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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】石油化学原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 1/10 20060101AFI20241203BHJP
   C10G 11/18 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C10G1/10
C10G11/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020065194
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161283
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 洋平
(74)【代理人】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】千代田 範人
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-024293(JP,A)
【文献】特開昭50-070480(JP,A)
【文献】特開2018-187808(JP,A)
【文献】特開2004-002580(JP,A)
【文献】特開昭53-30675(JP,A)
【文献】山根浩二 他2名,バイオディ-ゼルを用いた廃ポリスチレンの選択的溶解と燃料特性,日本機械学会論文集(B編),77巻,774号,2011年,174-181
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/10
C10G 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の種類の樹脂を含む混合物から石油化学原料を製造する、石油化学原料の製造方法であって、
前記複数の種類の樹脂を含む混合物から、塩素元素を含む特定の樹脂を溶解せず、前記特定の樹脂以外の樹脂を溶解して樹脂溶解液を得る、樹脂溶解工程と、
前記樹脂溶解液を含む原料油を石油精製装置で処理する工程と、と含み、
前記樹脂溶解工程は、前記特定の樹脂に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超であり、かつ前記特定の樹脂以外の樹脂に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1以下である溶媒を選択し、前記溶媒に前記混合物を接触処理させて前記特定の樹脂以外の樹脂を溶解する、石油化学原料の製造方法。
【請求項2】
前記混合物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、及びポリ塩化ビニルからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、請求項1に記載の石油化学原料の製造方法。
【請求項3】
前記特定の樹脂は、ポリ塩化ビニルであり、前記特定の樹脂以外の樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリスチレンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、請求項1又は2に記載の石油化学原料の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒は、2種以上の溶媒を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の石油化学原料の製造方法。
【請求項5】
前記石油精製装置は、流動接触分解装置、重質油熱分解装置、直接脱硫装置、間接脱硫装置、灯軽油脱硫装置、又は水素化分解装置である、請求項1~のいずれか一項に記載の石油化学原料の製造方法。
【請求項6】
前記石油精製装置は、流動接触分解装置である、請求項1~のいずれか一項に記載の石油化学原料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油化学原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチックのリサイクル技術の開発は、近年の廃棄物の増加及び限られた資源の有効利用の観点から重要課題の一つとなっている。廃プラスチックのリサイクル方法としては、廃プラスチックをそのまま再利用するマテリアルリサイクル、廃プラスチックを化学的に分解して、モノマー等の基礎化学原料を回収するケミカルリサイクル、廃プラスチックより熱エネルギーを回収するサーマルリサイクルの3つに大別される。
【0003】
この中でもマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルは、廃プラスチックを製品の原料に変換して再利用可能であるため、資源の循環的利用により、限りある天然資源の消費を抑制し、埋め立て処理量を減らすなど、環境負荷の軽減の観点から望ましい。
【0004】
マテリアルリサイクルでは、廃プラスチックをフレークやペレットという原料にした後、溶融、成形し、再び同じ製品又は別のプラスチック製品の樹脂材料として再利用する。樹脂材料としての品質基準を満たすために、異物や汚れを取り除き基本的に同一種類のプラスチックにする必要がある。マテリアルリサイクルでは、回収した廃プラスチックに異なる種類の廃プラスチックが混入すると、再生プラスチックの特性が低下するため、回収した廃プラスチックを高精度に分離する技術が必要となる。
【0005】
ケミカルリサイクルでは、廃プラスチックを高温で熱分解して合成ガスや分解油などの化学原料を製造、又は化学的に分解してモノマーを製造するなど、他の化学物質に変換して再利用する。マテリアルリサイクルと比較して、種類の異なるプラスチックが混在していたり、異物や汚れがあっても、リサイクル可能である場合が多い。
【0006】
ケミカルリサイクルとして、特許文献1には炭化水素系重合体(樹脂)を流動接触分解装置にて分解処理する方法が開示されている。具体的には、樹脂と、流動接触分解ガソリン、軽質分解軽油、重質分解軽油、分解残渣油から選ばれる炭化水素油との混合物を流動接触分解原料油に混ぜ、流動接触分解装置に供給することを特徴とする樹脂の分解処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-294251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法では、樹脂を含むスラリーに300℃程度に加熱した前記炭化水素油を混合し、樹脂を溶融していると考えられる。この方法では、300℃程度という高温で樹脂を溶融するための専用の溶解槽、並びに高温の溶融液を流動接触分解装置へ移送するための専用のラインが必要となり、既存の流動接触分解装置をそのまま活用することは困難である。さらに、前記スラリーに複数の樹脂が含まれる場合、全ての樹脂を溶融する必要があるため、流動接触分解装置や流動接触分解触媒に悪影響を与える樹脂由来の不純物が大量に混入する恐れがある。この場合、スラリーを調製する前に樹脂を選別分離する必要があり、効率的ではない。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、複数の種類の樹脂を含む混合物から石油化学原料を製造する場合に、既存の石油精製設備がそのまま使用可能で、かつ前記混合物に含まれる樹脂の種類によらず、効率的に石油化学原料を製造することが可能な、石油化学原料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 複数の種類の樹脂を含む混合物から石油化学原料を製造する、石油化学原料の製造方法であって、前記複数の種類の樹脂を含む混合物から、特定の樹脂を溶解せず、前記特定の樹脂以外の樹脂を溶解して樹脂溶解液を得る、樹脂溶解工程と、前記樹脂溶解液を含む原料油を石油精製装置で処理する工程と、と含み、前記樹脂溶解工程は、前記特定の樹脂に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超であり、かつ前記特定の樹脂以外の樹脂に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1以下である溶媒を選択し、前記溶媒に前記混合物を接触処理させて前記特定の樹脂以外の樹脂を溶解する、石油化学原料の製造方法。
