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特許7597489炭素含有アルミナ粉末、樹脂組成物、放熱部品、及び炭素含有アルミナ粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】炭素含有アルミナ粉末、樹脂組成物、放熱部品、及び炭素含有アルミナ粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/021 20220101AFI20241203BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20241203BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241203BHJP
   C08G 77/42 20060101ALN20241203BHJP
【FI】
C01F7/021
C08K9/06
C08L101/00
C08G77/42
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022512028
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012295
(87)【国際公開番号】W WO2021200486
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2020064175
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【弁理士】
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】小牧 孝文
(72)【発明者】
【氏名】新田 純也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 義昭
(72)【発明者】
【氏名】平田 昌一
(72)【発明者】
【氏名】狩野 源太
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/017637(WO,A2)
【文献】特開2003-201116(JP,A)
【文献】特開2012-020900(JP,A)
【文献】特開2014-122364(JP,A)
【文献】特開2018-095496(JP,A)
【文献】特表2017-508701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00-17/38
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下である炭素含有アルミナ粒子を含み、前記炭素含有アルミナ粒子の平均球形度が、0.85以上であり、比表面積が0.05m2/g以上1.0m2/g以下であり、かつ、下記の測定方法を用いて算出された、前記炭素含有アルミナ粉末中の炭素含有率Aに対する炭素含有率Bの比B/Aが、0.20以上0.90以下である、炭素含有アルミナ粉末の製造方法であって、
アルコキシシラン化合物と、アルミナ粉末とを混合する工程と、
室温下での相対湿度20%以上60%以下、温度100℃以上150℃以下、かつ加熱時間0.5時間以上1.5時間以下で加熱する工程とを有する、製造方法。
(測定方法)
前記炭素含有アルミナ粉末中の前記炭素含有率Aと、前記炭素含有アルミナ粉末3gをアセトン50mLを用いて室温で5分間ずつ2回洗浄し、100℃で240分間保持した後の前記アルミナ粉末中の前記炭素含有率Bとを用いて、前記比B/Aを算出する。各前記炭素含有率は、炭素/硫黄同時分析計によって測定された値である。
【請求項2】
ケイ素原子と炭素原子とを含み、前記ケイ素原子の質量MSiと前記炭素原子の質量MCとの比MSi/MCが0.1以上1.2以下である、請求項1に記載の炭素含有アルミナ粉末の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有アルミナ粉末、樹脂組成物、放熱部品、及び炭素含有アルミナ粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICやMPU等の発熱性電子部品の小薄型化・高機能化の進展に伴い、電子部品が搭載された電子機器の発熱量が増大し、効率のよい放熱方法の開発が依然として期待されている。電子機器の放熱は、発熱性電子部品の搭載された基板にヒートシンクを取り付けるか、ヒートシンクを取り付けるスペースを確保することができないときは、直接、電子機器の金属製シャーシに基板を取り付けることなどが行われている。このとき、電気絶縁性と熱伝導性の良好な無機質粉末、例えば、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末、及びアルミナ粉末等の無機粉末をシリコーンゴムに充填させて成形したシートや、アスカ-C硬度が25以下の柔軟性シートなどの放熱部品を介してヒートシンクが取り付けられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
成形加工後の樹脂組成物における放熱性の良否は、成形加工後の樹脂組成物の熱伝導性と被着物への密着性(形状追従性)に大きく左右され、また、樹脂組成物に含まれるボイド(空気層)の有無によっても影響される。熱伝導性は無機粉末を高い割合で充填することにより確保されるが、無機粉末を樹脂などに高い割合で充填した際、成形加工前の樹脂組成物の流動性が非常に低下するため成形加工性が損なわれ、密着性が著しく低下する。一方、成形加工前の樹脂組成物の粘度上昇に伴い、内包したボイドが除去しづらくなることから熱伝導性も低下する。そこで、無機粉末の充填率をある程度保持して、成形加工前の樹脂組成物の流動性と高熱伝導性を両立し、成形加工性と密着性を大きく損なわせない手法として、球状アルミナ粉末とアルコキシシラン化合物の使用が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
