(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ポンプシステム、流体供給装置およびポンプシステムの駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
F04B 45/047 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
F04B45/047 A
(21)【出願番号】P 2020218021
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173691
【氏名又は名称】高橋 康久
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【氏名又は名称】江部 武史
(72)【発明者】
【氏名】良井 優太
(72)【発明者】
【氏名】関口 力
(72)【発明者】
【氏名】稲本 繁典
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】児玉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】栗田 大輔
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/021547(WO,A1)
【文献】特開2013-144054(JP,A)
【文献】特開2013-245649(JP,A)
【文献】特開平2-16379(JP,A)
【文献】特開2011-208508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 45/047
H02K 7/14
F04B 45/04
F04B 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交番電圧を印加することにより電磁駆動する振動アクチュエータと、
吸入口および吐出口に接続されている
一対の密閉室と、
前記
一対の密閉室の容積を
それぞれ変化させる
複数の可動壁と、
前記振動アクチュエータ、前記一対の密閉室、および前記複数の可動壁を内部に収納する筐体と、
ユーザーの被測定部位に装着されるカフと、
前記カフ内の圧力を検出する圧力センサーと、を備え、
前記振動アクチュエータの駆動により前記
複数の可動壁が変位して前記
一対の密閉室内の
空気が
前記カフに供給され、
前記圧力センサーによって検出された前記カフ内の前記圧力に基づいて、前記振動アクチュエータの振幅が一定となるように前記交番電圧の実効値を制御
し、
前記振動アクチュエータは、前記筐体内に設けられた軸部と、前記筐体に対して往復回転可能に、前記軸部によって支持されている可動体と、前記筐体および前記可動体の一方に固定された一対のコイルコア部と、前記筐体および前記可動体の他方に、前記コイルコア部とそれぞれ対向するように設けられた一対のマグネットと、を含むことを特徴とするポンプシステム。
【請求項2】
前記交番電圧の振幅を変化させることにより前記実効値を制御する請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項3】
前記交番電圧は、矩形波であり、
前記交番電圧の振幅およびDuty比の少なくとも一方を変化させることにより前記実効値を制御する請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項4】
前記振動アクチュエータは、前記
カフ内の
前記圧力によって共振周波数が変化する請求項1ないし
3のいずれか
一項に記載のポンプシステム。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか一項に記載のポンプシステムを備えることを特徴とする流体供給装置。
【請求項6】
交番電圧を印加することにより電磁駆動する振動アクチュエータと、
吸入口および吐出口に接続されている
一対の密閉室と、
前記
一対の密閉室の容積を変化させる
複数の可動壁と、
前記振動アクチュエータ、前記一対の密閉室、および前記複数の可動壁を内部に収納する筐体と、
ユーザーの被測定部位に装着されるカフと、
前記カフ内の圧力を検出する圧力センサーと、を備え、
前記振動アクチュエータの駆動により前記
複数の可動壁が変位して前記
一対の密閉室内の
空気が
前記カフに供給されるポンプシステムの駆動制御方法であって、
前記圧力センサーによって検出された前記カフ内の前記圧力に基づいて、前記振動アクチュエータの振幅が一定となるように前記交番電圧の実効値を制御
し、