[2] 前記特定の樹脂は、塩素元素を含む、[1]に記載の石油化学原料の製造方法。
[3] 前記混合物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、及びポリ塩化ビニルからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、[1]又は[2]に記載の石油化学原料の製造方法。
[4] 前記特定の樹脂は、ポリ塩化ビニルであり、前記特定の樹脂以外の樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリスチレンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の石油化学原料の製造方法。
[5] 前記溶媒は、2種以上の溶媒を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の石油化学原料の製造方法。
[6] 前記石油精製装置は、流動接触分解装置である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の石油化学原料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の種類の樹脂を含む混合物から石油化学原料を製造する場合に、既存の石油精製設備がそのまま使用可能で、かつ前記混合物に含まれる樹脂の種類によらず、効率的に石油化学原料を製造することが可能な、石油化学原料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ハンセン溶解度パラメータ値及び相互作用半径の求め方を示す模式図である。
図2】物質1と物質2の2物質の溶解度パラメータ値間の距離を示す模式図である。
図3】物質1の物質2に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1以内である場合を示す模式図である。
図4】物質1の物質2に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超である場合を示す模式図である。
図5】溶媒Lのハンセン溶解度パラメータと、樹脂PA1、PA2のハンセン球S(PA1)、S(PA2)と、PB1、PB2のハンセン球S(PB1)、S(PB2)の関係を示す模式図である。
図6】本発明の一実施形態に係る樹脂溶解液を含む原料油を処理する流動接触分解反応において使用される装置の構成を示す構成図である。
図7】本発明の一実施形態に係る分解油を精製する精製設備の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0014】
本実施形態の石油化学原料の製造方法は、複数の種類の樹脂を含む混合物から石油化学原料を製造する、石油化学原料の製造方法であって、前記複数の種類の樹脂を含む混合物から、特定の樹脂を溶解せず、前記特定の樹脂以外の樹脂を溶解して樹脂溶解液を得る、樹脂溶解工程と、前記樹脂溶解液を含む原料油を石油精製装置で処理する工程とを含む。
以下、樹脂溶解工程及び樹脂溶解液を含む原料油を石油精製装置で処理する工程について詳細に説明を行う。
【0015】
<樹脂溶解工程>
本実施形態の樹脂溶解工程は、複数の種類の樹脂を含む混合物から、特定の樹脂を溶解せず、前記特定の樹脂以外の樹脂を溶解する、樹脂の溶解工程である。具体的には、前記特定の樹脂に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超であり、かつ前記特定の樹脂以外の樹脂に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1以下である溶媒を選択し、前記溶媒に前記混合物を接触処理させて前記特定の樹脂以外の樹脂を溶解する、樹脂の溶解工程である。
以下、ハンセン溶解度パラメータ及び前記相対的エネルギー差の求め方を説明する。
【0016】
<ハンセン溶解度パラメータ>
ハンセン溶解度パラメータ(Hansen solubility parameter(以下、単に「HSP」ともいう。)は、分子間の相互作用が似ている2つの物質は、互いに溶解しやすいとの考えに基づいている。HSPは、分子間の分散力に由来するエネルギー(δd)、分子間の双極子相互作用に由来するエネルギー(δp)、及び分子間の水素結合に由来するエネルギー(δh)から構成される。これらの3つのパラメータは3次元空間(ハンセン空間)における座標とみなすことができる。
【0017】
HSP値が未知の評価試料におけるHSP値は以下の方法で算出することができる。
HSP値(δd、δp、δh)を三次元空間にプロットすることにより特定されるハンセン溶解度パラメータ空間において、既知のHPS値を有する複数の純物質(1種の化合物からなる物質)をプロットするとともに、上記純物質に対する評価試料の溶解性の有無によってハンセン球を特定し、当該ハンセン球の中心値を求めることで評価試料のHSP値を算出することが出来る(ハンセン球法)。
また評価試料のHSP値は、平均分子構造の情報から原子団寄与法を用いて算出することも出来る。
ハンセン球法の場合も、原子団寄与法の場合も、評価試料のHSP値を算出する場合、例えばコンピューターソフトウェアHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)を使用して算出することができる。
ハンセン球法の場合、評価試料は純物質であってもよく、混合物であってもよい。
【0018】
上記ハンセン球の中心値、すなわちHSP値(δdm、δpm、δhm)の求め方について、図1を用いて説明する。
先ず、図1に例示する(分散力項δd、双極子間力項δp及び水素結合力項δhを座標軸とする)三次元空間に既知のHSP値を有する15~30個程度の純物質のHSP値をプロットする。
このとき、図1に示すように、例えば、評価試料に溶解性を示す純物質を○印、評価試料に溶解性を示さない純物質を×印で表記する。次いで、プロットされた評価試料の溶解性に基づき、溶解性を示した純物質(図1で○印で示す)を包含し、かつ溶解性を示さなかった純物質(図1に×印で示す)を包含しない仮想球のうち、最小半径を有するものを(図1に球状に示す)ハンセン球Sとして求める。
上記ハンセン球Sを成す半径(上記最少半径)が図中に○印で示す純物質を溶解し相溶性を示す相互作用半径Rとなり、また、得られたハンセン球Sの中心値(δdm、δpm、δhm)が評価試料のHSP値となる。
ハンセン球を求めるために使用する上記純物質のHSP値としては例えば、分散力項δdが10~25MPa1/2程度であり、双極子間力項δpが0~20MPa1/2程度であり、水素結合力項δhが0~20MPa1/2程度である。
また、溶解性は温度に依存するため、上記ハンセン球を求める際は、実際に樹脂の溶解を行う温度にて溶解性試験を行うことが好ましい。
【0019】
次に図2は、物質1と物質2の2物質の溶解度パラメータ間の距離を示す模式図である。まず、物質1と物質2のハンセン球を上述の方法で求める。物質1のHSP値を(δd、δp、δh)とし、物質2のHSP値を(δd、δp、δh)とした時に、2物質間のHSP値の距離(以下、単に「Ra」ともいう。)は、下式1により算出することができる。
Ra={4×(δd-δd+(δp-δp+(δh-δh}0.5 式1
【0020】
物質1の物質2に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差(以下、単に「RED」ともいう。)は、物質2の相互作用半径をRとしたときに下式2により算出することができる。
RED=Ra/R式2
【0021】
図3は、物質1の物質2に対するハンセン溶解度パラメータに基づくREDが1以内である場合を示す模式図である。この場合、図3に示す通り、物質1のHSP値(δd、δp、δh)が、物質2のハンセン球S2の内側(球の表面も含む)に位置することになる。
【0022】
図4は、物質1の物質2に対するハンセン溶解度パラメータに基づくREDが1超である場合を示す模式図である。この場合、図4に示す通り、物質1のHSP値(δd、δp、δh)が、物質2のハンセン球のS2の外側(球の表面は含まない)に位置することになる。