また、無機粉末の高充填化は、成形加工前の樹脂組成物の流動性を損なうだけでなく、成形加工後の樹脂組成物において、圧縮永久歪みの増大や引張強度の低下など成形加工後の樹脂組成物における機械的物性の耐熱信頼性を著しく低下させる。機械的物性の耐熱信頼性を向上させる方法として、長鎖アルキル基を有するアルコキシシラン化合物で無機粉末の表面を処理することが提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-296114号公報
【文献】特開2000-1616号公報
【文献】特開平11-209618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記アルコキシシラン化合物で表面処理した球状アルミナ粉末は、比表面積が高く、平均球形度が低く歪な形状を含む等の理由により、樹脂に球状アルミナ粉末を充填する際に増粘し、アルミナ粒子の高充填が難しいとの問題を有する。そのため、成形性が低く、また、得られる放熱部品の熱伝導率も低くなる。
また、樹脂にこの球状アルミナ粉末を充填して得られた成形品では、タック性が低いため、被着物への密着性(形状追従性)が十分ではないとの問題を有する。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できる炭素含有アルミナ粉末、並びにその炭素含有アルミナ粉末を含む樹脂組成物及び放熱部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を用いることにより、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現でき、かつ、その樹脂組成物の被着物への密着性を良好にすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下である炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末であって、前記炭素含有アルミナ粒子の平均球形度が、0.85以上であり、かつ、比表面積が0.05m2/g以上1.0m2/g以下であり、かつ、下記の測定方法を用いて算出された、前記炭素含有アルミナ粉末中の炭素含有率Aに対する炭素含有率Bの比B/Aが、0.20以上0.90以下である、炭素含有アルミナ粉末。
(測定方法)
前記炭素含有アルミナ粉末中の前記炭素含有率Aと、前記炭素含有アルミナ粉末3gをアセトン50mLを用いて室温で5分間ずつ2回洗浄し、100℃で240分間保持した後の前記アルミナ粉末中の前記炭素含有率Bとを用いて、前記比B/Aを算出する。各前記炭素含有率は、炭素/硫黄同時分析計によって測定された値である。
【0010】
[2]ケイ素原子と炭素原子とを含み、前記ケイ素原子の質量MSiと前記炭素原子の質量MCとの比MSi/MCが0.1以上1.2以下である、[1]に記載の炭素含有アルミナ粉末。
[3]樹脂と、[1]又は[2]に記載の炭素含有アルミナ粉末とを含む、樹脂組成物。
[4][1]若しくは[2]に記載の炭素含有アルミナ粉末、又は[3]に記載の樹脂組成物を含む、放熱部品。
[5][1]又は[2]に記載の炭素含有アルミナ粉末の製造方法であって、アルコキシシラン化合物と、アルミナ粉末とを混合する工程と、室温下での相対湿度20%以上60%以下、温度100℃以上150℃以下、かつ加熱時間0.5時間以上1.5時間以下で加熱する工程とを有する、炭素含有アルミナ粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できる炭素含有アルミナ粉末、並びにその炭素含有アルミナ粉末を含む樹脂組成物及び放熱部品の提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
【0013】
本実施形態のアルミナ粉末は、特定の炭素含有アルミナ粒子を含む。
【0014】
[炭素含有アルミナ粉末]
(炭素含有アルミナ粒子)
本実施形態に係る炭素含有アルミナ粒子は、炭素を含有するアルミナ粒子であって、後述の範囲内の顕微鏡による投影面積円相当径、平均球形度、及び比表面積を有するものであれば、特に限定されない。炭素含有アルミナ粒子は、例えば、アルコキシシラン化合物でアルミナ粒子の表面を特定の条件で処理することで得られる。
【0015】
アルコキシシラン化合物は、通常、1~4個のアルコキシ基を有する4種類のアルコキシシラン化合物、及びこれらを縮合したオリゴマーが挙げられる。4種類のアルコキシシラン化合物としては、テトラアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物、ジアルコキシシラン化合物、及びモノアルコキシシラン化合物が挙げられ、ケイ素原子に水素原子が直接結合していないものであると好ましい。これらのアルコキシシラン化合物は、1種単独で、又は2種以上を適宜混合して使用することができる。
【0016】
テトラアルコキシシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、及びテトラブトキシシラン等が挙げられる。
【0017】
トリアルコキシシラン化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、N-デシルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、及び3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0018】
ジアルコキシシラン化合物としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、及びビニルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0019】