前記振動アクチュエータは、前記筐体内に設けられた軸部と、前記筐体に対して往復回転可能に、前記軸部によって支持されている可動体と、前記筐体および前記可動体の一方に固定された一対のコイルコア部と、前記筐体および前記可動体の他方に、前記コイルコア部とそれぞれ対向するように設けられた一対のマグネットと、を含むことを特徴とするポンプシステムの駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプシステム、流体供給装置およびポンプシステムの駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の給水装置では、モータポンプの回転数の最適値が圧力に対して異なっているため、各圧力に対して最適な回転数となるようにモータポンプに供給する電圧を調整する。また、特許文献2に記載のポンプ制御装置では、事前に行ったポンプ性能の測定と、配管等に取り付けた状態でのポンプ性能の測定結果とに基づいて所望の流量を得るのに必要な必要回転数を予測し、予測した必要回転数とするのに必要な電圧を演算、出力する。また、特許文献3に記載のポンプユニットでは、小型のモータで高圧力と高流量のそれぞれに対応できるように容積の異なる2つのポンプ部を設け、圧力の状態によってポンプ部を切り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-031078号公報
【文献】特開2001-342966号公報
【文献】特開2004-011597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、電圧によってモータの回転数が変化するため、回転数の変化によって引き起こされるデバイスの共振現象による異音、故障等に対する対応が必要となる。そのため、デバイスが複雑な構成となる。また、特許文献2では、必要な電圧を演算、出力するのに複数の演算が必要となる。そのため、デバイス、特に回路構成が煩雑な構成となる。また、特許文献3では、複数のポンプ部と、これら複数のポンプ部を切り替える機構とが必要となる。そのため、デバイスが大型化すると共に、複雑な構成となる。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、優れた流量特性を発揮することのできるポンプシステム、流体供給装置およびポンプシステムの駆動制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、以下の(1)~(6)の本発明により達成される。
【0007】
(1) 交番電圧を印加することにより電磁駆動する振動アクチュエータと、
吸入口および吐出口に接続されている一対の密閉室と、
前記一対の密閉室の容積をそれぞれ変化させる複数の可動壁と、
前記振動アクチュエータ、前記一対の密閉室、および前記複数の可動壁を内部に収納する筐体と、
ユーザーの被測定部位に装着されるカフと、
前記カフ内の圧力を検出する圧力センサーと、を備え、
前記振動アクチュエータの駆動により前記複数の可動壁が変位して前記一対の密閉室内の空気が前記カフに供給され、
前記圧力センサーによって検出された前記カフ内の前記圧力に基づいて、前記振動アクチュエータの振幅が一定となるように前記交番電圧の実効値を制御し、
前記振動アクチュエータは、前記筐体内に設けられた軸部と、前記筐体に対して往復回転可能に、前記軸部によって支持されている可動体と、前記筐体および前記可動体の一方に固定された一対のコイルコア部と、前記筐体および前記可動体の他方に、前記コイルコア部とそれぞれ対向するように設けられた一対のマグネットと、を含むことを特徴とするポンプシステム。
【0008】
(2) 前記交番電圧の振幅を変化させることにより前記実効値を制御する上記(1)に記載のポンプシステム。
【0009】
(3) 前記交番電圧は、矩形波であり、
前記交番電圧の振幅およびDuty比の少なくとも一方を変化させることにより前記実効値を制御する上記(1)に記載のポンプシステム。
【0011】
(4) 前記振動アクチュエータは、前記カフ内の前記圧力によって共振周波数が変化する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のポンプシステム。
【0012】
(5) 上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のポンプシステムを備えることを特徴とする流体供給装置。
【0013】
(6) 交番電圧を印加することにより電磁駆動する振動アクチュエータと、
吸入口および吐出口に接続されている一対の密閉室と、
前記一対の密閉室の容積を変化させる複数の可動壁と、
前記振動アクチュエータ、前記一対の密閉室、および前記複数の可動壁を内部に収納する筐体と、
