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特許7597418銅-銅積層体の分離方法及び銅-銅積層体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】銅-銅積層体の分離方法及び銅-銅積層体
(51)【国際特許分類】
   B09B 5/00 20060101AFI20241203BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20241203BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20241203BHJP
   B32B 38/18 20060101ALI20241203BHJP
   B09B 101/17 20220101ALN20241203BHJP
【FI】
B09B5/00 Z
B32B7/06
B32B15/01 D
B32B15/01 H
B32B38/18 C
B09B101:17
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023534776
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2022027099
(87)【国際公開番号】W WO2023286711
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2021115527
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重藤 暁津
【審査官】葛谷 光平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/116980(WO,A1)
【文献】特開平8-85830(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101092663(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 5/00
B32B 7/06
B32B 15/01
B32B 38/18
B09B 101:17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の銅導体膜を接合面に有する第1の構造体と、
第2の銅導体膜を接合面に有する第2の構造体と、
前記第1の構造体と前記第2の構造体の接合面の間に、酸化銅(II)のナノ結晶を含む架橋層とを有する銅-銅積層体の分離方法であって、
前記架橋層を酸化銅(II)の磁気転移温度以下に冷却して、前記第1の構造体と前記第2の構造体の接合面を離間させる銅-銅積層体の分離方法。
【請求項2】
前記架橋層の膜厚は、前記第1及び/又は第2の銅導体膜から前記酸化銅(II)への銅イオンの拡散が前記架橋層の膜全体に達する程度であることを特徴とする請求項1に記載の銅-銅積層体の分離方法。
【請求項3】
前記架橋層の膜厚は、1nm以上20nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の銅-銅積層体の分離方法。
【請求項4】
前記架橋層の冷却温度は、少なくとも酸化銅(II)の熱膨張係数が負の値に転じる温度未満であることを特徴とする請求項1に記載の銅-銅積層体の分離方法。
【請求項5】
前記架橋層に含まれる前記酸化銅(II)のナノ結晶は、蒸気アシスト真空紫外光照射手法により生成された架橋物質に由来することを特徴とする請求項1に記載の銅-銅積層体の分離方法。
【請求項6】
前記架橋層は、
前記第1の銅導体膜と前記第2の銅導体膜とを離間させた状態で、前記第1の銅導体膜と前記第2の銅導体膜とに、酸素を含有しない窒素ガス雰囲気のもと、水蒸気の存在下、波長150nm以上200nm以下の真空紫外線を照射する照射工程と、
前記第1の銅導体膜と前記第2の銅導体膜とのうち少なくとも一方を、架橋物質に曝露する曝露工程と、
前記第1の銅導体膜と前記第2の銅導体膜とを当接させる当接工程と、
により生成されることを特徴とする請求項1に記載の銅-銅積層体の分離方法。
【請求項7】
前記架橋物質はCu(OH)・[HO]であることを特徴とする請求項6に記載の銅-銅積層体の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子デバイスなどの構造体をリサイクルするのに好適な、銅-銅積層体の分離方法及び銅-銅積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
Cu薄膜電極を有する電子基板、クラッド材、又はその複合構造体では、Cu-Cu間又は銅-銅積層体間の接合界面を備えていることが多い。
電子デバイスを含む積層体は、薄型軽量化及び生体親和性の目的から可撓性有機基板を多用しており、可撓性有機基板等の内部に含まれる希少材料の回収効率の向上が求められている。そのため、材料複合化(接合)から実働中までは強固な結合力を維持し、耐用年数後は異種材料を接着界面又は接合界面から固相分離できる手法を提供することは、リサイクル中間処理プロセスの負荷削減に直結する。
【0003】
このような電子デバイスを含む積層体において、例えば可撓性有機基板の表面上に電極パターンとして銅箔を貼付する場合に、蒸気アシスト真空紫外光照射手法(V-VUV;Vapor-assisted vacuum ultraviolet irradiation technique)を用いることが行われている。
蒸気アシスト真空紫外光照射手法の詳細については、例えば特許文献1及び2に開示されている。これらの文献に開示されたCuを含む無機材料に対してのプロセス概要を以下に示す。
(1) 大気圧窒素雰囲気に純水蒸気を含有させる。