モノアルコキシシラン化合物としては、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、ジエチルビニルメトキシシラン、ジメチルプロピルメトキシシラン、ジメチルフェニルメトキシシラン、ジフェニルメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジメチルプロピルエトキシシラン、及びジメチルフェニルエトキシシラン等が挙げられる
【0020】
本実施形態に係る炭素含有アルミナ粒子は、球状であると、樹脂にアルミナ粉末を充填する際に増粘しにくくなり、そのため、樹脂に高充填できることから、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下であり、かつ、平均球形度が0.85以上である。平均球形度は、0.85以上0.99以下であることが好ましい。平均球形度が上記範囲にあることにより、樹脂中の炭素含有アルミナ粒子の流動性をより向上させ、樹脂に炭素含有アルミナ粉末を充填する際の粘度上昇を抑制することができる。また、アルミナ粒子同士の接触がより十分になり、接触面積が大きくなる結果、より高熱伝導性の樹脂組成物及び放熱部品を得ることができる傾向にあり、また、樹脂からアルミナ粒子が脱落し難い傾向にある。平均球形度は、下記の顕微鏡法により測定される。すなわち、走査型電子顕微鏡、及び透過型電子顕微鏡等にて撮影した粒子像を画像解析装置に取り込み、写真から粒子の投影面積(SA)と周囲長(PM)を測定する。その周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の面積を(SB)とすると、その粒子の球形度はSA/SBとなる。よって、試料の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定すると、PM=2πr、SB=πr2であるから、SB=π×(PM/2π)2となり、個々の粒子の球形度は、球形度=SA/SB=SA×4π/(PM)2となる。投影面積円相当径が1μm以上100μm以下である任意の粒子200個の球形度を上記のようにして求め、その相加平均値を平均球形度とする。なお、具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。また、投影面積円相当径は、粒子の投影面積(SA)と同一の投影面積を持つ真円の直径を指す。
【0021】
本実施形態に係る炭素含有アルミナ粒子の比表面積は、樹脂との界面の接触抵抗が低く、粘度上昇がより起こりにくい樹脂組成物及び放熱材料が得られることから、0.05m2/g以上1.0m2/g以下であり、0.1m2/g以上0.6m2/g以下であることが好ましい。なお、本実施形態において、比表面積はBET流動法により測定され、具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。
【0022】
(炭素含有アルミナ粉末)
本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末は、下記の測定方法を用いて算出された比B/Aが0.20以上0.90以下である。比B/Aが、0.20以上であると、炭素含有アルミナ粉末中に残留する表面処理剤等の炭素を含む物質が、樹脂組成物又は放熱部品からのブリードを抑制するという効果が得られる。一方、比B/Aが、0.90以下であると、樹脂に充填した際に増粘し難く、かつ、成形加工し易いという効果が得られる。(測定方法)
上記比B/Aは、本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末中の炭素含有率Aと、上記炭素含有アルミナ粉末3gをアセトン50mLを用いて室温で5分間ずつ2回洗浄し、100℃で240分間保持した後のアルミナ粉末中の炭素含有率Bとを用いて算出される。炭素含有率A及びBは、炭素/硫黄同時分析計によって測定された値である。具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。
【0023】
本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末が、上記比B/Aの範囲を満たすことで、樹脂に炭素含有アルミナ粉末を充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、被着物への密着性が良好な樹脂組成物及び放熱部品を得ることができる。本発明者らは、この理由について定かではないが、次のように推定している。
上記比B/Aが0.20以上であるということは、炭素含有アルミナ粉末中の炭素含有アルミナ粒子の表面に所定の割合以上の炭素を含む物質(例えば、アルコキシシラン化合物)が、例えば、化学結合により強く固着していることを意味する。この場合、その強く固着した炭素を含む物質が被着物への密着性に寄与することで、その密着性が良好な樹脂組成物及び放熱部品を得ることができると考えられる。一方、上記比B/Aが0.90以下であるということは、炭素含有アルミナ粉末中に、所定の割合以下の炭素を含む物質(例えばアルコキシシラン化合物)が、容易に除去できる状態で存在していることを意味する。このような炭素を含む物質は、樹脂と炭素含有アルミナ粒子との間の流動性を向上させ、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制できると推定している。
【0024】
