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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】椎間板変性に伴う疾患の処置剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/46 20060101AFI20241203BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A61K38/46 ZNA
A61P19/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024083870
(22)【出願日】2024-05-23
(62)【分割の表示】P 2024080317の分割
【原出願日】2024-05-16
【審査請求日】2024-05-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「橋渡し研究プログラム」、「ヒトリコンビナントMMP-7(KTP-001)を用いた腰椎椎間板ヘルニアに対する医師主導治験」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524186589
【氏名又は名称】株式会社キュアディスク
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100201020
【弁理士】
【氏名又は名称】野中 信宏
(74)【代理人】
【識別番号】100140350
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 和宏
(72)【発明者】
【氏名】波呂 浩孝
【審査官】鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2004/058296(JP,A1)
【文献】新医薬品の臨床評価に関する一般指針について,厚生省薬務局新医薬品課長通知,薬新薬第四三号,1992年06月29日,https://www.pmda.go.jp/files/000206739.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/46
A61P 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MMP-7を有効成分として含有する、ヒト椎間板ヘルニアの処置剤であって、1回あたりのMMP-7の用量が、300 μg~600 μgである、処置剤。
【請求項2】
MMP-7が、遺伝子組み換え型ヒトMMP-7である、請求項1に記載の処置剤。
【請求項3】
ヒト椎間板ヘルニアの患部に直接投与されるための、請求項1に記載の処置剤。
【請求項4】
ヒト椎間板ヘルニアの患者に複数回投与されるための、請求項1に記載の処置剤。
【請求項5】
ヒト椎間板ヘルニアの患者であって、ヒト椎間板ヘルニアの保存治療を受けていない患者に投与されるための、請求項1に記載の処置剤。
【請求項6】
ヒト椎間板ヘルニアの患者であって、ヒト椎間板ヘルニアを確定する診断の直後の患者に投与されるための、請求項1に記載の処置剤。
【請求項7】
前記ヒト椎間板ヘルニアを確定する診断が、MRIを用いて行われる、請求項6に記載の処置剤。
【請求項8】
注射剤であり、1回あたりの投与量が2cc以上である、請求項1に記載の処置剤。
【請求項9】
MMP-7の含有量が、300 μg~600 μgである、請求項1に記載の処置剤。
【請求項10】
単位製剤である、請求項1に記載の処置剤。
【請求項11】
ヒト椎間板ヘルニアの患者に1日あたり1回投与されるための、請求項1に記載の処置剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椎間板変性に伴う疾患の処置剤に関し、より具体的には、椎間板ヘルニア、腰痛症、椎間板症、脊柱後側彎症及び変形性脊椎症からなる群から選ばれる椎間板変性に伴う疾患の処置剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腰椎椎間板ヘルニアは20~40歳の青壮年期に好発し、急性期には高度の腰下肢痛や神経障害を伴うため、社会経済的活動が大きく制限される。一方で、腰椎椎間板ヘルニアは発症から6週間以内に約70%の患者は疼痛が軽減することが報告されている(非特許文献1)。発症から3カ月以内に症候性の椎間板ヘルニアの60%が吸収されることから、疼痛や神経症状が改善する可能性がある。
【0003】
腰椎椎間板ヘルニアに対する治療の原則は保存療法であり、薬物療法として、世界各国で鎮痛薬、筋弛緩薬、末梢神経障害性疼痛治療薬などによる治療が一般的に行われているが、腰椎椎間板ヘルニア患者における疼痛と身体機能の改善を目的とした薬物治療において、特定の薬剤の明確な有効性は示されていない(非特許文献1)。また、運動療法、牽引療法、超音波療法やコルセットなどの理学療法や代替療法に関して、その有効性が十分に示されているものはなく、その治療効果は限定的であるとされている(非特許文献1)。すなわち、現在本邦で実施されている保存的治療は対症療法であり、変性椎間板が脊柱管あるいは椎間孔外に膨隆、脱出して神経根や硬膜管を圧迫し、炎症を惹起するという本疾患の病態に対する根治的治療ではない。一方、手術的治療のエビデンスは、特に短期的には確立されており、手術適応を満たす場合には手術が有用であるが、長期的には過去のエビデンスでも評価が分かれており、手術適応の有無を見極めることが重要であるとされている(非特許文献1)。手術に代わる椎間板内治療剤としてコンドリアーゼが上市されているが、異種蛋白であることによりショック、アナフィラキシー等の重大な副作用発現リスクがある(非特許文献2~非特許文献3)。また、適応は「保存療法で十分な改善が得られない後縦靱帯下脱出型の腰椎椎間板ヘルニア」だけで、症状の原因である高位の椎間板内への単回投与のみ認められており、本剤の再投与を行うことはできないとされている。
【0004】
KTP-001は、本発明者の基礎研究の成果などを基に開発された、遺伝子組換えヒトマトリックスメタロプロテアーゼ-7(MMP-7)(rhMMP-7)を有効成分とする新規の化学的髄核融解療法剤である。MMP-7は椎間板髄核細胞が産生する細胞外基質の主成分であるプロテオグリカンを酵素的に切断する。椎間板ヘルニアの自然退縮機序にはMMP-7が発現していることが確認されており、MMP-7を椎間板内に投与することは生理的に自然退縮機序を促進するメカニズムと同様であると考えられる。
【0005】
特許文献1は、MMP-7の椎間板変性治療剤としての用途を開示する。特許文献2は、大腸菌での大量生産を可能にしたMMP-7の製造方法を開示する。特許文献3は、バイアル製剤等での保存安定性を高めたMMP-7製剤の製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4512038号公報
【文献】特許第5602635号公報
【文献】特許第6755793号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】南江堂、腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン改訂第3版(2021年5月発行)
【文献】生化学工業、ヘルニコア(登録商標)椎間板症用1.25単位適正使用ガイド第1版(2018年6月作成)
【文献】生化学工業、ヘルニコア(登録商標)椎間板症用1.25単位市販後調査結果のご報告(2019年4月)
【文献】Haro H, et al. Experimental chemonucleolysis with recombinant human matrix metalloproteinase 7 in human herniated discs and dogs. Spine J. 2014; 14(7): 1280-1290.
【文献】池田俊也, et al. 日本語版 EQ-5D-5L におけるスコアリング法の開発. 保健医療科学. 2015; 64(1): 47-55.
【文献】Dworkin RH, Turk DC, Farrar JT, Haythornthwaite JA, Jensen MP, Katz NP, et al. Core outcome measures for chronic pain clinical trials: IMMPACT recommendations. Pain. 2005; 113(1-2):9-19.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、MMP-7を椎間板変性治療剤の用途に用いるにあたっては、1回あたりの投与量が、約1μg~100mg、好ましくは100μg~1mgであると記載されているが、特許文献1の実施例においては、ウサギ椎間板に対して、ヒトリコンビナントMMP-7を10μg/100μl又は40μg/100μl投与すること(実施例2)と、イヌ椎間板に対して、MMP-7を20μg/200μl又は10μg/100μl投与すること(実施例3)と、イヌ椎間板に対して、MMP-7を20μg/200μl投与すること(実施例4)しか記載されておらず、これ以外の投与量においてMMP-7を椎間板変性治療剤の用途に用いることができるかどうかは、明らかでなかった。また、ヒト椎間板に対してMMP-7を投与したことは特許文献1には記載されておらず、MMP-7をヒトの椎間板変性治療剤の用途に用いることができるかどうかも、明らかではなかった。
【0009】
実際、本発明者らが行った本製剤MMP-7(KTP-001)の米国における治験では、5 μgのMMP-7がヒトに投与されたものの、例外的な1例を除き、椎間板内注入治療の効果は認められず、また、15 μgのMMP-7がヒトに投与されたものの、全例が脱出型ヘルニアであり、その自然経過に過ぎず、明確な治療効果は得られなかった。このため、ヒトを対象とする場合には、ウサギやイヌを対象とする場合とは異なり、MMP-7を椎間板変性治療剤の用途に用いることができないことが疑われた。
【0010】
したがって、本発明は、ヒトを対象とする場合であっても、MMP-7を、椎間板変性に伴う疾患の処置剤における有効成分として用いることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討したところ、全く意外なことに、1回あたりのMMP-7の用量を所定の量とすることにより、ヒトを対象とする場合であっても、MMP-7を、椎間板変性に伴う疾患の処置剤における有効成分として用いることができることを見出した。
【0012】
前述のように、本製剤MMP-7(KTP-001)の米国における治験では、5 μgのMMP-7がヒトに投与された場合には、例外的な1例を除き、椎間板注入治療の効果は認められず、15 μgのMMP-7がヒトに投与された場合には、全例が脱出型ヘルニアであり、その自然経過に過ぎず、明確な治療効果は得られず、ヒトを対象とする場合には、1回あたりのMMP-7の用量を変化させても、MMP-7を、椎間板変性に伴う疾患の処置剤における有効成分として用いることができるようにはならなかったことに鑑みれば、本発明者の知見は、全く意外である。
【0013】
すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
[態様A-1]
MMP-7を有効成分として含有し、椎間板ヘルニア、腰痛症、椎間板症、脊柱後側彎症及び変形性脊椎症からなる群から選ばれる椎間板変性に伴う疾患の処置剤であって、1回あたりのMMP-7の用量が、300 μg~600 μgである、処置剤。
[態様A-2]
MMP-7が、遺伝子組み換え型ヒトMMP-7である、態様A-1に記載の処置剤。
[態様A-3]
前記疾患の患部に直接投与されるための、態様A-1に記載の処置剤。
[態様A-4]
前記疾患の患者に複数回投与されるための、態様A-1に記載の処置剤。
[態様A-5]
前記疾患の患者であって、前記疾患の保存治療を受けていない患者に投与されるための、態様A-1に記載の処置剤。
[態様A-6]
前記疾患の患者であって、前記疾患を確定する診断の直後の患者に投与されるための、態様A-1に記載の処置剤。
[態様A-7]
前記疾患を確定する診断が、MRIを用いて行われる、態様A-6に記載の処置剤。
[態様A-8]
注射剤であり、1回あたりの投与量が2cc以上である、態様A-1に記載の処置剤。
[態様A-9]
MMP-7の含有量が、300 μg~600 μgである、態様A-1に記載の処置剤。
[態様A-10]
単位製剤である、態様A-1に記載の処置剤。
[態様A-11]
前記疾患の患者に1日あたり1回投与されるための、態様A-1に記載の処置剤。
[態様B-1]
MMP-7を有効成分として含有し、椎間板ヘルニア、腰痛症、椎間板症、脊柱後側彎症及び変形性脊椎症からなる群から選ばれる椎間板変性に伴う疾患の処置剤であって、1回あたりのMMP-7の用量が、100 μg~700 μgである、処置剤。
[態様B-2]
1回あたりのMMP-7の用量が、250 μg~500 μgである、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-3]
1回あたりのMMP-7の用量が、300 μg~450 μgである、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-4]
MMP-7が、遺伝子組み換え型ヒトMMP-7である、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-5]
前記疾患の患部に直接投与されるための、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-6]
前記疾患の患者に1日あたり1回投与されるための、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-7]
前記疾患の患者に複数回投与されるための、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-8]
前記疾患の患者であって、前記疾患の保存治療を受けていない患者に投与されるための、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-9]
前記疾患の患者であって、前記疾患を確定する診断の直後の患者に投与されるための、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-10]
前記疾患を確定する診断が、MRIを用いて行われる、態様B-9に記載の処置剤。
[態様B-11]
注射剤であり、1回あたりの投与量が2cc以上である、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-12]
MMP-7の含有量が、100 μg~700 μgである、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-13]
MMP-7の含有量が、250 μg~500 μgである、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-14]
MMP-7の含有量が、300 μg~450 μgである、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-15]
単位製剤である、態様B-1に記載の処置剤。
[態様B-16]
MMP-7を有効成分として含有し、椎間板ヘルニア、腰痛症、椎間板症、脊柱後側彎症及び変形性脊椎症からなる群から選ばれる椎間板変性に伴う疾患を処置するための医薬組成物であって、1回あたりのMMP-7の用量が、100 μg~700 μgである、医薬組成物。
[態様B-17]
1回あたりのMMP-7の用量が、250 μg~500 μgである、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-18]
1回あたりのMMP-7の用量が、300 μg~450 μgである、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-19]
MMP-7が、遺伝子組み換え型ヒトMMP-7である、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-20]
前記疾患の患部に直接投与されるための、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-21]
前記疾患の患者に1日あたり1回投与されるための、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-22]
前記疾患の患者に複数回投与されるための、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-23]
前記疾患の患者であって、前記疾患の保存治療を受けていない患者に投与されるための、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-24]
前記疾患の患者であって、前記疾患を確定する診断の直後の患者に投与されるための、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-25]
前記疾患を確定する診断が、MRIを用いて行われる、態様B-24に記載の医薬組成物。
[態様B-26]
注射剤であり、1回あたりの投与量が2cc以上である、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-27]
MMP-7の含有量が、100 μg~700 μgである、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-28]
MMP-7の含有量が、250 μg~500 μgである、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-29]
MMP-7の含有量が、300 μg~450 μgである、態様B-16に記載の医薬組成物。
[態様B-30]
単位製剤である、態様B-16に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ヒトを対象とする場合であっても、MMP-7を有効成分として、椎間板ヘルニア、腰痛症、椎間板症、脊柱後側彎症及び変形性脊椎症からなる群から選ばれる椎間板変性に伴う疾患を処置することができる。
【0015】
競合品であるコンドリアーゼ(商品名:ヘルニコア(登録商標))と異なり、本製剤MMP-7(KTP-001)は驚くべきことにアナフィラキシーを示さなかったため、より具体的な態様における本発明の処置剤は、複数回投与可能である。また、コンドリアーゼ(商品名:ヘルニコア(登録商標))は、保存治療開始6週以降でなければ治療対象にならないところ、より具体的な態様における本発明の処置剤は、診断確定直後から投与可能であり、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本治験のスケジュールを示す。
図2図2は、コホートスケジュールを示す。
図3図3は、治験手順の概要を示す。
図4図4は、下肢痛(NRS:過去24時間の平均の痛み)の推移(FAS)を示す。各時点の例数(Sham群、本剤150 μg群、300 μg群、600 μg群、以降同様)は以下のとおり:ベースライン:3例、3例、11例、2例;投与後24時間:3例、3例、11例、2例;投与後1週:3例、3例、10例、2例;投与後2週:3例、3例、11例、2例;投与後4週:3例、3例、11例、2例;投与後6週:3例、3例、11例、2例;投与後13週:3例、2例、11例、2例;投与後24週/中止時:3例、3例、11例、2例
図5図5は、下肢痛(NRS:過去24時間の最悪時痛)の推移(FAS)を示す。各時点の例数(Sham群、本剤150 μg群、300 μg群、600 μg群、以降同様)は以下のとおり:ベースライン:3例、3例、11例、2例;投与後24時間:3例、3例、11例、2例;投与後1週:3例、3例、10例、2例;投与後2週:3例、3例、11例、2例;投与後4週:3例、3例、11例、2例;投与後6週:3例、3例、11例、2例;投与後13週:3例、2例、11例、2例;投与後24週/中止時:3例、3例、11例、2例
図6図6は、腰背部痛(NRS:過去24時間の平均の痛み)の推移(FAS)を示す。各時点の例数(Sham群、本剤150 μg群、300 μg群、600 μg群、以降同様)は以下のとおり:ベースライン:3例、3例、11例、2例;投与後24時間:3例、3例、11例、2例;投与後1週:3例、3例、10例、2例;投与後2週:3例、3例、11例、2例;投与後4週:3例、3例、11例、2例;投与後6週:3例、3例、11例、2例;投与後13週:3例、2例、11例、2例;投与後24週/中止時:3例、3例、11例、2例
図7図7は、腰背部痛(NRS:過去24時間の最悪時痛)の推移(FAS)を示す。各時点の例数(Sham群、本剤150 μg群、300 μg群、600 μg群、以降同様)は以下のとおり:ベースライン:3例、3例、11例、2例;投与後24時間:3例、3例、11例、2例;投与後1週:3例、3例、10例、2例;投与後2週:3例、3例、11例、2例;投与後4週:3例、3例、11例、2例;投与後6週:3例、3例、11例、2例;投与後13週:3例、2例、11例、2例;投与後24週/中止時:3例、3例、11例、2例
図8図8は、追加治療発生までの期間(カプランマイヤープロット)(FAS)を示す。ベースラインの例数:Sham群3例、150 μg群3例、300 μg群11例、600 μg群2例
図9図9は、血清中ケラタン硫酸塩濃度の推移図(PPS)を示す。各時点の例数(Sham群、本剤150 μg群、300 μg群、600 μg群、以降同様)は以下のとおり:ベースライン:3例、3例、11例、2例;投与後24時間:3例、3例、11例、2例;投与後1週:3例、3例、10例、2例;投与後2週:3例、3例、11例、1例;投与後6週:3例、3例、10例、0例
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、MMP-7を有効成分として含有し、椎間板ヘルニア、腰痛症、椎間板症、脊柱後側彎症及び変形性脊椎症からなる群から選ばれる椎間板変性に伴う疾患の処置剤であって、1回あたりのMMP-7の用量が、100 μg~700 μgである、処置剤を提供する。
【0018】