ユーザーの被測定部位に装着されるカフと、
前記カフ内の圧力を検出する圧力センサーと、を備え、
前記振動アクチュエータの駆動により前記複数の可動壁が変位して前記一対の密閉室内の空気が前記カフに供給されるポンプシステムの駆動制御方法であって、
前記圧力センサーによって検出された前記カフ内の前記圧力に基づいて、前記振動アクチュエータの振幅が一定となるように前記交番電圧の実効値を制御し、
前記振動アクチュエータは、前記筐体内に設けられた軸部と、前記筐体に対して往復回転可能に、前記軸部によって支持されている可動体と、前記筐体および前記可動体の一方に固定された一対のコイルコア部と、前記筐体および前記可動体の他方に、前記コイルコア部とそれぞれ対向するように設けられた一対のマグネットと、を含むことを特徴とするポンプシステムの駆動制御方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポンプシステムでは、振動アクチュエータの振幅が一定となるように交番電圧の実効値を制御する。そのため、対象物内の圧力上昇に伴う振幅の低下が阻止され、優れた流量特性を発揮することができるポンプシステムとなる。
【0015】
また、本発明の流体供給装置は、上述のポンプシステムを備える。そのため、ポンプシステムの効果を享受することができ、優れた流量特性を発揮することができる流体供給装置となる。
【0016】
本発明のポンプシステムの駆動制御方法では、振動アクチュエータの振幅が一定となるように交番電圧の実効値を制御する。そのため、対象物内の圧力上昇に伴う振幅の低下が阻止され、ポンプシステムに優れた流量特性を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】好適な実施形態に係る電子血圧計の全体構成を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示すポンプの駆動原理を示す断面図である。
【
図4】
図2に示すポンプの駆動原理を示す断面図である。
【
図5】振動アクチュエータが有するばね系を示す模式図である。
【
図6】駆動周波数と振幅との関係を示すグラフである。
【
図7】駆動周波数と流量との関係を示すグラフである。
【
図8】密閉室内の圧力と振幅との関係を示すグラフである。
【
図9】密閉室内の圧力と流量との関係を示すグラフである。
【
図10】密閉室内の圧力と振幅との関係を示すグラフである。
【
図11】密閉室内の圧力と流量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のポンプシステム、流体供給装置およびポンプシステムの駆動制御方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1は、好適な実施形態に係る電子血圧計の全体構成を示す斜視図である。
図2は、ポンプの断面図である。
図3は、
図2に示すポンプの駆動原理を示す断面図である。
図4は、
図2に示すポンプの駆動原理を示す断面図である。
図5は、振動アクチュエータが有するばね系を示す模式図である。
図6は、駆動周波数と振幅との関係を示すグラフである。
図7は、駆動周波数と流量との関係を示すグラフである。
図8は、密閉室内の圧力と振幅との関係を示すグラフである。
図9は、密閉室内の圧力と流量との関係を示すグラフである。
図10は、密閉室内の圧力と振幅との関係を示すグラフである。
図11は、密閉室内の圧力と流量との関係を示すグラフである。
図12ないし
図15は、それぞれ、交番電圧の波形の一例を示す図である。なお、以下では、説明の便宜上、
図2ないし
図4中の紙面上側を「上」とも言い、下側を「下」とも言う。
【0020】
図1に、流体供給装置としての電子血圧計1を示す。電子血圧計1は、カフ2と、本体3と、カフ2と本体3とを接続する給排気用のチューブ4とを有する。カフ2は、被験者の被測定部位、例えば腕に装着され、本体3からの流体供給により内部にある袋体が膨らんで被測定部位を圧迫する。本体3は、カフ2(対象物)内の圧力を測定し、その測定結果に基づいて被験者の血圧を算出する。前記流体としては、特に限定されず、液体であっても気体であってもよいが、気体であることが好ましい。以下では、説明の便宜上、前記流体を空気として説明する。
【0021】
一般的なオシロメトリック法に従って血圧を測定する場合、次のようにする。まず、被験者の被測定部位にカフ2を巻き付ける。そして、血圧測定時には、本体3からカフ2内に空気を供給してカフ2内の圧力(カフ圧)を最高血圧より高くする。その後徐々に減圧し、この過程においてカフ2内の圧力を本体3で検出し、被測定部位の動脈で発生する動脈容積の変動を脈波信号として取り出す。その時のカフ圧の変化に伴う脈波信号の振幅の変化、主に立ち上がりと立ち下がりに基づいて最高血圧(収縮期血圧)および最低血圧(拡張期血圧)を算出する。ただし、血圧測定方法としては特に限定されない。例えば、オシロメトリック法と共に一般的に使用されているリバロッチ・コロトコフ法を用いてもよい。