例えば、炭素を含む物質が、アルコキシシラン化合物である場合、アルコキシシラン化合物によりアルミナ粒子の表面を処理すると、アルコキシシラン化合物の全てが、アルミナ粒子と反応するわけではなく、未反応のアルコキシシラン化合物が残留する。この場合、アルコキシシラン化合物の未反応残留量が、上記比B/Aが0.20以上になる程度に少ないと、樹脂組成物から未反応のアルコキシシラン化合物がブリードするのを抑制し、被着物への密着性(形状追従性)が向上すると推定している。一方、残留アルコキシシラン化合物は、樹脂と炭素含有アルミナ粉末との間の流動性に寄与し、樹脂とアルミナ粒子の密着性を向上させるとの効果を有する。そのため、本発明者らは、アルコキシシラン化合物はある程度残留していることが重要と考えている。すなわち、アルコキシシラン化合物の未反応残留量が、上記比B/Aが0.90以下になる程度に多いと、炭素含有アルミナ粉末を樹脂などに高充填した際、成形加工前の樹脂組成物の流動性が向上し、成形加工性が維持され、密着性が良好になると推定している。
【0025】
上記の測定方法を用いて算出された比B/Aは、より良好な密着性と、樹脂と炭素含有アルミナ粉末とのより良好な流動性を有し、かつ、増粘の抑制の観点から、0.20以上0.90以下であることが好ましく、0.30以上0.70以下であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末は、ケイ素原子と炭素原子とを含み、上記ケイ素原子の質量MSiと上記炭素原子の質量MCとの比(以下、単に「質量比」ともいう。)MSi/MCが、処理剤のアルミナ表面への定着率の観点から、0.1以上1.2以下であることが好ましい。ケイ素原子及び炭素原子は、例えば、アルミナ粉末の表面処理に用いられたアルコキシシラン化合物に由来し、アルミナ粉末の表面と反応したアルコキシシラン化合物に由来してもよく、アルミナ粉末の表面に残留しているアルコキシシラン化合物に由来しているものであってもよい。質量比MSi/MCが上記の範囲にあると、処理剤のアルミナ表面への定着率の観点から、好ましい。質量比MSi/MCは、処理剤のアルミナ表面への定着率の観点から、0.1以上1.2以下であることが好ましく、0.2以上0.4以下であることがより好ましい。
質量比MSi/MCは、例えば、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)により測定される。即ち、Si元素とC元素のX線カウント数の比から求めることができる。
【0027】
(炭素含有アルミナ粉末中における炭素含有アルミナ粒子の含有率)
本実施形態において、炭素含有アルミナ粉末中における炭素含有アルミナ粒子の含有率は、アルミナ粒子表面の改質の観点から、10質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。さらに好ましくは70質量%以上、90質量%以上であってよい。上限については100質量%以下、10質量%以下、30質量%以下、50質量%以下であってよい。
【0028】
[炭素含有アルミナ粉末の製造方法]
本実施形態の炭素含有アルミナ粉末の製造方法は、アルコキシシラン化合物と、アルミナ粉末とを混合する工程(以下、「混合工程」ともいう。)と、室温下での相対湿度20%以上60%以下、温度100℃以上150℃以下、かつ加熱時間0.5時間以上1.5時間以下で加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう。)とを有する。
【0029】
(原料)
本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末を得るための原料としては、アルコキシシラン化合物と、アルミナ粉末と、必要に応じて、メタノール、エタノール、及び水とを用いる。
【0030】
原料のアルコキシシラン化合物としては、上記の1~4個のアルコキシ基を有する4種類のアルコキシシラン化合物、及びこれらを縮合したオリゴマー等が挙げられる。これらの中でも、アルミナ粉末と良好に反応する点から、トリアルコキシシラン化合物、及びジアルコキシシラン化合物が好ましい。これらのアルコキシシラン化合物は、1種単独で、又は2種以上を適宜混合して使用することができる。
【0031】
原料のアルミナ粉末としては、平均球形度が0.85以上であるアルミナ粒子を含む公知のアルミナ粉末を用いることができる。
【0032】
原料のアルミナ粉末としては、平均粒子径が1μm以上100μm以下であるアルミナ粒子を含むことが好ましい。なお、本実施形態において、平均粒子径とは、体積基準によるメジアン径(d50)を指す。アルミナ粒子の平均粒子径は、例えば、レーザー光回折散乱式粒度分布測定機(ベックマン・コールター社製「モデルLS-230」(商品名))によって測定できる。この場合、測定溶液は、エタノールにアルミナ粒子を加えて、ホモジナイザー等の公知の撹拌機で、およそ1分間分散処理を行い、装置の濃度調整ウインドウの表示が45%以上55%以下になるように調製することで得られる。粒度分布の解析は、粒子径0.04μm以上2000μm以下の範囲を116分割(log(μm)=0.04の幅)にして行う。測定方法の詳細は、「レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置LSシリーズ」(ベックマン・コールター株式会社社製)、又は豊田真弓著「粒度分布を測定する」(ベックマン・コールター株式会社、粒子物性本部学術チーム)を参照できる。
【0033】
原料のアルミナ粉末としては、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度が、0.85以上であるアルミナ粒子を含むことが好ましい。平均球形度は、樹脂に充填した際に増粘を抑制する点から、0.90以上0.98以下であることが好ましい。平均球形度は、上記の顕微鏡法により測定され、具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。
球形度が低いアルミナ粒子が含まれると、炭素含有アルミナ粉末の球形度も低くなり、樹脂に充填した際に増粘する傾向がある点から、上記の顕微鏡法による投影面積円相当径が10μm未満であるアルミナ粒子の球形度が0.85以下であるアルミナ粒子の割合が、個数基準で1.0%以下であることが好ましく、個数基準で0.5%以下であることがより好ましい。下限は、例えば、個数基準で0.1%である。