1回あたりのMMP-7の用量は、例えば、100 μg以上、110 μg以上、120 μg以上、130 μg以上、140 μg以上、150 μg以上、160 μg以上、170 μg以上、180 μg以上、190 μg以上、200 μg以上、210 μg以上、220 μg以上、230 μg以上、240 μg以上、250 μg以上、260 μg以上、270 μg以上、280 μg以上、290 μg以上、300 μg以上、310 μg以上、320 μg以上、330 μg以上、340 μg以上、350 μg以上、360 μg以上、370 μg以上、380 μg以上、390 μg以上、400 μg以上、410 μg以上、420 μg以上、430 μg以上、440 μg以上、450 μg以上、460 μg以上、470 μg以上、480 μg以上、490 μg以上、500 μg以上、510 μg以上、520 μg以上、530 μg以上、540 μg以上、550 μg以上、560 μg以上、570 μg以上、580 μg以上、590 μg以上、600 μg以上、610 μg以上、620 μg以上、630 μg以上、640 μg以上、650 μg以上、660 μg以上、670 μg以上、680 μg以上、又は690 μg以上である。
【0019】
1回あたりのMMP-7の用量は、例えば、700 μg以下、690 μg以下、680 μg以下、670 μg以下、660 μg以下、650 μg以下、640 μg以下、630 μg以下、620 μg以下、610 μg以下、600 μg以下、590 μg以下、580 μg以下、570 μg以下、560 μg以下、550 μg以下、540 μg以下、530 μg以下、520 μg以下、510 μg以下、500 μg以下、490 μg以下、480 μg以下、470 μg以下、460 μg以下、450 μg以下、440 μg以下、430 μg以下、420 μg以下、410 μg以下、400 μg以下、390 μg以下、380 μg以下、370 μg以下、360 μg以下、350 μg以下、340 μg以下、330 μg以下、320 μg以下、310 μg以下、300 μg以下、290 μg以下、280 μg以下、270 μg以下、260 μg以下、250 μg以下、240 μg以下、230 μg以下、220 μg以下、210 μg以下、200 μg以下、190 μg以下、180 μg以下、170 μg以下、160 μg以下、150 μg以下、140 μg以下、130 μg以下、120 μg以下、又は110 μg以下である。
【0020】
MMP-7は、好ましくは、遺伝子組み換え型ヒトMMP-7である。MMP-7は、細胞外マトリックス分解酵素である。MMP-7は、活性部位に亜鉛分子をもつ亜鉛型メタロプロテアーゼファミリーに属するマトリックスメタロプロテアーゼ(以下、「MMP」と称することもある)の一つである。MMPは前駆体として産生され、細胞外分泌時にシグナル配列がプロセスされ、次いでプロ配列がプロセスされて活性型になる。細胞外に分泌されたMMPは細胞外マトリックスの代謝を司るのに対して、MMP-7は主に癌細胞より分泌され、浸潤、転移に関与することが報告されている。MMP-7は他の多くのMMPが持っているヒンジ、ヘモペキシン様ドメインを持っておらず、MMPの中では最小の分子単位からなり、コラーゲンや細胞外マトリックスを構成しているコンポーネント(フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、アグリカン)を基質とする。MMP-7は、軟骨組織の主成分であるアグリカンを基質とすること、椎間板ヘルニアの手術検体由来のマクロファージがMMP-7を発現していること、また、MMP-7欠損マウスを用いた研究で椎間板ヘルニアの退縮に関与する炎症性サイトカインの活性化がみられないこと、等からヘルニア塊の自然退縮に関わっていることが推測される。本発明の処置剤に有効成分として含有するMMP-7は、全長のMMP-7であってもよいが、MMP-7の部分であってもよい。例えば、全長のMMP-7であれば公知のもの(配列番号2)が挙げられ(https://www-ncbi-nlm-nih-gov.translate.goog/protein/NP_002414?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc)、MMP-7の部分は後述の実施例に記載のもの(配列番号1)であってもよく、それらの均等物も含まれる。ヒトのマトリックスメタロプロテアーゼ-7(MMP-7)の前駆体は約29kDaの分子量を持ち、ヒトのマトリックスメタロプロテアーゼ-7(MMP-7)の活性型は約19kDa(173アミノ酸数)の分子量を持つ。MMP-7は、約29KDaの前駆体が活性化(切断)されて、約19kDaの活性型になり酵素活性を示す。MMP-7は、好ましくは、活性型のMMP-7である。
【0021】
本発明の処置剤は、例えば、髄腔内投与、経口投与、静脈内投与、皮下投与、経皮投与、筋肉内投与、関節内投与、経鼻投与、腹腔内投与、標的組織への直接注射、吸入投与、経腸投与、注腸投与、経管栄養などにより投与されるためのものである。しかしながら、本発明の処置剤は、好ましくは、前記疾患の患部に直接投与されるためのものである。患部としては、例えば、ヘルニア患部が挙げられる。患部は、より具体的には、椎間板部分、特にヘルニア近傍の椎間板部分、および髄核部分、特に髄核のヘルニア部分を含み得る。
【0022】
本発明の処置剤は、例えば、椎間板内、特にヘルニア近傍の椎間板内および/または髄核内、特に髄核のヘルニア部分に投与するためのものであってもよい。例えば、椎間板穿刺でレントゲン透視下に経皮的に穿刺針を進め、椎間板内に穿刺する。例えば、そこから、脱出椎間板ヘルニア方向に内筒を進めて脱出したヘルニアに選択的に穿刺して、本発明の処置剤を注入する。例えば、X線透視下に腰椎椎間板ヘルニアの罹患椎間高位を同定する。その後、例えば、腹臥位あるいは半側臥位で、X線透視で標的椎間板腔が隣接終板と重ならないように体位決定を実施する。その後、例えば、腰部から骨盤部の体表に消毒処置を行い、X線透視下に滅菌した椎間板穿刺針を用いて皮膚穿刺を実施し、当該椎間板線維輪外層を穿刺する。皮膚穿刺の場合は局所麻酔を皮下に投与してもよい。その後、例えば、適時正面、側面、斜位からX線透視を行い、椎間板穿刺針尖端を椎間板内中央部に設置する。例えば、より処置剤を椎間板ヘルニア塊に正確に投与するために、椎間板穿刺針の内筒が、椎間板ヘルニアが膨隆あるいは脱出したヘルニア門方向に曲げられるデバイスを使用してもよい。好ましくは、その後、本発明の処置剤を注入する。あるいは、より処置剤を椎間板ヘルニア塊に正確に投与するために、椎間孔または椎弓間を経由してX線透視下に椎間板穿刺針を当該椎間板に刺入して、本発明の処置剤を投与してもよい。あるいは、被験者の解剖学的特徴から椎間板内に穿刺針の刺入が困難である場合も想定される。この場合には、例えば、椎間孔または椎弓間を経由して硬膜外腔に本発明の処置剤を投与する。
【0023】
本発明の処置剤は、例えば、硬膜外腔注射により投与するためのものであってもよい。椎間板内投与ではなく、直接椎間板ヘルニア塊に直接投与する方法が好ましい場合もある。例えば、脊椎内視鏡あるいは手術顕微鏡を用いて、椎間板前方あるいは椎間孔、あるいは椎弓間から椎間板ヘルニア膨隆あるいは脱出部近傍に到達し、例えば椎間板穿刺針等を使用して椎間板ヘルニアを穿刺し、本発明の処置剤を投与する。
【0024】
本発明の処置剤は、特許4181599号公報に記載された穿刺装置などの装置を用いて投与してもよい。なお、特許4181599号公報に記載された穿刺装置は、側面に突出口を有する内腔状の穿刺体と、該穿刺体内に収容され、体内に作用する作用部を有する作用体と、該作用体の作用部を突出口から側方へ突出させる誘導手段とを備えたことを特徴とする穿刺装置である。また、特許4181599号公報に記載された穿刺装置は、より具体的には、側面に突出口を有する内腔状の穿刺体と、該穿刺体内に収容され、体内に作用する作用部を有する作用体と、該作用体の作用部を突出口から側方へ突出させる誘導手段とを備え、該誘導手段は、穿刺体内に収容され前記作用体を誘導するワイヤと、該ワイヤを前記突出口から穿刺体の側方へ出退自在に移動させる移動手段とからなり、前記ワイヤの先端が穿刺体に固定されており、前記移動手段が穿刺体に対してその長さ方向にワイヤを移動させることにより、ワイヤを撓ませてその一部を突出口から突出させて、前記作用部を突出口から側方へ突出させることを特徴とする穿刺装置である。
【0025】
本発明の処置剤をこれらのように投与することによって、ヘルニアの自然退縮を促進させることができる。
【0026】
本発明の処置剤は、例えば、前記疾患の患者に1日あたり1回投与されるためのものであってもよい。前記疾患の患者に1日あたり投与される回数は、例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、又は10回である。
【0027】
本発明の処置剤は、例えば、前記疾患の患者に複数回投与されるためのものであってもよい。前記疾患の患者に投与される回数は、例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、18回、19回、20回、21回、22回、23回、24回、25回、26回、27回、28回、29回、30回、31回、32回、33回、34回、35回、36回、37回、38回、39回、40回、41回、42回、43回、44回、45回、46回、47回、48回、49回、50回、51回、52回、53回、54回、55回、56回、57回、58回、59回、60回、61回、62回、63回、64回、65回、66回、67回、68回、69回、70回、71回、72回、73回、74回、75回、76回、77回、78回、79回、80回、81回、82回、83回、84回、85回、86回、87回、88回、89回、90回、91回、92回、93回、94回、95回、96回、97回、98回、99回、又は100回である。
【0028】
本発明の処置剤は、例えば、前記疾患の患者であって、前記疾患の保存治療を受けていない患者に投与されるためのものであってもよい。
【0029】
本発明の処置剤は、例えば、前記疾患の患者であって、前記疾患を確定する診断の直後の患者に投与されるためのものであってもよい。ここで、前記疾患を確定する診断は、例えば、MRIを用いて行われてもよい。前記疾患を確定する診断としては、例えば、神経根症や馬尾症、脊髄症などの神経症状を有することを確認し、磁気共鳴画像法(MRI)により神経圧迫の状態および椎間板変性、例えば、ヘルニアの部位並びに程度を確認するという診断が挙げられる。また、前記疾患を確定する診断においては、椎間板造影検査により、治療を行う部位のヘルニア塊を造影して椎間板ヘルニアの部位並びに程度を正確に判断してもよい。したがって、本発明の処置剤は、椎間板変性(例えば、ヘルニア)の疑いがある患者に対して、MRIと椎間板造影検査を実施し、患者に椎間板変性(例えば、ヘルニア)が認められた場合に、その病態に応じて、ヘルニア患部に直接投与するためのものであってもよい。このような態様による本発明の処置剤の投与により、ヘルニア組織の自然退縮を促進することができる。
【0030】
本発明の処置剤は、例えば錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等の経口的に使用される剤型に製剤化されていてもよく、例えば、注射剤、軟膏、貼付剤等の非経口的に使用される剤型に製剤化されていてもよい。すなわち、本発明の処置剤は、例えば、注射剤であり、1回あたりの投与量が2cc以上であってもよい。注射剤である、本発明の処置剤の1回あたりの投与量は、例えば、2cc以上、3cc以上、4cc以上、5cc以上、6cc以上、7cc以上、8cc以上、又は9cc以上である。注射剤である、本発明の処置剤の1回あたりの投与量は、例えば、10cc以下、9cc以下、8cc以下、7cc以下、6cc以下、5cc以下、4cc以下、又は3cc以下である。なお、後述する米国治験では1ccの溶液量を使用した。しかし、椎間板造影では椎間板内に造影剤を1cc投与するのでは椎間板中心からヘルニアまで完全には造影できなかった。少なくとも2ccから3cc程度まで造影剤を投与し、椎間板ヘルニア塊を造影することが好ましい。よって、有効成分を患部に十分に行き渡らせる観点から、本発明の処置剤の1回あたりの投与量は、2cc以上が好ましい。また、椎間板ヘルニアの別の処置剤であるヘルニコア(登録商標)は、投与量を1ccとするが、椎間板ヘルニアのうち、Macnab分類における後縦靭帯下脱出型(subligamentous Extrusion)の腰椎椎間板ヘルニアにしか処置効果が確認できておらず、後縦靭帯下脱出型(subligamentous Extrusion)の腰椎椎間板ヘルニアのみの薬事承認しか取得できていない。これに対して、本発明者らが見出したところによれば、投与量を2cc以上とする本発明の処置剤は、椎間板造影の所見から、2ccであれば患部にも処置剤の到達が期待されることから、後縦靭帯下脱出型(subligamentous extrusion)のみならず、膨隆・突出型(protrusion)や、経後縦靱帯脱出型(transligamentous extrusion)や、遊離脱出型(sequestration)などにも処置効果が期待され、好ましくは、後縦靭帯下脱出型(subligamentous extrusion)、膨隆・突出型(protrusion)、及び経後縦靱帯脱出型(transligamentous extrusion)に処置効果が期待され、より好ましくは、後縦靭帯下脱出型(subligamentous extrusion)、及び経後縦靱帯脱出型(transligamentous extrusion)に処置効果が期待される。特に、非臨床試験において、KTP-001は硬膜外又はくも膜下腔内に投与しても病理的、生理的な異常はなかったことを確認していること、また、手術検体で脱出型ヘルニアの組織にMMP-7陽性細胞が確認されていることから、後縦靭帯下脱出型(subligamentous extrusion)や経後縦靱帯脱出型(transligamentous extrusion)にも安全に投与できると考えられる。よって、後縦靭帯下脱出型(subligamentous extrusion)に限らずに広範に椎間板ヘルニアの処置効果を得る観点から、本発明の処置剤の1回あたりの投与量は、2cc以上が好ましい。
【0031】
本発明の処置剤は、例えば、MMP-7の含有量が、100 μg以上、110 μg以上、120 μg以上、130 μg以上、140 μg以上、150 μg以上、160 μg以上、170 μg以上、180 μg以上、190 μg以上、200 μg以上、210 μg以上、220 μg以上、230 μg以上、240 μg以上、250 μg以上、260 μg以上、270 μg以上、280 μg以上、290 μg以上、300 μg以上、310 μg以上、320 μg以上、330 μg以上、340 μg以上、350 μg以上、360 μg以上、370 μg以上、380 μg以上、390 μg以上、400 μg以上、410 μg以上、420 μg以上、430 μg以上、440 μg以上、450 μg以上、460 μg以上、470 μg以上、480 μg以上、490 μg以上、500 μg以上、510 μg以上、520 μg以上、530 μg以上、540 μg以上、550 μg以上、560 μg以上、570 μg以上、580 μg以上、590 μg以上、600 μg以上、610 μg以上、620 μg以上、630 μg以上、640 μg以上、650 μg以上、660 μg以上、670 μg以上、680 μg以上、又は690 μg以上である。
【0032】
本発明の処置剤は、例えば、MMP-7の含有量が、700 μg以下、690 μg以下、680 μg以下、670 μg以下、660 μg以下、650 μg以下、640 μg以下、630 μg以下、620 μg以下、610 μg以下、600 μg以下、590 μg以下、580 μg以下、570 μg以下、560 μg以下、550 μg以下、540 μg以下、530 μg以下、520 μg以下、510 μg以下、500 μg以下、490 μg以下、480 μg以下、470 μg以下、460 μg以下、450 μg以下、440 μg以下、430 μg以下、420 μg以下、410 μg以下、400 μg以下、390 μg以下、380 μg以下、370 μg以下、360 μg以下、350 μg以下、340 μg以下、330 μg以下、320 μg以下、310 μg以下、300 μg以下、290 μg以下、280 μg以下、270 μg以下、260 μg以下、250 μg以下、240 μg以下、230 μg以下、220 μg以下、210 μg以下、200 μg以下、190 μg以下、180 μg以下、170 μg以下、160 μg以下、150 μg以下、140 μg以下、130 μg以下、120 μg以下、又は110 μg以下である。
【0033】
本発明の処置剤は、例えば、単位製剤であってもよい。単位製剤は、例えば、1回の投与分に対応する製剤である。単位製剤としては、例えば、錠剤、カプセルのほか、アンプル又は注射器に封入された製剤などが挙げられる。
【0034】
後記の実施例に示すとおり、本発明の処置剤を対象に投与することにより、対象における、椎間板ヘルニア、腰痛症、椎間板症、脊柱後側彎症及び変形性脊椎症からなる群から選ばれる椎間板変性に伴う疾患を処置することができる。ここで、椎間板ヘルニアとしては、例えばMacnab分類に基づき、膨隆・突出型(protrusion)、後縦靭帯下脱出型(subligamentous extrusion)、経後縦靱帯脱出型(transligamentous extrusion)、遊離脱出型(sequestrated disc又はsequestration)などが挙げられ、本発明の処置剤は、これらのいずれの椎間板ヘルニアも処置することができるが、本発明の処置剤は、好ましくは、膨隆・突出型(protrusion)、後縦靭帯下脱出型(subligamentous extrusion)、及び経後縦靱帯脱出型(transligamentous extrusion)を処置することができ、より好ましくは後縦靭帯下脱出型(subligamentous extrusion)、及び経後縦靱帯脱出型(transligamentous extrusion)を処置することができる。なお、遊離脱出型は、椎間板高位から頭側あるいは尾側に移動したという意味である。疾患の処置としては、疾患の治療のほか、疾患の予防が挙げられる。疾患の治療としては、疾患の完治のほか、疾患の症状の改善や、疾患の症状の緩和などが挙げられる。
【0035】
対象としては、例えば、脊椎動物が挙げられる。脊椎動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、サル、ヒトなどの哺乳動物が挙げられる。哺乳動物は、好ましくはヒトである。対象は、乳幼児、若年、青年、成人、および老人を含めた任意の年齢であり得る。
【0036】
本発明の処置剤は、MMP-7からなるものであってもよいし、薬学的に許容される担体と混合した医薬組成物として製剤化したものであってもよい。
【0037】
薬学的に許容される担体としては、例えば、滅菌水、生理食塩水等の溶媒;ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤、結晶性セルロース等の賦形剤;コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等の膨化剤等が挙げられる。
【0038】
薬学的に許容される担体としては、添加剤が挙げられる。添加剤としては、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノールの安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤;界面活性剤;乳化剤等が挙げられる。
【0039】
医薬組成物は、例えば、上記の担体を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0040】
医薬組成物が注射剤である場合、注射剤用の溶媒としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等の補助薬を含む等張液が挙げられる。注射剤用の溶媒は、エタノール等のアルコール;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリアルコール;ポリソルベート80(商標)、HCO-50等の非イオン性界面活性剤等を含有していてもよい。
【0041】
本発明の処置剤は、説明書が添付されていてもよい。当該説明書は、例えば、含有する有効成分、有効成分であるMMP-7の1回あたりの用量、1日あたりの投与回数、投与方法、総投与回数、1回あたりの投与量などの説明を含んでいてもよい。当該説明書の添付は、書面が物理的に存在することを必須とするものではなく、インターネットなどの電気通信回線を介して行われてもよい。
【0042】
本発明は、対象にMMP-7を投与することを特徴とする、対象における、椎間板ヘルニア、腰痛症、椎間板症、脊柱後側彎症及び変形性脊椎症からなる群から選ばれる椎間板変性に伴う疾患の処置方法であって、対象に対する1回あたりのMMP-7の投与量が、100 μg~700 μgである、方法を提供する。
【0043】
本発明は、MMP-7を有効成分として含有する、椎間板ヘルニア、腰痛症、椎間板症、脊柱後側彎症及び変形性脊椎症からなる群から選ばれる椎間板変性に伴う疾患の処置に使用するための医薬組成物であって、1回あたりのMMP-7の用量が、100 μg~700 μgである、医薬組成物を提供する。
【0044】
本発明は、椎間板ヘルニア、腰痛症、椎間板症、脊柱後側彎症及び変形性脊椎症からなる群から選ばれる椎間板変性に伴う疾患の処置に使用するための医薬組成物の製造における、MMP-7の使用であって、1回あたりの用量としての100 μg~700 μgのMMP-7の使用を提供する。
【実施例
【0045】
略号一覧
【表1】
【0046】
緒言
非臨床試験の結果、rhMMP-7はヒト椎間板ヘルニア検体、ビーグル犬椎間板への分解能を有し、神経組織や靭帯、硬膜外組織には影響がみられなかった。また、rhMMP-7はアグリカンに高い分解能を有するが、I及びII型コラーゲンには極めて低い分解能しか有しておらず、強い組織特異性あるいは分解特異性を有すると考察された(非特許文献4)。ラット及びイヌに対する単回及び2週間反復の静脈内投与による毒性試験では、ヒトで椎間板内に投与されたKTP-001がすべて血中に移行したと仮定した場合に想定される曝露レベルと比較して、非常に高い用量で出血性と炎症性の変化を観察した。この出血性及び炎症性の変化は、静脈内投与された過剰なレベルのKTP-001の酵素作用が血管に影響を及ぼしたためと考えられる。ラット及びウサギを用いた生殖発生毒性試験では、雌動物の生殖機能、初期胚発生、胚・胎児発生に影響を及ぼさなかった。胎児に対する催奇形性を示す根拠も得られなかった。
【0047】
