
ヒスチジン-アスパラギン酸若しくはヒスチジン-グルタミン酸を4又は5か所、又はアスパラギン酸-ヒスチジン若しくはグルタミン酸-ヒスチジンを4又は5か所含むポリペプチド;
(1-8)配列番号8に示すアミノ酸配列において4又は5個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換し、かつ
ヒスチジン-アスパラギン酸若しくはヒスチジン-グルタミン酸を4又は5か所、又はアスパラギン酸-ヒスチジン若しくはグルタミン酸-ヒスチジンを4又は5か所含むポリペプチド;
(1-9)配列番号9に示すアミノ酸配列において5又は6個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換し、かつ
ヒスチジン-アスパラギン酸若しくはヒスチジン-グルタミン酸を5又は6か所、又はアスパラギン酸-ヒスチジン若しくはグルタミン酸-ヒスチジンを5又は6か所含むポリペプチド;
【請求項2】
配列番号12~15のいずれかに示すアミノ酸配列からなるトリペプチドを含有することを特徴とする請求項記載のタグペプチド。
【請求項3】
配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とする請求項1又は2に記載のタグペプチド。
【請求項4】
請求項1~のいずれか記載のタグペプチドとポリペプチドが融合したタグペプチド融合ポリペプチド。
【請求項5】
タグペプチドと融合するポリペプチドがタンパク質であることを特徴とする請求項記載のタグペプチド融合ポリペプチド。
【請求項6】
請求項1~のいずれか記載のタグペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項記載のポリヌクレオチドを含有する発現ベクター。
【請求項8】
以下の工程(2-1)~(2-3)を備えたポリペプチドの精製方法。
(2-1)ニッケル、銅、亜鉛、及び、コバルトから選択される1又は2以上の金属イオンを固定化した担体と、請求項又は記載のタグペプチド融合ポリペプチドとを吸着液の存在下で混合して、前記タグペプチド融合ポリペプチドを前記担体に吸着させる工程;
(2-2)タグペプチド融合ポリペプチドが吸着した担体を洗浄液で洗浄する工程;
(2-3)溶出液を用いて前記担体に吸着したタグペプチド融合ポリペプチドを前記担体から溶出する工程;
【請求項9】
工程(2-1)において、吸着液が0.03M以上のアルカリ金属塩溶液であることを特徴とする請求項記載のポリペプチドの精製方法。
【請求項10】
工程(2-2)において、洗浄液が0.03M以上のアルカリ金属塩溶液であることを特徴とする請求項又は記載のポリペプチドの精製方法。
【請求項11】
工程(2-3)において、溶出液がイミダゾール溶液、L-ヒスチジン溶液、緩衝液、アルカリ金属塩溶液又は水であることを特徴とする請求項10のいずれか記載のポリペプチドの精製方法。
【請求項12】
金属イオンがニッケルであることを特徴とする請求項11のいずれか記載のポリペプチドの精製方法。
【請求項13】
請求項記載の発現ベクターを含有するポリペプチドの精製キット。
【請求項14】
(2-1’)ニッケル、銅、亜鉛、及び、コバルトから選択される1又は2以上の金属イオンを固定化した担体と、タグペプチド融合ポリペプチドとを吸着液の存在下で混合して、前記タグペプチド融合ポリペプチドを前記担体に吸着させる工程;
(2-2’)タグペプチド融合ポリペプチドが吸着した担体を洗浄液で洗浄する工程;
(2-3’)L-ヒスチジン溶液、緩衝液(イミダゾールを含有する緩衝液を除く)、又は水を用いて前記担体に吸着したタグペプチド融合ポリペプチドを前記担体から溶出する工程;
の上記工程(2-1’)~(2-3’)を備えたポリペプチドの精製方法であって、上記(2-1’)におけるタグ融合ペプチドが、
(1-4’’)配列番号4に示すアミノ酸配列において4個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換し、かつ
ヒスチジン-アスパラギン酸若しくはヒスチジン-グルタミン酸を4か所、又はアスパラギン酸-ヒスチジン又はグルタミン酸-ヒスチジンを4か所含むポリペプチドからなるタグペプチド;又は
(1-5’’)配列番号5に示すアミノ酸配列において4個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換し、かつ
ヒスチジン-アスパラギン酸若しくはヒスチジン-グルタミン酸を4か所、又はアスパラギン酸-ヒスチジン又はグルタミン酸-ヒスチジンを4か所含むポリペプチドからなるタグペプチド;とポリペプチドが融合したタグペプチド融合ポリペプチドである、前記精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタグペプチドや、タグペプチド融合ポリペプチドや、タグペプチドをコードするポリヌクレオチドや、前記ポリヌクレオチドを含有する発現ベクターや、ポリペプチドの精製方法や、前記発現ベクターを含有するポリペプチドの精製キットに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学の知見により、大腸菌や酵母を用いたタンパク質合成を行った場合、その目的とするタンパク質等のポリペプチドを分離して精製する場合が多い。そのタンパク質精製法として、ポリヒスチジンとニッケルカラムを用いた精製法が広く行われている。具体的には、以下の(1)~(4)のように6連続させたヒスチジン、すなわちヒスチジンタグを付加した目的タンパク質を、ヒスチジン~ニッケル金属の接合能力を使って精製する方法である。
【0003】
(1)6連続ヒスチジンからなるヒスチジンタグを付加した目的タンパク質を酵母、大腸菌などの宿主細胞で生産する。
(2)宿主細胞からの目的タンパク質抽出液をニッケルカラムに通し、上記の目的タンパク質をニッケルに吸着させる。
(3) 低濃度(5~10mM程度)イミダゾール水溶液を上記カラムに通して洗浄する。ここで、目的タンパク質はニッケルに吸着し、それ以外はこの洗浄によりカラムから流れ落ちる。
(4)高濃度(200mM程度)イミダゾール水溶液を上記カラムに通し、(2)でトラップされていた目的タンパク質をニッケルからはがして溶出させる。
【0004】
しかし、タンパク質合成を行わせた大腸菌や酵母の細胞内には、ヒスチジンを多く含むタンパク質やニッケル金属と結合するタンパク質も多数存在するため、それらのタンパク質もニッケルカラムに吸着してしまい、目的タンパク質を高純度で精製することが困難であった。また、ニッケルに吸着した目的タンパク質を溶出液にてニッケルから外して溶出する際に、通常イミダゾール水溶液を用いるが、目的タンパク質を利用するときにはイミダゾールを取り除く作業が必要な場合があった。
【0005】