【0023】
本実施形態の樹脂の溶解方法は、複数の種類の樹脂を含む混合物から、特定の樹脂以外の樹脂を溶解する、樹脂の溶解方法である。具体的には、前記特定の樹脂に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超であり、かつ前記特定の樹脂以外の樹脂に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1以下である溶媒を選択し、前記溶媒に前記混合物を接触処理させて前記特定の樹脂以外の樹脂を溶解させる、樹脂の溶解方法である。
前記特定の樹脂は1種でも複数でもよい。前記特定の樹脂以外の樹脂は1種でも複数でもよい。
以下、前記特定の樹脂を「樹脂A」、前記特定の樹脂以外の樹脂を「樹脂B」という。本実施形態では樹脂Aと樹脂Bを含む混合物から、樹脂Bのみを溶解する。
【0024】
<溶媒の選択方法>
樹脂Aは、樹脂PA1~PAxからなり、樹脂Bは、樹脂PB1~PByからなる。xは、樹脂Aを構成する樹脂の種類の数を表し、1以上の整数である。yは、樹脂Bを構成する樹脂の種類の数を表し、1以上の整数である。
xの値は特に限定されないが、前記溶媒の選定が容易になる観点から、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。yの値は特に限定されないが、前記溶媒の選定が容易になる観点から、1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。前記x+yの値は特に限定されないが、前記溶媒の選定が容易になる観点から、2~8であることが好ましく、2~5であることがより好ましい。
【0025】
上述の方法により、樹脂PA1~PAxのハンセン球S(PA1)~S(PAx)をそれぞれ求める。そして、得られたハンセン球S(PA1)~S(PAx)から、樹脂PA1~PAxのHSP値[δd(PA1)、δp(PA1)、δh(PA1)]~[δd(PAx)、δp(PAx)、δh(PAx)]及び相互作用半径R(PA1)~R(PAx)をそれぞれ求める。
同様にPB1~PByのハンセン球S(PB1)~S(PBy)をそれぞれ求める。そして、得られたハンセン球S(PB1)~S(PBy)から、樹脂PB1~PByのHSP値[δd(PB1)、δp(PB1)、δh(PB1)]~[δd(PBy)、δp(PBy)、δh(PBy)]及び相互作用半径R(PB1)~R(PBy)をそれぞれ求める。
【0026】
選択する溶媒LのHSP値を仮の値[δd(L)、δp(L)、δh(L)]とする。
樹脂PA1~PAxのHSP値[δd(PA1)、δp(PA1)、δh(PA1)]~[δd(PAx)、δp(PAx)、δh(PAx)]をそれぞれ前記式1の(δd、δp、δh)に代入し、溶媒LのHSP値[δd(L)、δp(L)、δh(L)]を前記式1の(δd、δp、δh)に代入し、Ra(PA1)~Ra(PAx)をそれぞれ求める。得られたRa(PA1)~Ra(PAx)は、δd(L)、δp(L)、δh(L)の関数となる。そして、PA1~PAxの相互作用半径R(PA1)~R(PAx)及び得られたRa(PA1)~Ra(PAx)をそれぞれ前記式2に代入し、RED(PA1)~RED(PAx)を求める。得られたRED(PA1)~RED(PAx)は、δd(L)、δp(L)、δh(L)の関数となる。
【0027】
同様に、樹脂PB1~PByのHSP値[δd(PB1)、δp(PB1)、δh(PB1)]~[δd(PBy)、δp(PBy)、δh(PBy)]をそれぞれ前記式1の(δd、δp、δh)に代入し、溶媒LのHSP値[δd(L)、δp(L)、δh(L)]を前記式1の(δd、δp、δh)に代入し、Ra(PB1)~Ra(PBy)をそれぞれ求める。得られたRa(PB1)~Ra(PBy)は、δd(L)、δp(L)、δh(L)の関数となる。そして、PB1~PByの相互作用半径R(PB1)~R(PBy)及び得られたRa(PB1)~Ra(PBy)をそれぞれ前記式2に代入し、RED(PB1)~RED(PBy)を求める。得られたRED(PB1)~RED(PBy)は、δd(L)、δp(L)、δh(L)の関数となる。
【0028】
本実施形態においては、RED(PA1)~RED(PAx)の全てが1超であり、かつRED(PB1)~RED(PBy)の全てが1以下となる、HSP値[δd(L)、δp(L)、δh(L)]を有する溶媒Lを選択する。
図5にxが2、yが2の場合の溶媒LのHSP値と、樹脂PA1、PA2のハンセン球S(PA1)、S(PA2)と、樹脂PB1、PB2のハンセン球S(PB1)、S(PB2)の関係を示す。図5に示されるように、溶媒LのHSP値[δd(L)、δp(L)、δh(L)]は、樹脂PA1、PA2のハンセン球S(PA1)、S(PA2)の外側(球の表面は含まない)に位置し、かつ樹脂PB1、PB2のハンセン球S(PB1)、S(PB2)の内側(球の表面も含む)に位置する。
【0029】
本実施形態においては、RED(PA1)~RED(PAx)の全てが1超であり、2.5以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。RED(PA1)~RED(PAx)の全てが前記下限値超(以上)であると、樹脂Aを構成する樹脂PA1~PAxの溶媒Lによる溶解が抑制される。RED(PA1)~RED(PAx)の上限値は特に限定されないが、例えば10以下である。
【0030】
本実施形態においては、RED(PB1)~RED(PBy)の全てが1以下であり、0.9以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましい。RED(PB1)~RED(PBy)の全てが前記上限値以下であると、樹脂Bを構成する樹脂PB1~PByの溶媒Lによる溶解が促進される。RED(PB1)~RED(PBy)の下限値は特に限定されないが、例えば0.1以上である。
【0031】
溶媒LのHSP値と樹脂PA1~PAxそれぞれのHSP値の距離であるRa(PA1)~Ra(PAx)は、RED(PA1)~RED(PAx)の全てが1超である限り特に限定されないが、例えば5MPa1/2以上が好ましく、10MPa1/2以上がより好ましい。
【0032】
溶媒LのHSP値と樹脂PB1~PByそれぞれのHSP値の距離であるRa(PB1)~Ra(PBy)は、RED(PB1)~RED(PBy)の全てが1以下である限り特に限定されないが、例えば8MPa1/2以下が好ましく、5MPa1/2以下がより好ましい。
【0033】
RED(PB1)~RED(PBy)の全てが1以下となるようなHSP値[δd(L)、δp(L)、δh(L)]を有する溶媒Lを選択するためには、yが2以上の場合において、樹脂PB1~PByのハンセン球S(PB1)~S(PBy)の全てが重なる部分を有することを意味する。
すなわち、樹脂Bから無作為に、y=c、y=dである樹脂PBc、PBdを選択したときに、PBcのHSP値[δd(PBc)、δp(PBc)、δh(PBc)]及びPBdのHSP値[δd(PBd)、δp(PBd)、δh(PBd)]を前記式1の(δd、δp、δh)及び(δd、δp、δh)にそれぞれを代入して得られるRa(PBc-PBd)と、PBcの相互作用半径R(PBc)と、PBdの相互作用半径R(PBd)との関係が下式3を満たす。
{R(PBc)+R(PBd)}≧Ra(PBc-PBd) 式3
【0034】
前記式3を満たさない樹脂PB1~PByの組み合わせがあるときは、樹脂Bの樹脂を適宜選択し直せばよい。すなわち、樹脂Bを構成するPB1~PByから任意の樹脂を除き、前記式3を満たすようにする。この場合、前記除かれた樹脂は、樹脂Aを構成することになる。
【0035】
<樹脂>
本実施形態の混合物に含まれる樹脂の種類としては特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;三酢酸セルロース;ポリカーボネート;ポリウレタン、アクリル変性ポリウレタン等のウレタン樹脂;ポリメチルペンテン;ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン等のポリスルホン樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等のポリエーテルエーテルケトン;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルイミド、ポリイミド等のポリイミド系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11等のポリアミド系樹脂;アクリル樹脂;フッ素系樹脂;フェノール樹脂;エポキシ樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;アルキド樹脂等が挙げられる。