【0022】
図1に示すように、本体3には、カフ2内の圧力を検出する圧力センサー100が設けられている。また、本体3には、カフ2に空気を供給するポンプ5と、圧力センサー100からの出力信号に基づいてカフ2内の圧力を検出し、検出したカフ2内の圧力に基づいてポンプ5の駆動を制御する制御装置6とを備えたポンプシステム10が設けられている。
【0023】
図2に示すように、ポンプ5は、筐体7と、振動アクチュエータ8と、ポンプ部9とを有する。
【0024】
振動アクチュエータ8は、軸部81と、軸部81を介して筐体7に可動自在に支持された可動体82と、筐体7に固定された一対のコイルコア部85、86とを有する。
【0025】
可動体82は、長尺であり、その中央部において軸部81を介して筐体7に接続されている。そのため、可動体82は、筐体7に対して軸部81を中心としてシーソーのように往復回転する。
【0026】
可動体82の両端部にはマグネット83、84が設けられている。これらマグネット83、84は、軸部81に対して対称的に配置されている。また、マグネット83、84は、コイルコア部85、86と対向する円弧状の磁極面831、841を有する。磁極面831、841にはS極とN極とが円弧方向に沿って交互に配置されている。これらマグネット83、84は、永久磁石であり、例えば、Nd焼結マグネット等により構成されている。
【0027】
可動体82には可動体82が往復回転した際にポンプ部9を押圧する押圧子87、88が設けられている。これら押圧子87、88は、軸部81に対して対称的に配置されている。押圧子87は、軸部81とマグネット83との間に配置され、可動体82の幅方向両側(
図2中上下方向両側)に突出している。また、押圧子88は、軸部81とマグネット84との間に配置され、可動体82の幅方向両側(
図2中上下方向両側)に突出している。
【0028】
コイルコア部85、86は、可動体82の両側に配置され、コイルコア部85がマグネット83の磁極面831と対向し、コイルコア部86がマグネット84の磁極面841と対向している。これらコイルコア部85、86は、軸部81に対して対称的に配置されている。
【0029】
コイルコア部85は、コア部851と、コア部851に巻回されたコイル859とを有する。また、コア部851は、コイル859が巻回された芯部852と、芯部852の両端から延出した一対のコア磁極853、854とを有する。また、コア磁極853、854は、マグネット83の磁極面831と対向する磁極面853a、854aを有する。また、磁極面853a、854aは、それぞれ、マグネット83の磁極面831に倣って円弧状に湾曲している。また、コイル859は、制御装置6に接続されており、制御装置6から交番電圧Eが印加されることにより、コア磁極853、854を励磁する。
【0030】
コイルコア部86は、コア部861と、コア部861に巻回されたコイル869とを有する。また、コア部861は、コイル869が巻回された芯部862と、芯部862の両端から延出した一対のコア磁極863、864とを有する。また、コア磁極863、864は、マグネット84の磁極面841と対向する磁極面863a、864aを有する。また、磁極面863a、864aは、それぞれ、マグネット84の磁極面841に倣って円弧状に湾曲している。また、コイル869は、制御装置6に接続されており、制御装置6から交番電圧Eが印加されることによりコア磁極863、864を励磁する。
【0031】
コア部851、861は、それぞれ、コイル859、869への通電により磁化する磁性体であり、例えば、電磁ステンレス、焼結材、MIM(メタルインジェクションモールド)材、積層鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板(SECC)等により構成されている。
【0032】
ポンプ部9は、軸部81に対して上下左右に分かれて4つ配置されている。具体的には、2つのポンプ部9が一方の押圧子87を介して上下に対向配置され、残りの2つのポンプ部9が他方の押圧子88を介して上下に対向配置されている。これら4つのポンプ部9は、互いに同様の構成であり、それぞれ、密閉室91と、可動壁92とを有する。
【0033】
密閉室91は、外部から空気を吸入する吸入口98と、密閉室91内の空気を吐出する吐出口99とに接続されている。なお、本実施形態では、可動体82に対して上側に位置する2つの密閉室91が1つの吐出口99を共有し、可動体82に対して下側に位置する2つの密閉室91が1つの吐出口99を共有している。