タグペプチドとしては6連続させたヒスチジン以外にも、たとえば、式:(His)x-(A)y-(His)z[式中、Aは1またはそれ以上のアミノ酸であり;xは0~10であり;yは0~4であり;zは0~10である]で示されるキレート化ペプチド(特許文献1参照)や、式R1-(His)2-6-R2(式中R1は、水素、1個のアミノ酸または数個のアミノ酸を示し、R2は、Q、Q-Ile-Glu-Gly-Arg又はQ-Asp-Asp-Asp-Lys-を示し、及びQはペプチド結合、1個のアミノ酸又は数個の、最大30個のアミノ酸の配列を示す)(特許文献2参照)や、塩基性アミノ酸が3個以上連続した配列(特許文献3参照)が開示されている。しかしながら、イミダゾールで溶出することが主であり、必要に応じてイミダゾール以外で精度良く溶出が可能なタグペプチドではなかった。
【0006】
また、本発明者らは、500mM以上の濃度のイミダゾールを用いても、ニッケル、銅、亜鉛、及び、コバルトから選択される1又は2以上の金属イオンと結合可能なタグペプチドを提案した(特許文献4参照)。かかるタグペプチドは、高濃度のイミダゾールでも溶出されにくいため、高純度で目的とするタンパク質を固定化することは可能である。しかしながら、必要に応じて目的とするタンパク質を溶出することが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-157600号公報
【文献】特開昭63-251095号公報
【文献】特開2008-241560号公報
【文献】特開2017-88536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ニッケル、銅、亜鉛、及び、コバルトから選択される1又は2以上の金属イオンと結合可能であり、イミダゾール以外を用いても溶出が可能なタグペプチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、目的タンパク質のみが効率よく分離、精製できるペプチドタグやペプチドタグが付与されたタンパク質の効率的な分離・精製方法の研究を進めていた。その過程で、連続するヒスチジンをタンパク質に付加することで、タンパク質の活性を低下させることを確認した。そこで、タンパク質の活性の低下を抑制可能なヒスチジンタグペプチドを検討した。
【0010】
その結果、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシンやプロリン等をヒスチジンに組み込むように連結したタグペプチドを目的タンパク質に付加することで連続するヒスチジンのタグペプチドを用いた場合と比較してタンパク質の活性低下が抑制され、活性の高いタンパク質を得られることを見出した。さらに、ニッケルからの溶出について検討したところ、従来用いられているイミダゾールだけでなく、低濃度の塩溶液や水で溶出が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕以下の(1-1)~(1-11)のいずれかのポリペプチドからなるタグペプチド。
(1-1)配列番号1に示すアミノ酸配列において1個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-2)配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は2個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-3)配列番号3に示すアミノ酸配列において1~3個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-4)配列番号4に示すアミノ酸配列において1~4個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-5)配列番号5に示すアミノ酸配列において1~5個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-6)配列番号6に示すアミノ酸配列において1~6個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-7)配列番号7に示すアミノ酸配列において1~7個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-8)配列番号8に示すアミノ酸配列において1~8個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-9)配列番号9に示すアミノ酸配列において1~9個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-10)配列番号10に示すアミノ酸配列において1~10個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-11)配列番号11に示すアミノ酸配列において1~11個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
〔2〕配列番号12~15のいずれかに示すアミノ酸配列からなるトリペプチドを含有することを特徴とする上記〔1〕記載のタグペプチド。
〔3〕配列番号16又は配列番号17に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕記載のタグペプチド。
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれか記載のタグペプチドとポリペプチドが融合したタグペプチド融合ポリペプチド。
〔5〕タグペプチドと融合するポリペプチドがタンパク質であることを特徴とする上記〔4〕記載のタグペプチド融合ポリペプチド。
〔6〕上記〔1〕~〔3〕のいずれか記載のタグペプチドをコードするポリヌクレオチド。
〔7〕上記〔6〕記載のポリヌクレオチドを含有する発現ベクター。
〔8〕以下の工程(2-1)~(2-3)を備えたポリペプチドの精製方法。
(2-1)ニッケル、銅、亜鉛、及び、コバルトから選択される1又は2以上の金属イオンを固定化した担体と、上記〔4〕又は〔5〕記載のタグペプチド融合ポリペプチドとを吸着液の存在下で混合して、前記タグペプチド融合ポリペプチドを前記担体に吸着させる工程;
(2-2)タグペプチド融合ポリペプチドが吸着した担体を洗浄液で洗浄する工程;
(2-3)溶出液を用いて前記担体に吸着したタグペプチド融合ポリペプチドを前記担体から溶出する工程;
〔9〕工程(2-1)において、吸着液が0.03M以上のアルカリ金属塩溶液であることを特徴とする上記〔8〕記載のポリペプチドの精製方法。
〔10〕工程(2-2)において、洗浄液が0.03M以上のアルカリ金属塩溶液であることを特徴とする上記〔8〕又は〔9〕記載のポリペプチドの精製方法。
〔11〕工程(2-3)において、溶出液がイミダゾール溶液、L-ヒスチジン溶液、緩衝液、アルカリ金属塩溶液又は水であることを特徴とする上記〔8〕~〔10〕のいずれか記載のポリペプチドの精製方法。
〔12〕金属イオンがニッケルであることを特徴とする上記〔8〕~〔11〕のいずれか記載のポリペプチドの精製方法。