【0034】
原料のアルミナ粉末に含まれるアルミナ粒子は、その比表面積が、アルコキシシラン化合物との界面の接触面積が広くできることから、0.05m2/g以上1.0m2/g以下であることが好ましく、0.1m2/g以上0.5m2/g以下であることがより好ましい。
【0035】
(製造方法)
本実施形態の炭素含有アルミナ粉末の製造方法において、まず、混合工程では、アルコキシシラン化合物と、アルミナ粉末と、必要に応じて、メタノールと、エタノールと、水とを混合して、混合液を得る。本実施形態では、アルコキシシラン化合物と、アルミナ粉末との反応が進行しやすく、未反応のアルコキシシラン化合物が過剰にならないよう抑制する観点から、アルミナ粉末100質量部に、アルコキシシラン化合物と、必要に応じて、メタノールと、エタノールと、水とを溶媒に溶解させた加水分解液0.1質量部以上3.0質量部以下を、好ましくは0.2質量部以上1.0質量部以下を添加して、混合することが好ましい。溶媒としては、水が、分散性、安全性及び経済性の点で好ましいが、原料を分散させることができれば、アルコール等の可燃性液体、及び水-アルコール等の混合液でもあってもよい。混合方法は、例えば、原料と溶媒とを所定量投入し、十分分散するまで撹拌機等で混合すればよい。
【0036】
次に加熱工程では、上記のようにして得られた混合液を、室温(25℃)下での相対湿度が20%以上60%以下で、温度100℃以上150℃以下、かつ加熱時間0.5時間以上1.5時間以下で加熱する。この工程を経ることで、アルコキシシラン化合物と、アルミナ粒子とが反応し、本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末が得られる。相対湿度が20%以上であると、アルミナ粒子の表面吸着水によってアルコキシシラン化合物が加水分解し、アルミナ表面のOH基と反応し易くなるという効果が得られる。また、温度が100℃以上であると、反応が進行し易いという効果が得られる。さらに、温度が150℃以下であると、反応前にアルコキシシランの沸点に到達せず、反応量の低下を抑制できるという効果が得られる。
【0037】
得られた炭素含有アルミナ粒子をそのまま、本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末としてもよい。あるいは、得られた炭素含有アルミナ粒子に対して、分級処理、篩分処理等をすることで、本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末を得ることもできる。
【0038】
[樹脂組成物及びその製造方法]
本実施形態に係る樹脂組成物は、少なくとも、樹脂と、本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末とを含む。本実施形態に係る樹脂組成物は、上記炭素含有アルミナ粉末を含むことにより、増粘を抑制できると共に高い熱伝導性を有し、しかもその樹脂組成物から得られる放熱部品のような成形品の被着物への密着性を良好にすることが可能となる。
【0039】
(樹脂)
樹脂としては、熱可塑性樹脂及びそのオリゴマー、エラストマー類等の種々の高分子化合物を用いることでき、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、及びフッ素樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド、及びポリエーテルイミド等のポリアミド;ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム・スチレン)樹脂、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)樹脂、及びシリコーン樹脂等を用いることができる。これらの樹脂は、1種単独で、又は2種以上を適宜混合して用いることができる。
【0040】
これらの樹脂の中でも、耐熱温度や強度及び硬化後の硬度の点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ABS樹脂、及びシリコーン樹脂が好ましく、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びアクリル樹脂がより好ましく、シリコーン樹脂が更に好ましい。
【0041】
シリコーン樹脂としては、メチル基及びフェニル基などの有機基を有する一液型または二液型付加反応型液状シリコーンから得られるゴム又はゲルを用いることが好ましい。このようなゴム又はゲルとしては、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「YE5822A液/YE5822B液」、及び東レ・ダウコーニング社製の「SE1885A液/SE1885B液」などを挙げることができる。
【0042】
(炭素含有アルミナ粉末の配合量)