本実施形態の混合物に含まれる樹脂の質量平均分子量は、本発明の効果を得られる限り特に限定されないが、例えば10,000~100,000でもよく、100,000~1,000,000でもよい。
【0036】
また、本実施形態の樹脂としては30℃以下で固体である。樹脂の形態は、本発明の効果を得られる限り特に限定されないが、ペットボトル等の包装体状に成形された成形体、ペレット状、フレーク状等が挙げられる。樹脂の大きさは、本発明の効果を得られる限り特に限定されないが、その長径が1~100mm程度である。
このような樹脂の中から、後述の用途に応じ、樹脂A、樹脂Bを任意に選択することができる。
【0037】
<溶媒>
本実施形態の溶媒としては、RED(PA1)~RED(PAx)の全てが1超であり、かつRED(PB1)~RED(PBy)の全てが1以下となるHSP値を有する限り、特に限定されない。溶媒としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、酢酸ベンジル、安息香酸ベンジル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル等のエステル類、アセトン、ジイソブチルケトン、エチルメチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2ピロリドン等のケトン類、ジエチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、4-メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール、2-メトキシテトラヒドロピラン等のエーテル類、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、メトキシプロパノール、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノール、2-フルオロエタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド基を有する有機溶媒、アセトニトリル、イソブチロニトリル、プロピオニトリル、メトキシアセトニトリル等のニトリル基を有する有機溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-炭酸グリセロール等のカーボネート基を有する有機溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、n-ペンタン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、1-オクタデセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、2,2,4-トリメチルペンタン、シクロヘキセン、エチルベンゼン、d-リモネン、l-リモネン等の炭化水素等が例として挙げられる。
【0038】
溶媒は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。すなわち、本実施形態の溶媒は2種以上の溶媒の混合物(以下、「混合溶媒」ともいう。)でもよい。混合溶媒としては、上記で列記した2種以上溶媒の混合物が挙げられる。
【0039】
その他の混合溶媒としては、常圧残渣油、減圧軽油、減圧残渣油、脱硫常圧残渣油、脱硫減圧軽油、軽質分解軽油、重質分解軽油等の原油の精製工程で得られる石油留分;大豆油、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、落花生油、オリーブ油、パーム油、ゴマ油、コメ油、オレンジ油等の植物油及びこれらの廃油であってもよい。また、これらの混合溶媒にさらに上述の溶媒を混合してもよい。
【0040】
混合溶媒を本実施形態の溶媒として用いる場合、混合溶媒のHSP値は、上述の方法により求めてもよいし、以下のように混合溶媒を構成する溶媒のHSP値を加重平均して求めてもよい。
混合溶媒Lが、溶媒L~Lからなり、混合溶媒の混合前のすべての溶媒の体積の合計に対する溶媒L~Lの含有割合をそれぞれ、V(L)~V(L)とする。溶媒L~LのHSP値をそれぞれ、[δd(L)、δp(L)、δh(L)]~[δd(L)、δp(L)、δh(L)]とすると、混合溶媒のHSP値である[δd(L)、δp(L)、δh(L)]は、下式4~6により求めることができる。
【0041】
【数1】
【0042】
【数2】
【0043】
【数3】
【0044】
本実施形態においては、混合溶媒のHSP値は、前記式4~6によって求めることが好ましい。
【0045】
本実施形態の溶媒の沸点としては、本発明の効果を得られる限り特に限定されないが、例えば80~700℃でもよく、150~500℃でもよく、200~400℃でもよい。
本実施形態の溶媒の密度としては、本発明の効果を得られる限り特に限定されないが、例えば0.70~1.5g/cmでもよく、0.80~1.2g/cmでもよく、0.85~1.2g/cmでもよい。
【0046】
<樹脂A、樹脂Bと溶媒Lの組み合わせ>
本実施形態においては、樹脂Aは、塩素元素を含むことが好ましい。また、本実施形態においては、樹脂B及び溶媒Lは塩素元素を含まないことが好ましい。本実施形態の樹脂溶解工程で得られる樹脂溶解液を含む原料油を、石油精製装置で処理する際、樹脂溶解液中に塩素元素が含まれていると、石油精製装置で処理する工程中で塩化水素が発生し、石油精製装置を腐食するおそれがある。樹脂Aが塩素元素を含み、樹脂B及び溶媒Lが塩素元素を含まないことにより、得られる溶解液中に塩素元素が含まれないことになり、石油精製装置の腐食を防止することが可能となる。
また、本実施形態の混合物に含まれる樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、及びポリ塩化ビニルからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
【0047】
樹脂Aを構成する樹脂をポリスチレン、ポリ塩化ビニルとし、樹脂Bを構成する樹脂をポリエチレン、ポリプロピレンとしたときに、樹脂Aに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超であり、かつ樹脂Bに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1以下である溶媒としては、ベンゼン、シクロヘキサン、エチルベンゼンが例として挙げられる。
【0048】
樹脂Aを構成する樹脂をポリプロピレン、ポリ塩化ビニルとし、樹脂Bを構成する樹脂をポリエチレン、ポリスチレンとしたときに、樹脂Aに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超であり、かつ樹脂Bに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1以下である溶媒としては、安息香酸ブチル、酢酸ベンジル、オレンジ油が例として挙げられる。
【0049】
樹脂Aを構成する樹脂をポリエチレン、ポリ塩化ビニルとし、樹脂Bを構成する樹脂をポリプロピレン、ポリスチレンとしたときに、樹脂Aに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超であり、かつ樹脂Bに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1以下である溶媒としては、クロロベンゼン等が例として挙げられる。
【0050】
樹脂Aを構成する樹脂をポリエチレン、ポリプロピレンとし、樹脂Bを構成する樹脂をポリスチレン、ポリ塩化ビニルとしたときに、樹脂Aに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超であり、かつ樹脂Bに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1以下である溶媒としては、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド等が例として挙げられる。
