(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ナット及びその製造方法、並びに、送りねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16B 37/00 20060101AFI20241203BHJP
B23G 1/34 20060101ALI20241203BHJP
F16B 33/02 20060101ALI20241203BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
F16B37/00 F
B23G1/34
F16B33/02 Z
F16H25/24 H
(21)【出願番号】P 2021101349
(22)【出願日】2021-06-18
【審査請求日】2024-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2020172535
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 猛志
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/142378(WO,A1)
【文献】国際公開第03/078234(WO,A1)
【文献】特開2003-176810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 37/00
F16B 33/02
B23G 1/34
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に、ねじ山を螺旋状に形成してなる雌ねじ部を有する筒状部と、
前記筒状部の円周方向1箇所に形成され、前記筒状部の外周面と内周面とに開口するスリットと、を備え、
前記スリットが、前記ねじ山のうちで前記スリットが横切る部分におけるリード角の方向に対し直交する方向に伸長するように形成されており、
前記筒状部の径方向から見て、前記スリットが軸方向片側から他側に向かう程円周方向片側から他側に向かう方向に傾斜しているとした場合に、前記筒状部のうちで前記スリットを挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性が大きくなっており、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性が小さくなっているか、あるいは、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性が小さくなっており、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性が大きくなっている、
ナット。
【請求項2】
前記筒状部のうちで前記スリットを挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さが高くなっており、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さが低くなっているか、あるいは、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さが低くなっており、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さが高くなっている、
請求項1に記載のナット。
【請求項3】
前記ねじ山のフランク面に、該ねじ山の形成方向に沿った研削筋目が形成されている、
請求項1又は2に記載のナット。
【請求項4】
前記スリットの伸長方向に関する両側の端部が、前記筒状部の軸方向両側の端面に開口していない、
請求項1~3のいずれかに記載のナット。
【請求項5】
前記雌ねじ部が、多条ねじにより構成されている、
請求項1~4のいずれかに記載のナット。
【請求項6】
前記筒状部のうち、前記スリットを挟んで互いに整合する両側部分に、該スリットの伸長方向に対して直交する方向に形成された一対の締付孔を有する、
請求項1~5のうちのいずれか1項に記載のナット。
【請求項7】
筒状部の内周面に、ねじ山を螺旋状に形成してなる雌ねじ部を形成する工程と、
前記筒状部の円周方向1箇所に、該筒状部の外周面と内周面とに開口するスリットを、前記ねじ山のうちで前記スリットが横切る部分におけるリード角の方向に対し直交する方向に伸長するように形成する工程と、
前記筒状部のうち、前記スリットを挟んだ円周方向両側近傍部分にエンドミルにより切削加工を施すことで、前記筒状部の径方向から見て、前記スリットが軸方向片側から他側に向かう程円周方向片側から他側に向かう方向に傾斜しているとした場合に、前記筒状部のうちで前記スリットを挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さを低くし、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さを高くするか、あるいは、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さを高くし、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さを低くする工程と、を備える、
ナットの製造方法。
【請求項8】
前記エンドミルを、前記筒状部の軸方向片側の端部から挿入し、前記スリットの伸長方向に沿って変位させることにより、前記筒状部のうち、前記スリットを挟んだ円周方向両側近傍部分に切削加工を施す、
請求項7に記載のナットの製造方法。
【請求項9】
前記エンドミルは、前記雌ねじ部の内径の50%以上90%以下の外径を有する、
請求項8に記載のナットの製造方法。
【請求項10】
請求項6に記載のナットと、
外周面に、前記雌ねじ部と螺合する雄ねじ部を有するロッドと、
前記一対の締付孔に挿通又は螺合され、前記スリットの間隔を拡縮するためのボルトと、
を備える、送りねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリットを有し、内径を拡縮可能に構成されたナット及びその製造方法、並びに、前記ナットを使用した送りねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図11~
図13(b)は、国際公開第03/078234号パンフレット(特許文献1)に記載された、送りねじ装置の従来構造の1例を示している。送りねじ装置100は、ナット101と、ロッド102と、ボルト103とを備える。
【0003】
ナット101は、内周面に雌ねじ部104を有する筒状部105と、該筒状部105に軸方向に伸長するように形成されたスリット106と、筒状部105のうち、スリット106を挟んで互いに整合する部分に、該スリット106の伸長方向(形成方向)に対して直交する方向に形成された一対の締付孔107a、107bとを備える。
【0004】
ロッド102は、外周面に、雌ねじ部104と螺合する雄ねじ部108を有する。
【0005】
ボルト103は、一対の締付孔107a、107bのうちの一方の締付孔107aを挿通し、かつ、他方の締付孔107bに螺合されている。
【0006】
送りねじ装置100では、他方の締付孔107bに対するボルト103の締め付け量を調整することで、スリット106の幅を拡縮させ、筒状部105の内径を拡縮させることにより、ナット101の雌ねじ部104とロッド102の雄ねじ部108との螺合部のバックラッシュを抑えることができるようになっている。
【0007】
国際公開第03/078234号パンフレットに記載の構造では、ナット101に、該ナット101の中心軸と平行な軸方向に伸長するスリット106を形成し、該スリット106の幅を拡縮させるためのボルト103を、スリット106の伸長方向に対して直交する方向に配置している。これに対し、雌ねじ部104のねじ山及び雄ねじ部108のねじ山は、リード角を有しており、ナット101の拡縮方向に相当するボルト103の軸方向(