【0034】
可動壁92は、密閉室91の一部を構成している。可動壁92は、押圧子87、88で押圧されることにより変位し、密閉室91内の容積を変化させる。可動壁92の変位により密閉室91内の容積が減少すると、密閉室91内の空気が吐出口99から吐出され、反対に、密閉室91内の容積が増加すると、吸入口98から密閉室91内に空気が流入する。このような密閉室91内の容積の減少と増加とが繰り返されることにより吐出口99から連続的に空気が吐出される。可動壁92は、例えば、ダイヤフラムであり、弾性変形可能な材料により形成されている。また、可動壁92は、押圧子87、88が挿入される挿入部921を有し、挿入部921を介して押圧子87、88と接続されている。
【0035】
また、密閉室91と吸入口98との間にはバルブ93が設けられている。バルブ93は、吸入口98から密閉室91への空気の吸入を許容し、密閉室91から吸入口98への空気の吐出を規制する。また、密閉室91と吐出口99との間にはバルブ94が設けられている。バルブ94は、密閉室91から吐出口99の空気の吐出を許容し、吐出口99から密閉室91への空気の吸入を規制する。これにより、空気の吸引と吐出とをより確実にかつより効率的に行うことができる。
【0036】
図1に示すように、制御装置6は、圧力センサー100の出力信号に基づいてカフ2内の圧力を検出する圧力検出部62と、圧力検出部62が検出したカフ2内の圧力に基づいて振動アクチュエータ8の駆動を制御する駆動制御部61とを有する。このような制御装置6は、例えば、コンピューターで構成され、情報を処理するプロセッサー(CPU)と、プロセッサーに通信可能に接続されたメモリーと、外部インターフェースと、を有する。また、メモリーにはプロセッサーにより実行可能な各種プログラムが保存され、プロセッサーは、メモリーに記憶された各種プログラム等を読み込んで実行する。
【0037】
以上、電子血圧計1の構成について説明した。次に、ポンプ5の駆動について説明する。なお、以下では、説明の便宜上、4つのポンプ部9を「ポンプ部9A」、「ポンプ部9B」、「ポンプ部9C」および「ポンプ部9D」として区別する。
【0038】
駆動制御部61からコイル859、869に交流電圧Eを印加すると、ポンプ5は、
図3に示すように可動体82が一方側に回転する第1状態と、
図4に示すように可動体82が他方側に回転する第2状態とを繰り返して駆動する。
図3に示す第1状態では、コア磁極853、864がそれぞれN極に励磁し、コア磁極854、863がそれぞれS極に励磁している。反対に、
図4に示す第2状態では、コア磁極853、864がそれぞれS極に励磁し、コア磁極854、863がそれぞれN極に励磁している。
【0039】
第1状態では、マグネット83、84とコイルコア部85、86との間に作用する磁力(吸引力・反発力)により矢印方向のトルクF1が発生し、トルクF1の方向に可動体82が回転する。これにより、ポンプ部9A、9Dでは押圧子87、88によって可動壁92が押圧され、密閉室91内の容積が減少し、密閉室91内の空気が吐出口99から吐出される。そして、吐出された空気がチューブ4を介してカフ2内に供給され、カフ2内の圧力が上昇する。反対に、ポンプ部9B、9Cでは密閉室91内の容積が増加し、吸入口98から密閉室91内に空気が流入する。
【0040】
第2状態では、マグネット83、84とコイルコア部85、86との間に作用する磁力(吸引力・反発力)によりトルクF1とは反対方向のトルクF2が発生し、トルクF2の方向に可動体82が回転する。これにより、ポンプ部9B、9Cでは押圧子87、88によって可動壁92が押圧され、密閉室91内の容積が減少し、密閉室91内の空気が吐出口99から吐出される。そして、吐出された空気がチューブ4を介してカフ2内に供給され、カフ2内の圧力が上昇する。反対に、ポンプ部9A、9Dでは密閉室91内の容積が増加し、吸入口98から密閉室91内に空気が流入する。
【0041】
このように、第1状態と第2状態とを交互に繰り返すと、ポンプ部9A、9Dから空気が吐出される状態と、ポンプ部9B、9Cから空気が吐出される状態とが交互に繰り返され、ポンプ5から空気が連続的に吐出される。そのため、カフ2に対して効率よく空気を供給することができ、カフ2内の圧力をスムーズに上昇させることができる。
【0042】
以上、ポンプ5の駆動について説明した。次に、ポンプ5の駆動原理について説明する。振動アクチュエータ8は、下記式(1)に示す運動方程式および下記式(2)に示す回路方程式に基づいて駆動する。
【0043】
【0044】
【0045】