米国では、腰椎椎間板ヘルニア患者に対するKTP-001椎間板内単回投与の安全性及び忍容性の確認を主な目的として、2013年から臨床第I/II相試験が実施された。5 μg、15 μg、50 μg、150 μgが6症例ずつ投与され、全症例で重篤な合併症は認められず、血中KTP-001濃度、抗体は検出されなかった。150 μgまでの椎間板ヘルニア患者への投与は、安全性に支障がないと報告された。主な有害事象は、注射部位疼痛、気管支炎、処置による疼痛、背部痛、四肢痛、筋骨格痛、筋痙縮及び椎間板膨隆であった。有害事象の分布はいずれの投与用量間でも同様であり、治験期間中の死亡例はなかった。4例に重篤な有害事象(虫垂炎、憩室炎、尿路感染、月経過多)が認められたが、これらの有害事象はいずれも治験薬との因果関係はなしと判定された。また、血清中ケラタン硫酸濃度は、150 μg投与群を除き、明らかな変化は認められなかった。150 μg投与群では、ケラタン硫酸の平均血清中濃度は投与24時間後から上昇し、投与1週後に最高濃度に達し、投与4週後まで徐々に低下した。結論として、KTP-001は当該治験の用量で安全で忍容性も良好であり、KTP-001の血清中濃度は、すべて定量限界以下で、抗KTP-001抗体はすべての症例で陰性であった。有効性については、Numeric Rating Scale(NRS)を用いて評価した下肢痛(過去24時間の最悪時痛及び平均の痛み)にて、5 μgと比較して15 μg、50 μg投与群でベースラインからの大幅な低下がみられた。さらに、いずれの投与群においても、半数以上の被験者で、下肢挙上テスト結果が、ベースラインの陽性から、Week 6及びWeek 13で陰性に変化した。大腿神経伸展テストでは、1例がベースラインの陽性からWeek 6で陰性に変化し、3例がベースラインの陽性からWeek 13で陰性に変化した。
【0048】
今回、本発明における医師主導治験においても、腰椎椎間板ヘルニア患者に対するKTP-001椎間板内単回投与の安全性及び忍容性を確認することを主目的とするが、副次目的として有効性を確認するため、早期の自然退縮の影響を受けにくい後縦靭帯下脱出型を対象とする。米国で行われた臨床第I/II相試験では、KTP-001投与量を150 μgに漸増して初めて血清中ケラタン硫酸の増加が確認される症例がみられた。血清中ケラタン硫酸塩の増加は脱出した椎間板髄核の分解能を示唆するマーカーであることから、KTP-001投与量を150 μg以上に増量することで、本剤のヘルニア分解に対する有効性が期待される。そこで、本治験では腰椎椎間板ヘルニア患者に対してKTP-001を150 μgから600 μgまで投与し、各投与量における忍容性、安全性及び副次評価としての有効性を確認することとした。
【0049】
治験の目的
腰椎椎間板ヘルニア患者に対する本剤の椎間板内単回投与による安全性と忍容性の確認を目的とした。また、本治験により得られた結果に基づき、次相における推奨用量の検討、及び有効性評価に最適な評価項目の検討を行うこととした。さらに、KTP-001、ケラタン硫酸の椎間板から血清中への移行を経時的に検討するとともに、血清中の抗KTP-001抗体の有無を調べることとした。
【0050】
1. 治験の計画
【0051】
1.1 治験の全般的デザイン及び計画
【0052】
1.1.1 治験の種類
臨床第I/IIa相試験
【0053】
1.1.2 治験デザイン
多施設共同、単盲検、用量漸増、単回投与試験
【0054】
1.1.3 検討した治療法
コホートごとに、以下の用量の治験薬を投与した。
* コホート1:KTP-001 150 μg、又はSham
* コホート2:KTP-001 300 μg
* コホート3:KTP-001 600 μg
【0055】
1.1.4 検討した患者母集団及び計画された症例数
目標症例数:18例+追加症例(最大5例)
KTP-001投与群については、治験薬投与後6週までの安全性評価可能例として、以下の例数を設定した。
* コホート1:Sham群3例、KTP-001 150 μg群3例
* コホート2:KTP-001 300 μg群6例
* コホート3:KTP-001 600 μg群6例
なお、コホート1の150 μg群3例のうち、6週間以内で中止となり、6週までの安全性が評価できない症例が発生した場合は、適宜症例を追加することとした。
また、安全性が確認でき、副次評価項目の有効性が示唆された用量のコホートで症例を追加(最大で5症例追加)することとした。
【0056】
1.1.5 盲検化の水準と手法
本治験は、単盲検により行った。すべてのコホートにおいて、被験者へは、どのコホートを実施しているか、及びKTP-001投与群かSham群かについて開示しなかった。
【0057】
1.1.6 対照の種類及び試験の構成
本治験は3つのコホートからなり、コホート1から開始してコホート2、コホート3の順に被験者を組み入れた。なお、コホート1ではSham群を設けた。
* コホート1:KTP-001 150 μg群、又はSham群
* コホート2:KTP-001 300 μg群
* コホート3:KTP-001 600 μg群
【0058】
1.1.7 治験への割付け手法
治験責任(分担)医師又は治験協力者は、電子データ収集システム(EDC)を用いて、登録された被験者に対する割付けを行った。コホート1については、Sham群3例、150 μg群3例に無作為に割付けた。コホート2、3、追加症例については、割付けは行わなかった。
【0059】
1.1.8 治験期間の順序と長さ
本治験は、いずれのコホートにおいても単回投与であった。
投与スケジュールを図1に示した。
コホートごとに、KTP-001 150 μg又はSham、KTP-001 300 μg、600 μgを椎間板内に注射した。なお、治験責任(分担)医師の判断により、局所麻酔薬を使用できることとした。
すべてのコホートにおいて、単盲検とし、被験者にはどのコホートを実施しているかは周知しなかった。
各来院時での実施項目は「1.5.1.2 観察、検査項目及びその実施時期」に詳細を記述した。
【0060】
1.1.9 設置した各種委員会とその役割
本治験では効果安全性評価委員会を設置した。懸念される重篤な有害事象の発現について検討・評価し、安全性に問題ないと判断した最高用量コホートの症例追加について治験調整医師に助言・勧告を行った。別途規定する効果安全性評価委員会に関する手順書に定めた。
【0061】
1.1.10 中間解析
本治験では、中間解析は実施しなかった。
【0062】
1.2 対照群の選択を含む治験デザインについての考察
本治験は多施設共同、単盲検、用量漸増、単回投与試験で、3つのコホートからなる。コホート1ではKTP-001 150 μg又はSham、コホート2でKTP-001 300 μg、コホート3でKTP-001 600 μgを単回投与(Sham群では穿刺のみ)し、各投与量における忍容性、安全性及び副次評価としての有効性を確認することとした。
米国で行われた臨床第I/II相試験では5、15、50、150 μg群がそれぞれ6症例投与された。その結果、問題となる有害事象はなく、血清中KTP-001、抗KTP-001抗体は検出されなかった。また、150 μgまでの椎間板ヘルニア投与は安全性に支障がなかった。よって、今回の治験では150 μgの2倍及び4倍投与量にあたる300 μg、600 μgの安全性を確認することを目的とした。
【0063】
1.3 治験対象母集団の選択
【0064】
1.3.1 組入れ基準
【0065】
1.3.1.1 対象疾患
後縦靭帯下脱出型の腰椎椎間板ヘルニア
【0066】
1.3.1.2 選択基準
以下、すべての基準を満たす患者を対象とした。なお、診断及び評価は、腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会が提唱する診断基準(非特許文献1)に準ずる。
1) 臨床症状、神経所見、及びMRIでL3-L4、L4-L5、又はL5-S1高位の後縦靭帯下脱出型の腰椎椎間板ヘルニアであると診断された患者(仙椎化の場合はL3-L4、L4-S1、腰椎化の場合はL4-L5、L5-L6、L6-S1高位の後縦靭帯下脱出型の腰椎椎間板ヘルニアであると診断された患者)
2) 腰椎椎間板ヘルニアの椎間板高位に、神経学的に合致する、下肢挙上テストあるいは大腿神経伸展テストが陽性である患者
3) 投与直前の5日間のうち、少なくとも3日以上で平均下肢痛スコア/日が4以上かつ、投与直前の5日間すべての平均下肢痛スコア/日が2以上である患者(「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み[これまで経験した一番強い痛み]」までの11段階のNRSを使用)
4) 投与直前(Day 1)の下肢痛スコアが4以上である患者
5) 年齢(同意取得時)が20から60歳までの成人男性あるいは女性
6) 体格指数(BMI)が18~35 kg/m2
7) 既往歴、心電図、身体所見により、臨床的に問題が認められないことが治験責任(分担)医師によって確認されていること
8) Oswestry Disability Index(ODI)が30%以上
9) 術前のX線の所見で椎体終板が閉鎖し、成長板が認められないことが確認された患者
10) 説明文書を用いて十分な説明を受け、その内容を理解した上で自由意思に基づき治験への参加について文書により同意が得られている患者
〔選択基準の設定根拠〕
主要なものを以下に記載する。
対象とする腰椎椎間板ヘルニアの型は、自然退縮の影響が少ない適切な薬効評価ができると考えられる後縦靭帯下脱出型とした。対象年齢について、年齢の下限は、腰椎椎間板ヘルニアの好発年齢(20~40歳)を考慮し20歳とした。通常、成人では、椎体終板は閉鎖していると考えられるが、投与前のX線で、椎体終板が閉鎖し成長板が見られないことが確認された患者を対象とした。年齢の上限は、脊柱管狭窄の関与を考慮し、60歳とした。
【0067】
1.3.1.3 除外基準
以下の条件に該当する患者は除外した。なお、治験期間中に以下の除外基準のいずれかに該当した場合には、治験責任(分担)医師の判断により治験を中止することとした。
1) 臨床症状、神経所見及びMRIより、膨隆型椎間板ヘルニア(Protrusion)、後縦靭帯穿破型椎間板ヘルニア(Transligamentous extrusion)、脱出遊離型腰椎椎間板ヘルニア(Sequestration)、硬膜内ヘルニアと診断された患者
2) MRIで椎間孔内(Intraforaminal)又は椎間孔外(Extraforaminal)ヘルニアと診断された患者
3) MRIで2か所以上に有意な椎間板ヘルニアが認められ、臨床症状や理学的所見より臨床症状に関与している椎間が特定できない、又は複数椎間のヘルニアが関与している可能性があると判断された患者
4) 本治験の対象となる椎間板ヘルニアに対して、過去に椎間板内への介入治療*、あるいは腰痛手術が実施された患者
*介入治療:「除外基準5)」に記載された治療(化学的髄核融解術、あるいは椎間板を対象とした薬剤を用いた臨床試験)を指す。
5) 椎間板の高位に関わらず、過去に化学的髄核融解術、あるいは椎間板を対象とした薬剤を用いた臨床試験に参加した患者
6) 腰椎椎間板ヘルニア以外で以下の腰椎の疾患又は変形が認められる患者
i) 腰椎すべり症、腰椎分離症、脊柱側弯症、腰椎椎間板ヘルニアを原疾患としない腰部脊柱管狭窄症
ii) 腰椎椎体骨折、強直性脊椎炎、炎症性骨疾患、炎症性椎間板疾患、原発性又は転移性の悪性腫瘍、その他椎体に関する疾患
7) 馬尾症候群又は進行性の下肢運動麻痺を呈する患者
8) 妊娠を希望する患者。妊娠中、授乳中又は妊娠検査によって妊娠している可能性のある女性患者
9) スクリーニング時のバイタルサイン及び臨床検査値が、有害事象共通用語規準(CTCAE)ver. 5.0日本語訳に照らしてGrade 2以上に該当する患者
10) 治験実施計画書に照らして、治験参加が不適切と判断された患者
〔除外基準の設定根拠〕
1)~4)、10):本治験の対象として、適格な被験者を対象とするため。
5)~7)、9):被験者の安全性、並びに治験薬の安全性及び有効性評価に影響する可能性を考慮したため。
8):妊娠及び胎児への影響が完全には否定できていないため。
【0068】
1.3.2 患者の治療又は評価の打ち切り
本治験では、治験の中止基準に該当する被験者は治験の中止とした。また、本治験実施計画書に定める投与後24週目の規定の観察及び検査を終了した場合、本治験の完了とした。
【0069】
1.3.2.1 治験薬投与前中止基準
下記の事項のいずれかに該当する場合は、当該被験者に対する治験薬の投与を行わないこととした。
1) スクリーニング時不適格:選択基準を満たさない場合、又は除外基準に抵触することが判明した場合
2) 被験者の申し出:被験者が同意を拒否又は撤回した場合
3) 治験責任(分担)医師の判断:その他、治験薬投与が困難と医師が判断した場合
【0070】
1.3.2.2 治験薬投与後中止基準
治験薬投与後に、下記の事項のいずれかに該当する場合は、当該被験者に対する治験を中止することとした。
1) 有害事象:有害事象発現により被験者の治験継続が困難と医師が判断した場合、有害事象発現により被験者から中止を希望する申し出があった場合、又は有害事象により死亡して治験の継続ができなかった場合
2) 効果不十分:治験薬の効果が不十分であり、他の治療薬への変更が必要な場合
3) 追跡調査不可:被験者が来院せず、規定の来院、検査・観察(電話などの追跡も含む)が不能となった場合
4) 実施計画書からの重大な逸脱:治験実施計画書からの重大な逸脱(GCP違反、選択基準からの逸脱又は除外基準に抵触、登録違反、重複登録など)を認めた場合
5) 治験薬投与後の不適格:治験薬投与後に選択基準を満たさないことが判明した場合、又は除外基準に抵触することが判明した場合。ただし、治験薬投与後に除外基準 8) に抵触することが判明した場合、X線画像以外の検査の継続が可能と判断された場合には、被験者の安全性を確保した上で、治験を継続することができることとした。
6) 被験者の申し出:被験者が同意を拒否又は撤回した場合
7) 併用制限薬及び併用制限療法、併用禁止療法の施行:併用制限薬及び併用制限療法を新たに施行した場合、又は併用禁止療法を施行した場合。ただし、中止後も検査・観察は継続することとした。
8) 治験責任(分担)医師の判断:その他、治験継続が困難と医師が判断した場合
【0071】
1.3.2.3 中止・脱落時の被験者への対応
治験責任(分担)医師は、被験者から治験参加の辞退の申し出や同意の撤回があった場合、又は何らかの理由で治験継続が不可能と判断した場合には、治験行為を中止することとした。その場合には、中止・脱落の日付・時期、中止・脱落の理由、経過をカルテ並びに電子症例報告書(eCRF)に記載するとともに中止・脱落時点で必要な検査を行い、安全性の評価を行うこととした。
有害事象の発生により中止した場合には、ただちに適切な処置及び治療を行うとともに、有害事象が発現前の状態に回復又は軽快するまで、あるいは治験責任(分担)医師が、以後の調査を不要と判断するまで、適宜追跡調査することとした。中止後の対応についてはカルテなどの原資料に記録した。
治験薬投与開始後に同意の撤回があった場合には、有害事象によるものか、それ以外の偶発的な事象(転居など)によるものかをできるだけ明らかにし、安全性評価の対象となる症例としての採否の参考となるようにカルテ並びにeCRFに記録した。
【0072】
1.4 治療法
【0073】
1.4.1 治療法
【0074】
1.4.1.1 用法・用量
コホートごとに、以下の用量の治験薬を単回投与した。
* コホート1:KTP-001 150 μg、又はSham
* コホート2:KTP-001 300 μg
* コホート3:KTP-001 600 μg
KTP-001投与群:
X線透視下で投与位置を可視化し、投与用量に調製されたKTP-001注射剤を、椎間板内に2.0 mL注射した。
Sham群:
薬剤投与群と同様に、後斜位から当該椎間板方向に穿刺し、椎間板手前の筋群まで到達させるが、穿刺のみで注射剤は投与しなかった。
【0075】
1.4.1.2 次コホートへの移行
【0076】
1.4.1.2.1 次コホートへの移行手順、症例追加の判断
コホートスケジュールを図2に示した。
[コホート1からコホート2への移行]
コホート1(本剤150 μg群、Sham群)から無作為に症例登録を開始し、当該コホートでの投与後6週までに得られた安全性データを以て、コホート2への移行可否を判断した。
* 150 μg群3例のうち、「1.4.1.2.2安全性の判定、1)2)」に該当する事象が認められなかった場合、治験調整医師は、治験責任医師及び治験アドバイザーとメール又はWeb会議等で協議し、「1.4.1.2.2安全性の判定」の基準に従い、全会一致で安全性に問題がないと判断した場合に、コホート2に移行することとした。
* 150 μg群3例のうち1例でも「1.4.1.2.2安全性の判定、1)2)」に該当する事象が認められた場合、治験調整医師は、効果安全性評価委員会に治験の継続の可否について諮問することとした。
* 効果安全性評価委員会により治験の継続に問題がないと判断された場合には、コホート2に移行できることとした。
* 効果安全性評価委員会より安全性上の問題があり治験の継続に問題があると判断された場合には、治験調整医師は、効果安全性評価委員会の勧告に従って治験中止の要否を判断することとした。
なお、コホート1の150 μg群3例のうち、6週間以内で中止となり、6週までの安全性が評価できない症例が認められた場合は、適宜症例を追加することとした。
【0077】
[コホート2からコホート3への移行、症例追加の判断]
* 300 μg群6例のうち、「1.4.1.2.2安全性の判定、1)2)」に該当する事象が認められなかった場合、治験調整医師は、治験責任医師及び治験アドバイザーとメール又はWeb会議等で協議し、「1.4.1.2.2安全性の判定」の基準に従い、全会一致で安全性に問題がないと判断した場合に、コホート3に移行することとした。
* 300 μg群6例のうち1例でも「1.4.1.2.2安全性の判定、1)2)」に該当する事象が認められた場合、治験調整医師は、「1.4.1.2.2安全性の判定」の手順に従い、効果安全性評価委員会に治験の継続の可否について諮問することとした。
* 効果安全性評価委員会より治験の継続に問題がないと判断された場合には、コホート3に移行できることとした。
* 効果安全性評価委員会より安全性に問題があると判断された場合には、効果安全性評価委員会は、コホート1の150 μg投与症例の追加について治験調整医師に助言・勧告を行うこととした。治験調整医師は、効果安全性評価委員会の助言・勧告に従い、安全性に問題がないと判断した最高用量コホート(150 μg群)について症例を追加し、本剤のさらなる安全性と有効性を検討することとした(追加する症例数は最大5例とし、治験期間内に実施可能な範囲で追加することとした)。
【0078】
[コホート3における症例追加の判断]
* 600 μg群6例のうち、「1.4.1.2.2安全性の判定、1)2)」に該当する事象が認められなかった場合、治験調整医師は、コホート1(3例)、コホート2(6例)、コホート3(6例)で得られた投与後6週までの安全性データを効果安全性評価委員会に諮問することとした。効果安全性評価委員会は得られたデータから治験の継続について検討・評価し、症例の追加について治験調整医師に助言・勧告を行うこととした。治験調整医師は、効果安全性評価委員会の助言・勧告に従い、安全性に問題ないと判断した最高用量コホートについて症例を追加し、本剤のさらなる安全性と有効性を検討することとした(追加する症例数は最大5例とし、治験期間内に実施可能な範囲で追加することとした)。
* 600 μg群6例のうち1例でも「1.4.1.2.2安全性の判定、1)2)」に該当する事象が認められた場合、治験調整医師は、「1.4.1.2.2安全性の判定」の手順に従い、効果安全性評価委員会に治験の継続の可否について諮問することとした。
* 効果安全性評価委員会より治験の継続に問題がないと判断された場合は、安全性に問題ないと判断した最高用量コホートについて症例を追加し、本剤のさらなる安全性と有効性を検討することとした。
* 効果安全性評価委員会より安全性に問題があると判断された場合には、効果安全性評価委員会は、コホート2の300 μg投与症例の追加について治験調整医師に助言・勧告を行うこととした。治験調整医師は、効果安全性評価委員会の助言・勧告に従い、安全性に問題がないと判断した最高用量コホート(ここでは300 μg群)について症例を追加し、本剤のさらなる安全性と有効性を検討することとした(追加する症例数は最大5例とし、治験期間内に実施可能な範囲で追加することとした)。
【0079】
1.4.1.2.2 安全性の判定
治験期間中に以下の有害事象が認められた場合、治験責任(分担)医師は、イベント発生を知ったのち24時間以内に、治験調整医師(治験調整事務局)及び共同で治験を実施している他の実施医療機関の治験責任医師へ報告することとした。その後、治験調整医師は効果安全性評価委員会に諮問することとした。報告された事象に対し、効果安全性評価委員会にて治験の継続に問題があると判断された場合、治験調整医師へ勧告することとした。治験調整医師は、効果安全性委員会の勧告を考慮し、忍容性に問題があるかどうかの最終判断を行うこととした。
なお、効果安全性評価委員会によって有害事象が評価され、治験の継続、増量についての勧告がされるまで新規の被検者登録は中止することとした。
1) 重篤な有害事象(「1.5.1.2.18.1.1重篤な有害事象の定義」参照)が認められた場合:治験実施計画書の書式を用いて報告することとした。
2) 原疾患の悪化を示す下記i)~v)の事象が認められた場合:治験実施計画書の書式を用いて報告することとした。
i) 馬尾症に相当する神経障害
ii) 治験薬投与後に新たに認められた、両側あるいは片側下肢の運動障害に関連する神経根症状の悪化
iii) 治験薬投与前と比較して、重大な終板浮腫あるいは硬化に相当するMRIの輝度変化
iv) 治験薬投与前と比較して、椎間板高(X線画像で評価:前方高と後方高の平均)が30%以上減少
v) 治療対象の部位で、X線画像で確認された以下の腰椎不安定性
* 下部椎体の後縁に対する上部椎体の後縁が、開始時に比べて3 mm以上前方へ移動していること。
* 投与前の最大屈曲と伸展時の画像による椎間可動域と比較して、5度以上可動域が増加した場合
* 投与後のX線で確認される終板破壊の変化
効果安全性評価委員会での評価方法など詳細は、効果安全性評価委員会に関する手順書で規定した。
【0080】
1.4.2 治験薬の同定
治験責任医師は、治験薬管理者に治験薬及び治験薬の管理に関する手順書を交付した。包装、表示あるいは治験薬の管理等の詳細、盲検性を保つための手順は、治験薬の管理に関する手順書に従った。
【0081】
1.4.2.1 治験薬
KTP-001は、rhMMP-7であり、2.0 mLバイアル中に、KTP-001を1.0 mg含有する。
原薬
性状:KTP-001は、ヒトMMP-7の遺伝子組換えタンパク質であり、プロテオグリカンを分解する。治験に用いる原薬の製造には動物由来の原材料は一切使用していない。
国際一般名:現在の開発段階では、KTP-001の一般名はない。
コード名:KTP-001
構造式:KTP-001をコードする遺伝子配列により発現するタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)を以下に示した。
【表2】