図13(a)の上下方向)に対し傾斜している。
【0008】
したがって、ボルト103の締め付け量を大きくすることにより、筒状部105の内径を縮径させる際に、
図13(a)及び
図13(b)に示すように、雌ねじ部104を構成するねじ山のフランク面と雄ねじ部108を構成するねじ山のフランク面との間で偏当たりを生じてしまう。このような偏当たりが生じると、雌ねじ部104を構成するねじ山のフランク面と雄ねじ部108を構成するねじ山のフランク面との間に作用する摩擦が大きくなるとともに、不可避のバックラッシュの原因となる隙間が大きくなる。
【0009】
これに対し、国際公開第2019/142378号パンフレット(特許文献2)には、スリットを、ナットの内周面に備えられた雌ねじ部を構成するねじ山(ねじ溝)のうちで前記スリットが横切る部分におけるリード角の方向に対し直交する方向に伸長するように形成し、かつ、ナットの内径を縮径させるためのボルトを、前記スリットの伸長方向に対して直交する方向に配置した送りねじ装置が記載されている。国際公開第2019/142378号パンフレットに記載の送りねじ装置は、前記ボルトの締め付け量を大きくして、前記ナットの内径を縮径させた場合に、前記雌ねじ部を構成するねじ山のフランク面と、ロッドの外周面に備えられた雄ねじ部を構成するねじ山のフランク面との間に存在する隙間の厚さをほぼ一定に保持したまま、これらの面を互いに近づけて摺動可能に当接(面接触)させることができる。このため、前記ナットの雌ねじ部と前記ロッドの雄ねじ部との間に作用する摩擦が大きくなることを防止することができ、かつ、バックラッシュの原因となる、前記雌ねじ部を構成するねじ山のフランク面と、前記雄ねじ部を構成するねじ山のフランク面との間の隙間を小さく抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第03/078234号パンフレット
【文献】国際公開第2019/142378号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
国際公開第2019/142378号パンフレットに記載の送りねじ装置は、次のような面から改良の余地がある。すなわち、国際公開第2019/142378号パンフレットに記載の構造では、スリットの伸長方向中央位置を挟む両側部分に、該スリットの伸長方向に対して直交する方向に一対の締付孔を形成している。そして、ナットの筒状部の内径を縮径させるためのボルトを、一方の締付孔に挿通し、かつ、他方の締付孔に螺合している。
【0012】
したがって、前記筒状部の内径を縮径させるべく、前記他方の締付孔に対する前記ボルトの締め付け量を増大させると、前記筒状部は、前記スリットの幅が伸長方向中央部で最も狭く、伸長方向両側に向かう程広くなるように変形する。すなわち、前記筒状部は、軸方向中間部で最も内径が小さく、軸方向両側に向かう程内径が大きくなるように変形する。この結果、前記筒状部の軸方向中間部において、該筒状部の内周面に備えられた雌ねじ部を構成するねじ山のフランク面と、ロッドの外周面に備えられた雄ねじ部を構成するねじ山のフランク面との間に作用する摩擦が大きくなる可能性がある。又、前記雌ねじ部のピッチが、軸方向中間部で最も狭く、軸方向両側に向かう程広くなるといった問題を生じる可能性がある。これらの問題は、前記スリットの伸長方向両側の端部が、前記筒状部の軸方向両側の端面に開口していないナットにおいて、顕著になりやすい。
【0013】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、ナットとロッドとが相対回転することに対する抵抗、及び、前記ナットと前記ロッドとの間のバックラッシュをより効果的に抑えることができる構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様に係るナットは、
内周面に、ねじ山を螺旋状に形成してなる雌ねじ部を有する筒状部と、
前記筒状部の円周方向1箇所に形成され、前記筒状部の外周面と内周面とに開口するスリットと、を備える。
【0015】
前記スリットは、前記ねじ山のうちで前記スリットが横切る部分におけるリード角の方向に対し直交する方向に伸長するように形成されている。
【0016】
特に本発明の一態様にかかるナットでは、前記筒状部の径方向から見て、前記スリットが軸方向片側から他側に向かう程円周方向片側から他側に向かう方向に傾斜しているとした場合に、前記筒状部のうちで前記スリットを挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性(縮径する方向に変形することに対する剛性)が大きくなっており、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性が小さくなっているか、あるいは、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性が小さくなっており、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性が大きくなっている。
【0017】
本発明の一態様に係るナットでは、前記筒状部のうちで前記スリットを挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さを高くし、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さを低くするか、あるいは、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さが低くし、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さが高くすることができる。
【0018】
本発明の一態様に係るナットでは、前記ねじ山のフランク面に、該ねじ山の形成方向に沿った研削筋目を形成することができる。
【0019】
本発明の一態様に係るナットでは、前記スリットの伸長方向に関する両側の端部を、前記筒状部の軸方向両側の端面に開口させないことができる。あるいは、前記スリットの伸長方向に関する両側の端部を、前記筒状部の軸方向両側の端面に開口させても良い。
【0020】
本発明の一態様に係るナットでは、前記雌ねじ部を、条数(ねじ山の数)が2以上の多条ねじにより構成することができる。あるいは、前記雌ねじ部を、一条ねじにより構成しても良い。
【0021】
本発明の一態様に係るナットは、前記筒状部のうち、前記スリットを挟んで互いに整合する両側部分に、該スリットの伸長方向に対して直交する方向に形成された一対の締付孔を有することができる。
【0022】
本発明の一態様に係るナットの製造方法は、
筒状部の内周面に、ねじ山を螺旋状に形成してなる雌ねじ部を形成する工程と、
前記筒状部の円周方向1箇所に、該筒状部の外周面と内周面とに開口するスリットを、前記ねじ山のうちで前記スリットが横切る部分におけるリード角の方向に対し直交する方向に伸長するように形成する工程と、
前記筒状部のうち、前記スリットを幅方向両側から挟む部分にエンドミルにより切削加工を施すことで、前記筒状部の径方向から見て、前記スリットが軸方向片側から他側に向かう程円周方向片側から他側に向かう方向に傾斜しているとした場合に、前記筒状部のうちで前記スリットを挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さを低くし、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さを高くするか、あるいは、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さを高くし、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さを低くする工程と、