本実施形態の樹脂組成物において、充填するフィラーの特性発現の点から、その樹脂組成物の全量に対して、本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末の含有量が30質量%以上97質量%以下であることが好ましく、50質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末は、樹脂に充填しても増粘し難いので、上記の範囲内で樹脂組成物中に含まれても、樹脂組成物の増粘を抑制することが可能である。また、炭素含有アルミナ粉末の含有量が50質量%以上であると、良好な高熱伝導化及び被着物への密着性を実現できる樹脂組成物及び放熱部品を得ることが容易になる傾向にあり、95質量%以下であると、炭素含有アルミナ粉末を結着する樹脂分を確保でき、放熱部品により好適に用いることができる。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物において、充填するフィラーの特性発現の点から、その樹脂組成物の全量に対して、本実施形態に係る樹脂の含有量が3質量%以上70質量%以下であることが好ましく、5質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂組成物には、本実施形態の特性が損なわれない範囲において、本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末及び樹脂以外に、必要に応じて、溶融シリカ、結晶シリカ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ベリリア、及びジルコニア等の無機充填材;メラミン及びベンゾグアナミン等の窒素含有化合物、オキサジン環含有化合物、及びリン系化合物のホスフェート化合物、芳香族縮合リン酸エステル、及び含ハロゲン縮合リン酸エステル等の難燃性の化合物;添加剤等を含んでもよい。添加剤としては、マレイン酸ジメチル等の反応遅延剤、硬化剤、硬化促進剤、難燃助剤、難燃剤、着色剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、光増感剤、増粘剤、滑剤、消泡剤、表面調整剤、光沢剤、及び重合禁止剤等が挙げられる。これらの成分は、1種単独で、又は2種以上を適宜混合して用いることができる。本実施形態の樹脂組成物において、その他の成分の含有率は、通常、それぞれ0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0045】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、例えば、樹脂と、炭素含有アルミナ粉末と、必要に応じてその他の成分を十分に攪拌して得る方法が挙げられる。本実施形態の樹脂組成物は、例えば、各成分の所定量を、ブレンダー及びヘンシェルミキサー等によりブレンドした後、加熱ロール、ニーダー、及び一軸又は二軸押し出し機等によって混練し、冷却後、粉砕することによって製造することができる。
【0046】
[放熱部品]
本実施形態に係る放熱部品は、本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末、又は樹脂組成物を含む。本実施形態に係る放熱部品は、上記炭素含有アルミナ粉末又は樹脂組成物を用いることで、高い熱伝導性を実現できる、すなわち、高い放熱性を有することができる。さらに、本実施形態に係る放熱部品は、上記炭素含有アルミナ粉末又は樹脂組成物を用いることで、被着物への密着性を良好にすることができる。本実施形態に係る放熱部品中の炭素含有アルミナ粉末の含有率は、より高い熱伝導性及び被着物への密着性を実現できる点から、30体積%以上85体積%以下であることが好ましく、40体積%以上83体積%以下であることがより好ましい。放熱部品としては、例えば、放熱シート、放熱グリース、放熱スペーサー、半導体封止材、放熱塗料(放熱コート剤)、放熱ポッティング剤、放熱ギャップフィラー等が挙げられる。
【実施例
【0047】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0048】
〔評価方法〕
(1)炭素含有アルミナ粉末の平均球形度
上記の顕微鏡法のとおり、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製JSM-6301F型)にて撮影した粒子像を画像解析装置(マウンテック社製「MacView」(商品名))に取り込み、写真から、実施例及び比較例にて得られた炭素含有アルミナ粒子のそれぞれの粒子(顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下)の投影面積(A)と周囲長(PM)を任意に200個測定した。それらの値を用いて、個々の粒子の球形度及びその割合を求め、また、個々の粒子の球形度の相加平均値を平均球形度とした。
【0049】
(2)比表面積
比表面積の測定は、BET法に基づく値であり、マウンテック社製比表面積測定機「Macsorb HM model-1208(商品名)」を用い、実施例及び比較例で得られた炭素含有アルミナ粒子のそれぞれ1.0gを用い、BET一点法にて、比表面積(m2/g)を測定した。なお、測定に先立ち、前処理として、実施例及び比較例にて得られた炭素含有アルミナ粒子のそれぞれについて、窒素ガス雰囲気中で300℃、及び5分間加熱を行った。また、BET測定において、吸着ガスには、窒素30%、及びヘリウム70%の混合ガスを用い、本体流量計の指示値が25ml/minになるように流量を調整した。
【0050】
(3)炭素含有アルミナ粉末中における炭素含有率Aと炭素含有率Bとの比B/A
まず、炭素/硫黄同時分析計(LECO社製CS-444LS型(商品名))を用いて、炭素含有アルミナ粉末中における炭素量を測定し、検量線法にて、炭素含有率Aを定量した。具体的には、炭素含有量が既知の炭素鋼を標準物質として検量線を求めた後、実施例及び比較例で得られた炭素含有アルミナ粉末のそれぞれを鉄粉や助燃材であるタングステン粉末と共に、酸素雰囲気下で、アルコキシシラン化合物が完全に分解し、全炭素がCO2に変換されるまで酸化燃焼し、生成したCO2量を赤外検出器で測定して、炭素含有率Aを求めた。
続いて、実施例及び比較例で得られた炭素含有アルミナ粉末のそれぞれ3gを、アセトン50mLを用いて室温(25℃)で5分間ずつ2回洗浄し、100℃で240分間保持し、アルミナ粉末を得た。炭素/硫黄同時分析計(LECO社製CS-444LS型(商品名))を用いて、このアルミナ粉末中における炭素量を測定し、検量線法にて、炭素含有率Bを定量した。検量線法の測定は、上記と同様の方法で行った。