〔13〕上記〔7〕記載の発現ベクターを含有するポリペプチドの精製キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明のタグペプチドを用いれば、ニッケル、銅、亜鉛、及び、コバルトから選択される1又は2以上の金属イオンを固定化した担体にポリペプチドが吸着させた後、イミダゾールだけでなく、L-ヒスチジン、トリス塩基、又は水によっても溶出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1において、赤色蛍光タンパク質(RFP)のC末端側に、3つのヒスチジンの間に様々なアミノ酸を配置したタグペプチドを付加したタグペプチド融合RFPの活性を評価した結果を示す図である。
図2】実施例2において、ガウシアルシフェラーゼ(GLuc)のC末端側に、ヒスチジンとアスパラギン酸との様々な組み合わせからなるタグペプチドを付加したタグペプチド融合ルシフェラーゼの活性を調べた結果である。
図3】実施例3において、RFP-6HE、RFP-6HD、RFP-6H又はRFPのタンパク質抽出液をニッケルビーズと混合して吸着を調べた結果を示す図である。
図4】実施例4において、RFP-6HE、又はRFP-6Hのタンパク質抽出液をニッケルビーズと混合して、吸着液の塩溶液の種類及び濃度を変えて吸着を調べた結果を示す図である。
図5】実施例5において、ニッケルビーズに吸着したRFP-6HE及びRFP-6Hをイミダゾールによって溶出した結果を示す図である。
図6】実施例5において、ニッケルビーズに吸着したRFP-6HE及びRFP-6Hをヒスチジンによって溶出した結果を示す図である。
図7】実施例5において、ニッケルビーズに吸着したRFP-6HE及びRFP-6Hをトリス(Tris)緩衝液によって溶出した結果を示す図である。
図8】実施例6において、ニッケルカラムに吸着したRFP-6HE及びRFP-6Hをイミダゾールによって溶出した結果を示す図である。図8(a)、(b)はUV280nmを測定した結果、図8(c)はSDS-PAGE解析の結果である。
図9】実施例7において、ニッケルカラムに吸着したRFP-6HP及びRFP-6HGをイミダゾールの濃度勾配によって溶出した結果を示す図である。
図10】実施例7において、ニッケルカラムに吸着したRFP-6HE及びRFP-6Hを蒸留水による洗浄なしで溶出した結果を示す図である。
図11】実施例8において、ニッケルカラムに吸着したRFP-6HEを1M-0.1M及び0.1M-0MのNaClの濃度勾配により洗浄した結果を示す図である。上段は左から洗浄前(1M)、0.1M NaCl洗浄後、0.01M NaCl洗浄後のカラムの写真、下段は0.1M-0MのNaClの濃度勾配により洗浄した時のUV280nmを測定した結果である。
図12】実施例8において、ニッケルカラムに吸着したRFP-6HEを1M-0.1M及び/又は0.1M-0MのKCl、LiCl、又はRbClの濃度勾配により洗浄した場合の、左から洗浄前(1M)、0.1M 洗浄後、0.01M 洗浄後のカラムの写真である。
図13】実施例9において、1M KPO pH8.0でニッケルカラムに吸着したRFP-6HEを0.05M KClで30分洗浄後、0-100mMの濃度勾配のイミダゾールで溶出してUV280nmを測定した結果である。
図14】実施例9において、1M KPO pH8.0でニッケルカラムに吸着したRFP-6HEを0.05M KClで30分洗浄後、0-100mMの濃度勾配のL-ヒスチジンで溶出してUV280nmを測定した結果である。
図15】実施例9において、1M KPO pH8.0でニッケルカラムに吸着したRFP-6HEを0.05M KClで30分洗浄後、蒸留水で30分ほど溶出してUV280nmを測定した結果である。
図16】実施例10において、1M KPO pH8.0でニッケルカラムに吸着したDNAポリメラーゼ-6HEを0.05M KClで30分洗浄後、100mM イミダゾールで30分ほど溶出してUV280nmを測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様は、
(1-1)配列番号1に示すアミノ酸配列において1個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-2)配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は2個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-3)配列番号3に示すアミノ酸配列において1~3個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-4)配列番号4に示すアミノ酸配列において1~4個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-5)配列番号5に示すアミノ酸配列において1~5個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-6)配列番号6に示すアミノ酸配列において1~6個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-7)配列番号7に示すアミノ酸配列において1~7個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-8)配列番号8に示すアミノ酸配列において1~8個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-9)配列番号9に示すアミノ酸配列において1~9個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-10)配列番号10に示すアミノ酸配列において1~10個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
(1-11)配列番号11に示すアミノ酸配列において1~11個のヒスチジンがアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したポリペプチド;
の(1-1)~(1-11)のいずれかのポリペプチドからなるタグペプチドであり、以下、「本件タグペプチド」ともいう。
【0015】
また、本発明の他の態様の一つは、
(2-1)ニッケル、銅、亜鉛、及び、コバルトから選択される1又は2以上の金属イオンを固定化した担体と、上記本件タグペプチド融合ポリペプチドとを混合して、前記タグペプチド融合ポリペプチドを前記担体に吸着させる工程;
(2-2)タグペプチド融合ポリペプチドを吸着した担体を洗浄液で洗浄する工程;
(2-3)イミダゾール、L-ヒスチジン、トリス塩基、又は水を用いて、前記担体に吸着したタグペプチド融合ポリペプチドを前記担体から溶出する工程;
の工程(2-1)~(2-3)を備えたポリペプチドの精製方法であり、以下、「本件ポリペプチドの精製方法」ともいう。
【0016】