分子式:C860H1299N239O251S4
分子量:19130.23(理論値)
製剤:注射用の凍結乾燥粉末である。KTP-001製剤を、注射用滅菌水0.5 mLに溶解した後、KTP-001希釈液にて投与用量に調製した。
なお、KTP-001は173個のアミノ酸から構成され、ジスルフィド結合を持たず、2つの亜鉛イオンと錯体を形成し、約19kDaである。69、84、97番目のヒスチジンと71番目のアスパラギン酸は、構造的な亜鉛イオンの結合に関与する。120番目、124番目、および130番目のヒスチジンは、他の触媒的な亜鉛イオンの結合に関与する。
〔KTP-001の物理的、化学的、生物学的特性〕
・外観:無色透明の液体
・UVスペクトル:約280 nmで最大吸収を示し、約290 nmで吸収肩を示す。
・生物学的特性:Matrix metalloproteaseの合成基質(MOCAc-Pro-Leu-Gly-Leu-A2pr (Dnp)-Ala-Arg-NH2)と天然基質であるアグリカンの両方を消化する。
【0082】
1.4.2.2 包装及び表示
個装箱には、含有量、貯法、製造番号、使用期限、及び治験調整医師の氏名、所属、職名、住所を記載し、治験用である旨を表示した。
なお、個装箱に表示する治験調整医師の所属、職名には治験開始時のものを記載し、治験実施中に変更が生じた際にも個装箱表示の変更は行わないこととした。
【0083】
1.4.2.3 製造番号及び使用期限
本治験で使用した治験薬の製造番号及び使用期限を表3(治験薬の製造番号及び使用期限)に示した。
【表3】
【0084】
1.4.2.4 治験薬の管理
治験薬の交付・回収
1) 治験薬提供者は、実施医療機関に治験薬を交付した。
2) 治験責任医師あるいは指名された治験薬管理者は、治験薬投与終了又は中止後、治験薬の管理に関する手順書に従い治験薬を回収した。
治験薬の管理手順
1) 治験薬管理者は、治験薬の管理に関する手順書に従い治験薬を管理し、治験薬管理表に出納状況を記録した。
2) 治験責任医師、治験薬管理者は治験薬管理表、残薬及びeCRFの記載内容の整合性を確認し、不整合が判明した場合には直ちにその原因を調査し、その記録を残すこととした。
【0085】
1.4.3 治療群への患者の割付け方法
「1.1.7治験への割付け手法」に記載した。
【0086】
1.4.4 治験における用量の選択
治験薬の用量の選択は「1.4.1治療法」に記載した。
設定根拠は「1.2対照群の選択を含む治験デザインについての考察」に記載した。
【0087】
1.4.5 各患者の用量の選択及び投与時期
各患者の用量の選択及び投与時期について「1.4.1治療法」に記載した。
設定根拠は「1.2対照群の選択を含む治験デザインについての考察」に記載した。
【0088】
1.4.6 盲検化
「1.1.5盲検下の水準と手法」に記載した。
【0089】
1.4.7 併用薬及び併用療法
【0090】
1.4.7.1 併用可能薬
治験薬投与後に疼痛が継続する場合、以下の補助使用薬(鎮痛薬)の使用を可とした。ただし、疼痛評価前6時間は、補助使用薬(鎮痛薬)の使用を禁止した。
* 非ステロイド性抗炎症薬(ロキソプロフェンNa、セレコキシブなど)
* アセトアミノフェン
* トラマドール塩酸塩
【0091】
1.4.7.2 併用制限薬及び併用制限療法
下記の併用制限薬・併用制限療法について、同意取得前から服薬・治療法を継続している場合は、治験期間中も継続が可能であるが、同意取得後に治療内容の変更(投薬量増量、投薬・治療頻度の増加)を行わないこととした。投薬量の減量や、投薬・治療頻度の減少は許容することとした。
[併用制限薬]
* 末梢神経障害性疼痛に対する薬剤(プレガバリン、ミロガバリン)
* 抗てんかん薬(ガバペンチンなど)
* 抗うつ剤(デュロキセチン、アミトリプチリン)
* N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗薬(ケタミン塩酸塩など)
* 副腎皮質ステロイド薬(外用薬、点眼薬、吸入薬を除く)
* 筋弛緩薬、漢方薬、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液
[併用制限療法]
トリガーポイントブロック、温熱療法、装具療法、牽引療法、鍼灸療法、整体など
【0092】
1.4.7.3 併用禁止療法
同意取得後から投与後24週の観察終了日までの期間、神経根ブロック、硬膜外ブロックなどの神経ブロック療法、手術治療の実施(コンドリアーゼによる髄核融解療法を含む)は禁止した。
【0093】
1.4.8 治療方法の遵守
治療方法の遵守状況は被験者の診療録等により把握した。観察・検査方法については「1.5.1有効性及び安全性の評価項目及びフローチャート」を参照。
【0094】
1.5 有効性及び安全性の項目
【0095】
1.5.1 有効性及び安全性の評価項目及びフローチャート
【0096】
1.5.1.1 治験手順の概要
治験手順の概要を、図3に示す。
治験責任(分担)医師は、同意の取得及び同意取得の方法の規定に従い、患者に対して治験の目的、内容などを説明文書で説明した上で、同意を取得した。治験責任(分担)医師は、EDCにて当該被験者を登録し、被験者識別コードを付与した。
治験責任(分担)医師は、被験者が「1.3.1.1対象疾患」及び「1.3.1.2 選択基準」を満たし「1.3.1.3 除外基準」に該当しないことを確認した。投与開始前に、本治験実施計画書で定めた観察・検査を行った。
治験責任(分担)医師は、投与開始前の検査より被験者が選択基準に合致し、除外基準に抵触しないことを最終確認した後、本治験に組み入れた。治験責任(分担)医師又は治験協力者は、EDCにて当該被験者の割付けを行った。
治験責任(分担)医師は、被験者の割付けられた群に従い、KTP-001投与群又はSham群(コホート1のみ)の投与又は処置を開始した。
投与後24週目まで、本治験実施計画書で定めた観察・検査を行った。ただし、「1.3.2.2 治験薬投与後中止基準」に該当する場合は治験を中止した。
投与後24週目あるいは中止時の観察・検査時に有害事象が回復又は軽快していない場合は、有害事象の発現前の状態に回復又は軽快するまで、あるいは治験責任(分担)医師が、以後の調査を不要と判断するまで、適宜追跡調査することとした。追跡調査時に受診しなくなった場合も、電話など適切な方法で追跡調査することとした。
【0097】
1.5.1.2 観察、検査項目及びその実施時期
観察・検査スケジュールを表4~表5(観察・検査スケジュール)に示した。
【表4】