を備える。
【0023】
本発明の一態様に係るナットの製造方法では、前記エンドミルを、前記筒状部の軸方向片側の端部から挿入し、前記スリットの伸長方向に沿って変位させることにより、前記筒状部のうち、前記スリットを挟んだ円周方向両側近傍部分に切削加工を施すことができる。
この場合、前記エンドミルは、前記雌ねじ部の内径の50%以上90%以下の外径を有することができる。
【0024】
本発明の一態様に係る送りねじ装置は、
本発明の一態様に係るナットであって、一対の締付孔を有するナットと、
外周面に、前記雌ねじ部と螺合する雄ねじ部を有するロッドと、
前記一対の締付孔に挿通又は螺合され、前記スリットの間隔を拡縮するためのボルトと、
を備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ナットとロッドとが相対回転することに対する抵抗、及び、前記ナットと前記ロッドとの間のバックラッシュをより効果的に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の1例に係るステアリングホイールの電動位置調節装置を示す側面図であり、
図1(a)は、ステアリングホイールを上端位置とした場合を示す図であり、
図1(b)は、ステアリングホイールを中間位置とした場合を示す図であり、
図1(c)は、ステアリングホイールを下端位置とした場合を示す図である。
【
図2】
図2(a)は、本発明の実施の形態の1例に係るナットを径方向外側から見た側面図であり、
図2(b)は、
図2(a)とは異なる角度から見た側面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態の1例に係る送りねじ装置の断面模式図である。
【
図4】
図4(a)は、ナットを取り出して示す、
図3のA-A断面図であり、
図4(b)は、ナットを取り出して示す、
図3のB-B断面図であり、
図4(c)は、ナットを取り出して示す、
図3のC-C断面図である。
【
図6】
図6は、ナットの筒状部を軸方向片側から見た端面図である。
【
図7】
図7(a)~
図7(c)は、エンドミルによりねじ山を切削する様子を工程順に示す、平面図である。
【
図9】
図9は、ナットの雌ねじ部に仕上研削を施す様子を示す側面図である。
【
図11】
図11は、従来の送りねじ装置の1例を示す側面図である。
【
図13】
図13(a)は、従来構造の送りねじ装置の問題点を説明するための断面模式図であり、
図13(b)は、
図13(a)のH部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態の1例について、
図1~
図10により説明する。本例は、本発明の送りねじ装置を、ステアリングホイールの上下位置を調節するためのチルト機構を備える、ステアリングホイールの電動位置調節装置に適用した例である。
【0028】
ステアリングホイールの位置調節装置は、コラムブラケット1と、ステアリングコラム2と、ステアリングシャフト3と、電動アクチュエータ4とを備える。
【0029】
コラムブラケット1は、車体5に支持固定される取付部6と、該取付部6の前側部分の幅方向側縁から下方に折れ曲がった前側支持部7と、取付部6の後側の端縁から下方に折れ曲がった後側支持部8とを備える。後側支持部8の前側面の上下方向中間部には、円筒状のスリーブ9が支持固定されている。
【0030】
ステアリングコラム2は、全体を円筒状に構成されている。ステアリングコラム2は、前側の端部を、車体5の幅方向に配置された枢軸10を中心とする揺動変位を可能に、コラムブラケット1の前側支持部7に対し支持している。
【0031】
ステアリングシャフト3は、ステアリングコラム2の内径側に回転自在に支持されている。ステアリングシャフト3の後側の端部には、図示しないステアリングホイールが支持固定される。
【0032】
電動アクチュエータ4は、電動モータ11と、送りねじ装置12とを備える。電動モータ11は、出力軸をステアリングコラム2の軸方向と平行に配置され、かつ、該ステアリングコラム2に対し支持固定されている。電動モータ11の出力軸外周面には、ウォーム歯13が備えられている。
【0033】
送りねじ装置12は、ナット14と、ロッド15と、ボルト16(
図3にのみ図示)とを備える。
【0034】
ナット14は、筒状部17と、スリット18と、一対の締付孔19a、19bと、係合腕部20とを備える。
【0035】
筒状部17は、内周面に、三角形の断面形状を有するねじ山21を螺旋状に形成してなる雌ねじ部22を備える。ねじ山21は、フランク面(山の頂と谷底とを接続する面)に、該ねじ山21の形成方向(螺旋方向)に沿った研削筋目を有する。要するに、前記研削筋目は、ナット14とロッド15とを組み合わせて送りねじ装置12を構成した場合の、ナット14の雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面と、ロッド15の雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面との摺接方向に形成されている。
【0036】
スリット18は、筒状部17の円周方向1箇所に、該筒状部17の外周面と内周面とに開口するように形成されている。特に本例では、スリット18は、ナット14(筒状部17)の中心軸と平行な軸方向ではなく、雌ねじ部22を構成するねじ山21のうちでスリット18が横切る部分におけるリード角の方向に対して直交する方向(歯筋方向に対して直交する方向)に伸長するように形成されている。このため、スリット18の径方向内側の端部は、雌ねじ部22を構成するねじ山21の歯筋(山の頂)を直交して横切るように、筒状部17の内周面に開口している。なお、「直交」には、ねじ山21のリード角の方向とスリット18の伸長方向(形成方向、中心軸方向)とのなす角度が、90°の場合だけでなく、90°近傍の場合、具体的には、85°~95°程度の場合を含むものとする。又、本例では、スリット18の開口幅は、不可避的な製造誤差を除き、全長にわたり実質的に一定となっている。
【0037】
本例では、スリット18の伸長方向に関する両端部は、筒状部17の軸方向両側の端面に開口していない。換言すれば、スリット18は、長孔により構成されており、伸長方向に関する両端部が閉じている。具体的には、
図2(a)に示すように、スリット18の伸長方向に関する両端部の径方向内側部分は、筒状部17の軸方向両端面に開口していないのに対し、スリット18の伸長方向に関する両端部の径方向外側部分では、スリット18を切削により形成することで生じた切削痕が、筒状部17の軸方向両端面に開口している。ただし、スリット18の伸長方向に関する両端部の径方向外側部分に切削痕が生じないようにすることもできる。このため、後述するように、筒状部17の内径を縮径させた場合でも、雌ねじ部22のうち、スリット18を挟んだ円周方向両側部分のピッチのずれを生じにくくすることができる。なお、スリット18の円周方向に関する位置は、ナット14の剛性やナット14が支持されるステアリングコラム2の剛性を考慮したうえで、適切な位置に配置される。
【0038】
一対の締付孔19a、19bは、筒状部17のうち、スリット18を挟んで互いに整合する両側部分に、該スリット18の伸長方向に対して直交する方向(雌ねじ部22を構成するねじ山21のうちでスリット18が横切る部分におけるリード角の方向と平行な方向)に、互いに同軸に形成されている。本例では、一対の締付孔19a、19bのうちの一方の締付孔19aを円孔とし、他方の締付孔19bをねじ孔としている。なお、スリット18の全長が長い場合には、一対の締付孔19a、19bを、筒状部17のうちでスリット18を挟む両側部分に複数組設けることもできる。