(2) (1)の雰囲気中に試料を導入し真空紫外光を照射する。真空紫外光の照射により材料表面の吸着コンタミの除去、自然酸化物の一部還元、及び陽イオンサイトへの架橋層形成が起こる。
(3) (2)の表面を常温で接触させ、その後、例えば150℃程度に加熱して架橋層間の脱水縮合反応を促進して結合を得る。
【0004】
ここでの真空紫外光は波長10~200nmの紫外光である。真空紫外光は、150~200nmの波長帯域においては、空気中の酸素分子に強く吸収されるが、窒素を透過する。そのため、高価な真空チェンバーを使用しなくても、酸素を含まない雰囲気(一般的には純窒素)で、この波長域を使用することができる。193nmフォトリソグラフィー装置(半導体製造用)又は円偏光二色性分光器などがその例である。
【0005】
蒸気アシスト真空紫外光照射手法によってCu表面に形成される架橋層は、通常アモルファス状のCu(OH)・[HO]であり、これは真空紫外光照射により水が分離して生成するH、OHラジカル種の作用によるものである。この架橋層厚の成長は、陽イオンサイトへの反応が飽和するまでは、水蒸気密度及び真空紫外光照射時間の積(露出量(s・kg/m)と定義する)に比例することが明らかになっている。一般的なCu薄膜では3~4s・kg/mで厚さが15~20nm程度に成長して飽和することが確認されている。
【0006】
従来、蒸気アシスト真空紫外光照射手法により様々な材料の組み合わせで低温大気圧接合が実現されている。電子デバイスを含む構造体の製品寿命は、技術革新の進歩が早いこともあり、数年から十数年程度と、通常の構造材料の寿命と比較して短く、そのため製品寿命の経過に伴い多量の廃棄物が生じている。しかし、この廃棄物は、金及び希土類元素などの有価物を含み、通常の鉱山の原石と比較しても含有率が高いことから、都市鉱山とも呼ばれている。そこで、電子デバイスを含む積層体の廃棄物から有価の金属元素及び/又は希土類元素を回収するリサイクル技術の重要性が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-051542号公報
【文献】WO2019/221288A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現行の資源リサイクル技術の多くは高温又は高エネルギーを要するものである。特に電子基板では、デバイスの大出力化及び放熱化に伴い、材料の高融点化も進んでいるので、当該融点を超えた高温領域で機能する資源リサイクル技術を採用することも考えられる。しかし、このような従来法の延長上での技術革新では、特に有機又は無機複合材においては、溶融体の分離及び除害などの中間処理に多大なコスト及び時間を要するという課題がある。
電子デバイスを含む積層体は複合材料である。当該複合材料の異種材料間の相互の界面での物理的剥離方法については、熱膨張係数の異なる物質を剥離層として導入する方法、又は被着材表面に予め水素ドーピングを施して加熱発泡を引き起こす方法が提案されている。しかし、これらのいずれの方法も、プロセスの簡易性に欠けるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、常温では通常の正の熱膨張係数を有するが、所定の温度以下の低温になると負の熱膨張係数を有する化合物を架橋層に適用できないか検討した。即ち、本発明者は、特定の温度近傍でのみ急激に膨張する化合物を架橋層に用いて積層基板の積層体が形成できるならば、積層基板由来の簡素な構造を有すると共に、当該積層体を廃棄する際に、該化合物を用いた接合部で分離可能な構造を有する積層体を得ることができると着想し、本発明を完成させるに至った。本発明の積層体の構成によれば、熱膨張係数の異なる物質を剥離層として導入できるため、簡易なプロセスで界面での物理的剥離が可能となる。
【0010】
本発明の諸態様又は諸実施形態の概要を以下に示す。ただし、本発明は以下に限定されない。
【0011】
[1]本発明の銅-銅積層体の分離方法は、例えば図6B(A)、図1Cに示すように、第1の銅導体膜10を接合面に有する第1の構造体14と、第2の銅導体膜20を接合面に有する第2の構造体24と、第1の構造体14と第2の構造体24の接合面の間に、酸化銅(II)のナノ結晶を含む架橋層30とを構築し、架橋層30を酸化銅(II)の磁気転移温度以下に冷却して、第1の銅導体膜10と第2の銅導体膜20を離間させる銅-銅積層体の分離方法である。
【0012】
[2]本発明の銅-銅積層体の分離方法において、好ましくは、前記架橋層の膜厚は、前記第1及び/又は第2の銅導体膜から前記酸化銅(II)への銅イオンの拡散が前記架橋層の膜全体に達する程度であるとよい。
[3]本発明の銅-銅積層体の分離方法において、好ましくは、前記架橋層の膜厚は、1nm以上20nm以下であるとよい。
[4]本発明の銅-銅積層体の分離方法において、好ましくは、前記架橋層の冷却温度は、少なくとも酸化銅(II)の熱膨張係数が負の値に転じる温度と同等であるとよい。本発明における酸化銅(II)の熱膨張係数が負の値をとる温度は、完全な単結晶と比較してある程度ばらつきがあるため、-100℃以上-90℃以下の範囲である。
[5]本発明の銅-銅積層体の分離方法において、好ましくは、前記架橋層に含まれる前記酸化銅(II)のナノ結晶は、蒸気アシスト真空紫外光照射手法により生成された架橋物質に由来するものであるとよい。
ここで、蒸気アシスト真空紫外光照射手法とは、波長150nm以上200nm以下の真空紫外光を大気圧下の酸素を含有しない窒素ガス雰囲気のもと、水蒸気で加湿して、前記第1の構造体と第2の構造体との各々の接合面に照射することをいう。真空紫外光の照射により、第1の構造体と第2の構造体との接合面が洗浄される。その後、第1の構造体と第2の構造体の接合面を圧着させて、銅-銅積層体を得る。
【0013】
[6]本発明の銅-銅積層体の分離方法において、好ましくは、前記架橋層は、