このように、可動体82の慣性モーメントJ[Kg*m2]、変位角(回転角度)θ(t)[rad]、トルク定数Kt[Nm/A]、電流i(t)[A]、ばね定数Ksp[N/m]、減衰係数D[Nm/(rad/s)]等は、それぞれ、式(1)を満たす範囲内において適宜設定することができる。同様に、電圧e(t)[V]、抵抗R[Ω]、インダクタンスL[H]、逆起電力定数Ke[V/(m/s)]は、それぞれ、式(2)を満たす範囲内において適宜設定することができる。
【0046】
また、ポンプ5では、下記式(3)により流量が設定され、下記式(4)により圧力が設定される。
【0047】
【0048】
【0049】
このように、ポンプ5における流量Q[L/min]、ピストン面積A[m2]、ピストン変位x[m]、駆動周波数f[Hz]等は、それぞれ、式(3)を満たす範囲内において適宜設定することができる。また、増加圧力P[kPa]、大気圧P0[kPa]、密閉室体積V[m3]、変動体積ΔV[m3]等は、それぞれ、式(4)を満たす範囲内において適宜設定することができる。
【0050】
次に、振動アクチュエータ8の共振周波数について説明する。
図5に示すように、振動アクチュエータ8は、コイルコア部85、86およびマグネット83、84の間に作用する磁力により形成される磁気ばねB1と、密閉室91内の圧縮空気の弾力により形成される空気ばね(流体ばね)B2とにより可動体82を支持するバネマス系構造を有する。したがって、可動体82は、下記式(5)に示す共振周波数frを有する。
【0051】
【0052】
さらに、ばね定数Kspは、下記式(6)に示すように、磁気ばねB1や可動壁92の弾性B3を含む振動アクチュエータ8自体のばね定数KACTと、空気ばねB2のばね定数KAirとの和で表される。
【0053】
【0054】
上記式(5)および式(6)から分かるように、振動アクチュエータ8では、密閉室91内の圧力(カフ2内の圧力)によって空気ばねB2のばね定数KAirが変化し、それに伴って可動体82の共振周波数frが変化する。
【0055】
次に、共振周波数frの変化に起因した振動アクチュエータ8の振幅Yおよびポンプ5から吐出される空気の流量Qの変動について説明する。なお、以下では説明の便宜上、カフ2内の圧力を最大で50kPaまで高めることができるポンプ5について代表して説明する。ただし、圧力の最大値としては、特に限定されず、求められる条件に適合するように適宜設定することができる。また、前述したように、カフ2と密閉室91とはチューブ4を介して接続されているため、これらが同じ圧力となる。そのため、「密閉室91内の圧力」と「カフ2内の圧力」とは、同義である。
【0056】
図6に、カフ2内の圧力が0kPa~50kPaのときの駆動周波数fと振幅Yとの関係を示す。また、
図7に、カフ2内の圧力が0kPa~50kPaのときの駆動周波数fと流量Qとの関係を示す。なお、駆動周波数fは、交番電圧Eの周波数である。また、
図6および
図7では交番電圧Eの電圧値や波形は一定であり、駆動周波数fだけを変化させている。
図6では、振幅Yが最大となる駆動周波数fが共振周波数frとほぼ一致している。また、
図7では、流量Qが最大となる駆動周波数fが共振周波数frとほぼ一致している。このように、
図6および
図7からも、カフ2内の圧力によって共振周波数frが変化することが分かる。ただし、
図6および
図7に示す関係は一例であり、本発明がこの関係に限定されることはない。
【0057】
図8に、駆動周波数f=fnでの密閉室91の内圧と振幅Yとの関係を示す。また、
図9に、駆動周波数f=fnでの密閉室91の内圧と流量Qとの関係を示す。
図8および
図9から、カフ2内の圧力によって振幅Yが変動し、それに伴って流量Qが変動することが分かる。具体的には、カフ2内の圧力が高まる程、振幅Yが低下し、それに伴って流量Qが低下することが分かる。これは、カフ2内の圧力上昇に伴って共振周波数frが高まる中で、駆動周波数fが共振周波数frに近づく程、振幅Yが大きくなって流量Qが増加し、反対に、駆動周波数fが共振周波数frから遠ざかる程、振幅Yが小さくなって流量Qが減少することを表している。
【0058】
このように、カフ2内の圧力が高まるに連れて流量Qが低下してしまうと、流量Qが安定せず、また、高圧域においてカフ2内に十分な量の空気を供給することができない。そのため、カフ2内の圧力をスムーズに上昇させることができない。このように、カフ2内の圧力に関係なく一定の交番電圧Eを印加する方法では、優れた流量特性を有するポンプ5にはならない。
【0059】