【0051】
樹脂Aを構成する樹脂をポリプロピレンとし、樹脂Bを構成する樹脂をポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルとしたときに、樹脂Aに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超であり、かつ樹脂Bに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1以下である溶媒としては、安息香酸エチル、2-メトキシテトラヒドロピラン、81質量%のd-リモネン及び19質量%の1,2-炭酸グリセロールの混合溶媒、64質量の%d-リモネン及び36質量%のジメチルホルムアミドの混合溶媒、58質量%のテトラヒドロフラン及び42質量%のシクロヘキサノンの混合溶媒、62質量%の酢酸エチル及び38質量%の安息香酸ベンジルの混合溶媒、58質量%のメチルエチルケトン及び42質量%の安息香酸ベンジルの混合溶媒等が例として挙げられる。
【0052】
樹脂Aを構成する樹脂をポリ塩化ビニルとし、樹脂Bを構成する樹脂をポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンとしたときに、樹脂Aに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超であり、かつ樹脂Bに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1以下である溶媒としては、1,1,1,2-テトラクロロエタン、d-リモネン、o-キシレン、トルエン等が例として挙げられる。
【0053】
(樹脂溶解の条件)
本実施形態の樹脂の溶解方法において、溶媒の総質量に対する混合物の割合は、樹脂Bを溶解可能な限り特に限定されないが、例えば、1~50質量%でもよく、1~40質量%でもよく、1~30質量%でもよい。
本実施形態の樹脂の溶解方法において、溶媒の総質量に対する樹脂Bの割合は、樹脂Bを溶解可能な限り特に限定されないが、例えば、1~20質量%でもよく、1~18質量%でもよく、1~15質量%でもよい。
樹脂Bを溶解するときの温度は、樹脂Bを溶解可能な限り特に限定されないが、樹脂Aが軟化もしくは融解しない温度であれば、15~100℃でもよく、20~90℃でもよく、30~80℃でもよい。
樹脂Bを溶解するときには、撹拌、超音波処理等を行うことが好ましい。
【0054】
本実施形態の樹脂の溶解方法においては、樹脂Bの全てが溶解されることが好ましいが、樹脂Bの総質量に対して80~100質量%が溶解してもよく、90~100質量%が溶解してもよい。
本実施形態の樹脂の溶解方法においては、樹脂Aが溶解されないことが好ましいが、樹脂Aの総質量に対して0質量%以上1質量%未満が溶解してもよく、0~0.5質量%が溶解してもよい。
【0055】
樹脂の溶解量は、例えば、ハロゲン元素等のヘテロ原子を含む樹脂であれば、溶解液中のヘテロ原子の含有量を測定することにより、確認することができる。ヘテロ原子を含まない樹脂の溶解量は、従来公知の分析方法により測定することが可能であり、当該分析方法としては、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフ質量分析法、ゲル濾過浸透クロマトグラフィーが例として挙げられる。
【0056】
<樹脂溶解液を含む原料油を石油精製装置で処理する工程>
本実施形態においては、上述の樹脂溶解工程で得られた樹脂溶解液を含む原料油を石油精製装置で処理し、石油化学原料を製造する。
【0057】
石油精製装置としては、特に限定されないが、常圧蒸留装置、減圧蒸留装置、流動接触分解装置、重質油熱分解装置、直接脱硫装置、間接脱硫装置、灯軽油脱硫装置、接触改質装置、異性化装置、水素化分解装置等が挙げられ、炭化水素を分解する装置であることが好ましく、流動接触分解装置、重質油熱分解装置、水素化分解装置がより好ましく、流動接触分解装置が最も好ましい。
以下、石油精製装置が流動接触分解装置である場合を例に、樹脂溶解液を含む原料油を石油精製装置で処理する工程について詳細に説明を行う。
【0058】
本実施形態においては、上述の樹脂溶解工程で得られた樹脂溶解液を含む原料油を流動接触分解装置に供給し、流動接触分解触媒と接触処理することにより、石油化学原料を含む分解油を製造する。
【0059】
<流動接触分解装置>
本実施形態の流動接触分解装置(以下、「FCC装置」ともいう。)は、流動接触分解触媒に前記樹脂溶解液を含む原料油を接触させて原料油を分解することによって石油化学原料を含む分解油を生成するライザー、分解油と流動接触分解触媒とを分離する反応塔、分離した流動接触分解触媒上に堆積したカーボン(コーク)を燃焼することによって触媒を再生する再生塔、及び精製設備を備える。以下、図6を参照して、本実施形態のFCC装置の一例を説明する。図6は、FCC装置の一例を示す構成図である。FCC装置1はライザー10、反応塔20、再生塔30、及び精製設備40を備える。
【0060】
(ライザー)
ライザー10は、FCC触媒に樹脂溶解液を含む原料油を接触させて前記原料油を分解することによって石油化学原料を含む分解油を生成する装置である。ライザー10は、例えば、再生塔30で再生された流動接触分解触媒を供給する再生触媒移送ライン34及び通常の流動接触分解反応に供される原料油(以下、「流動接触分解原料油」ともいう。)を供給する流動接触分解原料油供給ライン11、及び樹脂溶解液を供給する樹脂溶解液供給ライン51と接続されている。また、流動接触分解原料油供給ライン上及び樹脂溶解液供給ライン上には、予熱装置12及び予熱器52が、それぞれ備えられている。さらにライザー10の上方は、反応塔20と接続されている。
【0061】
(反応塔)
反応塔20は、分解油と流動接触分解触媒とを分離する装置である。反応塔20は、例えば、サイクロン21、分解油排出ライン22、ストリッパー23及び反応後触媒移送ライン24を備える。サイクロン21の上方は、分解油排出ライン22と接続されている。さらにストリッパー23の底部と再生塔30の下部とは反応後触媒移送ライン24で接続されている。
【0062】
(再生塔)
再生塔30は、反応塔20で分離した流動接触分解触媒上のコークを燃焼させることによって触媒を再生する装置である。再生塔30は、例えば、エアブロワー31、エアグリッド32、サイクロン33、再生触媒移送ライン34及び排ガスライン35を備える。再生塔の底部とエアブロワー31はエアグリッド32を介して接続されている。さらに再生塔の上部にはサイクロン33が設置されており、サイクロン33の上方は排ガスライン35と接続されている。
【0063】
(精製設備)
精製設備40は、流動接触分解装置で生成した石油化学原料を含む分解油を、石油化学原料を多く含むガス成分、及び未分解物や重合物を含む重質成分に分離する設備である。図7に示すように、精製設備は、例えば、蒸留塔41、ライン42、蒸留塔43、ライン44、蒸留塔45、ライン46、蒸留塔47、ライン48、芳香族抽出装置60、ライン61、ライン62、ナフサクラッカー70、接触改質装置80を備える。蒸留塔41は塔の中段付近において分解油排出ライン22を介して反応塔20と接続されている。蒸留塔43は塔の中段付近においてライン42を介して蒸留塔41の塔頂と接続されている。蒸留塔45は塔の中段付近においてライン44を介して蒸留塔43の塔底と接続されている。蒸留塔47は塔の中段付近においてライン46を介して蒸留塔45の塔頂と接続されている。芳香族抽出装置60はライン48を介して蒸留塔45の塔底と接続されている。ナフサクラッカー70はライン61を介して芳香族抽出装置60と接続されている。接触改質装置80はライン62を介して芳香族抽出装置60と接続されている。
【0064】
蒸留塔41、蒸留塔43、蒸留塔45、蒸留塔47は、後述の分離を行う対象に応じて、本分野において公知の蒸留塔を使用することができる。芳香族抽出装置60は、後述の分離を行う対象に応じて、本分野において公知の芳香族抽出装置を使用することができる。ナフサクラッカー70及び接触改質装置80も同様に、本分野において公知のナフサクラッカー及び接触改質装置を使用することができる。