前記第1の銅導体膜と前記第2の銅導体膜とを離間させた状態で、前記第1の銅導体膜及び前記第2の銅導体膜に、酸素を含有しない窒素ガス雰囲気のもと、水蒸気の存在下、波長150nm以上200nm以下の真空紫外線を照射する照射工程と、
前記第1の銅導体膜又は前記第2の銅導体膜の少なくとも一方を、架橋物質に曝露する曝露工程と、
前記第1の銅導体膜と前記第2の銅導体膜とを当接させる当接工程と、
により生成されるとよい。
[7]本発明の銅-銅積層体の分離方法において、好ましくは、前記架橋物質はCu(OH)・[HO]であるとよい。なお、この分子式において、理論的には[HO]は2であるが、実際には水分子がいつでも均等に2個ついているわけではなく、試料全体で平均的に2より小さい値になっていることも多い。そこで、Cu(OH)・[HO]2-xと表記してもよい。この表現式中の下付きの(2-x)は、化合物の指数の書き方としては論文などで比較的一般的なものである。
【0014】
[8]本発明の銅-銅積層体は、例えば図6B(A)に示すように、第1の銅導体膜10を接合面に有する第1の構造体14と、第2の銅導体膜20を接合面に有する第2の構造体24と、第1の構造体14と第2の構造体24との接合面の間に、酸化銅(II)のナノ結晶を含む架橋層30とを有するものである。
[9]本発明の銅-銅積層体において、好ましくは、前記ナノ結晶の結晶粒径は1nm以上10nm以下であるとよい。
さらに、他の記載と重複するが本発明の諸態様を以下に示す。
[1’]
第1の銅導体膜を接合面に有する第1の構造体と、
第2の銅導体膜を接合面に有する第2の構造体と、
前記第1の構造体と前記第2の構造体の接合面の間に、酸化銅(II)のナノ結晶を含む架橋層とを有する銅-銅積層体の分離方法であって、
前記架橋層を酸化銅(II)の磁気転移温度以下に冷却して、前記第1の構造体と前記第2の構造体の接合面を離間させる銅-銅積層体の分離方法。
[2’]
前記架橋層の膜厚は、前記第1及び/又は第2の銅導体膜から前記酸化銅(II)への銅イオンの拡散が前記架橋層の膜全体に達する程度であることを特徴とする[1’]に記載の銅-銅積層体の分離方法。
[3’]
前記架橋層の膜厚は、1nm以上20nm以下であることを特徴とする[1’]又は[2’]に記載の銅-銅積層体の分離方法。
[4’]
前記架橋層の冷却温度は、少なくとも酸化銅(II)の熱膨張係数が負の値に転じる温度未満であることを特徴とする[1’]乃至[3’]の何れかに記載の銅-銅積層体の分離方法。
[5’]
前記架橋層に含まれる前記酸化銅(II)のナノ結晶は、蒸気アシスト真空紫外光照射手法により生成された架橋物質に由来することを特徴とする[1’]乃至[4’]の何れかに記載の銅-銅積層体の分離方法。
[6’]
前記架橋層は、
前記第1の銅導体膜と前記第2の銅導体膜とを離間させた状態で、前記第1の銅導体膜と前記第2の銅導体膜とに、酸素を含有しない窒素ガス雰囲気のもと、水蒸気の存在下、波長150nm以上200nm以下の真空紫外線を照射する照射工程と、
前記第1の銅導体膜と前記第2の銅導体膜とのうち少なくとも一方を、架橋物質に曝露する曝露工程と、
前記第1の銅導体膜と前記第2の銅導体膜とを当接させる当接工程と、
により生成されることを特徴とする[1’]乃至[5’]の何れかに記載の銅-銅積層体の分離方法。
[7’]
前記架橋物質はCu(OH) ・[H O] であることを特徴とする[6’]に記載の銅-銅積層体の分離方法。
[8’]
第1の銅導体膜を接合面に有する第1の構造体と、
第2の銅導体膜を接合面に有する第2の構造体と、
前記第1の構造体と前記第2の構造体の接合面の間に、酸化銅(II)のナノ結晶を含む架橋層を有する銅-銅積層体。
[9’]
前記ナノ結晶の結晶粒径は1nm以上10nm以下である[8’]に記載の銅-銅積層体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の銅-銅積層体の分離方法によれば、蒸気アシスト真空紫外光照射手法で接合を達成するメカニズム上必然的に生じる現象、すなわち接合後の架橋層内部での金属酸化物ナノ結晶の生成を利用することで、固相分離性を発現し得る。前記固相分離性は、工業用冷凍庫で到達できる温度での冷却を用いることで接合プロセスに特別な手順を加えることなく、僅かなせん断応力の印加により発現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】銅-銅積層体の冷却による本発明の固相分離方法の概念図である。図1A(A)は一般的な負の熱膨張係数材料を架橋層として挟んだ銅-銅積層体の構成断面図であり、図1A(B)は部分的な銅導体膜の破断の説明図であり、図1A(C)は架橋層内の欠陥伝搬の説明図である。
図1B】本発明の一実施形態である蒸気アシスト真空紫外光照射手法を用いた架橋層の形成、及び冷却による固相分離方法の概念図である。図1B(A)は架橋層で挟まれた銅-銅積層体の構成断面図であり、図1B(B)はCuOナノ結晶の電子顕微鏡写真であり、図1B(C)は架橋層内の組織説明図である。
図1C】銅-銅積層体の固相分離状態を説明する構成図である。図1C(A)は架橋層30で銅-銅積層体が接合された構成断面図であり、図1C(B)は銅-銅積層体の架橋層30での固相離断の説明図である。
図2】蒸気アシスト真空紫外光照射プロセスの工程の説明図である。図2(A)は銅導体膜表面に真空紫外光を照射して浄化する工程を示し、図2(B)は銅導体膜表面を浄化した後の状態を示し、図2(C)は構造体表面の銅導体膜を相互に接近させて架橋層を形成する工程を示し、図2(D)は常温での接触及び低温加熱により構造体表面を架橋層で接合させる工程を示す。