本明細書において、ヒスチジンをH、アスパラギン酸をD、グルタミン酸をE、トリプトファンをW、バリンをV、トレオニンをT、アルギニンをR、メチオニンをM、ロイシンをL、プロリンをP、アスパラギンをN、リシンをK、グルタミンをQ、イソロイシンをI、フェニルアラニンをF、システインをC、チロシンをY、セリンをS、グリシンをG、アラニンをAで表すこともある。
【0017】
本明細書における「ポリペプチド」とは、5残基以上のアミノ酸がペプチド結合によって連結されて形成されたペプチドを意味する。また、本明細書における「タグペプチド」とは、ニッケル、銅、亜鉛、及び、コバルトから選択される1又は2以上の金属イオンと親和性を有するアフィニティタグを意味する。
【0018】
本件タグペプチドとしては、上記(1-1)~(1-11)のいずれかのポリペプチドからなるタグペプチドであるかぎり特に制限されないが、かかるタグペプチドのN末端又はC末端には、さらに任意のアミノ酸、好ましくはヒスチジン、アスパラギン酸又グルタミン酸が1~5残基、好ましくは1~3残基、より好ましくは1又は2残基、さらに好ましくは1残基連結していてもよい。
【0019】
本明細書における(1-1)~(1-11)のポリペプチドにおいて、アスパラギン酸又はグルタミン酸に置換するヒスチジンの位置は特に制限されないが、ヒスチジンとヒスチジンとの間にアスパラギン酸又はグルタミン酸が連結するように置換することが好ましい。具体的には、配列番号12に示すHEH、配列番号13に示すEHE、配列番号14に示すHDH、又は配列番号15に示すDHDのいずれかのトリペプチドを少なくとも1カ所含むことが好ましい。
【0020】
また、(1-2)又は(1-3)のポリペプチドにおいては、HE、EH、HD、又はDHを2カ所以上、より好ましくは3カ所以上、(1-4)又は(1-5)のポリペプチドにおいては、HE、EH、HD、又はDHを2カ所以上、より好ましくは3カ所以上、さらに好ましくは4カ所以上、(1-6)又は(1-7)のポリペプチドにおいては、HE、EH、HD、又はDHを2カ所以上、より好ましくは3カ所以上、さらに好ましくは4カ所以上、さらにより好ましくは5カ所以上、(1-8)又は(1-9)のポリペプチドにおいては、HE、EH、HD、又はDHを2カ所以上、より好ましくは3カ所以上、さらに好ましくは4カ所以上、さらにより好ましくは5カ所以上、中でも6カ所以上、(1-10)又は(1-11)のポリペプチドにおいては、HE、EH、HD、又はDH
2カ所以上、より好ましくは3カ所以上、さらに好ましくは4カ所以上、さらにより好ましくは5カ所以上、中でも6カ所以上、特に好ましくは7カ所以上、最も好ましくは8カ所以上含んでもよい。(1-7)のポリペプチドとしては、たとえば、HDを5カ所含有する配列番号16に示すアミノ酸配列やHEを5カ所含有する配列番号17に示すアミノ酸配列を挙げることができる。
【0021】
複数箇所のヒスチジンが置換する場合における置換するアスパラギン酸又はグルタミン酸の組み合わせは特に制限されず、すべてがアスパラギン酸であっても、すべてがグルタミン酸であっても、アスパラギン酸とグルタミン酸との組み合わせでも良い。
【0022】
本発明のタグペプチド融合ポリペプチドとしては、上記本件タグペプチドとポリペプチドが融合したタグペプチド融合ポリペプチド(以下、「本件タグペプチド融合ポリペプチド」ともいう)であればよく、かかるタグペプチド融合ポリペプチドにおいて、融合させるポリペプチドとタグペプチドとの間に任意のアミノ酸が結合していても、融合させるポリペプチドとタグペプチドとが直接連結していてもよい。なお、任意のアミノ酸としては1~3000残基、好ましくは2~1000残基、より好ましくは3~100残基を挙げることができる。
【0023】
上記本件タグペプチドと融合するポリペプチドとしては、タンパク質、ペプチドホルモン、エピトープ等を挙げることができる。タンパク質としては特に制限されないが、酵素、蛍光タンパク質、構造タンパク質、金属結合タンパク質、補因子タンパク質、抗体、糖タンパク質等を挙げることができる。
【0024】
さらに、タグペプチド融合ポリペプチドには標識配列を含んでもよい。標識配列の位置はタグペプチドのN末端側、C末端側のいずれか、又は両方のいずれでもよく、標識配列としては、FLAG配列、HA配列、MYC配列、GFP配列、MBP配列、GST配列、SNAP配列、ACP配列、CLIP配列、TAP配列、V5配列などを挙げることができる。
【0025】
また、タグペプチド融合ポリペプチドにおいて、タグペプチドとポリペプチドの間にプロテアーゼを認識するアミノ酸配列からなるポリペプチドを含んでもよい。プロテアーゼを認識するアミノ酸配列としては、トロンビン、エンテロキナーゼ、TEVプロテアーゼ、Xa因子、PreScission(登録商標)を認識するアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。かかるプロテアーゼを認識するアミノ酸配列からなるポリペプチドを備えていれば、必要に応じてプロテアーゼを用いてタグペプチドとポリペプチドとの融合を切断することが可能となる。
【0026】
上記本件タグペプチドや、本件タグペプチドと融合するポリペプチドは、遺伝子工学的手法や、液相法や固相法によるペプチド合成法などの公知の手法によって作製することが可能である。
【0027】
本発明のタグペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、本件タグペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、「本件ポリヌクレオチド」ともいう)であれば特に制限されず、かかるポリヌクレオチドは遺伝子工学的手法を用いた公知の手法によって作製することが可能である。本件タグペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、たとえば配列番号18又は19に示すポリヌクレオチドを挙げることができるが、これらのヌクレオチドにおけるヒスチジン、アスパラギン酸又はグルタミン酸の対応する他のコドンに置換した配列を用いてもよい。
【0028】
本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターとしては、上記本件ポリヌクレオチドを含んでいる発現ベクター(以下、「本件発現ベクター」ともいう)であれば特に制限されず、発現ベクターとしては、宿主に応じて適宜選択することができ、pETベクター、pBTベクター、pGEXベクター、pKKベクター、pSEベクター、pQEベクター等の細菌用発現ベクターや、pcDNAベクター、pCMV-FLAGベクター、pEGFPベクター、pcDMベクター等の哺乳動物用発現ベクターや、YEpベクター等の酵母用発現ベクターや、pFastBaclベクター、BakPAKベクター等の昆虫用発現ベクターや、タバコモザイクウイルスベクター等の植物用発現ベクターを挙げることができる。
【0029】
本発明のポリペプチドの精製方法としては、