なお、蒸留塔の還流ライン、予熱器、缶出液抜出ライン、流出液抜出ライン等の詳細な構造は、図7においては不図示であるが、上述した通り、蒸留塔は本分野において公知の蒸留塔の構造を有する。芳香族抽出装置、ナフサクラッカー、接触改質装置も同様である。
【0065】
<樹脂溶解槽>
樹脂溶解槽50は、複数の種類の樹脂を含む混合物を溶媒に接触処理させて、前記樹脂Bを溶解させる上述の樹脂溶解工程を行う装置である。
樹脂溶解槽としては、石油貯蔵タンクを使用することができる。
樹脂溶解槽50は、樹脂溶解液供給ライン51を通じてライザー10を接続されている。樹脂溶解槽50は、撹拌装置、溶解槽加熱器、固形物除去装置等を備えていることが好ましい。
【0066】
<流動接触分解触媒>
本実施形態のFCC触媒は、ソーダライトケージ構造を有するゼオライト、βゼオライト、ZSM-5型ゼオライト等のゼオライトを含むことが好ましく、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを含むことがより好ましい。
FCC触媒全質量に対するゼオライトの含有量は25~45質量%であることが好ましく、28~42質量%であることがより好ましく、30~40質量%であることがさらに好ましい。
【0067】
本明細書において、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトとは、ソーダライトケージ構造、すなわちアルミニウム及びケイ素四面体を基本単位とし、頂点の酸素をアルミニウム又はケイ素が共有することにより形成される立体的な正八面体の結晶構造の各頂点を切り落とした、四員環や六員環等により規定される十四面体結晶構造により構成される空隙を有し、このソーダライトケージ同士が結合する場所や方法が変化することによって、種々の細孔構造、骨格密度、チャンネル構造を有するものを意味する。
【0068】
上記ソーダライトケージ構造を有するゼオライトとしては、ソーダライト、A型ゼオライト、EMT、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、安定化Y型ゼオライト等から選ばれる一種以上を挙げることができ、安定化Y型ゼオライトであることが好ましい。
【0069】
安定化Y型ゼオライトは、Y型ゼオライトを出発原料として合成され、Y型ゼオライトと比較して、結晶化度の劣化に対して耐性を示すものであり、一般には、Y型ゼオライトに対し高温での水蒸気処理を数回行った後、必要に応じて、塩酸等の鉱酸、水酸化ナトリウム等の塩基、フッ化カルシウム等の塩、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤で処理することにより作製される。
上記方法で得られた安定化Y型ゼオライトは、水素、アンモニウムあるいは多価金属から選ばれるカチオンでイオン交換された形で使用することができる。また、安定化Y型ゼオライトとして、より安定性に優れたヒートショック結晶性アルミノシリケートゼオライト(特許第2544317号公報参照)を使用することもできる。
【0070】
本実施形態のFCC触媒は、さらに結合剤、粘土鉱物等を含むことが好ましい。
結合剤としては、例えば、シリカゾルが例として挙げられる。シリカゾルを使用することにより、FCC触媒を造粒するときの成形性が向上し、容易に球状化することを可能にする。また、造粒後のFCC触媒の流動性及び耐摩耗性を容易に向上することができる。FCC触媒全質量に対する結合剤の含有量は15~35質量%であることが好ましく、18~32質量%であることがより好ましく、20~30質量%であることがさらに好ましい。
【0071】
粘土鉱物としては、例えば、モンモリロナイト、カオリナイト、ハロイサイト、ベントナイト、アタパルガイト、ボーキサイト等を挙げることができる。また、本実施形態のFCC触媒においては、シリカ、シリカ-アルミナ(上述のゼオライトを除く)、アルミナ、シリカ-マグネシア、アルミナ-マグネシア、リン-アルミナ、シリカ-ジルコニア、シリカ-マグネシア-アルミナ等の通常のFCC触媒に使用される公知の無機酸化物の微粒子を上記粘土鉱物と併用することができる。
FCC触媒全質量に対する粘土鉱物と無機酸化物の含有量の和は35~55質量%であることが好ましく、38~52質量%であることがより好ましく、40~50質量%であることがさらに好ましい。
FCC触媒全質量に対する粘土鉱物の含有量は25~50質量%であることが好ましく、30~45質量%であることがより好ましく、32~42質量%であることがさらに好ましい。
【0072】
また、本実施形態のFCC触媒は、ゼオライト安定性向上剤を含んでいてもよい。ゼオライト安定性向上剤は、ゼオライト結晶の崩壊を抑制する機能を有する。ゼオライト安定性向上剤としてはリン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、第一リン酸アルミニウム及びその他の水溶性リン酸塩等のリン系ゼオライト安定性向上剤、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ディスプロシウム及びホルミウム等の希土類金属系ゼオライト安定性向上剤があげられる。FCC触媒がゼオライト安定性向上剤を含む場合、FCC触媒全質量に対するゼオライト安定性向上剤の含有量は、0.1~5質量%であることが好ましい。
【0073】
FCC触媒は一定の大きさに造粒された上で、流動接触分解反応に使用される。FCC触媒の粒子径は、通常流動接触分解反応に使用可能な粒子径であれば、特に制限されないが、粒子径が20~150μmの範囲内にあるものが好ましい。
FCC触媒の粒子径は、例えば、筒井理化学器械製“ミクロ形電磁振動ふるい器 M-2型”により測定することができる。
【0074】
<流動接触分解触媒の製造方法>
本実施形態のFCC触媒は、従来公知の方法により製造することができる。FCC触媒が、ゼオライト、結合剤、粘土鉱物、ゼオライト安定性向上剤を含有する場合、ゼオライト、結合剤、粘土鉱物、ゼオライト安定性向上剤をそれぞれ所定量含むスラリーを乾燥処理することにより製造することができる。
【0075】
本製造方法においては、まず、ゼオライト、結合剤、粘土鉱物、及びゼオライト安定性向上剤を含む水性スラリーを調製する。
前記スラリー中の固形分の含有量は5~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。水性スラリー中の固形分の含有量が前記範囲内であると、水性スラリーの乾燥時に蒸発させる水分量が適当量となり、簡便に乾燥を行うことができる。また、スラリーの粘度上昇を招くことなく、簡便に輸送することができる。
【0076】
その後水性スラリーを乾燥処理して、微小球体を得る。
水性スラリーの乾燥は、噴霧乾燥装置により、200~600℃のガス入口温度、及び100~300℃のガス出口温度の条件下に行うことが好ましい。
【0077】
本製造方法においては、上記乾燥処理して得られた微小球体に対し、さらに必要に応じて、公知の方法で洗浄処理及びイオン交換を行い、各種の原料から持ち込まれる過剰のアルカリ金属や可溶性の不純物等を除去してもよい。
【0078】
前記洗浄処理は、具体的には、水又はアンモニア水により行うことができ、水又はアンモニア水で洗浄することにより、可溶性不純物の含有量を低減させることができる。
【0079】
イオン交換処理は、具体的には、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩の水溶液によって行うことができ、このイオン交換によって微小球体に残存するナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属を低減させることができる。
【0080】
上述の洗浄処理は、通常イオン交換処理に先立って行われるが、洗浄処理及びイオン交換処理が好適に施される限りにおいては、イオン交換処理を先に行ってもよい。
【0081】
上記洗浄処理及びイオン交換処理は、アルカリ金属の含有量及び可溶性不純物の含有量が所望量以下になるまで行うこと好ましい。アルカリ金属の含有量及び可溶性不純物の含有量が所望量以下であることにより、触媒活性を向上させることができる。
【0082】
前記微小球体は、乾燥触媒基準で、アルカリ金属の含有量が、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。また、可溶性不純物の含有量が、2.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0083】