これに対して、カフ2内の圧力の上昇に伴う振幅Yの減少を抑制し、0kPa~50kPaの間で常に十分に大きい振幅Yで振動アクチュエータ8を振動させることができれば、上述のような流量Qの低下が抑制され、流量Qが安定し、高圧域においてもカフ2内に十分な量の空気を供給することができる。そこで、本実施形態では、0kPa~50kPaの全範囲において十分に大きい振幅Yが維持されるように、交番電圧Eの実効値を制御する。以下、このことについて説明する。
【0060】
まず、前提として、ポンプ5の駆動中、駆動周波数fは、一定である。駆動周波数fとしては、特に限定されないが、例えば、次のように決定することができる。駆動周波数fが共振周波数frに近い程、振幅Yが大きくなり流量Qが増加する。さらには、駆動周波数fが共振周波数frに近い程、共振駆動に近づき、振動アクチュエータ8の省電力駆動が可能となる。そのため、0kPa~50kPaの間における共振周波数frの最小値と最大値との間に位置する周波数を駆動周波数fに設定することが好ましい。つまり、
図6および
図7で示す例においては、0kPaでの共振周波数frと、50kPaでの共振周波数frとの間に位置する周波数を駆動周波数fに設定することが好ましい。これにより、0kPa~50kPaの間で駆動周波数fと共振周波数frとの差を小さく抑えることができ、上述の効果を得やすくなる。このような理由から、上述の説明では、駆動周波数f=fnとしている。
【0061】
駆動制御部61には、振幅Yの目標値である目標振幅Ytが記憶されている。目標振幅Ytとしては、特に限定されないが、大きい程好ましい。目標振幅Ytをなるべく大きく設定することにより、より大きな流量Qとなり、ポンプ5の流量特性の向上に繋がる。目標振幅Ytは、例えば、振動アクチュエータ8で発生させることのできる最大振幅に対して故障等のリスクを回避するための余裕をもって設定され、例えば、最大振幅の80%~95%程度に設定することができる。これにより、ポンプ5の寿命や長期信頼性を確保しつつ、ポンプ5の力を十分に発揮することができる。
【0062】
また、駆動制御部61は、0kPa~50kPaの間で振幅Yを目標振幅Ytに維持するための制御プログラムを有する。この制御プログラムとしては、特に限定されず、例えば、カフ2内の圧力と、その圧力のときに振幅Yを目標振幅Ytとするための交番電圧Eの実効値とが紐付けされたテーブルや、カフ2内の圧力を代入すれば、その圧力のときに振幅Yを目標振幅Ytとするための交番電圧Eの実効値が算出される計算式等を備えるものが挙げられる。
【0063】
駆動制御部61は、圧力検出部62が検出したカフ2内の圧力に対応する交番電圧Eの実効値を制御プログラムから「目標実効値」として求め、求めた目標実効値となるように交番電圧Eを制御する。制御方法としては、特に限定されず、例えば、実際の実効値と目標実効値とを比較しながら、実際の実効値が目標実効値に近づくように、好ましくは一致するように交番電圧Eを制御するフィードバック制御が挙げられる。
【0064】
このような制御によれば、
図10に示すように、0kPa~50kPaの間で振幅Yが目標振幅Ytに維持される。つまり、振幅Yが一定に維持される。これにより、
図8で示したようなカフ2内の圧力上昇に伴う振幅Yの低下が抑制される。そして、それに伴って、
図11に示すように、カフ2内の圧力上昇に伴う流量Qの減少度合いが
図9で示した場合と比べて小さくなる。そのため、ポンプシステム10は、交番電圧Eが一定の場合と比べて優れた流量特性を発揮することができる。なお、前記「振幅Yが一定」とは、振幅Yが常に目標振幅Ytに維持される場合の他、装置構成、回路構成等に起因して目標振幅Yt付近で揺らぐ状態も含む意味である。
【0065】
また、ポンプシステム10によれば、特許文献2のように制御方法が複雑化することもないし、特許文献3のように容積の異なる複数のポンプ部を設ける必要もない。そのため、ポンプシステム10は、簡単な構成で、優れた流量特性を発揮することができる。また、前述したように、振動アクチュエータ8の共振周波数frは、慣性モーメントJとばね定数Kspとによって定まり、交番電圧Eの実効値によっては変化しない。そのため、ポンプ5の共振現象による異音、故障等に対する対応が不要となるか、必要があったとしてもその対応が特許文献1のようなモータを用いる場合と比べて容易となる。このような点から見ても、ポンプシステム10は、簡単な構成で、優れた流量特性を発揮することができる。
【0066】
なお、交番電圧Eの波形としては、特に限定されず、例えば、
図12に示すような正弦波であってもよいし、
図13に示すような三角波であってもよいし、
図14に示すような鋸波であってもよいし、
図15に示すような矩形波であってもよい。これらの中でも、交番電圧Eの波形としては、ノイズが生じ難い等の理由から
図12に示すような正弦波とすることが好ましい。ただし、正弦波は、その反面、他の波形と比べて波形生成回路が高価となりやすい。そこで、より安価なポンプシステム10としたい場合には、三角波、鋸波、矩形波とすることが好ましい。