(2-1)ニッケル、銅、亜鉛、及び、コバルトから選択される1又は2以上の金属イオンを固定化した担体と、上記本件タグペプチド融合ポリペプチドとを吸着液の存在下で混合して、前記タグペプチド融合ポリペプチドを前記担体に吸着させる工程;
(2-2)タグペプチド融合ポリペプチドが吸着した担体を洗浄液で洗浄する工程;
(2-3)イミダゾール、L-ヒスチジン、トリス塩基、又は水を用いて、前記担体に吸着したタグペプチド融合ポリペプチドを前記担体から溶出する工程;
の工程(2-1)~(2-3)を備えたポリペプチドの精製方法(以下、「本件ポリペプチドの精製方法」ともいう)であればよく、金属イオンとしてはニッケルであることが好ましい。
【0030】
上記金属イオンと本件タグペプチド融合ポリペプチドが結合することにより、タグペプチドが融合したポリペプチドを上記担体に固定化することが可能となる。なお、本件タグペプチドが融合したポリペプチドと、上記金属イオンを固定化した担体とは吸着液の存在下で混合後直ちに配位結合するが、混合した後に1分以上、1時間以上、又は6時間以上静置してもよい。
【0031】
上記担体としては、水に対して不溶なものであれば特に制限されず、シリカゲル、多孔性ガラス、セルロース、アガロース、デキストラン、ポリアクリルアミド、磁気ビーズを挙げることができる。
【0032】
上記吸着液としては、上記金属イオンを固定化した担体と上記本件タグペプチド融合ポリペプチドを混合して、上記担体に固定化された金属イオンと上記本件タグペプチド融合ポリペプチドが結合し、上記担体に上記本件タグペプチド融合ポリペプチドが吸着できるものであれば特に制限されないが、カリウム、ナトリウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属塩を含む溶液や、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩を含む溶液や、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等の緩衝液を挙げることができる。アルカリ金属塩を含む溶液としては、KCl、NaCl、LiCl、RbCl溶液を挙げることができ、アルカリ土類金属塩を含む溶液としては、CaClやMgCl溶液を挙げることができる。
【0033】
上記吸着液としてアルカリ金属塩を含む溶液やアルカリ土類金属塩を含む溶液を用いる場合の濃度としては、0.03~2.5M、0.05~2.2M、0.1~2M、0.5~1.8M、1~1.5Mを挙げることができる。0.03M以上とすることで、上記担体に固定化された金属イオンと上記本件タグペプチド融合ポリペプチドとの吸着効率を高めることが可能となる。
【0034】
上記吸着液として緩衝液を用いる場合のpHとしては、用いる緩衝液の種類や濃度により適宜調整できるが、pH6~10、好ましくはpH6.5~9、より好ましくはpH7~8.6を挙げることができる。また、緩衝液の濃度としては、0.05~2M、好ましくは0.1~1Mを挙げることができる。
【0035】
上記洗浄液としては、上記担体に固定化された金属イオンと上記本件タグペプチド融合ポリペプチドとの結合が維持又はほとんど維持される溶液であれば特に制限されず、ここで、「上記担体に固定化された金属イオンと上記本件タグペプチド融合ポリペプチドとの結合がほとんど維持される溶液」とは、上記担体に固定化された金属イオンと上記本件タグペプチド融合ポリペプチドとの結合がいったん外れても、周辺の(カラムを用いた場合は下方の)担体に固定化された金属イオンと再度結合しうる溶液を意味する。
【0036】
上記洗浄液は、上記吸着液を用いることができる。上記洗浄液としてアルカリ金属塩を含む溶液やアルカリ土類金属塩を含む溶液を用いる場合の濃度としては、0.03~2.5M、0.05~2.2M、0.1~2M、0.5~1.8M、1~1.5Mを挙げることができる。ただし、目的外のポリペプチドが担体に固定化された金属イオンへ非特異的に結合すること防ぐという観点からは、アルカリ金属塩を含む溶液やアルカリ土類金属塩を含む溶液を用いる場合の濃度の下限としては、0.07M、好ましくは0.05M、より好ましくは0.03Mを挙げることができ、上限としては0.1M、好ましくは0.08M、より好ましくは0.06Mを挙げることができる。
【0037】
また、上記洗浄液として緩衝液を用いる場合のpHとしては、用いる緩衝液の種類や濃度により適宜調整できるが、pH6~10、好ましくはpH6.5~9、より好ましくはpH7~8.6を挙げることができる。また、緩衝液の濃度としては、0.05~2M、好ましくは0.1~1Mを挙げることができる。ただし、目的外のポリペプチドが担体に固定化された金属イオンへ非特異的に結合することを防ぐという観点から、pHとしてはpH7~8、好ましくはpH7.2~7.4を挙げることができる。
【0038】
上記溶出液は、上記担体に固定化された金属イオンと上記本件タグペプチド融合ポリペプチドとの結合が外れる溶液であれば特に制限されないが、イミダゾール溶液、L-ヒスチジン溶液、緩衝液、アルカリ金属塩溶液又は水を挙げることができる。
【0039】
上記溶出液としてイミダゾール溶液を用いる場合は、好ましくは0.005~1M、好ましくは0.05~0.1Mを挙げることができ、所定の濃度のイミダゾール溶液を用いて溶出してもよいが、たとえば0-100mMのイミダゾールの濃度勾配により溶出を行ってもよい。
【0040】
上記溶出液としてL-ヒスチジン溶液を用いる場合は、好ましくは0.005~1M、より好ましくは0.05~0.1Mを挙げることができ、所定の濃度のL-ヒスチジン溶液を用いて溶出してもよいが、たとえば0-100mMのヒスチジンの濃度勾配により溶出を行ってもよい。
【0041】
上記溶出液として緩衝液を用いる場合のpHとしては、用いる緩衝液の種類や濃度により適宜調整できるが、好ましくはpH6~10、より好ましくはpH8.5~9を挙げることができる。緩衝液の濃度としては、0.1~2M、好ましくは0.5~1Mを挙げることができる。
【0042】
本発明のポリペプチドの精製キットとしては、上記本件発現ベクターを含有していればよく、ニッケル、銅、亜鉛、及び、コバルトから選択される1又は2以上の金属イオンを固定化した担体を含んでもよい。また、必要に応じてポリペプチドを精製するための説明書や、上記本件ポリペプチドの精製方法において用いる吸着液、洗浄液、溶出液を含んでもよい。
【0043】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
これまで6つのヒスチジンからなるヒスチジンタグが広く使われているが、かかるヒスチジンが連続したタグを用いるとタンパク質の活性が低下することが知られている。そこで、ヒスチジンとヒスチジン以外のアミノ酸との組み合わせによりタンパク質の活性低下を抑制できないか検討した。赤色蛍光タンパク質(RFPタンパク質)のC末端側に、ヒスチジンが連続したタグペプチドを融合したRFP及び3つのヒスチジンの間に様々なアミノ酸を配置したタグペプチドが付加したタグペプチドを作製した。かかるタグペプチドを融合したRFPを生産する株を作製し、RFPによる蛍光を調べることでタンパク質の活性を評価した。