【0039】
係合腕部20は、先端部に、外周面を球状凸面とした球状部23を有し、該球状部23を、スリーブ9の内周面に対し、径方向のがたつきなく係合させている。これにより、ナット14を、ステアリングホイールの上下位置を調節する際に、該ステアリングホイールの調節方向である上下方向に変位しない部分である、コラムブラケット1に支持している。係合腕部20は、筒状部17のうち、スリット18が形成された部分から円周方向に外れた部分の外周面から径方向に突出するように設けられている。本例では、係合腕部20は、スリット18が形成された部分から位相が約120°ずれた位置に設けられている。ただし、例えば係合腕部20を、スリット18が形成された部分から位相が90°ずれた位置に設けたり、スリット18が形成された部分の径方向反対側となる位置に設けたりすることもできる。
【0040】
本例では、筒状部17のうちでスリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分の剛性を調整している。具体的には、筒状部17の径方向、すなわち筒状部17の中心軸とスリット18の伸長方向とに直交する方向(
図3及び
図5の表裏方向)から見て、スリット18が軸方向片側から他側(
図3及び
図5の左側から右側)に向かう程円周方向片側から他側(
図3及び
図5の下側から上側)に向かう方向に傾斜しているとした場合に、筒状部17のうちでスリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性(縮径する方向に変形することに対する剛性)が大きくなっており、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性が小さくなっている。
【0041】
より具体的には、筒状部17のうちでスリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程ねじ山21の高さを高くし、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程ねじ山21の高さを低くしている。要するに、筒状部17のうちでスリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程肉厚(径方向厚さ)が厚くなり、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程肉厚が薄くなっている。換言すれば、筒状部17の内周面のうち、スリット18が形成された部分を含む部分に、スリット18の伸長方向に伸長し、径方向外側に向けて凹んだ凹部24を有する。凹部24は、筒状部17の軸方向両側の端面に開口し、かつ、円弧形の断面形状を有する。又、凹部24の深さは、スリット18の円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程浅くなり、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程深くなっている。凹部24のうち、スリット18の円周方向片側に存在する部分の円周方向幅は、軸方向片側から他側に向かう程小さくなり、凹部24のうち、スリット18の円周方向他側に存在する部分の円周方向幅は、軸方向片側から他側に向かう程大きくなっている。
【0042】
ロッド15は、自身の中心軸を、ステアリングコラム2の軸方向(中心軸と平行な方向)及び車体5の幅方向に対して直交する方向(
図1(b)の上下方向)に配置した状態で、前記ステアリングホイールの上下位置を調節する際に、前記ステアリングホイールとともに、該ステアリングホイールの調節方向である上下方向に変位する部分である、ステアリングコラム2の幅方向側面に、回転のみ自在に支持されている。ロッド15は、下端部外周面に、ウォーム歯13と噛合するホイール歯25を有し、上側部外周面に、雌ねじ部22と螺合する雄ねじ部26を有する。すなわち、ロッド15は、電動モータ11により回転駆動可能となっている。
【0043】
ボルト16は、円孔である一方の締付孔19aに挿通され、先端部を、ねじ孔である他方の締付孔19bに螺合されている。したがって、ボルト16は、スリット18の伸長方向に対して直交する方向、すなわち、スリット18が横切る部分におけるねじ山21のリード角の方向に配置されている。本例の送りねじ装置12では、他方の締付孔19bに対するボルト16の締め付け量(螺合量)を調整することにより、スリット18の間隔を拡縮させ、筒状部17の内径を拡縮可能となっている。ただし、一対の締付孔19a、19bをいずれも円孔とし、締付孔19a、19bのそれぞれに挿通したボルト16の先端部に、ナット14とは別のナットを螺合するように構成することもできる。いずれにしても、筒状部17の内径を拡縮させることにより、雌ねじ部22に対し雄ねじ部26が相対回転することに対する抵抗が過度に増大することを抑えつつ、雌ねじ部22と雄ねじ部26との間のバックラッシュを抑えることができる。
【0044】
なお、本例では、ボルト16の頭部の座面を、該ボルト16の中心軸に直交する平坦面により構成している。ただし、ボルトの頭部の座面を、断面円弧形の凸曲面により構成することもできる。この場合、ナットのうちで、ボルトの座面と当接する部分については、平坦面とすることもできるし、断面円弧形の凹曲面とすることもできる。
【0045】
本例のステアリングホイールの電動位置調節装置において、前記ステアリングホイールの上下位置を調節する方法について説明する。まず、前記ステアリングホイールを、例えば
図1(b)→
図1(a)に示すように上方に変位させる際には、電動モータ11に通電することにより、該電動モータ11の出力軸を所定方向に回転駆動し、ウォーム歯13とホイール歯25との噛合部を介して、ロッド15を回転駆動する。ロッド15の回転は、雌ねじ部22と雄ねじ部26との螺合により、ロッド15の上方への変位に変換される。ロッド15が上方に変位すると、該ロッド15を支持したステアリングコラム2の後側の端部が、枢軸10を中心にして上方に変位し、前記ステアリングホイールが上方に変位する。なお、ステアリングコラム2の上方への変位に伴って、ナット14は、球状部23とスリーブ9の内周面との球面係合部を中心に、上方に揺動する。前記ステアリングホイールを所望の位置に調節した後は、電動モータ11への通電を停止し、ロッド15の回転を停止させて、前記ステアリングホイールの位置を保持する。
【0046】
前記ステアリングホイールを、たとえば、
図1(b)→
図1(c)に示すように下方に変位させる際には、電動モータ11の出力軸を前記所定方向と逆方向に回転駆動し、ロッド15を回転駆動する。ロッド15の回転は、雌ねじ部22と雄ねじ部26との螺合により、ロッド15の下方への変位に変換される。ロッド15が下方に変位すると、ステアリングコラム2の後端部が、枢軸10を中心にして下方に変位し、前記ステアリングホイールが下方に変位する。なお、ステアリングコラム2の下方への変位に伴って、ナット14は、前記球面係合部を中心に、下方に揺動する。前記ステアリングホイールを所望の位置に調節した後は、電動モータ11への通電を停止し、ロッド15の回転を停止させて、前記ステアリングホイールの位置を保持する。
【0047】
本例の送りねじ装置12を構成するナット14の製造方法の1例について、
図7(a)~
図10により説明する。
【0048】
ナット14を造る際には、まず、金属材料に、鋳造や鍛造、切削、熱処理などの必要な加工を施すことで、筒状部17と、該筒状部17から径方向に突出する係合腕部20とを有する筒状部材を造る。次いで、筒状部17の円周方向1箇所に、フライスカッタによる切削加工を施してスリット18を形成し、かつ、筒状部17の内周面に、螺旋状のねじ山21を形成するための切削加工又は転造加工を施して、雌ねじ部22を形成する。