【0067】
交番電圧Eとして
図12、
図13および
図14に示すような正弦波、三角波および鋸波を用いる場合、交番電圧Eの実効値を制御する方法として、例えば、最大電圧値Emaxを変化させる方法がある。最大電圧値Emaxを大きくする程、実効値が大きくなり、反対に、最大電圧値Emaxを小さくする程、実効値が小さくなる。
【0068】
一方、交番電圧Eとして
図15に示すような矩形波を用いる場合、交番電圧Eの実効値を変化させる方法として、最大電圧値Emaxを変化させる方法と、Duty比(=a/b)を変化させる方法とがある。他の波形と同様、最大電圧値Emaxを大きくする程、実効値が大きくなり、反対に、最大電圧値Emaxを小さくする程、実効値が小さくなる。また、Duty比を大きくする程、実効値が大きくなり、反対に、Duty比を小さくする程、実効値が小さくなる。駆動制御部61は、これら両方を制御してもよいし、いずれか一方だけを制御してもよい。両者を制御する方法によれば、いずれか一方を制御する場合と比べて実効値をより緻密に制御することができる。いずれか一方を制御する場合は、両方を制御する場合と比べて単純な制御となり、回路構成等が簡易となる。
【0069】
以上、駆動制御部61によるポンプ5の駆動制御方法について説明した。上述したポンプ5の駆動制御方法では、圧力検出部62が圧力センサー100の出力信号に基づいてカフ2内の圧力を検出し、その検出結果に基づいて駆動制御部61が交番電圧Eの実効値を制御しているが、ポンプ5の駆動制御方法としては、振幅Yを一定にすることができれば、特に限定されない。
【0070】
例えば、カフ2内の容積と目標振幅Yt時に得られる流量Qとに基づいて、実験、シミュレーション等によって事前に単位時間当たりのカフ2内の圧力上昇量を求める。これにより、ポンプ5の駆動開始時刻からの経過時間と、その経過時間のときのカフ2内の圧力との関係を推定することができる。そのため、ポンプ5の駆動開始時刻からの経過時間と、その経過時間のときに振幅Yを目標振幅Ytとするための交番電圧Eの実効値とが紐付けされたテーブル(タイミングテーブル)や、ポンプ5の駆動開始時刻からの経過時間を代入すれば、その経過時間のときに振幅Yを目標振幅Ytとするための交番電圧Eの実効値が算出される計算式等を備える制御プログラムを駆動制御部61に持たせ、この制御プログラムに基づいてポンプ5の駆動を制御させてもよい。このような方法によれば、カフ2内の圧力をフィードバックする必要が無くなるため、回路構成がより簡単となる。
【0071】
以上、本発明のポンプシステム、流体供給装置およびポンプシステムの駆動制御方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【0072】
また、例えば、前述した実施形態では、ポンプシステムおよび流体供給装置を電子血圧計1に適用しているが、これに限定されず、流体の供給が必要な如何なる器具への適用が可能である。また、例えば、前述した実施形態では、ポンプ5が4つのポンプ部9を有しているが、これに限定されず、少なくとも1つのポンプ部9を有していればよい。
【0073】
また、振動アクチュエータ8の構成としては、密閉室91内の圧力に応じて消費電流が変化する構成であれば、特に限定されない。例えば、前述した実施形態では、可動体82にマグネット83、84が設けられ、筐体7にコイルコア部85、86が設けられているが、これに限定されず、この逆であってもよい。つまり、可動体82にコイルコア部85、86が設けられ、筐体7にマグネット83、84が設けられていてもよい。また、マグネット83、84を電磁石に置換してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…電子血圧計 2…カフ(対象物) 3…本体 4…チューブ 5…ポンプ 6…制御装置 7…筐体 8…振動アクチュエータ 9、9A、9B、9C、9D…ポンプ部 10…ポンプシステム 61…駆動制御部 62…圧力検出部 81…軸部 82…可動体 83、84…マグネット 85、86…コイルコア部 87、88…押圧子 91…密閉室 92…可動壁 93、94…バルブ 98…吸入口 99…吐出口 100…圧力センサー 831、841…磁極面 851、861…コア部 852、862…芯部 853、854、863、864…コア磁極 853a、854a、863a、864a…磁極面 859、869…コイル 921…挿入部 B1…磁気ばね B2…空気ばね(流体ばね) B3…弾性 E…交番電圧 Emax…最大電圧値 F1、F2…トルク Q…流量 Y…振幅 Yt…目標振幅 f…駆動周波数