図3】比較例としての表面活性化常温接合プロセスの工程の説明図であり、銅導体膜表面の原子レベルでの説明図である。図3(A)は、初期状態における第1の銅導体膜10及び第2の銅導体膜20のそれぞれの表面に吸着された有機コンタミ13及び23(有機化合物の付着汚れ)並びに自然酸化物層12及び22の原子又は分子を示す。図3(B)は、真空紫外光による銅導体膜表面での洗浄プロセスを示す。図3(C)は、真空中での低温加熱のような顕著な加熱のない状態での銅導体膜の接合を示す。
図4】大気圧低温接合装置の上面構成図である。ここで、蒸気アシスト真空紫外光照射手法での接合及び表面活性化常温接合プロセスを実施できる。図中41は試料搬入口、50及び52は待機室、72は試料ステージである(41、50、52、及び72を単にステージと称することもある)。40は気密室(エアロック室)、60はX線光電子分光室(XPS室)、70は接合室である(40、60、及び70を単にチャンバと称することもある)。46は真空紫外光源、48は温湿度センサ、42は真空ポンプ、44は噴霧器、62及び64はX線源及び光電子検出器である。真空紫外光照射手法は、気密室(エアロック室)40の中で行われる。試料搬入口41に試料を静置した後、噴霧器44で微細霧状にした溶剤蒸気を高純度窒素と混合し、当該混合蒸気を温湿度センサ48で所定の湿度に調整してチャンバに導入し、次いで、真空紫外光源46から真空紫外光を照射する。その後、試料は待機室50及び52を介してX線光電子分光室(XPS室)60又は接合室70に搬送される。接合室70内の試料ステージ72にはヒーターが内蔵されており、真空紫外光照射手法での接合時に試料を加熱できるようになっている。
図5A図5A(A)は、真空紫外光照射前後のCMP-Cu表面の化学結合状態変化を示すXPS Cu2p3のas-isスペクトルである。図5A(B)は、図5A(A)のスペクトルを最大強度で正規化し、Cuの化学結合状態の違いを強調したものである。真空紫外光照射だけのスペクトルは、コンタミに由来する-OHや-Oのピークが減衰しているが、接合ならびに分離層として機能する酸化物ナノ粒子の供給源となるCu(OH)ピークが十分に出現していない。一方、蒸気アシスト真空紫外光照射手法を施した表面ではCu(OH)に由来するピークが発現しており、企図した通りのプロセスが進行したことが示唆されている。
図5B図5B(A)は、真空紫外光照射前後のCMP-Cu表面の化学結合状態変化を示すXPS O1sのas-isスペクトルである。図5B(B)は、図5B(A)のスペクトルを最大強度で正規化し、Oの化学結合状態の違いを強調したものである。蒸気アシスト真空紫外光照射手法を施した表面では配位結合された分子水に由来するピークが発現しており、Cu(OH)の形成が示唆されている。
図6A】試料形状を示す図である。図6A(A)は試料側面からの試料形状を示す。図6A(B)は試料上部から見た試料形状を示す。
図6B】積層体試料に対して実施した試験の概要説明図である。図6B(A)は実施例におけるせん断強度試験の手法を説明する図面である。図6B(B)はCu接合界面に対するSEM画像の観察手法(界面電子顕微鏡観察)を例示する図面である。
図7A】蒸気アシスト真空紫外光照射手法で形成された架橋を有する積層体を示し、冷却処理前の試料の一例を示す。図7A(A)は、Cu-Cu界面が接着されたままで破断・剥離に至らず、Siチップ内部から母材破断した様子を示す。図7A(B)は、Cu-Cu界面が接着されたままで破断・剥離に至らず、せん断強度試験ステージに試料を固定するために用いる接着剤が剥離した様子を示す。すなわち、冷却処理なしには固相分離ができないことを示す。
図7B】蒸気アシスト真空紫外光照射手法で形成された架橋を有する積層体を示し、冷却処理後の試料の一例を示す。図7B(A)は冷却処理後の試料表面を示す。図7B(B)は冷却処理後の試料表面のSEM画像である。図7B(A)は、人力による直接の把持での応力印加で、SiチップやCu薄膜の明確な破壊はなく、2つのチップが固相分離されている全体像を示す。図7B(B)の拡大像では、Cu薄膜の顕著な破断が発生していないことと、酸化物ナノ粒子の膨張に伴うCu薄膜表面の粗化が見られる。
図7C】蒸気アシスト真空紫外光照射手法で形成された架橋を有する積層体の構造変化を示すSEM像であり、冷却処理前の試料の一例を示す。冷却処理を行わない場合は、Cu薄膜の密着が保たれている様子が見られる。
図7D】蒸気アシスト真空紫外光照射手法で形成された架橋を有する積層体の構造変化を示すSEM像であり、冷却処理後の試料の一例を示す。冷却処理によりCu薄膜が分離している様子が見られる。Cu薄膜間が明確に離れていることについては、透過電子顕微鏡試料の作製過程で積層体を冷間樹脂に封入するプロセスがあるため、樹脂硬化に伴う圧縮力で疎化した界面が部分的に破断し、そこに樹脂が流入して硬化したことによる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1Aは、本発明の一実施例である銅-銅積層体の冷却による固相分離方法の概念図である。図1A(A)は一般的な負の熱膨張係数材料を架橋層30として挟んだ銅-銅積層体の構成断面図であり、図1A(B)は負の熱膨張係数材料の架橋層及び架橋層と構造体(以下母材と称することもある)界面近傍で不随意に発生する欠陥の起点の説明図であり、図1A(C)は図1A(B)の欠陥起点から予測できない方向に破断が伝搬する様子の説明図である。
処理対象である銅-銅積層体は、第1の銅導体膜10、第2の銅導体膜20、第1の構造体14である母材、第2の構造体24である母材及び架橋層30で構成されている。構造体(母材)としては、電子デバイスの場合には、典型的にはシリコン基板、プリント配線板、又はSiウエハ等が挙げられ、当該母材の上には銅導体膜として銅箔を用いた配線パターン(銅薄膜配線パターン)が設けられている。したがって、第1の銅導体膜10は第1の構造体(母材)14の表面に積層されて接合面を成し、第2の銅導体膜20は第2の構造体(母材)24の表面に積層されて接合面を成している(図1A(A)参照)。