【0049】
次に、
図7(a)~
図8に示すように、筒状部17の内周面に、エンドミル27による切削加工を施して凹部24を形成する。すなわち、エンドミル27により、筒状部17の内周面のうち、スリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分を、該スリット18の伸長方向に沿って切削して凹部24を形成する。
【0050】
より具体的には、まず、
図7(a)及び
図8に示すように、エンドミル27の中心軸を、筒状部17の中心軸に対してねじ山21のリード角分だけ傾けた状態で、エンドミル27の先端部を、筒状部17の軸方向片側の端部から挿入する。そして、筒状部17の軸方向片側の端部内周面のうちで、スリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分のうちの円周方向他側部分(に存在するねじ山21の先端部)を切削する。次いで、
図7(a)→
図7(b)→
図7(c)に示すように、エンドミル27を、スリット18の伸長方向に沿って変位させ、筒状部17の内周面のうち、スリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分(に存在するねじ山21の先端部)を切削する。
【0051】
エンドミル27を、スリット18の伸長方向に沿って変位させると、
図7(b)に示すように、エンドミル27の先端部が、筒状部17の軸方向中間部(スリット18の伸長方向中央位置)に位置する状態では、筒状部17の軸方向中間部内周面のうちで、スリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分(に存在するねじ山21の先端部)が切削される。又、
図7(c)に示すように、エンドミル27の先端部が、筒状部17の軸方向他側の端部に位置する状態では、筒状部17の軸方向他側の端部内周面のうちで、スリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分のうちの円周方向片側部分(に存在するねじ山21の先端部)が切削される。
【0052】
エンドミル27の外径は、エンドミル27を筒状部17の内側で、軸方向片側から他側に向けて1回移動させるだけで、凹部24を形成することができる限り、特に限定はされないが、例えば、雌ねじ部22の内径の50%以上90%以下、好ましくは71%以上83%以下とすることができる。換言すれば、凹部24の断面形状の曲率半径を、雌ねじ部22の内径の50%以上90%以下、好ましくは71%以上83%以下とすることができる。本例では、凹部24の断面形状の曲率半径を、雌ねじ部22の内径の50%以上90%以下としている。
【0053】
以上のようにして、筒状部17の内周面のうち、スリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分に、スリット18の円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程浅くなり、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程深くなる凹部24を形成する。
【0054】
次いで、筒状部17の内周面に備えられた雌ねじ部22に仕上研削を施す。仕上研削は、
図9及び
図10に示すような研削工具28を使用して行う。研削工具28は、外周面に、ねじ山29を螺旋状に形成してなるねじ部30と、外周面のうちの円周方向複数箇所に、軸方向に伸長するように形成された溝部31とを備える。
【0055】
ねじ部30は、テーパ部32と、主研削部33と、バックテーパ部34とを有する。
【0056】
テーパ部32は、ねじ部30の軸方向前側部分(
図9の左側部分)に備えられ、軸方向後側(
図9の右側)に向かう程ねじ山29の外径(呼び径)が大きくなっている。
【0057】
なお、研削工具28に関して、軸方向前側とは、研削工具28により、ナット14の雌ねじ部22に仕上研削を施す際のナット14への挿入方向前側であって、
図9の左側をいい、軸方向後側とは、ナット14への挿入方向後側であって、
図9の右側をいう。
【0058】
主研削部33は、ねじ部30の軸方向中間部に備えられ、軸方向にわたってねじ山29の外径が変化しない。
【0059】
バックテーパ部34は、ねじ部30の軸方向後側部分に備えられ、軸方向後側に向かう程ねじ山29の外径が小さくなっている。
【0060】
なお、テーパ部32と主研削部33とバックテーパ部34との軸方向寸法(長さ)は、ナット14の大きさ(軸方向長さ、内径)や加工装置(研削盤)に応じて適切に決定される。
【0061】
研削工具28は、ねじ部30の軸方向全範囲においてねじ山29のフランク面に逃げ角(二番逃げ)を設けていない、すなわち逃げ角(二番角)を0°としている。したがって、
図10に示すように、主研削部33におけるねじ山29の山の頂は、研削工具28の中心軸Oに直交する断面において、中心軸Oを中心とする同一円周上に位置している。
【0062】
又、ねじ部30の軸方向前側の端部から軸方向後側の端部にかけての軸方向全範囲で、ねじ部30の表面全体、すなわち、ねじ山29のフランク面及び山の頂、並びに、谷底全体に、砥粒を固着している。すなわち、ねじ部30の表面の軸方向全範囲を、ナット14の雌ねじ部22を研削するための研削面としている。砥粒としては、例えばダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(CBN)、炭化ホウ素(B4C)、シリカ(SiO2)、タングステンカーバイト(WC)、アルミナ(Al2O3)などの高硬度の砥粒を使用することができる。砥粒をねじ部30の表面に固着する方法としては、例えば電着、レジン、金属粉と砥粒とを混合して焼結するメタルボンドなどを採用することができる。あるいは、ビトリファイドなどの結合剤により、ねじ部30を構成する金属材料と砥粒とを結合することもできる。
【0063】
溝部31は、研削工具28の外周面の円周方向複数箇所に軸方向に伸長するように形成されている。図示の例では、溝部31は、研削工具28の外周面のうち、軸方向前側の端部から、後述する小径円筒部35の軸方向中間部にかけての軸方向範囲の円周方向等間隔4箇所に、軸方向と平行に形成されている。すなわち、溝部31は、ねじ部30を軸方向に横切るように形成されている。なお、溝部31を、ねじ山29のうちで溝部31が横切る部分におけるリード角に対し直交する方向に伸長するように形成することもできる。又、溝部31の本数を、3本以下、あるいは、5本以上とすることもできる。なお、
図9は、溝部31を省略して示している。
【0064】
図示の研削工具28は、ガイド部36と、小径円筒部35と、シャンク部37とをさらに備える。
【0065】
ガイド部36は、ねじ部30の軸方向前側(テーパ部32の軸方向前側)に配置され、軸方向に関して外径が変化しない。すなわち、ガイド部36の外周面のうち、溝部31から円周方向に外れた部分は、同一の円筒面上に存在している。
【0066】
小径円筒部35は、バックテーパ部34の軸方向後側に配置され、軸方向に関して外径が変化しない。すなわち、小径円筒部35の外周面のうち、溝部31から円周方向に外れた部分は、同一の円筒面上に存在している。
【0067】
シャンク部37は、研削工具28の軸方向後側の端部に備えられ、円形の断面形状を有する。シャンク部37は、研削工具28を、研削盤に支持するための部分である。すなわち、研削盤は、チャックによりシャンク部37を把持することにより、研削工具28を支持する。
【0068】
上述のような研削工具28を使用してナット14の雌ねじ部22に仕上研削を施す際には、まず、ナット14を、研削盤のバイスにより、軸方向変位を可能に、かつ、回転を不能に支持(フローティング支持)する。次に、