上述の洗浄処理、イオン交換処理を施された微小球体に対し、再度乾燥処理を行うことが好ましい。乾燥処理は、100~500℃の温度で、微小球体の水分含有量が1~25質量%になるまで行うことが好ましい。
このようにして本実施形態のFCC触媒を製造することができる。
【0084】
<流動接触分解反応>
本実施形態において流動接触分解反応は、本分野において公知の方法によって実施することができる。流動接触分解反応は、FCC装置において、高温で樹脂溶解液を含む原料油とFCC触媒を接触させることにより実施することができる。
【0085】
本実施形態において、分解される原料油は樹脂溶解液を含む。樹脂溶解液のみを原料油として用いてもよいし、樹脂溶解液と流動接触分解原料油とを混合して原料油としてもよい。
樹脂溶解液と混合される流動接触分解原料油としては、特に限定されず、常温・常圧で液体の炭化水素油(炭化水素混合物)を挙げることができる。
【0086】
前記炭化水素油としては、原油の常圧あるいは減圧蒸留で得られる軽油留分や常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油等から選ばれる一種以上を挙げることができ、コーカー軽油、溶剤脱瀝油、溶剤脱瀝アスファルト、タールサンド油、シェールオイル油、石炭液化油、GTL(Gas to Liquids)油、植物油、廃潤滑油、廃食油等から選ばれる一種以上も挙げることができる。
【0087】
さらに、本実施形態において使用される流動接触分解原料油としては、上記炭化水素油を当業者に周知の水素化処理、すなわち、Ni-Mo系触媒、Co-Mo系触媒、Ni-Co-Mo系触媒、Ni-W系触媒などの水素化処理触媒の存在下、高温・高圧下で水素化脱硫した水素化処理油も挙げることができる。
【0088】
本実施形態の原料油の分解反応は、通常、垂直に据え付けられたライザー10、反応塔20、再生塔30からなるFCC装置1に、FCC触媒を連続的に循環させることにより行うことができる。なお、本明細書において、流動接触分解装置(FCC装置)には、残油流動接触分解装置(RFCC装置)も含まれる。すなわち、本明細書において、流動接触分解反応には、残油流動接触分解反応も含まれる。
【0089】
以下、FCC装置によって行われる流動接触分解反応を具体的に説明する。
ライザー10内には、揚送用流体が上方に向かって流通しており、再生触媒移送ライン34より供給されたFCC触媒は、揚送用流体とともにライザー10内を上方へ流れる。樹脂溶解液は、予熱装置52によって所定の温度に加熱され、スチームを加えられた後、樹脂溶解液供給ライン51からライザー10に供給される。また、同様にして流動接触分解原料油が予熱装置12によって所定の温度に加熱され、流動接触分解原料油供給ライン11からライザー10に供給されてもよい。ライザー10内に供給された樹脂溶解液を含む原料油がFCC触媒と接触し分解反応が起こる。分解反応により生成した分解油とFCC触媒は反応塔20へ移送される。
供給される樹脂溶解液の総質量に対する樹脂の濃度は、本発明の効果を得られる限り特に限定されないが、例えば、1~50質量%でもよく、5~40質量%でもよく、5~30質量%でもよい。
【0090】
ライザー10の運転条件としては、反応温度が490~530℃であることが好ましく、500~520℃であることがより好ましい。ライザー10における反応温度が前記範囲の下限値以上であると、樹脂溶解液を含む原料油の分解反応が進行して、石油化学原料の収率が向上する。また、ライザー10における反応温度が前記範囲の上限値以下であると、熱分解により生成するドライガスなどの軽質ガス生成量やコーク生成量を軽減することができ、石油化学原料の収率を相対的に増大させ易くなるため経済的である。
【0091】
反応圧力は常圧~0.49MPa(5kg/cm)であることが好ましく、常圧~0.29MPa(3kg/cm)であることがより好ましい。分解反応は、反応物のモル数に対し、生成物のモル数が増加する反応であるため、ライザー10における反応圧力が0.49MPa以下であると、熱力学的(平衡的)に有利となる。
【0092】
FCC触媒/(樹脂溶解液+流動接触分解原料油)の質量比は3~7であることが好ましく、4~6であることがより好ましい。ライザー10におけるFCC触媒/(樹脂溶解液+流動接触分解原料油)の質量比が前記範囲の下限値以上であると、ライザー10内の触媒濃度を適度に保つことができ、原料油の分解効率が向上する。ライザー10におけるFCC触媒/(樹脂溶解液+流動接触分解原料油)の質量比が前記範囲の上限値以下である場合も、原料油の分解反応が効果的に進行し、触媒濃度の上昇に見合った分解反応を進行させ易くなる。
【0093】
樹脂溶解液供給ライン51から供給される樹脂溶解液と、流動接触分解原料油供給ライン11から供給される流動接触分解原料油の総流量[KL/H]に対する、樹脂溶解液の流量(KL/H)の割合((樹脂溶解液/(流動接触分解原料油+樹脂溶解液))×100%)は、5~100%であることが好ましく、10~95%であることがより好ましく、20~80%であることがさらに好ましい。
【0094】
ライザー10内で原料油の分解により生成した分解油は、サイクロン21に供給される。サイクロン21は、遠心力を利用して、分解油をFCC触媒から分離する。そして、分解油は、分解油排出ライン22により、反応塔20から排出され、蒸留塔41へと移送される。
【0095】
サイクロン21によって分離されたFCC触媒はストリッパー23に供給される。ストリッパー23には、スチーム、窒素等が供給されている。ストリッパー23では、スチーム、窒素等によりFCC触媒上の炭化水素を除去する。そして、FCC触媒は、反応後触媒移送ライン24により反応塔20から排出され、再生塔30に移送される。
【0096】
ストリッパー23におけるストリッピング処理時の温度は、通常470~530℃であり、480~520℃であることが好ましく、490~510℃であることがより好ましい。ストリッピングに使用されるガスとしては、ボイラーにより発生されたスチームやコンプレッサー等により昇圧された窒素等の不活性ガスなどが使用される。
【0097】
エアブロワー31からエアグリッド32に空気が供給され、エアグリッド32から再生塔30内に空気が供給され、再生塔30に移送されたストリッピング処理後のFCC触媒上のコークは燃焼し、FCC触媒は再生される。再生したFCC触媒と、コークの燃焼により生じた排ガスとはサイクロン33により分離される。再生したFCC触媒は再生触媒移送ライン34により再生塔30から排出され、ライザー10に供給される。排ガスは、排ガスライン35により再生塔30から排出される。
【0098】
触媒再生塔の運転条件としては、再生温度が600~800℃であることが好ましく、700~750℃であることがより好ましい。
触媒再生塔における再生温度が600℃以上であると、コークの燃焼が充分に進み、触媒活性が充分に回復する。また、触媒再生塔における再生温度が800℃以下であると、装置材質への悪影響が低い。
【0099】
分解油排出ライン22により、反応塔20から蒸留塔41へと移送された分解油は、蒸留塔41において、塔頂から炭素数1~13程度の化合物を含む留分が留出され、塔の中段から重質分解軽油(HCO)及び軽質分解軽油(LCO)が留出され、塔底から流動接触分解残油(SLO)が留出される。
炭素数1~13程度の化合物を含む留分は、ライン42により、蒸留塔41から蒸留塔43へと移送され、蒸留塔43において、塔頂からガス成分が除かれ、塔底に液化石油ガス(LPG)及びガソリンを主成分とする留分が得られる。
LPG及びガソリンを主成分とする留分は、ライン44により、蒸留塔43から蒸留塔45へと移送され、蒸留塔45において、塔頂からLPGを主成分とする留分が留出され、塔底からガソリンを主成分とする留分が得られる。
LPGを主成分とする留分は、ライン46により、蒸留塔45から蒸留塔47へと移送され、蒸留塔47において、塔頂から石油化学原料であるプロピレンを主成分とする留分が留出され、塔底から石油化学原料であるブテンを主成分とする留分が得られる。
ガソリンを主成分とする留分は、ライン48により、蒸留塔45から芳香族抽出装置60へ移送され、芳香族抽出装置60において、石油化学原料である芳香族化合物を主成分とする留分と、芳香族化合物が除かれたガソリンを主成分とする留分に分離される。