【表5】

a 椎間板内注入施行後24時間入院した。24時間までの検査データに基づき、安全性の問題がなければ退院した。なお、検査のみを目的とする入院や、社会的入院による入院期間の延長などは、有害事象として扱わないこととした(「1.5.1.2.18.1 有害事象の定義」参照)。
b MRIは、治験期間中を通じて同一の方法で撮像を行い、各実施医療機関及び各実施医療機関の指定する検査機関においては可能な限り、同一の機種を用いた。スクリーニング時のMRI画像は治験薬投与前14日以内に撮像を行った。
c 治験薬投与後、心電図検査で何らかの重大な異常が検出された場合には、追加で検査を実施し、臨床的な意義と診断を記録に残すこととした。
d 血液学的検査、血液生化学的検査、凝固検査、及び尿検査。
e 妊娠検査は女性被験者のみ実施し、男性被験者では不要とした。投与前0時間の尿妊娠検査の結果は、治験薬投与前に得られるように実施した。治験期間中に通常の月経周期が来なかった場合(妊娠の可能性が疑われる場合)及び治験終了時には必ず尿妊娠検査を実施し、被験者が治験中に妊娠していないことを確認した。
f 治験薬は、X線透視ガイド下で椎間板内に注射投与した。
g 同意取得前14日以内に撮影されたX線画像がある場合、被験者の同意を得た上で、その画像を利用することとした。
h 来院時にのみ実施した。
【0098】
1.5.1.2.1 治験スケジュール
1) スクリーニング
文書で同意を取得した被験者にスクリーニングを実施した。
同意取得から治験薬投与(Day 1)までのスクリーニング期間は、最大28日間とした。なお、同意取得前14日以内に撮影されたX線画像がある場合、被験者の同意を得た上で、その画像の利用を可とした。
被験者の選択基準・除外基準に基づき、治験責任(分担)医師は被験者の適格性を総合的に判断し、被験者を選定した。
本治験では、スクリーニング期間中に脱落し、組み入れに至らなかった患者の再登録を可とした。再登録を行う場合には、治験調整医師と協議の上、患者から新たに同意を取得することとした。
【0099】
2) 治験薬投与(Day 1)
被験者は、治験薬の椎間板内注射後24時間入院し、すべての手順が完了し、治験責任医師が安全に退院できると判断した時点で退院した。なお、検査のみを目的とする入院や、社会的入院による入院期間の延長などは、有害事象として扱わなかった(「1.5.1.2.18.1有害事象の定義」参照)。
【0100】
3) 中止時観察・検査
「1.3.2.2治験薬投与後中止基準」に従い中止となった被験者については、中止後速やかに表4~表5(観察・検査スケジュール)にて規定されている、投与後24週目の観察・検査項目を実施した。
なお、「1.4.7.2 併用制限薬及び併用制限療法」に示す併用制限薬・併用制限療法の実施例のうち、同意取得後に治療内容の変更(投薬量増量、投薬・治療頻度の増加)を行った症例、及び「1.4.7.3 併用禁止療法」に示す併用禁止療法の実施例については中止例とするが、中止後も観察及び検査は継続することとした。中止後続けて観察を行う際には、中止後の来院時に、評価項目等を規定しておくこととした。中止後の安全性及びMRIの画像評価については解析を実施することとした。
【0101】
1.5.1.2.2 同意取得
本治験の実施に先立ち、治験責任(分担)医師は患者に対し、IRBの承認を得た同意説明文書を使用して十分説明した後、自由意思による治験参加の同意を患者から文書で得た。
【0102】
1.5.1.2.3 被験者背景
スクリーニング時に、被験者の臨床的特徴に関する以下のデータを収集した。
年齢、性別、人種*、既往歴、合併症、併用薬/前治療薬、椎間板ヘルニア高位(L3-L4、L4-L5、L5-S1、仙椎化の場合はL3-L4、L4-S1、腰椎化の場合はL4-L5、L5-L6、L6-S1)
*カルテなどの原資料に人種の情報が記載されていない場合、治験責任(分担)医師等又は治験協力者が、スクリーニング時に被験者本人の申告により情報収集することとした。
【0103】
1.5.1.2.4 身体診察
スクリーニング時に身長及び体重を含む身体診察を実施した。投与前に体重を含む身体診察を行った。投与後2時間の時点で再び身体診察を行い、異常所見がないことを確認した。体重を含む身体診察は、投与後24時間及び治験中の規定来院日(投与後1、2、4、6、13及び24週)で実施した。
【0104】
1.5.1.2.5 MRI画像
スクリーニング時、及び治験薬を椎間板内に注射投与した後6週と13週で撮影した。スクリーニング時のMRI画像は治験薬投与前14日以内に撮像を行った。投与椎間板に隣接した終板の形態や輝度変化、椎間板ヘルニアの大きさを第三者の放射線専門医による画像評価委員会2名が評価した。なお、治験期間中を通じて同一の方法で撮像を行い、各実施医療機関及び各実施医療機関の指定する検査機関においては、可能な限り同一の機種を用いることとした。
【0105】
1.5.1.2.6 X線画像
スクリーニング時、投与後6、13及び24週の時点で撮影を行い、投与した椎間板の椎間板高(椎間板前方と後方高の平均)、腰椎不安定性(椎体すべり、椎間可動域、終板変化)を評価した。
スクリーニング時のX線画像について、同意取得前14日以内に撮影された画像がある場合、被験者の同意を得た上で、その画像の利用を可とした。
なお、投与時はX線透視下にて穿刺針を椎間板内中央に穿刺し、注射部位の撮影を行った。
【0106】
1.5.1.2.7 神経学的検査
スクリーニング時、投与前、投与後2及び24時間、並びに規定来院日にて診察を行った。神経学的検査は、疼痛誘発試験である下肢挙上テスト及び大腿神経伸展テストと神経学的所見である両下肢筋の徒手筋力テストと感覚(触覚)検査、下肢深部腱反射とした。神経学的検査の結果はeCRFに個別に記録した。神経学的所見はそれぞれを記録すると同時に、ベースラインと比較した場合の総合的な評価(悪化、変化なし、改善、正常化)を記録した。
【0107】
1) 疼痛誘発試験
a) 下肢挙上テスト
下肢挙上テストは、3段階(0~30度、30~70度、70度以上)において、仰向けに寝かせた被験者の下肢を挙上させ、痛みを評価した。痛みが発現した段階(0~30度、30~70度、70度以上)をeCRFへ記録した。
b) 大腿神経伸展テスト
大腿神経伸展テストは、うつ伏せに寝かせた被験者の膝関節を屈曲、股関節を伸展させ、痛みを評価した。評価結果を「陰性」又は「陽性」としてeCRFに記録した。
【0108】
2) 神経学的所見
a) 徒手筋力テスト
被験者の下肢筋(腸腰筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、前脛骨筋、腓腹筋、足趾屈筋、足趾伸筋)がどの程度の力を発揮できているかについて、治験責任(分担)医師又は治験協力者が、0(筋収縮が全くみられない)~5(強い抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる)の6段階で評価した。
b) 感覚検査
触覚で評価を行った。柔らかい毛筆や脱脂綿等で被験者の下肢に軽く触れた。治験責任(分担)医師は、調査票の人形図に異常部位を点数表記した。
c) 深部腱反射
被験者の部位(膝蓋腱、アキレス腱)について、反射が正常に機能しているかを治験責任(分担)医師又は治験協力者が評価した。
【0109】
1.5.1.2.8 バイタルサイン
スクリーニング時、並びに投与前、投与後2、4、6及び24時間、規定来院日に実施した。心拍数、収縮期血圧及び拡張期血圧、呼吸数、体温を計測した。
【0110】
1.5.1.2.9 12誘導心電図
スクリーニング時、投与後24時間に実施した。治験薬投与後、心電図検査で何らかの重大な異常が検出された場合には、追加で検査を実施し、臨床的な意義と診断を記録に残すこととした。
【0111】
1.5.1.2.10 臨床検査、妊娠検査、ウイルス感染症検査
1) 臨床検査
血液学的検査、血液生化学的検査、凝固検査、及び尿検査を実施した(詳細は表6(臨床検査項目)参照)。スクリーニング時、投与後24時間、並びに投与後1、2及び6週の来院時に検査を行った(表4~表5(観察・検査スケジュール)参照)。なお、臨床検査は、各治験実施医療機関の検査室又は各医療機関が契約している臨床検査実施機関で測定した。検体採取日はeCRFに記録した。被験者は座位又は臥位で採血した。なお、臨床検査の採血は臨床検査実施機関の手順に従った。スクリーニングの臨床検査結果は、治験薬投与前の最終測定値と定義した。臨床評価のために臨床検査基準値を用いた。
【表6】

本治験での採血量を表7(本治験の採血量)に示した。
【表7】
【0112】
2) 妊娠検査
妊娠検査は女性被験者のみ実施し、男性被験者では不要とした。血清中ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット(βHCG)の検査を、スクリーニング時及び投与後13週来院時に実施した。尿中βHCGの検査は、少なくとも投与前0時間及び投与後24週来院時、若しくは治験途中で中止する場合は治験中止時に実施した。尿妊娠検査は表4~表5(観察・検査スケジュール)の注釈eの記載も参照し、適切なタイミングで実施した。治験薬投与後に妊娠が判明した場合、被験者の安全性を確保した上で、治験の継続を可とした。ただし、治験を継続する場合はX線画像の撮影は継続不可とした。また、治験実施計画書の「治験期間中の妊娠について」に従い情報収集に努めることとした。
【0113】
3) ウイルス感染症検査
スクリーニング時にB型肝炎ウイルス表面(HBs)抗原、抗C型肝炎ウイルス(HCV)抗体、抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗体の有無を確認した。
【0114】
1.5.1.2.11 抗KTP-001抗体測定
血清中抗KTP-001抗体測定用の血液検体は、投与前と投与後13週の来院時に採取した。
【0115】
1.5.1.2.12 薬物動態(PK)測定
投与前、投与後2、4、6、及び24時間後における血清中KTP-001濃度を測定した。
血清中KTP-001濃度データを用いて、以下のPKパラメータを測定した。
* 最高血清中濃度(Cmax)(単位:μg/mL)
* 最高血清中濃度到達時間(Tmax)(単位:h)
* 0時間から投与後24時間までの血清中濃度-時間曲線下面積(AUC 0-24h)(単位:h*μg/mL)
【0116】
1.5.1.2.13 薬力学(PD)測定
投与前、投与24時間後、並びに1、2、及び6週間後にケラタン硫酸塩濃度のための血液検体を採取した。血清中ケラタン硫酸塩濃度は酵素免疫測定法を用いて測定した。
【0117】
1.5.1.2.14 疼痛評価
1) 腰背部痛及び下肢痛(NRS)
スクリーニング時、投与前、投与後2、4、6、及び24時間、規定来院日に実施した。被験者の腰背部痛及び下肢痛(「過去24時間」の最悪時痛及び平均の痛み、投与後2、4、6時間においては「現時点」の痛み)をNRSの11段階の数値評価尺度を用いて評価した。
【0118】
2) 補助使用薬(鎮痛薬)の使用状況
スクリーニング時、投与前、投与後24時間、及び規定来院日に確認した。
【0119】
3) Pain Detect
スクリーニング時、投与前、投与後24時間、及び規定来院日に実施した。被験者が日本語版Pain Detectを用いて自らの痛みを評価した。9項目の質問をスコア化(0~38点)した。
【0120】
1.5.1.2.15 身体機能評価
スクリーニング時、投与前、投与後24時間、及び規定来院日に実施した。腰痛又は下肢痛が被験者の日常業務管理能力にどの程度支障をきたすか、ODI(2.0版)を用いて測定した。
機能レベルの改善、変化なし又は悪化は、ベースラインからのスコアの変化より評価した。
ODIでは、「疼痛強度、身の回りのこと、物の持ち上げ、歩行、座位、立位、睡眠、社会生活、乗り物での移動」の9領域の日常機能を測定した。本治験では性生活の設問は外した。項目は0から5までスコア化し、0が最良の機能レベル、5が最悪の機能レベルであった。その後、これらの回答(被験者スコア/スコアの合計最大値:45点×100)からパーセンテージを導き出し、その日のODIとして記録した。その後、スコアを以下の表8に示す障害レベルに分類した。
【表8】
【0121】
1.5.1.2.16 生活の質(QOL)評価
スクリーニング時、投与前、投与後24時間、及び規定来院日に実施した。EuroQol Groupにより開発されたEuroQol 5 Dimensions 5 Level(EQ-5D-5L)を用いて、被験者が自身の健康状態について評価した。5つの全体の健康効用値尺度(移動の程度、身の回りの管理、ふだんの活動、痛み/不快感、不安/ふさぎ込み)について、それぞれ5段階で評価した。また、池田ら(非特許文献5)によって開発されたQOL値を用いた。
【0122】
1.5.1.2.17 患者日誌の提供及び回収、確認
スクリーニング時に、治験責任(分担)医師又は治験協力者は、被験者へ患者日誌を渡し、「12)疼痛評価」のうち「i)腰背部痛及び下肢痛(NRS)」「ii)補助使用薬(鎮痛薬)の使用状況」についての記載を行うよう指示した。治験責任(分担)医師は規定のスケジュール従い、患者日誌を回収し確認後、eCRFに記録した。
【0123】
1.5.1.2.18 有害事象
【0124】
1.5.1.2.18.1 有害事象の定義
本治験における有害事象とは、治験薬投与又は治験薬投与のための処置を実施後、治験の終了までに被験者に生じた、あらゆる好ましくない又は意図しない徴候(臨床検査値の異常を含む)、症状又は疾患のことであり、当該治験薬及び治験行為との因果関係の有無は問わない。
なお、以下の事象については有害事象とみなさない。
* 検査のみを目的とする処置(内視鏡検査等)
* 治験開始前より存在が認められる疾患や状態の変動が、予測される日々の変動範囲内であるもの、又は悪化していないもの
* 好ましくない医療上のできごとが生じていない場合(社会的入院、検査/投薬のための来院/入院等)
【0125】
1.5.1.2.18.1.1 重篤な有害事象の定義
重篤な有害事象とは、「1.5.1.2.18.1有害事象の定義」に規定する有害事象のうち、以下のものをいう。
1) 死亡
2) 死亡につながるおそれのあるもの
3) 治療のために入院又は入院期間の延長が必要とされるもの
4) 障害
5) 障害につながるおそれのあるもの
6) 1)~5)に掲げる症例に準じて重篤であるもの
7) 後世代における先天性の疾病又は異常
【0126】
1.5.1.2.18.1.2 副作用
治験責任(分担)医師により、治験薬投与後に生じた有害事象の治験薬との因果関係が否定できない場合、当該有害事象を副作用と定義する。
【0127】
1.5.1.2.18.2 有害事象の評価
【0128】
1.5.1.2.18.2.1 有害事象の程度の評価
重症度は、CTCAE ver. 5.0を用いて、Grade 1~5の5段階で判定した。CTCAE ver. 5.0で定義されていない有害事象については、以下の表9に示す重症度に準じて判定した。
【表9】
【0129】
1.5.1.2.18.2.2 有害事象の因果関係の評価
治験薬投与との因果関係は、以下の表10に示すいずれかの区分で判定した。
【表10】