得られた炭素含有率Aと、炭素含有率Bとを用いて、比B/Aを算出した。
【0051】
(4)質量比MSi/MC
ケイ素原子と炭素原子との質量比MSi/MCは、実施例及び比較例にて得られた炭素含有アルミナ粒子のそれぞれの0.1gを、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)(日立ハイテクノロジーズ社製卓上顕微鏡MiniscopeTM3030Plus)を用いて、加速電圧15kV、エネルギー範囲10~40keV、チャンネル数1024~4096、スペクトル収集20secの条件の範囲にて測定した際の、粒子表面のCとSiのカウント比よりそれぞれの質量比を算出して、質量比MSi/MCを求めた。
【0052】
(5)粘度
実施例及び比較例にて得られたそれぞれの炭素含有アルミナ粉末をシリコーンゴムA液(ビニル基含有ポリメチルシロキサン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製YE5822A液(商品名))に、1日放置後の炭素含有アルミナ粉末(アルミナ粉末の充填率:87.9質量%)を投入し、撹拌機(東京理化器械社製NZ-1100(商品名))を用いて混合し、真空脱泡して組成物を得た。得られた組成物について、B型粘度計型(東機産業社製TVB-10(商品名))を用いて、粘度(Pa・s)を求めた。粘度測定は、No7スピンドルを使用し、回転数は20rpm、室温20℃で行った。
【0053】
(6)熱伝導率
シリコーンゴムA液(ビニル基含有ポリメチルシロキサン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製YE5822A液(商品名))に、実施例及び比較例にて得られたそれぞれの炭素含有アルミナ粉末と、反応遅延剤(マレイン酸ジメチル、関東化学社製)と、シリコーンゴムB液(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製YE5822B液(商品名)、架橋剤等を含む)とを順に投入し、攪拌した後、脱泡処理をして、スラリー状試料を得た。なお、これらの配合比は、シリコーンゴムA液10体積部に、シリコーンゴムB液1体積部の割合で混合して得られたシリコーンゴム混合液100質量部に対して、0.01質量部の反応遅延剤を加えた液体に、実施例及び比較例にて得られたアルミナ粉末を加熱成形可能な最大充填量を加えることで算出され、表1に示される割合であった。
【0054】
【表1】
【0055】
その後、得られたスラリー状試料を、直径28mm、及び厚さ3mmのくぼみの設けられた金型に流し込み、脱気後、150℃で20分で加熱成形した。得られた成形品を15mm×15mmの銅製ヒーターケースと銅板との間に挟み、締め付けトルク5kgf/cmにてセットした。その後、銅製ヒーターケースに15Wの電力をかけて4分間保持し、銅製ヒーターケースと銅板との温度差を測定し、下記の式にて熱抵抗を算出した。
熱抵抗(℃/W)=銅製ヒーターケースと銅板との温度差(℃)/ヒーター電力(W)
次いで、熱抵抗(℃/W)、伝熱面積[銅製ヒーターケースの面積](m2)、及び締め付けトルク5kgf/cm時の成形体厚(m)を用いて、下記の式から熱伝導率を算出した。すなわち、熱伝導率は、実施例及び比較例にて得られた炭素含有アルミナ粉末のそれぞれを加熱成形可能な最大充填量で充填したときの値である。なお、熱伝導率測定装置としては、アグネ社製ARC-TC-1型(商品名)を用いた。
熱伝導率(W/m・K)=成形体厚(m)/{熱抵抗(℃/W)×伝熱面積(m2)}
【0056】
〔実施例1〕
アルコキシシラン化合物として、ヘキシルトリメトキシシラン(信越化学社製KBM-3063)0.5質量部と、メタノール0.5質量部と、水0.1質量部とをこの順に混合し、室温で2日攪拌して加水分解液を調製した。
次いで、平均粒子径45μmアルミナ粉末(デンカ社製DAW-45(商品名)、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度:0.90、比表面積:0.2m2/g)100質量部に対して、1.0質量部の加水分解液を添加後、混合機(日本アイリッヒ社製EL-1(商品名))で約5分間混合攪拌し、室温で1日放置した。
その後、室温(25℃)下での相対湿度50%、温度140℃にて、1.0時間加熱処理を行い、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0057】
〔実施例2〕
表2に記載のとおり、相対湿度、及び加熱温度を変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0058】
〔実施例3〕
アルコキシシラン化合物として、ヘキシルトリメトキシシランの代わりに、N-デシルトリメトキシシラン(信越化学社製KBM-3103C(商品名))を用い、かつ、表2に示す相対湿度及び加熱温度に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0059】
〔実施例4〕
アルコキシシラン化合物として、ヘキシルトリメトキシシランの代わりに、ジメチルジメトキシシラン(信越化学社製KBM-22(商品名))を用い、かつ、表2に示す相対湿度及び加熱温度に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0060】
〔実施例5〕
アルミナ粉末として、デンカ社製DAW-45(商品名)に代えて、平均粒子径3μmアルミナ粉末(デンカ社製DAW-03(商品名)、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度:0.90、比表面積:0.7m2/g)を用い、かつ、表2に示す相対湿度及び加熱温度に変更した以外、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0061】