なお、架橋層30と比較すると第1の銅導体膜10及び第1の構造体14並びに第2の銅導体膜20及び第2の構造体24の厚みは大きいので、本図では、第1の銅導体膜10及び第1の構造体14を一体として第1の銅導体膜10と図示し、第2の銅導体膜20及び第2の構造体24を一体として第2の銅導体膜20と図示している。
処理対象である銅-銅積層体に対して温度変化を与えると、酸化銅(II)の磁気転移温度付近での温度変化及び熱膨張係数から定まる応力が、架橋層30を挟む第1の銅導体膜10及び第2の銅導体膜20に作用する。前記応力が作用すると架橋層30内部で剥離破断91が生じ、架橋層30との界面近傍のみで部分的な銅導体膜の破断90が生じる(図1A(B)参照)。その後さらに前記応力が作用することにより架橋層30内で欠陥が伝搬する架橋層内の欠陥伝搬92が生じる(図1A(C)参照)。
本発明において磁気転移温度付近での温度変化により最終的に固相破断が生じることから、磁気転移をトリガー温度とも称する。本発明における酸化銅(II)の磁気転移温度は、純粋な酸化銅(II)の単結晶と比較してばらつきがあるため、-100℃以上-80℃以下である。
【0018】
図1Bは、本発明の一実施例である蒸気アシスト真空紫外光照射手法を用いた銅-銅積層体の冷却による固相分離方法の概念図である。図1B(A)は架橋層で挟まれた銅-銅積層体の構成断面図であり、図1B(B)は酸化銅(II)のナノ結晶(本願明細書において「CuOナノ結晶」と記載する場合もある)の透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、以下TEMと称することもある)による電子顕微鏡写真であり、図1B(C)は架橋層内の組織説明図である。
第1の銅導体膜10と第2の銅導体膜20との間には架橋層30が存在し(図1B(A))、第1の銅導体膜10又は第2の銅導体膜20と架橋層30との間には、それぞれ自然酸化物(native oxide)層12及び22が存在する(図1B(C))。蒸気アシスト真空紫外光照射手法を用いて形成された架橋層30では、以下の式(1)で表される反応により、経時的に界面近傍にCuOナノ結晶が生成され得る(図1B(B)参照)。
Cu(OH)→CuO + HO (1)
CuOナノ結晶は、結晶粒径1~20nmの結晶であり、例えば図1B(B)に示すように、透過電子顕微鏡などの電子顕微鏡手法により、その結晶粒径を測定することができる。好ましくは、CuOナノ結晶の結晶粒径は1nm以上10nm以下であるとよい。
【0019】
図1Cは、銅-銅積層体の固相分離状態を説明する構成図である。図1C(A)は架橋層30を介して接合された銅-銅積層体の構成断面図であり、図1C(B)は銅-銅積層体の架橋層30での固相離断の説明図である。
第1の銅導体膜10及び第2の銅導体膜20の間には、架橋層30が位置している。架橋層30の膜厚は、例えば15~20nmである。界面近傍のCuOナノ結晶層が、トリガー温度である磁気転移温度の近傍で、急激に一定応力で膨張する(図1C(A)参照)。銅-銅積層体の架橋層30での固相離断により、第1の銅導体膜10及び第2の銅導体膜20の旧接合面には残存架橋層34a及び34bが位置すると共に、破砕された粒子状CuOナノ結晶34cが残存する(図1C(B)参照)。
【0020】
架橋層構造の形成には、水蒸気含有大気圧窒素雰囲気での真空紫外光照射手法(vapor-assisted vacuum ultra-violet method、以下蒸気アシスト真空紫外光照射手法)を用いる。
図2は、蒸気アシスト真空紫外光接合プロセスの工程の説明図である。図2(A)は銅導体膜表面に真空紫外光を照射して浄化する工程を示し、図2(B)は銅導体膜表面を浄化した後の状態を示し、図2(C)は構造体表面の銅導体膜を相互に接近させて架橋層を形成する工程を示し、図2(D)は常温での接触及び低温加熱により構造体表面を架橋層で接合させる工程を示す。
【0021】
図2(A)では、銅導体膜表面に対して露出量を制御して真空紫外光を照射する。銅導体膜10及び20の表面上には、有機コンタミ23(有機化合物の付着汚れ)並びに自然酸化物層12及び22が存在している。図2(B)では、銅導体膜10及び20の表面に存在する有機コンタミ23並びに自然酸化物層12及び22の一部が真空紫外光によって除去される。図2(C)では、銅導体膜10及び20の表面にある自然酸化物層12及び22の一部が還元されて、架橋層30の形成がなされる。図2(D)では、架橋層30が形成された後、架橋層30を介して第1の銅導体膜10及び第2の銅導体膜20を接合することで、第1の構造体及び第2の構造体が接合された銅-銅積層体が形成される。
蒸気アシスト真空紫外光照射手法で改質された金属表面には厚さ数nmの水酸化水和物の架橋層30が形成され、その表面どうしを常温で接触させた後に例えば150℃程度に加熱して脱水縮合反応を促進することで強固な結合を得ることができる。
本発明では、蒸気アシスト真空紫外光照射手法中に金属自然酸化物(すなわち銅の自然酸化物)の膜が一部還元され、金属イオン(銅イオン)が生じる。この金属イオンのうち架橋層形成に寄与しなかった余剰分の金属イオンは、前記脱水縮合反応により生成される水分子と反応することで、架橋層内で酸化物ナノ結晶が生じる。この結果、本発明の積層体の接合界面において、経時的に架橋層30と自然酸化物層12及び22との境界は消失し、曖昧になるため、応力印加時に接合界面で破断が生じることを防ぐことができる。本願明細書において、上述した経時的な境界面の変化を、生じた金属イオンの動きに着目し「イオンの拡散」と称することがある。
本発明においては、上記の脱水縮合反応及びイオンの拡散により、接合体の強度が向上する。
【0022】
図3は、比較例としての表面活性化常温接合プロセスの工程の説明図であり、該プロセスを原子レベルで説明する。そこで、架橋層の有効性を検証するために、理想的な直接接合界面が得られる表面活性化常温接合手法を比較対象として用いる。