治験薬投与との因果関係の判定に際しては、被験者の全身状態、合併症、併用薬・併用療法、時間的関係を勘案して判断した。因果関係の判定は治験責任(分担)医師が行った。
【0130】
1.5.1.2.18.2.3 有害事象の転帰
有害事象の転帰は、以下の表11に示すいずれかの区分とする。
【表11】
【0131】
1.5.1.2.18.3 関心のある有害事象
次の有害事象は関心のある有害事象と見なされ、治験責任(分担)医師がイベント発生を知ったのち、24時間以内に治験調整医師(治験調整事務局)及び共同で治験を実施している他の実施医療機関の治験責任医師へ報告することとした。
1) MRI又はX線所見において、Modic Changeの出現、椎間板高が投与前より30%以上減少、椎間不安定性の出現が認められた場合
2) 下肢痛の悪化が認められる場合。すなわち、NRSで1日あたりの平均的な下肢痛スコアが、投与前より2ポイント以上増加、かつその状態が3日以上連続した場合
3) 疼痛の変化に関係なく、神経学的検査の客観的変化(筋力低下の進行、感覚障害の悪化、深部腱反射の変化)が認められた場合
4) 治験責任(分担)医師の判断によって、緊急MRI、硬膜外ステロイド注射や選択的神経根ブロック、外科的介入が行われた場合
【0132】
1.5.1.2.18.4 予期される有害事象
責任医師(分担)医師が「予期される」と判断した有害事象を「予期される有害事象」と定義した。
【0133】
1.5.1.2.18.5 治験期間中の妊娠について
治験責任(分担)医師は、治験薬投与後に女性被験者の妊娠が判明した場合、直ちにX線撮像などの一部検査の中止を検討し、経過を観察するとともに治験調整医師に報告することとした。また男性被験者のパートナーの妊娠が判明した場合、治験責任(分担)医師は、被験者又はパートナーの同意を得てその後の経過に関する情報の入手に努めることとした。治験責任(分担)医師は、被験者及び男性被験者のパートナーの妊娠の結果が重篤な有害事象に該当する場合(例:産後合併症、自然流産、死産、新生児死亡、先天異常等)、「1.5.1.2.18.1有害事象の定義」に従って速やかに報告することとした。
【0134】
1.5.1.3 評価内容
【0135】
1.5.1.3.1 主要評価項目(安全性)
* 有害事象
* バイタルサイン
* 12誘導心電図
* 臨床検査
* MRI画像
* X線画像
* 抗KTP-001抗体
【0136】
1.5.1.3.2 副次評価項目
1) 疼痛評価(痛みの強さ)
* 下肢痛のNRS*評価
* 腰背部痛のNRS*評価
*過去24時間の最悪時痛及び平均の痛み
2) 神経学的検査
* 下肢挙上テスト
* 大腿神経伸展テスト
3) PK及びPD
* PK:血清中KTP-001濃度、PKパラメータ(Cmax、Tmax、AUC0-24h
* PD:血清中ケラタン硫酸塩濃度
【0137】
1.5.1.3.3 探索的評価項目
1) 疼痛評価
i) 痛みの強さ
* ODI
* 補助使用薬(鎮痛薬)使用状況
ii) 痛みの種類
* Pain Detect
2) 身体機能評価
* EQ-5D-5L
3) 神経学的検査
* 神経学的所見の総合評価
4) 併用制限薬の有無、内容(減量や投与頻度の減少を含む)、期間
5) 追加治療*の有無、内容、開始までの期間
*追加治療:治験期間中に、新たな併用制限薬、併用可能薬又は併用禁止療法を使用した場合や、併用制限薬又は併用制限療法の追加又は治療内容の変更を行った場合
6) MRI画像(椎間板ヘルニアの大きさの変化)
【0138】
1.5.2 測定項目の適切性
【0139】
1.5.2.1 安全性の主要評価項目
本治験で選択した安全性評価項目は、椎間板ヘルニアの患者集団に典型的で、国内外で広く利用されている項目であった。
【0140】
1.5.2.2 有効性の副次及び探索的評価項目
本治験で選択した有効性評価項目は、国内外の椎間板ヘルニアの患者集団で以前に選択された項目であった。
NRSは、慢性痛を有する患者で痛みを測定するための、頑健で信頼性のある方法とされている(非特許文献6)。
【0141】
1.5.3 安全性の主要評価項目
安全性の主要評価項目とその設定根拠は、「1.5.1.3.1主要評価項目(安全性)」及び「1.5.2測定項目の適切性」に記載した。
【0142】
1.5.4 薬物濃度の測定
血清中KTP-001濃度及びそのPKパラメータ(Cmax、Tmax、AUC 0-24h)をその他の副次評価項目に設定した。
【0143】
1.6 データの品質保証
【0144】
1.6.1 治験の品質管理及び品質保証
治験調整医師は品質目標を設定、品質目標を達成するための計画を記載したクオリティマネジメント計画書を作成し、治験に係る担当者に周知した。本治験ではクオリティマネジメント計画書で想定したリスクの発現は認められず、また治験実施中、新たなリスクの発生は認められなかった。
治験責任医師及び実施医療機関の長は、以下の品質管理・品質保証活動の適切な実施のために、モニター、監査担当者、規制当局が原資料を直接閲覧できるようにし、必要な場合はモニタリング、監査、査察に立ち会い、対応を行うこととした。
【0145】
1.6.2 品質管理
本治験におけるデータの正確性、一貫性、完全性及び信頼性は以下により保証された。
1) 治験調整医師が指名したモニターは、モニタリングを行い、治験が治験実施計画書及びGCP等を遵守して適切に行われていることを確認した。
2) 治験調整医師が指名したモニターは、原資料を直接閲覧し、eCRFが正確であることを確認した。
3) 治験責任医師は、治験調整医師が指名したモニターが実施医療機関及び治験の実施に係るその他の施設を訪問し、原資料を直接閲覧すること等により本治験が適切にモニタリングされていることを保証した。
【0146】
1.6.3 品質保証
1) 監査担当者は、実施医療機関及び治験の実施に係るその他の施設における治験のシステムが適正に構築され、かつ適切に機能しているか否かを評価した。
2) 監査担当者は、必要に応じて実施医療機関において実地に監査を行い、原資料を直接閲覧すること等により治験が適切に実施されていること及びデータの信頼性が十分に保たれていることを確認した。
3) 治験調整医師は、本治験の監査の実施に関する手順書を作成し、監査が当該手順書及び当該手順書に基づいた監査計画書に従って行われることを保証した。
なお、臨床検査に関して、施設間の標準化及び品質保証を行った。
【0147】
1.7 治験実施計画書で計画された統計手法及び症例数の決定
【0148】
1.7.1 統計及び解析計画
統計解析責任者は、本治験での最初の被験者登録までに、統計解析計画書を作成した。統計解析責任者はデータ固定後に、統計解析計画書に従い解析を行った。また、統計解析責任者は、解析計画を変更した場合などは標準業務手順書に従って統計解析計画書を改訂し、改訂の時期、内容、理由及び改訂者の記録を作成した。
主要な解析項目と解析方法を以下のとおりとした。
1) GCP不遵守が認められた被験者の取り扱い
GCP不遵守が認められた被験者をすべての解析対象集団から除外した。
2) 有意水準と信頼水準
検定を行う場合、有意水準を両側5%とした。信頼区間には、信頼度95%の両側信頼区間を用いた。信頼区間の算出は、有害事象及び副作用等の解析ではClopper-Pearson法、追加治療発生までの期間の解析ではKaplan-Meier法を用いた。
3) 要約統計量
定量的特性の要約には、例数、平均値、標準偏差、最小値、中央値、最大値を用いた。定性的特性の要約には、カテゴリーの例数と割合を用いた。
4) ベースライン値
Day 1 -24 hr~0 hr(Day 1 -24 hr~0 hrに測定がない項目についてはスクリーニング時)に得られた、治験薬投与前の直近の測定値をベースライン値とした。
5) 欠測、不採用データの取り扱い
欠測、不採用データの補完は行わないこととした。
【0149】
1.7.1.1 統計解析計画
【0150】
1.7.1.1.1 解析対象集団
1) 最大解析対象集団(FAS)
本治験に組み入れられ、治験薬を1回以上投与された集団とした。
2) 治験実施計画書に適合した解析対象集団(PPS)
FASのうち、選択基準を満たし、以下のような薬効評価に影響を及ぼすと判断される被験者を除く集団とした。
i) 除外基準違反に該当するもの
ii) 併用制限薬、併用制限療法及び併用禁止療法違反に該当するもの
iii) 治験の中止基準に該当するが中止しなかったもの
iv) 用法・用量・投与期間の設定に違反したもの
3) 安全性解析対象集団(SAF)
治験薬を1回以上投与し、経過が観察された被験者による集団とした。
【0151】
1.7.1.1.2 人口統計学的データ及び他のベースライン時の特性
人口統計学的データ及び他のベースライン時の特性について、群ごとに要約統計量を算出した。
【0152】
1.7.1.1.3 安全性の解析
【0153】
1.7.1.1.3.1 解析した指標
群ごとに以下の指標を解析した。
1) 有害事象
有害事象及び副作用について、発現件数、発現例数、発現割合とその95%信頼区間を算出した。信頼区間の算出には、Clopper-Pearson法を用いた。
重症度別、重篤度別にも同様の解析を行った。
2) 臨床検査値、バイタルサイン、12誘導心電図、MRI、X線、抗KTP-001抗体
測定時期別に、測定値の要約統計量を算出した。また、投与開始後の時期別にベースラインからの変化量の要約統計量を算出した。
【0154】
1.7.1.1.3.2 有害事象・副作用の取り扱い
【0155】
1.7.1.1.3.2.1 有害事象・副作用
治験薬投与開始時点から投与後観察期間終了時(24週/中止時)までに発現した有害事象、副作用を対象とした。
【0156】
1.7.1.1.3.2.2 件数
同一被験者で複数の有害事象(副作用の集計では副作用、器官別大分類[SOC]の集計ではSOC、基本語[PT]の集計ではPT)を発現した場合、それぞれ1件と数え、まとめの処理を行わなかった。
【0157】
1.7.1.1.3.2.3 例数
同一被験者で複数の有害事象(副作用の集計では副作用、SOCの集計ではSOC、PTの集計ではPT)を発現した場合、1例と数え、まとめの処理を行った。
また、同一被験者で同一のSOC(PTごとの集計ではPT)を異なる重症度/重篤度で複数発現している場合、最悪の重症度/重篤度で1例と数えた。
【0158】
1.7.1.1.4 有効性の解析
有効性の各評価項目について、群ごとに次の統計量を算出した。
【0159】
1.7.1.1.4.1 副次評価項目
1) 疼痛評価(痛みの強さ)
* 下肢痛のNRS*評価、腰背部痛のNRS*評価
ベースラインから投与後24週まで都度観察される結果について、各時点の値の要約統計量を算出した。また、各時点において、ベースラインからの変化量の要約統計量を算出した。
*過去24時間の最悪時痛及び平均の痛み
2) 神経学的検査
* 下肢挙上テスト
ベースラインから投与後24週までの各測定期間に対し、各診断結果(0~30度未満、30~70度未満、70度以上)に該当する例数とその割合を算出した。また、ベースライン結果に対する各測定時点のシフトテーブルを作成した。
* 大腿神経伸展テスト
ベースラインから投与後24週までの各測定期間に対し、各診断結果(陰性、陽性)に該当する例数とその割合を算出した。また、ベースライン結果に対する各測定時点のシフトテーブルを作成した。
【0160】
1.7.1.1.4.2 探索的評価項目
1) 疼痛評価(痛みの強さ)
* ODI
ベースラインから投与後24週まで都度観察される結果について、各時点の値の要約統計量を算出した。また、各時点において、ベースラインからの変化量の要約統計量を算出した。
* 補助使用薬(鎮痛薬)の使用状況
Day 1 0 hrから投与後24週までの各測定期間別及びその期間全体に対し、補助使用薬(鎮痛薬)を使用した被験者の例数とその割合を算出した。
2) 疼痛評価(痛みの種類)
* Pain Detect
9項目の質問からなるスコアに対し、ベースラインから投与後24週まで都度観察される結果について、各時点の値の要約統計量を算出した。また、各時点において、ベースラインからの変化量の要約統計量を算出した。
3) 身体機能評価
* EQ-5D-5L
ベースラインから投与後24週まで都度観察される結果について、各評価時期のEQ-5D-5L調査票によるQOL値及びその変化量の要約統計量を算出した。
4) 神経学的検査
* 神経学的所見
徒手筋力テスト、感覚検査、深部腱反射の各々の評価とそれらの所見を総合的に判断し、ベースラインから投与後24週までの神経学的所見の評価をベースラインと比較して、各診断結果(0:悪化、1:変化なし、2:改善、3:正常化)に該当する例数とその割合を算出した。
5) 追加治療の有無、内容、開始までの期間
追加治療の発生を「イベント」と表記することとし、イベントまでの日数について、Log-rank検定により、群間で比較した。また、Kaplan-Meier法により、各群で時点イベント割合とその95%信頼区間を算出するとともに、時点イベント割合のKaplan-Meierプロットを描いた。追跡不能となった被験者で中止理由が有害事象である場合、それらを競合リスクとして取り扱い、Cumulative Incidence Function法により時点イベント割合とその95%信頼区間の算出を補足解析として実施することとした。
6) MRI画像(椎間板ヘルニアの大きさの変化)
MRI評価者が以下の(a)~(c)の順序でMRI画像を評価した。
(a) 症例No(Y-001等)ごとに、以下を記載した表を作成し、事務局に提出した。
* MRIによる終板(Modic change等)や椎間板の変化の有無とその程度(ヘルニアの自然経過としても矛盾がないか等)。
* MRIによる椎間板ヘルニア体積を、縮小傾向あり、縮小傾向なしの2つの方法で症例ごとに評価した。
(b) その後に当該症例Noがどの群か(割付表)を事務局よりMRI評価者に開示した。
(c) 評価後に群情報を入手する上記のフローで盲検性を担保した上で各症例の変化を観察した。
最終的にMRI評価者が合議の上、それぞれの群においてほかの群と比較し定性的に評価した。
【0161】
1.7.1.1.5 薬物動態解析
血清中KTP-001濃度について、採血時点毎に要約統計量(例数、平均値、標準偏差、最小値、中央値、最大値、変動係数)を算出することとした。またPKパラメータ(Cmax、Tmax、AUC 0-24h)の要約統計量を算出することとした。これら以外のPKパラメータを算出する場合は、解析計画書に記載することとした。
PKパラメータは、Phoenix WinNonlin(Certara LP, Princeton, NJ, USA バージョン8.0以上)を用い、ノンコンパートメント解析により血清中KTP-001濃度データ及び実際の検体採取時間から算出することとした。AUC 0-24hの算出方法は線形台形法を採用した。定量下限値を0.1(μg/mL)と定め、定量下限未満を観測した場合は0(μg/mL)として扱い解析に用いることとした。
【0162】
1.7.1.1.6 薬力学解析
血清中ケラタン硫酸塩濃度及びベースラインからの変化量について、採血時点ごとに要約統計量(例数、平均値、標準偏差、最小値、中央値、最大値)を算出した。
【0163】
1.7.2 症例数の決定
目標症例数:18例+追加症例(最大5例)
KTP-001投与群については、治験薬投与後6週までの安全性評価可能例として、以下の例数を設定した。
* コホート1:Sham群3例、KTP-001 150 μg群3例
* コホート2:KTP-001 300 μg群6例
* コホート3:KTP-001 600 μg群6例
なお、コホート1の150 μg群3例のうち、6週間以内で中止となり、6週までの安全性が評価できない症例が発生した場合は、適宜症例を追加することとした。
また、安全性が確認でき、副次評価項目の有効性が示唆された用量のコホートで症例を追加(最大で5症例追加)することとした。
【0164】
<コホートの症例数の設定根拠>
コホート1に用いられる用量では米国の試験で安全性、忍容性が確認されており、特定の有害事象は想定していないが、出現率70%以上の有害事象を90%の検出力で少なくとも1例観測するためには、被験者数として3例必要である。本治験は2施設で安全性に十分に配慮しながら実施するため、実施可能性を考慮したうえでコホート1の目標症例数を3例とした。
同様に、コホート2及びコホート3は、出現率40%以上の有害事象を90%の検出力で少なくとも1例観測するためには、被験者数として6例必要であった。本治験は2施設で安全性に十分に配慮しながら実施するため、実施可能性を考慮したうえでコホート2及びコホート3の目標症例数を6例とした。
安全性が確認でき、副次評価項目の有効性が示唆された用量のコホートで最大5例を追加し、当該コホートにおける安全性の確認に加え、有効性の探索を行うこととした。当該コホートにおける症例数を5例追加し、合計11名とすることにより、出現率20%以上の有害事象を90%の検出力で少なくとも1例観測するのに必要な症例数を確保することが可能となった。
【0165】
2. 治験対象患者
コホート1に組み入れられた被験者には本剤150 μg又はSham、コホート2に組み入れられた被験者には本剤300 μg、コホート3に組み入れられた被験者には本剤600 μgをそれぞれ椎間板内に単回投与(Sham群では穿刺のみ)した。
【0166】
2.1 被験者の内訳
同意取得例での被験者の内訳を表12(被験者の内訳(同意取得例))、中止理由の要約を表13(中止理由の要約(同意取得例))に示した。また、中止症例一覧を付録16.2.1に添付した。
【表12】

【表13】

同意取得例24例のうち、19例が治験薬を投与され、5例が治験薬投与前に本治験を中止した。治験薬投与例19例のうち、5例が治験薬投与後に本治験を中止した。
治験薬投与前の中止理由の内訳は、スクリーニング時不適格が3例、被験者の申し出(同意の拒否又は撤回)及び治験責任(分担)医師の判断が各1例であった。治験薬投与後の中止理由の内訳は、併用制限薬及び併用制限療法の施行が4例、効果不十分が1例であった。
【0167】
2.2 治験実施計画書からの逸脱
同意取得例での治験実施計画書からの逸脱の内訳を表14(治験実施計画書からの逸脱(同意取得例))に示した。
【表14】

同意取得例24例について、治験実施計画書からの重要な逸脱は認められなかったが、重要でない逸脱が8例に認められた。重要でない逸脱の内訳は、「MRI画像撮影において、撮像手順書を取り違えて撮影した」6例、「EDCの誤操作により、投与前日に投与群を割付した」、「併用制限薬の内服」、「新型コロナウイルス罹患による規定来院日の未来院と検査の欠測」が各1例であった。
試験結果に影響する可能性がある治験実施計画書からの逸脱はなかった。
【0168】
3. 有効性の評価
【0169】
3.1 解析したデータセット
本治験における解析したデータセットを表15(解析したデータセット)に示した。
【表15】

同意取得例24例から、スクリーニング時不適格3例、被験者の申し出1例及び治験薬投与が困難と治験責任(分担)医師が判断した1例を除いた19例をSAF、FAS及びPPSとした。なおFASとPPSに採用された例数は同じであるが、被験者によっては解析対象となる期間が異なる。
【0170】
3.2 人口統計学的及び他の基準値の特性
【0171】
3.2.1 被験者背景
SAFの被験者背景を表16~表17(被験者背景(SAF))に示した。
【表16】

【表17】

SAFの人口統計学的及び他の基準値の特性を以下に要約した。
性別は男性がSham群33.3%(1/3例)、本剤150 μg群100%(3/3例)、300 μg群81.8%(9/11例)、600 μg群100.0%(2/2例)であった。年齢(平均値 ± 標準偏差[最小値、最大値])はSham群46.3 ± 15.9歳(28歳、57歳)、本剤150 μg群49.7 ± 7.4歳(44歳、58歳)、300 μg群37.5 ± 7.4歳(27歳、51歳)、600 μg群33.0 ± 7.1歳(28歳、38歳)であった。椎間板ヘルニアの主な高位は、L4-L5がSham群66.7%(2/3例)、本剤150 μg群33.3%(1/3例)、300 μg群54.5%(6/11例)、600 μg群0%(0/2例)、L5-S1がSham群33.3%(1/3例)、150 μg群66.7%(2/3例)、300 μg群36.4%(4/11例)、600 μg群100.0%(2/2例)であった。
【0172】
3.2.2 既往歴、合併症
既往歴を有する被験者はSham群66.7%(2/3例)、本剤150 μg群100%(3/3例)、300 μg群36.4%(4/11例)、600 μg群0%(0/2例)であった(表16~表17)。各群で2例以上に認められた既往歴は、虫垂炎(150 μg群3例)であり、その他の各既往歴は1例ずつに認められた。合併症を有する被験者はSham群66.7%(2/3例)、本剤150 μg群66.7%(2/3例)、300 μg群54.5%(6/11例)、600 μg群100.0%(2/2例)であった。各群で2例以上に認められた合併症は、季節性アレルギー(本剤300 μg群2例)であり、その他の各合併症は1例ずつに認められた。
【0173】
3.3 治療の遵守状況の測定
FASにおける治験薬投与状況を表18(治験薬投与状況(FAS))に示した。
【表18】