〔実施例6〕
アルミナ粉末として、デンカ社製DAW-45(商品名)に代えて、平均粒子径90μmアルミナ粉末(デンカ社製DAW-90(商品名)、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度:0.90、比表面積:0.06m2/g)を用い、かつ、表2に示す相対湿度及び加熱温度に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0062】
〔実施例7〕
まず、日本軽金属(株)社製アルミナLS-21(商品名)をアーク炉で溶融、冷却、及び粉砕して電融アルミナ粉砕物を調製した。なお、粉砕処理はボールミルで行い、粉砕メディアにはアルミナボールを用いた。得られたアルミナ粉砕物を分級処理によりアルミナ粉末(平均粒子径:0.2μm、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度:0.75、比表面積:0.2m2/g)を調製した。
続いて、得られたアルミナ粉末と、平均粒子径45μmアルミナ粉末(デンカ社製DAW-45(商品名)、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度:0.90、比表面積:0.2m2/g)と適宜混合し、アルミナ粉末を得た。このアルミナ粉末を用い、かつ、表2に示す相対湿度及び加熱温度に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0063】
〔比較例1〕
アルミナ粉末として、デンカ社製DAW-45(商品名)に代えて、平均粒子径120μmアルミナ粉末(デンカ社製DAW-120(商品名)、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度:0.90、比表面積:0.03m2/g)を用い、かつ、表3に示す相対湿度及び加熱温度に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表3に示す。
【0064】
〔比較例2〕
アルミナ粉末として、デンカ社製DAW-45(商品名)に代えて、平均粒子径1μmアルミナ粉末(デンカ社製DAW-01(商品名)、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度:0.90、比表面積:1.2m2/g)を用い、かつ、表3に示す相対湿度及び加熱温度に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表3に示す。
【0065】
〔比較例3〕
まず、日本軽金属(株)社製アルミナLS-21(商品名)をアーク炉で溶融、冷却、及び粉砕して電融アルミナ粉砕物を調製した。なお、粉砕処理はボールミルで行い、粉砕メディアにはアルミナボールを用いた。得られたアルミナ粉砕物を分級処理によりアルミナ粉末(平均粒子径:0.2μm、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度:0.75、比表面積:0.2m2/g)を調製した。
続いて、得られたアルミナ粉末と、平均粒子径45μmアルミナ粉末(デンカ社製DAW-45(商品名)、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上100μm以下であるアルミナ粒子の平均球形度:0.90、比表面積:0.2m2/g)と適宜混合し、アルミナ粉末を得た。このアルミナ粉末を用い、かつ、表3に示す相対湿度及び加熱温度に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表3に示す。
【0066】
〔比較例4〕
相対湿度を50%から15%に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表3に示す。
【0067】
〔比較例5〕
相対湿度を50%から70%に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表3に示す。
【0068】
〔比較例6〕
加熱温度を140℃から80℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表3に示す。
【0069】
〔比較例7〕
加熱温度を140℃から170℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表3に示す。
【0070】
〔比較例8〕
加熱時間を1.0時間から0.3時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表3に示す。
【0071】
〔比較例9〕
加熱時間を1.0時間から2.0時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素含有アルミナ粒子を含む炭素含有アルミナ粉末を得た。得られた炭素含有アルミナ粒子及び炭素含有アルミナ粉末の物性を評価した。その結果を表3に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
本出願は、2020月3月31日出願の日本特許出願(特願2020-064175)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる 。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本実施形態に係る炭素含有アルミナ粉末、及びこのアルミナ粉末を用いた樹脂組成物は、種々の用途に適用できるが、放熱シート、放熱グリース、放熱スペーサー、半導体封止材、放熱塗料(放熱コート剤)、放熱ポッティング剤、放熱ギャップフィラー等の放熱部品に好適である。また、これらの放熱部品は、パソコン、自動車、携帯電子機器、及び家庭用電化製品等に好適に使用できる。