【0045】
(a-1)6H:HHHHHH(配列番号2)
(a-2)12H:HHHHHHHHHHHH(配列番号8)
(a-3)15H:HHHHHHHHHHHHHHH(配列番号11)
(a-4)18H:HHHHHHHHHHHHHHHHHH(配列番号20)
(a-5)3HW×5:HHHWHHHWHHHWHHHWHHH(配列番号21)
(a-6)3HV×5:HHHVHHHVHHHVHHHVHHH(配列番号22)
(a-7)3HT×5:HHHTHHHTHHHTHHHTHHH(配列番号23)
(a-8)3HR×5:HHHRHHHRHHHRHHHRHHH(配列番号24)
(a-9)3HM×5:HHHMHHHMHHHMHHHMHHH(配列番号25)
(a-10)3HL×5:HHHLHHHLHHHLHHHLHHH(配列番号26)
(a-11)3HP×5:HHHPHHHPHHHPHHHPHHH(配列番号27)
(a-12)3HN×5:HHHNHHHNHHHNHHHNHHH(配列番号28)
(a-13)3HK×5:HHHKHHHKHHHKHHHKHHH(配列番号29)
(a-14)3HQ×5:HHHQHHHQHHHQHHHQHHH(配列番号30)
(a-15)3HI×5:HHHIHHHIHHHIHHHIHHH(配列番号31)
(a-16)3HF×5:HHHFHHHFHHHFHHHFHHH(配列番号32)
(a-17)3HE×5:HHHEHHHEHHHEHHHEHHH(配列番号33)
(a-18)3HD×5:HHHDHHHDHHHDHHHDHHH(配列番号34)
(a-19)3HC×5:HHHCHHHCHHHWHHHCHHH(配列番号35)
(a-20)3HY×5:HHHYHHHYHHHYHHHYHHH(配列番号36)
(a-21)3HS×5:HHHSHHHSHHHSHHHSHHH(配列番号37)
(a-22)3HG×5:HHHGHHHGHHHGHHHGHHH(配列番号38)
(a-23)3HA×5:HHHAHHHAHHHAHHHAHHH(配列番号39)
【0046】
YEpGAPcherryベクター(特開2017-88536参照)をテンプレートとして上記タグペプチドがRFPタンパク質のC末端側に付加するようにプライマーを設計してPCRを行い、上記タグペプチド融合RFPをコードする塩基配列をPCRにより増幅した。かかるPCR産物をYEpGAPcherryベクターに相同組み換えにより組み込み、サッカロマイセス・セレビシエのBY4741株(Brachmann et al., Yeast Volume14, Issue2 30 January 1998参照)へ形質転換し、それぞれのタグペプチドを融合したRFPを生産する形質転換体を作製した。
【0047】
次に、24-well プレートにYPDを1mL加え、上記で作製した形質転換体を植菌し、28℃、150rpmで24時間培養した。その後、培養液10μLを取り、YPD1mLに混ぜてさらに28℃、150rpmで24時間培養した。培養液10μLを蒸留水で100倍希釈してSynergy MX SMATBL(BioTek社)でOD600及び蛍光(excitation 558, emission 613)を測定した。RFPの活性(赤色の強度)は、「RFP活性=蛍光/OD600」で算出した。結果を図1に示す。
【0048】
図1に示すように、連続するヒスチジンの数が多くなるほどRFPの活性が低下していた。また、同じヒスチジンを15個有しているタグと比較して、3連続するヒスチジンの間にプロリン(P)、グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)、アラニン(A)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)を有していれば、1.5倍以上の活性を有していることが明らかとなった。
【0049】
[実施例2]
実施例1により、連続するヒスチジンにプロリン(P)、グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)、アラニン(A)、アスパラギン(N)、又はグルタミン(Q)が含まれることでタンパク質の活性低下を抑制していることが確認された。そこで、以下に示すヒスチジンとアスパラギン酸との様々な組み合わせにおけるタンパク質の活性を調べた。
【0050】
(b-1)タグペプチド無し
(b-2)HHHHHH(配列番号2)
(b-3)HDHDHDHDHDH(配列番号16)
(b-4)HHDHHDHH(配列番号40)
(b-5)HHHDHHH(配列番号41)
(b-6)HHHHHHDDDDDD(配列番号42)
(b-7)DDDDDDHHHHHH(配列番号43)
(b-8)DDDHHHHHHDDD(配列番号44)
(b-9)HHHHHHDDD(配列番号45)
(b-10)DDDHHHHHH(配列番号46)
【0051】
ガウシアルシフェラーゼ(GLuc)のC末端側に、上記(b-1)~(b-10)のタグペプチドが付加したタグペプチド融合GLucを生産する形質転換体を作製し、GLucによる蛍光を調べることでタンパク質の活性を評価した。
【0052】
GLucを含むベクター(New England Biolabs Japan社)をテンプレートとして上記タグペプチドがGLucタンパク質のC末端側に付加するようにプライマーを設計してPCRを行い、上記タグペプチド融合GLucをコードする塩基配列をPCRにより増幅した。かかるPCR産物を上記YEpGAPcherryベクターに相同組み換えにより組み込んで、サッカロマイセス・セレビシエの上記BY4741株へ形質転換し、それぞれのタグペプチドを融合したGLucを生産する形質転換体を作製した。
【0053】
次に、24-well プレートにYPDを1mL加え、上記で作製した形質転換体を植菌し、28℃、150rpmで24時間培養した。その後、培養液10μLを取り、YPD1mLに混ぜてさらに28℃、150rpmで24時間培養した。培養液10μLを蒸留水で100倍希釈して分光光度計でOD600を測定した。また、BioLux(登録商標)Gaussia Luciferase Assay Kit(New England Biolabs社)とルミノメータ(Glo Max20/20n Luminometer:Promega社)を用いて培養液中のルシフェラーゼの相対発現量(RLU/(μL・OD))をルシフェラーゼ活性として算出した。結果を図2に示す。
【0054】
図2から明らかなように、6個のヒスチジン(H)が連続した6Hの場合と比較して、アスパラギン酸(D)を含有した場合にはルシフェラーゼ活性が2倍以上となっており、特に配列番号16に示すヒスチジンとアスパラギン酸を交互に配置したHDHDHDHDHDHにおいては6Hと比較して10倍以上活性が高いことが確認された。したがって、ヒスチジンの連続を少なくすること、及び/又はアスパラギン酸の連続性を少なくすることで高いルシフェラーゼ活性が維持できると考えられた。
【0055】
[実施例3]<チューブ内でのニッケルビーズへの吸着-1>