図9に実線で示すように、研削工具28のガイド部36を、ナット14の径方向内側に挿入する。これにより、ナット14と研削工具28との軸合わせを行う。次いで、研削工具28を所定方向(
図9の矢印αの方向(右回り))に回転させる。そして、研削工具28を、軸方向前側に向けてわずかに変位させ、研削工具28のねじ部30とナット14の雌ねじ部22とをわずかに螺合させる。すると、研削工具28のねじ部30とナット14の雌ねじ部22との螺合に基づいて、ナット14がねじ部30に対して軸方向後側に向けて移動しながら、ねじ部30の表面により、雌ねじ部22の表面が研削される。なお、雌ねじ部22の表面を研削することに伴って生じる研削屑は、溝部31を通じて外部に排出される。させる。そして、
図9に二点鎖線で示すように、ナット14の軸方向前側の端部(軸方向片側の端部)が、ねじ部30のうち、バックテーパ部34の周囲に位置するまで、ねじ部30に対するナット14の位置を軸方向後側に向けて移動させる。ナット14がバックテーパ部34の周囲に位置するまで移動すると、雌ねじ部22とねじ部30との間に隙間が生じることに伴って、雌ねじ部22とねじ部30との間に存在する研削屑が排出されやすくなる。
【0069】
その後、研削工具28を前記所定方向と逆方向(
図9の矢印βの方向(左回り))に回転させる。すると、ねじ部30と雌ねじ部22との螺合に基づいて、ナット14がねじ部30に対して軸方向前側に向けて移動しながら、ねじ部30の表面により、雌ねじ部22の表面が研削される。雌ねじ部22の表面を研削することに伴って生じる研削屑は、溝部31を通じて外部に排出される。その後、研削工具28を前記所定方向と逆方向にさらに回転させ、ねじ部30と雌ねじ部22との螺合を外し、研削工具28をナット14の径方向内側から引き抜く。
【0070】
以上のようにして、研削工具28により、ナット14の雌ねじ部22に仕上研削を施す。
【0071】
本例の送りねじ装置12によれば、国際公開第2019/142378号パンフレットに記載の送りねじ装置と同様の理由により、ナット14とロッド15とが相対回転することに対する抵抗、及び、ナット14の雌ねじ部22とロッド15の雄ねじ部26との間のバックラッシュを抑えることができる。
【0072】
すなわち、本例では、スリット18を、ナット14の筒状部17に、スリット18が横切る部分におけるねじ山21のリード角の方向に対して直交する方向に伸長するように形成し、かつ、ボルト16を、スリット18の伸長方向に対して直交する方向に配置するようにしている。したがって、他方の締付孔19bに対するボルト16の締め付け量を大きくして、筒状部17の内径を縮径させる際に、雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面と、雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面との間に存在する隙間の厚さをほぼ一定に保持したまま、これらの面を互いに近づけて摺動可能に当接(面接触)させることができる。このため、雌ねじ部22と雄ねじ部26との間に作用する摩擦が大きくなることを防止しつつ、バックラッシュの原因となる、雌ねじ部22と雄ねじ部26との間の隙間を小さく抑えることができる。
【0073】
又、雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面と、雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面との接触部の面圧を、該接触部の長さ方向(螺旋方向)わたりほぼ一定にでき、かつ、低く抑えることができる。したがって、送りねじ装置12の運転に伴って生じる、雌ねじ部22と雄ねじ部26との間のがたつきを小さくでき、かつ、がたつきに対する雌ねじ部22及び雄ねじ部26の耐久性を向上させることができる。
【0074】
又、ボルト16を締め付けることに伴って、該ボルト16に加わる反力を小さくすることができる。この面からも、雌ねじ部22と雄ねじ部26との間の面圧を低く抑えることができ、さらに、ボルト16の締め付けトルクを小さくすることができる。したがって、ボルト16の締め付け量を細かく調整することにより、雌ねじ部22と雄ねじ部26との間に存在するがたつきの調整範囲を広くすることができる。換言すれば、送りねじ装置12に要求される性能に応じた、雌ねじ部22と雄ねじ部26との間に存在するがたつき、及び、雌ねじ部22と雄ねじ部26との摺動抵抗の調整を行いやすくすることができる。
【0075】
さらに、雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面と、雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面との間に存在する隙間の調整を、単一ピッチ誤差や累積ピッチ誤差を吸収しつつ行うことができる。このため、雌ねじ部22及び雄ねじ部26の加工精度を過度に高くする必要がなく、送りねじ装置12の製造コストを低減することができる。
【0076】
又、本例によれば、筒状部17の内径を縮径させるために要する、ボルト16の締め付けトルクを小さく抑えることができる。スリットを、ナットの軸方向に形成すると、前記ナットの雌ねじ部とロッドの雄ねじ部を適切に係合させるためには、前記ナットの筒状部のうちで前記スリットを挟んだ円周方向両側部分を、前記ナットの軸方向に関して互いに反対方向にずらせる必要がある。これに対し、本例の送りねじ装置12では、スリット18を、ナット14の筒状部17に、スリット18が横切る部分におけるねじ山21のリード角の方向に対して直交する方向に伸長するように形成している。このため、ボルト16の締め付け量を増大させる際に、筒状部17のうちでスリット18を挟んだ円周方向両側部分の軸方向に関する変位量を、スリットを軸方向に形成した構造と比較して少なく抑えることができる。したがって、筒状部17の内径を縮径させる際に、雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面と、雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面との間に存在する隙間の厚さを、より確実にほぼ一定に保持しながらこれらの面を互いに近づけ、摺動可能に当接(面接触)させられる。換言すれば、ナット14の雌ねじ部22と、ロッド15の雄ねじ部26との螺合状態を良好にしやすい。このため、送りねじ装置12の組立コストを低く抑えることができる。又、ナット14とロッド15とが相対回転することに対する抵抗、及び、ナット14とロッド15との間のバックラッシュをより効果的に抑えることができる。さらに、ボルト16の締め付けトルクを小さく抑えることができ、この面からも送りねじ装置12の組立コストを低く抑えることができる。
【0077】
さらに、本例のナット14では、筒状部17のうちでスリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分の剛性を調整している。具体的には、筒状部17の径方向から見て、スリット18が軸方向片側から他側に向かう程円周方向片側から他側に向かう方向に傾斜しているとした場合に、筒状部17のうちでスリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性が大きくなっており、かつ、円周方向他側部分では、軸方向片側から他側に向かう程剛性が小さくなっている。このため、筒状部17の内径を縮径させるべく、他方の締付孔19bに対してボルト16を締付けると、まず、剛性が低い部分から弾性変形が開始され、ボルト16の締め付け量が増大するにしたがって、剛性が高い部分が弾性変形していく。すなわち、筒状部17全体が、剛性の高い部分が剛性の低い部分に向けて捩れるように弾性変形しながら、筒状部17の内径が縮径していく。具体的には、筒状部17の軸方向片側部分では、円周方向他側に向かう方向に弾性変形し、かつ、筒状部17の軸方向他側部分では、円周方向片側に向かう方向に弾性変形しながら、筒状部17の内径が縮径していく。