図3(A)は、初期状態における第1の銅導体膜10及び第2の銅導体膜20のそれぞれの表面に吸着された有機コンタミ(有機化合物の付着汚れ)13及び23並びに自然酸化物層12及び22の原子又は分子を示す。
図3(B)は、真空紫外光による銅導体膜表面での洗浄プロセスを示す。
図3(C)は、真空中での低温加熱のような顕著な加熱のない状態での銅導体膜の接合を示す。
表面活性化常温接合手法は、酸化物などの化学的に安定な層を高真空中でのAr高速原子ビーム65(以下Ar-FAB)により除去し(図3(B)参照)、原子論的に清浄な銅導体膜間で発生する引力を利用する理想的な直接接合である。これによって、架橋層を含まずに第1の銅導体膜10及び第2の銅導体膜20が接合する(図3(C)参照)。
【0023】
図4は、大気圧低温接合装置の構成図である。該装置によれば蒸気アシスト真空紫外光照射手法での接合及び表面活性化常温接合プロセスを実施できる。
図4において、大気圧低温接合装置は、気密室(エアロック室)40、待機室50及び52、X線光電子分光室(XPS室)60、並びに接合室70を備えている。
気密室(エアロック室)40には、試料搬入口41、真空ポンプ42、噴霧器44、真空紫外光源46、及び温湿度センサ48が設けられている。試料搬入口41は、処理対象となる試料を気密室(エアロック室)40内に搬入するための入り口である。噴霧器44は、霧化した純水蒸気を含む窒素ガス雰囲気を気密室(エアロック室)40内に供給する。真空ポンプ42は、気密室(エアロック室)40内の空気を排気して、噴霧器44による窒素雰囲気での置換を可能とする。真空紫外光源46は、例えばエキシマランプを用いることができる。エキシマランプは、希ガスを封入したランプ内で発生する放電プラズマ(誘電体バリア放電)により発生する光(エキシマ光)を利用する。エキシマランプの主な波長としては、126nm(Ar)、146nm(Kr)、172nm(Xe)、222nm(KrCl)、及び308nm(XeCl)がある。真空紫外光としてはXeを利用した172nmを主波長としたランプユニットを用いることが、表面改質、親水化処理処理(濡れ性向上)用途に適している。温湿度センサ48は、気密室(エアロック室)40の室内の湿度及び圧力の測定器である。
【0024】
待機室50及び待機室52は、気密室(エアロック室)40で表面改質された試料をX線光電子分光室(XPS室)60及び接合室70に送るための待機場所である。
X線光電子分光室(XPS室)60は、試料表面のX線光電子分光写真を撮影する室で、X線源62及び64が設けられている。X線源62及び64は、XYZ方向の3軸にビームを偏向でき、試料の任意の場所にイオンビームを照射できる。XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)は、X線照射により放出される光電子の運動エネルギー分布を測定し、試料表面(数nm程度の深さ)に存在する元素の種類、存在量、及び化学結合状態に関する知見を得る手法である。
【0025】
接合室70では、試料の銅導体膜同士を接合する。蒸気アシスト真空紫外光照射手法では、架橋層を介して銅導体膜同士を接合する。一方、表面活性化常温接合プロセスでは、原子論的に清浄な銅導体膜間で発生する引力を利用して銅導体膜同士を直接接合するため、架橋層を含まない。
【0026】
続いて、本発明の銅-銅積層体の分離方法の作用メカニズムを説明する。例えば図1Cに示すように、Cuを含む接合界面を冷却により固相分離するために必須な要素は、以下の2点である:
(1)銅導体膜に由来する簡素な化合物で架橋層を形成すること、及び
(2)その架橋層が明確なトリガー温度である磁気転移温度のごく近辺の温度領域でのみ顕著に体積膨張すること。
なお、トリガー温度である磁気転移温度が、通常の電子機器の使用温度と比較して十分低い温度であれば、電子機器の通常の使用には支障を生じない。
【0027】
架橋層の形成については、蒸気アシスト真空紫外光照射手法で改質されたCu表面に形成されるCu水酸化水和物架橋をそのまま利用する。この架橋層内には、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、以下TEM)観察にて、経時的にCuOナノ結晶が析出することが見いだされている(図1B(B)参照)。
これらのCuOナノ結晶は、架橋層を形成するCu(OH)・[HO]の脱水縮合反応で生成した水分子と、蒸気アシスト真空紫外光照射手法において、真空紫外光の照射により材料表面の自然酸化物膜の一部がHラジカルにより還元されることで発生する金属イオン(銅イオン)の余剰分との反応が主要因で生成すると考えられる(他方、Cu(OH)・[HO]から水が脱離したCu(OH)を出発点にして、上記式(1)のCu(OH)→CuO + HOの反応によってもCuOナノ結晶が生成すると考えられる)。材料は異なるが、Al表面に対する蒸気アシスト真空紫外光照射手法の適用で、同様のメカニズムで酸化物ナノ結晶が生じることがTEM観察で見いだされている。
【0028】
本発明の銅-銅積層体の分離方法においては、積層体が酸化銅(II)(CuO)の磁気転移温度(-100℃以上-80℃以下の範囲)以下に冷却されることで、架橋層に含有されるCuOナノ結晶が膨張して界面に応力が発生し、固相離断効果が得られる。
接合界面で発生する応力はナノ結晶の生成密度に比例すると考えられる。このため、プロセス制御条件には、蒸気アシスト真空紫外光照射手法のパラメタである露出量を用いることが最も簡潔である。また、架橋層厚がナノ結晶生成密度に比例すると推測されることから、プロセス制御条件は架橋層厚を用いてもよい。
【実施例
【0029】