実施例2によりタグペプチドとして配列番号16に示すアミノ酸配列からなるHDHDHDHDHDH(6HD)を用いればタンパク質の活性低下を抑制することが確認された。ここで、タグペプチドを利用してタンパク質を精製するには、タグペプチドがニッケルに吸着する必要がある。そこで、配列番号16に示すアミノ酸配列からなるタグペプチド(HDHDHDHDHDH:6HD)又は配列番号17に示すアミノ酸配列からなるタグペプチドHEHEHEHEHEH:6HE)のニッケルビーズへの吸着を調べた。
【0056】
(RFPタンパク質抽出液の調製)
上記実施例1と同様に、YEpGAPcherryベクターを用いてRFPタンパク質のC末端側に配列番号16に示すアミノ酸配列からなるタグペプチドを融合したタグペプチド融合ポリペプチド(RFP-6HD)又はRFPタンパク質のC末端側に配列番号17に示すアミノ酸配列からなるタグペプチドを融合したタグペプチド融合ポリペプチド(RFP-6HE)を生産するサッカロマイセス・セレビシエのBY4741株の形質転換体を作製した。かかる形質転換体、及び実施例1で作製したRFP-6Hを生産する形質転換体、タグペプチドなしのRFPを生産する形質転換体を培養し、培養液を15mLチューブに移し、3000rpmで1分ほど遠心分離し、上清を捨てた。そこに0.1M トリス塩基を5mL加え、攪拌後に3000rpmで1分遠心分離して上清を捨てた。そこに0.1M トリス塩基+1% TritonX-100を1.5mL加え、攪拌後に50℃で1時間熱した。その後、9000rpmで5分遠心分離し、上清をRFP-6HD、RFP-6HE、RFP-6H、又はRFPのタンパク質抽出液とした。
【0057】
(ニッケルビーズへの吸着)
ニッケルビーズ(His-Select Nickel Affinity Gel:シグマアルドリッチ社)50μL、上記RFP-6HE、RFP-6HD、RFP-6H又はRFPのタンパク質抽出液100μL及び吸着液(0.1M Tris-HCl pH7)100μLを1.5mLマイクロ遠心チューブ(sorenson社)に加えて混合し、Intelli-mixterを用いて、30rpmで10分混合し、その後6000rpmで数秒遠心した。結果を図3に示す。
【0058】
図3から明らかなように、6HE、6HDをタグペプチドとして融合したRFP-6HE及びRFP-6HDはニッケルビーズに吸着することが確認された。
[実施例4]<チューブ内でのニッケルビーズへの吸着-2>
【0059】
(塩の影響)
実施例3では吸着液としてTris-HClを用いたが、他の吸着液を用いてタグペプチド融合ペプチドのニッケルビーズへの吸着を調べた。また、実施例3ではタグペプチド融合ペプチドとして酵母で生産したタンパク質抽出液を用いたが、以下の方法で大腸菌で生産したRFP-6HE、RFP-6Hタンパク質抽出液を用いた。
【0060】
RFPのC末端側に6HEが結合したRFP-6HEを発現する形質転換体RAK26118株(DH5α株/genotype:pAmpOri-srlA100p-eEmRFP-6HE:Nakamura et al., molecular Biotechnology December 2018, Volume 60, Issue 12, pp 912-923)、及びRFPのC末端側に6Hが結合したRFP-6Hを発現する形質転換体RAK26117株(DH5α株/genotype:pAmpOri-srlA100p-eEmRFP-6H)を酵母エキス及びポリペプトンを含む培地で37℃、48時間、175rpmで培養した。次に、培養液を50mLチューブに移し、12,000rpmで1分遠心して上清を捨てた。1%TritonX-100を含む溶液を3mL加えて攪拌し、RFP-6HE又はRFP-6Hタンパク質抽出液を得た。
【0061】
また、吸着液として、吸着液の種類を0.1M LiCl、0.1M NaCl、0.1M KClとした場合、吸着液の濃度を1M KCl、0.1M KCl、0.01M KClとした場合に分けて行った。それぞれの吸着液を用いた場合の結果をそれぞれ図4(a)、(b)に示す。
【0062】
図4(a)、(b)から明らかなように、RFP-6HEは0.1M LiCl、NaCl、KClのいずれの塩の存在下でもニッケルビーズに吸着することが明らかとなった。なお、吸着液として蒸留水を用いた場合にはRFP-6HEはニッケルビーズに吸着しなかった(図示なし)。また、KClにおいて、塩濃度が0.01Mでは吸着せず、0.1M、1Mで吸着した。かかる結果より、RFP-6HEは一定の濃度以上の塩の存在下でニッケルビーズに吸着することが確認された。一方、RFP-6Hは蒸留水や0.01M KClでも吸着しており、RFP-6Hは塩濃度に依存せずにニッケルビーズに吸着すると考えられた。また、通常、1Mの濃度のKCl溶液は、通常のイオン交換クロマトグラフィーでは溶出に用いる塩濃度であるため、1Mの濃度のKClを用いてニッケルに吸着させれば、目的外のタンパク質の非特異的な吸着を低減させることが可能となる。
【0063】
また、一定の塩の存在下での吸着ということから、RFP-6HEとニッケルビーズとの吸着にはグルタミン酸の側鎖が関与している可能性が示唆された。
【0064】
[実施例5]<RFP-6HEの溶出(チューブ)>
上記実施例3及び4によりRFP-6HEはニッケルビーズに吸着することが確認できた。ここで、タンパク質を精製するには、ニッケルビーズに吸着したタンパク質を溶出する必要がある。そこで、さらに吸着したタンパク質をニッケルビーズから溶出できるかどうかをマイクロ遠心チューブを用いて調べた。
【0065】
(イミダゾールによる溶出)
吸着液として2M KPO pH8.0を用いて実施例3と同様にニッケルビーズに6HEを吸着させた。次に、0.1Mのイミダゾールで溶出を行った。結果を図5に示す。図5から明らかなようにチューブ全体が青紫色となり、RFP-6HEはRFP-6Hと同様に0.1Mのイミダゾールでニッケルビーズから溶出することが確認された。
【0066】
(ヒスチジンによる溶出)
イミダゾールによる溶出が確認されたが、イミダゾールは塩基性であるため、溶出するタンパク質の種類及び溶出したタンパク質の用途によっては、溶出液からイミダゾールを取り除く必要がある。ここで、イミダゾールは構造的にヒスチジンと部分的に類似している。また、ヒスチジンはイミダゾールより低コストであると共にpHの調整が容易である。そこで、イミダゾールの代わりにヒスチジン(1、10、20、40、60、80、100mM)での溶出を試みた。結果を図6に示す。図6から明らかなように、ヒスチジンによってもRFP-6HEはニッケルビーズから溶出することが確認された。
【0067】
(Tris緩衝液による溶出)
ヒスチジンタグのイミダゾールを用いた溶出ではpHを制御するためにTris緩衝液を用いることが多い。そこで、吸着液として2M KPO pH8.0を用いて実施例3と同様にニッケルビーズにRFP-6HEを吸着させた。次に、Tris緩衝液(pH8、9、及び10、濃度0.5及び1M)で溶出を行った。結果を図7に示す。図7から明らかなように、いずれのTris緩衝液でもRFP-6HEはニッケルビーズから溶出すること、0.5Mより1Mの方が溶出されやすいことが分かった。なお、0.5MではRFP-6Hの場合には溶出されにくいのに対して、RFP-6HEでは溶出でき、特にpH9及び10で溶出されやすいことが明らかとなった。