【0078】
このため、スリット18の幅を伸長方向にわたって、より確実にほぼ一定に保持しつつ、狭めることができる。換言すれば、本例のナット14によれば、国際公開第2019/142378号パンフレットに記載の送りねじ装置のように、筒状部17が、スリット18の幅が伸長方向中央部で最も狭く、伸長方向両側に向かう程広くなるように変形することを防止できる。この面からも、筒状部17の内径を縮径させる際に、雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面と、雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面との間に存在する隙間の厚さを、より確実にほぼ一定に保持しながらこれらの面を互いに近づけ、摺動可能に当接させられる。この結果、送りねじ装置12の組立コストを低く抑えることができるとともに、ナット14とロッド15とが相対回転することに対する抵抗、及び、ナット14とロッド15との間のバックラッシュをより効果的に抑えることができる。
【0079】
本例では、筒状部17の内周面のうち、スリット18が形成された部分を含む部分に、凹部24を形成することで、筒状部17のうちでスリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分の剛性を調整している。そして、凹部24の断面形状の曲率半径を、比較的大きく、具体的には、雌ねじ部22の内径の50%以上90%以下としている。したがって、他方の締付孔19bに対するボルト16の締め付け量を増大させることにより、筒状部17を縮径する際に、スリット18の円周方向両側近傍部分が局所的に弾性変形することを防止できる。この面からも、雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面と、雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面との間に存在する隙間の厚さを、ほぼ一定に保持しながらこれらの面を互いに近づけ、摺動可能に当接させることができる。
【0080】
また、本例では、凹部24を、エンドミル27を筒状部17の内側で、軸方向片側から他側に向けて1回移動させるだけで形成している。具体的には、エンドミル27の中心軸を、筒状部17の中心軸に対してねじ山21のリード角分だけ傾けた状態で、エンドミル27の先端部を、筒状部17の軸方向片側の端部から挿入する。そして、そのままエンドミル27をスリット18の伸長方向に沿って変位させ、筒状部17の内周面のうち、スリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分を切削することで凹部24を形成する。このため、本例のナットの製造方法によれば、上述のように、ナット14とロッド15とが相対回転することに対する抵抗、及び、ナット14とロッド15との間のバックラッシュをより効果的に抑えることができるナット14を、比較的容易に造ることができる。
【0081】
なお、本例では、スリット18の伸長方向に関する両端部が、筒状部17の軸方向両側の端面に開口していない。このため、筒状部17の内径を縮径させるべく、他方の締付孔19bに対するボルト16の締め付け量を増大させた場合でも、雌ねじ部22のうち、スリット18を挟んだ円周方向両側部分のピッチのずれを生じにくくすることができる。すなわち、スリットの伸長方向に関する両端部を、筒状部の軸方向両側の端面に開口させた構造では、筒状部の内径を縮径させるべく、ボルトの締め付け量を増大させると、筒状部のうち、スリットの円周方向片側に存在する部分と円周方向他側に存在する部分とが軸方向に関して互いに反対方向にずれるなどして、ピッチにずれが生じるなどの不都合を生じる可能性がある。これに対し、本例では、スリット18の伸長方向に関する両端部が、筒状部17の軸方向両側の端面に開口していないため、ボルト16の締め付け量を増大させた場合でも、筒状部17のうち、スリット18の円周方向片側に存在する部分と円周方向他側に存在する部分とが軸方向に関して互いに反対方向にずれることを防止できる。この面からも、筒状部17の内径を縮径させる際に、雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面と、雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面との間に存在する隙間の厚さをほぼ一定に保持したまま、これらの面を互いに近づけて摺動可能に当接させることができる。
【0082】
また、スリットの伸長方向に関する両端部を、筒状部の軸方向両側の端面に開口させた構造では、雌ねじ部を研削工具28により研削する際に、筒状部が径方向に弾性変形(弾性的に拡径)しやすく、雌ねじ部を構成するねじ山のフランク面に対する研削工具28のねじ部30を構成するねじ山29のフランク面の押付圧を確保しにくくなる可能性がある。本例では、スリット18の伸長方向に関する両端部が、筒状部17の軸方向両側の端面に開口していないため、雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面に対するねじ山29のフランク面の押付圧を十分に確保することができて、ねじ山21のフランク面の性状を良好に確保しやすい。
【0083】
ただし、スリットの伸長方向に関する両端部を、筒状部の軸方向両側の端面に開口させることもできる。すなわち、筒状部を、欠円筒状に構成することもできる。あるいは、スリットの伸長方向に関するいずれか一方側の端部のみを、筒状部の軸方向端面に開口させることもできる。
【0084】
又、本例では、ナット14を造る際に、雌ねじ部22の表面を研削して表面粗さを向上させる仕上研削を、ナット14の内周面に切削加工又は転造加工を施して雌ねじ部22を形成する加工とは別の工程で(独立に)行っている。このため、雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面及び山の頂の表面粗さを良好にしやすく、かつ、ねじ山21の形状精度を良好に確保しやすい。この理由について、以下で説明する。
【0085】
雌ねじ部を切削加工により形成する場合には、切削タップの切れ刃により、ナットの内周面を切削してねじ溝を形成するのに対し、雌ねじ部を転造加工により形成する場合には、転造タップの切れ刃により、ナットの内周面を押し潰して隣接する部分を盛り上げることによりねじ山を形成する。雌ねじ部を切削加工と転造加工とのいずれの加工方法により形成する場合であっても、タップにより、ナットの内周面を切削するか又は押し潰す際に、切れ刃が、ナットの内周面に食いつくことがある。切れ刃がナットの内周面に過度に食いつくと、その反動により切れ刃が押し返されるように弾性変形する。このような弾性変形が繰り返し発生してタップが振動し、雌ねじ部のフランク面に対する切れ刃の食いつきと退避とが繰り返されると、雌ねじ部のフランク面に、ビレ(周期的な高低差)が生じたり、雌ねじ部の精度を十分に確保できなくなったりするといった問題を生じる可能性がある。このようなビレが生じると、雌ねじ部と雄ねじ部とを潤滑するグリースの流れが妨げられたり、ビレが、雄ねじ部を構成するねじ山のフランク面に局部当りしたりするなどして、ナットとロッドとの相対回転トルクが増大する可能性がある。
【0086】