治験薬の総投与量の平均値は、本剤150 μg群が150 μg、300 μg群が300 μg、600 μg群が600 μgであり、いずれの投与群でも予定どおりの投与量であった。
FASの全例(Sham群3例、本剤150 μg群3例、300 μg群11例、及び600 μg群2例)に治験薬が椎間板内へ単回投与(Sham群では穿刺のみ)された。
【0174】
3.4 有効性に関する成績及び個別患者データ一覧表
【0175】
3.4.1 有効性の解析
【0176】
3.4.1.1 副次評価項目
【0177】
3.4.1.1.1 疼痛評価(痛みの強さ)
【0178】
3.4.1.1.1.1 下肢痛の評価
FASでの下肢痛の推移図を図4(過去24時間の平均の痛み)及び図5(過去24時間の最悪時痛)に示した。
FASでの下肢痛(過去24時間の平均の痛み及び最悪時痛)の平均値は、すべての群でベースラインから経時的に低下した。PPSでも同様の傾向が認められた。
【0179】
3.4.1.1.1.2 腰背部痛の評価
FASでの腰背部痛の推移図を図6(過去24時間の平均の痛み)及び図7(過去24時間の最悪時痛)に示した。
FASでの腰背部痛(過去24時間の平均の痛み及び最悪時痛)の平均値は、すべての群でベースラインから経時的に低下した。
PPSでも同様の傾向が認められた。
【0180】
3.4.1.1.2 神経学的検査
【0181】
3.4.1.1.2.1 下肢挙上テスト
PPSでの下肢挙上テストのシフトテーブルを表19~表20(下肢挙上テストのシフトテーブル(PPS))に示した。
【表19】

【表20】

PPSでは、Sham群で投与24週後又は中止時に下肢挙上テストの90%以上の改善が認められたのに対し、本剤150 μg群では投与後6週、300 μg群では投与後4週の早期より90%以上の改善が認められた。また、本剤投与群では、投与後2時間で改善傾向がみられた。特に300μg群では投与後2時間でベースラインから比較して有意な改善がみられ、投与後1週で80%の改善があった。
FASでも同様の結果が認められた。
*改善率: ベースラインで「0~30度未満」だった症例が「30~70度未満」又は「70度以上」になった、あるいはベースラインで「30~70度未満」だった症例が「70度以上」になった割合
【0182】
3.4.1.1.2.2 大腿神経伸展テスト
FASでの大腿神経伸展テストのシフトテーブルを表21(大腿神経伸展テストのシフトテーブル(FAS))に示した。
【表21】

FASでのベースライン時の大腿神経伸展テストの結果は、すべての被験者で「陰性」であった。
本剤150 μg群で、「陰性」から「陽性」に変化した症例が投与後24時間及び投与後1週に各1例認められ、投与後2週以降は「陽性」に変化した症例はいなかった。
本剤300 μg群で、「陰性」から「陽性」に変化した症例が投与後2時間で1例認められ、投与後24時間以降は「陽性」に変化した症例はいなかった。
Sham群及び本剤600 μg群で、「陰性」から「陽性」に変化した症例はいなかった。
PPSでも同様の結果が認められた。
【0183】
3.4.1.2 探索的評価項目
【0184】
3.4.1.2.1 疼痛評価
【0185】
3.4.1.2.1.1 痛みの強さ
【0186】
3.4.1.2.1.1.1 Oswestry Disability Index(ODI)
FASでのODIの推移を表22A~表22B(ODIの推移(FAS))に示し、PPSでのODIの推移を表23A~表23B(ODIの推移(PPS))に示した。
【表22A】

【表22B】

【表23A】

【表23B】

FASでのODIの平均値は、Sham群では皮膚穿刺後24時間から経時的に低下した。一方、本剤150~600 μg群では投与後1~4週までODIの平均値が維持され、その後低下した。ODIでは投与後24時間で300μg群はベースラインと比較して有意な改善がみられた。
PPSでも同様の結果が認められた。
【0187】
3.4.1.2.1.1.2 補助使用薬(鎮痛薬)使用状況
FASでの補助使用薬(鎮痛薬)の使用状況を表24(補助使用薬(鎮痛薬)の使用状況(FAS))に示した。
【表24】

FASの本剤300 μg群では、補助使用薬(鎮痛薬)を使用した被験者の割合は、ベースライン時54.5%(6/11例)、本剤投与後1及び2週ではそれぞれ90.0%(9/10例)及び81.8%(9/11例)で、ベースラインと比較して上昇したが、その後ベースラインと同程度を推移した。
Sham群、本剤150及び600 μg群では症例数が少なく、補助使用薬(鎮痛薬)の使用状況に一定の傾向は認められなかった。
PPSでも同様の結果が認められた。
【0188】
3.4.1.2.1.2 痛みの種類(Pain Detect)
FASでのPain Detectの要約を表25~表26(Pain Detectの要約(FAS))に示した。
【表25】

【表26】

FASでのPain Detectの平均値は、すべての群でベースラインから経時的に低下した。
PPSでも同様の結果が認められた。
【0189】
3.4.1.2.2 身体機能評価(EQ-5D-5L)
FASでのEQ-5D-5Lの推移を表27~表28(EQ-5D-5Lの推移(FAS))に示した。
【表27】

【表28】

FASでのEQ-5D-5Lの平均値は、本剤600 μg群を除くすべての群でベースラインから経時的に上昇した。本剤600 μg群では、ベースラインから投与後1週まで低下し、その後経時的に上昇した。PPSでも概ね同様の結果が認められた。
【0190】
3.4.1.2.3 神経学的検査
FASでの神経学的所見のベースライン時と比較した総合的評価の推移を表29A~表29B(神経学的所見のベースライン時と比較した総合的評価の推移(FAS))に示し、PPSでの神経学的所見のベースライン時と比較した総合的評価の推移を表29C(神経学的所見のベースライン時と比較した総合的評価の推移(PPS))に示した。
【表29A】

【表29B】

【表29C】

FASのSham群では投与後2週より神経学的所見の改善例が認められたのに対し、本剤150~600 μg群では投与後2時間の早期より神経学的所見の改善例が認められた。神経学的所見では、300μg群ではSham群と比較して投与後24時間で有意な改善がみられた。PPSでも同様の結果が認められた。
【0191】
3.4.1.2.4 併用制限薬の有無、内容(減量や投与頻度の減少を含む)、期間
治験期間中に併用制限薬を使用した症例は、治験薬が投与された19例中17例であった。使用目的の内訳は、「原疾患」が15例、「有害事象」が4例であった(重複あり)。
使用目的が「原疾患」であった15例のうち、本剤投与後に併用制限薬の投与を終了した症例は10例(うち2例は投与量を減量した後に投与終了)、併用制限薬の投与を継続した症例は5例であった。
使用目的が「有害事象」であった4例はそれぞれ、感覚鈍麻、感覚鈍麻及び四肢痛、関節痛及び四肢痛、並びに椎間板突出を発現したため併用制限薬を使用したが、いずれの事象も回復又は軽快し、併用制限薬の使用も終了した。
【0192】
3.4.1.2.5 追加治療の有無、内容、開始までの期間
FASでの追加治療発生までの期間のカプランマイヤープロットを図8に示した。
FASでの被験者の50%に追加治療が発生するまでの期間は、Sham群(3例)で約14週、本剤150 μg群(3例)で約2週、300 μg群(11例)で約6週、600 μg群(2例)で約1.5週であり、Sham群では他の群と比較して追加治療発生までの期間が長かった。
被験者数が少なく、追加治療が発生するまでの期間と各群の間に特定の傾向は認められなかった。
PPSでも同様の結果が認められた。
【0193】
3.4.1.2.6 MRI画像(椎間板ヘルニアの大きさの変化)
【0194】
3.4.1.2.6.1 椎間板及び終板の変化の有無とその程度
FAS及びPPSでの椎間板及び終板の変化の有無とその程度を評価した。本剤300 μg群の1例(被験者番号:Y-010)のMRIにおいて投与後6週、13週後の両者で進行するType 1 Modic changeを認めたが、ヘルニアの自然経過で発生するものとして矛盾しない所見であった。本剤300 μg群の3例(被験者番号:Y-018、K-004、K-006)において初回MRI時よりType 3 Modic changeを認めたが、フォローアップ中増大又は縮小傾向は認められなかった。
以上より、本剤投与により発生したと強く疑われる椎間板及び終板の変化は認められなかった。
【0195】
3.4.1.2.6.2 椎間板ヘルニア体積の評価
MRIによる椎間板ヘルニア体積の評価結果を表30(椎間板ヘルニア体積の評価結果)に示した。
本治験において、Sham群で経過とともに縮小する症例を一部認めた(投与後6週で33.3%、13週で66.7%)が、自然経過でのヘルニアサイズの縮小として妥当なものであった。
また、特筆すべき点として、本治験は有意差検定を目的とするものではないため有意差を持ってという形ではないものの、投与後13週時点で、本剤300 μg群で81.8%、600 μg群で100%での縮小傾向を認め、ある一定の本剤の効果を表現しうる結果となった。
【表30】

※フィッシャーの正確確率検定を用いSham群と他3群間の3つの2群間比較を行ったところ、すべて有意差なしであった。
【0196】
3.4.2 薬力学
【0197】
3.4.2.1 血清中ケラタン硫酸塩濃度
PPSでの血清中ケラタン硫酸塩濃度の推移図を図9に示した。
血清中ケラタン硫酸塩濃度は、各時点で用量依存的に上昇した。
血清中ケラタン硫酸塩濃度の推移では、Sham群及び本剤150 μg群では明らかな経時的変化が認められなかった。本剤300 μg群では、血清中ケラタン硫酸塩濃度が投与後24時間から上昇し、投与後1週時に最大に達し(血清中ケラタン硫酸塩濃度のベースラインからの変化量の平均値:265.300 ng/mL)、その後は減少した。本剤600 μg群では、血清中ケラタン硫酸塩濃度が投与後24時間から上昇し、投与後2週時に最大に達した(血清中ケラタン硫酸塩濃度のベースラインからの変化量の平均値:710.000 ng/mL)。
【0198】
3.4.3 統計・解析上の論点
本治験において、解析に用いた統計手法の詳細を、統計解析計画書(第3.0版)としてまとめた。
【0199】
3.4.3.1 共変量による調整
本治験では共変量による調整は実施しなかった。
【0200】
3.4.3.2 脱落又は欠測値の取扱い
本治験ではデータの欠測に対する補完は実施しなかった。
【0201】
3.4.3.3 中間解析及びデータモニタリング
本治験では中間解析は実施しなかった。データモニタリングについては、懸念される重篤な有害事象の発現について検討・評価し、安全性に問題ないと判断した最高用量コホートの症例追加について治験調整医師に助言・勧告を行うために効果安全性評価委員会を設置し、審議に基づいて治験を実施した。
【0202】
3.4.3.4 多施設共同治験
本治験は多施設共同治験であるが、施設別の解析は行わなかった。
【0203】
3.4.3.5 多重比較・多重性
本治験における主たる解析項目は、解析対象集団を対象とした治験薬の安全性とした。他の解析項目は副次的な扱いとしたため、多重性の調整は行わなかった。
【0204】
3.4.3.6 患者の「有効性評価の部分集団」の使用
該当せず
【0205】
3.4.3.7 同等性を示すことを意図した実対照薬を用いた試験
該当せず
【0206】
3.4.3.8 部分集団の検討
該当せず
【0207】
3.4.4 個別反応データの作表
被験者ごとの個々の有効性反応データを作成した。
【0208】
3.4.5 薬剤の用量、薬物濃度及びそれらと反応との関係
本治験では計画・実施しなかった。
【0209】
3.4.6 薬物-薬物及び薬物-疾患の相互作用
本治験では計画・実施しなかった。
【0210】
3.4.7 患者ごとの表示
各データの被験者ごとの一覧表を作成した。
【0211】
3.4.8 有効性及び薬力学の結論
* 下肢痛及び腰背部痛(過去24時間の平均の痛み及び最悪時痛)の平均値は、すべての群でベースラインから経時的に低下した。
* 下肢挙上テストでは、PPSにおいて、Sham群で投与24週後又は中止時に90%以上の改善が認められたのに対し、本剤150 μg群では投与後6週、300 μg群では投与後4週の早期より90%以上の改善が認められた。下肢挙上テストでは、投与後2時間で改善傾向がみられた。特に300μg群では投与後2時間でベースラインから比較して有意な改善がみられ、投与後1週で80%の改善があった。
* ODIでは投与後24時間で300μg群はベースラインと比較して有意な改善がみられた。
* 神経学的所見では、FASにおいて、Sham群では投与後2週より改善例が認められたのに対し、本剤150~600 μg群では投与後2時間の早期より改善例が認められた。神経学的所見では、300μg群ではSham群と比較して投与後24時間で有意な改善がみられた。
* 血清中ケラタン硫酸塩濃度は、各時点で用量依存的に上昇した。血清中ケラタン硫酸塩濃度の推移では、Sham群及び本剤150 μg群では明らかな経時的変化は認められなかった。本剤300 μg群及び600 μg群では、血清中ケラタン硫酸塩濃度が投与後24時間から上昇し、それぞれ投与後1週時、2週時に最大に達した。
【0212】
4. 安全性の評価
【0213】
4.1 治験薬が投与された症例数、期間及び用量
被験者19例のうち、Sham群3例、本剤150 μg群3例、300 μg群11例、600 μg群2例に椎間板内単回投与(Sham群は穿刺のみ)を行った。
【0214】
4.2 有害事象
本治験における有害事象の集計については、eCRFに記載された症状・事象名をICH 国際医薬用語集日本語版(MedDRA/J)Ver. 26.1を用いて読み替えを行った。
【0215】
4.2.1 有害事象の簡潔な要約
有害事象の要約を、表31(有害事象の要約(SAF))に示した。
【表31】

有害事象は、Sham群3例中2例(66.7%)に7件、本剤150 μg群3例中1例(33.3%)に1件、300 μg群11例中7例(63.6%)に18件、及び600 μg群2例中2例(100.0%)に8件認められた。
副作用は、本剤300 μg群11例中3例(27.3%)に3件、600 μg群2例中2例(100.0%)に4件認められ、Sham群及び150 μg群では認められなかった。
重篤な有害事象は、本剤300 μg群11例中1例(9.1%)に1件認められ、その他の群では認められなかった。
死亡に至った有害事象及び投与中止に至った有害事象は認められなかった。
関心のある有害事象及び関心のある副作用は本剤600 μg群2例中2例(100.0%)に2件認められ、その他の群では認められなかった。
予期される有害事象は本剤300 μg群11例中3例(27.3%)に4件、600 μg群2例中2例(100.0%)に4件認められ、その他の群では認められなかった。
予期される副作用の発現状況は副作用の発現状況と同一であった。
【0216】
4.2.2 有害事象の表示
症状ごとの有害事象発現状況を表32~表33(症状ごとの有害事象発現状況(SAF))に示した。
【表32】