【0068】
[実施例6]<RFP-6HEの溶出(カラム)>
実施例5ではチューブを用いて所定の溶出液で溶出を行ったが、タンパク質の精製ではカラムを用いて溶出することが一般的である。そこで、カラムを用いた溶出を検討した。
【0069】
ペリスタルティックポンプ UVモニター一体型クロマトグラフィーシステム AKTA start(GEヘルスケアジャパン社)にニッケル充填カラム(His Trap HP:GEヘルスケアジャパン社)を連結した。RFP-6HE又はRFP-6Hを上記ニッケル充填カラムにアプライし、1M KPO pH8.0で吸着後、10分同液で洗浄し、さらに蒸留水で5分洗浄した。次に、0-100mMイミダゾールの濃度勾配によりRFP-6HE又はRFP-6Hを溶出してUV280nmの吸収を測定した。溶出したときピークが見られた液をSDS-PAGEにより解析した。ゲルはExtra PAGE One Precast Gel 10-20%を用いて300V、35分で電気泳動した。イミダゾールの濃度勾配による溶出結果を図8(a)、(b)に、SDS-PAGE解析の結果を図8(c)に示す。
【0070】
図8(a)、(b)から明らかなように、RFP-6Hと比較してRFP-6HEはシャープなピークで溶出していること、及び低濃度のイミダゾールで溶出可能であることが明らかとなった。また、図8(c)から明らかなように、RFP-6HEはRFP-6Hと同程度に精製されていることが確認された。
【0071】
なお、実施例1において、タグペプチドとして3連続するヒスチジンの間にプロリン(P)、グリシン(G)を有している場合にタンパク質の活性が高かったため、RFP-6HP及びRFP-6HGを実施例2と同様の方法で作製して、上記と同様に0-100mMイミダゾールの濃度勾配によりニッケル充填カラムからの溶出を試みた。結果を図9(a)、(b)に示す。
【0072】
図9(a)、(b)から明らかなように、RFP-6HP及びRFP-6HGではニッケル充填カラムからの溶出がほとんどなく、タンパク質の精製にはRFP-6HP及びRFP-6HGではなくRFP-6HEの方が好ましいことが明らかとなった。
【0073】
[実施例7]<RFP-6HEの溶出(カラム)-2>
実施例6においては、イミダゾールの濃度勾配による溶出の前に蒸留水で洗浄していたが、その後の本発明者らの解析により蒸留水でも一部溶出することが確認された。そこで、より精製度を向上させるために、実施例6における溶出において蒸留水での洗浄工程を除いた溶出を検討した。結果を図10に示す。
【0074】
図10から明らかなように、RFP-6HEの溶出が図8と比較してよりシャープになった。したがって、溶出前の洗浄では水を用いない方がよいことが明らかとなった。
【0075】
[実施例8]<RFP-6HEの洗浄(カラム)>
実施例4の結果により、塩の濃度によってはRFP-6HEがニッケルに吸着しづらい。一方で、精製度を高めるためには、ニッケルに対する目的外タンパク質の非特異的な結合を防ぐために洗浄液として低い塩濃度の方が好ましい。そこで、NaCl、KCl、LiCl及びRbClを用いて濃度勾配をかけて洗浄し、塩溶液を用いて洗浄をする場合の濃度の検討を行った。
【0076】
実施例6と同様にニッケル充填カラムにRFP-6HEをアプライし、1M KPO pH8.0で吸着後、1-0.1MのNaCl、1-0.1M KCl、又は1-0.1M Liclでの濃度勾配、及び0.1-0.01MのNaCl、0.1-0.01M KCl、0.1-0.01M LiCl、又は0.1-0.01M RbClでの濃度勾配により洗浄し、UV280nmを測定した。NaClの結果を図11に、KCl、LiCl、及びRbClの結果を図12(a)~(c)に示す。
【0077】
図11、12に示すようにNaCl、KCl、LiCl及びRbClのいずれも0.1Mの濃度では溶出されていなかった。一方、0.01Mではニッケルカラム内での移動が観察されていた。したがって、タンパク質の精製における精製度の向上及び収率の向上の観点からは、塩溶液を用いて洗浄をする場合の濃度としては0.03M以上が妥当であると考えられた。
【0078】
[実施例9]<RFP-6HEの溶出(カラム)-3>
実施例8により、NaCl、KCl、LiCl及びRbClを用いて洗浄する場合には、0.03M付近であればRFP-6HEがニッケルカラムに吸着したままであることが確認された。そこで、上記洗浄後に、イミダゾール、ヒスチジン、又は水で溶出が可能かどうかを調べた。
【0079】
実施例6と同様にニッケル充填カラムにRFP-6HEをアプライし、1M KPO pH8.0で吸着後、0.05M KClで30分洗浄後、0-100mMの濃度勾配のイミダゾール又はL-ヒスチジンで溶出した。結果を図13、14に示す。
【0080】
図13から明らかなように、低濃度(5~20mM)のイミダゾールでシャープなピークが観察された。また、図14から明らかなように、低濃度(5~15mM)のL-ヒスチジンでシャープな溶出となった。
【0081】
さらに、 実施例6と同様にニッケル充填カラムにRFP-6HEをアプライし、1M KPO pH8.0で吸着後、0.1M KClで50分洗浄後、蒸留水で30分ほど溶出した。結果を図15に示す。
【0082】
図15から明らかなように、低濃度の塩での洗浄後、水によってもシャープな溶出となることが明らかとなった。
【0083】
[実施例10]<DNAポリメラーゼの溶出(カラム)>
上記ではRFPの精製を行ったが、他のタンパク質としてDNAポリメラーゼでの精製を検討した。
【0084】
実施例2と同様の方法で、DNAポリメラーゼのC末端側にタグペプチド6HEが付加したタグペプチド融合DNAポリメラーゼを生産する大腸菌HST08株の形質転換体を作製した。次に、0.1M Tris-HCl pH8.0及び1%TritonX-100を3mL加えて攪拌後の温浴を95℃、5分とする以外は実施例3と同様の方法でDNAポリメラーゼ-6HEのタンパク質抽出液とした。
【0085】
実施例6と同様にニッケル充填カラムに上記DNAポリメラーゼ-6HEをアプライし、1M KPO pH8.0で吸着後、1M KClにより30分洗浄し、100mM イミダゾールで30分ほど溶出し、UV280nmを測定した。結果を図16に示す。
【0086】
図16から明らかなように、極めてシャープにDNAポリメラーゼ-6HEが溶出することが確認された。したがって、本件タグペプチドを用いれば、タンパク質の種類にかかわらずタンパク質を高純度で精製可能であることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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