実施例として、Siチップ上に成膜したCMP(chemical mechanical polishing)-Cu薄膜同士の積層体の固相分離結果を挙げる(図6A参照)。この組み合わせは積層電子基板の平坦化配線として代表的な構造の一つである。同種の構造の試料どうしの積層体を用いることで、材料間の熱膨張係数の違いの影響を排し、架橋層の膨張に起因する応力の効果のみを抽出する。
また、架橋層の有無による固相分離効果の発現可否を明確にするために、蒸気アシスト真空紫外光照射手法で得られた積層体に加え、高真空内でのAr高速原子ビーム衝撃による表面活性化常温接合手法(Surface Activated Bonding、以下SAB手法)でも試料を製作し、両方の接合手法で製作した試料について冷却前後の接合強度変化をせん断試験で評価した。
【0030】
CMP-Cu薄膜は、自然酸化物の皮膜つきSiウエハ上に厚さ約1μmで成膜され、平均表面粗さは約2nmである(図6A参照)。試料はアセトン、エタノール、水の順に各180s超音波洗浄して初期吸着物を除去した後、大気圧低温接合装置に導入された(図4)。図4に示す大気圧低温接合装置では、それぞれの表面改質プロセス後、試料表面を外気に暴露することなくXPS観察ができる。
【0031】
装置に試料を導入した後、大気圧低温接合装置を用いた蒸気アシスト真空紫外光照射手法による積層体の製造工程を説明する。
(1) 気密室(エアロック室)40内を霧化した純水蒸気を含む窒素雰囲気で置換した。
(2) 気密室(エアロック室)40内で、試料であるSiウエハ上に波長172nm、試料上照度約5mW/cmの真空紫外光照射を開始した。真空紫外光露出量は約3.4s・kg/mであった。この値は、過去の検討により、一般的なCMP-Cu薄膜上で架橋層厚が15~20nm程度に達し飽和すると判明していることから採用した。
(3) 架橋層を形成したCMP-Cu表面どうしを常温で接触させ、500Nまで荷重印加した後、加熱を開始した。
(4) 加熱は150℃まで行い、600s保持し、積層体を得た。
各条件について、真空紫外光光源の波長は、水蒸気及び材料表面の多様な吸着物を分解するエネルギーを十分に有するもののうち、市販の装置で照射可能な波長を選択した。上記(3)における接触時の印加荷重は、平坦な表面間を常温で機械的に完全接触させることが難しいため、揺動治具を用いて片側の試料の傾きに倣わせるためのものである。したがって、必ずしも印加荷重が必要とは限らない。加熱保持時間も装置依存性の数値である。
【0032】
実際に、接合装置に併設されているX線光電子分光計(XPS)により、上記(2)で採用した露出量条件でCMP-Cu表面上に水酸化水和物架橋が形成されることを確認した(図5)。
図5A及び図5Bは、真空紫外光照射前後のCMP-Cu表面の化学結合状態変化を示すXPS(X線光電子分光法:X-ray Photoelectron Spectroscopy)スペクトルである。図5AはCu2p3を示し、図5BはO1sを示している。図5A(A)及び図5B(A)はas-isの測定スペクトルを示す。図5A(B)及び図5B(B)は最大ピーク強度で正準化されたスペクトルを示す。
図5A(A)及び図5A(B)によれば、VUV照射だけのスペクトルは、コンタミに由来する-OHや-Oのピークが減衰しているが、接合ならびに分離層として機能する酸化物ナノ粒子の供給源となるCu(OH)ピークが十分に出現していない。一方、真空紫外光照射手法を施した表面ではCu(OH)に由来するピークが発現しており、企図した通りのプロセスが進行したことが示唆されている。
図5B(A)及び図5B(B)によれば、真空紫外光照射手法を施した表面では配位結合された分子水に由来するピークが発現しており、Cu(OH)の形成が示唆されている。
すなわち、Cu2p3においては、蒸気アシスト真空紫外光照射手法を施した表面は他のものに比べて明確にCu強度が増加し、水酸化物水和物の割合が増加した。O1sでも同様の傾向が見られた。
【0033】
次に、表面活性化常温接合法による試料は以下の手順で製作した。
(1) バックグラウンド真空圧約1.0×10-6Paの高真空雰囲気下で、出力2kV・20mAでAr高速原子ビームを励起し300s照射した。これによりCMP-Cu表面が約15nmエッチング(酸化物除去)された。
(2) 同様の高真空雰囲気中にて、原子論的に清浄な表面を直ちに常温で接触させた。
(3) 常温で加圧した状態で600s保持した。
蒸気アシスト真空紫外光照射手法及び表面活性化常温接合手法で得られた試料の両方について、接合後は速やかに除荷し、-90℃に設定された工業用冷凍庫(大気雰囲気)中に搬送して24時間保持した(冷却処理)。冷却前処理後の積層体に対して、せん断試験を行った。せん断試験は、図6B(A)に示すように、ステージ80上に接着剤82を介して試料の積層体を固定し、最大荷重500Nのロードセルを用いて第1の構造体14であるSiウエハに対して徐々に力を加え、積層体の接合強度と破断モードの変化を観察した。
また、試料の積層体の接合界面の様子を以下のように走査電子顕微鏡(以下SEM)により観察した。
(1)冷却した試料の積層体を、常温で2液混合型の液体状エポキシ樹脂の中に沈めた。
(2)エポキシ樹脂が固まるまで静置した。なお、エポキシ樹脂が固まる過程で樹脂の体積が減るのに合わせ、液体状エポキシ樹脂の中に沈められた試料の積層体には応力がかかる。冷却した試料の積層体の界面は弱化しているため、この過程で界面が離断し、その隙間にエポキシ樹脂が流れ込む。
(3)エポキシ樹脂が固まった後、電子顕微鏡に導入できる大きさに試料を切断した。切断した試料の接合界面を観察するため、材料内部に向かって電子ビームで「深堀り」した(図6B(B)参照)。
(4)SEMにより界面近傍の構造を観察した。蒸気アシスト真空紫外光照射手法で形成された架橋層を有する積層体の冷却前後のSEM像を図7C及び図7Dに示す。
【0034】