上述の製造方法では、前記仕上研削を、ナット14の内周面に切削加工又は転造加工を施して雌ねじ部22を形成する加工とは別の工程で行っているため、前記仕上研削を行う際に、研削工具28が振動するといった問題が生じない。このため、研削工具28のねじ部30を構成するねじ山29のフランク面を、ナット14の雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面に安定して接触(摺接)させることができる。さらに、研削工具28において、ねじ部30の軸方向前側の端部から軸方向後側の端部にかけての軸方向全範囲で、ねじ部30の表面のうちの少なくともフランク面及び谷底に、砥粒を固着している。したがって、研削工具28による仕上研削の際に、ねじ部30の表面のうちで砥粒を固着した部分と、ナット14の雌ねじ部22の表面との接触量(摺接長さ)を十分に確保することができて、雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面及び山の頂の表面粗さを良好にしやすく、かつ、ねじ山21の形状精度を良好に確保しやすい。
【0087】
研削工具28を使用する方法では、仕上研削後のナット14の雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面には、該ねじ山21の形成方向(螺旋方向)に沿った研削筋目が形成される。要するに、前記研削筋目の形成方向を、ナット14とロッド15と組み合わせて送りねじ装置12を構成した場合の、ナット14の雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面と、ロッド15の雄ねじ部26を構成するねじ山のフランク面との摺接方向とすることができる。したがって、雌ねじ部22と雄ねじ部26とを潤滑するグリースの流れを円滑にすることができる。この面からも、ナット14の雌ねじ部22の性状を良好にすることができる。
【0088】
又、前記仕上研削を、ナット14の内周面に切削加工又は転造加工を施して雌ねじ部22を形成する加工とは別の工程で行っているため、研削工具28による仕上研削により生じる研削屑は、それほど多くない。したがって、溝部31の総容積を、ねじ山29の総体積よりも小さくできる。すなわち、円周方向に隣り合う溝部31同士の間に存在するランドの円周方向幅を十分に確保することができる。この面からも、ナット14の雌ねじ部22の表面に対するねじ部30の表面の接触量を確保することができて、雌ねじ部22を構成するねじ山21のフランク面及び山の頂の表面粗さを良好にしやすく、かつ、ねじ山21の形状精度を良好に確保しやすい。
【0089】
又、研削工具28は、ねじ部30を構成するねじ山29のフランク面に逃げ角(二番逃げ)を設けていない。このため、ナット14の雌ねじ部22に仕上研削を施す際に、ねじ山29の表面の円周方向全範囲を、雌ねじ部22の表面(フランク面及び谷底)に接触させることができる。このため、研削工具28の研削性能を、長期にわたり良好に維持することができて、研削工具28のメンテナンスにかかるコストや作業時間の増大を抑えられ、ナット14の生産性を向上させることができる。
【0090】
さらに、研削工具28は、ねじ山29のフランク面に逃げ角を設けていないため、ねじ山29の断面形状が、ねじ部30のうちで主研削部33において、ねじ山29の形成方向(螺旋方向)にわたって一定となっている。このため、雌ねじ部22の表面に対する主研削部33におけるねじ山29の表面の当たり方を、研削工具28の回転方向にかかわらず、同じとすることができて、雌ねじ部22の性状の悪化を防止することができる。
【0091】
又、研削工具28は、ねじ部30の軸方向後側部分に、軸方向後側に向かう程ねじ山29の外径が小さくなるバックテーパ部34を有する。このため、研削工具28をナット14の径方向内側から引き抜くべく、研削工具28を前記所定方向と逆方向に回転させ始める際のトルクが徒に大きくなることを防止でき、研削工具28の送りを円滑にすることができる。この面からも、雌ねじ部22の性状を良好にできる。
【0092】
研削工具28は、軸方向前側の端部に、ガイド部36を有する。このため、ガイド部36をナット14の径方向内側に挿入することで、ナット14の雌ねじ部22と、研削工具28のねじ部30とを螺合することなく、ナット14と研削工具28とのおおよその軸合わせを行うことができる。要するに、ナット14と研削工具28とのおおよその軸合わせ作業を容易化できて、作業を効率化することができる。このような効果は、研削工具28によるナット14の研削加工を自動化する際に顕著に得ることができる。
【0093】
本例の送りねじ装置12は、ロッド15を、電動モータ11により回転駆動可能に構成しているが、ナット14を電動モータ11により回転駆動可能に構成することもできる。又、本例では、ナット14を、前記ステアリングホイールの上下位置を調節する際に、上下方向に変位しない部分である車体5に対しコラムブラケット1を介して支持し、ロッド15を、前記ステアリングホイールとともに上下方向に変位するステアリングコラム2に支持するようにしている。ただし、ナット14を、前記ステアリングホイールの上下位置を調節する際に、該ステアリングホイールとともに上下方向に変位する部分、具体的には、たとえばステアリングコラム2やステアリングシャフト3などに支持し、ロッド15を、上下方向に変位しない部分、具体的には、例えばコラムブラケット1などに支持することもできる。
【0094】
なお、本例では、雌ねじ部22及び雄ねじ部26を、一条ねじにより構成しているが、二条ねじなどの多条ねじにより構成することもできる。この場合、雌ねじ部22を構成する複数本のねじ溝のリード角の平均値を求め、スリット18をこの平均値の大きさに対し約90°(85°~95°程度)ずらせた方向に形成することが好ましい。
【0095】
又、本例では、筒状部17の径方向から見て、スリット18が軸方向片側から他側に向かう程円周方向片側から他側に向かう方向に傾斜しているとした場合に、筒状部17のうちでスリット18を挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分で、軸方向片側から他側に向かう程剛性を大きくし、かつ、円周方向他側部分で、軸方向片側から他側に向かう程剛性を小さくしている。ただし、本発明を実施する場合、筒状部の径方向から見て、スリットが軸方向片側から他側に向かう程円周方向片側から他側に向かう方向に傾斜しているとした場合に、前記筒状部のうちで前記スリットを挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分で、軸方向片側から他側に向かう程剛性が小さくし、かつ、円周方向他側部分で、軸方向片側から他側に向かう程剛性を大きくすることもできる。この場合、具体的には、例えば、筒状部のうちでスリットを挟んだ円周方向両側近傍部分のうち、円周方向片側部分で、軸方向片側から他側に向かう程、筒状部の内周面に形成された雌ねじ部を構成するねじ山の高さが低くなっており、かつ、円周方向他側部分で、軸方向片側から他側に向かう程前記ねじ山の高さを高くすることができる。
【符号の説明】
【0096】
1 コラムブラケット
2 ステアリングコラム
3 ステアリングシャフト
4 電動アクチュエータ
5 車体
6 取付部
7 前側支持部
8 後側支持部
9 スリーブ
10 枢軸
11 電動モータ
12 送りねじ装置
13 ウォーム歯
14 ナット
15 ロッド
16 ボルト
17 筒状部
18 スリット
19a、19b 締付孔
20 係合腕部
21 ねじ山
22 雌ねじ部
23 球状部
24 凹部
25 ホイール歯
26 雄ねじ部
27 エンドミル
28 研削工具
29 ねじ山
30 ねじ部
31 溝部
32 テーパ部
33 主研削部
34 バックテーパ部
35 小径円筒部
36 ガイド部
37 シャンク部
100 送りねじ装置
101 ナット
102 ロッド
103 ボルト
104 雌ねじ部
105 筒状部
106 スリット
107a、107b 締付孔
108 雄ねじ部