【表33】

いずれかの群で3例以上に認められた有害事象のSOCは「筋骨格系および結合組織障害」が本剤300 μg群11例中5例(45.5%)に7件、「感染症および寄生虫症」が300 μg群11例中4例(36.4%)に4件、「神経系障害」が300 μg群11例中3例(27.3%)に3件であった。
いずれかの群で2例以上に認められた有害事象(PT別)は、四肢痛が本剤300 μg群11例中3例(27.3%)に4件、背部痛が300 μg群11例中3例(27.3%)に3件、上咽頭炎、COVID-19及び感覚鈍麻がいずれも300 μg群11例中2例(18.2%)に2件であり、その他の有害事象はいずれも1例のみに認められた。
【0217】
4.2.3 有害事象の分析
【0218】
4.2.3.1 副作用の発現状況
SAFで認められた副作用は以下のとおりであった。
・関節痛:本剤600 μg群 1/2例(50.0%) 1件
・背部痛:本剤300 μg群 2/11例(18.2%) 2件、600 μg群 1/2例(50.0%) 1件
・四肢痛:本剤300 μg群 1/11例(9.1%) 1件、600 μg群 1/2例(50.0%) 1件
・椎間板突出:本剤600 μg群 1/2例(50.0%) 1件
【0219】
4.2.3.2 重症度別の有害事象の発現状況
CTCAE Grade 3以上の有害事象は認められなかった。
【0220】
4.2.4 患者ごとの有害事象の一覧表
患者ごとの有害事象の一覧を作成した。
【0221】
4.3 死亡、その他の重篤な有害事象及び他の重要な有害事象
【0222】
4.3.1 死亡、その他の重篤な有害事象及び他の重要な有害事象の一覧表
死亡に至った有害事象一覧及び治験薬投与中止に至った有害事象一覧を作成した。
【0223】
4.3.1.1 死亡
本治験において、死亡例は認められなかった。
【0224】
4.3.1.2 その他の重篤な有害事象
本治験において、重篤な有害事象として感覚鈍麻が本剤300 μg群11例中1例(9.1%)に1件認められた。本症例の詳細を4.3.2項に記述した。
【0225】
4.3.1.3 他の重要な有害事象
本治験では、「他の重要な有害事象」として、「治験中止に至った有害事象」、「関心のある有害事象」、及び「予期される有害事象」について検討を行った。
【0226】
4.3.1.3.1 治験中止に至った有害事象
本治験において、治験薬投与中止に至った有害事象は認められなかった。
【0227】
4.3.1.3.2 関心のある有害事象
関心のある有害事象として、背部痛及び椎間板突出が本剤600 μg群2例中各1例(50.0%)に1件認められ、いずれも治験薬投与との因果関係が否定できないと判断された。
【0228】
4.3.1.3.3 予期される有害事象
SAFで認められた予期される有害事象は以下のとおりであった。
・関節痛:本剤600 μg群 1/2例(50.0%) 1件
・背部痛:本剤300 μg群 2/11例(18.2%) 2件、600 μg群 1/2例(50.0%) 1件
・四肢痛:本剤300 μg群 1/11例(9.1%) 2件、600 μg群 1/2例(50.0%) 1件
・椎間板突出:本剤600 μg群 1/2例(50.0%) 1件
予期される副作用の発現状況は、副作用の発現状況と同一であった(4.2.3.1項参照)。
【0229】
4.3.2 死亡、その他の重篤な有害事象及び他のいくつかの重要な有害事象の叙述
感覚鈍麻(被験者番号:Y-007)
本被験者は男性であり、同意取得時の年齢は30歳で、椎間板ヘルニアの高位はL4-L5であった。既往歴として鼻中隔弯曲症手術及び両側上顎智歯抜歯、及び両側下顎智歯抜歯、合併症として接触性皮膚炎及び足部白癬を有していた。本剤300 μg投与12日後に重篤な感覚鈍麻及び非重篤な背部痛を発現した。いずれの事象も重症度はGrade 2であり、発現から79日後に回復した。MRI、コンピュータ断層撮影(CT)、レントゲンなどによる精査の結果、KTP-001を椎間板内に投与したことが明らかな原因(投与した椎間板と隣接した終板のMRIでの輝度変化、CTやレントゲンによる椎間板腔の狭小化などの形態変化)と判断できる検査所見は認められず本剤投与6日後に発現したCOVID-19感染症による影響が大きいと判断され、治験薬投与との因果関係は否定された。
【0230】
4.3.3 死亡、その他の重篤な有害事象及び他の重要な有害事象の分析及び考察
本治験において、死亡例は認められなかった。重篤な有害事象として、感覚鈍麻(CTCAE Grade 2)が本剤300 μg群11例中1例(9.1%)に1件認められたが、転帰は回復で、治験薬投与との因果関係は否定された。
本治験で発現した有害事象の重症度は、いずれもGrade 2以下であり、重大な転帰に至った事象もなかったことから、全体として良好な忍容性であると考えられた。
【0231】
4.4 臨床検査値の評価
【0232】
4.4.1 患者ごとの個々の臨床検査値の一覧表
個々の臨床検査値の一覧を作成した。
【0233】
4.4.2 各臨床検査項目の評価
【0234】
4.4.2.1 治験期間を通しての臨床検査値
臨床検査値の推移(血液学的検査、血液生化学的検査、凝固検査)を調べ、尿検査結果の推移を調べた。
【0235】
4.4.2.1.1 血液学的検査
血液学的検査項目について、平均値及び中央値に群間で明らかな差又は臨床的に意味のある差は認められなかった。また、いずれの検査項目でも平均値及び中央値に臨床的に重要な経時的変化は認められなかった。
【0236】
4.4.2.1.2 血液生化学的検査
【0237】
4.4.2.1.2.1 アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
ベースライン時のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)(平均値 ± 標準偏差)は、Sham群18.7 ± 9.8 U/L、本剤150 μg群32.7 ± 1.5 U/L、300 μg群20.8 ± 7.7 U/L、及び600 μg群31.5 ± 13.4 U/Lであり、例数が少なく群間でばらつきがあった。
投与後6週時のAST(平均値 ± 標準偏差)は、Sham群23.0 ± 19.9 U/L、本剤150 μg群31.3 ± 5.8 U/L、300 μg群22.1 ± 3.4 U/L、及び600 μg群49.5 ± 21.9 U/Lであり、本剤600 μg群の平均値は他の群と比較して高かった。本剤600 μg群は2例のみであり、このうち1例で本剤投与後2週からAST値が基準値上限を超えたため、600 μg群全体の数値に影響したと考えられた(4.4.2.3項参照)。
【0238】
4.4.2.1.2.2 アラニンアミノトランスフェラーゼ
ベースライン時のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(平均値 ± 標準偏差)は、Sham群22.3 ± 23.3 U/L、本剤150 μg群53.0 ± 6.6 U/L、300 μg群28.0 ± 26.3 U/L、及び600 μg群37.5 ± 19.1 U/Lであり、例数が少なく群間でばらつきがあった。
投与後6週時のALT(平均値 ± 標準偏差)は、Sham群28.3 ± 37.0 U/L、本剤150 μg群44.3 ± 14.7 U/L、300 μg群28.9 ± 13.0 U/L、及び600 μg群95.5 ± 78.5 U/Lであり、本剤600 μg群の平均値は他の群と比較して高かった。本剤600 μg群は2例のみであり、このうち1例で本剤投与後2週からALT値が基準値上限を超えたため、600 μg群全体の数値に影響したと考えられた(4.4.2.3項参照)。
【0239】
4.4.2.1.3 凝固検査
凝固検査項目(プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間)について、平均値及び中央値に群間で明らかな差又は臨床的に意味のある差は認められなかった。また、いずれの検査項目でも平均値及び中央値に臨床的に重要な経時的変化は認められなかった。
【0240】
4.4.2.1.4 尿検査
尿検査項目のうち、尿糖、尿タンパク、ケトン体、及び潜血のシフトテーブルにおいて、群間で明らかな差又は臨床的に意味のある差は認められなかった。また、これらの項目について臨床的に重要な経時的変化も認められなかった。
pHと比重について、平均値及び中央値に群間で明らかな差又は臨床的に意味のある差は認められなかった。また、どちらの検査項目でも平均値及び中央値に臨床的に重要な経時的変化は認められなかった。
【0241】
4.4.2.2 個々の患者の変化
個々の臨床検査値の一覧を作成した。
【0242】
4.4.2.3 個々の臨床的に重要な異常
血液生化学的検査では、本剤600 μg群の1例にALT増加、AST増加、及びγ-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-GTP)増加に該当する異常変動が認められた(重症度はいずれもGrade 1)が、消化器内科専門医から適切な診察を受けて、いずれも軽快している。いずれの事象も併用薬の影響によるものと考えられ、治験薬投与との因果関係は否定された。
【0243】
4.5 バイタルサイン、身体的所見及び安全性に関連する他の観察項目
【0244】
4.5.1 バイタルサイン
治験期間を通して、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数、呼吸数、及び体温のすべての項目で、いずれの群でも平均値及び中央値に臨床的に重要な変化は認められなかった。
【0245】
4.5.2 12誘導心電図
12誘導心電図一覧及び12誘導心電図の正異集計を作成した。
投与後24時間の12誘導心電図の検査結果では、すべての群で臨床的に意義のある所見は認められなかった。
投与後24時間の12誘導心電図の正異集計では、すべての群で臨床的に重要なベースラインからの変化は認められなかった。
【0246】
4.5.3 MRI画像
MRI画像検査結果の推移を作成した。
ベースライン時のMRI画像検査結果は、すべての群で「所見なし」(100.0%)であった。
投与後6週時のMRI画像検査結果は、Sham群、本剤150 μg群、及び600 μg群ではいずれも「所見なし」(100.0%)であった。本剤300 μg群では「異常所見なし」が10/11例(90.9%)、「異常所見あり(異常所見の種類:その他)だが臨床的意義は認められない」が1/11例(9.1%)であった。
投与後13週時のMRI画像検査結果は、すべての群で「所見なし」(100.0%)であった。
投与後6週及び13週のいずれの時点でも、MRI画像検査結果はほとんどの被験者で「所見なし」であった。
【0247】
4.5.4 X線画像
X線画像検査結果の推移を作成した。
治験期間を通して、すべての群で臨床的に意義のあるX線検査所見は認められなかった。
【0248】
4.5.5 抗KTP-001抗体及び血清中KTP-001濃度、PKパラメータ(C max 、T max 、AUC 0-24h )(PK解析)
抗KTP-001抗体の結果のシフトテーブルを表34に示した。
【表34】

抗KTP-001抗体は、ベースライン時及び投与後13週時のいずれの時点でもすべての投与群で陰性であった。
血清中KTP-001濃度は、治験期間を通してすべての被験者で定量下限未満であった。すべての被験者で血清中KTP-001濃度が定量下限未満であったため、副次評価項目の血清中KTP-001濃度のPKパラメータの算出は行わなかった。
【0249】
4.6 安全性の結論
* 全体として、腰椎椎間板ヘルニア患者に対して本剤を600 μgまで椎間板内単回投与を行ったときの安全性及び忍容性は良好であった。
* 有害事象は、Sham群3例中2例(66.7%)に7件、本剤150 μg群3例中1例(33.3%)に1件、300 μg群11例中7例(63.6%)に18件、600 μg群2例中2例(100.0%)に8件認められた。いずれかの群で2例以上に認められた有害事象は、四肢痛が本剤300 μg群11例中3例(27.3%)に4件、背部痛が300 μg群11例中3例(27.3%)に3件、上咽頭炎、COVID-19及び感覚鈍麻がいずれも300 μg群11例中2例(18.2%)に2件であった。
* 死亡に至った有害事象及び投与中止に至った有害事象は認められず、重篤な有害事象として感覚鈍麻が本剤300 μg群11例中1例(9.1%)に1件認められた。重篤な副作用、治験中止に至った有害事象は認められなかった。関心のある有害事象として、背部痛及び椎間板突出が本剤600 μg群2例中各1例(50.0%)に1件認められ、いずれも治験薬投与との因果関係が否定できないと判断された。
* 血液学的検査、凝固検査、及び尿検査では、平均値及び中央値、又はシフトテーブルにおいて、群間で明らかな差、臨床的に意味のある差、又は臨床的に重要な経時的変化は認められなかった。血液生化学的検査では、投与後6週時のAST及びALTの平均値が本剤600 μg群で他の群と比較して高かった。本剤600 μg群は2例のみであり、このうち1例で本剤投与後2週からAST値及びALT値が基準値上限を超えたため、600 μg群全体の数値に影響したと考えられた。この1例ではALT増加、AST増加、及びγ-GTP増加に該当する異常変動が認められた(重症度はいずれもGrade 1)。
* バイタルサイン、12誘導心電図、及びX線画像については、治験期間を通して臨床的に重要な変化は認められなかった。
* 治験期間を通してすべての被験者で抗KTP-001抗体結果は陰性であり、血清中KTP-001濃度は定量下限未満であった。
【0250】
5. 考察と全般的結論
【0251】
5.1 考察
本治験は腰椎椎間板ヘルニア患者に対するKTP-001の椎間板内単回投与による安全性と忍容性の確認を目的とする多施設共同、単盲検、用量漸増、単回投与試験であった。
本治験では、同意取得例24例中19例がSAF、FAS、及びPPSに採用された。
被験者19例のうち、Sham群3例、本剤150 μg群3例、300 μg群11例、600 μg群2例に椎間板内単回投与(Sham群は穿刺のみ)を行った。有害事象は、Sham群3例中2例(66.7%)に7件、本剤150 μg群3例中1例(33.3%)に1件、300 μg群11例中7例(63.6%)に18件、600 μg群2例中2例(100.0%)に8件認められた。いずれかの群で2例以上に認められた有害事象は、四肢痛が本剤300 μg群11例中3例(27.3%)に4件、背部痛が300 μg群11例中3例(27.3%)に3件、上咽頭炎、COVID-19及び感覚鈍麻がいずれも300 μg群11例中2例(18.2%)に2件であった。
死亡に至った有害事象及び投与中止に至った有害事象は認められず、重篤な有害事象として感覚鈍麻が本剤300 μg群11例中1例(9.1%)に1件認められた。重篤な副作用、治験中止に至った有害事象は認められなかった。関心のある有害事象として、背部痛及び椎間板突出が本剤600 μg群2例中各1例(50.0%)に1件認められ、いずれも治験薬投与との因果関係が否定できないと判断された。
血液学的検査、凝固検査、及び尿検査では、平均値及び中央値、又はシフトテーブルにおいて、群間で明らかな差、臨床的に意味のある差、又は臨床的に重要な経時的変化は認められなかった。血液生化学的検査では、投与後6週時のAST及びALTの平均値が本剤600 μg群で他の群と比較して高かった。本剤600 μg群は2例のみであり、このうち1例で本剤投与後2週からAST値及びALT値が基準値上限を超えたため、600 μg群全体の数値に影響したと考えられた。この1例ではALT増加、AST増加、及びγ-GTP増加に該当する異常変動が認められた(重症度はいずれもGrade 1)が、消化器内科専門医から適切な診察を受けて、いずれも軽快している。バイタルサイン、12誘導心電図、MRI画像、及びX線画像については、治験期間を通して臨床的に重要な変化は認められず、治験期間を通してすべての被験者で抗KTP-001抗体は陰性であり、血清中KTP-001濃度は定量下限未満であった。全体として、腰椎椎間板ヘルニア患者に対して本剤を600 μgまで椎間板内に単回投与したときの安全性及び忍容性は良好であった。
下肢痛及び腰背部痛(過去24時間の平均の痛み及び最悪時痛)の平均値は、すべての群でベースラインから経時的に低下した。下肢挙上テストでは、Sham群と比較して本剤150 μg群では投与後6週、300 μg群では投与後4週の早期より90%以上の改善が認められた。下肢挙上テストでは、投与後2時間で改善傾向がみられた。特に300μg群では投与後2時間でベースラインから比較して有意な改善がみられ、投与後1週で80%の改善があった。ODIでは投与後24時間で300μg群はベースラインと比較して有意な改善がみられた。神経学的所見では、本剤150~600 μg群でSham群と比較して投与後2時間の早期より改善例が認められた。神経学的所見では、300μg群ではSham群と比較して投与後24時間で有意な改善がみられた。MRI画像による椎間板ヘルニア体積の評価では、投与後13週時に本剤300 μg群で81.8%、600 μg群で100%での縮小傾向を認め、ある一定の本剤の効果を表現しうる結果となった。血清中ケラタン硫酸塩濃度は、各時点で用量依存的に上昇した。血清中ケラタン硫酸塩濃度の推移では、Sham群及び本剤150 μg群では明らかな経時的変化が認められなかった。本剤300 μg群及び600 μg群では、血清中ケラタン硫酸塩濃度が投与後24時間から上昇し、それぞれ投与後1週時及び2週時に最大に達した。
すべての被験者で血清中KTP-001濃度が定量下限未満であったため、副次評価項目の血清中KTP-001濃度のPKパラメータの算出は行わなかった。
以上より、後縦靭帯下脱出型の腰椎椎間板ヘルニア患者に対してKTP-001を600 μgまで椎間板内単回投与を行った本治験で、一定の安全性及び有効性が示された。脱出した椎間板髄核の分解能を示唆するマーカーである血清中ケラタン硫酸塩濃度は、本剤300及び600 μg群で経時的に上昇した。血清中ケラタン硫酸塩濃度の結果より、次相における推奨用量としては本剤150~600 μgを、より好ましくは、本剤300~600 μgを、更により好ましくは、本剤300~450 μgを推奨する。
【0252】
5.2 全般的結論
腰椎椎間板ヘルニア患者に対してKTP-001を600 μgまで椎間板内単回投与を行ったときの安全性及び忍容性は良好であった。治験期間を通してすべての被験者で血清中KTP-001濃度は定量下限未満であり、抗KTP-001抗体は陰性であった。有効性評価では、下肢痛及び腰背部痛は、すべての群でベースラインから低下した。下肢挙上テスト及び神経学的所見では、本剤群で早期より改善が認められた。血清中ケラタン硫酸塩濃度は本剤投与量依存的に上昇した。
以上より、KTP-001が良好な安全性及び忍容性を有し、椎間板ヘルニアによる神経学的所見を投与後早期に改善し、腰背部痛と下肢痛を経時的に軽減することが示された。
【要約】
【課題】 本発明は、ヒトを対象とする場合であっても、MMP-7を、椎間板変性に伴う疾患の処置剤における有効成分として用いることを目的とする。
【解決手段】 本発明は、MMP-7を有効成分として含有し、椎間板ヘルニア、腰痛症、椎間板症、脊柱後側彎症及び変形性脊椎症からなる群から選ばれる椎間板変性に伴う疾患の処置剤であって、1回あたりのMMP-7の用量が、100 μg~700 μgである、処置剤を提供する。
【選択図】 なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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