芳香族化合物が除かれたガソリンを主成分とする留分は、ライン61によりナフサクラッカー70へと移送され、ナフサクラッカー70により石油化学原料であるエチレン、プロピレン、芳香族化合物を主成分とする留分が得られる。
また、芳香族化合物が除かれたガソリンを主成分とする留分は、ライン62により接触改質装置80へと移送され、接触改質装置80により石油化学原料である芳香族化合物を主成分とする留分が得られる。
【0100】
<石油化学原料>
本実施形態の石油化学原料の製造方法により製造される石油化学原料としては、炭素数3~8のオレフィン、芳香族化合物、等が挙げられる。炭素数3~8のオレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、1,3-ブタジエン等が挙げられる。芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼン等が挙げられる。
【実施例
【0101】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
<樹脂>
・ポリ塩化ビニル(製品名:KVC 933J-N、昭和化成工業株式会社製、密度:1.325g/cm
・ポリスチレン(製品名:トーヨースチロールGP G201C、東洋スチレン株式会社製、密度:1.040g/cm
・低密度ポリエチレン(製品名:ノバテックLD LJ802、日本ポリエチレン株式会社製、密度:0.918g/cm
以下、ポリ塩化ビニルをPVC、ポリスチレンをPS、低密度ポリエチレンをLDPEと表す(表1においても同様)。PVC、PS、LDPEはその形状、色が異なるため、後述の実施例において、どの樹脂が溶解したかを目視で判別可能である。
【0103】
<溶媒>
樹脂を溶解する溶媒として、以下の溶媒を用いた。
・軽質分解軽油
軽質分解軽油とは、流動接触分解反応によって得られた軽油留分のうちの軽質な留分である(沸点範囲:175~365℃)。以下、軽質分解軽油をLCOと表す(表1においても同様)。
【0104】
<HPS値、R等の算出>
上記樹脂について、HSPiPを使用して、ハンセン球法によりハンセン球を決定し、HSP値及びRを求めた。同様に、上記溶媒について、HSPiPを使用して、ハンセン球法によりハンセン球を決定し、HSP値を求めた。なお、ハンセン球を求める際の溶解性の判断は80℃を基準に行った。
【0105】
<塩素量の測定>
後述の実施例1、2で得られた溶液中の塩素濃度を、微量塩素・硫黄装置(TCL-2100V、三菱ケミカルアナリティック社製)により測定した。
【0106】
<流動接触分解反応>
実機の流動接触分解装置で長時間反応させて得られた、安定化Y型ゼオライトを活性成分として含むFCC平衡触媒を、沸騰床マイクロ活性試験装置(ACE-Model R+、KAYSER TECHNOLOGY社製)に充填した。後述の実施例1、実施例2、比較例1の原料油を用いて、反応温度510℃、反応時間75秒、FCC触媒/原料油の質量比6、FCC触媒の再生温度700℃で流動接触分解反応を行った。
得られた分解油を、Agilent technologies社製のAC Simdis Analyzerを用いてガスクロ蒸留法にて解析し、Dry Gas(C1、
C2化合物)、LPG(C3、C4化合物)、ガソリン(沸点27~190℃)、LCO及びHCO(沸点190℃超350℃以下)、SLO(沸点350℃超)の生成物量を解析した。また、Cokeの生成量は再生塔におけるCOおよびCO濃度より解析、算出した。さらに、Dry Gas、LPG、ガソリンに含まれる成分をガスクロマトグラフィーにより、定量した。
転化率は、100%-LCO及びHCOの収率(質量%)-SLOの収率(質量%)より算出した。
【0107】
[実施例1]
樹脂AとしてPVCを、樹脂BとしてLDPEを選択し、溶媒として、LCOを選択した。PVCのHSP値とLCOのHSP値をそれぞれ、前記式1の(δd、δp、δh)及び(δd、δp、δh)に代入し、PVCとLCO間のHSP値距離(Ra(A))を求めた。さらに、PVCのR及びRa(A)からLCOのPVCに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差であるRED(A)を求めた。同様に、LDPEのHSP値とLCOのHSP値をそれぞれ、前記式1の(δd、δp、δh)及び(δd、δp、δh)に代入し、LDPEとLCO間のHSP値距離(Ra(B))を求めた。さらに、LDPEのR及びRa(B)からLCOのLDPEに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差であるRED(B)を求めた。その結果、RED(A)は1超であり、RED(B)は1以下であった。
PVC10g、LDPE10gの混合物に対して、LCOを90g添加し、80℃で60分間撹拌処理を行った。溶解状態を目視で観察したところ、LDPEは完全に溶解し、固体のPVCが確認された。溶液中の塩素量を表1に示す。固体のPVCを固液分離し、得られた樹脂溶解液を原料油として、流動接触分解反応を行った。転化率、オレフィン収率、芳香族化合物収率を表1に示す。表中、「収率」は、質量%を意味し、「Cn」は炭素数がn個であることを意味する。
【0108】
[実施例2]
樹脂AとしてPVCを、樹脂BとしてPSを選択し、溶媒として、LCOを選択した。PVCのHSP値とLCOのHSP値をそれぞれ、前記式1の(δd、δp、δh)及び(δd、δp、δh)に代入し、PVCとLCO間のHSP値距離(Ra(A))を求めた。さらに、PVCのR及びRa(A)からLCOのPVCに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差であるRED(A)を求めた。同様に、PSのHSP値とLCOのHSP値をそれぞれ、前記式1の(δd、δp、δh)及び(δd、δp、δh)に代入し、PSとLCO間のHSP値距離(Ra(B))を求めた。さらに、PSのR及びRa(B)からLCOのPSに対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差であるRED(B)を求めた。その結果、RED(A)は1超であり、RED(B)は1以下であった。
PVC10g、PS10gの混合物に対して、LCOを90g添加し、80℃で60分間撹拌処理を行った。溶解状態を目視で観察したところ、PSは完全に溶解し、固体のPVCが確認された。溶液中の塩素量を表1に示す。固体のPVCを固液分離し、得られた樹脂溶解液を原料油として、流動接触分解反応を行った。転化率、オレフィン収率、芳香族化合物収率を表1に示す。
【0109】
[比較例1]
樹脂A及び樹脂Bを使用せず、LCO100gを原料油として、流動接触分解反応を行った。転化率、オレフィン収率、芳香族化合物収率を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
樹脂Aに対するハンセン溶解度パラメータに基づくREDが1超であり、樹脂Bに対するハンセン溶解度パラメータに基づくREDが1以下である溶媒を選択した実施例1、2では装置に悪影響を及ぼすと考えられる塩素元素を含むPVCを溶解せず、目的の樹脂Bのみを溶解することができた。また、溶解温度は80℃と非常に低温で行うことが可能となった。
【0112】
原料油として樹脂溶解液を用いた実施例1及び2では、LCOのみを原料油として用いた比較例1と比較して、石油化学原料であるオレフィン、芳香族化合物の収率が高くなった。樹脂としてLDPEを用いた実施例1では、炭素数3~7のオレフィンの収率が高くなった。樹脂としてPSを用いた実施例2では、芳香族化合物の収率が高くなり、特にエチルベンゼンの収率が高くなった。
【符号の説明】
【0113】
1…流動接触分解装置、10…ライザー、11…流動接触分解原料油供給ライン、12…予熱装置、20…反応塔、21…サイクロン、22…分解油排出ライン、23…ストリッパー、24…反応後触媒移送ライン、30…再生塔、31…エアブロワー、32…エアグリッド、33…サイクロン、34…再生触媒移送ライン、35…排ガスライン、40…精製設備、41…蒸留塔、42…ライン、43…蒸留塔、44…ライン、45…蒸留塔、46…ライン、47…蒸留塔、48…ライン、60…芳香族抽出装置、61…ライン、62…ライン、70…ナフサクラッカー、80…接触改質装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7