蒸気アシスト真空紫外光照射手法による架橋形成の冷却固相分離性に対する有効性を、図7A図7Dを用いて実証する。図7Aは、蒸気アシスト真空紫外光照射手法で形成された架橋層を有する積層体を示し、冷却処理前の試料の一例を示す。図7Bは、蒸気アシスト真空紫外光照射手法で形成された架橋層を有する積層体を示し、冷却処理後の試料の一例を示す。
図7A(A)は、Cu-Cu界面が接着されたままで破断・剥離に至らず、Siチップ内部から破断した様子を示す。図7A(B)は、Cu-Cu界面が接着されたままで破断・剥離に至らず、せん断強度試験ステージに試料を固定するために用いる接着剤が剥離した様子を示す。すなわち、図7Aから、蒸気アシスト真空紫外光照射手法により架橋形成された積層体において、冷却前は強固な結合が維持されていたことが分かる。これに対し、図7B(A)に示すように、冷却後は人力による直接の把持での応力印加で、SiチップやCu薄膜の明確な破壊なく、2つのチップが固相分離されることが分かる。また、図7B(B)の拡大像では、Cu薄膜の顕著な破断が発生していないことがわかる。さらに、図7B(B)の拡大像では、Cu表面が微粒子状に膨張した皮膜で覆われ、脆化したことが示唆されている。
図7Cは、蒸気アシスト真空紫外光照射手法で形成された架橋層を有する積層体の構造変化を示すSEM像であり、冷却処理前の試料の一例を示す。図7Dは、蒸気アシスト真空紫外光照射手法で形成された架橋層を有する積層体の構造変化を示すSEM像であり、冷却処理後の試料の一例を示す。
図7C及び図7Dにおいて、明るく写る部分がCMP-Cuである。図7Cにおいて、CMP-Cuの間にCu自然酸化物及び架橋層からなる界面が確認された。図7Dにおいて、当該界面が大きく離れていることがわかる。なお、Cu薄膜間が明確に離れていることについては、透過電子顕微鏡試料の作製過程で接合体を冷間樹脂に封入するプロセスがあるため、樹脂硬化に伴う圧縮力で疎化した界面が部分的に破断し、そこに樹脂が流入して硬化したことによる。
【0035】
なお、図6B(A)に示すせん断強度試験においては、冷却処理前の試料については表面活性化常温接合手法及び蒸気アシスト真空紫外光照射手法により形成された積層体のどちらにおいても、Cu-Cu界面は強固に結合され、人力による直接の把持での応力印加では界面の破断には至らなかった。当該積層体はステージと試料の間の接着材又はSiチップ内部で破損し、3回せん断試験を繰り返した後もCu-Cu界面の密着は保たれた(図7A及び図7C参照)。図7A(B)は、蒸気アシスト真空紫外光照射手法により形成された積層体において、Cu-Cu界面の破断・剥離に至らず、接着剤によるステージとの接合箇所から剥離された様子を示す。
【0036】
このうち特に表面活性化常温接合手法で得られた積層体、すなわち架橋層が形成されていない積層体については、冷却後も同様の挙動が観察されたことから、Cu水酸化水和物架橋層の有無が固相分離性の発現を支配していると言える。
これに対し、蒸気アシスト真空紫外光照射手法で得られた積層体は、冷却処理後は接合強度が約0.7MPa以下に減少し、人力による直接の把持で剥離可能になった。冷却処理後の試料の剥離はCu-Cu界面で発生し、CMP-Cu薄膜又はSiチップに顕著な破損はなく、固相分離性が示された(図7B(A)の分離時の外観写真及び同図(B)のSEM画像参照)。蒸気アシスト真空紫外光照射手法で得られた試料の冷却処理前後の接合界面のSEM観察では、冷却処理前の界面が有意なボイドなく密着しているのに対し、冷却処理後は脆化した界面に吸着物及び冷間樹脂が侵入し、CMP-Cu間のギャップが顕著に拡大している様子が観察された(図7C及び図7D参照)。同様の冷却処理による固相分離効果が、Cuとポリイミドの蒸気アシスト真空紫外光照射手法接合界面でも確認された。
【0037】
なお、本発明の実施例として、図1図7で示す実施形態を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の実施態様が、当業者に自明な範囲で考えられるため、このような自明な範囲も本発明の権利範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の銅-銅積層体の分離方法は、電子デバイスを含む構造体のリサイクルのために好適に用いられる。電子デバイスを含む構造体は、薄型軽量化と生体親和性の目的から可撓性有機基板を多用しており、可撓性有機基板等の内部に含まれる希少材料の回収効率の向上が求められている。そのため、材料複合化(接合)から実働中までは強固な結合力を維持し、耐用年数後は異種材料を接着界面又は接合界面から固相分離できる手法を提供することは、リサイクル中間処理プロセスの負荷削減に直結する。
本発明の銅-銅積層体の分離方法においては、架橋層の厚さの成長挙動は簡易なパラメタ(露出量)で制御可能であることから、接合時に複合材料の総合的ライフサイクル設計が可能になり、製品の製造工程設計の効率化に資する。例えばIoT(Internet of things)デバイスの費用が全体の40%を超えると予測されている次世代の自動車産業などで、分野横断的な活用が期待される。
【符号の説明】
【0039】
10:第1の銅導体膜
12:銅導体膜の自然酸化物層
13:有機コンタミ
14:第1の構造体(母材)
20:第2の銅導体膜
22:銅導体膜の自然酸化物層
23:有機コンタミ
24:第2の構造体(母材)
30:架橋層
34a、34b:残存架橋層
34c:粒子状CuOナノ結晶
40:気密室(エアロック室)
41:試料搬入口
42:真空ポンプ
44:噴霧器
46:真空紫外光源
48:温湿度センサ
50、52:待機室
60:X線光電子分光室(XPS室)
62、64:X線源及び光電子検出器
65:Ar高速原子ビーム
70:接合室
80:ステージ
82:接着剤
90:部分的な銅導体膜の破断
91:剥離破断
92:架橋層内の欠陥伝搬
100:Cu界面
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D